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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023042154
(43)【公開日】2023-03-27
(54)【発明の名称】透水試験装置
(51)【国際特許分類】
   E02D 1/00 20060101AFI20230317BHJP
【FI】
E02D1/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021149302
(22)【出願日】2021-09-14
(71)【出願人】
【識別番号】512309967
【氏名又は名称】久保 慶徳
(74)【代理人】
【識別番号】100092875
【弁理士】
【氏名又は名称】白川 孝治
(72)【発明者】
【氏名】久保 慶徳
【テーマコード(参考)】
2D043
【Fターム(参考)】
2D043AA05
2D043BB00
(57)【要約】
【課題】1基の透水試験装置で、低透水性地盤から中高透水性地盤までの透水係数の測定を可能とする。
【解決手段】
透水試験装置における測定水注水用の気密水槽を、径を異にする内外二重の筒体を用いて外側の筒体と内側の筒体との間に位置する容積の小さい第1の気密水槽、内側の筒体内に位置する容積の大きい第2の気密水槽との2組の気密水槽に構成すると共に、外側の筒体の下部および内側の筒体の下部にそれぞれ空気流入用及び注水用の開口を設け、内側の筒体の下部の空気流入用及び注水用の開口を介して第2の気密水槽を第1の気密水槽に連通させることにより、第1の気密水槽を主とした低透水地盤における透水係数の測定および第1、第2の気密水槽を組み合わせた中高透水性地盤における透水係数の測定を可能にした。
【選択図】 図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定用の水が溜められた注水用の気密水槽と、気密水槽の下部に設けられた空気流入用及び注水用の開口とからなり、空気流入用及び注水用の開口を備えた気密水槽の下部を所定量の試験水を貯留した地盤側の試験孔内に沈め、空気流入用及び注水用の開口をマリオットサイフォン式の定水位保持管および注水管として機能させ、気密水槽内の水位量の減少から対象となる地盤の透水性を測定するようにしてなる透水試験装置であって、気密水槽を、径を異にする内外二重の筒体を用いて外側の筒体と内側の筒体との間に位置する容積の小さい第1の気密水槽と内側の筒体内に位置する容積の大きい第2の気密水槽との2組の気密水槽に構成すると共に、外側の筒体の下部および内側の筒体の下部にそれぞれ空気流入用及び注水用の開口を設け、内側の筒体の空気流入用及び注水用の開口を介して第2の気密水槽を第1の気密水槽に連通させることにより、第1の気密水槽を主とした低透水地盤における透水係数の測定および第1、第2の気密水槽を組み合わせた中高透水性地盤における透水係数の測定を可能にしたことを特徴とする透水試験装置。
【請求項2】
外側の筒体の下部及び内側の筒体の下部にそれぞれ設けられる空気流入用及び注水用の開口は、それぞれ空気流入専用の開口と注水専用の開口に分離されており、空気流入用の開口は注水用の開口よりも所定の高さ高い位置に設けられていることを特徴とする請求項1記載の透水試験装置。
【請求項3】
外側の筒体の下部に設けられている空気流入用および注水用の開口と内側の筒体の下部に設けられている空気流入用および注水用の開口は、相互に周方向の位置を異にして設けられていることを特徴とする請求項1又は2記載の透水試験装置。
【請求項4】
外側の筒体の下部外周の空気流入口付近に位置して、同外側の筒体の下部外周面との間に表面張力が小さく水位上昇度が大きくなる毛細管スペースを設けたことを特徴とする請求項1,2又は3記載の透水試験装置。
【請求項5】
筒体構造に形成された透水試験装置本体を高さ調節可能な所定の吊り下げ手段を介して試験孔の上部に吊り下げて設置するようにしたことを特徴とする請求項1,2,3又は4記載の透水試験装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、透水性を異にする各種地盤の透水性を効率良く測定できるようにした透水試験装置の構成に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ため池堤防や河川堤防などの盛土構造物(堤体)には、その重要な機能の一つとして、水位変動と降雨時の雨水の浸透に対する安全性が要求される。この水理学的な安全性を支配するのは地盤の透水性であり、これを適切に管理し検査するためには、当該地盤の透水性を、簡便に、精度よく測定できる透水試験装置が必要となる。
【0003】
最近では、このような透水試験装置として、装置本体となる円筒体よりなる気密水槽と、該気密水槽の上端側に設けられたシール可能な給水口と、上記気密水槽の下端側に設けられたシール可能な開口とからなり、同構成の気密水槽の下端部を所定量の水を貯留した地盤側試験孔内に直に設置し、上記気密水槽下端側の開口をマリオットサイフォン式の定水位保持管および注水管として機能させることにより、上記試験孔を設けた地盤の透水性に応じて上記気密水槽内の水位量を減少させ、同水位量の減少度合から透水性を測定するようにしたものが提供されている(例えば特許文献1を参照)。
【0004】
このような装置によると、試験孔内の水が気密水槽下端側の開口部上端以上に満たされている水位状態では、当該開口部は水によって完全に塞がれており、気密水槽内に空気は流入せず、開口部から試験孔内に気密水槽からの水も注水されない。
【0005】
しかし、同状態から試験孔を介して徐々に地盤側に水が浸透してゆくと、それに応じて試験孔内の水位が下がり、やがて開口部上端側が外気に開放されるようになる。すると、開口部上端側を介して気密水槽内に空気が気泡状態で流入し、その流入量に応じて開口部下端側から気密水槽内の水が流出し、試験孔内に注水される。そして、同注水量が浸透量以上の所定の量になると、再び試験孔内の水位が上昇して開口部上端側を塞ぎ、同開口部上端側が塞がれた段階で定水位状態を維持する。
【0006】
つまり、同装置では、気密水槽を形成する円筒体構造の装置本体が直接試験孔内に設置され、同装置下端側の開口部(壁面開口)が従来のマリオットサイフォン式原位置透水試験装置(特許文献2を参照)の定水位保持管および注水管として機能する。したがって、従来のマリオットサイフォン式原位置透水試験装置のような長尺の定水位保持管や注水管が不要となる。また、気密水槽自体の構造も簡素化することができる。
【0007】
その結果、同装置では、透水試験装置そのものが基本的に小径の1本の円筒体で構成されることになり、大きくコストが低減される。また、持ち運びも便利で、それを対象地盤の試験孔内に挿入し、同試験孔内に充填した砕石上等に水平に設置しさえすれば足りるから、測定作業も容易になる。気密水槽内の水位の減少も装置本体を形成する円筒体を透明にし、同円筒体に目盛を付けることにより容易に読み取ることができる。
【0008】
しかし、この透水試験装置の場合、装置本体である円筒体構造の気密水槽が1本であり、対象地盤の透水性如何に関係なく、常に1本の気密水槽内全体に測定用の水を溜めて、透水試験がなされる。したがって、通常、同気密水槽の筒体容積は、砂礫層など透水性の高い高透水性地盤に対応した大きな容積に設定されている。
【0009】
このため、同装置を用いて、例えば粘土層など極めて透水性の低い地盤(低透水性ないし不透水性地盤)の透水性を測定しようとすると、試験孔内の水の地盤内への浸透が非常に遅いために、気密水槽内の水位の低下量が極めて少なく、測定に極めて長い時間(数時間~数日)がかかる問題がある。
【0010】
そこで、このような不透水性地盤をも含めた対象地盤の透水性の相違に応じて、適正な測定時間を実現しようとする場合、一つの方法として、たとえば大、中、小と個別に容積(測定水量)が異なる3本の気密水槽を準備し、それらを用いて低透水性地盤用、中透水性地盤用、高透水性地盤用と透水係数の測定領域が異なる3タイプの透水試験装置を構成することが考えられる。
【0011】
しかし、そのようにした場合、地質調査会社などは、それら3タイプの透水試験装置をそれぞれ購入しなければならず、非常に経費負担が大きい。また、測定作業に際し、最初から測定対象地盤の透水係数レベルが分かっているわけではないので、どのタイプの透水試験装置を用いて測定すれば良いかは判明せず(選択できず)、結局全タイプの透水試験装置を持参して測定しなければならないので、測定作業を煩雑にするだけで何ら測定時間を短縮することにはならない。また、複数基の透水試験装置は、非使用時の保管場所にも制約を伴う。
【0012】
そこで、本願発明者は、1本の円筒体構造の気密水槽内に半円弧状の仕切り壁を設け、同円弧状の仕切り壁を介して容積の異なる大小2種の気密水槽を形成し、それぞれの下端側外周壁に上記同様の定水位保持管および注水管として機能する開口を設け、大容積の気密水槽を中高透水性地盤用、小容積の気密水槽を低透水性地盤用に使い分けることができるようにしたマリオットサイフォン式の原位置透水試験装置を提案した(例えば特許文献3を参照)。
【0013】
このような構成によれば、一応1基の透水試験装置で、低透水性地盤、中高透水性地盤各々の透水性を適切に測定することができるので、上記複数基の透水試験装置を必要とすることに関連する問題は解決される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2012-127673号公報
【特許文献2】特開2010-163801号公報
【特許文献3】特開2015-45527号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかし、上記特許文献3の透水試験装置の場合、容積の異なる2種の気密水槽は構造的には一体であるとしても、測定機能としてはそれぞれ完全に独立しており、気密水槽同士も相互に連通する形で使用されるようにはなっていない。したがって、測定に際しては、大小2種の気密水槽それぞれを用いて個別に測定することが必要であり、決して何れか一方のみを選択して測定できるわけではない。もちろん、最初に大容積の気密水槽を用いて測定したところ、当該測定対象地盤が運良く中高透水性地盤であったとか、最初に小容積の気密水槽を用いて測定したところ、当該測定対象地盤が運良く低透水性地盤であったということは有り得るが、しかし、それは偶々の問題であり、同じ確率で逆もあることである。
【0016】
したがって、基本的には個別に2回測定することを前提としなければならず、上記複数基の透水試験装置を用いる場合と同様の測定作業の煩雑さがあり、必ずしも測定時間の短縮になっていない。
【0017】
また、上記特許文献3の透水試験装置の場合、まず中高透水性地盤用の気密水槽の容積はそれ単独で対応できるように十分に大きなものとしなければならず、それにさらに低透水性地盤用の気密水槽の容積が加わるので、その分気密水槽全体の大きさ(気密水槽を形成する円筒体の直径)が大きくなる。その結果、装置本体の大型化を招き、運搬性、測定時の操作性の悪化を招いていた。
【0018】
また、上記特許文献3の透水試験装置の場合、上記特許文献1の透水試験装置の場合と同様に定水位状態の判定は、あくまでも試験孔内の水位で確認しなければならない。しかも、それは同水位が上述した気密水槽下端側の空気流入及び注水兼用の開口部の上端位置にあるか否かで判定しなければならない。しかし、試験孔内の水位は地盤表面よりも所定寸法(例えば5cmほど)下方にあり、水平方向に見ることができない。また、水は透明である。したがって、試験孔内の水位面が開口部の上端位置に来ていることを判断するのは必ずしも容易ではない。
【0019】
また、開口部の設置位置に関し、大容積の気密水槽の場合は、上記空気流入及び注水兼用の開口部が小容積の気密水槽対応部を除く周方向に広い範囲で複数組設けられているので、比較的に見やすいが、小容積の気密水槽の場合は、当該開口部が大容積の気密水槽の周壁の一部に1個しか設けられていないので、反対側からは全く見ることができない。したがって、定水位状態の判断はより容易でない。
【0020】
これら定水位状態の判断のしにくさ、見づらさは、結果として透水係数測定データの精度を悪化させる原因となっていた。
【0021】
さらに、装置本体の試験孔への設置に関し、上記特許文献のものでは、試験孔内に多数の砕石を敷き詰めてフラットな装置本体の設置面を形成し、同設置面上に水準器を使って鉛直に立設する構成を採用しているが、試験孔内に多数の砕石を敷き詰めて装置本体の設置面を形成するのは必ずしも容易でなく、それら砕石は測定終了後に再び除去しなければならない。設置面上に水準器を使って鉛直に立設するのも面倒な作業である。
【0022】
本願発明は、このような課題を解決するためになされたもので、透水試験装置における測定水注水用の気密水槽を、径を異にする内外二重の筒体を用いて外側の筒体と内側の筒体との間に位置する容積の小さい第1の気密水槽と内側の筒体内に位置する容積の大きい第2の気密水槽との2組の気密水槽に構成すると共に、外側の筒体の下部および内側の筒体の下部にそれぞれ空気流入用及び注水用の開口を設け、内側の筒体下部の空気流入用及び注水用の開口を介して第2の気密水槽を第1の気密水槽に連通させ、第1の気密水槽を中心とした低透水性地盤における透水係数の測定および第1の気密水槽に第2の気密水槽を組み合わせた中高透水性地盤における透水係数の測定のそれぞれを可能にした透水試験装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本願発明は、そのために、次のような有効な課題解決手段を備えて構成されている。
【0024】
(1)請求項1の発明の課題解決手段
この発明の課題解決手段は、測定用の水が溜められた注水用の気密水槽と、気密水槽の下部に設けられた空気流入用及び注水用の開口とからなり、空気流入用及び注水用の開口を備えた気密水槽の下部を所定量の試験水を貯留した地盤側の試験孔内に沈め、空気流入用及び注水用の開口をマリオットサイフォン式の定水位保持管および注水管として機能させ、気密水槽内の水位量の減少から対象となる地盤の透水性を測定するようにしてなる透水試験装置であって、気密水槽を、径を異にする内外二重の筒体を用いて外側の筒体と内側の筒体との間に位置する容積の小さい第1の気密水槽と内側の筒体内に位置する容積の大きい第2の気密水槽との2組の気密水槽に構成すると共に、外側の筒体の下部および内側の筒体の下部にそれぞれ空気流入用及び注水用の開口を設け、内側の筒体の空気流入用及び注水用の開口を介して第2の気密水槽を第1の気密水槽に連通させ、第1の気密水槽を中心とした低透水性地盤における透水係数の測定および第1の気密水槽に第2の気密水槽を組み合わせた中高透水性地盤における透水係数の測定のそれぞれを可能にしたことを特徴としている。
【0025】
この発明の課題解決手段では、まず測定用の水が溜められる注水用の気密水槽が、径を異にする内外二重の筒体により外側の筒体と内側の筒体との間に位置する容積の小さい第1の気密水槽と内側の筒体内に位置する容積の大きい第2の気密水槽との内外2組の気密水槽に構成されている。そして、外側の筒体の下部と内側の筒体の下部にそれぞれ空気流入用及び注水用の開口が設けられており、内側の筒体の下部の空気流入用及び注水用の開口を介して第1、第2の内外2組の気密水槽は相互に連通している。
【0026】
したがって、当該透水試験装置が透水係数の不明な所定の測定地盤の試験孔に対して設置された場合、同試験孔を介して測定地盤中への試験水の浸透が始まる。そして、その浸透量が所定量以上になると、試験孔内の試験水の水位が外側の筒体下部の空気流入用の開口位置より下方に低下する。すると、同外側の筒体下部の空気流入用の開口が大気に開放され、同空気流入用の開口から容積の小さい第1の気密水槽内に空気が流入し、気泡となって上昇する。それに対応して第1の気密水槽内頂部の負圧が低下し、同低下量に対応した量の測定水が外側の筒体下部の注水用の開口から流出し、試験孔内に注水される。これにより再び試験孔内の試験水の水位が上昇し、やがて外側の筒体下部の空気流入用の開口が試験孔内の試験水によって塞がれ、空気の流入、それによる気泡の上昇はなくなり、試験孔への注水も停止される。これにより、試験孔内の試験水の水位が再び元の定水位状態に復帰する一方、第1の気密水槽内における測定水の水位が上記試験孔内への注水量だけ低下する。そこで、その低下度合(測定時間の経過とその間における測定水の減少量)から、当該測定地盤の透水係数を測定する。
【0027】
第1の気密水槽内の水位の低下は、たとえば外側の筒体外周に水量目盛を設けることにより読み取られるが、この発明の課題解決手段の場合、第1の気密水槽の容積(断面積)自体が十分に小さく形成されており、かつその水槽部分が外側の筒体と内側の筒体との間に位置して肉薄のリング構造に形成されていることから、水位の変化が大きく、試験孔内に注水された測定水の量(減少量)が相対的に大きな低下スパンで示される。したがって、試験孔を形成した測定地盤が単位時間当たりの透水量が少ない、透水係数の小さな低透水性地盤であった場合にも、その水位低下に応じた目盛が読み取りやすくなり、測定時間も短縮される。
【0028】
この発明の課題解決手段の場合、以上のようにして、まず筒体部外周側の容積(断面積)の小さい第1の気密水槽を用いた低透水性地盤に適した透水係数の測定が行われる。そして、当該測定地盤が実際に透水係数が小さい低透水性地盤であり、それに応じた適切な測定データを取得することができた場合には、そこで測定は終了する。つまり、基本的には、上記第1の気密水槽の容積は同第1の気密水槽内の測定水の水位が内側の筒体下部の空気流入用の開口位置に低下するまでの間で、十分に低透水性地盤の透水係数を測定することができるものに設定されている。
【0029】
しかし、仮に透水係数が小さい低透水性の地盤であっても、ケースによっては適切な測定データを取得することができないような場合もあり、また低透水性と中透水性の境界は必ずしも明確に区分されるものではない。このような場合、上記容積の小さい第1の気密水槽の測定水の水量のみでは対応できない。そこで、この発明の課題解決手段では、上記第1の気密水槽内の測定水を用いた測定に加えて、さらに所定時間、第2の気密水槽内の測定水を用いた連続的な測定を行うことができるようにしている。
【0030】
すなわち、この発明の課題解決手段の場合、注水用の気密水槽が、外側の筒体と内側の筒体との間に位置する上記容積の小さい第1の気密水槽と内側の筒体内に位置する容積の大きい第2の気密水槽との2組の気密水槽により構成されており、内側の筒体下部の空気流入用及び注水用の開口を介して第1、第2の内外2組の気密水槽が相互に連通している。
【0031】
そのため、上記第1の気密水槽内の水位が内側の筒体下部の空気流入用の開口位置より低下すると、同空気流入用の開口から第2の気密水槽内に空気が流入し、第2の気密水槽内の測定水が内側の筒体下部の注水用の開口を介して第1の気密水槽内に供給されることになり、上述した測定により上記第1の気密水槽内の測定水の水位が内側の筒体下部の空気流入用の開口位置より低下していた場合にも第2の気密水槽内の測定水を使用して継続した測定が可能となる。つまり、基本的には、低透水地盤に対応した透水係数の測定は第1の気密水槽のみを用いて行われるが、必要な場合には第2の気密水槽も使用されるということである。上記第1の気密水槽を主とした低透水性地盤における透水係数の測定という表現には、このようなケースをも含めている。
【0032】
一方、上記試験孔を形成した測定地盤が実際には透水係数の大きな中高透水性地盤であった場合には、上記低透水性地盤の場合と異なって、上記試験孔内の試験水が地盤内に浸透し続けるので、低透水性地盤の場合に比べて多量の測定水が必要になる。
【0033】
そこで、そのような場合には、上記第1の気密水槽に第2の気密水槽を組み合わせた連続的な透水係数の測定が行われる。
【0034】
すなわち、同測定の場合、まず上記低透水性地盤の透水係数測定の場合と同様に第1の気密水槽及び外側の筒体下部の空気流入用及び注水用の開口を使用した透水係数の測定を開始する。しかし、透水係数の大きな中高透水性地盤の場合には、上記第1の気密水槽内の内側の筒体下部の空気流入用の開口位置までの測定水の水量では試験孔内への注水量が足りず、早期に第1の気密水槽内の水位が内側の筒体下部の空気流入用の開口位置より低下することになる。
【0035】
そして、第1の気密水槽内の水位が内側の筒体下部の空気流入用の開口位置より低下すると、同空気流入用の開口から容積の大きな第2の気密水槽内に空気が流入し、それに対応して同容積の大きな第2の気密水槽内の十分な量の測定水が内側の筒体下部の注水用の開口から第1の気密水槽内に流出し、さらに第1の気密水槽を介して外側の筒体下部の注水用の開口から定水位状態になるまで試験孔内に注水される。そして、それにより上記試験孔内の試験水の水位が定水位状態となり、外側の筒体下部の空気流入用の開口が塞がれると、外側の筒体下部の注水用の開口からの注水が停止し、それに対応して第1の気密水槽内の水位が上昇する。そして、同第1の気密水槽内の水位が内側の筒体下部の空気流入用の開口位置まで上昇すると、内側の筒体下部の注水用の開口から第1の気密水槽内への注水も止まり、第1の気密水槽内の水位が定水位状態となる一方、第2の気密水槽内の水位が所定の低下位置で安定する。そこで、その低下度合(測定時間の経過とその間における測定水の減少量)から、当該中高透水性地盤の透水係数を適切に測定する。
【0036】
すなわち、この発明の課題解決手段の構成では、中高透水性地盤の透水性を測定するに際しては、上記第2の気密水槽内の測定水に加えて第1の気密水槽内の測定水をも連続的に利用することができ、第2の気密水槽内の測定水と第1の気密水槽内の測定水を合わせた合計の水量が中高透水性地盤の透水性を測定する水量として有効に使用可能である。したがって、小容積の第1の気密水槽を低透水性の地盤用、大容積の第2の気密水槽を中高透水性地盤用として、全く別々の専用の気密水槽として使い分ける場合に比べて、小容積の第1の気密水槽分だけ全体の容積(円筒体構造の装置本体の直径)を小さくすることができる。そのため、測定作業時の取り扱いも容易になる。また、定水位状態が装置本体の第1の気密水槽部分に生じるので非常に見やすくなる。
【0037】
(2)請求項2の発明の課題解決手段
この発明の課題解決手段は、上記請求項1の発明の課題解決手段の構成において、
外側の筒体の下部および内側の筒体の下部にそれぞれ設けられる空気流入用及び注水用の開口は、それぞれ空気流入専用の開口と注水専用の開口に分離されており、空気流入用の開口は注水用の開口よりも所定の高さ高い位置に設けられていることを特徴としている。
【0038】
このような構成によると、上記第1の気密水槽を中心とした低透水性地盤における透水係数の測定時および上記第1、第2の気密水槽を組み合わせた中高透水性地盤における透水係数の測定時の何れの場合にあっても、上記容積の小さい第1の気密水槽内の水位が上記内側の筒体下部に設けられた空気流入用の開口位置よりも低くなると、上記内側の筒体下部に設けられた空気流入用の開口が開放されて、同開口からの空気が上記容積の大きい第2の気密水槽内に流入する一方、上記内側の筒体下部に設けられた注水用の開口から第2の気密水槽内の水が第1の気密水槽内に注水され、さらに第1の気密水槽、外側の筒体下部に設けられた注水用の開口を介して試験孔内に注水される。
【0039】
そして、試験孔内の水位が定水位状態になると、外側の筒体下部の空気流入用開口部が試験孔内の試験水によって塞がれ、第1の気密水槽内への空気の流入が停止して、同外側の筒体下部の注水用の開口部からの注水も停止する。
【0040】
その結果、やがて上記内側の筒体下部に設けられた注水用の開口からの注水によって第1の気密水槽内の水位が上がり、上記内側の筒体下部の空気流入用の開口が第1の気密水槽内の水によって塞がれ、上記内側の筒体下部に設けられた注水用の開口からの注水が停止し、第1の気密水槽内の水位が上記内側の筒体下部の空気流入用の開口位置を基準とした定水位状態に維持されるようになる。
【0041】
つまり、この発明の課題解決手段では、測定地盤側試験孔内の定水位に連動して試験装置側第1の気密水槽内にも定水位が実現される。しかも、この試験装置側第1の気密水槽内の定水位位置は、上記注水用の開口よりも所定の高さ高い位置に形成される。
【0042】
したがって、この試験装置側第1の気密水槽内の定水位位置は、地盤表面よりも所定寸法以上高い位置にあり、水平方向から十分に確認することができる。しかも、同第1の気密水槽内の定水位は、周方向の全体に亘って形成される。したがって、周方向のどの位置からでも容易に確認することができ、測定作業者は試験孔内の水位が定水位状態になったことを試験孔内の状態を見ることなく、容易、かつ正確に判断することができるようになる。その結果、測定作業が著しく容易になり、測定効率、測定精度も向上する。
【0043】
なお、この場合、内側の筒体下部に設けられる空気流入用の開口は、外側の筒体下部に設けられる空気流入用の開口よりも所定高さ高い位置に設けることが好ましい。そのようにすると、第1の気密水槽内に形成される定水位位置が、地盤表面よりも十分に高くなり、また第2の気密水槽から第1の気密水槽内への測定水の注水が早くなる。また、その注水効率も向上する。
【0044】
(3)請求項3の発明の課題解決手段
この発明の課題解決手段は、上記請求項1又は2の発明の課題解決手段の構成において、外側の筒体の下部に設けられている空気流入用および注水用の開口と内側の筒体の下部に設けられている空気流入用および注水用の開口は、相互に周方向の位置を異にして設けられていることを特徴としている。
【0045】
外側の筒体の下部に設けられている空気流入用および注水用の開口と内側の筒体の下部に設けられている空気流入用および注水用の開口が周方向の同じ位置に設けられていると、それらが相互に対向することになり、第1の気密水槽の容積が小さいことから対向距離は極めて小さく、外側の筒体の下部の空気流入用の開口から流入した空気が誤って内側の筒体の下部の空気流入用の開口に負圧で吸い込まれてしまう恐れがある。それでは第2の気密水槽を用いた測定地盤の透水レベルに応じた正確な水位変化は得られない。
【0046】
しかし、上記のように、相互に周方向の位置を異にして設けると、外側の筒体下部の空気流入用の開口から流入した上昇度合の早い気泡が誤って内側の筒体下部の空気流入用の開口に吸い込まれてしまう恐れが解消される。
【0047】
(4)請求項4の発明の課題解決手段
この発明の課題解決手段は、上記請求項1,2又は3の発明の課題解決手段の構成において、外側の筒体の下部外周の空気流入口付近に位置して、同外側の筒体の下部外周面との間に表面張力が小さく水位上昇度が大きくなる毛細管スペースを設けたことを特徴としている。
【0048】
このような構成によると、第1の気密水槽を形成する外側の筒体の空気流入用の開口部分における水の表面張力が低下して同開口部への微少な水の浸透が生じ、空気流入口部分から第1の気密水槽内に気泡が吸い込まれやすくなる。その結果、透水係数が小さい低透水性地盤でも短時間で多数の測定データ(比較的連続的な測定データ)を得ることができる。その結果、従来の定水位実現の繰り返しによる間欠的な測定データに比べてデータ量の多い正確な測定が可能となる。測定時間も短縮される。
【0049】
毛細管スペースは、第1の気密水槽を形成する外側の筒体下部の空気流入用の開口部に対応して設ければ十分であり、第1の気密水槽を形成する外側の筒体下部の全周に亘って設ける必要はない。外側の筒体下部の全周に亘って設けると、水位の上昇が大きくなりすぎ、却って気泡の吸い込み力が減少する。
【0050】
(5)請求項5の発明の課題解決手段
この発明の課題解決手段は、上記請求項1,2,3又は4の発明の課題解決手段の構成において、筒体構造に形成された透水試験装置本体を高さ調節可能な所定の吊り下げ手段を介して試験孔の上部に吊り下げて設置するようにしたことを特徴としている。
【0051】
このような構成によると、測定時、筒体構造の透水試験装置本体が試験水を溜めた試験孔上に確実に鉛直状態で吊り下げられ、下部側空気流入用及び注水用の開口を少し沈めた適切な測定開始状態に容易、かつ正確に設置できるようになる。したがって、従来のように、試験孔内に多数の砕石を敷き詰め、透水試験装置本体の設置面を形成する必要はなくなり、測定作業が著しく容易になる。また、より確実に鉛直状態が実現されるので、測定精度が向上する。
【発明の効果】
【0052】
以上の結果、本願発明の透水試験装置によると、少量の測定水量で済む低透水性地盤から中量、多量の測定水量を必要とする中高透水性地盤まで、単一の試験装置で連続した測定が可能となる。しかも、低透水性地盤での可及的な測定時間の短縮が可能であり、試験孔への設置も容易である。したがって、トータルとしての測定効率が大きく向上し、作業性に優れたものとなる。
【0053】
また、低透水性地盤の透水性を測定する第1の気密水槽は容積(断面積)が小さく、外側の筒体と内側の筒体との間に位置してリング状の形状になっている。したがって、試験孔内の水位変化が小さくても第1の気密水槽内の水位変化は大きな変化として示される。そのため、低透水性地盤の透水性を測定する場合にも、水位変化の読み取りが容易であり、測定がしやすくなる。測定時間も短くなる。
【0054】
さらに、外側の筒体の下部及び内側の筒体の下部に設けられている空気流入用及び注水用の開口は、空気流入専用の開口、注水専用の開口とそれぞれ独立した状態で上下に離して設けられており、空気流入専用の開口は注水専用の開口よりも所定の高さ高い位置に設けられている。したがって、空気流入用の開口部では、空気の流入、気泡の発生がスムーズで、流入効率も高い。また、注水用の開口部では、水の流れがスムーズで、注水効率も高い。
【0055】
そして、内側の筒体の下部の空気流入専用の開口により、第1の気密水槽内には試験孔内の試験水の定水位に対応した定水位が形成される。この第1の気密水槽内の定水位位置は、空気流入専用の開口が注水専用の開口よりも所定の高さ高い位置に設けられていることから、試験孔がある地盤面よりも所定高さ高い位置にある。そして、第1の気密水槽内の周方向の全体に亘って形成される。したがって、従来のような試験孔内での確認に比べて、定水位の確認は極めて容易になる。この点でも著しく測定作業が容易になり、測定精度が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0056】
図1】本願発明の第1の実施の形態に係る透水試験装置の試験装置本体部分の構成を示す正面図である。
図2】同試験装置本体部分の平面図である。
図3】同試験装置本体部分の構成を示す図2のA-A線切断部の断面図である。
図4】同試験装置本体部分の構成を示す図2のB-B線切断部の断面図である。
図5】同試験装置本体部分の構成を示す斜視図である。
図6】上述した図1図5の試験装置本体を吊り下げ支持部材である三脚を用いて測定対象である地下水より上の表層地盤の試験孔上に設置し、同表層地盤の透水係数の測定を行っている状態における三脚、試験装置本体、地盤側試験孔、それぞれの構成を示す斜視図である。
図7図6の測定状態における試験孔内の試験水の水位と装置本体側第1の空気流入口位置及び第1の注水口位置との関係を示す説明用断面図である。
図8図6の測定状態において、試験孔内の試験水の水位が定水位状態にあるときの装置本体側第1、第2の空気流入口位置及び第1、第2の注水口位置相互の関係を示す説明用拡大断面図である。
図9図6の測定状態において、地盤への浸透により試験孔内の試験水の水位が装置本体側第1の空気流入口位置より低下し、同第1の空気流入口より第1の気密水槽内に空気が流入し、それに対応して第1の気密水槽内の測定水が装置本体側第1の注水口を介して試験孔内に注水されている状態を示す説明用拡大断面図である。
図10図6の測定状態において、地盤への浸透により試験孔内の試験水の水位が装置本体側第1の空気流入口位置より低下した時の第1の空気流入口より第1の気密水槽内に空気が流入する空気流入状態、及び同流入する空気が第1の気密水槽内に引き込まれて気泡になる過渡的な状態を示した説明用拡大断面図である。
図11】上述した図1図5の試験装置本体を図6同様の吊り下げ支持部材である三脚を用いて測定対象である地下水より上の浅層~深層地盤の試験孔上に設置し、同地下水より上の浅層~深層地盤の透水係数の測定を行っている状態における、浅層~深層地盤、三脚、試験装置本体、浅層~深層地盤側試験孔の構成を示す説明図である。
図12】試験装置本体部分の下部側第1の空気流入口部分に毛細管スペースを設けて低透水性地盤の測定効率を向上させた本願発明の第2の実施の形態に係る透水試験装置本体部分の構成を示す図1と同様の正面図である。
図13】同透水試験装置本体部分の構成を示す図3と同様の断面図である。
図14】同透水試験装置本体部分に設けられる毛細管スペース形成部材の構成を示す斜視図である。
図15】同透水試験装置本体部分に設けられる毛細管スペース形成部材の構成を示す展開図である。
図16】毛細管スペース形成部材を設けた透水試験装置本体下部の構成を示す拡大断面図(図13の一部拡大図)である。
図17】毛細管スペース形成部材により毛細管スペースを形成した透水試験装置の低透水性地盤の測定効率向上作用を示す説明用拡大断面図である。
図18】従来の透水試験装置(特許文献1)により、定水位タンク、送水管、止水パッカー、注水管を用いて地下水より上の浅層~深層地盤の透水試験を行う場合の構成を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0057】
≪本願発明の第1の実施の形態≫
図1図11は、本願発明の第1の実施の形態に係る地盤の透水試験装置の構成および同試験装置を用いた現場透水試験の実施状態を示している。
【0058】
<透水試験装置本体部分の構成>
まず図1図8は、同透水試験装置の装置本体および同装置本体各部分の構成をそれぞれ示している。
【0059】
この実施の形態に係る透水試験装置10は、例えば図1図4に示すように、所定の直径、所定の長さの第1の円筒体11内に該第1の円筒体11よりも所定の寸法だけ直径が小さく、ほぼ同じ長さの第2の円筒体12を同軸状態で嵌挿することによって、内外2本の二重筒構造に形成し、それら第1、第2の円筒体11、12の上下両端側各開口部にそれぞれシール性の高い蓋部材11a,11b、12a,12bを嵌合し、相互に一体化している。
【0060】
この場合、第1、第2の円筒体11、12の上端側蓋部材11a,12aは、第1、第2の円筒体11、12の上端側各開口部に接合一体化されて固定されている一方、下端側蓋部材11b,12bは、第1、第2の円筒体11、12の下端側各開口部に着脱可能な状態で嵌合されている。それにより、後述するように装置本体の上下を逆にした状態で第1、第2の円筒体11、12内への測定水の注入が可能となっている。また、第1の円筒体11の上端側蓋部材11aの中央には装置本体吊り下げ用の吊り下げリング22が固着されている。
【0061】
そして、外側大径の第1の円筒体11と内側小径の第2の円筒体12との間に容積が小さく、形状がリング形(筒形)になった第1の気密水槽13を、また内側小径の第1の円筒体11内に上記第1の気密水槽13に比べて十分に容積が大きく、形状が円柱形になった第2の気密水槽14を形成している。上記第1、第2の円筒体11、12内への測定水の注入は、具体的には、この第1、第2の気密水槽13,14内への注入を意味している。
【0062】
容積が異なる第1、第2の気密水槽13、14は、容積の小さな第1の気密水槽13が主として透水係数の小さな低透水性地盤の透水係数の測定に、容積の小さな第1の気密水槽13と容積の大きな第2の両気密水槽14の両方が主として透水係数の大きな中高透水性地盤の透水係数の測定に利用されるようになっており、上記第1の円筒体11の直径及び長さと上記第2の円筒体12の直径及び長さは、地盤側の試験孔20(図6図7参照)に対し、それら透水係数の相違に応じた適切な量の水を注水することができる容積が実現される数値のものに設定されている。
【0063】
第1、第2の円筒体11、12は、例えば透明度の高い合成樹脂材(塩化ビニール樹脂、アクリル樹脂など)により形成されており、測定用の水を入れた状態において各筒体内部の第1、第2の気密水槽13、14部分における気泡の発生状態(空気流入状態)、それに対応した水位の低下(水量の減少)を外部から容易に確認することができるようになっている。そのために第1の円筒体11の正面には水量目盛(たとえば1mm単位)19が設けられている。
【0064】
そして、外側第1の円筒体11の下端側開口から所定の高さH1位置には、外部(試験孔20)から第1の気密水槽13内に連通する第1の空気流入口15,15が、また同外側第1の円筒体11の下端側開口から所定の高さH2位置には、第1の気密水槽13内から外部(試験孔20)に連通する第1の注水口16,16が設けられている。第1の空気流入口15,15は第1の注水口16,16の上部に位置し、第1の注水口16,16よりも所定の高さ高い位置に設けられている。これら2組の上下一対の第1の空気流入口15,第1の注水口16及び第1の空気流入口15,第1の注水口16のそれぞれは、周方向に180度位置を変えた相互に対向する位置(図1の正面図で見た時の左右両側)に設けられている。
【0065】
次に内側第2の円筒体12の下端側開口から所定の高さH3位置には、外側第1の気密水槽13から内側第2の気密水槽14に連通する第2の空気流入口17が、また同第2の円筒体12の下端側開口から所定の高さH4位置には、内側第2の気密水槽14内から外側第1の気密水槽13に連通する第2の注水口18が設けられている。第2の空気流入口17は、第2の注水口18の上方に位置し、第2の注水口18よりも所定の高さ高い位置に設けられている。
【0066】
第2の注水口18は、上記第1の円筒体11側の第1の注水口16,16よりも少し高い位置(第1の注水口16,16と第2の空気流入口15,15との略中間)に、一方第2の空気流入口17は、上記第1の円筒体11側の第1の空気流入口15,15よりも十分に高い位置に設けられている。しかも、第2の空気流入口17と第2の注水口18は、相互に周方向に180度位置を異にし、かつ第1の空気流入口15,15及び第1の注水口16,16と周方向に90度位置を異にして設けられている。
【0067】
上記第1の円筒体11の第1の注水口16,16及び第2の円筒体12の第2の注水口18は、それぞれ比較的大きな口径(たとえば10mm)のものに形成され、その開口路中心軸が半径方向の内側から外側に水平に伸びるように形成されている。
【0068】
他方、上記第1の円筒体11の第1の空気流入口15,15、第2の円筒体12の第2の空気流入口17は、それぞれ上記第1の円筒体11の第1の注水口15,15及び第2の円筒体12の第2の注水口18の口径に比べて少し小さな口径(たとえば8mm)のものに形成され、それぞれその開口路中心軸が半径方向の外側から内側上方に所定の昇り傾斜角を有して斜めに伸びるように形成されている。
【0069】
このように第1の円筒体11の第1の空気流入口15,15の口径、第2の円筒体12の第2の空気流入口17の口径を相対的に小さな口径にすると、それら各部分における気密水槽側の水の表面張力を小さくすることができ、上記第1、第2の気密水槽13,14の測定水中に生じる注水時の気泡の径を小さくすることができる。そして、その場合において、それら各空気流入口15,15,17の開口路中心軸が半径方向の外側から内側上方に所定の昇り傾斜角を有して斜めに伸びていると、それら各空気流入口からの空気が第1、第2の気密水槽13,14内の測定水に対して上昇方向に効率良く流入し、連続した多数の気泡をスムーズに生じさせる。その結果、上記第1の円筒体11の第1の注水口16,16及び第2の円筒体12の第2の注水口18からの測定水の注出もスムーズになり、試験孔20内の水位低下に応答性良く追従するようになる。
【0070】
このため、同構成によると、試験孔20側の水位の低下に対する追従性、応答性が有効に向上し、上記第1の円筒体11の第1の注水口16,16の口径を低透水性地盤に対応できるように或る程度絞ったとしても十分に試験孔20側の水位変動に追従させることができる。
【0071】
なお、図示はしないが、上記第1の円筒体11の第1の空気流入口15,15及び第1の注水口16,16には、それぞれ付属部品として挿脱可能な所定の止水栓が設けられている。この止水栓は、後述する透水係数の測定に際し、上記第1の気密水槽13を形成する第1の円筒体11及び上記第2の気密水槽14を形成する第2の円筒体12内に各々測定水を満杯状態に注入した時に注入した測定水が外部に流出しないようにするためのものであり、各止水栓は透水試験装置10本体の下部が試験孔20内に沈漬された段階で空気が入らないように水中において抜かれる。
【0072】
上記第1の気密水槽13を形成する第1の円筒体11及び上記第2の気密水槽14を形成する第2の円筒体12内への測定水の注入は、上記第1の円筒体11の第1の空気流入口15,15及び第1の注水口16,16に上記止水栓を挿入し、その後、装置本体の上下位置を逆にした状態で行われる。この時、第2の円筒体12の第2の空気流入口17及び第2の注水口18は、第1、第2の円筒体11,12内に測定水が注入されさえすれば外部への測定水の流出は生じないので止水栓は不要である。
【0073】
そして、そのようにして上記第1の気密水槽13を形成する第1の円筒体11及び上記第2の気密水槽14を形成する第2の円筒体12内への測定水の注入が終了すると、それら第1の円筒体11及び第2の円筒体12各々の下端側開口部に蓋部材11b、12bを嵌合してシールし、その上で装置本体の上下位置を元に戻し、その下部側を上記第1の空気流入口15,15及び第1の注水口16,16が試験孔20の試験水W内に位置する状態まで沈め、同状態において止水栓が抜かれる。これにより透水係数の測定が可能となる(図7の状態を参照)。上記止水栓の一例としては、たとえば特開2019-199766号公報の図7及び図8に示されるものが挙げられる。
【0074】
上記外側大径の第1の円筒体11の正面には、上記のように第1、第2の気密水槽13,14内の水位の変化をたとえば1mm単位で読み取るための水量目盛19が設けられており、該水量目盛19を用いて上記第1、第2の気密水槽13,14内の水位の変化(低下)が確認されるようになっている。
【0075】
<透水試験装置の測定地盤側の試験孔に対する設置構造>
以上のように構成された透水試験装置10は、例えば図6に示すように、高さ調節手段を備えた三脚5を介して、試験孔20の中央部真上に正確な鉛直状態に吊り下げて使用されるように構成されている。
【0076】
いま図6に示す試験孔20は、たとえば表層地盤の透水係数を測定する前提で、地盤工学会の基準に基づく直径0.3m、深さ0.3mの有底円筒構造の定水位孔が採用されている。この試験孔20は、たとえばスコップ等で掘った後に有底円筒構造に成形されているだけで、従来のような底部への砕石の充填(底面から2/3の高さ)、それによる透水試験装置設置面の形成はなされていない。したがって、測定地盤が低透水性地盤の場合にも比較的試験水の浸透がスムーズであり、砕石充填部が障害になるようなことがない。
【0077】
三脚5は、中央の三脚本体部9に対して120度間隔で3組の肩部51,51,51を設け、同3組の肩部51,51,51を利用して内外両方向に開脚可能に3本の脚52,52,52を取り付けている。各脚52,52,52は、上方側肩部51,51,51との連結部から下方側石突部52a, 52a, 52aにかけて順次径が小さくなる3節(3段)連結構造となっており、各連結部間を伸縮させることによって脚部全体の起立高さを所望に調節することができるようになっている。各連結部にはロック機構が設けられている。
【0078】
肩部51,51,51間中央の三脚本体9部分には、昇降可能なエレベータラック7が上下に貫通する状態で設けられている。このエレベータラック7は、そのラック部本体外周部分が三脚本体9の内側において所定のウオーム(図示省略)に係合されており、同ウオームの正逆両方向の回動により任意に昇降するようになっている。符号53は、同ウオームを正逆両方向に回動させる高さ調節ハンドルである。
【0079】
エレベータラック7は、上端側にフランジ部6、下端7a側に透水試験装置10吊り下げ用の鈎状のフック7bが設けられている。そして、同鈎状のフック7bに対して上述した透水試験装置10上端の吊り下げリング11bが係合されて、図示のように透水試験装置10が鉛直に吊り下げられる。この透水試験装置10の吊り下げは、次のようにして行う。
【0080】
すなわち、まず図1図5の透水試験装置10の第1、第2の円筒体11,12部分の上下を逆にし、それぞれの下端側開口部に嵌合されている蓋部材11b,12bを外して、第1、第2の円筒体11,12内に測定水を満杯状態まで注入する。これにより第1、第2の気密水槽13,14内に測定水が充填される。この状態では予め第1の円筒体11下部の空気流入用の開口15,15及び注水用の開口16,16には上述した止水栓が挿入され、確実にシールされている。
【0081】
次に、上記試験孔20内にバケツ等を用いて所定量の試験水を入れ、所定の水位レベルに溜める。この測定を前提とした試験孔20内への水溜めは、予め予備的に水を溜め、第1の気密水槽13内における気泡の発生状態、水位の低下状態を確認し、試験孔20から地盤内への水の浸透が所定の飽和度になったことを判断した上で行う。
【0082】
その後、上記三脚5の3本の脚52,52,52を吊り下げ高さを考慮した所定の長さに伸ばした後、三方に等しい間隔で開き、下端側石突部52a,52a,52aが上記試験水を溜めた試験孔20を囲む正三角形の各頂点に位置するように立設する。この結果、上記エレベータラック7が円形の試験孔20の中心に位置して上下に延びる状態となる。
【0083】
次に、上記エレベータラック7の下端7aに上記測定水の注入が完了している透水試験装置10を吊り下げる。
【0084】
その結果、透水試験装置10は、図10のように、上記試験水を溜めた試験孔20の中央部(中心部)に位置して、その真上に正確な鉛直状態で吊り下げられることになる。
【0085】
そこで、次に高さ調節ハンドル53を操作して上記エレベータラック7の高さを調節し、第1の円筒体11下部に第1の空気流入口15,15及び第1の注水口16,16、第2の円筒体12下部に第2の空気流入口17及び第2の注水口18を有する透水試験装置10の下部を、たとえば図7に示すように試験水Wを溜めた試験孔20内に挿入する。この試験水Wを溜めた試験孔20内への挿入位置は、図示のように、挿入後に試験孔20内の試験水Wの水面が第1の円筒体11下部の第1の空気流入口15,15よりも少し高くなる程度の位置に設定されている。
【0086】
この状態の詳細を、図8に拡大して示す。この状態では、第1の円筒体11下部の第1の空気流入口15,15は、その上端から下端までの全体が試験孔20内の試験水Wで塞がれており、空気の流入(第1の気密水槽13内の負圧による引き込み)はなく、第1の注水口16,16から試験孔20内への注水は生じない。ただし、試験孔20から地盤内への試験水Wの浸透は始まっている。
【0087】
一方、この図8の状態から試験孔20を介して地盤内への試験水Wの浸透が進むと、たとえば図9及び図10に示すように、次第に試験孔20内の試験水Wの定水位面が低下し(図10のH0参照)、第1の円筒体11下部の第1の空気流入口15,15が徐々に開口され、同開口部分から第1の気密水槽13内に空気が流入するようになる。そして、第1の気密水槽13内に流入した空気は気泡となって同水槽13内上方に上昇する。この空気の流入、気泡の上昇は、第1の円筒体11下部の第1の空気流入口15,15部分に作用する大気圧と第1の気密水槽13内の負圧により生じる。
【0088】
すなわち、地盤への試験水Wの浸透により上述した定水位面が下がると、第1の円筒体11下部の第1の空気流入口15,15が次第に上方側から開口し、同開口15,15部分で大気圧と釣り合っていた水の界面が大気圧により第1の気密水槽13内に押し込まれると共に第1の気密水槽13内の負圧により第1の気密水槽13内に引き込まれるようになる。その結果、同開口15,15部分における水の界面は、たとえば図10に拡大して示すように、次第に第1の気密水槽13内に深く延びる凹面形状の界面となり、第1の気密水槽13内に入ると同第1の気密水槽13内上部の負圧により上方に引き上げられ、水中を気泡となって上昇する(いわゆるパイピング現象)。そして、同第1の気密水槽13内上部に達した気泡は気密水槽13内上部の負圧を低下させ、水圧を大きくし、第1の注水口16,16を介してそれに対応した注水を行うことになる。
【0089】
これにより、再び試験孔20内の試験水Wの水位が図8の定水位状態に復帰する。そして、試験孔20内の試験水Wの水位が定水位状態に復帰すると、同試験水Wによって第1の空気流入口15,15が塞がれて第1の注水口16,16から試験孔20への注水も止まる。この間の上記第1の気密水槽13内の水位の低下度合から透水係数が測定される。
【0090】
<第1の実施の形態に係る透水試験装置の基本的な構成と作用>
以上のように、この第1の実施の形態に係る透水試験装置10は、測定用の水が溜められる注水用の気密水槽と、気密水槽の下部に設けられた空気流入口及び注水口とからなり、空気流入口及び注水口を備えた気密水槽の下部を所定量の試験水を貯留した地盤側の試験孔内に沈め、空気流入口及び注水口をマリオットサイフォン式の定水位保持管および注水管として機能させ、気密水槽内の水位量の減少から対象となる地盤の透水性を測定するようにしてなる透水試験装置であって、上記気密水槽を、径を異にする内外二重の円筒体を用いて外側の第1の円筒体11と内側の第2の筒体12との間に位置する容積の小さい第1の気密水槽13と、内側の第2の円筒体12内に位置する容積の大きい第2の気密水槽14との2組の気密水槽に構成すると共に、上記外側の第1の円筒体11の下部に第1の空気流口15,15と第1の注水口16,16、内側の第2の円筒体12の下部に第2の空気流入口17と第2の注水口18をそれぞれ設け、上記内側の第2の円筒体12の第2の空気流入口17及び第2の注水口18を介して上記第2の気密水槽14を上記第1の気密水槽13に連通させ、第1の気密水槽13を主とした低透水性地盤における透水係数の測定および第1の気密水槽13に第2の気密水槽14を組み合わせた中高透水性地盤における透水係数の測定のそれぞれの測定を可能にしている。
【0091】
すなわち、この第1の実施の形態に係る透水試験装置10では、まず測定用の水が溜められる注水用の気密水槽が、径を異にする内外二重の筒体により外側の第1の円筒体11と内側の円筒体12との間に位置する容積の小さい第1の気密水槽13と内側の第2の円筒体12内に位置する容積の大きい第2の気密水槽14との内外2組の気密水槽に構成されている。そして、外側の第1の円筒体11の下部には第1の空気流入口15,15と第1の注水口16,16が、また内側の第2の円筒体12の下部には第2の空気流入口17と第2の注水口18がそれぞれ設けられており、内側の第2の円筒体12の下部の第2の空気流入口17と第2の注水口18を介して第1、第2の内外2組の気密水槽13,14が相互に連通している。
【0092】
したがって、当該透水試験装置10が透水係数が不明な所定の測定地盤の試験孔20に対して設置された場合、同試験孔20を介して測定地盤中への試験水Wの浸透が始まる。そして、その浸透量が所定量以上になると、試験孔20内の試験水Wの水位が外側の第1の円筒体11下部の第1の空気流入口15,15位置より下方に低下する。すると、同外側の第1の円筒体11下部の第1の空気流入口15,15が大気に開放され、同第1の空気流入口15,15から容積の小さい第1の気密水槽13内に空気が流入し、気泡となって上昇する。それに対応して第1の気密水槽13内上部の負圧が低下し、同低下量に対応した量の測定水が外側の第1の円筒体11下部の第1の注水口16,16から流出し、試験孔20内に注水される。これにより再び試験孔20内の試験水の水位が上昇し、やがて外側の第1の円筒体11下部の第1の空気流入口15,15が試験孔20内の試験水によって塞がれ、空気の流入、それによる気泡の上昇はなくなり、試験孔20への注水も停止される。これにより、試験孔20内の試験水Wの水位が再び元の定水位状態に復帰する一方、第1の気密水槽13内における測定水の水位が上記試験孔20内への注水量だけ低下する。そこで、その低下度合(測定時間の経過とその間における測定水の減少量)から、当該測定地盤の透水係数を測定する。
【0093】
第1の気密水槽13内の水位の低下は、たとえば外側の第1の円筒体11の外周に設けた水量目盛19により読み取られるが、この第1の実施の形態の構成の場合、第1の気密水槽13の容積(断面積)自体が十分に小さく形成されており、かつその水槽部分が外側の第1の円筒体11と内側の第2の円筒体12との間に位置して肉薄のリング(筒体)構造に形成されていることから、水位の変化が大きく、試験孔20内に注水された測定水の量(減少量)が相対的に大きな低下スパンで示される。したがって、試験孔20を形成した測定地盤が単位時間当たりの透水量が少ない、透水係数の小さな低透水性地盤であった場合にも、その水位低下に応じた目盛が読み取りやすくなり、測定時間も短縮される。
【0094】
この第1の実施の形態の場合、以上のようにして、まず筒体部外周側の容積(断面積)の小さい第1の気密水槽13を用いた低透水性地盤に適した透水係数の測定が行われる。そして、当該測定地盤が実際に透水係数が小さい低透水性地盤であり、それに応じた適切な測定データを取得することができた場合には、そこで測定は終了する。つまり、基本的には、上記第1の気密水槽13の容積は同第1の気密水槽13内の測定水の水位が内側の第2の筒体12下部の第2の空気流入用の開口17位置に低下するまでの間で、十分に低透水性地盤の透水係数を測定することができるものに設定されている。
【0095】
しかし、仮に透水係数が小さい低透水性の地盤であっても、ケースによっては適切な測定データを取得することができないような場合もあり、また低透水性と中透水性の境界は必ずしも明確に区分されるものではない。このような場合、上記容積の小さい第1の気密水槽13の測定水の水量のみでは対応できない。そこで、この実施の形態では、上記第1の気密水槽13内の測定水を用いた測定に加えて、さらに所定時間、第2の気密水槽14内の測定水を用いた連続的な測定を行うことができるようにしている。
【0096】
すなわち、この実施の形態の場合、注水用の気密水槽が、外側の第1の円筒体11と内側の第2の円筒体12との間に位置する上記容積の小さい第1の気密水槽13と内側の第2の円筒体12内に位置する容積の大きい第2の気密水槽14との2組の気密水槽により構成されており、内側の第2の円筒体12下部の第2の空気流入口17及び第2の注水口18を介して第1、第2の内外2組の気密水槽13,14が相互に連通している。
【0097】
そのため、上記第1の気密水槽13内の水位が内側の第2の円筒体12下部の第2の空気流入口17位置より低下すると、同第2の空気流入口17から第2の気密水槽14内に空気が流入し、第2の気密水槽14内の測定水が内側の第2の円筒体12下部の第2の注水口18を介して第1の気密水槽13内に供給されることになり、上述した測定により上記第1の気密水槽13内の測定水の水位が内側の第2の円筒体12下部の第2の空気流入口17位置より低下していた場合にも第2の気密水槽14内の測定水を使用して継続した測定が可能となる。つまり、基本的には、低透水地盤に対応した透水係数の測定は第1の気密水槽13のみを用いて行われるが、必要な場合には第2の気密水槽14も使用されるということである。上記第1の気密水槽13を主とした低透水性地盤における透水係数の測定という表現には、このようなケースをも含めている。
【0098】
一方、上記試験孔20を形成した測定地盤が実際には透水係数の大きな中高透水性地盤であった場合には、上記低透水性地盤の場合と異なって、上記試験孔20内の試験水が地盤内に浸透し続けるので、低透水性地盤の場合に比べて多量の測定水が必要になる。
【0099】
そこで、そのような場合には、上記第1の気密水槽13に第2の気密水槽14を組み合わせた連続的な透水係数の測定が行われる。
【0100】
すなわち、同測定の場合、まず上記低透水性地盤の透水係数測定の場合と同様に第1の気密水槽13及び外側の第1の円筒体11下部の第1の空気流入口15,15及び第1の注水口16,16を使用した透水係数の測定を開始する。しかし、透水係数の大きな中高透水性地盤の場合には、上記第1の気密水槽13内の内側の第2の円筒体12下部の第2の空気流入口17位置までの測定水の水量では試験孔20内への注水量が足りず、早期に第1の気密水槽13内の水位が内側の第2の円筒体12下部の第2の空気流入口17位置より低下することになる。
【0101】
そして、第1の気密水槽13内の水位が内側の第2の円筒体12下部の第2の空気流入口17位置より低下すると、同第2の空気流入口17から容積の大きな第2の気密水槽14内に空気が流入し、それに対応して同容積の大きな第2の気密水槽14内の十分な量の測定水が内側の第2の円筒体12下部の第2の注水口18から第1の気密水槽13内に流出し、さらに第1の気密水槽13を介して外側の第1の円筒体11下部の第1の注水口16,16から定水位状態になるまで試験孔20内に注水される。そして、それにより上記試験孔20内の試験水の水位が定水位状態となり、外側の第1の円筒体11下部の第1の空気流入口15,15が塞がれると、外側の第1の円筒体11下部の第1の注水口16,16からの注水が停止し、それに対応して第1の気密水槽13内の水位が上昇する。そして、同第1の気密水槽13内の水位が内側の第2の円筒体12下部の第2の空気流入口17位置まで上昇すると、内側の第2の円筒体12下部の第2の注水口18から第1の気密水槽13内への注水も止まり、第1の気密水槽13内の水位が定水位状態となる一方、第2の気密水槽14内の水位が所定の低下位置で安定する。そこで、その低下度合(測定時間の経過とその間における測定水の減少量)から、当該中高透水性地盤の透水係数を適切に測定する。
【0102】
すなわち、この第1の実施の形態の構成では、中高透水性地盤の透水性を測定するに際しては、上記第2の気密水槽14内の測定水に加えて第1の気密水槽13内の測定水をも連続的に利用することができ、第2の気密水槽14内の測定水と第1の気密水槽13内の測定水を合わせた合計の水量が中高透水性地盤の透水性を測定する水量として有効に使用可能である。したがって、小容積の第1の気密水槽13を低透水性の地盤用、大容積の第2の気密水槽14を中高透水性地盤用として、全く別々の専用の気密水槽として使い分ける場合に比べて、小容積の第1の気密水槽13分だけ全体の容積(円筒体構造の装置本体の直径)を小さくすることができる。そのため、測定作業時の取り扱いも容易になる。また、定水位状態が装置本体の第1の気密水槽部分に生じるので非常に見やすくなる。
【0103】
この第1の実施の形態の透水試験装置では、上記の構成における外側の第1の円筒体11の下部に設けられる第1の空気流入口15,15及び第1の注水口16,16、内側の第2の円筒体の下部に設けられる第2の空気流入口17及び第2の注水口18は、それぞれ空気流入専用の開口と注水専用の開口に分離されており、空気流入専用の第1の空気流入口15,15,第2の空気流入口17は注水専用の第1の注水口16,16,第2の注水口18よりも所定の高さ高い位置に設けられている。
【0104】
このような構成によると、上記第1の気密水槽13を中心とした低透水性地盤における透水係数の測定時および上記第1、第2の気密水槽13,14を組み合わせた中高透水性地盤における透水係数の測定時の何れの場合にあっても、上記容積の小さい第1の気密水槽13内の水位が上記内側の第2の円筒体12の下部に設けられた第2の空気流入口17の位置よりも低くなると、上記内側の第2の円筒体12の下部に設けられた第2の空気流入口17が開放されて、同第2の空気流入口17からの空気が上記容積の大きい第2の気密水槽14内に流入する一方、上記内側の第2の円筒体12の下部に設けられた第2の注水口18から第2の気密水槽14内の水が第1の気密水槽13内に注水され、さらに第1の気密水槽13、外側の第1の円筒体11の下部に設けられた第1の注水口16,16を介して試験孔20内に注水される。
【0105】
そして、試験孔20内の水位が定水位状態になると、外側の第1の円筒体11下部の第1の空気流入口15,15が試験孔20内の試験水によって塞がれ、第1の気密水槽13内への空気の流入が停止して、同外側の第1の円筒体11の下部の第1の注水口16,16からの注水も停止する。
【0106】
その結果、やがて上記内側の第2の円筒体12の下部に設けられた第2の注水口18からの注水によって第1の気密水槽13内の水位が上がり、上記内側の第2の円筒体12の下部の第2の空気流入口17が第1の気密水槽13内の水によって塞がれ、上記内側の第2の円筒体12の下部に設けられた第2の注水口18からの注水が停止し、第1の気密水槽13内の水位が上記内側の第2の円筒体12の下部の第2の空気流入口17位置を基準とした定水位状態に維持されるようになる。
【0107】
つまり、この第1の実施の形態では、測定地盤側試験孔20内の定水位に連動して試験装置側第1の気密水槽内13にも定水位が実現される。しかも、この試験装置側第1の気密水槽13内の定水位位置は、上記第2の注水口18よりも所定の高さ高い位置に形成される。
【0108】
したがって、この試験装置本体側第1の気密水槽13内の定水位位置は、地盤21の表面よりも所定寸法以上高い位置にあり、水平方向から十分に確認することができる。しかも、同第1の気密水槽13内の定水位は、周方向の全体に亘って形成される。したがって、周方向のどの位置からでも容易に確認することができ、測定作業者は試験孔20内の水位が定水位状態になったことを試験孔20内の状態を見ることなく、容易、かつ正確に判断することができるようになる。その結果、測定作業が著しく容易になり、測定効率、測定精度も向上する。
【0109】
なお、この場合、内側の第2の円筒体12の下部に設けられる第2の空気流入口17は、外側の第1の円筒体11の下部に設けられる第1の空気流入口15,15よりも所定の高さ高い位置(十分に高い位置)に設けられている。したがって、第1の気密水槽13内に形成される定水位位置が、地盤21の表面よりも十分に高くなり、また第2の気密水槽14から第1の気密水槽13内への測定水の注水タイミングが早くなる。また、その注水効率も向上する。
【0110】
また、この第1の実施の形態では、上記外側の第1の円筒体11の下部に設けられている第1の空気流入口15,15及び第1の注水口16,16と内側の第2の円筒体12の下部に設けられている第2の空気流入口17および第2の注水口18は、たとえば相互に90度周方向の位置を異にして設けられている。
【0111】
上記外側の第1の筒体11の下部に設けられている第1の空気流入口15,15および第1の注水口16,16と内側の第2の筒体12の下部に設けられている第2の空気流入口17および第2の注水口18が周方向の同じ位置に設けられていると、それらが相互に対向することになり、第1の気密水槽13の容積が小さいことから対向距離は極めて小さく、外側の第1の筒体11下部の第1の空気流入口15,15から流入した空気が誤って内側の第2の筒体12下部の第2の空気流入口17側に負圧で吸い込まれてしまう恐れがある。それでは第2の気密水槽を用いた測定地盤の透水レベルに応じた正確な水位変化は得られない。
【0112】
しかし、上記のように、相互に周方向の位置を異にして設けると、外側の第1の筒体11下部の第1の空気流入口15,15から流入した上昇度合の早い気泡が誤って内側の第2の筒体12下部の第2の空気流入口17に吸い込まれてしまう恐れが解消される。
【0113】
また、この第1の実施の形態の構成では、上述のように、全体として円筒体構造に形成された透水試験装置10を高さ調節可能な三脚(所定の吊り下げ支持手段)5を介して試験孔20の上部に吊り下げて設置するようにしている(図6及び図12参照)。
【0114】
このような構成によると、測定時、円筒体構造の透水試験装置10が試験水を溜めた試験孔20上に確実に鉛直状態で吊り下げられ、下部側第1の空気流入用の開口15,15及び第1の注水用の開口16,16部分を沈めた適切な測定開始状態に容易、かつ正確に設置できるようになる。したがって、従来のように、試験孔20内に多数の砕石を敷き詰め、透水試験装置の設置面を形成する必要はなくなり、測定作業が著しく容易になる。また、より確実に鉛直状態が実現されるので、測定精度が向上する。
【0115】
これらの結果、上記第1の実施の形態の透水試験装置10によると、少量の測定水量で済む低透水性地盤から中量、多量の測定水量を必要とする中高透水性地盤まで、単一の試験装置で連続した測定が可能となる。しかも、低透水性地盤での可及的な測定時間の短縮が可能であり、試験孔20への設置も容易である。したがって、トータルとしての測定効率が大きく向上し、作業性に優れたものとなる。
【0116】
また、低透水性地盤の透水性を測定する第1の気密水槽13は容積(断面積)小さく、外側の第1の筒体11と内側の第2の筒体12との間に位置してリング状(筒状)の形状になっている。したがって、試験孔20内の水位変化が小さくても第1の気密水槽13内の水位変化は大きな変化として示される。そのため、低透水性地盤の透水性を測定する場合にも、水位変化の読み取りが容易であり、測定がしやすくなる。測定時間も短くなる。
【0117】
また、外側の第1の筒体11の下部に設けられている第1の空気流入口15,15及び第1の注水口16,16と内側の第2の筒体12の下部に設けられている第2の空気流入口17及び第2の注水口18は、それぞれ空気流入専用の開口、注水専用の開口に、それぞれ分離独立した状態で上下に離して設けられており、空気流入専用の開口15,15及び17は注水専用の開口16,16及び18よりも所定の高さ高い位置に設けられている。したがって、空気流入用の開口部では、空気の流入、気泡の発生がスムーズで、流入効率も高い。また、注水用の開口部では、水の流れがスムーズで、注水効率も高い。
【0118】
そして、内側の第2の筒体12の下部の空気流入専用の第2の空気流入口17により、第1の気密水槽13内には試験孔20内の試験水の定水位に対応した定水位が形成される。この第1の気密水槽13内の定水位位置は、内側の第2の筒体12の下部の空気流入専用の第2の空気流入口17が注水専用の第2の注水口18よりも所定の高さ高い位置に設けられていることから、試験孔20がある地盤面よりも所定高さ高い位置にある。そして、第1の気密水槽13内の周方向の全体に亘って形成される。したがって、従来のような試験孔20内での確認に比べて、定水位の確認は極めて容易になる。この点でも著しく測定作業が容易になり、測定精度が向上する。
【0119】
<浅層地盤から深層地盤に亘る透水係数の算出>
上述した図6図10の説明では、地盤表層部に地盤工学会規格の浅い試験孔20(直径30センチ、深さ30センチ)を形成し、同試験孔20内に図1図5の構成の透水試験装置10を設置して透水係数を算出する方法について説明した。
【0120】
しかし、上記第1実施の形態に係る透水試験装置10は、そのような地盤表層部の浅い試験孔20の場合に限らず、深さ1m以上の深い試験孔の場合、また、それよりも深い図11に示す浅層地盤ないし深層地盤までの幅広い深度での透水試験を行うことが可能である。
【0121】
深さ1m以上の深い試験孔の場合には、たとえば試験孔20の深度を第1層、第2層と区分し、上記深さ30センチの試験孔20の場合と同様に順次測定してゆくようにする。
【0122】
また、図11に示す浅層地盤ないし深層地盤の場合には、使用する試験孔20Aの形成にボーリングマシンを用い、上述した図1図5の透水試験装置10が有効に挿入される直径の試験孔20Aを目標とする深度L1~L4まで段階的に掘削する。そして、その掘削深度L1~L4によって規定される上位側第1層No1から、第2層No2、第3層No3、第4層No4と上部から下部方向に掘り下げた各深度で透水試験を行い、段階的に透水係数を算出してゆく。各深度での透水係数の算出方法は既に述べた深さ30センチの試験孔20の場合と同様である。透水試験で得られる透水係数は、各深度L1~L4における透水係数K1~K4の累計値の平均値が使用される。これにより、深さ30センチ程度の表層部の透水係数ではなく、実現場で真に必要な表層部から深層部(第1層No1から第4層No4)までの有用な透水試験値が求められる。
【0123】
このように、上記第1の実施の形態の透水試験装置では、L1~L4と深度を異にする第1層No1~第4層No4について、各層毎に上述の場合同様の段階的な透水試験を行うことにより、地下水面より上部の浅層地盤から深層地盤までの広い領域での透水試験が可能となる(任意の層の透水係数を算出することができる)。さらに、湿潤水頭hと試験孔20Aの半径rの比で表されるアスペクト比h/rの条件、h/r>10~50も容易に満たすことができる。
【0124】
もちろん、先に述べた従来の透水試験装置(特許文献1/特開2012-127673号公報)を用いても一応浅層地盤における透水試験は可能である。その場合の構成を図18に示す。
【0125】
図18において、符号30は従来の単管式の透水試験装置を示しており、31は気密水槽を形成する円筒体、32は同延筒体31の上端側キャップ、33は同延筒体31の下端側キャップ、31aは水量目盛、34,34・・は定水位保持管及び注水管として機能する複数の開口である。
【0126】
符号40は、上述した第1の実施の形態の図7の試験孔20に対応する同寸法、同形状の定水位タンクである。この定水位タンク40の内壁面部には底面との間に所定の間隔を開けた状態で、透水試験装置30設置用の係止板41、41・・が設けられている。そして、この係止板41、41・・上に円筒体構造の透水試験装置30が設置される。
【0127】
一方、符号20Bは、たとえばハンドオーガで所定深度L1~L4まで掘られた小径の試験孔である。この試験孔20Bは、深度L1から、L2、L3、L4と順次掘り進められ、それら深度毎に順次透水試験を行ってゆく。ハンドオーガによる試験孔20Bの形成は容易でなく、大きな径の孔を適切に掘ることはできず、上述した図7の試験孔20のような定水位構造の試験孔を形成することはできない。したがって、ハンドオーガで掘った試験孔20B内に円筒体構造の透水試験装置30を挿入することは不可能である。
【0128】
そこで、上述のように地盤の上部に上述の試験孔20と同様の定水位タンク40を設置し、その底部の開口から細径の送水管42を伸ばし、試験孔20Bの底部側測定領域部分に注水管44を設ける。送水管42の下部には、空気充填型の止水用パッカー43を設け、測定領域部分からの測定水が上層部側に漏れないようにしている。空気充填型の止水用パッカー43には、エアホースを介して地上のエアポンプから所要の空気が供給される。
【0129】
この場合にも、透水試験装置30による透水試験は基本的に上述の場合と同様であり、深度L1から、L2、L3、L4毎に順次透水試験を行って、それら各深度毎に対応する各層No1~No4の透水係数K1~K4が求められる。
【0130】
しかし、この構成の場合には、透水試験装置30を試験孔20B内に挿入できないために、別途定水位タンク40を設けなければならない。また、送水管42、注水管44に加え、止水用のパッカー43、それに付随するエアホースやエアポンプが必要となる。止水用のパッカー43の取り付け、膨出作業は非常に面倒である。また、止水用のパッカー43の空気圧が低いと漏水による測定誤差が生じる。土質によっては壁面が崩れやすい。
【0131】
これに対して、上述した第1の実施の形態の透水試験装置10を用いた透水試験では、図11に示すように、ボーリングマシンを用いて透水試験装置10を挿入するのに十分な直径の試験孔20Aを形成することによって透水試験装置10を容易に挿入することができ、高さ調節手段を備えた三脚5、試験孔20Aの深度に応じた有効な長さのエレベータラック7を用いて吊り下げ支持することによって、容易に所定の深度L1~L4に正確に位置させることができる。必要な場合には、エレベータラック7側のフック部7bと装置本体側の吊り下げリング11bとの間に所望の長さの吊り下げチェーンまたは吊り下げロープを介在させるようにしても良い。ボーリングマシンによる掘削は、ハンドオーガによる掘削と異なって深度や土質による制限がなく、地下水面までの自由な掘削が可能である。
【0132】
したがって、上述した従来の透水試験装置30の問題は確実に解消される。もちろん、図11のように試験長が大きくなると、地盤への試験水の浸透量も増大する。そのため、試験長の大きさに応じて、上述した第1、第2の円筒体11,12の直径を大きくし、第1、第2の気密水槽13,14の容積を大きくすることは言うまでもない。
【0133】
≪本願発明の第2の実施の形態≫
次に、図12図17は、本願発明の第2の実施の形態に係る透水試験装置の構成と作用を示している。
【0134】
<透水試験装置本体部分の構成>
この第2の実施の形態に係る透水試験装置10の構成は、たとえば図12図13図16に示すように、上記図1図10に示す第1の実施の形態に係る透水試験装置10の構成において、上記外側の第1の円筒体11の下部外周の第1の空気流入用の開口15,15部分に位置して、同外側の第1の筒体11の下部外周面との間に表面張力が小さく水位上昇度が大きくなる毛細管スペース4を形成し、この毛細管スペース4部分での水位変化を見ることにより低透水性地盤における透水性試験の測定効率を向上させたことを特徴とするものである。
【0135】
上記第1の円筒体11の下部外周の第1の空気流入口15,15は、それぞれ第1の円筒体11の下部外周の左右両側に位置して設けられており、その下部には所定の間隔を置いて第1の注水口16,16がペア状態で設けられている。上記毛細管スペース4は、それら第1の空気流入口15,15及び第1の注水口16,16を有する上記第1の円筒体11の下部外周に図14(斜視図)及び図15(展開図)に示す毛細管スペース形成部材1を着脱可能に嵌合することによって形成されている。
【0136】
この毛細管スペース形成部材1は、たとえば図14(斜視図)に示すように、上記第1の円筒体11の下部外周に所定の弾性圧を伴って面一に嵌合される断面C形の弾性筒(半円寸法よりも所定寸法大きい断面C形の弾性筒)により構成されている。そして、その筒体部2の高さは、嵌合状態において、上記第1の円筒体11の下端側蓋部材11bの縁部上端から上記第1の空気流入口15,15の上端を超える十分な高さのものに形成されている。そして、その開口部側の左右両側壁2a、2aの内側には、上記第1の空気流入口15,15及び第1の注水口16,16の周囲を囲む形で、所定の深さの(浅い)毛細管スペース形成溝3が設けられ、それにより同開口部側の左右両側壁2a、2aが部分的に肉薄に形成されている。
【0137】
毛細管スペース形成溝3は、たとえば図14及び図15(展開図)に示すように、上記第1の空気流入口15,15及び第1の注水口16,16に対応する部分では、全体として山形の形状(二等辺三角形状)をしており、同山形の上部が上記第1の空気流入口15,15の周囲を囲む状態となっている。また、同山形の上端部分は、上記第1の空気流入口15,15の径よりも少し狭い幅で上方にストレートに伸びており、左右両側壁2a、2aの上端から外部に開放されている。そして、この毛細管スペース形成溝3を除く筒体壁内周面にはシール性の高いラバー部材(ラバーシート)2cが貼られていて、図12及び図13に示す第1の円筒体11の下部外周への筒体部2の嵌合状態では、同ラバー部材2cを介して、筒体部2の嵌合弾性力による均等、かつ十分な圧接圧を伴って、毛細管スペース形成溝3以外の内周面部分がシール性良く面一に嵌合される。この筒体部2の嵌合弾性力は、同筒体部2を嵌合時と逆方向に引くことにより、容易に取り外すことができるレベルのものとなっている。
【0138】
また、上記山形の毛細管スペース形成溝3の下部の第1の注水口16,16に対応する部分には、上端側円弧部が同径、同軸で相互に連通する逆U字形状の第3の注水口2bが設けられている。この第3の注水口2bの形状は、第1の注水口16,16と同じものでも構わない。ただ、逆U字形状となっていて、そのまま下方に開口されていると、毛細管スペース形成部材1の筒体部2が第1の注水口16,16からの注水の妨げにならず、試験孔20内への注水距離を可及的に短かくすることができるので、注水効率を高くすることができる。また、第1の空気流入口15,15部分への毛管水も入りやすいメリットがある。
【0139】
この結果、上記第1の円筒体11の下部外周に毛細管スペース形成部材1が嵌合された状態では、たとえば図16に示されるように、上記毛細管スペース形成溝3により、上記第1の空気流入口15,15及び第1の注水口16,16部分に上記第1の円筒体11の下部外周面との間で狭い隙間状の山形の毛細管スペース4が形成され、同山形の毛細管スペース4の上部が幅の狭いストレートな毛細管スペースを介して上方側から外部(大気)に開放されることになる。これにより管径の小さい毛細管と同様の扁平な隙間構造の毛細管スペース4が実現される。この場合、毛細管スペース形成溝3の溝面および第1の円筒体11の外周面は、当然ながら十分に濡れ性が良いものとなっている(接触角の小さい材質を選定)。
【0140】
この場合、上記毛細管スペース形成部材1(その筒体部2)は、上記第1の円筒体1外周への嵌合時の弾性変形が可能で、所定の剛性がある透明な合成樹脂材で成形される。また、内側のラバー部材(ラバーシート)2cには、たとえばシリコンゴムなどの柔らかくてシール性の高い透明な合成樹脂材が採用される。
【0141】
このような構成の場合、当該透水試験装置10を試験孔20に設置した状態では、外側第1の円筒体11下部の第1の空気流入口15,15部分に下部が山形に広がって試験孔20内の試験水に浸かり、上部が第1の空気流入口15,15の直径よりも少し広い幅で上方にストレートに伸びて大気に開放された毛細管スペース(毛細管構造の隙間)4が形成され、同毛細管スペース4による毛細管現象によって試験孔20内の試験水Wが偏平な水膜状態で第1の空気流入口15,15部分まで山形に上昇する。それによって、毛細管スペース4内の試験水Wの水位は試験孔20内の試験水Wの表面水位よりも数センチメートルも高くなる。そして、同第1の空気流入口15,15部分では水の表面張力が低下し、空気が第1の気密水槽13内に吸い込まれやすくなる。この場合、第1の円筒体11下部の全周に毛細管スペース4を形成することも可能であるが、そのようにすると、試験水Wの上昇量が増大しすぎて却って空気(気泡)の吸い込み力が低下する。そこで、この第2の実施の形態では、上記第1の空気流入口15,15部分が上記山形の毛細管スペースの上部に対応するように構成しており、最適な試験水Wの上昇状態(最適な負圧状態/後述)を実現している。
【0142】
このような構成にすると、たとえば測定地盤の透水性が低く、地盤内に微小な水の浸透しか生ぜず、試験孔20内の試験水の状態を長時間かけて観察していても一向に表面水位が低下しないような場合にも、毛細管スペース4部分での部分的な水位の上昇による試験孔20内の試験水Wの水位の低下、第1の空気流入口15,15部分での空気の流入の促進により、第1の気密水槽13内に比較的スムーズに連続した気泡が発生するようになる。その結果、透水性の低い低透水係数の地盤でも、比較的短時間で多くの測定データを得ることができるようになり、従来のような間欠的な測定データの取得から比較的連続的な測定データの取得に改善することができる。また、毛細管スペース形成部材1は、本体側第1、第2の円筒体11,12と同様に透明体に形成されているので、上記毛細管現象による水位の上昇をリアルタイムで明確に確認することができ、可及的早期に測定を開始することができる。この点からも測定時間の短縮、効率化が可能となる。
【0143】
また、毛細管スペース形成部材1は、本体側第1の円筒体11に任意に着脱(嵌合)できるようになっているので、必要に応じて使用することができる。たとえば後述するように、試験孔20形成後の予備試験で低透水性地盤であることが確認されたような場合に、測定時間の短縮、効率化を目的として使用される。したがって、上記毛細管スペース形成部材1は、上記第1の実施形態の透水試験装置10におけるオプション部品として付加することも可能である。
【0144】
ここで、上記毛細管スペース4を設けた場合の第1の気密水槽13内における気泡発生の瞬間を観察した結果について図17を参照して詳細に説明すると、次のようになる。
【0145】
すなわち、毛細管スペース4がある場合、測定開始時において、すでに試験水Wは水膜状態で第1の空気流入口15,15部分まで上昇している一方、同第1の空気流入口15,15に対応する試験孔20内の表面水位(定水位)は、上記図10の毛細管スペース4がない場合に比べて、部分的に数センチΔH0だけ低下している(図17参照)。
【0146】
この状態から地盤に試験水Wが浸透してゆくと、試験孔20内の表面水位の低下は見られないものの(微少で判断できないものの)、毛細管スペース4内の山形に上昇した水膜状態の上昇水上部には明らかな変化が現れる。すなわち、試験孔20内の表面水位の変化としては確認することができない地盤への数mlの量の水の浸透(減少)が、試験孔20内の水面の一つであって最も表面張力が小さい毛細管スペース4内の上昇水(毛管水)の上部に顕著に現れる。
【0147】
さらに地盤への試験水の浸透が続くと、毛細管スペース4内の上昇水は表面張力が小さい第1の空気流入口15,15部分で第1の気密水槽13内の負圧により第1の気密水槽13内に引き込まれる。すなわち、毛細管スペース4内の負圧力と第1の気密水槽13内の負圧力との差によるパイピング現象が生じる。これにより、第1の気密水槽13内に気泡が発生し、第1の気密水槽13内上部まで上昇してゆく。この気泡は一つ一つが非常に小さく、発生間隔も短い連続的な気泡となる。水量目盛19では、数個の気泡の発生後でないと1mmレベルの目盛の低下は読み取ることができない。毛細管スペース4のない第1の実施形態の透水試験装置の場合、発生した一つの気泡が1円玉程度の大きさで、数個発生し、第1の気密水槽13内を上昇する途中で大きくなる。しかし、毛細管スペース4がある場合は気泡の大きさは殆ど変化しない。これは毛細管現象で上昇した分だけ気泡の圧力が小さくなっていることによると考えられる。そして、上昇した気泡の圧力だけ第1の気密水槽13内の負圧が低下し、それに対応した量の測定水が第1の注水口16,16から流出し、試験孔20内に注水される。その結果、試験孔20内の試験水Wの水位が定水位状態に復帰し、毛細管スペース4内の水位も元の定水位状態に戻り、第1の空気流入口15,15が塞がれ、上述した空気の流入、気泡の発生がなくなって、第1の注水口16,16から試験孔20内への注水もなくなる。
【0148】
つまり、毛細管スペース4のない第1の実施形態の透水試験装置の場合には、地盤への試験水の浸透が直接試験孔20内の表面水位に影響を与えるのに対し、毛細管スペース4を備えた第2の実施形態の透水試験装置の場合には、地盤への試験水の浸透が毛細管現象で負圧となった毛細管スペース4内の上昇水に影響を与えることになる。その点で、両者の気泡形成のメカニズムは明確に相違しており、測定地盤の透水性が低い場合には毛細管スペース4を備えた第2の実施形態の透水試験装置が有効となる。
【0149】
以上のように、毛細管スペース4のない第1の実施形態の透水試験装置と毛細管スペース4がある第2の実施形態の透水試験装置とでは、気泡を発生させるメカニズムが異なっている。毛細管スペース4がない場合には、第1の空気流入口15,15部分に作用する大気圧と第1の気密水槽13内の負圧との差により気泡形成のパイピング作用が生じるのに対し、毛細管スペース4がある場合には、毛細管スペース4による上昇水(毛管水)部分の負圧と第1の気密水槽13内の負圧との差により気泡形成のパイピング作用が生じる。つまり、毛細管スペース4による上昇水(毛管水)部分の圧力が大気圧より低くなることから、より気泡が生じやすくなるわけである。
【0150】
なお、上記毛細管スペース形成部材1(筒体部2)は、測定地盤の透水性が低く、地盤内に微小な水の浸透しか生ぜず、試験孔20内の試験水Wの状態を長時間かけて観察していても一向に表面水位が低下しないような場合に使用される。したがって、中高透水性の測定地盤の場合には使用する必要がないものである。そのため、そのセット(第1の円筒体11への嵌合)は、たとえば試験孔20を形成し、予め所定量の水を入れて当該地盤の水の浸透度合いを確認する本試験前の予備試験の結果に基づき、測定地盤が低透水性地盤であることが確認された場合に行われる。
【0151】
そして、それを前提とした実際の嵌合操作については、その後、本試験の開始に際し、必要な試験水Wを貯留した当該試験孔20に対して透水試験装置10の下部を浸漬し、同浸漬状態において第1の空気流入口15,15、第1の注水口16,16部分の止水栓を抜いてから嵌合しても良いし、最初は第1の円筒体11の第1の空気流入口15,15及び第1の注水口16,16部分よりも上方に嵌合しておいて、上記のように止水栓を抜いた後に第1の空気流入口15,15及び第1の注水口16,16に対応する位置にスライド状態で下降させてセットするようにしても良い。
【0152】
また、上述の説明では、毛細管スペース形成部材1における毛細管形成溝3の山形の上端部分は、一例として第1の空気流入口15,15の径よりも少し狭い幅で上方にストレートに伸びていると説明したが、これは第1の空気流入口15,15の径と同径でも良く、少し広い位でも構わない。また、その場合において、第1の空気流入口15,15の上方にストレートに伸びる毛細管形成溝3の山形の上端部分は、少なくとも第1の空気流入口15,15よりも所定距離上方に延びていれば十分であり、必要以上に高く形成する必要はない。したがって、毛細管スペース形成部材1の筒体部2の高さも必要以上に高くする必要はない。
【0153】
≪その他の実施の形態≫
以上の第1、第2の実施の形態の各部の構成は、その目的に応じて種々の変更が可能であり、決して上記の説明や図面での表示例のみに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0154】
1は毛細管スペース形成部材、2は毛細管スペース形成部材1の筒体部、3は毛細管スペース形成溝、4は毛細管スペース、5は三脚、7はエレベータラック、9は三脚本体、10は透水試験装置、11は第1の円筒体、12は第2の円筒体、13は第1の気密水槽、14は第2の気密水槽、15は第1の空気流入口、16は第1の注水口、17は第2の空気流入口、18は第2の注水口、19は水量目盛、20は試験孔、20Aは試験孔である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
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図10
図11
図12
図13
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図15
図16
図17
図18