(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023042158
(43)【公開日】2023-03-27
(54)【発明の名称】動力伝達系の試験装置
(51)【国際特許分類】
G01M 13/027 20190101AFI20230317BHJP
G01M 17/007 20060101ALI20230317BHJP
【FI】
G01M13/027
G01M17/007 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021149313
(22)【出願日】2021-09-14
(71)【出願人】
【識別番号】000002059
【氏名又は名称】シンフォニアテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142022
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 一晃
(72)【発明者】
【氏名】東山 勇志
【テーマコード(参考)】
2G024
【Fターム(参考)】
2G024AB04
2G024BA11
2G024CA09
2G024DA05
2G024DA09
2G024EA13
(57)【要約】
【課題】車両用動力伝達差動装置の第1出力軸及び第2出力軸にそれぞれ接続され、別々に速度制御されるダイナモを有する動力伝達系の試験装置において、前記第1出力軸及び前記第2出力軸に分配されるトルクの変動を抑制可能な構成を得る。
【解決手段】動力伝達系の試験装置車1は、第1出力軸D1及び第2出力軸D2にそれぞれ接続される第1ダイナモ11及び第2ダイナモ12と、第1ダイナモ11の回転速度をフィードバックすることにより得られる補正速度指令に基づいて、第1ダイナモ11の速度制御を行う第1制御装置14と、第2ダイナモ12の回転速度をフィードバックすることにより得られる補正速度指令に基づいて、第2ダイナモ12の速度制御を行う第2制御装置15と、を有する。第1制御装置14及び第2制御装置15のうち少なくとも一方は、前記補正速度指令のうち所定範囲内の補正速度指令を一定値にする不感帯制御部28を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源が発生する駆動力を伝達して第1出力軸及び第2出力軸に分配する車両用動力伝達差動装置を有する動力伝達系を試験する動力伝達系の試験装置であって、
前記第1出力軸及び前記第2出力軸にそれぞれ接続されて前記車両用動力伝達差動装置の負荷として機能する第1ダイナモ及び第2ダイナモと、
前記第1ダイナモの回転速度を前記第1ダイナモの速度指令にフィードバックすることにより得られる補正速度指令に基づいて、前記第1ダイナモの速度制御を行う第1速度制御部と、
前記第2ダイナモの回転速度を前記第2ダイナモの速度指令にフィードバックすることにより得られる補正速度指令に基づいて、前記第2ダイナモの速度制御を行う第2速度制御部と、
を有し、
前記第1速度制御部及び前記第2速度制御部のうち少なくとも一方は、前記補正速度指令のうち所定範囲内の補正速度指令を一定値にする不感帯制御部を有する、
動力伝達系の試験装置。
【請求項2】
請求項1に記載の動力伝達系の試験装置において、
前記第1速度制御部及び前記第2速度制御部のうち前記少なくとも一方は、積分器を有し、前記補正速度指令を用いてPI制御を行うPI制御回路を含み、
前記不感帯制御部は、前記積分器の信号入力側に設けられている、
動力伝達系の試験装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の動力伝達系の試験装置において、
前記所定範囲は、正側設定値と負側設定値とによって規定されていて、
前記不感帯制御部は、前記補正速度指令のうち前記所定範囲内の補正速度指令を一定値として出力するとともに、前記補正速度指令が前記所定範囲よりも正側に大きい場合には、前記補正速度指令から前記正側設定値を減算して出力し、前記補正速度指令が前記所定範囲よりも負側に小さい場合には、前記補正速度指令から前記負側設定値を減算して出力する、
動力伝達系の試験装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動源が発生する駆動力を伝達して第1出力軸及び第2出力軸に分配する動力伝達差動装置を有する動力伝達系を試験する動力伝達系の試験装置に関する。
【背景技術】
【0002】
駆動源が発生する駆動力を伝達して第1出力軸及び第2出力軸に分配する動力伝達差動装置を有する動力伝達系を試験する動力伝達系の試験装置が知られている。このような動力伝達系の試験装置として、例えば、特許文献1には、デファレンシャルギヤを直接又はトランスミッション等を介してモータで駆動しその左右の車軸に結合され平均速度一定に電流制御されトルクを吸収するダイナモメータを差回転指令に基づいて制御し模擬的に旋回試験する自動車試験装置用電気動力計が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述の特許文献1に開示されている構成のように、駆動源が発生する駆動力を伝達して第1出力軸及び第2出力軸に分配するデファレンシャルギヤ(動力伝達差動装置)を有する動力伝達系を試験する場合、前記第1出力軸及び前記第2出力軸には、それぞれダイナモが接続されている。このように前記動力伝達差動装置の前記第1出力軸及び前記第2出力軸にそれぞれ接続されたダイナモは、同じ速度になるように、別々に速度制御されている。
【0005】
そのため、前記第1出力軸及び前記第2出力軸にそれぞれ接続されたダイナモの速度には、わずかな速度差がある。これにより、前記動力伝達差動装置の歯車の噛み合い部分における歯当たりが微妙に変化する。このような歯当たりの変化により、前記動力伝達差動装置において前記第1出力軸及び前記第2出力軸に分配されるトルクが変化する。その後、歯当たりの変化が或る程度大きくなると、前記動力伝達差動装置の歯車の噛み合いが変わって、前記第1出力軸及び前記第2出力軸に分配されるトルクの差が小さくなる。
【0006】
このように、前記動力伝達差動装置の前記第1出力軸及び前記第2出力軸にそれぞれ接続されたダイナモを速度制御した場合には、前記第1出力軸及び前記第2出力軸に分配されるトルクが鋸歯状に変化する。
【0007】
前記動力伝達差動装置を有する動力伝達系を精度良く試験するために、上述のような鋸歯状のトルク変化をできるだけ抑制することが望まれている。
【0008】
本発明の目的は、車両用動力伝達差動装置の第1出力軸及び第2出力軸にそれぞれ接続され、別々に速度制御されるダイナモを有する動力伝達系の試験装置において、前記第1出力軸及び前記第2出力軸に分配されるトルクの変動を抑制可能な構成を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一実施形態に係る動力伝達系の試験装置は、駆動源が発生する駆動力を伝達して第1出力軸及び第2出力軸に分配する車両用動力伝達差動装置を有する動力伝達系を試験する動力伝達系の試験装置である。この動力伝達系の試験装置は、前記第1出力軸及び前記第2出力軸にそれぞれ接続されて前記車両用動力伝達差動装置の負荷として機能する第1ダイナモ及び第2ダイナモと、前記第1ダイナモの回転速度を前記第1ダイナモの速度指令にフィードバックすることにより得られる補正速度指令に基づいて、前記第1ダイナモの速度制御を行う第1速度制御部と、前記第2ダイナモの回転速度を前記第2ダイナモの速度指令にフィードバックすることにより得られる補正速度指令に基づいて、前記第2ダイナモの速度制御を行う第2速度制御部と、を有する。前記第1速度制御部及び前記第2速度制御部のうち少なくとも一方は、前記補正速度指令のうち所定範囲内の補正速度指令を一定値にする不感帯制御部を有する(第1の構成)。
【0010】
以上の構成では、車両用動力伝達差動装置の第1出力軸及び第2出力軸にそれぞれ接続される第1ダイナモ及び第2ダイナモは、それぞれの回転速度を速度指令にフィードバックすることにより得られる補正速度指令に基づいて、速度制御されている。
【0011】
このような速度制御において、前記第1ダイナモ及び前記第2ダイナモの回転速度には微小な差があるため、前記車両用動力伝達差動装置での歯車の噛み合い部分で歯当たりが少しずつ変化する。これにより、前記車両用動力伝達差動装置から前記第1ダイナモ及び前記第2ダイナモへの出力トルクが変化するため、この変化分が第1ダイナモ及び前記第2ダイナモに対する加速トルクとなり、前記第1ダイナモの回転速度と前記第2ダイナモの回転速度とに差が発生する。
【0012】
第1速度制御部は、前記第1ダイナモの回転速度を一定に制御し、第2速度制御部は、前記第2ダイナモの回転速度を一定に制御する。そのため、前記車両用動力伝達差動装置での歯車の噛み合いが変わることなく歯当たりが変化して、前記車両用動力伝達差動装置から前記第1ダイナモ及び前記第2ダイナモへの出力トルクの変化が増大する。
【0013】
これに対し、上述の構成のように、不感帯制御部によって、前記補正速度指令のうち所定範囲内の補正速度指令を一定値にすることにより、前記第1ダイナモの回転速度と前記第2ダイナモの回転速度とに、前記所定範囲の分だけずれが生じる。これにより、前記車両用動力伝達差動装置での歯車の噛み合い部分における歯当たりが変化しやすくなり、前記歯車の噛み合いも変わりやすくなる。
【0014】
よって、上述のように前記車両用動力伝達差動装置から前記第1ダイナモ及び前記第2ダイナモへの出力トルクの変化の増大を抑制することができ、前記第1出力軸及び前記第2出力軸に分配される鋸歯状のトルクの変化も抑制することができる。
【0015】
したがって、前記車両用動力伝達差動装置の前記第1出力軸及び前記第2出力軸にそれぞれ接続され、別々に速度制御される第1ダイナモ及び第2ダイナモを有する動力伝達系の試験装置において、前記第1出力軸及び前記第2出力軸に分配されるトルクの変動を抑制可能な構成が得られる。
【0016】
前記第1の構成において、前記第1速度制御部及び前記第2速度制御部のうち前記少なくとも一方は、積分器を有し、前記補正速度指令を用いてPI制御を行うPI制御回路を含む。前記不感帯制御部は、前記積分器の信号入力側に設けられている(第2の構成)。
【0017】
PI制御を行うPI制御回路の積分器は、前記車両用動力伝達差動装置から前記第1ダイナモ及び前記第2ダイナモに対する加速トルクを打ち消すように動作する。
【0018】
上述の構成のように前記積分器の信号入力側に不感帯制御部を設けることにより、補正速度指令が所定範囲内の場合、前記積分器は動作しない。これにより、前記補正速度指令が所定範囲内の場合には、第1ダイナモの回転速度と第2ダイナモの回転速度との差は解消しないため、車両用動力伝達差動装置での歯車の噛み合い部分における歯当たりが変化しやすくなる。よって、前記車両用動力伝達差動装置での歯車の噛み合いが変わりやすくなる。したがって、前記車両用動力伝達差動装置から前記第1出力軸及び前記第2出力軸に分配される鋸歯状のトルクの変化も抑制することができる。
【0019】
前記第1または第2の構成において、前記所定範囲は、正側設定値と負側設定値とによって規定されている。前記不感帯制御部は、前記補正速度指令のうち前記所定範囲内の補正速度指令を一定値として出力するとともに、前記補正速度指令が前記所定範囲よりも正側に大きい場合には、前記補正速度指令から前記正側設定値を減算して出力し、前記補正速度指令が前記所定範囲よりも負側に小さい場合には、前記補正速度指令から前記負側設定値を減算して出力する(第3の構成)。
【0020】
これにより、不感帯領域である所定範囲を、正側設定値と負側設定値とによって規定することができる。しかも、前記補正速度指令が前記所定範囲よりも正側に大きい場合には正側設定値を用いて前記補正速度指令を補正し、前記補正速度指令が前記所定範囲よりも負側に小さい場合には負側設定値を用いて前記補正速度指令を補正することにより、前記補正速度指令が前記所定範囲外の場合と前記所定範囲内の場合とで、不感帯制御部の出力値が急激に変化するのを防止できる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の一実施形態に係る動力伝達系の試験装置によれば、第1ダイナモの速度制御を行う第1速度制御部及び第2ダイナモの速度制御を行う第2速度制御部のうち少なくとも一方は、補正速度指令のうち所定範囲内の補正速度指令を一定値にする不感帯制御部を有する。これにより、車両用動力伝達差動装置の第1出力軸及び第2出力軸にそれぞれ接続され、別々に速度制御されるダイナモを有する動力伝達系の試験装置において、前記第1出力軸及び前記第2出力軸に分配されるトルクの変動を抑制可能な構成が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る動力伝達系の試験装置の構成を模式的に示す図である。
【
図2】
図2は、第1制御装置の概略構成を示す機能ブロック図である。
【
図3】
図3は、第1制御装置が不感帯制御部を有していない場合の車両用動力伝達差動装置の出力トルクの一例を示す図である。
【
図4】
図4は、第1制御装置が不感帯制御部を有する場合の車両用動力伝達差動装置の出力トルクの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照し、本発明の実施の形態を詳しく説明する。図中の同一または相当部分については同一の符号を付してその説明は繰り返さない。
【0024】
(全体構成)
図1は、本発明の実施形態に係る動力伝達系の試験装置1の概略構成を示す図である。この動力伝達系の試験装置1は、車両用動力伝達差動装置Dを有する動力伝達系の試験を行うための装置である。動力伝達系の試験装置1は、動力伝達系の一部である変速機構TMの性能評価を行う装置である。変速機構TMは、入力軸D3に入力された駆動力を変速する変速機TM1と、変速機TM1によって変速された入力軸D3の出力を第1出力軸D1及び第2出力軸D2に分配する車両用動力伝達差動装置Dとを有する。本実施形態では、変速機構TMは、動力伝達系の試験装置1による試験対象である供試体である。
【0025】
なお、特に図示しないが、車両用動力伝達差動装置Dは、内部に、複数の歯車を有し、該複数の歯車が噛み合うことにより、入力軸D3に入力された駆動力を第1出力軸D1及び第2出力軸D2に分配する。車両用動力伝達差動装置Dには、第1出力軸D1、第2出力軸D2及び入力軸D3が接続されている。車両用動力伝達差動装置Dの構成は、一般的なデファレンシャルギヤ装置と同じ構成であるため、車両用動力伝達差動装置Dの詳しい説明を省略する。
【0026】
動力伝達系の試験装置1は、第1ダイナモ11と、第2ダイナモ12と、第3ダイナモ13と、第1制御装置14と、第2制御装置15と、第3制御装置16とを有する。なお、
図1に示すように、第1出力軸D1、第2出力軸D2及び入力軸D3には、それぞれ、トルクを検出するトルク計Tが設けられている。
【0027】
第1ダイナモ11は、車両用動力伝達差動装置Dの第1出力軸D1に接続されて、車両用動力伝達差動装置Dから出力される第1出力軸D1のトルクを吸収する。詳しくは、第1ダイナモ11は、車両用動力伝達差動装置Dの負荷(耐久性能や品質等を評価するための負荷、走行中の車体を摸擬した負荷、走行抵抗による負荷、勾配による重力負荷などを含む)として機能する。第1ダイナモ11は、第1制御装置14によって、速度制御されている。速度制御の詳しい説明は、後述する。第1ダイナモ11は、従来のダイナモと同様の構成であるため、ダイナモの詳しい構成の説明を省略する。
【0028】
第2ダイナモ12は、車両用動力伝達差動装置Dの第2出力軸D2に接続されて、車両用動力伝達差動装置Dから出力される第2出力軸D2のトルクを吸収する。詳しくは、第2ダイナモ12は、車両用動力伝達差動装置Dの負荷(耐久性能や品質等を評価するための負荷、走行中の車体を摸擬した負荷、走行抵抗による負荷、勾配による重力負荷などを含む)として機能する。第2ダイナモ12は、第2制御装置15によって、速度制御されている。速度制御の詳しい説明は、後述する。第2ダイナモ12は、従来のダイナモと同様の構成であるため、ダイナモの詳しい構成の説明を省略する。
【0029】
第3ダイナモ13は、変速機構TMの入力軸D3に接続されて、変速機TM1を介して車両用動力伝達差動装置Dに駆動力を供給する駆動源として機能する。第3ダイナモ13は、トルク制御されている。第3ダイナモ13の構成及び第3ダイナモ13のトルク制御は、従来と同様であるため、詳しい説明を省略する。
【0030】
第1制御装置14は、第1ダイナモ11の駆動を制御する。詳しくは、第1制御装置14は、速度指令と第1ダイナモ11の回転速度とに基づいて、第1ダイナモ11を速度制御する。第1制御装置14が、本発明の第1速度制御部に対応する。
【0031】
第2制御装置15は、第2ダイナモ12の駆動を制御する。詳しくは、第2制御装置15は、速度指令と第2ダイナモ12の回転速度とに基づいて、第2ダイナモ12を速度制御する。第2制御装置15が、本発明の第2速度制御部に対応する。
【0032】
第1制御装置14及び第2制御装置15の構成は同様であるため、以下では、第1制御装置14の構成についてのみ説明する。
図2は、第1制御装置14の概略構成を示す機能ブロック図である。第2制御装置15も、第1制御装置14と同様の構成を有する。
【0033】
図2に示すように、第1制御装置14は、インバータ制御部20と、フィードバック回路21と、PI制御回路25と、を有する。
【0034】
フィードバック回路21は、第1ダイナモ11の回転速度を検出するレゾルバ11aからの出力信号に基づいて得られる第1ダイナモ11の回転速度を、速度指令に対してフィードバックする。フィードバック回路21は、速度演算部22を有する。この速度演算部22が、レゾルバ11aからの出力信号に基づいて、第1ダイナモ11の回転速度を演算する。なお、レゾルバ11aの代わりに、エンコーダを用いて、第1ダイナモ11の回転速度を検出してもよい。
【0035】
PI制御回路25は、速度指令に対してフィードバック回路21によって第1ダイナモ11の回転速度をフィードバックして得られる補正速度指令を、PI演算して、トルク指令を生成する。具体的には、PI制御回路25は、微分器26と、積分器27と、不感帯制御部28と、加算器29とを有する。
【0036】
微分器26は、Pゲインを用いて、前記補正速度指令を微分演算する。積分器27は、前記補正速度指令に対して不感帯制御部28によって処理された値を用いて、積分演算する。加算器29は、微分器26及び積分器27によってそれぞれ得られた値を加算して、トルク指令を生成する。
【0037】
微分器26及び積分器27を用いて、前記補正速度指令に対してPI演算を行うことにより、第1ダイナモ11の回転速度を用いたフィードバック制御を実現することができる。
【0038】
不感帯制御部28は、積分器27の信号入力側に設けられている。不感帯制御部28は、前記補正速度指令のうち、所定範囲の補正速度指令を一定値(本実施形態では0)にする。すなわち、不感帯制御部28は、前記補正速度指令に対して、不感帯領域を設定する。不感帯制御部28の構成及び機能については、後述する。
【0039】
インバータ制御部20は、前記トルク指令に基づいて第1ダイナモ11に供給する電力を制御することにより、第1ダイナモ11の駆動を制御する。インバータ制御部20の構成は、従来のインバータ装置と同様の構成であるため、インバータ制御部20の詳しい説明を省略する。
【0040】
第3制御装置16は、第3ダイナモ13の駆動を制御する。詳しくは、第3制御装置16は、トルク指令と第3ダイナモ13の出力トルクとに基づいて、第3ダイナモ13をトルク制御する。第3制御装置16の構成は、ダイナモのトルク制御する制御装置の従来の構成と同様であるため、第3制御装置16の詳しい説明を省略する。
【0041】
(不感帯制御部)
不感帯制御部28の構成及び機能について、以下で詳しく説明する。
【0042】
第1制御装置14の積分器27の信号入力側に設けられた不感帯制御部28は、速度指令に対してフィードバック回路21によって第1ダイナモ11の回転速度をフィードバックして得られる補正速度指令のうち、所定範囲内の補正速度指令を一定値にする。具体的には、不感帯制御部28は、正側設定値Fth+と負側設定値Fth-とによって規定される前記所定範囲内の補正速度指令をゼロにする一方、前記補正速度指令が前記所定範囲よりも正側に大きい場合には、前記補正速度指令から前記正側設定値を減算して出力し、前記補正速度指令が前記所定範囲よりも負側に小さい場合には、前記補正速度指令から前記負側設定値を減算して出力する。
【0043】
すなわち、不感帯制御部28は、前記補正速度指令が(1)を満たす場合には、出力をゼロにする。不感帯制御部28は、前記補正速度指令が(2)を満たす場合には、補正速度指令-Fth+を出力値とする。不感帯制御部28は、前記補正速度指令が(3)を満たす場合には、補正速度指令-Fth-を出力値とする。
(1)Fth-≦補正速度指令≦Fth+
(2)Fth+<補正速度指令
(3)補正速度指令<Fth-
【0044】
なお、前記一定値は、第1ダイナモ11の回転速度を、車両用動力伝達差動装置Dの出力トルクの変化を抑制可能な回転速度に制御できる値であれば、ゼロ以外の値であってもよい。
【0045】
ところで、本実施形態では、車両用動力伝達差動装置Dの第1出力軸D1に接続された第1ダイナモ11及び第2出力軸D2に接続された第2ダイナモ12は、それぞれ同じ速度になるように速度制御されている。この場合、第1ダイナモ11の回転速度と第2ダイナモ12の回転速度とには差が生じるため、車両用動力伝達差動装置Dの歯車の噛み合い部分で歯当たりが少しずつ変化する。これにより、車両用動力伝達差動装置Dから第1ダイナモ11及び第2ダイナモ12への出力トルクが変化する。そうすると、この出力トルクの変化分が第1ダイナモ11及び第2ダイナモ12に対する加速トルクとなり、第1ダイナモ11の回転速度と第2ダイナモ12の回転速度とに差が生じる。
【0046】
第1制御装置14は、上述のフィードバック制御によって、第1ダイナモ11の回転速度を一定に制御する。同様に、第2制御装置15も、フィードバック制御によって、第2ダイナモ12の回転速度を一定に制御する。そのため、車両用動力伝達差動装置Dでの歯車の噛み合いが変わることなく歯当たりが変化して、車両用動力伝達差動装置Dから前記第1ダイナモ及び前記第2ダイナモへの出力トルクの変化が増大する。
【0047】
図3に、第1制御装置14が不感帯制御部28を有さない場合の車両用動力伝達差動装置Dの出力トルクを示す。
図3に示すように、車両用動力伝達差動装置Dでの歯車の噛み合いが変わることなく歯当たりが変化して、車両用動力伝達差動装置Dから第1ダイナモ11及び第2ダイナモ12への出力トルクの変化が増大した後、歯当たりの変化が或る程度大きくなると、車両用動力伝達差動装置Dの歯車の噛み合いが変わって、第1出力軸D1及び第2出力軸D2に分配されるトルクの差が小さくなる。これにより、第1出力軸D1及び第2出力軸D2に分配されるトルクは、時間とともに鋸歯状に変化する。
【0048】
これに対し、本実施形態では、第1制御装置14が不感帯制御部28を有することにより、第1ダイナモ11の回転速度と第2ダイナモ12の回転速度とに差が生じて、車両用動力伝達差動装置Dでの歯車の噛み合い部分における歯当たりが変化しやすくなり、前記歯車の噛み合いも変わりやすくなる。
【0049】
図4は、第1制御装置14が不感帯制御部28を有する場合の車両用動力伝達差動装置Dの出力トルクを示す。
図4に示すように、車両用動力伝達差動装置Dでの歯車の噛み合いが変わりやすくなることで、車両用動力伝達差動装置Dから第1出力軸D1及び第2出力軸D2への出力トルクの変化の増大を抑制することができ、第1出力軸D1及び第2出力軸D2に分配される鋸歯状のトルクの変化も抑制することができる。
【0050】
以上より、本実施形態の動力伝達系の試験装置1は、駆動源が発生する駆動力を伝達して第1出力軸D1及び第2出力軸D2に分配する車両用動力伝達差動装置Dを有する動力伝達系を試験する動力伝達系の試験装置である。この動力伝達系の試験装置1は、第1出力軸D1及び第2出力軸D2にそれぞれ接続されて車両用動力伝達差動装置Dの負荷として機能する第1ダイナモ11及び第2ダイナモ12と、第1ダイナモ11の回転速度を第1ダイナモ11の速度指令にフィードバックすることにより得られる補正速度指令に基づいて、第1ダイナモ11の速度制御を行う第1制御装置14と、第2ダイナモ12の回転速度を第2ダイナモ12の速度指令にフィードバックすることにより得られる補正速度指令に基づいて、第2ダイナモ12の速度制御を行う第2制御装置15と、を有する。第1制御装置14及び第2制御装置15のうち少なくとも一方は、前記補正速度指令のうち所定範囲内の補正速度指令を一定値にする不感帯制御部28を有する。
【0051】
以上の構成では、車両用動力伝達差動装置Dの第1出力軸D1及び第2出力軸D2にそれぞれ接続される第1ダイナモ11及び第2ダイナモ12は、それぞれの回転速度を速度指令にフィードバックすることにより得られる補正速度指令に基づいて、速度制御されている。
【0052】
本実施形態の構成のように、不感帯制御部28によって、前記補正速度指令のうち所定範囲内の補正速度指令を一定値にすることにより、第1ダイナモ11の回転速度と第2ダイナモ12の回転速度とに、前記所定範囲の分だけずれが生じる。これにより、車両用動力伝達差動装置Dでの歯車の噛み合い部分における歯当たりが変化しやすくなり、前記歯車の噛み合いも変わりやすくなる。
【0053】
よって、上述のように車両用動力伝達差動装置Dから第1ダイナモ11及び第2ダイナモ12への出力トルクの変化の増大を抑制することができ、第1出力軸D1及び第2出力軸D2に分配される鋸歯状のトルクの変化も抑制することができる。
【0054】
したがって、車両用動力伝達差動装置Dの第1出力軸D1及び第2出力軸D2にそれぞれ接続され、別々に速度制御される第1ダイナモ11及び第2ダイナモ12を有する動力伝達系の試験装置1において、第1出力軸D1及び第2出力軸D2に分配されるトルクの変動を抑制可能な構成が得られる。
【0055】
また、本実施形態では、第1制御装置14及び第2制御装置15のうち前記少なくとも一方は、積分器27を有し、前記補正速度指令を用いてPI制御を行うPI制御回路25を含む。不感帯制御部28は、積分器27の信号入力側に設けられている。
【0056】
PI制御を行うPI制御回路25の積分器27は、車両用動力伝達差動装置Dから第1ダイナモ11及び第2ダイナモ12に対する加速トルクを打ち消すように動作する。
【0057】
上述の構成のように、積分器27の信号入力側に不感帯制御部28を設けることにより、補正速度指令が所定範囲内の場合、積分器27は動作しない。これにより、前記補正速度指令が所定範囲内の場合には、第1ダイナモ11の回転速度と第2ダイナモ12の回転速度との差は解消しないため、車両用動力伝達差動装置Dでの歯車の噛み合い部分における歯当たりが変化しやすくなる。よって、車両用動力伝達差動装置Dでの歯車の噛み合いが変わりやすくなる。したがって、車両用動力伝達差動装置Dから第1出力軸D1及び第2出力軸D2に分配される鋸歯状のトルクの変化も抑制することができる。
【0058】
また、本実施形態では、前記所定範囲は、正側設定値Fth+と負側設定値Fth-とによって規定されている。不感帯制御部28は、前記補正速度指令のうち前記所定範囲内の補正速度指令を一定値として出力するとともに、前記補正速度指令が前記所定範囲よりも正側に大きい場合には、前記補正速度指令から正側設定値Fth+を減算して出力し、前記補正速度指令が前記所定範囲よりも負側に小さい場合には、前記補正速度指令から負側設定値Fth-を減算して出力する。
【0059】
これにより、不感帯領域である所定範囲を、正側設定値Fth+と負側設定値Fth-とによって規定することができる。しかも、前記補正速度指令が前記所定範囲よりも正側に大きい場合には正側設定値Fth+を用いて前記補正速度指令を補正し、前記補正速度指令が前記所定範囲よりも負側に小さい場合には負側設定値Fth-を用いて前記補正速度指令を補正することにより、前記補正速度指令が前記所定範囲外の場合と前記所定範囲内の場合とで、不感帯制御部28の出力値が急激に変化するのを防止できる。
【0060】
(その他の実施形態)
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上述した実施の形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。よって、上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変形して実施することが可能である。
【0061】
前記実施形態では、動力伝達系の試験装置1は、第1ダイナモ11の駆動を制御する第1制御装置14と、第2ダイナモ12の駆動を制御する第2制御装置15とを有する。しかしながら、動力伝達系の試験装置は、一つの制御装置内に、第1ダイナモの駆動を制御する第1制御部と、第2ダイナモの駆動を制御する第2制御部とを有していてもよい。
【0062】
前記実施形態では、第1制御装置14及び第2制御装置15が、それぞれ不感帯制御部28を有する。しかしながら、第1制御装置及び第2制御装置の一方のみが不感帯制御部を有していてもよい。
【0063】
前記実施形態では、第1制御装置14及び第2制御装置15は、PI制御回路を有する。しかしながら、第1制御装置及び第2制御装置の一方のみがPI制御回路を有していてもよい。また、第1制御装置及び第2制御装置の少なくとも一方が、PID制御回路を有していてもよい。
【0064】
前記実施形態では、不感帯制御部28は、積分器27の信号入力側に設けられている。しかしながら、不感帯制御部は、ダイナモの速度制御において不感帯領域を設定可能であれば、制御装置のどの位置に設けられていてもよいし、どのような構成を有していてもよい。
【0065】
前記実施形態では、不感帯制御部28は、正側設定値Fth+及び負側設定値Fth-によって、不感帯領域である所定範囲を設定している。しかしながら、前記所定範囲は、正側の範囲のみに設定されていてもよいし、負側の範囲のみに設定されていてもよい。
【0066】
前記実施形態では、不感帯制御部28は、補正速度指令が所定範囲よりも正側に大きい場合には、前記補正速度指令から正側設定値Fth+を減算して出力し、前記補正速度指令が前記所定範囲よりも負側に小さい場合には、前記補正速度指令から負側設定値Fth-を減算して出力する。しかしながら、不感帯制御部は、補正速度指令が所定範囲よりも正側に大きい場合または前記所定範囲よりも負側に小さい場合に、前記補正速度指令をそのまま出力してもよいし、前記補正速度指令を前記実施形態以外の方法によって演算処理して出力してもよい。
【0067】
前記実施形態では、動力伝達系の試験装置1は、第3ダイナモ13を有する。しかしながら、動力伝達系の試験装置は、第3ダイナモの代わりにエンジンあるいは駆動用モータ(電気自動車、ハイブリッド自動車などの駆動用のモータ)を用いて、車両用動力伝達差動装置に駆動力を供給してもよい。
【0068】
前記実施形態では、動力伝達系の試験装置1の供試体は、変速機TM1と車両用動力伝達差動装置Dとを有する変速機構TMである。しかしながら、動力伝達系の試験装置の供試体は、変速機構TMの代わりに、車両用動力伝達差動装置Dのみであってもよいし、駆動源(エンジン、駆動用モータ)などの動力伝達系であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、駆動源が発生する駆動力を伝達して第1出力軸及び第2出力軸に分配する車両用動力伝達差動装置を有する動力伝達系を試験する動力伝達系の試験装置に利用可能である。
【符号の説明】
【0070】
1 動力伝達系の試験装置
11 第1ダイナモ
11a レゾルバ
12 第2ダイナモ
13 第3ダイナモ
14 第1制御装置
15 第2制御装置
16 第3制御装置
20 インバータ制御部
21 フィードバック回路
22 速度演算部
25 PI制御回路
26 微分器
27 積分器
28 不感帯制御部
29 加算器
D 車両用動力伝達差動装置
D1 第1出力軸
D2 第2出力軸
D3 入力軸
TM 変速機構
TM1 変速機