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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023042167
(43)【公開日】2023-03-27
(54)【発明の名称】座屈拘束ブレース
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/58 20060101AFI20230317BHJP
【FI】
E04B1/58 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021149325
(22)【出願日】2021-09-14
(71)【出願人】
【識別番号】390037154
【氏名又は名称】大和ハウス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】中川 学
(72)【発明者】
【氏名】吉田 文久
(72)【発明者】
【氏名】薮田 智裕
【テーマコード(参考)】
2E125
【Fターム(参考)】
2E125AA33
2E125AC13
2E125AC23
2E125AG03
2E125AG11
(57)【要約】
【課題】木造建築物等の架構内に組み込んで使用するのに好適であり、製作性に優れた座屈拘束ブレースを提供すること。
【解決手段】座屈拘束ブレース100は、軸状の木製拘束材20と、木製拘束材20に設けられている軸方向の貫通孔23に挿通されている、軸状で鋼製の芯材10とを有する。芯材10は、軸状の丸鋼11と、丸鋼11の端部にある接続体15とを備える。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸状の木製拘束材と、
前記木製拘束材に設けられている軸方向の貫通孔に挿通されている、軸状で鋼製の芯材と、を有することを特徴とする、座屈拘束ブレース。
【請求項2】
前記木製拘束材は、木製で一対の拘束板により形成されており、
前記一対の拘束板の当接面の対応位置には、前記貫通孔を形成する半割孔が設けられていることを特徴とする、請求項1に記載の座屈拘束ブレース。
【請求項3】
前記当接面において、接着剤を介して前記一対の拘束板が接続されていることを特徴とする、請求項2に記載の座屈拘束ブレース。
【請求項4】
被打ち込み材もしくは被ねじ込み材からなり、前記木製拘束材の割裂を防止する割裂防止手段が一方の前記拘束板の側方から他方の前記拘束板にかけて埋設されていることを特徴とする、請求項3に記載の座屈拘束ブレース。
【請求項5】
前記芯材が、丸鋼であることを特徴とする、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の座屈拘束ブレース。
【請求項6】
前記芯材が、鋼管と、鋼管の内部を貫通する丸鋼であることを特徴とする、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の座屈拘束ブレース。
【請求項7】
前記芯材の両端部には、鋼板により形成される断面十字状で他部材に接続される接続体が接合されており、
前記木製拘束材の端部のうち、前記接続体に対応する位置には該接続体に干渉しない凹部が設けられており、
前記凹部の中に前記接続体の一部が収容されていることを特徴とする、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の座屈拘束ブレース。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、座屈拘束ブレースに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、建物の架構(柱・梁架構、屋根架構等)を形成するブレースとして、座屈防止措置が講じられた座屈拘束ブレースが適用されている。座屈拘束ブレースとしては、鋼製の芯材の周囲を鋼板のみで補剛した形態、鋼製の芯材の周囲をRC(Reinforced Concrete:鉄筋コンクリート)で補剛した形態、鋼製の芯材の周囲を鋼材とモルタルで被覆した形態など、多様な補剛形態が存在する。
【0003】
ところで、昨今、木造建築物(木造住宅、木造の倉庫、木造の競技場など)の耐火性能や耐震性能の向上が図られている。木造住宅は本来的に、間取りやデザインの自由度の高さ、自然物の木材による癒し効果、木材の有する調湿効果、住宅などの建物用途によっては鉄骨造やRC造に比べて建設費用が一般に安価であるといった利点を備えているが、上記する耐火性や耐震性の向上が木造住宅をはじめとする木造建築物の注目度を高めている一つの要因である。このような木造住宅の架構内に上記する従来の座屈拘束ブレースを組み込む場合、木製の柱や梁と、金属製もしくはコンクリート製の補剛材を有する座屈拘束ブレースとが混在することになり、不釣合いな外観となることが否めない。
【0004】
そこで、座屈拘束ブレースの全体を木製もしくは紙製のパネル等で覆うことにより、金属製もしくはコンクリート製の補剛材を外部から視認できないようにする方策が考えられるが、この方策には多大な作業手間を要することから建設費の増加が懸念される。また、従来の座屈拘束ブレースは、金属やコンクリート、モルタル等が多用されていることから、重量が重くなる傾向にあり、木造住宅を構成する軽量な木製の梁や柱の中に重量のある座屈拘束ブレースを取り付けることは構造的にも不釣合いである。
【0005】
ここで、特許文献1には、木造住宅をはじめとする木造建築物の架構内に組み込んで使用するのに適した座屈拘束ブレースが提案されている。具体的には、芯材と、芯材の両面に沿って配置した一対の拘束材とを有する座屈拘束ブレースであり、芯材を鋼材にて形成し、一対の拘束材を木材にて形成し、この拘束材に集成材を適用し、集成材は芯材と平行にラミナが積層されたものとした座屈拘束ブレースである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4901491号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の座屈拘束ブレースは、集成材を加工して断面L型の二つの木製拘束材を製作し、これらを相互に逆さまにして、芯材を挟んだ状態で接続する製作を要することから、座屈拘束ブレースの製作が容易でない。
【0008】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、木造建築物等の架構内に組み込んで使用するのに好適であり、製作性に優れた座屈拘束ブレースを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成すべく、本発明による座屈拘束ブレースの一態様は、
軸状の木製拘束材と、
前記木製拘束材に設けられている軸方向の貫通孔に挿通されている、軸状で鋼製の芯材と、を有することを特徴とする。
【0010】
本態様によれば、軸状の木製拘束材に設けられている軸方向の貫通孔に対して、軸状で鋼製の芯材が挿通されることにより製作されていることから、座屈拘束ブレースがシンプルな構成の構成部材によって製作され、かつ構成部材の部品点数が可及的に少ないことから製作性が良好になる。また、木製拘束材の内部の貫通孔に芯材が挿通され、芯材が木製拘束材にて包囲されていることにより、本態様の座屈拘束ブレースを木造建築物の架構に適用した場合においても、架構構成部材と不釣合いな外観を与える恐れはない。ここで、木製拘束材は、無垢材により形成されてもよいし、ラミナが積層された集成材やLVL(Laminated Veneer Lumber)等により形成されてもよい。また、木製拘束材は、一本の軸状部材により形成されてもよいし、例えば二本の軸状部材が接合されることにより形成されてもよい。
【0011】
また、本発明による座屈拘束ブレースの他の態様において、
前記木製拘束材は、木製で一対の拘束板により形成されており、
前記一対の拘束板の当接面の対応位置には、前記貫通孔を形成する半割孔が設けられていることを特徴とする。
【0012】
本態様によれば、貫通孔を形成する半割孔を備えた木製で一対の拘束板によって木製拘束材が形成されることにより、木製拘束材に対する貫通孔の製作性が良好になる。例えば、一本の軸状の木製拘束材に対して、高い精度で軸方向に細径の貫通孔を刳り抜き加工することは容易でなく、木製拘束材の長さが長くなるに従い加工困難性は顕著になる。
【0013】
また、本発明による座屈拘束ブレースの他の態様は、
前記当接面において、接着剤を介して前記一対の拘束板が接続されていることを特徴とする。
【0014】
本態様によれば、一対の拘束板によって木製拘束材が形成される形態において、接着剤を介して一対の拘束板が接続されていることにより、木製拘束材の製作性がより一層向上する。
【0015】
また、本発明による座屈拘束ブレースの他の態様において、
被打ち込み材もしくは被ねじ込み材からなり、前記木製拘束材の割裂を防止する割裂防止手段が一方の前記拘束板の側方から他方の前記拘束板にかけて埋設されていることを特徴とする。
【0016】
本態様によれば、一対の拘束板によって木製拘束材が形成される形態において、拘束板同士の接着剤による接続に加えて、被打ち込み材もしくは被ねじ込み材からなる割裂防止手段が一方の拘束板の側方から他方の拘束板にかけて埋設されていること(打ち込みやねじ込みによる埋設)により、拘束板の割裂を効果的に防止することができ、さらには、大地震等の際に拘束板が当接面(接着界面)において分離されることを抑制するフェールセーフとして機能する。例えば、木製拘束材の長手方向に亘って、割裂防止手段を千鳥状に埋設するのが好ましい。
【0017】
また、本発明による座屈拘束ブレースの他の態様は、
前記芯材が、丸鋼であることを特徴とする。
【0018】
本態様によれば、芯材が可及的に安価な丸鋼であることから、良好な製作性と相俟って製作コストを削減することができる。
【0019】
また、本発明による座屈拘束ブレースの他の態様は、
前記芯材が、鋼管と、鋼管の内部を貫通する丸鋼であることを特徴とする。
【0020】
本態様によれば、芯材が、鋼管と、鋼管の内部を貫通する丸鋼であることにより、例えば座屈した丸鋼が木製拘束材に直接当接し、木製拘束材が丸鋼に押圧されて破損することを防止できる。
【0021】
また、本発明による座屈拘束ブレースの他の態様において、
前記芯材の両端部には、鋼板により形成される断面十字状で他部材に接続される接続体が接合されており、
前記木製拘束材の端部のうち、前記接続体に対応する位置には該接続体に干渉しない凹部が設けられており、
前記凹部の中に前記接続体の一部が収容されていることを特徴とする。
【0022】
本態様によれば、芯材の両端部において、鋼板により形成される断面十字状で他部材に接続される接続体が接合されていることから、座屈拘束ブレースがガセットプレートに取り付けられて建物の構面に配設される場合に、芯材の端部において構面内方向と構面外方向の双方の剛性を高めることができる。このように断面十字状の接続体が取り付けられる構面のガセットプレートにおいては、ガセットプレートに対してフィンスチフナが取り付けられ、接続体を形成して相互に直交する複数の鋼板と、ガセットプレート及びフィンスチフナとがそれぞれスプライスプレートを介してハイテンションボルト等により接合される。
【0023】
さらに、木製拘束材の端部のうち、接続体に対応する位置において接続体に干渉しない凹部が設けられていることにより、接続体から木製拘束材の端部が押圧されて破損することを防止できる。接続体と凹部との間には隙間が設けられており、この隙間は、構面の変形に応じて芯材が伸縮した際に、この芯材の伸縮を隙間が吸収できる長さに設定されているのが望ましい。この隙間の設定は設計者の裁量に委ねられ、設定された層間変形角に基づいて芯材の伸縮量が算定され、例えば隙間が芯材の伸縮量以上に設定される。
【0024】
また、芯材と接続体との境界領域は、部材の平面積及び断面積が変化する変化領域であることから、この変化領域における芯材側の領域には、塑性化し易い塑性化領域が形成され、芯材に作用する付加曲げモーメントをこの変化領域にて吸収することができる。付加曲げモーメント(あるいは、単に、付加曲げ)とは、例えば大地震時に架構と座屈拘束ブレースが大きく変形した際に、この変形に起因して木製拘束材に作用し得る曲げモーメントのことである。このように、本態様においては、芯材に作用する付加曲げモーメントを、芯材と接続体の境界領域における芯材側の領域にて効果的に吸収することができる。
【発明の効果】
【0025】
以上の説明から理解できるように、本発明の座屈拘束ブレースによれば、木造建築物等の架構内に組み込んで使用するのに好適であり、製作性に優れた座屈拘束ブレースを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】実施形態に係る座屈拘束ブレースを形成する芯材の一例の斜視図である。
図2】実施形態に係る座屈拘束ブレースを形成する芯材の他の例の斜視図である。
図3】実施形態に係る座屈拘束ブレースを形成する木製拘束材の一例の分解斜視図である。
図4】実施形態に係る座屈拘束ブレースの一例の斜視図である。
図5図4のV-V方向矢視図であって、座屈拘束ブレースの端部の一例の横断面図である。
図6図4のVI-VI方向矢視図であって、座屈拘束ブレースの中央部の一例の横断面図である。
図7】実施形態に係る座屈拘束ブレースの他の例の斜視図である。
図8】実施形態に係る座屈拘束ブレースのさらに他の例の斜視図である。
図9】実施形態に係る座屈拘束ブレースが木造建物等の架構に組み込まれた状態を示す図である。
図10】大地震時における架構の変形態様と、架構の変形に起因する座屈拘束ブレース接合部における付加曲げモーメントを説明する図である。
図11】座屈拘束ブレースの全体座屈曲線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、実施形態に係る座屈拘束ブレースについて添付の図面を参照しながら説明する。尚、本明細書及び図面において、実質的に同一の構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省く場合がある。
【0028】
[実施形態に係る座屈拘束ブレース]
はじめに、図1乃至図6を参照して、実施形態に係る座屈拘束ブレースの一例について説明する。ここで、図1及び図2はいずれも、実施形態に係る座屈拘束ブレースを形成する芯材の一例の斜視図であり、図3は、実施形態に係る座屈拘束ブレースを形成する木製拘束材の一例の分解斜視図である。また、図4は、実施形態に係る座屈拘束ブレースの一例の斜視図であり、図5は、図4のV-V方向矢視図であって、座屈拘束ブレースの端部の一例の横断面図であり、図6は、図4のVI-VI方向矢視図であって、座屈拘束ブレースの中央部の一例の横断面図である。
【0029】
図1に示すように、芯材10は、軸状の丸鋼11と、丸鋼11の両端部が溶接接合されている接続体15とを有している。
【0030】
丸鋼11の長手方向の中央部には、丸鋼11を以下で説明する木製拘束材の内部に位置決めする二本のずれ止め13が突設している。
【0031】
接続体15は、一枚の鋼板16の両広幅面に対して、鋼板16と直交する二枚の鋼板17が溶接にて接合されて断面十字状を呈している。
【0032】
芯材10がその長手方向の中央側に丸鋼11を有し、長手方向の端部側に丸鋼11よりも断面積及び寸法がともに大きく、剛性の大きな接続体15を有することにより、中央側の丸鋼11を塑性化し易い領域(塑性化領域A)とすることができ、さらに、塑性化領域Aを中央側の丸鋼11に限定させることができる。
【0033】
また、接続体15を形成する鋼板16,17にはそれぞれ、以下で説明するように、構面に設けられているガセットプレートやガセットプレートに取り付けられているフィンスチフナ(図9参照)にスプライスプレートを介してボルト接合されるためのボルト孔16a、17aが開設されている。接続体15の鋼板16が建物の構面に平行に配設されるようにして座屈拘束ブレース100がガセットプレートに取り付けられる場合、接続体15が構面に平行な鋼板16に直交する別途の鋼板17を有することにより、芯材10の端部において構面外方向の剛性を高めることができる。
【0034】
一方、図2に示すように、他の例の芯材10Aは、鋼管18の内部に丸鋼11が挿通されている点において、芯材10と相違する。
【0035】
鋼管18の内部の中央には、二つの係合溝19が設けられており、丸鋼11の備える二つのずれ止め13が係合溝19に係合することにより、鋼管18に対して丸鋼11が位置決めされる。ここで、図示を省略するが、丸鋼11と鋼管18のそれぞれの中央位置に相互に連通する孔が設けられていて、連通孔に対して鋼管18の外側から止めピンが挿通されることにより、鋼管18に対する丸鋼11の位置決めが行われる形態であってもよい。また、係合溝19はルーズ溝(ルーズ孔)であってもよい。
【0036】
鋼管18は、丸鋼11が塑性変形した際に、変形した丸鋼11が木製拘束材を直接押圧し、木製拘束材が破損することを防止する部材である。
【0037】
図3に示すように、木製拘束材20は一対の拘束板21により形成され、それぞれの拘束板の当接面22における対応位置(幅方向の中央位置)には、丸鋼11が収容される貫通孔23(図4参照)を形成する半割孔24が設けられている。
【0038】
また、拘束板21の両端部における当接面22には、拘束板21の短手方向に広がる半割凹部26が設けられている。一対の拘束板21が当接面22同士で当接された際に、対応する二つの半割凹部26により凹部25が形成され(図4参照)、凹部25に接続体15を形成する鋼板16が収容されるようになっている。
【0039】
一対の拘束板21が、貫通孔23に丸鋼11を収容し、凹部25に鋼板16を収容した姿勢で当接面22において相互に接続されることにより、芯材10を内部に挟持した状態で木製拘束材20が形成される。
【0040】
拘束板21は、複数のラミナが例えば当接面22に平行に積層され、相互に接着されることにより形成されている集成材や、無垢材である。ここで、ラミナの積層方向は当接面22に直交方向であってもよく、積層方向は特に限定されない。以下で詳説するように、座屈拘束ブレースの全体座屈を防止できるように、木製拘束材20の断面積や断面剛性、ヤング係数等が設定される。そして、このヤング係数は木材の材質により決定される。木材の材質としては、ヒノキやアカマツ、カラマツ、モミ、エゾマツ等が挙げられる。
【0041】
ここで、図示を省略するが、木製拘束材は一本の軸状の木質材により形成されてもよいが、このように一本の軸状の木製拘束材に対して、高い精度で軸方向に細径の貫通孔を刳り抜き加工することは容易でないことから、貫通孔の製作容易性や加工精度の観点から、図示する一対の拘束板21により形成されるのが好ましい。
【0042】
図4に示すように、一対の拘束板21の当接面22を接着剤30にて接着することにより木製拘束材20が形成され、芯材10と木製拘束材20とを備えた座屈拘束ブレース100が形成される。ここで、接着剤30には、ウレタン系接着剤やエポキシ系接着剤等がある。
【0043】
図5に示すように、木製拘束材20の端部においては、貫通孔23及び凹部25と、それらの内部に収容されている丸鋼11及び鋼板16との間には、所定の隙間Gが設けられている。ここで、隙間Gが設けられていない形態であってもよいし、鋼板16の左右端の側方にのみ隙間を備えている形態であってもよい。
【0044】
このように、貫通孔23及び凹部25と、丸鋼11及び鋼板16との間に隙間Gがあることにより、地震時に架構に組み込まれた座屈拘束ブレース100が変形した際に、丸鋼11及び鋼板16が貫通孔23や凹部25に当接し、それらの壁面が押圧されることに起因して拘束板21が破損することを防止できる。
【0045】
一方、図6に示すように、木製拘束材20の中央部においては、丸鋼11が貫通孔23に対して隙間なく収容されている。
【0046】
ここで、図示を省略するが、丸鋼11と貫通孔23の間に隙間があり、この隙間をアンボンド材が閉塞している形態であってもよい。
【0047】
座屈拘束ブレース100によれば、一対の拘束板21の当接面22に設けられている軸方向の貫通孔23に対して、丸鋼11が挿通されていること、及び、当接面22同士が接着剤30にて接着されることにより製作されることから、シンプルな構成の構成部材とシンプルな接続方法により製作性が良好になる。
【0048】
また、一対の拘束板21同士が接続されて閉合構造を有する木製拘束材20が形成され、丸鋼11からなる芯材10が木製拘束材20にて包囲されることから、座屈拘束ブレース100を木造建築物の架構に適用した場合でも、架構構成部材と不釣合いな外観を与える恐れはない。
【0049】
また、図7及び図8にはいずれも、座屈拘束ブレースの変形例を示している。
【0050】
図7に示す座屈拘束ブレース100Aは、被打ち込み材や被ねじ込み材からなる割裂防止手段40が、一方の拘束板21の側方から他方の拘束板21にかけて埋設されている点において座屈拘束ブレース100と相違する。
【0051】
被打ち込み材には釘等があり、被ねじ込み材には木ネジやビス等がある。
【0052】
図示例では、双方の拘束板21の上下面の左右位置において、割裂防止手段40が千鳥配置されるように設けられている。
【0053】
このように、拘束板21同士の接着剤30による接続に加えて、割裂防止手段40が一方の拘束板21の側方から他方の拘束板21に亘って埋設されていることにより、拘束板21の割裂を効果的に防止することができ、さらには、大地震等の際に拘束板21が当接面22において分離されることを抑制するフェールセーフとして機能する。
【0054】
一方、図8に示す座屈拘束ブレース100Bは、図2に示す芯材10Aを内部に備えている点において座屈拘束ブレース100と相違する。
【0055】
貫通孔23(を形成する半割孔24)は、鋼管18を収容できる寸法に加工されており、貫通孔23に鋼管18が収容され、鋼管18の内部に丸鋼11が収容される。
【0056】
このように、貫通孔23の孔壁と丸鋼11が当接していないことから、例えば座屈した丸鋼11が貫通孔23の孔壁に直接当接し、木製拘束材20が丸鋼11に押圧されて破損することを防止できる。
【0057】
[座屈拘束ブレースが組み込まれた架構]
次に、図9及び図10を参照して、実施形態の座屈拘束ブレースが組み込まれた建物の架構の一例について説明する。ここで、図9は、実施形態に係る座屈拘束ブレースが木造建物等の架構に組み込まれた状態を示す図である。また、図10は、大地震時における架構の変形態様と、架構の変形に起因する座屈拘束ブレース接合部における付加曲げモーメントを説明する図である。尚、図示例の座屈拘束ブレースは、木造建物の架構以外にも、S造(S:Steel)建物の架構、RC造建物の架構、SRC造(SRC : Steel Reinforced Concrete)建物の架構に組み込まれてもよい。
【0058】
図9に示す架構Sは、木造建築物等を構成する木製の柱Cと梁Bにより形成されている。対角線位置にある二つの隅角部には、平鋼により形成されるガセットプレートGPが取付けられている。ガセットプレートGPの表面には、該表面に直交するようにフィンスチフナFSが溶接にて接合されている。柱Cの柱芯L1と梁Bの梁芯L2の交点Oに対して、フィンスチフナFSの芯L3が交差するようにしてフィンスチフナFSがガセットプレートGPに接合される。そして、座屈拘束ブレース100も、対角位置にある双方の交点Oを通る線状に配設される。
【0059】
ガセットプレートGPと芯材10の接続体15を形成する鋼板16は、スプライスプレートSPを介してハイテンションボルトにより接合され、フィンスチフナFSと接続体15を形成する鋼板17は、スプライスプレートSPを介してハイテンションボルトにより接合される。
【0060】
図10に示すように、大地震時において構面が変形することにより、座屈拘束ブレース接合部においては、接合部を剛と見なした場合に、以下の式(1)に示す付加曲げモーメントが作用し得る。
【0061】
【数1】
【0062】
座屈拘束ブレース100によれば、芯材10の丸鋼11と木製拘束材20の貫通孔23の間に隙間Gが設けられていることにより、座屈拘束ブレース100が取り付けられている構面が大きく変形した場合に、この隙間Gにて芯材10の変形を吸収し、付加曲げモーメントが木製拘束材20に作用することを解消できる。また、接続体15の鋼板16と木製拘束材20の凹部25の間にも隙間Gが設けられていることにより、構面の変形に応じて芯材10が伸縮した際に、この芯材10の伸縮を隙間Gが吸収することができ、伸縮する芯材10が凹部25の壁面に接触し、さらに押圧して木製拘束材20を破損させることを解消できる。尤も、座屈拘束ブレースは、上記するように隙間Gが設けられていない形態であってもよい。
【0063】
[全体座屈の検討]
次に、座屈拘束ブレースの全体座屈を防止するための設計方法について説明する。
【0064】
座屈拘束ブレースの設計においては、以下の式(2)を満足して座屈拘束ブレースの全体座屈が生じないように設計する。
【0065】
【数2】
【0066】
ここで、拘束板の中央に作用する曲げモーメントは、以下の式(3)で示すことができる。
【0067】
【数3】
【0068】
木製拘束材の全体座屈を防止する条件は、以下の式(4)を満足することとなる。
【0069】
【数4】
【0070】
式(4)を座屈拘束ブレースの全体座屈曲線として図9に示す。図9において、全体座屈曲線の上側は安全域であり、下側は危険域であり、安全域に入るように木製拘束材の設計用軸力、オイラー荷重、芯材の一般部の長さ、及び木製拘束材の降伏曲げ耐力が設定される。尚、図9に示す座屈拘束ブレースの全体座屈曲線は、芯材の弱軸方向の全体座屈、強軸方向の全体座屈の双方に妥当する。
【0071】
上記する木製拘束材の降伏曲げ耐力と作用する曲げモーメントとの関係を照査することの他にも、短期の木製拘束材の許容曲げ耐力が芯材降伏時に作用する曲げモーメントよりも大きくなることも合せて照査するのがよい(数式は省略)。
【0072】
<木製拘束材のめり込み破壊の検討>
次に、木製拘束材のめり込み破壊の検討方法について説明する。芯材が木製拘束材に対してめり込むことにより、木製拘束材が破壊することを防止するには、以下の式(5)を
満足することを検証する。
【0073】
【数5】
【0074】
ここで、上記する拘束板のめり込み耐力と作用する補剛力との関係を照査することの他にも、短期の拘束板の許容めり込み耐力が芯材降伏時に作用する補剛力よりも大きくなることも合せて照査するのがよい(数式は省略)。
【0075】
尚、上記実施形態に挙げた構成等に対し、その他の構成要素が組み合わされるなどした他の実施形態であってもよく、ここで示した構成に本発明が何等限定されるものではない。この点に関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更することが可能であり、その応用形態に応じて適切に定めることができる。
【符号の説明】
【0076】
10,10A:芯材
11:丸鋼
13:ずれ止め
15:接続体
16,17:鋼板
16a,17a:ボルト孔
18:鋼管
19:係合溝
20:木製拘束材
21:拘束板
22:当接面
23:貫通孔
24:半割孔
25:凹部
26:半割凹部
30:接着剤
40:割裂防止手段
100,100A,100B:座屈拘束ブレース
A:塑性化領域
S:架構(構面)
C:柱
B:梁
GP:ガセットプレート
FS:フィンスチフナ
SP:スプライスプレート
図1
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図11