IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ フクビ化学工業株式会社の特許一覧

特開2023-4220衝撃吸収性の樹脂積層体及びその製造方法
<>
  • 特開-衝撃吸収性の樹脂積層体及びその製造方法 図1
  • 特開-衝撃吸収性の樹脂積層体及びその製造方法 図2
  • 特開-衝撃吸収性の樹脂積層体及びその製造方法 図3
  • 特開-衝撃吸収性の樹脂積層体及びその製造方法 図4
  • 特開-衝撃吸収性の樹脂積層体及びその製造方法 図5
  • 特開-衝撃吸収性の樹脂積層体及びその製造方法 図6
  • 特開-衝撃吸収性の樹脂積層体及びその製造方法 図7
  • 特開-衝撃吸収性の樹脂積層体及びその製造方法 図8
  • 特開-衝撃吸収性の樹脂積層体及びその製造方法 図9
  • 特開-衝撃吸収性の樹脂積層体及びその製造方法 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023004220
(43)【公開日】2023-01-17
(54)【発明の名称】衝撃吸収性の樹脂積層体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 7/022 20190101AFI20230110BHJP
   B32B 5/28 20060101ALI20230110BHJP
   B29C 39/20 20060101ALI20230110BHJP
   B29C 44/00 20060101ALI20230110BHJP
   B29C 44/06 20060101ALI20230110BHJP
   A47K 1/04 20060101ALN20230110BHJP
   A47K 3/02 20060101ALN20230110BHJP
   B29L 9/00 20060101ALN20230110BHJP
【FI】
B32B7/022
B32B5/28 101
B29C39/20
B29C44/00 A
B29C44/06
A47K1/04 H
A47K3/02
B29L9:00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021105779
(22)【出願日】2021-06-25
(71)【出願人】
【識別番号】000010065
【氏名又は名称】フクビ化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】230124763
【弁護士】
【氏名又は名称】戸川 委久子
(72)【発明者】
【氏名】芝 英敬
(72)【発明者】
【氏名】片岡 伸嘉
【テーマコード(参考)】
2D132
4F100
4F204
4F214
【Fターム(参考)】
2D132AB03
4F100AG00B
4F100AK01A
4F100AK01B
4F100AK01C
4F100AK41A
4F100AK51C
4F100AN00A
4F100BA03
4F100BA07
4F100BA10A
4F100CA02A
4F100DG06B
4F100DH02B
4F100DJ01C
4F100EJ022
4F100EJ422
4F100GB07
4F100JK02A
4F100JK07C
4F100JK08A
4F100JK11
4F100JK12A
4F100JM10A
4F204AA42
4F204AB02
4F204AC05
4F204AD05
4F204AD08
4F204AD16
4F204AD24
4F204AE07
4F204AG03
4F204AG06
4F204AG20
4F204AG28
4F204AH49
4F204EA01
4F204EB01
4F204EB13
4F204EB22
4F204EF05
4F204EF27
4F204EK13
4F204EK17
4F214AA42
4F214AB02
4F214AC05
4F214AD05
4F214AD08
4F214AD16
4F214AD24
4F214AE07
4F214AG03
4F214AG06
4F214AG20
4F214AG28
4F214AH49
4F214UA01
4F214UB01
4F214UB11
4F214UB22
4F214UD13
4F214UD17
4F214UF05
4F214UF27
(57)【要約】
【課題】表面に対する衝撃を吸収して怪我を防止することができるうえ、形状の再現性の高い衝撃吸収性の樹脂積層体及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】樹脂製の表面層1と、表面層1よりも変形しにくい樹脂製の裏面層2と、表面層1と裏面層2との間に配置される弾性素材製の中間層3とからなり、表面層1の少なくとも一部には無圧成形可能な樹脂が用いられ、樹脂積層体全体の少なくとも一部を立体的に成形する手段を採用した。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂製の表面層と、前記表面層よりも変形しにくい樹脂製の裏面層と、前記表面層と前記裏面層との間に配置される弾性素材製の中間層とを少なくとも有する衝撃吸収性の樹脂積層体において、
前記表面層の少なくとも一部には無圧成形可能な樹脂が用いられ、
樹脂積層体全体の少なくとも一部が立体的に成形されていることを特徴とする、衝撃吸収性の樹脂積層体。
【請求項2】
前記無圧成形可能な樹脂は、ゲルコートまたはラバーであることを特徴とする、請求項1に記載の衝撃吸収性の樹脂積層体。
【請求項3】
前記表面層には、複数の硬度の樹脂により硬度の異なる部分が存在していることを特徴とする、請求項1または2に記載の撃吸収性の樹脂積層体。
【請求項4】
前記表面層において立体的に成形された部分がその他の部分と比較して硬質であることを特徴とする、請求項3に記載の撃吸収性の樹脂積層体。
【請求項5】
前記表面層には、引張強さが1N/mm2~10N/mm2かつ破断ひずみが20%~60%に設定された無圧成形可能な樹脂を用いた部分が含まれていることを特徴とする、請求項1から4の何れか1項に記載の衝撃吸収性の樹脂積層体。
【請求項6】
前記裏面層の少なくとも一部にはFRP樹脂が用いられ、
前記中間層には発泡性の樹脂が用いられていることを特徴とする、請求項1から5の何れか1項に記載の撃吸収性の樹脂積層体。
【請求項7】
一対の型を用いて加熱成形して製造する衝撃吸収性の樹脂積層体の製造方法において、
一方の型には無圧成形可能な樹脂を付着させて賦形させた後、
他方の型には手作業で塗布する方法またはあらかじめ成形する方法で無圧成形可能な樹脂よりも変形しにくい樹脂を賦形させ、
少なくともいずれかの型に賦形させた樹脂の上に発泡性の樹脂を付着させ、
前記一対の型を合わせて加熱することで発泡性の樹脂を発泡させるとともに全ての樹脂を一体化させることを特徴とする、衝撃吸収性の樹脂積層体の製造方法。
【請求項8】
前記一方の型において、その一部をマスキングして硬質の樹脂を付着させた後、前記マスキングを除去して軟質の樹脂を付着させることで、成形後に硬度の異なる部分を形成することを特徴とする、請求項7に記載の衝撃吸収性の樹脂積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、立体的な形状を有するともに表面に受けた衝撃を吸収することができる衝撃吸収性の樹脂積層体及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的な住宅において、キッチンのシンクや洗面所の洗面ボウル、浴室の浴槽やカウンター等には硬質の素材が用いられている。特に、表面硬度が高く弾性変形しにくい金属やガラス、樹脂等が用いられることが多い。これにより、傷が付きにくく手入れが容易であるとともに、変形や割れが生じにくいため長期間使用することができる。
【0003】
しかし、子供や高齢者、障がいを持つ人(以下「高齢者等」)が居る家庭や施設等では、高齢者等の洗面や手洗いなどの際にシンクや洗面ボウル等に誤って顔面を打ち付けてしまったり、転倒の際に手足を衝突させてしまったりする事故の危険がある。この場合、シンクや洗面ボウル等の表面硬度の高さから衝突の衝撃が緩衝されず、高齢者等の大きな怪我に繋がることも珍しくない。
【0004】
このような問題を解決するため、従来においては身体を打ち付けた場合に怪我をしにくい洗面ボウルに関する技術が開示されている。
例えば参考文献1の洗面ボウルに関する技術は、樹脂のバックアップ基材層上に熱可塑性エラストマー層を表面層として積層して一体化して成形したことを特徴とする技術とされている。
【0005】
特許文献1の技術を概説すると、該洗面ボウルは、その表面が軟質で撥水性が高く、防汚性が高いものとされている。
【0006】
ここで、該洗面ボウル(ア)は、図9に示すように、FRP樹脂製のバックアップ基材層(イ)と、芳香剤等を有するポリオレフィン系の熱可塑性エラストマー層(ウ)とを基本構成とし、それらの間に、ポリウレタン発泡層(エ)を設けることもできるとされている。
バックアップ基材(イ)はハンドレイアップ成形法によりボウル状に成形され、熱可塑性エラストマー(ウ)とポリウレタン(エ)とは、真空成形法によりバックアップ基材(イ)と積層一体化されて洗面ボウルの形状とすることができる。
【0007】
この技術の効果として、表面が熱可塑性エラストマーであることにより、発泡層を有しない場合であっても、身体を打ち付けた場合に局所的に力が作用することなく安全性を高めることができるとされている。
さらに発泡層を有する場合には、洗面ボウル表面をより一層軟らかく、安全にすることができるとされている。
【0008】
一方、洗面ボウルや浴槽等においては、表面硬度の硬い素材を使用することにより破損や傷のつきにくい丈夫な物性を付与するとともに、見た目の高級感を付与する効果がある。しかし、硬質な質感は、その反面、触れたときには硬く冷たい印象を与えてしまうという問題もある。
【0009】
このような問題を解決するため、従来においては、触れたときに柔らかく感じられる浴槽に関する技術が開示されている。
例えば参考文献2の浴槽に関する技術は、表面の軟質層と裏面のFRPからなり、取付け部品を取り付けるための貫通孔を備えた浴槽において、貫通孔の周りに前記軟質層が存在しない構造に形成したことを特徴とする技術とされている。
【0010】
特許文献2の技術を概説すると、該浴槽は、取付け部品を取り付けたときに表面樹脂層の変形により漏水しないようにすることを主たる目的としている。しかし、それ以外にも、入浴者の足などが触れた時に柔らかく感じられて、入浴感が良好なものとなり、また保温性にも優れたものであるともされている。
【0011】
ここで、該浴槽(カ)は、図10に示すように、ポリウレタン等の熱硬化性樹脂や熱可塑性エラストマーから形成される軟質表面層(キ)と、ポリオレフィン等を発泡させて形成される発泡体(ク)と、ガラス繊維強化ポリエステル等のFRP補強層(ケ)とからなる。
軟質表面層(キ)と発泡体(ク)とは、真空成形法あるいは接着等で一体化されて、浴槽(カ)の形状に形成されている。そして、一体化された発泡体(ク)の裏側に、ガラス繊維強化ポリエステルをハンドレイアップ成形法により積み上げてFRP補強層(ケ)を一体形成することができる。
【0012】
この技術の効果として、浴槽の表面が軟質層となっているため、入浴者の足などが触れた時に柔らかく感じられて、入浴感が良好なものとなり、また保温性にも優れたものとすることができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2002-291632号公報
【特許文献2】特開2009-189575号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかし、特許文献1の技術では、表面層が熱可塑性エラストマーであり、熱可塑性エラストマー層とポリウレタン発泡層とは真空成形法により成形されている。
そのため、大きな立体成形物には対応できないという問題がある。また、複雑な形状や細かな形状を有する立体成形物は、形状の再現性が悪く、均等な厚みで成形することができないという問題もある。
【0015】
また、特許文献2の技術も、軟質表面層(キ)と発泡体(ク)とは、真空成形法あるいは接着等で一体化する必要がある。
そのため、特許文献1と同様の問題がある。
【0016】
本発明は、上記の如き問題に鑑みて為されたものであり、その目的とするところは、表面に対する衝撃を吸収して怪我を防止することができるうえ、形状の再現性の高い衝撃吸収性の樹脂積層体及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者が上記課題を解決するために採用した手段は以下の通りである。
【0018】
本発明の衝撃吸収性の樹脂積層体(以下、「樹脂積層体」という)は、樹脂製の表面層と、前記表面層よりも変形しにくい樹脂製の裏面層と、前記表面層と前記裏面層との間に配置される弾性素材製の中間層とを少なくとも有する構成を基本構成としている。
裏面層の前表面層よりも変形しにくい樹脂とは、樹脂積層体としたときに対象となる荷重や衝撃(以下、「荷重等」という)を支え、荷重等を除荷したときに元の形状に戻るために必要な物性を有していることを意味するものであって、全く変形を伴わないことまでを要求するものではない。
また、中間層における弾性素材は、樹脂積層体が用いられる設備において要求される衝撃吸収性を達成するために必要な程度の弾性を有している。
【0019】
このように、中間層として弾性を有する樹脂を用い、裏面層には表面層よりも変形しにくい樹脂を用いることで、表面に対して衝撃を受けた場合に、表面層と裏面層とが接近するように中間層が弾性変形することで衝撃を吸収する。また、中間層が弾性変形することにより、衝撃荷重の時間変化が緩やかになるため、表面層に加わる応力も低減されて表面層が割れることも防止される。
また、裏面層が前記表面層よりも変形しにくい樹脂であることにより、中間層が伝達した荷重等を支えることとなるため、樹脂積層体として大きく変形してしまうことがない。
【0020】
ここで、表面層の少なくとも一部には無圧成形可能な樹脂が用いられており、樹脂積層体全体の少なくとも一部が立体的に成形されている。
一般的な熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂は、種々の成形機を用いて高い温度と圧力により成形するものであるところ、無圧成形可能な樹脂とは、所定の粘度を有し、高い温度や圧力を要せず常圧環境下であっても賦形させて硬化させることができるような樹脂を意味する。
【0021】
無圧成形可能な樹脂を用いることで、金型を用いて高圧によって強制的に成形する場合と異なり、樹脂が成形型に対して確実に付着するように精密に作業をすることができる。そのため、成形機が対応できない大きさの形状や樹脂が回り込みにくい複雑な形状、深い溝のような形状等にも対応することができる。
【0022】
本発明による課題を解決するための手段のうち、基本的な構成によるものについては上記のとおりであるが、本発明においては、下記の手段を用いることも可能である。
一例として、表面層の少なくとも一部にはゲルコートまたはラバーを用いることもできる。
【0023】
ここで、ゲルコートとは無圧成形可能な樹脂のひとつであり、塗布等により成形型に付着させ、常圧であっても硬化させることができるものをいう。
また、ラバーは無圧成形可能な弾性ゴムのひとつであり、吹付け等により成形型に付着させ、常圧であっても硬化させることができるものをいう。
ただし、これらは加熱により硬化を促進させることができるものを除外するものではない。
ゲルコートまたはラバーを用いることにより、軟質で柔らかな手触りの表面層とすることができるうえ、硬度を選択することで種々の質感を付与することができる。
【0024】
また、表面層には、複数の硬度の樹脂により硬度の異なる部分を存在させることもできる。硬度の異なる部分は、表面層における外気と接している面において複数の硬度の樹脂が表出している場合に限られず、表面層の外気と接していない内部において複数の硬度の樹脂が存在している場合や、硬度の異なる樹脂が全体的に複数積層されている場合も含まれる。
【0025】
このように、表面層に複数の硬度の樹脂による硬度の異なる部分が存在することにより、ひとつの樹脂積層体のなかで、硬い部分には強度を持たせることができ、軟らかい部分には柔らかな質感を付与することができる。
また、表面層を一体的な面として形成した場合には、複数の硬度の部分を有していながらも外観としては一体性を持たせることができる。
【0026】
表面層に硬度の異なる部分を存在させた場合には、立体的に成形された部分をその他の部分と比較して硬質とすることもできる。このようにすることで、荷重等が加わりやすい立体的に成形された部分に強度を持たせることができる。また、硬質であることにより、表面に傷が付きにくくなる。
その一方で、その他の部分は軟質の樹脂とすることで、その部分についてはより衝撃が吸収されやすくなる。
【0027】
ところで、前記表面層には、引張り試験を行った際の引張強さが1N/mm2~10N/mm2かつ破断ひずみが20%~60%に設定された無圧成形可能な樹脂を用いた部分を含めることができる。
この引張り試験においては、無圧成形可能な樹脂を用いて幅が30mm±3mmであり厚さが1mm以下である寸法で板状に成形したものを試験片とする。その試験片を引張り試験機に幅方向に垂直な方向に対して50mm±5mmの間隔でチャッキングして、引張り速度100mm/min±10mm/minで長手方向に破断するまで引っ張る。
その破断したときの引張り荷重を元の試験片の断面積で除した応力を引張強さとする。また、破断したときの伸び量を元のチャッキング幅である50mmで除して百分率で表したものを破断ひずみとする。
【0028】
このような物性の無圧成形可能な樹脂を表面層に用いる事で、衝撃を受けた場合であっても柔軟に伸びて応力を分散させることができる。
【0029】
さらに、裏面層の少なくとも一部にはFRP樹脂を用い、中間層には発泡性の樹脂を用いる構成とすることも可能である。
裏面層をFRP樹脂とすることで、バックアップ層として軽量でありながらも大きな荷重等を支えることができる。
また、中間層として発泡性の樹脂を用いる事により、衝撃をより柔軟に吸収することができる。
【0030】
ところで、これらのような樹脂積層体を製造する方法としては、以下のように、一対の型を用いて加熱成形して製造する方法を採用することができる。
【0031】
まず、一方の型には無圧成形可能な樹脂を付着させて賦形させる。
無圧成形可能な樹脂を用いる事により、該一方の型に形成された成形機が対応できない大きさの形状や樹脂が回り込みにくい複雑な形状、深い溝のような形状等にも対応することができる。
【0032】
他方の型には手作業で塗布する方法またはあらかじめ成形する方法で無圧成形可能な樹脂よりも変形しにくい樹脂を賦形させる。
これにより、裏面層を立体的な形状を有する状態で形成することができる。
【0033】
前記一方の型に対する無圧成形可能な樹脂の賦形作業と、前記他方の型に対する硬質樹脂の賦形作業との先後は問わず、両方同時に行われることを除外するものでもない。
【0034】
前記作業の後、少なくともいずれかの型に賦形させた樹脂の上に発泡性の樹脂を付着させる。発泡性の樹脂は加熱することで所定の倍率に発泡する性質の樹脂であり、発泡前の状態の樹脂を、前記一方の型に賦形された樹脂もしくは前記他方の型に賦形された無圧成形可能な樹脂よりも変形しにくい樹脂、あるいは両方の型に賦形させた樹脂の上に付着させる。
【0035】
そして、前記一対の型を合わせて加熱することで発泡性の樹脂を発泡させるとともに全ての樹脂を積層一体化させる。
このような製造方法とすることにより、大きな形状や複雑な形状に対しても形状の再現性がよく、成形後には発泡した中間層により衝撃を吸収することができる樹脂積層体を得ることができる。
【0036】
また、前記製造方法においては、前記一方の型の一部をマスキングして硬質の樹脂を付着させた後、前記マスキングを除去して軟質の樹脂を付着させることで、成形後に硬度の異なる部分を形成することもできる。
表面層に無圧成形可能な硬度違いの樹脂を用い、マスキングによって塗り分けることで、軟質の部分と硬質の部分を任意の形状で存在させた樹脂積層体を得ることができる。また、マスキングにより塗分けることで、硬軟の境界線が円滑となり、外観上一体性のある樹脂積層体を得ることができる。
【発明の効果】
【0037】
本発明では、樹脂積層体全体の少なくとも一部を立体的に成形し、表面層の少なくとも一部に無圧成形可能な樹脂を用いている。これにより、圧力により短時間で成形せざるを得ない樹脂を用いた場合と異なり、常圧の環境下で成形型の複雑な形状等にしっかりと樹脂が追従するように付着させることができる。
これにより、成形機が対応できない大きさの形状や樹脂が回り込みにくい複雑な形状、深い溝のような形状等にも対応することができ、形状の再現性が高いという効果がある。
【0038】
また、無圧成形可能な樹脂にゲルコートまたはラバーを用いた場合には、上記効果に加え、軟質で柔らかな手触りの表面層とすることができるため、表面が柔らかである印象を与え、表面に対する衝撃をより吸収して怪我を防止することができるという効果もある。
【0039】
さらに、表面層に複数の硬度の樹脂により硬度の異なる部分を存在させた場合には、ひとつの樹脂積層体のなかで、硬い部分には高い表面硬度や強度を持たせることができ、軟らかい部分には柔らかな質感を付与することができるため、樹脂積層体が用いられる設備に応じて、実用的な強度と質感、衝撃吸収性を部位ごとに付与することができる。
【0040】
特に、立体的に成形された部分をその他の部分と比較して硬質とした場合には、洗面ボウルや浴槽、シンク等の荷重等が加わりやすい立体的に成形された部分には強度を持たせつつ、中間層により衝撃を吸収する効果は維持される。
一方、その他の天板部分等を軟質の樹脂とすることで、身体を打ち付けた場合には、中間層の弾性に加え、軟質の表面層により衝撃の吸収の効果がより発揮されやすく、触れたときには柔らかな印象を与えることもできる。
【0041】
製造方法においては、一対の型のうち一方の型には無圧成形可能な樹脂を付着させ、他方の型には無圧成形可能な樹脂よりも変形しにくい樹脂を賦形させる方法としている。
無圧成形可能な樹脂を用いる事により、作業やロボット等を用いて、大きな形状や樹脂が回り込みにくい複雑な形状、深い溝のような形状等にしっかりと樹脂が追従するように付着させることができる。
【0042】
また、硬質樹脂層と無圧成形可能な樹脂層との間に発泡性の樹脂を付着させる方法としたことで、一対の型を合わせて加熱した際に発泡性の樹脂を発泡させることができ、中間層としての発泡性の樹脂が硬質樹脂層と無圧成形可能な樹脂層との間にしっかり充填密着される。また、発泡性の樹脂の硬化と同時に、全ての樹脂を積層一体化させることができる。
【0043】
前記一方の型への樹脂の賦形方法については、無圧成形可能な硬度違いの樹脂を用い、マスキングによって塗り分ける方法とした場合には、軟質の部分と硬質の部分を任意の形状で存在させた樹脂積層体を得ることができるため、強度の必要な部分には硬質の樹脂を配置し、その他の部分には軟質の樹脂を配置することができる。
これにより、荷重等が加わる部分には実用的な強度と衝撃吸収性を付与しつつ、それ以外のところでは表面が柔らかである印象を与えるとともに、表面に対する衝撃をより吸収して怪我を防止することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
図1】本発明における衝撃吸収性の樹脂積層体を表す斜視図及び断面図である。
図2】本発明における衝撃吸収性の樹脂積層体の変形の様子を表す断面図である。
図3】本発明における衝撃吸収性の樹脂積層体の製造方法を説明するための工程説明図である。
図4】本発明における衝撃吸収性の樹脂積層体の変形例1を表す断面図である。
図5】変形例1における衝撃吸収性の樹脂積層体の変形の様子を表す断面図である。
図6】変形例1における衝撃吸収性の樹脂積層体の製造方法を説明するための工程説明図である。
図7】本発明における衝撃吸収性の樹脂積層体の変形例2を表す斜視図及び断面図である。
図8】本発明における衝撃吸収性の樹脂積層体の変形例3を表す断面図である。
図9】特許文献1に示す従来例を表す斜視図及び部分断面図である。
図10】特許文献2に示す従来例を表す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
本発明を実施するための形態について、図1から図3に基づいて以下に説明する。
ここで、図1において、切断線X-Xの向きを左右方向、樹脂積層体の裏側から表側に向かう向きを上方向、表側から裏側に向かう向きを下方向、断面図における紙面の表側から裏側に向かう方向を前方向、紙面の裏側から表側に向かう方向を後方向とする。
なお、図面において、断面図は各層の厚さを強調して表示している。
【0046】
本発明の樹脂積層体100は、例えば図1に示すように、洗面ボウルの形状とすることができる。樹脂積層体100は、平面上の非立体部4の中央部に凹面状の立体部5が形成されている。
立体部5の底面には、二次加工によって排水口とするための底面部予備孔51が設けられている。また、非立体部4と立体部5との境界となる角部52は丸みを付けている。
【0047】
この樹脂積層体100の積層構造は、立体部5の中心を通るように左右方向に切断して得られたX-X断面図に示すようになっている。
すなわち、樹脂積層体100の積層構造は、下から裏面層2、中間層3、表面層1の順に積層されている。
【0048】
裏面層2には硬質ゲルコート(裏面用)22と、ガラス繊維に不飽和ポリエステル樹脂を含侵させたガラス繊維樹脂21(いわゆるガラスマット等)とを積層させたものを一例として用いることができる。中間層3には一例として発泡ポリウレタンを用いることができる。表面層1には一例として軟質ゲルコート11を用いることができる。
なお、底面部予備孔51は、後の二次加工の加工性を考慮し、難加工性のガラス繊維樹脂21を含む裏面層2は底面部予備孔51の周囲から切除された状態としてある。
【0049】
ゲルコートはいずれも不飽和ポリエステルを主剤とし、スチレン樹脂や有機溶剤とともに硬化促進剤を混合した液体状のものである。また、所定の粘性を有しており、容易には垂れないようになっている。ゲルコートは一般的に硬化後の表面硬度が高い(硬い)ものから低い(軟らかい)ものまで種々のものが知られている。
【0050】
このような積層構造の樹脂積層体100の表面層1に衝撃が加わると、図2の様に変形して衝撃を吸収することができる。
まず、立体部5の一部に衝撃が加わった場合には、図2(a)に示すように、表面層1が軟質ゲルコート11で形成されていることにより、表面層1それ自体が撓んで衝撃を吸収する。それとともに、中間層3が発泡ポリウレタン31で形成されているため、表面層1の変形に追従して中間層3も変形し、中間層3の変形によっても衝撃を吸収する。
【0051】
一方で、裏面層2には軟質ゲルコート11よりも変形しにくく強度の高い硬質ゲルコート(裏面用)22と、ガラス繊維樹脂21とを積層したものを用いている。そのため、中間層3を介して衝撃が伝達されたとしても、裏面層2それ自体はあまり変形することなく衝撃を受け止めて支持する。そのため、樹脂積層体100全体としては衝撃によって大きく変形してしまうことがないため、水回り等に用いられたとしても、変形による漏水やコーキングの破損のおそれがない。
【0052】
また、角部52は、非立体部4と比較して形状的に変形しにくい部分である。
しかし、中間層3が発泡ポリウレタン31で構成されていることにより、角部52に衝撃が加わったとしても、角部52を含む立体部5全体が斜め方向に変位して中間層3を変形させる。この中間層3の変形により、衝撃を吸収することができる。
【0053】
このように、本発明の樹脂積層体100は、軟質の表面層1と弾性を有する中間層3により、衝撃を吸収することができるとともに、表面層1よりも変形しにくい裏面層2により、荷重等を支えることができ、樹脂積層体100全体としては大きく変形することがない。
【0054】
次に、本発明の樹脂積層体100の製造方法について、図3に基づいて説明する。
樹脂積層体100の製造方法は、上下の成形型6を用いて製造される。全体の流れとしては、下側61への樹脂の賦形と上型62への樹脂の賦形とを別個の工程として行い、後に上下の型を合わせて加熱することで積層一体化する。
【0055】
まず、図3(a)の左側に示すように、下型61に対して離型剤を十分に塗布した後、樹脂を付着させる。この樹脂の付着順序としては、はじめに硬質ゲルコート(裏面用)22をハケ塗りやスプレーガンによって付着させる。
【0056】
次に、付着した硬質ゲルコート(裏面用)22の上に、樹脂を含浸させたガラスチョップドストランドマット等のガラスマットを所定の厚さになるまで積層しガラス繊維樹脂21とする。ガラス繊維樹脂21を下型61に対して賦形させた後、硬質ゲルコート(裏面用)22が所定の粘度を保つ程度に予備硬化した状態でハケやローラー等を用いて脱泡する。
【0057】
ゲルコートは一般的に所定の粘性を有しており、常圧で成形型6に対して賦形させることができる。また、硬化促進剤を混合した状態で付着させるため、常温であっても時間経過とともに硬化する。しかし、温度と硬化速度は比例するため、必要に応じて加温して硬化を促進してもよい。
【0058】
なお、底面部予備孔51の周辺を裏面層2が切除された状態とするために、下型61にマスキング治具64を予め固定しておき、裏面層2の成形後に取り外しておくことができる。また、マスキング治具64を用いずに成形し、二次加工としてプレス加工等によって切除するようにしてもよい。
さらに、裏面層2の成形については、下型61とは異なる別の成形型で予め成形して脱型したものを、下型61に嵌め込むようにしてもよいし、真空成型等の別の製造方法で成形された繊維強化樹脂の成形品を下型61に嵌め込むようにしてもよい。
【0059】
次に、図3(a)の右側に示すように、上型62に対して離型剤を十分に塗布した後、樹脂を付着させる。この樹脂の付着順序としては、はじめに軟質ゲルコート11をハケ塗りやスプレーガンによって付着させる。
そして、軟質ゲルコート11を上型62に対して賦形させた後、軟質ゲルコート11が所定の粘度を保つ程度に予備硬化した状態でハケやローラー等を用いて脱泡し、硬化させる。
【0060】
次に、付着した軟質ゲルコート11の上に、発泡ポリウレタン31を同様の方法で付着させる。この発泡ポリウレタン31は、上型62に対して付着させているが、下型61に対して付着させたり両方の型に付着させたりしてもよい。
また、上記の下型61への樹脂の賦形と上型62への樹脂の賦形は、その先後は問わず、いずれを先に行ってもよく、同時に行ってもよい。
【0061】
上下の成形型6への樹脂の賦形が完了した後、図3(b)に示すように、下型61と上型62とを合わせる。このとき、下型61のガラス繊維樹脂21と上型62の発泡ポリウレタン31との間には所定の空隙部63を有した状態となっている。
そして、上下の型を加熱することで発泡ポリウレタン31の発泡剤が発泡し、図3(c)に示すように、空隙部63が発泡ポリウレタン31で充填された状態となる。また、発泡ポリウレタン31により、下型61のガラス繊維樹脂21と上型62の軟質ゲルコート11とが発泡ポリウレタン31を介して一体化する。
【0062】
所定時間加熱後、図3(d)に示すように、上下の型を開いて、上型62から成形物を取り外すことで、樹脂積層体100を得ることができる。
【0063】
このように、立体部5を有する樹脂積層体100を真空成型等で製造する場合には、非立体部4と立体部5とで厚さが不均一となってしまったり、小さな孔を形成した場合に変曲部に皺が寄ったりしてしまう。
それに対して、本発明では、表面層1となる軟質ゲルコート11が無圧成形可能な樹脂であることにより、上型62に対して軟質ゲルコート11をハケやスプレーガンで付着させて硬化させることができる。
【0064】
そのため、立体部5を有する場合であっても均一な厚さとすることができ、成形機に対応できないような大きなものであっても成形することができる。また、底面部予備孔51のような小さな孔があったとしても、その角部のような変曲部に皺が寄ることなく、成形することができる。
【0065】
『変形例1』
次に、本発明の衝撃吸収性の樹脂積層体の変形例1について、図4から図6に基づいて以下に説明する。なお、同一の部分については同一の符号を用い、重複する説明は割愛する。
【0066】
本変形例の樹脂積層体101は、前記樹脂積層体100と同様、洗面ボウルの形状に成形されたものである。図4は、図1と同様の切断線によって切断された部分の断面図を示している。
樹脂積層体101の積層構造は、基本的な構成は前記樹脂積層体100と同様であり、下から裏面層2、中間層3、表面層1の順に積層されている。
【0067】
しかし、表面層1は非立体部4が軟質ゲルコート11で構成されているのに対し、立体部5が硬質ゲルコート12で構成されている点が異なる。
詳述すると、非立体部4と立体部5との境界である角部52において硬質ゲルコート12と軟質ゲルコート11とが面一で分かれており、凹面状の立体部5は全体が硬質ゲルコート12であり、その他部分は軟質ゲルコート11で構成されている。
【0068】
このように、立体部5全体を硬質ゲルコート12とすることで、一例として洗面ボウルとした場合には、擦り洗いや物を落としたとき等に傷が付きにくくなり、光沢を持たせることで清潔な印象を与えることができる。
【0069】
非立体部4と立体部5との境界である角部52において硬質ゲルコート12と軟質ゲルコート11とが面一で分かれていることにより、樹脂積層体101全体としては一体性のある外観である印象を与えることができる。また、軟質ゲルコート11と硬質ゲルコート12とを同一の色で着色した場合には、外観上ひとつの素材で一体成形されたような印象を与えることができる。
【0070】
このような積層構造の樹脂積層体101の表面層1に衝撃が加わった場合であっても、図5の様に変形して衝撃を吸収することができる。
本変形例では、立体部5の全体が硬質であるため、衝撃により表面層1が変形して撓むことがない。しかし、中間層3が発泡ポリウレタン31で構成されていることにより、立体部5に衝撃が加わった場合には、立体部5全体が下方向に変位して中間層3を変形させる。この中間層3の変形により、衝撃を吸収することができる。
なお、非立体部4や角部52における衝撃の吸収性については、図2と同様であるため割愛する。
【0071】
次に、本変形例の樹脂積層体101の製造方法について、図6に基づいて説明する。
樹脂積層体101の製造方法の全体の流れとしては、前記樹脂積層体100の製造方法と同様である。
しかし、上型62への樹脂の付着の工程が異なる。
【0072】
まず、図6に示すように、上型62に対して非立体部4の位置にマスキングテープ65を隙間なく貼付する。離型剤を十分に塗布し樹脂を付着させる。この樹脂の付着順序としては、はじめに硬質ゲルコート(裏面用)22をハケ塗りやスプレーガンによって付着させる。このとき、角部52は丸みの中間部位よりも非立体部4側寄りの部分を境界線として、平面視真円となるように丁寧に貼付する。
【0073】
次に、上型62に対して離型剤を十分に塗布し、立体部5全体に硬質ゲルコート12をハケ塗りやスプレーガンによって付着させる。硬質ゲルコート12を塗布した後、硬質ゲルコート12が所定の粘度を保つ程度に予備硬化した状態でハケやローラー等を用いて脱泡する。
そして、硬質ゲルコート12を立体部5全体に対して賦形させ、ガラスマットを積層する。ガラスマットを積層した後、ガラスマットをハケやローラー等を用いて脱泡し硬化させる。
【0074】
ここで、硬質ゲルコート12の端部である角部52に、ガラス繊維強化樹脂からなるバックアップ材14を賦形させておく。このバックアップ材14は、軟質ゲルコート11と硬質ゲルコート12とを跨ぎ、かつ、両者に対して若干沈下した状態で埋め込まれるようにして配置すると良い。
【0075】
次に、マスキングテープ65を取外し、マスキングテープ65が貼付されていた部分に離型剤を十分に塗布した後、硬質ゲルコート12が付着していないその他の部分に軟質ゲルコート11をハケ塗りやスプレーガンによって付着させる。
そして、軟質ゲルコート11を該その他の部分に対して賦形させた後、ハケやローラー等を用いて脱泡し、硬化させる。
【0076】
このようにすることで、角部52に加わる荷重等をバックアップ材14が支えることとなるため、軟質ゲルコート11及び硬質ゲルコート12との境界から破断しやすくなるのを防止することができる。
また、軟質ゲルコート11と硬質ゲルコート12とに対して若干沈下した状態で埋め込まれるように配置することで、バックアップ材14が表面に表出するのを防止することができる。
【0077】
そして、付着した軟質ゲルコート11及び硬質ゲルコート12の上に、発泡ポリウレタン31を付着させる。以降の工程は、図3(b)から図3(d)と同様である。
【0078】
本変形例によれば、荷重等が加わる立体部5には実用的な強度と衝撃吸収性を付与しつつ、それ以外の非立体部4のところでは表面が柔らかである印象を与えるとともに、表面に対する衝撃をより吸収して怪我を防止することもできる。
なお、複数の立体部5・5’…が存在する場合には、一部の立体部5のみ硬度の異なる部分とし、その他の立体部5’は、非立体部4と同様の硬度にしてもよい。
【0079】
『変形例2』
次に、本発明の衝撃吸収性の樹脂積層体の他の変形例について、図7に基づいて以下に説明する。なお、同一の部分については同一の符号を用い、重複する説明は割愛する。
【0080】
本変形例の樹脂積層体102は、大型で深い浴槽に成形されたものである。樹脂積層体102は、平面上の非立体部4の中央部に凹面状の立体部5が形成されているが、立体部5は部分的な段差を有し、複雑な形状をなしている。
立体部5の底面には、二次加工によって排水口とするための底面部予備孔51が設けられており、側面には二次加工によって循環口とするための側面部予備孔53が設けられている。
【0081】
この樹脂積層体102の積層構造は、立体部5の中心を通るように左右方向に切断して得られたY-Y断面図に示すようになっている。
基本的な構成は前記樹脂積層体101と同様であり、下から裏面層2、中間層3、表面層1の順に積層されている。
また、凹面状の立体部5は全体が硬質ゲルコート12であり、その他部分は軟質ゲルコート11で構成されている。
【0082】
このような大型で深い成形物を得るために真空成型を用いる場合には、成形機が大型となって場合によっては成形機が対応できないうえ、深く真空成型すると、底面においては厚さが極端に薄くなって強度が低下してしまう。
しかし、本変形例によると、どのような深さであっても均等な厚さで成形することができる。また、一部に小さな段差を有するような複雑な形状であったとしても、変曲部に皺がよることなく、均等な厚みで成形することができる。
【0083】
また、側面部予備孔53のように側面に孔を設ける場合には、真空成型においては成形後に二次加工で予備孔を空けておく必要があるが、本変形例によると、成形時のゲルコートの塗り分けにより二次加工によることなく予備孔を設けることができる。
【0084】
『変形例3』
次に、本発明の衝撃吸収性の樹脂積層体の他の変形例について、図8に基づいて以下に説明する。なお、同一の部分については同一の符号を用い、重複する説明は割愛する。
【0085】
本変形例の樹脂積層体103は、前記樹脂積層体100と同様、洗面ボウルの形状に成形されたものである。図8は、図1と同様の切断線によって切断された部分の断面図を示している。
樹脂積層体101の積層構造は、基本的な構成は前記樹脂積層体100と同様であり、下から裏面層2、中間層3、表面層1の順に積層されている。
【0086】
しかし、表面層1の外観に表出する部分にはラバー13を用いており、中間層3には発泡性ではない軟質ラバー32を用いている点が異なる。
中間層3に用いる軟質ラバー32は予め分離して成形したものをラバー13の上に積層配置することができる。この場合、上下の型の空隙部63は形成せず、加熱により部分的に溶融した軟質ラバー32により、ガラス繊維樹脂21とラバー13とが軟質ラバー32を介して一体化する。
【0087】
また、表面層1は立体部5においてはラバー13の裏側に硬質ゲルコート12が密着積層されて構成されている点も異なる。
詳述すると、ラバー13は無圧成形可能な樹脂のひとつであり、スプレーガンによる吹付けにより成形型6に付着させることで製造することができる。
【0088】
このように、表面層1にラバー13を用いる事で、衝撃により変形して衝撃を吸収するとともに、マットな質感を付与することができる。
また、立体部5においてラバー13の裏側に硬質ゲルコート12を密着積層することにより、硬質ゲルコート12がバックアップ材の役割を果たす。これにより、立体部5を変形させにくくして強度を向上させるとともに、表面の質感はラバー13により柔らかな印象となり、樹脂積層体103全体として外観の統一感を得ることができる。
【0089】
本発明の樹脂積層体はこの他にも、床材として構成することもでき、その場合には重量物が載置される部分を硬質の部分とし、その他の部分を軟質の部分とすることができる。
この場合には、床で転んだとしても衝撃を吸収して怪我を防止することができる。その一方で、重量物が載置された場合には、載置された部分が軟質であると、居所的に応力が集中して床材を損傷させてしまうが、載置された部分を硬質とすることにより、強度が高くなるため、載置された部分が損傷することを防止することができる。
【0090】
また、壁材に用いた場合には、ぶつかった場合に衝撃を吸収して怪我を防止することができる。この場合、一部を硬質の部分とすることで、壁掛けの金具や建具を取り付けることができる。
【実施例0091】
ここで、本発明の表面層に用いるゲルコートについて物性値を求める試験を行った。なお、本発明に用いる無圧成形可能な樹脂は、本実施例に記載されるゲルコートに限定されるものではない。
【0092】
本実施例では、まず硬質と軟質の2種類のゲルコートを用いて所定の寸法の試験片を作成した。試験片はまず平坦な板に塗布した剥離剤の上にゲルコートを所定の厚みまで塗布した後、45℃±5℃に調整した硬化炉に60分間投入して硬化させ、所定の寸法に切り出して作成した。
ゲルコートはいずれも不飽和ポリエステルを主剤とし、スチレン樹脂や有機溶剤とともに硬化促進剤を混合した液体状のものである。また、所定の粘性を有しており、容易には垂れないようになっている。
【0093】
試験片の寸法は表1に記載のとおりであるが、長さについてはチャッキング間隔の50mmに対して両端にチャック代を25mm付加しておおよそ100mm程度とした。なお、表中「実施例1」は硬質ゲルコートであり、「実施例2」は軟質ゲルコートである。このゲルコートを用いて硬軟それぞれの試験片を3個ずつ作成した。
【0094】
【表1】
【0095】
これらの試験片を汎用の引張り試験機にチャッキング間隔が50mmとなるように取り付け、引張速度100mm/minで引っ張って破断させた。引張り荷重(破断時における荷重)から引張り強さを求め、破断伸びから破断ひずみを求めた。その結果を表2に示す。
なお、引張強さは引張り荷重を元の断面積(厚さ×幅)で除して算出した。また、破断歪みは破断伸びを元のチャッキング間隔50mmで除して算出し百分率で表示した。
【0096】
【表2】
【0097】
この実験に用いた硬質ゲルコートを洗面ボウル部分とし、軟質ゲルコートをボウル周辺の平面部分として成形した。中間層としては高発泡倍率の発泡ウレタンを約5mmの厚さで形成した。裏面層2はガラスマットを積層したFRPを用いた。
その結果、軟質の天面部分に手を打ち付けても、表面層が十分に伸びて怪我をしない程度に衝撃を吸収することができた。また、硬質の洗面ボウル部分は指で押しても容易に変形することなく十分な強度を有していた。
【0098】
これらの結果から、軟質の無圧成形可能な樹脂としては引張強さを1N/mm2~10N/mm2とするのが好ましく、1N/mm2~5N/mm2以下とするのがより好ましいといえる。また、破断ひずみは柔軟に伸びて衝撃を吸収するためには20%~60%であるのが好ましく、40%~60%であるのがより好ましいといえる。
【符号の説明】
【0099】
100,101,102,103 衝撃吸収性の樹脂積層体
1 表面層
11 軟質ゲルコート
12 硬質ゲルコート
13 ラバー
14 バックアップ材
2 裏面層
21 ガラス繊維樹脂
22 硬質ゲルコート(裏面用)
3 中間層
31 発泡ポリウレタン
32 軟質ラバー
4 非立体部
5 立体部
51 底面部予備孔
52 角部
53 側面部予備孔
6 成形型
61 下型
62 上型
63 空隙部
64 マスキング治具
65 マスキングテープ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10