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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023042246
(43)【公開日】2023-03-27
(54)【発明の名称】燃料電池用電極触媒の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/88 20060101AFI20230317BHJP
   B01J 23/44 20060101ALI20230317BHJP
   B01J 37/02 20060101ALI20230317BHJP
   B01J 37/04 20060101ALI20230317BHJP
   H01M 4/92 20060101ALI20230317BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20230317BHJP
【FI】
H01M4/88 K
B01J23/44 M
B01J37/02 101C
B01J37/04 102
H01M4/92
H01M8/10 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021149446
(22)【出願日】2021-09-14
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2021年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「燃料電池等利用の飛躍的拡大に向けた共通課題解決型産学官連携研究開発事業/共通課題解決型基盤技術開発/高温低加湿作動を目指した革新的低白金化技術開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000198709
【氏名又は名称】石福金属興業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000741
【氏名又は名称】弁理士法人小田島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井上 秀男
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 博史
(72)【発明者】
【氏名】西尾 渉
【テーマコード(参考)】
4G169
5H018
5H126
【Fターム(参考)】
4G169AA03
4G169AA08
4G169BA08A
4G169BA08B
4G169BC72A
4G169BC72B
4G169BC75A
4G169BC75B
4G169CC32
4G169FA02
4G169FB06
4G169FB15
4G169FB16
4G169FB18
4G169FB20
4G169FB27
4G169FB48
5H018BB07
5H018BB12
5H018EE03
5H018EE05
5H018EE08
5H126BB06
(57)【要約】
【課題】比較的比重が重いパラジウム担持カーボン粉末の沈降による移送経路内壁への付着を防ぎ、パラジウム担持カーボン粉末の水懸濁液と白金化合物水溶液を直接反応させてパラジウムコア白金シェル担持カーボン燃料電池用触媒を連続的に製造する方法を提供する。
【解決手段】第一の混合手段でパラジウム担持カーボン粉末の水懸濁液と白金化合物水溶液と混合させて混合懸濁液を形成し、第二の混合手段で前記混合懸濁液と気体を混合し、これらの混合懸濁液と気体をそれぞれ交互に流れるスラグ流として反応槽へ順次移送して所定の温度で反応させる手段を採用ことにより、移送に伴う原材料の損失を低減できる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸性の水溶液に白金化合物を溶解した白金化合物水溶液を第一の槽に用意する工程(工程1)と、
純水にパラジウム担持カーボン粉末を懸濁したパラジウム担持カーボン粉末の水懸濁液を第二の槽に用意する工程(工程2)と、
前記第二の槽から前記水懸濁液の一部を順次取り出し所定速度以上の線速度で前記水懸濁液に運動エネルギーを与える工程(工程3)と、
前記第一の槽から取り出された前記白金化合物水溶液と、前記運動エネルギーを与えられた状態の水懸濁液の一部とを、第一の混合手段で混合して混合懸濁液を得る工程(工程4)と、
工程4で得られた混合懸濁液と気体とを第二の混合手段で混合して前記混合懸濁液と気体が交互に流れるスラグ流を形成させる工程(工程5)と、
直列に連結されたN段の連続槽型反応器(N=3以上)における第一の反応槽の入口に、工程5で形成されたスラグ流を連続供給して、N段の各前記反応器で順次反応させ、第Nの反応器の出口から連続取出しすることにより、前記パラジウムの表面に白金シェルを形成する工程(工程6)、
を含むことを特徴とするパラジウムコア白金シェル担持カーボン触媒の連続製造方法。
【請求項2】
上記工程3において、前記第二の槽は、その槽の下部又は側部から出てその槽の上部または側部へ戻る循環路と、この循環路の途中に設けられた液送ポンプとを備え、
前記送液ポンプは所定速度以上の線速度の運動エネルギーで循環路中の水懸濁液を強制循環させる、ことを特徴とする請求項1に記載のパラジウムコア白金シェル担持カーボン触媒の連続製造方法。
【請求項3】
上記工程4において、前記循環路から分岐する分岐路で前記水懸濁液を取り出し、
前記第一の槽から取り出された前記白金化合物水溶液と前記取り出された前記水懸濁液とを混合して混合懸濁液を得る、ことを特徴とする請求項2に記載のパラジウムコア白金シェル担持カーボン触媒の連続製造方法。
【請求項4】
上記工程6において、所定段(n-1段)における反応槽の入口は前段((n-2)段)の反応槽の出口より低い位置に有り、所定段(n-1段)における反応槽の出口は、後段(n段)の反応槽の入り口よりも高い位置に有り、
所定段(n-1段)における反応槽の設定温度は前段((n-2)段)の反応槽の設定温度より高く、後段(n段)の反応槽の設定温度よりも低い、
ことを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載のパラジウムコア白金シェル担持カーボン触媒の連続製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用電極触媒の連続的な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、燃料として水素を適用すると二酸化炭素を排出しないで電気を得ることができるエネルギーシステムとして期待されている。低温で作動する固体高分子形燃料電池(PEFC)は自動車を含む移動体に搭載する発電機として開発が進められている。このPEFCは、システムのコストダウンが課題となっている。このため高価な白金を多く使用する酸素極(カソード)の白金使用量低減、すなわち高い酸素還元触媒活性を有するカソード触媒の開発が求められている。
【0003】
特許文献1には、白金の利用率を向上させるために白金粒子を微細高分散にカーボン担体上に担持して白金質量当たりの比表面積(電気化学的比表面積、Electrochemically active surface area、ECSA)を向上させた触媒が記載されている。特許文献2や非特許文献1には、活性点当たりの活性(面積比活性、Specific Activity、SA)を向上させた合金触媒が記載されている。特許文献3、特許文献4や非特許文献2には、ECSAおよびSAを同時に向上させることができる触媒としてコアシェル触媒が記載されている。
【0004】
コアシェル触媒はECSAおよびSAの向上を同時に達成できるため理想的な触媒といえるが、原子レベル制御を要求するため、研究開発段階においては小スケールのバッチ式の反応容器で合成が行われてきた。しかしバッチ式では将来要求される生産量を得ようとするとスケールアップでは反応容器内でのコントロールが難しく製造コストが高くなるため、新しい生産方法が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2021-94529
【特許文献2】特開2018-6107
【特許文献3】米国特許7691780
【特許文献4】特開2020-145154
【非特許文献1】Journal of The Electrochemical Society, 146 (10) 3750-3756 (1999)
【非特許文献2】J. AM. CHEM. SOC., 131 (47) 17298-17302 (2009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
カーボン粉末表面にコアシェル型触媒を担持させる燃料電池触媒の製造において、特にパラジウム担持カーボン粉末の水懸濁液と白金化合物水溶液を直接反応させてパラジウムの表面に白金シェルを形成させる方法は、懸濁状態と反応の管理を容易にするため、懸濁液の移送を必要としないバッチ式で製造している。しかし、製造量を多くするためには、バッチ装置を大型化するか、バッチ装置の数を増やす必要があるが、設備投資費用が著しく増えてしまう。また、バッチ装置を大型化する場合、製造条件の均一化が困難である。また、上記の反応を連続的に行おうとすると、比較的比重が重いパラジウム担持カーボン粉末の沈降による移送経路内壁へ付着による水懸濁液の移送障害が発生してしまう問題がある。
【0007】
本発明の目的は、比較的比重が重いパラジウム担持カーボン粉末の沈降による移送経路
内壁への付着を防ぎ、パラジウム担持カーボン粉末の水懸濁液と白金化合物水溶液を直接反応させてパラジウムコア白金シェル担持カーボン触媒を連続的に製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者らは、水懸濁液中のパラジウム担持カーボン粉末の沈降による移送経路内壁への付着を防ぐために、水懸濁液が用意されている第二の槽から水懸濁液を0.13m/s以上の線速度 で第一の混合手段で白金化合物水溶液と混合させ、次に、その混合懸濁液と気体を第二の混合手段で混合させて混合懸濁液と気体が交互に流れるスラグ流を形成させるようにすることで、上記の水懸濁液の移送障害問題を解決し、その混合懸濁液を、それぞれ異なる温度に設定された少なくとも3つの反応槽に順次移送して所定の反応温度で反応させることで、パラジウム表面に白金シェルを形成させパラジウムコア白金シェル担持カーボン触媒を連続的に製造できることを見出した。
【0009】
したがって、次の態様の本発明が提供される。
酸性の水溶液に白金化合物を溶解した白金化合物水溶液を第一の槽に用意する工程(工程1)と、
純水にパラジウム担持カーボン粉末を懸濁したパラジウム担持カーボン粉末の水懸濁液を第二の槽に用意する工程(工程2)と、
前記第二の槽から前記水懸濁液の一部を順次取り出し所定速度以上の線速度で前記水懸濁液に運動エネルギーを与える工程(工程3)と、
前記第一の槽から取り出された前記白金化合物水溶液と、前記運動エネルギーを与えられた状態の水懸濁液の一部とを、第一の混合手段で混合して混合懸濁液を得る工程(工程4)と、
工程4で得られた混合懸濁液と気体とを第二の混合手段で混合して前記混合懸濁液と気体が交互に流れるスラグ流を形成させる工程(工程5)と、
直列に連結されたN段の連続槽型反応器(N=3以上)における第一の反応槽の入口に、工程5で形成されたスラグ流を連続供給して、N段の各前記反応器で順次反応させ、第Nの反応器の出口から連続取出しすることにより、前記パラジウムの表面に白金シェルを形成する工程(工程6)、を含むことを特徴とするパラジウムコア白金シェル担持カーボン触媒の連続製造方法である。
【0010】
また、上記構成において、
上記工程3において、前記第二の槽は、その槽の下部又は側部から出てその槽の上部または側部へ戻る循環路と、この循環路の途中に設けられた液送ポンプとを備え、
前記送液ポンプは所定速度以上の線速度の運動エネルギーで循環路中の水懸濁液を強制循環させる、ようにしても良い。
【0011】
また、上記構成において、
上記工程4において、前記循環路から分岐する分岐路で前記水懸濁液を取り出し、
前記第一の槽から取り出された前記白金化合物水溶液と前記取り出された前記水懸濁液とを混合して混合懸濁液を得る、ようにしても良い。
【0012】
また、上記構成において、
上記工程6において、所定段(n-1段)における反応槽の入口は前段((n-2)段)の反応槽の出口より低い位置に有り、所定段(n-1段)における反応槽の出口は、後段(n段)の反応槽の入り口よりも高い位置に有り、
所定段(n-1段)における反応槽の設定温度は前段((n-2)段)の反応槽の設定温度より高く、後段(n段)の反応槽の設定温度よりも低い、ようにしても良い。
【発明の効果】
【0013】
本発明に従うと、比較的比重が重いパラジウム担持カーボン粉末の移送中の経路内壁への沈降を防ぎ,本発明の目的は、比較的比重が重いパラジウム担持カーボン粉末の沈降による移送経路内壁への付着を防ぎ、パラジウム担持カーボン粉末の水懸濁液と白金化合物水溶液を直接反応させてパラジウムコア白金シェル担持カーボン触媒を連続的に製造する方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の燃料電池用電極触媒の製造方法について詳細に説明する。
【0015】
本発明は、酸性の水溶液に白金化合物を溶解した白金化合物水溶液を第一の槽に用意する工程(工程1)を含む。
【0016】
酸性の水溶液は、0.05~0.5mol/Lの塩酸水溶液、硫酸水溶液、硝酸水溶液等が挙げられる。0.1~0.2mol/Lが好ましく用いられる。
【0017】
ここで使用する白金化合物は、以下に述べる条件下でパラジウムの表面に白金シェルを形成しうる化合物であり、ジニトロジアンミン白金、塩化白金酸、塩化白金酸カリウム、塩化白金等が挙げられる。白金化合物を酸性の水溶液に溶解する際の温度としては、5~60℃で行える。好ましくは、10~30℃である。また、白金の濃度は0.008~1.42g/Lが適用でき、好ましくは0.069~0.426g/Lが適用できる。
【0018】
ここで、第一の槽と異なる場所で白金化合物を酸性の水溶液に溶解し、その白金化合物水溶液を第一の槽に投入することで白金化合物水溶液を第一の槽に用意することができ、また第一の槽内で白金化合物を酸性の水溶液に溶解し、白金化合物水溶液を第一の槽に用意することもできる。
【0019】
本発明は、純水にパラジウム担持カーボン粉末を懸濁したパラジウム担持カーボン粉末の水懸濁液を第二の槽に用意する工程(工程2)を含む。
【0020】
本発明で用いるカーボン粉末としては特に限定されるものではなく、電極触媒の製造において白金を担持させるために用いられる炭素担体であってよく、カーボンであることが好ましい。具体的には、ファーネスブラック、チャンネルブラック、アセチレンブラック等のカーボンブラック等が挙げられる。
【0021】
パラジウム担持カーボン粉末は、前記カーボン粉の表面に3~10nmのパラジウム粒子を10~60wt%担持したものが有利に用いられる。好ましくは、4~7nmのパラジウム粒子を30~50wt%担持したものである。
【0022】
水懸濁液中のパラジウム担持カーボン濃度は0.25~4.0g/Lが適用でき、好ましくは1.0~2.0g/Lが適用できる。
【0023】
ここで、第二の槽と異なる場所でパラジウム担持カーボン粉末と純水を懸濁させ、そのパラジウム担持カーボン粉末の水懸濁液を第二の槽に投入することでパラジウム担持カーボン粉末の水懸濁液を第二の槽に用意することができ、また第二の槽内でパラジウム担持カーボン粉末と純水を懸濁させ、そのパラジウム担持カーボン粉末の水懸濁液を第二の槽に用意することもできる。ここで、第二槽内でパラジウム担持カーボン粉末が沈殿しないよう、第二の槽内で攪拌翼を0rpm-600rpmで回転させ水懸濁液を攪拌することができる。好ましくは300rpm-500rpmである。
【0024】
本発明は、第二の槽から前記水懸濁液の一部を順次取り出し所定速度以上の線速度で前記水懸濁液に運動エネルギーを与える工程(工程3)と、
第一の槽から取り出された前記白金化合物水溶液と、前記運動エネルギーを与えられた状態の水懸濁液の一部とを、第一の混合手段で混合して混合懸濁液を得る工程(工程4)と、を含む。
【0025】
上記工程3は、水懸濁液が沈殿しないで次工程に送れる手段であればよい。
【0026】
例えば、上記工程3において、所定速度以上、例えば0.13m/s以上の線速度で水懸濁液を次工程に送る。
【0027】
また、上記工程3において、前記第二の槽は、その槽の下部又は側部から出てその槽の上部または側部へ戻る循環路と、この循環路の途中に設けられた液送ポンプとを備え、
前記送液ポンプは所定速度以上の線速度の運動エネルギーで循環路中の水懸濁液を強制循環させるようにすることができる。
【0028】
循環路は、第二槽の下部又は側部からパラジウム担持カーボン粉末の水懸濁液を送液ポンプで取り出し、第二槽の上部または側部に注入し液循環を行うものである。ここで、循環路として細管を用いることができる。その細管はカーボンが付着しにくい材質が望ましく、例えばPFA、PTFE等のフッ素樹脂、ガラス又はチタン等の耐食性金属材料が好ましい。細管の内径は、φ4~12mmとすることができ、好ましくは、細管の内径はφ4~8mmである。
【0029】
循環路内の線流速は例えば、0.13m/s以上である。線流速が0.13m/s未満ではパラジウム担持カーボン粉末に十分な運動エネルギーが与えられず、循環路(例えば細管)の内壁にパラジウム担持カーボン粉末が沈降してしまう。
【0030】
また、上記工程4において、循環路から分岐する分岐路で水懸濁液を取り出し、第一の槽から取り出された白金化合物水溶液と取り出された水懸濁液とを混合して混合懸濁液を得る、ようにしてもよい。
【0031】
分岐路は細管を使用することができる。その細管はカーボンが付着しにくい材質が望ましく,例えばPFA、PTFE等のフッ素樹脂、ガラス又はチタン等の耐食性金属材料が好ましい。細管の内径は、φ4~12mmとすることができ、好ましくは、細管の内径はφ4~8mmである。また、循環路から分岐する分岐路で水懸濁液を取り出す場合に、ポンプを使用して取り出してもよい。
【0032】
白金化合物水溶液と水懸濁液を混合する際には、例えば、外観形状がT型またはY型であり、材質がPFA、PTFE等のフッ素樹脂等からなるチューブコネクタまたは接続ジョイントまたはホース継手と呼ばれる第一の混合手段を用いることができる。
【0033】
本発明は、工程4で得られた混合懸濁液と気体とを第二の混合手段で混合して前記混合懸濁液と気体が交互に流れるスラグ流を形成させる工程(工程5)を含む。
【0034】
混合懸濁液と気体とを混合して混合懸濁液と気体が交互に流れるスラグ流を形成させる際には、例えば、外観形状がY型またはT型であり、材質がPFA、PTFE等のフッ素樹脂等からなるチューブコネクタまたは接続ジョイントまたはホース継手と呼ばれる第二の混合手段を用いることができる。
【0035】
混合手段に混合懸濁液と気体を導入すると、混合懸濁液と気体の表面張力により、混合
懸濁液と気体が交互に流れるスラグ流が形成される。また、その気体は、例えば空気、窒素またはアルゴン等の不活性ガスを使用することができる。
【0036】
スラグ流においては、混合懸濁液と気体が交互に流れる。前後を気体で仕切られた混合懸濁液(区分)内では、流速が比較域早い細管中央部と流速が比較的遅い細管内壁近傍が生じるが、前後を気体で仕切られていて、前記区分内で自発的な内部対流が発生するため、スラグ流全体としての速度が所定の線速度よりも遅くても実質的な流速が確保できるので、次工程での第一の反応槽までの移送経路である送液用細管内壁に前記パラジウム担持カーボン粉末が沈降しない。
【0037】
工程4と工程5の間、工程5と工程6の間の配管は細管を用いることができる。細管の材質は、カーボン吸着性が殆どないPFA又はPTFE等のフッ素樹脂が好ましく、細管の内径は、φ4~12mmとすることができ、好ましくは、細管の内径はφ4~8mmである。
【0038】
工程3~工程5を備えることにより、最初に投入した原料が途中の経路で沈降、沈殿、付着、滞留することなく以降の工程6に移行できる。
【0039】
本発明は、直列に連結されたN段の連続槽型反応器(N=3以上)における第一の反応槽の入口に、工程5で形成されたスラグ流を連続供給して、N段の各前記反応器で順次反応させ、第Nの反応器の出口から連続取出しすることにより、前記パラジウムの表面に白金シェルを形成する工程(工程6)、を含む。
【0040】
連続槽型反応器は、槽型反応器を連続的に操作する場合の反応器を指す。反応器の反応槽は槽内の収容物を加熱できる攪拌槽であればよい。反応槽の容量は触媒製造量を考慮して任意に選択できる。例えば、0.5L~5Lとすることができる。反応槽内で撹拌により槽内の反応流体が十分に混合され、反応流体の温度と濃度は槽内で略一定となって反応槽の出口から排出される。
【0041】
本発明では、従来のバッチ槽で行っている反応温度条件、すなわち、室温から所定温度まで混合懸濁液を加温する熱履歴を、温度をあらかじめ設定してある3段以上の反応槽で代替することで、連続製造を確実にすることができる。
【0042】
複数個の反応槽の設定温度は前段の反応槽の設定温度よりも後段の反応槽の温度が高いか又は同じ温度になるように設定することができる。例えば、3個の反応槽の場合、第一の反応槽は50℃、第二の反応槽は65℃、第三の反応槽は80℃となるように温度を設定することができる。また、例えば、4個の反応槽にして、第一の反応槽は50℃、第二の反応槽は65℃、第三、第4の反応槽は80℃となるように温度を設定することにより、80℃での滞留時間を他の温度での滞留時間の2倍にすることができる。
【0043】
例えば、3個の反応槽はそれぞれ入口と出口を備えている。2番目の反応槽(第二の反応槽)の入口は1番目の反応槽(第一の反応槽)の出口とつながっており、2番目の反応槽(第二の反応槽)の出口は3番目の反応槽の入口とつながっている。それらの接続は直接接続されていても良く、ポンプを介して接続されていてもよい。
【0044】
工程6における反応槽の間の間の配管は細管を使用することができる。細管の材質は、カーボン吸着性が殆どないPFA又はPTFE等のフッ素樹脂が好ましく、細管の内径は、φ4~12mmとすることができ、好ましくは、細管の内径はφ4~8mmである。
【0045】
第一の反応槽の投入口に、混合懸濁液と気体が交互に流れるスラグ流を投入して、N個の反応槽に順次移送する。
【0046】
複数の反応槽によって、所定温度まで混合懸濁液は加温され、パラジウム担持カーボン粉末のパラジウム粒子表面のパラジウムが溶出(酸化)して白金が析出(還元)し、パラジウム粒子表面に白金シェルが形成され、パラジウムコア白金シェル担持カーボン触媒を得る。
【0047】
上記工程6において、所定段(n-1段)における反応槽の入口は前段((n-2)段)の反応槽の出口より低い位置に有り、所定段(n-1段)における反応槽の出口は、後段(n段)の反応槽の入り口よりも高い位置に有り、所定段(n-1段)における反応槽の設定温度は前段((n-2)段)の反応槽の設定温度より高く、後段(n段)の反応槽の設定温度よりも低い、ようにしてもよい。
【0048】
具体的には、反応槽間の混合懸濁液の移送は、反応槽の上部からオーバーフローした混合懸濁液が重力によって下降する現象を利用して次段の反応槽に送液することができる。例えば、第1反応槽から第2反応層へ30~60度の傾斜角で流れ落ちるように、第2の反応槽の入り口は第1の反応槽の出口より低く設置することができる。
【0049】
また、複数個の反応槽の設定温度は前段の反応槽の設定温度よりも後段の反応槽の温度が高くなるように設定する。そうすることで、段数を極力少なくして、従来のバッチ槽で行っている反応温度条件、すなわち、室温から所定温度まで混合懸濁液を加温する熱履歴を、代替することができる。
【0050】
なお、第一の反応槽では、混合懸濁液が設定温Iに加温されるともに、スラグ流を形成させるための気体(例えば空気、窒素またはアルゴン等の不活性ガス)は分離排出される。
【実施例0051】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、それらに限定されるものではない。
【0052】
(実施例1)
0.1mol/LH2SO4水溶液1Lあたり白金原料としてK2PtCl4を0.57g溶解した白金化合物水溶液を第一の槽(容量2L)に投入することで白金化合物水溶液を第一の槽に用意した。温度は室温とした。
【0053】
超純水1 LあたりPdナノ粒子(平均粒径:5.3nm)が46 wt.%担持されたパラジウム担持カーボン(Pd/C)を2g分散させた水懸濁液(水懸濁液中のパラジウム担持カーボン濃度は2g/L)を第二の槽(容量2L)に投入することで水懸濁液を第二の槽に用意した。第二の槽内で水懸濁液が沈殿しないよう攪拌翼を450rpmで攪拌した。
【0054】
第二の槽からポンプを使って400ml/min.(線速度は0.53m/s)にて水懸濁液を循環させた。そして、循環経路(細管:内径4mm)から分岐して水懸濁液を1 L/hで採取し、一方、第一の槽から白金化合物水溶液を1L/hで採取してT型細管内で混合することで混合懸濁液を得た。
【0055】
さらに混合懸濁液と空気とを細管内にて混合させ、混合懸濁液と気体が交互に流れるスラグ流を形成させた。
【0056】
次に、直列に連結された4段の連続槽型反応器を用い、4個の反応槽(容量0.5L)の槽内を純水で満たし、第一の反応槽は50℃、第二の反応槽は60℃、第三の反応槽は70℃、第四の反応槽は80℃に達した状態とした。その状態で第一の反応槽に混合懸濁液と気体が交互
に流れるスラグ流の供給を開始した。
【0057】
連続槽型反応では、所定段(n-1段)における反応槽の入口は前段((n-2)段)の反応槽の出口より低い位置に有り、所定段(n-1段)における反応槽の出口は、後段(n段)の反応槽の入り口よりも高い位置に有るように設定した。また、反応槽の連結はポンプを使用せず、出口と入口を直接接続した。
【0058】
定常状態に達した後、第四の反応槽の出口から得られた懸濁液を回収し、濾過によって固液分離し、洗純水による洗浄後、乾燥して、1時間あたり2gのパラジウムコア白金シェル触媒を得た。
【0059】
この実施例1にて、第一の槽への白金化合物水溶液、第二の槽への水懸濁液の投入を連続させ、パラジウムコア白金シェル担持カーボン触媒の5時間連続製造ができることを確認した。さらに投入を続ければ、より長時間の連続製造が可能である。
【0060】
(比較例1)
比較例1では、パラジウムコア白金シェル担持カーボンをバッチ式で作製した。
【0061】
1 Lのセパラブルフラスコに300 mgのパラジウム担持カーボン(パラジウム担持率46 wt.%、パラジウム平均粒子径5.2 nm)を、白金シェルの原料となる白金化合物としてK2PtCl4を1原子層分溶解させた0.1 mol/L 硫酸溶液500 mLに分散させて、懸濁液を得た。この懸濁液を室温から70℃に昇温させて、3時間保持した。この懸濁液を濾過、洗浄、乾燥して0.3gのパラジウムコア白金シェル触媒を得た。
【0062】
(比較例2)
比較例2は、液循環とスラグ流なしの送液方法である。比較例では反応槽に送液する細管内壁にパラジウム担持カーボン粉末が沈降してしまい、連続的に処理できなかった。
【0063】
実施例、比較例1のパラジウムコア白金シェル触媒を電気化学測定によって評価した結果、表1の通りであった。
【表1】
【0064】
表1から、バッチ式で製造した比較例1のパラジウムコア白金シェル担持カーボンと、実施例1とは、ORR活性が同等であり、本発明はパラジウムコア白金シェル担持カーボン触媒の連続製造方法として有効であることがわかる。