(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023042263
(43)【公開日】2023-03-27
(54)【発明の名称】風力発電設備の点検方法
(51)【国際特許分類】
F03D 17/00 20160101AFI20230317BHJP
B64C 39/02 20060101ALI20230317BHJP
B64D 47/08 20060101ALI20230317BHJP
【FI】
F03D17/00
B64C39/02
B64D47/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021149473
(22)【出願日】2021-09-14
(71)【出願人】
【識別番号】000156938
【氏名又は名称】関西電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】角田 恵
(72)【発明者】
【氏名】水田 潤一
(72)【発明者】
【氏名】森井 祐介
【テーマコード(参考)】
3H178
【Fターム(参考)】
3H178AA03
3H178AA22
3H178AA24
3H178AA43
3H178BB56
3H178CC01
3H178DD51X
(57)【要約】
【課題】強風によって風車のブレードが回転している場合にも、無人航空機に搭載したカメラを用いてブレードを適切に外観点検する方法を提供する。
【解決手段】風力発電設備の点検方法は、風車10のナセル13に取り付けられた測距センサ22の検出データを利用して、風車10のブレード11の回転軸まわりの角度を定期的に判定するステップと、現時点までのブレード11の回転軸まわりの角度の変化に基づいて、現時点から所定時間後までのブレード11の回転角を推定するステップと、現時点のブレード11の回転軸まわりの角度および推定されたブレード11の回転角に基づいて、現時点から上記所定時間後までのブレード11に沿った無人航空機30の飛行経路を決定するステップと、決定された飛行経路に従って無人航空機30を飛行させながら、無人航空機30に搭載されたカメラ33にブレード11を撮影させるステップとを備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
風車のナセルに取り付けられた測距センサの検出データを利用して、前記風車のブレードの回転軸まわりの角度を定期的に判定するステップと、
現時点までの前記ブレードの前記回転軸まわりの角度の変化に基づいて、前記現時点から所定時間後までの前記ブレードの回転角を推定するステップと、
前記現時点の前記ブレードの前記回転軸まわりの角度および前記推定された前記ブレードの回転角に基づいて、前記現時点から前記所定時間後までの前記ブレードに沿った無人航空機の飛行経路を決定するステップと、
前記決定された飛行経路に従って前記無人航空機を飛行させながら、前記無人航空機に搭載されたカメラに前記ブレードを撮影させるステップとを備える、風力発電設備の点検方法。
【請求項2】
前記ナセルに設けられた電子コンパスの検出データまたは前記ナセルに取り付けられた複数の測位アンテナによって受信された測位信号を利用して、前記ナセルの方位を定期的に判定するステップと、
前記現時点までの前記ナセルの方位の変化に基づいて、前記現時点から前記所定時間後までの前記ナセルの回転角を推定するステップとをさらに備え、
前記飛行経路を決定するステップでは、前記現時点の前記ナセルの方位および前記推定された前記ナセルの回転角にさらに基づいて、前記現時点から前記所定時間後までの前記ブレードに沿った前記無人航空機の飛行経路を決定する、請求項1に記載の風力発電設備の点検方法。
【請求項3】
前記風車は洋上に設けられた浮体式の風車であり、
前記風力発電設備の点検方法は、
前記ナセルに取り付けられた少なくとも1個の測位アンテナによって受信された測位信号を利用して、前記風車の水平方向および垂直方向の位置を定期的に判定するステップと、
前記現時点までの前記風車の位置の変化に基づいて、前記現時点から前記所定時間後までの前記風車の位置の変化を推定するステップとをさらに備え、
前記飛行経路を決定するステップでは、前記現時点の前記風車の位置および前記推定された前記風車の位置の変化にさらに基づいて、前記現時点から前記所定時間後までの前記ブレードに沿った前記無人航空機の飛行経路を決定する、請求項2に記載の風力発電設備の点検方法。
【請求項4】
洋上に設けられた浮体式の風車のナセルに取り付けられた少なくとも1個の測位アンテナによって受信された測位信号を利用して、前記風車の水平方向および垂直方向の位置を定期的に判定するステップと、
現時点までの前記風車の位置の変化に基づいて、前記現時点から所定時間後までの前記風車の位置の変化を推定するステップと、
前記ナセルに設けられた電子コンパスの検出データまたは前記ナセルに取り付けられた複数の測位アンテナによって受信された測位信号を利用して、前記ナセルの方位を定期的に判定するステップと、
前記現時点までの前記ナセルの方位の変化に基づいて、前記現時点から前記所定時間後までの前記ナセルの回転角を推定するステップと、
前記風車のブレードの回転軸まわりの前記現時点の停止角度を判定するステップと、
前記現時点の前記風車の位置、前記推定された前記風車の位置の変化、前記現時点の前記ナセルの方位、前記推定された前記ナセルの回転角、ならびに前記ブレードの前記現時点の停止角度に基づいて、前記現時点から前記所定時間後までの前記ブレードに沿った無人航空機の飛行経路を決定するステップと、
前記決定された飛行経路に従って前記無人航空機を飛行させながら、前記無人航空機に搭載されたカメラに前記ブレードを撮影させるステップとを備える、風力発電設備の点検方法。
【請求項5】
前記ブレードの前記現時点の停止角度を判定するステップは、前記ナセルに取り付けられた測距センサの検出データを利用して、前記ブレードの停止角度を判定するステップを含む、請求項4に記載の風力発電設備の点検方法。
【請求項6】
前記飛行経路を決定するステップは、
前記風車が前記現時点の位置から移動せず、かつ前記ナセルが前記現時点の方位から変化せず、かつ前記ブレード前記現時点の角度から変化しない場合に、前記現時点から前記所定時間後まで前記ブレードに沿って前記無人航空機を移動させる場合の前記無人航空機の飛行経路の基準を決定するステップと、
前記推定された前記風車の前記位置の変化、前記推定された前記ナセルの前記回転角、および前記推定された前記ブレードの回転角に基づいて、前記飛行経路の基準を補正するステップとを含む、請求項3に記載の風力発電設備の点検方法。
【請求項7】
前記飛行経路の基準は、前記風車の前記ブレードの回転軸に平行な座標軸と前記ナセルの回転軸上の座標原点とを有するローカル座標系で記述された飛行経路を、大地に固定されたグローバル座標系に変換することによって得られ、
前記飛行経路の基準を補正するステップは、
前記ローカル座標系から前記グローバル座標系への変換式を、前記推定された前記風車の前記位置の変化および前記推定された前記ナセルの前記回転角に基づいて補正するステップと、
前記推定された前記ブレードの回転角に基づいて、前記ローカル座標系で記述された前記飛行経路を補正するステップとを含む、請求項6に記載の風力発電設備の点検方法。
【請求項8】
1台以上のコンピュータに請求項1~7のいずれか1項に記載の風力発電設備の点検方法を実行させるための風力発電設備の点検プログラム。
【請求項9】
カメラおよび測位衛星から測位信号を受信するための測位アンテナを搭載した無人航空機と、
風車のナセルに取り付けられた測距センサと、
前記ナセルに設けられた電子コンパスと、
前記無人航空機の前記測位アンテナで検出された前記測位信号またはこれに基づく情報、前記測距センサの検出データまたはこれに基づく情報、および前記電子コンパスの検出データまたはこれに基づく情報を受信する制御用計算機とを備え、
前記制御用計算機は、
前記測距センサの前記検出データまたはこれに基づく情報を利用して、前記風車のブレードの回転軸まわりの角度を定期的に判定し、
現時点までの前記ブレードの前記回転軸まわりの角度の変化に基づいて、前記現時点から所定時間後までの前記ブレードの回転角を推定し、
前記電子コンパスの検出データまたはこれに基づく情報を利用して、前記ナセルの方位を定期的に判定し、
前記現時点までの前記ナセルの方位の変化に基づいて、前記現時点から前記所定時間後までの前記ナセルの回転角を推定し、
前記現時点の前記ブレードの前記回転軸まわりの角度、前記推定された前記ブレードの回転角、前記現時点の前記ナセルの方位、および前記推定された前記ナセルの回転角に基づいて、前記現時点から前記所定時間後までの前記ブレードに沿った無人航空機の飛行経路を決定し、
前記決定された飛行経路に従って前記無人航空機を飛行させながら、前記無人航空機に搭載されたカメラに前記ブレードを撮影させる、風力発電設備の点検システム。
【請求項10】
前記風車は洋上に設けられた浮体式の風車であり、
前記点検システムは、前記ナセルに取り付けられ、前記測位衛星から前記測位信号を受信するための少なくとも1個の測位アンテナをさらに備え、
前記制御用計算機は、
前記ナセルに取り付けられた前記少なくとも1個の測位アンテナで検出された前記測位信号またはこれに基づく情報を受信し、
前記少なくとも1個の測位アンテナで受信した前記測位信号またはこれに基づく情報を利用して、前記風車の水平方向および垂直方向の位置を定期的に判定し、
前記現時点までの前記風車の位置の変化に基づいて、前記現時点から前記所定時間後までの前記風車の位置の変化を推定し、
前記現時点の前記風車の位置および前記推定された前記風車の位置の変化にさらに基づいて、前記現時点から前記所定時間後までの前記ブレードに沿った前記無人航空機の飛行経路を決定する、請求項9に記載の風力発電設備の点検システム。
【請求項11】
前記点検システムは、前記電子コンパスに代えて、前記ナセルに取り付けられ前記測位衛星からの前記測位信号を受信するための少なくとも2個の測位アンテナを備え、
前記制御用計算機は、
前記ナセルに取り付けられた前記少なくとも2個の測位アンテナで検出された前記測位信号またはこれに基づく情報を受信し、
前記少なくとも2個の測位アンテナで検出された前記測位信号またはこれに基づく情報を利用して、前記ナセルの方位を定期的に判定する、請求項9または10に記載の風力発電設備の点検システム。
【請求項12】
前記制御用計算機は、前記ナセルの内部またはユーザが操作するコントローラに搭載される、請求項9~11のいずれか1項に記載の点検システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、風力発電設備の点検方法、点検プログラム、および点検システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、風力発電設備における風車のブレードを点検する際には、ハブから垂下させたロープを利用して作業員がブレードに沿って移動しながら、目視等で損傷の有無を確認していた。このため、点検作業に多くの時間を要していた。
【0003】
そこで、作業員の負担を減らし、点検時間およびコストを低減するために、ドローンなどの無人航空機(UAV:Unmanned Aerial Vehicle)を利用して、風力発電設備を点検する方法が種々提案されている(たとえば、特開2019-73999号公報(特許文献1)を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
世界第6位の排他的経済水域を持つ我が国においては、洋上風力発電への期待が高まっている。洋上風力発電設備には、水深の浅い海域においてタワーが海底に固定された着床式と、水深の深い海域にも設置可能な浮体式とがある。
【0006】
浮体式の洋上風力発電設備をドローンなどの無人航空機に搭載したカメラで外観点検する際の問題点の一つは、波、風、潮流などの影響によって風車が水平方向に浮遊したり、上下方向に動揺したり、風車の向きが変化したりすることである。また、着床式と浮体式の共通の問題点として、外観点検中に強風によってブレードが完全に停止できずに回転したり、ナセルが回転したりすることが挙げられる。このため、外観点検中に風車のブレードと衝突せずに無人航空機を自律飛行させるためには、リアルタイムで風車の位置変動ならびにブレードおよびナセルの角度変動を把握する必要がある。なお、着床式における上記の課題は、陸上風力発電設備にも当てはまる。
【0007】
本開示は、上記の課題を考慮してなされたものであり、その目的の一つは、強風によって風車のブレードが完全に停止できずに回転している場合にも、無人航空機に搭載したカメラを用いてブレードを適切に外観点検する方法を提供することである。本開示の他の目的の一つは、浮遊および動揺し得る浮体式の洋上風力発電設備を、無人航空機に搭載したカメラを用いて適切に外観点検する方法を提供することである。本開示のその他の目的、特徴および効果は、以下の詳細な説明において言及する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一局面における風力発電設備の点検方法は、風車のナセルに取り付けられた測距センサの検出データを利用して、風車のブレードの回転軸まわりの角度を定期的に判定するステップと、現時点までのブレードの回転軸まわりの角度の変化に基づいて、現時点から所定時間後までのブレードの回転角を推定するステップと、現時点のブレードの回転軸まわりの角度および推定されたブレードの回転角に基づいて、現時点から上記の所定時間後までのブレードに沿った無人航空機の飛行経路を決定するステップと、決定された飛行経路に従って無人航空機を飛行させながら、無人航空機に搭載されたカメラにブレードを撮影させるステップとを備える。
【0009】
他の局面における風力発電設備の点検方法は、洋上に設けられた浮体式の風車のナセルに取り付けられた少なくとも1個の測位アンテナによって受信された測位信号を利用して、風車の水平方向および垂直方向の位置を定期的に判定するステップと、現時点までの風車の位置の変化に基づいて、現時点から所定時間後までの風車の位置の変化を推定するステップと、ナセルに設けられた電子コンパスの検出データまたはナセルに取り付けられた複数の測位アンテナによって受信された測位信号を利用して、ナセルの方位を定期的に検出するステップと、現時点までのナセルの方位の変化に基づいて、現時点から上記所定時間後までのナセルの回転角を推定するステップと、風車のブレードの回転軸まわりの現時点の停止角度を検出するステップと、現時点の風車の位置、推定された風車の位置の変化、現時点のナセルの方位、推定されたナセルの回転角、ならびに風車のブレードの現時点の停止角度に基づいて、現時点から上記所定時間後までのブレードに沿った無人航空機の飛行経路を決定するステップと、決定された飛行経路に従って無人航空機を飛行させながら、無人航空機に搭載されたカメラにブレードを撮影させるステップとを備える。
【発明の効果】
【0010】
上記の一局面の風力発電設備の点検方法によれば、現時点から所定時間後までのブレードの回転角を推定することによって、強風によって風車のブレードが完全に停止できずに回転している場合にも、無人航空機に搭載したカメラを用いてブレードを適切に外観点検できる。上記の他の局面の風力発電設備の点検方法によれば、現時点から所定時間後までの風車の位置の変化およびナセルの回転角を推定することにより、浮遊および動揺し得る浮体式の洋上風力発電設備を、無人航空機に搭載したカメラを用いて適切に外観点検できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】浮体式の洋上風力発電設備100の構成例を示す外観図である。
【
図2】
図1の風車10のナセル13の部分を拡大して示す側面図である。
【
図3】
図2のナセル13の周辺部分を上から見た上面図である。
【
図4】風車10のナセル13の内部のハードウェア構成例を示すブロック図である。
【
図5】ドローン30の本体部31の内部のハードウェア構成例を示すブロック図である。
【
図6】コントローラ90のハードウェア構成例を示すブロック図である。
【
図7】風車の全景撮影の際のドローンの飛行経路を示す図である。
【
図8】ブレードの詳細撮影の際のドローンの飛行経路を示す図である。
【
図9】ブレードの停止角度を検出するための第1の方法を説明するための図である。
【
図10】ブレードの停止角度を検出するための第2の方法を説明するための図である。
【
図11】風車の水平方向の移動について説明するための図である。
【
図12】風車の垂直方向の移動について説明するための図である。
【
図13】ナセルの回転について説明するための図である。
【
図14】ブレードの回転について説明するための図である。
【
図15】風車の詳細撮影のためにドローンの飛行経路を設定する手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、実施形態について図面を参照して詳しく説明する。以下では、無人航空機(UAV)としてドローンを例に挙げて説明する。以下では、実施の形態1において浮体式の洋上風力発電設備の場合を説明し、次に実施の形態2において着床式洋上風力発電設備および陸上風力発電設備の場合の変更点について説明する。なお、同一または相当する部分には同一の参照符号を付して、その説明を繰り返さない。
【0013】
<実施の形態1>
[浮体式の洋上風力発電設備の概略的な構成例]
図1は、浮体式の洋上風力発電設備100の構成例を示す外観図である。
図1を参照して、洋上風力発電設備100は、海面17上に浮かぶ浮体15と、浮体15上に取り付けられた風車10とを備える。浮体15は、係留ライン(チェーンまたはロープなど)16によって海底18に係留される。
【0014】
風車10は、浮体15に立設するタワー14と、タワー14の上部に搭載されたナセル13と、ナセル13の正面に設けられたハブ12と、ハブ12に取り付けられた3枚のブレード11A,11B,11Cとを備える。ブレード11A,11B,11Cについて、総称する場合または任意の1つを示す場合にブレード11と記載する。
【0015】
ブレード11は、ハブ12に連結されたロータ軸(
図4の61)の回転によって、ロータ軸61の軸方向回りに回転する。また、ナセル13は、タワー14の長手方向の軸まわりに回動可能である。ブレード11の長手方向の軸まわりの角度(ブレード11の「ピッチ角」と称する)と、ナセル13の回動角度(「ヨー角」または「パン角」と称する)とが調整可能である。さらに、ナセル13のピッチ角(チルト角とも称する)が調整可能に構成されていてもよい。
【0016】
[ローカル座標系とグローバル座標系]
図2は、
図1の風車10のナセル13の部分を拡大して示す側面図である。
図2には、ドローン30の外観およびコントローラ90の外観も示されている。また、
図3は、
図2のナセル13の周辺部分を上から見た上面図である。
【0017】
図1~
図3に示すように、本開示では、ドローン30の位置およびブレード11の回転角度を表すのに、ローカル座標系(XYZ座標系)とグローバル座標系(PQR座標系)とを用いる。風車10の位置およびナセル13の回転角度を表すのに、グローバル座標系(PQR座標系)を用いる。
【0018】
ローカル座標系(XYZ座標系)の原点27は、ナセル13の回転軸24上に設定される。ブレード11の回転軸25の方向をY軸方向とし、ナセル13の回転軸24の方向をZ軸方向とし、Y軸方向とZ軸方向とに垂直な方向(すなわち、ナセル13の側面側)をX軸方向とする。したがって、ナセル13の回転に伴ってローカル座標系のX軸方向およびY軸方向は変化する。ハブ12が設けられている風車10の正面側が+Y方向であり、上方が+Z方向である。ナセル13のヨー角はZ軸まわりの回転角度であり、ナセル13のピッチ角(チルト角)はX軸まわりの回転角度である。
【0019】
グローバル座標系(PQR座標系の)の原点28は、大地に対して固定される。R軸を鉛直方向とし、P軸およびQ軸は地球の方位に基づいて定められる。たとえば、P軸は東西方向に定められ、Q軸は南北方向に定められる。したがって、風車10が移動したり、ナセル13が回転したりしても、グローバル座標系の座標原点28および各座標軸の方向は変化しない。風車10が揺動していない場合には、R軸方向とZ軸方向とは平行である。本開示では、グローバル座標系を基準にしたときの、ローカル座標系のY軸方向(すなわち、ブレード11の回転軸25の方向)をナセル13の方位と称する。
【0020】
ローカル座標系で表された座標(x,y,z)は、グローバル座標系で表された座標(p,q,r)に変換できる。
図2および
図3に示すように、グローバル座標系の原点28に対してローカル座標系の原点27は、P軸方向にp
0、Q軸方向にq
0、R軸方向にr
0変位しているとする。また、
図3に示すように、R軸(Z軸)に垂直な方向から見た場合において、X軸のP軸に対する傾きおよびY軸のQ軸に対する傾きをφ
0とする。この場合、ローカル座標(x,y,z)からグローバル座標(p,q,r)への変換式は、次式(1)で表される。すなわち、グローバル座標(p,q,r)は、ローカル座標(x,y,z)をz軸回りにφ
0回転させた後に、変位ベクトル(p
0,q
0,r
0)だけ移動させたものである。
【0021】
【0022】
[洋上風力発電設備の点検システムの構成]
次に、
図2および
図3を参照して、洋上風力発電設備100の点検システムの構成について説明する。点検システムは、各々が測位衛星40から測位信号41を受信する第1測位アンテナ20Aおよび第2測位アンテナ20Bと、無線通信信号42を送受信するための無線アンテナ21と、測距センサ22とを備える。これらの測位アンテナ20A,20B、無線アンテナ21および測距センサ22は、ナセル13の上部に取り付けられている。ナセル13の上部には、さらに、風向風速計(不図示)が取り付けられている。
【0023】
第1測位アンテナ20Aおよび第2測位アンテナ20Bは、Y軸方向に互いに間隔をあけて配置される。第1ア測位ンテナ20Aおよび第2測位アンテナ20Bの各々は、4台以上の測位衛星40から同時に測位信号41を受信する。
図2には、代表的に1つの測位衛星40が図示されている。測位衛星40として、GPS(Global Positioning System)衛星と、「みちびき」と称される我が国の準天頂衛星(QZSS:Quasi-Zenith Satellite System)とが併用される。「みちびき」から受信する測位補強情報を利用することにより、センチメータ級の測位精度が実現できる。
【0024】
ナセル13の上部に互いに間隔をあけて2個の測位信号用の測位アンテナを設けることにより、ナセル13の方位を検出できる。測位アンテナは、互いに間隔をあけて3個以上設けられていてもよい。なお、2個の測位信号用の測位アンテナ20A,20Bに代えて1個の測位信号41用の測位アンテナ20と、ナセル13に設けられた電子コンパス65とを備えていてもよい。1個の測位信号41用の測位アンテナ20によって、風車10の垂直方向および水平方向の位置を検出でき、電子コンパス65によってナセル13の方位を検出できる。
【0025】
測距センサ22は、ブレード22の検出位置に基づいて回転軸回りの現時点のブレード11の角度を決定するために設けられる。測距センサ22として、たとえば、LiDAR(Laser Imaging Detection and Ranging)センサが用いられる(以下、「LiDARセンサ22」と記載する)。LiDARセンサ22は、パルス状のレーザー光23を走査させることにより、対象物からの反射光に基づいて、対象物までの距離および角度を検出する。LiDARセンサ22は、2次元用のセンサでも3次元用のセンサでもよい。
【0026】
点検システムは、さらにドローン30を備える。ドローン30は、本体部31と、本体部31に腕部36を介して接続されたプロペラモータ78と、プロペラモータ78によって回転されるプロペラ32と、本体部31の下部に設けられた脚部37とを備える。プロペラモータ78を駆動するためのモータ駆動回路(
図5の77)は、たとえば、腕部36の内部に配置される。プロペラモータ78およびプロペラ32の各々の個数は、ドローン30全体の重量などに応じて、3個、4個、6個、8個などのうちで選択される。各プロペラモータ78の回転速度を制御することにより、ドローン30の垂直方向の上昇および下降、任意の斜め方向の上昇および下降、空中停止、前進、後退、右移動、左移動、右回転、左回転などが可能である。
【0027】
ドローン30は、さらに、本体部31の下部に取り付けられたカメラ33と、本体部31の上部に取り付けられた測位信号41の受信用の測位アンテナ34および無線通信信号42の送受信用の無線アンテナ35とを備える。
【0028】
カメラ33は、点検のため風車10のブレード11の外観撮影に用いられる高解像度のカメラである。カメラ33と本体部31との間のアクチュエータ(不図示)を制御することにより、カメラの撮影方向を調整できる。さらに、自律飛行のためのFPV(First Person View:一人称視点)用の動画像を撮影するために、図示しない低解像度のカメラが本体部31に取り付けられている。
【0029】
ドローン30の動作は、ナセル13の内部に設けられた制御用計算機(
図4の50B)によって制御してもよいし、ユーザ用のコントローラ90に設けられた制御用計算機(
図6の91)によって制御してもよい。前者の場合、制御用計算機50Bは、第1測位アンテナ20Aおよび第2測位アンテナ20Bによって受信した測位信号41とLiDARセンサ22の検出信号とに基づいて、もしくは1個の測位アンテナによって受信した測位信号41と電子コンパス65の検出信号とLiDARセンサ22の検出データとに基づいてドローン30の飛行経路を設定する。制御用計算機50Bは、設定した飛行経路を、無線アンテナ21を介してドローン30に送信する。ドローン30は、受信した飛行経路に従って飛行する。
【0030】
一方、後者の場合、コントローラ90に設けられた制御用計算機91は、第1測位アンテナ20Aおよび第2測位アンテナ20Bによって受信した測位信号41に基づく情報とLiDARセンサ22の検出信号に基づく情報とを、ナセル13から受信する。もしくは、制御用計算機91は、1個の測位アンテナによって受信した測位信号41に基づく情報と、電子コンパス65の検出信号に基づく情報と、LiDARセンサ22の検出データに基づく情報とを、ナセル13から受信する。制御用計算機91は、受信した信号に基づいて、ドローン30の飛行経路を設定する。制御用計算機91は、設定した飛行経路を、無線アンテナ94を介してドローン30に送信する。ドローン30は、受信した飛行経路に従って飛行する。
【0031】
[風車10のナセル13の内部のハードウェア構成例]
図4は、風車10のナセル13の内部のハードウェア構成例を示すブロック図である。
図4を参照して、ナセル13は、制御用計算機50A,50B、増速機51、ブレーキ装置52、発電機53、ピッチ制御装置55、ヨー駆動装置56、送受信機58、測位信号受信機57A,57B、蓄電池59、電源回路60などを内蔵する。なお、前述のように、ナセル13の内部には、電子コンパス65が設けられていてもよい。
【0032】
制御用計算機50Aは、ナセル13に内蔵される各種機器(ブレーキ装置52、発電機53、ピッチ制御装置55、ヨー駆動装置56など)を制御する。制御用計算機50Bは、点検システムの構成要素であり、ブレード11の回転軸まわりの角度、ナセル13の方位、風車10の位置、ドローン30の位置などの情報に基づいて、ブレード11の点検のためのドローン30の飛行経路を計算する。制御用計算機50A,50Bの各々は、たとえば、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、および不揮発性メモリを含むマイクロコンピュータによって構成される。不揮発性メモリはCPUによって動作するプログラムを格納する。制御用計算機50A,50Bの機能を両方とも備えた共通化された制御用計算機が設けられていてもよい。
【0033】
増速機51は、ブレード11の回転軸であるロータ軸61に連結される。増速機51は、ロータ軸61の回転速度を発電機53の運転に必要な速度まで増速するギア装置である。増速機51によって増速された回転速度は、動力伝達軸62によって発電機53に伝達される。
【0034】
ブレーキ装置52は、動力伝達軸62に取り付けられ、動力伝達軸62の回転を停止させることにより、ブレード11の回転を停止させる。
【0035】
発電機53は、動力伝達軸62の回転エネルギーから電力を生成する。発電機53によって生成された交流電力は、変圧器63によって昇圧された後、電力ケーブル64によって陸上の電力設備に伝送される。変圧器63は、ナセル13の内部に設けられていてもよいし、タワー14の内部に設けられていてもよいし、風車10の外部において浮体15に取り付けられていてもよい。
【0036】
ピッチ制御装置55はブレード11のピッチ角度を調整する。ピッチ角度の調整によって風車10の運転効率を高めることができ、さらに台風のような著しい強風の場合には、ピッチ角度を0度付近にする(すなわち、ブレードの面を風の流れる方向と概ね平行にする)ことによってブレードの損傷を防止できる。
【0037】
ヨー駆動装置56は、ブレード11の回転軸の方向(すなわち、ロータ軸61の方向)を風の方向に自動的に追随させる。これにより、風車10の運転効率を高めることができる。
【0038】
送受信機58は、無線アンテナ21を介して、ドローン30に設けられた送受信機(
図5の73)との間で情報のやりとりを行う。たとえば、制御用計算機50Bは、測位信号41に基づいて検知されたドローン30の現在位置の情報を、ドローン30から受信する。他の態様において、送受信機58は、無線アンテナ21を介して、コントローラ90に設けられた送受信機(
図6の95)に情報を送信するように構成されていてもよい。
【0039】
第1の測位信号受信機57Aは、4台以上の測位衛星40からの測位信号41を、第1測位アンテナ20Aを介して受信する。制御用計算機50Bは、受信した測位信号41に基づいて、第1測位アンテナ20Aの現在位置を検知する。同様に、第2の測位信号受信機57Bは、4台以上の測位衛星40からの測位信号41を、第2測位アンテナ20Bを介して受信する。制御用計算機50Bは、受信した測位信号41に基づいて、第2測位アンテナ20Bの現在位置を検知する。ここで、第1測位アンテナ20Aおよび第2測位アンテナ20Bは、ナセル13を上方から見て、衛星測位システムの検出精度よりも十分に大きい距離離れて設置されている。したがって、制御用計算機50Bは、第1測位アンテナ20Aの位置情報と第2測位アンテナ20Bの位置情報とを用いることにより、ナセル13の現在の方位(すなわち、ロータ軸61の方位)を検知できる。
【0040】
蓄電池59は、ナセル13の内部の各装置の電源として用いられる。電源回路60は、蓄電池59からの電力に基づいてナセル13の内部の各装置の駆動電圧を生成する。なお、ナセル13の内部には、発電機53の発電電力によって蓄電池59を充電するための電力変換器(不図示)が設けられていてもよい。
【0041】
[ドローン30の本体部31のハードウェア構成例]
図5は、ドローン30の本体部31の内部のハードウェア構成例を示すブロック図である。
図5を参照して、本体部31は、制御用計算機70、慣性計測ユニット71、測位信号受信機72、送受信機73、記憶装置74、蓄電池79、電源回路80などを内蔵する。
【0042】
制御用計算機70は、モータ駆動回路77、カメラ33などの動作を制御する。制御用計算機70は、CPU、RAM、および不揮発性メモリを含むマイクロコンピュータによって構成されてもよいし、FPGA(Field Programmable Gate Array)によって構成されてもよいし、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)などの専用回路によって構成されてもよい。また、制御用計算機70は、これらのうちの少なくとも2つの組み合わせによって構成されてもよい。
【0043】
慣性計測ユニット71は、加速度センサ、角速度センサ(ジャイロセンサ)、地磁気センサ、気圧センサ、温度センサなどを1つのパッケージに統合したセンサユニットである。制御用計算機70は、慣性計測ユニット71の各種センサの検出値に基づいて、ドローン30の自律飛行および姿勢制御を行う。
【0044】
測位信号受信機72は、4台以上の測位衛星40からの測位信号41を、測位アンテナ34を介して受信する。制御用計算機70は、受信した測位信号41に基づいて、ドローン30の現在位置を検知する。
【0045】
送受信機73は、無線アンテナ35を介して、点検対象の風車10のナセル13に設けられた送受信機58との間で情報のやりとりを行う。たとえば、制御用計算機70は、測位信号41に基づいて検知されたドローン30の現在位置の情報を、風車10の制御用計算機50Bに送信する。
【0046】
記憶装置74は、一例として、SDメモリカードなどの着脱可能な不揮発性の記録媒体76と、記録媒体76へのデータの書き込みおよび記録媒体76からのデータの読み出しを行うためのリーダライタ75とを含む。リーダライタ75は、制御用計算機70の指令に従って、カメラ33によって撮影された点検用の高解像度の静止画像などを記録媒体76に格納する。
【0047】
蓄電池79は、ドローン30の電源として用いられる。電源回路80は、蓄電池79からの電力に基づいて、ドローン30の各部を駆動するための駆動電圧を生成する。ドローン30は、動力源として蓄電池79とともにエンジンおよび発電機を備えていてもよい。
【0048】
[コントローラ90のハードウェア構成例]
図6は、コントローラ90のハードウェア構成例を示すブロック図である。コントローラ90は、ユーザがマニュアル操作でドローン30の動作およびカメラ33の動作を制御するために設けられる。本開示の場合、一実施態様として、コントローラ90の制御用計算機91は、ドローン30を自律飛行させるための飛行経路を設定する。
【0049】
図6に示すように、コントローラ90は、制御用計算機91と、タッチスクリーン92と、コントロールスティック93と、無線アンテナ94と、送受信機95と、蓄電池98と、電源回路99とを備える。
【0050】
制御用計算機91は、コントローラ90の全体を制御する。制御用計算機91は、CPU、RAM、および不揮発性メモリを含むマイクロコンピュータによって構成されてもよいし、FPGAによって構成されてもよいし、ASICなどの専用回路によって構成されていてもよい。また、制御用計算機91は、これらのうちの少なくとも2つの組み合わせによって構成されていてもよい。
【0051】
タッチスクリーン92は、ドローン30のカメラ33の画像およびコントローラ90を操作するための情報などをユーザに表示するとともに、ユーザから入力を受け付けるためのインタフェースである。コントロールスティック93は、ドローン30およびカメラ33をマニュアル制御するための入力デバイスである。
【0052】
送受信機95は、無線アンテナ94を介して、ドローン30に対して制御信号を送信するとともに、測位信号41に基づくドローン30の位置情報をドローン30から受信する。送受信機95は、さらに、無線アンテナ94を介して、点検対象の風車10のナセル13に設けられた送受信機58との間で情報のやりとりを行ってもよい。
【0053】
蓄電池98は、コントローラ90の電源として用いられる。電源回路99は、蓄電池98からの電力に基づいて、コントローラ90の各部を駆動するための駆動電圧を生成する。
【0054】
[ドローンの飛行経路の設定方法]
(風車の移動などを考慮しない場合)
次にドローン30のカメラ33で風車10を点検する際の飛行経路の設定方法について説明する。まず、風および波ともに穏やかであり、潮流が問題にならない場合、すなわち、風車10の移動などを考慮しない場合のドローン30の飛行経路について説明する。風車10の点検は、風車10の全景を撮影する全景撮影と、ブレード11に接近してブレード11の表面を撮影する詳細撮影との2段階で実行される。風車10の移動および回転などを考慮しない場合の詳細撮影用の飛行経路は、風車10の移動および回転などを考慮する場合の飛行経路に対して基準となる飛行経路である。
【0055】
図7は、風車の全景撮影の際のドローンの飛行経路を示す図である。
図7に示すように、ドローンの飛行経路81A,81Bは、水平面上でタワー14の回りを周回するように設定される。この場合、飛行経路81の半径をブレード11の長さよりも長く設定することによって、ブレード11がどの位置で停止していてもドローン30がブレード11に衝突しないようにできる。
【0056】
図8は、ブレードの詳細撮影の際のドローンの飛行経路を示す図である。
図8に示すように、ブレード11Aを詳細撮影する場合には、ドローン30は、ブレード11Aの前縁(Leading Edge)26Lに沿ってブレードの基部から先端に移動し、ブレード11の先端付近でブレード11の前縁26Lから後縁(Trailing Edge)26Tに移動し、その後、ブレードの11Aの後縁26Tに沿ってブレードの先端から基部に移動する。
【0057】
なお、
図8の場合とは逆に、ドローン30を後縁26Tから前縁26Lの順にドローン30を飛行させてもよい。また、
図8では、簡単のためにブレード11Aの停止角度θ
0の方向にドローン30を移動させているが、ブレード11Aの前縁26Lおよび後縁26Tの形状に応じて飛行経路を調整してもよい。
【0058】
上記のようにドローン30の飛行経路を制御するために、ドローン30の飛行経路上に複数のウェイポイントWP0~WP19が設定され、ドローン30はウェイポイントを順に移動するように制御される。なお、本開示では、経由地点WP1~WP18だけでなく、始点WP0および終点WP19もウェイポイントに含めている。ブレード11B,11Cについても同様の飛行経路でドローン30が移動するように制御される。
【0059】
具体的に
図8の場合、ブレード11Aの停止角度が水平方向からθ
0度であるとする。ブレード11Aの停止角度の検出方法については、
図9および
図10を参照して後述する。ドローン30の基準となる飛行速度をvとし、各ウェイポイント間の移動時間をtとする。ウェイポイント間の飛行速度vおよび移動時間tは、必ずしも互いに等しくなくてよい。
【0060】
現在のウェイポイントの座標を(x0,y0,z0)とすると、次のウェイポイントの座標(x(t),y(t),z(t))は、次式(2A)に示すように、速度ベクトル(vx(t),vy(t),vz(t))が現時刻t0から移動時間tが経過するまでの間で積分された値を、現在のウェイポイントの座標(x0,y0,z0)に加算することによって得られる。なお、一般にA(t)は、Aが時間tの関数であることを示す。速度ベクトルが定数の場合には、次式(2B)に示すように上記の積分は速度ベクトル(vx,vy,vz)に移動時間tを乗算した値に等しい。
【0061】
【0062】
具体的に
図8の場合には、ウェイポイントWP0からウェイポイントWP9までの間において、速度ベクトルは次式(3A)で与えられる。ウェイポイントWP9からウェイポイントWP10までの間において、速度ベクトルは次式(3B)で与えられる。ウェイポイントWP10からウェイポイントWP19までの間において、速度ベクトルは次式(3C)で与えられる。
【0063】
【0064】
上記のように飛行経路は、まずローカル座標(x,y,z)を用いて表される。そして、ローカル座標(x,y,z)は、前述の式(1)を用いてグローバル座標(p,q,r)に変換される。ドローン30は、グローバル座標(p,q,r)を用いて表された設定経路に従って飛行する。
【0065】
次に、ブレードの停止角度の検出方法について説明する。
図9は、ブレードの停止角度を検出するための第1の方法を説明するための図である。
図9では、風車10をナセル13の後方(すなわち、ハブ12の反対側)から見た図が示されている。
図9に示すように、LiDARセンサ22を用いて、いずれか1つのブレード11の前縁26Lまたは後縁26Tの停止位置が検出される。第1の方法は、LiDARセンサ22の検出結果に基づいて、ブレード11の停止角度θ
0を判定するものである。
【0066】
図10は、ブレードの停止角度を検出するための第2の方法を説明するための図である。第2の方法は、ブレード11の全景撮影飛行の際に撮影した画像を解析することにより、ブレード11の停止角度を判定するものである。
図10では、風車10の正面側から見た画像87が示されている。いずれか1つのブレードの停止位置、具体的には前縁26Lまたは後縁26Tの停止位置を判定することにより、ブレード11の停止角度θ
0が決定される。
【0067】
(風車が水平移動および/または垂直移動する場合)
次に、風、波、潮流などの影響により、風車が水平方向および/または垂直方向に移動する場合について説明する。
【0068】
図11は、風車の水平方向の移動について説明するための図である。
図12は、風車の垂直方向の移動について説明するための図である。
図11には、風車10をグローバル座標系の+R方向から見た図が示されており、
図12には、風車10をグローバル座標系の+P方向から見た図が示されている。
【0069】
測位アンテナ20A,20Bによって受信された測位信号41に基づいて、風車10の位置は一定時間ごとに検出されている。なお、風車10の代表点の位置としてローカル座標系の座標原点27の位置が予め定められる。現時刻t0からt秒後の風車の代表点27の位置は、現時刻までの風車10の位置変化82の検出値に基づいて推定できる。たとえば、現時刻までの風車10の位置変化82の検出値に基づいて、現時点までの風車10の軌道を決定し、この軌道を外挿することによって、現時点からt秒後の位置P(t)を推定してもよい。
【0070】
現時刻t0の風車10の代表点(ずなわち、ローカル座標系の座標原点27)の位置とt秒後の代表点27の推定位置との間の推定変位量を、推定移動ベクトル(Dp(t),Dq(t),Dr(t))で表す。すなわち、風車10は、現時刻t0からt秒間の間に、グローバル座標系のP軸方向にDp(t)だけ移動し、Q軸方向にDq(t)だけ移動し、R軸方向Dr(t)だけ移動したと推定される。この場合、風車10の移動にともなって、ローカル座標系の座標原点27とグローバル座標系の座標原点28との間の距離が変更されるので、前述のローカル座標(x,y,z)からグローバル座標(p,q,r)への変換式(1)は、次式(4A)のように変更される。すなわち、前述の式(1)の変位ベクトル(p0,q0,r0)に推定移動ベクトル(Dp(t),Dq(t),Dr(t))が加算される。
【0071】
【0072】
現時刻t0の風車10の代表点27の位置からt秒後の代表点27の推定位置までの推定変位量が線形近似できる場合、すなわち、風車10の移動速度ベクトル(dp,dq,dr)と経過時間tとの積で表される場合には、上式(4A)は上式(4B)に示すように変形できる。具体的に、推定移動ベクトル(Dp(t),Dq(t),Dr(t))は、(dp・t,dq・t,dr・t)に変更される。最終的なドローン30の移動経路は、ローカル座標(x,y,z)を用いて表された前述の式(2B)および(3A)~(3B)で表される移動経路を、変換式(4A)または(4B)に代入することよって得られる。
【0073】
(風車が水平面内で回転する場合、ナセルが回転軸まわりに回転する場合)
次に、風の影響によりナセル13がタワー14に対して回転する場合、もしくは、風、波、潮流などの影響により、風車10が水平面内で回転する場合について説明する。
【0074】
図13は、ナセルの回転について説明するための図である。
図13には、ナセル13を上方(グローバル座標の+R方向)から見た図が示されている。
【0075】
測位アンテナ20A,20Bによって受信された測位信号41に基づいて、風車10の第1測位アンテナ20Aおよび第2測位アンテナ20Bのそれぞれの取り付け位置は一定時間ごとに検出されている。したがって、第1測位アンテナ20Aから第2測位アンテナ20Bへ向かう方向の変化に基づいて、ナセル13の方位(すなわち、ブレード11の回転軸の方位)が検出できる。現時刻t0からt秒後までのナセル13の推定回転角φ(t)は、現時刻t0までのナセル13の方位変化84の検出値に基づいて推定できる。たとえば、現時刻t0までのナセル13の方位角の変化を関数で近似し、得られた近似関数を外挿することによって現時刻t0からt秒後までの回転角φ(t)を推定してもよい。
【0076】
上記のようにナセル13がタワー14に対して推定回転角φ(t)だけ回転した場合、もしくは風車10が水平面内で推定回転角φ(t)だけ回転した場合には、グローバル座標系に対してローカル座標系がz軸回りに推定回転角φ(t)だけ回転することになる。したがって、前述のローカル座標(x,y,z)からグローバル座標(p,q,r)への変換式が変更される。具体的に式(4A)において、回転角φ0がφ0+φ(t)に変更される。結果として、次式(5A)の変換式が得られる。
【0077】
【0078】
推定回転角φ(t)が回転角速度Ωと経過時間tとの積で表され、風車10の推定移動ベクトルが移動速度(dp,dq,dr)と経過時間tとの積で表される場合、上式(5A)は、上式(5B)のように変形できる。最終的なドローン30の移動経路は、ローカル座標(x,y,z)を用いて表された前述の式(2B),(3A)~(3B)の移動経路を、変換式(5A)または(5B)に代入することよって得られる。
【0079】
(ブレードが回転する場合)
次に、風の影響により、風車10のブレード11が回転する場合について説明する。風車10のナセル13には、動力伝達軸62の回転を停止させるブレーキ装置52が設けられている。しかし、強風の場合には、ブレーキ装置52では十分に動力伝達軸62の回転を停止できずに、ブレード11が回転する場合がある。
【0080】
図14は、ブレードの回転について説明するための図である。
図14には、ナセル13を後方(ローカル座標系の-Y方向)から見た図が示されている。
【0081】
ナセル13の上部に取り付けられたLiDARセンサ22によって、ブレード11の回転軸まわりの角度の変化は一定時間ごとに検出されている。現時刻t0のブレード11の回転軸まわりの角度をθ0とする。現時刻t0からt秒後までのブレード11Aの推定回転角θ(t)は、現時刻t0までのブレード11の回転軸まわりの角度の検出値の変化85に基づいて推定できる。たとえば、現時刻t0までのブレード11の回転軸まわりの角度の変化を関数で近似し、得られた近似関数を外挿することによって、現時刻t0からt秒後までのブレード11Aの回転角θ(t)を推定してもよい。
【0082】
上記のようにブレード11が回転角θ(t)だけさらに回転した場合、ローカル座標系で表された移動速度を表す式(3A)~(3C)において、ブレードの停止角度θ0がθ0+θ(t)に変更される。したがって、ドローン30の移動速度を表す式(3A)~(3C)は、次式(6A)~(6C)に書き直される。次式(6A)~(6C)では、推定回転角θ(t)が、回転角速度ωと経過時間tとの積によって線形近似できる場合の式も示されている。
【0083】
【0084】
最終的なドローン30の移動経路を求めるためには、ローカル座標(x,y,z)を用いて表された上式(6A)~(6C)の移動速度を表す式を、前述の式(2A)に代入して積分演算を実行する。これにより、ローカル座標での移動経路を表す式が得られる。次に、得られたローカル座標(x(t),y(t),z(t))を変換式(5A)または(5B)に代入することよって、最終的なグローバル座標(p(t),q(t),r(t))でのドローン30の移動経路を表す式が得られる。
【0085】
(詳細撮影のための飛行経路設定のフローチャート)
図15は、風車の詳細撮影のためにドローンの飛行経路を設定する手順を示すフローチャートである。以下、
図15を参照して、これまでの説明を総括する。
【0086】
図15のステップS100において、風車10のナセル13に設けられた制御用計算機50Bは、LiDARセンサ22の検出データを定期的に受信する。
【0087】
次のステップS110において、制御用計算機50Bは、LiDARセンサ22の検出データに基づいて、ブレード11の回転軸まわりの角度を定期的に判定する。
【0088】
その次のステップS120において、制御用計算機50Bは、現時点t0までのブレード11の回転軸まわりの角度の判定値の変化に基づいて、現時点t0からt秒後までのブレード11の回転角度θ(t)を推定する。
【0089】
上記のステップS100~S120と並行してステップS130において、ナセル13の上部に設けられた第1測位アンテナ20Aおよび第2測位アンテナ20Bは、同じ測位信号41を定期的に受信する。
【0090】
次のステップS140において、制御用計算機50Bは、測位アンテナ20A,20Bの少なくとも一方で受信された測位信号41に基づいて、風車10の位置(水平位置および垂直位置)を定期的に判定する。
【0091】
その次のステップS150において、制御用計算機50Bは、現時点t0までの風車10の位置の判定値の変化に基づいて、現時点t0からt秒後までの風車10の位置変化(すなわち、移動量および移動方向を表す移動ベクトル)を推定する。
【0092】
上記のステップS140およびS150と並行してステップS160において、制御用計算機50Bは、測位アンテナ20A,20Bの各々で受信された測位信号41に基づいて、風車10のナセル13の方位(すなわち、ナセル13の回転軸まわりの角度)を定期的に判定する。なお、制御用計算機50Bは、ナセル13に設けられた電子コンパス65によってナセル13の方位を判定してもよい。
【0093】
次のステップS170において、制御用計算機50Bは、現時点t0までのナセル13の方位の判定値の変化に基づいて、現時点t0からt秒後までのナセル13の回転角度φ(t)を推定する。
【0094】
一方、ステップS200において、ドローン30に設けられた測位アンテナ34は、上記のナセル13に設けられた測位アンテナ20A,20Bで受信された測位信号41と同じ測位信号41を定期的に受信する。
【0095】
次のステップS210において、ドローン30に設けられた制御用計算機70は、測位アンテナ34で受信された測位信号41に基づいて、ドローン30の位置を定期的に判定する。判定されたドローン30の位置情報は、送受信機73および無線アンテナ35を介して、風車10のナセル13に設けられた制御用計算機50Bに向けて送信される。
【0096】
上記の各情報に基づいて、ステップS180において、ナセル13に設けられた制御用計算機50Bは、現時刻t0の風車10の位置、現時刻t0のナセル13の方位、現時点のt0ブレード11の回転軸まわりの角度θ0、現時刻t0からt秒後までの風車10の位置変化の推定値(すなわち、移動ベクトル(Dp(t),Dq(t),Dr(t)))、現時刻t0からt秒後までのナセル13の回転角度φ(t)の推定値、および現時刻t0からt秒後までのブレードの回転角度θ(t)の推定値に基づいて、現時刻t0からt秒後までの飛行経路(すなわち、グローバル座標系でのウェイポイント(p(t),q(t),r(t)))を決定する。
【0097】
次のステップS220において、ドローン30の制御用計算機70は、ナセル13の制御用計算機50Bによって決定された飛行経路に従って、ドローン30を制御することにより、次の到達すべきウェイポイント(p(t),q(t),r(t))にまで、ドローン30を導く。さらに、制御用計算機70は、カメラ33を制御することによってブレード11を撮影する。以下、上記の一連のステップが繰り返されることにより、ドローン30の飛行経路が制御され、風車10のブレード11の詳細撮影が実施される。
【0098】
なお、上記では、ブレード11の回転軸まわりの角度の判定および推定(ステップS110,S120)、風車10の位置の判定および推定(ステップS140,S150)、ナセル13の方位の判定および推定(ステップS160,S170)、および飛行経路の決定(ステップS180)は、風車10のナセル13に設けられた制御用計算機50Bで実行される。これに代えて、これらの各ステップの全部または一部を、ドローン30に設けられた制御用計算機70で実行するようにしてもよいし、コントローラ90に設けられた制御用計算機91で実行するようにしてもよい。
【0099】
[効果]
上記の実施形態によれば、風、波、潮流などの影響によって、浮体式の洋上風力発電設備の風車10が水平方向に浮遊したり上下方向に動揺したり、ナセル13の方位が変化したり、ブレード11の回転軸まわりの角度が変化したりする場合が考慮される。そして、このような場合であっても、無人航空機に搭載したカメラを用いて風車10のブレード11を適切に点検できる。
【0100】
<実施の形態2>
実施の形態2では、着床式の洋上風力発電設備および陸上風力発電設備の場合について説明する。これらの設備の場合には、風車10のタワー14の下部が海底または地面に固定されている。したがって、浮体式の風車10ように、波、風、潮流などの影響により、風車10が垂直方向および水平方向に移動したり、風車10の向きが変化したりすることはない。しかし、強風に抗しきれずにブレード11が回転したり、ナセル13が回転したりする場合があり得る。本実施形態の風力発電設備の点検方法によれば、このような場合にもドローン30に搭載されたカメラ33を用いてドローン30の自律飛行により風車10のブレード11を適切に外観点検できる。
【0101】
具体的に、着床式の洋上風力発電設備および陸上風力発電設備の場合には、前述の式(4A)および(5A)において、推定移動ベクトル(D
p(t),D
q(t),D
r(t))は(0,0,0)である。また、式(4B)および(5B)において、風車10の移動速度ベクトル(d
p,d
q,d
r)は(0,0,0)である。また、
図15のフローチャートにおいて、ステップS140およびS150は実行されない。その他の点については、実施の形態2は実施の形態1と同様であるので説明を繰り返さない。
【0102】
したがって、実施の形態2の風力発電設備の点検方法では、風車10のナセル13に取り付けられた測距センサ(LiDARセンサ)22の検出データを利用して、ブレード11の回転軸25のまわりの角度が定期的に判定される。そして、現時点までのブレード11の回転軸まわり角度の変化に基づいて、現時点から所定時間後までのブレード11の回転角が推定される。さらに、風車10のナセル13に設けられた電子コンパス65の検出データ、またはナセル13に取り付けられた少なくとも2個の測位アンテナ20A,20Bによって検出された測位信号に基づいて、ナセル13の方位が定期的に判定される。そして、現時点までのナセル13の方位の変化に基づいて、現時点から上記所定時間後までのナセル13の回転角が推定される。現時点から上記所定時間後までのブレード11に沿ったドローン30の飛行経路は、現時点のブレード11の角度、推定されたブレード11の回転角、現時点のナセル13の方位、および推定されたナセル13の回転角に基づいて決定される。
【0103】
今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものでないと考えられるべきである。この出願の範囲は上記した説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0104】
10 風車、11,11A~11C ブレード、12 ハブ、13 ナセル、14 タワー、15 浮体、17 海面、18 海底、20A 第1測位アンテナ、20B 第2測位アンテナ、21 無線アンテナ、22 測距センサ(LiDARセンサ)、23 レーザー光、26L 前縁、26T 後縁、30 ドローン、31 本体部、32 プロペラ、33 カメラ、34 測位アンテナ、35 無線アンテナ、36 腕部、37 脚部、40 測位衛星、41 測位信号、42 無線通信信号、50A,50B,70,91 制御用計算機、51 増速機、52 ブレーキ装置、53 発電機、61 ロータ軸、55 ピッチ制御装置、56 駆動装置、57A,57B,72 測位信号受信機、58,73 送受信機、59,79 蓄電池、60,80 電源回路、62 動力伝達軸、63 変圧器、64 電力ケーブル、65 電子コンパス、71 慣性計測ユニット、74 記憶装置、75 リーダライタ、76 記録媒体、77 モータ駆動回路、78 プロペラモータ、90 コントローラ、100 洋上風力発電設備、WP0~WP19 ウェイポイント。