(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023042266
(43)【公開日】2023-03-27
(54)【発明の名称】インクジェット用光硬化性組成物、画像表示装置の製造方法、および画像表示装置
(51)【国際特許分類】
C09D 11/101 20140101AFI20230317BHJP
C08F 222/20 20060101ALI20230317BHJP
C09D 11/30 20140101ALI20230317BHJP
G09F 9/00 20060101ALI20230317BHJP
B32B 27/16 20060101ALI20230317BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20230317BHJP
B05D 1/26 20060101ALI20230317BHJP
B05D 3/06 20060101ALI20230317BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20230317BHJP
【FI】
C09D11/101
C08F222/20
C09D11/30
G09F9/00 338
G09F9/00 302
B32B27/16 101
B32B27/30 A
B05D1/26 Z
B05D3/06 102Z
B05D7/24 301T
B05D7/24 302P
B05D7/24 302Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】21
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021149478
(22)【出願日】2021-09-14
(71)【出願人】
【識別番号】000108410
【氏名又は名称】デクセリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000224
【氏名又は名称】弁理士法人田治米国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 司
(72)【発明者】
【氏名】原 大輔
(72)【発明者】
【氏名】君島 久士
【テーマコード(参考)】
4D075
4F100
4J039
4J100
5G435
【Fターム(参考)】
4D075AC06
4D075AC07
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4D075BB46Z
4D075BB96Z
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4J100JA03
4J100JA07
4J100JA32
5G435AA17
5G435BB05
5G435HH05
5G435KK05
5G435LL07
(57)【要約】
【課題】画像表示部材と光透過性カバー部材とが、光透過性光硬化樹脂層を介して積層されてなる画像表示装置における当該光透過性光硬化樹脂層の形成を、ピエゾ素子を用いる一般的な小型のインクジェット装置でも実施可能な光硬化性組成物であって、従来の光硬化性樹脂組成物の光硬化後の粘着性や保持力や光透過性と同等以上の特性を示す光硬化性組成物を提供する。
【解決手段】画像表示部材と光透過性カバー部材とが、光透過性光硬化樹脂層を介して積層されてなる画像表示装置の当該光透過性光硬化樹脂層を形成するためのインクジェット用光硬化性組成物は、ヒドロキシ基含有単官能(メタ)アクリレートモノマーを少なくとも80質量%含有する。ヒドロキシ基含有単官能(メタ)アクリレートモノマーは、好ましくはC1~6アルキル(メタ)アクリレートモノマーである。例えば、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート又はヒドロキシブチルアクリレートが挙げられる。中でも、4-ヒドロキシブチルアクリレートが好ましい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
画像表示部材と光透過性カバー部材とが、光透過性光硬化樹脂層を介して積層されてなる画像表示装置の当該光透過性光硬化樹脂層を形成するためのインクジェット用光硬化性組成物であって、
ヒドロキシ基含有単官能(メタ)アクリレートモノマーを少なくとも80質量%含有するインクジェット用光硬化性組成物。
【請求項2】
ヒドロキシ基含有単官能(メタ)アクリレートモノマーが、ヒドロキシC1~6アルキル(メタ)アクリレートモノマーである請求項1記載のインクジェット用光硬化性組成物。
【請求項3】
ヒドロキシ基含有単官能(メタ)アクリレートモノマーが、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート又はヒドロキシブチルアクリレートである請求項1記載のインクジェット用光硬化性組成物。
【請求項4】
ヒドロキシ基含有単官能(メタ)アクリレートモノマーが、4-ヒドロキシブチルアクリレートである請求項1記載のインクジェット用光硬化性組成物。
【請求項5】
更に、ヒドロキシ基非含有単官能(メタ)アクリレートモノマーを、20質量%を超えない量で含有する請求項1~4のいずれかに記載のインクジェット用光硬化性組成物。
【請求項6】
ヒドロキシ基非含有単官能(メタ)アクリレートモノマーが、C8~20アルキル(メタ)アクリレートモノマー、シクロアルキル又はビシクロアルキル(メタ)アクリレートモノマー、又はヘテロシクロアルキル又はヘテロビシクロアルキル(メタ)アクリレートモノマーである請求項5記載のインクジェット用光硬化性組成物。
【請求項7】
ヒドロキシ基非含有単官能(メタ)アクリレートモノマーが、イソステアリルアクリレート又はラウリルアクリレートである請求項5記載のインクジェット用光硬化性組成物。
【請求項8】
ヒドロキシ基非含有単官能(メタ)アクリレートモノマーが、イソボルニルアクリレートである請求項5記載のインクジェット用光硬化性組成物。
【請求項9】
ヒドロキシ基非含有単官能(メタ)アクリレートモノマーが、モルフォリルアクリレートである請求項5記載のインクジェット用光硬化性組成物。
【請求項10】
更に、多官能(メタ)アクリレートモノマーを、0.01質量%以上20質量%以下含有する請求項1~9のいずれかに記載のインクジェット用光硬化性組成物。
【請求項11】
多官能(メタ)アクリレートモノマーが、ペンタエリスリトールトリ又はテトラアクリレート、又はヘキサンジオールジアクリレートである請求項10記載のインクジェット用光硬化性組成物。
【請求項12】
光重合開始剤として、光ラジカル重合開始剤を、0.1質量%以上5質量%以下含有する請求項1~11のいずれかに記載のインクジェット用光硬化性組成物。
【請求項13】
光ラジカル重合開始剤が、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニルフォスフィンオキサイドである請求項12記載のインクジェット用光硬化性組成物。
【請求項14】
コーンプレートレオメータを用い、25℃、コーン及びプレートC35/2、回転数10rpmという条件で測定した粘度が、5mPa・s以上30mPa・s以下である請求項1~13のいずれかに記載のインクジェット用光硬化性組成物。
【請求項15】
JIS K0070による水酸基価が50mgKOH/g以上800mgKOH/g以下である請求項1~14のいずれかに記載のインクジェット用光硬化性組成物。
【請求項16】
重量平均分子量が5000以上の高分子物質、有機溶剤並びに有機顔料を含有しない請求項1~15のいずれかに記載のインクジェット用光硬化性組成物。
【請求項17】
画像表示部材と光透過性カバー部材とが、光透過性光硬化樹脂層を介して積層されてなる画像表示装置の製造方法であって、以下の工程(イ)~(ハ):
工程(イ)
画像表示部材又は光透過性カバー部材の表面に、請求項1~16のいずれかに記載のインクジェット用光硬化性組成物を、インクジェット法により吐出させて光硬化性組成物層を形成する工程:
工程(ロ)
光硬化性組成物層に対して紫外線を照射し、硬化率が10%以上の光透過性光硬化樹脂層を形成する工程;
工程(ハ)
光透過性光硬化樹脂層を介して、画像表示部材と光透過性カバー部材とを積層する工程
を有する製造方法。
【請求項18】
更に以下の工程(ニ)
工程(ニ)
工程(ハ)に続き、光透過性カバー部材側から紫外線を更に照射する工程
を有する請求項17記載の製造方法。
【請求項19】
工程(ハ)の積層の際に、異形接合が実施されている請求項17又は18記載の製造方法。
【請求項20】
工程(イ)において、画像表示部材として偏光板を備えた有機ELパネルを選択し、偏光板上にインクジェット用光硬化性組成物を、インクジェット法により吐出させている請求項17~19のいずれかに記載の製造方法。
【請求項21】
画像表示部材と光透過性カバー部材とが、請求項1~16のいずれかに記載のインクジェット用光硬化性組成物から誘導された光透過性光硬化樹脂層を介して積層されてなる画像表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット用光硬化性組成物に関する。また、本発明は、有機ELパネル等の画像表示部材とその表面側に配される光透過性カバー部材とを、インクジェット用光硬化性組成物から誘導された光透過性の光硬化樹脂層を介して積層されてなる画像表示装置を製造する方法、並びにそのように製造された画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
スマートフォン等の情報端末に用いられている画像表示装置の多くは、フラットな矩形表面を有する有機ELパネル等の画像表示部材と、光透過性のガラスやプラスチック板等の光透過性カバー部材とのいずれかに、スリット式樹脂用ディスペンサーを用いて比較的高粘度(例えばコーンプレートレオメータによる粘度が1000mPa・s~5000mPa・s程度)の光硬化性樹脂組成物を膜状に塗布した後、その組成物膜に紫外線を照射し硬化させて光透過性硬化樹脂層とし、その光透過性硬化樹脂層を介して画像表示部材と光透過性カバー部材とを接着・積層することにより製造されている(特許文献1)。
【0003】
ところで、近年、画像表示装置が様々な工業製品に利用されるようになるにつれ、画像表示装置の画面形状として、フラットな矩形形状から、楕円形状、湾曲形状、立体形状等の異形形状が求められるようになっている。このため、異形形状の画像表示部材や光透過性カバー部材への光硬化性樹脂組成物層の形成に、従来のスリット式樹脂用ディスペンサーに代えて、微小面や曲面への対応が可能なインクジェット装置を使用することが試みられている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】WO2010/027041
【特許文献2】特開2017-31309号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の光硬化性樹脂組成物は、光硬化後の粘着性や保持力や光透過性については満足できる性状を示すものの、比較的高分子量の樹脂やオリゴマーを含有しているため粘度が比較的高く、ピエゾ素子を用いる一般的な小型のインクジェット装置のノズルから吐出させることが困難であるという問題があった。
【0006】
本発明の目的は、以上の従来の技術の問題点を解決することであり、画像表示部材と光透過性カバー部材とが、光透過性光硬化樹脂層を介して積層されてなる画像表示装置における当該光透過性光硬化樹脂層を形成するための光硬化性組成物として、ピエゾ素子を用いる一般的な小型のインクジェット装置でも吐出可能であり、しかも従来の光硬化性樹脂組成物の光硬化後の粘着性や保持力や光透過性と同等以上の特性を示す組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、ピエゾ素子を用いる小型で一般的なインクジェット装置にも適用可能な光透過性の光硬化性組成物の大部分を、ヒドロキシ基含有単官能(メタ)アクリレートモノマーで構成することにより、本発明の目的を達成できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
即ち、本発明は、画像表示部材と光透過性カバー部材とが、光透過性光硬化樹脂層を介して積層されてなる画像表示装置の当該光透過性光硬化樹脂層を形成するためのインクジェット用光硬化性組成物であって、ヒドロキシ基含有単官能(メタ)アクリレートモノマーを少なくとも80質量%含有するインクジェット用光硬化性組成物を提供する。
【0009】
また、本発明は、画像表示部材と光透過性カバー部材とが、光透過性光硬化樹脂層を介して積層されてなる画像表示装置の製造方法であって、以下の工程(イ)~(ハ):
工程(イ)
画像表示部材又は光透過性カバー部材の表面に、上述のインクジェット用光硬化性組成物を、インクジェット法により吐出させて光硬化性組成物層を形成する工程:
工程(ロ)
光硬化性組成物層に対して紫外線を照射し、硬化率が10%以上の光透過性光硬化樹脂層を形成する工程;
工程(ハ)
光透過性光硬化樹脂層を介して、画像表示部材と光透過性カバー部材とを積層する工程
を有する製造方法を提供する。
【0010】
更に本発明は、画像表示部材と光透過性カバー部材とが、上述の本発明のインクジェット用光硬化性組成物から誘導された光透過性光硬化樹脂層を介して積層されてなる画像表示装置を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明のインクジェット用光硬化性組成物は、ヒドロキシ基含有単官能(メタ)アクリレートモノマーを少なくとも80質量%含有する。このため、本発明のインクジェット用光硬化性組成物は、ピエゾ素子を用いる一般的な小型のインクジェット装置で吐出可能である。しかも、その光硬化物は、良好な粘着力と保持力とを示し、更に良好な光透過性を示す。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明の画像表示装置の製造方法の説明図である。
【
図2】
図2は、本発明の画像表示装置の製造方法の説明図である。
【
図3】
図3は、本発明の画像表示装置の製造方法の説明図である。
【
図4】
図4は、本発明の画像表示装置の製造方法の説明図である。
【
図5】
図5は、粘着力試験及び保持力試験に投入するサンプルの断面図である。
【
図8】
図8は、光透過率試験用サンプルの作成説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<インクジェット用光硬化性組成物>
本発明のインクジェット用光硬化性組成物は、画像表示部材と光透過性カバー部材とが、光透過性光硬化樹脂層を介して積層されてなる画像表示装置の当該光透過性光硬化樹脂層を形成するための組成物である。その特徴は、ヒドロキシ基含有単官能(メタ)アクリレートモノマーを少なくとも80質量%、好ましくは88質量%以上含有することである。80質量%未満であると、その光硬化物の粘着力と保持力と光透過性とが過度に低下する傾向がある。
【0014】
ここで、「インクジェット用」とは、光硬化性組成物がインクジェット装置から吐出させるのに特に適しているということを意味しており、他の一般的な塗布法に適用できないということを意味しているものではない。また、適用可能な「インクジェット」装置としては、ピエゾ素子方式、サーマル方式のいずれの方式の装置にも適用できるが、ノズルの目詰まりを抑制し易いことからピエゾ素子方式のインクジェット装置を好ましく適用することができる。
【0015】
「画像表示部材」としては、有機ELパネル、液晶表示パネル、プラズマ表示パネル等の公知の画像表示パネルを使用することができるが、特に、湾曲性に優れた有機ELパネルを好ましく使用することができる。これらの画像表示部材には、必要に応じて偏光板を設けることができる。また、「光透過性カバー部材」は、画像表示部材を外力から保護し、酸素などのガスから画像表示部材を遮断するためのものである。また、それを通して画像を視認するものであるから、光透過性のガラス板、プラスチック板を使用することができる。「画像表示装置」としては、テレビセット、スマートフォン、モバイルコンピュータ、腕時計、タッチパネル等が挙げられる。
【0016】
また、インクジェット用光硬化性組成物の「光硬化性」とは、主に紫外線の照射によりラジカル重合、カチオン重合若しくはアニオン重合により硬化反応し得る性質を意味する。
【0017】
本発明のインクジェット用光硬化性組成物は、前述したとおり、ヒドロキシ基含有単官能(メタ)アクリレートモノマーを少なくとも80質量%含有する。ここで、ヒドロキシ基含有単官能(メタ)アクリレートモノマーは、含有するヒドロキシ基の数が1つであることが、光硬化物の耐水性の点から好ましいが、2つ以上有していてもよい。また、単官能であるから(メタ)アクリレート残基が1つであることが必要である。これは、2つ以上あると、光硬化物の粘着力や保持力が大きく低下することが懸念されるからである。なお、“(メタ)アクリレート”は、メタクリレートとアクリレートとを包含する。
【0018】
以上説明したヒドロキシ基含有単官能(メタ)アクリレートモノマーとしては、好ましくはヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートモノマーが挙げられる。ここで、アルキルの炭素数は限定されるものではないが、通常C1~12、好ましくはC1~6であり、具体的にはメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、secブチル、tertブチル、ペンチル、ヘキシル、2-エチルブチルなどが挙げられる。中でも、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシブチルアクリレートが好ましく、特に、4-ヒドロキシブチルアクリレートが好ましい。
【0019】
本発明のインクジェット用光硬化性組成物は、更に、光硬化物の諸特性を調整するために、ヒドロキシ基を含有しないヒドロキシ基非含有単官能(メタ)アクリレートモノマーを含有することができる。その含有量は、光硬化物に所期の粘着性を付与する点からは好ましくは20質量%を超えないようにする。このようなヒドロキシ基非含有単官能(メタ)アクリレートモノマーとしては、C8~20アルキル(メタ)アクリレートモノマー、シクロアルキル又はビシクロアルキル(メタ)アクリレートモノマー、又はヘテロシクロアルキル又はヘテロビシクロアルキル(メタ)アクリレートモノマーを挙げることができる。
【0020】
ヒドロキシ基非含有の好ましいC8~20アルキル(メタ)アクリレートモノマーとしては、イソステアリルアクリレート、ラウリルアクリレートを挙げることができる。ヒドロキシ基非含有のシクロアルキル又はビシクロアルキル(メタ)アクリレートモノマーとしては、好ましくはイソボルニルアクリレートを挙げることができる。ヒドロキシ基非含有のヘテロシクロアルキル又はヘテロビシクロアルキル(メタ)アクリレートモノマーとしては、好ましくはモルフォリルアクリレートを挙げることができる。
【0021】
本発明のインクジェット用光硬化性組成物は、更に、その光硬化物に凝集力を付与し、機械的強度を向上させ、更に耐溶剤性を向上させる点から多官能(メタ)アクリレートモノマーを含有することができる。その含有量は、その光硬化物に所期の粘着性を付与する点から好ましくは0.01質量%以上20質量%以下である。このような多官能(メタ)アクリレートモノマーとしては、アルキルジオール、シクロアルキルジオール、ジシクロアルキルジオール等のポリオール化合物に2以上の(メタ)アクリレート残基が結合した化合物が挙げられる。特に好ましい多官能(メタ)アクリレートモノマーとしては、ペンタエリスリトールトリ又はテトラアクリレート、ヘキサンジオールジアクリレート等を挙げることができる。
【0022】
本発明のインクジェット用光硬化性組成物は、公知の光ラジカル、光カチオン又は光アニオン重合開始剤を含有することができる。その含有量は、光重合開始剤の重合形式によって異なるが、光ラジカル重合開始剤の場合、好ましくは0.1質量%以上5質量%以下である。好ましい光ラジカル重合開始剤としては、アルキルフェノン系光重合開始剤、特にOmnirad 184(1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン,IGM Resins B.V.)や、アシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤、特にOmnirad TPO(2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニルフォスフィンオキサイド、IGM Resins B.V.)等を挙げることができる。
【0023】
本発明のインクジェット用光硬化性組成物は、良好なインクジェット吐出を実現するために適切な粘度を有することが必要であり、具体的には、コーンプレートレオメータ(RS600、HAAKE社)を用い、25℃、コーン及びプレートC35/2、回転数10rpmという条件で測定した粘度が、インクジェット吐出物の形状保持性の点から好ましくは1mPa・s以上、より好ましくは5mPa・s以上であり、円滑な吐出性の点から好ましくは30mPa・s以下、より好ましくは20mPa・s以下である。
【0024】
また、本発明のインクジェット用光硬化性組成物は、JIS K0070による水酸基価が、光硬化物の密着性、表面硬度の点から好ましくは50mgKOH/g以上、より好ましくは200mgKOH/g以上であり、光硬化物の耐水性の点から好ましくは800mgKOH/g以下、より好ましくは500mgKOH/g以下である。
【0025】
本発明のインクジェット用光硬化性組成物は、低粘度化の点から重量平均分子量が5000以上の高分子物質を含有しないことが好ましい。また、溶剤除去時間、環境負荷軽減の点から有機溶剤並びに有機顔料を含有しないことが好ましい。
【0026】
なお、本発明のインクジェット用光硬化性組成物は、必要に応じて、シランカップリング剤、酸化防止剤などの成分を、発明の効果を損なわない範囲で含有することができる。
【0027】
本発明のインクジェット用光硬化性組成物は、ヒドロキシ基含有単官能(メタ)アクリレートモノマーに、それが80質量%以上となるように、必要に応じて他の成分を適宜添加し、均一に混合することにより調製することができる。
【0028】
以上説明したインクジェット用光硬化性組成物は、画像表示部材と光透過性カバー部材とが、光透過性光硬化樹脂層を介して積層されてなる画像表示装置の当該光透過性光硬化樹脂層を形成するために特に適したものである。以下に、本発明の、画像表示装置の製造方法を説明する。
【0029】
<画像表示装置の製造方法>
画像表示部材と光透過性カバー部材とが、光透過性の光硬化樹脂層を介して積層されてなる画像表示装置は、以下の工程(イ)~(ハ)を有する。
【0030】
(工程(イ))
まず、
図1に示すように画像表示部材1(又は光透過性カバー部材)の表面に、本発明のインクジェット用光硬化性組成物2を、インクジェット法により吐出させて光硬化性組成物層3を形成する。具体的には、好ましくはピエゾ素子方式の一般的なインクジェット装置のインクジェットヘッドIJHのノズルNZから、インクジェット用光硬化性組成物2を微小液滴で吐出させ、画像表示部材1の片面に光硬化性組成物層3を形成する。光硬化性組成物層3は、2次元的に空隙のない単層であってもよく、ライン状であってもよく、ドット状であってもよい。光硬化性組成物層3の層厚も適宜設定することができる。なお、画像表示部材1や光透過性カバー部材は、フラットな矩形形状でもよいが、湾曲した形状、円形や楕円形、筒状などの異形形状であってもよい。なお、好ましい画像表示部材1としては、偏光板を備えた有機ELパネルを好ましく採用することができる。
【0031】
(工程(ロ))
次に、
図2に示すように、光硬化性組成物層3に対して紫外線(UV)を照射し、硬化率が10%以上、好ましくは30%以上85%以下の光透過性の光硬化樹脂層4を形成する。ここで、硬化率は、ゲル分率とも称され、紫外線照射前の光硬化性組成物層中の(メタ)アクリロイル基の存在量に対する紫外線照射後の(メタ)アクリロイル基の存在量の割合(消費量割合)として定義される数値であり、この数値が大きい程、硬化が進行していることを示す。具体的には、硬化率(ゲル分率)は、紫外線照射前の光硬化性組成物層3のFT-IR測定チャートにおけるベースラインからの1640~1620cm
-1の吸収ピーク高さ(X)と、紫外線照射後の光硬化性組成物層のFT-IR測定チャートにおけるベースラインからの1640~1620cm
-1の吸収ピーク((メタ)アクリロイル基の炭素炭素二重結合に由来する吸収ピーク)の高さ(Y)とを、以下の数式に代入することにより算出することができる。
【0032】
【0033】
なお、硬化率の調整は、紫外線の種類、照射強度、照射時間等を適宜変更することにより行うことができる。
【0034】
また、光透過性の光硬化樹脂層4の光透過性の程度は、厚さ0.1mmのときに波長550nmの光の透過率が90%以上となる程度である。
【0035】
(工程(ハ))
次に、
図3に示すように、光硬化樹脂層4を介して、画像表示部材1と光透過性カバー部材5とを常法に従って積層する。これにより画像表示装置10が得られる。なお、画像表示部材1及び光透過性カバー部材5として、一般的にはフラットな矩形形状のものが想定されているが、本発明においては、それに限らず、楕円形状、湾曲形状、立体形状等の異形形状のものも使用できる。従って、工程(ハ)の積層の際には、異形接合を実施することができる。
【0036】
(工程(ニ))
なお、工程(ハ)に続き、
図4に示すように、光硬化樹脂層4に対し、光透過性カバー部材5側から紫外線(UV)を更に照射する。これにより、光硬化樹脂層4の硬化率を更に上げ、画像表示装置10の性能の安定化を図ることができる。
【0037】
以上説明した画像表示装置の製造方法で製造される画像表示装置、即ち、画像表示部材と光透過性カバー部材とが、本発明のインクジェット用光硬化性組成物から誘導された光透過性光硬化樹脂層を介して積層されてなる画像表示装置も本発明の一態様である。この画像表示装置は、画像表示部材と光透過性カバー部材とが、本発明のインクジェット用光硬化性組成物から誘導される光透過性に優れた光透過性光硬化樹脂層を介して積層されているので、画像表示部材と光透過性カバー部材とがしっかりと接合されており、しかも画像の視認性も良好である。
【実施例0038】
以下、本発明を具体的に説明する。
【0039】
実施例1~10、比較例1,2
表1に示す配合組成の成分を均一に混合することにより、インクジェット用光硬化性組成物を調製した。得られたインクジェット用光硬化性組成物について、以下に説明するように、「粘度・インクジェット適性」、「粘着力」、「保持力」及び「光透過性」について試験評価した。得られ結果を表1に併せて示す。
【0040】
なお、表1の成分の詳細は以下のとおりである。
(ヒドロキシ基含有単官能アクリレート)
4HBA:4-ヒドロキシブチルアクリレート、大阪有機化学工業(株)
HPA:ヒドロキシプロピルアクリレート、大阪有機化学工業(株)
HEA:ヒドロキシエチルアクリレート、大阪有機化学工業(株)
(ヒドロキシ基非含有単官能アルキルアクリレート)
ISTA:イソステアリルアクリレート、大阪有機化学工業(株)
LA:ラウリルアクリレート(製品名;NKエステルLA)、新中村化学工業(株)
(ヒドロキシ基非含有単官能脂環式アクリレート)
IBOA:イソボニルアクリレート(製品名;SR506)、アルケマ社
(ヒドロキシ基非含有単官能ヘテロ環式アクリレート)
ACMO:アクリロイルモルフォリン、KJケミカルズ(株)
(ヒドロキシ基含有トリアクリレート)
PETA:ペンタエリスリトールトリアクリレート(製品名;Miramer M340)、Miwon社
(アルキルジアクリレート)
HDDA:ヘキサンジオールジアクリレート(製品名;Miramer M200)、Miwon社
(光重合開始剤)
Omnirad TPO:2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィンオキサイド、IGM Resins B.V.
Omnirad 184:1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン、IGM Resins B.V.
【0041】
(粘度・インクジェット適性)
インクジェット用光硬化性組成物の粘度を、コーンプレートレオメーター(RS600、HAAKE社)を用い、25℃、コーン及びプレートC35/2、回転数10rpmの条件で測定した。測定結果を表1に示す。インクジェット用光硬化性組成物の粘度は、5mPa・s以上30mPa・s以下の範囲であることが望まれる。
【0042】
また、表1に記載の各インクジェット用光硬化性組成物を、ピエゾ素子方式のインクジェット装置(試作機)のインクタンクに充填し、湾曲(凹み)したガラスプレートにインクジェット用光硬化性組成物の厚みが0.5μmとなるようにインクジェット装置を稼動させてガラスプレート全面に吐出させた。なお、インクジェット用光硬化性組成物の粘度が8mPa・sを下回る実施例3については、インクジェット用光硬化性組成物をガラスプレートに1往復吐出させて光硬化処理した後、更にその上に1往復吐出させた。所定の厚み(0.5μm)に吐出させることができた場合を、インクジェット適性について良好「〇」と評価し、所定の厚みに吐出させることができなかった場合を不良「×」と評価した。その結果、実施例1-10及び比較例1-2のインクジェット用光硬化性組成物は、いずれも低粘度で処方されているため、意図した厚みに吐出させることができ、良好「○」と評価できた。
【0043】
(粘着力試験及び保持力試験に投入するサンプル)
インクジェット用光硬化性組成物を、“粘度・インクジェット適性”の評価で使用したインクジェット装置から、25mm幅の短冊状のバッキングシート(ポリエステルテレフタレート(PET)シート)の一端から他端に向かって、幅いっぱいに厚さ0.5mm、長さ6cm(粘着力試験の場合)又は25mm(保持力試験の場合)となるように吐出させた。形成された光硬化性組成物層に対し、LEDから波長365nmの紫外線を2000mJ/cm
2で照射し、バッキングシートB上に光硬化樹脂層Rを形成することにより、粘着力試験及び保持力試験に投入するサンプル(
図5)を作成した。
【0044】
(粘着力試験)
粘着力試験サンプルを被着体であるガラス板に置き、その上から質量2kgのローラーを1往復させることにより貼りつけ、25℃の室内で1時間放置した。放置後、引っ張り試験機(AGS-H、(株)島津製作所)を用い、
図6に示すように、矢印の方向(180度方向)にバッキングシートBを引っ張り速度300mm/minで引っ張り、剥離強度を測定した。実用上、180度剥離強度が20N/25mm以上であることが望まれる。なお、バッキングシートが破壊された場合には表中「材破」と記載した。
【0045】
(保持力試験)
保持力試験サンプルを被着体であるガラス板に置き、その上から質量2kgのローラーを1往復させることにより貼りつけ、25℃の室内で1時間放置した。放置後、保持力試験機(BE-501、テスター産業(株))を用い、
図7に示すように、バッキングシートに対し、鉛直方向(図中矢印方向)に質量1kgの負荷Wを掛けた。バッキングシートが落下しない場合を良好「○」と評価し、1時間後のずれ量(mm)を測定した。ずれ量が少ないほど好ましいと評価できる。また、バッキングシートが落下した場合を不良「×」と評価し、落下するまでの時間を測定した。不良と評価した場合であっても、落下する時間が長いことが望まれる。
【0046】
(光透過性試験)
0.4mm厚の透明ガラス板に、インクジェット用光硬化性組成物を、粘度・インクジェット適性の評価で使用したインクジェット装置から0.1mm厚となるように吐出させ、形成された光硬化性組成物層上に0.4mm厚の透明ガラス板を被せた。次に、
図8に示すように、片面の透明ガラス板を介して、メタルハライドランプから紫外線を5000mJ/cm
2で照射し、一対のガラス板の間に光硬化樹脂層Rを形成した。この光硬化樹脂層の550nmの光の透過率を、分光光度計(UV-2450,(株)島津製作所)を用いて測定した。透過率が高いほど好ましく、実用上90%以上であることが望まれる。
【0047】
【0048】
(結果の考察)
実施例と比較例との対比から、ヒドロキシ基含有(メタ)アクリレートモノマーを少なくとも80質量%含有するインクジェット用光硬化性組成物は、粘度・インクジェット適性、粘着力、保持力、及び光透過性について、良好な特性を示すことがわかる。
本発明のインクジェット用光硬化性組成物は、ヒドロキシ基含有単官能(メタ)アクリレートモノマーを少なくとも80質量%含有するので、ピエゾ素子を用いる小型で一般的なインクジェット装置で吐出可能である。しかも、その光硬化物は、良好な粘着力と保持力とを示し、更に良好な光透過性を示す。よって、本発明のインクジェット用光硬化性組成物は、画像表示部材と光透過性カバー部材とが光透過性光硬化樹脂層を介して積層されてなる画像表示装置における当該光透過性光硬化樹脂層の形成に有用である。