(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023042363
(43)【公開日】2023-03-27
(54)【発明の名称】磁気ギアード回転機械、発電システム、および、駆動システム
(51)【国際特許分類】
H02K 7/10 20060101AFI20230317BHJP
H02K 16/02 20060101ALI20230317BHJP
F16H 49/00 20060101ALI20230317BHJP
【FI】
H02K7/10 A
H02K16/02
F16H49/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021149617
(22)【出願日】2021-09-14
(71)【出願人】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】508317402
【氏名又は名称】マグノマティックス リミテッド
【氏名又は名称原語表記】MAGNOMATICS LIMITED
【住所又は居所原語表記】Park House, Bernard Road, Sheffield, South Yorkshire S2 5BQ Great Britain
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】池見 健
(72)【発明者】
【氏名】岡部 良次
(72)【発明者】
【氏名】松下 崇俊
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 幹人
(72)【発明者】
【氏名】カルバリー、 スチュアート
(72)【発明者】
【氏名】パウエル、 デビッド
(72)【発明者】
【氏名】クック、 グリン
(72)【発明者】
【氏名】ドラガン、 ラドゥ-ステファン
【テーマコード(参考)】
5H607
【Fターム(参考)】
5H607AA12
5H607BB01
5H607BB02
5H607BB07
5H607BB14
5H607CC03
5H607DD04
5H607EE26
(57)【要約】
【課題】渦電流損失を抑制した磁気ギアード回転機械、発電システム、及び駆動システムを提供する。
【解決手段】磁気ギアード回転機械は、固定子と、複数の回転子磁石を含む回転子と、固定子と回転子との間の径方向位置に設けられた複数の磁極片を含む磁極片回転子と、を備え、各々の磁極片は、軸方向の一方側を向く磁極片端面を有し、各々の回転子磁石は、一方側を向く回転子磁石端面を有し、磁極片端面の少なくとも一部が、回転子磁石端面に対して軸方向の他方側に位置する、または、固定子のティースに設けられた固定子磁石を周方向の両側から挟んで保持する複数のフィンガーの各々が有する一方側を向くフィンガー端面が、ティースが有する一方側を向くティース端面に対して他方側に位置する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定子と、
複数の回転子磁石を含む回転子と、
前記固定子と前記回転子との間の径方向位置に設けられた複数の磁極片を含む磁極片回転子と、を備え、
各々の前記磁極片は、軸方向の一方側を向く磁極片端面を有し、
各々の前記回転子磁石は、前記一方側を向く回転子磁石端面を有し、
前記磁極片端面の少なくとも一部が、前記回転子磁石端面に対して前記軸方向の他方側に位置する関係、または、
前記固定子のティースに設けられた固定子磁石を周方向の両側から挟んで保持する複数のフィンガーの各々が有する前記一方側を向くフィンガー端面が、前記ティースが有する前記一方側を向くティース端面に対して前記他方側に位置する関係、の少なくとも一方の関係が成立する
磁気ギアード回転機械。
【請求項2】
前記固定子は、複数の前記固定子磁石を含み、
各々の前記固定子磁石は、前記一方側を向く固定子磁石端面を有し、
前記固定子磁石端面は、前記回転子磁石端面よりも前記他方側に位置する
請求項1に記載の磁気ギアード回転機械。
【請求項3】
前記固定子磁石端面は、前記磁極片端面と同じ軸方向位置、または、前記磁極片端面と前記回転子磁石端面との間の軸方向位置に設けられる
請求項2に記載の磁気ギアード回転機械。
【請求項4】
前記磁極片端面の少なくとも一部が、前記回転子磁石端面に対して前記他方側に位置し、
前記磁極片は、
前記軸方向に延在し、前記固定子と対向する固定子側対向面と、
前記軸方向に延在し、前記回転子と対向する回転子側対向面とを含み、
前記固定子側対向面は、前記回転子側対向面よりも前記軸方向において長い
請求項1に記載の磁気ギアード回転機械。
【請求項5】
各々の前記磁極片は、前記一方側の端部である第1磁極片端部を含み、
前記第1磁極片端部は、前記固定子側の端部の径方向位置が揃うよう積層された複数枚の電磁鋼板を有し、
前記複数枚の電磁鋼板は、
前記回転子側対向面の一部を形成する第1電磁鋼板と、
前記回転子側対向面よりも前記固定子側の径方向位置に設けられた第2電磁鋼板と、を有する
請求項4に記載の磁気ギアード回転機械。
【請求項6】
前記固定子は、複数の前記固定子磁石を含み、
各々の前記固定子磁石は、前記一方側を向く固定子磁石端面を有し、
前記固定子磁石端面は、前記固定子側対向面の前記一方側の端と同じ軸方向位置、または、前記固定子側対向面の前記一方側の前記端と、前記回転子側対向面の前記一方側の端との間の軸方向位置に設けられる
請求項4または5に記載の磁気ギアード回転機械。
【請求項7】
前記磁極片端面の少なくとも一部が、前記回転子磁石端面に対して前記他方側に位置し、
前記磁極片端面から前記回転子磁石端面までの軸方向距離は、前記回転子磁石の軸方向長さの0.5%以上、且つ、前記回転子磁石の前記軸方向長さの10%以下である
請求項1乃至6の何れか1項に記載の磁気ギアード回転機械。
【請求項8】
前記磁極片端面の少なくとも一部が、前記回転子磁石端面に対して前記他方側に位置し、
各々の前記磁極片は、エアギャップを隔てて前記回転子と対向し、
前記磁極片端面から前記回転子磁石端面までの軸方向距離は、前記磁極片と前記回転子との対向距離の50%以上、且つ、前記対向距離の1200%以下である
請求項1乃至7の何れか1項に記載の磁気ギアード回転機械。
【請求項9】
前記フィンガー端面が、前記ティース端面に対して前記他方側に位置し、
前記フィンガー端面から前記ティース端面までの軸方向距離は、前記ティースの軸方向長さの0.5%以上、且つ、前記ティースの前記軸方向長さの4%以下である
請求項1乃至8の何れか1項に記載の磁気ギアード回転機械。
【請求項10】
前記フィンガー端面が、前記ティース端面に対して前記他方側に位置し、
前記フィンガー端面から前記ティース端面までの軸方向距離は、前記ティースの先端の周方向長さの3%以上、且つ、前記周方向長さの25%以下である
請求項1乃至9の何れか1項に記載の磁気ギアード回転機械。
【請求項11】
原動機と、
前記原動機からの入力によって駆動されて発電するように構成された磁気ギアード発電機としての、請求項1乃至10の何れか1項に記載の磁気ギアード回転機械と
を備える発電システム。
【請求項12】
動力を出力するように構成された磁気ギアードモータとしての、請求項1乃至10の何れか1項に記載の磁気ギアード回転機械と、
前記磁気ギアード回転機械から出力された前記動力によって駆動するように構成された駆動部と
を備える駆動システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、磁気ギアード回転機械、発電システム、および、駆動システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、2つの回転子の間で回転数を変換してトルクを伝達する磁気ギアード回転機械が公知である。例えば、特許文献1で開示される磁気ギアード回転機械は、径方向内側から順に、複数の永久磁石を支持する内部回転子、複数の磁極片を含む外部回転子、および固定子を備える。固定子には、複数の巻線と複数の固定子磁石とが設けられる。巻線で流れる三相交流に応じて生じる回転磁界によって内部回転子が回転すると、内部回転子の永久磁石で生じる磁束が磁極片によって変調される。変調された磁場と固定子磁石の磁場とによって、外部回転子は回転する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
磁気ギアード回転機械が効率的に稼働するためには、例えば固定子及び磁極片などにおける渦電流損失が抑制されることが好ましい。
【0005】
本開示の目的は、渦電流損失を抑制した磁気ギアード回転機械、発電システム、及び駆動システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の少なくとも一実施形態に係る磁気ギアード回転機械は、
固定子と、
複数の回転子磁石を含む回転子と、
前記固定子と前記回転子との間の径方向位置に設けられた複数の磁極片を含む磁極片回転子と、を備え、
各々の前記磁極片は、軸方向の一方側を向く磁極片端面を有し、
各々の前記回転子磁石は、前記一方側を向く回転子磁石端面を有し、
前記磁極片端面の少なくとも一部が、前記回転子磁石端面に対して前記軸方向の他方側に位置する関係、または、
前記固定子のティースに設けられた固定子磁石を周方向の両側から挟んで保持する複数のフィンガーの各々が有する前記一方側を向くフィンガー端面が、前記ティースが有する前記一方側を向くティース端面に対して前記他方側に位置する関係、の少なくとも一方の関係が成立する。
【0007】
本発明の少なくとも一実施形態に係る発電システムは、
原動機と、
前記原動機からの入力によって駆動されて発電するように構成された磁気ギアード発電機としての上記の磁気ギアード回転機械と
を備える。
【0008】
本発明の少なくとも一実施形態に係る駆動システムは、
動力を出力するように構成された磁気ギアードモータとしての上記の磁気ギアード回転機械と、
前記磁気ギアード回転機械から出力された前記動力によって駆動するように構成された駆動部と
を備える。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、渦電流損失を抑制した磁気ギアード回転機械、発電システム、及び駆動システムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1A】一実施形態に係る磁気ギアード回転機械を示す概略図である。
【
図1B】他の実施形態に係る磁気ギアード回転機械を示す概略図である。
【
図2】一実施形態に係る磁気ギアード回転機械の径方向断面図である。
【
図4】第1の実施形態に係る磁極片を含む磁気ギアード回転機械の内部構成を示す概略図である。
【
図5】第2の実施形態に係る磁極片を含む磁気ギアード回転機械の内部構成を示す概略図である。
【
図6】渦電流損失の低減効果を検証するために用意された各種の磁気ギアード回転機械を示す図である。
【
図7】磁気ギアード回転機械の構成要素の軸方向位置を変更させた場合の渦電流損失を示す図である。
【
図8】磁極片端面と回転子磁石端面の軸方向距離に応じた渦電流損失を示す第1のグラフである。
【
図9】磁極片端面と回転子磁石端面の軸方向距離に応じた渦電流損失を示す第2のグラフである。
【
図10】フィンガー端面からティース端面までの軸方向距離に応じた渦電流損失を示す第1のグラフである。
【
図11】フィンガー端面からティース端面までの軸方向距離に応じた渦電流損失を示す第2のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照して本発明の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
【0012】
(磁気ギアード回転機械10の概要)
図1A及び
図1Bは、それぞれ、磁気ギアード回転機械の例を示す概略図である。ここで、
図1A及び
図1Bにおいて、「軸方向」は磁気ギアード回転機械10の磁極片回転子30および回転子40の回転軸(rotational axis)に平行な方向であり、「径方向」は磁極片回転子30および回転子40の回転軸(rotational axis)に直交する方向である。
一実施形態では、
図1Aに示すように、磁気ギアード回転機械10は、原動機2からの入力によって駆動されて発電するように構成された磁気ギアード発電機10Aである。磁気ギアード発電機10Aは、発電により生成した電力Pを例えば電力系統であってもよい電力供給先4に向けて供給するように構成される。
他の実施形態では、
図1Bに示すように、磁気ギアード回転機械10は、例えば電力系統であってもよい電力供給源6からの電力Pの供給を受けて、駆動部8を駆動するように構成される磁気ギアードモータ10Bである。
【0013】
図1Aに示す実施形態では、磁気ギアード発電機10Aは、発電システム1Aの一部を構成する。発電システム1Aは、例えば、風力発電システムや潮流発電システムのような再生可能エネルギー発電システムであってもよい。発電システム1Aが風力発電システムである場合、原動機2は風車ロータである。発電システム1Aが潮流発電システムである場合、原動機2は水車ロータである。
磁気ギアード発電機10Aは、複数の固定子磁石22及び複数の固定子巻線24を含む固定子20と、複数の磁極片31を含む磁極片回転子30と、複数の回転子磁石42を含む回転子40とを備える。
図1Aに示す例では、固定子20は、磁極片回転子30と回転子40を回転可能に支持するハウジング21の内部に配置される。磁極片回転子30は、原動機2の回転シャフト3とともに回転するように構成される。固定子20と回転子40との間の径方向位置に設けられた複数の磁極片31は各々、軸方向に積層された複数の電磁鋼板35を含む。磁極片回転子30は、磁極片31の軸方向両端にそれぞれ設けられるエンドプレート30Aと、原動機2との間で動力を伝達するための動力伝達軸34とを含む。本例の動力伝達軸34は、原動機2の回転シャフト3に連結されると共に、一方のエンドプレート30Aに連結される。動力伝達軸34は、ベアリングB1を介してハウジング21によって回転可能に支持される。動力が原動機2の回転シャフト3から動力伝達軸34に伝達(入力)されることで、磁極片回転子30は回転シャフト3と一体的に回転する。回転子40は、複数の回転子磁石42が設けられるロータコア43と、ロータコア43の軸方向両端にそれぞれ設けられエンドプレート44と、ロータコア43の径方向内側で軸方向に延在する回転シャフト47とを含む。回転シャフト47は、ベアリングB2を介してハウジング21に回転可能に支持される。
なお、
図1Aに示す実施形態では、磁気ギアード発電機10Aは、径方向の内側に向かって、固定子20、磁極片回転子30、及び回転子40の順に配置された構成を有する。別の実施形態では、磁気ギアード発電機10Aは、径方向の内側に向かって、回転子40、磁極片回転子30、及び固定子20の順に配置された構成を有する。
【0014】
上述の磁気ギアード発電機10Aは、磁気ギアと発電機とを一体化したものであり、高調波型磁気ギア原理および電磁誘導を利用することで、原動機2からの機械的入力を電力に変換するものである。
例えば、磁気ギアード発電機10Aにおける発電は以下の原理により行われてもよい。原動機2の回転シャフト3とともに回転する磁極片回転子(低速ロータ)30の磁極片31によって、固定子磁石22の磁束が変調され、変調された磁場から回転子磁石42が磁力を受けて回転子(高速ロータ)40が回転する。このとき、磁極片回転子30に対する回転子40の回転数の比(増速比)は、回転子磁石42の極対数NHに対する磁極片31の磁極数NLの比(=NL/NH)で表される。回転子40が回転することで、電磁誘導によって固定子巻線24に電流が発生する。なお、磁極片31の磁極数NLは、固定子磁石22の極対数NSよりも多い。
磁気ギアード発電機10Aの稼働時、磁気ギアード発電機10Aの内部では、NH次の磁束(主磁束)、及び、NH次よりも高次な高調波磁束(例えば、NH+NS次の磁束)など種々の磁束が生じ得る。これらの磁束の一部は、例えば固定子磁石22を避けるために、磁極片31を軸方向に通過する漏れ磁束Lfになる。漏れ磁束Lfが生じると、各電磁鋼板35では、面内方向に渦電流が発生し得る。磁極片31のうち例えば軸方向両端部にある電磁鋼板35では、比較的大きな渦電流が発生し得る。
また、磁気ギアード発電機10Aの稼働時、例えば固定子磁石22に起因して発生する磁束Lf
0が、
図2を用いて後述する固定子20(より具体的な一例として後述のティース26)を軸方向に通過し得る。これにより、固定子20の軸方向両端部では渦電流が発生し得る。なお、固定子20で発生する渦電流は、回転子磁石42に起因して発生する磁束や固定子巻線24の通電に起因して発生する磁束などがステータコア23を通過することで発生する場合もある。
【0015】
図1Bに示す実施形態において、磁気ギアードモータ10Bは、駆動システム1Bの一部を構成する。駆動部8を含む駆動システム1Bは、磁気ギアードモータ10Bを駆動源として駆動する。一例として、駆動システム1Bは磁気ギアードモータ10Bを動力源として走行する車両であってもよく、この場合、駆動部8の回転シャフト9は、ホイールに動力を伝達するためのドライブシャフトであってもよい。
磁気ギアードモータ10Bの基本構成は、
図1Aに示す磁気ギアード発電機10Aと共通する。すなわち、磁気ギアードモータ10Bは、複数の固定子磁石22及び複数の固定子巻線24を含む固定子20と、複数の磁極片31を含む磁極片回転子30と、複数の回転子磁石42を含む回転子40とを備える。
図1Bに示す例では、固定子20は、磁極片回転子30と回転子40を回転可能に支持するハウジング21の内部に固定される。固定子20と回転子40との間の径方向位置に設けられた複数の磁極片31の各々は、軸方向に積層された複数の電磁鋼板35を含む。磁極片回転子30は、磁極片31の軸方向両端にそれぞれ設けられるエンドプレート30Aと、駆動部8との間で動力を伝達するための動力伝達軸34とを含む。本例の動力伝達軸34は、駆動部8の回転シャフト9に連結されると共に、一方のエンドプレート30Aに連結される。動力伝達軸34は、ベアリングB1を介してハウジング21によって回転可能に支持される。磁気ギアードモータ10Bにおいて生成された動力が動力伝達軸34から駆動部8の回転シャフト9に伝達(出力)されることで、シャフト3Bが回転して、駆動部8は動作する。回転子40は、複数の回転子磁石42が設けられるロータコア43と、ロータコア43の軸方向両端にそれぞれ設けられるエンドプレート44と、ロータコア43の径方向内側で軸方向に延在する回転シャフト47とを含む。回転シャフト47は、ベアリングB2を介してハウジング21に回転可能に支持される。
図1Bに示す実施形態では、磁気ギアードモータ10Bは、径方向の内側に向かって、固定子20、磁極片回転子30、及び回転子40の順に配置された構成を有する。別の実施形態では、磁気ギアードモータ10Bは、径方向の内側に向かって、回転子40、磁極片回転子30、固定子20の順に配置された構成を有する。
【0016】
なお、磁気ギアードモータ10Bは、磁気ギアとモータとを一体化したものであり、固定子巻線24の通電によって発生する回転磁界によって回転子(高速ロータ)40を回転させる。回転子40から磁極片回転子(低速ロータ)30への動力伝達は高調波磁気ギアの原理を利用するものである。稼働する磁気ギアードモータ10Bから出力された動力が回転シャフト9に伝達することによって駆動部8は駆動する。
磁気ギアードモータ10Bの稼働時、磁気ギアード発電機10Aと同様、磁極片31では軸方向の漏れ磁束Lfが発生し得る。この場合、各磁極片31では、面内方向に渦電流が発生し得る。磁極片31のうち例えば軸方向両端部にある電磁鋼板35では、比較的大きな渦電流が発生し得る。
また、磁気ギアードモータ10Bの稼働時、例えば固定子磁石22に起因して発生する磁束Lf0が固定子20(より具体的な一例として後述のティース26)を軸方向に通過し得る。これにより、固定子20の軸方向両端部では渦電流が発生し得る。なお、固定子20で発生する渦電流は、回転子磁石42に起因して発生する磁束や固定子巻線24の通電に起因して発生する磁束などが固定子20を通過することで発生する場合もある。
【0017】
(磁気ギアード電気機械の内部構造)
続けて、
図2を参照して、上述した磁気ギアード回転機械10(10A,10B)の内部構造について説明する。
図2は、一実施形態に係る磁気ギアード回転機械の径方向断面図である。
図2では、図面を見易くする都合、磁気ギアード回転機械10の一部の構成要素にのみ、ハッチングを施している。
図2において、「周方向」は、既述の「軸方向」(
図1A、
図1B参照)を基準とした周方向である。
【0018】
図2で例示されるように、磁気ギアード回転機械10の固定子20は、周方向に延在するステータコア23と、ステータコア23から磁極片回転子30に向けて突出する複数のティース26と、複数のティース26の先端側に設けられる複数の固定子磁石22を含む。周方向に並ぶように配置された複数のティース26のうち隣接する2つの間にはそれぞれ、軸方向に延在する複数のスロット25が設けられる。各々のスロット25の軸方向両端は開放されており、スロット25には上述の固定子巻線24が巻かれている。つまり、複数のティース26は固定子巻線24を支持する。スロット25に収まらない固定子巻線24のコイルエンドはステータコア23から突出してもよい。
また、複数の固定子磁石22は、周方向に交互に並ぶように配置された磁極の異なる複数の固定子磁石22N、22Sを含む。
【0019】
図2に示す例では、各々の固定子磁石22は、矩形断面を有する軸方向に長尺なロッド状部材である。
図2には、固定子磁石22がティース26の表面に取り付けられた表面磁石型(SPM;Surface Permanent Magnet)の構造を有する固定子20を示している。他の実施形態では、固定子20は、固定子磁石22がステータコア23に埋め込まれた埋込磁石型(IPM;Interior Permanent Magnet)の構造を有していてもよい。
【0020】
上記構成の固定子20から径方向にずれた位置に設けられる回転子40は、周方向に並ぶように配置された複数の回転子磁石42を含む。複数の回転子磁石42は、周方向に交互に配置された磁極が互いに異なる複数の永久磁石である。複数の回転子磁石42の磁極数は、複数の固定子磁石22の磁極数よりも少ない。各々の回転子磁石42は、矩形断面を有する長尺なロッド部材であってもよい。
【0021】
図2には、回転子磁石42がロータコア43の表面に取り付けられた表面磁石型(SPM;Surface Permanent Magnet)の構造を有する回転子40を示している。他の実施形態では、回転子40は、回転子磁石42がロータコア43に埋め込まれた埋込磁石型(IPM;Interior Permanent Magnet)の構造を有していてもよい。
【0022】
回転子40は、回転子磁石42及びロータコア43以外にも、
図1A及び
図1Bを参照して上述したエンドプレート44を含んでいてもよい。エンドプレート44は、径方向に沿って延在する環状プレートである。
【0023】
磁極片回転子30は、上記構成の固定子20と回転子40との間の径方向位置において周方向に並ぶように配置された複数の磁極片31を含む。各々の磁極片31は、軸方向に積層された既述の複数の電磁鋼板35(
図1A、
図1B参照)を含む。各々の磁極片31は、第1エアギャップG1を隔てて回転子40と対向し、第2エアギャップG2を隔てて固定子20と対向する。例えば、回転子40と固定子20がいずれも表面磁石型の構造を有する実施形態では、磁極片回転子30は、回転子磁石42と第1エアギャップG1を隔てて対向し、且つ、固定子磁石22と第2エアギャップG2を隔てて対向する。別の実施形態では、磁極片回転子30は、ステータコア23とロータコア43のそれぞれと対向してもよい。
さらに磁極片回転子30は、複数の磁極片31と周方向に交互に配置される複数のホルダ39を含む。一実施形態に係る各々のホルダ39は非磁性材料によって形成される。別の実施形態では、ホルダ39は磁性体材料によって形成されてもよい。各々の磁極片31は、周方向両側にある2つのホルダ39によって挟まれて保持される。
また、磁極片31を構成する複数枚の電磁鋼板35の各々の中央部に、例えば軸方向視で円形であってもよい孔38(
図3参照)が形成されてもよい。軸方向に延在するバー(図示外)がこれらの孔38に差し込まれることで、複数枚の電磁鋼板35が保持されてもよい。上記のバーの軸方向両端はそれぞれ、上述の一対のエンドプレート30A(
図1A参照)に連結されてもよい。
【0024】
続いて、
図3を参照し、一実施形態に係る固定子20のさらに詳細な構成を例示する。
図3は、一実施形態に係る固定子の概略図である。固定子20は、ティース26の先端に設けられた固定子磁石22をそれぞれ周方向の両側から挟んで保持する複数のフィンガー29をさらに含んでもよい。軸方向に延在する各フィンガー29は、ティース26の先端側の表面に、ティース26と一体構造となって設けられている。フィンガー29はティース26に直接的に接続されてもよいし、フィンガー29の少なくとも一部がホルダなどの別の部材を介してティース26に間接的に接続されてもよい。
図3では、ティース26の先端における周方向における長さ(以下、ティース26の先端幅ともいう)を寸法Lwによって示している。
また、ティース26は、軸方向の一方側を向くティース端面26Aと、ティース端面26Aとは反対側のティース反対面26Bを含む(
図4参照)。
【0025】
(第1の実施形態に係る磁極片32と回転子40との位置関係)
図4を参照し、磁気ギアード回転機械10の内部構造の詳細を説明する。
図4は、第1の実施形態に係る磁極片を含む磁気ギアード回転機械の内部構成を示す概略図である。
【0026】
第1の実施形態に係る磁極片32(31)は軸方向の一方側を向く磁極片端面32Aを含み、回転子磁石42は軸方向の一方側を向く回転子磁石端面42Aを含む。本実施形態では、磁極片端面32Aの少なくとも一部が、回転子磁石端面42Aに対して軸方向の他方側に位置する関係(以下、第1の位置関係ともいう)が成立する。
また、軸方向の他方側でも同様の位置関係が成立する。詳細には、磁極片32は磁極片端面32Aとは反対側の磁極片反対面32Bを含み、回転子磁石42は回転子磁石端面42Aとは反対側の回転子磁石反対面42Bを含む。そして、磁極片反対面32Bの少なくとも一部が、回転子磁石反対面42Bに対して軸方向の一方側に位置する関係(以下、第2の位置関係ともいう)が成立する。
従って、
図4で例示される実施形態では、磁極片32は、回転子磁石42の軸方向両端の間となる軸方向位置に設けられる。つまり、本例の磁極片32は回転子磁石42よりも軸方向において短い。
また、
図4で例示される実施形態では、磁極片32を構成する複数枚の電磁鋼板35は互いに同じ大きさを有する。従って、最も一方側に位置する1枚の電磁鋼板35の片面のみが磁極片端面32Aを形成し、最も他方側に位置する1枚の電磁鋼板35の片面のみが磁極片反対面32Bを形成する。
なお、磁極片端面32Aと磁極片反対面32Bはそれぞれ、複数枚の電磁鋼板35の片面によって構成されてもよい(詳細は
図5を用いて後述する)。
【0027】
発明者らの知見によれば、第1の位置関係が成立することで、磁極片32の軸方向一端部における渦電流は低減する。同様に、第2の位置関係が成立することで、磁極片32の軸方向他端部における渦電流は低減する。よって、上記構成によれば、渦電流損失を低減した磁気ギアード回転機械10を実現できる。第1の位置関係または第2の位置関係の少なくとも一方の位置関係は、後述の第3の位置関係が不成立のときでも成立してよい。
なお、他の実施形態では、第2の位置関係は成立しなくてもよい。つまり、磁極片反対面32Bが回転子磁石反対面42Bと同じ軸方向位置、または、回転子磁石反対面42Bよりも軸方向の他方側に位置してもよい。この場合でも、第1の位置関係の成立により、磁気ギアード回転機械10の渦電流損失の低減効果を享受することができる。
【0028】
磁極片端面32Aから回転子磁石端面42Aまでの軸方向距離(寸法La1)の詳細を説明する。本実施形態では、寸法La1が、回転子磁石42の軸方向長さ(寸法Lr)の0.5%以上、且つ、回転子磁石42の軸方向長さの10%以下である。
軸方向他方側でも同様の関係が成立する。詳細には、磁極片反対面32Bから回転子磁石反対面42Bまでの軸方向距離(寸法La2)は、回転子磁石42の軸方向長さの0.5%以上、且つ、回転子磁石42の軸方向長さの10%以下である。
なお、
図4は概略図であるので、磁気ギアード回転機械10に含まれる構成要素の上記のような長さの関係、および、位置関係が忠実に示されているとは限らない。これは、別途後述の長さの関係および位置関係についても同様であるし、
図5についても同様である。
【0029】
発明者らの知見によれば、磁極片端面32Aから回転子磁石端面42Aまでの軸方向距離が、回転子磁石42の軸方向長さの0.5%以上、且つ、回転子磁石42の軸方向長さの10%以下であることで、磁極片32の軸方向一端部における渦電流損失は顕著に低減する。同様に、磁極片反対面32Bから回転子磁石反対面42Bまでの軸方向距離が、回転子磁石42の軸方向長さの0.5%以上、且つ、回転子磁石42の軸方向長さの10%以下であることで、磁極片32の軸方向他端部における渦電流損失は顕著に低減する。よって、上記構成によれば、渦電流損失をより効果的に低減した磁気ギアード回転機械10が実現する。
なお、磁極片反対面32Bから回転子磁石反対面42Bまでの軸方向距離(寸法La2)は、回転子磁石42の軸方向長さ(寸法Lr)の0.5%未満であってもよいし、寸法Lrの10%を上回ってもよい。この場合であっても、寸法La1と寸法Lrが上記の関係を有することで、磁極片32における渦電流損失の低減効果を享受することができる。
【0030】
また、本実施形態では、磁極片端面32Aから回転子磁石端面42Aまでの軸方向距離(寸法La1)は、磁極片32と回転子40との対向距離(寸法Ls)の50%以上、且つ、この対向距離の1200%以下である。
軸方向の他方側も同様である。詳細には、磁極片反対面32Bから回転子磁石反対面42Bまでの軸方向距離(寸法La2)は、寸法Lsの50%以上、且つ、1200%以下である。
なお、回転子40が表面磁石型の構造を有する
図4の例では、寸法Lsは磁極片32と回転子磁石42との径方向距離である。他の例では、寸法Lsは、磁極片32とロータコア43との径方向距離であってもよい。また、寸法Lsは上述の第1エアギャップG1の径方向寸法と一致してもよい。
【0031】
発明者らの知見によれば、磁極片端面32Aから回転子磁石端面42Aまでの軸方向距離(寸法La1)が、磁極片32と回転子40との対向距離(寸法Ls)の50%以上、且つ、1200%以下であることで、磁極片32の軸方向一端部における渦電流損失は顕著に低減する。同様に、磁極片反対面32Bから回転子磁石反対面42Bまでの軸方向距離(寸法La2)が、磁極片32と回転子40との対向距離(寸法Ls)の50%以上、且つ、1200%以下であることで、磁極片32の軸方向他端部における渦電流損失は顕著に低減する。よって、上記構成によれば、渦電流損失をより効果的に低減した磁気ギアード回転機械10が実現する。
なお、磁極片反対面32Bから回転子磁石反対面42Bまでの軸方向距離(寸法La2)は、磁極片32と回転子40との対向距離(寸法Ls)に対して50%未満であってもよいし、寸法Lsに対して1200%を上回ってもよい。この場合であっても、寸法La1と寸法Lsが上記の関係を有することで、磁極片32における渦電流損失の低減効果を享受することができる。
【0032】
(フィンガー29とティース26との位置関係)
図4で例示される実施形態では、フィンガー29は軸方向の一方側を向くフィンガー端面29Aを含み、ティース26は軸方向の一方側を向くティース端面26Aを含む。本例では、フィンガー端面29Aがティース端面26Aよりも軸方向の他方側に位置する関係(以下、第3の位置関係ともいう)が成立する。
また、軸方向の他方側でも同様の位置関係が成立する。詳細には、フィンガー29はフィンガー端面29Aとは反対側のフィンガー反対面29Bを含み、ティース26はティース端面26Aとは反対側のティース反対面26Bを含む。そして、フィンガー反対面29Bがティース反対面26Bよりも軸方向の一方側に位置する関係(以下、第4の位置関係ともいう)が成立する。
【0033】
発明者らの知見によれば、第3の位置関係が成立することで、固定子20の軸方向一端部における渦電流損失は低減する。同様に、第4の位置関係が成立することで、固定子20の軸方向他端部における渦電流損失は低減する。よって、上記構成によれば、渦電流損失を低減した磁気ギアード回転機械10を実現できる。第3の位置関係または第4の位置関係の少なくとも一方の位置関係は、上述の第1の位置関係と共に成立してもよいし、第1の位置関係が不成立のときでも成立してよい。
なお、他の実施形態では、第4の位置関係は成立しなくてもよい。つまり、フィンガー反対面29Bがティース反対面26Bと同じ軸方向位置、または、ティース反対面26Bよりも軸方向の他方側に位置してもよい。この場合でも、第3の位置関係の成立により、磁気ギアード回転機械10の渦電流損失の低減効果を享受することができる。
【0034】
フィンガー端面29Aからティース端面26Aまでの軸方向距離(寸法Lt1)の詳細を説明する。本実施形態では、寸法Lt1が、ティース26の軸方向長さ(寸法Le)の0.5%以上、且つ、ティース26の軸方向長さの4%以下である。
軸方向の他方側でも同様の関係が成立する。詳細には、フィンガー反対面29Bからティース反対面26Bまでの軸方向距離(寸法Lt2)は、ティース26の軸方向長さの0.5%以上、且つ、4%以下である。
【0035】
発明者らの知見によれば、フィンガー端面29Aからティース端面26Aまでの軸方向距離が、ティース26の軸方向長さの0.5%以上、且つ、4%以下であることで、固定子20の軸方向一端部における渦電流損失は顕著に低減する。同様に、フィンガー反対面29Bからティース反対面26Bまでの軸方向距離が、ティース26の軸方向長さの0.5%以上、且つ、4%以下であることで、固定子20の軸方向他端部における渦電流損失は顕著に低減する。よって、上記構成によれば、渦電流損失をより効果的に低減した磁気ギアード回転機械10が実現する。
なお、フィンガー反対面29Bからティース反対面26Bまでの軸方向距離(寸法Lt2)は、ティース26の軸方向長さ(寸法Le)の0.5%未満でもよいし、寸法Leの4%を上回ってもよい。この場合でも、寸法Lt1と寸法Leが上記の関係を有することで、固定子20における渦電流損失の低減効果を享受することができる。
【0036】
また、
図4で例示される実施形態では、フィンガー端面29Aからティース端面26Aまでの軸方向距離(寸法Lt1)は、ティース26の先端幅(
図3の寸法Lw)の3%以上、且つ、ティース26の先端幅の25%以下である。また、フィンガー反対面29Bからティース反対面26Bまでの軸方向距離(寸法Lt2)も、ティース26の先端幅の3%以上、且つ、25%以下である。
【0037】
発明者らの知見によれば、フィンガー端面29Aからティース端面26Aまでの軸方向距離が、ティース26の先端幅の3%以上、且つ、ティース26の先端幅の25%以下であることで、固定子20の軸方向一端部における渦電流損失は顕著に低減する。同様に、フィンガー反対面29Bからティース反対面26Bまでの軸方向距離が、ティース26の先端幅の3%以上、且つ、ティース26の先端幅の25%以下であることで、固定子20の軸方向他端部における渦電流損失は顕著に低減する。よって、上記構成によれば、渦電流損失をより効果的に低減した磁気ギアード回転機械10が実現する。
なお、他の実施形態では、フィンガー反対面29Bからティース反対面26Bまでの軸方向距離(寸法Lt2)が、ティース26の先端幅(
図3の寸法Lw)の3%未満でもよいし、寸法Lwの25%を上回ってもよい。この場合でも、寸法Lt1と寸法Lwが上記の関係を有することで、固定子20における渦電流損失の低減効果を享受することができる。
【0038】
(固定子磁石22、回転子磁石42、および磁極片32の位置関係)
図4で例示される実施形態では、固定子磁石22は、軸方向の一方側を向く固定子磁石端面22Aと、固定子磁石端面22Aとは反対側の固定子磁石反対面22Bとを有する。固定子磁石端面22Aは、回転子磁石端面42Aよりも軸方向において他方側に位置する。また、固定子磁石反対面22Bは、回転子磁石反対面42Bよりも軸方向において一方側に位置する。従って、固定子磁石22は回転子磁石42よりも軸方向において短い。
なお、
図4では、図面を見やすくする都合、フィンガー29よりも径方向長さの短い固定子磁石22を概略的に図示するが、固定子磁石22はフィンガー29と同一の径方向長さを有してもよいし、フィンガー29よりも径方向に長くてもよい。
【0039】
発明者らの知見によれば、固定子磁石端面22Aが回転子磁石端面42Aよりも軸方向の他方側に位置することで、磁極片32の軸方向一方側における渦電流損失を低減できる。また、固定子磁石22の軸方向長さは低減できる。さらに、固定子磁石反対面22Bは、回転子磁石反対面42Bよりも軸方向の一方側に位置することで、磁極片32と固定子20の各々の軸方向他方側における渦電流損失を低減でき、固定子20の軸方向長さを低減できる。よって、上記構成によれば、渦電流損失を低減と低コスト化とを両立した磁気ギアード回転機械10を実現できる。
なお、固定子磁石反対面22Bは、回転子磁石反対面42Bと同じ軸方向位置、または、回転子磁石反対面42Bよりも軸方向他方側に位置してもよい。この場合でも、固定子磁石端面22Aが回転子磁石端面42Aよりも軸方向他方側に位置するので、渦電流損失の低減と磁気ギアード回転機械10の低コスト化とを実現できる。
【0040】
図4で例示される実施形態では、固定子磁石端面22Aは、磁極片端面32Aと同じ軸方向位置、または、磁極片端面32Aと回転子磁石端面42Aとの間の軸方向位置に設けられる。軸方向他方側でも同様に、固定子磁石反対面22Bは、磁極片反対面32Bと同じ軸方向位置、または、磁極片反対面32Bと回転子磁石反対面42Bとの間の軸方向位置に設けられる。
【0041】
発明者らの知見によれば、磁極片端面32Aよりも一方側にある固定子磁石22の部位は、磁気ギアード回転機械10における磁気的な伝達トルクの発生に殆ど寄与しない。従って、上記構成によれば、余分な固定子磁石22を低減でき、磁気ギアード回転機械10を低コスト化できる。
なお、固定子磁石反対面22Bは、磁極片反対面32Bよりも軸方向の他方側に位置してもよい。この場合でも、固定子磁石端面22Aと磁極片端面32Aとの位置関係が上述の通りであれば、磁気ギアード回転機械10の低コスト化を達成できる。
【0042】
(第2の実施形態に係る磁極片33と回転子40との位置関係)
図5は、第2の実施形態に係る磁極片を含む磁気ギアード回転機械の内部構成を示す概略図である。
第2の実施形態に係る磁極片33(31)は、軸方向一方側の端部である第1磁極片端部331と、第1磁極片端部331とは反対側の第2磁極片端部332とを有する。第1磁極片端部331には、軸方向の一方側を向く磁極片33の端面である磁極片端面33Aが形成され、第2磁極片端部332には、磁極片端面33Aとは反対側の端面である磁極片反対面33Bが形成される。
【0043】
そして、第1磁極片端部331と第2磁極片端部332のそれぞれにおいて、磁極片33を構成する複数枚の電磁鋼板35は、磁極片33の軸方向中心側から順に、第1電磁鋼板35A、第2電磁鋼板35B、及び第3電磁鋼板35Cを含む。これら電磁鋼板35の径方向長さは、軸方向外側に位置する電磁鋼板35であるほど短い。また、第1電磁鋼板35A、第2電磁鋼板35B、及び第3電磁鋼板35Cの各々の固定子20側の端部355A、355B、355Cは、径方向位置が揃えられている。つまり、これらの電磁鋼板35は、固定子20側の端部の径方向位置が揃うよう積層されている。
上記の第1磁極片端部331では、第1電磁鋼板35A、第2電磁鋼板35B、及び第3電磁鋼板35Cの各々の片面が磁極片端面33Aを形成する。同様に、第2磁極片端部332では、第1電磁鋼板35A、第2電磁鋼板35B、及び第3電磁鋼板35Cの各々の片面が磁極片反対面33Bを形成する。
電磁鋼板35に形成される孔38(
図3参照)のうち、第1電磁鋼板35Aに形成される孔38は軸方向視で円形状である。他方、第2電磁鋼板35Bと第3電磁鋼板35Cの各々に形成される孔38は半円形状である。例えば、第3電磁鋼板35Cに形成される孔38は、軸方向視において、バー(図示外)の周面の半分以上を囲むことが好ましい。これにより、第3電磁鋼板35Cがバーに対して径方向外側に外れにくい構成が実現する。
【0044】
第1磁極片端部331では、第3電磁鋼板35Cの片面によって形成される磁極片端面33Aは回転子磁石端面42Aと同じ軸方向位置にあるが、上述の第1の位置関係は成立する。なぜなら、第1電磁鋼板35A及び第2電磁鋼板35Bの各々の片面によって形成される磁極片端面33Aは、回転子磁石端面42Aよりも軸方向の他方側に位置するからである。
同様に、第2磁極片端部332においても、磁極片反対面33Bを形成する第1電磁鋼板35Aと第2電磁鋼板35Bの各々の片面が、回転子磁石反対面42Bよりも軸方向の一方側に位置しているため、第2の位置関係は成立する。
発明者らの知見によれば、磁極片端面33Aの一部のみが回転子磁石端面42Aよりも軸方向の他方側に位置する第1の位置関係が成立する場合でも、磁極片33の軸方向一端部における渦電流損失は低減する。同様に、磁極片反対面33Bの一部のみが回転子磁石反対面42Bよりも軸方向の一方側に位置する第2の位置関係が成立する場合でも、磁極片33の軸方向他端部における渦電流損失は低減する。よって、磁気ギアード回転機械10の渦電流損失を低減できる。
【0045】
図5で例示される実施形態では、磁極片端面33Aと回転子磁石端面42Aとの軸方向距離は、磁極片端面33Aの回転子40側の端部(つまり、第1電磁鋼板35Aが形成する磁極片端面33A)と回転子磁石端面42Aとの軸方向距離であり、
図5の寸法Lb1に該当する。例えば、寸法Lb1が、回転子磁石42の軸方向長さの0.5%以上かつ回転子磁石42の軸方向長さの10%以下であれば、磁極片33の軸方向一方側における渦電流損失の顕著な低減効果を享受できる。また、寸法Lb1が、磁極片33と回転子40(
図5では回転子磁石42)との対向距離の50%以上、且つ、1200%以下であれば、磁極片33の軸方向一方側における渦電流損失の顕著な低減効果を享受できる。
【0046】
図5で例示される実施形態では、磁極片33は、固定子20(
図5の例では固定子磁石22)と対向する固定子側対向面36と、回転子40(
図5の例では回転子磁石42)と対向する回転子側対向面37とを有する。固定子側対向面36と回転子側対向面37はいずれも軸方向に延在する。
図5の例では、第1電磁鋼板35A、第2電磁鋼板35B、及び第3電磁鋼板35Cの各々の端部355A、355B、355Cが固定子側対向面36の一部を構成する。他方、これらの電磁鋼板35のうち第1電磁鋼板35Aの回転子40側の端部のみが、回転子側対向面37の一部を構成し、第2電磁鋼板35Bと第3電磁鋼板35Cは回転子側対向面37よりも固定子20側の径方向位置に設けられる。
従って、固定子側対向面36は、回転子側対向面37よりも軸方向において長い。
【0047】
磁気ギアード回転機械10の稼働時の磁気的な伝達トルク(より詳細には磁極片回転子30と回転子40との間で伝達される磁気的なトルク)は、固定子側対向面36の軸方向長さが長いほど、大きくなる傾向にある。上記構成によれば、固定子側対向面36が回転子側対向面37によりも長いので、磁極片端面32Aの少なくとも一部を回転子磁石端面42Aよりも軸方向の他方側に位置させつつ、固定子側対向面36の軸方向長さを確保できる。よって、渦電流損失を低減すると共に、磁気的な伝達トルクを確保することができる磁気ギアード回転機械10が実現する。
また、固定子側対向面36が回転子側対向面37よりも軸方向に長い構成を、径方向長さの互いに異なる第1電磁鋼板35A、第2電磁鋼板35B、及び第3電磁鋼板35Cが積層される簡易な構成によって、実現することができる。よって、径方向長さの互いに異なる複数枚の電磁鋼板35が積層された簡易な構成によって、磁気ギアード回転機械10における渦電流損失の低減と磁気的な伝達トルクの確保とを両立させることができる。
【0048】
また、
図5の実施形態では、固定子磁石端面22Aは、固定子側対向面36の軸方向の一方側の端366Aと同じ軸方向位置、または、固定子側対向面36の端366Aと、回転子側対向面37の一方側の端377Aとの間の軸方向位置に設けられる。また、固定子磁石反対面22Bは、固定子側対向面36の軸方向の他方側の端366Bと同じ位置、または、固定子側対向面36の端366Bと、回転子側対向面37の他方側の端377Bとの間の軸方向位置に設けられる。
上述した通り、固定子磁石22のうち磁極片33よりも軸方向の外側に位置する部位は、磁気ギアード回転機械10の磁気的な伝達トルクの発生に殆ど寄与しない。上記構成によれば、磁気的な伝達トルクに殆ど寄与しない固定子磁石22の部位を低減することができるので、磁気ギアード回転機械10の低コスト化を実現することができる。
なお、固定子磁石反対面22Bが、固定子側対向面36の端366Bよりも軸方向の他方側に位置してもよい。この場合であっても、例えば固定子磁石端面22Aが固定子側対向面36の端366Aと同じ軸方向位置にあれば、磁気ギアード回転機械10の低コスト化は実現する。
【0049】
(実施例1)
図6、
図7を参照し、磁気ギアード回転機械10の構成要素の軸方向における位置関係と、渦電流損失の低減効果との関係を説明する。
図6は、渦電流損失の低減効果を検証するために用意された各種の磁気ギアード回転機械を示す。
図7は、磁気ギアード回転機械の構成要素の軸方向位置を変更させた場合の渦電流損失を示す。
【0050】
発明者らは、第1の実施形態に係る磁極片32を含む磁気ギアード回転機械10ついて、構成要素の軸方向位置を変更することによる渦電流損失の低減効果をシミュレーションによって特定した。より具体的には、以下の(A)~(D)で示す構成要素の軸方向位置を変更し、解析によって求まる渦電流損失を比較した。
(A)磁極片端面32A
(B)固定子磁石端面22A
(C)フィンガー端面29A
(D)ティース端面26A
【0051】
より詳細な解析条件を説明する。上記の(A)~(D)の軸方向位置が揃えられた磁気ギアード回転機械10を基準(No.1)として、いずれかの構成要素を軸方向の他方側に変位させた(該構成要素の軸方向長さを短くした)磁気ギアード回転機械10をNo.2~No.6として想定した。例えば、
図6、
図7に示すように、No.2の磁気ギアード回転機械10は、磁極片端面32Aが軸方向の他方側に基準よりも変位している。また、No.3の磁気ギアード回転機械10は、磁極片端面32Aと固定子磁石端面22Aが軸方向の他方側に基準よりも変位している。そして、No.1~No.6の各々の磁気ギアード回転機械10が磁気ギアード発電機10Aとして機能したときの渦電流損失をシミュレーションにより特定した結果が
図7の上段のグラフに示されている。グラフで示される渦電流損失は、磁極片32の軸方向一方側における渦電流損失と、固定子20の軸方向一方側における渦電流損失との合計である。
なお、
図7の下段にある表の”PP”は、“Pole Piece”の略であり、磁極片端面32Aを示す。”HSR Mag”は、“High Speed Rotor Magnet”の略であり、回転子磁石端面42Aを示す(本解析では、回転子磁石端面42Aの軸方向位置は変更されていない)。”ST Mag”は、“Stator Magnet”の略であり、固定子磁石端面22Aを示す。”ST Finger”は、“Stator Finger”の略であり、フィンガー端面29Aを示す。”ST Teeth”は、“Stator Teeth”の略であり、ティース端面26Aを示す。
No.2~No.6で示される構成要素が軸方向の他方側に基準に対して変位している量は、いずれも同じ値(一定値)である。
【0052】
図7のNo.1とNo.2を比較することで、磁極片端面32Aが回転子磁石端面42Aよりも軸方向の他方側に位置すれば、渦電流損失(特に磁極片32における渦電流損失)が低下することが了解される。つまり、第1の位置関係が成立すると、磁気ギアード回転機械10の渦電流損失が低下することが了解される。そして、上記した(B)~(D)の構成要素が軸方向の他方側に変位しているかに関わらず、第1の位置関係が成立すれば、渦電流損失(特に磁極片32における渦電流損失)が低下することが、No.1と、No3、No.5、No.6とを比較することで了解される。
発明者らの知見によれば、磁極片32の渦電流損失が低下する理由は以下の通りである。磁極片32で生じる漏れ磁束Lfは、磁極片32を軸方向に通過して、回転子磁石端面42Aよりも軸方向の一方側へ流れる(
図6のNo.1)。この点、磁極片端面32Aが回転子磁石端面42Aよりも軸方向の他方側に位置することで、磁極片端面32Aから回転子磁石端面42Aよりも軸方向一方側へ磁束が流れにくくなる結果、磁極片32で生じる漏れ磁束Lfが抑制され、磁極片32の渦電流損失が低下する。
上記の理由によれば、第2の位置関係が成立する場合も、磁極片32の軸方向他端部における渦電流損失は低下することが結論付けられる。また、磁極片32の固定子側対向面36が回転子側対向面37よりも長い構成が採用されても、第1の位置関係の成立により渦電流損失の低減効果を享受できることが結論付けられる。さらに、磁気ギアード回転機械10が磁気ギアードモータ10Bとして機能した場合も、同様の渦電流損失効果を享受できることが結論付けられる。
【0053】
また、
図7のNo.1と、No.4とを比較することで、フィンガー端面29Aが、ティース端面26Aに対して軸方向の他方側に位置すれば、渦電流損失(特に固定子20における渦電流損失)が低下することが了解される。つまり、第3の位置関係が成立すると、磁気ギアード回転機械10の渦電流損失が低下することが了解される。そして、上記した(A)、(C)の構成要素が軸方向の他方側に変位しても、第3の位置関係が成立すれば、渦電流損失(特に磁極片32における渦電流損失)が低下することが、No.1とNo.5とを比較することで了解される。
発明者らの知見によれば、ティース26の渦電流損失が低下する理由は以下の通りである。固定子20における渦電流損失の一因は、フィンガー29の間を軸方向に沿って流れる磁束が、軸方向の一方側からティース26に流入することにある(
図6のNo.1)。フィンガー29の間を流れる上記磁束は、固定子磁石22に起因する磁束Lf
0(
図6のNo.1)、回転子磁石42に起因する磁束、または固定子巻線24の通電に起因する磁束の少なくともいずれかを含む。この点、フィンガー端面29Aがティース端面26Aよりも軸方向の他方側に位置することで、フィンガー29の間を流れる上記磁束は、ティース端面26Aよりも軸方向の一方側で種々の方向に流れることが可能となる。結果、軸方向の一方側からティース端面26Aに流入する磁束が抑制され、ティース26を流れる渦電流が低下する。これにより、固定子20における渦電流損失のうち少なくともティース26における渦電流損失が低下する。
上記の理由によれば、フィンガー反対面29Bがティース反対面26Bよりも軸方向の一方側に位置する場合も(第4の位置関係が成立する場合も)、渦電流損失の低減効果を享受できることが結論付けられる。さらに、磁気ギアード回転機械10が磁気ギアードモータ10Bとして機能した場合も、同様の渦電流損失効果を享受できることが結論付けられる。
【0054】
また、
図7のNo.1と、No.3、No.5、No.6とを比較することで、固定子磁石端面22Aが回転子磁石端面42Aよりも軸方向の他方側に位置する場合、磁極片32における渦電流損失が低減することが判った。
さらに、上記の解析結果によれば、No.5で示される、磁極片端面32A、フィンガー端面29A、及び固定子磁石端面22Aが、回転子磁石端面42Aおよびティース端面26Aに対して軸方向の他方側に変位している磁気ギアード回転機械10が渦電流損失の低減効果を最も高く発揮することが判った。
また、No.6で示される、磁極片端面32A、固定子磁石端面22A、フィンガー端面29A、およびティース端面26Aが、回転子磁石端面42Aよりも軸方向の他方側に変位している磁気ギアード回転機械10も、渦電流損の低減効果を高く発揮することが判った。
【0055】
(実施例2)
図8、
図9を参照し、磁極片端面32Aと回転子磁石端面42Aの軸方向距離に応じた磁極片31における渦電流損失の低減効果について説明する。
図8は、磁極片端面と回転子磁石端面の軸方向距離に応じた渦電流損失を示す第1のグラフである。
図9は、磁極片端面と回転子磁石端面の軸方向距離に応じた渦電流損失を示す第2のグラフである。
【0056】
発明者らは、
図6のNo.2で示される磁気ギアード回転機械10の寸法La1と、No.2で示される磁極片32での渦電流損失との関係をシミュレーションによって特定した。
図8のグラフの横軸は、回転子磁石42の軸方向長さ(
図4の寸法Lr)に対する寸法La1の割合を示す。また同グラフの縦軸は、
図7のNo.1で示される磁極片32での渦電流損失を基準とした、No.2で示される磁極片32での渦電流損失の割合を示す(
図9の縦軸も同様である)。つまり、縦軸での値が小さいほど、磁極片32での渦電流損失の低減効果が高く発揮されることを意味する。
図9のグラフの横軸は、磁極片31と回転子40との対向距離(
図6の寸法Ls)に対する寸法La1の割合を示す。なお、本解析では、寸法La1の変化量分、磁極片32の軸方向長さを変更させている。
また、
図8、
図9のグラフにおけるプロット点が、シミュレーションにより求めた渦電流損失である(後述の
図10、
図11のグラフにおいても同様である)。
【0057】
図8のグラフで示される通り、回転子磁石42の軸方向長さに対する寸法La1の割合が0.5%以上になると、渦電損失がおよそ80%以下となり、渦電流損失の顕著な低減効果が確認された。また、上記割合が10%を上回っても、渦電流損失の低減効果は向上しないことが判った。よって、回転子磁石42の軸方向長さに対する寸法La1の割合が0.5%以上、且つ、10%以下であると、渦電流損失の顕著な低減効果が発揮されることが判った。
【0058】
次に、
図9のグラフで示される通り、磁極片31と回転子40との対向距離に対する寸法La1の割合が50%以上になると、渦電損失がおよそ80%以下となり、渦電流損失の顕著な低減効果が確認された。また、上記割合が1200%を上回っても、渦電流損失の低減効果は向上しないことが判った。よって、磁極片31と回転子40との対向距離に対する寸法La1の割合が50%以上、且つ、1200%以下であると、渦電流損失の顕著な低減効果が発揮されることが判った。
【0059】
(実施例3)
図10、
図11を参照し、フィンガー端面29Aからティース端面26Aまでの軸方向距離に応じたティース26の渦電流損失の低減効果について説明する。
図10は、フィンガー端面からティース端面までの軸方向距離に応じた渦電流損失を示す第1のグラフである。
図11は、フィンガー端面からティース端面までの軸方向距離に応じた渦電流損失を示す第2のグラフである。
【0060】
発明者らは、
図6のNo.4で示される磁気ギアード回転機械10の寸法Lt1と、No.4で示される固定子20での渦電流損失との関係をシミュレーションによって特定した。
図10のグラフの横軸は、ティース26の軸方向長さ(
図4の寸法Le)に対する寸法Lt1の割合を示す。また同グラフの縦軸は、
図6のNo.1で示される固定子20での渦電流損失を基準とした、No.4で示される固定子20での渦電流損失の割合を示す(
図11の縦軸も同様である)。つまり、縦軸での値が小さいほど、固定子20での渦電流損失の低減効果が高く発揮されることを意味する。
図11のグラフの横軸は、磁極片31と回転子40との対向距離(
図6の寸法Ls)に対する寸法Lwの割合を示す。なお、本解析では、寸法Ltの変化量分、フィンガー29の軸方向長さを変更させている。
【0061】
図10のグラフで示される通り、ティース26の軸方向長さに対する寸法Lt1の割合が0.5%以上になると、渦電損失が90%以下となり、渦電流損失の顕著な低減効果が確認された。また、上記割合が4%を上回っても、渦電流損失の低減効果は向上しないことが判った。よって、ティース26の軸方向長さに対する寸法Lt1の割合が0.5%以上、且つ、4%以下であると、固定子20での渦電流損失の顕著な低減効果が発揮されることが判った。
【0062】
次に、
図11のグラフで示される通り、磁極片32と回転子40との対向距離に対する寸法Lwの割合が3%以上になると、渦電損失が90%以下となり、渦電流損失の顕著な低減効果が確認された。また、上記割合が25%を上回っても、渦電流損失の低減効果は向上しないことが判った。よって、磁極片31と回転子40との対向距離に対する寸法Lwの割合が3%以上、且つ、25%以下であると、固定子20での渦電流損失の顕著な低減効果が発揮されることが判った。
【0063】
(まとめ)
以下、幾つかの実施形態に係る磁気ギアード回転機械10、発電システム1A、および駆動システム1Bの概要を記載する。
【0064】
1)本開示の少なくとも一実施形態に係る磁気ギアード回転機械(10)は、
固定子(20)と、
複数の回転子磁石(42)を含む回転子(40)と、
前記固定子(20)と前記回転子(40)との間の径方向位置に設けられた複数の磁極片(31)を含む磁極片回転子(30)と、を備え、
各々の前記磁極片(31)は、軸方向の一方側を向く磁極片端面(32A、33A)を有し、
各々の前記回転子磁石(42)は、前記一方側を向く回転子磁石端面(42A)を有し、
前記磁極片端面(32A、33A)の少なくとも一部が、前記回転子磁石端面(42A)に対して前記軸方向の他方側に位置する、または、
前記固定子(20)のティース(26)に設けられた固定子磁石(22)を周方向の両側から挟んで保持する複数のフィンガー(29)の各々が有する前記一方側を向くフィンガー端面(29A)が、前記ティース(26)が有する前記一方側を向くティース端面(26A)に対して前記他方側に位置する。
【0065】
発明者らの知見によれば、磁極片端面(32A、33A)が回転子磁石端面(42A)に対して軸方向の他方側に位置することで、磁極片(31)の軸方向一方側における渦電流損失は低減する。また、フィンガー端面(29A)がティース端面(26A)よりも軸方向の他方側に位置することで、固定子(20)の軸方向一方側における渦電流損失は低減する。よって、上記1)の構成によれば、渦電流損失を低減した磁気ギアード回転機械(10)を実現できる。
【0066】
2)幾つかの実施形態では、上記1)に記載の磁気ギアード回転機械(10)であって、
前記固定子(20)は、複数の前記固定子磁石(22)を含み、
各々の前記固定子磁石(22)は、前記一方側を向く固定子磁石端面(22A)を有し、
前記固定子磁石端面(22A)は、前記回転子磁石端面(42A)よりも前記他方側に位置する。
【0067】
発明者らの知見によれば、固定子磁石端面(22A)が回転子磁石端面(42A)よりも軸方向において他方側に位置することで、磁極片(31)における渦電流損失を低減できる。また、固定子磁石(22)の軸方向長さを低減できるので、低コスト化が実現する。よって、上記2)の構成によれば、渦電流損失を低減と低コスト化を両立した磁気ギアード回転機械(10)を実現できる。
【0068】
3)幾つかの実施形態では、上記2)に記載の磁気ギアード回転機械(10)であって、
前記固定子磁石端面(22A)は、前記磁極片端面(32A、33A)と同じ軸方向位置、または、前記磁極片端面(32A、33A)と前記回転子磁石端面(42A)との間の軸方向位置に設けられる。
【0069】
発明者らの知見によれば、磁極片端面(32A、33A)よりも一方側にある固定子磁石(22)の部位は、磁気ギアード回転機械(10)における磁気的な伝達トルクの発生に殆ど寄与しない。従って、上記3)の構成によれば、磁気的な伝達トルクの発生に殆ど寄与しない余分な固定子磁石(22)を低減でき、磁気ギアード回転機械(10)を低コスト化できる。
【0070】
4)幾つかの実施形態では、上記1)に記載の磁気ギアード回転機械(10)であって、
前記磁極片端面(32A、33A)の少なくとも一部が、前記回転子磁石端面(42A)に対して前記他方側に位置し、
前記磁極片(31)は、
前記軸方向に延在し、前記固定子(20)と対向する固定子側対向面(36、360)と、
前記軸方向に延在し、前記回転子(40)と対向する回転子側対向面(37、370)とを含み、
前記固定子側対向面(36、360)は、前記回転子側対向面(37、370)よりも前記軸方向において長い。
【0071】
上記4)の構成によれば、固定子側対向面(36、360)が回転子側対向面(37、370)によりも軸方向に長いので、磁極片端面(32A、33A)の少なくとも一部を回転子磁石端面(42A)に対して軸方向の他方側に位置させつつ、固定子側対向面(36、360)の軸方向長さを長くできる。従って、磁極片(31)における渦電流損失を抑制しつつ、磁気ギアード回転機械(10)における伝達トルクの低下を抑制できる。よって、渦電流損失を低減すると共に、磁気的な伝達トルクを確保することができる磁気ギアード回転機械(10)が実現する。
【0072】
5)幾つかの実施形態では、上記4)に記載の磁気ギアード回転機械(10)であって、
各々の前記磁極片(31)は、前記一方側の端部である第1磁極片端部(331)を含み、
前記第1磁極片端部(331)は、前記固定子(20)側の端部(355A、355B)の径方向位置が揃うよう積層された複数枚の電磁鋼板(35)を有し、
前記複数枚の電磁鋼板(35)は、
前記回転子側対向面(37、370)の一部を形成する第1電磁鋼板(35A)と、
前記回転子側対向面(37、370)よりも前記固定子(20)側の径方向位置に設けられた第2電磁鋼板(35B)と、を有する。
【0073】
上記5)の構成によれば、径方向長さの互いに異なる複数枚の電磁鋼板(35)が積層された簡易な構成によって、渦電流損失の低減と磁気的な伝達トルクの確保とを両立させることができる。
【0074】
6)幾つかの実施形態では、上記4)または5)に記載の磁気ギアード回転機械(10)であって、
前記固定子(20)は、複数の前記固定子磁石(22)を含み、
各々の前記固定子磁石(22)は、前記一方側を向く固定子磁石端面(22A)を有し、
前記固定子磁石端面(22A)は、前記固定子側対向面(36、360)の前記一方側の端(366A)と同じ軸方向位置、または、前記固定子側対向面(36、360)の前記一方側の前記端(366A)と、前記回転子側対向面(37、370)の前記一方側の端(377A)との間の軸方向位置に設けられる。
【0075】
上記6)の構成によれば、磁気的な伝達トルクに殆ど寄与しない固定子磁石(22)の部位を低減することができるので、磁気ギアード回転機械(10)の低コスト化を実現することができる。
【0076】
7)幾つかの実施形態では、上記1)から6)のいずれかに記載の磁気ギアード回転機械(10)であって、
前記磁極片端面(32A、33A)の少なくとも一部が、前記回転子磁石端面(42A)に対して前記他方側に位置し、
前記磁極片端面(32A、33A)から前記回転子磁石端面(42A)までの軸方向距離(寸法La1、Lb1)は、前記回転子磁石(42)の軸方向長さ(寸法Lr)の0.5%以上、且つ、前記回転子磁石(42)の軸方向長さ(寸法Lr)の10%以下である。
【0077】
発明者らの知見によれば、磁極片端面(32A、33A)から回転子磁石端面(42A)までの軸方向距離(寸法La1、Lb1)が、前記回転子磁石(42)の軸方向長さ(寸法Lr)の0.5%以上、且つ、10%以下であることで、磁極片(31)における渦電流損失の低減効果を向上できる。よって、上記7)の構成によれば、渦電流損失をより効果的に低減した磁気ギアード回転機械(10)が実現する。
【0078】
8)幾つかの実施形態では、上記1)から7)のいずれかに記載の磁気ギアード回転機械(10)であって、
前記磁極片端面(32A、33A)の少なくとも一部が、前記回転子磁石端面(42A)に対して前記軸方向の前記他方側に位置し、
各々の前記磁極片(31)は、エアギャップ(第2エアギャップG2)を隔てて前記回転子(40)と対向し、
前記磁極片端面(32A、33A)から前記回転子磁石端面(42A)までの軸方向距離(寸法La1、Lb1)は、前記磁極片(31)と前記回転子(40)との対向距離(寸法Ls)の50%以上、且つ、前記対向距離(寸法Ls)の1200%以下である。
【0079】
発明者らの知見によれば、磁極片端面(32A、33A)から回転子磁石端面(42A)までの軸方向距離(寸法La1、Lb1)が、磁極片(31)と前記回転子(40)との対向距離(寸法Ls)の50%以上、且つ、1200%以下であることで、磁極片(31)における渦電流損失の低減効果を向上できる。よって、上記8)の構成によれば、渦電流損失をより効果的に低減した磁気ギアード回転機械(10)が実現する。
【0080】
9)幾つかの実施形態では、上記1)から8)のいずれかに記載の磁気ギアード回転機械(10)であって、
前記フィンガー端面(29A)が、前記ティース端面(26A)に対して前記他方側に位置し、
前記フィンガー端面(29A)から前記ティース端面(26A)までの軸方向距離(寸法Lt1)は、前記ティース(26)の軸方向長さ(寸法Le)の0.5%以上、且つ、前記ティース(26)の前記軸方向長さ(寸法Le)の4%以下である。
【0081】
発明者らの知見によれば、フィンガー端面(29A)からティース端面(26A)までの軸方向距離(寸法Lt1)が、ティース(26)の軸方向長さ(寸法Le)の0.5%以上、且つ、4%以下であることで、固定子(20)における渦電流損失を低減できる。よって、上記9)の構成によれば、渦電流損失をより効果的に低減した磁気ギアード回転機械(10)が実現する。
【0082】
10)幾つかの実施形態では、上記1)から9)のいずれかに記載の磁気ギアード回転機械(10)であって、
前記フィンガー端面(29A)が、前記ティース端面(26A)に対して前記他方側に位置し、
前記フィンガー端面(29A)から前記ティース端面(26A)までの軸方向距離(寸法Lt1)は、前記ティース(26)の先端の周方向長さ(寸法Lw)の3%以上、且つ、前記周方向長さ(寸法Lw)の25%以下である。
【0083】
発明者らの知見によれば、フィンガー端面(29A)からティース端面(26A)までの軸方向距離(寸法Lt1)が、ティース(26)の先端の周方向長さ(寸法Lw)の3%以上、且つ、先端の周方向長さ(寸法Lw)の25%以下であることで、固定子(20)における渦電流損失を低減できる。よって、上記10)の構成によれば、渦電流損失をより効果的に低減した磁気ギアード回転機械(10)が実現する。
【0084】
11)本開示の少なくとも一実施形態に係る発電システム(1A)は、
原動機(2)と、
前記原動機(2)からの入力によって駆動されて発電するように構成された磁気ギアード発電機(10A)としての、上記1)から10)の何れかの磁気ギアード回転機械(10)と
を備える。
【0085】
上記11)の構成によれば、上記1)と同様の理由によって、渦電流損失を低減した発電システム(1A)を実現できる。
【0086】
12)本開示の少なくとも一実施形態に係る駆動システム(1B)は、
動力を出力するように構成された磁気ギアードモータ(10B)としての、上記1)から10)の何れかの磁気ギアード回転機械(10)と、
前記磁気ギアード回転機械(10)から出力された前記動力によって駆動するように構成された駆動部(8)と
を備える。
【0087】
上記12)の構成によれば、上記1)と同様の理由によって、渦電流損失を低減した駆動システム(1B)を実現できる。
【0088】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されることはなく、上述した実施形態に変形を加えた形態や、これらの形態を適宜組み合わせた形態も含む。
【0089】
本明細書において、「ある方向に」、「ある方向に沿って」、「平行」、「直交」、「中心」、「同心」或いは「同軸」等の相対的或いは絶対的な配置を表す表現は、厳密にそのような配置を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している状態も表すものとする。
例えば、「同一」、「等しい」及び「均質」等の物事が等しい状態であることを表す表現は、厳密に等しい状態を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の差が存在している状態も表すものとする。
また、本明細書において、四角形状や円筒形状等の形状を表す表現は、幾何学的に厳密な意味での四角形状や円筒形状等の形状を表すのみならず、同じ効果が得られる範囲で、凹凸部や面取り部等を含む形状も表すものとする。
また、本明細書において、一の構成要素を「備える」、「含む」、又は、「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
【符号の説明】
【0090】
1A :発電システム
1B :駆動システム
2 :原動機
8 :駆動部
10 :磁気ギアード回転機械
10A :磁気ギアード発電機
10B :磁気ギアードモータ
20 :固定子
22 :固定子磁石
22A :固定子磁石端面
26 :ティース
26A :ティース端面
29 :フィンガー
29A :フィンガー端面
30 :磁極片回転子
31 :磁極片
32A、33A :磁極片端面
35 :電磁鋼板
35A :第1電磁鋼板
35B :第2電磁鋼板
36、360 :固定子側対向面
37、370 :回転子側対向面
40 :回転子
42 :回転子磁石
42A :回転子磁石端面
331 :第1磁極片端部
355A、355B :端部
377A、377B :端
G2 :第2エアギャップ