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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023004238
(43)【公開日】2023-01-17
(54)【発明の名称】手指消毒組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/34 20060101AFI20230110BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20230110BHJP
   A61P 31/12 20060101ALI20230110BHJP
   A61Q 19/10 20060101ALI20230110BHJP
   A61K 8/37 20060101ALI20230110BHJP
   A61K 31/045 20060101ALI20230110BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20230110BHJP
   A61K 47/10 20060101ALI20230110BHJP
   A61K 47/14 20060101ALI20230110BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20230110BHJP
   A01N 31/02 20060101ALI20230110BHJP
   A01P 1/00 20060101ALI20230110BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20230110BHJP
   A01N 25/02 20060101ALI20230110BHJP
   A01N 33/12 20060101ALN20230110BHJP
【FI】
A61K8/34
A61P31/04
A61P31/12
A61Q19/10
A61K8/37
A61K31/045
A61K9/08
A61K47/10
A61K47/14
A61P17/00
A01N31/02
A01P1/00
A01P3/00
A01N25/02
A01N33/12 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021105811
(22)【出願日】2021-06-25
(71)【出願人】
【識別番号】000005980
【氏名又は名称】三菱製紙株式会社
(72)【発明者】
【氏名】松澤 篤史
(72)【発明者】
【氏名】平田 賢治
【テーマコード(参考)】
4C076
4C083
4C206
4H011
【Fターム(参考)】
4C076AA12
4C076BB31
4C076CC18
4C076CC32
4C076CC35
4C076DD38X
4C076DD46X
4C076FF36
4C076FF57
4C076FF63
4C076FF70
4C083AC101
4C083AC102
4C083AC121
4C083AC122
4C083AC421
4C083AC422
4C083AC692
4C083CC22
4C083DD23
4C083DD27
4C083EE01
4C083EE06
4C083EE07
4C083EE12
4C206AA01
4C206AA02
4C206CA03
4C206MA03
4C206MA05
4C206MA36
4C206MA37
4C206MA83
4C206NA03
4C206NA20
4C206ZA89
4C206ZB33
4C206ZB35
4H011AA02
4H011BA01
4H011BA06
4H011BB03
4H011BB04
4H011BC03
4H011BC06
4H011BC19
4H011DA13
4H011DF04
4H011DH10
(57)【要約】
【課題】手荒れを抑制するための湿潤剤を含有するアルコール系の手指消毒組成物であって、引火性及び燃焼性が低く、且つ製剤の安定性に優れた手指消毒組成物を提供する。
【解決手段】(A)エタノール、(B)グリセリン、および(C)トリイソオクタン酸グリセリンを少なくとも含有する手指消毒組成物であって、該組成物中における(A)成分の占める割合は52~58質量%であり、(C)成分に対する(A)成分の質量比((A)/(C))が220以上である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)エタノール、(B)グリセリン、および(C)トリイソオクタン酸グリセリンを少なくとも含有する手指消毒組成物であって、該組成物中における(A)成分の占める割合は52~58質量%であり、(C)成分に対する(A)成分の質量比((A)/(C))が220以上である手指消毒組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、手指消毒組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
手指消毒組成物として、エタノール、イソプロピルアルコール等を含有するアルコール系の手指消毒組成物が、各種菌又はウィルスへの広い抗菌・抗ウィルス性が得られる観点と、速乾性に伴う優れた使用感の観点から、広く用いられている。
【0003】
速乾性に優れたアルコール系の手指消毒組成物は、同時に、皮膚の過度の乾燥や蛋白質の変成作用に起因して、頻繁な使用により、手荒れが起こることが知られている。手荒れを抑制するために、特許文献1には、特定のエモリエント剤を含有する手指消毒組成物が記載されている。また、特許文献2には、エタノール、クロルヘキシジン、グルコン酸、および脂肪酸トリグリセライドを特定量含有する消毒用組成物が記載されている。
【0004】
手荒れを抑制するためには、水溶性多価アルコール等の湿潤剤を含有させる方法が知られている。しかしながら、水溶性多価アルコールを添加すると、手指消毒組成物を使用し、すりこんだ後に、べたつき感が残り、使用感を損なうことがある。特許文献3には、エタノールを主成分とし、水溶性多価アルコールと脂肪酸トリグリセリドを特定量含有することにより、べたつき感の無い使用感に優れた手指消毒組成物が記載されている。
【0005】
他方で、アルコール系の手指消毒組成物は、引火性及び燃焼性が高く、その保管や運搬に注意を要することが知られている。この課題を解決するために、アルコール系の手指消毒組成物の主たる成分であるエタノールやイソプロピルアルコールの含有量を低くした、手指消毒組成物が市販されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭63-57502号公報
【特許文献2】特開平11-147821号公報
【特許文献3】特開2011-219410号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、保管や運搬に配慮し、引火性及び燃焼性を低くするために、エタノールやイソプロピルアルコールの含有量を低減した手指消毒組成物は、湿潤剤を加え、製剤化した後に白濁したり、あるいは油滴状の分離が生じる場合があり、低い引火性と燃焼性、および製剤の安定性を兼ね備えた手指消毒組成物は得られていないのが現状であった。
【0008】
本発明は、手荒れを抑制するための湿潤剤を含有するアルコール系の手指消毒組成物であって、引火性及び燃焼性が低く、且つ製剤の安定性に優れた手指消毒組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、以下の構成を有する手指消毒組成物によって、上記課題を解決できることを見出した。
【0010】
(A)エタノール、(B)グリセリン、および(C)トリイソオクタン酸グリセリンを少なくとも含有する手指消毒組成物であって、該組成物中における(A)成分の占める割合は52~58質量%であり、(C)成分に対する(A)成分の質量比((A)/(C))が220以上である手指消毒組成物。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、引火性及び燃焼性が低く、製剤の安定性に優れた手指消毒組成物を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の手指消毒組成物は(A)成分としてエタノールを含有する。エタノールを含有する目的は、殺菌性の付与と、製剤に速乾性を付与することで、手指消毒組成物の使用感を向上させることである。更に該手指消毒組成物中におけるエタノールの占める割合は52~58質量%である。エタノールの占める割合が52質量%未満の場合には、良好な製剤の安定性が得られない。また、速乾性が低くなり、使用感が低下する傾向が顕著になる。エタノールの占める割合が58質量%を超える場合には、引火性や燃焼性が高くなり、手指消毒組成物の保管や運搬が煩雑となる。
【0013】
本発明の手指消毒組成物は、殺菌性の付与を目的として、エタノール以外の低級アルコール(ただし後述するグリセリンは除く)を含有することができる。かかる低級アルコールとしてはイソプロピルアルコールが好ましい。エタノール以外の低級アルコールの含有量は、エタノールに対して20質量%以下であることが好ましく、より好ましくは10質量%以下である。
【0014】
本発明の手指消毒組成物は、水を含有することが好ましい。かかる水としては、精製水であることが好ましい。本発明の手指消毒組成物中における水の占める割合は、40~47.7質量%が好ましい。これにより、手指消毒組成物と菌又はウィルスが接触する時間を十分に確保することができる。
【0015】
本発明の手指消毒組成物は(B)成分としてグリセリンを含有する。グリセリンを含有する目的は、湿潤性を付与することであり、該手指消毒組成物を使用した際に、皮膚の過度な乾燥を抑制することである。グリセリンを含有することにより、使用後にしっとり感を付与し、手荒れを抑制することができる。該手指消毒組成物中におけるグリセリンの占める割合は0.2~0.6質量%であることが好ましい。グリセリンの占める割合が0.2質量%未満の場合には、該手指消毒組成物の使用後の湿潤性・しっとり感が不十分となる場合がある。一方、グリセリンの占める割合が0.6質量%を超える場合には、使用後のべたつき感が強く生じ、使用感が不十分となる場合がある。
【0016】
本発明の手指消毒組成物は成分(C)としてトリイソオクタン酸グリセリンを含有する。トリイソオクタン酸グリセリンを含有すると、トリイソオクタン酸自身の湿潤性付与効果のみならず、グリセリンによる湿潤性・しっとり感を維持したまま、使用後のべたつき感を抑制し、優れた使用感を得ることが可能となる。該手指消毒組成物中におけるトリイソオクタン酸グリセリンの占める割合は0.05~0.25質量%であることが好ましい。より好ましくは、0.1~0.2質量%である。トリイソオクタン酸グリセリンの占める割合が0.05質量%未満の場合には、使用後のべたつき感の抑制効果が不十分であり、べたつき感が生じる場合がある。また、0.25質量%を超える場合には、製剤の安定性が不十分である場合がある。
【0017】
本発明の手指消毒組成物は、使用後のべたつき感の低減と湿潤性・しっとり感の付与による使用感の向上を目的として、前述した(B)成分であるグリセリンと、(C)成分であるトリイソオクタン酸グリセリンの質量比(B)/(C)を1.25~4の割合で含有することが好ましい。(B)/(C)が4を超える場合には、使用後のべたつき感が強くなる場合があり、使用感として好ましくない場合がある。また(B)/(C)が1.25未満である場合には、製剤の安定性と使用感を両立することが難しい場合がある。
【0018】
本発明の手指消毒組成物は、製剤の安定性の観点から、成分(A)と成分(C)とを質量比で(A)/(C)が220以上の割合となるように含有する。かかる割合が220に満たない場合、後述する実施例に示したように、製剤に油滴上の分離又は白濁が生じる。また成分(A)と成分(C)との質量比(A)/(C)の上限は700以下であることが好ましい。
【0019】
本発明の手指消毒組成物は、湿潤性を付与し、手荒れ等の発生を抑制するために、上記した(B)成分であるグリセリンおよび上記した成分(C)であるトリイソオクタン酸グリセリン以外に、他の保湿剤を含有することができる。かかる保湿剤としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポロキサマー、1,3-ブチレングリコール、1,4-ブチレングリコール、ペンチレングリコール、ヘキシレングリコール、イソプレングリコール、エチルヘキサンジオール、イソペンチルジオール、ジグリセリン、ポリグリセリン、リノール酸グリセリル、ソルビトール、キシリトール、マルチトール、マンニトール、エリスリトール等のポリオール化合物、ヒアルロン酸ナトリウム、コンドロイチン硫酸ナトリウム、ピロリドンカルボン酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、コラーゲン、エラスチン、ムチン、セラミド、尿素、トレハロース及びその誘導体等が挙げられる。前記保湿剤は、単独で用いても良いし、二種類以上を併用して用いても良い。本発明の手指消毒組成物中における保湿剤の濃度は、0.01~0.25質量%が好ましい。
【0020】
本発明の手指消毒組成物は、殺菌性等の効果を向上させることを目的として、各種殺菌消毒薬を含有することができる。かかる殺菌消毒薬としては、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、クロルヘキシジン塩等のビグアナイド化合物、クレゾールに代表されるフェノール化合物、ヨウ素化合物、アクリノール等の色素系化合物等が挙げられる。本発明の手指消毒組成物中における殺菌消毒薬の濃度は、0.005~0.25質量%が好ましい。
【0021】
本発明の手指消毒組成物は、粘性を付与し、使用時に手のひらからの液だれを防止する目的で、前記したグリセリンおよびトリイソオクタン酸グリセリン以外の増粘剤を含有することができる。かかる増粘剤としては、カルボキシメチルデンプン、ジアルデヒドデンプン、プルラン、マンナン、アミロペクチン、アミロース、デキストラン、ヒドロキシエチルデキストラン、レバン、イヌリン、キチン、キトサン、キシログルカン、アルギン酸、アラビアゴム、グアーガム、トラガントガム、ヒアルロン酸、ヘパリン、メチルセルロース、エチルセルロース、酢酸セルロース、ニトロセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルエチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等が挙げられる。上記した増粘剤は、単独で用いても良いし、二種類以上を併用して用いても良い。本発明の手指消毒組成物における増粘剤の固形分濃度に特に制限はないが、0.1~10質量%が好ましい。
【0022】
本発明の手指消毒組成物は、上記した成分の他に、炭酸塩などの発泡剤、非イオン性・アニオン性・カチオン性等の界面活性剤、ブチル化ヒドロキシトルエンなどの抗酸化剤、pH調整剤、緩衝剤、香料、色素などを含有することができる。
【0023】
本発明の手指消毒組成物は、該組成物をボトル等の容器に充填し、スプレー、ポンプ、ワンタッチキャップ、滴定キャップ、滴定ノズル等を介して、手指に噴霧もしくは滴下し、手指の消毒・殺菌することが好ましい。
【実施例0024】
以下に本発明を実施例によりさらに詳細に示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0025】
(実施例1)
エタノール53g、グリセリン0.5g、トリイソオクタン酸グリセリンであるエキセパール(登録商標)TGO(花王株式会社)を0.2g、50質量%塩化ベンザルコニウムであるサニゾール(登録商標)B-50(花王株式会社)を0.1g混合した後に、精製水を加えて全体を100gとし、実施例1の手指消毒組成物を作製した。
【0026】
(実施例2)
エタノールの量を55gとした以外は、実施例1と同様にして、実施例2の手指消毒組成物を作製した。
【0027】
(実施例3)
エタノールの量を56gとした以外は、実施例1と同様にして、実施例3の手指消毒組成物を作製した。
【0028】
(実施例4)
エタノールの量を56g、グリセリンの量を0.3g、エキセパールTGOの量を0.1gとした以外は、実施例1と同様にして、実施例4の手指消毒組成物を作製した。
【0029】
(実施例5)
エタノール56gに、ヒドロキシプロピルセルロースであるHPC-H(日本曹達株式会社)0.3gを溶解し、その後、グリセリンを0.3g、エキセパールTGOを0.1g、サニゾールB-50を0.1g混合し、精製水を加えて全量を100gとし、実施例5の手指消毒組成物を作製した。
【0030】
(比較例1)
エタノールの量を60gとした以外は、実施例1と同様にして、比較例1の手指消毒組成物を作製した。
【0031】
(比較例2)
エキセパールTGOの量を0.3gとした以外は、実施例1と同様にして、比較例2の手指消毒組成物を作製した。
【0032】
(比較例3)
エタノールの量を51gとした以外は、実施例1と同様にして、比較例3の手指消毒組成物を作製した。
【0033】
<製剤の安定性の評価>
実施例1~5及び比較例1~3の手指消毒組成物について、作製後、それぞれを透明なガラス容器に入れ、封をしたのちに、24時間室温環境下に放置し、その後、製剤の状態を目視観察し、以下の基準にて製剤の安定性を評価した。これらの結果を表1の「製剤の安定性」の項目に示す。
【0034】
「製剤の安定性の評価」は以下の基準で評価した。
○:製剤は透明な状態であった。
×:製剤に油滴状の分離又は白濁状態が見られた。
【0035】
<引火性及び燃焼性の評価>
実施例1~5及び比較例1~3の手指消毒組成物について、引火性についてはタグ密閉式測定装置にて、消防法に定める方法で引火点を測定した。また燃焼性についてはタグ開放式測定装置にて、消防法に定める方法で燃焼点を測定した。引火性及び燃焼性について以下の基準で評価を行った。これらの結果を表1の「引火性及び燃焼性」の項目に示す。
【0036】
「引火性及び燃焼性の評価」は以下の基準で評価した。
○:測定された引火点と燃焼点が60質量%エタノールの測定値と比較して高かった。
×:測定された引火点又は燃焼点が60質量%エタノールの測定値と同等以下であった。
【0037】
【表1】
【0038】
上記の結果から、本発明の手指消毒組成物は、引火性及び燃焼性が低く、且つ製剤の安定性に優れた手指消毒組成物であることが判る。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明の組成物は、手指の消毒・殺菌に用いることができる。