(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023042469
(43)【公開日】2023-03-27
(54)【発明の名称】1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸塩を含有する水溶性ラジカル重合遅延剤
(51)【国際特許分類】
C08F 2/38 20060101AFI20230317BHJP
C08F 20/02 20060101ALI20230317BHJP
C08F 2/50 20060101ALI20230317BHJP
C08F 4/04 20060101ALI20230317BHJP
C07C 65/11 20060101ALN20230317BHJP
【FI】
C08F2/38
C08F20/02
C08F2/50
C08F4/04
C07C65/11
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021149781
(22)【出願日】2021-09-14
(71)【出願人】
【識別番号】000199795
【氏名又は名称】川崎化成工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152928
【弁理士】
【氏名又は名称】草部 光司
(72)【発明者】
【氏名】檜森 俊一
(72)【発明者】
【氏名】山田 加奈子
(72)【発明者】
【氏名】山田 暁彦
【テーマコード(参考)】
4H006
4J011
4J015
4J100
【Fターム(参考)】
4H006AA01
4H006AA03
4H006AB48
4H006AC47
4H006BJ50
4H006BN30
4H006BN90
4H006BS30
4H006BS70
4J011NA18
4J011NA20
4J011NB01
4J011NB03
4J011SA01
4J011SA16
4J011SA61
4J011UA01
4J011XA02
4J015AA01
4J015AA04
4J100AL09P
4J100AM21P
4J100BA03P
(57)【要約】 (修正有)
【課題】水溶性単量体のラジカル重合反応において、意図しない重合を阻止、又は重合熱を平準化して暴走反応を制御する働きを有する水溶性ラジカル重合遅延剤。
【解決手段】下記一般式(1)又は(2)で表される1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸塩を含有する水溶性ラジカル重合遅延剤。
Xは水素原子又は炭素数1~10のアルキル基を表し、Zはアルカリ金属またはアンモニウムを表す。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)又は(2)で表される1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸塩を含有する水溶性ラジカル重合遅延剤。
【化1】
( 一般式(1)中、Xは水素原子又は炭素数1~10のアルキル基を表し、Zはアルカリ金属又はアンモニウムを表す。}
【化2】
( 一般式(2)中、Xは水素原子又は炭素数1~10のアルキル基を表し、Zはアルカリ金属又はアンモニウムを表す。}
【請求項2】
請求項1に記載の水溶性ラジカル重合遅延剤、及び水溶性単量体を含有するラジカル重合性組成物。
【請求項3】
水溶性単量体が、アクリル酸2-ヒドロキシエチル(2HEA)、アクリル酸6-ヒドロキシヘキシル(HHA)、アクリル酸4-ヒドロキシブチル(4HBA)、N-ヒドロキシエチルアクリルアミド(HEAA)、N-ヒドロキシエチルメタクリルアミド(HEMA)からなる群より選択される少なくとも1つである、請求項2に記載のラジカル重合性組成物。
【請求項4】
請求項2又は3に記載のラジカル重合性組成物に、更に光重合開始剤を含有することを特徴とする、ラジカル重合性組成物。
【請求項5】
光重合開始剤が、α-ヒドロキシアルキルフェノン系光重合開始剤又はアシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤であることを特徴とする、請求項4に記載のラジカル重合性組成物。
【請求項6】
請求項2又は3に記載のラジカル重合性組成物に、更に熱重合開始剤を含有することを特徴とする、ラジカル重合性組成物。
【請求項7】
熱重合開始剤が、水溶性アゾ化合物であることを特徴とする、請求項6に記載のラジカル重合性組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸塩を含有する水溶性ラジカル重合遅延剤及びその組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、重合性を有するモノマーの製造時、精製時、変性時、保存時、重合時において、意図しない重合を防止するために、重合禁止剤や重合遅延剤が用いられる。重合性モノマーの中でも、水溶性を有するモノマーの重合禁止剤や重合遅延剤としては、水層に溶解する、すなわち、水溶性の重合禁止剤や重合遅延剤が使用される。
【0003】
従来、上記のような水溶性の重合禁止剤としては、ヒドロキノン類(特許文献1、2)、遷移金属塩類(特許文献3)、ピペリジン-1-オキシル類(特許文献4) 等が知られている。
【0004】
また、ジヒドロキシナフタレン骨格を有するラジカル捕捉剤が特許文献5に開示されている。該文献において、ナフトヒドロキノンスルホナートオニウム塩を初めとするナフトヒドロキノン化合物が、酸素不存在下においても、ラジカル捕捉効果を有し、特にモノマーに対して優れた重合禁止効果を有することが開示されており、その詳細な説明及び実施例において、ナフトヒドロキノンスルホン酸およびその塩を、モノマーである一般的な(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、アクリル化合物、芳香族ビニル化合物、置換エチレン化合物に対して添加する事により、生成するラジカルを消去、安定化することができ重合反応を防止、抑制する効果があることが記載されている。
【0005】
しかし、ナフトヒドロキノンスルホン酸塩は、それ自体、強い腐食性を有するうえ、硫黄原子を含んでおり、燃焼廃棄を行う際、有害なイオウ酸化物を産生し、環境、人体に負荷を与える懸念がある。また、重合前に水溶性モノマー中のナフトヒドロキノンスルホン酸塩を取り除くことが困難であるため、重合物中に強酸成分が含まれることとなり、電材、金属用コーティング、金属用接着剤には用いることが困難であるという問題があった。
【0006】
該文献には、その記載の中に本発明のカルボキシラート基を有する化合物も記載されているが、カルボキシラート基を有する化合物に関して、その例示もなく、実施例もなく、カルボキシラート基を有するという文言のみの記載にとどまっている。一般に、スルホナート基とカルボキシラート基はその酸解離度も極端に異なっているうえ、該置換基がついた場合のナフタレン環の電子状態も大きく異なると考えられ、スルホナート基の例示を持って、カルボキシラート基を持つ化合物も同様の効果を有するとは言えないと考えられる。
【0007】
また、特許文献6において、本発明のカルボキシラート基を有する化合物を含む縮合多環芳香族骨格を有する連鎖移動剤が開示されており、その例示として、1,4-ジヒドロキシ-2-ナフタレンカルボン酸がそのエステル化合物である2-メトキシカルボニル-1,4-ジヒドロキシナフタレン、2-フェノキシカルボニル-1,4-ジヒドロキシナフタレンなどと共に列記されている。そして、該化合物をラジカル重合性化合物である一般的な(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、アクリル化合物、芳香族ビニル化合物、置換エチレン化合物等に対して重合開始剤と共に添加する事により、生成するポリマーの末端あるいは主鎖の一部に、縮合多環芳香族骨格を有する連鎖移動剤に由来する残基を有するポリマーを製造することができることが開示されている。しかし、水溶性である1,4-ジヒドロキシ-2-ナフタレンカルボン酸の塩に関しての記載はなく、実施例においてもメタクリル酸メチルに1,4-ジヒドロキシ-2-ナフタレンカルボン酸添加した例があるのみで、水溶性モノマーに水溶性の本発明の化合物を添加した例は記載されていない。カルボン酸がアニオンとして解離した状態におけるナフタレン環の電子状態やアニオンのラジカル捕捉に与える影響は想到することは困難であり、カルボン酸とそのエステルが同列でその効果を有することが記載されている本文献からはカルボン酸アニオンが同様の効果を有するとは言えないと考えられる。
【0008】
この点は、特許文献7に1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸化合物が光重合増感剤として作用することが開示されているが、そのことからも明らかである。該文献には、1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸及びそのエステルである1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸フェニルと光重合開始剤であるオニウム塩存在下に、ラジカル重合性化合物の光重合を促進することが記載されている。水溶性のラジカル重合性化合物ではなく、重合開始剤も本発明の開始剤とは異なるが、重合遅延ではなく、重合促進効果を有することが記載されている。該文献には、1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸が塩、すなわちカルボン酸アニオンとなると重合促進効果ではなく、重合遅延効果を有するようになるということに関しては、記載も示唆もない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭54-14904号公報
【特許文献2】特開平5-320095号公報
【特許文献3】特開平10-218832号公報
【特許文献4】特開平1-165534号公報
【特許文献5】特開2008-239599号公報
【特許文献6】特開2014-91814号公報
【特許文献7】特開2017-8269号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、水溶性モノマーの意図しない重合を防止する水溶性ラジカル重合遅延剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、長年ナフタレン骨格の化合物について鋭意研究を続けてきた。その結果、特定の構造を有するナフタレン化合物が水溶性であり、該化合物が水溶性モノマーの重合を抑制することを見出し、本発明を完成させるに至った。すなわち、第一の発明は、下記一般式(1)又は(2)で表される1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸塩を含有する水溶性ラジカル重合遅延剤に存する。
【0012】
【0013】
一般式(1)中、Xは水素原子又は炭素数1~10のアルキル基を表し、Zはアルカリ金属又はアンモニウムを表す。
【0014】
【0015】
一般式(2)中、Xは水素原子又は炭素数1~10のアルキル基を表し、Zはアルカリ金属又はアンモニウムを表す。
【0016】
第2の発明は、第1の発明に記載の水溶性ラジカル重合遅延剤、及び水溶性単量体を含有するラジカル重合性組成物に存する。
【0017】
第3の発明は、水溶性単量体が、アクリル酸2-ヒドロキシエチル(2HEA)、アクリル酸6-ヒドロキシヘキシル(HHA)、アクリル酸4-ヒドロキシブチル(4HBA)、N-ヒドロキシエチルアクリルアミド(HEAA)、N-ヒドロキシエチルメタクリルアミド(HEMA)からなる群より選択される少なくとも1つである、第2の発明に記載のラジカル重合性組成物に存する。
【0018】
第4の発明は、第2又は題3の発明に記載のラジカル重合性組成物に、更に光重合開始剤を含有することを特徴とする、ラジカル重合性組成物に存する。
【0019】
第5の発明は、光重合開始剤が、α-ヒドロキシアルキルフェノン系光重合開始剤又はアシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤であることを特徴とする、第4の発明に記載のラジカル重合性組成物に存する。
【0020】
第6の発明は、第2又は第3の発明に記載のラジカル重合性組成物に、更に熱重合開始剤を含有することを特徴とする、ラジカル重合性組成物に存する。
【0021】
第7の発明は、熱重合開始剤が、水溶性アゾ化合物であることを特徴とする、第6の発明に記載のラジカル重合性組成物に存する。
【0022】
なお、本発明において、「(メタ)アクリル」とはアクリルあるいはメタクリルを、「(メタ)アクリロイル」とはアクリロイルあるいはメタクリロイルを、「(メタ)アクリレート」とはアクリレートあるいはメタクリレートをそれぞれ意味するものである。
【0023】
また、本発明において、「水溶性」とは、水に対する溶解度が、25℃で1g/100mL以上のものを指すものとする。
【発明の効果】
【0024】
本発明の上記一般式(1)又は(2)で表される1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸塩は、水溶性単量体に対してラジカル重合を遅延する効果を有しており、水溶性単量体をラジカル重合させる反応において意図しない重合を阻止、あるいは重合熱を平準化して、暴走反応を制御する働きを有する有用な化合物である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸一ナトリウム又は1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸二ナトリウムを含有するラジカル重合組成物に405nmの光を照射したときの発熱量を時間経過とともに測定したグラフ。
【
図2】1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸一ナトリウム又は1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸二ナトリウムを含有するラジカル重合組成物の保存安定性をレオメータにより測定したグラフ。
【
図3】合成例1で得られた1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸一ナトリウムのNMRチャート。
【
図4】合成例2で得られた1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸二ナトリウムのNMRチャート。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を詳細に記述する。
【0027】
(水溶性ラジカル重合遅延剤)
本発明の水溶性ラジカル重合遅延剤は、一般式(1)又は(2)で表される1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸の塩である。
【0028】
一般式(1)で表される1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸の塩。
【0029】
【0030】
一般式(1)中、Xは水素原子又は炭素数1~10のアルキル基を表し、Zはアルカリ金属又はアンモニウムを表す。
【0031】
一般式(2)で表される1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸の塩。
【0032】
【0033】
一般式(2)中、Xは水素原子又は炭素数1~10のアルキル基を表し、Zはアルカリ金属又はアンモニウムを表す。
【0034】
一般式(1)又は一般式(2)中、Xで表される炭素数1から10のアルキル基としてはメチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、n-アミル基、i-アミル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、2-エチルヘキシル基、n-ノニル基、n-デシル基、シクロヘキシル基等の直鎖状、分枝鎖状又は環状のアルキル基等を挙げることができる。
【0035】
一般式(1)又は一般式(2)中、Zで表されるアルカリ金属としては、例えば、ナトリウム、カリウム等が挙げられる。
【0036】
一般式(1)で表される化合物の具体例としては、1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸一ナトリウム、1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸一カリウム、1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸一アンモニウム、5-メチル-1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸一ナトリウム、5-メチル-1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸一カリウム、5-メチル-1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸一アンモニウム、6-メチル-1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸一ナトリウム、6-メチル-1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸一カリウム、6-メチル-1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸一アンモニウム、5-エチル1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸一ナトリウム、5-エチル1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸一カリウム、5-エチル1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸一アンモニウム、6-エチル1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸一ナトリウム、6-エチル1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸一カリウム、6-エチル1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸一アンモニウム、5-ブチル1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸一ナトリウム、5-ブチル1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸一カリウム、5-ブチル1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸一アンモニウム、6-ブチル1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸一ナトリウム、6-ブチル1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸一カリウム、6-ブチル1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸一アンモニウム等が挙げられる。
【0037】
一般式(1)で表される化合物の具体例としては、1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸二ナトリウム、1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸二カリウム、1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸二アンモニウム、5-メチル-1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸二ナトリウム、5-メチル-1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸二カリウム、5-メチル-1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸二アンモニウム、6-メチル-1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸二ナトリウム、6-メチル-1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸二カリウム、6-メチル-1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸二アンモニウム、5-エチル-1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸二ナトリウム、5-エチル-1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸二カリウム、5-エチル-1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸二アンモニウム、6-エチル-1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸二ナトリウム、6-エチル-1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸二カリウム、6-エチル-1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸二アンモニウム、5-ブチル-1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸二ナトリウム、5-ブチル-1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸二カリウム、5-ブチル-1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸二アンモニウム、6-ブチル-1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸二ナトリウム、6-ブチル-1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸二カリウム、6-ブチル-1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸二アンモニウム等が挙げられる。
【0038】
(1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸の塩の製造方法)
本発明の1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸の塩は、1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸化合物とほぼ当量の対応するアルカリとを脱イオン水等の溶媒中で混合溶解することにより、製造できる。得られた1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸の塩の水溶液をそのまま用いることもできるが、水溶媒を蒸発乾固し、要すれば、再結晶等生成して用いることもできる。
【0039】
(水溶性単量体)
本発明に用いられる水溶性単量体としては、水溶性単量体であれば用いることができるが、本発明の水溶性ラジカル重合遅延剤の効果を十分に発揮できるという観点から、水酸基及び極性基含有モノマーが好ましく、水酸基及び極性基含有モノマーとしては、水酸基及びカルボン酸基含有モノマー、水酸基及びアミド基含有モノマーが好ましく、水酸基及びカルボン酸基含有モノマーとしては、具体的には、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸6-ヒドロキシヘキシル、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチル等が挙げられ、水酸基及びアミド基含有モノマーとしては、具体的には、N-ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N-メチル-N-ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-ビスヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。特に好ましくはアクリル酸2-ヒドロキシエチル(2HEA)、アクリル酸6-ヒドロキシヘキシル(HHA)、アクリル酸4-ヒドロキシブチル(4HBA)、N-ヒドロキシエチルアクリルアミド(HEAA)、N-ヒドロキシエチルメタクリルアミド(HEMA)などである。
【0040】
上記水溶性単量体に本発明の水溶性ラジカル重合遅延剤を含有させることにより、保存時等において、あるいは、蒸留精製、脱気、加熱等、製造プロセス途上時における意図しない重合を防止することができる。また、水溶性単量体をラジカル重合開始剤存在下にラジカル重合させる際に、本発明の水溶性ラジカル重合遅延剤を含有させることにより、ラジカル重合開始時間を調整したり、重合熱を平準化したりすることが可能となる。
【0041】
本発明の水溶性ラジカル重合遅延剤の配合量は、その目的にもよるが、通常、水溶性単量体100重量部に対して0.001~10重量部が好ましく、0.01から5重量部がさらに好ましい。
【0042】
(光重合開始剤)
本発明の水溶性ラジカル重合遅延剤は、光重合開始剤と共に用いて、ラジカル重合の開始を遅らせることができる。本発明において用いられる光重合開始剤は、光エネルギーを吸収してラジカル種を発生する化合物であれば用いることができるが、水溶性単量体の重合に用いることができるという点で、α-ヒドロキシアルキルフェノン系光重合開始剤又はアシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤が好ましい。
【0043】
α-ヒドロキシアルキルフェノン系光ラジカル重合開始剤としては、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン(商品名OMNIRAD1173)、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(商品名OMNIRAD184)、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン(商品名OMNIRAD2959)、2-ヒドロキシ-1-{4-[4-(2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオニル)ベンジル]フェニル}-2-メチルプロパン-1-オン(商品名OMNIRAD127)等が挙げられる。
【0044】
アシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤としては、例えば、ベンゾイル-ジフェニルホスフィンオキサイド、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニルホスフィンオキサイド、2,3,5,6-テトラメチルベンゾイル-ジフェニルホスフィンオキサイド、3,4-ジメチルベンゾイル-ジフェニルホスフィンオキサイド、2,4,6-トリメチルベンゾイル-フェニルエトキシホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチル-ペンチルホスフィンオキサイド、ビス(2,6-ジメチルベンゾイル)-エチルホスフィンオキサイド等が挙げられる。アシルフォスフィンオキサイド系光ラジカル重合開始剤の市販品としては、OMNIRADTPO、OMNIRADTPO-L、OMNIRAD819等が挙げられる。
【0045】
本発明における光重合開始剤の配合量は、その目的にもよるが、通常、水溶性単量体100重量部に対して0.1~10重量部が好ましく、0.2から5重量部がさらに好ましい。
【0046】
(熱重合開始剤)
本発明の水溶性ラジカル重合遅延剤は、熱重合開始剤と共に用いて、ラジカル重合の開始を遅らせることができる。本発明において用いられる熱重合開始剤としては、水溶性熱重合開始剤、レドックス重合開始剤等が挙げられる。上記水溶性熱重合開始剤としては、有機過酸化物、過酸化水素、水溶性アゾ化合物等が挙げられ、中でも取扱いが比較的容易であることから、水溶性アゾ化合物が好ましい。水溶性アゾ化合物としては、例えば、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]二硫酸塩二水和物、2,2’-アゾビス(2-メチルプロプロピオンアミジン)二塩酸塩、2,2’-アゾビス[N-(2-カルボキシエチル)-2-メチルプロピオンアミジン]4水和物、2,2’-アゾビス[2-{1-(2-ヒドロキシエチル)-2-イミダゾリン-2-イル}プロパン]二塩酸塩、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]、2,2’-アゾビス(1-イミノ-1-ピロリジノ-2-メチルプロパン)二塩酸塩、2,2’-アゾビス[2-メチル-N-{1,1-ビス(ヒドロキシメチル)-2-ヒドロキシエチル}プロピオンアミド]、2,2’-アゾビス[2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]等が挙げられる。市販品の水溶性アゾ化合物としては、VA-044、VA-046B、V-50、VA-057、VA060、VA-061、VA-067、VA-080、VA-086(和光純薬社製)等が挙げられる。
【0047】
本発明における熱重合開始剤の配合量は、その目的にもよるが、通常、水溶性単量体100重量部に対して0.1~10重量部が好ましく、0.2から5重量部がさらに好ましい。
【0048】
(ラジカル重合性組成物)
本発明の水溶性ラジカル重合遅延剤を含有するラジカル重合性組成物には、水溶性単量体、重合開始剤のほかに、ウレタン(メタ)アクリレート等の他の重合性化合物を含有してもよい。該ラジカル重合性組成物を水溶媒存在下あるいは不存在下に光を照射及び/又は加熱することにより、所望の速度で重合させることができる。本発明のラジカル重合性組成物では、水の他に必要があれば有機溶媒を用いてもよい。有機溶媒は水溶性の溶媒が好ましいが、ラジカル重合性組成物中で溶解していれば、特に水溶性でない溶媒も用いることができる。
【0049】
また、本発明の効果を阻害しない範囲で必要によりその他の添加剤を含有させることができる。 添加剤としては、酸化防止剤、ヒンダードアミン系光安定剤、紫外線吸収剤、耐電防止剤、着色剤、金型離型剤、重合禁止剤、連鎖移動剤、充填剤、界面活性剤、可塑剤、分散剤及びチクソトロピー性付与剤、増粘剤、難燃剤等が挙げられる。
【実施例0050】
以下、本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、例示を目的として提示をしたものである。すなわち、以下の実施例は、網羅的であったり、記載した形態そのままに本発明を制限したりすることを意図したものではない。よって、本発明は、その趣旨を超えない限り、以下の記載例に限定されるものではない。また、特記しない限り、すべての部および百分率は重量基準である。
【0051】
(物質同定)
本発明の化合物の同定は下記の機器を用いて行った。
核磁気共鳴装置(NMR):日本電子社製、型式ECS-400
【0052】
(光硬化測定方法)
Photo-Rheometerで、ラジカル重合性組成物の複素粘度の推移を測定し、該粘度上昇速度から保存安定性を測定した。
測定条件:
測定冶具:パラレルプレート(φ10mm)
厚み:20μm
振り角:5.0%一定
周波数:10Hz一定
温度:30℃一定
測定雰囲気 :空気雰囲気
【0053】
(光DSC測定)
本実施例において、重合開始速度の測定は光DSC測定により下記のようにして行った。DSC測定装置は日立ハイテク社製XDSC-7000を用い、それに光DSC測定用ユニットを装着し光を照射しながらDSC測定ができるよう設えた。
【0054】
光照射用の光源は、林時計工業社製LA-410UVを用いた。照射光は高圧水銀ランプの全波長またはバンドパスフィルターを用いて405nm光を取り出して照射した。光の照度は50mW/cm2になるように調節した。光源の光はグラスファイバーを用いてサンプル上部まで導けるようにし、光照射開始と同時にDSC測定ができるよう光源のシャッターをトリガー制御できるようにした。
【0055】
光DSCの測定は、サンプルを1mg程度測定用アルミ製パンの中に精秤し、DSC測定部に収めた後に光DSCユニットを装着した。DSCの測定部は窒素を100mL/分の速度で流通し、測定は窒素雰囲気下で行った。一回目の測定後、サンプルはそのままで再度同条件で測定を行い、一回目の測定結果から二回目の測定結果を差し引いた値を該サンプルの測定結果とした。結果は特に断らない限りサンプル1mgあたりの総発熱量で比較した。重合反応の進行に伴い発熱するので、総発熱量を測定することにより、重合反応の進行度合いを調べることができる。
【0056】
一方、熱分析に使われるDSCの測定も実施した。DSCの測定は、サンプルを1mg程度を測定用アルミ製密閉パンの中に窒素雰囲気下で精秤し、DSC測定部に収めた。DSCの測定部は窒素を100mL/分の速度で流通し、測定は窒素雰囲気下で測定した。結果は特に断らない限りサンプル1mgあたりの総発熱量で比較した。重合反応の進行に伴い発熱するので、総発熱量を測定することにより、重合反応の進行度合いを調べることができる。
【0057】
(合成例1)1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸一ナトリウムの合成
窒素雰囲気下、撹拌子を入れた10mlガラスサンプル瓶に、1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸を1.0g(4.9ミリモル)、水酸化ナトリウムを0.22g(5.5ミリモル)、イオン交換水を4.4g加え、室温で攪拌した。1時間攪拌後、原料が全て溶解したことを確認し、暗褐色の1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸一ナトリウム塩の20重量%水溶液を得た。その後、一部を常温、窒素雰囲気下にて20時間、乾燥させた。
【0058】
(合成例2)1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸二ナトリウムの合成
窒素雰囲気下、撹拌子を入れた10mlガラスサンプル瓶に、1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸を1.0g(4.9ミリモル)、水酸化ナトリウムを0.43g(10.8ミリモル)、イオン交換水を4.8g加え、室温で攪拌した。1時間攪拌後、原料が全て溶解したことを確認し、暗褐色の1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸二ナトリウム塩の20重量%水溶液を得た。その後、一部を常温、窒素雰囲気下にて20時間、乾燥させた。
【0059】
(合成例3)1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸アンモニウムの合成
窒素雰囲気下、撹拌子を入れた10mlガラスサンプル瓶に、1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸を1.0g(4.9ミリモル)、25%アンモニア水を0.38g(5.6ミリモル)、イオン交換水を3.6g加え、室温で攪拌した。1時間攪拌後、原料が全て溶解したことを確認し、暗褐色の1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸アンモニウム塩の20重量%水溶液を得た。その後、一部を常温、窒素雰囲気下にて20時間、乾燥させた。
【0060】
合成例1乃至3において合成した1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸の塩の水溶性を調べるために、常温25℃で脱イオン水に対する溶解度を測定したところ、20g/100mL以上の溶解度を示した。
【0061】
(実施例1) 窒素下での貯蔵安定性
水溶性単量体としてN-ヒドロキシエチルメタクリルアミド(HEMA)100重量部に対し、熱重合開始剤としてアゾ化合物であるアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を4重量部、水溶性ラジカル重合遅延剤として1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸一ナトリウムを0.4重量部添加し、ラジカル重合性組成物を調製した。該サンプル9mlをガラス瓶に入れ、空間部分を窒素で置換した後、密封保存した。一定期間保存後の該サンプルの粘度を測定し、その結果を表1に記載した。
【0062】
(実施例2)
水溶性ラジカル重合遅延剤として1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸一ナトリウムの代わりに1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸二ナトリウムを用いた以外は、実施例1と同様にラジカル重合性組成物を調製し、該サンプル9mlをガラス瓶に入れ、空間部分を窒素で置換した後、密封保存した。一定期間保存後の該サンプルの粘度を測定し、その結果を表1に記載した。
【0063】
(比較例1)
水溶性ラジカル重合遅延剤として1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸一ナトリウムの代わりに、ラジカル重合禁止剤としてよく知られており類似の1,4-ジヒドロキシ構造を持つハイドロキノン(HQ)を用いた以外は、実施例1と同様にラジカル重合性組成物を調製し、該サンプル9mlをガラス瓶に入れ、空間部分を窒素で置換した後、密封保存した。一定期間保存後の該サンプルの粘度を測定し、その結果を表1に記載した。
【0064】
【0065】
表1において、「○」は粘度上昇が見られなかったことを示し、「△」は若干粘度が上昇したことを示し、「×」は粘度が上昇しほぼ固化したことを示している。本実験は、水溶性単量体であるN-ヒドロキシエチルメタクリルアミド(HEMA)に熱ラジカル重合開始剤であるアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を添加する事により意図的にラジカル種を発生させ、保存時の安定性を加速的に測定したものである。
【0066】
表1から明らかなように、既存のラジカル重合禁止剤であるハイドロキノンを添加した例では、この加速条件では1日目から粘度上昇がみられ、2日目にはほぼ硬化してしまっていることがわかる。一方、同条件で、本発明の水溶性ラジカル重合遅延剤である1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸一ナトリウム及び1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸二ナトリウムは、10日経っても、硬化せず、保存安定性が優れているといえる。特に、1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸二ナトリウムは、10日目でも粘度上昇すら観測されず、保存安定効果が極めて優れていることがわかる。
【0067】
(実施例3) 加熱によるラジカル重合テスト
水溶性単量体としてN-ヒドロキシエチルメタクリルアミド(HEMA)100重量部に対し、熱重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を0.5重量部、水溶性ラジカル重合遅延剤として1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸一ナトリウムの20重量%水溶液10重量部添加し、ラジカル重合性組成物を調製した。該サンプルをレオメータにより、60℃での加熱下で複素粘度の変化を測定し、その結果を表2と
図2に記載した。
図2において、黒四角のマーク「DHNA-Na20%aq(10)」と記載したプロットである。測定時間内に複素粘度の上昇は見られなかった。
【0068】
(実施例4)
水溶性ラジカル重合遅延剤として1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸一ナトリウムの代わりに1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸二ナトリウムの20重量%水溶液を用いた以外は、実施例3と同様にラジカル重合性組成物を調製し、該サンプルをレオメータにより、ギャップ0.02mmにて、60℃での窒素雰囲気下で複素粘度の変化を測定し、その結果を表2と
図2に記載した。
図2において、黒三角のマーク「DHNA-2Na20%aq(10)」と記載したプロットである。測定時間内に複素粘度の上昇は見られなかった。
【0069】
(比較例2)
水溶性ラジカル重合遅延剤として1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸一ナトリウムを用いる代わりに純水10重量部を用いた以外は、実施例3と同様にラジカル重合性組成物を調製し、該サンプルをレオメータにより、60℃での窒素雰囲気下で複素粘度の変化を測定し、その結果を表2と
図2に記載した。
図2において、バツマーク「BLANK(PW(10))」と記載したプロットである。なお、重なって表示された破線は、グラフの立ち上がりの時間を推定するためにひかれた補助線である。
【0070】
【0071】
表2、
図2から明らかなように、水溶性ラジカル重合遅延剤を用いないブランク実験では、60℃の加温条件では2200秒後に硬化が開始されその後完全に硬化している。一方、本発明の水溶性ラジカル重合遅延剤である1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸一ナトリウム及び1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸二ナトリウムを添加した例では、5000秒後も全く粘度の上昇は見られず、ラジカル重合禁止効果が極めて優れていることがわかる。
【0072】
(実施例5)
水溶性単量体としてN-ヒドロキシエチルメタクリルアミド(HEMA)100重量部に対し、光重合開始剤として1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(商品名OMNIRAD184)を3重量部添加して、水溶性ラジカル重合遅延剤として1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸一ナトリウムを0.2重量部添加し、ラジカル重合性組成物を調製した。該ラジカル重合性組成物1mgを測定用アルミパンの中に精秤し、DSC測定部に収めた後、光DSCユニットを装着した。該サンプルを、窒素雰囲気下で405nmの光を30分間照射した。その時の発熱量を計測し、その結果を表3に記載すると共に
図1にプロットした。
図1において、一点鎖線「HEMA+184(3)+DHNANa(0.2)」と記載したプロットである。
【0073】
(実施例6)
水溶性ラジカル重合遅延剤として1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸一ナトリウムの代わりに1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸二ナトリウムを用いた以外は、実施例5と同様にラジカル重合性組成物を調製し、その時の発熱量を計測し、その結果を表3に記載すると共に
図1にプロットした。
図1において、実線「HEMA+184(3)+DHNA2Na(0.2)」と記載したプロットである。
【0074】
(実施例7)
水溶性ラジカル重合遅延剤として1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸一ナトリウムの代わりに1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸一アンモニウムを用いた以外は、実施例5と同様にラジカル重合性組成物を調製し、その時の発熱量を計測し、その結果を表3に記載すると共に
図1にプロットした。
図1において、破線「HEMA+184(3)+DHNANH4(0.2)」と記載したプロットである。
【0075】
(比較例3)
水溶性ラジカル重合遅延剤として1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸一ナトリウムを添加しなかった以外は、実施例5と同様にラジカル重合性組成物を調製し、その時の発熱量を計測し、その結果を表3に記載すると共に
図1にプロットした。
図1において、点線「HEMA+184(3)BLANK」と記載したプロットである。
【0076】
【0077】
表3及び
図1より明らかなように、本発明の水溶性ラジカル重合遅延剤を添加する事により、重合が開始する時間を遅らせることができることがわかる。特に、1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸二ナトリウムはその効果が高いことがわかる。