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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023004247
(43)【公開日】2023-01-17
(54)【発明の名称】視覚検査装置及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   A61B 3/10 20060101AFI20230110BHJP
   A61B 3/103 20060101ALI20230110BHJP
   A61B 3/113 20060101ALI20230110BHJP
【FI】
A61B3/10
A61B3/103
A61B3/113
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021105827
(22)【出願日】2021-06-25
(71)【出願人】
【識別番号】521280800
【氏名又は名称】朝岡 亮
(74)【代理人】
【識別番号】100122275
【弁理士】
【氏名又は名称】竹居 信利
(74)【代理人】
【識別番号】100102716
【弁理士】
【氏名又は名称】在原 元司
(72)【発明者】
【氏名】朝岡 亮
【テーマコード(参考)】
4C316
【Fターム(参考)】
4C316AA13
4C316AA18
4C316AA21
4C316AA30
4C316FA01
4C316FA04
4C316FA18
4C316FB22
4C316FB26
(57)【要約】
【課題】比較的簡便に、客観性のある検査結果を得ることが可能な視覚検査装置を提供する。
【解決手段】呈示された所定の固視標を見る被験者の目の固視点の情報を検出し、当該検出された被験者の固視点の情報に基づいて、当該被験者の視覚に関する情報の推定を行って、当該推定した情報を出力する視覚検査装置である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
呈示された所定の固視標を見る被験者の目の固視点の情報を、所定のタイミングごとに繰り返し取得する固視点取得手段と、
前記取得された被験者の固視点の情報に基づいて、当該被験者の視覚に関する情報の推定を行う推定手段と、
当該推定した情報を出力する手段と、
を含む視覚検査装置。
【請求項2】
所定の固視標を呈示する呈示手段と、
当該呈示された所定の固視標を見る被験者の目の固視点の情報を、所定のタイミングごとに繰り返し取得する固視点取得手段と、
前記取得された被験者の固視点の情報に基づいて、当該被験者の視覚に関する情報の推定を行う推定手段と、
当該推定した情報を出力する手段と、
を含む視覚検査装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の視覚検査装置であって、
前記視覚に関する情報は、被験者の視力を表す値の情報であり、
前記固視標は、所定以上の視力を有する被験者が視認可能な像を含み、
推定手段は、前記取得した固視点の情報に基づいて被験者の目のマイクロサッカードの位置、方向、速度の少なくとも一つの情報を生成し、当該生成した被験者の目のマイクロサッカードの位置、方向、速度の少なくとも一つの情報に基づいて、当該被験者の視覚に関する情報である、被験者の視力を表す値の推定を行う視覚検査装置。
【請求項4】
コンピュータを、
呈示された所定の固視標を見る被験者の目の固視点の情報を、所定のタイミングごとに繰り返し取得する固視点取得手段と、
前記取得された被験者の固視点の情報に基づいて、当該被験者の視覚に関する情報の推定を行う推定手段と、
当該推定した情報を出力する手段と、
として機能させるプログラム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒトの視覚を検査する視覚検査装置及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、人間の視力の検査では、検査の対象者である被験者から所定の距離をおいた場所でランドルト環等の視標を呈示し、被験者にその特徴(例えばランドルト環の切れ目の方向など)を答えさせる方法が利用されてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006-167276号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら上記従来の視力等の検査の方法では、視標の特徴を答えることができる年齢に達していることが条件であり、また被験者が、呈示され得るランドルト環の切れ目の方向を予め記憶しておくなどの方法で自らの視力を偽る場合があるなど、検査の条件や、その結果の客観性などに問題があった。
【0005】
なお、特許文献1には、8つの方向のいずれかの方向に移動する動画像を被験者に呈示し、その回答を固視微動の推定処理に供する例が開示されている。
【0006】
本発明は上記実情に鑑みて為されたもので、比較的簡便に、客観性のある検査結果を得ることのできる、視覚検査装置及びプログラムを提供することを、その目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記従来例の問題点を解決する本発明の一態様は、視覚検査装置であって、呈示された所定の固視標を見る被験者の目の固視点を、所定のタイミングごとに繰り返し取得する固視点取得手段と、前記取得された被験者の固視点の情報に基づいて、当該被験者の視覚に関する情報の推定を行う推定手段と、当該推定した情報を出力する手段と、を含む。
【発明の効果】
【0008】
本発明によると、比較的簡便に、客観性のある検査結果を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施の形態に係る視覚検査装置の例を表す構成ブロック図である。
図2】本発明の実施の形態に係る視覚検査装置の例を表す機能ブロック図である。
図3】本発明の実施の形態に係る視覚検査装置による視力の推定処理に関わる説明図である。
図4】本発明の実施の形態に係る視覚検査装置による視野の推定処理に関わる説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。本発明の実施の形態に係る視覚検査装置1は、図1に例示するように、制御部11と、記憶部12と、操作部13と、表示部14と、インタフェース部15とを含んで構成され、インタフェース部15を介して、固視点検出器2に接続されている。
【0011】
本実施の形態の一例では、この固視点検出器2は、検査の対象者である被験者の目を、所定のタイミングごと(例えばサンプリング周波数を800Hzとした場合1/800秒に1回の定期的なタイミングごと)に繰り返し撮像して動画像データとして出力する。
【0012】
また本実施の形態の別の例では、この固視点検出器2は、カメラとプログラム制御デバイスとを含んで構成され、カメラが1/800秒に1回のタイミングごとにフレームを撮像して得た動画像データの各フレームから、目(左目または右目)の眼球の位置を検出し、当該検出した眼球の位置に関する情報を出力する。この眼球の位置の情報は例えば、フレームの座標情報における瞳の中心座標などとして表すことができる。
【0013】
視覚検査装置1の制御部11は、CPU等のプログラム制御デバイスであり、記憶部12に格納されたプログラムに従って動作する。本実施の形態の一例では、この制御部11は、呈示された所定の固視標を見る被験者の目の固視点に係る情報を取得し、当該取得した固視点に係る情報に基づいて、当該対象者の視覚に関する情報(例えば視力を表す値や視野に関する情報)の推定を行って、当該推定の結果である情報を出力する。この制御部11の詳しい動作は後に説明する。
【0014】
記憶部12は、メモリデバイスやディスクデバイス等であり、制御部11によって実行されるプログラムを保持する。この記憶部12は、また、制御部11のワークメモリとしても動作する。
【0015】
操作部13は、キーボードや、マウス等を含み、ユーザの操作を受け入れて、当該操作の内容を表す情報を制御部11に出力する。表示部14は、ディスプレイ等であり、制御部11から入力される指示に従って情報を表示出力する。本実施の形態の一例ではこの表示部14は、被験者が視認する画像を表示する被験者用表示部141と、ユーザ(検査を行う検査者)に対して画像を表示するユーザ用表示部142とを含んでもよい。つまり、本実施の形態の一例ではディスプレイは複数あってもよい。
【0016】
インタフェース部15は、USBインタフェース等であり、本実施の形態の一例では、固視点検出器2に接続され、固視点検出器2から画像のデータ(一連の静止画像を含む動画像データ)の入力を受け入れて、当該動画像データを制御部11に出力する。
【0017】
ここでの例では、固視点検出器2は、例えば所定の光源と高速度カメラ(サンプリング周波数800Hzのセンサなど)とを用い、被験者となった、ヒトを含む動物の目の画像を所定のタイミングごとに繰り返して撮影し、当該撮影して得た画像のデータ(一連の静止画像(フレーム)を含む動画像データ)を出力するものとする。
【0018】
この固視点検出器2は、一例としては、鈴木一隆ほか,「インテリジェントビジョンセンサを用いた両目同時固視微動計測装置の開発とマイクロサッカードの左右差の評価」,生体医工学,Vol.53, No.5, pp. 247-254, 2015 (DOI:10.11239/jsmbe.53.247)(以下「固視微動に係る文献」と呼ぶ)に記載のものなどがある。尤も、本実施の形態の視覚検査装置1に接続される固視点検出器2は、これに限られるものではない。
【0019】
次に、本実施の形態の制御部11の動作例について説明する。本実施の形態の制御部11は、固視標呈示部21と、固視点取得部22と、推定部23と、出力部24とを含んで構成される。
【0020】
固視標呈示部21は、所定の固視標を呈示する。本実施の形態の一例では、この固視標呈示部21は、ユーザから、表示する固視標を指定する操作を受けて、被験者用表示部141に対してユーザにより指定された固視標を表示させて、被験者に対して呈示する。ここでユーザが指定する固視標は、視覚検査装置1が視力を推定する場合には、所定以上の視力を有する被験者が視認可能な像を含む。具体的に以下の説明では、ユーザが指定する固視標は、例えば互いに開口の大きさ(対応する視角)または開口位置の少なくともいずれかが異なる複数のランドルト環の画像から選択されるものとする。もっとも、本実施の形態はこれに限られず、視力の情報を推定する際に用いる固視標は、所定の視角に対応する間隙をおいて配された一対の図形などを用いたものであってもよい。
【0021】
またここでユーザが指定する固視標は、この視覚検査装置1が視野を推定する場合は、ハンフリー視野計が呈示するものと同様の、視野の中心から30度の範囲内に配された複数の検査点のいずれかに比較的明度の高い画素(以下「輝点」と呼ぶ)を配し、他の画素を比較的明度の低い画素(黒色等)とした画像データとする。いずれの場合も、この固視標である画像データは、静止画像を表す画像データであるものとする。
【0022】
すなわち本実施の形態のこの例では、被験者は被験者用表示部141としてのディスプレイ等に表示された画像を固視するものとする。
【0023】
固視点取得部22は、固視標呈示部21が固視標の画像を出力している間、つまり、被験者が固視標を見ている間に、インタフェース部15を介して固視点検出器2から入力される情報に基づいて、被験者の眼球位置に対応する画像上の座標の情報(提示された画像上の座標であって、被験者の視線の方向にある点の座標を表す情報、すなわち固視点の情報)を得る。
【0024】
具体的にこの固視点取得部22は、固視点検出器2が被験者の左右の目の少なくとも一方を撮像した動画像データを出力するものであるときには、この動画像データを受け入れて、当該動画像データに基づき、撮像された被験者の目(左目または右目の少なくとも一方)の眼球位置を検出する。具体的にこの固視点取得部22は、上記固視微動に係る文献に開示されたものと同様、角膜反射光の移動量に基づいて眼球位置(視線の方向)を表す情報を、固視点検出器2から入力される動画像に含まれる各静止画像から連続的に検出する。
【0025】
また固視点取得部22は、固視点検出器2が動画像に含まれる各静止画像から検出した眼球位置の情報を出力しているときには、当該情報を受け入れる。
【0026】
固視点取得部22は、得られた眼球位置の情報に対応する、被験者用表示部141が呈示する画像の座標を逐次的に得る。
【0027】
具体的には、この固視点取得部22は、検査前に、被験者用表示部141に予め定められた互いに異なる3つの点を順番に表示して、各点を被験者に固視させ、当該固視させたときの被験者の眼球位置の情報を取得し、被験者用表示部141に表示した各点と、眼球位置の情報との対応関係を表す、アフィン変換のパラメータを取得するといった公知の方法で、眼球位置の情報と、被験者用表示部141が呈示する画像の座標とを関連付けておく。そして固視点取得部22は、上記所定のタイミングごとに撮影された静止画像から検出した左右の目の少なくとも一方の眼球位置の情報に対応する、画像上の座標(Lx(t),Ly(t)),(Rx(t),Ry(t))のうち少なくとも一方を逐次的に得る。ここでtは時刻を表し、Lxは左目の眼球位置の情報に対応する画像上のX座標、Lyは左目の眼球位置の情報に対応する画像上のY座標、Rxは右目の眼球位置の情報に対応する画像上のX座標、Ryは右目の眼球位置の情報に対応する画像上のY座標をそれぞれ表すものとする。固視点取得部22は、この座標の情報を出力する。
【0028】
推定部23は、固視点取得部22が検出した、被験者の眼球位置に対応する画像上の座標の情報に基づいて、当該被験者の視力または視野の少なくとも一方の推定を行う。具体的にこの推定部23は、次のようにして被験者の視力を推定する。
【0029】
以下では、固視点取得部22が被験者の左目の眼球位置に対応する画像上の座標(Lx(t),Ly(t))を、所定のタイミング(例えば1/800秒に一回)ごとに繰り返し出力しているものとする。また、以下の例では、固視標提示部21が提示する固視標の画像には、その特徴的な部分(以下、特徴領域と呼ぶ)として予め定められた座標の範囲を表す情報が関連付けられているものとする。
【0030】
具体的に図3(a)に例示するように、固視標の画像がランドルト環であれば、当該ランドルト環の開口部の範囲Rを、特徴領域として予め定める。また、図3(b)に例示するように固視標の画像がEチャートであれば線分間の空隙R1,R2を特徴領域として予め定めておく。またスネレン視標(アルファベット文字を用いる)であれば、文字形を構成する有意な画素部分(文字色が黒であれば、黒色の画素の部分)を特徴領域として予め定めておけばよい。
【0031】
ここでの例の一つでは、推定部23は、所定の期間ごとの被験者の視線方向を求める。例えば推定部23は、1/10秒分の座標の情報(80回分のデータ)ごとに、その平均(LxAv_i,LyAv_i)(i=1,2,…)を、この期間の視線方向の情報として求める。ここで(LxAv_1,LyAv_1)が測定開始後、最初の1/10秒間の被験者の左目の眼球位置に対応する画像上の座標の平均を表し、(LxAv_2,LyAv_2)がその次の1/10秒間の被験者の左目の眼球位置に対応する画像上の座標の平均を表し…というようになっているものとする。
【0032】
推定部23は、得られた所定の期間ごとの被験者の視線方向(LxAv_i,LyAv_i)が、被験者に提示されている画像について予め定められた特徴領域に含まれているか否かを調べる。そして推定部23は、
(1)画像を呈示してから所定の時間のうち、得られた視線方向が特徴領域に含まれていた時間の割合
(2)画像が呈示されてから視線方向が特徴領域内となるまでの時間
(3)(特徴領域が複数ある場合)、特徴領域ごとの、視線方向が含まれていた回数の比
などを求める。
【0033】
推定部23は、これら求められた情報を用いて、例えば、得られた視線方向が特徴領域に含まれていた回数の、画像呈示中の視線方向の取得回数(全回数)に対する割合が予め定めたしきい値(例えば8割)を超える場合に、呈示された固視標を視認した(当該固視標を視認するだけの視力を有していた)と判断する。
【0034】
あるいは推定部23は、上記(1)から(3)とともに、あるいはこれらに代えて、
(4)固視点取得部22が検出した、被験者の眼球位置に対応する画像上の座標の情報に基づいて固視微動を検出する
こととしてもよい。
【0035】
ここで固視微動には、マイクロサッカード、ドリフト、トレモアの3種類の運動があるが、推定部23で検出する固視微動は、これら3種類のうち少なくとも一つの種類の運動(例えばマイクロサッカード)でよい。
【0036】
具体的な例として、この固視微動の検出の方法は、上記固視微動に係る文献に開示されたものと同様、角膜反射光の移動量に基づいて眼球位置(視線の方向)を連続的に検出することで行うことができる。すなわち本実施の形態の一例では、推定部23では、上記固視微動に係る文献に開示された方法、あるいは、Engbert R, Kliegl R, “”Microsaccades uncover the orientation of convert attention.”, Vision Res.Vol 43, No.9, pp.1035-1045, 2003や、Engbert R “Microsaccardes: A microcosm for research on oculomotor control, attention, and visual perception”, Prog. Brain Res. Vol.154, pp.177-192, 2006などに開示された方法を用いて、入力された動画像データのうち、固視微動(特にそのうちマイクロサッカード)が生じた期間に撮像された動画像データの部分(複数回の固視微動が検出されたときには複数の部分)を検出する。
【0037】
この例では、推定部23は、検出した動画像データの部分ごとに、当該動画像データの部分の最初のフレーム(動画像データの部分に含まれる静止画像データのうち、最も早い時間に撮像された静止画像データ)と、当該動画像データの部分の最後のフレーム(動画像データの部分に含まれる静止画像データのうち、最後に撮像された静止画像データ)とを抽出する。そして、当該抽出した最初のフレームにおける眼球位置S(xs,ys)と、最後のフレームにおける眼球位置E(xe,ye)とを用いて、眼球の移動距離(位置SとEとの間のユークリッド距離でよい)と、移動範囲(位置Sと位置Eとを結ぶ線分)と、移動方向(位置Sから位置Eへの方向(Δx,Δy)=(xe,ye)-(xs,ys))との情報を取得する。
【0038】
そして推定部23は、固視微動を検出した眼球位置の平均の座標P′を求め、当該平均の座標に対応する、被験者用表示部141に表示された固視標(視力を推定する例ではランドルト環とする)上の座標Pを求める。そして推定部23は、図3(a)に例示するように、当該求めた固視標上の座標Pが、ランドルト環の開口部の範囲などの特徴領域Rに含まれるか否かを判断する。
【0039】
推定部23は、検出した眼球位置に対応して求めた固視標上の座標Pが、呈示した固視標の特徴領域Rに含まれるときに、被験者が、呈示された固視標を視認した(呈示された固視標を視認するだけの視力を有している)と判断する。
【0040】
一方、求めた固視標上の座標Pが、上記特徴領域Rに含まれない場合は、推定部23は、被験者が呈示された固視標を視認していない(呈示された固視標を視認するだけの視力を有していない)と判断する。
【0041】
推定部23は、被験者が視認した固視標のうち、その特徴領域Rの視角がもっとも小さい視角(最小視角)となるものを記録しておき、当該最小視角の情報に基づいて被験者の視力の推定値を出力する。一例としてこの推定部23は、最小視角αの逆数を、視力の推定値とすればよい。
【0042】
また別の例では、この推定部23は、例えば次のようにして被験者の視野を推定する。推定部23は、固視微動を検出した眼球位置の平均の座標P′を求め、当該平均の座標P′に対応する、被験者用表示部141に表示された固視標(視野を推定する例では視野F内の検査点における輝点V)の画像上の座標Pを求める。
【0043】
推定部23は、さらに、固視微動を検出していない間の眼球位置の平均の座標Q′を求め、当該平均の座標Q′に対応する、被験者用表示部141に表示された固視標の画像上の座標Qを求める。
【0044】
推定部23は、そして、座標Qが固視標の画像の中心Oから所定の距離範囲にあり、かつ、QからPへ引いた線分lと、表示している固視標である輝点Vの座標との距離d(図4)が、予め定めたしきい値を下回る場合に、被験者が輝点Vを認識したと判断する。
【0045】
これは被験者が意識的には画像の中央部を視認しつつ、輝点が表示されたときに、無意識に当該輝点を認識して固視微動が生じたことを検出することを意味する。
【0046】
推定部23は、認識したと判断した輝点の座標(あるいは当該座標にある輝点を特定する情報)のリストを、被験者ごとに記録して出力する。
【0047】
出力部24は、推定部23が出力する情報を、ユーザ用表示部142、あるいは外部に出力する。例えば推定部23が視力の推定値を出力しているときには、この出力部24は、当該視力の推定値を表示出力する。あるいは、推定部23が、被験者が認識したと判断した輝点の座標のリストを出力しているときには、この出力部24は、当該リストに基づいて、被験者が認識した輝点の座標を図示する画像等を出力する。
【0048】
[動作]
本発明の実施の形態に係る視覚検査装置1は、以上の構成を基本的に備えており、次のように動作する。以下では、固視標として図3(a)に例示したランドルト環を用いる場合を例とし、固視微動によって視認できたか否かを判断することとする。
【0049】
この視覚検査装置1のユーザ(検査を行う検査者)は、被験者を、被験者用表示部141を視認可能な位置に案内し、固視点検出器2を、当該被験者の目を撮像可能な位置に配する。また被験者に対して左右の目のうち、検査の対象としない、片方の目を隠すよう指示する。
【0050】
ユーザは、視覚検査装置1を操作して、予め定められた固視標のうちから一つ、呈示する固視標の画像を選択する。以下の例では被験者の視力を検査する例として、固視標であるランドルト環の画像のうち一つを選択するものとする。なお、選択の対象となるランドルト環の画像は、互いにその半径または開口位置の少なくともいずれかが異なるものとする。
【0051】
ユーザが、特徴領域Rの視角がβ1であるランドルト環の画像を選択すると、視覚検査装置1は、当該選択されたランドルト環の画像を、被験者用表示部141に表示する。そして固視点検出器2が被験者の目(隠していない方の目)を撮像した動画像データを出力する。
【0052】
被験者が被験者用表示部141に表示された画像を見るとき、当該被験者が当該ランドルト環の切れ目(開口)を視認した場合には、被験者の眼球は、当該開口の位置でマイクロサッカードを生じる。
【0053】
視覚検査装置1は、固視点検出器2が出力する動画像データに基づき、被験者の目がマイクロサッカードを起こしている期間を特定し、さらに当該期間に撮像された動画像データの部分を抽出して、当該抽出した最初のフレームにおける眼球位置S(xs,ys)と、最後のフレームにおける眼球位置E(xe,ye)とを得る。
【0054】
また視覚検査装置1は、得られた眼球位置S,Eを用い、眼球の移動距離(位置SとEとの間のユークリッド距離でよい)、移動範囲(位置Sと位置Eとを結ぶ線分)、及び、移動方向(位置Sから位置Eへの方向)などの情報を取得する。
【0055】
視覚検査装置1は、当該固視微動を検出した眼球位置の平均の座標P′(S+E/2)を求め、当該平均の座標に対応する、被験者用表示部141に表示された固視標(ランドルト環)の画像上の座標Pを求める。視覚検査装置1は、当該求めた固視標の画像上の座標Pが、被験者用表示部141に表示されたランドルト環について予め定められた特徴領域に含まれるか否かを判断する。
【0056】
ここでランドルト環の特徴領域Rは、図3(a)に例示したように、ランドルト環の開口部を含む扇型状の領域であって、ランドルト環の内径をrin、外径をroutとして、ランドルト環の中心からrin-Δrからrout+Δr(ここでΔrは0以上の値であって設計的に定められる値とする)の距離にある領域などとして予め規定しておけばよい。
【0057】
視覚検査装置1は、求めた固視標の画像上の座標Pが、被験者用表示部141に表示されたランドルト環の特徴領域Rに含まれる場合に、被験者が呈示されたランドルト環の特徴領域を認識したと判断して、その旨の情報を、ユーザ用表示部142に出力する。
【0058】
ユーザは、当該表示を参照して、より半径の小さい(つまり特徴領域Rの視角がより小さい視角β2であるような)ランドルト環の画像を表示するよう視覚検査装置1に指示する。
【0059】
以下、ユーザが、被験者用表示部141に表示するランドルト環(特徴領域Rの視角βi(i=1,2,…))を指定すると、視覚検査装置1は、当該ランドルト環が呈示されたときの被験者のマイクロサッカードに基づき、被験者が当該ランドルト環の特徴領域Rである開口を視認したか否かを判断して当該判断の結果をユーザに対して提示する。
【0060】
視覚検査装置1は、これより、特徴領域Rの視角がβi(i=1,2,…)であるランドルト環ごとに、その開口(特徴領域R)を被験者が視認したか否かを表す情報の列Li(i=1,2,…)を関連付けて得る。そして視覚検査装置1は、被験者が特徴領域を視認したことを表す情報Liに関連付けられた視角βiのうち、もっとも小さい視角(最小視角)となるβminを見出し、当該最小視角βminの逆数を、被験者の視力の推定値として出力する。
【0061】
[視認判定の別の例]
ここまでの説明の例では、視覚検査装置1が、ランドルト環を固視標として、当該固視標を見る被験者の目(左目または右目のいずれか)の固視微動を検出し、当該検出した固視微動時の眼球位置の平均の座標P′を求め、当該平均の座標に対応する、固視標上の座標Pが、呈示した固視標の特徴領域Rに含まれるか否かにより被験者が固視標を視認しているか否かを判断していたが、本実施の形態はこれに限られない。
【0062】
例えば、本実施の形態の視覚検査装置1は、検出した固視微動時の眼球位置の平均の座標P′と固視微動時の眼球位置の移動方向(Δx,Δy)とを用い、
・平均の座標P′が、ランドルト環の中心よりもランドルト環の開口(特徴領域Rの中心でよい)に近く、かつ、
・ランドルト環の中心と開口(特徴領域Rの中心でよい)とを結ぶ線分の方向と、固視微動時の眼球位置の移動方向とのなす角度の絶対値が予め定めたしきい値より小さいこと
を条件として、この条件を満足するときに被験者がランドルト環の特徴領域Rを視認していると判断し、この条件を満足しないときには被験者がランドルト環の特徴領域Rを視認していないと判断してもよい。
【0063】
この方法は、また、ランドルト環ではなく、図3(c)に例示するように、二尾の魚の図形が平行に配列され、その傾きを答えさせる固視標(二尾の魚の間隔が所定の視力に対応する視角となるように設定される)を用いる場合も採用できる。この図3(c)の例による固視標では、特徴領域Rは、二尾の魚の間の空隙部分として規定しておく。
【0064】
この例の場合、視覚検査装置1は、検出した固視微動時の眼球位置の移動方向(Δx,Δy)と、この特徴領域Rの長手方向の軸の傾き(平行に配列された一対の図形の傾き)とのなす角の絶対値が予め定めたしきい値より小さいときに、被験者が上記図形の傾きを視認していると判断し、そうでないときには被験者が上記図形の傾きを視認していないと判断することとしてもよい。
【0065】
[もう一つの動作例]
また本発明の実施の形態に係る視覚検査装置1は、既に述べたように、固視点の位置によって、呈示した固視標を視認できたか否かを判断してもよい。
【0066】
この例でも視覚検査装置1のユーザ(検査を行う検査者)は、被験者を、被験者用表示部141を視認可能な位置に案内し、固視点検出器2を、当該被験者の目を撮像可能な位置に配する。また被験者に対して左右の目のうち、検査の対象としない、片方の目を隠すよう指示する。
【0067】
そしてユーザは、視覚検査装置1を操作して、予め定められた固視標のうちから一つ、呈示する固視標の画像を選択する。以下の例では被験者の視力を検査する例として、固視標の画像のうち一つを選択するものとする。なお、選択の対象となる画像は、特徴領域Rの視角が互いに異なるものを含む。
【0068】
ユーザが、特徴領域Rの視角がβ1である固視標の画像を選択すると、視覚検査装置1は、当該選択された固視標の画像を、被験者用表示部141に表示する。そして固視点検出器2が被験者の目(隠していない方の目)を撮像した動画像データを出力する。
【0069】
視覚検査装置1は、固視点検出器2から入力される、動画像に含まれる各静止画像から検出した眼球位置の情報に対応する、被験者用表示部141が呈示する画像の座標(固視点の座標)を逐次的に得る。一例として固視点検出器2が1/800秒ごとに撮像しているとすると、1秒あたり800回分の固視点の座標の情報が得られることになる。
【0070】
視覚検査装置1は、当該逐次的に得られた被験者の固視点の座標の情報(X_i,Y_i)(i=1,2,…)を、所定の時間分ごとに統計処理する。例えば視覚検査装置1は、1/10秒分の座標の情報(80回分のデータ)ごとに、その平均(XAv_j,YAv_j)(j=1,2,…)を、対応する期間の視線方向の情報として求める。
【0071】
視覚検査装置1は、ここで得られた所定の期間ごとの被験者の視線方向(XAv_j,YAv_j)ごとに、被験者に提示されている固視標の画像の特徴領域Rに含まれているか否かを調べる。
【0072】
視覚検査装置1は、そして、固視標の画像を呈示してから所定の時間内に得られた被験者の視線方向(XAv_j,YAv_j)のうち、得られた視線方向(XAv_j,YAv_j)が特徴領域Rに含まれていた時間の割合を求める。例えば固視標の画像を呈示してから10秒間の間に得られる、視線方向(XAv_j,YAv_j)(j=1,2,…100)のうち、特徴領域Rに含まれている視線方向(XAv_j,YAv_j)の数n(nは0≦n≦100なる整数)を求め、割合n/100を演算する。
【0073】
視覚検査装置1は、この得られた割合n/100が予め定めたしきい値(例えば8割を表す0.8)を超える場合に、呈示された固視標を視認した(当該固視標を視認するだけの視力を有していた)と判断して、その旨の情報を、ユーザ用表示部142に出力する。
【0074】
ユーザは、当該表示を参照して、例えば呈示された固視標を視認した旨の表示が行われると、特徴領域Rの視角がより小さい視角β2であるような固視標の画像を表示するよう視覚検査装置1に指示する。
【0075】
以下、ユーザが、被験者用表示部141に表示する固視標の画像(特徴領域Rの視角βi(i=1,2,…))を順次指定すると、視覚検査装置1は、各固視標の画像が呈示されたときの被験者の固視点座標の平均である視線方向の情報に基づき、被験者が当該固視標の特徴領域Rを視認したか否かを判断する。そして視覚検査装置1は、当該判断の結果をユーザに対して提示する。
【0076】
視覚検査装置1は、これより、特徴領域Rの視角がβi(i=1,2,…)である固視標の画像ごとに、その特徴領域Rを被験者が視認したか否かを表す情報の列Li(i=1,2,…)を関連付けて得る。そして視覚検査装置1は、被験者が特徴領域を視認したことを表す情報Liに関連付けられた視角βiのうち、もっとも小さい視角(最小視角)となるβminを見出し、当該最小視角βminの逆数を、被験者の視力の推定値として出力する。
【0077】
[固視標の呈示]
さらに本実施の形態のここまでの説明では、視覚検査装置1が固視標を呈示することとしていたが、本実施の形態はこれに限られず、固視標は、別途、被験者に呈示されてもよい。この例では、被験者用表示部141は必ずしも必要でなく、また固視標呈示部21の機能的構成も必要ではない。この場合、ユーザは、視覚検査装置1に対して固視標の呈示をした旨の入力を行い、固視点取得部22は、当該入力があったときに、固視標が呈示されているとして、つまり、被験者が固視標を見ているとして、インタフェース部15を介して固視点検出器2から入力される、被験者の目の動画像データを受け入れて、当該動画像データに基づき、被験者の固視微動を検出することとしてもよい。
【0078】
[スマートフォンへの実装]
また本実施の形態の視覚検査装置1は、スマートフォンにより実装されてもよい。この例では、例えば被験者自身がユーザ(検査を行う検査者)となる。ユーザは、固視点検出器2を、視覚検査装置1として機能するスマートフォンに接続して、当該スマートフォンと、固視点検出器2とを机の上などに固定して、被験者とこれらとの相対的な位置関係が変化しないようにしておく。
【0079】
以下ユーザは、スマートフォンのディスプレイを見ながら、スマートフォンに視覚検査装置1としての機能を実行させる。この例ではスマートフォンのディスプレイが被験者用表示部141とユーザ用表示部142との双方として機能する。
【0080】
またこの例では検査前に、視覚検査装置1が予め定められた互いに異なる3つの点を順番に表示して、各点をユーザ(被験者)に固視させる。そして視覚検査装置1は、それぞれの点を固視させたときに固視点検出器2から被験者の眼球位置の情報を受け入れる。そして視覚検査装置1は、被験者用表示部141に表示した各点と、眼球位置の情報との対応関係を表す、アフィン変換のパラメータを取得する。
【0081】
これにより視覚検査装置1は、眼球位置の情報と、被験者用表示部141が呈示する画像の座標とを関連付ける。
【0082】
その後、ユーザは、左右の目について順番に検査を行う。ユーザは、それぞれの目の検査の際に、検査の対象としない、片方の目を隠して、視覚検査装置1を操作する。この例では視覚検査装置1が、所定の規則に従って、提示する固視標の画像を、予め定められた固視標のうちから一つ選択する。ここでの所定の規則は例えば、
(1)初回は、特徴領域の視角が予め定めた値であるような固視標を選択する、
(2)2回目以降は、前回の特徴領域が視認できたか否かにより、
(2-1)視認できたときには、前回の固視標の特徴領域の視角よりも小さい視角の特徴領域を有する固視標を選択し、
(2-2)視認できなかったときには、前回の固視標の特徴領域の視角と同じ視角の特徴領域を有する固視標であって、前回選択したものとは異なる固視標を選択し、
(3)特徴領域が視認できない回数が予め定めた回数を上回ったときには、処理を終了する、
といった規則とする。
【0083】
そして視覚検査装置1は、当該選択した固視標の画像を、被験者用表示部141に表示する。視覚検査装置1は、このとき固視点検出器2から、被験者の眼球位置の情報を受け入れる。
【0084】
被験者が被験者用表示部141に表示された固視標の画像を見るとき、被験者が固視標の特徴領域(例えばランドルト環の切れ目など)を視認した場合には、被験者の視線が特徴領域の近傍で滞留する(平均的な眼球位置が、特徴領域に対応する位置となる)か、または、当該特徴領域の近傍を見る被験者の眼球がマイクロサッカードを生じる。そこで視覚検査装置1は、被験者の視線が特徴領域の近傍で滞留したか、または特徴領域の近傍を見る被験者の眼球がマイクロサッカードを生じたときに被験者が固視標の特徴領域を認識する。またそうでないときには、視覚検査装置1は、被験者が固視標の特徴領域を認識していないと判断する。
【0085】
視覚検査装置1は、被験者が固視標の特徴領域を認識したと判断したときには、その旨の情報をディスプレイに表示出力することとしてもよい。またこのとき視覚検査装置1は、特徴領域Rの視角がより小さい視角であるような固視標の画像を選択して表示する処理から繰り返す。
【0086】
視角検査装置1は、また、選択の処理を終了することとなったときには、それまでに選択した固視標の特徴領域の視角のうち、最小の視角に基づいて、被験者の視力を表す値を推定して出力する。
【0087】
[実施形態の効果]
本実施の形態の例によると、被験者が意識的に制御不能な固視微動等により、被験者が特徴的な箇所を視認しているか否かを測定し、当該測定に基づいて視力や視野などの視覚に関する情報を推定するので、比較的簡便に、客観性のある検査結果を得ることが可能となる。
【符号の説明】
【0088】
1 視覚検査装置、2 固視点検出器、11 制御部、12 記憶部、13 操作部、14 表示部、15 インタフェース部、21 固視標呈示部、22 固視点取得部、23 推定部、24 出力部、141 被験者用表示部、142 ユーザ用表示部。

図1
図2
図3
図4