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  • -捕収剤、浮遊選鉱方法および化合物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023042507
(43)【公開日】2023-03-27
(54)【発明の名称】捕収剤、浮遊選鉱方法および化合物
(51)【国際特許分類】
   B03D 1/012 20060101AFI20230317BHJP
   C07C 323/64 20060101ALI20230317BHJP
   B03D 1/02 20060101ALI20230317BHJP
   C22B 1/00 20060101ALI20230317BHJP
   B03D 101/02 20060101ALN20230317BHJP
   B03D 103/02 20060101ALN20230317BHJP
【FI】
B03D1/012
C07C323/64 CSP
B03D1/02 102
C22B1/00 101
B03D101:02
B03D103:02
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022027875
(22)【出願日】2022-02-25
(31)【優先権主張番号】P 2021149785
(32)【優先日】2021-09-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】504409543
【氏名又は名称】国立大学法人秋田大学
(71)【出願人】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100160794
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 寛明
(74)【代理人】
【識別番号】100145713
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 竜太
(72)【発明者】
【氏名】柴山 敦
(72)【発明者】
【氏名】山田 学
(72)【発明者】
【氏名】芳賀 一寿
(72)【発明者】
【氏名】趙 佳
(72)【発明者】
【氏名】浅野 歩実
【テーマコード(参考)】
4H006
4K001
【Fターム(参考)】
4H006AA01
4H006AA03
4H006AB90
4H006TA04
4H006TB75
4K001AA04
4K001AA07
4K001AA09
4K001AA19
4K001AA20
4K001AA30
4K001AA41
4K001BA01
4K001CA03
(57)【要約】
【課題】対象鉱物の回収量を増加させる化合物を含む捕収剤およびこの化合物を用いた浮遊選鉱方法、ならびに捕収剤に好適な化合物を提供する。
【解決手段】下記式(1)で表される化合物を含む捕収剤。
【化1】
(前記式(1)中、Rは、炭素数1以上18以下のアルキル基を示し、Xは、NR、SRまたはORを示す。R2~3は、水素または炭素数1以上18以下のアルキル基を示し、R4~5は、炭素数1以上18以下のアルキル基を示す。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される化合物を含む捕収剤。
【化1】
(前記式(1)中、Rは、炭素数1以上18以下のアルキル基を示し、Xは、NR、SRまたはORを示す。R2~3は、水素または炭素数1以上18以下のアルキル基を示し、R4~5は、炭素数1以上18以下のアルキル基を示す。)
【請求項2】
は炭素数5以上10以下のアルキル基である、請求項1に記載の捕収剤。
【請求項3】
XはNRまたはSRである、請求項1または2に記載の捕収剤。
【請求項4】
およびRは水素である、請求項1~3のいずれか1項に記載の捕収剤。
【請求項5】
は炭素数5以上10以下のアルキル基である、請求項1~3のいずれか1項に記載の捕収剤。
【請求項6】
は炭素数5以上10以下のアルキル基である、請求項1または2に記載の捕収剤。
【請求項7】
前記捕収剤は、Cu、Au、Zn、Pb、Pt、Pd、Rh、NiおよびCoからなる群より選択される1種以上の金属を含む1種以上の鉱物を浮遊選鉱する捕収剤である、請求項1~6のいずれか1項に記載の捕収剤。
【請求項8】
鉱石スラリーに対して下記式(1)で表される化合物および起泡剤を添加し、1種以上の鉱物を前記鉱石スラリー中に浮遊させて回収する、浮遊選鉱方法。
【化2】
(前記式(1)中、Rは、炭素数1以上18以下のアルキル基を示し、Xは、NR、SRまたはORを示す。R2~3は、水素または炭素数1以上18以下のアルキル基を示し、R4~5は、炭素数1以上18以下のアルキル基を示す。)
【請求項9】
前記鉱石スラリーは、Cu、Au、Zn、Pb、Pt、Pd、Rh、NiおよびCoからなる群より選択される1種以上の金属を含む1種以上の鉱物を含有する鉱石のスラリーである、請求項8に記載の浮遊選鉱方法。
【請求項10】
前記式(1)で表される化合物の添加量は、鉱石1000kgに対して、0.1g以上1000g以下である、請求項8または9に記載の浮遊選鉱方法。
【請求項11】
前記鉱石スラリーのpHは6以上12以下である、請求項8~10のいずれか1項に記載の浮遊選鉱方法。
【請求項12】
下記式(3-1-1)で表される化合物。
【化3】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、捕収剤、浮遊選鉱方法および化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、鉱石に含まれる鉱物を回収する浮遊選鉱が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、浮遊選鉱で用いられる捕収剤として、ドデシルメルカプタンと2-メルカプトベンゾチアゾールとを使用する銅の回収方法が記載されている。
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載されているドデシルメルカプタンと2-メルカプトベンゾチアゾールとを使用する銅の回収方法では、銅の回収量が不十分である。
【0005】
そのため、対象鉱物の回収量を増加させる捕収剤が求められている。さらには、捕収剤に有用な化合物の開発が進められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006-307293号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本開示の目的は、対象鉱物の回収量を増加させる化合物を含む捕収剤およびこの化合物を用いた浮遊選鉱方法、ならびに捕収剤に好適な化合物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
[1] 下記式(1)で表される化合物を含む捕収剤。
【化1】
(前記式(1)中、Rは、炭素数1以上18以下のアルキル基を示し、Xは、NR、SRまたはORを示す。R2~3は、水素または炭素数1以上18以下のアルキル基を示し、R4~5は、炭素数1以上18以下のアルキル基を示す。)
[2] Rは炭素数5以上10以下のアルキル基である、上記[1]に記載の捕収剤。
[3] XはNRまたはSRである、上記[1]または[2]に記載の捕収剤。
[4] RおよびRは水素である、上記[1]~[3]のいずれか1つに記載の捕収剤。
[5] Rは炭素数5以上10以下のアルキル基である、上記[1]~[3]のいずれか1つに記載の捕収剤。
[6] Rは炭素数5以上10以下のアルキル基である、上記[1]または[2]に記載の捕収剤。
[7] 前記捕収剤は、Cu、Au、Zn、Pb、Pt、Pd、Rh、NiおよびCoからなる群より選択される1種以上の金属を含む1種以上の鉱物を浮遊選鉱する捕収剤である、上記[1]~[6]のいずれか1つに記載の捕収剤。
[8] 鉱石スラリーに対して下記式(1)で表される化合物および起泡剤を添加し、1種以上の鉱物を前記鉱石スラリー中に浮遊させて回収する、浮遊選鉱方法。
【化2】
(前記式(1)中、Rは、炭素数1以上18以下のアルキル基を示し、Xは、NR、SRまたはORを示す。R2~3は、水素または炭素数1以上18以下のアルキル基を示し、R4~5は、炭素数1以上18以下のアルキル基を示す。)
[9] 前記鉱石スラリーは、Cu、Au、Zn、Pb、Pt、Pd、Rh、NiおよびCoからなる群より選択される1種以上の金属を含む1種以上の鉱物を含有する鉱石のスラリーである、上記[8]に記載の浮遊選鉱方法。
[10] 前記式(1)で表される化合物の添加量は、鉱石1000kgに対して、0.1g以上1000g以下である、上記[8]または[9]に記載の浮遊選鉱方法。
[11] 前記鉱石スラリーのpHは6以上12以下である、上記[8]~[10]のいずれか1つに記載の浮遊選鉱方法。
[12] 下記式(3-1-1)で表される化合物。
【化3】
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、対象鉱物の回収量を増加させる化合物を含む捕収剤およびこの化合物を用いた浮遊選鉱方法、ならびに捕収剤に好適な化合物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、実施例1-1~6および比較例1-1で用いた黄銅鉱のX線回折パターンである。
図2図2は、実施例4-1および比較例4-1で用いた鉱石のX線回折パターンである。
図3図3は、実施例4-1および比較例4-1で用いた鉱石に含まれる金属の含有割合である。
図4図4は、実施例5-1~8および比較例5-1~2で用いた硫化銅鉱石のX線回折パターンである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施形態に基づき詳細に説明する。
【0012】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、対象鉱物の回収量を向上する化合物を見出した。さらに、本発明者らは、従来の捕収剤に比べて、上記化合物を含む捕収剤が対象鉱物の回収量を増加することを見出した。本開示は、かかる知見に基づいて完成させるに至った。
【0013】
まず、本開示の一実施形態の捕収剤について説明する。
【0014】
本実施形態の捕収剤は、下記式(1)で表される化合物を含む捕収剤である。
【0015】
【化4】
【0016】
上記式(1)中、Rは、炭素数1以上18以下のアルキル基を示し、Xは、NR、SRまたはORを示す。R2~3は、水素または炭素数1以上18以下のアルキル基を示し、R4~5は、炭素数1以上18以下のアルキル基を示す。
【0017】
鉱物の回収量を向上する観点から、式(1)において、Rは、炭素数1以上18以下のアルキル基であり、好ましくは炭素数5以上10以下のアルキル基である。
【0018】
式(1)のXがNRである化合物は、下記式(2)で表される。
【化5】
【0019】
式(2)で表される化合物では、電子供与性を高める目的で、ベンゼン環と結合するアミンを導入している。また、ベンゼン環と結合する硫黄を導入している。
【0020】
鉱物の回収量を向上する観点から、式(2)において、好ましくは、RおよびRが水素である。式(2)のRおよびRが水素である化合物は、下記式(2-1)で表される。
【0021】
【化6】
【0022】
鉱物の回収量を向上する観点から、式(2)および式(2-1)において、Rは、炭素数1以上18以下のアルキル基であることが好ましく、炭素数5以上10以下のアルキル基であることがより好ましい。
【0023】
そのなかでも、疎水性の付与、水への溶解性、有機溶媒のような希釈剤への溶解性、安定性などの観点から、式(2)において、Rが炭素数8のアルキル基(オクチル基)であり、RおよびRが水素であることが好ましい。この化合物は、下記式(2-2)で表される。
【0024】
【化7】
【0025】
式(2-2)で表される化合物は、異性体である、式(2-2-1)で表される化合物、式(2-2-2)で表される化合物、および式(2-2-3)で表される化合物の少なくとも1種の化合物を含む。
【0026】
【化8】
【0027】
【化9】
【0028】
【化10】
【0029】
式(2)で表される化合物は、下記反応式で表される反応によって合成することができる。
【0030】
【化11】
【0031】
まず、窒素ガス気流下で、式(2-3)で表される化合物、アルキルブロミド、水酸化カリウムをアセトン中で撹拌しながら加熱還流する。続いて、得られた試料を洗浄、脱水、乾燥する。こうして、式(2)で表される化合物を得ることができる。また、式(2-1)で表される化合物を得る場合、式(2-3)で表される化合物として、アミノベンゼンチオールを用いる。また、式(2-2-1)で表される化合物のような式(2)で表される化合物のオルト置換体を合成する場合、式(2-3)で表される化合物のオルト体を用いる。式(2-2-2)で表される化合物のような式(2)で表される化合物のメタ置換体を合成する場合、式(2-3)で表される化合物のメタ体を用いる。式(2-2-3)で表される化合物のような式(2)で表される化合物のパラ置換体を合成する場合、式(2-3)で表される化合物のパラ体を用いる。
【0032】
また、式(1)のXがSRである化合物は、下記式(3)で表される。
【0033】
【化12】
【0034】
式(3)で表される化合物では、ベンゼン環と結合する硫黄2個を導入している。
【0035】
鉱物の回収量を向上する観点から、式(3)において、Rは、炭素数1以上18以下のアルキル基であることが好ましく、炭素数5以上10以下のアルキル基であることがより好ましい。
【0036】
鉱物の回収量を向上する観点から、式(3)において、Rは、炭素数1以上18以下のアルキル基であり、好ましくは炭素数5以上10以下のアルキル基である。
【0037】
そのなかでも、疎水性の付与、水への溶解性、有機溶媒のような希釈剤への溶解性、安定性などの観点から、式(3)において、RおよびRは炭素数8のアルキル基(オクチル基)であることが好ましい。RおよびRが炭素数8のアルキル基である化合物は、下記式(3-1)で表される。
【0038】
【化13】
【0039】
式(3-1)で表される化合物は、異性体である、式(3-1-1)で表される化合物、式(3-1-2)で表される化合物、および式(3-1-3)で表される化合物の少なくとも1種の化合物を含む。
【0040】
【化14】
【0041】
【化15】
【0042】
【化16】
【0043】
式(3)で表される化合物は、下記反応式で表される反応によって合成することができる。
【0044】
【化17】
【0045】
まず、窒素ガス気流下で、ベンゼンジチオール、1種類以上のアルキルブロミド(例えば、上記式ではBrRとBrR)、水酸化カリウムをエタノール中で撹拌しながら加熱還流する。続いて、得られた試料を洗浄、脱水、乾燥する。こうして、式(3)で表される化合物を得ることができる。また、式(3-1-1)で表される化合物のような式(3)で表される化合物のオルト置換体を合成する場合、1,2-ベンゼンジチオールを用いる。式(3-1-2)で表される化合物のような式(3)で表される化合物のメタ置換体を合成する場合、1,3-ベンゼンジチオールを用いる。式(3-1-3)で表される化合物のような式(3)で表される化合物のパラ置換体を合成する場合、1,4-ベンゼンジチオールを用いる。
【0046】
また、式(1)のXがORである化合物は、下記式(4)で表される。
【0047】
【化18】
【0048】
式(4)で表される化合物では、ベンゼン環と結合する硫黄および酸素を導入している。
【0049】
鉱物の回収量を向上する観点から、式(4)において、Rは、炭素数1以上18以下のアルキル基であることが好ましく、炭素数5以上10以下のアルキル基であることがより好ましい。
【0050】
鉱物の回収量を向上する観点から、式(4)において、Rは、炭素数1以上18以下のアルキル基であり、好ましくは炭素数5以上10以下のアルキル基である。
【0051】
式(4)で表される化合物は、下記反応式で表される反応によって合成することができる。
【0052】
【化19】
【0053】
まず、窒素ガス気流下で、メルカプトフェノール、1種類以上のアルキルブロミド(例えば、上記式ではBrRとBrR)、水酸化カリウムをエタノール中で撹拌しながら加熱還流する。続いて、得られた試料を洗浄、脱水、乾燥する。こうして、式(4)で表される化合物を得ることができる。また、式(4)で表される化合物のオルト置換体を合成する場合、2-メルカプトフェノールを用いる。式(4)で表される化合物のメタ置換体を合成する場合、3-メルカプトフェノールを用いる。式(4)で表される化合物のパラ置換体を合成する場合、4-メルカプトフェノールを用いる。
【0054】
対象鉱物の回収量を向上させる観点から、上記の式(1)で表される化合物のなかでも、式(2)で表される化合物のように、XがNRであること、または式(3)で表される化合物のように、XがSRであることが好ましい。XがNRである化合物のなかでは、式(2-1)で表される化合物のように、RおよびRが水素であることが好ましい。対象鉱物とは、Cu、Au、Zn、Pb、Pt、Pd、Rh、NiおよびCoからなる群より選択される1種以上の金属を含む1種以上の鉱物である。
【0055】
上記の式(1)で表される化合物は、従来の捕収剤に比べて、対象鉱物の回収量を増加でき、特に複数種の金属を含む複数種の鉱物の回収量を増加できる。そのため、式(1)で表される化合物を含む捕収剤は、鉱物の回収量、特に複数種の金属を含む複数種の鉱物の回収量を向上できる。このような本実施形態の捕収剤は、浮遊選鉱に好適に用いられる。
【0056】
また、上記の式(1)で表される化合物を含む捕収剤は、Cu、Au、Zn、Pb、Pt、Pd、Rh、NiおよびCoからなる群より選択される1種以上の金属を含む1種以上の鉱物を浮遊選鉱する捕収剤であることが好ましく、Cu、Au、ZnおよびPbからなる群より選択される1種以上の金属を含む1種以上の鉱物を浮遊選鉱する捕収剤であることがより好ましい。浮遊選鉱において、式(1)で表される化合物は、特に上記の金属を含む鉱物の回収量を向上できる。そのため、式(1)で表される化合物を含む捕収剤を上記捕収剤に用いると、1種以上の鉱物の回収量を増加できる。
【0057】
本実施形態の捕収剤の形態は、浮遊選鉱のプロセスに応じて、適宜選択できる。例えば、鉱石スラリーに対して、捕収剤のみを添加する場合、本実施形態の捕収剤には、式(1)で表される化合物に加えて起泡剤が含まれる。また、鉱石スラリーに対して、捕収剤および起泡剤を添加する場合、本実施形態の捕収剤には、起泡剤が含まれなくてもよい。起泡剤は、従来の浮遊選鉱で用いられる起泡剤を使用できる。また、必要に応じて、本実施形態の捕収剤は、抑制剤などの各種添加剤を含有してもよい。
【0058】
次に、本開示の一実施形態の浮遊選鉱方法について説明する。
【0059】
本実施形態の浮遊選鉱方法は、鉱石スラリーに対して上記式(1)で表される化合物および起泡剤を添加し、1種以上の鉱物を鉱石スラリー中に浮遊させて回収する。また、浮遊選鉱方法では、上記の式(1)で表される化合物および起泡剤に加えて、抑制剤などの各種添加剤を鉱石スラリーに添加してもよい。
【0060】
浮遊選鉱方法では、鉱石スラリーに対して式(1)で表される化合物および起泡剤を添加し、式(1)で表される化合物で捕収した1種以上の鉱物が、起泡剤によって発生した泡と共に、鉱石スラリーの液面に浮遊する。そして、鉱物を含む泡沫層を鉱石スラリーから回収することによって、鉱石スラリーから金属を回収できる。
【0061】
浮遊選鉱方法で用いられる鉱石スラリーは、所望の鉱物を含む鉱石を粉砕した粉砕物を水などの液体に混合して得られる。また、起泡剤は、溶媒に溶けて溶液の泡を安定化する物質である。具体的な物質としては、特に限定されないが、メチルイソブチルカルビノール(MIBC)、パイン油、Aerof roth70(CYTEC)等が挙げられる。起泡剤の量は、0.001g/t以上2000g/t以下(鉱石1000kgに対して、0.001g以上2000g以下)であることが好ましい。起泡剤の量が0.001g/t以上であると、浮鉱を得られやすく、起泡剤の量が2000g/t超であると、起泡剤添加の効果が頭打ちになることがある。また、浮遊選鉱方法では、式(1)で表される化合物および起泡剤を添加した鉱石スラリーをバブリングしてもよい。
【0062】
上記で説明したように、式(1)で表される化合物は、鉱物の回収量、特に複数種の鉱物の回収量を向上できる。そのため、従来の捕収剤に比べて、式(1)で表される化合物を用いる本実施形態の浮遊選鉱方法では、多くの量の鉱物を鉱石スラリーの液面に浮遊できるため、鉱石スラリーから回収する鉱物の回収量を増加できる。
【0063】
また、本実施形態の浮遊選鉱方法では、鉱石スラリーは、Cu、Au、Zn、Pb、Pt、Pd、Rh、NiおよびCoからなる群より選択される1種以上の金属を含む1種以上の鉱物を含有する鉱石のスラリーであることが好ましく、Cu、Au、ZnおよびPbからなる群より選択される1種以上の金属を含む1種以上の鉱物を含有する鉱石のスラリーであることがより好ましい。
【0064】
上記で説明したように、式(1)で表される化合物は、特に上記の金属を含む鉱物の回収量を向上できる。そのため、本実施形態の浮遊選鉱方法において、上記1種以上の金属を含む1種以上の鉱物を浮遊選鉱すると、上記1種以上の鉱物の回収量を増加できる。
【0065】
また、浮遊選鉱方法において、式(1)で表される化合物の添加量は、鉱石1000kgに対して、0.1g以上1000g以下であることが好ましく、10g以上300g以下であることがより好ましく、50g以上300g以下であることがさらに好ましい。式(1)で表される化合物の上記添加量が0.1g以上であると、対象鉱物の回収量を十分に増加できる。式(1)で表される化合物の上記添加量が1000g以下であると、式(1)で表される化合物のコストを削減できる。
【0066】
また、浮遊選鉱方法において、鉱石スラリーのpHは、6以上12以下であることが好ましく、9以上12以下であることがより好ましい。鉱石スラリーのpHが上記範囲内であると、鉱物の回収量をさらに増加できる。
【0067】
次に、本開示の一実施形態の化合物について説明する。
【0068】
本実施形態の化合物は、上記式(3-1-1)で表される化合物である。
【0069】
上記の式(1)で表される化合物のなかでも、式(3-1-1)で表される化合物は、隣接位に存在する2つの硫黄が鉱物へ強く結合する。そのため、式(3-1-1)で表される化合物は、捕収剤に好適に用いられる。
【0070】
式(3-1-1)で表される化合物は、下記反応式で表される反応によって合成することができる。
【0071】
【化20】
【0072】
まず、窒素ガス気流下で、1,2-ベンゼンジチオール、1-ブロモオクタン、水酸化カリウムをエタノール中で撹拌しながら加熱還流する。続いて、得られた試料を洗浄、脱水、乾燥する。こうして、式(3-1-1)で表される化合物を得ることができる。
【0073】
以上説明した実施形態によれば、式(1)で表される化合物を含む捕収剤を用いることで、対象鉱物の回収量を増加することができる。そのため、浮遊選鉱において、所望の鉱物の回収量を増加することができる。
【実施例0074】
次に、実施例および比較例について説明するが、本開示はこれら実施例に限定されるものではない。
【0075】
上記で示した化合物を調製した後、各化合物を含む捕収剤を用いて、各実施例を行った。
【0076】
(式(2-2-1)の合成)
窒素ガス気流下で、2-アミノベンゼンチオール(0.5g)、水酸化カリウム(0.5g)、1-ブロモオクタン(0.77g)をアセトン(30mL)中で撹拌しながら75℃で1時間の加熱還流を行った。続いて、得られた試料を洗浄、脱水、真空乾燥した。得られた試料をNMRで分析した結果、式(2-2-1)で表される化合物を収率80.1%で得ることができた。この化合物は、茶褐色油状であった。
【0077】
【化21】
【0078】
(式(2-2-2)の合成)
窒素ガス気流下で、3-アミノベンゼンチオール(0.5g)、水酸化カリウム(0.5g)、1-ブロモオクタン(0.77g)をアセトン(30mL)中で撹拌しながら75℃で1時間の加熱還流を行った。続いて、得られた試料を洗浄、脱水、真空乾燥した。得られた試料をNMRで分析した結果、式(2-2-2)で表される化合物を収率82.5%で得ることができた。この化合物は、赤褐色油状であった。
【0079】
【化22】
【0080】
(式(2-2-3)の合成)
窒素ガス気流下で、4-アミノベンゼンチオール(0.5g)、水酸化カリウム(0.5g)、1-ブロモオクタン(0.77g)をアセトン(30mL)中で撹拌しながら75℃で1時間の加熱還流を行った。続いて、得られた試料を洗浄、脱水、真空乾燥した。得られた試料をNMRで分析した結果、式(2-2-3)で表される化合物を収率は85.0%で得ることができた。この化合物は、茶黒色油状であった。
【0081】
【化23】
【0082】
(式(3-1-1)の合成)
窒素ガス気流下で、1,2-ベンゼンジチオール(0.5g)、水酸化カリウム(1.57g)、1-ブロモオクタン(3.35g)をエタノール(24mL)中で撹拌しながら100℃で1時間の加熱還流を行った。続いて、得られた試料を洗浄、脱水、真空乾燥した。得られた試料をNMRで分析した結果、式(3-1-1)で表される化合物を92.3%の収率で得ることができた。この化合物は、黄色油状であった。
【0083】
式(3-1-1)のH-NMR(CDCl、500MHz):δ0.88(t、6H)、δ1.28(br、16H)、δ1.44(tt、4H)、δ1.67(tt、4H)、δ2.90(t、4H)、δ7.12(dd、2H)、δ7.26(dd、2H)
【0084】
【化24】
【0085】
(式(3-1-2)の合成)
窒素ガス気流下で、1,3-ベンゼンジチオール(0.5g)、水酸化カリウム(1.57g)、1-ブロモオクタン(3.35g)をエタノール(24mL)中で撹拌しながら100℃で1時間の加熱還流を行った。続いて、得られた試料を洗浄、脱水、真空乾燥した。得られた試料をNMRで分析した結果、式(3-1-2)で表される化合物を81.4%の収率で得ることができた。この化合物は、黄色油状であった。
【0086】
【化25】
【0087】
(式(3-1-3)の合成)
窒素ガス気流下で、1,4-ベンゼンジチオール(0.5g)、水酸化カリウム(1.57g)、1-ブロモオクタン(3.35g)をエタノール(24mL)中で撹拌しながら100℃で1時間の加熱還流を行った。続いて、得られた試料を洗浄、脱水、真空乾燥した。得られた試料をNMRで分析した結果、式(3-1-3)で表される化合物を75.2%の収率で得ることができた。この化合物は、薄黄色結晶であった。
【0088】
【化26】
【0089】
(実施例1-1~6および比較例1-1)
実施例1-1~6として、表1に示すように、式(2-2-1)~式(2-2-3)および式(3-1-1)~式(3-1-3)で表される化合物を用いて、黄銅鉱の浮遊選鉱を行った。また、比較例1-1として、PAX(Cytec Industries、Potassium Amyl Xanthate カリウムアミルザンセート)を用いて、黄銅鉱の浮遊選鉱を行った。
【0090】
浮遊選鉱は、以下の手順で行った。まず、粒度75μm以下に粉砕した図1に示すX線回折パターンを示す黄銅鉱の粉砕物のスラリーをpH9に調整し、黄銅鉱1000kgあたり、各式で表される化合物またはPAXを50gおよび起泡剤(メチルイソブチルカルビノール(MIBC))を100g添加した。使用した黄銅鉱のCu品位は27.5%、Fe品位は40.9%であった。スラリー中の粉砕物の量は25gとした。なお、式(3-1-3)で表される化合物は、ケロシンに溶かしてから、スラリーに添加し、式(3-1-3)で表される化合物以外の化合物は、スラリーに直接添加した。そして、10分で浮遊選鉱を行い、浮鉱と尾鉱を得た。得られた浮鉱と尾鉱の銅品位を分析し、次の式を基にしてCuの回収率を算出した。浮鉱とは、浮遊選鉱において浮遊した鉱石であり、尾鉱とは、浮遊選鉱において浮遊しなかった鉱石である。また、表1に示すCu品位は、浮鉱の銅品位である。
【0091】
Cuの回収率(%)=浮鉱重量×浮鉱銅品位/(浮鉱重量×浮鉱銅品位+尾鉱重量×尾鉱銅品位)
【0092】
【表1】
【0093】
表1に示すように、実施例1-1~6では、比較例1-1に比べて、Cuの回収率が増加した。
【0094】
(実施例2-1~4および比較例2-1)
表2に示すように、各化合物を用い、黄銅鉱1000kgあたり各化合物を100g添加したこと以外は実施例1-1と同様にして、浮遊選鉱を行った。
【0095】
【表2】
【0096】
表2に示すように、実施例2-1~4では、比較例2-1に比べて、Cuの回収率が増加した。
【0097】
(実施例3-1~3および比較例3-1)
表3に示すように、各化合物を用い、黄銅鉱1000kgあたり各化合物を300g添加したこと以外は実施例1-1と同様にして、浮遊選鉱を行った。
【0098】
【表3】
【0099】
表3に示すように、実施例3-1~3では、比較例3-1に比べて、Cuの回収率が増加した。
【0100】
(実施例4-1および比較例4-1)
表4に示すように、実施例4-1および比較例4-1として、それぞれ、式(2-2-1)で表される化合物またはPAXを用いて、図2に示すX線回折パターンを示す鉱石の浮遊選鉱を行った。また、この鉱石についてMP-AESおよびXRFで分析した結果、図3に示す各種金属を含有することがわかった。
【0101】
浮遊選鉱は、以下の手順で行った。まず、粒度75μm以下に粉砕した鉱石の粉砕物のスラリーをpH7~8に調整し、鉱石1000kgあたり、式(2-2-1)で表される化合物またはPAXを100gおよび起泡剤(メチルイソブチルカルビノール(MIBC))を200g添加した。スラリー中の粉砕物の量は75g、Pulp濃度は30%とした。そして、15分で浮遊選鉱を行い、Au、Zn、Pbの回収率を算出した。
【0102】
【表4】
【0103】
表4に示すように、実施例4-1では、比較例4-1に比べて、Auの回収率、Znの回収率、Pbの回収率の全てが増加した。
【0104】
(実施例5-1~8および比較例5-1~2)
実施例5-1~8として、表5に示すように、式(2-2-1)~式(2-2-3)および式(3-1-1)で表される化合物を用いて、硫化銅鉱石の浮遊選鉱を行った。また、比較例5-1~2として、PAXを用いて、硫化銅鉱石の浮遊選鉱を行った。
【0105】
浮遊選鉱は、以下の手順で行った。まず、粒度75μm以下に粉砕した図4に示すX線回折パターンを示す硫化銅鉱石の粉砕物のスラリーをpH9または12に調整し、硫化銅鉱石1000kgあたり、各式で表される化合物またはPAXを100gおよび起泡剤(メチルイソブチルカルビノール(MIBC))を100g添加した。使用した硫化銅鉱石のCu品位は3.0%、Fe品位は4.2%であった。スラリー中の粉砕物の量は25gとした。PAXは水に溶かしてから、スラリーに添加し、PAX以外の化合物は、スラリーに直接添加した。そして、10分で浮遊選鉱を行い、浮鉱と尾鉱を得た。
【0106】
【表5】
【0107】
表5に示すように、実施例5-1~4では比較例5-1に比べて、実施例5-5~8では比較例5-2に比べて、それぞれ、Cuの回収率が増加し、Cu品位の向上も認められた。
図1
図2
図3
図4