(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023042510
(43)【公開日】2023-03-27
(54)【発明の名称】保存安定性に優れた歯科用硬化性組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 6/30 20200101AFI20230317BHJP
A61K 6/71 20200101ALI20230317BHJP
A61K 6/76 20200101ALI20230317BHJP
A61K 6/61 20200101ALI20230317BHJP
A61K 6/62 20200101ALI20230317BHJP
【FI】
A61K6/30
A61K6/71
A61K6/76
A61K6/61
A61K6/62
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022038696
(22)【出願日】2022-03-11
(31)【優先権主張番号】P 2021149804
(32)【優先日】2021-09-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】390011143
【氏名又は名称】株式会社松風
(74)【代理人】
【識別番号】100173657
【弁理士】
【氏名又は名称】瀬沼 宗一郎
(72)【発明者】
【氏名】宮田 俊介
(72)【発明者】
【氏名】山本 健蔵
(72)【発明者】
【氏名】原 大輔
【テーマコード(参考)】
4C089
【Fターム(参考)】
4C089AA10
4C089BA14
4C089BC02
4C089BC03
4C089BC05
4C089BC06
4C089BC08
4C089BC13
4C089BD03
4C089CA03
(57)【要約】 (修正有)
【課題】良好な機械的物性と硬化前後における良好な保存安定性を有する歯科用硬化性組成物を提供する。
【解決手段】(A)重合性単量体、(BC)重合開始剤、(D)重合促進剤、(E)充填剤を含む歯科用硬化性組成物であって、(BC)重合開始剤は(B)光重合開始剤及び/又は(C)化学重合開始剤を含み、(B)光重合開始剤は(B1)光増感剤及び(B2)光酸発生剤を含み、(C)化学重合開始剤は(C1)有機過酸化物を含み、(E)充填剤は(E1)表面処理塩基性充填剤を含み、(E1)表面処理塩基性充填剤が下式で示される表面処理剤及び/又はその縮合体にて表面処理された表面処理塩基性充填剤である歯科用硬化性組成物とする。
(式中、MはSi、Ti、Zr、Alから選ばれる金属原子、XはH、OH、加水分解性基であり、互いに同一でも異なっても良い。MがSi、Ti、Zrである場合にnは4であり、MがAlである場合にnは3である。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)重合性単量体、(BC)重合開始剤、(D)重合促進剤、(E)充填剤を含む歯科用硬化性組成物であって、
(BC)重合開始剤は(B)光重合開始剤及び/または(C)化学重合開始剤を含み、
(B)光重合開始剤は(B1)光増感剤及び(B2)光酸発生剤を含み、
(C)化学重合開始剤は(C1)有機過酸化物を含み、
(E)充填剤は(E1)表面処理塩基性充填剤を含み、
(E1)表面処理塩基性充填剤が(F1)式(1)で示される表面処理剤及び/またはその縮合体にて表面処理された表面処理塩基性充填剤である歯科用硬化性組成物。
[式(1)]
【化1】
(式中、MはSi、Ti、Zr、Alから選ばれる金属原子、XはH、OH、加水分解性基であり、互いに同一でも異なっても良い。MがSi、Ti、Zrである場合にnは4であり、MがAlである場合にnは3である。)
【請求項2】
(F1)式(1)で示される表面処理剤及び/またはその縮合体が2~100分子のテトラアルコキシシランの部分縮合体または2~100分子のテトラアルコキシシランの部分縮合体のアルコキシ基の全てまたは一部がOH基で置換されたポリシロキサンである請求項1に記載の歯科用硬化性組成物。
【請求項3】
(E1)表面処理塩基性充填剤は、(F1)式(1)で示される表面処理剤及び/またはその縮合体を用いて、湿式法かつ熱処理条件が130℃以上400℃以下の温度で1時間以上の加熱により表面処理されている請求項1または2に記載の歯科用硬化性組成物。
【請求項4】
(E1)表面処理塩基性充填剤が(F1)式(1)で示される表面処理剤及び/またはその縮合体による表面処理に加えて、重合性基を有するシランカップリング剤及び/または酸性ポリマーによって表面処理されている請求項1~3のいずれかに記載の歯科用硬化性組成物。
【請求項5】
(E1)表面処理塩基性充填剤1.0gを蒸留水40gおよびエタノール10gの混合溶液に加え、1時間撹拌させた時の分散液のpHが7.5~10.0であることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の歯科用硬化性組成物。
【請求項6】
(E1)表面処理塩基性充填剤がストロンチウム及び/またはカルシウムイオンを含むフルオロシリケートガラス、フルオロアルミノシリケートガラス、及び、フルオロアルミノボロシリケートガラスの1以上である請求項1~5のいずれかに記載の歯科用硬化性組成物。
【請求項7】
(E1)表面処理塩基性充填剤の組成範囲が、SiO2:15~35質量%、Al2O3:15~30質量%、SrO:20~45質量%、P2O5:0~15質量%、F:5~15質量%、Na2O:0~10質量%、B2O3:0~20質量%、CaO:0~10質量%を満たすことを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載の歯科用硬化性組成物。
【請求項8】
(B2)光酸発生剤としてアリールヨードニウム塩を含み、
アリールヨードニウム塩は、有機基及びP、B、Al、S、Gaのいずれか1つ以上の原子を有するアニオンと、アリールヨードニウムカチオンとの塩である請求項1~7のいずれかに記載の歯科用硬化性組成物。
【請求項9】
(B2)光酸発生剤としてアリールヨードニウム塩を含み、
アリールヨードニウム塩は、少なくとも1つ以上のHがF置換された有機基及びP、B、Al、S、Gaのいずれか1つ以上の原子を有するアニオンと、アリールヨードニウムカチオンとの塩である請求項1~7のいずれかに記載の歯科用硬化性組成物。
【請求項10】
(D)重合促進剤が脂肪族第3級アミン化合物を含む請求項8または9に記載の歯科用硬化性組成物。
【請求項11】
歯科用硬化性組成物に含まれる(A)重合性単量体100質量部のうち(A1)酸性基を有する重合性単量体が1~30質量部である請求項1~10のいずれかに記載の歯科用硬化性組成物。
【請求項12】
(B)光重合開始剤を含む1剤型の歯科用硬化性組成物であって、
歯科用硬化性組成物に含まれる(A)重合性単量体100質量部に対して、
(B1)光増感剤を0.02~1.0質量部含み、
(B2)光酸発生剤を0.1~10質量部含み、
(D)重合促進剤を0.2~10質量部含み、
(E1)表面処理塩基性充填剤を10~500質量部含む
請求項1~11のいずれかに記載の歯科用硬化性組成物。
【請求項13】
(B)光重合開始剤を含む2剤型の歯科用硬化性組成物であって、
第一のペーストと第二のペーストとからなり、
第一ペーストと第二ペーストは質量比が1:0.8~1.2であり、
第一ペースト及び第二ペーストに含まれる(A)重合性単量体の合計200質量部に対して、
(B1)光増感剤を0.04~2.0質量部含み、
(B2)光酸発生材を0.2~20質量部含み、
(D)重合促進剤を0.4~20質量部含み、
(E1)表面処理塩基性充填剤を10~500質量部含む、
請求項1~11のいずれかに記載の歯科用硬化性組成物。
【請求項14】
(C)化学重合開始剤を含む2剤型の歯科用硬化性組成物であって、
第一のペーストと第二のペーストとからなり、
第一ペーストと第二ペーストは質量比が1:0.8~1.2であり、
第一ペースト及び第二ペーストに含まれる(A)重合性単量体の合計200質量部に対して、
(C1)有機過酸化物を0.2~10質量部含み、
(D)重合促進剤を0.4~20質量部含み、
(E1)表面処理塩基性充填剤を10~400質量部含む、
請求項1~11のいずれかに記載の歯科用硬化性組成物。
【請求項15】
(C)化学重合開始剤を含む2剤型の歯科用硬化性組成物であって、
第一のペーストと第二のペーストとからなり、
第一ペーストと第二ペーストは質量比が1:0.8~1.2であり、
第一ペースト及び第二ペーストに含まれる(A)重合性単量体の合計200質量部に対して、
(C1)有機過酸化物を0.2~10質量部含み、
(D)重合促進剤を0.4~20質量部含み、
(E1)表面処理塩基性充填剤を10~400質量部含み、
さらに(A)重合性単量体の合計200質量部のうち(A1)酸性基を有する重合性単量体が2~60質量部である
請求項1~11のいずれかに記載の歯科用硬化性組成物。
【請求項16】
直径15mm、厚み1mmの歯科用硬化性組成物の硬化体をpHが4.0である乳酸水溶液5mLに24時間浸漬した際のpHが4.5以上であることを特徴とする請求項1~15のいずれかに記載の歯科用硬化性組成物。
【請求項17】
実質的に水を含まない請求項1~16に記載の歯科用硬化性組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は歯科用硬化性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
歯科分野においては歯科用硬化性組成物が用いられており、歯科用接着材、歯科用コンポジットレジン、歯科用支台築造材料、歯科用レジンセメント、歯科用コーティング材、歯科用小窩裂溝封鎖材、歯科用マニキュア材、歯科用動揺歯固定接着材、歯科用グラスアイオノマーセメント、歯科用硬質レジン、歯科切削加工用材料、歯科用3Dプリンタ用材料等に応用されている。
【0003】
特許文献1にはフッ素の徐放性を実現するために、ポリシロキサンによる表面処理が施されたフッ化ナトリウムを含む歯科用組成物、特許文献2には優れた耐摩耗性と研磨後の優れた光沢性を実現するためにポリシロキサンによる表面処理が施された無機微粒子を含む歯科用組成物、さらには特許文献3のように金属酸化物を含む無機シェルによって被覆した塩基性コア材料を含む歯科用組成物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開WO2006/106838号公報
【特許文献2】特開2001-139843号公報
【特許文献3】特表2020-500879号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
歯科用硬化性組成物には、既存の歯科用硬化性組成物よりも、さらに良好な保存安定性や良好な物性を両立することが求められている。
【0006】
本発明は良好な機械的物性と硬化前後における良好な保存安定性を有する歯科用硬化性組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の歯科用硬化性組成物は、
(A)重合性単量体、(BC)重合開始剤、(D)重合促進剤、(E)充填剤を含む歯科用硬化性組成物であって、
(BC)重合開始剤は(B)光重合開始剤及び/または(C)化学重合開始剤を含み、
(B)光重合開始剤は(B1)光増感剤及び(B2)光酸発生剤を含み、
(C)化学重合開始剤は(C1)有機過酸化物を含み、
(E)充填剤は(E1)表面処理塩基性充填剤を含み、
(E1)表面処理塩基性充填剤が(F1)式(1)で示される表面処理剤及び/またはその縮合体にて表面処理された表面処理塩基性充填剤である歯科用硬化性組成物である。
[式(1)]
【化1】
(式中、MはSi、Ti、Zr、Alから選ばれる金属原子、XはH、OH、加水分解性基であり、互いに同一でも異なっても良い。MがSi、Ti、Zrである場合にnは4であり、MがAlである場合にnは3である。)
【発明の効果】
【0008】
本発明の歯科用硬化性組成物は高い保存安定性と良好な機械的物性を有する。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明においては、(F1)式(1)で示される表面処理剤及び/またはその縮合体が2~100分子のテトラアルコキシシランの部分縮合体または2~100分子のテトラアルコキシシランの部分縮合体のアルコキシ基の全てまたは一部がOH基で置換されたポリシロキサンである歯科用硬化性組成物とすることができる。
【0010】
本発明においては、(E1)表面処理塩基性充填剤は、(F1)式(1)で示される表面処理剤及び/またはその縮合体を用いて、湿式法かつ熱処理条件が130℃以上400℃以下の温度で1時間以上の加熱により表面処理されている歯科用硬化性組成物とすることができる。
【0011】
本発明においては、(E1)表面処理塩基性充填剤が(F1)式(1)で示される表面処理剤及び/またはその縮合体による表面処理に加えて、重合性基を有するシランカップリング剤及び/または酸性ポリマーによって表面処理されている歯科用硬化性組成物とすることができる。
【0012】
本発明においては、(E1)表面処理塩基性充填剤1.0gを蒸留水40gおよびエタノール10gの混合溶液に加え、1時間撹拌させた時の分散液のpHが7.5~10.0である歯科用硬化性組成物とすることができる。
【0013】
本発明においては、(E1)表面処理塩基性充填剤がストロンチウム及び/またはカルシウムイオンを含むフルオロシリケートガラス、フルオロアルミノシリケートガラス、及び、フルオロアルミノボロシリケートガラスの1以上である歯科用硬化性組成物とすることができる。
【0014】
本発明においては、(E1)表面処理塩基性充填剤の組成範囲が、SiO2:15~35質量%、Al2O3:15~30質量%、SrO:20~45質量%、P2O5:0~15質量%、F:5~15質量%、Na2O:0~10質量%、B2O3:0~20質量%、CaO:0~10質量%を満たす歯科用硬化性組成物とすることができる。
【0015】
本発明においては、(B2)光酸発生剤としてアリールヨードニウム塩を含み、
アリールヨードニウム塩は、有機基及びP、B、Al、S、Gaのいずれか1つ以上の原子を有するアニオンと、アリールヨードニウムカチオンとの塩である歯科用硬化性組成物とすることができる。
【0016】
本発明においては、(B2)光酸発生剤としてアリールヨードニウム塩を含み
アリールヨードニウム塩は、少なくとも1つ以上のHがF置換された有機基及びP、B、Al、S、Gaのいずれか1つ以上の原子を有するアニオンと、アリールヨードニウムカチオンとの塩である歯科用硬化性組成物とすることができる。
【0017】
本発明においては、(D)重合促進剤が脂肪族第3級アミン化合物を含む歯科用硬化性組成物とすることができる。
【0018】
本発明においては、歯科用硬化性組成物に含まれる(A)重合性単量体100質量部のうち(A1)酸性基を有する重合性単量体が1~30質量部である歯科用硬化性組成物とすることができる。
【0019】
本発明においては、(B)光重合開始剤を含む1剤型の歯科用硬化性組成物であって、
歯科用硬化性組成物に含まれる(A)重合性単量体100質量部に対して、
(B1)光増感剤を0.02~1.0質量部含み、
(B2)光酸発生剤を0.1~10質量部含み、
(D)重合促進剤を0.2~10質量部含み、
(E1)表面処理塩基性充填剤を10~500質量部含む歯科用硬化性組成物とすることができる。
【0020】
本発明においては、(B)光重合開始剤を含む2剤型の歯科用硬化性組成物であって、
第一のペーストと第二のペーストとからなり、
第一ペーストと第二ペーストは質量比が1:0.8~1.2であり、
第一ペースト及び第二ペーストに含まれる(A)重合性単量体の合計200質量部に対して、
(B1)光増感剤を0.04~2.0質量部含み、
(B2)光酸発生材を0.2~20質量部含み、
(D)重合促進剤を0.4~20質量部含み、
(E1)表面処理塩基性充填剤を10~500質量部含む歯科用硬化性組成物とすることができる。
【0021】
本発明においては、(C)化学重合開始剤を含む2剤型の歯科用硬化性組成物であって、
第一のペーストと第二のペーストとからなり、
第一ペーストと第二ペーストは質量比が1:0.8~1.2であり、
第一ペースト及び第二ペーストに含まれる(A)重合性単量体の合計200質量部に対して、
(C1)有機過酸化物を0.2~10質量部含み、
(D)重合促進剤を0.4~20質量部含み、
(E1)表面処理塩基性充填剤を10~400質量部含む歯科用硬化性組成物とすることができる。
【0022】
本発明においては、(C)化学重合開始剤を含む2剤型の歯科用硬化性組成物であって、
第一のペーストと第二のペーストとからなり、
第一ペーストと第二ペーストは質量比が1:0.8~1.2であり、
第一ペースト及び第二ペーストに含まれる(A)重合性単量体の合計200質量部に対して、
(C1)有機過酸化物を0.2~10質量部含み、
(D)重合促進剤を0.4~20質量部含み、
(E1)表面処理塩基性充填剤を10~400質量部含み、
さらに(A)重合性単量体の合計200質量部のうち(A1)酸性基を有する重合性単量体が2~60質量部である歯科用硬化性組成物とすることができる。
【0023】
本発明においては、直径15mm、厚み1mmの歯科用硬化性組成物の硬化体をpHが4.0である乳酸水溶液5mLに24時間浸漬した際のpHが4.5以上である歯科用硬化性組成物とすることができる。
【0024】
本発明においては、実質的に水を含まない歯科用硬化性組成物とすることができる。
【0025】
以下、本発明の歯科用硬化性組成物の各成分について詳細に説明する。
本発明の歯科用硬化性組成物は歯科用接着材、歯科用コンポジットレジン、歯科用支台築造材料、歯科用レジンセメント、歯科用コーティング材、歯科用小窩裂溝封鎖材、歯科用マニキュア材、歯科用動揺歯固定材、歯科切削加工用材料、歯科用3Dプリンタ用材料等として応用される。
【0026】
歯科臨床において、齲蝕や破折等により生じた歯牙の欠損に対して審美的及び機能的回復を行うために、歯科用接着材及びコンポジットレジンにより修復を行う直接法や、セラミックスや歯科用硬質レジンから成る補綴装置を歯科用レジンセメントにて修復する間接法による治療が行われている。また、歯科用コンポジットレジンと各種歯科材料及び天然歯を接着するための歯科用接着材、動揺歯を固定するための歯科用動揺歯固定接着材、知覚過敏や形成後の生活歯を外来刺激や2次齲蝕から守るための歯科用コーティング材、臼歯の深い裂溝を埋めることでう蝕を予防するための歯科用小窩裂溝封鎖材、歯の変色をマスキングすることで審美性を一時的に回復するための歯科用マニキュア材、歯冠部がう蝕によって崩壊した際に支台歯を形成するための歯科用支台築造材料が用いられる。近年では新しくCAD/CAM加工によって補綴装置を作るための歯科切削加工用材料、3Dプリンタによって補綴装置を作るための歯科用3Dプリンタ用材料などの複合材料が開発され、様々な歯科材料が治療に用いられる。上記のような材料は、その用途に応じて数種類の重合性単量体からなるレジンマトリックス、無機フィラーや有機無機複合フィラー等の各種充填剤及び重合開始剤を混合し、均一なペースト状に調製される。一部の材料を例に挙げると、歯科充填用コンポジットレジンは未硬化のペーストの状態で歯牙に充填し、インスツルメント等の歯科用器具で天然歯の解剖学的形態を付与した後、歯科用の光照射器等により光を照射して硬化させることで使用される。光照射器からの照射光は、一般的に約360~500nmの波長範囲における光強度が100~2000mW/cm2程度の出力の光源が用いられる。一方、歯科用レジンセメントは、補綴装置を窩洞または支台歯に接着する場合に使用され、補綴装置を窩洞または支台歯に装着後に光照射し硬化させる。
【0027】
このような歯科材料に用いられる光重合開始剤としては、光増感剤や光増感剤に適当な光重合促進剤を組み合わせた系が広く使用されている。光増感剤としては、アシルフォスフィンオキサイド化合物やα-ジケトン化合物が知られており、特にα-ジケトン化合物は、人体に対して影響の少ない可視光の波長域で重合開始能を有する。また、光増感剤と組み合わせる重合促進剤としては、第3級アミン化合物がよく知られ、α-ジケトン化合物と第3級アミン化合物との組み合わせは照射光に対して高い重合活性を有するため、歯科材料分野で用いられている。該光重合開始剤を含む歯科用硬化性組成物は、各種材料に求められる硬さ、曲げ強度、圧縮強度等の優れた機械的特性を発現する。
【0028】
しかし、前記のα-ジケトン化合物と第3級アミン化合物との組み合わせを光重合開始剤として用いた場合には、環境光安定性が乏しいという問題を生ずる。このようなことから、特定のアリールヨードニウム塩である光酸発生剤、増感剤及び電子供与体化合物を含んでなる光重合開始剤が提案されている。光酸発生剤を含む歯科材料は環境光に対しては高い安定性を有する一方で、照射光に対して高い感受性を示すため、光酸発生剤を含む歯科材料に光照射することで優れた硬化性を発現する。
【0029】
一方で、光照射の操作を排除するためや、光が十分に行き届かない部位に使用する歯科材料には化学重合開始剤が用いられる場合がある。化学重合開始剤としては過酸化ベンゾイルを代表とする有機過酸化物と第3級芳香族アミン化合物を組み合わせた系が知られている。通常、有機過酸化物と第3級芳香族アミン化合物は同一包装内にある場合に反応することから2剤以上に分包して使用される。使用時は適応部位に塗布する前に2剤を混和することで光照射を行うことなく硬化させることができるために、光照射を十分に行うことができない箇所に適応する材料に好適に使用することができる。また、さらに光照射を行うことで重合率をさらに高めることができる。
【0030】
歯科材料は重合開始剤や重合性単量体とともにイオン放出性の塩基性充填剤を含むことがある。塩基性充填剤の例としてフルオロアルミノシリケートやケイ酸カルシウムなどが挙げられる。歯科材料に塩基性充填剤を配合することで、歯科材料周囲に存在する酸性成分の中和やカルシウムなどの再石灰化への寄与が期待できるイオンの放出など、いくつかの口腔内環境を整える効果が期待できる。しかし、前記した光酸発生材や有機過酸化物は未処理または表面処理が十分でない塩基性充填剤と共存した場合の保存安定性が低下する傾向があった。塩基性充填剤を長時間高温熱処理で熱処理することで結晶化させ、充填剤の性状を変える方法もあるが、この場合は酸中和能やイオン放出性が乏しくなる傾向にあった。
【0031】
また、組成物中に光酸発生材や酸性基含有重合性単量体などの酸性化合物を含む場合、硬化体の物性が低下しやす傾向があった。詳細な原理はわからないものの、組成物中の酸によって加水分解が促進するものと考えられる。
【0032】
上記の問題を解決するために、本発明の歯科用硬化性組成物に含まれる塩基性充填剤は特定の表面処理剤にて表面処理塩基性充填剤と重合開始剤として光酸発生剤および/または有機過酸化物を使用することで上記の課題点が改善されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0033】
[(A)重合性単量体]
本発明の歯科用硬化性組成物に含まれる(A)重合性単量体は公知のものであれば制限なく使用できる。本発明に記載の重合性単量体または重合性基を有する化合物において、重合性基はラジカル重合性を示すものが好ましく、具体的にはラジカル重合が容易である観点から、重合性基は(メタ)アクリル基及び/または(メタ)アクリルアミド基が好ましい。なお、本明細書において「(メタ)アクリル」とは、アクリル及び/またはメタクリルを意味し、「(メタ)アクリロイル」とは、アクリロイル及び/またはメタクリロイル、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレート及び/またはメタクリレート、「(メタ)アクリルアミド」とはアクリルアミド及び/またはメタクリルアミドを意味する。アクリル基及び/またはアクリルアミド基のα位に置換基を有する重合性単量体も好ましく使用できる。ラジカル重合性基を1つ有するもの、ラジカル重合性基を2つ有するもの、ラジカル重合性基を3つ以上有するもの、酸性基を有するもの、アルコキシシリル基、硫黄原子を有するものなどがある。
【0034】
ラジカル重合性基を1つ有し酸性基を有さない重合性単量体の具体例としては、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、10-ヒドロキシデシル(メタ)アクリレート、プロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、グリセロールモノ(メタ)アクリレート、エリスリトールモノ(メタ)アクリレート、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N-ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N、N-(ジヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、2,3-ジブロモプロピル(メタ)アクリレート、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、11-(メタ)アクリロイルオキシウンデシルトリメトキシシラン、(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
【0035】
ラジカル重合性基を2つ有し酸性基を有さない重合性単量体の具体例としては2,2-ビス((メタ)アクリロイルオキシフェニル)プロパン、2,2-ビス〔4-(3-(メタ)アクリロイルオキシ)-2-ヒドロキシプロポキシフェニル〕プロパン(通称「Bis-GMA」)、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシテトラエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシペンタエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシジプロポキシフェニル)プロパン、2-(4-(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル)-2-(4-(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル)プロパン、2-(4-(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル)-2-(4-(メタ)アクリロイルオキシジトリエトキシフェニル)プロパン、2-(4-(メタ)アクリロイルオキシジプロポキシフェニル)-2-(4-(メタ)アクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシプロポキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシイソプロポキシフェニル)プロパン、1,4-ビス(2-(メタ)アクリロイルオキシエチル)ピロメリテート、グリセロールジ(メタ)アクリレート、1-(アクリロイルオキシ)-3-(メタクリロイルオキシ)-2-プロパノール、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,5-ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10-デカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,2-ビス(3-メタクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ)エタン、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンビス(2-カルバモイルオキシエチル)ジメタクリレート(通称「UDMA」)、1,2-ビス(3-メタクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ)エタン等が挙げられる。
【0036】
ラジカル重合性基を3つ以上有し酸性基を有さない重合性単量体の具体例としては、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、N,N-(2,2,4-トリメチルヘキサメチレン)ビス〔2-(アミノカルボキシ)プロパン-1,3-ジオール〕テトラメタクリレート、1,7-ジアクリロイルオキシ-2,2,6,6-テトラアクリロイルオキシメチル-4-オキシヘプタン等が挙げられる。
【0037】
[(A1)酸性基を有する重合性単量体]
本発明の歯科用硬化性組成物は(A1)酸性基を有する重合性単量体を含むことができる。(A1)酸性基を有する重合性単量体は重合性基を1つ以上かつリン酸基、ピロリン酸基、チオリン酸基、ホスホン酸基、スルホン酸基、カルボン酸基等の酸性基を少なくとも1つ以上有している重合性単量体であれば制限なく使用できる。(A1)酸性基を有する重合性単量体を含むことで、歯質や補綴装置に対する接着性を付与することができる。さらに、歯科用硬化性組成物中に塩基性充填剤を含む場合は歯科用硬化性組成物の硬化体の安定性の向上が期待できる。
【0038】
リン酸基を有する重合性単量体の具体例としては、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンホスフェート、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルジハイドロジェンホスフェート、4-(メタ)アクリロイルオキシブチルジハイドロジェンホスフェート、5-(メタ)アクリロイルオキシペンチルジハイドロジェンホスフェート、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシルジハイドロジェンホスフェート、7-(メタ)アクリロイルオキシヘプチルジハイドロジェンホスフェート、8-(メタ)アクリロイルオキシオクチルジハイドロジェンホスフェート、9-(メタ)アクリロイルオキシノニルジハイドロジェンホスフェート、10-(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート、11-(メタ)アクリロイルオキシウンデシルジハイドロジェンホスフェート、12-(メタ)アクリロイルオキシドデシルジハイドロジェンホスフェート、16-(メタ)アクリロイルオキシヘキサデシルジハイドロジェンホスフェート、20-(メタ)アクリロイルオキシイコシルジハイドロジェンホスフェート、ビス〔2-(メタ)アクリロイルオキシエチル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔4-(メタ)アクリロイルオキシブチル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔8-(メタ)アクリロイルオキシオクチル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔9-(メタ)アクリロイルオキシノニル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔10-(メタ)アクリロイルオキシデシル〕ハイドロジェンホスフェート、1,3-ジ(メタ)アクリロイルオキシプロピルジハイドロジェンホスフェート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルハイドロジェンホスフェート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチル-2-ブロモエチルハイドロジェンホスフェート、ビス〔2-(メタ)アクリロイルオキシ-(1-ヒドロキシメチル)エチル〕ハイドロジェンホスフェート;これらの酸塩化物、アルカリ金属塩、アンモニウム塩;及びこれらの化合物のエステル結合をアミド結合に置き換えた(メタ)アクリルアミド化合物等が挙げられる。
【0039】
ピロリン酸基を有する重合性単量体の具体例としては、ピロリン酸ビス〔2-(メタ)アクリロイルオキシエチル〕、ピロリン酸ビス〔4-(メタ)アクリロイルオキシブチル〕、ピロリン酸ビス〔6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシル〕、ピロリン酸ビス〔8-(メタ)アクリロイルオキシオクチル〕、ピロリン酸ビス〔10-(メタ)アクリロイルオキシデシル〕;これらの酸塩化物、アルカリ金属塩、アンモニウム塩;及びこれらの化合物のエステル結合をアミド結合に置き換えた(メタ)アクリルアミド化合物等が挙げられる。
【0040】
チオリン酸基を有する重合性単量体の具体例としては、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンチオホスフェート、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルジハイドロジェンチオホスフェート、4-(メタ)アクリロイルオキシブチルジハイドロジェンチオホスフェート、5-(メタ)アクリロイルオキシペンチルジハイドロジェンチオホスフェート、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシルジハイドロジェンチオホスフェート、7-(メタ)アクリロイルオキシヘプチルジハイドロジェンチオホスフェート、8-(メタ)アクリロイルオキシオクチルジハイドロジェンチオホスフェート、9-(メタ)アクリロイルオキシノニルジハイドロジェンチオホスフェート、10-(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンチオホスフェート、11-(メタ)アクリロイルオキシウンデシルジハイドロジェンチオホスフェート、12-(メタ)アクリロイルオキシドデシルジハイドロジェンチオホスフェート、16-(メタ)アクリロイルオキシヘキサデシルジハイドロジェンチオホスフェート、20-(メタ)アクリロイルオキシイコシルジハイドロジェンチオホスフェート;これらの酸塩化物、アルカリ金属塩、アンモニウム塩;及びこれらの化合物のエステル結合をアミド結合に置き換えた(メタ)アクリルアミド化合物等が挙げられる。なお、チオリン酸基を有する重合性単量体は硫黄原子を有する重合性単量体としても分類される。
【0041】
ホスホン酸基を有する重合性単量体の具体例としては、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルホスホネート、5-(メタ)アクリロイルオキシペンチル-3-ホスホノプロピオネート、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシル-3-ホスホノプロピオネート、10-(メタ)アクリロイルオキシデシル-3-ホスホノプロピオネート、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシル-3-ホスホノアセテート、10-(メタ)アクリロイルオキシデシル-3-ホスホノアセテート;これらの酸塩化物、アルカリ金属塩、アンモニウム塩;及びこれらの化合物のエステル結合をアミド結合に置き換えた(メタ)アクリルアミド化合物等が挙げられる。
【0042】
スルホン酸基を有する重合性単量体の具体例としては、2-(メタ)アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、2-スルホエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0043】
カルボン酸基を有する重合性単量体は、分子内に1つのカルボキシル基を有する(メタ)アクリル系化合物と、分子内に複数のカルボキシル基を有する(メタ)アクリル系化合物に分類される。分子内に1つのカルボキシル基を有する(メタ)アクリル系化合物の具体例としては、(メタ)アクリル酸、N-(メタ)アクリロイルグリシン、N-(メタ)アクリロイルアスパラギン酸、O-(メタ)アクリロイルチロシン、N-(メタ)アクリロイルチロシン、N-(メタ)アクリロイルフェニルアラニン、N-(メタ)アクリロイル-p-アミノ安息香酸、N-(メタ)アクリロイル-o-アミノ安息香酸、p-ビニル安息香酸、2-(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、3-(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、4-(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、N-(メタ)アクリロイル-5-アミノサリチル酸、N-(メタ)アクリロイル-4-アミノサリチル酸、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロジェンサクシネート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロジェンフタレート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロジェンマレート;これらの酸ハロゲン化物;及びこれらの化合物のエステル結合をアミド結合に置き換えた(メタ)アクリルアミド化合物等が挙げられる。分子内に複数のカルボキシル基を有する(メタ)アクリル系化合物の具体例としては、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキサン-1,1-ジカルボン酸、9-(メタ)アクリロイルオキシノナン-1,1-ジカルボン酸、10-(メタ)アクリロイルオキシデカン-1,1-ジカルボン酸、11-(メタ)アクリロイルオキシウンデカン-1,1-ジカルボン酸、12-(メタ)アクリロイルオキシドデカン-1,1-ジカルボン酸、13-(メタ)アクリロイルオキシトリデカン-1,1-ジカルボン酸、4-(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリテート、4-(メタ)アクリロイルオキシブチルトリメリテート、4-(メタ)アクリロイルオキシヘキシルトリメリテート、4-(メタ)アクリロイルオキシデシルトリメリテート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチル-3’-(メタ)アクリロイルオキシ-2’-(3,4-ジカルボキシベンゾイルオキシ)プロピルサクシネート;これらの酸無水物、酸ハロゲン化物;及びこれらの化合物のエステル結合をアミド結合に置き換えた(メタ)アクリルアミド化合物等が挙げられる。
【0044】
本発明の歯科用硬化性組成物の(A1)酸性基を有する重合性単量体の配合量は、接着性の付与の観点から歯科用硬化性組成物に含まれる重合性単量体100質量部の総量に対して1質量部以上30質量部以下、より好ましくは3質量部以上20質量部以下の配合量である。1質量部未満では歯質や金属および金属酸化物に対する接着性が十分に発現しない場合があり、30質量部以上含む場合は保存安定性の低下が生じる場合がある。
【0045】
アルコキシシリル基を有する重合性単量体の具体例としては、分子内に1つのアルコキシシリル基を有する(メタ)アクリル系化合物および(メタ)アクリルアミド系化合物と、分子内に複数のアルコキシシリル基を有する(メタ)アクリル系化合物および(メタ)アクリルアミド系化合物などが挙げられる。2-(メタ)アクリロキシエチルトリメトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、4-(メタ)アクリロキシブチルトリメトキシシラン、5-(メタ)アクリロキシペンチルトリメトキシシラン、6-(メタ)アクリロキシヘキシルトリメトキシシラン、7-(メタ)アクリロキシへプチルトリメトキシシラン、8-(メタ)アクリロキシオクチルトリメトキシシラン、9-(メタ)アクリロキシノニルトリメトキシシラン、10-(メタ)アクリロキシデシルトリメトキシシラン、11-(メタ)アクリロキシウンデシルトリメトキシシランが挙げられる。さらに、ウレタン基やエーテル基を有するものとして3,3-ジメトキシ-8,37-ジオキソ-2,9,36-トリオキサ-7,38-ジアザ-3-シラテトラコンタン-40-イル(メタ)アクリレート、2-((3,3-ジメトキシ-8-オキソ-2,9,18-トリオキサ-7-アザ-3-シラノナデカン-19-オイル)アミノ)-2-メチルプロパン-1,3-ジイルジ(メタ)アクリレート、3,3-ジメトキシ-8,19-ジオキソ-2,9,18-トリオキサ-7,20-ジアザ-3-シラドコサン-22-イル(メタ)アクリレート、3,3-ジメトキシ-8,22-ジオキソ-2,9,12,15,18,21-ヘキサオキサ-7,23-ジアザ-3-シラペンタコサン-25-イル(メタ)アクリレート、3,3-ジメトキシ-8,22-ジオキソ-2,9,12,15,18,21,26-ヘプタオキサ-7,23-ジアザ-3-シラオクタコサン-28-イル(メタ)アクリレート、3,3-ジメトキシ-8,19-ジオキソ-2,9,12,15,18-ペンタオキサ-7,20-ジアザ-3-シラドコサン-22-イル(メタ)アクリレート、3,3-ジメトキシ-8,19-ジオキソ-2,9,12,15,18,23-ヘキサオキサ-7,20-ジアザ-3-シラペンタコサン-25-イル(メタ)アクリレート、2-((3,3-ジメトキシ-8-オキソ-2,9,12,15,18-ペンタオキサ-7-アザ-3-シラノナデカン-19-オイル)アミノ)-2-メチルプロパン-1,3-ジイルジ(メタ)アクリレート、4,4-ジエトキシ-17-オキソ-3,16,21-トリオキサ-18-アザ-4-シラトリコサン-23-イル(メタ)アクリレート、4,4-ジエトキシ-17-オキソ-3,16,21,24-テトラオキサ-18-アザ-4-シラヘキサコサン-26-イル(メタ)アクリレート、4,4-ジエトキシ-13-オキソ-3,12,17-トリオキサ-14-アザ-4-シラノナデカン-19-イル(メタ)アクリレート、4,4-ジエトキシ-17-オキソ-3,16-ジオキサ-18-アザ-4-シライコサン-20-イル(メタ)アクリレート、2-メチル-2-((11-(トリエトキシシリル)ウンデシロキシ)カルボニルアミノ)プロパン-1,3-ジイルジ(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0046】
本発明の歯科用硬化性組成物は、貴金属に対する接着性を付与するために硫黄原子を有する重合性単量体を(A)重合性単量体として含むことができる。硫黄原子を有する重合性単量体は1個以上の硫黄原子と重合性基を有する重合性単量体であれば、公知の化合物を何ら制限なく使用できる。具体的には-SH、-S-S-、>C=S、>C-S-C<、>P=Sなどの部分構造を有するまたは互変異性によって生じる化合物を指す。具体例としては、10-メタクリロキシデシル-6,8-ジチオオクタネート、6-メタクリロキシヘキシル-6,8-ジチオオクタネート、6-メタクリロイルオキシヘキシル2-チオウラシル-5-カルボキシレート、2-(11-メタクリロイルオキシウンデシルチオ)-5-メルカプト-1,3,4-チアジアゾール、10-(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンチオホスフェートが挙げられる。
【0047】
これらの重合性単量体以外に分子内に少なくとも1個以上の重合性基を有するオリゴマーまたはプレポリマーを用いても何等制限はない。また、フルオロ基等の置換基を同一分子内に有していても何等問題はない。以上に記載した重合性単量体は単独だけでなく複数を組み合わせて用いることができる。
【0048】
本発明の歯科用硬化性組成物中には、ガラスセラミックスに対する接着性を付与するためにシランカップリング剤を(A)重合性単量体として含むことができる。公知のシランカップリング剤であれば制限なく使用できるが3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、8-メタクリロキシオクチルトリメトキシシラン、11-メタクリロキシウンデシルトリメトキシシランなどが好ましい。接着性の付与の観点から組成物における重合性単量体の総量100質量部に対して1質量部以上、より好ましくは5質量部以上20質量部未満の配合量である。重合性単量体としてのシランカップリング剤はガラスセラミックスやガラスセラミックスからなるフィラーを含む樹脂材料などへの接着性付与が目的であることから、フィラーの表面処理剤とは区別して配合される。
【0049】
本発明の歯科用硬化性組成物は、貴金属に対する接着性を付与するために硫黄原子を有する重合性単量体を(A)重合性単量体として含むことができる。硫黄原子を有する重合性単量体の配合量は、接着性の付与の観点から歯科用硬化性組成物に含まれる重合性単量体100質量部の総量に対して0.01質量部以上、より好ましくは0.1質量部以上10質量部未満の配合量である。
【0050】
<(BC)重合開始剤>
本発明の歯科用硬化性組成物に使用する(BC)重合開始剤は(B)光重合開始剤及び/または(C)化学重合開始剤を含む。(B)光重合開始剤とは光照射器等で歯科用硬化性組成物に光を照射することで重合を開始させることができる重合開始剤である。(C)化学重合開始剤とは2剤以上に分包された酸化剤と還元剤を混和させた際に重合を開始させることができる重合開始剤である。(B)光重合開始剤と(C)化学重合開始剤は(D)重合促進剤と併用して用いることで硬化性が著しく高まる。
【0051】
<(B)光重合開始剤>
本発明の歯科用硬化性組成物は(C1)有機過酸化物を含まない場合に(B1)光増感剤及び(B2)光酸発生剤を含む(B)光重合開始剤を含む。また、(C1)有機過酸化物を含む場合であっても(B1)光増感剤及び(B2)光酸発生剤を含む(B)光重合開始剤を含むことができる。本発明の歯科用硬化性組成物に含まれる(B)光重合促進剤は特に制限されず、一般に用いられる公知の化合物が何等制限なく使用することができる。
【0052】
[(B1)光増感剤]
本発明で使用することができる(B1)光増感剤を具体的に例示すると、ベンジル、カンファーキノン、カンファーキノンカルボン酸、カンファーキノンスルホン酸、α-ナフチル、アセトナフセン、p,p'-ジメトキシベンジル、p,p'-ジクロロベンジルアセチル、ペンタンジオン、1,2-フェナントレンキノン、1,4-フェナントレンキノン、3,4-フェナントレンキノン、9,10-フェナントレンキノン、ナフトキノン等のα-ジケトン類、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル等のベンゾインアルキルエーテル類、チオキサントン、2-クロロチオキサントン、2-メチルチオキサントン、2-イソプロピルチオキサントン、2-メトキシチオキサントン、2-ヒドロキシチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン、2,4-ジイソプロピルチオキサントン等のチオキサントン類、ベンゾフェノン、p-クロロベンゾフェノン、p-メトキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン類、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)(2,4,4-トリメチルペンチル)ホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-n-ブチルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-(2-メチルプロピ-1-イル)ホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-(1-メチルプロピ-1-イル)ホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-t-ブチルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)シクロヘキシルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)オクチルホスフィンオキシド、ビス(2-メトキシベンゾイル)(2-メチルプロピ-1-イル)ホスフィンオキシド、ビス(2-メトキシベンゾイル)(1-メチルプロピ-1-イル)ホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジエトキシベンゾイル)(2-メチルプロピ-1-イル)ホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジエトキシベンゾイル)(1-メチルプロピ-1-イル)ホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジブトキシベンゾイル)(2-メチルプロピ-1-イル)ホスフィンオキシド、ビス(2,4-ジメトキシベンゾイル)(2-メチルプロピ-1-イル)ホスフィンオキシド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)(2,4-ジペントキシフェニル)ホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)ベンジルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2-フェニルプロピルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2-フェニルエチルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)ベンジルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2-フェニルプロピルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2-フェニルエチルホスフィンオキシド、2,6-ジメトキシベンゾイルベンジルブチルホスフィンオキシド、2,6-ジメトキシベンゾイルベンジルオクチルホスフィンオキシド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)イソブチルホスフィンオキシド及び2,6-ジメトキシベンゾイル-2,4,6-トリメチルベンゾイル-n-ブチルホスフィンオキシド等のアシルフォスフィンオキサイド類、ビスベンゾイルジエチルゲルマニウム、ビスベンゾイルジメチルゲルマニウム、ビスベンゾイルジブチルゲルマニウム、ビス(4-メトキシベンゾイル)ジメチルゲルマニウム、及びビス(4-メトキシベンゾイル)ジエチルゲルマニウム等のアシルゲルマニウム化合物、2-ベンジル-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタノン-1、2-ベンジル-ジエチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-プロパノン-1等のα-アミノアセトフェノン類、ベンジルジメチルケタール、ベンジルジエチルケタール、ベンジル(2-メトキシエチルケタール)等のケタール類、ビス(シクロペンタジエニル)-ビス〔2,6-ジフルオロ-3-(1-ピロリル)フェニル〕-チタン、ビス(シクペンタジエニル)-ビス(ペンタンフルオロフェニル)-チタン、ビス(シクロペンタジエニル)-ビス(2,3,5,6-テトラフルオロ-4-ジシロキシフェニル)-チタン等のチタノセン類等が挙げられる。
【0053】
(B1)光増感剤は、重合に利用する光の波長、強度、光照射時間や組み合わせる他の成分の種類や配合量に応じて適宜選択することができる。また、光増感剤は単独または2種類以上を組み合わせて用いることができる。なかでも、可視光領域に極大吸収波長を有しているα-ジケトン化合物が好適に使用され、さらに好ましくはカンファーキノン、カンファーキノンカルボン酸、カンファーキノンスルホン酸などのカンファーキノン類化合物が好適であり、特に入手が容易であることからカンファーキノンが好ましい。
【0054】
通常、(B1)光増感剤の配合量は、通常、歯科用硬化性組成物に含まれる(A)重合性単量体の総量100質量部に対して0.02~1.0質量部が好ましく、より好ましくは0.05~0.5質量部である。(B1)光増感剤の配合量が0.02質量部未満の場合、照射光に対する重合活性が乏しく硬化が不十分となる場合がある。1.0質量部より多く配合する場合、十分な硬化性を発現するものの、環境光安定性が短くなり、黄色味が増大する。本発明の歯科用硬化性組成物は、(B1)光増感剤としてα-ジケトン類化合物のみを含んでもよい。
【0055】
[(B2)光酸発生剤]
本発明の歯科用硬化性組成物に用いる(B2)光酸発生剤は、公知の化合物が制限なく使用することができる。具体的には、トリアジン化合物、ヨードニウム塩系化合物、スルホニウム塩系化合物、スルホン酸エステル化合物等が挙げられる。これらの中でも増感剤と併用した際の重合性が高いことからトリアジン化合物、ヨードニウム塩系化合物が好ましい。より好ましくはヨードニウム塩系化合物が好ましい。ヨードニウム塩系化合物は可視光領域に吸収を有する光増感剤による増感を受けやすい。
【0056】
トリアジン化合物の具体例としては、2,4,6-トリス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2,4,6-トリス(トリブロモメチル)-s-トリアジン、2-メチル-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-メチル-4,6-ビス(トリブロモメチル)-s-トリアジン、2-フェニル-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-(p-メトキシフェニル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-(p-メチルチオフェニル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-(p-クロロフェニル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-(2,4-ジクロロフェニル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-(p-ブロモフェニル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-(p-トリル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-n-プロピル-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-(α,α,β-トリクロロエチル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-スチリル-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-[2-(p-メトキシフェニル)エテニル]-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-[2-(o-メトキシフェニル)エテニル]-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-[2-(p-ブトキシフェニル)エテニル]-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-[2-(3,4-ジメトキシフェニル)エテニル]-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-[2-(3,4,5-トリメトキシフェニル)エテニル]-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-(1-ナフチル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-(4-ビフェニリル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-[2-{N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)アミノ}エトキシ]-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-[2-{N-ヒドロキシエチル-N-エチルアミノ}エトキシ]-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-[2-{N-ヒドロキシエチル-N-メチルアミノ}エトキシ]-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-[2-{N,N-ジアリルアミノ}エトキシ]-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジンが挙げられる。この中でも2,4,6-トリス(トリクロロメチル)-s-トリアジンが好ましい。
【0057】
ヨードニウム塩系化合物は公知のものであれば、あらゆるものを使用することができる。具体例を示すと、ヨードニウム塩系化合物の構造式は下記式(2)で表すことができる。
[式(2)]
[(R1)2I]+ [A]-
(式中の[(R1)2I]+はカチオン部分、[A]-はアニオン部分であり、式(2)に示すR1はIに結合している有機基を表し、R1は同一であっても異なってもよい。R1は、例えば炭素数6~30のアリール基、炭素数4~30の複素環基、炭素数1~30のアルキル基、炭素数2~30のアルケニル基または炭素数2~30のアルキニル基を表し、これらはアルキル、ヒドロキシ、アルコキシ、アルキルカルボニル、アリールカルボニル、アルコキシカルボニル、アリールオキシカルボニル、アリールチオカルボニル、アシロキシ、アリールチオ、アルキルチオ、アリール、複素環、アリールオキシ、アルキルスルフィニル、アリールスルフィニル、アルキルスルホニル、アリールスルホニル、アルキレンオキシ、アミノ、シアノ、ニトロの各基及びハロゲンからなる群より選ばれる少なくとも1種で置換されていてもよい。)
【0058】
上記において炭素数6~30のアリール基としては、フェニル基などの単環式アリール基及びナフチル、アントラセニル、フェナンスレニル、ピレニル、クリセニル、ナフタセニル、ベンズアントラセニル、アントラキノリル、フルオレニル、ナフトキノン、アントラキノンなどの縮合多環式アリール基が挙げられる。
【0059】
炭素数4~30の複素環基としては、酸素、窒素、硫黄などの複素原子を1~3個含む環状のものが挙げられ、これらは同一であっても異なっていてもよく、具体例としてはチエニル、フラニル、ピラニル、ピロリル、オキサゾリル、チアゾリル、ピリジル、ピリミジル、ピラジニルなどの単環式複素環基及びインドリル、ベンゾフラニル、イソベンゾフラニル、ベンゾチエニル、イソベンゾチエニル、キノリル、イソキノリル、キノキサリニル、キナゾリニル、カルバゾリル、アクリジニル、フェノチアジニル、フェナジニル、キサンテニル、チアントレニル、フェノキサジニル、フェノキサチイニル、クロマニル、イソクロマニル、ジベンゾチエニル、キサントニル、チオキサントニル、ジベンゾフラニルなどの縮合多環式複素環基が挙げられる。
【0060】
炭素数1~30のアルキル基の具体例としてはメチル、エチル、プロピル、ブチル、ヘキサデシル、オクタデシルなどの直鎖アルキル基、イソプロピル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、イソペンチル、ネオペンチル、tert-ペンチル、イソヘキシルなどの分岐アルキル基、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシルなどのシクロアルキル基が挙げられる。
【0061】
また、炭素数2~30のアルケニル基の具体例としては、ビニル、アリル、1-プロペニル、イソプロペニル、1-ブテニル、2-ブテニル、3-ブテニル、1-メチル-1-プロペニルなどの直鎖または分岐状のものが挙げられる。
【0062】
さらに、炭素数2~30のアルキニル基の具体例としては、エチニル、1-プロピニル、2-プロピニル、1-ブチニル、2-ブチニル、3-ブチニル、1-メチル-1-プロピニル、1-メチル-2-プロピニルなどの直鎖または分岐状のものが挙げられる。
【0063】
上記の炭素数6~30のアリール基、炭素数4~30の複素環基、炭素数1~30のアルキル基、炭素数2~30のアルケニル基または炭素数2~30のアルキニル基は少なくとも1種の置換基を有してもよく、置換基の具体例としては、メチル、エチル、プロピル、ブチル、オクタデシルなど炭素数1~18の直鎖アルキル基;イソプロピル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチルなど炭素数1~18の分岐アルキル基;シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシルなど炭素数3~18のシクロアルキル基;ヒドロキシ基;メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、ブトキシ、イソブトキシ、sec-ブトキシ、tert-ブトキシ、ドデシルオキシなど炭素数1~18の直鎖または分岐のアルコキシ基;アセチル、プロピオニル、ブタノイル、2-メチルプロピオニル、ヘプタノイル、2-メチルブタノイル、3-メチルブタノイル、オクタノイルなど炭素数2~18の直鎖または分岐のアルキルカルボニル基;ベンゾイル、ナフトイルなど炭素数7~11のアリールカルボニル基;メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、プロポキシカルボニル、イソプロポキシカルボニル、ブトキシカルボニル、イソブトキシカルボニル、sec-ブトキシカルボニル、tert-ブトキシカルボニルなど炭素数2~19の直鎖または分岐のアルコキシカルボニル基;フェノキシカルボニル、ナフトキシカルボニルなど炭素数7~11のアリールオキシカルボニル基;フェニルチオカルボニル、ナフトキシチオカルボニルなど炭素数7~11のアリールチオカルボニル基;アセトキシ、エチルカルボニルオキシ、プロピルカルボニルオキシ、イソブチルカルボニルオキシ、sec-ブチルカルボニルオキシ、tert-ブチルカルボニルオキシ、オクタデシルカルボニルオキシなど炭素数2~19の直鎖または分岐のアシロキシ基;フェニルチオ、ビフェニリルチオ、メチルフェニルチオ、クロロフェニルチオ、ブロモフェニルチオ、フルオロフェニルチオ、ヒドロキシフェニルチオ、メトキシフェニルチオ、ナフチルチオ、4-[4-(フェニルチオ)ベンゾイル]フェニルチオ、4-[4-(フェニルチオ)フェノキシ]フェニルチオ、4-[4-(フェニルチオ)フェニル]フェニルチオ、4-(フェニルチオ)フェニルチオ、4-ベンゾイルフェニルチオ、4-ベンゾイル-クロロフェニルチオ、4-ベンゾイル-メチルチオフェニルチオ、4-(メチルチオベンゾイル)フェニルチオ、4-(ptert-ブチルベンゾイル)フェニルチオ、など炭素数6~20のアリールチオ基;メチルチオ、エチルチオ、プロピルチオ、tert-ブチルチオ、ネオペンチルチオ、ドデシルチオなど炭素数1~18の直鎖または分岐のアルキルチオ基;フェニル、トリル、ジメチルフェニル、ナフチルなど炭素数6~10のアリール基;チエニル、フラニル、ピラニル、キサンテニル、クロマニル、イソクロマニル、キサントニル、チオキサントニル、ジベンゾフラニルなど炭素数4~20の複素環基;フェノキシ、ナフチルオキシなど炭素数6~10のアリールオキシ基;メチルスルフィニル、エチルスルフィニル、プロピルスルフィニル、tert-ペンチルスルフィニル、オクチルスルフィニルなど炭素数1~18の直鎖または分岐のアルキルスルフィニル基;フェニルスルフィニル、トリルスルフィニル、ナフチルスルフィニルなど炭素数6~10のアリールスルフィニル基;メチルスルホニル、エチルスルホニル、プロピルスルホニル、イソプロピルスルホニル、ブチルスルホニル、オクチルスルホニルなど炭素数1~18の直鎖または分岐のアルキルスルホニル基; フェニルスルホニル、トリルスルホニル(トシル基)、ナフチルスルホニルなど炭素数の6~10のアリールスルホニル基;アルキレンオキシ基;シアノ基;ニトロ基;フッ素、塩素、臭素、ヨウ素などのハロゲンなどが挙げられる。
【0064】
ヨードニウム塩系化合物の中でも安定性が高いことからアリールヨードニウム塩であることが好ましい。また、脂溶性を向上させるためにアリール基は置換基を有していることが好ましい。具体的にはメチル、プロピル、オクチル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシルなどの直鎖アルキル基、イソプロピル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、イソペンチル、ネオペンチル、tert-ペンチル、イソヘキシルなどの分岐アルキル基またはこれらの1つ以上のHをFに置換した官能基やパーフルオロアルキル基、ハロゲンなどが置換基として好適である。
【0065】
ヨードニウム塩系化合物のアニオン部分の構造は特に限定されないが、例としてハロゲン、P、S、B、Al、Gaなどの原子を有しているものが挙げられる。安全性の観点からAsやSbを有しているアニオンを使用することはできるが歯科用途では好ましくない。また、アニオンはアルキル基及び/またはアルコキシ基及び/またはアリール基等の有機基を有していることが好ましく、さらには少なくとも1つ以上のHがFで置換されたアルキル基及び/またはアルコキシ基及び/またはアリール基等の有機基を有していることが最も好ましい。このようなアニオンを有するヨードニウム塩系化合物は歯科用硬化性組成物への溶解性が高いために、低温保管時や長期保管時の析出防止や、短時間で組成物中に溶解することから製造時間の短時間化などが期待できる。また、1つ以上のHがFで置換されたアルキル基及び/またはアルコキシ基及び/またはアリール基等の有機基を有するアニオンからなるヨードニウム塩系化合物は、さらに高い溶解性が期待できる。光酸発生剤が析出した場合、光色安定性の低下や曲げ強さの低下を引き起こす場合があるため好ましくない。このような、少なくとも1つ以上のHがFで置換されていても良いアルキル基及び/またはアルコキシ基及び/またはアリール基等の有機基を有しているアニオンは、あらゆる原子を有するアニオンを使用できるが、汎用性と安全性の観点からP、S、B、Al、Gaを有しているものが好ましい。
【0066】
アルキル基及び/またはアルコキシ基及び/またはアリール基を有さないアニオンとしては、クロリド、ブロミドなどのハロゲンや過塩素酸などの過ハロゲン酸、p-トルエンスルホナートなどの芳香族スルホン酸、カンファースルホン酸、ニトレート、アセテート、クロロアセテート、カルボキシレート、フェノラート、テトラフルオロボレート、ヘキサフルオロホスファート、ヘキサフルオロアンチモネート、ヘキサフルオロアルセナートなどが挙げられる。これらの中では、p-トルエンスルホナート、カンファースルホン酸、カルボキシレートが好適に使用される。
【0067】
式(2)のヨードニウム塩系化合物の[A]-のアニオン部分は歯科用硬化性組成物への溶解性が向上することから、少なくとも1つ以上のHがFで置換されたアルキル基及び/またはアルコキシ基及び/またはアリール基等の有機基を有するアニオンであることが好ましい。具体的に、式(2)のヨードニウム塩系化合物の[A]-のアニオン部分が有するアルキル基の好ましい炭素数は1~8であり、好ましくは1~4である。具体例としてはメチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、オクチルなどの直鎖アルキル基や、イソプロピル、イソブチルsec-ブチル、tert-ブチルなどの分岐アルキル基、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシルなどのシクロアルキル基などが挙げられる。アルキル基中の水素原子とフッ素原子の数の比率(F/H)が4以上であり、好ましくはアルキル基中の水素原子とフッ素原子の数の比率(F/H)が9以上である。さらに好ましくは炭化水素の水素原子の全てがフッ素に置換されていることが好ましい。歯科用硬化性組成物中に水素原子とフッ素原子の比率が異なるアルキル基を有するアニオンからなるヨードニウム塩が配合されていてもよい。
【0068】
さらに、アルキル基の具体例を挙げると、CF3、CF3CF2、(CF3)2CF、CF3CF2CF2、CF3CF2CF2CF2、(CF3)2CFCF2、CF3CF2(CF3)CF、(CF3)3Cなどの直鎖または分岐パーフルオロアルキル基が挙げられる。
【0069】
式(2)のヨードニウム塩系化合物の[A]-のアニオン部分が有するアルコキシ基の好ましい炭素数は1~8であり、好ましくは1~4である。具体例としてはメトキシ、エトキシ、プロポキシ、ブトキシ、ペントキシ、オクトキシなどの直鎖アルコキシ基や、イソプロポキシ、イソブトキシ、sec-ブトキシ、tert-ブトキシなどの分岐アルコキシ基が挙げられる。アルキル基中の水素原子とフッ素原子の数の比率(F/H)が4以上であり、好ましくはアルキル基中の水素原子とフッ素原子の数の比率(F/H)が9以上である。さらに好ましくは炭化水素の水素原子の全てがフッ素に置換されていることが好ましい。歯科用硬化性組成物中に水素原子とフッ素原子の比率が異なるアルコキシ基を有するアニオンからなるヨードニウム塩が配合されていてもよい。
【0070】
さらに、アルコキシ基の具体例を挙げると、CF3O、CF3CF2O、CF3CF2CF2O、(CF3)2CFO、CF3CF2CF2CF2O、(CF3)2CFCF2O、CF3CF2(CF3)CFO、CF3CF2CF2CF2CF2O、CF3CF2CF2CF2CF2CF2CF2CF2CF2Oなどの直鎖または分岐パーフルオロアルコキシ基が挙げられる。
【0071】
式(2)のヨードニウム塩系化合物の[A]-のアニオン部分が有するフェニル基中は少なくとも1つ以上の水素原子がフッ素原子、及び/またはフッ素原子で置換されたアルキル基及び/またはアルコキシ基で置換されたフェニル基を有する。フッ素原子で置換されたアルキル基及び/またはアルコキシ基は上記に記載するものが好ましい。特に好ましいフェニル基の具体例は、ペンタフルオロフェニル基(C6F5)、トリフルオロフェニル基(C6H2F3)、テトラフルオロフェニル基(C6HF4)、トリフルオロメチルフェニル基(CF3C6H4)、ビス(トリフルオロメチル)フェニル基((CF3)2C6H3)、ペンタフルオロエチルフェニル基(CF3CF2C6H4)、ビス(ペンタフルオロエチル)フェニル基((CF3CF2)2C6H3)、トリフルオロメチルフルオロフェニル基(CF3C6H3F)、ビストリフルオロメチルフルオロフェニル基((CF3)2C6H2F)、ペンタフルオロエチルフルオロフェニル基(CF3CF2C6H3F)、ビスペンタフルオロエチルフルオロフェニル基((CF3CF2)2C6H2F)などのパーフルオロフェニル基が挙げられる。歯科用硬化性組成物中に水素原子とフッ素原子の比率が異なるフェニル基を有するアニオンからなるヨードニウム塩が配合されていてもよい。
【0072】
式(2)のヨードニウム塩系化合物の[A]-のアニオン部分の具体例として、Pを有するアニオンは、[(CF3CF2)3PF3]-、[(CF3CF2CF2)3PF3]-、[((CF3)2CF)2PF4]-、[((CF3)2CF)3PF3]-、[((CF3)2CF)4PF2]-、[((CF3)2CFCF2)2PF4]-、[((CF3)2CFCF2)3PF3]-などが挙げられる。Sを有するアニオンは、[(CF3SO2)3C]-、[(CF3CF2SO2)3C]-、[(CF3CF2CF2SO2)3C]-、[(CF3CF2CF2CF2SO2)3C]-、[CF3CF2CF2CF2SO3]-、[CF3CF2CF2SO3]-、[(CF3CF2SO2)3C]-、[(SO2CF3)3N]-、[(SO2CF2CF3]2N]-、[((CF3)C6H4)SO3]-、[SO3((CF2CF2CF2CF2)SO3]2-などが挙げられる。Bを有するアニオンとして[B(C6F5)4]-、[(C6H5)B((CF3)2C6H3)3]-、[(C6H5)B(C6F5)3]-、などが挙げられる。Gaを有するアニオンとして[((CF3)4Ga)]-、[Ga(C6F5)4]-などが挙げられる。Alを有するアニオンとして[((CF3)3CO)4Al]-、[((CF3CF2)3CO)4Al]-などが挙げられる。
【0073】
本発明の歯科用硬化性組成物は(A)重合性単量体の総量100質量部の総量に対して(B2)光酸発生剤を0.1~10質量部含むことが好ましく、より好ましくは0.2~5質量部である。光酸発生剤の配合量が0.1質量部未満の場合、期待される重合促進能が発現されずに硬化が不十分となる場合がある。10質量部より多く配合する場合、十分な硬化性は発現するものの、環境光安定性が短低くなり操作余裕時間が短くなる場合や、硬化体が褐色を帯びるなど変色が増大する場合がある。
【0074】
本発明の歯科用硬化性組成物で用いることができる光酸発生剤は具体例に示した光酸発生剤に限定することなく、また2種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0075】
本発明の歯科用硬化性組成物は、(B2)光酸発生剤として、有機基及びP、B、Al、S、Gaのいずれか1つ以上の原子を有するアニオンと、アリールヨードニウムカチオンとの塩であるアリールヨードニウム塩のみを含んでもよい。本発明の歯科用硬化性組成物は、(B2)光酸発生剤として、少なくとも1つ以上のHがF置換された有機基及びP、B、Al、S、Gaのいずれか1つ以上の原子を有するアニオンと、アリールヨードニウムカチオンとの塩のみを含んでもよい。
【0076】
<(C)化学重合開始剤>
本発明の歯科用硬化性組成物は(B)光重合開始剤である(B1)光増感剤および(B2)光酸発生剤を含まない場合に(C)化学重合開始剤として(C1)有機過酸化物を含む。また、(B)光重合開始剤である(B1)光増感剤および(B2)光酸発生剤を含む場合であっても(C)化学重合開始剤として(C1)有機過酸化物を含むことができる。(C)化学重合開始剤は特に制限されず、一般に用いられる公知の化合物が何等制限なく使用することができる。
【0077】
<(C1)有機過酸化物>
本発明の歯科用硬化性組成物に使用する(C)化学重合開始剤としての(C1)有機過酸化物は、ジアシルパーオキサイド類、パーオキシエステル類、ジアルキルパーオキサイド類、パーオキシケタール類、ケトンパーオキサイド類、パーオキシジカーボネート類、ハイドロパーオキサイド類が例示される。ジアシルパーオキサイド類の具体例としては、アセチルパーオキサイド、イソブチリルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、デカノイルパーオキサイド、3,5,5-トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、2,4-ジクロロベンゾイルパーオキサイド及びラウロイルパーオキサイド等が挙げられる。パーオキシエステル類の具体例としては、α-クミルパーオキシネオデカノエート、t-ブチルパーオキシネオデカノエート、t-ブチルパーオキシピバレート、2,2,4-トリメチルペンチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-アミルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、ジ-t-ブチルパーオキシイソフタレート、ジ-t-ブチルパーオキシヘキサヒドロテレフタラート、t-ブチルパーオキシ-3,3,5-トリメチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシアセテート、t-ブチルパーオキシベンゾエート及びt-ブチルパーオキシマレリックアシッド等が挙げられる。ジアルキルパーオキサイド類の具体例としては、ジ-t-ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t-ブチルクミルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、1,3-ビス(t-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン及び2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)-3-ヘキシン等が挙げられる。パーオキシケタール類の具体例としては、1,1-ジ(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、2,2-ジ(t-ブチルパーオキシ)ブタン、n-ブチル4,4-(t-ブチルパーオキシ)パレレート、1,1-ジ(t-アミルパーオキシ)シクロヘキサン等が挙げられる。ケトンパーオキサイド類の具体例としては、メチルエチルケトンパーオキサイド、メチルイソブチルケトンパーオキサイド、メチルシクロヘキサノンパーオキサイド及びシクロヘキサノンパーオキサイド等が挙げられる。パーオキシジカーボネート類の具体例としては、ジ-3-メトキシパーオキシジカーボネート、ジ-2-エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ビス(4-t-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ-n-プロピルパーオキシジカーボネート、ジ-2-エトキシエチルパーオキシジカーボネート及びジアリルパーオキシジカーボネート等が挙げられる。ハイドロパーオキサイド類の具体例としては、2,5-ジメチルヘキサン-2,5-ジハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド及び1,1,3,3-テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド等が挙げられる。
【0078】
本発明の歯科用硬化性組成物は例示した有機過酸化物を単独または2種類以上を組み合わせて用いてもよい。これら有機過酸化物の中でも硬化性の観点からジアシルパーオキサイド類、パーオキシエステル類、ハイドロパーオキサイド類が好ましく、例えばベンゾイルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、1,1,3,3-テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、t-ブチルパーオキシ-3,3,5-トリメチルヘキサノエートが好ましい。化学重合開始剤としての有機過酸化物は硬化性を向上させる観点から(A)重合性単量体の総量100質量部に対して0.1~5質量部に設定することが好ましく、さらに好ましくは0.3~3質量部に設定することである。また有機過酸化物の配合量が5質量部より多くなると操作時間を十分に確保することが困難となる場合があり、一方、有機過酸化物の配合量が0.1質量部未満の場合は機械的強度が不足する場合がある。
【0079】
[(D)重合促進剤]
本発明の歯科用硬化性組成物に用いる(D)重合促進剤は重合促進能を有するものであれば特に制限されず、歯科分野で一般に用いられる公知の重合促進剤を何等制限なく使用することができる。(D)重合促進剤としては芳香族アミン化合物や、脂肪族アミン化合物等の第1~3級アミン化合物、ホスフィン化合物、有機金属化合物、第4周期の遷移金属化合物、チオ尿素誘導体、スルフィン酸及びその塩、ボレート化合物、硫黄を含有する還元性無機化合物、窒素を含有する還元性無機化合物、バルビツール酸誘導体、トリアジン化合物、ハロゲン化合物などを光重合促進剤及び/または化学重合促進剤として使用することができる。各化合物はそれぞれが光重合および化学重合の促進剤として使用できるが、特に光重合促進剤として使用できるものはアミン化合物、ホスフィン化合物、スルフィン酸及びその塩、有機金属化合物であり、特に化学重合促進剤として使用できるものは芳香族アミン化合物、ホスフィン化合物、有機金属化合物、第4周期の遷移金属化合物、チオ尿素誘導体、スルフィン酸及びその塩、ボレート化合物、硫黄を含有する還元性無機化合物、窒素を含有する還元性無機化合物、バルビツール酸誘導体、トリアジン化合物、ハロゲン化合物として分類することができる。
【0080】
芳香族アミン化合物はアンモニア(NH3)の1つ以上のHが芳香環に置換している化合物を指す。NH3の1つのHが芳香環に置換されているものを芳香族第1級アミン化合物、NH3の1つのHが芳香環に置換され、異なる1つのHが芳香環またはアルキル基に置換されているものを芳香族第2級アミン化合物、NH3の1つのHが芳香環に置換され、異なる2つのHが芳香環またはアルキル基に置換されているものを芳香族第3級アミン化合物と分類できる。
【0081】
芳香族第1級アミン化合物の具体例としてはアニリンなどがあり、芳香族第2級アミン化合物の具体例としてはN-フェニルベンジルアミン、N-ベンジル-p-アニシジン、N-ベンジル-o-フェネチジン、N-フェニルグリシンエチル、N-フェニルグリシンといったN保護アミノ酸(エステル)などがあり、芳香族第3級アミン化合物の具体例としては、N,N-ジメチルアニリン、N,N-ジエチルアニリン、N,N-ジ-n-ブチルアニリン、N,N-ジベンジルアニリン、p-N,N-ジメチル-トルイジン、m-N,N-ジメチル-トルイジン、p-N,N-ジエチル-トルイジン、p-ブロモ-N,N-ジメチルアニリン、m-クロロ-N,N-ジメチルアニリン、p-ジメチルアミノベンズアルデヒド、p-ジメチルアミノアセトフェノン、p-ジメチルアミノベンゾイックアシッド、p-ジメチルアミノベンゾイックアシッドエチルエステル、p-ジメチルアミノベンゾイックアシッドイソアミルエステル、p-ジメチルアミノベンゾイックアシッド2-ブトキシエチル、p-ジメチルアミノベンゾイックアシッド2-エチルヘキシル、p-ジメチルアミノベンゾイックアシッドアミノエステル、N,N-ジメチルアンスラニリックアシッドメチルエステル、N,N-ジヒドロキシエチルアニリン、N,N-ジイソプロパノールアニリン、p-N,N-ジヒドロキシエチル-トルイジン、p-N,N-ジヒドロキシプロピル-トルイジン、p-ジメチルアミノフェニルアルコール、p-ジメチルアミノスチレン、N,N-ジメチル-3,5-キシリジン、4-ジメチルアミノピリジン、N,N-ジメチル-α-ナフチルアミン、N,N-ジメチル-β-ナフチルアミン等が挙げられる。この中でも、p-ジメチルアミノベンゾイックアシッドエチルエステルが好ましい。
【0082】
ホスフィン化合物とはP原子に有機基が3置換した化合物を指し、芳香族ホスフィン化合物はP原子に1つ以上の置換基を有しても良いフェニル基が置換したものを指す。ホスフィン化合物の具体例としては、トリメチルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリヘキシルホスフィン、トリ-n-オクチルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、トリ(2-チエニル)ホスフィン、ジフェニルプロピルホスフィン、ジ-tert-ブチル(3-メチル-2-ブテニル)ホスフィン、メチルジフェニルホスフィン、トリフェニルホスフィン、2-(ジフェニルホスフィノ)スチレン、3-(ジフェニルホスフィノ)スチレン、4-(ジフェニルホスフィノ)スチレン、アリルジフェニルホスフィン、2-(ジフェニルホスフィノ)ベンズアルデヒド、3-(ジフェニルホスフィノ)ベンズアルデヒド、4-(ジフェニルホスフィノ)ベンズアルデヒド、2-(フェニルホスフィノ)安息香酸、3-(フェニルホスフィノ)安息香酸、4-(フェニルホスフィノ)安息香酸、トリス(2-メトキシフェニル)ホスフィン、トリス(3-メトキシフェニル)ホスフィン、トリス(4-メトキシフェニル)ホスフィン、2-(ジフェニルホスフィノ)ビフェニル、トリス(4-フルオロフェニル)ホスフィン、トリ(o-トリル)ホスフィン、トリ(m-トリル)ホスフィン、トリ(p-トリル)ホスフィン、2-(ジメチルアミノ)フェニルジフェニルホスフィン、3-(ジメチルアミノ)フェニルジフェニルホスフィン、4-(ジメチルアミノ)フェニルジフェニルホスフィン、2,2’-ビス(ジフェニルホスフィノ)ビフェニル、ビス[2-(ジフェニルホスフィノ)フェニル]エーテルなどが挙げられる。この中でもトリフェニルホスフィン、4-(フェニルホスフィノ)安息香酸、トリ(o-トリル)ホスフィン、トリ(m-トリル)ホスフィン、トリ(p-トリル)ホスフィンが好ましい。
【0083】
脂肪族アミン化合物はアンモニア(NH3)の1つ以上のHがアルキル基に置換している化合物を指す。アルキル基はCH3-または-CH2-を第1級アルキル基、-CH2-の1つのHが置換基を有するものを第2級アルキル基、-CH2-の2つのHが置換基を有するものを第3級アルキル基と分類する。脂肪族アミンはNH3のうち1つのHがアルキル基と置換されているものを脂肪族第1級アミン化合物、NH3の2つのHがアルキル基と置換されているものを脂肪族第2級アミン化合物、NH3の3つのHがアルキル基と置換されているものを脂肪族第3級アミン化合物と分類される。
【0084】
脂肪族第1級アミン化合物の具体例としてはベンズヒドリルアミン、トリフェニルメチルアミン、グリシンなどのアミノ酸またはアミノ酸エステル類などが挙げられ、脂肪族第2級アミン化合物の具体例としてはジベンジルアミン、N-ベンジル-1-フェニルエチルアミン、ビス(1-フェニルエチル)アミン、ビス(4-シアノベンジル)アミン、N-ベンジル保護アミノ酸またはN-ベンジル保護アミノ酸エステルなどが挙げられ、脂肪族第3級アミン化合物の具体例としては、トリブチルアミン、トリプロピルアミン、トリエチルアミン、N,N-ジメチルヘキシルアミン、N,N-ジメチルドデシルアミン、N,N-ジメチルステアリルアミン、N-[3-(ジメチルアミノ)プロピル]アクリルアミド、N,N-ジメチルホルムアミドジメチルアセタール、N,N-ジメチルアセトアミドジメチルアセタール、N,N-ジメチルホルムアミドジエチルアセタール、N,N-ジメチルホルムアミドジプロピルアセタール、N,N-ジメチルホルムアミドジ-tert-ブチルアセタール、1-(2-ヒドロキシエチル)エチレンイミン、N,N-ジメチルエタノールアミン、N,N-ジメチルイソプロパノールアミン、N,N-ジイソプロピルエタノールアミン、N-メチルジエタノールアミン、N-エチルジエタノールアミン、N-エチルジエタノールアミン、N-ブチルジエタノールアミン、N-ラウリルジエタノールアミン、N-ステアリルジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、トリベンジルアミン、ジベンジルグリシンエチルエステル、N’-(2-ヒドロキシエチル)-N,N,N’-トリメチルエチレンジアミン、2-(ジメチルアミノ)-2-メチル-1-プロパノール、N,N-ジメチル-2,3-ジヒドロキシプロピルアミン、N,N-ジエチルエタノールアミン、1-メチル-3-ピロリジノール、1-(2-ヒドロキシエチル)ピロリジン、1-イソプロピル-3-ピロリジノール、1-ピペリジンエタノール、2-[2-(ジメチルアミノ)エトキシ]エタノール、N,N-ジメチルグリシン、N,N-ジメチルグリシンメチル、N,N-ジエチルグリシンメチル、N,N-ジメチルグリシンエチル、N,N-ジエチルグリシンナトリウム、酢酸2-(ジメチルアミノ)エチル、N-メチルイミノ二酢酸、N,N-ジメチルアミノエチルアクリレート、N,N-ジエチルアミノエチルメタクリレート、N,N-ジイソプロピルアミノエチルメタクリレート、N,N-ジブチルアミノエチルメタクリレート、N,N-ジベンジルアミノエチルメタクリレート、3-ジメチルアミノプロピオニトリル、トリス(2-シアノエチル)アミン、N,N-ジメチルアリルアミン、N,N-ジエチルアリルアミン、トリアリルアミンなどが挙げられる。
【0085】
有機金属化合物を具体的に例示すると、スカンジウム(Sc)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、錫(Sn)、亜鉛(Zn)、ジルコニウム(Zr)を含む有機金属化合物であり、好ましくは錫(Sn)、バナジウム(V)、銅(Cu)を含む有機金属化合物である。錫(Sn)を含む有機金属化合物の具体例としてはジブチル-錫-ジアセテート、ジブチル-錫-ジマレエート、ジオクチル-錫-ジマレエート、ジオクチル-錫-ジラウレート、ジブチル-錫-ジラウレート、ジオクチル-錫-ジバーサテート、ジオクチル-錫-S,S’-ビス-イソオクチルメルカプトアセテート、テトラメチル-1,3-ジアセトキシジスタノキサン等が挙げられ、バナジウム(V)を含む有機金属化合物の具体例としてはアセチルアセトンバナジウム、四酸化二バナジウム、バナジルアセチルアセトナート、ステアリン酸酸化バナジウム、シュウ酸バナジル、硫酸バナジル、オキソビス(1-フェニル-1、3-ブタンジオネート)バナジウム、ビス(マルトラート)オキソバナジウム、五酸化バナジウム、メタバナジン酸ナトリウム等が挙げられ、銅(Cu)を含む有機金属化合物の具体例としてはアセチルアセトン銅、ナフテン酸銅、オクチル酸銅、ステアリン酸銅、酢酸銅が挙げられる。
【0086】
これらの中でも、3または4価のバナジウム化合物、2価の銅化合物が好ましく、中でもより高い重合促進能を有する3または4価のバナジウム化合物がより好ましく、最も好ましくは4価のバナジウム化合物である。これらの第4周期の遷移金属化合物は必要に応じて複数の種類のものを併用してもよい。遷移金属化合物の配合量は(A)重合性単量体の総量100質量部に対して0.0001~1質量部が好ましく、0.0001質量部未満では重合促進効果が不十分となる場合があり、1質量部を超えると変色や歯科用硬化性組成物のゲル化の要因となり貯蔵安定性が低下する場合がある。
【0087】
チオ尿素誘導体の具体例としては、ジメチルチオ尿素、ジエチルチオ尿素、テトラメチルチオ尿素、(2-ピリジル)チオ尿素、N-メチルチオ尿素、エチレンチオ尿素、N-アリルチオ尿素、N-アリル-N’-(2-ヒドロキシエチル)チオ尿素、N-ベンジルチオ尿素、1,3-ジシクロヘキシルチオ尿素、N,N'-ジフェニルチオ尿素、1,3-ジ(p-トリル)チオ尿素、1-メチル-3-フェニルチオ尿素、N-アセチルチオ尿素、N-ベンゾイルチオ尿素、ジフェニルチオ尿素、ジシクロヘキシルチオ尿素等があげられる。これらの中でも(2-ピリジル)チオ尿素、N-アセチルチオ尿素、N-ベンゾイルチオ尿素が好ましい。これらのチオ尿素誘導体は必要に応じて複数の種類のものを併用してもよい。チオ尿素誘導体の配合量は(A)重合性単量体の総量100質量部に対して0.1~5質量部が好ましく、0.1質量部未満では重合促進能が不十分となる場合があり、5質量部を超えると貯蔵安定性が低下する場合がある。
【0088】
スルフィン酸及びその塩の具体例としては、p-トルエンスルフィン酸、p-トルエンスルフィン酸ナトリウム、p-トルエンスルフィン酸カリウム、p-トルエンスルフィン酸リチウム、p-トルエンスルフィン酸カルシウム、ベンゼンスルフィン酸、ベンゼンスルフィン酸ナトリウム、ベンゼンスルフィン酸カリウム、ベンゼンスルフィン酸リチウム、ベンゼンスルフィン酸カルシウム、2,4,6-トリメチルベンゼンスルフィン酸、2,4,6-トリメチルベンゼンスルフィン酸ナトリウム、2,4,6-トリメチルベンゼンスルフィン酸カリウム、2,4,6-トリメチルベンゼンスルフィン酸リチウム、2,4,6-トリメチルベンゼンスルフィン酸カルシウム、2,4,6-トリエチルベンゼンスルフィン酸、2,4,6-トリエチルベンゼンスルフィン酸ナトリウム、2,4,6-トリエチルベンゼンスルフィン酸カリウム、2,4,6-トリエチルベンゼンスルフィン酸リチウム、2,4,6-トリエチルベンゼンスルフィン酸カルシウム、2,4,6-トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸、2,4,6-トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸ナトリウム、2,4,6-トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸カリウム、2,4,6-トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸リチウム、2,4,6-トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸カルシウム等が挙げられ、ベンゼンスルフィン酸ナトリウム、p-トルエンスルフィン酸ナトリウム、2,4,6-トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸ナトリウムが特に好ましい。
【0089】
ボレート化合物として、1分子中に1個のアリール基を有するボレート化合物の具体例としては、トリアルキルフェニルホウ素、トリアルキル(p-クロロフェニル)ホウ素、トリアルキル(p-フロロフェニル)ホウ素、トリアルキル(3,5-ビストリフロロメチル)フェニルホウ素、トリアルキル[3,5-ビス(1,1,1,3,3,3-ヘキサフロロ-2-メトキシ-2-プロピル)フェニル]ホウ素、トリアルキル(p-ニトロフェニル)ホウ素、トリアルキル(m-ニトロフェニル)ホウ素、トリアルキル(p-ブチルフェニル)ホウ素、トリアルキル(m-ブチルフェニル)ホウ素、トリアルキル(p-ブチルオキシフェニル)ホウ素、トリアルキル(m-ブチルオキシフェニル)ホウ素、トリアルキル(p-オクチルオキシフェニル)ホウ素及びトリアルキル(m-オクチルオキシフェニル)ホウ素(アルキル基はn-ブチル基、n-オクチル基及びn-ドデシル基等からなる群から選択される少なくとも1種である)のナトリウム塩、リチウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、テトラブチルアンモニウム塩、テトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩、メチルピリジニウム塩、エチルピリジニウム塩、ブチルピリジニウム塩、メチルキノリニウム塩、エチルキノリニウム塩及びブチルキノリニウム塩などが挙げられる。1分子中に2個のアリール基を有するボレート化合物の具体例としては、ジアルキルジフェニルホウ素、ジアルキルジ(p-クロロフェニル)ホウ素、ジアルキルジ(p-フロロフェニル)ホウ素、ジアルキルジ(3,5-ビストリフロロメチル)フェニルホウ素、ジアルキルジ[3,5-ビス(1,1,1,3,3,3-ヘキサフロロ-2-メトキシ-2-プロピル)フェニル]ホウ素、ジアルキルジ(p-ニトロフェニル)ホウ素、ジアルキルジ(m-ニトロフェニル)ホウ素、ジアルキルジ(p-ブチルフェニル)ホウ素、ジアルキルジ(m-ブチルフェニル)ホウ素、ジアルキルジ(p-ブチルオキシフェニル)ホウ素、ジアルキルジ(m-ブチルオキシフェニル)ホウ素、ジアルキルジ(p-オクチルオキシフェニル)ホウ素及びジアルキルジ(m-オクチルオキシフェニル)ホウ素(アルキル基はn-ブチル基、n-オクチル基及びn-ドデシル基等からなる群から選択される少なくとも1種である)のナトリウム塩、リチウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、テトラブチルアンモニウム塩、テトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩、メチルピリジニウム塩、エチルピリジニウム塩、ブチルピリジニウム塩、メチルキノリニウム塩、エチルキノリニウム塩及びブチルキノリニウム塩などが挙げられる。1分子中に3個のアリール基を有するボレート化合物の具体例としては、モノアルキルトリフェニルホウ素、モノアルキルトリ(p-クロロフェニル)ホウ素、モノアルキルトリ(p-フロロフェニル)ホウ素、モノアルキルトリ(3,5-ビストリフロロメチル)フェニルホウ素、モノアルキルトリ[3,5-ビス(1,1,1,3,3,3-ヘキサフロロ-2-メトキシ-2-プロピル)フェニル]ホウ素、モノアルキルトリ(p-ニトロフェニル)ホウ素、モノアルキルトリ(m-ニトロフェニル)ホウ素、モノアルキルトリ(p-ブチルフェニル)ホウ素、モノアルキルトリ(m-ブチルフェニル)ホウ素、モノアルキルトリ(p-ブチルオキシフェニル)ホウ素、モノアルキルトリ(m-ブチルオキシフェニル)ホウ素、モノアルキルトリ(p-オクチルオキシフェニル)ホウ素及びモノアルキルトリ(m-オクチルオキシフェニル)ホウ素(アルキル基はn-ブチル基、n-オクチル基またはn-ドデシル基等から選択される1種である)のナトリウム塩、リチウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、テトラブチルアンモニウム塩、テトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩、メチルピリジニウム塩、エチルピリジニウム塩、ブチルピリジニウム塩、メチルキノリニウム塩、エチルキノリニウム塩、ブチルキノリニウム塩などが挙げられる。1分子中に4個のアリール基を有するボレート化合物を具体的に例示すると、例えば、テトラフェニルホウ素、テトラキス(p-クロロフェニル)ホウ素、テトラキス(p-フロロフェニル)ホウ素、テトラキス(3,5-ビストリフロロメチル)フェニルホウ素、テトラキス[3,5-ビス(1,1,1,3,3,3-ヘキサフロロ-2-メトキシ-2-プロピル)フェニル]ホウ素、テトラキス(p-ニトロフェニル)ホウ素、テトラキス(m-ニトロフェニル)ホウ素、テトラキス(p-ブチルフェニル)ホウ素、テトラキス(m-ブチルフェニル)ホウ素、テトラキス(p-ブチルオキシフェニル)ホウ素、テトラキス(m-ブチルオキシフェニル)ホウ素、テトラキス(p-オクチルオキシフェニル)ホウ素、テトラキス(m-オクチルオキシフェニル)ホウ素、(p-フロロフェニル)トリフェニルホウ素、(3,5-ビストリフロロメチル)フェニルトリフェニルホウ素、(p-ニトロフェニル)トリフェニルホウ素、(m-ブチルオキシフェニル)トリフェニルホウ素、(p-ブチルオキシフェニル)トリフェニルホウ素、(m-オクチルオキシフェニル)トリフェニルホウ素及び(p-オクチルオキシフェニル)トリフェニルホウ素のナトリウム塩、リチウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、テトラブチルアンモニウム塩、テトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩、メチルピリジニウム塩、エチルピリジニウム塩、ブチルピリジニウム塩、メチルキノリニウム塩、エチルキノリニウム塩及びブチルキノリニウム塩などが挙げられる。
【0090】
これらアリールボレート化合物の中でも、保存安定性の観点から、1分子中に3個または4個のアリール基を有するボレート化合物を用いることがより好ましい。また、これらアリールボレート化合物は1種または2種以上を混合して用いることも可能である。
【0091】
硫黄を含有する還元性無機化合物としては、亜硫酸塩、重亜硫酸塩、ピロ亜硫酸塩、チオ硫酸塩、チオン酸塩、亜二チオン酸塩等が挙げられ、具体例としては、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、亜硫酸カルシウム、亜硫酸アンモニウム、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸水素カリウム、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、2-メルカプトベンゾオキサゾール、デカンチオール、チオ安息香酸などが挙げられる。
【0092】
窒素を含有する還元性無機化合物としては、亜硝酸塩が挙げられ、具体例としては、亜硝酸ナトリウム、亜硝酸カリウム、亜硝酸カルシウム、亜硝酸アンモニウムなどが挙げられる。
【0093】
バルビツール酸誘導体としては、バルビツール酸、1,3-ジメチルバルビツール酸、1,3-ジフェニルバルビツール酸、1,5-ジメチルバルビツール酸、5-ブチルバルビツール酸、5-エチルバルビツール酸、5-イソプロピルバルビツール酸、5-シクロヘキシルバルビツール酸、1,3,5-トリメチルバルビツール酸、1,3-ジメチル-5-エチルバルビツール酸、1,3-ジメチル-n-ブチルバルビツール酸、1,3-ジメチル-5-イソブチルバルビツール酸、1,3-ジメチルバルビツール酸、1,3-ジメチル-5-シクロペンチルバルビツール酸、1,3-ジメチル-5-シクロヘキシルバルビツール酸、1,3-ジメチル-5-フェニルバルビツール酸、1-シクロヘキシル-1-エチルバルビツール酸、1-ベンジル-5-フェニルバルビツール酸、5-メチルバルビツール酸、5-プロピルバルビツール酸、1,5-ジエチルバルビツール酸、1-エチル-5-メチルバルビツール酸、1-エチル-5-イソブチルバルビツール酸、1,3-ジエチル-5-ブチルバルビツール酸、1-シクロヘキシル-5-メチルバルビツール酸、1-シクロヘキシル-5-エチルバルビツール酸、1-シクロヘキシル-5-オクチルバルビツール酸、1-シクロヘキシル-5-ヘキシルバルビツール酸、5-ブチル-1-シクロヘキシルバルビツール酸、1-ベンジル-5-フェニルバルビツール酸及びチオバルビツール酸類の塩(アルカリ金属またはアルカリ土類金属類が好ましい)が挙げられ、これらバルビツール酸類の塩の具体例としては、5-ブチルバルビツール酸ナトリウム、1,3,5-トリメチルバルビツール酸ナトリウム及び1-シクロヘキシル-5-エチルバルビツール酸ナトリウム等が挙げられる。
【0094】
ハロゲン化合物の具体例としては、ジラウリルジメチルアンモニウムクロライド、ラウリルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、ベンジルトリメチルアンモニウムクロライド、テトラメチルアンモニウムクロライド、ベンジルジメチルセチルアンモニウムクロライド、ジラウリルジメチルアンモニウムブロマイド等が挙げられる。
【0095】
(D)重合促進剤は、歯科用硬化性組成物に含まれる(A)重合性単量体の総量100質量部に対して0.2~10質量部が好ましく、さらに好ましくは0.5~5質量部含まれることが好ましい。0.2質量部未満の場合、機械的強度が不十分となる場合がある。10質量部より多く配合する場合は、十分な硬化性は有するものの、環境光安定性が短くなり、硬化体が褐色や黄色を帯びるなど変色が増大する場合があり好ましくない。
【0096】
これらの(B1)光増感剤、(B2)光酸発生剤、(C1)有機過酸化物、(D)重合促進剤は必要に応じて、微粉砕や担体吸着、マイクロカプセルに内包するなどの二次的な処理を施しても何等問題はない。さらにこれらの様々な種類の光重合開始剤は重合様式や重合方法に関係なく、単独または2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0097】
[(E)充填剤]
本発明に用いられる(E)充填剤は、一般的に用いられている公知の充填剤を何等制限なく使用することができる。
【0098】
(E)充填剤の種類としては公知の充填剤であれば制限なく、その用途に応じた充填剤を配合することができ、無機フィラー、有機フィラー、有機無機複合フィラーまたはイオン徐放性ガラス等の充填剤を配合することが好ましい。本発明の歯科用硬化性組成物は例示した充填剤を単独または2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0099】
上記の無機フィラーとしては、それらの化学的組成は特に限定されないが、具体例としては二酸化珪素、アルミナ、チタニア、シリカ-チタニア、シリカ-チタニア-酸化バリウム、シリカ-ジルコニア、シリカ-アルミナ、ランタンガラス、ホウケイ酸ガラス、ソーダガラス、バリウムガラス、ストロンチウムガラス、ガラスセラミック、アルミノシリケートガラス、バリウムボロアルミノシリケートガラス、ストロンチウムボロアルミノシリケートガラス、フルオロアルミノシリケートガラス、カルシウムフルオロアルミノシリケートガラス、ストロンチウムフルオロアルミノシリケートガラス、バリウムフルオロアルミノシリケートガラス、ストロンチウムカルシウムフルオロアルミノシリケートガラス等が挙げられる。特に歯科用グラスアイオノマーセメントやレジン強化型グラスアイオノマーセメント及びレジンセメント等に使用されているフルオロアルミノケイ酸バリウムガラス、フルオロアルミノケイ酸ストロンチウムガラス、フルオロアルミノケイ酸ガラス等も好適に使用できる。ここで言うフルオロアルミノケイ酸ガラスとは、酸化珪素及び酸化アルミニウムを基本骨格とし、非架橋性酸素導入のためのアルカリ金属を含む。さらに修飾・配位イオンとしてストロンチウムを含むアルカリ土類金属及びフッ素を有する。また、更なるX線不透過性を付与するためにランタノイド系列の元素を骨格に組み込んだ組成物である。このランタノイド系列元素は組成域により修飾・配位イオンとしても組成に組み込まれる。
【0100】
無機フィラーの中でも一次粒子の平均粒子径が0.1~50nmである無機微粒子を含むことができる。具体的にはアルミナ微粒子やシリカ微粒子が挙げられる。このような無機微粒子に配合は機械的特性の向上やレオロジー特性の発現が期待できる。さらには、シランカップリング剤などで疎水化されていることが好ましい。一次粒子径とは粉体を構成する一つの粒子(一次粒子)の直径を示す。ここで本発明における平均粒子径とは、例えばレーザー回折式粒度分布測定装置等によって測定された体積基準の粒度分布に基づいて算出された平均粒子径とすることができ、例えばレーザー回折式粒度測定機(マイクロトラックMT3300EXII:日機装社製)により測定することができる。その他、動的光散乱粒子径測定や、一次粒子が強く凝集して二次粒子を形成しているものに関しては電子顕微鏡写真を用いて一次粒子径を測定することができる。
【0101】
有機フィラーの具体例としては、ポリメチルメタクリレート、ポリエチルメタクリレート、メチルメタクリレート-エチルメタクリレート共重合体、エチルメタクリレート-ブチルメタクリレート共重合体、メチルメタクリレート-トリメチロールプロパンメタクリレート共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、塩素化ポリエチレン、ナイロン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート等のポリマーが挙げられる。
【0102】
有機無機複合フィラーとしては、例えば充填剤の表面を重合性単量体により重合被覆したもの、充填剤と重合性単量体を混合・重合させた後、適当な粒子径に粉砕したもの、あるいは予め重合性単量体に充填剤を分散させて乳化重合または懸濁重合させたもの、予め充填剤を重合性単量体及び溶媒に分散させて噴霧乾燥した後に重合させたもの、予め充填剤を溶媒に分散させて噴霧乾燥した後に重合性単量体を含侵させてから重合させたもの、などが挙げられるが、これらに何等限定するものではない。
【0103】
<(E1)表面処理塩基性充填剤>
本発明に用いることができる(E1)表面処理塩基性充填剤は、一般に歯科用複合材料に用いられている公知の充填剤を使用することができ、蒸留水40gおよびエタノール10gの混合溶液に対して充填剤を1.0g加え、1時間攪拌させた時の分散液のpHが7.5以上の充填剤を指し、好ましくは7.5~10.0の充填剤を指し、より好ましくはpHが7.7~9.0、さらに好ましくはpHが8.0~9.0を示すものである。
【0104】
本発明の歯科用硬化性組成物が(E1)表面処理塩基性充填剤を含むことで保存安定性の向上が見込まれる。重合開始剤として用いられる化合物と塩基性充填剤を長期間共存させた場合の保存安定性に課題があったが、本発明で用いる(E1)表面処理塩基性充填剤は事前に塩基性充填剤の表面を表面処理剤で処理することで、重合開始剤と共存した際の保存安定性が向上する。重合開始剤の中でも特に光酸発生剤や有機過酸化物といった化合物と共存した際に特に高い保存安定性が発現する。また、(E1)表面処理塩基性充填剤は適度な塩基性を有することから、例えば長期保存後に光酸発生剤や酸性基を有する重合性単量体などに由来する酸を中和すると予想され、これにより組成物の加水分解が抑制されることで良好な保存安定性が期待できるものと考えられる。良好な保存安定性は硬化前および硬化後の両方の形態で期待することができる。さらには、歯科用硬化性組成物の硬化体の周囲が酸性条件下である場合に酸を中和することができる酸中和能の発現が期待できる。エナメル質や象牙質から構成される歯質の脱灰は酸性条件下で進むことから、酸を中和することは、すなわち脱灰抑制効果が期待できる。
【0105】
塩基性充填剤の種類としては無機充填剤、有機充填剤、有機無機複合充填剤などがあげられるが、それらは単独の使用だけでなく、充填剤の種類に関係なく複数を組み合わせて使用することができる。
【0106】
塩基性充填剤として利用できる充填剤としては、特に制限されないが、好ましくは、周期律表の第2族~第13族の金属元素を含む酸化物あるいは水酸化物、フッ化物、炭酸塩、珪酸塩もしくはこれらの混合物、多価金属アルコキシド、多価金属水素化物、及びアルキル多価金属の少なくともいずれかから選択される化合物である。なお、前記多価金属化合物の価数としては、特に制限はなく、二価以上であればよい。
【0107】
代表的な塩基性充填剤を具体的に例示すると、酸化物としてはアルミナ、カルシア、マグネシア等、水酸化物としては水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化ストロンチウム等の水酸化物等、フッ化物としてはフッ化マグネシウム、フッ化カルシウム、フッ化バリウム、フッ化ストロンチウム、フッ化アルミニウム、フッ化チタン、フッ化ランタン、フッ化ジルコニウム、フッ化亜鉛等、炭酸塩としては炭酸マグネシウム、炭酸ストロンチウム等、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸アルミニウム、炭酸ランタン、炭酸イットリウム、炭酸ジルコニウム、炭酸亜鉛等、珪酸塩としてはカルシウムシリケート、アルミニウムシリケート、フルオロアルミノシリケートガラス、フルオロアルミノボロシリケートガラス、その他ケイ酸塩ガラス等が挙げられる。中でもストロンチウムおよび/またはカルシウムイオンを含むフルオロアルミノシリケートガラス、ストロンチウムおよび/またはカルシウムイオンを含むフルオロアルミノボロシリケートガラスが好ましく、その組成範囲はSiO2:15~35質量%、Al2O3:15~30質量%、SrO:20~45質量%、P2O5:0~15質量%、F:5~15質量%、Na2O:0~10質量%、B2O3:0~20質量%、CaO:0~10質量%である充填剤が貯蔵安定性の観点から好ましい。特に好ましくは上述の組成範囲においてAl2O3とSrOの合算が40~60質量%の充填剤である。Al2O3とSrOの合算が40質量%未満の場合、塩基性が高い状態を維持することができず色調安定性が低くなる場合があり、Al2O3とSrOの合算が60質量%より大きい場合、充填剤の塩基性が過大となる場合がある。
【0108】
前記多価金属アルコキシドにおける有機基としては、特に制限はなく、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、ペンチル、ヘキシル、シクロヘキシル、ヘプチル、2-エチルヘキシル、オクチル等が挙げられ、中でも、炭素数4以下のアルキル基が好ましい。前記アルキル多価金属におけるアルキル基としては、特に制限はなく、例えば、炭素数1~20のアルキル基が挙げられる。なお、これらは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0109】
前記多価金属アルコキシドの具体的な化合物としては、例えば、マグネシウムジエトキシド、カルシウムジイソプロポキシド、バリウムジイソプロポキシド、アルミニウムトリエトキシド、アルミニウムトリイソプロポキシド、ガリウムトリエトキシド、スカンジウムトリイソプロポキシド、ランタントリイソプロポキシド、イッテルビウムトリイソプロポキシド、イットリウムテトライソプロポキシド、セリウムテトライソプロポキシド、サマリウムテトライソプロポキシド、チタニウムテトラメトキシド、チタニウムテトラエトキシド、チタニウムテトライソプロポキシド、チタニウムテトラブトキシド、ジルコニウムテトライソプロポキシド、ハフニウムテトライソプロポキシド、タンタル(V)エトキシド、クロム(III)イソプロポキシド、モリブデン(V)エトキシド、タングステン(VI)イソプロポキシド、鉄(III)エトキシド、銅(II)エトキシド、亜鉛(II)エトキシド等が挙げられる。
【0110】
前記多価金属水素化物の具体的な化合物としては、例えば、水素化カルシウム、水素化アルミニウム、水素化ジルコニウム等が挙げられ、前記アルキル多価金属の具体的な化合物としては、例えば、ジエチルマグネシウム、トリメチルアルミニウム等が挙げられる。
【0111】
塩基性充填剤の形状は特に限定されず、不定形および球状の充填剤を使用することが出来る。また、塩基性充填剤の平均粒子径は、好ましくは0.01μm~50μm、さらに好ましくは0.1μm~30μm、さらに好ましくは、0.5μm~20μm、より好ましくは0.5μm~10μmの範囲の平均粒子径を有する。
【0112】
平均粒子径0.01μm~50μmの塩基性充填剤は、塩基性充填剤の原料となる無機粒子を湿式粉砕して得ることができる。湿式粉砕は特別の方法を必要とするものではなく業界で一般に使用されている方法を採用して行うことができる。例えば、原料無機粒子をボールミルや振動ミル等の容器駆動媒体ミル、アトライター、サンドグラインダー、アニラーミル、タワーミル等の粉砕媒体撹拌ミルなどを用いて微細化することができる。媒体としては水または水と水溶性有機溶媒の混合溶媒などが使用できる。水溶性有機溶媒としてはアルコール類やアセトンなどのケトン類、エーテル類などが挙げられる。これら水溶性有機溶媒を用いた場合、乾燥後の固化物の凝集力が弱まり、解砕が容易となる場合がある。湿式粉砕条件は、原料無機粒子の大きさや硬さ、仕込量、水または水性媒体の添加量、または粉砕機の種類等により異なるが、必要な無機微粒子の平均粒径に応じて粉砕運転時間も含め、適宜選ぶことができる。
【0113】
歯科用硬化性組成物中の(E)充填剤の配合量は、(A)重合性単量体の総量100質量部に対し10~1000質量部が好ましく、賦形性等を考慮する場合は400質量部未満であることが好ましい。充填剤の配合量が10質量部未満の場合は充填剤を配合した際の機械的強度向上やチキソトロピー性の発現効果が乏しくなる場合があり、1000質量部より多く配合する場合は組成物のペースト性状が硬くなるために、取り扱いが困難となる場合があるが、充填剤の種類や充填剤の表面処理条件によっては1000質量部以上含まれる場合もある。例えば、充填剤が高比重である場合や充填剤への表面処理剤の量が多い場合、または重合性単量体との親和性が良い表面処理剤を使用された場合などを指す。充填剤の配合量によらず本発明の組成物は効果を発現する。また、2剤以上の複数に分包された歯科用硬化性組成物の場合は、混和操作が必要であるために、(A)重合性単量体の総量100質量部に対し10~400質量部が好ましい。
【0114】
本発明の歯科用硬化性組成物中の(E1)表面処理塩基性充填剤の配合量は(A)重合性単量体の総量100質量部に対し10~500質量部が好ましく、20~500質量部未満であることが好ましい。10質量部未満である場合は保存安定性の向上効果が発現しない場合がある。500質量部より多く配合する場合は組成物のペースト性状が硬くなるために、取り扱いが困難となる場合がある。2剤以上の複数に分包された歯科用硬化性組成物の場合は、混和操作が必要であるために、(A)重合性単量体の総量200質量部に対し10~500質量部、より好ましくは10~400質量部が好ましい。
【0115】
<(F)表面処理剤>
(E)充填剤は重合性単量体との親和性、重合性単量体への分散性、硬化体の機械的強度及び耐水性を向上させることを目的に界面活性剤やポリマー、シランカップリング材に代表される(F)表面処理材で処理することができる。表面処理材及び表面処理方法は、特に限定されるものではなく、公知の方法が制限なく採用できる。
【0116】
充填剤の表面処理に用いられるシランカップリング材としては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(2-メトキシエトキシ)シラン、3-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3-クロロプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、8-(メタ)アクリロキシオクチルトリメトキシシラン、11-(メタ)アクリロキシウンデシルトリメトキシシラン、4,4-ジエトキシ-17-オキソ-3,16-ジオキサ-18-アザ-4-シライコサン-20-イル(メタ)アクリレート、2-メチル-2-((((11-(トリエトキシシリル)ウンデシル)オキシ)カルボニル)アミノ)プロパン-1,3-ジイルジ(メタ)アクリレート、4,4-ジエトキシ-17-オキソ-3,16,21-トリオキサ-18-アザ-4-シラトリコサン-23-イル(メタ)アクリレートあるいはヘキサメチルジシラザンが好ましい。また、シランカップリング材以外にも、チタネート系カップリング材、アルミネート系カップリング材を用いる方法により、充填剤の表面処理を行うことができる。
【0117】
充填剤の表面処理として使用されたシランカップリング材と(A)重合性単量体としてのシランカップリング材は区別して使用される。充填剤の表面処理として使用された重合性基を有するシランカップリング材は充填剤と反応しているためにガラスセラミックス等への接着性の発現が期待できないため、ガラスセラミックス等への接着性を付与するために(A)重合性単量体としてのシランカップリング材を配合する場合は表面処理剤とは区別して配合する。
【0118】
充填剤の表面処理に用いることのできる酸性ポリマーは、酸性基として、リン酸残基、ピロリン酸残基、チオリン酸残基、カルボン酸残基、スルホン酸基等の酸性基を有する重合性単量体の共重合体または単独重合体である。これら酸性基を有する重合性単量体としては、例えばアクリル酸、メタクリル酸、2-クロロアクリル酸、3-クロロアクリル酸、アコニット酸、メサコン酸、マレイン酸、イタコン酸、フマール酸、グルタコン酸、シトラコン酸、4-(メタ)アクリロイルオキシエトキシカルボニルフタル酸、4-(メタ)アクリロイルオキシエトキシカルボニルフタル酸無水物、5-(メタ)アクリロイルアミノペンチルカルボン酸、11-(メタ)アクリロイルオキシ-1,1-ウンデカンジカルボン酸、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンホスフェート、10-(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート、20-(メタ)アクリロイルオキシエイコシルジハイドロジェンホスフェート、1,3-ジ(メタ)アクリロイルオキシプロピル-2-ジハイドロジェンホスフェート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルリン酸、2-(メタ)アクリロイルオキシエチル-2’-ブロモエチルリン酸、(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルホスホネート、ピロリン酸ジ(2-(メタ)アクリロイルオキシエチル)、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンジチオホスホスフェート、10-(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンチオホスフェートなどが挙げられる。
【0119】
充填剤に対する表面処理材の処理量は処理前の充填剤100質量部に対して、0.1~40質量部が好ましく、1~30質量部がより好ましい。0.1質量部未満である場合、表面処理剤に期待される機械的物性の向上やペースト性状の改善などが顕著でない場合があり、40質量部を超える場合は充填剤に対する表面処理剤の量が多いために機械的物性の低下が生じる場合がある。
【0120】
<(F1)式(1)で示される表面処理剤及び/またはその縮合体 >
上述の(E1)表面処理塩基性充填剤は、(F1)式(1)で示される表面処理剤及び/またはその縮合体により表面処理される。
【0121】
即ち、本発明の歯科用硬化性組成物は、(F1)式(1)で示される表面処理剤及び/またはその縮合体にて表面処理された(E1)表面処理塩基性充填剤を含む。
[式(1)]
【化2】
(式中、MはSi、Ti、Zr、Alから選ばれる金属原子、XはH、OH、加水分解性基であり、互いに同一でも異なっても良い。MがSi、Ti、Zrである場合にnは4であり、MがAlである場合にnは3である。)
【0122】
(F1)式(1)で示される表面処理剤及び/またはその縮合体における加水分解性基とはアルコキシ基やハロゲン基のことを指し、具体的にはメトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、t-ブトキシ基、クロロ基が挙げられ、取り扱いの観点からアルコキシ基が好ましく、さらに好ましくはメトキシ基またはエトキシ基である。(F1)式(1)で示される表面処理剤及び/またはその縮合体にて表面処理された(E1)表面処理塩基性充填剤を使用することで、歯科用硬化性組成物に用いたときの保存安定性が向上する。
【0123】
(F1)式(1)で示される表面処理剤及び/またはその縮合体は充填剤への表面処理過程で130℃以上にすることが好ましい。130℃以上の高温にすることで保存安定性の向上が期待できる。これは塩基性充填剤と表面処理剤の反応が進行しやすくなるためと考えられる。一方で、130℃未満である場合は保存安定性の向上が十分でない場合がある。100℃未満の温度であっても数日単位の長時間温度に晒すことで歯科用硬化性組成物に配合した際の保存安定性の向上が期待できるが、製造に長期間必要となるために好ましくない。
【0124】
(F1)式(1)で示される表面処理剤及び/またはその縮合体は充填剤への表面処理過程で400℃以下で焼成することが好ましい。400℃を超過の高温にすることで歯科用硬化性組成物の硬化体を酸性水溶液に浸漬した際の酸中和能が十分に発現しない場合がある。口腔内環境が長期間酸性条件下である場合、歯質の脱灰が進行する。特に歯牙の修復部位においては顕著であり、このような場合は二次う蝕等が生じる場合がある。歯科用硬化性組成物における酸中和能とは歯科用硬化性組成物の周囲のpHが酸性条件下である場合において、その周囲のpHを上昇させることを指す。この酸中和能を測定する方法の具体例を述べると、直径15mm、厚み1mmの歯科用硬化性組成物の硬化体をpHが4.0である乳酸水溶液5mLに24時間浸漬した際のpHが4.5以上、さらに好ましくは5.0以上である場合を指す。酸中和能を有する歯科用硬化性組成物を用いることで歯牙の脱灰の抑制が期待できる。
【0125】
(F1)式(1)で示される表面処理剤及び/またはその縮合体は重合性基を有さない。重合性基を含む場合、130℃以上の高熱に長時間曝すことで充填剤の着色や歯科用硬化性組成物の特性に悪影響を及ぼす不純物の原因となり、従って良好な保存安定性が生じない場合がある。この傾向は有機基の中でも重合性基を有するもので顕著である。また、重合性基のような立体障害のある有機基を複数含む場合は充填剤の表面が均一に表面処理されない場合がある。一方で、有機基を含む加水分解性基に関しては充填剤表面へ残留する前に揮発成分として除かれるか、遊離成分として洗浄できるために問題にならない。
【0126】
本発明の(E1)表面処理塩基性充填剤を作製するために使用される(F1)式(1)で示される表面処理剤及び/またはその縮合体の中でも式(1)に該当するものの具体例を挙げると、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、テトラキス(2-エチルヘキシルオキシ)シラン、テトラフェノキシシラン、テトラクロロシラン、水酸化ケイ素(酸化ケイ素水和物)、ジルコニウムテトラ-n-ブトキシド、ジルコニウムテトラ-t-ブトキシド、ジルコニウムテトラプロポキシド、オルトチタン酸テトラエチル、オルトチタン酸テトライソプロピル、ジクロロチタニウムジイソプロポキシド、オルトチタン酸テトラブチル、オルトチタン酸テトライソブチル、オルトチタン酸テトラキス(2-エチルヘキシル)、アルミニウムエトキシド、アルミニウムイソプロポキシド、アルミニウム-sec-ブトキシド、アルミニウム-tert-ブトキシド等が例示でき、より好ましくはテトラメトキシシランおよびテトラエトキシシランである。
【0127】
さらに、(F1)式(1)で示される表面処理剤及び/またはその縮合体の中でも、例えばテトラメトキシシランまたはテトラエトキシシランを部分加水分解して縮合された部分縮合物である。具体例としてはテトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、テトラキス(2-エチルヘキシルオキシ)シラン、トリメトキシクロロシラン、トリエトキシクロロシラン、トリイソプロポキシクロロシラン、トリメトキシヒドロキシシラン、ジエトキシジクロロシラン、テトラフェノキシシラン、テトラクロロシラン、水酸化ケイ素(酸化ケイ素水和物)、ジルコニウムテトラ-n-ブトキシド、ジルコニウムテトラ-t-ブトキシド、ジルコニウムテトラプロポキシド、オルトチタン酸テトラエチル、オルトチタン酸テトライソプロピル、ジクロロチタニウムジイソプロポキシド、オルトチタン酸テトラブチル、オルトチタン酸テトライソブチル、オルトチタン酸テトラキス(2-エチルヘキシル)、アルミニウムエトキシド、アルミニウムイソプロポキシド、アルミニウム-sec-ブトキシド、アルミニウム-tert-ブトキシド等の部分縮合体が例示でき、これらの化合物は単独または組み合わせて縮合させることができる。部分縮合体とは式(1)で示される表面処理剤が加水分解および/または脱水縮合することで縮合体を形成する際に、表面処理剤が有する結合全てが共用結合を形成するのではなく、部分的に縮合反応がなされる事で、十分に結合可能な加水分解性基、OH基、Hをのいずれかを有している状態を指す。さらに、縮合体は金属原子と結合する官能基の全てまたは一部がOH基があっても良い。縮合体が加水分解性基を有さない場合、揮発性物質の発生を低減させることができる。
【0128】
さらには、これらのカップリング剤は皮膜形成時に(F1)式(1)で示される表面処理剤及び/またはその縮合体と併用して重合性基を有さないオルガノシラン化合物も添加することができる。具体的にオルガノシラン化合物を例示すると、メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、メトキシトリプロピルシラン、プロピルトリエトキシシラン、メチルトリクロロシランなどが挙げられる。特に好ましくはメチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシランである。これらの化合物は単独または組み合わせて使用することができる。しかし、これらはカップリング剤縮合体皮膜内において有機基が存在するため、カップリング剤縮合体皮膜形成時のひずみを受ける可能性があり、機械的強度に問題が生じる場合がある。また、カップリング剤縮合体皮膜形成時(F1)式(1)で示される表面処理剤及び/またはその縮合体と併用して、他の金属のアルコキシド化合物、ハロゲン化物、水和酸化物、硝酸塩、炭酸塩も添加することができる。
【0129】
塩基性充填剤を上記化合物で表面処理することで、塩基性充填剤表面にカップリング材が縮合した皮膜が形成される。表面処理方法は例えば次のようにして行われる。所望の平均粒径に微粉砕または解砕された時点で、得られた塩基性充填剤の水性分散体中に、(F1)式(1)で示される表面処理剤及び/またはその縮合体を混合し、これを系中で加水分解または部分加水分解に次いで縮合、または分散させる。上記の皮膜形成方法は、カップリング剤の加水分解及び縮合と塩基性充填剤表面への皮膜形成を同一系内で同時進行して行っているが、カップリング剤の加水分解及び縮合を別の系で行い、低縮合カップリング剤を生成し、それを湿式粉砕工程または湿式分散工程で得られた塩基性充填剤の水性分散体に混合する皮膜形成方法の方が効率よく塩基性充填剤表面に皮膜を形成することが可能である。より好ましくは市販の低縮合カップリング剤を用い、低縮合生成過程を経ず混合する皮膜形成方法である。この方法が好ましい理由としては、単量体のカップリング剤を用いる場合は皮膜形成工程で多量の水が存在することから、縮合が3次元的に起こり、自己縮合が優位に進行し、均一な皮膜を塩基性充填剤表面に形成することができないと考えられる。
【0130】
一方、低縮合カップリング剤を用いる場合は、ある長さの主鎖を有したユニット単位で塩基性充填剤表面に皮膜を均一に形成することが可能と考えられる。またこの低縮合カップリング剤の形状は特に制限はないが、3次元体のものよりも直鎖状の方が良く、またその重合度においても長いものほど縮合反応性が劣り、塩基性充填剤表面へのカップリング剤縮合体皮膜の形成が悪くなることから好ましい重合度は2~100の範囲であり、つまり、2~100分子のカップリング剤の部分縮合体が好ましい。具体的には、(F1)式(1)で示される表面処理剤及び/またはその縮合体は、2~100分子のテトラアルコキシシランの部分縮合体または2~100分子のテトラアルコキシシランの部分縮合体のアルコキシ基の全てまたは一部がOH基で置換されたポリシロキサンであることが好ましい。さらに好ましくは2~10分子の部分縮合体が好ましく、その時の分子量は500~1000の範囲である。また別の系において直鎖状の低縮合カップリング剤を調整する場合に関しては、カップリング剤の加水分解及び縮合が部分的に進行するように少量の水で行う必要があり、その時酸、アルカリまたは他のゾル-ゲル法に用いられる触媒を用いることにより可能である。これにより系はカップリング剤縮合体が分散した水性媒体中に平均粒径0.01~10μmの塩基性充填剤が会合することなく微分散した状態となる。
【0131】
上記水性分散体中でのカップリング剤の加水分解または部分加水分解は比較的低速の撹拌状態下で行われ温度は室温から100℃の範囲、より好ましくは室温から50℃の範囲で撹拌時間は通常数分から数十時間、より好ましくは30分~4時間の範囲で行われる。撹拌は特別な方法を必要とするものではなく、一般業界で通常に使用されている設備を採用して行うことができる。例えば万能混合撹拌機やプラネタリーミキサー等のスラリー状のものを撹拌できる撹拌機が挙げられる。撹拌温度は水性媒体の沸点以下の温度であれば問題はない。撹拌時間はカップリング剤または低縮合カップリング剤の種類および添加量、無機微粒子の種類、粒子径及びその水性分散体中に占める割合、水性媒体の種類及び水性分散体中に占める割合により、縮合して形成するゲル化速度が影響を受けることから、調節しなければならなく、またゲルが形成されるまで行わなければならない。撹拌速度は速すぎるとゲル構造が崩れ、均一な皮膜が形成されないため、低速で行う必要がある。ここでいう「ゲル」とは縮合が生長して水性媒体を吸収して膨潤したクリーム状またはゼリー状のことであり、「ゲル化速度」とは、その状態があらわれる速さのことを示す。またゲル化速度を速める目的により酸及びアルカリ、有機金属化合物、金属アルコキシド、金属キレート化合物等のゾル-ゲル触媒の添加はゲル化速度を速める意味で好ましい態様である。具体的な触媒としては例えば塩酸、酢酸、硝酸、ギ酸、硫酸、リン酸等の無機酸、パラトルエンスルホン酸、安息香酸、フタル酸、マレイン酸等の有機酸、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、アンモニア等の塩基性触媒が挙げられる。また触媒として用いた酸またはアルカリはゲル化速度の調整だけでなく、pH調整剤としての無機微粒子表面の帯電にも大きく関与して、均一な皮膜を形成できる。しかし酸または塩基は無機微粒子の素材に影響を与えるため、適宜使用を選択する必要がある。また本工程にアルコールを加えることにより乾燥工程において無機微粒子の凝集性を軽減させ、より解砕性を向上さす多大な効果がある。好ましいアルコールとしては炭素数2~10のアルコール類であるが、炭素数が10以上のアルコールの添加は沸点が高く溶媒を乾燥除去するために長時間を要する。具体的なアルコールとしては、エチルアルコール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール、t-ブチルアルコール、iso-ブチルアルコール、n-ペンチルアルコール、iso-アミルアルコール、n-ヘキシルアルコールn-ヘプチルアルコール、n-オクチルアルコール、n-ドデシルアルコールが挙げられ、より好ましくは炭素数2~4のアルコール、例えばエチルアルコール、n-プロピルアルコール、iso-プロピルアルコールが好適に使用される。上記アルコールの添加量は水に対して5~100質量%、好ましくは5~20質量%である。なおこの添加量は湿式粉砕工程または湿式分散工程時に含まれるアルコール量も合算した添加量である。添加量が100質量%以上になると乾燥工程が複雑になる等の問題が生じる。また塩基性充填剤含有量は水性媒体に対して25~100質量%の範囲であり、好ましくは30~75質量%の範囲である。含有量が100質量%を超える場合は縮合によるゲル化速度が速く、均一な皮膜を形成しにくく、また25質量%より少ない場合、撹拌状態下で塩基性充填剤が沈降したり水性分散体中で相分離が発生したりする。またカップリング剤の添加量は塩基性充填剤の粒子径に依存するが、塩基性充填剤に対してSiO2換算で0.1~10質量%の範囲であり、好ましくは0.1~4質量%である。添加量が0.1質量%以下の場合は、皮膜形成の効果がなく、一次粒子まで解砕できず凝集したものになり、10質量%より大きい場合は乾燥後の固化物が硬すぎて解砕することができない。
【0132】
次にこのようなゲル状態にある系を、乾燥し水性媒体を除去して固化させる。乾燥は熟成と焼成の2段階からなり、前者はゲル構造の生長と水性媒体の除去を、後者はゲル構造の強化を目的としている。前者はゲル構造にひずみを与えず、且つ水性媒体を除去することから静置で行う必要があり、箱型の熱風乾燥機等の設備が好ましい。熟成温度は室温から100℃の範囲、より好ましくは40~80℃の範囲である。温度がこの範囲より低い場合は、水性媒体除去が不十分であり、この範囲より高い場合は急激に揮発し、ゲル構造に欠陥が生じたり、塩基性充填剤表面から剥離したりする恐れがある。熟成時間は乾燥機等の能力等にもよるため、水性媒体が十分除去できる時間ならば何ら問題はない。一方焼成工程は昇温と係留に分かれ、前者は目標温度まで徐々に長時間かけて昇温する方がよく、急激な昇温はゲル分散体の熱伝導が悪いため、ゲル構造内にひずみが生じる可能性がある。後者は一定温度での焼成であり、その時間は1時間~100時間、好ましくは2時間~75時間、より好ましくは5時間~50時間である。この時間は長いほど効果があるが、ある一定時間以上は効果が認められない。焼成温度は100~500℃の範囲であり、好ましくは100~450℃、より好ましくは130~400℃である。この温度は塩基性充填剤の素材に影響を与えない程度に、また多孔質のゲル構造を無孔化しない程度に適宜選択しなければならない。以上のように乾燥によりゲルから水性媒体を除去し、収縮した固化物が得られる。固化物は塩基性充填剤の凝集状態ではあるが、単なる塩基性充填剤の凝集物ではなく、個々の微粒子の境界面には縮合により形成された皮膜が介在している。したがって次の工程としてこの固化物を皮膜形成前の塩基性充填剤相当に解砕すると、その表面が被覆された個々の無機微粒子、即ち本発明の無機フィラーが得られる。ここで「皮膜形成前の塩基性充填剤相当に解砕する」とは、塩基性充填剤に解砕することであり、元の無機微粒子と異なる点は個々の無機微粒子がカップリング剤縮合体で被覆されていることである。ただし、問題ない程度なら2次凝集物を含んでいてもよい。固化物の解砕は、せん断力または衝撃力を加えることにより容易に可能であり、解砕方法としては、例えばヘンシェルミキサー、クロスロータリミキサー、スーパーミキサー等を用いて行いことができる。
【0133】
塩基性充填剤は、(F1)式(1)で示される表面処理剤及び/またはその縮合体にて表面処理を行った後に、重合性基を有するシランカップリング剤及び/または酸性ポリマーで表面処理することが好ましい。重合性基を有するシランカップリング剤にて表面処理することで、重合性単量体との共重合することができるために機械的強度の向上が期待できる。また、酸性ポリマーで表面処理することで、イオンの放出量が上昇するために酸中和能が向上する。
【0134】
(E1)表面処理塩基性充填剤を、重合性基を有するシランカップリング剤により処理することで、重合性単量体に対する親和性、重合性単量体への分散性、硬化体の機械的強度および耐水性を向上させる効果も発現する。重合性基を有するシランカップリング剤は充填剤表面のシラノール基とシラノール結合を形成するが、本発明の塩基性充填剤は(F1)式(1)で示される表面処理剤及び/またはその縮合体にて表面処理を行うことで充填剤表面にカップリング剤縮合体被膜が形成されている。特に、(F1)式(1)で示される表面処理剤及び/またはその縮合体がシランカップリング剤である場合は、重合性基を有するシランカップリング材の反応点であるシラノール基が多数導入されている。そのため、より多くの重合性基を有するシランカップリング材を充填剤表面に反応させることができるため、塩基性充填剤の重合性単量体に対するヌレ性を向上させ、歯科用硬化性組成物中により多くの(E1)表面処理塩基性充填剤を配合することが可能となり、歯科用硬化性組成物の機械的強度を向上させる。
【0135】
重合性基を有するシランカップリング剤の表面処理方法は、特に限定されるものではなく、公知の方法が制限なく採用できる。塩基性充填剤における表面処理材による処理量は、塩基性を低減させない観点から処理前の充填剤100質量部に対して、0.01~30質量部が好ましく、0.5~20質量部がより好ましい。
【0136】
塩基性充填剤が酸反応性元素を含む場合には、酸性ポリマーにより表面処理することで、塩基性充填剤に含まれる酸反応性元素が酸性ポリマーとセメント反応を起こし、塩基性充填剤表面にセメント反応相を形成させることもできる。塩基性充填剤の表面にはカップリング剤縮合体の被覆層が存在するが、このカップリング剤縮合体被覆層は多孔質のゲル構造であるため、酸性ポリマーはカップリング剤縮合体被覆に浸透し、拡散しながら塩基性充填剤表面まで到達する。充填剤表面に達した酸性ポリマーは酸-塩基反応を起こし、セメント層を形成する。このセメント層が存在することで、塩基性充填剤から放出されるイオン量の増大、それに伴った酸中和能の向上や塩基性充填剤周囲のイオン量が多い場合におけるイオンの取り込みなどが期待できる。
【0137】
酸反応性元素として、より好ましくは、周期律表第I族、第II族、第III族に属する金属元素であり、特に好ましくはナトリウム、カリウム、カルシウム、ストロンチウム、ランタン、アルミニウム等が挙げられる。これら塩基性充填剤を具体的に例示すると、アルミニウムシリケート、酸化アルミニウム、種々のガラス類(溶融法によるガラス、気相反応により生成したガラス、ゾルゲル法による合成ガラスなどを含む)、フッ化ストロンチウム、炭酸カルシウム、カオリン、雲母、硫酸アルミニウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、リン酸カルシウム、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、ゼオライト、ヒドロキシアパタイト、チッ化アルミニウム等が挙げられる。特に好ましくはガラス類である。ガラス類はシリカ化合物に較べ硬度が低く、光透過性に優れること、またX線を遮断する元素やフッ素を含むことが可能であること等から、歯科組成物として必要な機能を付与できる点で好ましい。最も好ましくはストロンシウム、バリウム、ランタン等の重金属およびフッ素を含むアルミナシリケートガラス、ボロシリケート、アルミナボレート、ボロアルミナシリケートガラスである。
【0138】
酸-塩基反応が速すぎると、セメント相の形成が不均一となるため、表面処理に用いることのできる酸性ポリマーの中でも、酸反応性元素との酸-塩基反応が比較的遅い、α-β不飽和カルボン酸の単独重合体または共重合体が好ましい。より好ましくはアクリル酸重合体、アクリル酸-マレイン酸共重合体、アクリル酸-イタコン酸共重合体である。
【0139】
本発明の塩基性充填剤がフッ素を含有する場合には、歯科用硬化性組成物はフッ素徐放性能を付与することができる。フッ素を含有する塩基性充填剤として、例えば、フッ化ナトリウム、フッ化ストロンチウム、フッ化ランタン、フッ化イッテルビウム、フッ化イットリウム、カルシウム含有フルオロアルミナシリケートが用いられる。また本発明の無機フィラーがX線造影性能を有するためには、芯となる塩基性充填剤が重金属を含有する必要があり、この場合には塩基性充填剤として、例えば、フッ化ストロンチウム、フッ化ランタン、フッ化イッテルビウム、フッ化イットリウム、ランタン含有フルオロアルミナシリケート、ストロンチウム含有フルオロアルミナシリケートが用いられる。
【0140】
塩基性充填剤の表面処理に用いる酸性ポリマーには、酸性基を有する重合性単量体に加えて酸性基を含まない重合性単量体を、塩基性充填剤とのセメント反応相の形成に支障をきたさない範囲で含んでいてもよい。
【0141】
塩基性充填剤に酸性ポリマーを反応させる方法は、乾式流動型の撹拌機であれば業界で一般に使用されている設備を用いることができ、ヘンシルミキサー、スーパーミキサー、ハイスピードミキサー等が挙げられる。カップリング剤縮合体で被覆された酸反応性元素を含む塩基性充填剤への酸性ポリマーの反応は、単に塩基性充填剤に酸性ポリマー溶液を含浸等により接触させることにより行うことができる。例えばカップリング剤縮合体で被覆された塩基性充填剤を乾式流動させ、その流動させた状態で上部から酸性ポリマー溶液を分散させ、十分撹拌するだけでよい。このとき酸性ポリマー溶液の分散法は特に制限はないが、均一に分散できる滴下またはスプレー方式がより好ましい。また反応は室温付近で行うことが好ましく、温度が高くなると酸反応性元素と酸性ポリマーの反応が速くなり、セメント相の形成が不均一になる。
【0142】
反応後熱処理を行うことにより、セメント反応相内の水分を除去させることが好ましい。セメント反応相内に水分が残存すると強度的に不利となるが、本発明の塩基性充填剤はカップリング剤縮合体皮膜がカバーして強化しているため機械的強度の低下が抑制される。酸性ポリマー処理後の熱処理方法は、特に限定されず、公知の一般的な方法で行うことができる。熱処理に使用する設備は、箱型の熱風乾燥機等や、均一な加熱が可能な回転式熱処理装置等が好ましい。熱処理温度は室温から200℃の範囲、より好ましくは40~150℃の範囲である。温度がこの範囲より低い場合は、水性媒体除去が不十分であり、この範囲より高い場合は酸性ポリマーの有機層が分解や変色する恐れがある。熱処理時間は乾燥機等の能力等にもよるため、水性媒体が十分除去できる時間ならば何ら問題はない。熱処理後、熱処理物の解砕は剪断力または衝撃力を加えることにより容易に可能であり、解砕方法としては上記反応に用いた設備などで行うことができる。
【0143】
反応に用いる酸性ポリマー溶液の調製に用いる溶媒は、酸性ポリマーが溶解する溶媒であれば何等問題はなく、水、エタノール、アセトン等が挙げられる。これらの中で特に好ましいのは水であり、これは酸性ポリマーの酸性基が解離し、芯である塩基性充填剤の表面と均一に反応することができる。一方他の溶媒は芯である塩基性充填剤の表面との反応が不十分であり、残存未反応酸性基があるために、この塩基性充填剤を歯科用硬化性組成物に配合した場合、重合性単量体の重合阻害や、硬化体の吸水により材料劣化等を引き起こす原因になる。
【0144】
酸性ポリマー溶液中に溶解したポリマーの重量平均分子量は2000~50000の範囲であり、より好ましくは5000~40000の範囲にある。2000未満の重量平均分子量を有する酸性ポリマーはセメント反応相の強度が低くなり易く、材料強度を低下さす傾向にある。50000を超える重量平均分子量を有する酸性ポリマーは酸性ポリマー溶液の粘性が上がり、カップリング剤縮合体皮膜(多孔質)を拡散しにくく、残存未反応酸性基が残り、悪影響を与える傾向にある。また酸性ポリマー溶液中100質量部に占める酸性ポリマー濃度は3~25質量部の範囲が好ましく、より好ましくは8~20質量部の範囲である。酸性ポリマー濃度が3質量部未満になると上記で述べたセメント相の強度が弱くなると共に、水の影響により表面処理塩基性充填剤の流動性が悪くなり、均一なセメント反応相が形成されない。また酸性ポリマー濃度が25質量部を超えるとカップリング剤縮合体皮膜(多孔質)を拡散しにくくなる反面、芯の塩基性充填剤に接触すると酸-塩基反応が速く、反応中に硬化が始まり凝集が起こる等の問題が生じる。また表面処理塩基性充填剤に対する酸性ポリマー溶液の添加量は6~40質量部の範囲が好ましく、より好ましくは10~30質量部である。この添加量で換算するとカップリング剤縮合体被覆された塩基性充填剤に対する酸性ポリマー量は1~7質量部、また水量は10~25質量部の範囲が最適値である。
【0145】
この反応は芯の塩基性充填剤の表面積に影響を受け、表面積が小さいと酸-塩基反応は遅く、大きくなると反応は速くなる。つまり粒度分布が重要であり、単分散の粒度分布を有する塩基性充填剤はセメント反応相が同時に起こる可能性があるため、むしろ酸性ポリマーの分子量分布は多分散である方が逐次的に反応が起こり、効率よくかつ均一にセメント反応相を形成できると考えられる。また最外殻のカップリング剤縮合体皮膜が存在することで、酸性ポリマーがカップリング剤縮合体皮膜の表面に到達し、多孔質中を拡散して芯である塩基性充填剤表面に到達するまでの時間をコントロールしており、これにより均一なセメント反応相を形成できる。カップリング剤縮合体皮膜が存在しない場合は、塩基性充填剤表面に酸性ポリマーが接触すると同時に反応が始まり、粒子間のブリッジを起こすが、それも防止している。
【0146】
ペースト中における(E1)表面処理塩基性充填剤の配合量は、(A)重合性単量体100質量部に対して10~400質量部が好ましく、さらに好ましく50~400質量部、さらに好ましくは100~400質量部である。塩基充填剤の配合量が10質量部未満の場合、保存安定性の向上が発現しない場合があり、400質量部より多く配合する場合は組成物のペースト性状が硬く取り扱いが困難となる場合があるが、例えば充填剤が多量の表面処理剤で表面処理されている場合は400質量部以上を配合した場合であっても良好なペースト性状となる。
【0147】
塩基性充填剤は上述の定義を満たす塩基性充填剤を単独で用いても良いし、あるいは、2種類以上の塩基性充填剤を併用しても良い。また、本発明の歯科用硬化性組成物には、非塩基性充填剤を配合しても良い。
【0148】
本発明において非塩基性充填剤としては、上述の好ましい塩基性充填剤の定義に基づくところの分散液のpHが7.5未満のものを指し、非塩基性充填剤の種類としては無機充填剤、有機充填剤、有機無機複合充填剤などがあげられるが、それらは単独の使用だけでなく、充填剤の種類に関係なく複数を組み合わせて使用することができる。例えば、シリカ、シリカ-ジルコニアといったシリカを主成分とした無機化合物やトリフルオロイッテルビウムが挙げられる。
【0149】
非塩基性充填剤についても塩基性充填剤と同様に重合性単量体との親和性、重合性単量体への分散性、硬化体の機械的強度および耐水性を向上させることを目的にシランカップリング材に代表される表面処理材で処理することができる。
【0150】
非塩基性充填剤の形状は特に限定されず、不定形および球状の充填剤を使用することが出来る。好ましくは、非塩基性充填剤は、0.01μm~50μmの範囲の平均粒子径を有する。
【0151】
本発明の歯科用硬化性組成物は実質的に水を含まないことができる。水を含む場合、保存安定性の低下や強度の低下が生じる場合がある。実質的に水を含むとは、原材料中に不純物や副生成物などとして含まれる場合や製造工程中に意図せず含まれる場合を除いた、歯科用硬化性組成物に意図して水を配合する場合を指す。本発明の歯科用硬化性組成物は原材料を溶解させる目的で水を含むことができるが、このような場合であっても歯科用硬化性組成物内に水が含まれることは好ましくない。一方で、製造工程中に加熱または減圧などによって、最終的な組成物から水を除去できるのであれば歯科用硬化性組成物の強度に影響を与えないことが期待できる。本発明において実質的に水を含まないとは歯科用硬化性組成物100質量部内に含まれる水が1質量部未満、好ましくは0.1質量部未満である場合である場合を指す。
【0152】
<その他の成分>
また、本発明の歯科用硬化性組成物には、本発明の効果を阻害しない範囲であれば、上記の(A)~(E)の成分以外の成分を含んでもよい。例えば、フュームドシリカに代表される賦形剤、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系の紫外線吸収剤、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、2、5-ジターシャリーブチル-4-メチルフェノール等の重合禁止剤、α-アルキルスチレン化合物、n-ブチルメルカプタン、n-オクチルメルカプタンなどのメルカプタン化合物、リモネン、ミルセン、α-テルピネン、β-テルピネン、γ-テルピネン、テルピノレン、β-ピネン、α-ピネンなどのテルペノイド系化合物等の連鎖移動材、アミノカルボン酸系キレート剤、ホスホン酸系キレート剤等の金属補足材、変色防止剤、抗菌材、着色顔料、水及び水と任意の比率で混和することが可能な溶媒、その他の従来公知の添加剤等の成分を必要に応じて任意に添加できる。
【0153】
本発明の歯科用硬化性組成物を調製する方法は特に制限されるものではない。歯科用硬化性組成物の一般的な製造方法として、予め(A)重合性単量体と(BC)重合開始剤を混合したマトリクスを作製した後、このマトリクスと(E)充填剤を混練し、真空下で気泡を除去して均一なペースト状に調製する方法が挙げられる。本発明においても、上記の製造方法で何ら問題なく、製造することができる。
【0154】
本発明の歯科用硬化性組成物は歯科用接着材、歯科用コンポジットレジン、歯科用支台築造材料、歯科用レジンセメント、歯科用コーティング材、歯科用小窩裂溝封鎖材、歯科用マニキュア材、歯科用動揺歯固定接着材、歯科用硬質レジン、歯科切削加工用材料、歯科用3Dプリンタ用材料として応用される。
【0155】
<1剤型歯科用硬化性組成物>
本発明を1剤型歯科用硬化性組成物に用いる場合、特に歯科材料としては歯科用接着材、歯科用コンポジットレジン、歯科用支台築造材料、歯科用レジンセメント、歯科用コーティング材、歯科用小窩裂溝封鎖材、歯科用マニキュア材、歯科用動揺歯固定接着材、歯科切削加工用材料、歯科用3Dプリンタ用材料に使用することが好ましく、特に好ましくは歯科用接着材、歯科用コンポジットレジン、歯科用支台築造材料、歯科用レジンセメント、歯科用コーティング材、歯科用小窩裂溝封鎖材、歯科用マニキュア材、歯科用動揺歯固定材に使用することが好ましい。1剤型の歯科用硬化性組成物である場合、テクニカルエラーが少なく、気泡の混入リスクがすくなくなることが期待できる。
【0156】
<2剤型歯科用硬化性組成物>
本発明を2剤型歯科用硬化性組成物に用いる場合、特に歯科材料としては歯科用接着材、歯科用コンポジットレジン、歯科用支台築造材料、歯科用レジンセメント、歯科用コーティング材、歯科用小窩裂溝封鎖材、歯科用マニキュア材、歯科用動揺歯固定接着材、歯科切削加工用材料、歯科用3Dプリンタ用材料に使用することが好ましく、特に好ましくは歯科用コンポジットレジン、歯科用支台築造材料、歯科用レジンセメントに使用することが好ましい。2剤型歯科用硬化性組成物は第一ペースト及び第二ペーストに分けられた2剤を使用する直前に練和することで用いる。練和は第一ペースト及び第二ペーストを0.8~1.2:1.0の体積比または0.8~1.2:1.0の質量比、好ましくは0.9~1.1:1.0、さらに好ましくは等体積比で行う。練和の方法はスパチュラ等を用いた手動での練和、専用の振盪装置やスタティックミキサーを介した自動練和など公知の方法で行うことができる。2剤に成分を分けることができるために、同一のペーストに配合できないような化合物を分けて配合することができるために、貯蔵安定性に優れる。
【実施例0157】
以下に本発明の実施例について具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0158】
実施例及び比較例で使用した材料とその略称を以下に示す。
[(A)重合性単量体]
<(A1)酸性基を有する重合性単量体に該当しない重合性単量体>
・Bis-GMA:2,2-ビス[4-(3-メタクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ)フェニル]プロパン
・2.6E:エトキシ基の平均付加モル数が2.6である2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン
・UDMA:N,N-(2,2,4-トリメチルヘキサメチレン)ビス[2-(アミノカルボキシ)エタノール]メタクリレート
・TEGDMA:トリエチレングリコールジメタクリレート
・GDMA:グリセリンジメタクリレート
・HEMA:2-ヒドロキシエチルメタクリレート
・NPG:ネオペンチルグリコールジメタクリレート
・MOTMS:8-メタクリルオキシオクチルトリメトキシシラン
・MPTMS:3-メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン
・MDDT:10-メタクリロキシデシル-6,8-ジチオオクタネート
【0159】
<(A1)酸性基を有する重合性単量体>
・MDP:10-メタクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート
・MHPA:6-メタクリロキシヘキシルフォスフォノアセテート
・MET:トリメリット酸4-メタクリロイルオキシエチル
・META:トリメリット酸4-メタクリロイルオキシエチル無水物
・AET:トリメリット酸4-アクリロイルオキシエチル
【0160】
[(B)光重合開始剤]
<(B1)光増感剤>
・CQ:カンファーキノン
・MAPO:ジフェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド
・BAPO:フェニルビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド
【0161】
<(B2)光酸発生剤>
<<少なくとも1つ以上のHがF置換された有機基及びP、B、Al、S、Gaのいずれか1つ以上の原子を有するアニオンと、アリールヨードニウムカチオンとの塩>>
・B2-1:ビス(4-tert-ブチルフェニル)ヨードニウムノナフルオロブタンスルホネート
【化3】
・B2-2:ビス(4-tert-ブチルフェニル)ヨードニウムトリス(ペンタフルオロプロピル)トリフルオロホスフェート
【化4】
・B2-3:p-クメニル(p-トリル)ヨードニウムトリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロホスフェート
【化5】
・B2-4: ビス(4-n-ドデシルフェニル)ヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート
【化6】
・B2-5:ビス[4-(tert-ブチル)フェニル]ヨードニウムテトラ(ノナフルオロ-tert-ブトキシ)アルミン酸塩
【化7】
・B2-6:ビス(4-イソプロピルフェニル)ヨードニウムテトラ(ペンタフルオロフェニル)ガレート
【化8】
・B2-7: 4-クメニル(4-トリル)ヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボラート
【化9】
<<有機基及びP、B、Al、S、Gaのいずれか1つ以上の原子を有するアニオンと、アリールヨードニウムカチオンとの塩>>
・B2-11:ビス(4-tert-ブチルフェニル)ヨードニウム-p-トルエンスルホナート
【化10】
<<有機基及びP、B、Al、S、Gaのいずれか1つ以上の原子を有するアニオンと、アリールヨードニウムカチオンとの塩ではない光酸発生剤>>
・B2-12:ビス(4-tert-ブチルフェニル)ヨードニウムヘキサフルオロホスファート
【化11】
・B2-13:2,4,6,-トリス(トリクロロメチル)-1,3,5-トリアジン
【化12】
・B2-14:ジフェニルヨードニウム-2-カルボキシラート一水和物
【化13】
【0162】
[(C)化学重合開始剤]
<(C1)有機過酸化物>
・CHP:クメンヒドロペルオキシド
・TMBH:1,1,3,3-テトラメチルブチルヒドロペルオキシド
・TPE:1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート
・BPO:過酸化ベンゾイル
【0163】
[(D)重合促進剤]
<脂肪族第3級アミン化合物>
・MDEOA:メチルジエタノールアミン
・TEA:トリエタノールアミン
・TIPA:トリイソプロパノールアミン
・DMAEMA:N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート
・DIAEMA:N,N-ジイソプロピルアミノエチルメタクリレート
・TBA:トリベンジルアミン
・DBGE:N,N-ジベンジルグリシンエチル
・DBAE:ジベンジルアミノエタノール
・DBMA:ジベンジルメチルアミン
<芳香族第3級アミン化合物>
・DMBE:N,N-ジメチルアミノ安息香酸エチル
・DEPT:N,N-ジ(2-ヒドロキシエチル)-p-トルイジン
・DHPT:N,N-ジ(2-ヒドロキシプロピル)-p-トルイジン
<有機金属化合物>
・SnL:ジオクチル-錫-ジラウレート
・CAA:アセチルアセトン銅
・VOA:バナジルアセチルアセトナート
<その他の重合促進剤>
・BTU:N-ベンゾイルチオ尿素
・PTU:2―ピリジルチオ尿素
・PTSA:p-トルエンスルフィン酸ナトリウム
・TMBA:トリメチルバルビツール酸ナトリウム塩
・KPS:ペルオキソ二硫酸カリウム
[紫外線吸収剤]
・BT:2-(2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール
[重合禁止剤]
・BHT:2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール
・MeHQ:p-メトキシフェノール
[蛍光剤]
・FA:2,5-ジヒドロキシテレフタル酸ジエチル
【0164】
[(E)充填剤]
歯科用硬化性組成物の調製に用いた各充填剤の製造方法を以下に示す。
充填剤の製造には表1の原料ガラス(G1~G7)を使用した。原料ガラスのpHは蒸留水40gおよびエタノール10gの混合溶液に対して充填剤を1.0g加え、1時間攪拌させた時の分散液のpHを測定した。
【0165】
【0166】
[充填剤E1の作製]
(ポリシロキサン処理)
原料ガラスG1:100.0gに対して、シラン化合物の低縮合物「MKCシリケートMS56S」(SiO2含有量56.0質量%、重合度2~100、三菱化学社製)を1.5g添加し、約90分間撹拌混合した。所定時間混合後、得られた処理スラリーを熱風乾燥機中で、50℃で40時間熟成した後、150℃まで昇温して6時間係留し、それから冷却させて熱処理物を得た。得られた熱処理物をヘンシェルミキサー中に入れ、1800rpmで5分間解砕を行った。解砕後流動性の良い、表面がポリシロキサンで被覆されたポリシロキサン処理物を得た。
(シラン処理)
ポリシロキサン処理物100.0gに対して、水100.0g、エタノール80.0g、リン酸0.003g、シランカップリング材として3-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン5.0gを2時間室温で撹拌し得られたシランカップリング処理液を加え、30分間撹拌混合した。その後、100℃にて熱処理を15時間施し、充填剤E1を得た。
【0167】
[充填剤E2の作製]
(シラン処理)
以下に説明する充填剤E5:100.0gに対して、水100.0g、エタノール80.0g、リン酸0.003g、シランカップリング材として3-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン9.0gを2時間室温で撹拌し得られたシランカップリング処理液を加え、30分間撹拌混合した。その後、100℃にて熱処理を15時間施し、充填剤E2を得た。
【0168】
[充填剤E3の作製]
(酸性ポリマー処理)
以下に説明する充填剤E5:100.0gをヘンシェルミキサーに投入して、撹拌しつつ、上からポリアクリル酸水溶液(ポリマー濃度13質量%、重量平均分子量20,000:ナカライ社製)12.0gを噴霧した。噴霧後、ミキサーから取り出した粉体を熱風乾燥機中で100℃で3時間加熱してポリシロキサン-ポリアクリル酸処理物を得た。
(シラン処理)
ポリシロキサン-ポリアクリル酸処理物100.0gに対して、水100.0g、エタノール80.0g、リン酸0.003g、シランカップリング材として3-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン9.0gを2時間室温で撹拌し得られたシランカップリング処理液を加え、30分間撹拌混合した。その後、100℃にて熱処理を15時間施し、充填剤E3を得た。
【0169】
[充填剤E4の作製]
(酸性ポリマー処理)
充填剤E1と同様の手順により、ポリシロキサン処理物を得た後、ポリシロキサン処理物100.0gをヘンシェルミキサーに投入して、撹拌しつつ、上からポリアクリル酸水溶液(ポリマー濃度13質量%、重量平均分子量20,000:ナカライ社製)23.0gを噴霧した。噴霧後、ミキサーから取り出した粉体を熱風乾燥機中で100℃3時間加熱してポリシロキサン-ポリアクリル酸処理物の充填剤E4を得た。
【0170】
[充填剤E5の作製]
(ポリシロキサン処理)
原料ガラスG2:100.0gに対して、シラン化合物の低縮合物「MKCシリケートMS56S」(SiO2含有量56.0質量%、重合度2~100、三菱化学社製)を3.5g添加し、約90分間撹拌混合した。所定時間混合後、得られた処理スラリーを熱風乾燥機中で、50℃で40時間熟成した後、150℃まで昇温して6時間係留し、それから冷却させて熱処理物を得た。得られた熱処理物をヘンシェルミキサー中に入れ、1800rpmで5分間解砕を行った。解砕後流動性の良い、表面がポリシロキサンで被覆されたポリシロキサン処理物の充填剤E5を得た。
【0171】
[充填剤E6の作製]
(ポリシロキサン処理)
原料ガラスG3:100.0gに対して、シラン化合物の低縮合物「MKCシリケートMS56S」(SiO2含有量56.0質量%、重合度2~100、三菱化学社製)を4.5g添加し、約90分間撹拌混合した。所定時間混合後、得られた処理スラリーを熱風乾燥機中で、50℃で40時間熟成した後、150℃まで昇温して6時間係留し、それから冷却させて熱処理物を得た。得られた熱処理物をヘンシェルミキサー中に入れ、1800rpmで5分間解砕を行った。解砕後流動性の良い、表面がポリシロキサンで被覆されたポリシロキサン処理物を得た。
(酸性ポリマー処理)
ポリシロキサン処理物100.0gをヘンシェルミキサーに投入して、撹拌しつつ、上からポリアクリル酸水溶液(ポリマー濃度13質量%、重量平均分子量20,000:ナカライ社製)16.0gを噴霧した。噴霧後、ミキサーから取り出した粉体を熱風乾燥機中で100℃3時間加熱してポリシロキサン-ポリアクリル酸処理物を得た。
(シラン処理)
ポリシロキサン-ポリアクリル酸処理物100.0gに対して、水100.0g、エタノール80.0g、リン酸0.003g、シランカップリング材として3-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン12.0gを2時間室温で撹拌し得られたシランカップリング処理液を加え、30分間撹拌混合した。その後、100℃にて熱処理を15時間施し、充填剤E6を得た。
【0172】
[充填剤E7の作製]
(ポリシロキサン処理)
原料ガラスG7:100.0gに対して、シラン化合物の低縮合物「MKCシリケートMS56S」(SiO2含有量56.0質量%、重合度2~100、三菱化学社製)を1.0g添加し、約90分間撹拌混合した。所定時間混合後、得られた処理スラリーを熱風乾燥機中で、50℃で40時間熟成した後、150℃まで昇温して6時間係留し、それから冷却させて熱処理物を得た。得られた熱処理物をヘンシェルミキサー中に入れ、1800rpmで5分間解砕を行った。解砕後流動性の良い、表面がポリシロキサンで被覆されたポリシロキサン処理物を得た。
(シラン処理)
ポリシロキサン処理物100.0gに対して、水100.0g、エタノール80.0g、リン酸0.003g、シランカップリング材として3-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン3.0gを2時間室温で撹拌し得られたシランカップリング処理液を加え、30分間撹拌混合した。その後、100℃にて熱処理を15時間施し、充填剤E7を得た。
【0173】
[充填剤E8の作製]
ポリシロキサン処理における熱処理条件を、熱風乾燥機中で、50℃で40時間熟成した後、450℃まで昇温して6時間係留した条件に変更した以外は、充填剤E2と同様の条件にて製造することで充填剤E8を得た。
【0174】
[充填剤E9の作製]
(ポリシロキサン処理)
原料ガラスG4:100.0gに対して、シラン化合物の低縮合物「MKCシリケートMS56S」(SiO2含有量56.0質量%、重合度2~100、三菱化学社製)を0.5g添加し、約90分間撹拌混合した。所定時間混合後、得られた処理スラリーを熱風乾燥機中で、50℃で40時間熟成した後、150℃まで昇温して6時間係留し、それから冷却させて熱処理物を得た。得られた熱処理物をヘンシェルミキサー中に入れ、1800rpmで5分間解砕を行った。解砕後流動性の良い、表面がポリシロキサンで被覆されたポリシロキサン処理物を得た。
(シラン処理)
ポリシロキサン処理物100.0gに対して、水100.0g、エタノール80.0g、リン酸0.003g、シランカップリング材として3-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン1.5gを2時間室温で撹拌し得られたシランカップリング処理液を加え、30分間撹拌混合した。その後、100℃にて熱処理を15時間施し、充填剤E9を得た。
【0175】
[充填剤E10の作製]
ポリシロキサン処理における熱処理条件を、熱風乾燥機中で、50℃で40時間熟成した後、400℃まで昇温して6時間係留した条件に変更した以外は、充填剤E1と同様の条件にて製造することで充填剤E10を得た。
【0176】
[充填剤E11の作製]
シラン処理において使用したシランカップリング材を8-メタクリロイルオキシオクチルトリメトキシシラン7.0gに変更した以外は、充填剤E1と同様の条件にて製造することで充填剤E11を得た。
【0177】
[充填剤E12の作製]
(シラン処理)
充填剤E6と同様の手順により、ポリシロキサン処理物を得た後、ポリシロキサン処理物100.0gに対して、水100.0g、エタノール80.0g、リン酸0.003g、シランカップリング材として8-メタクリロイルオキシオクチルトリメトキシシラン15.0gを2時間室温で撹拌し得られたシランカップリング処理液を加え、30分間撹拌混合した。その後、100℃にて熱処理を15時間施し、充填剤E12を得た。
【0178】
[充填剤E13の作製]
シラン処理において使用したシランカップリング材をSC1:12.0gに変更した以外は、充填剤E2と同様の条件にて製造することで充填剤E13を得た。
【0179】
SC1: 4,4-diethoxy-17-oxo-3,16-dioxa-18-aza-4-silaicosan-20-yl methacrylate
【化14】
【0180】
[充填剤E14の作製]
シラン処理において使用したシランカップリング材をSC2:12.0gに変更した以外は、充填剤E2と同様の条件にて製造することで充填剤E14を得た。
【0181】
SC2:4,4-diethoxy-17-oxo-3,16,21-trioxa-18-aza-4-silatricosan-23-yl methacrylate
【化15】
【0182】
[充填剤E15の作製]
シラン処理において使用したシランカップリング材を8-メタクリロイルオキシオクチルトリメトキシシラン15.0gに変更した以外は、充填剤E6と同様の条件にて製造することで充填剤E15を得た。
【0183】
[充填剤E16の作製]
ポリシロキサン処理における熱処理条件を、熱風乾燥機中で、50℃で40時間熟成した後、100℃まで昇温して6時間係留した条件に変更した以外は、充填剤E2と同様の条件にて製造することで充填剤E16を得た。
【0184】
[充填剤EC1の作製]
原料ガラスをG1からG5に変更した以外は、充填剤E1と同様の条件にて製造することで充填剤EC1を得た。
【0185】
[充填剤EC2の作製]
(シラン処理)
原料ガラスG5100.0gに対して、水100.0g、エタノール80.0g、リン酸0.003g、シランカップリング材として3-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン5.0gを2時間室温で撹拌し得られたシランカップリング処理液を加え、30分間撹拌混合した。その後、100℃にて熱処理を15時間施し、充填剤EC2を得た。
【0186】
[充填剤EC3の作製]
(シラン処理)
充填剤EC9:100.0gに対して、水100.0g、エタノール80.0g、リン酸0.003g、シランカップリング材として3-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン8.0gを2時間室温で撹拌し得られたシランカップリング処理液を加え、30分間撹拌混合した。その後、100℃にて熱処理を15時間施し、充填剤EC3を得た。
【0187】
[充填剤EC4の作製]
原料ガラスG1を何も処理しなかったものを充填剤EC4として用いた。
【0188】
[充填剤EC5の作製]
原料ガラスG2を何も処理しなかったものを充填剤EC5として用いた。
【0189】
[充填剤EC6の作製]
(ポリシロキサン処理)
原料ガラスG6:100.0gに対して、シラン化合物の低縮合物「MKCシリケートMS56S」(SiO2含有量56.0質量%、重合度2~100、三菱化学社製)を3.0g添加し、約90分間撹拌混合した。所定時間混合後、得られた処理スラリーを熱風乾燥機中で、50℃で40時間熟成した後、150℃まで昇温して6時間係留し、それから冷却させて熱処理物を得た。得られた熱処理物をヘンシェルミキサー中に入れ、1800rpmで5分間解砕を行った。解砕後流動性の良い、表面がポリシロキサンで被覆されたポリシロキサン処理物を得た。
(酸性ポリマー処理)
ポリシロキサン処理物100.0gをヘンシェルミキサーに投入して、撹拌しつつ、上からポリアクリル酸水溶液(ポリマー濃度13質量%、重量平均分子量20,000:ナカライ社製)10.0gを噴霧した。噴霧後、ミキサーから取り出した粉体を熱風乾燥機中で100℃3時間加熱してポリシロキサン-ポリアクリル酸処理物を得た。
(シラン処理)
ポリシロキサン-ポリアクリル酸処理物100.0gに対して、水100.0g、エタノール80.0g、リン酸0.003g、シランカップリング材として3-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン8.0gを2時間室温で撹拌し得られたシランカップリング処理液を加え、30分間撹拌混合した。その後、100℃にて熱処理を15時間施し、充填剤EC6を得た。
【0190】
[充填剤EC7の作製]
(シラン処理)
原料ガラスG2:100.0gに対して、水100.0g、エタノール80.0g、リン酸0.003g、シランカップリング材として3-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン9.0gを2時間室温で撹拌し得られたシランカップリング処理液を加え、30分間撹拌混合した。その後、100℃にて熱処理を15時間施し、充填剤EC7を得た。
【0191】
[充填剤EC8の作製]
(酸性ポリマー処理)
原料ガラスG2:100.0gをヘンシェルミキサーに投入して、撹拌しつつ、上からポリアクリル酸水溶液(ポリマー濃度13質量%、重量平均分子量20,000:ナカライ社製)12.0gを噴霧した。噴霧後、ミキサーから取り出した粉体を熱風乾燥機中で100℃で3時間加熱してポリシロキサン-ポリアクリル酸処理物を得た。
(シラン処理)
ポリアクリル酸処理物100.0gに対して、水100.0g、エタノール80.0g、リン酸0.003g、シランカップリング材として3-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン9.0gを2時間室温で撹拌し得られたシランカップリング処理液を加え、30分間撹拌混合した。その後、100℃にて熱処理を15時間施し、充填剤EC8を得た。
【0192】
[充填剤EC9の作製]
(ポリシロキサン処理)
原料ガラスG6:100.0gに対して、シラン化合物の低縮合物「MKCシリケートMS56S」(SiO2含有量56.0質量%、重合度2~100、三菱化学社製)を3.0g添加し、約90分間撹拌混合した。所定時間混合後、得られた処理スラリーを熱風乾燥機中で、50℃で40時間熟成した後、150℃まで昇温して6時間係留し、それから冷却させて熱処理物を得た。得られた熱処理物をヘンシェルミキサー中に入れ、1800rpmで5分間解砕を行った。解砕後流動性の良い、表面がポリシロキサンで被覆されたポリシロキサン処理物の充填剤EC9を得た。
【0193】
[充填剤EC10の作製]
(シラン処理)
原料ガラスG7100.0gに対して、水100.0g、エタノール80.0g、リン酸0.003g、シランカップリング材として3-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン3.0gを2時間室温で撹拌し得られたシランカップリング処理液を加え、30分間撹拌混合した。その後、100℃にて熱処理を15時間施し、充填剤EC10を得た。
【0194】
[pH測定]
表面処理を施した充填剤の酸塩基度を判断するために、pH測定を行った。pH測定は蒸留水40gおよびエタノール10gの混合溶液に対して充填剤を1.0g加え、1時間攪拌させた時の分散液のpHを測定した。pHが7.5~10.0の充填剤は塩基性充填剤、pHが10.0を超過する充填剤は非塩基性充填剤とした。また、pHは7.5未満の充填剤は非塩基性充填剤と分類した。分類結果を表2に示す。
【0195】
【0196】
<1剤型歯科用硬化性組成物の製造方法>
表3及び表4に示される(E)充填剤を除くすべてを広口ポリ容器に投入し、ミックスローターVMRC-5を用いて100rpmの条件で48時間混合することでマトリックスを得た。その後、マトリックスと(E)充填剤を混練機に投入し、均一に撹拌した後、真空下で脱泡して実施例A1~A49及び比較例CA1~CA17の歯科用硬化性組成物を調製した。
【0197】
【0198】
【0199】
<2剤型歯科用硬化性組成物の製造方法>
表5及び表6並びに表7及び表8に示される(E)充填剤を除くすべて広口ポリ容器に投入し、ミックスローターVMRC-5を用いて100rpmの条件で48時間混合することでマトリックスを得た。その後、マトリックスと(E)充填剤を混練機に投入し、均一に撹拌した後、真空下で脱泡してペースト1,2を得た後、ミックスパック社製ダブルシリンジ(5mL)に充填し実施例B1~B28および実施例D1~D39及び比較例CB1~CB7よび比較例CD1~CD6の歯科用硬化性組成物を調製した。
【0200】
【0201】
【0202】
【0203】
【0204】
<加速試験条件>
各容器に充填した1剤型歯科用硬化性組成物または2剤型歯科用硬化性組成物を40℃設定の保管庫(ヤマト科学株式会社)に6か月間静置した。
【0205】
<評価1-1:曲げ強さ(光重合)>
歯科用硬化性組成物をステンレス製金型に充填した後、両面にカバーガラスを置き、ガラス練板で圧接した後、光重合照射器(ブルーショット:松風製)を用いて5ヶ所10秒間ずつ光照射を行い、硬化させた。硬化後、金型から硬化物を取り出した後、再び同様に裏面も光照射を行い、それを試験体(25×2×2mm:直方体型)とした。その試験体を37℃、24時間水中に浸漬した後、曲げ試験を行った。化学重合開始剤を含む組成物に関しては、光照射終了後2時間以内に測定を行った。曲げ試験は、インストロン万能試験機(インストロン社製)を用い支点間距離20mm、クロスヘッドスピード1mm/minにて行った。曲げ強さの試験結果は100MPa以上である場合を優れた曲げ強さ、90~100MPa未満を十分な曲げ強さ、80~90MPa未満である場合をやや劣る曲げ強さ、80MPa未満である場合に不十分と判断した。また、重合性単量体100質量部に対して(E)充填剤の量が100質量部未満である1剤型歯科用硬化性組成物および2剤型歯科用硬化性組成物は80MPa以上である場合を優れた曲げ強さ、70~80MPa未満を十分な曲げ強さ、60~70MPa未満である場合をやや劣る曲げ強さ、60MPa未満である場合に不十分と判断した。
【0206】
<評価1-2:曲げ強さ(化学重合)>
歯科用硬化性組成物をステンレス製金型に充填した後、両面にカバーガラスを置き、ガラス練板で圧接した後、37℃設定の恒温機に1時間静置した。金型から硬化物を取り出した後、試験体を37℃、24時間水中に浸漬した後、曲げ試験を行った。曲げ試験は、インストロン万能試験機(インストロン社製)を用い支点間距離20mm、クロスヘッドスピード1mm/minにて行った。曲げ強さの試験結果は100MPa以上である場合を優れた曲げ強さ、90~100MPa未満を十分な曲げ強さ、80~90MPa未満である場合をやや劣る曲げ強さ、80MPa未満である場合に不十分と判断した。また、重合性単量体100質量部に対して(E)充填剤の量が100質量部未満である硬化性組成物は80MPa以上である場合を優れた曲げ強さ、70~80MPa未満を十分な曲げ強さ、60~70MPa未満である場合をやや劣る曲げ強さ、60MPa未満である場合に不十分と判断した。
【0207】
<評価2:加速試験した硬化前組成物の曲げ強さ>
40℃設定の保管庫(ヤマト科学株式会社)に6か月間静置した歯科用硬化性組成物を<評価1-1:曲げ強さ(光重合)>または<評価1-2:曲げ強さ(化学重合)>の方法に従って、曲げ強さを測定した。保管前の組成物の曲げ強さとの比較は式(3)を用いて行った。40℃設定の保管庫に保管前よりも変化が-5%以上であれば高い保存安定性を有しているとし、-5%未満~-10%の間であれば十分な保存安定性、-10%未満~-15%であればやや保存安定性が悪い。-20%未満である場合は著しく保存安定性が悪く不十分と判断した。
[(式3)]
(保管後の曲げ強さ(MPa)-保管前の曲げ強さ(MPa))/(保管前の曲げ強さ(MPa))×100[%]
【0208】
<評価3:加速試験した硬化後組成物の曲げ強さ>
<評価1-1:曲げ強さ(光重合)>または<評価1-2:曲げ強さ(化学重合)>の方法に従って作製した試験体を40℃設定の保管庫(ヤマト科学株式会社)に6か月間静置した後、曲げ試験を行った40℃設定の保管庫に保管前の組成物の曲げ強さとの比較は式(4)を用いて行った。保管前よりも変化が-10%以上であれば高い保存安定性を有しているとし、-10%未満~-20%であれば十分な保存安定性、-20%未満~-30%であればやや保存安定性が悪い。-30%未満である場合は著しく保存安定性が悪く不十分と判断した。
[(式4)]
(保管後の曲げ強さ(MPa)-保管前の曲げ強さ(MPa))/(保管前の曲げ強さ(MPa))×100[%]
【0209】
<評価4:酸中和能>
調製した歯科用硬化性組成物をそれぞれステンレス製金型(15φ×1mm:円盤状)に満たした後、上部からカバーガラスを置きガラス板を用いて圧接した。カバーガラス上から光重合照射器(ブルーショット:松風製)を用いて1分間、光照射を行い硬化させ、金型から硬化物を取り出した後、カバーガラスを外し、耐水研磨紙(#600)で表面を研磨した。研磨くずを取り除いた後、pHが4.0になるように調製した乳酸水溶液5mLが入ったPP製容器に静置し、37℃設定の恒温器に48時間静置した。48時間後にPP製容器から硬化物を取り除き、pHメーター(電極:9618S―10D、本体:D―74、堀場製作所)を用いてpHの測定を行った。この際のpHが4.5未満である場合を酸中和能が不十分としてDとした。pHが4.5以上5.0未満である場合を一定の酸中和能を有するとしてC、pHが5.0以上5.5未満である場合を十分な酸中和能を有するとしてB、pHが5.5以上である場合を優れた酸中和能を有するとしてAとした。歯科用硬化性組成物が酸中和能を有する場合、口腔内においても周囲の酸を中和することが期待できるために、歯質の脱灰抑制などの効果が期待できる。
【0210】
<評価5:光色安定性>
調製した歯科用硬化性組成物をそれぞれステンレス製金型(15φ×1mm:円盤状)に満たした後、上部からカバーガラスを置きガラス板を用いて圧接した。カバーガラス上から光重合照射器(グリップライトII:松風製)を用いて1分間、光照射を行い硬化させ、金型から硬化物を取り出した後、カバーガラスを外し、この試験体の色調を測色した。測色は標準白色板(D65/10°X=81.07、Y=86.15、Z=93.38)の背景上に試験体を置き、分光色彩計(ビックケミー社製)を用いて所定の一定条件下(光源:C、視野角:2°、測定面積:11mm)にて行った。その後、キセノンランプ光暴露試験機(サンテストCPS+)にて試験体を24時間光暴露させた後、試験体の色調を再び測定し、その変色の差を下記式より算出されるΔEで表した。
ΔE={(ΔL*)2+(Δa*)2+(Δb*)2}1/2
ΔL*=L1*-L2*
Δa*=a1*-a2*
Δb*=b1*-b2*
ここで、L1*は光暴露前の明度指数、L2*は光暴露後の明度指数、a1*、b1*は光暴露前の色質指数、a2*、b2*は光暴露後の色質指数である。ΔEが5未満であるものを良好、ΔEが5~8未満であるものを使用可能、ΔEが8~10未満であるものを悪い、ΔEが10を超過するものを使用不可として判断した。
【0211】
<評価6:歯質に対する接着強さ>
エポキシ樹脂で包埋した牛前歯の試験片を耐水研磨紙#600番にて研磨し、エナメル質または象牙質平面を削り出した。その後、被着面に直径4mmの穴あきテープを貼って接着面積を規定した。一方で、ステンレスロッド(φ4.5mm)の被着面に対してアルミナ(50μm)にてサンドブラスト処理(0.2MPa、1秒間)→水洗・乾燥し、金属接着性プライマー(メタルリンク、松風製)を塗布した。ステンレスロッドの被着面に実施例または比較例の歯科用硬化性組成物を適量塗布し、穴あき両面テープの枠に納まるようにエナメル質または象牙質平面を出したエポキシ樹脂で包埋した牛前歯の試験片とステンレスロッドを合着した。ステンレスロッドの垂直方向から200Nの荷重を付加し、余剰セメントを布でふき取った。その後、歯科重合用LED光照射器(ブルーショット、松風製)にて10秒間光照射し、荷重を取り除いた後に作製した接着試験体を24時間37℃水中浸漬した後に、万能試験機(インストロン社製)を用いてクロスヘッドスピード1mm/minにて引張接着強さを測定した。10MPa以上の接着強さを示した場合に優れた接着強さを有していると判断した。一方で、5Mpa未満である場合は接着強さが低いと判断した。
なお、歯質に対する接着強さは実施例D23~実施例D39、比較例CD1、CD2、CD3~6のみに実施した。実施例D23~実施例D39は歯質に対する接着性の付与を目的に酸性基を有する重合性単量体を配合した。
【0212】
【0213】
【0214】
【0215】
実施例に記載の組成物は十分な曲げ強さ、保存安定性、酸中和能を有することが確認された。
【0216】
(E1)表面処理塩基性充填剤を含むものであって酸性ポリマーによって処理されている充填剤E3、E4、E6、E15を配合している実施例A3や実施例A4、実施例B14などは良好な酸中和能を示す傾向にあった。また、シランカップリング剤処理が施されている充填剤E1、E2、E3、E6、E7、E8、E9、E11、E12、E13、E14、E15を配合している実施例A1、実施例A2などは良好な曲げ強さを示す傾向にあった。シランカップリング剤で処理されていない充填剤のみを含む実施例A4、B3はやや曲げ強さが低く、シランカップリング剤処理と酸性ポリマー処理が施されていない充填剤E5を配合している実施例A5などは曲げ強さがやや低く、酸中和能もやや低い傾向にあった。
【0217】
(E1)表面処理塩基性充填剤の中で、塩基性が高い充填剤E7のみを含む実施例A15、B6、D6は硬化前の組成物の保存安定性がやや低かった。また、熱処理を450℃の温度で行った充填剤E8のみを含む実施例A37、A46、B23、D11は硬化後の組成物の保存安定性がやや低くく、酸中和能も低い傾向にあった。熱処理を400℃の温度で行った充填剤E10を含む実施例A39、実施例B24、実施例D13、実施例D34も、充填剤E8をのみを含む実施例と比較して緩やかであるが硬化後の組成物の保存安定性がやや低い傾向にあった。一方で、充填剤E8を含みつつ、充填剤E1や充填剤E3を含む実施例D33は良好な酸中和能を示した。熱処理温度が90℃の低温であった充填剤E16を含む実施例A49は硬化前の組成物の保存安定性がやや低かった。(E1)表面処理塩基性充填剤の配合量が少ない実施例A16、B10、D9、D25は硬化後の組成物の保存安定性が低く、酸中和能も低い傾向にあった。
【0218】
光増感剤の配合量が少ないA19、B11は曲げ強さがやや低く、光増感剤の配合量が多い、A20、B12は光色安定性がやや低下する傾向にあった。有機過酸化物の配合量が少ない実施例D19は曲げ強さがやや低い傾向にあった。重合促進剤の配合量が少ない実施例A23、B15、D20は曲げ強さがやや低い傾向にあった。重合促進剤の配合量が多い実施例A24、B16は硬化前の組成物の保存安定性がやや低下傾向にあった。
【0219】
光酸発生材の配合量が少ない実施例A20、B12は曲げ強さがやや低い傾向にあった。光酸発生材の配合量が多い実施例A21、B11は硬化後の組成物の保存安定性がやや低い傾向にあった。また、光酸発生材として少なくとも1つ以上のHがF置換された有機基及びP、B、Al、S、Gaのいずれか1つ以上の原子を有するアニオンと、アリールヨードニウムカチオンとの塩以外のものを配合している実施例A30~33、A35、B19~21は光色安定性がやや低下傾向にあった。酸基を有する重合性単量体の配合量が少ない実施例D27は象牙質に対する接着強さがやや低く、酸基を有する重合性単量体の配合量が多い実施例D24は硬化前および硬化後の組成物の保存安定性がやや低い傾向にあった。光重合開始剤としてカンファーキノン系の光増感剤を含まない実施例A28、B17はやや曲げ強さが低い傾向にあった。
【0220】
重合促進剤としてDMBEやDEPTなどの芳香族アミンを含む実施例A26などは光色安定性が低下傾向にあったが、紫外線吸収剤を同時に配合している実施例A25、実施例D13などは光色安定性の低下が認められなかった。
【0221】
比較例CA1、CA2、CA15,CA16、CA17、CB1、CB2、CB7、CD1、CD2は重合開始剤または重合促進剤の一部を含まないために曲げ強さが低いまたは硬化しなかった。
ポリシロキサン処理が施されていない塩基性充填剤を含む比較例CA3、CA4、CA5、CA8、CA11、CB5、CB6、CD4、CD5、CD6は、硬化前のペーストを保管した後の曲げ特性が保管前と比較して顕著に低下する傾向を示した。また、非塩基性充填剤のみを含む比較例CA6、CA7、CA9、CA10、CA12、CA13、CA14、CB3、CB4、CD6は硬化物を保管した後の曲げ特性が、いずれも保管前と比較して顕著に低下した。