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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023042574
(43)【公開日】2023-03-27
(54)【発明の名称】銀粉の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 9/24 20060101AFI20230317BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20230317BHJP
   B22F 1/102 20220101ALI20230317BHJP
【FI】
B22F9/24 E
B22F1/00 K
B22F1/102
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022144089
(22)【出願日】2022-09-09
(31)【優先権主張番号】P 2021149719
(32)【優先日】2021-09-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】506334182
【氏名又は名称】DOWAエレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129470
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 高
(72)【発明者】
【氏名】菅原 公子
【テーマコード(参考)】
4K017
4K018
【Fターム(参考)】
4K017AA02
4K017AA08
4K017BA02
4K017DA01
4K017EJ01
4K017FB07
4K018BA01
4K018BC29
4K018BD04
4K018BD10
4K018KA33
(57)【要約】
【課題】表面処理剤の種類を変更することなく、その銀粉をペースト化して電極形成を行った場合に低抵抗となる銀粉の製造方法を提供する。
【解決手段】銀粉の製造工程において、銀粉のスラリーに、レーザー回折式粒度分布測定法により得られる体積基準の累積50%粒子径D50が1.5μm以下の表面処理剤のミセルを含むO/W型のエマルションを添加し、銀粉の表面に表面処理剤を被覆した後、さらに多価カルボン酸を被覆することにより、当該銀粉をペースト化して電極形成を行った場合に電極が低抵抗となる銀粉を得ることができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
銀イオンを錯化剤によって銀錯体とし、当該銀錯体を還元して銀粉を得る銀粉の製造方法であって、
前記銀イオンを錯化する錯化剤としてアンモニウムイオンを用い、銀-アンミン錯体水溶液を形成する銀錯体化工程と、
前記銀錯体を含む水溶液に還元剤を添加し、当該還元剤により前記の銀錯体を還元して銀粉のスラリーを得る還元工程と、
前記銀粉のスラリーに、レーザー回折式粒度分布測定法により得られる体積基準の累積50%粒子径D50が1.5μm以下の表面処理剤のミセルを含むO/W型のエマルションを添加し、前記の銀粉を表面処理するエマルション添加工程と、
前記エマルション添加工程において表面処理剤で被覆された銀粉を、さらに多価カルボン酸で被覆するカルボン酸被覆工程と、
を含む、銀粉の製造方法。
【請求項2】
前記多価カルボン酸が、アジピン酸、コハク酸、ジグリコール酸、グルタル酸およびマレイン酸から選ばれる1種または2種以上である、請求項1に記載の銀粉の製造方法。
【請求項3】
前記のエマルションに含まれる表面処理剤は、直鎖の炭素数が8以上の脂肪酸である、請求項1または2に記載の銀粉の製造方法。
【請求項4】
前記のエマルションに含まれる表面処理剤は、炭素数が12以上の長鎖脂肪酸である、請求項3に記載の銀粉の製造方法。
【請求項5】
前記のエマルションに含まれる表面処理剤は、パルミチン酸およびステアリン酸から選ばれる1種または2種である、請求項4に記載の銀粉の製造方法。
【請求項6】
前記のエマルションに含まれる表面処理剤は、リノール酸およびリノレン酸から選ばれる1種または2種である、請求項4に記載の銀粉の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀粉の製造方法に関し、更に詳しくは、様々な電子部品の電極や回路などの素子に電気伝導経路を形成するための導電性ペーストに使用するのに適した銀粉の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子部品の電極や回路などの形成には、従来、樹脂型、焼成型の銀ペーストが多く用いられている。近年、銀粉を用いた導電性ペーストには、電子部品の小型化による導体パターンの高密度化や配線太さを細くするファインライン化が求められている。また、太陽電池の集光面積を増やして発電効率を向上させるためにも、フィンガー電極の細線化が要求されている。銀ペーストに含まれる銀粉中に粗大粒子が存在すると、印刷によりパターンを形成する際に版の目詰まりを起こし、回路の断線の原因となるため、導電性ペースト用の銀粉として、粗大粒子の含まれない銀粉が求められてきた。
また、太陽電池の電極形成においては、電極の導電性が変換効率の向上につながることから、樹脂硬化型導電性ペーストを用いて形成する電極の導電性向上も求められている。
【0003】
導電性ペースト用の銀粉を製造する方法としては、例えば特許文献1には、銀アンミン錯体を含む水溶液に、還元剤であるホルマリンを添加後、還元析出した銀粉の分散剤として作用するステアリン酸のエマルションを添加して銀粉を得る、低温焼結性に優れた銀粉の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006-002228号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示された銀粉の製造方法においては、還元析出した銀粉の分散性を向上するために、銀粉を分散剤であるステアリン酸で表面処理しているが、ステアリン酸はエマルションの状態で添加している。特許文献1に開示された製造方法においては、表面処理剤であるステアリン酸などの脂肪酸をエマルションの状態で添加しているのは、当該脂肪酸の融点が高く、かつ、水に難溶性であり、そのままでは銀粉が分散した水溶液中に均一に分散させることが困難なためである。そのため、脂肪酸を予めエマルション化し、すなわち、微細な脂肪酸のミセルが水中に分散したエマルションを生成し、そのエマルションを、銀粉を含むスラリーに添加している。
しかし、特許文献1に開示された製造方法では、粗大な銀の二次粒子の発生を完全には防止できないことが判明した。
【0006】
銀ペーストの焼結性は、銀粉の表面状態、特に銀粉の表面に付着している表面処理剤の影響が大きい。また、銀ペーストを構成する有機溶剤、有機樹脂バインダーや各種の添加剤の組み合わせも、銀粉の表面に付着している表面処理剤を変えると変化させる必要がある。そのため、表面処理剤の種類を変更することなく、銀粉の分散性を向上させ、結果として粗大な銀粉粒子の生成を抑制することが望まれる。
その点に関し、本発明者は、表面処理剤のエマルションに含まれる表面処理剤のミセルの粒径を小さくすることにより、還元析出した銀粉を含むスラリーにおける銀粉の分散性が改善されることを見出し、特願2021-047972号として出願している。
しかし、特願2021-047972号に開示した製造方法により得られた銀粒子を用いて形成された導電膜は、従来の銀紛を用いて得られる導電膜よりも導電膜の体積抵抗率は低くなるが、近年求められている導電性には必ずしも十分なものではなかった。
本発明において解決すべき技術課題とは、銀粉の表面処理剤の種類を従来のものと変更することなく、得られた銀粉をペースト化して電極形成を行った場合に低抵抗となる銀粉の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上述の課題を達成するために鋭意研究を重ねた結果、銀粉の製造工程において添加する表面処理剤のエマルションに含まれる表面処理剤のミセルの粒径を小さくすると共に、当該エマルションを用いて表面処理剤を付着させることにより、その表面に表面処理剤を被覆した銀粉に、さらに多価カルボン酸を被覆すると、当該多価カルボン酸を被覆した銀粉をペースト化して電極形成を行った場合に低抵抗となることを見出した。
以上の知見を基に、本発明者は、以下に述べる本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、上述の課題を達成するために本発明においては、
(1)銀イオンを錯化剤によって銀錯体とし、当該銀錯体を還元して銀粉を得る銀粉の製造方法であって、
前記銀イオンを錯化する錯化剤としてアンモニウムイオンを用い、銀-アンミン錯体水溶液を形成する銀錯体化工程と、
前記銀錯体を含む水溶液に還元剤を添加し、当該還元剤により前記の銀錯体を還元して銀粉のスラリーを得る還元工程と、
前記銀粉のスラリーに、レーザー回折式粒度分布測定法により得られる体積基準の累積50%粒子径D50が1.5μm以下の表面処理剤のミセルを含むO/W型のエマルションを添加し、前記の銀粉を表面処理するエマルション添加工程と、
前記エマルション添加工程において表面処理剤で被覆された銀粉を、さらに多価カルボン酸で被覆するカルボン酸被覆工程と、
を含む、銀粉の製造方法が提供される。
(2)前記の(1)の製造方法において、前記の多価カルボン酸が、アジピン酸、コハク酸、ジグリコール酸、グルタル酸およびマレイン酸からなる群から選択される1種または2種以上であることが好ましい。
(3)前記の(1)または(2)の製造方法において、エマルションに含まれる表面処理剤は、直鎖の炭素数が8以上の脂肪酸であることが好ましい。
(4)前記の(1)~(3)の製造方法において、エマルションに含まれる表面処理剤は、炭素数が12以上の長鎖脂肪酸であることが好ましい。
(5)前記の(1)~(4)の製造方法において、エマルションに含まれる表面処理剤は、パルミチン酸およびステアリン酸からなる群から選択される1種または2種とすることができる。
(6)前記の(1)~(4)の製造方法において、エマルションに含まれる表面処理剤は、リノール酸またはリノレン酸とすることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の製造方法を用いることにより、銀粉の表面処理剤の種類を変更することなく、その銀粉をペースト化して電極形成を行った場合に低抵抗となる銀粉を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例1と比較例1で得られたエマルションに含まれるミセルの粒度分布の測定結果を比較した図である。
図2】実施例2と比較例2で得られたエマルションに含まれるミセルの粒度分布の測定結果を比較した図である。
図3】実施例3と比較例3で得られたエマルションに含まれるミセルの粒度分布の測定結果を比較した図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[出発物質]
本発明の銀粉の製造方法においては、出発物質として銀(1)イオンを含む水溶液に錯化剤を添加し、銀錯体を形成した水溶液を出発物質として使用する。銀イオンの供給源としては、工業的に用いられている公知の硝酸銀(1)、硫酸銀(1)、炭酸銀(1)、塩化銀(1)、酸化銀(1)等の無機銀塩を用いることができる。
本発明においては特に規定するものではないが、水溶液中の銀イオン濃度は、後述する還元剤添加前の段階で0.1質量%以上10質量%以下であることが好ましい。銀イオン濃度が0.1質量%未満であると、1回の反応で製造できる銀粉の量が少なくなってしまうので好ましくない。また、銀イオン濃度が10質量%を超えると、銀粒子析出後の反応液の粘度が上昇し、反応液を均一に撹拌できなくなる恐れがあるので好ましくない。
[錯化剤]
銀イオンの錯化剤としてはアンモニア水、アンモニウム塩等のアンモニウムイオン、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)の塩等のキレート化合物を用いることができるが、銀イオンと錯体を形成し易く、洗浄が容易で不純物が残存し難いアンモニウムイオンを使用することが好ましい。錯化剤としてアンモニウムイオンを用いると、水溶液中で銀-アンミン錯体が形成される。その場合、アンミン錯体の配位数は2であるため、銀イオン1モル当たりアンモニウムイオンを2モル以上添加する。
[錯形成補助剤]
なお、銀錯体の形成を補助するための添加剤として、ベンゾトリアゾールやその塩などのアゾール類や、クエン酸などのオキシカルボン酸を、後述する還元剤の添加前に添加しても良い。
【0012】
[還元剤]
本発明の銀粉の製造方法においては、銀錯体を還元して金属状態の銀を析出させるために、公知の還元剤を使用することができる。還元剤としては、ホルマリン、アスコルビン酸、ヒドラジン、アルカノールアミン、ヒドロキノン、シュウ酸、ギ酸、アルデヒド、アルコール、糖類等の有機物や金属の低級酸化物、水素化ほう素ナトリウム等が挙げられるが、反応性が有る程度安定しており、かつ銀を速やかに還元できるアスコルビン酸、ブドウ糖、ホルムアルデヒド、ヒドラジン、炭酸ヒドラジンのうち1種以上を使用することが好ましく、中でもホルムアルデヒド、ヒドラジンまたは炭酸ヒドラジンを使用することが好ましい。
還元剤の添加量は、銀の収率を高めるために、銀に対して1当量以上であるのが好ましく、還元力が弱い還元剤を使用する場合には、銀に対して2当量以上、例えば、10~20当量でもよい。
還元剤の添加方法としては、還元析出した銀粉の凝集を防ぐために、銀イオン量に対して還元剤1当量/min以上の速さで添加するのが好ましい。また、還元の際には、還元剤の添加前から還元析出工程の終了まで、銀-アンミン錯体水溶液および銀粒子析出後の反応液を撹拌することが好ましい。また、還元剤を添加し、銀粒子を還元析出させる際の温度は、5℃以上80℃以下であるのが好ましく、5℃以上40℃以下であることがより好ましい。
【0013】
[表面処理剤]
本発明の銀粉の製造方法においては、還元析出した銀粉の分散性を向上させるために、当該銀粉を表面処理剤で処理する。当該表面処理剤としては、疎水性の分散剤が好ましく、脂肪酸もしくはその塩を用いることができる。脂肪酸もしくはその塩を用いることで、銀への表面処理剤の吸着と銀粒子同士の分散性を両立することできる。脂肪酸の例(括弧内は炭素数)として、プロピオン酸(3)、カプリル酸(8)、ラウリン酸(12)、ミリスチン酸(14)、パルミチン酸(16)、ステアリン酸(18)、ベヘン酸(22)、アクリル酸(3)、オレイン酸(18)、リノール酸(18)、リノレン酸(18)、アラキドン酸(20)などを挙げることができるが、本発明においては、直鎖の炭素数が8以上の脂肪酸を用いることが好ましく、炭素数が12以上の長鎖脂肪酸を用いることがさらに好ましく、炭素数が16以上の長鎖脂肪酸を用いることがさらに好ましく、炭素数は20以下であることがより好ましい。表面処理剤としては、パルミチン酸(融点:62.9℃)およびステアリン酸(融点:69.6℃)の1種または2種を用いることが特に好ましい。また、リノール酸、リノレン酸はペースト化した際の粘度を低下させる面で特に好ましい。
炭素数8未満は水溶性があるためエマルション化する必要性が少なく、また、銀への表面処理剤の吸着が弱いためである。炭素数12以上とすることで銀粉に必要とされる分散性を得ることが容易なためである。パルミチン酸およびステアリン酸は入手が容易である。炭素数が20を超えると、ペースト化する際の粘度などの調整が難しくなるためである。なお、市販される上記に例示した脂肪酸は他の脂肪酸を含んでいてよい。例えばステアリン酸の試薬はステアリン酸が100質量%ではなく製造過程で分離が困難な他の脂肪酸も含まれているのが通常である。そのため、エマルション化に用いる上記の脂肪酸は、GC-MS分析で50質量%以上の主成分として当該脂肪酸を含むもの(純度50%以上ともいう)であれば良く、主成分以外に他の脂肪酸が含まれていても良いものとする。
【0014】
[エマルション]
表面処理剤として用いる前記の脂肪酸の多くは室温で固体であり、また水に難溶性でもあるので、予めエマルション化し液体状態にした状態で還元析出した銀粉のスラリーに添加し、銀粒子の表面に表面処理剤を付着させる。なお、エマルション化の際には、界面活性剤を用いることが好ましい。界面活性剤としては、花王(株)のレオドールTW-P120、エマルゲン350、エマルゲン120等が挙げられる。エマルション化において、脂肪酸はミセルを形成し微細な液滴として水溶液中に分散する。
エマルション中の脂肪酸の濃度は0.1質量%以上50質量%未満であることが好ましい。そして、銀粉の製造時において水溶液中に添加する際と同じように希釈した状態のエマルション中の脂肪酸の濃度としては0.1質量%以上5質量%とすることが好ましく、1質量%以上5質量%以下とすることがより好ましい。
本発明の銀粉の製造方法は、予め調製したエマルション中に含まれる脂肪酸と界面活性剤を含むミセルの体積基準の累積50%粒径D50を、1.5μm以下にすることを特徴とする。累積50%粒径D50は1.0μm以下であることが好ましく、累積50%粒径D50は0.7μm以下であることがより好ましく、粗大粒子を低減する効果を大きくするには0.4μm以下であることがさらに好ましい。本発明においては、ミセルの累積50%粒径D50の下限は特に規定するものではないが、例えば1nm以上である。なお、ミセルの累積50%粒径D50の測定方法については後述する。
特許文献1に記載の市販のステアリン酸エマルションに含まれるミセルの体積基準の累積50%粒径D50を測定したところ、4.0μmであった。本発明の銀粉の製造方法において、ミセルの粒径が従来よりも小さくすることにより、銀粉を含むスラリー中に表面処理剤を含むエマルションを添加した際に、エマルションがスラリー中に分散するスピードが速くなり、スラリー中の銀粒子表面に表面処理剤を均一に付着させることが可能となり、銀粒子同士の凝集を抑制する能力が向上する。また、当該銀粉を導電性ペーストとした場合でも、銀粒子の表面に従来の大きいサイズの表面処理剤が付着している場合と比較し、小さいサイズの表面処理剤が付着している方が、導電性ペーストに使用される溶剤や樹脂や添加剤等との馴染みが良くなり、結果として、導電性ペーストを用いた電極の低抵抗化につながるものと考えられる。
【0015】
[エマルションの調製方法]
前記のエマルションの調製方法としては、具体的には以下の3つの方法が挙げられる。
(1)表面処理剤のミセルの体積基準の累積50%粒径D50が2μm以上の市販のエマルション(元エマルション:中京油脂株式会社製のセロゾール920がこの条件を満たす)を出発原料とし、当該エマルションに含まれる表面処理剤の融点以上、かつ、界面活性剤が表面処理剤と分離する温度以上の温度に加熱し、公知の撹拌手段により撹拌し、表面処理剤のミセルの体積基準の累積50%粒径D50が1μm以下になった後に冷却する。その場合、撹拌手段としてはホモジナイザーを用いることが好ましい。
(2)表面処理剤のミセルの体積基準の累積50%粒径D50が2μm以上の市販のエマルション(元エマルション)を出発原料とし、当該エマルションに含まれる表面処理剤の融点未満、かつ、界面活性剤が表面処理剤と分離する温度で1min以上保持し、液中において表面処理剤の固体が生成したこと確認した後に、表面処理剤の融点以上に加熱し、公知の撹拌手段により撹拌して表面処理剤のミセルの体積基準の累積50%粒径D50が1μm以下になった後に冷却する。その場合、撹拌手段としてはホモジナイザーを用いることが好ましい。
なお、(2)に記載の調製方法の方が、ミセル粒径のより小さいエマルションを得ることができる。
(3)上記の表面処理剤である脂肪酸に、界面活性剤を添加し、それぞれの融点以上の温度で融解し、その後凝固しないように沸騰水を添加し、公知の撹拌手段により撹拌して表面処理剤のミセルの体積基準の累積50%粒径D50が1μm以下になった後に冷却する。その場合、撹拌手段としてはホモジナイザーを用いることが好ましい。
脂肪酸などの表面処理剤をエマルション化する場合、脂肪酸と界面活性剤を結合させてミセルを形成する。表面処理剤と結合してミセルを形成している非イオン系界面活性剤が、その表面処理剤と分離する温度を曇点と呼ぶ。ここで非イオン系界面活性剤が表面処理剤と分離する温度とは、エマルションの温度を上げていった際に、非イオン系界面活性剤との結合が切れた表面処理剤が確認され始める温度(下記の実施例2では脂肪酸の固体が見え始めたときの温度)である。前述の界面活性剤の場合、曇点はおよそ30~80℃であり、下記の実施例におけるセロゾールの曇点は60℃である。
ホモジナイザーは市販のものを使用することができる。シャフトの先端が固定外刃と回転内刃からなる構造を有し、内刃と外刃の窓の間で起こる超音波、高周波などの効果により微砕、均一化ができるものが好ましく、例えば日本精機製作所製のバイオミキサー(型式:BM-4)などを使用できる。
上記のホモジナイザーを用いた撹拌の条件は処理するエマルションの量にもよるが、例えばエマルション液量50mLに対するホモジナイザーの内刃の回転数は、7000rpm以上とすることが好ましく、10000rpm以上とすることがより好ましい。また、ホモジナイザーを用いた撹拌時間は、10sec以上が好ましく、1min以上とすることがより好ましい。液量に対する撹拌量(回転数×時間)が少なければ、その分、ミセル粒径が低減しにくくなるためである。
また、上記の冷却方法としては通常の冷却方法で良く、例えば室温での放冷や、温浴の温度調整機能を用いた徐冷または水冷を行って、室温または後述する銀粉の製造方法における銀粒子を含むスラリーの液温にまで冷却すればよい。
【0016】
[エマルションに含まれるミセルの粒度分布測定方法]
エマルションに含まれる表面処理剤のミセルの粒度分布は、レーザー回折式粒度分布測定装置(例えば日機装株式会社製のマイクロトラックMT3300EXII)を用いて測定する。分散媒は純水とし、体積基準の粒度分布測定を行う。前記の装置において自動算出される体積基準の累積10%粒径(D10)、累積50%粒径(D50)、累積90%粒径(D90)、および累積95%粒径(D95)、最大粒径(Dmax)を使用する。粒度分布の急峻さは、(D90-D10)/D50比で評価する。
粒度分布の測定においては、エマルションを、後述の銀粉の製造時において水溶液中に添加する際と同じ希釈倍率(例えば10倍)に純水希釈したものを測定することが好ましい。
【0017】
[銀粉の製造方法]
本発明の銀粉の製造方法の実施形態においては、銀イオンを含む水溶液にアンモニウムイオンを添加して銀-アンミン錯体を形成し(銀錯体化工程)、得られた銀-アンミン錯体水溶液に還元剤を添加して、銀粒子を還元析出させる(還元工程)。還元剤により銀粒子を還元析出させた後、銀粒子を含むスラリー中に、表面処理剤のミセルの体積基準の累積50%粒径D50が1.5μm以下であるエマルションを添加して、銀粒子の表面に表面処理剤を付着させる(エマルション添加工程)。
添加するエマルションに含まれる脂肪酸の量は、銀-アンミン錯体水溶液中の銀の量に対して0.1質量%以上1.2質量%以下であることが好ましい。脂肪酸の量が銀の量に対して0.1質量%未満である場合には、粗大な銀粒子の発生頻度が高くなることがある。また、脂肪酸の量が銀の量に対して1.2質量%を超える場合にも、銀の粗大粒子の発生頻度が高くなることがある。より好ましくは、添加するエマルションに含まれる脂肪酸の量は、銀-アンミン錯体水溶液中の銀の量に対して0.1質量%以上1.0質量%以下であり、さらに好ましくは0.8質量%以下である
還元剤としては、銀粒子を還元析出させる還元剤であればよく、前述のように、アスコルビン酸、ブドウ糖、ホルムアルデヒド、ヒドラジン、炭酸ヒドラジンのうち1種以上を使用することができ、ホルムアルデヒド、ヒドラジンまたは炭酸ヒドラジンを使用するのが好ましい。
【0018】
銀粒子を還元析出した後、表面処理剤のミセルを含むエマルションを添加することにより表面処理を施された銀粒子を含む銀含有スラリーを固液分離し、得られた固形物を純水で洗浄して、固形分中の不純物を除去するのが好ましい。この洗浄の終点は、洗浄後の水の電気電導度により判断することができる。好ましくは、洗浄後の水の電気電導度が0.5mS/m以下になるまで洗浄する。
洗浄後に得られた塊状のケーキは、多くの水分を含有しているため、真空乾燥機などの乾燥機によって、乾燥した銀粉を得ることが好ましい。その際、乾燥の時点で銀粒子同士が焼結することを防止するために、乾燥温度は100℃以下であることが好ましい。また、得られた銀粉に乾式解砕処理や分級処理を施してもよい。ここで乾式解砕処理とは、乾燥時に粒子同士が凝集した銀粉の凝集体を、解砕する目的で実施される解砕処理である。解砕の方法は特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、撹拌翼を回転させて解砕し粉体を流動させる解砕機を用いることが好ましく、例えばヘンシェルミキサー、サンプルミル、ブレンダー、コーヒーミル等が用いられる。粉体がなるべく加熱しないように、回転数や時間や処理回数は適宜設定する。なお、乾式解砕処理を行う場合には、後述するカルボン酸被覆工程を兼ねても良い。
【0019】
[カルボン酸被覆工程]
本発明の製造方法においては、前記のエマルション添加工程において得られた表面処理剤で被覆された銀粉に、さらに多価カルボン酸を被覆する。多価カルボン酸を被覆した銀粉をペースト化して電極形成を行った場合に、得られた電極が低抵抗となる理由は現在のところ正確には判っていないが、本発明者は、銀粉末の表面に多価カルボン酸を付着させることで熱硬化時における銀粉末間の体積収縮を促進し、銀粉末同士の接触性を高めることができると推定している。
多価カルボン酸被覆の具体的な実施形態としては、以下のものが例示されるが、本発明における多価カルボン酸被覆の実施形態はそれらのみに限定されるものではない。
(1)銀粉の乾式解砕処理を行う際に、自然乾燥可能な溶媒に溶解した多価カルボン酸を添加して混合する。
(2)銀粉の洗浄後、乾燥前の状態で銀粉に多価カルボン酸を加えて混合し、その後乾燥する。
(3)乾燥後の銀粉に、多価カルボン酸と純水やアルコールを加え、スラリー状にした上で湿式解砕し、その後乾燥する。
上記の三種の実施形態の内、水分等を乾燥させるときの加熱温度による多価カルボン酸の変質を防ぐ観点で、(1)の乾式解砕を用いることが好ましい。
【0020】
[多価カルボン酸]
本発明の製造方法の最大の技術的特徴は、カルボキシル基を2個以上含む多価カルボン酸を銀粉に被覆することである。多価カルボン酸としては、例えばアジピン酸、コハク酸、ジグリコール酸、グルタル酸およびマレイン酸が例示される。特に、少量の添加で体積抵抗率が低下させる効果があるアジピン酸を用いることが好ましい。
銀粉に被覆するする多価カルボン酸の量は、材料銀粉の質量に対して0.01質量%~0.5質量%が好ましく、さらには0.02質量%~0.4質量%が好ましい。これは、多価カルボン酸の添加量が材料銀粉の質量に対して0.01質量%~0.5質量%の範囲外の量である場合、作製される導電膜の導電性向上効果が十分に得られないからである。
多価カルボン酸を被覆するために材料銀粉に添加する際、本実施の一形態では、多価カルボン酸は溶媒に溶解された状態で材料銀粉に添加される。この時溶解させた多価カルボン酸の濃度は1質量%~20質量%が好ましい。これは、多価カルボン酸の溶解濃度が1質量%未満の場合、溶液の量が多くなり溶媒除去のための乾燥時に溶液が偏在して、多価カルボン酸が均一に材料銀粉に被覆できない恐れがあり、また、溶解濃度が20質量%超の場合には、溶液の量が過少となり、多価カルボン酸が均一に材料銀粉に被覆できない恐れがあるからである。
また、多価カルボン酸を溶解させる溶媒としては、多価カルボン酸を溶解可能であればよい。上記(1)の実施形態では、常温で蒸発させることが可能(自然乾燥可能)であり、沸点が83℃以下で揮発性のある溶媒であれば、被覆後の溶媒除去が容易になるので好ましい。例えばアルコール、アセトンおよびメチルエチルエーテルやエチルエーテルなどのエーテル類等が例示される。上記(1)の実施形態では、乾式解砕処理完了時には多価カルボン酸を被覆した銀粉が乾燥状態になるように、溶媒の種類とその量を選択することがより好ましい。
【0021】
多価カルボン酸が添加された材料銀紛においては、多価カルボン酸が材料に均一に被覆するように乾式の解砕が行われることが好ましい。乾式の解砕は、多価カルボン酸が添加された材料銀粉を例えばヘンシェルミキサー、サンプルミル、ブレンダー、コーヒーミル等に入れることで行われる。そして、必要に応じて解砕による摩擦熱やもしくは乾燥工程によって多価カルボン酸を添加するために用いた溶媒を蒸発させる。これにより多価カルボン酸が被覆された材料銀粉が得られることになる。前記エマルション添加工程によって表面処理剤で被覆された銀粉を、さらに多価カルボン酸で被覆すると、銀粉の表面での銀との付着の状態は定かではないものの、銀表面においては、表面処理剤と多価カルボン酸とは共存した状態になると考えられる。
【0022】
[粒度分布測定]
銀粉の粒度分布は、協立理工株式会社製のサンプルミルSK-M10を用いて解砕を行った後、銀粉0.1gをイソプロピルアルコール(IPA)中に分散させ、日本精機製作所製の超音波ホモジナイザー(型式:US-150T)で2分間撹拌を行った後、レーザー回折式粒度分布測定装置(日機装株式会社製のマイクロトラックMT3300EXII)を用いて測定した。
[比表面積測定]
銀粉の比表面積は、BET法で測定した比表面積を用いる。BET法による比表面積の測定は、これを実現する比表面積測定装置を用いてよい。本実施形態では、BET法による比表面積の測定装置として、株式会社マウンテック製のMacsorb HM-model 1210を用いて測定した値を用いる。本実施形態では、比表面積の測定は、測定装置内に60℃で10分間He-N混合ガス(窒素30%)を通流して脱気した後、BET1点法により測定した値を用いる。
【0023】
[銀ペーストの製造方法]
後述する各実施例、比較例で得られた銀粉と、フレーク銀粉(DOWAハイテック株式会社製FA-S-20)とを4対6の割合とし、銀粉合計92.6質量%、エポキシ樹脂4.88質量%、硬化剤(和光純薬製 三フッ化ホウ素モノエチルアミン錯体)0.24質量%、溶剤(BCA:ブチルカルビトールアセテート)2.28質量%を、プロペラレス自公転式撹拌脱泡装置(株式会社EME製のVMX-N360)を用いて1200rpmで30秒撹拌し混合した後、3本ロール(EXAKT社製の80S)を用いて、ロールギャップを100μmから20μmまで通過させて混練し、導電性ペースト(銀ペースト)を得た。作製後、粘度を測定し、BCAを用いて、粘度計(ブルックフィールド製DV-3、CP-52コーン)を用いて、コーン回転数1rpmで測定した際に300Pa・sとなるように調整を行った(25℃で5分後の粘度を測定)。
【0024】
[スクリーン印刷]
上記の手順で得られた導電性ペーストについて、スクリーン印刷機(マイクロテック社製MT-320T)を用いて、スキージ圧0.18MPaの条件で、幅500μm、長さ37.5mmのラインパターンを印刷して導電性ペーストの膜を形成した。得られた膜を、大気循環式乾燥機を用い、200℃で30分間加熱硬化し、導電膜を形成した。得られた各導電膜について、表面粗さ計(東京精密株式会社製サーフコム480B-12)を用いて、アルミナ基板上で膜を印刷していない部分と導電膜の部分との段差を測定することにより、導電膜の平均厚さを求めた。一方、デジタルマルチメーター(ADVANTEST社製R6551)を用いて、各導電膜の抵抗値を測定した。導電膜のサイズ(膜厚、幅、長さ)より、導電膜の体積を求め、この体積と測定した抵抗値から、体積抵抗率を求めた。
【実施例0025】
[比較例1]
市販のエマルションの一例であるステアリン酸エマルション(中京油脂株式会社製のセロゾール920、水を82%含有)の5gに純水を添加し、後述の銀粉製造時の希釈倍率に合わせて全液量を50mLとした後(10倍希釈)、日機装株式会社製のマイクロトラックMT3300EXIIを用いてエマルションに含まれるミセルの粒度分布測定を行った。その粒度分布の測定結果を図1に示す。
10倍希釈したエマルション中に含まれるミセルの体積基準の累積10%粒径D10は0.8μm、累積50%粒径D50は4.0μm、累積90%粒径D90は9.8μmであった。それらの測定結果を表1に示す。
銀を45.3g含有する硝酸銀水溶液3375gに、60%硝酸水溶液を3.3g添加し、濃度28質量%の工業用アンモニア水76.5g(銀1モルに対しアンモニア1.5モル当量に相当する)を加えて、銀-アンミン錯体水溶液を得た。この銀-アンミン錯体水溶液の液温を35℃に調整した後に、当該銀-アンミン錯体水溶液を撹拌しながら、ベンゾトリアゾールナトリウム水溶液を、銀に対してベンゾトリアゾールナトリウムが0.5質量%となるように添加し、撹拌した後、濃度80質量%の含水ヒドラジン12.5gを純水130.2gで希釈した水溶液を加え、銀-アンミン錯体を還元することにより、銀粒子を含むスラリーを得た。さらに、得られた銀粒子を含むスラリーに対し、上記のステアリン酸エマルションを10倍希釈したものを17.54g添加した後、撹拌を停止して表面処理を施した銀粒子を沈降させた。その銀粒子が沈殿した液をろ過し、通水後の液の電気電導度が0.2mS/m以下になるまで水洗し、73℃で真空乾燥させた。その後、協立理工株式会社製のサンプルミルSK-M10を用いて解砕後、銀紛に対してアジピン酸量が0.07質量%となるように10質量%のアジピン酸エタノール溶液を添加し、協立理工株式会社製のサンプルミルSK-M10を用いて120gの銀粉に添加したアジピン酸エタノール溶液が均しく混ざるよう45秒間、2回混合して、ステアリン酸エマルションにより表面処理剤で被覆された銀粉をさらにアジピン酸で被覆させ、比較例1に係る銀粉を得た。得られた銀粉について、粒度分布および比表面積の測定を行った。そして、上記に記載のように銀ペーストを作製して体積抵抗率を測定した。測定結果を表2に示す。
【0026】
[実施例1]
上記の市販のステアリン酸エマルション5gを100mLビーカーに分取し、湯浴(恒温水槽)に入れて62.8℃に加温したところ、徐々に白色固体の発生が確認された。これは、セロゾールに含まれる乳化剤の曇点が60℃であるためである。上記の市販のステアリン酸エマルションに含まれる表面処理剤は脂肪酸のステアリン酸(融点:69.6℃)とパルミチン酸(融点:62.9℃)であり、それら脂肪酸の融点未満の温度で加温しているため、それら脂肪酸と界面活性剤との結合が切断され、白色固体が凝固したものであり、白色懸濁液はミセル形成時に脂肪酸の表面を覆っていた界面活性剤と、脂肪酸の固体と溶媒の水を含む懸濁液であると考えられる。加温から2分間で白色懸濁液の中での白色固体の生成がそれ以上起きない状態となったので、その状態で5分間保持した。
その後、ヒーター上にて95℃に加温し、白色固体となったステアリン酸とパルミチン酸とを融解させて油滴にした。白色懸濁液に前記の脂肪酸の油滴が浮いた状態のところに、ピペットを用いて沸騰水を10mL添加し、続いて全液量が50mLとなるまで沸騰水を添加した。その後、ビーカーを80℃の湯浴(恒温水槽)に移し、前記のホモジナイザーを用いて10000rpmで1.5分間の撹拌を行った後に湯浴から取り出して6時間放冷し、室温まで冷却して実施例1のエマルションを得た。得られたエマルションに含まれるミセルの粒度分布測定を行った結果を、図1に示す。なお、図1には比較のため、比較例1の測定結果を併せて示してある。
実施例1におけるミセルの体積基準の累積10%粒径D10は0.1μm、体積基準の累積50%粒径D50は0.2μm、累積90%粒径D90は0.5μmであり、微細化したエマルションが得られた。それらの測定結果を表1に示す。当該エマルションについて、調製より2週間後に粒度分布を測定したが、粒度分布はほとんど変化していなかった。
上記の手順で得られたエマルションから17.54gを分取して用いた以外は、比較例1と同様の手順により、実施例1に係る銀粉を得た。得られた銀粉について、粒度分布および比表面積の測定を行った。そして、上記に記載のように銀ペーストを作製し、体積抵抗率を測定した。それらの測定結果を表2に示す。
【0027】
[比較例2]
表面処理剤であるオレイン酸(日油株式会社製、NAA―34)1.75gと界面活性剤(花王製、エマルゲン350)0.525gを100mLビーカーに分取し、80℃程度に加熱し界面活性剤を融解する。そこに沸騰水を全液量が50mLになるまで添加し、日本精機製作所製のバイオミキサー(型式:BM―4)を用いて3000rpmで1.5分間の撹拌を行った後に室温まで冷却し、ミセルのD50が4.00μmのオレイン酸エマルションを得た。得られたエマルションに含まれるミセルの粒度分布測定を行った結果を、図2に示す。
比較例2におけるミセルの体積基準の累積10%粒径D10は1.26μm、累積50%粒径D50は4.00μm、累積90%粒径D90は10.1μmであった。それらの測定結果を表1に示す。
ステアリン酸エマルションを10倍希釈したものを使用せず、代わりとして当該オレイン酸エマルション7.77gを用い、60%硝酸水溶液を添加しないこと以外は比較例1と同様の手順により、比較例2に係る銀粉を得た。得られた銀粉について、粒度分布および比表面積の測定を行った。そして、上記に記載のように銀ペーストを作製し、体積抵抗率を測定した。それらの測定結果を表2に示す。
【0028】
[実施例2]
バイオミキサーの撹拌条件を10000rpmで1.5分間とした以外は比較例2と同様の手順により、ミセルのD50が0.15μmのオレイン酸エマルションを得た。得られたエマルションに含まれるミセルの粒度分布測定を行った結果を、図2に示す。なお、図2には比較のため、比較例2の測定結果を併せて示してある。
実施例2におけるミセルの体積基準の累積10%粒径D10は0.09μm、体積基準の累積50%粒径D50は0.15μm、累積90%粒径D90は0.27μmであり、微細化したエマルションが得られた。それらの測定結果を表1に示す。当該エマルションについて、調製より2週間後に粒度分布を測定したが、粒度分布はほとんど変化していなかった。
上記の手順により得られたエマルションを用いた以外は、比較例2と同様の手順により、実施例2に係る銀粉を得た。得られた銀粉について、粒度分布および比表面積の測定を行った。そして、上記に記載のように銀ペーストを作製し、体積抵抗率を測定した。それらの測定結果を表2に示す。
【0029】
[比較例3]
表面処理剤であるリノール酸(富士フイルム和光純薬製、純度88質量%)1.75gと界面活性剤(花王製、エマルゲン350)0.525gを100mLビーカーに分取し、80℃程度に加熱し界面活性剤を融解する。そこに沸騰水を全液量が50mLになるまで添加し、日本精機製作所製のバイオミキサー(型式:BM-4)を用いて3000rpmで1.5分間の撹拌を行った後に室温まで冷却し、ミセルのD50が3.1μmのリノール酸エマルションを得た。得られたエマルションに含まれるミセルの粒度分測定を行った結果を図3に示す。
比較例3におけるエマルションのミセルの体積基準の累積10%粒径D10は0.97μm、累積50%粒径D50は3.1μm、累積90%粒径D90は10.1μmであった。それらの測定結果を表1に示す。
ステアリン酸エマルションを10倍希釈したものを使用せず、代わりとして当該リノール酸エマルション8.83gを用い、60%硝酸水溶液を添加しないこと以外は、比較例1と同様の手順により、比較例3に係る銀粉を得た。得られた銀粉について、粒度分布および比表面積の測定を行った。そして、上記に記載のように銀ペーストを作製し、体積抵抗率を測定した。それらの測定結果を表2に示す。
【0030】
[実施例3]
バイオミキサーの撹拌条件を10000rpmで1.5分間とした以外は比較例3と同様の手順により、ミセルのD50が0.15μmのリノール酸エマルションを得た。得られたエマルションに含まれるミセルの粒度分布測定を行った結果を、図3に示す。なお、図3には比較のため、比較例3の測定結果を併せて示してある。
実施例3におけるミセルの体積基準の累積10%粒径D10は0.09μm、体積基準の累積50%粒径D50は0.15μm、累積90%粒径D90は0.24μmであり、微細化したエマルションが得られた。それらの測定結果を表1に示す。当該エマルションについて、調製より2週間後に粒度分布を測定したが、粒度分布はほとんど変化していなかった。
上記の手順で得られたエマルションを用いた以外は、比較例3と同様の手順により、実施例3に係る銀粉を得た。得られた銀粉について、粒度分布および比表面積の測定を行った。そして、上記に記載のように銀ペーストを作製し、体積抵抗率を測定した。それらの測定結果を表2に示す。
【0031】
【表1】
【0032】
【表2】
【0033】
以上の結果から、実施例1~3における本発明の累積50%粒子径D50が1.5μm以下の表面処理剤のミセルを含むO/W型のエマルションを使用して銀粉を製造した後に、多価カルボン酸で被覆する工程を経て得られた銀粉は、得られた銀粉をペースト化して電極形成を行った場合に低抵抗となることが分かる。
【0034】
比較例1と実施例1において、アジピン酸エタノール溶液を添加せず、アジピン酸エタノール溶液のサンプルミルSK-M10を用いた混合を行わなかった以外は比較例1および実施例1と同様の手順で銀粉を得て、導電膜の体積抵抗率の確認を行った。その結果、比較例1においてアジピン酸を添加しない場合の体積抵抗率が28.5μΩ・cmであったのに対し、アジピン酸を添加している比較例1では22.7μΩ・cmに減少した。また、実施例1においてアジピン酸添加しない場合の体積抵抗率は21.4μΩ・cmであったが、アジピン酸を添加している実施例1では18.9μΩ・cmに減少した。すなわち、アジピン酸を添加した方が、アジピン酸を添加しない場合よりも体積抵抗率の値が小さくなることが分かった。
【0035】
【表3】
図1
図2
図3