(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023004260
(43)【公開日】2023-01-17
(54)【発明の名称】可変減衰型アクティブダンパーの制御システムと制御方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G01M 7/02 20060101AFI20230110BHJP
E04H 9/02 20060101ALI20230110BHJP
F16F 15/02 20060101ALI20230110BHJP
F16F 15/023 20060101ALI20230110BHJP
F16F 9/19 20060101ALI20230110BHJP
F16F 9/46 20060101ALI20230110BHJP
【FI】
G01M7/02 H
E04H9/02 301
F16F15/02 A
F16F15/023 A
F16F9/19
F16F9/46
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021105848
(22)【出願日】2021-06-25
(71)【出願人】
【識別番号】390037154
【氏名又は名称】大和ハウス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】薮田 智裕
(72)【発明者】
【氏名】吉田 文久
(72)【発明者】
【氏名】西 拓馬
【テーマコード(参考)】
2E139
3J048
3J069
【Fターム(参考)】
2E139AA01
2E139AA05
2E139AA17
2E139AB01
2E139AB16
2E139AC03
2E139AC06
2E139AC08
2E139AC10
2E139AC43
2E139BC15
2E139BD33
2E139CA02
2E139CA21
2E139CC02
2E139CC07
3J048AA06
3J048AB07
3J048AC04
3J048AD05
3J048BE03
3J048CB21
3J048DA04
3J048EA38
3J069AA50
3J069DD11
3J069EE63
(57)【要約】
【課題】時定数の影響を受けることなく期待される振動低減効果を得ることのできる、可変減衰型アクティブダンパーの制御システムと制御方法、及びプログラムを提供すること。
【解決手段】可変減衰型アクティブダンパーの制御システム60は、振動計50と、計測波形データを受信し、受信済みデータに基づいて予測波形データを作成してアクティブダンパー20を駆動制御する制御装置30とを有し、制御装置30は、アクティブダンパー20に対して減衰力信号を送信する通信部302と、受信済みデータに基づいて予測波形データを作成する予測部304と、予測波形データを使用して各時刻における減衰力を特定して減衰力信号を生成し、減衰力の切り換えに伴う時定数を特定する制御信号生成部306とを有し、通信部302より時定数に相当する時間を前倒して減衰力信号がアクティブダンパー20に送信される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物に搭載されている可変減衰型アクティブダンパーを制御する、可変減衰型アクティブダンパーの制御システムであって、
地震波形もしくは建物振動を計測する振動計と、
前記振動計により計測された、時々刻々変化する計測波形データを受信し、受信した該計測波形データの所定時刻までの受信済みデータに基づいて予測波形データを作成し、該予測波形データに基づいて前記可変減衰型アクティブダンパーを駆動制御する、制御装置とを有し、
前記制御装置は、
前記振動計から前記計測波形データを受信し、前記可変減衰型アクティブダンパーに対して減衰力に関する減衰力信号を送信する、通信部と、
受信した前記計測波形データの所定時刻までの受信済みデータに基づいて、該所定時刻以降の波形の予測を実行して前記予測波形データを作成する、予測部と、
前記予測波形データを使用して、各時刻における前記減衰力を特定して前記減衰力信号を生成するとともに、該減衰力の切り換えに伴う時定数を特定する、制御信号生成部とを有し、
前記予測部は、予め機械学習によって複数の周波数の正弦波を学習することにより得られている学習結果に基づいて、前記計測波形データから前記予測波形データを作成し、
前記通信部より、前記時定数に相当する時間を前倒して前記減衰力信号が前記可変減衰型アクティブダンパーに送信されることを特徴とする、可変減衰型アクティブダンパーの制御システム。
【請求項2】
前記制御装置が機械学習部をさらに有し、該機械学習部における機械学習によって、複数の周波数の前記正弦波を学習することにより前記学習結果を得ることを特徴とする、請求項1に記載の可変減衰型アクティブダンパーの制御システム。
【請求項3】
前記可変減衰型アクティブダンパーの制御システムが、前記制御装置とは別に機械学習装置を有し、
前記機械学習装置における機械学習によって、複数の周波数の前記正弦波を学習することにより前記学習結果を得ることを特徴とする、請求項1に記載の可変減衰型アクティブダンパーの制御システム。
【請求項4】
前記正弦波の長さは、一波長以上の長さであることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の可変減衰型アクティブダンパーの制御システム。
【請求項5】
前記機械学習部もしくは前記機械学習装置は、機械学習の際に、前記建物の固有振動数に関する固有振動数データを参照し、
機械学習の際には、複数の前記正弦波のうち、前記固有振動数に近い振動数の該正弦波を選定して機械学習することを特徴とする、請求項2、請求項3、請求項2又は3に従属する請求項4のいずれか一項に記載の可変減衰型アクティブダンパーの制御システム。
【請求項6】
建物に搭載されている可変減衰型アクティブダンパーを制御する、可変減衰型アクティブダンパーの制御方法であって、
振動計により計測された、時々刻々変化する地震波形もしくは建物振動に関する計測波形データを受信する、受信工程と、
機械学習を実行して、複数の周波数の正弦波を重ね合わせることにより、学習結果を得る機械学習工程と、
受信した前記計測波形データの所定時刻までの受信済みデータと、前記機械学習工程にて得られている前記学習結果とに基づいて、該所定時刻以降の波形の予測を実行して予測波形データを作成する、予測工程と、
前記予測波形データを使用して、各時刻における減衰力を特定して減衰力信号を生成するとともに、該減衰力の切り換えに伴う時定数を特定する、制御信号生成工程と、
前記時定数に相当する時間を前倒して前記減衰力信号を前記可変減衰型アクティブダンパーに送信し、該可変減衰型アクティブダンパーの減衰力の切り換えを行いながら駆動させる、ダンパー駆動工程とを有することを特徴とする、可変減衰型アクティブダンパーの制御方法。
【請求項7】
建物に搭載されている可変減衰型アクティブダンパーを制御するコンピュータに、以下の処理を実行させるプログラムであって、
機械学習を実行して、複数の周波数の正弦波を重ね合わせることにより、学習結果を得る機械学習工程と、
振動計により計測され、受信された時々刻々変化する地震波形もしくは建物振動に関する計測波形データの所定時刻までの受信済みデータと、前記学習結果とに基づいて、該所定時刻以降の波形の予測を実行して予測波形データを作成する、予測工程と、
前記予測波形データを使用して、各時刻における減衰力を特定して減衰力信号を生成するとともに、該減衰力の切り換えに伴う時定数を特定する、制御信号生成工程と、
前記時定数に相当する時間を前倒して前記減衰力信号を前記可変減衰型アクティブダンパーに送信し、該可変減衰型アクティブダンパーの減衰力の切り換えを行いながら駆動させる、ダンパー駆動工程と、を実行させることを特徴とする、プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可変減衰型アクティブダンパーの制御システムと制御方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
アクティブダンパーが搭載されている中高層や高層、超高層建物等においては、アクティブダンパーによる所謂アクティブ制御によってエネルギを外部から能動的に建物に供給することにより、建物に作用する地震荷重や風荷重に起因する振動が抑制されている。建物の免震性能を向上させるべく、このアクティブダンパーには、複数段の減衰性能を発揮させることを可能にした、可変減衰型アクティブダンパーが適用される場合がある。可変減衰型アクティブダンパーは、建物の応答量に応じてダンパーの減衰性能を変化させることにより、建物に生じる変形と加速度を効果的に低減することができ、このダンパーを適用した免震技術や免震制御はセミアクティブ免震やセミアクティブ免震制御と称されている。
【0003】
例えば、可変減衰型アクティブダンパーは、オイルが充満したシリンダの内部をピストンが摺動するオイルダンパーにより形成され、電磁弁の開閉等により、減衰係数(減衰力)を複数段階に切換え自在に構成されている。このダンパーの減衰力の切換えの際には、例えばピストンの摺動速度に応じた時間遅れが発生する。すなわち、減衰力に応じてピストンの摺動速度が変化することから、時間遅れは減衰力に応じて変化することになる。そのため、地震荷重や風荷重といった外力やこの外力に起因する建物振動の低減に好適な減衰力を発揮させるべく、アクティブダンパーに対して当該減衰力に対応する指令信号を送信したとしても、上記時間遅れにより、期待される振動低減効果が得られないといった課題が生じる。尚、ダンパーの減衰力の切換えに伴う上記時間遅れは、「時定数」と称される。
【0004】
ここで、非特許文献1には、リアルタイムに地動加速度の共振成分を抽出できると仮定した上で、共振周波数周辺の狭帯域でバンドパスフィルタ処理した波を対象に、ディープラーニング手法を用いた数秒先の地動加速度の共振成分を予測し、アクティブダンパーをフィードフォワード制御する、長周期地震動に対する超高層ビルの共振応答予測制御方法が開示されている。ここで、ディープラーニングには、時系列学習に適したRNN(Recurrent Neural Network)、LSTM(Long Short-Term Memory)、GRU(Gated Recurrent Unit)を波形予測モデルとして適用し、モデルの学習に際して、制御対象モデル主系の固有振動数を含む4.5秒乃至5.5秒の帯域でバンドパスフィルタ処理を行っている。そして、過去15秒の数値データを学習データとし、現時点から1ステップ先の数値データを教師データとし、数秒先を予測させるために、予測した1ステップ先の情報を既知として次の1ステップ先を予測するサイクルを繰り返し、現時点から15秒先の数値データを予測するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献1】日本建築学会大会学術講演梗概集(北陸)2019年9月 p909~p910 長周期地震動に対する超高層ビルの共振応答予測制御
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非特許文献1に記載の共振応答予測制御方法は、ディープラーニング手法を用いた数秒先の地動加速度の共振成分を予測し、アクティブダンパーをフィードフォワード制御する技術であるが、可変減衰型アクティブダンパーにおいて、時定数に起因して十分な振動低減効果が得られないといった課題を解消するものではない。
【0007】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、可変減衰型アクティブダンパーにおいて、時定数の影響を受けることなく、期待される振動低減効果を得ることのできる、可変減衰型アクティブダンパーの制御システムと制御方法、及びプログラムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成すべく、本発明による可変減衰型アクティブダンパーの制御システムの一態様は、
建物に搭載されている可変減衰型アクティブダンパーを制御する、可変減衰型アクティブダンパーの制御システムであって、
地震波形もしくは建物振動を計測する振動計と、
前記振動計により計測された、時々刻々変化する計測波形データを受信し、受信した該計測波形データの所定時刻までの受信済みデータに基づいて予測波形データを作成し、該予測波形データに基づいて前記可変減衰型アクティブダンパーを駆動制御する、制御装置とを有し、
前記制御装置は、
前記振動計から前記計測波形データを受信し、前記可変減衰型アクティブダンパーに対して減衰力に関する減衰力信号を送信する、通信部と、
受信した前記計測波形データの所定時刻までの受信済みデータに基づいて、該所定時刻以降の波形の予測を実行して前記予測波形データを作成する、予測部と、
前記予測波形データを使用して、各時刻における前記減衰力を特定して前記減衰力信号を生成するとともに、該減衰力の切り換えに伴う時定数を特定する、制御信号生成部とを有し、
前記予測部は、予め機械学習によって複数の周波数の正弦波を学習することにより得られている学習結果に基づいて、前記計測波形データから前記予測波形データを作成し、
前記通信部より、前記時定数に相当する時間を前倒して前記減衰力信号が前記可変減衰型アクティブダンパーに送信されることを特徴とする。
【0009】
本態様によれば、制御装置の予測部において、計測波形データの所定時刻までの受信済みデータに基づいて予測波形データを作成し、制御装置の制御信号生成部において、予測波形データを使用して、各時刻における減衰力と、減衰力の切り換えに伴う時定数とを特定し、制御装置の通信部において、時定数に相当する時間を前倒して減衰力信号を可変減衰型アクティブダンパーに送信することにより、時定数の影響を受けることなく、アクティブダンパーに期待される振動低減効果を得ることができる。また、予測部においては、予め機械学習によって複数の周波数の正弦波を学習することにより得られている学習結果に基づいて、計測波形データから予測波形データを作成することによって、精度の高い予測波形データを作成することができる。さらに、機械学習に際して複数の周波数の正弦波を使用することにより、汎用性の高い予測波形データの作成が可能になる。
【0010】
ここで、「学習結果」とは、例えば、過去計測された様々な地震波形や建物の振動波形(建物の高さや剛性等により決定される建物の振動波形)を機械学習した際に得られている、重みもしくはパラメータのことである。本例においては、受信した計測波形データの所定時刻までの受信済みデータの全体波形の重み(例えば重みA)と、予測したい時刻の少し前のステップの波形の重み(例えば重みB)の各重みA,B(例えば重みBの方が相対的に大)が学習結果として得られていて、全体波形や少し前のステップの波形に対して学習結果である重みA,B等を考慮することにより、予測波形データが作成される。
【0011】
また、本態様による制御対象の建物には、中高層や高層、超高層建物の他、低層建物も含まれ、可変減衰型アクティブダンパーにより制御される建物振動は、地震荷重による振動や台風等の強風に起因する風荷重による振動の他、各種の機械振動による振動、交通振動による振動等が含まれる。
【0012】
また、本発明によるアクティブダンパーの制御システムの他の態様は、
前記制御装置が機械学習部をさらに有し、該機械学習部における機械学習によって、複数の周波数の前記正弦波を学習することにより前記学習結果を得ることを特徴とする。
【0013】
本態様によれば、制御装置の備える機械学習部にて機械学習を行うことにより、受信された計測波形データと、機械学習による学習結果とに基づく予測波形データの作成を、共通の制御装置により実行することができ、可及的にシンプルな構成の制御システムを構築することができる。
【0014】
また、本発明によるアクティブダンパーの制御システムの他の態様において、
前記可変減衰型アクティブダンパーの制御システムが、前記制御装置とは別に機械学習装置を有し、
前記機械学習装置における機械学習によって、複数の周波数の前記正弦波を学習することにより前記学習結果を得ることを特徴とする。
【0015】
本態様によれば、制御装置とは別の機械学習装置にて機械学習を行うことにより、予測波形データを作成して減衰力信号をダンパーに送信する制御装置を、可及的にシンプルな構成の装置にできる。
【0016】
また、本発明によるアクティブダンパーの制御システムの他の態様において、
前記正弦波の長さは、一波長以上の長さであることを特徴とする。
【0017】
本態様によれば、機械学習において使用する各周波数の正弦波が一波長以上の長さを有していることにより、精度の高い予測波形データを作成し易くなる。
【0018】
また、本発明によるアクティブダンパーの制御システムの他の態様において、
前記機械学習部もしくは前記機械学習装置は、機械学習の際に、前記建物の固有振動数に関する固有振動数データを参照し、
機械学習の際には、複数の前記正弦波のうち、前記固有振動数に近い振動数の該正弦波を選定して機械学習することを特徴とする。
【0019】
本態様によれば、制御対象の建物の固有振動数に近い振動数の正弦波を選定して機械学習することにより、効率的かつ効果的に予測波形データを作成できるとともに、制御対象の建物の振動抑制を行うことができる。ここで、建物の固有振動数は、建物の高さ及び剛性や、建物の解析モデル等に基づいて予め特定されており、例えば機械学習装置に固有振動数データが入力され、格納されていて、格納されている固有振動数データに一致する、もしくは近接する周波数の正弦波を選択してよい。
【0020】
また、本発明によるアクティブダンパーの制御システムの他の態様において、
建物に搭載されている可変減衰型アクティブダンパーを制御する、可変減衰型アクティブダンパーの制御方法であって、
振動計により計測された、時々刻々変化する地震波形もしくは建物振動に関する計測波形データを受信する、受信工程と、
機械学習を実行して、複数の周波数の正弦波を重ね合わせることにより、学習結果を得る機械学習工程と、
受信した前記計測波形データの所定時刻までの受信済みデータと、前記機械学習工程にて得られている前記学習結果とに基づいて、該所定時刻以降の波形の予測を実行して予測波形データを作成する、予測工程と、
前記予測波形データを使用して、各時刻における減衰力を特定して減衰力信号を生成するとともに、該減衰力の切り換えに伴う時定数を特定する、制御信号生成工程と、
前記時定数に相当する時間を前倒して前記減衰力信号を前記可変減衰型アクティブダンパーに送信し、該可変減衰型アクティブダンパーの減衰力の切り換えを行いながら駆動させる、ダンパー駆動工程とを有することを特徴とする。
【0021】
本態様によれば、予測工程において、計測波形データの所定時刻までの受信済みデータと、機械学習工程にて得られている学習結果とに基づいて予測波形データを作成し、制御信号生成工程において、予測波形データを使用して、各時刻における減衰力と、減衰力の切り換えに伴う時定数とを特定し、ダンパー駆動工程において、時定数に相当する時間を前倒して減衰力信号を可変減衰型アクティブダンパーに送信することにより、時定数の影響を受けることなく、アクティブダンパーに期待される振動低減効果を得ることができる。尚、予測波形データは時々刻々変化することから、予測工程、制御信号生成工程、及びダンパー駆動工程をシーケンシャルな一連の工程ユニットとした際に、例えば建物振動が一定規模に収まるまでの間はこの工程ユニットが繰り返し実行される。
【0022】
また、本発明によるプログラムの一態様は、
建物に搭載されている可変減衰型アクティブダンパーを制御するコンピュータに、以下の処理を実行させるプログラムであって、
機械学習を実行して、複数の周波数の正弦波を重ね合わせることにより、学習結果を得る機械学習工程と、
振動計により計測され、受信された時々刻々変化する地震波形もしくは建物振動に関する計測波形データの所定時刻までの受信済みデータと、前記学習結果とに基づいて、該所定時刻以降の波形の予測を実行して予測波形データを作成する、予測工程と、
前記予測波形データを使用して、各時刻における減衰力を特定して減衰力信号を生成するとともに、該減衰力の切り換えに伴う時定数を特定する、制御信号生成工程と、
前記時定数に相当する時間を前倒して前記減衰力信号を前記可変減衰型アクティブダンパーに送信し、該可変減衰型アクティブダンパーの減衰力の切り換えを行いながら駆動させる、ダンパー駆動工程と、を実行させることを特徴とする。
【0023】
本態様によれば、機械学習により学習結果を得る工程、計測波形データの所定時刻までの受信済みデータと学習結果とに基づいて予測波形データを作成する工程、予測波形データを使用して減衰力信号を生成し、減衰力の切り換えに伴う時定数を特定する工程、時定数に相当する時間を前倒して減衰力信号を可変減衰型アクティブダンパーに送信し、減衰力の切り換えを行いながら駆動させる工程を、プログラムを介してコンピュータに実行させることにより、時定数の影響を受けることなく、アクティブダンパーに期待される振動低減効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0024】
以上の説明から理解できるように、本発明の可変減衰型アクティブダンパーの制御システムと制御方法、及びプログラムによれば、可変減衰型アクティブダンパーにおいて、時定数の影響を受けることなく、期待される振動低減効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】実施形態に係る可変減衰型アクティブダンパーの制御システムの一例を搭載した建物を示す模式図である。
【
図2】可変減衰型アクティブダンパーの油圧回路図である。
【
図3】コンピュータのハードウェア構成の一例を示す図である。
【
図4】(a)は、制御システムを構成する制御装置の機能構成の一例を示す図であり、(b)は、制御システムを構成する機械学習装置の機能構成の一例を示す図である。
【
図5】機械学習装置における機械学習方法の一例を説明する図である。
【
図6】予測波形データを作成する方法の一例を説明する図である。
【
図7】オイルダンパーのピストン速度と時定数の関係の一例を示す図である。
【
図8A】既往の地震波形(Elcentro)と、機械学習により作成された予測波形をともに示した図である。
【
図8B】既往の地震波形(Hachinohe)と、機械学習により作成された予測波形をともに示した図である。
【
図8C】既往の地震波形(Taft)と、機械学習により作成された予測波形をともに示した図である。
【
図8D】既往の地震波形(JMA Kobe)と、機械学習により作成された予測波形をともに示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、実施形態に係る可変減衰型アクティブダンパーの制御システムと制御方法、及びプログラムの一例について、添付の図面を参照しながら説明する。尚、本明細書及び図面において、実質的に同一の構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省く場合がある。
【0027】
[実施形態に係る可変減衰型アクティブダンパーの制御システムと制御方法、及びプログラム]
図1乃至
図7を参照して、実施形態に係る可変減衰型アクティブダンパーの制御システムと制御方法、及びプログラムの一例について説明する。ここで、
図1は、実施形態に係る可変減衰型アクティブダンパーの制御システムの一例を搭載した建物を示す模式図であり、
図2は、可変減衰型アクティブダンパーの油圧回路図である。
【0028】
可変減衰型アクティブダンパー20が搭載される建物10は、30階建ての高層建物の最上階に、可変減衰型アクティブダンパー20が搭載されている建物である。尚、振動制御対象の建物は、図示例の階数やプロポーション(細長比)に限定されるものでなく、低層建物から超高層建物の住宅やマンション、オフィスビル、物流倉庫、体育館等、多様な建物が含まれる。また、建物には、積層ゴム装置や滑り免震装置等の免震装置が、基礎や途中階に設けられていてもよいし、建物が地下室を有していてもよく、地下室に免震装置が搭載された地下免震構造であってもよい。また、図示例における可変減衰型アクティブダンパーにより制御される建物振動は、地震荷重による振動として説明しているが、建物振動にはその他、台風等の強風に起因する風荷重による振動や、各種の機械振動による振動、交通振動による振動等であってもよい。
【0029】
可変減衰型アクティブダンパーの制御システム60は、複数(図示例は二つ)の振動計50と、制御装置30と、機械学習装置40とを有する。尚、制御装置が機械学習部を備えている形態であってもよく、この形態では、機械学習装置を不要にできる。
【0030】
建物10の最上階には、シリンダ21とピストン22を主たる構成要素とするオイルダンパーからなる可変減衰型アクティブダンパー20と、一方の振動計50Aが載置されている。また、建物10の1階には、制御装置30及び機械学習装置40と、他方の振動計50Bが載置されている。ここで、振動計50は、最上階のみに設置されていてもよいし、各階に設置されていてもよいし、任意の一つの階もしくは複数階に設置されていてもよい。
【0031】
例えば、地盤Gを介して地震動Eが建物10に作用すると、建物10は自身の固有振動数でX1方向に振動する。アクティブダンパーは、アクティブ制御によってエネルギを能動的に建物に供給することにより建物の振動を抑制もしくは低減するものであるが、可変減衰型アクティブダンパーは、複数の減衰力の発生を可能として、時々刻々変化する建物振動に好適な減衰力にて建物振動を抑制するダンパーである。
【0032】
建物10の最上階において、一対の固定治具28に対してアクティブダンパー20を構成するシリンダ21とピストン22が固定され、建物10のX1方向の振動の際に、シリンダ21に対してピストン22がX2方向に摺動することにより、建物10に対してエネルギを供給自在となっている。
【0033】
最上階の建物振動は振動計50Aにて計測され、最上階の計測波形データは制御装置30に対してZ1方向に送信される。
【0034】
一方、一階の建物振動は振動計50Bにて計測され、その計測波形データは同様に制御装置30に対してZ2方向に送信される。ここで、一階の建物振動は、建物に入力された地震波形に同定してもよいが、建物10の外側の地盤G等に不図示の振動計を地震計として設置しておき、この地震計による計測地震波形データを制御装置30が受信してもよい。
【0035】
また、機械学習装置40は、集中的に機械学習を行うことにより学習結果を予め求めておき、得られた学習結果を制御装置30に対してZ3方向に送信する。ここで、各振動計50A,50B及び機械学習装置40と、制御装置30とは、無線通信もしくは有線通信により、計測波形データや学習結果データ等の送受信を行うものであるが、図示例では無線通信によりデータの送受信を行うシステムとして説明する。
【0036】
制御装置30は、振動計50A,50Bにより計測された、時々刻々変化する計測波形データを受信し、受信した計測波形データの所定時刻までの受信済みデータと、機械学習装置40から得られている学習結果とに基づいて、該所定時刻以降の波形の予測を実行して予測波形データを作成する。そして、作成された予測波形データを使用して、予測波形データの各時刻における減衰力を特定して減衰力信号を生成し、減衰力信号を可変減衰型アクティブダンパー20に対してZ4方向に送信することにより、可変減衰型アクティブダンパー20の駆動制御を実行する。
【0037】
ここで、各時刻における減衰力を特定して減衰力信号を生成する際には、ある減衰力から他の減衰力への減衰力の切り換えに伴う時定数を同時に特定し、時定数に相当する時間を前倒して減衰力信号を可変減衰型アクティブダンパー20に送信するようになっている。
【0038】
図2に示すように、可変減衰型アクティブダンパー20は、可変減衰型のオイルダンパーである。図示例のオイルダンパー20は、シリンダ21に通じる閉回路である油圧回路23を備え、相互に並列な二つの電磁弁24と調圧弁26からなる油路を二系統備え、さらにリリーフ弁25を備えている。
【0039】
図2に示す状態は、各電磁弁24が閉じた状態を示しており、主回路をY1方向に油が流れる状態であり、減衰力(減衰係数)が大きな場合の回路状態である。これに対して、各電磁弁24を開くことにより、油が電磁弁24をY2方向に流れ、対応する調圧弁26をY3方向に流れる状態となることで、減衰力(減衰係数)を小さくすることができる。電磁弁の数(油路の系統数)を所望数に設定することにより、二段乃至数段、もしくは十数段の減衰力の切り換えが可能になる。
【0040】
次に、
図3乃至
図7を参照して、コンピュータに含まれる制御装置30と機械学習装置40のハードウェア構成及び機能構成を説明するとともに、機械学習装置40における機械学習方法の一例と、制御装置30における予測波形データの作成方法の一例について説明する。ここで、
図3は、コンピュータのハードウェア構成の一例を示す図であり、
図4(a)は、制御システムを構成する制御装置の機能構成の一例を示す図であり、
図4(b)は、制御システムを構成する機械学習装置の機能構成の一例を示す図である。また、
図5は、機械学習装置における機械学習方法の一例を説明する図であり、
図6は、予測波形データを作成する方法の一例を説明する図である。さらに、
図7は、オイルダンパーのピストン速度と時定数の関係の一例を示す図である。
【0041】
制御装置30と機械学習装置40はパーソナルコンピュータやワークステーション(WS:Work Station)等の情報処理装置からなり、いずれも
図2に示すコンピュータにより構成される。
【0042】
制御装置30等のコンピュータは、接続バス36により相互に接続されているCPU(Central Processing Unit)31、主記憶装置32、補助記憶装置33、通信IF(interface)34、及び入出力IF35を備えている。主記憶装置32と補助記憶装置33は、コンピュータが読み取り可能な記録媒体である。尚、上記の構成要素はそれぞれ個別に設けられてもよいし、一部の構成要素を設けないようにしてもよい。
【0043】
CPU31は、コンピュータからなる制御装置30等の全体の制御を行う中央演算処理装置である。CPU31は、例えば、補助記憶装置33に記憶されたプログラムを主記憶装置32の作業領域にて実行可能に展開し、プログラムの実行を通じて周辺機器の制御を行うことにより、所定の目的に合致した機能を提供する。
【0044】
主記憶装置32は、CPU31が実行するコンピュータプログラムや、CPU31が処理するデータ等を記憶する。主記憶装置32は、例えば、フラッシュメモリ、RAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)を含む。補助記憶装置33は、各種のプログラム及び各種のデータを読み書き自在に記録媒体に格納し、外部記憶装置とも呼ばれる。補助記憶装置33には、例えば、OS(Operating System)、各種プログラム、各種テーブル等が格納される。OSは、例えば、通信IF34を介して接続される外部装置等とのデータの受け渡しを行う通信インターフェースプログラムを含む。外部装置等には、例えば、ネットワークに接続するパーソナルコンピュータ(PC)、ワークステーション(WS)、ゲートウェイ等が含まれる。ここで、ネットワークには、インターネット等の公衆ネットワーク、携帯電話網等の無線ネットワーク、VPN(Virtual Private Network)等の専用ネットワーク、LAN(Local Area Network)等が含まれる。
【0045】
補助記憶装置33は、例えば、主記憶装置32を補助する記憶領域として使用され、CPU31が実行するコンピュータプログラムや、CPU31が処理するデータ等を記憶する。補助記憶装置33は、不揮発性半導体メモリ(フラッシュメモリ、EPROM(Erasable Programmable ROM))を含むシリコンディスク、ハードディスクドライブ(HDD:Hard Disk Drive)装置、ソリッドステートドライブ装置等である。また、補助記憶装置33として、CDドライブ装置、DVDドライブ装置、BDドライブ装置といった着脱可能な記録媒体の駆動装置が例示され、着脱可能な記録媒体として、CD、DVD、BD、USB(Universal Serial Bus)メモリ、SD(Secure Digital)メモリカード等が例示される。
【0046】
通信IF34は、制御装置30等が接続するネットワークとのインターフェイスである。通信IF34は、ネットワークを介して、建物10に搭載されている振動計50から計測波形データを受信し、また、機械学習装置40から学習結果データを受信する一方、制御装置30にて生成された制御信号を可変減衰型アクティブダンパー20に送信する。
【0047】
入出力IF35は、制御装置30等に接続する機器との間でデータの入出力を行うインターフェイスである。入出力IF35には、例えば、キーボード、タッチパネルやマウス等のポインティングデバイス、マイクロフォン等の入力デバイス等が接続する。制御装置30等は、入出力IF35を介し、入力デバイスを操作する操作者からの操作指示等を受け付ける。
【0048】
また、入出力IF35には、例えば、液晶パネル(LCD:Liquid Crystal Display)や有機ELパネル(EL:Electroluminescence)等の表示デバイス、プリンタ、スピーカ等の出力デバイスが接続される。例えば、機械学習装置40においては、建物10の固有振動数データが入出力IF35を介して入力され、機械学習装置40は、複数の周波数の正弦波の中から、この固有振動数に近い振動数の一つもしくは複数の正弦波を選定して機械学習を実行する。また、機械学習装置40や制御装置30では、機械学習による学習結果データや、作成された予測波形データ等が入出力IF35を構成する表示デバイスに表示される。
【0049】
図4(a)に示すように、制御装置30は、CPU31によるプログラムの実行により、少なくとも、第一通信部302、予測部304、制御信号生成部306,及び第一格納部308(格納部の一例)の各種機能を提供する。尚、上記処理機能の少なくとも一部が、DSP(Digital Signal Processor)、GPU(Graphics Processing Unit)等によって提供されてもよく、同様に、上記処理機能の少なくとも一部が、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、数値演算プロセッサ、画像処理プロセッサ等の専用LSI(large scale integration)やその他のデジタル回路等であってもよい。
【0050】
第一通信部302は、建物10の最上階と一階に設置されている振動計50A,50Bから送信される、建物振動に起因する計測波形データをネットワークを介して受信し、第一格納部308に随時格納する。さらに、第一通信部302は、機械学習装置40にて機械学習された学習結果データを受信し、同様に第一格納部308に格納する。
【0051】
予測部304は、第一格納部308に格納されている計測波形データを読み出し、計測波形データの所定時刻までの受信済みデータに基づいて、所定時刻以降の波形の予測を実行して予測波形データを作成する。より詳細には、受信済みデータと、機械学習装置40における学習結果とに基づいて予測波形データを作成する。以下、機械学習装置40における機械学習方法を説明した後に、予測部304における予測波形データの作成方法を詳説する。作成された予測波形データは、第一格納部308に格納される。
【0052】
制御信号生成部306は、第一格納部308から予測波形データを読み出し、予測波形データにおける各時刻の減衰力を特定して減衰力信号を生成し、さらに、減衰力の切り換えに伴う時定数を特定する。
【0053】
オイルダンパーによる減衰力に応じて、当該オイルダンパーを構成するピストン22の摺動速度(ピストン速度)は相違し、ピストンの摺動速度に応じた時間遅れである時定数(すなわち、減衰力に応じた時定数)が相違することになる。
【0054】
図7に示す例では、ピストン速度が20cm/s未満(17cm/s以下)における時定数は0.16sであり、ピストン速度が17cm/s~40cm/sの範囲で一次関数的に時定数0.03sまで小さくなり、ピストン速度が40cm/s以上では時定数0.03sで一定となる。
【0055】
例えば、オイルダンパー20の減衰力と時定数との関係を示す
図7の関係グラフデータが、第一格納部308に格納される。そして、制御信号生成部306は、予測波形データにおける各時刻の減衰力を特定して減衰力信号を生成した際に、この特定された減衰力に応じた時定数を関係グラフから特定する。
【0056】
第一通信部302より、制御信号生成部306にて特定された時定数に相当する時間を前倒して減衰力信号を可変減衰型アクティブダンパー20に送信することにより、可変減衰型アクティブダンパー20において、時定数の影響を受けることなく、期待される振動低減効果を得ることが可能になる。
【0057】
一方、
図4(b)に示すように、機械学習装置40は、CPUによるプログラムの実行により、少なくとも、第二通信部402、機械学習部404,及び第二格納部406の各種機能を提供する。
【0058】
第二通信部402は、機械学習部404にて機械学習され、第二格納部406に格納されている学習結果データを、制御装置30の第一通信部302に送信する。
【0059】
機械学習部404は、所定の機械学習アルゴリズムにより、集中的に機械学習を実施して学習結果を得る。
【0060】
ここで、採用する機械学習方法は、地震波形が時系列データであることから、時系列データの予測に好適なアルゴリズムの一つである、LSTM(Long Short-Term Memory)モデルを適用する。
【0061】
機械学習において、LSTMモデルに入力する一つの時系列データの長さは例えば100に設定でき、機械学習時のバッチサイズは例えば32に設定でき、隠れ層の数は500に設定でき、Adamオプティマイザにより最適化を図るとともに、LSTMモデルのロス関数としてMSEロス関数を設定できる。
【0062】
また、機械学習では、周波数の異なる複数の正弦波を使用し、各正弦波はいずれも一波長以上の長さを有している。例えば、周波数が0.1Hz乃至30Hzの39種類の正弦波を使用することができる。機械学習において、学習させる正弦波の順序はランダムでよい。
【0063】
図5に示すように、機械学習では、計測波形をLSTMモデルに入力し、次ステップの値を予測する。ここで、計測波形には、過去に計測されている、Elcentro地震波形や、Hachinohe地震波形等の代表的な地震波形の他、制御対象の建物10の近傍において過去に計測されている地震波形等、様々な地震波形が使用できる。
【0064】
集中的に機械学習を実施することにより、「学習結果」を得る。ここで、学習結果とは、例えば、重みやパラメータのことを意味しており、地震波形の予測において、学習対象の全体の地震波形の影響の程度や、予測したい時刻の少し前のステップの影響の程度を重みとして、この重みを学習結果として算定する。
【0065】
機械学習に際して複数の周波数の正弦波を使用することにより、汎用性の高い予測波形データの作成が可能になる。また、第二格納部406に格納されている複数の周波数の正弦波のうち、建物10の固有振動数に一致する周波数、もしくは当該固有振動数に近い周波数の正弦波を選定して機械学習することにより、効率的かつ効果的に予測波形データを作成することができる。
【0066】
図5に示すように、次のステップの値を順次予測することにより、一定時間の予測波形データを作成することができるが、この予測の実施においては、機械学習装置40から制御装置30に対して送信され、第一格納部308に格納されている学習結果データを予測部304が参照してもよいし、機械学習装置40の第二格納部406に格納されている学習結果データを予測部304が直接参照してもよい。
【0067】
図6に示すように、制御装置30の予測部304では、第一格納部308に格納されている受信済みデータ(1.7秒までの実線で示す計測波形データ)と、機械学習装置40の機械学習部404による学習結果に基づき、
図6に示す黒丸(●)の予測値を予測する。
【0068】
予測部304では、次に、実線で示す計測波形データと予測された予測値(黒丸(●))に基づいて次の予測値を予測し、これを順次繰り返して次のステップの予測値を順次予測していくことにより、
図6に点線で示すような予測波形データを作成する。
【0069】
予測波形データの作成は、例えば建物10の振動が一定規模に低減するまで連続的に実施され、第一格納部308に格納される予測波形データは随時更新される。
【0070】
制御信号生成部306は、第一格納部308に格納される予測波形データと、各予測波形データの各時刻における減衰力を特定して減衰力信号を生成し、さらに、特定された減衰力の切り換えに伴う時定数を
図7で例示する関係グラフデータに基づいて特定する。
【0071】
図示を省略するが、実施形態に係る可変減衰型アクティブダンパー20の制御方法は、振動計50により計測された、時々刻々変化する地震波形もしくは建物振動に関する計測波形データを受信する、受信工程と、機械学習を実行して、複数の周波数の正弦波を重ね合わせることにより、学習結果を得る機械学習工程を有する。さらに、受信した計測波形データの所定時刻までの受信済みデータと、機械学習工程にて得られている学習結果とに基づいて、所定時刻以降の波形の予測を実行して予測波形データを作成する、予測工程を有する。さらに、予測波形データを使用して、各時刻における減衰力を特定して減衰力信号を生成するとともに、減衰力の切り換えに伴う時定数を特定する、制御信号生成工程を有する。さらに、時定数に相当する時間を前倒して減衰力信号を可変減衰型アクティブダンパー20に送信し、可変減衰型アクティブダンパー20の減衰力の切り換えを行いながら駆動させる、ダンパー駆動工程とを有する。
【0072】
また、上記一連の制御は、例えばコンピュータである制御装置にインストール等されているプログラムが実行することもできる。このプログラムは、機械学習を実行して、複数の周波数の正弦波を重ね合わせることにより、学習結果を得る機械学習工程と、振動計50により計測され、受信された時々刻々変化する地震波形もしくは建物振動に関する計測波形データの所定時刻までの受信済みデータと、学習結果とに基づいて、所定時刻以降の波形の予測を実行して予測波形データを作成する、予測工程と、予測波形データを使用して、各時刻における減衰力を特定して減衰力信号を生成するとともに、減衰力の切り換えに伴う時定数を特定する、制御信号生成工程と、時定数に相当する時間を前倒して減衰力信号を可変減衰型アクティブダンパー20に送信して、可変減衰型アクティブダンパー20の減衰力の切り換えを行いながら駆動させる、ダンパー駆動工程と、制御装置に実行させる。
【0073】
[機械学習による予測波形の再現性に関する検証解析]
本発明者等は、LSTMモデルを用いた機械学習の精度を検証するべく、既往の四種の代表的な地震波形を用いて、機械学習にて予測波形を作成する解析を行った。
図8A乃至
図8Dは、四種の地震波形に関する予測波形(実線)と実際の地震波形(点線)をともに示す図であり、各地震波形は
図8A乃至
図8Dの順に、Elcentro地震波形、Hachinohe地震波形、Taft地震波形、及びJMA Kobe地震波形である。
【0074】
各図より、四種の地震波形ともに、機械学習による予測波形の再現性は良好であり、中でも、Hachinohe地震波形、Taft地震波形、及びJMA Kobe地震波形の再現性が極めて高いことが検証されている。
【0075】
尚、上記実施形態に挙げた構成等に対し、その他の構成要素が組み合わされるなどした他の実施形態であってもよく、ここで示した構成に本発明が何等限定されるものではない。この点に関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更することが可能であり、その応用形態に応じて適切に定めることができる。
【符号の説明】
【0076】
10:建物
20:可変減衰型アクティブダンパー(アクティブダンパー、オイルダンパー)
21:シリンダ
22:ピストン
23:油圧回路
24:電磁弁
25:リリーフ弁
26:調圧弁
30:制御装置
40:機械学習装置
50,50A,50B:振動計
60:制御システム(可変減衰型アクティブダンパーの制御システム)
302:第一通信部(通信部)
304:予測部
306:制御信号生成部
308:第一格納部
402:第二通信部
404:機械学習部
406:第二格納部
G:地盤
E:地震動