(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023042651
(43)【公開日】2023-03-28
(54)【発明の名称】圧電トランスの駆動装置及びこれを用いた電源装置
(51)【国際特許分類】
H02M 3/24 20060101AFI20230320BHJP
【FI】
H02M3/24 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021149887
(22)【出願日】2021-09-15
(71)【出願人】
【識別番号】390005223
【氏名又は名称】株式会社タムラ製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100120592
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 崇裕
(72)【発明者】
【氏名】水谷 彰
(72)【発明者】
【氏名】松尾 泰秀
(72)【発明者】
【氏名】中川 亮
(72)【発明者】
【氏名】桑原 清範
【テーマコード(参考)】
5H730
【Fターム(参考)】
5H730AA14
5H730AS01
5H730BB23
5H730DD04
5H730EE02
5H730EE07
5H730EE10
5H730EE48
5H730EE59
5H730FD01
5H730FD21
5H730FF01
5H730FG05
(57)【要約】
【課題】より有用性を高めた圧電トランスの駆動技術を提供する。
【解決手段】圧電トランスの駆動装置は、駆動対象の圧電トランスPZT1に駆動電圧を印加するスイッチング回路110と、圧電トランスPZT1からの出力電圧を容量結合により取り出す結合回路padと、取り出した出力電圧帰還信号を入力して発振し、スイッチング回路110が圧電トランスPZT1に印加する駆動電圧の駆動周波数を制御するマルチバイブレータ130とを備え、発振時の進み位相を可変する位相進み回路132を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動対象の圧電トランスに所定の駆動周波数で駆動電圧を印加する駆動回路と、
駆動電圧の印加に伴い前記圧電トランスから出力される出力電圧を容量結合により取り出す結合回路と、
前記結合回路が取り出した出力電圧を帰還入力電圧として発振し、前記駆動回路が前記圧電トランスに印加する駆動電圧の駆動周波数を制御する発振回路とを備え、
前記駆動回路の駆動周波数に基づく周波数で前記圧電トランスが出力電圧を出力し、前記圧電トランスの出力電圧を前記結合回路で取り出したときの帰還入力電圧の周波数に基づいて前記発振回路が発振し、前記発振回路の発振周波数に基づいて前記駆動回路の駆動周波数が制御される1巡ループ内において、
前記発振回路は、
発振時の進み位相を可変する位相進み回路を有することを特徴とする圧電トランスの駆動装置。
【請求項2】
請求項1に記載の圧電トランスの駆動装置において、
前記発振回路は、
前記位相進み回路により発振時の進み位相を可変することで、前記駆動回路に前記圧電トランスが最大昇圧比を得る駆動周波数で駆動信号を印加させることを特徴とする圧電トランスの駆動装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の圧電トランスの駆動装置において、
前記1巡ループ全体の位相変化が0°であって、前記1巡ループ内の前記駆動回路での進み位相が-180°であり、前記結合回路での進み位相が90°であるとき、
前記位相進み回路は、
前記1巡ループ内において前記発振回路での進み位相を0°に近付けることにより、前記圧電トランスでの進み位相を90°に近付けることを特徴とする圧電トランスの駆動装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の圧電トランスの駆動装置において、
負荷に対して印加される前記圧電トランスの出力電圧の検出値をフィードバック入力し、所定の基準電圧との比較に基づいて前記位相進み回路に位相制御電圧を印加する誤差増幅器をさらに備え、
前記位相進み回路は、
前記位相制御電圧の上昇に伴い、前記発振回路での進み位相を減少させることを特徴とする圧電トランスの駆動装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の圧電トランスの駆動装置を用いて、負荷に印加する出力電圧を圧電トランスに発生させる電源装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電トランスの駆動装置、及びこれを用いて負荷に印加する出力電圧を発生させる電源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の技術に関して従来、圧電トランスの駆動電圧制御や圧電トランスを用いた電源装置の先行技術が知られている(例えば、特許文献1参照。)。この先行技術は、圧電トランスの出力電圧値を検出し、その出力電圧値と設定基準電圧値とを一致させるように駆動電圧のデューティ比を可変制御する動作と、ドロッパ制御電圧を可変出力する動作とを切り換えて出力電圧を制御する。これにより、広い電圧可変範囲と電力可変出力幅に対応して出力制御を行うことが可能となり、また、効率的に周波数とデューティ比を用いることで全体の効率を向上することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の先行技術は、圧電トランスの出力検出電圧を用いて2つの電圧制御を自動的に切り換えることで、共振周波数近傍で効率のよいデューティ比を用いて圧電トランスを駆動することができる点で極めて有用性が高い。
【0005】
その上で、圧電トランスの駆動制御に関しては、さらなる有用性への要求があることも無視できない。例えば、圧電トランスをより効率的に駆動するという観点からは、実際の駆動周波数を圧電トランスの昇圧比が最大となる周波数にピンポイントで制御する必要がある。しかし、圧電トランスは共振特性のQ値が高く、駆動周波数の制御には極めて高い精度が要求される上、圧電トランスの出力電圧を負荷に対する電源に用いた場合は、昇圧比が最大となる周波数や昇圧比そのものが負荷に依存して変化するため、昇圧比が最大となる周波数を一律の値に定めて駆動周波数を制御することはできない。
【0006】
そこで本発明は、より有用性を高めた圧電トランスの駆動技術を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するは、本発明は以下の解決手段を採用する。なお、以下の括弧書き中の文言等はあくまで例示に過ぎず、本発明はこれに限定されるものではない。
【0008】
本発明は、圧電トランスの駆動装置を提供する。また本発明は、圧電トランスの駆動装置を用いて、負荷に印加する出力電圧を圧電トランスに発生させる電源装置を提供する。圧電トランスの駆動装置は、駆動回路及び発振回路を備える他、結合回路を備える。このうち駆動回路は、駆動対象の圧電トランスに所定の駆動周波数を印加する。なお、ここでの「所定」は一律の意味ではなく、他からの電圧信号によって決定されるものも含む。結合回路は、圧電トランスから出力される出力電圧を容量結合によって取り出す。発振回路は、基本的な回路構成が自励発振性のものではあるが、駆動回路が圧電トランスに印加する駆動電圧の駆動周波数を制御する際は、結合回路が取り出した出力電圧を帰還入力電圧として発振する。
【0009】
本発明の駆動装置では、上記のように結合回路で取り出した出力電圧を発振回路に対する帰還入力電圧として駆動回路の駆動周波数を制御することから、周波数制御に関して以下の一巡ループが成り立つ。すなわち、駆動回路の駆動周波数に基づく(依存する)周波数で圧電トランスが出力電圧を出力し、圧電トランスの出力電圧を結合回路で取り出したときの帰還入力電圧の周波数に基づいて(依存して)発振回路が発振し、発振回路の発振周波数に基づいて(依存して)駆動回路の駆動周波数が制御される1巡ループである。
【0010】
このような1巡ループ内において、本発明の圧電トランスの駆動装置は、発振回路が位相進み回路を有するものとなっている。位相進み回路は、発振回路自身の発振時の進み位相(位相が進む量)を可変する。ここで「進み位相」とは、入力電圧の位相に対して出力電圧の位相が進むことを意味し、位相角(°)で考えることができる。したがって、位相進み回路は、発振回路の出力電圧の位相が進む角度を「進み位相」として、これを可変する。
【0011】
1巡ループ内で発振回路の進み位相を可変すると、その影響が圧電トランスの進み位相に現れる。1巡ループ内において発振回路の進み位相と圧電トランスの進み位相とは、互いにトレードオフの関係にあり、発振回路の進み位相が小さければ、それだけ圧電トランスの進み位相は大きくなる。
【0012】
一方、圧電トランスの入力電圧から出力電圧への進み位相は、昇圧比が最大となる周波数と一定の関係にあることが分かっている。すなわち、圧電トランスの進み位相の値は、昇圧比が最大となる周波数の僅かに高周波側で大略90°の値となる。この関係は、圧電トランスを電源に用いた場合の負荷の変化や昇圧比が最大となる周波数自身の変化によってもほぼ変動しないことが分かっている。
【0013】
ここから本発明の発明者等は、上記の特性を利用し、発振回路での進み位相を可変すれば、それによって圧電トランスの駆動周波数を昇圧比が最大となる周波数近傍に制御することができることに着眼した。すなわち、位相進み回路が発振回路の進み位相を可変することは、圧電トランスの進み位相を逆方向に可変することとなり、結果的に最大昇圧比が得られる周波数からの駆動周波数の乖離を解消することになる。
【0014】
上記の1巡ループは、全体として1つの発振回路を形成する。このとき、1巡ループ全体の位相変化は0°であるが、1巡ループ内では、駆動回路での進み位相が-180°(位相反転)であり、結合回路での進み位相が90°である。したがって、1巡ループ全体の発振回路は、残りの圧電トランスの進み位相(φpzt)と発振回路の進み位相(φc)との合計が90°になる周波数で発振を継続する。
【0015】
この特性を利用し、位相進み回路は、1巡ループ内において発振回路での進み位相を0°に近付けることにより、圧電トランスでの進み位相を90°に近付けることができる。上記のように、圧電トランスの最大昇圧比が得られる周波数の進み位相が大略90°であることから、進み位相を90°に近付けることが圧電トランスの昇圧比を最大にする(最大昇圧比の周波数で圧電トランスを駆動する)ことになり、結果として駆動効率の向上が図られることになる。
【0016】
本発明の圧電トランスの駆動装置は、誤差増幅器をさらに備えることができる。誤差増幅器は、負荷に対して印加される圧電トランスの出力電圧の検出値をフィードバック入力し、所定の基準電圧との比較に基づいて位相進み回路に位相制御電圧を印加する。
【0017】
上記のように、圧電トランスには、出力電圧を印加する対象の負荷に依存して最大昇圧比となる周波数や昇圧比そのものが変動するという共振特性がある。このため、出力電圧の検出値をフィードバックして基準電圧と比較したとき、誤差が大きくなってきた場合は圧電トランスが最大昇圧比で駆動されていないことを意味する。この場合、位相進み回路は、位相制御電圧の上昇に伴い、発振回路での進み位相を減少させる制御を行う。これにより、圧電トランスの駆動周波数が最大昇圧比となる周波数近傍に制御され、駆動効率が向上することになる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、より有用性を高めた圧電トランスの駆動技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】圧電トランスの駆動装置を用いた電源装置100の全体構成を示すブロック図である。
【
図2】圧電トランスPZT1の駆動装置において構成される1巡ループと進み位相の概念図である。
【
図3】圧電トランスPZT1の進み位相φpztと昇圧比の関係を示す図である。
【
図4】電源装置100において圧電トランスPZT1の駆動装置に相当する構成を部分的に示した図である。
【
図5】進み位相φcの可変に伴い圧電トランスPZT1の進み位相φpztが制御されることを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について、添付の図面を参照しながら説明する。なお、以下の実施形態は好ましい例示であり、本発明はこの例示に限定されるものではない。
【0021】
〔全体構成〕
図1は、圧電トランスの駆動装置を用いた電源装置100の全体構成を示すブロック図である。本実施形態の電源装置100には、駆動装置の実施形態も含まれている。
【0022】
電源装置100は、例えばローゼン型3端子の圧電トランスPZT1を備えており、この圧電トランスPZT1で発生させた出力電圧Voを所望の負荷Lに対して印加することができる。このため電源装置100は、圧電トランスPZT1の1次側にスイッチング回路110を備えるとともに、2次側には整流平滑部120を備えている。
【0023】
スイッチング回路110は、圧電トランスPZT1の1次側電極T1,T2に接続されており、整流平滑部120は、圧電トランスPZT1の2次側電極T3に接続されている。スイッチング回路110は、入力電圧Vinをスイッチング素子(例えばMOSFET)でスイッチングし、トランスを介して圧電トランスPZT1に駆動電圧を印加する。これにより、圧電トランスPZT1が駆動され、入力電圧Vinを昇圧した出力電圧を発生させる。
【0024】
整流平滑部120は、圧電トランスPZT1の出力電圧を整流して出力電圧Voにする。また、整流平滑部120は出力検出部122を有しており、出力検出部122は、圧電トランスPZT1の出力電圧を検出し、その分圧値Vdetを駆動装置側にフィードバックしている。
【0025】
また、圧電トランスPZT1の2次側の出力電極T3近傍には検出電極T4が形成されており、圧電トランスPZT1の出力電圧は、この検出電極T4と圧電トランスPZT1との容量結合により検出電極T4(結合回路pad)を通じて取り出され、出力電圧帰還信号として圧電トランスPZT1の駆動装置側に帰還入力されている。
なお、検出電極T4を用いなくても、出力電極T3の出力側に直接コンデンサを取り付けることにより出力電圧帰還信号とすることも可能である。
【0026】
圧電トランスPZT1の駆動装置は、上記のスイッチング回路110の他にマルチバイブレータ130を備えている。マルチバイブレータ130は、起動時(入力電圧Vinの電源投入時)には自励発振周波数で発振するが、圧電トランスPZT1が出力を開始すると、圧電トランスPZT1の出力電圧帰還信号を用いた1巡ループで決まる周波数で発振し、スイッチング回路110の駆動周波数を制御する。なお、
図1に「マルチバイブレータ兼増幅器」のブロックで示すように、1巡ループで決まる周波数で発振する場合、マルチバイブレータ130は増幅器として動作する。
【0027】
ここで、圧電トランスPZT1の駆動装置は、位相進み回路132及び誤差増幅器134を備えている。このうち、位相進み回路132は、1巡ループの発振に伴って発生する三角波電圧と誤差増幅器134の出力電圧Vbとを比較し、1巡ループで発生する発振の進み位相を可変する。なお、三角波電圧は、マルチバイブレータ130に内蔵したGND間容量素子(図示しない)の端子間電圧である。
【0028】
誤差増幅器134は、出力電圧の分圧値Vdetと基準電圧Vrefとを比較し、誤差を増幅した出力電圧Vbを位相制御信号として位相進み回路132に印加する。すなわち、位相進み回路132は、誤差増幅器134の出力電圧Vbが上昇すると位相の進み量を減少させる一方、出力電圧Vbが下降すると位相の進み量を増加させる。なお、位相進み回路132の位相制御についてはさらに後述する。
【0029】
〔1巡ループ〕
図2は、圧電トランスPZT1の駆動装置において構成される1巡ループと進み位相の概念図である。
図2中(A):例えば、上記のマルチバイブレータと兼用の増幅器130及び位相進み回路132を「発振回路」とし、スイッチング回路110を「駆動回路1」とし、圧電トランスPZT1及び上記の結合回路padを「駆動回路2」とすると、これらは1巡ループで繋がっていることになる。このような1巡ループは、増幅器130の出力が位相進み回路132経てスイッチング回路110に入力し、その出力が圧電トランスPZT1に入力し、その出力が結合回路padで取り出されて増幅器130に入力することによって構成される正帰還ループである。
【0030】
〔1巡ループ内の進み位相〕
図2中(B):縦軸に進み位相(°)をとり、横軸に各回路が1巡ループを構成する区間(無次元)をとると、横軸上の区間p0-p1が圧電トランスPZT1に対応し、区間p1-p2が圧電トランスPZT1の出力電極T3と検出電極T4の容量結合で構成される結合回路padに対応し、区間p2-p3が増幅器130に対応し、区間p3-p4が位相進み回路132に対応し、区間p4-p5が位相進み回路132からスイッチング回路110までの接続線に対応し、区間p5-p6がスイッチング回路110に対応し、区間p6-p0がスイッチング回路110から圧電トランスPZT1までの接続線に対応する。
【0031】
例えば、圧電トランスPZT1の出力電圧の位相を起点(0°)とし、ここからの位相変化を進み位相で考える。以下、1巡ループ内での進み位相を区間に分けて説明する。
区間p1-p2:結合回路padは圧電トランスPZT1の出力電極T3と検出電極T4の容量結合であるため、入力-出力間の進み位相は90°である。なお、横軸は無次元なので進み位相の傾斜による違いはない。
区間p2-p3:増幅器130は、非反転入力端子を使用しているため、ここでは位相が変化せず、進み位相は0°である。
区間p3-p4:位相進み回路132は、上記のように三角波電圧と誤差増幅器134の出力電圧Vbとの比較によって進み位相φc(°)を可変する。ここでは便宜的に進み位相φcを有しているものとする。
区間p4-p5:接続線で位相に変化はなく、進み位相は0°である。
区間p5-p6:スイッチング回路110は反転極性であるので、ここで位相は180°遅れることになる。したがって、進み位相は-180°である。
区間p6-p0:接続線で位相に変化はなく、進み位相は0°である。
区間p0-p1:圧電トランスPZT1は、入力電圧に対して出力電圧の位相が進むが、ここでの進み位相φpzt(°)は、1巡ループによって起点(0°)に戻ることになる。このため、1巡ループ内において位相進み回路132での進み位相φc(°)との間には、φpzt+φc=90°の関係が一意に成り立つ。
【0032】
つまり、1巡ループの発振回路は、圧電トランスPZT1の進み位相φpztが上記の関係(φpzt+φc=90°)となる周波数で発振を継続する。したがって、位相進み回路132が進み位相φcを可変に制御することにより、圧電トランスPZT1の進み位相φpztを連動して制御することができることが分かる。このとき、φpztとφcとは90°内でトレードオフの関係にある。
【0033】
〔進み位相φpztと昇圧比の関係〕
図3は、圧電トランスPZT1の進み位相φpztと昇圧比の関係を示す図である。
図3中(A):上記のように圧電トランスPZT1の進み位相φpztは、入力電圧viの位相に対する出力電圧voの位相の進み量であり、同図はこのことを表している。また、ここでの圧電トランスPZT1の最大昇圧比となる周波数や昇圧比は、負荷Rの抵抗値に依存する。
図3中(B):圧電トランスPZT1の昇圧比(倍)と駆動周波数(kHz)との関係を抵抗値別の実線で示し、進み位相φpzt駆動周波数(kHz)との関係を負荷Rの抵抗値別の破線で示す。ここでは例として、抵抗値A(MΩ)、抵抗値B(MΩ)、抵抗値C(MΩ)を挙げている(なお、A>B>C)。
【0034】
図3から以下の特性が明らかである。
〔最大昇圧比となる周波数〕
抵抗値A(MΩ)、抵抗値B(MΩ)、抵抗値C(MΩ)のいずれにおいても、圧電トランスPZT1の昇圧比が最大となる周波数(以下、「昇圧比最大周波数」という)があり、この昇圧比最大周波数は、全ての抵抗値A(MΩ)、抵抗値B(MΩ)、抵抗値C(MΩ)で近接している。ただし、最大昇圧比は抵抗値A(MΩ)のときが最も大きく、抵抗値C(MΩ)のときが最も小さくなるように、負荷Rの抵抗値に依存することが分かる。
【0035】
〔昇圧比最大周波数となる進み位相〕
進み位相φpztは、昇圧比最大周波数の僅かに高周波側で大略90°となる。この関係は、全ての抵抗値A(MΩ)、抵抗値B(MΩ)、抵抗値C(MΩ)で変わらず、また、昇圧比最大周波数自身の変化によってもほとんど変動しない。
【0036】
〔圧電トランスの昇圧比最大周波数制御〕
図4は、電源装置100において圧電トランスPZT1の駆動装置に相当する構成を部分的に示した図である。ここでは、特に1巡ループ内の位相制御に関係する部分の構成を示している。また
図5は、1巡ループ内での進み位相φcの可変に伴い、圧電トランスPZT1の進み位相φpztが制御されることを示す図である。以下、位相進み回路132による圧電トランスPZT1の昇圧比最大周波数制御について説明する。
【0037】
〔1巡ループ発振前〕
図4に示すように、例えば入力電圧Vinの電源投入直後において、結合回路padからの出力電圧帰還信号が所定の閾値以下である場合、増幅器130は、兼用するマルチバイブレータ自身の発振周波数で発振する。
【0038】
〔1巡ループ発振時〕
この後、圧電トランスPZT1の駆動が開始され、結合回路padからの出力電圧帰還信号が閾値を超えると、
図5中の二点鎖線で示すように、位相進み回路132(発振回路)の進み位相φcの値が44°であったとすると、上記の関係から圧電トランスPZT1の入力電圧から出力電圧への進み位相φpztの値は46°となる。このとき1巡ループ全体の位相が0°となる周波数で増幅器130が出力する。
【0039】
そして、
図5中に実線で示すように、位相進み回路132が自身(発振回路)の進み位相φcの値を例えば44°→0°に変化させる(位相進み回路132自身をスルーにする)ことで、圧電トランスPZT1の入力電圧から出力電圧への進み位相φpztを例えば46°→90°に変化させることができる。これにより、圧電トランスPZT1に印加する駆動電圧の駆動周波数が昇圧比最大周波数近傍に制御され、結果として最大の昇圧比で出力電圧Voutを発生させることができる。このようにして、位相進み回路132が進み位相φcの値を可変することで、圧電トランスPZT1の昇圧比を制御することができる。
【0040】
図1の電源装置100であれば、誤差増幅器134の出力電圧Vbが上昇すると、位相進み回路132の進み位相φcが減少し、圧電トランスPZT1の進み位相φpztが増加して90°に近付くため、駆動周波数は昇圧比最大周波数に近付き、圧電トランスPZT1の昇圧比を上昇させる方向に制御される。一方、誤差増幅器134の出力電圧Vbが下降すると、位相進み回路132の進み位相φcが増加し、逆に圧電トランスPZT1の進み位相φpztが減少するため、駆動周波数は昇圧比最大周波数から高周波側に遠ざかり、圧電トランスPZT1の昇圧比を下降させる方向に制御されることになる。したがって、このような制御特性を踏まえた上で、誤差増幅器134の基準電圧Vrefを適切に設定し、分圧値Vdetとの間に生じ得る誤差の範囲を設定しておくことが好ましい。
【0041】
上述した実施形態の電源装置100及び圧電トランスの駆動装置によれば、以下の有用性が得られる。
(1)マルチバイブレータ130(増幅器を兼ねる)に位相進み回路132を組み込み、位相進み量φcを可変することで、駆動対象の圧電トランスPZT1の昇圧比を制御することができる。
(2)昇圧比最大周波数を一律に設定して高精度に駆動周波数を制御する必要がないことから、Q値が高い圧電トランスPZT1の駆動制御を容易に実現することができる。
(3)使用する負荷の抵抗値が変わっても、1巡ループ内の位相制御によって常に圧電トランスPZT1を昇圧比最大周波数で駆動することができ、極めて利便性が高い。
【0042】
(4)位相進み回路132は、発振に伴い位相進み量φcを0°に近付ける方向で実際に使用する回路を構成しておけば、1巡ループが構成された以後は、自動的に最大昇圧比で圧電トランスPZT1を駆動することができる。したがって、圧電トランスPZT1を効率的に駆動することができ、より有用性を高めることができる。
(5)また、駆動周波数を精度よく圧電トランスPZT1の昇圧比最大周波数に制御することができるので、Q値が高い共振特性を持つその他の圧電トランスに対しても容易に適用することができ、さらに有用性を高めることができる。
【0043】
本発明は、上述した実施形態に制約されることなく、種種に変形して実施することが可能である。
図1に示した回路構成は簡易的なものであり、駆動装置及び電源装置の実施に際しては、適宜に必要なその他の周辺素子やスイッチング素子、IC素子等を適用することができる。
【0044】
圧電トランスは、3端子タイプのものに限らず、4端子タイプのものであってもよい。また、圧電トランスの仕様や製品寸法は任意であり、使用目的に合わせて適宜のものを採用することができる。
【0045】
その他、
図2で示した位相変化の例や、
図3で示した周波数特性等の例はあくまで一例であり、例示に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0046】
100 圧電トランスの駆動装置を用いた電源装置
110 スイッチング回路
120 整流平滑部
122 出力検出部
130 マルチバイブレータ兼増幅器
132 位相進み回路
134 誤差増幅器
PZT1 圧電トランス
pad 結合回路