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  • 特開-通信機器および音声信号送信方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023042687
(43)【公開日】2023-03-28
(54)【発明の名称】通信機器および音声信号送信方法
(51)【国際特許分類】
   H04B 1/04 20060101AFI20230320BHJP
   H04B 1/40 20150101ALI20230320BHJP
【FI】
H04B1/04 A
H04B1/40
H04B1/04 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021149947
(22)【出願日】2021-09-15
(71)【出願人】
【識別番号】000100746
【氏名又は名称】アイコム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076406
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 勝徳
(72)【発明者】
【氏名】野村 秀明
【テーマコード(参考)】
5K011
5K060
【Fターム(参考)】
5K011BA09
5K011DA26
5K011EA03
5K011JA01
5K011JA03
5K011KA04
5K060CC04
5K060CC12
5K060DD03
5K060DD04
5K060FF03
5K060HH31
5K060LL26
(57)【要約】
【課題】PTTスイッチの押下げにより送信が可能となる通信機器において、マイクロフォンが前記PTTスイッチの作動音を拾ってしまうことによるボツ音を防止する。
【解決手段】マイク種類検出器43で、送信に使用されるマイクロフォンとPTTスイッチとの構造関係を検出し、外付けマイクロフォンのように、マイクロフォンがPTTスイッチの作動音を拾ってしまう構造関係にあるときには、可変長バッファ124のバッファ長を長く(容量を大きく)し、作動音を拾う可能性が無ければ、バッファ長を短く(容量を小さく)する。そして、PTTスイッチが解除された際、その解除タイミングを基準にして、以降は、可変長バッファ124の音声信号にミュート回路1811~181nがミュート動作を行う。したがって、耳障りなボツ音の発生を防止しつつ、構造による問題が無い場合は、トーク(送話)が尻切れになる可能性を小さくすることができる。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレス・トーク・スイッチの押下げにより送信が可能となる通信機器において、
前記送信に使用されるマイクロフォンと前記プレス・トーク・スイッチとの構造関係を検出する検出手段と、
前記マイクロフォンで集音された音声信号を一時的に記憶する可変容量の記憶手段と、
前記記憶手段に一時記憶された音声信号を所定の変調モードで変調して送信する送信手段と、
前記プレス・トーク・スイッチの押下げまたは解除を検出する制御手段とを備え、
前記制御手段は、前記検出手段の検出結果に基づき、前記記憶手段の容量を設定するとともに、前記プレス・トーク・スイッチの解除を検出すると、そのことを前記送信手段に通知し、該送信手段は、前記プレス・トーク・スイッチが解除された時点で、前記記憶手段に一時記憶されている音声信号にミュート処理を行うことを特徴とする通信機器。
【請求項2】
無線機であり、前記検出手段で、前記マイクロフォンが、前記プレス・トーク・スイッチを備える外付けマイクロフォンであると判定された場合は、前記制御手段が前記記憶手段の容量を相対的に大きくし、前記プレス・トーク・スイッチを備えていない、もしくは内蔵マイクロフォンと判定された場合は、前記制御手段が前記記憶手段の容量を相対的に小さくすることを特徴とする請求項1記載の通信機器。
【請求項3】
無線機であり、前記送信手段は複数の変調モードを有し、前記検出手段で、前記マイクロフォンが、前記プレス・トーク・スイッチを備える外付けマイクロフォンであると判定された場合、前記制御手段が、さらに前記変調モードに応じて前記記憶手段の容量を変化することを特徴とする請求項2記載の通信機器。
【請求項4】
前記変調モードは、アナログFM変調であることを特徴とする請求項3の通信機器。
【請求項5】
プレス・トーク・スイッチの押下げにより送信が可能となる通信機器の音声信号送信方法において、
前記送信に使用されるマイクロフォンと前記プレス・トーク・スイッチとの構造関係を検出するステップと、
可変容量の記憶手段の容量を、前記検出の検出結果に基づき予め設定するステップと、
前記マイクロフォンで集音された音声信号を前記記憶手段に一時的に記憶してゆくステップと、
前記記憶手段に一時記憶された音声信号を所定の変調モードで変調して送信してゆくステップと、
前記プレス・トーク・スイッチの解除に応答し、前記記憶手段に一時記憶された音声信号にミュート処理を行い、送信させるステップとを含むことを特徴とする音声信号送信方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレス・トーク・スイッチの押下げにより送信が可能となる通信機器において、そのプレス・トーク・スイッチの解除時に発生することのある作動音が受信側でボツ音として再生されないようにする音声信号送信方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
無線機、インターホン、TV会議システムなどで用いられ、プレス・トーク・スイッチ(Push To Talk スイッチとも言う。以下、PTTスイッチと言うこともある。)の押下げにより送信が可能となる通信機器において、マイクロフォンとPTTスイッチとの位置が近いと、PTTスイッチの解除の際に発生するスイッチの作動音を前記マイクロフォンが拾ってしまい、送信されて受信側でその作動音が復調されると、スピーカからボツ音が発生し、受信側が不快に感じてしまうことがある。具体的には、送信者が送信を止めようとしてPTTスイッチから指を離し始め、スイッチが戻り始めると、該スイッチを押圧していたレバーの摺動音や、スイッチ内部のバネが戻る音が発生するが、その時点ではスイッチの接点が断になっておらず、通信機器は送信を続けてしまうので、それらの作動音をマイクロフォンが拾って送信してしまう。その後、スイッチの接点が断になり、PTTラインが断になり、制御や音声信号の処理回路がPTT断を検出し、通信機器は送信を停止する。したがって、PTTラインが断になる前に作動音は発生しているので、発生した作動音の送信を防ぐことは困難である。
【0003】
ここで、前記インターホンやTV会議システムの場合、マイクロフォンは本体搭載となり、PTTスイッチと同じ筐体に搭載されることが多いが、筐体は比較的大きく、そのため前記作動音の対策は、マイクロフォンのマウント構造を工夫するなど、構造的に取り易い。無線機も携帯型の場合、筐体は小さいが、マイクロフォンとPTTスイッチとは、或る程度離れており、また構造面でも、信頼性が高く、動きも滑らかな比較的高価なPTTスイッチを使用可能である。
【0004】
一方、マイクロフォンがPTTスイッチを備える外付けマイクロフォンである場合は、使用者が該外付けマイクロフォンを手に持って使用したり、襟元などに取付ける関係で小型であり、そのためマイクロフォンとPTTスイッチとが近接してしまい、筐体を伝って前記作動音がマイクロフォンに回り込んでしまう。すなわち、構造的に作動音の伝搬を遮断するのが難しい。また、外付けマイクロフォンは、アクセサリー(オプション)部品であり、無線機本体のPTTスイッチに比べれば、比較的安価な部品を採用せざるを得ず、元々の作動音自体も大きくなる。
【0005】
そこで、典型的な従来技術のボツ音(雑音)低減装置が、本件出願人により、特許文献1で提案されている。この従来技術は、デジタル方式の無線機において、送信音声信号をバッファリングして送信し、PTTスイッチ(送受信切換え手段)が解除(送信停止)に切換わると、その切換わり時点から所定時間前までのデータに関して、無音のデータに差替えることで、前記作動音が受信側で再生されてボツ音となることを防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第5343843号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述の従来技術は、ボツ音の抑制には効果的である。しかしながら、PTTスイッチの切換わり時点から所定時間前までのデータを無音のデータに差替えているので、通話を終わって直ぐにPTTスイッチを離すようなケースでは、通話の最後の部分がマスクされ、尻切れが発生する可能性がある。また、ボツ音の抑制を確実に行おうとすると、送信音声信号をバッファリングする期間を長く設定する必要があり、送受信間での伝送遅延も大きくなる。一方で、前述のように、PTTスイッチとマイクロフォンとが離れているなど、ボツ音を必ずしも考慮しなくてもよいケースもある。
【0008】
本発明の目的は、プレス・トーク・スイッチの解除の際に発生する作動音に起因した受信側でのボツ音の発生を防止しつつ、伝送遅延を小さくすることができる通信機器および音声信号送信方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の通信機器は、プレス・トーク・スイッチの押下げにより送信が可能となる通信機器において、前記送信に使用されるマイクロフォンと前記プレス・トーク・スイッチとの構造関係を検出する検出手段と、前記マイクロフォンで集音された音声信号を一時的に記憶する可変容量の記憶手段と、前記記憶手段に一時記憶された音声信号を所定の変調モードで変調して送信する送信手段と、前記プレス・トーク・スイッチの押下げまたは解除を検出する制御手段とを備え、前記制御手段は、前記検出手段の検出結果に基づき、前記記憶手段の容量を設定するとともに、前記プレス・トーク・スイッチの解除を検出すると、そのことを前記送信手段に通知し、該送信手段は、前記プレス・トーク・スイッチが解除された時点で、前記記憶手段に一時記憶されている音声信号にミュート処理を行うことを特徴とする。
【0010】
また、本発明の音声信号送信方法は、プレス・トーク・スイッチの押下げにより送信が可能となる通信機器の音声信号送信方法において、前記送信に使用されるマイクロフォンと前記プレス・トーク・スイッチとの構造関係を検出するステップと、可変容量の記憶手段の容量を、前記検出の検出結果に基づき予め設定するステップと、前記マイクロフォンで集音された音声信号を前記記憶手段に一時的に記憶してゆくステップと、前記記憶手段に一時記憶された音声信号を所定の変調モードで変調して送信してゆくステップと、前記プレス・トーク・スイッチの解除に応答し、前記記憶手段に一時記憶された音声信号にミュート処理を行い、送信させるステップとを含むことを特徴とする。
【0011】
上記の構成によれば、プレス・トーク・スイッチの押下げにより送信が可能となる通信機器、たとえば無線機、インターホン、TV会議システムにおいて、送信に使用されるマイクロフォンとプレス・トーク・スイッチの位置関係によっては、プレス・トーク・スイッチの解除の際に発生するスイッチの作動音を前記マイクロフォンが拾ってしまい、それを受信側が復調すると、スピーカからボツ音が発生してしまう。そこで、先ず検出手段で、前記送信に使用されるマイクロフォンとプレス・トーク・スイッチとの構造関係を検出し、前記プレス・トーク・スイッチの作動音を拾ってしまう構造関係にあるときには、制御手段は、送信手段に、前記プレス・トーク・スイッチの解除タイミングを基準にして、前記作動音が発生している期間は音声信号にミュート処理を行わせる。
【0012】
具体的には、前記マイクロフォンで集音された音声信号は、可変容量の記憶手段で一時的に記憶させた後、送信手段から所定の変調モードで変調して送信するようにし、前記制御手段は、プレス・トーク・スイッチの押下げまたは解除を検出すると、前記送信手段に送信または送信の停止(受信への切換え)を行わせる。さらに制御手段は、検出手段の検出結果に基づき、前記記憶手段の容量を予め設定している。そして、制御手段は、前記プレス・トーク・スイッチの解除を検出すると、そのことを前記送信手段に通知し、通知を受けた送信手段は、前記記憶手段から読出された音声信号に前記ミュート処理を行わせる。
【0013】
したがって、プレス・トーク・スイッチの解除の際にスイッチの作動音をマイクロフォンが拾ってしまう構造関係にあるときには、前記可変容量の記憶手段の容量を大きくして、前記プレス・トーク・スイッチの解除タイミングを基準にして、前記作動音が発生している期間はミュート処理を行って、耳障りな作動音の送信を防止し、作動音を拾う可能性が無ければ、可変容量の記憶手段の容量を最小にし、トーク(送話)が尻切れになる可能性を小さくすることができる。
【0014】
さらにまた、本発明の通信機器は、無線機であり、前記検出手段で、前記マイクロフォンが、前記プレス・トーク・スイッチを備える外付けマイクロフォンであると判定された場合は、前記制御手段が前記記憶手段の容量を相対的に大きくし、前記プレス・トーク・スイッチを備えていない、もしくは内蔵マイクロフォンと判定された場合は、前記制御手段が前記記憶手段の容量を相対的に小さくすることを特徴とする。
【0015】
上記の構成によれば、前記インターホンやTV会議システムの場合、マイクロフォンは本体搭載となり、プレス・トーク・スイッチと同じ筐体に搭載されることが多いが、比較的大きな筐体で、前記作動音の対策は、構造的に取り易い。無線機も携帯型の場合、筐体は小さいが、未だ構造面での対応も或る程度可能である。しかしながら、マイクロフォンがプレス・トーク・スイッチを備える外付けマイクロフォンである場合は、マイクロフォンとプレス・トーク・スイッチとが近接しており、構造的に前記作動音の対策は取り難い。そこで、そのような場合に、前記可変容量の記憶手段の容量を相対的に大きくして、プレス・トーク・スイッチが解除された際にミュートを掛ける音声信号量を相対的に大きくする。
【0016】
したがって、構造的に前記作動音の対策が取り難いプレス・トーク・スイッチを備える小型の外付けマイクロフォンの場合に、有効な作動音の対策を行うことができる。
【0017】
また、本発明の通信機器は、無線機であり、前記送信手段は複数の変調モードを有し、前記検出手段で、前記マイクロフォンが、前記プレス・トーク・スイッチを備える外付けマイクロフォンであると判定された場合、前記制御手段が、さらに前記変調モードに応じて前記記憶手段の容量を変化することを特徴とする。
【0018】
上記の構成によれば、マイクロフォンが、プレス・トーク・スイッチの作動音を拾ってしまう可能性のある外付けマイクロフォンである場合、制御手段は、さらに送信手段での変調モードに応じて、前記可変容量の記憶手段の容量、すなわち、ミュートを掛ける音声信号量を変化する。
【0019】
ここで、前述のように、音声信号の伝送路は、有線・無線を問わず、またアナログ・デジタルも問わない。しかしながら、特にアナログFM変調の無線の場合、S/N比が40~50dB程度であり、無音であれば、サーという残留ノイズが存在する。そして、プレス・トーク・スイッチが解除されて終話となると、送信信号が停止し、これによって受信回路の低周波増幅器の動作が停止し、前記の残留ノイズが停止するので、前記終話を認識することができる。したがって、前記ボツ音で終話を認識する必要は無く、耳障りなボツ音を消すことは、このアナログFM無線変調の場合に、特に有効である。こうして、変調モードに応じて、前記可変容量の記憶手段の容量、すなわち、ミュートを掛ける音声信号量を変化することが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明の通信機器および音声信号送信方法は、以上のように、プレス・トーク・スイッチの押下げにより送信が可能となる通信機器において、送信に使用されるマイクロフォンがプレス・トーク・スイッチの作動音を拾ってしまう構造関係にあるときには、マイクロフォンで集音された音声信号を一時記憶して、前記プレス・トーク・スイッチの解除タイミングを基準にして、前記作動音が発生している期間はミュート処理を行う。
【0021】
それゆえ、プレス・トーク・スイッチの解除の際にスイッチの作動音をマイクロフォンが拾ってしまう構造関係にあるときには、その作動音をミュートして、受信側で耳障りなボツ音が発生してしまうことを防止し、前記作動音を拾う可能性が無ければ、一時記憶による遅れを最小にし、トーク(送話)が尻切れになる可能性を小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の実施の一形態に係る通信機器である無線機の斜視図である。
図2】前記無線機および外付けマイクロフォンの電気的構成を示すブロック図である。
図3】本発明の実施の一形態に係る音声信号送信方法を説明するための機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1は、本発明の実施の一形態に係る通信機器である無線機1の斜視図である。この無線機1は、ハンディタイプの無線機である。この無線機1は、筐体10の向かって右側部1001のコネクタカバーを外すことで、外付けマイクロフォン2を接続可能となっている。筐体10の上部1002には、電源・音量ツマミ12、チャネル切換えツマミ13およびアンテナ14などが設けられる。筐体10の左側部1003には、PTTスイッチ15および2つのサイドスイッチ16が設けられている。筐体10の正面1004には、表示部17および各種の操作キー18が設けられるとともに、スピーカ19およびマイクロフォン20が設けられている。表示部17は、送受信の周波数や信号レベルの表示などを行う。筐体10の裏側には、バッテリーパックや、使用者の腰ベルト等に取付くクリップなどが設けられる。なお、サイドスイッチ16は、サブチャネルのPTTスイッチとしても使用可能となっている。
【0024】
本実施形態の外付けマイクロフォン2は、スピーカ21およびマイクロフォン22を備えるとともに、PTTスイッチ23を備えている。そして、前記無線機1とは、カールコード24からコネクタ25を介して接続され、無線機1の前記コネクタカバーを外すことで露出したコネクタに、該コネクタ25の一端を引っ掛け、他端の捻子252を螺着することで、端子が接続される。
【0025】
図2は、無線機1および外付けマイクロフォン2の電気的構成を示すブロック図である。図2では、無線通信部分のみを示し、表示などの本発明に関連のない部分については省略している。この無線機1は、150MHz帯を使用し、4値FSK変調でクリアな音質を得られるデジタルモードと、FM変調で従来機との互換を得られ易いアナログモードとのデュアルモード対応の無線機である。なお、デジタルモードの変調方式は4値FSK変調に限定されるものでもなく、また、アナログモードの変調方式もFM変調に限定されるものでもない。また、必ずしもデジタルモードとアナログモードのデュアルモードでなくてもよく、変調方式も複数対応していなくてもよい。
【0026】
アンテナ14で受信された信号は、送受信切換器101から高周波信号増幅器102に入力されて増幅され、周波数変換器103において、高周波信号発生器104からの局部発振信号と混合されて、中間周波信号に変換される。その後、アナログ/デジタル変換器105でデジタル信号に変換された後、入出力の切換器112,113で選択される復調器1111~111n(以下、総称する際は、参照符号111で示す)の何れかで復調される。復調器111は、前記のデジタルモードとアナログモードとのように変調モードに対応したもので、後述する制御部4のモード設定器42からの設定に応じて、切換器112,113で何れかのモードが選択されて音声信号を復号する。復号された音声信号は、デジタル/アナログ変換器114でアナログ音声信号に復号されて、低周波増幅器115で増幅された後、前記スピーカ19から放出される。
【0027】
一方、マイクロフォン20で集音された音声信号は、低周波増幅器121で増幅され、アナログ/デジタル変換器122でデジタル信号に変換され、入出力の切換器132,133で選択されるAF(Audio Frequency)処理器1311~131n(以下、総称する際は、参照符号131で示す)の何れかでアップサンプリングやフィルタリング等の処理が行われ、さらにベースバンド処理器1411~141n(以下、総称する際は、参照符号141で示す)の何れかで選択した変調モードに応じたベースバンド信号の処理が行われる。処理されたベースバンド信号は、デジタル/アナログ変換器151でアナログ信号に変換され、周波数変調器152において前記高周波信号発生器104からの局部発振信号を周波数変調して送信信号となり、電力増幅器154で増幅された後、前記送受信切換器101を介してアンテナ14から送信される。切換器132より後段の構成は、送信手段を構成する。
【0028】
前記切換器112,113や復調器111ならびに前記切換器132,133やAF処理器131およびベースバンド処理器141は、DSPやFPGAなどから成る変復調回路に構成される。前記周波数変調器152は、選択した変調方式に応じて変更される。たとえばデジタル位相変調方式が選択されていれば直交変調器を使用した位相変調器、振幅変調方式が選択されていれば振幅変調器となる。
【0029】
そして、本実施形態の無線機1には、コネクタ25を介して、外付けマイクロフォン2が接続可能である。また、無線通信などによるマイクロフォン31を備えるヘッドセットなども使用可能である。そのため、それらのマイクロフォン22,31に関しても、前記低周波増幅器121およびアナログ/デジタル変換器122に対応する低周波増幅器161,171およびアナログ/デジタル変換器162,172が設けられ、それらは選択器123で択一的に選択されて、切換器132に接続される。
【0030】
同様に、スピーカ19に関しても、外付けマイクロフォン2のスピーカ21が使用可能であり、前記低周波増幅器115と、これらのスピーカ19,21との間には、選択器116が介在される。PTTスイッチ15(16)に関しても、外付けマイクロフォン2のPTTスイッチ23や、無線通信などによるPTTスイッチ32が使用可能であり、共に、制御部4内のPTT検出器41に入力される。
【0031】
前記制御部4は、送受信などの無線機1の動作を制御するもので、操作キー18(図1参照)の操作によって設定された前記4値FSK変調やFM変調の変調方式およびチャネル設定に応じて、前記のようにモード設定部42が前記切換器112,113および復調器111ならびに切換器132,133やAF処理器131およびベースバンド処理器141の選択を行う。
【0032】
注目すべきは、本実施形態の無線機1では、制御部4には、外付けマイクロフォン2側に設けられるマイク種類設定部27の設定内容を検出するマイク種類検出器43が設けられていることである。マイク種類検出器43およびマイク種類設定部27は、検出手段を構成し、協働して、外付けマイクロフォン2におけるマイクロフォン22とPTTスイッチ23との構造関係を検出する。具体的には、外付けマイクロフォン2のマイクロフォン22によって、PTTスイッチ23の作動音を拾ってしまうか否かを判定する。その検出(判定)のために、前記カールコード24に専用信号線が、およびコネクタ25に専用端子が、それぞれ設けられてもよく、またはPTTスイッチ23やマイクロフォン22の端子が開放されている(ハイインピーダンス)か、所定電圧にプルアップされているか、或いは、操作キー18側から事前設定されるなど、任意である。
【0033】
そして、マイク種類検出器43は、外付けマイクロフォン2が、単体マイクロフォンのみであるのか、PTTスイッチ23を備えるものであるか、またそのPTTスイッチ23を備える場合、カールコード24の途中に設けられて該PTTスイッチ23の作動音を拾わないものであるか、筐体28にPTTスイッチ23とマイクロフォン22とが設けられて、構造的にPTTスイッチ23の作動音を拾ってしまうものか否かを検出(判定)する。なお、内蔵マイクロフォン20、外部マイクロフォン22、または無線通信などの拡張マイクロフォン31の何れが使用されるかは、対応するPTTスイッチ15(16)、23、32の操作に応答して、前記PTT検出器41が判定する。
【0034】
また注目すべきは、本実施形態の無線機1では、何れかのマイクロフォン20,22,31で集音された音声信号の出力段となる選択器123と、送信手段の入力段となる切換器132との間には、可変容量の記憶手段である可変長バッファ124が介在されるとともに、AF処理器1311~131nとベースバンド処理器1411~141nとの間に、ミュート回路1811~181n(以下、総称する際は、参照符号181で示す)が設けられることである。前記可変長バッファ124は、バッファ長を可変長に設定可能であり、その設定されたバッファ長に対応した時間だけ、音声信号を一時的に記憶し、遅延して出力する。制御手段である制御部4には、そのバッファ長、すなわち遅延時間を設定する遅延量決定テーブル44が設けられている。
【0035】
遅延量決定テーブル44は、前記PTT検出器41、モード設定部42の設定内容およびマイク種類検出器43の検出結果に応答して、テーブルから、適切なバッファ長を求め、可変長バッファ124に設定する。具体的には、遅延量決定テーブル44は、先ず、PTT検出器41でPTTスイッチ23が検出されない、すなわち内蔵マイクロフォン20または拡張マイクロフォン31が使用される場合は、可変長バッファ124のバッファ長は最小のままとする。次に、遅延量決定テーブル44は、PTT検出器41でPTTスイッチ23の使用が検出されると、外付けマイクロフォン2の外部マイクロフォン20が使用されるものとして、さらにマイク種類検出器43の検出(判定)結果から、以下のようにして可変長バッファ124のバッファ長を設定する。
【0036】
遅延量決定テーブル44は、モード設定部42の設定内容によって、前記マイク種類検出器43の検出結果に応答して、以下のように前記バッファ長を切換える。すなわち、外付けマイクロフォン2が、単体マイクロフォンのみである場合、バッファ長を最小にする。これに対して、遅延量決定テーブル44は、外付けマイクロフォン2がPTTスイッチ23を備えるものである場合で、筐体28にPTTスイッチ23とマイクロフォン22とが一体に設けられており、構造的にPTTスイッチ23の作動音を拾ってしまう場合、前記バッファ長を、その作動音を拾わない最小の長さにする。また、外付けマイクロフォン2がPTTスイッチ23を備えるものである場合で、カールコード24の途中に設けられて該PTTスイッチ23の作動音を拾わないものであったり、筐体28にPTTスイッチ23とマイクロフォン22とが一体に設けられていても、構造的にPTTスイッチ23の作動音を拾わないものである場合は、遅延量決定テーブル44は、前記バッファ長を最小、或いは最小とならない所定のバッファ長にする。
【0037】
遅延量決定テーブル44は、モード設定部42の設定内容によって、上記のように、PTTスイッチ23とマイクロフォン22との構造関係に応じてバッファ長を決定してもよい。すなわち、機構構造の異なる複数の外付けマイクロフォン2が無線機1に接続可能な場合、その機構構造の違いによって、作動音が発生してからPTTスイッチ23が完全にオフするまでの時間差が異なるため、この時間差に基いてバッファ長を決定すればよい。
【0038】
また、遅延量決定テーブル44では、モード設定部42の設定内容によって、後段のAF処理器131による処理遅延量や付加機能を考慮して、バッファ長、すなわち遅延時間が、さらに調整される。具体的には、上述のアナログモードとデジタルモードの違いや、ノイズキャンセラやイコライザの有無などによる。本実施形態の無線機1は、前述のように、4値FSK変調方式のデジタルモードと、アナログFM変調モードとの2つのモードを備えているが、本発明の適用はこの2つのモードに限定されるものではなく、たとえば、デジタル位相変調や振幅変調方式も考えられる。これらの変調方式を選択した場合、AF処理器131の処理時間が選択した変調方式により異なるので、選択した変調方式の処理時間と、マイク種類検出器43で検出したマイクロフォンの種類との組合わせにより、遅延量決定テーブル44の遅延量決定処理にて、作動音を送信せず、かつ、遅延時間が最小となる時間を選択する。選択した遅延時間は可変長バッファ124の長さとして設定される。
【0039】
そして、PTTスイッチ15(16),23,32が解除された時点で、PTT検出器41が、ミュート回路181にミュート動作を行わせることで、その解除時点から前記可変長バッファ124のバッファ長分だけ遡った時点までの音声信号がミュート処理されることになる。ミュート処理は、音声信号のデータを音量0のデータで上書きしたり、ヘッダデータで後続データを無視するような設定など、任意である。
【0040】
図3は、上述のように構成される無線機1の音声信号送信方法を説明するための機能ブロック図である。送信に使用されるマイクロフォン20,22,31の何れか、およびPTTスイッチ15(16),23,32の何れかの使用が決定されると、マイク種類検出器43は、前記のマイクロフォンとPTTスイッチとの構造的な音の回込みの有無を検出(判定)し、遅延量決定処理部44は、その検出(判定)結果と、前記AF処理器131での遅延量などにも基づき、テーブルを参照して、記憶手段である可変長バッファ124の適切なバッファ長を求め、予め設定する。
【0041】
そして、PTTスイッチ15(16),23,32が押下げられ、PTTラインが「接」になったことがPTT検出器41で検出されると、マイクロフォン20,22,31からの音声信号が、アナログ/デジタル変換器122,162,172でデジタル変換されて、前記可変長バッファ124に一時的に記憶され、さらに前記AF処理器131で処理された後、ミュート回路181をスルーして(音声信号はそのまま)、ベースバンド処理器141で所定の変調方式のベースバンド信号となり、周波数変調器152で変調されて送信される。
【0042】
これに対して、PTTスイッチ15(16),23,32が解除され、PTTラインが「断」になったことがPTT検出器41で検出されると、前記外付けマイクロフォン2のマイクロフォン22の場合には作動音が発生している可能性がある。そこで、PTT検出器41は、その時点から、ミュート回路181にミュート動作を行わせることで、可変長バッファ124に残されていた音声信号は、ミュート処理して送信され、前記作動音が受信側のスピーカ19から耳障りなボツ音となって放出されることを未然に防止することができる。一方、内蔵マイクロフォン20の使用の場合や、他のマイクロフォン31が使用される場合は、同様にPTTライン「断」でミュート動作を行っても、可変長バッファ124のバッファ長は短めに設定され、無音データで上書きされるデータ量が少ないので、送信側の無線機1で送信した通話が受信側の無線機1に届くまでの遅延時間を最も少なくすることができる。また、作動音を拾わない、拾ったとしても受信側で不快に感じない程に、作動音が小さい場合は、可変長バッファ124の容量をゼロにしても良い。その場合、変調処理等、送信処理に絶対的に発生する遅延以外の遅延を発生させずに済み、尻切れをすることが無い。
【0043】
以上のように、本実施形態の無線機1によれば、マイク種類検出器43で、送信に使用されるマイクロフォン20,22,31とPTTスイッチ15(16),23,32との構造関係を検出し、外付けマイクロフォン2のように、マイクロフォン22がPTTスイッチ23の作動音を拾ってしまう構造関係にあるときには、遅延量設定処理部44は、可変長バッファ124のバッファ長を長く(容量を大きく)し、作動音を拾う可能性が無ければ、バッファ長を短く(容量を小さく)する。
【0044】
したがって、PTTスイッチ15(16),23,32が解除された際、該PTTスイッチ15(16),23,32の解除タイミングを基準にして、以降は、可変長バッファ124の音声信号にミュート回路181がミュート動作を行うことで、前記外付けマイクロフォン2のように、マイクロフォン22がPTTスイッチ23の作動音を拾ってしまっても、それを確実にミュートして、該作動音を送信しないので、受信側でのボツ音の発生を防止することができる。一方、PTTスイッチ15(16),32のように、該PTTスイッチ15(16),32の作動音をマイクロフォン20,31が拾ってしまう可能性の無いときは、ミュートを掛ける量が最小となるので、トーク(送話)が尻切れになる可能性を小さくすることができる。
【0045】
本発明は、PTTスイッチの押下げにより送信が可能となる通信機器に適用可能であり、たとえばインターホンやTV会議システムにも適用可能である。しかしながら、それらのインターホンやTV会議システムの場合、マイクロフォンは本体搭載となり、PTTスイッチと同じ筐体に搭載されることが多いが、比較的大きな筐体で、前記作動音の対策は、構造的に取り易い。また、無線機1も携帯型の場合、筐体は小さいが、未だ、内蔵マイクロフォン20とPTTスイッチ15(16)との構造面での対応も或る程度可能である。
【0046】
しかしながら、無線機1の場合で、上述のように、マイクロフォン22が、PTTスイッチ23を備える外付けマイクロフォン2である場合は、マイクロフォン22とPTTスイッチ23とが近接しており、構造的に前記作動音の対策は取り難い。そこで、そのような場合に、可変長バッファ124のバッファ長を相対的に大きくして、PTTスイッチ23が解除された際にミュートを掛ける音声信号量を相対的に大きくすることで、このように構造的に前記作動音の対策が取り難いPTTスイッチ23を備える小型の外付けマイクロフォン2の場合に、有効なボツ音対策を行うことができる。
【0047】
ここで、音声信号の伝送路は、有線・無線を問わず、またアナログ・デジタルも問わない。しかしながら、アナログFM無線回線の場合、S/N比が40~50dB程度であり、無音であれば、サーという残留ノイズが存在する。そして、PTTスイッチ20,23,32が解除されて終話となると、送信信号が停止し、これによって受信回路の低周波増幅器115の動作が停止し、前記の残留ノイズが停止するので、前記終話を認識することができる。したがって、このアナログFM無線回線の場合は、前記ボツ音で終話を認識する必要は無く、耳障りなボツ音を消すことは、特に有効である。
【符号の説明】
【0048】
1 無線機
10 筐体
12 電源・音量ツマミ
13 チャネル切換えツマミ
14 アンテナ
15 PTTスイッチ
16 サイドスイッチ
17 表示部
18 操作キー
19 スピーカ
20 マイクロフォン
2 外付けマイクロフォン
21 スピーカ
22 マイクロフォン
23 PTTスイッチ
24 カールコード
25 コネクタ
27 マイク種類設定部
28 筐体
31 マイクロフォン
32 PTTスイッチ
4 制御部
41 PTT検出器
42 モード設定器
43 マイク種類検出器
44 遅延量決定テーブル
101 送受信切換器
112,113 切換器
1111~111n 復調器
116 選択器
123 選択器
124 可変長バッファ
132,133 切換器
1311~131n AF処理器
1411~141n ベースバンド処理器
1811~181n ミュート回路
図1
図2
図3