(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023042777
(43)【公開日】2023-03-28
(54)【発明の名称】抗ウイルス性不織布
(51)【国際特許分類】
D06M 13/256 20060101AFI20230320BHJP
D06M 101/28 20060101ALN20230320BHJP
【FI】
D06M13/256
D06M101:28
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021150099
(22)【出願日】2021-09-15
(71)【出願人】
【識別番号】518381846
【氏名又は名称】東洋紡せんい株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000004053
【氏名又は名称】日本エクスラン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103816
【弁理士】
【氏名又は名称】風早 信昭
(74)【代理人】
【識別番号】100120927
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 典子
(72)【発明者】
【氏名】黒田 修広
(72)【発明者】
【氏名】河端 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】小見山 拓三
(72)【発明者】
【氏名】安川 真一
(72)【発明者】
【氏名】溝部 穣
【テーマコード(参考)】
4L033
【Fターム(参考)】
4L033AA05
4L033AA07
4L033AB07
4L033AC10
4L033BA28
(57)【要約】
【課題】簡便に製造することができ、かつ高いレベルの抗ウイルス性能を有する抗ウイルス性不織布を提供する。
【解決手段】カルボキシル基含有量が0.2~9.5mmol/gであるカルボキシル基含有重合体、及びベンゼンスルホン酸化合物を含有する不織布からなることを特徴とする抗ウイルス性不織布。好ましくは、カルボキシル基含有重合体は、繊維状であり、この繊維状のカルボキシル基含有重合体が不織布を構成しており、不織布にベンゼンスルホン酸化合物が付着しているか、又はカルボキシル基含有重合体は、粒子状であり、前記粒子状のカルボキシル基含有重合体及びベンゼンスルホン酸化合物が、不織布を構成する繊維上に付着している。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシル基含有量が0.2~9.5mmol/gであるカルボキシル基含有重合体、及びベンゼンスルホン酸化合物を含有する不織布からなることを特徴とする抗ウイルス性不織布。
【請求項2】
カルボキシル基含有重合体が、繊維状であり、この繊維状のカルボキシル基含有重合体が不織布を構成しており、不織布にベンゼンスルホン酸化合物が付着していることを特徴とする請求項1に記載の抗ウイルス性不織布。
【請求項3】
カルボキシル基含有重合体が、架橋構造を有することを特徴とする請求項2に記載の抗ウイルス性不織布。
【請求項4】
カルボキシル基含有重合体が、アクリロニトリル系重合体に1分子中の窒素数が2以上である窒素含有化合物による架橋処理を行った後に、加水分解処理及び酸処理を施すことにより架橋構造を導入して得られるものであることを特徴とする請求項3に記載の抗ウイルス性不織布。
【請求項5】
カルボキシル基含有重合体が塩基性基を有することを特徴とする請求項4に記載の抗ウイルス性不織布。
【請求項6】
カルボキシル基含有重合体が、粒子状であり、前記粒子状のカルボキシル基含有重合体及びベンゼンスルホン酸化合物が、不織布を構成する繊維上に付着していることを特徴とする請求項1に記載の抗ウイルス性不織布。
【請求項7】
カルボキシル基含有重合体が、架橋構造を有することを特徴とする請求項6に記載の抗ウイルス性不織布。
【請求項8】
カルボキシル基含有重合体が、1分子中のビニル基数が2以上である化合物を共重合することにより架橋構造を導入して得られるものであることを特徴とする請求項7に記載の抗ウイルス性不織布。
【請求項9】
カルボキシル基含有重合体中のカルボキシル基の中和度が80%以下であることを特徴とする請求項8に記載の抗ウイルス性不織布。
【請求項10】
ベンゼンスルホン酸化合物が、下記一般式(I)で示される構造を持つ化合物であることを特徴とする請求項1~9のいずれかに記載の抗ウイルス性不織布:
式中、Rは炭素数10~15のアルキル基を表し、M
n+はn価カチオンを表し、nは1又は2である。
【請求項11】
ベンゼンスルホン酸化合物が、下記式(II)で示される構造を持つ化合物であることを特徴とする請求項1~9のいずれかに記載の抗ウイルス性不織布:
式中、R
1,R
2は、各々独立して炭素数10~15の直鎖又は分岐鎖の飽和アルキル基から選択され、各mは、独立して0又は1であり、各M
+は、独立して水素、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム、又は置換アンモニウムから選択され、式(II)の化合物が少なくとも1個のスルホナート基を含むことを条件として各wは、独立して0又は1である。
【請求項12】
請求項1~11のいずれかに記載の抗ウイルス性不織布を使用した繊維製品であって、衛生資材、寝具、インテリア用品、内装材、医療用品から選択される繊維製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、簡便に製造でき、優れた抗ウイルス性を発現できる不織布に関する。
【背景技術】
【0002】
ウイルス感染は、ウイルス感染者から放出されたウイルスを含む飛沫(くしゃみ等)に直接接触する場合のみならず、ウイルス感染者が触れた衣服やタオルなどに接触(間接接触)することによっても生じる。例えばウイルス感染を防止する手段として、一般的にマスクが使用されているが、使用時間が長くなると、マスクのフィルター部にウイルスが濃縮された状態となるため、マスクの脱着時にマスク本体に触れるとウイルスが手に付着し、その手でタオルや衣服に触れることによって、ウイルスがタオルや衣服に付着する。そして、第三者が該ウイルス付着箇所に触れると、手にウイルスが付着し、二次感染を引き起こす。
【0003】
こうした問題に鑑み、ウイルスを撲滅するあるいはウイルスの増殖を抑制する技術が各種提案されている。例えば、銀を利用するもの(特許文献1、2参照)、4級アンモニウムを利用するもの(特許文献3、4参照)、金属ピリチオンを利用するもの(特許文献5、6参照)、カルボキシル基を有する重合体を使用するもの(特許文献7参照)、カルボキシル基を有する重合体とスルホン酸基を有する重合体の複合物を使用するもの(特許文献8参照)などを挙げることができる。
【0004】
しかしながら、銀を使用するものは使用している際に変色する、4級アンモニウムを使用するものは高温での安定性に劣る、金属ピリチオンを使用するものは抗菌性が高いものの抗ウイルス性が不十分である、カルボキシル基を有する重合体を使用するものは製品への加工工程で使用される薬剤により性能が低下することがあるといった問題がある。一方、カルボキシル基を有する重合体とスルホン酸基を有する重合体の複合物を使用するものは前述のような問題は起こりにくいが、重合体の化学変性又は重合体へのグラフト重合によってカルボキシル基及びスルホン酸基を重合体に導入することが必要であり、製造工程が複雑で安定生産やコスト面などに問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2005/083171号公報
【特許文献2】特開平11-19238号公報
【特許文献3】特開2008-115506号公報
【特許文献4】特開2001-303372号公報
【特許文献5】特開2006-9232号公報
【特許文献6】特開2005-281951号公報
【特許文献7】特開2013-147774号公報
【特許文献8】特開2017-36431号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述の従来技術の問題に鑑みて創案されたものであり、その目的は、簡便に製造することができ、かつ高いレベルの抗ウイルス性能を有する抗ウイルス性不織布を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上述の目的を達成するために鋭意検討を進めた結果、カルボキシル基含有重合体とベンゼンスルホン酸化合物を不織布に含有させることにより、後工程の環境によって抗ウイルス性能が影響され難く、安定的に優れた抗ウイルス性能が発揮できる不織布が簡単に得られることを見出し、本発明の完成に至った。
【0008】
即ち、本発明は、以下の(1)~(12)の構成により達成されるものである。
(1)カルボキシル基含有量が0.2~9.5mmol/gであるカルボキシル基含有重合体、及びベンゼンスルホン酸化合物を含有する不織布からなることを特徴とする抗ウイルス性不織布。
(2)カルボキシル基含有重合体が、繊維状であり、この繊維状のカルボキシル基含有重合体が不織布を構成しており、不織布にベンゼンスルホン酸化合物が付着していることを特徴とする(1)に記載の抗ウイルス性不織布。
(3)カルボキシル基含有重合体が、架橋構造を有することを特徴とする(2)に記載の抗ウイルス性不織布。
(4)カルボキシル基含有重合体が、アクリロニトリル系重合体に1分子中の窒素数が2以上である窒素含有化合物による架橋処理を行った後に、加水分解処理及び酸処理を施すことにより架橋構造を導入して得られるものであることを特徴とする(3)に記載の抗ウイルス性不織布。
(5)カルボキシル基含有重合体が塩基性基を有することを特徴とする(4)に記載の抗ウイルス性不織布。
(6)カルボキシル基含有重合体が、粒子状であり、前記粒子状のカルボキシル基含有重合体及びベンゼンスルホン酸化合物が、不織布を構成する繊維上に付着していることを特徴とする(1)に記載の抗ウイルス性不織布。
(7)カルボキシル基含有重合体が、架橋構造を有することを特徴とする(6)に記載の抗ウイルス性不織布。
(8)カルボキシル基含有重合体が、1分子中のビニル基数が2以上である化合物を共重合することにより架橋構造を導入して得られるものであることを特徴とする(7)に記載の抗ウイルス性不織布。
(9)カルボキシル基含有重合体中のカルボキシル基の中和度が80%以下であることを特徴とする(8)に記載の抗ウイルス性不織布。
(10)ベンゼンスルホン酸化合物が、下記一般式(I)で示される構造を持つ化合物であることを特徴とする(1)~(9)のいずれかに記載の抗ウイルス性不織布:
式中、Rは炭素数10~15のアルキル基を表し、M
n+はn価カチオンを表し、nは1又は2である。
(11)ベンゼンスルホン酸化合物が、下記式(II)で示される構造を持つ化合物であることを特徴とする(1)~(9)のいずれかに記載の抗ウイルス性不織布:
式中、R
1,R
2は、各々独立して炭素数10~15の直鎖又は分岐鎖の飽和アルキル基から選択され、各mは、独立して0又は1であり、各M
+は、独立して水素、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム、又は置換アンモニウムから選択され、式(II)の化合物が少なくとも1個のスルホナート基を含むことを条件として各wは、独立して0又は1である。
(12)(1)~(11)のいずれかに記載の抗ウイルス性不織布を使用した繊維製品であって、衛生資材、寝具、インテリア用品、内装材、医療用品から選択される繊維製品。
【発明の効果】
【0009】
本発明の抗ウイルス性不織布は、カルボキシル基含有重合体とベンゼンスルホン酸化合物を不織布に含有させているだけのため、重合体の化学変性又は重合体へのグラフト重合によってカルボキシル基及びスルホン酸基を導入する従来の方法と異なり、カルボキシル基とスルホン酸基の両方を有する抗ウイルス性不織布を簡便な方法で製造することができる。また、本発明の抗ウイルス性不織布は、カルボキシル基含有重合体とベンゼンスルホン酸化合物の両方の抗ウイルス性成分を不織布中に含有しているため、抗ウイルス性が極めて優れている。しかも、本発明の抗ウイルス性不織布は、カルボキシル基含有重合体とベンゼンスルホン酸化合物が強く結合しているか、又はベンゼンスルホン酸化合物が不織布に強固に固着して不溶化しているため、洗濯等の外部からの作用を受けても高レベルの抗ウイルス性を維持することができる。さらに、本発明の抗ウイルス性不織布は、使用するカルボキシル基含有重合体を繊維状又は粒子状に加工できるため、衛生資材、寝具、インテリア用品、内装材、医療用品をはじめ、様々な用途、分野の製品に使用して、高いレベルの抗ウイルス性能を付与することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の不織布は、抗ウイルス性を発揮する有効成分として、カルボキシル基含有重合体とベンゼンスルホン酸化合物を含有する。特に、本発明の不織布は、カルボキシル基による抗ウイルス性とベンゼンスルホン酸化合物による抗ウイルス性という相互に異なるタイプの抗ウイルス性が相互作用することにより、個々の要素による抗ウイルス性を大きく上回ってウイルスを効率的に不活性化することができる。つまり、カルボキシル基は、ウイルスのエンベローブから突出しているスパイク蛋白を失活させる。一方、ベンゼンスルホン酸化合物は、ウイルスのエンベローブ脂質膜の構造を不安定化させることで、ウイルスの構造に対して強力に不可逆的変化を引き起こすことができる。
【0011】
本発明で使用するカルボキシル基含有重合体は、いずれの形態もとりうることができるが、繊維状のもの又は粒子状のものを使用することが好ましい。繊維状のカルボキシル基含有重合体は、いわゆるアクリレート繊維であり、例えば東洋紡社製「エクス(登録商標)」・「モイスケア(登録商標)」、日本エクスラン工業製「ヴァイアブロック(登録商標)」、帝人フロンティア社製「サンバーナー(登録商標)」や、特開平05-132858号公報、特開2000-314082号公報に開示されている吸湿性繊維などを挙げることができる。一方、粒子状のカルボキシル基含有重合体は、好ましくはカルボキシル基を有するビニル系重合体やビニリデン系重合体などの付加重合体であり、例えば日本エクスラン工業製「ヴァイアブロック(登録商標)」や、特開平08-225610号公報、特開2009-74098号公報に開示されている吸湿性粒子などを挙げることができる。
【0012】
カルボキシル基含有重合体が繊維状の場合と粒子状の場合では、不織布の構造が異なる。カルボキシル基含有重合体が繊維状の場合、本発明の抗ウイルス性不織布は、かかる繊維状のカルボキシル基含有重合体から構成された不織布にベンゼンスルホン酸化合物を付着させた形態をとることができる。一方、カルボキシル基含有重合体が粒子状の場合、本発明の抗ウイルス性不織布は、汎用繊維からなる不織布にかかる粒子状のカルボキシル基含有重合体とベンゼンスルホン酸化合物を付着させた形態をとることができる。以下、これらの二つの形態を中心に、共通する特徴と形態ごとに相違する特徴に分けて説明する。
【0013】
本発明で使用するカルボキシル基含有重合体の製造方法は、特に限定されないが、例えばカルボキシル基を含有する単量体を単独重合又は共重合可能な他の単量体と共重合することによって重合体を得る方法が挙げられる。具体的には、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、ビニルプロピオン酸等のカルボキシル基を含有するビニル系単量体の単独重合、あるいは2種以上のかかる単量体からなる共重合、あるいは、これらの単量体と共重合可能な他の単量体との共重合により重合体を得る方法が挙げられる。共重合可能な他の単量体としては、例えば、ハロゲン化ビニル化合物;ビニリデン系単量体;不飽和カルボン酸およびこれらの塩類;アクリル酸エステル類;メタクリル酸エステル類;不飽和ケトン類;ビニルエステル類;ビニルエーテル類;アクリルアミドおよびそのアルキル置換体;ビニル基含有酸化合物、またはその塩、その無水物、その誘導体等;スチレンおよびそのアルキルまたはハロゲン置換体;アリルアルコールおよびそのエステルまたはエーテル類;ビニルイミド類;塩基性ビニル化合物;不飽和アルデヒド類;架橋性ビニル化合物を挙げることができる。これらの製造方法は、例えば特開2013-147473号等から公知であるので、ここでは詳述しない。
【0014】
カルボキシル基含有重合体中のカルボキシル基含有量は、後述する実施例に記載の方法によって測定すると0.2~9.5mmol/gであり、好ましくは0.5~9.0mmol/g、より好ましくは0.7~8.0mmol/gである。カルボキシル基含有量が上記範囲未満では、十分な抗ウイルス性が得られず、上記範囲を超えると、製造が困難になりうる。
【0015】
また、カルボキシル基含有重合体は、後述する方法によって測定される中和度が好ましくは80%以下、より好ましくは50%以下、さらに好ましくは25%以下である。ここで、中和度が高いということは、対イオンが水素イオン以外のカチオンである塩型カルボキシル基が多く、抗ウイルス性能を発現する要素である酸型(H型)カルボキシル基が少ないことを意味する。従って、中和度が上記範囲を超えると抗ウイルス性能が低下しやすい。
【0016】
本発明に使用するカルボキシル基含有重合体は、架橋構造を有することが、形態安定性の点で好ましい。架橋構造を導入することにより、カルボキシル基の導入による重合体の親水性の増加を抑制して、重合体の吸水による膨潤や溶出を防止し、形態安定性を向上させることができる。
【0017】
架橋構造は、特に限定されず、共有結合による架橋、イオン架橋、ポリマー分子間相互作用または結晶構造による架橋等いずれの構造のものでもよい。架橋構造の導入量としては、上述したカルボキシル基含有量および最終的に得られる抗ウイルス性不織布に必要なその他の特性を勘案して決定すればよい。すなわち、高い抗ウイルス性能が必要であれば、架橋構造を少なくし、できるだけ多くのカルボキシル基を導入することが望ましい。一方、高い形態安定性が求められるならば、架橋構造を多くすることが望ましい。
【0018】
また、架橋構造を導入する方法についても、特に限定されず、骨格となる重合体の重合段階における架橋性単量体による架橋、重合体を得た後での後架橋、物理的なエネルギーによる架橋構造の導入など、一般に用いられる方法を採用することができる。中でも、骨格となる重合体の重合段階で架橋性単量体を用いる方法、および重合体を得た後の後架橋による方法が、共有結合による強固な架橋を導入することが可能であるので好ましい。
【0019】
カルボキシル基含有重合体が繊維状である場合、架橋を導入する好適な方法として、アクリロニトリル系重合体などのカルボキシル基含有重合体に1分子中の窒素数が2以上である窒素含有化合物(以下、略して「窒素含有化合物」ともいう)による架橋処理および加水分解処理を施した後に酸処理を施す方法を挙げることができる。かかる例においては、架橋処理に使用する窒素含有化合物が塩基性基も生成する。
【0020】
上記の方法により架橋されたカルボキシル基含有重合体が有する塩基性基としては、1級アミノ基、2級アミノ基、3基アミノ基などを例示することができる。かかる塩基性基は、後述するベンゼンスルホン酸化合物とイオン結合できるため、カルボキシル基含有重合体からベンゼンスルホン酸化合物が脱落することを抑制し、洗濯等の外部からの作用を受けた際にも高い抗ウイルス性を維持しやすくなる効果を有する。塩基性基は、実質的には上述のように窒素含有化合物による架橋処理により導入される。従って、カルボキシル基含有重合体中の塩基性基の含有量は、一般的に架橋処理前後での窒素含有量の増加で表現される。窒素含有量の増加としては一般的に1~10重量%である。なお、窒素含有量の増加は、原料アクリル繊維と架橋処理後の繊維のそれぞれについて元素分析で窒素含有量(重量%)を求め、その差から算出することができる。
【0021】
所望により、架橋処理後、加水分解処理の前に、架橋処理に使用した窒素含有化合物の未反応分の除去や繊維の色安定性向上(赤みを抑える)のために酸処理を行なってもよい。なお、カルボキシル基含有重合体中のカルボキシル基の含有量、その中和度、及び塩基性基の含有量は、これらの処理の条件を適宜調整することにより制御することができる。これらの制御方法は、従来公知であり、例えば、特開平8-246342号公報、特開平8-325938、特開平11-081130号公報、特開2000-265365号公報、特開2017-36431号公報などを参照することができる。具体的には、カルボキシル基の含有量について、加水分解処理の条件は特に限定されないが、1~10重量%、さらに好ましくは1~5重量%の水溶液中、温度50~120℃で1~10時間以内で処理する手段が工業的、繊維物性的に好ましい。中和度(酸処理)について、酸処理の手段としては、加水分解を施された繊維を1~15重量%の酸性水溶液中に常温で0.5時間以上浸漬して水洗することが好ましい。酸性水溶液としては、塩酸、酢酸、硝酸、硫酸等が好適に用いられる。塩基性基の含有量(窒素含有量の増加)について、窒素含有化合物の濃度5~60重量%の水溶液中、温度50~120℃で5時間以内で処理する手段が工業的に好ましい。
【0022】
窒素含有化合物としては、水加ヒドラジン、硫酸ヒドラジン、塩酸ヒドラジン等のヒドラジン系化合物やエチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ポリエチレンイミン等のアミノ基を複数有する化合物等を例示することができる。
【0023】
架橋処理の方法としては、窒素含有化合物の水溶液に浸漬し加熱する方法が挙げられる。加水分解処理としては、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩、アンモニア等の塩基性水溶液、あるいは、硝酸、硫酸、塩酸等の水溶液に浸漬し加熱する方法が挙げられる。酸処理の方法としては、塩酸、酢酸、硝酸、硫酸等の酸性水溶液に浸漬する方法が挙げられる。
【0024】
カルボキシル基含有重合体は、構成成分としてアクリロニトリルを好ましくは40重量%以上、より好ましくは50重量%以上含有する共重合体であることができ、アクリロニトリル単独重合体であってもよい。また、カルボキシル基含有重合体がアクリル繊維である場合には、多量のカルボキシル基を導入しても繊維物性や形態安定性が優れた繊維状のカルボキシル基含有重合体にできるため、一般的な繊維の加工を適用することができる。
【0025】
カルボキシル基含有重合体が粒子状の場合、架橋を導入する好適な方法として、カルボキシル基含有重合体の製造時に架橋性単量体を共重合する方法を挙げることができる。前述の架橋性ビニル化合物を、カルボキシル基を有する、あるいはカルボキシル基に変性できる官能基を有する単量体と共重合することにより、共有結合に基づく架橋構造を導入することができる。なお、カルボキシル基に変性できる官能基を有する単量体を採用する場合は、架橋構造導入後に加水分解処理などによってカルボキシル基への変性を行うことになるので、かかる処理において損なわれることのない架橋構造を導入できる架橋性単量体を採用することが望ましい。
【0026】
このような方法により導入される架橋構造としては、グリシジルメタクリレート、N-メチロールアクリルアミド、トリアリルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート、ジビニルベンゼン、ヒドロキシエチルメタクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、メチレンビスアクリルアミド等の架橋性ビニル化合物により誘導されたものを挙げることができる。なかでもトリアリルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート、ジビニルベンゼン、メチレンビスアクリルアミドによる架橋構造は、カルボキシル基を導入するための加水分解等の際にも化学的に安定であるので望ましい。
【0027】
具体的には、架橋性単量体としてジビニルベンゼンなどの1分子中のビニル基数が2以上である化合物を採用し、カルボキシル基に変性できる官能基を有する単量体としてアクリロニトリルを採用する例が挙げられる。共重合組成については、最終的に得られる抗ウイルス性不織布に求められる抗ウイルス性能、すなわち、上述したカルボキシル基量や形態安定性等を考慮して、適宜設定すればよく、例えば、ジビニルベンゼンを10重量%以上、アクリロニトリルを50重量%以上使用する例が挙げられる。
【0028】
次に、本発明の抗ウイルス性不織布が含有するもう一つの有効成分であるベンゼンスルホン酸化合物について説明する。ベンゼンスルホン酸化合物は、スルホン酸系であることによって強いアニオン性を有するため、カルボキシル基含有重合体が繊維状で塩基性基を有する場合、この塩基性基とイオン結合する。この場合、消費段階の洗濯等の処理によってもベンゼンスルホン酸化合物は、脱落しにくく、不織布上に多く残留することができるため、抗ウイルス性の洗濯耐久性が維持されやすい。
【0029】
ベンゼンスルホン酸化合物は、ベンゼンスルホン酸及びそれらの塩からなる群から選ばれる。ベンゼンスルホン酸化合物は、アルキルベンゼンスルホン酸及びそれらの塩からなる群から選ばれるアルキルベンゼンスルホン酸化合物であることが好ましい。また、アルキルベンゼンスルホン酸化合物は、洗濯耐久性の点から、アルキル基の炭素数が10~15であることが好ましく、12~14であることがより好ましい。アルキル基は親油性が高いため、ウイルスのエンベローブ脂質膜との親和性が高く、ウイルスと接触した際にエンベロープ脂質膜の構造を不安定化させ、抗ウイルス性に寄与することができる。
【0030】
ベンゼンスルホン酸化合物の好ましい例としては、下記一般式(I)で示される構造を持つ化合物が挙げられる:
式中、Rは炭素数10~15のアルキル基を表し、M
n+はn価カチオンを表し、nは1又は2である。
【0031】
一般式(I)中、Rのアルキル基は、直鎖又は分岐鎖であってよいが、生分解性を良好とするためには直鎖が好ましい。より好ましいアルキル基の炭素数は12~14である。また、Mは、n価カチオンであり、水素、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム、又は置換アンモニウムから選択される。
【0032】
一般式(I)の構造を持つ化合物としては、直鎖型のアルキルベンゼンスルホン酸及びその塩(LAS)や、分岐型のアルキルベンゼンスルホン酸とその塩(ABS)が挙げられる。代表的な市販品としては、例えば、テイカ製 テイカパワーシリーズ、ライオンスペシャルティケミカルズのライポンシリーズがある。具体的には、テイカワパワーB120、B121、ライポンLW-250、LH-900等がある。
【0033】
ベンゼンスルホン酸化合物のさらに好ましい例としては、下記一般式(II)に示される構造を持つ化合物、特にアルキルジフェニルオキシドスルホナートが挙げられる:
式中、R
1,R
2は、各々独立して炭素数10~15の直鎖又は分岐鎖の飽和アルキル基から選択され、各mは、独立して0又は1であり、各M
+は、独立して水素、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム、又は置換アンモニウムから選択され、式(II)の化合物が少なくとも1個のスルホナート基を含むことを条件として各wは、独立して0又は1である。
【0034】
一般式(II)の構造を持つ化合物の製造方法は、従来から良く知られており、例えば米国特許第3,264,242号、第3,634,272号、第3,945,437号、第2,990,375号、第5,015,367号に開示されている。代表的な市販品としては、概してモノアルキル、モノスルホナート、ジアルキル又はジスルホナートである。ただし、単体に単離されたものは少なく、これらの混合物が販売されている。本発明では、モノアルキル化の百分率割合が75~95%であるものを便宜上モノアルキルジフェニルオキシドスルホナートとして扱う。市販品としては、例えば、ナトリウム(直鎖デシル)ジフェニルオキシドスルホナート(ダウケミカル製DOWFAX(商標)Ag);ナトリウム(直鎖デシル)ジフェニルオキシドスルホナート(DOWFAX(商標)Ag-D);ナトリウム(直鎖ドデシル)ジフェニルオキシドスルホナート(実験用界面活性剤XUS8174.00);ナトリウム(ドデシル)ジフェニルオキシドスルホナート(DOWFAX(商標)2A1);ナトリウム(分枝ドデシル)ジフェニルオキシドスルホナート(DOWFAX(商標)2A1-D)、ナトリウム(線状ヘキサデシル)ジフェニルオキシドスルホナート(DOWFAX(商標)Detergent)、ナトリウム(線状ヘキサデシル)ジフェニルオキシドスルホナート(ダウケミカル製 DOWFAX(商標)Detergent-D)などが例示されるが、これらの中でも洗濯後の残留性が高いものがよく、(直鎖ドデシル)ジフェニルオキシドスルホナート、別名ドデシル(スルホフェノキシ)ベンゼンスルホン酸二ナトリウム(DPOS/CAS.28519-02-0)が特に好ましく用いられる。
【0035】
さらに、本発明の抗ウイルス性不織布では、硫黄元素の含有量が好ましくは0.02~10重量%、より好ましくは0.05~5重量%、さらに好ましくは0.1~2重量%である。硫黄元素は、抗ウイルス性不織布に付着したベンゼンスルホン酸化合物に由来するので、硫黄元素の含有量は、本発明の抗ウイルス性不織布中のベンゼンスルホン酸化合物の含有量の指標となるものである。硫黄元素の含有量が上記範囲未満の場合には、ベンゼンスルホン酸化合物の含有量が少ないために十分な抗ウイルス性能が得られ難くなり、上記範囲を超える場合には、抗ウイルス性の洗濯耐久効果が頭打ちとなり、不織布が着色しやすくなる。
【0036】
次に、本発明の不織布の構成について説明する。上述のように、本発明で使用するカルボキシル基含有重合体は、形状の点で、繊維状のものと粒子状のものとに大きく分けられる。そのため、カルボキシル基含有重合体が繊維状の場合と粒子状の場合では、不織布の構造が異なる。カルボキシル基含有重合体が繊維状の場合、本発明の抗ウイルス性不織布は、かかる繊維状のカルボキシル基含有重合体から構成された不織布にベンゼンスルホン酸化合物を付着させた形態をとることができる。一方、カルボキシル基含有重合体が粒子状の場合、本発明の抗ウイルス性不織布は、汎用繊維からなる不織布にかかる粒子状のカルボキシル基含有重合体とベンゼンスルホン酸化合物を付着させた形態をとることができる。従って、以下、これらの二つの形態に分けて説明する。
【0037】
<カルボキシル基含有重合体が繊維状の場合>
カルボキシル基含有重合体が繊維状の場合、この繊維状のカルボキシル基含有重合体それ自体が不織布を構成しており、そこにベンゼンスルホン酸化合物が付着していることが好ましい。不織布の種類は、特に限定されないが、サーマルボンド不織布、エアスルー不織布、ニードルパンチ法、ケミカルボンド法、スパンレース不織布、エアレイド法によって製造される不織布などを使用することができる。これらの中では、衛生物品に要求される薄型性と安全性の面から、サーマルボンド不織布、エアスルー不織布、又はスパンレース不織布が好ましい。
【0038】
不織布を構成する繊維状のカルボキシル基含有重合体の繊度は、好ましくは0.1~9.0dtex、より好ましくは0.5~5.0dtex、さらに好ましくは0.8~2.4dtexである。繊度が上記下限に満たない場合には、不織布を均一で安定的に生産するのが難しく、特殊な方法で生産しなければならなくなる。上記上限を超える場合には、出来上がった不織布がチクツいて、肌に接触する用途では使いづらくなる。
【0039】
繊維状のカルボキシル基含有重合体の繊維長は、好ましくは25~100mm、より好ましくは30~55mmである。繊維長が上記下限に満たない場合には、不織布の品位が悪くなり、上記上限を超える場合には、通常の設備では製造することが難しくなる。
【0040】
不織布は、繊維状のカルボキシル基含有重合体以外の他の繊維を含有していてもよい。かかる他の繊維は、特に限定されず、ポリオレフィン系繊維、ポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維、アクリル繊維、アクリレート繊維等の合成繊維、羊毛、絹のような天然繊維など、一般的な繊維は全て使用することができる。マスクやサージカルガウン等の肌に近い製品を想定する場合、比較的疎水性の高いポリプロピレンやポリエチレン等のポリオレフィン系繊維、ポリエステル繊維を混用すると、体液を吸収しないため好適である。ポリオレフィン系繊維は、製造コストが安価な点で有利であり、ポリエステル系繊維は、その強度や耐久性の点から好ましく用いられる。
【0041】
不織布中の繊維状のカルボキシル基含有重合体の混率は、好ましくは5重量%~50重量%であり、より好ましくは10重量%~50重量%である。更に好ましくは20重量%~50重量%である。混率が上記下限未満では、カルボキシル基による抗ウイルス性を十分に発揮することができないおそれがある。また、混率が上記上限を超えても、それ以上に抗ウイルス性の洗濯耐久性が向上せず、製造コストのみが高くなるおそれがある。
【0042】
カルボキシル基含有重合体が繊維状の場合、本発明の抗ウイルス性不織布は、繊維状のカルボキシル基含有重合体及び上述の他の繊維から不織布を製造し、そこにベンゼンスルホン酸化合物を付着させることによって製造されることができる。不織布の製造は、常法に従って行なえばよく、例えば繊維を計量した後、必要に応じて繊維を開繊し、その後、カーディング、及びクロスラッピングを行うことによりウェブを製造し、その後、不織布の形態を安定させるために、適宜形成したウェブを結合させる方法を採用することができる。ウェブの結合方法としては、例えば、ニードルパンチ法、スパンレース法、サーマルボンド法等に代表される不織布の各種結合方法を採用することができるが、中でもサーマルボンド法は簡単にウェブを結合できるため好ましい。
【0043】
サーマルボンド法を採用する場合は、繊維状のカルボキシル基含有重合体と接合できる熱接着性繊維を混用することが好ましい。熱接着性繊維とは、不織布を構成する繊維と混用されて、加熱することによって繊維同士接合し、不織布を形成できるホットメルト接着剤系繊維である。例えば、熱融着性ポリエステル繊維や、ポリエチレン-ポリプロピレン、ポリエチレン-ポリエステル、ポリエステル-ポリエステル等の低融点-高融点成分からなる複合繊維が挙げられる。かかる熱接着性繊維の融点(低融点-高融点成分からなる熱接着性繊維の場合には、低融点成分の融点)としては、上記繊維状のカルボキシル基含有重合体の物性に悪影響を与えない温度であればよいが、通常、100~190℃であればよい。また、熱接着性繊維の繊度としては、好ましくは0.9~6.6dtex、より好ましくは1.5~6.0dtexである。繊度が上記下限に満たない場合にはカードウェブを得ることが難しくなることがあり、繊度が上記上限を超える場合には得られる不織布構造体の風合いが硬くなりすぎることがある。また、熱接着性繊維の繊維長としては20~80mmであることが好ましい。
【0044】
上記のようにして製造された不織布に、ベンゼンスルホン酸化合物を付着させる。この付着方法は、特に限定されず、ベンゼンスルホン酸化合物の水溶液に不織布を含浸させる方法;不織布にベンゼンスルホン酸化合物の水溶液を塗工してコーティングする方法;不織布にベンゼンスルホン酸化合物の水溶液をスプレーで塗布する方法等を採用することができる。中でも、不織布の内部に存在する繊維にまで樹脂を満遍なく付着させることが可能なことから、含浸加工が好ましい。
【0045】
水溶液中のベンゼンスルホン酸化合物の含有量は、所望量を付与できるように適宜設定すればよいが、通常、カルボキシル基含有重合体の重量に対して0.05~20重量%のベンゼンスルホン酸化合物を含有するようにする。好ましくは、0.2~10重量%とするのが良い。不織布上のベンゼンスルホン酸化合物の実際の付着量は、不織布からエタノールを溶媒としてベンゼンスルホン酸化合物を抽出して、LC-MS等で抽出液を定量することによって測定することができる。本発明の抗ウイルス性不織布の繊維重量に対するベンゼンスルホン酸化合物の付着量は、通常、0.1~10.0%owf(on the weight of fiber)であり、好ましくは0.2~6.0%owfである。また、含浸方法としては、浸漬、吸尽、噴霧、塗布、印捺などを挙げることができる。なお、吸尽の場合は、液温は常温から130℃の温度域で加工できるが、好ましくは50~70℃程度に加熱するのがよい。
【0046】
このようにして不織布にベンゼンスルホン酸化合物の水溶液を付着させた後、不織布を乾燥させる。不織布の乾燥は、加熱下で実施してもよい。不織布の収縮を防止する観点から、加熱温度は130℃未満が好ましく、より好ましくは80~120℃である。また、長時間の加熱も好ましくなく、加熱時間は0.5~5分が好ましく、より好ましくは1~4分である。
【0047】
<カルボキシル基含有重合体が粒子状の場合>
カルボキシル基含有重合体が粒子状の場合、繊維状の場合と異なり、カルボキシル基含有重合体から不織布を製造することは難しい。そのため、汎用繊維からなる不織布に粒子状のカルボキシル基含有重合体とベンゼンスルホン酸化合物を付着させる。この場合の不織布は、スパンボンドやメルトブローン、電界紡糸法等の手法による長繊維不織布であることが好ましい。
【0048】
不織布を構成する汎用繊維は、特に限定されず、ポリオレフィン系繊維、ポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維、アクリル繊維、アクリレート繊維等の合成繊維、羊毛、絹のような天然繊維など、一般的な繊維は全て使用することができる。マスクやサージカルガウン等の肌に近い製品を想定する場合、比較的疎水性の高いポリプロピレンやポリエチレン等のポリオレフィン系繊維、ポリエステル繊維を混用すると、体液を吸収しないため好適である。ポリオレフィン系繊維は、製造コストが安価な点で有利であり、ポリエステル系繊維は、その強度や耐久性の点から好ましく用いられる。
【0049】
汎用繊維の繊度は、好ましくは0.1~9.0dtex、より好ましくは0.5~5.0dtex、さらに好ましくは0.8~2.4dtexである。繊度が上記下限に満たない場合には、通常の紡糸方法では均一な糸質で安定的に生産するのが難しく、特殊な方法で生産しなければならなくなる。上記上限を超える場合には、糸を、出来上がった不織布がチクツいて、肌に接触する用途では使いづらくなる。
【0050】
汎用繊維の繊維長は、好ましくは25~100mm、より好ましくは30~55mmである。繊維長が上記下限に満たない場合には、不織布の品位が悪くなり、上記上限を超える場合には、通常の設備では製造することが難しくなる。
【0051】
カルボキシル基含有重合体が粒子状の場合、本発明の抗ウイルス性不織布は、汎用繊維から不織布を製造し、そこに粒子状のカルボキシル基含有重合体とベンゼンスルホン酸化合物を付着させることによって製造されることができる。
【0052】
汎用繊維からなる不織布の製造方法は、従来公知であるが、その一例として、スパンボンド不織布の場合について以下に説明する。スパンボンドでは、アスピレーター機能を持つエジェクターで繊維を引取り、搬送ネット上に振落として繊維配列をランダムな状態に開繊積層したウエッブを形成する。振り落とす繊維量は、所望の目付けになるように引取ネット速度に応じて調整する。振り落とし繊維本数が一定の場合、引取ネット速度を早くしていくと、開繊された繊維は、ネットの進行方向に配列する確率が多くなる傾向を示す。このような場合は、振り落とす繊維本数を多くすることでランダムな状態を調整することが可能となり、より生産性も向上する。引取りウェブ形成の工程では、必要な厚み調整も配慮する必要がある。紡糸した繊維を移動するネット上に捕集して不織ウェブ化する。本発明においては、高い紡糸速度で延伸するため、エジェクターから出た繊維は、高速の気流で制御された状態でネットに捕集されることになり、繊維の絡みが少なく均一性の高い不織布を得ることができる。前記不織ウェブを熱接着して、スパンボンド不織布を得る。
【0053】
不織繊維ウェブを熱接着により一体化する方法としては、上下一対のロール表面にそれぞれ彫刻(凹凸部)が施された熱エンボスロール、片方のロール表面がフラット(平滑)なロールと他方のロール表面に彫刻(凹凸部)が施されたロールとの組み合わせからなる熱エンボスロール、および上下一対のフラット(平滑)ロールの組み合わせからなる熱カレンダーロールなど各種ロールにより、熱接着する方法を採用することができる。接着面積率は、不織布の強度だけでなく、剛軟度や防シワ性、風合いに直接に関わってくる。接着面積率は、不織布の繊度、目付、厚み等で適宜、適正な条件を見つければよい。
【0054】
上記のようにして製造された汎用繊維の不織布に、粒子状のカルボキシル基含有重合体とベンゼンスルホン酸化合物を付着させる。この付着方法は、特に限定されず、ベンゼンスルホン酸化合物とともに粒子状のカルボキシル基含有重合体を分散させた混合液を不織布に付着させる方法や、ベンゼンスルホン酸化合物の水溶液と、粒子状のカルボキシル基含有重合体の分散液を別々に用意して2段階に分けて不織布に付着させる方法等を採用することができる。
【0055】
また、粒子状のカルボキシル基含有重合体を不織布に強固に担持させるため、バインダー樹脂を粒子状のカルボキシル基含有重合体の水分散液に共に加えてもよい。バインダー樹脂を併用する場合、不織布に1%owf以上となるように加工することが好ましく、より好ましくは2%owf以上であり、更に好ましくは3%owf以上であり、特に好ましくは10%以上である。また、バインダー樹脂の付着量の上限は、不織布に対して20%owf以下が好ましく、より好ましくは15%owf以下であり、更に好ましくは10%owf以下である。バインダー樹脂の付着量を前記範囲内にすることで、不織布の使用中や洗濯による粒子状のカルボキシル基含有重合体の脱落を抑制することができる。バインダーの種類としては、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、エチレン-酢酸ビニル系樹脂、シリコーン系樹脂等を使用することができる。特に好ましくは、酢酸ビニル系、及びエチレン-酢酸ビニル系樹脂である。これらの樹脂は、カルボキシル基含有重合体やベンゼンスルホン酸化合物との親和性が高く、特に優れた洗濯耐久性が得られる。
【0056】
不織布を構成する繊維に対する粒子状のカルボキシル基含有重合体の付着量は、好ましくは2%~20%owfであり、より好ましくは3%~20%owfである。更に好ましくは5%~20%owfである。上記範囲未満の付着量では、カルボキシル基による抗ウイルス性を十分に発揮することができない恐れがある。
【0057】
水溶液や分散液中のベンゼンスルホン酸化合物の含有量は、所望量を付与できるように適宜設定すればよいが、通常、カルボキシル基含有重合体の重量に対して0.05~20重量%のベンゼンスルホン酸化合物を含有するようにする。好ましくは、0.2~10重量%とするのが良い。不織布上のベンゼンスルホン酸化合物の実際の付着量は、不織布からエタノールを溶媒としてベンゼンスルホン酸化合物を抽出して、LC-MS等で抽出液を定量することによって測定することができる。本発明の抗ウイルス性不織布の繊維重量に対するベンゼンスルホン酸化合物の付着量は、通常、0.1~10.0%owfであり、好ましくは0.2~6.0%owfである。また、含浸方法としては、浸漬、吸尽、噴霧、塗布、印捺などを挙げることができる。なお、吸尽の場合は、液温は常温から130℃の温度域で加工できるが、好ましくは50~70℃程度に加熱するのがよい。
【0058】
このようにして不織布に水溶液や分散液を付着させたのち不織布を乾燥させる。不織布の乾燥は、加熱下で実施してもよい。不織布の収縮を防止する観点から、加熱温度は130℃未満が好ましく、より好ましくは80~120℃である。また、長時間の加熱も好ましくなく、加熱時間は0.5~5分が好ましく、より好ましくは1~4分である。
【0059】
なお、カルボキシル基含有重合体が粒子状の場合、カルボキシル基含有重合体中のカルボキシル基の中和度が80%以下であることが、カルボキシル基による抗ウイルス性能の点のみならず、ベンゼンスルホン酸化合物の洗濯耐久性の点からも好ましい。中和度が80%以下であるということは、塩型ではなく酸型のカルボキシル基が多いということを意味する。この酸型のカルボキシル基は、ベンゼンスルホン酸化合物の水に対する溶解性を変化させ、不織布に付着した後のベンゼンスルホン酸化合物を水に対して溶けにくくさせる。そのため、洗濯によるベンゼンスルホン酸化合物の脱落を効果的に防止することができる。
【0060】
具体的には、ベンゼンスルホン酸化合物は、塩型の場合は水に溶解するが、酸型の場合は水に溶解しないという性質がある。そのため、ベンゼンスルホン酸化合物を不織布に付着させる段階では、ベンゼンスルホン酸化合物は塩型となるようにして、水溶液を作成している。不織布に付着した後のベンゼンスルホン酸化合物は、必然的に不織布上の粒子状のカルボキシル基含有重合体に接近することになる。ここで、カルボキシル基含有重合体中のカルボキシル基が酸型であると、その付近は低pH領域であるため、そこに接近するベンゼンスルホン酸化合物も塩型から酸型にその状態を変化させ、水に溶解しなくなり、不溶化して不織布に強固に固着する。そのため、たとえ不織布を洗濯したとしても、それによってベンゼンスルホン酸化合物が水に溶けて不織布から脱落してしまうことがなく、ベンゼンスルホン酸化合物、及びそれによる抗ウイルス性能の洗濯耐久性を向上させることができる。
【0061】
ベンゼンスルホン酸化合物の洗濯耐久性の点からは、カルボキシル基含有重合体中のカルボキシル基は、ベンゼンスルホン酸化合物の不織布への付着の際に酸型であればよく、いったんベンゼンスルホン酸化合物が酸型に変化して不織布に固着した後は、酸型カルボキシル基の一部が塩型カルボキシル基に変化して中和度が高くなっても問題はない。ここで、抗ウイルス性能の点からは、中和度は低い方が良いが、吸湿性の点からは、中和度は高い方が良いので、抗ウイルス性と吸湿性を兼ね備えたい場合は、ベンゼンスルホン酸化合物の不織布への固着後に中和度を80%以下の範囲内で高めることもできる。中和度は、酸処理又はアルカリ処理により調節することができる。酸処理を施せば、酸型カルボキシル基の量が増加し、中和度は低下する。一方、アルカリ処理を施せば、塩型カルボキシル基の量が増加し、中和度は増大する。
【0062】
以上、カルボキシル基含有重合体が繊維状の場合と粒子状の場合に分けて本発明の抗ウイルス性不織布を説明してきたが、両者の場合に共通する特性について、以下に説明する。
【0063】
本発明の抗ウイルス性不織布を構成する単繊維の繊度は、繊維直径に依存するが、ポリエステルやポリプロピレンの短繊維や長繊維を用いる場合には、平均繊度として0.1dtex~5.5dtexが好ましい。より好ましくは0.3~5dtexである。さらに好ましくは0.5~4dtexである。単繊維繊度が上記下限未満では、不織布が柔らかくなりすぎたり、必要な厚みを得るためにコストが高くなりやすい。上記上限を超えると、得られた不織布の剛直性が強くなりすぎて硬くなってしまい、嵩高くなりすぎる場合がある。また、不織布を構成する繊維の平均単繊維直径は、0.1μm~35μmであることが好ましい。より好ましくは、0.3μm~20μmである。平均単繊維直径が、上記下限未満であると、仕切りシートが柔らかくなり過ぎて、風になびき易くなる。一方、平均単繊維直径が、上記上限を超える場合には、不織布が硬くなり過ぎたり、重くなったりし易くなる。
【0064】
本発明の抗ウイルス性不織布の目付(又は坪量)は、10g/m2~150g/m2であることが好ましい。より好ましくは、15g/m2~80g/m2である。目付が上記下限未満であると、好ましいウイルス遮断性を満足できず、さらには、機械的強度が不足しやすくなる。一方、上記上限を越えると、厚みが増えて圧迫感が高まったり、柔軟性に劣りやすい。
【0065】
本発明の抗ウイルス性不織布は、カルボキシル基含有重合体中のカルボキシル基及びベンゼンスルホン酸化合物によってそれぞれ異なるタイプの抗ウイルス性が発揮されるため、それらの相乗効果により抗ウイルス性が極めて高く、しかもカルボキシル基含有重合体中とベンゼンスルホン酸化合物が強固に結合しているか、又はベンゼンスルホン酸化合物が不織布に強固に固着して不溶化しているため、洗濯等の外部からの作用を受けても、ベンゼンスルホン酸化合物が不織布から脱落しにくく、高いレベルの抗ウイルス性を維持することができる。
【0066】
かかる本発明の抗ウイルス性不織布の除去対象となるウイルスは、特に限定されないが、エンベロープを有するウイルスに効果的であり、特にインフルエンザウイルスに対して優れた不活性化効果を示す。
【0067】
本発明の抗ウイルス性不織布は、洗濯を必要とする用途で抗ウイルス性の効果を強く発揮する。例えば、衛材、資材、寝具、インテリアが挙げられる。より具体的に例えば、マスク、アイソレーションガウンやサージカルガウン、帽子、仕切り材、シーツ、枕カバー、布団カバー、中綿等の寝具、カーテン、間仕切り、テーブルクロス等の各種インテリアなどが挙げられる。
【0068】
本発明の抗ウイルス性不織布は、ガーゼ等の編織物に比べて目が細かいため、特にマスクやアイソレーションガウン等の衛生素材として好適である。衛生マスク等の衛生材料では複数種の不織布を重ね合わせて用いることが多いが、本発明の抗ウイルス性不織布は、手で触り易い部分に用いることが好ましい。例えば、衛生マスクなら、装着したときに最も外気側の表面に用いることが好ましい。
【実施例0069】
以下、実施例を挙げて本発明の効果をより具体的に示すが、本発明は、これらによって制限されるものではない。なお、実施例中、部及び百分率は、特に断りのない限り重量基準で示す。また、実施例・比較例で用いた特性の評価方法は、以下の通りである。
【0070】
<抗ウイルス性試験>
JIS-L1922:2016.繊維製品の抗ウイルス性試験方法に従って評価した。試験対象ウイルスはインフルエンザウイルス(H3N2、H1N1)とし、宿主細胞はMDCK細胞(イヌ腎臓由来細胞)とした。
試料(0.4g)をバイアル瓶に入れ、ウイルス液0.2mlを接種し、25℃で2時間放置する(作用)。2.SCDLP培地20mlを加え、試料からウイルスを洗い出し、洗い出した液のウイルス感染価(感染性ウイルス量)を、プラーク法又はTCID50法により測定する。
下記式の抗ウイルス活性値が3.0以上であれば十分な抗ウイルス性の効果ありと判断する。
抗ウイルス活性値=log(対照試料・2時間作用後感染価)-log(加工試料・2時間作用後感染価)または
抗ウイルス活性値=log(標準布・接種直後感染価)-log(加工試料・2時間作用後感染価)
【0071】
<洗濯方法>
一般財団法人繊維評価技術協議会製品認証部発行の「SEKマーク繊維製品の洗濯方法」(2020年10月30日改定版・文書番号JEC326)に従い、下記の条件で洗濯処理を実施した。
・標準洗濯法(1995年度版JIS-L0217:1995 103法記載の方法)を用いて洗濯処理を実施し、乾燥は吊り干しで行い、洗濯10回行った評価試料を作成した。
【0072】
<カルボキシル基含有量>
試料を約1g秤量し、1mol/l塩酸50mlに30分浸漬後、水洗し、浴比1:500で純水に15分間浸漬した。浴pHが4以上となるまで水洗した後、熱風乾燥機にて105℃で5時間乾燥させた。乾燥した試料を約0.2g精秤し(W1[g])、これに100mlの水と0.1mol/l水酸化ナトリウム15ml、塩化ナトリウム0.4gを加えて攪拌した。次いで金網を用いて試料を漉しとり、水洗した。得られたろ液(水洗液も含む)にフェノールフタレイン液を2~3滴を加え、0.1mol/l塩酸で常法に従って滴定を行い、消費された塩酸量(V1[ml])を求め、下記式により全カルボキシル基含有量を算出した。
全カルボキシル基含有量[mmol/g]=(0.1×15-0.1×V1)/W1
<中和度>
熱風乾燥機にて105℃で5時間乾燥した試料を約0.2g精秤し(W2[g])、これに100mlの水と0.1mol/l水酸化ナトリウム15ml、塩化ナトリウム0.4gを加えて攪拌した。次いで金網を用いて試料を漉しとり、水洗した。得られたろ液(水洗液も含む)にフェノールフタレイン液を2~3滴を加え、0.1mol/l塩酸で常法に従って滴定を行い、消費された塩酸量(V2[ml])を求めた。下記式によって、試料に含まれる酸型カルボキシル基含有量を算出し、その結果と上述の全カルボキシル基含有量から中和度を求めた。
酸型カルボキシル基含有量[mmol/g]=(0.1×15-0.1×V2)/W2
中和度[%]=[(全カルボキシル基含有量-酸型カルボキシル基含有量)/全カルボキシル基含有量]×100
【0073】
<塩基性基の含有量(窒素含有量の増加)>
原料であるアクリロニトリル繊維と架橋処理後の繊維のそれぞれについて元素分析で窒素含有量(重量%)を求め、その差を窒素含有量の増加とした。
【0074】
<硫黄元素の含有量>
エネルギー分散型X線分析装置(JSM-IT3000)にて測定した。
【0075】
<繊度>
不織布に用いる短繊維については、JIS-L1015-8.5.1正量繊度A法に基づいて単糸繊度(単繊維繊度)を求めた。
【0076】
<繊維長>
化学繊維の繊維長は、JIS-L1015-8.4.1ステープルダイヤグラム法(A法)に基づいて平均繊維長を求めた。
【0077】
<不織布の目付>
10cm角に切り取った不織布を4枚採取し、20℃×65%RH雰囲気下で調湿した後、それぞれの重量(g)を計測し、1平方メートル当たりの重量に換算した後、平均値を算出し、目付とした。
【0078】
カルボキシル基含有重合体が繊維状の場合
<カルボキシル基含有重合体Aの作製>
アクリロニトリル90%及びアクリル酸メチル10%からなるアクリロニトリル系重合体10部を48%ロダンソーダ水溶液90部に溶解した紡糸原液を、常法に従って紡糸、延伸、乾燥してアクリル繊維を得た。次に、窒素含有化合物として15%ヒドラジン水溶液に該繊維を浸漬し、110℃で3時間架橋処理を行い水洗した。続いて、8%硝酸水溶液に浸漬し、110℃で1時間酸処理を行い水洗した。さらに、5%水酸化ナトリウム水溶液に浸漬し、90℃で2時間加水分解処理を行い水洗した。その後、10%硝酸水溶液に浸漬し、常温で2時間酸処理を行い水洗し、カルボキシル基含有量が5.8mmol/gであり、中和度が10.0%である、塩基性基を有する繊維状のカルボキシル基含有重合体Aを得た。
【0079】
<カルボキシル基含有重合体Bの作製>
カルボキシル基含有重合体Aの作製途中の加水分解処理における処理時間を20分に変更したこと以外は同様にして、カルボキシル基含有量が0.8mmol/gであり、中和度が11.0%である、塩基性基を有する繊維状のカルボキシル基含有重合体Bを得た。
【0080】
<カルボキシル基含有重合体Cの作製>
カルボキシル基含有重合体Aの作製途中の加水分解処理における処理条件を、水酸化ナトリウム9質量%を含有する水溶液中での120℃2時間の浸漬処理に変更したこと以外は同様にして、カルボキシル基含有量が8.5mmol/gであり、中和度が10.5%である、塩基性基を有する繊維状のカルボキシル基含有重合体Cを得た。
【0081】
<カルボキシル基含有重合体Dの作製>
アクリロニトリル88%及びメタクリル酸12%からなるカルボキシル基含有重合体10部を44%ロダンソーダ水溶液90部に溶解した紡糸原液を、常法に従って紡糸、延伸、乾燥して、カルボキシル基含有量が1.4mmol/gであり、中和度が5.0%である、塩基性基を有さない繊維状のカルボキシル基含有重合体Dを得た。
【0082】
<実施例1>
繊維状のカルボキシル基含有重合体A30重量%と、2.8dtex×51mm、丸断面中実のポリエチレンテレフタレート繊維50重量%、4.4dtex×51mmのポリエステル系熱溶融接着性繊維(融点110℃)20重量%を混綿、カーデングし、30g/m2のウェブシートを形成し、ベルトコンベアーによる連続式の熱風乾燥機で140℃にて60秒間加熱して不織布を得た。次に、ベンゼンスルホン酸化合物としてドデシル(スルホフェノキシ)ベンゼンスルホン酸二ナトリウム(DPOS)の5%solutionの水溶液を作成して、pad-dry法にて、不織布を浸漬してマングルにて絞り率100%で絞って、5.0%owf(不織布重量に対して付着量が5重量%)となるように付着させた。その後、ピンテンターを用いて120℃で乾燥させることで抗ウイルス性不織布を得た。
【0083】
<実施例2>
繊維状のカルボキシル基含有重合体Aの混率を20重量%に変更し、その代わりに丸断面中実のポリエチレンテレフタレート繊維の混率を60重量%に変更した以外は実施例1と同様にして抗ウイルス性不織布を得た。
【0084】
<実施例3>
繊維状のカルボキシル基含有重合体Aを繊維状のカルボキシル基含有重合体Bに変更した以外は実施例1と同様にして抗ウイルス性不織布を得た。
【0085】
<実施例4>
繊維状のカルボキシル基含有重合体Aを繊維状のカルボキシル基含有重合体Cに変更した以外は実施例1と同様にして抗ウイルス性不織布を得た。
【0086】
<実施例5>
繊維状のカルボキシル基含有重合体Aを繊維状のカルボキシル基含有重合体Dに変更した以外は実施例1と同様にして抗ウイルス性不織布を得た。
【0087】
<実施例6>
実施例1において、ドデシル(スルホフェノキシ)ベンゼンスルホン酸二ナトリウム(DPOS)の水溶液の濃度を0.5%solutionに変更して、付着量を0.5%owfにした以外は実施例1と同様にして抗ウイルス性不織布を得た。
【0088】
<実施例7>
実施例1において、ドデシル(スルホフェノキシ)ベンゼンスルホン酸二ナトリウム(DPOS)を直鎖型アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム(LAS)(CAS.69669-44-9,C12―14混合物)に変更した以外は実施例1と同様にして抗ウイルス性不織布を得た。
【0089】
<比較例1>
繊維状のカルボキシル基含有重合体A30重量%と、2.8dtex×51mm、丸断面中実のポリエチレンテレフタレート繊維50重量%、4.4dtex×51mmのポリエステル系熱溶融接着性繊維(融点110℃)20重量%を混綿、カーデングし、30g/m2のウェブシートを形成し、ベルトコンベアーによる連続式の熱風乾燥機で140℃にて60秒間加熱して不織布を得た。その後、ベンゼンスルホン酸化合物を付着させずに、この不織布をそのまま評価に供した。
【0090】
<比較例2>
2.8dtex×51mm、丸断面中実のポリエチレンテレフタレート繊維80重量%、4.4dtex×51mmのポリエステル系熱溶融接着性繊維(融点110℃)20重量%を混綿、カーデングし、30g/m2のウェブシートを形成し、ベルトコンベアーによる連続式の熱風乾燥機で140℃にて60秒間加熱して、カルボキシル基含有重合体を含有しない不織布を得た。次に、ベンゼンスルホン酸化合物としてドデシル(スルホフェノキシ)ベンゼンスルホン酸二ナトリウム(DPOS)の5%solutionの水溶液を作成して、pad-dry法にて、不織布を浸漬してマングルにて絞り率100%で絞って、5.0%owf(不織布重量に対して付着量が5重量%)となるように付着させた。その後、ピンテンターを用いて120℃で乾燥させた。この不織布をそのまま評価に供した。
【0091】
<比較例3>
2.8dtex×51mm、丸断面中実のポリエチレンテレフタレート繊維80重量%、4.4dtex×51mmのポリエステル系熱溶融接着性繊維(融点110℃)20重量%を混綿、カーデングし、30g/m2のウェブシートを形成し、ベルトコンベアーによる連続式の熱風乾燥機で140℃にて60秒間加熱して、カルボキシル基含有重合体を含有しない不織布を得た。その後、ベンゼンスルホン酸化合物を付着させずに、この不織布をそのまま評価に供した。
【0092】
実施例1~7、比較例1~3の不織布の詳細と評価結果を表1に示す。
【0093】
【0094】
表1からわかるように、実施例1~7の各不織布は、初期だけでなく洗濯10回後においても極めて高い抗ウイルス活性値を有していた。但し、カルボキシル基含有重合体が塩基性基を有さない実施例5の不織布は、実施例1~4,6,7の各不織布と比べて、洗濯10回後の抗ウイルス活性値が低く、抗ウイルス性能の洗濯耐久性に劣っていた。一方、ベンゼンスルホン酸化合物を含有しない比較例1の不織布、及びカルボキシル基を含有しない比較例2の不織布は、初期及び洗濯10回後の抗ウイルス活性値がいずれも実施例1~7の不織布より低かった。また、カルボキシル基及びベンゼンスルホン酸化合物のいずれも含有しない比較例3の不織布は、洗濯前後ともに極めて低い抗ウイルス活性値しか示さなかった。
【0095】
カルボキシル基含有重合体が粒子状の場合
<カルボキシル基含有重合体Eの製造>
アクリロニトリル58%、アクリル酸メチル9%、ジビニルベンゼン30%、及びp-スチレンスルホン酸ナトリウム3%からなるモノマー混合物30部を、モノマー比で1.2%の過硫酸アンモニウムを含む水溶液70部に添加し、攪拌機つきの重合槽に仕込んだ後に135℃、25分間重合した。得られた重合体エマルジョン90部に40%水酸化ナトリウム水溶液10部を加え、95℃で2.5時間の加水分解を行って、カルボキシル基量8.4mmol/gに調整した粒子状のカルボキシル基含有重合体を得た。得られたエマルジョンを陽イオン交換樹脂によりpH2.5に調整することでカルボキシル基を酸型とし、水で固形分濃度30%に調整して、中和度0%の粒子状のカルボキシル基含有重合体Eの分散液を得た。
【0096】
<カルボキシル基含有重合体Fの製造>
上記の<カルボキシル基含有重合体Eの作製方法>において、加水分解処理における処理時間を20分に変更すること以外は同様にして、カルボキシル基量が1.0mmol/gの、中和度0%の粒子状のカルボキシル基含有重合体Fの分散液を得た。
【0097】
<実施例8>
ツジトミ社製ポリプロピレンスパンボンド不織布品番:LP0202D、目付20g/m2を準備した。次に、下記処方1の加工液を調整して、pad-dry法にて、不織布を浸漬してマングルで絞り率100%で絞って、5.0%owf(不織布重量に対して付着量が5重量%)となるように付着させて、抗ウイルス性不織布を得た。実施例8で得られた不織布の評価結果を表2に示す。以下の実施例9,10、比較例4~6においても同様に評価結果を表2に示す。
処方1:粒子状のカルボキシル基含有重合体Eの分散液 25%solution
ポリゾールEVA AD18(昭和電工社製)
(エチレン-酢酸ビニル系のバインダー樹脂)
3%solution
ドデシル(スルホフェノキシ)ベンゼンスルホン酸二ナトリウム(DPOS)
5%solution
【0098】
<実施例9>
ツジトミ社製ポリプロピレンスパンボンド不織布品番:LP0202D、目付20g/m2を準備した。次に、下記処方2の加工液を調整して、pad-dry法にて、不織布を浸漬してマングルで絞り率100%で絞って、5.0%owf(不織布重量に対して付着量が5重量%)となるように付着させて、抗ウイルス性不織布を得た。
処方2:粒子状のカルボキシル基含有重合体Fの分散液 25%solution
ポリゾールEVA AD18 3%solution
ドデシル(スルホフェノキシ)ベンゼンスルホン酸二ナトリウム(DPOS)
5%solution
【0099】
<実施例10>
ツジトミ社製ポリプロピレンスパンボンド不織布(品番:LP0202D)、目付20g/m2を準備した。次に、下記処方3の加工液を調整して、pad-dry法にて、不織布を浸漬してマングルで絞り率100%で絞って、5.0%owf(不織布重量に対して付着量が5重量%)となるように付着させて、抗ウイルス性不織布を得た。
処方3:粒子状のカルボキシル基含有重合体Eの分散液 25%solution
ポリゾールEVA AD18 3%solution
直鎖型アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム(LAS)
(CAS.69669-44-9,C12―14混合物)
5%solution
【0100】
<比較例4>
ツジトミ社製ポリプロピレンスパンボンド不織布品番:LP0202D、目付20g/m2を準備した。次に、下記処方4の加工液を調整して、pad-dry法にて、不織布を浸漬してマングルで絞り率100%で絞って、5.0%owf(不織布重量に対して付着量が5重量%)となるように付着させて、粒子状のカルボキシル基含有重合体のみを付着させた抗ウイルス性不織布を得た。
処方4:粒子状のカルボキシル基含有重合体Eの分散液 25%solution
ポリゾールEVA AD18(昭和電工社製) 3%solution
【0101】
<比較例5>
ツジトミ社製ポリプロピレンスパンボンド不織布品番:LP0202D、目付20g/m2を準備した。次に、下記処方5の加工液を調整して、pad-dry法にて、不織布を浸漬してマングルで絞り率100%で絞って、5.0%owf(不織布重量に対して付着量が5重量%)となるように付着させて、ベンゼンスルホン酸化合物のみを付着させた抗ウイルス性不織布を得た。
処方5:ポリゾールEVA AD18(昭和電工社製) 3%solution
ドデシル(スルホフェノキシ)ベンゼンスルホン酸二ナトリウム(DPOS)
5%solution
【0102】
<比較例6>
ツジトミ社製ポリプロピレンスパンボンド不織布品番:LP0202D、目付20g/m2を準備した。その後、粒子状のカルボキシル基含有重合体もベンゼンスルホン酸化合物を付着させずに、この不織布をそのまま評価に供した。
【0103】
実施例8~10、比較例4~6の不織布の詳細と評価結果を表2に示す。
【0104】
【0105】
表2からわかるように、実施例8~10の各不織布は、初期だけでなく洗濯10回後においても極めて高い抗ウイルス活性値を有していた。これに対して、ベンゼンスルホン酸化合物を含有しない比較例4の不織布、及びカルボキシル基を含有しない比較例5の不織布は、初期及び洗濯10回後の抗ウイルス活性値がいずれも実施例8~10の不織布より低かった。また、カルボキシル基及びベンゼンスルホン酸化合物のいずれも含有しない比較例6の不織布は、洗濯前後ともに極めて低い抗ウイルス活性値しか示さなかった。
本発明の抗ウイルス性不織布は、カルボキシル基含有重合体中のカルボキシル基及びベンゼンスルホン酸化合物によってそれぞれ異なるタイプの抗ウイルス性が発揮されるため、それらの相乗効果により抗ウイルス性が極めて高く、しかもカルボキシル基含有重合体とベンゼンスルホン酸化合物が強固に結合しているか、又はベンゼンスルホン酸化合物が不織布に強固に固着して不溶化しているため、洗濯等の外部からの作用を受けても、ベンゼンスルホン酸化合物が織物から脱落しにくく、高いレベルの抗ウイルス性を維持することができる。従って、本発明は、洗濯を必要とする抗ウイルス性繊維製品の分野で極めて有用である。