(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023042826
(43)【公開日】2023-03-28
(54)【発明の名称】着香茶の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23F 3/14 20060101AFI20230320BHJP
【FI】
A23F3/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021150179
(22)【出願日】2021-09-15
(71)【出願人】
【識別番号】303044712
【氏名又は名称】三井農林株式会社
(72)【発明者】
【氏名】秋林 健一
(72)【発明者】
【氏名】北條 寛
【テーマコード(参考)】
4B027
【Fターム(参考)】
4B027FB01
4B027FC01
4B027FK08
4B027FK15
4B027FP55
4B027FP90
(57)【要約】
【課題】果実や花などの生鮮植物が本来有する香りを乾燥状態の茶葉に保持することのできる製造方法を提供すること
【解決手段】生鮮植物の香りを茶葉に移行させる着香茶葉を製造する際に、着香後の茶葉を減圧乾燥することによって、生鮮植物が本来有する香りを乾燥状態の茶葉に保持させることができる。また、着香時に茶葉とを同一空間内で生鮮植物を互いに接触しないように隔離することで呈味への影響が抑えられ、さらに空間内を微減圧とすることによって着香の効率を向上することもできる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生鮮植物の香りを茶葉に移行させる着香茶の製造方法であって、着香後の茶葉を減圧乾燥させることを特徴とする着香茶の製造方法。
【請求項2】
茶葉の乾燥が610Pa以下の減圧下で行われることを特徴とする請求項1に記載の着香茶の製造方法。
【請求項3】
生鮮植物が果実類および花卉類からなる群から選択された少なくとも1つである請求項1または2のいずれかに記載の着香茶の製造方法。
【請求項4】
着香手段が生鮮植物と茶葉とを堆積することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の着香茶の製造方法。
【請求項5】
着香手段が生鮮植物と茶葉とを密閉された同一空間内に互いが接触しないように隔離して設置することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の着香茶の製造方法。
【請求項6】
空間内を600~900hPaの微減圧環境に維持することを特徴とする請求項5に記載の着香茶の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、着香茶の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
チャノキ(学名:Camellia sinensis)の葉や茎を加工して得られる紅茶や緑茶等の茶葉に香料や精油で香り付けしたり、乾燥させた果実や花びらを混合した茶葉は着香茶(またはフレーバーティー)と呼ばれ、茶葉本来の香味に加えて花や果実の芳醇な香りを利用して香味価値が高められた茶葉として人気が高い。代表的な着香茶としては、紅茶葉に柑橘類のベルガモットの精油や香料で香り付けされたアールグレイ、緑茶葉にジャスミンの生花で香りを移したジャスミン茶が挙げられる。
【0003】
近年では、健康志向の高まりから人工的な香気成分が避けられ、天然の香気成分が好まれる傾向にあることや、天然香気成分の持つリラックス作用への関心などから、茶葉に天然の香り成分を付与した着香茶が注目されている。
【0004】
着香茶の製造方法としては、例えばジャスミン茶では「ジャスミン花の摘採」「静置」「花の選別」「緑茶に堆積」「静置」「混合」「静置」「花の除去」「乾燥」の工程を得て製造される(例えば非特許文献1)。また、アールグレイのように香料成分を使用して着香する場合には、茶葉原料に対して精油などの液体の香料成分を付着させ、その後に必要に応じて乾燥させる方法で製造される(例えば特許文献1、非特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】静岡県茶業試験場研究報告、1985年、11号、p.47-62
【非特許文献2】高知県工業技術センター研究報告、2014年、45号、p.10-12
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ジャスミン茶のように生鮮植物を利用して着香させる場合、香気の移行に伴って生鮮植物に含まれる水分が茶葉に吸収される。したがって、着香後の茶葉の保存性を確保するためには着香後の茶葉を乾燥させる必要がある。茶葉の乾燥は通常、熱風を茶葉に接触させることによって行われるが、その際に茶葉中の香気成分が損失されてしまうという問題がある。そのため、例えばジャスミン茶では、着香と熱風乾燥の工程を複数回行なうことで香りの損失が補われており、その際に大量のジャスミンの生花が必要となる要因になっている。また、その際の熱負荷によって、着香された香りだけでなく茶葉が本来有していた香りまでも変質してしまうため、天然の香りを乾燥後の茶葉にそのまま残す手段が求められている。
【0008】
他方で、茶葉に果実や花の乾燥物を混合する市販品が多く存在するが、この乾燥物を得る手段も熱風乾燥で得られるものであり、その際に新鮮な香りが損失・変質してしまう。そのため、このような方法では新鮮な香りを保持させることは困難である。また、生の果実などから抽出した精油を茶葉に添加する手段においても、精油の抽出は水蒸気蒸留など加熱を伴う手段で得られるため、香りの変質が起こりやすく、新鮮な香りを保持させることが困難である。一方で、化学合成香料を使用して茶葉に添加する場合には、香りの構成が人工的になってしまい、自然な香りを求めるニーズに応えることができない。
【0009】
以上のように、従来の着香茶製造方法では生の果実や花から感じられる香りを乾燥状態の茶葉に保持する点では十分に満足できるものではなく、さらなる改善が強く望まれていた。したがって、本発明の目的は、果実や花などの生鮮植物が本来有する香りを乾燥状態の茶葉に保持することのできる製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、着香茶の製造工程において、仕上げ乾燥を熱風乾燥で行った場合には、着香直後の香りが損失・変質してしまうことに着目し、その課題について解決することを目的に鋭意検討を重ねた。その結果、着香後の茶葉を減圧下で乾燥した場合に、水分含量が十分に減少させつつも、着香時の新鮮な香りが保持されることを見出し、本発明を完成するに至った。さらに、着香工程の際に、香りの基原となる生鮮植物と茶葉とを密閉された同一空間内に置き、空間内を微減圧環境とすることで、着香の効率が高まることや、生鮮植物と茶葉とを接触しないように設置することで、自然な香りのみを茶葉に移行させることができることも見出した。
【0011】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1]生鮮植物の香りを茶葉に移行させる着香茶の製造方法であって、着香後の茶葉を減圧乾燥させることを特徴とする着香茶の製造方法。
[2]茶葉の乾燥が610Pa以下の減圧下で行われることを特徴とする[1]に記載の着香茶の製造方法。
[3]生鮮植物が果実類および花卉類からなる群から選択された少なくとも1つである[1]または[2]のいずれかに記載の着香茶の製造方法。
[4]着香手段が生鮮植物と茶葉とを堆積することを特徴とする[1]から[3]のいずれかに記載の着香茶の製造方法。
[5]着香手段が生鮮植物と茶葉とを密閉された同一空間内に互いが接触しないように隔離して設置することを特徴とする[1]から[3]のいずれかに記載の着香茶の製造方法。
[6]空間内を600~900hPaの微減圧環境に維持することを特徴とする[5]に記載の着香茶の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、果実や花などの生鮮植物が本来有する香りを乾燥状態の茶葉に保持することのできる製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。なお、本明細書において、特別な記載がない場合、「%」は質量%を示す。また、「下限値~上限値」の数値範囲は、特に他の意味であることを明記しない限り、「下限値以上、上限値以下」の数値範囲を意味する。
【0014】
本発明は着香茶の製造方法に関するものである。本発明における着香茶とは、原料茶葉として、ツバキ目ツバキ科ツバキ属の常緑樹である「チャノキ」であるCamellia sinensisの中国種(var.sinensis)、アッサム種(var.assamica)やそれらの雑種から得られる生葉や生茎、あるいはこれらを一次原料として製造された乾燥茶葉(荒茶や仕上げ茶など)に果実や花などの生鮮植物から揮発される香りを乾燥茶葉に移行させた茶葉を意味する。
【0015】
本発明の製造方法において、原料となる乾燥茶葉は、緑茶、烏龍茶、紅茶などの種別は限定されず、所望する香味に応じて適宜選択することができる。茶葉の乾燥程度は吸着できる香りの量に影響し、含水量が低い方が香りの吸着力が高く、好ましい。茶葉の形状は着香効率の点において、設置した際に香気成分を含む気体が茶葉と十分に接触できるような空隙の多い茶葉形状が望ましい。例えば緑茶であれば、蒸青(蒸し製)緑茶よりも炒青(釜炒り製)緑茶の方が好適であり、紅茶であれば、BOPF(ブロークン・オレンジ・ペコー・ファニングス)よりもOP(オレンジ・ペコー)の方が好適である。
【0016】
本発明の製造方法において、第2の原料となる生鮮植物とは、具体的には果実類や花卉類、その他の植物類の生鮮品を意味し、所望する香りに応じて幅広く用いることができる。果実類としては例えば、ベルガモットやレモンなどの柑橘系果実類、梅や桃などの核果果実類、梨やリンゴなどの仁果果実類、その他にもベリー類やぶどうなど様々な果実を利用することができ、その中でも特に香りの強い柑橘系果実類が好適に用いられる。また、本発明における花卉類としては例えば、ジンチョウゲ、クチナシ、キンモクセイ、ロウバイ、ジャスミン、スズラン、バラ、ウメ、ランなどの花が好適に用いられ、その他植物類としては例えば、ミント、バジル、レモングラス、カモミール、チャなどの葉の他、シナモンやクロモジ等の樹皮などを好適に利用することができる。着香工程においては、これら生鮮植物からなる群から選択した1種または2種以上を用いることができる。またこれら生鮮植物を着香に用いる際にはカッターミルなどの裁断機を用いて細かく裁断すると香りが発散されやすく好適であり、また、香りの特に強い部分を選別して用いるのが好適である。例えば柑橘系果実を利用する場合には、香りの強い果皮のみを取り出し、これを細かく刻んで用いると良い。
【0017】
着香茶の製造工程は、乾燥茶葉に対して香りを有する生鮮植物から発散される香りを接触させて香りを茶葉に吸着させる着香工程と、着香後の茶葉を乾燥させる乾燥工程からなる。本発明では、着香工程において香りを有する原料として生鮮植物を用いることと、乾燥工程において減圧乾燥法を用いることに特徴がある。
【0018】
本発明の着香茶製造方法における着香の工程では、乾燥茶葉に生鮮植物の香りを接触させるが、着香手段としては堆積による手段と密閉空間内に両原料を設置する手段のいずれも適用することができる。着香の工程において、乾燥茶葉と生鮮植物の量比は、使用する生鮮植物の種類や部位と所望する着香茶の香りの力価に応じて適宜調整すれば良い。これに限定されるものではないが、例えばベルガモットのような柑橘類果実の果皮を用いる場合には、乾燥茶葉100重量部に対して、果皮30重量部とする比率を提示できる。また、着香工程の時間は原料の性質にもよるが30分から3日程度の範囲で調製すればよい。着香時間が短すぎる場合には香りの移行が不十分となり、長すぎる場合には生鮮植物の鮮度が低下し、場合によっては腐敗し好ましくない香りを与えることがある。
【0019】
着香手段として、最終的な着香茶に生鮮植物が残存して差し支えない場合は堆積による手段を用いると良い。堆積は、茶葉と生鮮植物の層を交互に積み上げて両原料を接触させる操作である。さらに効率的に香りを移す方法として、着香中に定期的に混合するのが好ましい。茶葉と生鮮植物と接触面積が小さい箇所は、揮発成分の移行の程度も小さくなり、偏りが発生する。そのため、定期的な混合が必要となる。混合の方法は限定されるものではないが、V型混合機やドラム型混合機などを使用してもよい。混合の条件は目標とする茶葉の香味や物性、使用する装置の特性によって適宜設定すればよい。
【0020】
また、最終的な着香茶に香り成分以外の成分移行を避けるのが好ましい場合、例えば直接接触することによって、苦味やエグ味、酸味など余計な香味成分が移行して着香茶の香味に好ましくない影響を与える場合や、生鮮植物が乾燥後にも残存して、これを分離することが困難となる場合には、茶葉を出し入れすることのできる密閉された同一空間内に両原料を互いに接触しないように隔離して設置する手段を用いるのがよい。この場合、密閉できる容器中に、乾燥茶葉と生鮮原料が直接的に接触しないようにするのが好ましく、例えば棚や仕切り板、メッシュなどを用いて両者を隔離すればよい。
【0021】
前記の密閉容器中に隔離して設置する手段においては、余計な香味成分が移行することが避けられる反面、香り成分の移行の点で効率が低下する場合がある。その場合には密閉容器内を微減圧状態にすることで着香の効率が向上し、最終的な香りの力価を高めることができる。具体的な方法としては、減圧に耐えられる容器内に両原料を隔離して設置し、減圧ポンプと圧力調整装置を用いて容器内部の圧力を低下させた状態で所定時間保持すれば良い。この際の圧力は600~900hPaの微減圧環境とするのが好ましく、700~800hPaがさらに好ましい。圧力がこの範囲にあると生鮮植物からの香り成分の発散が促進され、且つ、発散された香り成分を茶葉が吸収することができる。圧力が600hPa以下になると発散した香りを茶葉が吸収する力が弱まり、系外に香りが逃げてしまうため好ましくない。一方で圧力が900hPaを超えると内部が飽和状態となって香りを吸収する効率が低下してしまう。
【0022】
生鮮植物を利用して着香する場合、生鮮植物の香りとともに水分が茶葉に移行するため、茶葉の保存性を確保するために乾燥処理を施す必要がある。本発明の着香茶の製造方法では、乾燥を減圧下で行うことに特徴がある。この条件を採用することによって着香工程で茶葉に移行された香りの損失や変質を抑制して、乾燥直前の香気成分の状態を保持したまま乾燥茶葉とすることができる。湿潤状態で熱風乾燥する場合、水分と同時に香気成分が揮発することが避けられないが、本発明では水分を優先して蒸発させることができるため、より多くの香気成分が保持される点で、従来の熱風乾燥法に比べて明らかに優れている。
【0023】
減圧で乾燥させる際に使用する装置は、茶葉を出し入れすることのできる密閉容器の内圧を減少させた減圧下とし、茶葉から揮発した水分を捕集または系外に放出できるものであればよい。減圧乾燥時の圧力は、好ましくは610Pa以下、より好ましくは110Pa以下、さらに好ましくは10Pa以下である。圧力を610Pa以下とすることによって、気化熱で茶葉が冷却されて凍結した状態で水分が昇華される。すなわち、凍結乾燥を行うことができる。圧力をより低くできる場合には外部から加熱させ、昇華を促進させることができ、その際は凍結状態を維持できる程度に条件設定すれば良いが、好ましくは60℃以下、より好ましくは40℃以下である。なお、減圧乾燥させる際の茶葉は常温程度でも気化熱で凍結させることができるが、あらかじめ凍結状態としておくことが香気成分の保持の点で好ましい。乾燥は茶葉中の水分量が10%以下となるまで継続するが、茶葉中の結合水までを取り除く必要はない。そのため、乾燥後の茶葉中の水分量は2~10%、好ましくは3~8%である。
【0024】
本発明の製造方法で得られる着香茶は、従来の茶葉では乾燥時に揮発して損失しまうような揮発性の高い軽やかな香気成分を含むため、ティーポットや急須などを用いて飲用に供するリーフティーやティーバッグのような利用形態に適している。
【実施例0025】
以下に本発明を実施例によってさらに具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0026】
[試験例1]
乾燥茶葉として紅茶葉(産地:静岡県、品種:べにふうき、茶期:2番茶期)、生鮮植物として生のベルガモット(産地:香川県)を用い、着香茶を製造した。摘採したベルガモットを水道水で洗浄し、果皮に付着している水分をペーパータオルでふき取った後、果皮を果実から剥離した。果皮を包丁にて短冊状に切断し、フードプロセッサー(Cuisinart社、DLC-1JBS)にて30秒間処理し、0.5~3mm程度に粗粉砕した。着香工程として、前記粉砕果皮50重量部と紅茶葉100重量部を十分に混合し、6時間ごとに1分間の攪拌を入れながら4℃の冷蔵庫内で48時間保管し、ベルガモットの香りを紅茶葉に移行させた。この混合物を二分し、一方を熱乾燥機(ヤマト科学、DV400)を用いて、40℃にて約36時間乾燥させ、比較例1の着香茶を得た。また、他方を真空凍結乾燥機(凍結乾燥機 FDU-2110型、東京理化器械製)を用いて到達減圧度4.0Paで約36時間減圧乾燥させ、実施例1の着香茶を得た。これらについて、以下に示すSPME-GC/MS法でベルガモットの特徴的な香気成分であるリナロール(Linalool)とリナリル酢酸(Lilalyl acetate)の含有量について機器分析を行った。また、以下に示す官能評価基準によって、香味の評価を行った。香気成分の分析値を表1に、官能評価の結果を表2に示した。
【0027】
《SPME-GC/MSによる香気成分分析及び定量方法》
茶葉500mgに80%メタノールを50ml加え、30分間超音波浴槽で抽出した後、超純水で100mlにメスアップした。この抽出液を200倍に希釈したものを10ml及び塩化ナトリウム3.0gを20mLのSPMEバイアルに入れ、内部標準物質としてシクロヘプタノール(東京化成工業製)を終濃度50ppbとなるように添加したものを分析試料とした。香気成分は固相マイクロ抽出法(Solid phase Micro Extraction:SPME)により回収し、ガスクロマトグラフ質量分析(GC/MS分析)に供した。SPME-GC/MS分析条件は以下の通りである。内部標準物質に対する各香気成分のピークエリアの比率(IS比)をピークエリア値とした。
【0028】
<SPME-GC/MS条件>
・GC:TRACE GC ULTRA(サーモフィッシャーサイエンティフィック社)
・MS:TSQ QUANTUM XLS(サーモフィッシャーサイエンティフィック社)
・SPMEファイバー:50/30μm Divinylbenzene/Carboxen/Polydimethylsiloxane Stableflex(シグマアルドリッチ社)
・抽出:60℃、30分
・カラム:SUPELCO WAX10 0.25mmI.D.×60m×0.25μm(シグマアルドリッチ社)
・オーブンプログラム:40℃で2分間保持した後、160℃まで3℃/分で昇温し、その後280℃まで10℃/分で昇温
・キャリアーガス:ヘリウム(100kPa、一定圧力)
・インジェクター温度:スプリットレス、240℃
・イオン源温度:200℃
・イオン化:電子イオン化
・イオン化電圧:70eV
・測定モード:スキャン
・評価成分とそのモニタリングイオン:
リナロール(Linalool):m/z=71、リナリル酢酸(Linalyl acetate):m/z=93
【0029】
<官能評価>
評価者は香味や異臭についての識別やそれらの濃度識別についてトレーニングされ、日常業務として茶葉の鑑定を担当している専門パネラー4名とした。評価には、各茶葉3.0gを95℃の熱水180gで3分間抽出した抽出液を用いた。評価項目は、評価者が感じる香味を新鮮なベルガモットの香りと定義づけた。この新鮮なベルガモットの香りについて、1点(弱い、低評価)~20点(強い、高評価)とし、比較例1の茶葉を基準(10点)として評価した。また、苦渋味・エグ味の強さについて、1点(弱い、高評価)~20点(強い、低評価)とし、比較例1の茶葉を基準(10点)として評価した。
【0030】
【0031】
【0032】
表1に示した機器分析の結果、本発明の実施例1では、比較例1に比べて、ベルガモットの代表的な香気成分であるリナロール(Linalool)と酢酸リナリル(Linalyl acetate)のいずれも約2倍程度含まれていることが確認された。表2に示した官能評価の結果はこれら成分含量の特長を支持しており、ベルガモットの特徴的な香りが最終の着香茶に保持されていることが確認された。これらの結果から、本発明の製造方法によれば、生鮮植物の新鮮な香りを茶葉に移行させることができ、製造工程中にそれら香気成分の損失や変質が抑制できることが示された。
【0033】
[試験例2]
試験例1において、本発明の製造方法によって生鮮植物の新鮮な香りを茶葉に着香できることが示された。しかし、その一方で使用したベルガモットの果皮に由来する苦味が感じられるとのコメントがあり、その対策方法について検討した。具体的には、着香操作時に茶葉と香り源とを直接接触しない方法での着香効果を確認した。試験例1と同様に乾燥茶葉として紅茶葉(産地:静岡県、品種:べにふうき、茶期:2番茶期)、生鮮植物として生のベルガモット(産地:香川県)を用意し、生ベルガモットからは果皮の粗粉砕品を調製した。試験篩(直径:75mm、目開き:250μm、東京スクリーン製)を2段積み重ね、下の篩上にベルガモットの粉砕果皮10gを乗せ、上の篩上に紅茶葉20gを乗せた。すなわち、茶葉と香りの基原となるベルガモットとが互いに接触しない状態とした。これらを凍結乾燥瓶(容量:900ml、口径:102mm、東京理化器械製)の中に設置し、容器内を真空ポンプ(型番:V-600/I-300、ビュッヒ製)を用いて減圧度を保ちながら24時間放置して茶葉を着香した。減圧度はそれぞれ、大気圧(実施例2)、900hPa(実施例3)、750hPa(実施例4)、600hPa(実施例5)、500hPa(実施例6)とした。着香処理後は茶葉のみを取り出し、真空凍結乾燥機(凍結乾燥機 FDU-2110型、東京理化器械製)を用いて到達減圧度4.0Paで約36時間減圧乾燥させ、実施例2~6の着香茶を得た。これら着香茶について、試験例1と同様に、比較例1を基準として香味を官能評価した。その結果を表3に示した。
【0034】
【0035】
表3の結果に示された通り、茶葉と粉砕果皮を混合状態にして着香した比較例1と比べ、香りの強度は若干劣るものの、ベルガモットの香りは確実に着香されている一方で、苦味については大幅に低減できることが確認された。この結果より、茶葉と香り源となる果皮は接触状態になくとも香りのみを茶葉に移行できることが確認された。また、着香操作時の圧力を大気圧よりわずかに低下させた微減圧状態とすることで、香りの強度を維持しながらも苦味を低減されることが示された。その際、圧力は600~900hPaの範囲が香り強度の維持の点において特に有効であることが確認された。
【0036】
[製造例1]
生鮮植物としてバナナを用いた着香茶を製造した。海外産のバナナ1本を果皮ごと包丁で2cm程度の幅で輪切りし、フードプロセッサー(Cuisinart社、DLC-1JBS)にて1分間処理してペースト状とした。試験篩(直径:75mm、目開き:100μm、東京スクリーン製)を2段積み重ね、下の篩上にバナナのペースト10gを乗せ、上の篩上に紅茶葉10gを乗せた。これらを凍結乾燥瓶(容量:900ml、口径:102mm、東京理化機械製)の中に設置し、容器内を真空ポンプ(型番:V-600/I-300、ビュッヒ製)を用いて減圧度を750hPaに保ちながら常温で24時間放置して茶葉を着香した。着香後に茶葉のみを取り出し、真空凍結乾燥機(凍結乾燥機 FDU-2110型、東京理化械株製)を用いて到達減圧度4.0Paで約24時間減圧乾燥させ、製造例1の着香茶を得た。得られた茶葉を熱水で抽出して官能評価したところ、甘くフルーティーな熟したバナナ特有の香りが強く感じられることが確認された。