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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023042851
(43)【公開日】2023-03-28
(54)【発明の名称】圧電膜積層体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H10N 30/853 20230101AFI20230320BHJP
   H10N 30/072 20230101ALI20230320BHJP
   H03H 9/17 20060101ALI20230320BHJP
   H03H 3/02 20060101ALI20230320BHJP
   H03H 9/25 20060101ALI20230320BHJP
   H03H 3/08 20060101ALI20230320BHJP
   H03H 9/24 20060101ALI20230320BHJP
【FI】
H01L41/187
H01L41/312
H03H9/17 F
H03H3/02 B
H03H9/25 C
H03H3/08
H03H9/24 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021150235
(22)【出願日】2021-09-15
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】520124752
【氏名又は名称】株式会社ミライズテクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】110001128
【氏名又は名称】弁理士法人ゆうあい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】勅使河原 明彦
(72)【発明者】
【氏名】榎本 哲也
(72)【発明者】
【氏名】山田 英雄
【テーマコード(参考)】
5J097
5J108
【Fターム(参考)】
5J097AA23
5J097AA36
5J097EE08
5J097FF01
5J097HA07
5J097KK05
5J097KK09
5J108BB08
5J108CC04
5J108CC11
5J108EE03
5J108EE07
5J108KK01
5J108MM08
5J108NA02
(57)【要約】
【課題】結晶性が高いScAlN膜を備える圧電膜積層体を提供する。
【解決手段】圧電膜積層体10は、金属膜11と、絶縁性のアモルファス膜12と、ScAlN膜13とを備える。金属膜11は、金属材料で構成される。アモルファス膜12は、金属膜11の上に形成される。ScAlN膜13は、アモルファス膜12の上にアモルファス膜12の表面に接して形成される。これにより、結晶構造を有する下地の表面に接してScAlN膜を形成するときと比較して、結晶性が高いScAlN膜13を形成することができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電膜積層体であって、
金属膜(11)と、
前記金属膜の上に配置された絶縁性のアモルファス膜(12)と、
前記アモルファス膜の上に配置され、前記アモルファス膜の表面に接するScAlN膜(13)と、を備える、圧電膜積層体。
【請求項2】
前記アモルファス膜の膜厚は、1.0nm以上である、請求項1に記載の圧電膜積層体。
【請求項3】
前記アモルファス膜は、Mo酸化物を含む材料で構成される、請求項1または2に記載の圧電膜積層体。
【請求項4】
前記金属膜は、Moを含む材料で構成される、請求項3に記載の圧電膜積層体。
【請求項5】
前記金属膜は、AlN以外の材料で構成された下地(1)の表面に接して配置されている、請求項4に記載の圧電膜積層体。
【請求項6】
圧電膜積層体であって、
導電性のアモルファス膜(14、16)と、
前記アモルファス膜の上に配置され、前記アモルファス膜の表面に接するScAlN膜(13)と、を備える、圧電膜積層体。
【請求項7】
前記アモルファス膜(16)は、Moを含む材料で構成された金属膜(15)の上に配置されており、
前記金属膜は、AlN以外の材料で構成された下地(1)の表面に接して配置されている、請求項6に記載の圧電膜積層体。
【請求項8】
圧電膜積層体の製造方法であって、
金属膜(11)を形成することと、
前記金属膜の上に絶縁性のアモルファス膜(12)を形成することと、
前記アモルファス膜の上に、前記アモルファス膜の表面に接するScAlN膜(13)を形成することと、を含み、
前記アモルファス膜を形成することにおいては、前記金属膜の表層を酸化または窒化させることで、前記アモルファス膜を形成する、圧電膜積層体の製造方法。
【請求項9】
前記金属膜を形成することにおいては、前記金属膜として、Mo、Al、Tiの少なくとも1つの金属元素を含む材料で構成される金属膜を形成する、請求項8に記載の圧電膜積層体の製造方法。
【請求項10】
前記金属膜を形成することにおいては、前記金属膜として、Moを含む材料で構成される金属膜を形成し、
前記アモルファス膜を形成することにおいては、前記金属膜の表層を酸化させることで、Mo酸化物を含む材料で構成されるアモルファス膜を形成する、請求項8に記載の圧電膜積層体の製造方法。
【請求項11】
前記圧電膜積層体の製造方法は、前記金属膜を形成することの後に、前記金属膜をパターニングすることを含み、
前記アモルファス膜を形成することは、前記金属膜をパターニングすることの前に行われる、請求項8ないし10のいずれか1つに記載の圧電膜積層体の製造方法。
【請求項12】
前記圧電膜積層体の製造方法は、前記アモルファス膜を形成することの後であって、前記ScAlN膜を形成することの前に、前記アモルファス膜の表層を除去して、前記アモルファス膜の上の汚れを除去することを含み、
前記アモルファス膜を形成することにおいては、形成後の前記アモルファス膜の厚さを、前記汚れを除去することが行われた後の前記アモルファス膜の目標厚さに対して、前記汚れを除去することにおいて、除去される予定の前記アモルファス膜の表層の厚さを加えた厚さとする、請求項8ないし11のいずれか1つに記載の圧電膜積層体の製造方法。
【請求項13】
圧電膜積層体の製造方法であって、
導電性のアモルファス膜(16)を形成することと、
前記アモルファス膜の上に、前記アモルファス膜の表面に接するScAlN膜(13)を形成することと、を含み、
前記アモルファス膜を形成することにおいては、金属膜(15)に対してイオン注入またはプラズマ処理をすることで、前記アモルファス膜を形成する、圧電膜積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電膜積層体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、下部電極と、この下部電極の上に配置されたScAlN膜とを備える圧電膜積層体が開示されている。ScAlN膜は、圧電膜である。下部電極は、ScAlN膜の下に配置された電極である。この圧電膜積層体は、各種デバイスの一部を構成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5190841号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記した構造の圧電膜積層体の製造において、電極の表面に接してScAlN膜を形成するとき、電極を構成する材料によって、または、ScAlN膜の残留応力の大きさによって、得られるScAlN膜の結晶性が低下する。ScAlN膜の結晶性が低下すると、ScAlN膜の圧電性が低下する。
【0005】
本発明は、結晶性が高いScAlN膜を備える圧電膜積層体を提供することを目的とする。また、結晶性が高いScAlN膜を備える圧電膜積層体の製造方法を提供することを他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明によれば、圧電膜積層体は、
金属膜(11)と、
金属膜の上に配置された絶縁性のアモルファス膜(12)と、
アモルファス膜の上に配置され、アモルファス膜の表面に接するScAlN膜(13)と、を備える。
【0007】
これによれば、アモルファス膜の表面に接してScAlN膜が形成される。このため、下地の結晶構造の影響が無い状態で、ScAlNを自己配向させることができる。このため、結晶構造を有する下地の表面に接してScAlN膜が形成されるときと比較して、結晶性が高いScAlN膜を形成することができる。よって、結晶性が高いScAlN膜を備える圧電膜積層体を提供することができる。
【0008】
また、請求項6に記載の発明によれば、圧電膜積層体は、
導電性のアモルファス膜(14、16)と、
アモルファス膜の上に配置され、アモルファス膜の表面に接するScAlN膜(13)と、を備える。
【0009】
これによれば、アモルファス膜の表面に接してScAlN膜が形成される。このため、下地の結晶構造の影響が無い状態で、ScAlNを自己配向させることができる。このため、結晶構造を有する下地の表面に接してScAlN膜が形成されるときと比較して、結晶性が高いScAlN膜を形成することができる。よって、結晶性が高いScAlN膜を備える圧電膜積層体を提供することができる。
【0010】
また、請求項8に記載の発明によれば、圧電膜積層体の製造方法は、
金属膜(11)を形成することと、
金属膜の上に絶縁性のアモルファス膜(12)を形成することと、
アモルファス膜の上に、アモルファス膜の表面に接するScAlN膜(13)を形成することと、を含み、
アモルファス膜を形成することにおいては、金属膜の表層を酸化または窒化させることで、アモルファス膜を形成する。
【0011】
これによれば、請求項1に記載の圧電膜積層体を製造することができる。これによれば、アモルファス膜の表面に接してScAlN膜が形成される。このため、下地の結晶構造の影響が無い状態で、ScAlNを自己配向させることができる。このため、結晶構造を有する下地の表面に接してScAlN膜が形成されるときと比較して、結晶性が高いScAlN膜を形成することができる。よって、結晶性が高いScAlN膜を備える圧電膜積層体の製造方法を提供することができる。
【0012】
また、請求項13に記載の発明によれば、圧電膜積層体の製造方法は、
導電性のアモルファス膜(16)を形成することと、
アモルファス膜の上に、アモルファス膜の表面に接するScAlN膜(13)を形成することと、を含み、
アモルファス膜を形成することにおいては、金属膜(15)に対してイオン注入またはプラズマ処理をすることで、アモルファス膜を形成する。
【0013】
これによれば、請求項6に記載の圧電膜積層体を製造することができる。これによれば、アモルファス膜の表面に接してScAlN膜が形成される。このため、下地の結晶構造の影響が無い状態で、ScAlNを自己配向させることができる。このため、結晶構造を有する下地の表面に接してScAlN膜が形成されるときと比較して、結晶性が高いScAlN膜を形成することができる。よって、結晶性が高いScAlN膜を備える圧電膜積層体の製造方法を提供することができる。
【0014】
なお、各構成要素等に付された括弧付きの参照符号は、その構成要素等と後述する実施形態に記載の具体的な構成要素等との対応関係の一例を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】第1実施形態における圧電膜積層体の断面図である。
図2】第1実施形態における圧電膜積層体の製造方法を示すフローチャートである。
図3図2中のアモルファス膜の形成工程における大気中放置の放置時間と大気中放置によって形成されるアモルファス膜の膜厚との関係を示すグラフである。
図4図2中のアモルファス膜の形成工程における大気中放置の放置時間とScAlN膜の結晶性との関係を示すグラフである。
図5】第3実施形態における圧電膜積層体の断面図である。
図6】第4実施形態における圧電膜積層体の断面図である。
図7】第4実施形態における圧電膜積層体の製造方法を示すフローチャートである。
図8】第5実施形態におけるマイクロフォンの断面図である。
図9】第6実施形態におけるBAW共振器の斜視図である。
図10】第7実施形態におけるSAWデバイスの斜視図である。
図11】第8実施形態におけるMEMS共振器の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、同一符号を付して説明を行う。
【0017】
(第1実施形態)
図1に示すように、本実施形態の圧電膜積層体10は、基材1と、金属膜11と、絶縁性のアモルファス膜12と、ScAlN膜13と、を備える。
【0018】
基材1は、半導体材料、絶縁材料等で構成される。基材1としては、例えば、Si基板が用いられる。
【0019】
金属膜11は、金属材料で構成される膜である。金属膜11は、デバイスにおける下部電極として用いられる。金属膜11は、基材1の上に配置されている。金属膜11は、基材1の表面に接している。なお、金属膜11と基材1との間に、1つ以上の他の膜が配置されていてもよい。すなわち、金属膜11は、基材1の上の他の膜の表面に接していてもよい。
【0020】
アモルファス膜12は、金属膜11の上に配置されている。アモルファス膜12は、金属膜11の表面に接している。アモルファス膜12は、ScAlN膜13の下地として用いられている。
【0021】
アモルファス膜12は、絶縁性のアモルファスの材料で構成された膜である。本明細書において、絶縁性とは、電気抵抗率(すなわち、体積抵抗率)が10Ω・m以上であることを意味する。アモルファスは、結晶構造を持たない物質の状態のことであり、非晶質とも呼ばれる。アモルファス膜12を構成する材料がアモルファスであることは、アモルファス膜12に対して電子線回折測定を行うことで確認される。その測定結果がハローパターンのとき、アモルファス膜12を構成する材料はアモルファスである。アモルファス膜12を構成する材料としては、金属酸化物、金属窒化物等を含む材料が挙げられる。
【0022】
後述する実験結果からわかるように、アモルファス膜12の膜厚が1.0nmよりも小さな範囲では、アモルファス膜12の膜厚が大きくなるにつれて、ScAlN膜13の結晶性が高まる。アモルファス膜12の膜厚が1.0nm以上の範囲では、アモルファス膜12の膜厚に関わらず、ScAlN膜13の結晶性のレベルはほぼ同じであり、アモルファス膜12の膜厚が1.0nmよりも小さな範囲と比較して、ScAlN膜13の結晶性が高い。このことから、アモルファス膜12の膜厚は1.0nm以上であることが好ましい。
【0023】
ただし、アモルファス膜12の膜厚が厚くなるにつれて、ScAlN膜13とアモルファス膜12とを含む複合膜の総合的な圧電性が損なわれる。このため、この複合膜の圧電性が大きく損なわれないように、アモルファス膜12の膜厚が設定される。例えば、アモルファス膜12の膜厚がScAlN膜13の膜厚の1/10以下であれば、複合膜の圧電性を大きく損なうことは無い。
【0024】
アモルファス膜12の膜厚は、エリプソメータまたはアモルファス膜12の断面のTEM像を用いて測定される。TEM像が用いられる場合、10か所の測定値の平均値が、ここでいうアモルファス膜12の膜厚である。
【0025】
ScAlN膜13は、ScAlN(すなわち、スカンジウム含有窒化アルミニウム)で構成された圧電膜である。ScAlN膜13は、アモルファス膜12の上に配置されている。ScAlN膜13は、アモルファス膜12の表面に接している。
【0026】
ScAlN膜13のSc濃度は、0原子%よりも大きく、45原子%以下のいずれの濃度でもよい。Sc濃度とは、Scの原子数とAlの原子数との総量100原子%に対してのScの原子数が占める割合である。原子%は、原子数百分率を指している。Sc濃度は、RBSによって測定される。RBSは、Rutherford Backscattering Spectrometry(すなわち、ラザフォード後方散乱分光)の略称である。本明細書に示すSc濃度は、下記の装置を用いて、下記の測定条件で測定された値である。
装置名:National Electrostatics Corporation製 Pelletron 3SDH
測定条件
RBS測定
入射イオン: 4He++
入射エネルギー: 2300keV
入射角: 0deg
散乱角: 160deg
試料電流: 13nA
ビーム径: 2mmφ
面内回転: 無
照射量: 70μC
【0027】
次に、本実施形態の圧電膜積層体10の製造方法について説明する。圧電膜積層体10の製造方法は、図2に示すように、金属膜11の形成工程S1と、アモルファス膜12の形成工程S2と、ScAlN膜13の形成工程S5と、を含む。
【0028】
まず、金属膜11の形成工程S1が行われる。すなわち、金属膜11を形成することが行われる。金属膜11は、基材1の上に形成される。アモルファス膜12を金属膜11の酸化または窒化によって形成するために、金属膜11として、Mo、Al、Tiの少なくとも1つの金属元素を含む材料で構成されるものが形成される。Mo、Al、Tiは、電極材料として用いられる金属元素であって、酸化または窒化による絶縁性の金属化合物の形成が可能である。金属膜11は、Mo、Al、Tiのうち2つ以上の金属元素を含む合金で構成されてもよい。
【0029】
続いて、アモルファス膜12の形成工程S2が行われる。すなわち、金属膜11の上に、金属膜11の表面に接する絶縁性のアモルファス膜12を形成することが行われる。金属膜11の表層が酸化または窒化されることで、アモルファス膜12として、Mo、Al、Tiの少なくとも1つの金属元素の酸化物または窒化物を含む材料で構成されるものが形成される。
【0030】
ここで、一例として、アモルファス膜12がMo酸化物を含む材料で構成される場合について説明する。まず、金属膜11の形成工程S1で、スパッタ法によって、Moを含む材料で構成される金属膜11がSi基板で構成された基材1の上に基材1の表面に接して形成される。このように、金属膜11は、AlN以外の材料で構成された下地材の表面に接して配置される。すなわち、金属膜11の下にはAlN膜が存在しない。そして、アモルファス膜12の形成工程S2で、金属膜11の表層が酸化されることで、Mo酸化物を含む材料で構成されるアモルファス膜12が形成される。酸化方法としては、大気中放置または熱処理が採用される。
【0031】
大気中放置では、金属膜11が大気中に放置される。放置時間によって、形成されるアモルファス膜12の膜厚が決まる。このため、アモルファス膜12の膜厚が、上記した大きさとなるように、放置時間が設定される。
【0032】
図3に、主にMoで構成される金属膜11を常温、常湿の大気中に放置したときの放置時間とアモルファス膜12の膜厚との関係を示す。横軸の大気放置時間が放置時間である。図3に示す膜厚は、エリプソメータを用いて測定した値である。図3に示すように、放置時間が大きくなるにつれて、アモルファス膜12の膜厚が大きくなる。放置時間を約200時間とすることで、アモルファス膜12の膜厚を約10Å(すなわち、1.0nm)にすることができる。なお、図3では、放置時間が40時間以下のときの膜厚は0となっている。これは、放置時間が40時間以下では、アモルファス膜12の膜厚を測定することができなかったからである。本実施形態では、放置時間を40時間よりも長い時間とする。これにより、膜厚が約1Å(すなわち、0.1nm)以上であるアモルファス膜12が得られる。
【0033】
また、熱処理では、酸素が存在する雰囲気中で、金属膜11が加熱される。このときの加熱温度は、100℃以上250℃以下であることが好ましい。主にMoで構成される金属膜11に対して、石英管を使用し、酸素100%、大気圧、温度200℃、時間1hrによる熱処理を行うことで、アモルファス膜12の膜厚を6.5nmにすることができる。
【0034】
ところで、下部電極を備える従来のデバイスの製造では、金属膜の形成工程の後に、金属膜のパターニング工程が行われる。金属膜のパターニング工程では、フォトリソグラフィとエッチングによって、金属膜が所定の形状にパターニングされることで、下部電極が形成される。
【0035】
本実施形態と異なり、金属膜11の形成工程S1の後に、アモルファス膜12の形成工程S2が行われずに、ScAlN膜13の形成工程S5が行われる場合を想定する。この場合では、金属膜11の形成工程の後であって、ScAlN膜13の形成工程S5の前に、上記した金属膜のパターニング工程と同じように、金属膜11のパターニング工程が行われる。この場合、金属膜11の形成後からScAlN膜13の形成開始までの間において、金属膜11は大気中に晒される。このため、アモルファス膜12の形成工程S2を行わない場合でも、金属膜11の表層は、ある程度、自然酸化する。
【0036】
しかし、こうした工程を鑑みても、デバイスの量産のためには、金属膜11の形成からScAlN膜13の形成までの時間間隔は通常長くても1日程度である。自然酸化の時間が1日程度では、形成される酸化膜の膜厚は、図3からわかるように、測定できないほどの大きさであり、上記したアモルファス膜12の好ましい膜厚(すなわち、1.0nm以上)に到達しない。
【0037】
アモルファス膜12の形成工程S2の後に、ScAlN膜13の形成工程S5が行われる。すなわち、アモルファス膜12の上に、アモルファス膜12の表面に接するScAlN膜13を形成することが行われる。ScAlN膜13の形成は、反応性スパッタ法によって、所定の成膜温度で行なわれる。これにより、本実施形態の圧電膜積層体10が製造される。
【0038】
また、本実施形態の圧電膜積層体10の製造方法は、上記した従来のデバイスの製造と同様に、金属膜11のパターニング工程S3を含む。アモルファス膜12の形成工程S2は、金属膜11のパターニング工程S3の前と後のどちらのタイミングで行なわれてもよい。
【0039】
ただし、金属膜11のパターニング工程S3によって、金属膜11の表面には、種々の汚染物質が付着する可能性がある。汚染物質が付着した状態で、金属膜11の表層を酸化させると、この汚染物質が金属膜11中に拡散する可能性が高い。特に、汚染物質が付着した状態で、金属膜11の表層を熱酸化によって酸化させると、加熱装置を汚染する可能性も高い。このため、図2に示すように、アモルファス膜12の形成工程S2は、金属膜11のパターニング工程S3の前に行われることが好ましい。これにより、汚染物質の金属膜中へ拡散、汚染物質による加熱装置の汚染を回避することができる。
【0040】
また、図2に示すように、本実施形態の圧電膜積層体10の製造方法は、クリーニング工程S4を含む。クリーニング工程S4は、アモルファス膜12の形成工程S2の後であって、ScAlN膜13の形成工程S5の前に行われる。クリーニング工程では、アモルファス膜12の表層を除去して、アモルファス膜12上の汚れを除去することが行われる。
【0041】
クリーニング工程S4は、ScAlN膜13が形成されたときのScAlNの結晶性を向上させるために行われる。クリーニング工程S4は、ScAlN膜13を形成する成膜室、または、真空を保持したまま搬送できる別室で行なわれる。クリーニング工程S4では、室内にArガスを導入して放電させて、Arイオンを生成し、Arイオンをアモルファス膜12の表面に照射することによって、アモルファス膜12の上の汚れがスパッタリング除去される。このとき、汚れのみではなく、アモルファス膜12の表層も除去されるため、アモルファス膜12の膜厚が減少する。
【0042】
そこで、アモルファス膜12の形成工程S2においては、形成後のアモルファス膜12の厚さを、クリーニング工程S4が行われた後のアモルファス膜12の目標厚さに対して、クリーニング工程S4で除去される予定のアモルファス膜12の表層の厚さを加えた厚さとする。これにより、クリーニング工程S4を行った後のアモルファス膜12の厚さを、上記した膜厚の範囲内の厚さにすることができる。
【0043】
以上の説明の通り、本実施形態の圧電膜積層体10は、金属膜11と、絶縁性のアモルファス膜12と、ScAlN膜13とを備える。また、本実施形態の圧電膜積層体10の製造方法は、金属膜11の形成工程S1と、アモルファス膜12の形成工程S2と、ScAlN膜13の形成工程S5と、を含む。
【0044】
ここで、本実施形態と異なり、電極の表面に接してScAlN膜を形成するとき、電極を構成する材料によって、得られるScAlN膜の結晶性が低下する。特に、電極がMoを含む材料で構成された場合に、得られるScAlN膜の結晶性が低下する。また、ScAlN膜の残留応力の大きさによって、すなわち、ScAlN膜の残留応力が、適度な大きさよりも大きい場合に、得られるScAlN膜の結晶性が低下する。ScAlN膜の結晶性が低下すると、ScAlN膜の圧電性が低下する。
【0045】
これに対して、本実施形態によれば、アモルファス膜12の表面に接してScAlN膜13が形成される。このため、下地の結晶構造の影響が無い状態で、ScAlNを自己配向させることができる。すなわち、下地が結晶構造を有する場合、その結晶構造の格子定数がScAlNの結晶成長に影響する。これに対して、本実施形態によれば、その影響が無い状態で、ScAlNを結晶成長させることができる。このため、結晶構造を有する下地の表面に接してScAlN膜が形成されるときと比較して、結晶性が高いScAlN膜13を形成することができる。ScAlN膜の結晶性が高まることで、ScAlN膜の圧電性を向上させることができる。
【0046】
ここで、図4に、本発明者が行った実験結果を示す。図4は、ScAlN膜の結晶性と金属膜11の大気放置時間との関係を表すグラフである。図4の縦軸は、ScAlN結晶の(0002)面のX線回折ピークについてのロッキングカーブの半値幅である。図4の横軸は、金属膜11の大気中放置によってアモルファス膜12を形成したときの放置時間である。図4中のSc24%、Sc32%、Sc38%は、それぞれ、ScAlN膜13のSc濃度が24原子%、32原子%、38原子%であることを示す。
【0047】
本発明者は、ScAlN膜13のSc濃度が24原子%、32原子%、38原子%のいずれかであって、アモルファス膜12の膜厚が異なる複数の圧電膜積層体10を製造した。複数の圧電膜積層体10は、いずれも、金属膜11がMoを含む材料で構成され、アモルファス膜12がMo酸化物を含む材料で構成されたものである。
【0048】
本発明者は、スパッタ法によって、金属膜11をSi基板の上に形成した。金属膜11の成膜条件は、次の通りである。
ターゲットの種類:Moターゲット
ターゲットサイズ:直径100mm
雰囲気の種類:Ar
圧力:0.2Pa
基板温度:400℃
DC電力:250W
膜厚:70nm
【0049】
その後、金属膜11の大気中放置によって、金属膜11の上にアモルファス膜12を形成した。このとき、放置時間を種々の時間に設定することで、膜厚が異なるアモルファス膜12を形成した。
【0050】
その後、反応性スパッタ法によって、アモルファス膜12の上にScAlN膜13を形成した。ScAlN膜13の成膜条件は、次の通りである。
ターゲットの種類:ScAlターゲット
ターゲットサイズ:直径100mm
Si基板とターゲットとの間の距離:200mm
DCパワー:800W
パルス周波数:20kHz
パルス長:4μs
ガス流量 N:28sccm、Ar:28sccm
ガス圧力:0.2Pa
Si基板温度:370℃
Si基板の比抵抗:≧1×10Ω・cm
このとき、成膜後のScAlN膜13のSc濃度が24原子%、32原子%、38原子%となるように、Sc濃度が予め設定された3つのScAlターゲットを用いた。
【0051】
図4の縦軸の半値幅が小さいほど、ScAlNの結晶性が高い。図4において、ScAlN膜13のSc濃度が24原子%、32原子%、38原子%のいずれのときにおいても、放置時間が200時間よりも小さい範囲では、放置時間が増大するにつれて半値幅が減少する。そして、放置時間が200時間以上の範囲では、放置時間が200時間よりも小さい範囲と比較して、放置時間の増大量に対する半値幅の減少量の割合が小さい。すなわち、放置時間が200時間以上の範囲では、放置時間が増大しても、半値幅は、各Sc濃度における半値幅の最小値に近い値で、ほぼ一定である。つまり、放置時間が200時間以上の範囲では、半値幅は、最小値に近い範囲内に収まっている。放置時間が200時間以上になると、結晶性の向上の効果が飽和する。このことから、ScAlNの結晶性を高めるには、放置時間が大きいことが良く、特に、放置時間が200時間以上であることが好ましいことがわかる。
【0052】
図3において、放置時間が200時間付近の2箇所での膜厚の測定値は、約10Å(すなわち、約1.0nm)である。したがって、アモルファス膜12の膜厚は、1.0nm以上であることが好ましい。
【0053】
なお、図4は、ScAlN膜13のSc濃度が24原子%以上38原子%以下の場合の結果であるが、Sc濃度が他の場合においても、放置時間が200時間以上のときに、半値幅が最小値に近い範囲内に収まることが推測される。
【0054】
従来では、ScAlN膜の下地としてMoを含む金属膜が用いられる場合、Moの結晶性を向上させるために、金属膜の下にシード層と呼ばれるAlNで構成された下地が用いられる。すなわち、金属膜の形成工程において、AlNで構成された下地に接して、金属膜が形成される。
【0055】
これに対して、本実施形態によれば、金属膜11の結晶性に影響されずに、ScAlN膜13を形成することができる。すなわち、金属膜11の結晶性は、ScAlN膜13の結晶性に影響を及ぼさなくなる。したがって、本実施形態によれば、Moの結晶性に対する制約が無くなるという効果も得られる。
【0056】
よって、本実施形態によれば、金属膜11がMoを含む材料で構成され、アモルファス膜12がMo酸化物を含む材料で構成される場合において、AlN以外の材料で構成された下地としての基材1の表面に接して、金属膜11を配置することができる。また、この場合において、金属膜11の成膜条件についても自由度が高くなり、Moの結晶性を無視して、例えば、膜応力の制御に特化した成膜条件を選ぶことも可能となる。なお、金属膜11が基材1の上の他の膜の表面に接して配置されている場合においても、金属膜11の下地となる他の膜は、AlN以外の材料で構成されてもよい。
【0057】
(第2実施形態)
本実施形態では、第1実施形態と異なり、アモルファス膜12の形成工程S2でのアモルファス膜12の形成は、成膜法によって行われる。成膜法としては、物理気相成長法、化学気相成長法が挙げられる。成膜法によってアモルファス膜12を形成する場合では、結晶構造を有する膜を成膜するときの条件に対して、「基板温度を低くすること」、「成膜圧力を上げること」、「投入電力を高くして成膜速度を上げること」等を行う。これにより、アモルファス膜12を形成することができる。
【0058】
金属膜11の形成工程S1では、金属膜11として、電極材料として用いられる金属元素を含む材料で構成されるものが形成される。電極材料として用いられる金属元素としては、Mo、Al、Tiの他に、Ru、Pt、Au等が挙げられる。本実施形態では、アモルファス膜12を構成する材料に含まれる金属元素は、金属膜11を構成する材料に含まれる金属元素と同じであっても、異なってもよい。
【0059】
圧電膜積層体10および圧電膜積層体10の製造方法の他の構成は、第1実施形態と同じである。本実施形態によっても、第1実施形態と共通する構成が奏する効果を、第1実施形態と同様に得ることができる。
【0060】
(第3実施形態)
図5に示すように、本実施形態の圧電膜積層体10Aは、基材1と、導電性のアモルファス膜14と、ScAlN膜13と、を備える。
【0061】
アモルファス膜14は、基材1の上に配置されている。アモルファス膜14は、基材1の表面に接している。ScAlN膜13は、アモルファス膜14の上に配置されている。ScAlN膜13は、アモルファス膜14の表面に接している。基材1とScAlN膜13のそれぞれの構成は、第1実施形態と同じである。
【0062】
アモルファス膜14は、導電性のアモルファスの材料で構成された膜である。本明細書において、導電性とは、電気抵抗率(すなわち、体積抵抗率)が10-2Ω・m以下であることを意味する。
【0063】
アモルファス膜14を構成する材料として、導電性金属酸化物、導電性金属窒化物等が挙げられる。導電性金属酸化物として、Ru酸化物、ITOが挙げられる。ITOは、Indium Tin Oxide(すなわち、インジウムスズ酸化物)の略称である。
【0064】
本実施形態の圧電膜積層体10Aの製造方法は、アモルファス膜14の形成工程と、ScAlN膜13の形成工程と、を含む。
【0065】
アモルファス膜14の形成工程では、導電性金属酸化物または導電性金属窒化物を形成可能な金属元素を含む材料で構成された図示しない金属膜を形成することが行われる。そして、金属膜の全体を酸化または窒化させることで、アモルファス膜14を形成することが行われる。この場合、金属膜の全体がアモルファス膜14となる。なお、金属膜の表層を酸化または窒化させることで、金属膜の上にアモルファス膜14が形成されてもよい。
【0066】
また、これに限らず、アモルファス膜14の形成工程では、成膜法によってアモルファス膜14を形成することが行われてもよい。成膜法としては、物理気相成長法、化学気相成長法が挙げられる。成膜法によってアモルファス膜14を形成する場合では、結晶構造を有する膜を成膜するときの条件に対して、「基板温度を低くすること」、「成膜圧力を上げること」、「投入電力を高くして成膜速度を上げること」等を行う。これにより、アモルファス膜14を形成することができる。
【0067】
また、成膜法によってアモルファス膜14を形成する場合、金属膜の上に金属膜の表面に接してアモルファス膜14を形成してもよい。例えば、Moを含む材料で構成された金属膜の上に金属膜の表面に接して、アモルファス膜14を形成してもよい。この場合、第1実施形態での説明の通り、AlN以外の材料で構成された下地としての基材1の表面に接して金属膜11を配置することができる。
【0068】
ScAlN膜13の形成工程は、第1実施形態と同じである。本実施形態によっても、第1実施形態と共通する構成が奏する効果を、第1実施形態と同様に得ることができる。
【0069】
(第4実施形態)
図6に示すように、本実施形態の圧電膜積層体10Bは、基材1と、金属膜15と、導電性のアモルファス膜16と、ScAlN膜13と、を備える。本実施形態では、金属膜15および導電性のアモルファス膜16が、デバイスにおける下部電極として用いられる。
【0070】
基材1の構成は、第1実施形態と同じである。金属膜15は、金属材料で構成される膜である。金属膜15は、基材1の上に配置されている。金属膜15は、基材1の表面に接している。
【0071】
アモルファス膜16は、金属膜15の上に配置されている。アモルファス膜16は、金属膜15の表面に接している。アモルファス膜16は、下記の通り、金属膜15の表層に対してイオン注入またはプラズマ処理がされることによって形成されたものである。
【0072】
図7に示すように、本実施形態の圧電膜積層体10Bの製造方法は、金属膜15の形成工程S11と、アモルファス膜16の形成工程S12と、ScAlN膜13の形成工程S13と、を含む。金属膜15の形成工程S11では、アモルファス膜16を形成するための下地となる金属膜15を基材1の上に形成することが行われる。アモルファス膜16の形成工程S12では、金属膜15に対してイオン注入またはプラズマ処理をすることで、アモルファス膜16を形成することが行われる。
【0073】
金属膜15に対するイオン注入では、イオン注入種として、金属イオン、希ガスイオン等が用いられる。金属膜15の表層に対して、数10~100keV程度のエネルギーを与えることで、厚さが数10~100nm程度のアモルファス膜16を形成することができる。イオン注入種として、金属イオン、希ガスイオン等を用いることで、イオン注入される金属の導電性を保持することができる。
【0074】
金属膜15に対するプラズマ処理は、下記の文献に記載の方法で行うことができる。すなわち、ドライエッチングに一般的に使用されるチャンバ構成(すなわち、基板と対抗電極が平行配置されているレイアウト)が用いられる。このチャンバ構成において、通常のドライエッチング工程と同様に、高周波放電させてプラズマを発生させる。このとき、材料ガスとしてArガスのみを導入することで、金属膜15のエッチングを最小限に抑え、金属膜15の表層のアモルファス化が可能となる。
Impact of the surface-near silicon substrate properties on the microstructure of sputter-deposited AlN thin films著者名: Schneider, M.; Bittner, A.; Patocka, F.; et al.APPLIED PHYSICS LETTERS 巻:101号: 22 記事番号: 221602 発行:NOV 26 2012
【0075】
ScAlN膜13の形成工程は、第1実施形態と同じである。本実施形態によっても、第1実施形態と共通する構成が奏する効果を、第1実施形態と同様に得ることができる。本実施形態においても、金属膜15がMoを含む材料で構成される場合において、AlN以外の材料で構成された下地としての基材1の表面に接して、金属膜15を配置することができる。この場合、アモルファス膜16は、Moを含む材料で構成される。
【0076】
(第5実施形態)
図8に示す本実施形態のマイクロフォン20は、第1実施形態の圧電膜積層体10を用いたものである。マイクロフォン20は、受圧部21と、支持体22とを備える。受圧部21は、音圧を受ける膜状の部分である。支持体22は、受圧部21を支持する。
【0077】
支持体22は、受圧部21が音圧を受けて変形するための空間部23を有する。支持体22は、受圧部21が音圧を受けたときに、受圧部21が変形できるように、空間部23の上側に受圧部21が位置した状態で、受圧部21を支持する。支持体22は、Siで構成されている。
【0078】
受圧部21は、圧電膜24と、下部電極25と、上部電極26と、絶縁膜27とを含む。圧電膜24として、第1実施形態のScAlN膜13が用いられる。下部電極25として、第1実施形態の金属膜11およびアモルファス膜12が用いられる。上部電極26は、圧電膜24の上面に接して形成されている。下部電極25および上部電極26は、受圧部21の変形によって圧電膜24に発生した電荷を回収するための電極である。絶縁膜27は、支持体22のうち空間部23および空間部23の周囲の領域を覆っている。絶縁膜27は、Si酸化膜である。
【0079】
下部電極25は、絶縁膜27のうち空間部23の上側に位置する領域の表面上に設けられている。圧電膜24は、下部電極25の上面および下部電極25が形成されていない絶縁膜27の表面にわたって形成されている。
【0080】
このように構成されたマイクロフォン20では、受圧部21が音圧を受けてたわみ変形をする。受圧部21が下に凸の形状に変形すると、圧電膜24の面内方向に圧縮応力が発生する。このとき、圧電効果によって圧電膜24の表面には電荷が発生する。また、受圧部21が上に凸の形状に変形すると、圧電膜24の面内方向に引張り応力が発生する。このとき、圧電効果によって圧電膜24の表面には、圧縮応力が発生したときとは逆極性の電荷が発生する。そこで、発生した電荷を下部電極25および上部電極26を通じて回収することで、受圧部21に印加された音圧を検出することができる。
【0081】
本実施形態によれば、圧電膜24として第1実施形態のScAlN膜13が用いられている。第1実施形態での説明の通り、ScAlN膜13は、ScAlNの結晶性が高いので、圧電性が高い。このため、マイクロフォン20の感度を高めることができる。
【0082】
なお、本実施形態では、受圧部21に絶縁膜27が含まれている。しかし、絶縁膜27は、下部電極25とは別の導電膜であってもよい。また、本実施形態では、絶縁膜27は、受圧部21のたわみ変形における中立線を圧電膜24の中に存在させないために、形成されている。下部電極25を上部電極26よりも厚くすること等によって、受圧部21のたわみ変形における中立線を圧電膜24の中に存在させない場合、受圧部21に絶縁膜27が含まれていなくてもよい。また、本実施形態では、圧電膜24、下部電極25、上部電極26は、図8に示す形状である。しかしながら、これらの形状は、図8に示す形状に限られない。
【0083】
また、本実施形態のマイクロフォン20では、第1実施形態の圧電膜積層体10が用いられている。しかし、第3実施形態の圧電膜積層体10Aが用いられてもよい。この場合、導電性のアモルファス膜14が単独で下部電極25に用いられる。または、導電性のアモルファス膜14とアモルファス膜14の下面に接する金属膜とが、下部電極25に用いられる。同様に、本実施形態のマイクロフォン20に、第4実施形態の圧電膜積層体10Bが用いられてもよい。この場合、金属膜15および導電性のアモルファス膜16が、下部電極25に用いられる。
【0084】
(第6実施形態)
図9に示す本実施形態のBAW共振器30は、第1実施形態の圧電膜積層体10を用いたBAWデバイスである。BAWは、Bulk Acoustic Wave(すなわち、体積弾性波)の略称である。BAW共振器30は、圧電膜31と、下部電極32と、上部電極33と、支持体34とを備える。
【0085】
圧電膜31として、第1実施形態のScAlN膜13が用いられる。下部電極32として、第1実施形態の金属膜11およびアモルファス膜12が用いられる。上部電極33は、圧電膜31の上面に接して形成されている。下部電極32および上部電極33は、圧電膜31に交流電界を印加して圧電膜31を膜厚方向に振動させる電極である。
【0086】
支持体34は、圧電膜31、下部電極32および上部電極33を支持する。支持体34は、圧電膜31に交流電界が印加されたときに圧電膜31が振動するための空間部35を有する。支持体34は、Siによって構成されている。下部電極32は、支持体34の空間部35に面している。本実施形態では、圧電膜31は下部電極32の表面上および支持体34の表面上に形成されている。
【0087】
このように構成されたBAW共振器30では、上部電極33と下部電極32との間に電圧を印加すると、逆圧電効果によって圧電膜31が図9中の矢印で示す膜厚方向に伸縮振動する。正弦波状の電圧波形を印加した場合、この伸縮振動も正弦波状の振動波形となる。その周波数が機械振動の共振周波数と一致すると、上部電極33と下部電極32との間のインピーダンスが大きく変化する。これによって、本実施形態のBAW共振器30は、電気的な共振子となる。この共振子を複数用いて、複数の共振子を回路的に接続することで、フィルタ動作が可能となる。
【0088】
本実施形態によれば、圧電膜31として第1実施形態のScAlN膜13が用いられている。第1実施形態での説明の通り、ScAlN膜13は、ScAlNの結晶性が高いので、圧電性が高い。このため、フィルタの帯域を広くすることができる。
【0089】
なお、本実施形態のBAW共振器30では、支持体34は、空間部35を有している。しかしながら、支持体34は、空間部35を有していなくてもよい。この場合、BAW共振器30は、下部電極32と支持体34との間に、音響多層膜を備えていればよい。
【0090】
また、本実施形態のBAW共振器30では、第1実施形態の圧電膜積層体10が用いられている。しかし、第3実施形態の圧電膜積層体10Aが用いられてもよい。この場合、導電性のアモルファス膜14が単独で下部電極32に用いられる。または、導電性のアモルファス膜14とアモルファス膜14の下面に接する金属膜とが、下部電極32に用いられる。同様に、本実施形態のBAW共振器30に、第4実施形態の圧電膜積層体10Bが用いられてもよい。この場合、金属膜15および導電性のアモルファス膜16が、下部電極32に用いられる。
【0091】
(第7実施形態)
図10に示す本実施形態のSAWデバイス40は、第1実施形態の圧電膜積層体10を用いたものである。SAWは、Surface Acoustic Wave(すなわち、表面弾性波)の略称である。
【0092】
SAWデバイス40は、基板41と、圧電膜42と、櫛歯電極43とを備える。基板41は、Siによって構成されている。圧電膜42として、第1実施形態の圧電膜積層体10が用いられている。圧電膜42は、基板41の表面上に設けられている。櫛歯電極43は、圧電膜42の表面上に設けられている。櫛歯電極43は、圧電膜42にSAWを励振させる、または、圧電膜42を伝搬するSAWを受信する。櫛歯電極43は、Moによって構成されている。SAWデバイス40としては、SAW共振子、SAWフィルタ等がある。
【0093】
図示しないが、SAW共振子の例として、1ポート型のSAW共振子がある。このSAW共振子では、圧電膜42の表面において、櫛歯電極43の両側のそれぞれに反射器が配置される。このSAW共振子では、櫛歯電極43で励振されたSAWが両反射器で反射されることで、定常波が発生する。これにより、共振子が実現される。
【0094】
また、図示しないが、SAWデバイスの他の例として、トランスバーサルSAWフィルタがある。このSAWフィルタでは、櫛歯電極43は、入力用電極と出力用電極とを含む。入力用電極により励振されたSAWは、圧電膜42の表面に沿って伝搬し、出力用電極により検出される。これにより、特定の周波数帯の電気信号を取り出すことができる。本実施形態によれば、圧電膜42として第1実施形態の圧電膜積層体10が用いられている。圧電膜積層体10が備えるScAlN膜13は、ScAlNの結晶性が高いので、圧電性が高い。このため、フィルタの帯域を広くすることができる。
【0095】
なお、基板41、櫛歯電極43のそれぞれは、上記した材料とは別の材料によって構成されてもよい。また、圧電膜42として、第3実施形態の圧電膜積層体10Aまたは第4実施形態の圧電膜積層体10Bが用いられてもよい。
【0096】
(第8実施形態)
図11に示す本実施形態のMEMS共振器50は、第1実施形態の圧電膜積層体10を用いたものである。MEMSは、Micro Electro Mechanical Systems(すなわち、微小な電気機械システム)の略称である。
【0097】
MEMS共振器50は、3層構造体51と、支持体52とを備える。3層構造体51は、圧電膜53と、下部電極54と、上部電極55とを含む。
【0098】
圧電膜53として、第1実施形態のScAlN膜13が用いられる。下部電極54として、第1実施形態の金属膜11およびアモルファス膜12が用いられる。上部電極55は、圧電膜53の上面に接して形成されている。下部電極54および上部電極55は、圧電膜53に交流電界を印加して圧電膜53の面内方向に圧電膜53を伸縮させる電極である。
【0099】
支持体52は、空間部56を有する。支持体52は、空間部56の上側で3層構造体51が振動可能な状態で、3層構造体51を支持する。本実施形態では、3層構造体51のうち一方向の一方側の端部が支持体52に固定され、3層構造体51のうち一方向の他方側の端部が自由な状態である片持ち梁構造となっている。支持体52は、基板57と、絶縁膜58とを含む。基板57は、Siによって構成されている。絶縁膜58は、基板57の表面上に形成されている。絶縁膜58は、Si酸化膜である。絶縁膜58の表面上に、下部電極54が形成されている。
【0100】
下部電極54の厚さは、上部電極55と圧電膜53の総厚と同等以上である。このため、3層構造体51のたわみ変形における中立線は下部電極54内にある。上部電極55と下部電極54との間に電圧を印加すると、逆圧電効果によって圧電膜53が膜の面内方向に伸縮する。すると、3層構造体51の全体は、たわみ変形をする。正弦波状の電圧波形を印加した場合、このたわみ変形も正弦波状の振動となる。その周波数がたわみ振動の共振周波数と一致すると、上部電極55と下部電極54との間のインピーダンスが大きく変化する。これによって、電気的な共振子となる。この共振子を用いて、演算回路などの動作に必要な基準周波数を発生させることができる。
【0101】
本実施形態によれば、圧電膜53として第1実施形態のScAlN膜13が用いられている。第1実施形態での説明の通り、ScAlN膜13は、ScAlNの結晶性が高いので、圧電性が高い。このため、特性を向上させることができる。
【0102】
なお、基板57が絶縁体であれば、絶縁膜58が形成されていなくてもよい。また、本実施形態のMEMS共振器50では、第1実施形態の圧電膜積層体10が用いられている。しかし、第3実施形態の圧電膜積層体10Aが用いられてもよい。この場合、導電性のアモルファス膜14が単独で下部電極54に用いられる。または、導電性のアモルファス膜14とアモルファス膜14の下面に接する金属膜とが、下部電極54に用いられる。同様に、本実施形態のMEMS共振器50に、第4実施形態の圧電膜積層体10Bが用いられてもよい。この場合、金属膜15および導電性のアモルファス膜16が、下部電極54に用いられる。
【0103】
(他の実施形態)
(1)第1~第4実施形態の圧電膜積層体10、10A、10Bは、ScAlN膜13を備えるものである。しかし、圧電膜積層体10、10A、10Bが、ScAlN膜13に替えて、AlN、ZnO等のウルツァイト系材料で構成された膜を備える場合においても、第1実施形態と同じ効果が得られる可能性がある。
【0104】
(2)本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した範囲内において適宜変更が可能であり、様々な変形例や均等範囲内の変形をも包含する。また、上記各実施形態は、互いに無関係なものではなく、組み合わせが明らかに不可な場合を除き、適宜組み合わせが可能である。また、上記各実施形態において、実施形態を構成する要素は、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必ずしも必須のものではないことは言うまでもない。また、上記各実施形態において、実施形態の構成要素の個数、数値、量、範囲等の数値が言及されている場合、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに特定の数に限定される場合等を除き、その特定の数に限定されるものではない。また、上記各実施形態において、構成要素等の材質、形状、位置関係等に言及するときは、特に明示した場合および原理的に特定の材質、形状、位置関係等に限定される場合等を除き、その材質、形状、位置関係等に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0105】
10 圧電膜積層体
11 金属膜
12 絶縁性のアモルファス膜
13 ScAlN膜
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11