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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023042861
(43)【公開日】2023-03-28
(54)【発明の名称】物体認識装置
(51)【国際特許分類】
   G01S 17/66 20060101AFI20230320BHJP
   G01S 13/66 20060101ALI20230320BHJP
【FI】
G01S17/66
G01S13/66
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021150255
(22)【出願日】2021-09-15
(71)【出願人】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】清水 辰吾
(72)【発明者】
【氏名】楠本 哲也
(72)【発明者】
【氏名】米田 雅樹
(72)【発明者】
【氏名】小川 高志
【テーマコード(参考)】
5J070
5J084
【Fターム(参考)】
5J070AC01
5J070AC20
5J070AE01
5J070AE09
5J070AE13
5J070AF03
5J070AK13
5J070BB06
5J070BB16
5J070BD08
5J084AA04
5J084AA20
5J084AB01
5J084AB07
5J084AB12
5J084AB14
5J084AC02
5J084AD03
5J084AD12
5J084EA23
(57)【要約】
【課題】ノイズを物体と誤認識することを抑制しつつ、微弱な反射信号から物体を早期に認識することが可能な物体認識装置を提供する。
【解決手段】物体認識装置は、物標センサと、追跡部S10,S20と、検知確率算出部S30と、存在確率算出部S40と、認識部S50,S60と、を備える。検知確率算出部は、反射強度が強いほど検知確率を高く算出する。存在確率算出部は、算出された検知確率を用いて、反射位置の観測値に対応する物体の存在確率を算出する。認識部は、算出された存在確率が所定値以上であることを条件にして、追跡中の物標を物体と認識する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
周辺へ捜査波を送信して、前記捜査波が物標に反射して生じた反射波を受信し、受信した前記反射波に基づいて、前記物標の反射位置の観測値と反射強度の観測値とを周期的に繰り返し取得するように構成された物標センサ(10)と、
前記物標センサにより取得された前記反射位置の観測値と、前回の処理サイクルにおいて推定された少なくとも前記反射位置を含む前記物標の状態量とに基づいて、今回の処理サイクルにおける前記物標の状態量を逐次的に推定して、前記物標を追跡するように構成された追跡部(20,S10,S20,S100,S110,S200,S210,S300,S310,S400,S410,S600,S610)と、
前回の処理サイクルにおいて取得された前記反射強度の観測値又は前記物標の状態量に含まれる前記反射強度に基づいて、今回の処理サイクルにおける前記物標の検知確率を算出するように構成された検知確率算出部であって、前記反射強度が強いほど前記検知確率を高く算出するように構成された検知確率算出部(20,S30,S120,S220,S320,S450,S620)と、
前記検知確率算出部により算出された前記検知確率を用いて、今回の処理サイクルにおいて、前記反射位置の観測値に対する物標の存在確率を算出するように構成された存在確率算出部(20,S40,S130,S250,S360,S460,S650)と、
前記存在確率算出部により算出された前記存在確率が所定値以上であることを条件にして、前記追跡部により追跡中の前記物標を、物体を示す物標として認識するように構成された認識部(20,S50,S60,S260,S270,S370,S380,S480,S490,S660,S670)と、を備える、
物体認識装置。
【請求項2】
前記物標の状態量は、前記反射位置と前記反射強度とを含み、
前記追跡部は、前記反射位置の観測値及び前記反射強度の観測値と、前回の処理サイクルにおいて推定された前記物標の状態量とに基づいて、今回の処理サイクルにおける前記物標の状態量を逐次的に推定するように構成されており、
前記検知確率算出部は、前記反射強度の観測値に基づいて、前記検知確率を算出するように構成されている、
請求項1に記載の物体認識装置。
【請求項3】
前記存在確率算出部は、ランダム有限集合を用いて前記存在確率を算出するように構成されている、
請求項1又は2に記載の物体認識装置。
【請求項4】
前記検知確率算出部は、前記反射強度の分布をガウス分布と近似し、前記ガウス分布に近似した前記反射強度の分布において強度閾値を超える比率に基づいて、前記検知確率を算出するように構成されている、
請求項1~3のいずれか1項に記載の物体認識装置。
【請求項5】
オクル―ジョンが発生する発生領域を推定する領域推定部(20,S230,S340)を更に備え、
前記検知確率算出部は、前記領域推定部により推定された発生領域における前記検知確率を低下させるように構成されている、
請求項1~4のいずれか1項に記載の物体認識装置。
【請求項6】
前記追跡部は、前記反射強度の観測値と前記物標の状態量に含まれる前記反射強度と、の差分がしきい値よりも大きい場合に、前記反射位置の観測値及び前記反射強度の観測値と前前回の処理サイクルにおいて推定された記物標の状態量とを関連付けないように構成されている、
請求項2に記載の物体認識装置。
【請求項7】
前記検知確率算出部は、環境センサから悪環境情報を取得した場合に、前記検知確率を低下させるように構成されている、
請求項1~6のいずれか1項に記載の物体認識装置。
【請求項8】
前記物体認識装置は、自動車に搭載されている、
請求項1~7のいずれか1項に記載の物体認識装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、物体を認識する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載の物標検出装置は、所定期間連続して検知され反射点を物体と認識し、所定期間連続して検知されなかった反射点を霧や排気ガス等の浮遊物と判定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014-92434号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
遠方に存在する物体からの反射信号は微弱なため、遠方に存在する物体の検知は不安定になり、遠方に存在する物体は所定期間連続して検知されにくい。そのため、上記物標検出装置では、遠方に存在する物体の認識が遅れる可能性がある。
【0005】
本開示の1つの局面は、ノイズを物体と誤認識することを抑制しつつ、微弱な反射信号から物体を早期に認識することが可能な物体認識装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の1つの局面の物体認識装置は、物標センサ(10)と、追跡部(20,S10,S20,S100,S110,S200,S210,S300,S310,S400,S410,S600,S610)と、検知確率算出部(20,S30,S120,S220,S320,S450,S620)と、存在確率算出部(20,S40,S130,S250,S360,S460,S650)と、認識部(20,S50,S60,S260,S270,S370,S380,S480,S490,S660,S670)と、を備える。物標センサは、周辺へ捜査波を送信して、捜査波が物標に反射して生じた反射波を受信し、受信した反射波に基づいて、物標の反射位置の観測値と反射強度の観測値とを周期的に繰り返し取得するように構成される。追跡部は、物標センサにより取得された反射位置の観測値と、前回の処理サイクルにおいて推定された少なくとも反射位置を含む物標の状態量とに基づいて、今回の処理サイクルにおける物標の状態量を逐次的に推定して、物標を追跡するように構成される。検知確率算出部は、前回の処理サイクルにおいて取得された反射強度の観測値又は物標の状態量に含まれる反射強度に基づいて、今回の処理サイクルにおける物標の検知確率を算出するように構成される。検知確率算出部は、反射強度が強いほど検知確率を高く算出するように構成される。存在確率算出部は、検知確率算出部により算出された検知確率を用いて、今回の処理サイクルにおいて、反射位置の観測値に対する物標の存在確率を算出するように構成される。認識部は、存在確率算出部により算出された存在確率が所定値以上であることを条件にして、追跡部により追跡中の物標を物体を示す物標として認識するように構成される。
【0007】
物標の検知の有無は、主に熱雑音によって左右され、反射強度と反射位置に物標が存在する場合に検知される確率(すなわち、検知確率)との相関関係は定式化できるとの知見が得られた。よって、本開示の1つの局面の物体認識装置は、反射強度に応じた検知確率が算出される。そして、検知確率を用いて、反射位置に物標が存在する確率(すなわち、存在確率)が算出され、存在確率が所定値以上の場合に、追跡中の物標が認識される。したがって、ノイズを物体と誤認識することを抑制しつつ、微弱な反射信号から物体を示す物標を早期に認識することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】第1実施形態に係る物体認識装置の概略構成を示すブロック図である。
図2】第1実施形態に係る物体認識処理の手順を示すフローチャートである。
図3】第1実施形態に係る検知確率の分布を算出するための反射強度の分布示す図である。
図4】第2実施形態に係る物体認識処理の手順を示すフローチャートである。
図5】第3実施形態に係る物体認識処理の手順を示すフローチャートである。
図6】第4実施形態に係る物体認識処理の手順を示すフローチャートである。
図7】第5実施形態に係る物体認識処理の手順を示すフローチャートである。
図8】第6実施形態に係る物体認識処理の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら、本開示の実施形態を説明する。
(1.第1実施形態)
<1-1.構成>
本実施形態に係る物体認識装置30の構成について、図1を参照して説明する。
【0010】
物体認識装置30は、物標センサ10と、処理装置20と、を備える。本実施形態では、物体認識装置30は、自動車に搭載されている。
物標センサ10は、周辺へ捜査波を周期的に繰り返し送信して、捜査波が物標に反射して生じた反射波を受信する。そして、物標センサ10は、受信した反射波に基づいて、捜査波の反射位置(すなわち、物標の位置)と、反射波の反射強度とを、周期的に繰り返し取得する。物標センサ10は、例えば、自動車の先方バンパの中央に搭載されている。本実施形態では、物標センサ10により取得された物理量を観測値と称する。
【0011】
本実施形態では、物標センサ10は、捜査波としてレーザ光を放射するレーザレーダである。なお、物標センサ10は、レーザレーダに限らず、捜査波としてミリ波を放射するミリ波レーダでもよい。物標センサ10は、捜査波として電磁波を放射するレーダであればよい。
【0012】
処理装置20は、物標センサ10に接続されており、物標センサ10により取得された少なくとも1つの観測値に基づいて、物標を追跡し、物標を認識する。処理装置20は、CPU21、ROM22、RAM23を備え、CPU21がROM22に記憶されているプログラムを実行することにより、追跡部と、検知確率算出部と、存在確率算出部と、認識部の機能を実現する。
【0013】
追跡部は、物標センサ10により検知された物標を追跡する。詳しくは、追跡部は、今回の処理サイクルにおける物標の観測値と、前回の処理サイクルにおける物標の状態量とを関連付け、関連付けた物標の観測値と物標の状態量とから、今回の処理サイクルにおける物標の状態量を逐次的に推定する。追跡部は、物標の観測値と、その観測値と最も関連性の高い物標の状態量とを関連付ける。
【0014】
捜査波を反射した反射点は、物体以外に、霧や排気ガス等の浮遊物(すなわち、ノイズ)を含む。物体は、前方車両、側壁、ガードレール、落下物、歩行者などの立体物に相当する。処理装置20は、物標センサ10により検知された反射点の中からノイズを除外し、物体を示す反射点を物標と認識する。
【0015】
検知確率算出部は、前回の処理サイクルにおいて取得された物標の反射強度の観測値又は反射強度の状態量に基づいて、今回の処理サイクルにおける物標の検知確率Pを算出する。検知確率Pdは、物標が検知される確率に相当する。
【0016】
存在確率算出部は、算出された検知確率Pを用いて、今回の処理サイクルにおいて、反射位置の観測値ごとに物標の存在確率Vを算出する。存在確率Vは、反射位置の観測値に物標が存在する確率に相当する。
【0017】
認識部は、算出した存在確率Vが確率閾値以上であることを条件として、追跡中の物標を認識する。すなわち、認識部は、存在確率Vが確率閾値値以上であることを条件として、追跡中の物標を、霧や排気ガス等の浮遊物(すなわちノイズ)ではなく、前方車両等の物体を示す物標と確定する。
【0018】
<1-2.処理>
次に、処理装置20が実行する物体認識処理について、図2のフローチャートを参照して説明する。
【0019】
S10では、物標センサ10から反射点ごとの反射強度及び反射位置の観測値を取得する。ここで、各反射点を認識前の物標と見なす。認識前の物標には、物体を示す物標以外に、浮遊物などのノイズが含まれる。
【0020】
続いて、S20では、物標の状態量を推定する。すなわち、物標ごとに、今回の処理サイクルで取得した物標の観測値と、前回の処理サイクルで推定した物標の状態量のうち当該観測値と関連性が高い状態量とを関連付ける。そして、関連付けた物標の観測値と物標の状態量とにカルマンフィルタ等を適用して、今回の処理サイクルにおける物標の状態量を推定する。物標の観測値及び状態量は、少なくとも反射位置を含む。物標の観測値及び状態量は、反射位置に加えて、反射強度を含んでいてもよい。
【0021】
続いて、S30では、物標ごとに、前回の処理サイクルにおいて取得された反射強度の観測値から、今回の処理サイクルにおける物標の検知確率Pdを算出する。発明者の検討により、物標の検知の有無は、主に熱雑音によって左右され、反射強度と検知確率との相関関係は定式化できるとの知見が得られた。
【0022】
例えば、前方車両のような物体が物標センサ10の近くに存在する場合、物体の反射強度は比較的強くなり、物体は連続して検知されやすい。一方、前方車両のような物体が物標センサ10から遠くに存在する場合、物体の反射強度は比較的弱くなり、熱雑音等のノイズによって、物体は連続して検知されにくい。
【0023】
そこで、検知確率算出部は、反射強度と検知確率Pdとの相関関係を定式化する。具体的には、検知確率算出部は、前回の処理サイクルにおける反射強度が強いほど、検知確率Pを高く算出する。
【0024】
検知確率算出部は、反射強度の分布をガウス分布に近似する。具体的には、図3に示すように、前回の処理サイクルで得られた反射強度と同じ値を、今回の処理サイクルで得られる反射強度の期待値とし、反射強度の分布を、期待値を中心とした所定の誤差範囲を設定する。近似するガウス分布は、期待値を中央値として、所定の誤差範囲内に広がる分布である。
【0025】
そして、検知確率算出部は、ガウス分布において設定された強度閾値を超える比率に基づいて、検知確率を算出する。すなわち、検知確率算出部は、ガウス分布における第1面積S1と、第2面積S2とから、検知確率Pを算出する。第1面積S1は、ガウス分布において、強度閾値以上の値が分布する面積に相当する。第2面積S2は、ガウス分布において、強度閾値未満の値が分布する面積に相当する。強度閾値は、物標の反射強度を熱雑音等のノイズと分別して検知するための値である。検知確率Pは、P=S1/(S1+S2)の式から算出される。
【0026】
なお、前回の処理サイクルにおいて取得された反射強度の観測値の代わりに、前回の処理サイクルにおいて推定された反射強度の状態量を用いて検知確率Pを算出してもよい。すなわち、前回の処理サイクルにおいて推定された反射強度の状態量が強いほど、物体の検知確率Pを高く算出してもよい。
【0027】
また、反射強度の分布は、ガウス分布以外のレイリー分布などの分布で近似してもよい。また、検知確率算出部は、反射強度の分布を用いないで検知確率Pを算出してもよい。例えば、反射強度と検知確率Pとの関係を表す式を導出し、導出した式を用いて、検知確率Pを算出してもよい。また、検知確率Pと反射強度との対応表を予め用意しておき、用意した対応表を用いて検知確率Pを算出してもよい。
【0028】
続いて、S40では、物標ごとに、S30において算出された今回の処理サイクルにおける検知確率Pを用いて、S10において取得された今回の処理サイクルにおける反射位置の観測値に対応する物体の存在確率Vを算出する。例えば、前回の処理サイクルにおいて算出された存在確率Vと、今回の処理サイクルにおいて算出された検知確率Pとを用いて、(i)今回物標が検知されない場合に物標が存在する確率と、(ii)今回物標が検知された場合に観測値に基づいて更新される確率と、を算出する。
【0029】
(i)は、物標が存在するにもかかわらず検知されない場合を考慮した物標の存在確率に相当する。(ii)は、物標が存在して得られる観測値に基づいて更新する存在確率に相当する。(i)と(ii)とを足し合わせて、今回の処理サイクルにおける存在確率Vを算出する。存在確率Vの確率の算出手法については、特に限定されない。
【0030】
これにより、反射強度と反射位置に応じた物標の存在確率Vが算出される。例えば、遠方の物体からの反射波の反射強度は比較的弱い。そのため、遠方の物体は、処理サイクル毎に検知されたり検知されなかったりする。したがって、所定期間連続して検知されたことを条件として、物体と浮遊物とを分別して物体を認識する場合、遠方の物体の認識が遅れる可能性がある。これに対して本実施形態では、検知されていた物体が検知されなくなっても、存在確率Vはリセットされず維持されるため、遠方の物体が早期に認識される。
【0031】
続いて、S50では、物標ごとに、S40において算出した存在確率Vが、予め設定された確率閾値以上であるか否か判定する。存在確率Vが確率閾値以上であると判定した場合は、S60の処理へ進み、存在確率Vが確率閾値未満であると判定した場合は、S70の処理へ進む。
【0032】
S60では、存在確率Vが確率閾値以上であると判定された物標を、物体を示す物標として認識する。
S70では、存在確率Vが確率閾値未満であると判定された物標を、物体を示す物標と認識しない。
【0033】
<1-3.効果>
以上詳述した第1実施形態によれば、以下の効果を奏する。
(1)反射強度に応じた検知確率Pが算出される。そして、検知確率Pを用いて、(i)物標が存在するにもかかわらず検知されない場合、及び(ii)物標が存在しないにも関わらず誤検知される場合を考慮した物標の存在確率Vが算出される。そして、存在確率Vが所定値以上の場合に、追跡中の認識前の物標が物体を示す物標と認識される。したがって、ノイズを物体と誤認識することを抑制しつつ、微弱な反射信号から物体を早期に認識することができる。
【0034】
(2)反射強度の観測値に基づいて検知確率Pを算出することにより、存在確率Vの精度を高めることができる。
(3)熱雑音はガウス分布に従っているため、反射強度の分布をガウス分布と近似することで、熱雑音から物体を示す微弱な反射信号を抽出して、物体を早期に認識することができる。
【0035】
(2.第2実施形態)
<2-1.第1実施形態との相違点>
第2実施形態は、基本的な構成は第1実施形態と同様であるため、相違点について以下に説明する。なお、第1実施形態と同じ符号は、同一の構成を示すものであって、先行する説明を参照する。
【0036】
第2実施形態では、ランダム有限集合(以下ではRFSと称する)理論に基づく状態推定フィルタにより物標追跡処理(以下、RFSトラッキングと称する)を行う。RFS理論に基づく状態推定フィルタとしては、Probability Hypothesis Density (PHD)フィルタ、Cardinalized Probability Hypothesis Density (CPHD)フィルタ、Cardinality Balanced Multi-Bernoulli (CBMeMBer)フィルタ、Generalized Labeled Multi-Bernoulli (GLMB)フィルタ、Labeled Multi-Bernoulli(LMB)フィルタ、Poisson Multi-Bernoulli(PMB)フィルタ、Poisson Multi-Bernoulli Mixture(PMBM)フィルタなどが挙げられる。
【0037】
<2-2.処理>
次に、第2実施形態に係る処理装置20が実行する物体認識処理について、図4のフローチャートを参照して説明する。
【0038】
S100~S120では、RFSトラッキングにより、S10~S30と同様の処理を実行する。
S130では、存在確率算出部は、反射位置と検知確率Pdから、RFSトラッキングにより、存在確率Vkを算出する。例えば、存在確率算出部は、PHDフィルタを用いて、存在確率Vkを算出する。具体的には、次の式(1)及び(2)に基づいて、存在確率Vkを算出する。ここで算出する存在確率Vkは、単位領域当たりの物体の数の期待値、すなわち強度に相当し、値が大きいほど、物体が存在する確率が高い。
【0039】
【数1】
【0040】
【数2】
【0041】
式(1)は、前回の処理サイクルにおける存在確率Vk-1(xk-1|z1:k-1)から、今回の処理サイクルにおける存在確率の予測値Vk|k-1(x|z1:k-1)を算出する。xは状態量、zは観測量を表す。kは、時刻を表す。式(1)の右辺第1項は、今回の処理サイクルにおいて、前回の処理サイクルにおける単位領域当たりの物体の分布がどう変化しているかの予測に相当し、生存確率×伝搬関数×前回の存在確率の積分に相当する。生存確率は、物標が消失しない確率である。式(1)の右辺第2項は、前回の処理サイクルにおける単位領域当たりの物体の分布からの分岐に相当し、式(1)の右辺第3項は、時刻kで生起する単位領域当たりの物体の分布に相当する。
【0042】
式(2)は、式(1)で算出した予測値Vk|k-1(x|z1:k-1)と検知確率Pdとに基づいて、今回の処理サイクルにおける存在確率V(x|z1:k)を算出する。
【0043】
式(2)の右辺第1項は、(i)今回の処理サイクルにおいて物標が検知されない場合における単位領域当たりの物体の数の期待値に相当する。式(2)の右辺第2項は、(ii)物標が検知された場合における単位領域当たりの物体の数の期待値に相当する。K(z)はノイズを表す。
続いて、S140~S160では、S50~S70と同様の処理を実行する。
【0044】
<2-3.効果>
以上詳述した第2実施形態によれば、前述した第1実施形態の効果(1)~(3)を奏し、さらに、以下の効果を奏する。
【0045】
(4)理論の裏付けが取れているRSSを用いて存在確率Vを算出することにより、反射強度に応じて算出した存在確率Vの信頼性を高めることができる。
【0046】
(3.第3実施形態)
<3-1.第1実施形態との相違点>
第3実施形態は、基本的な構成は第1実施形態と同様であるため、相違点について以下に説明する。なお、第1実施形態と同じ符号は、同一の構成を示すものであって、先行する説明を参照する。
【0047】
第3実施形態では、処理装置20は、領域推定部の機能を有する点で、第1実施形態と相違する。領域推定部は、オクル―ジョンが発生する発生領域を推定する。検知確率算出部は、推定された発生領域の検知確率を補正する。
【0048】
<3-2.処理>
次に、第3実施形態に係る処理装置20が実行する物体認識処理について、図5のフローチャートを参照して説明する。
【0049】
S200~S220では、S10~S30と同様の処理を実行する。
S230では、領域推定部が、オクル―ジョンが発生する発生領域を推定する。詳しくは、S200で取得した複数の反射位置のうち、他の反射位置の後方に存在する反射位置を特定し、その反射位置が存在する領域を発生領域とする。
【0050】
続いてS240では、S220において算出した検知確率のうち、S230において推定した発生領域における検知確率を低下させる。
続いてS250~S280では、S40~S70と同様の処理を実行する。
【0051】
<3-3.効果>
以上詳述した第3実施形態によれば、前述した第1実施形態の効果(1)~(3)を奏し、さらに、以下の効果を奏する。
【0052】
(5)オクル―ジョンの発生領域における検知確率Pを低下させることにより、検知確率Pの精度を高めることができる。ひいては、存在確率Vの精度を高めることができる。
【0053】
(4.第4実施形態)
<4-1.第1実施形態との相違点>
第4実施形態は、基本的な構成は第3実施形態と同様であるため、相違点について以下に説明する。なお、第3実施形態と同じ符号は、同一の構成を示すものであって、先行する説明を参照する。
【0054】
前述した第3実施形態では、処理装置20は、物標センサ10により観測された反射位置に基づいて、オクル―ジョンの発生領域を推定した。これに対し、第4実施形態では、処理装置20は、物標センサ10と異なる環境センサ40の観測情報に基づいて、オクル―ジョンの発生領域を推定する点で、第3実施形態と相違する。
【0055】
<4-2.処理>
次に、第4実施形態に係る処理装置20が実行する物体認識処理について、図6のフローチャートを参照して説明する。
【0056】
S300~S320では、S200~S220と同様の処理を実行する。
S330では、環境センサ40により観測された観測情報を取得する。環境センサ40は、物標センサ10の周辺の環境を観測するセンサである。環境センサ40は、例えば、自動車の前方を撮影する車載カメラである。観測情報は、例えば、車載カメラにより撮影された撮影画像である。
【0057】
S340では、S330において取得した観測情報に基づいて、オクル―ジョンの発生領域を推定する。観測情報が撮影画像の場合には、画像上で物標が他の物標の背後に隠れている領域を、オクル―ジョンの発生領域と推定する。
続いて、S350~S390では、S240~S280と同様の処理を実行する。
【0058】
<4-3.効果>
以上詳述した第4実施形態によれば、前述した第4実施形態の効果(1)~(3)、(5)と同様の効果を奏する。
【0059】
(5.第5実施形態)
<5-1.第1実施形態との相違点>
第5実施形態は、基本的な構成は第1実施形態と同様であるため、相違点について以下に説明する。なお、第1実施形態と同じ符号は、同一の構成を示すものであって、先行する説明を参照する。
【0060】
第5実施形態では、追跡部が、反射強度の観測値と状態量との差分を算出し、差分が差分閾値以上の場合には、前回の処理サイクルにける存在確率を保持する点で、第1実施形態と相違する。
【0061】
<5-2.処理>
次に、第5実施形態に係る処理装置20が実行する物体認識処理について、図7のフローチャートを参照して説明する。
【0062】
S400では、S10と同様の処理を実行する。
続いて、S410では、前回の処理サイクルにおいて推定した各物標の反射強度の状態量を取得する。
【0063】
続いて、S420では、物標ごとに、S400において取得した反射強度の観測値と、その観測値と最も関連性が高い前回の反射強度の状態量との差分を算出する。
【0064】
続いて、S430では、物標ごとに、S420において算出した差分が、予め設定された差分閾値以下か否か判定する。S430において、差分が差分閾値以下であると判定した場合は、S440の処理へ進む。S440~S460では、S20~S40と同様の処理を実行する。
【0065】
一方、S430において、差分が差分閾値よりも大きいと判定した場合は、S470の処理へ進む。S470では、前回の処理サイクルにおいて算出した存在確率Vを保持する。すなわち、差分が差分閾値よりも大きい場合には、反射強度の観測値と状態量とを関連付けず、存在確率Vを算出しない。
続いて、S480~S500では、S50~S70と同様の処理を実行する。
【0066】
<5-3.効果>
以上詳述した第5実施形態によれば、前述した第1実施形態の効果(1)~(3)を奏し、さらに、以下の効果を奏する。
【0067】
(6)差分が差分閾値よりも大きい場合に、観測値と状態量とを関連付けないようにすることにより、異なる物標の観測値と状態量とを関連付けて、検知確率Pを算出することを抑制できる。ひいては、検知確率Pの精度を高め、存在確率Vの精度を高めることができる。
【0068】
(6.第6実施形態)
<6-1.第1実施形態との相違点>
第6実施形態は、基本的な構成は第1実施形態と同様であるため、相違点について以下に説明する。なお、第1実施形態と同じ符号は、同一の構成を示すものであって、先行する説明を参照する。
【0069】
第6実施形態では、処理装置20は、環境センサ40から環境情報を取得し、環境情報に悪環境情報が含まれている場合には、検知確率を補正する点で、第1実施形態と相違する。
【0070】
<6-2.処理>
次に、第6実施形態に係る処理装置20が実行する物体認識処理について、図8のフローチャートを参照して説明する。
【0071】
S600~S620では、S10~S30と同様の処理を実行する。
S630では、環境センサ40により観測された観測情報を取得する。環境センサ40は、物標センサ10の周辺の環境を観測するセンサである。環境センサ40は、例えば、自動車の前方を撮影する車載カメラである。観測情報は、例えば、車載カメラにより撮影された撮影画像である。
【0072】
続いて、S640は、S630において取得した観測情報に悪環境情報が含まれている場合に、S620において算出した各物標の検知確率を低下させる。悪環境情報は、物標センサ10の検知性能を低下させる環境情報に相当し、例えば、雨天情報などである。
続いて、S650~S680では、S40~S70と同様の処理を実行する。
【0073】
<6-3.効果>
以上詳述した第6実施形態によれば、前述した第1実施形態の効果(1)~(3)を奏し、さらに、以下の効果を奏する。
【0074】
(7)物標センサ10の周辺環境が物標の検知状況を悪化させる環境である場合に、検知確率Pを低下させることにより、検知確率Pの精度を高めることができる。ひいては、存在確率Vの精度を高めることができる。
【0075】
(7.他の実施形態)
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示は上述の実施形態に限定されることなく、種々変形して実施することができる。
【0076】
(a)上記実施形態における1つの構成要素が有する複数の機能を、複数の構成要素によって実現したり、1つの構成要素が有する1つの機能を、複数の構成要素によって実現したりしてもよい。また、複数の構成要素が有する複数の機能を、1つの構成要素によって実現したり、複数の構成要素によって実現される1つの機能を、1つの構成要素によって実現したりしてもよい。また、上記実施形態の構成の一部を省略してもよい。また、上記実施形態の構成の少なくとも一部を、他の上記実施形態の構成に対して付加又は置換してもよい。
【0077】
(b)上述した物体認識装置の他、当該物体認識装置を構成要素とするシステム、当該物体認識装置としてコンピュータを機能させるためのプログラム、このプログラムを記録した半導体メモリ等の非遷移的実態的記録媒体、物体認識方法など、種々の形態で本開示を実現することもできる。
【符号の説明】
【0078】
10…物標センサ、20…処理装置、30…物体認識装置。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8