(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023004287
(43)【公開日】2023-01-17
(54)【発明の名称】火の粉検知方法及び火の粉検知シート
(51)【国際特許分類】
G08B 17/06 20060101AFI20230110BHJP
E04B 1/94 20060101ALI20230110BHJP
【FI】
G08B17/06 Z
E04B1/94 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021105885
(22)【出願日】2021-06-25
(71)【出願人】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】池上 雅之
【テーマコード(参考)】
2E001
5C085
【Fターム(参考)】
2E001DE00
2E001FA10
2E001GA24
2E001HD11
5C085AA20
5C085BA17
5C085BA19
5C085BA23
5C085CA30
5C085DA11
5C085FA20
(57)【要約】 (修正有)
【課題】簡単な構成で火の粉の飛来を検知することができる火の粉検知方法及び火の粉検知シートを提供する。
【解決手段】検知シート10は、シート状の検知部材11及び難燃性の防護部材15を備える。検知部材11は、火の粉の熱によって溶けて孔が形成される第1表面11aと、第1表面11aの反対側の第2表面11bとの間に空間11sを設け、合成樹脂で形成される。火の粉の飛来によって検知部材11に形成された孔により空間11sの状態変化を検知する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
火の粉の飛来を検知する火の粉検知方法であって、
前記火の粉の熱によって溶けて孔が形成可能な合成樹脂でシート状に形成され、内部に空間を設けた検知部材を配置し、
前記火の粉の飛来によって前記検知部材に形成された孔により前記空間の状態変化を検知することを特徴とする火の粉検知方法。
【請求項2】
前記火の粉から保護する保護対象部材側に、不燃性又は難燃性のシート状の防護部材を配置した後、前記防護部材の外側に前記検知部材を配置することを特徴とする請求項1に記載の火の粉検知方法。
【請求項3】
火の粉の飛来を検知する検知シートであって、
前記火の粉の熱によって溶けて孔が形成可能な合成樹脂でシート状に形成され、内部に空間を設け、前記孔の形成により前記空間の状態が変化する検知部材を備えたことを特徴とする火の粉検知シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、火気使用作業等において発生する火の粉を検知する火の粉検知方法及び火の粉検知シートに関する。
【背景技術】
【0002】
工事現場においては、溶接や溶断等の火気使用作業において、作業中に発生した火花等の火の粉が飛散することがある。
一方、工事現場では、建物の断熱性能確保のため断熱材を大量に使用する。この断熱材は可燃物であるため、飛散した火の粉が断熱材の上に落ちると、火災につながることがある。そこで、火災防止のため断熱材に火の粉が落ちないように配慮している。しかし、まれに思わぬところまで火の粉が飛散することがあるため、火災防止には火の粉の検知が重要であった。
そこで、撮影画像を用いて、火の粉を検知する火の粉検知システムが検討されている(例えば、特許文献1参照。)。この文献に記載の火の粉検知システムでは、火の粉の飛散軌跡が線形状で表示されるシャッター速度で撮影された撮影画像と、先行する撮影画像とは異なる部分を抽出した差分抽出画像を生成する。そして、差分抽出画像において、燃焼色の線形状を示す線形状領域を抽出することにより、火の粉を検知する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、カメラで撮影する場合、撮影範囲や撮影条件を的確に設定していないと、火の粉の飛散を把握することは難しい。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決する火の粉検知方法は、火の粉の飛来を検知する火の粉検知方法であって、前記火の粉の熱によって溶けて孔が形成可能な合成樹脂でシート状に形成され、内部に空間を設けた検知部材を配置し、前記火の粉の飛来によって前記検知部材に形成された孔により前記空間の状態変化を検知する。
【0006】
また、上記課題を解決する火の粉検知シートは、火の粉の飛来を検知する検知シートであって、前記火の粉の熱によって溶けて孔が形成可能な合成樹脂でシート状に形成され、内部に空間を設け、前記孔の形成により前記空間の状態が変化する検知部材を備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、簡単な構成で火の粉の飛来を検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施形態における火の粉検知シートの構成を説明する説明図である。
【
図3】実施形態における火の粉検知シートを配置した正面断面図である。
【
図4】実施形態において火の粉検知シートに火の粉が飛来した状態を示す斜視図である。
【
図5】第1変更例における火の粉検知シートの構成を説明する説明図である。
【
図6】第2変更例における火の粉検知シートの構成を説明する説明図である。
【
図7】第2変更例における火の粉検知シートに火の粉が飛来した状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、
図1~
図4を用いて、本開示の火の粉検知方法及び火の粉検知シートを具体化した一実施形態を説明する。
図1に示すように、本実施形態の検知シート10は、シート形状の検知部材11と防護部材15とを張り合わせて構成される。この検知シート10は、例えば縦横が数メートルの長方形状であり、厚みは数cm程度であるが、説明のために、図では厚みを大きく示している。
【0010】
検知部材11は、火の粉の温度で溶けるビニール等の合成樹脂で構成される。この検知部材11は、第1表面11aと第2表面11bとの間に、全面に渡って空間11sを形成している。検知部材11の角部には、空間11sに連通する取出部18が設けられている。空間11sは、細長い空間が折り返されたような形状を有した密閉空間である。
【0011】
このため、
図2に示すように、空間11sは、2-2線において、検知シート10の横断面において複数の空間が並んだ形状を有している。更に、この空間11sには、図示しない空気挿入弁を介して、外部の大気圧よりも高い圧力で空気が充填され、空間11sは膨らんだ形状を有する。
【0012】
検知部材11には、第2表面11b側に防護部材15が張り合わされている。この防護部材15は、難燃性の材料で構成されるシート状の部材である。本実施形態では、防護部材15として、火の粉を通過させ難い材料、例えば、スパッタシートA種(JIS A1323 A種)を用いる。この防護部材15の厚みも、図では大きく示している。
【0013】
図1に示すように、取出部18は、変化検出装置21に接続されている。変化検出装置21は、空間11sの圧力を計測する。この変化検出装置21は、通知装置22に接続されている。変化検出装置21は、計測した圧力により、空間11sの密閉状態の状態変化を検知した場合には、通知装置22に通知を行なう。
【0014】
通知装置22は、管理者の携帯端末25に通知を行なう。このため、通知装置22は、管理者の携帯端末25の通知先であるメールアドレスを記憶している。そして、通知装置22は、変化検出装置21からの圧力変化信号を受信した場合には、記憶しているメールアドレスに、検知シート10に火花が飛来してきた旨を通知する。
【0015】
(火の粉検知シート10を用いた火気使用作業)
次に、
図3及び
図4を参考にして、上述した検知シート10を用いた火気使用作業について説明する。
【0016】
図3に示すように、可燃物が配置されている場所の近くで、溶接や溶断等の火気使用作業を行なう必要がある場合がある。ここでは、このような可燃物として、建物内の床に、仮置きのために積層されている断熱材31を想定する。ここでは、断熱材31を保護対象部材と想定する。
【0017】
この場合、火気使用作業前に、検知シート10を、積層された断熱材31の全体を覆うように、断熱材31の上に載せる。ここでは、検知部材11の第1表面11aを外側で、防護部材15が断熱材31側となるように、検知シート10を配置する。更に、第1表面11aの外側を覆うように、網目を有するネット部材N1(損傷抑制部材)を配置する。このネット部材N1は、第1表面11aの擦れ等により、検知部材11に孔等の損傷を抑制する。
【0018】
図4に示すように、火の粉F1の飛散を注意しながら火気使用作業を行なった場合にも、断熱材31に火の粉F1が飛来することがある。この場合、火の粉F1の熱により、検知部材11の第1表面11aが溶けて、孔11hが形成される。この孔11hを介して、密閉していた空間11sから空気が抜けて、開放された空間11sの圧力が低下する。
【0019】
そして、変化検出装置21は、検知部材11の空間11sの圧力変化を検知し、通知装置22に通知する。通知装置22は、管理者の携帯端末25に、検知シート10において火の粉F1を検知したことを通知する。
【0020】
本実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)本実施形態の検知シート10は、火の粉F1の熱で溶ける材料で構成される検知部材11を備える。これにより、火の粉F1が飛来して検知部材11の第1表面11aに当たると、第1表面11aの一部が溶けて孔11hが形成される。そして、この孔11hにより、密閉されていた空間11sの密閉状態の状態変化を、変化検出装置21で検知し、火の粉F1の飛来を検知することができる。
【0021】
(2)本実施形態の検知シート10は、検知部材11に、難燃性の防護部材15が一体化されている。これにより、断熱材31側が防護部材15となるようにして、断熱材31を検知シート10で覆うことにより、断熱材31を火の粉F1から遮断できる。
【0022】
(3)本実施形態の検知部材11では、細長い空間を折り返した形状の空間11sを全面に渡って形成した。これにより、空間11sに空気を充填しても検知部材11の中央部のみが大きく膨らまずに、全体的に同じ厚みで膨らませることができる。更に、火の粉F1が第1表面11aのどこに当たっても空間11sから圧力変化が生じて、火の粉F1の飛来を検知することができる。
【0023】
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・上記実施形態においては、検知シート10の検知部材11の空間11sに空気を充填し、圧力を用いて密閉した空間11sを形成した。そして、孔11hが形成された場合には、空間11sから空気(気体)が逃げることによる圧力変化に基づいて火の粉F1の飛来を検知した。検知シート10に形成された空間11sの密閉状態の状態変化は、圧力低下に限られず、圧力上昇を検知してもよい。例えば、検知部材の第1表面と第2表面との間に形成した空間に弾性部材(例えばスポンジ)を挿入し、この空間を負圧にする。そして、火の粉F1により孔が形成された場合には、孔を介して検知シート内に空気が流入し、スポンジが検知シートの表面を押し広げる。この圧力変化により、火の粉F1の飛来を検知することができる。
【0024】
また、検知部材の第1表面と第2表面との間に形成した空間における状態変化は、空気を用いて検知する場合に限られず、例えば、窒素等の他の気体を用いて検知してもよい。更に、気体の代わりに液体でもよい。例えば、着色液体を検知部材内に充填してもよい。この場合、水圧変化により検知部材の空間の状態変化を検知してもよいし、画像により着色液体を検出することにより、検知部材の状態変化を検知してもよい。更に、空間に液体を充填した場合、空間の液体によって、火の粉F1の熱を冷却することができる。このため、空間によって充填された液体によって、保護対象部材を火の粉F1から保護することができる。
【0025】
図5に示す検知シート40のように、着色液体を用いる場合には、火の粉F1により検知部材41の第1表面41aに孔41hが形成されると、着色液体が孔41hから流出するので、火の粉F1の飛来箇所も効率的に把握することができる。
【0026】
・上記実施形態においては、検知部材11の空間11s内の圧力変化を検知して、火の粉F1の飛来を検知した。検知方法は、空間11sの状態変化を検知できれば、圧力変化に限定されるものではない。
【0027】
例えば、
図6に示すように、検知シート50の検知部材51には、第1表面51a及び第2表面51bの間に密閉した空間51sが設けられている。空間51s内で、第1表面51aに第1電極51e、第2表面51bに第2電極51fを設けて、両者を非接触にしておく。この電極は、接点スイッチでもメッシュ状であってもよい。そして、第1表面51a及び第2表面51bの間に空間51sの導通状態の変化により、空間51sの状態変化を検知する。
【0028】
その後、
図7に示すように、検知部材51の第1表面51aに、火の粉F1が飛来してきて孔51hが形成されると、空間51sが萎んで、第1電極51e及び第2電極51fが接触する。これにより、導通状態になるため、火の粉F1の飛来を検知することができる。
【0029】
また、メッシュ状の電極(51e,51f)の代わりに、導電性プラスチックで検知部材を構成してもよい。導電性プラスチックは、絶縁性をもつプラスチックに、金属や炭素繊維などの無機導体を練りこんだり、表面に導体の薄膜を形成したりして導電性をもたせた複合材料である。導電性プラスチックで構成した場合、火の粉F1によって表面に孔が形成されて、検知部材の空間の変形が生じる。この変形により、第1表面及び第2表面の間の抵抗値が変化して、火の粉の飛来を検知することができる。
【0030】
・上記実施形態では、検知部材11の空間11sを密閉状態とし、火の粉F1の飛来により孔11hが形成されたことにより、空間11sの密閉状態の状態変化を検知した。空間の状態変化を検知できれば、空間が密閉状態にある必要はない。検知部材の空間が開放状態であっても、孔が形成されて、空間の形状や体積が変化すればよい。例えば、音を用いて空間変化を検知する場合、検知部材の空間の内部にスピーカーやマイクを設置する。そして、スピーカーからの音をマイクで収音して、共鳴周波数を特定する。火の粉F1の飛来による孔が形成されて、空間の状態が変化した場合、共鳴周波数が変化する。この変化によって、火の粉F1の飛来を検知することができる。
【0031】
・上記実施形態の検知シート10では、シート状の検知部材11に1つの空間11sを形成し、この空間11sの圧力変化を変化検出装置21で検知した。これに代えて、検知シートの検知部材に形成される空間を複数の小空間に分割し、各小空間の圧力変化を検出して、検知シート10において火の粉F1の飛来及び飛来箇所を検知してもよい。この場合には、分割した小空間の圧力変化をそれぞれ検知する圧力検知装置を設ける。通知装置は、検知シートにおける各小空間の位置情報と、検出する圧力検知装置の情報とを関連付けて記憶する。そして、通知装置は、圧力検知装置から圧力変化を検知した場合には、その各小空間における位置情報を特定し、この位置情報を管理者に通知してもよい。
【0032】
・上記実施形態においては、検知シート10は、シート状の検知部材11及び防護部材15を備える。検知シート10は、少なくとも検知部材11を備えていればよく、断熱材31等の保護対象物を火の粉から防護する防護部材15は別体であってもよい。この場合、保護対象物の外側を覆うように防護部材を配置し、この防護部材の外側を覆うように、検知部材を配置する。これにより、防護効果を得ることができる。更に、検知部材の外側(断熱材31とは反対側)に、防護部材を更に配置してもよい。
・上記実施形態では、検知部材11の空間11sは、第1表面11a及び第2表面11bの間に設けた。検知部材の空間の形成方法は、どのような構成でもよい。例えば2枚のシート状部材の周囲を張り合わせて構成してもよいし、6枚のシート状部材を用いて直方体形状になるように構成してもよい。
・上記実施形態では、検知部材11の空間11sの圧力変化は、取出部18を介して接続した変化検出装置21において検知した。圧力変化は、検知部材11の外部に設けた変化検出装置21で検知する代わりに、空間11s内に設けた圧力センサで検知してもよい。この場合には、圧力センサからの信号を通知装置22に供給する。
【0033】
・上記実施形態においては、検知シート10は、シート状の検知部材11の第2表面11bの全面に、シート状の防護部材15を配置した。検知部材11は、防護部材15に重なるように配置する場合に限られない。例えば、防護部材15の周縁部に検知部材を配置し、周縁部に火の粉F1の飛来を検知してもよい。更に、断熱材31等の保護対象物が物陰にあり、一部が露出している場合には、露出した一部のみを覆うように検知部材を配置してもよい。
【0034】
・上記実施形態の検知シート10の防護部材15として、スパッタシートA種を用いたが、保護対象物に火の粉F1の熱が伝わらない不燃性の材料又は熱が伝わり難い難燃性の材料(耐燃性の材料)であれば、他の材料であってもよい。また、実施形態では、検知シート10に、ネット部材N1を設けたが、このネット部材N1を省略してもよい。
【0035】
・上記実施形態では、検知シート10を、床に積層した断熱材31の外表面を覆うように、断熱材31の上に載置した。検知シート10の配置は、保護対象物の上に載置する場合に限られず、保護対象物を覆ってもよい。例えば、既に壁の表面に設置した断熱材の表面を覆うように、検知シート10を吊り下げるように配置してもよい。
更に、保護対象物が存在しない箇所に火の粉F1が飛来するか否かの検知を目的として、その箇所に検知シート10や、防護部材15を設けない検知部材を配置してもよい。
【0036】
・上記実施形態においては、通知装置22は、変化検出装置21が検出した圧力変化の信号を受信した場合に、登録している管理者の携帯端末25のメールアドレスに通知を行なった。検知シート10において検出した状態変化を通知する方法は、携帯端末への通知に限られない。例えば、通知装置22において、状態変化を検出した場合には、音声や光に用いて、周囲に通知を行なってもよい。
【0037】
次に、上記実施形態及び別例から把握できる技術的思想について、以下に追記する。
(a)前記検知部材の内部に設けた空間は、密閉空間であって、
前記検知部材は、前記空間の密閉状態の状態変化を検知することを特徴とする請求項1又は2に記載の火の粉検知方法。
(b)前記検知部材は、前記状態変化として、前記空間の圧力変化を検知することを特徴とする請求項1、2又は前記(a)に記載の火の粉検知方法。
(c)前記検知部材の前記第1表面側に、前記第1表面を保護する保護部材を設けたことを特徴とする請求項3に記載の火の粉検知シート。
【符号の説明】
【0038】
N1…ネット部材、10,40,50…検知シート、11,41,51…検知部材、11a,51a,41a…第1表面、11b,51b…第2表面、11h,41h,51h…孔、11s,51s…空間、15…防護部材、18…取出部、21…変化検出装置、22…通知装置、25…携帯端末、31…断熱材、51e…第1電極、51f…第2電極。