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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023042906
(43)【公開日】2023-03-28
(54)【発明の名称】イオン源、イオン注入装置
(51)【国際特許分類】
   H01J 27/08 20060101AFI20230320BHJP
   H01J 37/08 20060101ALI20230320BHJP
   H01J 37/317 20060101ALI20230320BHJP
【FI】
H01J27/08
H01J37/08
H01J37/317 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021150321
(22)【出願日】2021-09-15
(71)【出願人】
【識別番号】302054866
【氏名又は名称】日新イオン機器株式会社
(72)【発明者】
【氏名】藤本 龍吾
【テーマコード(参考)】
5C101
【Fターム(参考)】
5C101AA25
5C101DD03
5C101DD16
5C101DD17
5C101GG22
(57)【要約】
【課題】ハロゲン含有ガスを取り扱うイオン源の性能を改善する。
【解決手段】イオン源ISは、原料ガスとしてハロゲン含有ガスを取り扱うイオン源で、原料ガスを基にして内部にプラズマPが生成されるプラズマ生成容器1と、プラズマPに曝される露出部材(1、2、L1-L3)とを有し、露出部材(1、2、L1-L3)の少なくとも一部がカーボン部材であって、カーボン部材を冷却する冷却機構Cを備えている。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料ガスとしてハロゲン含有ガスを取り扱うイオン源で、
前記原料ガスを基にして内部にプラズマが生成されるプラズマ生成容器と、
前記プラズマに曝される露出部材とを有し、
前記露出部材の少なくとも一部がカーボン部材であり、
前記カーボン部材を冷却する冷却機構を備えるイオン源。
【請求項2】
前記冷却機構は、前記カーボン部材の温度を実質的に一定温度に保つ請求項1記載のイオン源。
【請求項3】
前記カーボン部材は、前記プラズマ生成容器の内壁を保護するライナーであり、
前記ライナーの温度を測定する温度測定器を備え、
前記温度測定器での測定結果に応じて、前記冷却機構で前記ライナーの温度を実質的に一定に保つ、請求項1または2記載のイオン源。
【請求項4】
前記原料ガスのハロゲン含有の有無で、前記冷却機構の運転を切り替える、請求項1乃至3のいずれか1項に記載のイオン源。
【請求項5】
前記冷却機構は、冷却水を導入する配管を備え、
前記配管は、前記プラズマ生成容器の外壁面に外付けされた冷却ブロックまたは前記プラズマ生成容器の壁面に設けられる、請求項1乃至4のいずれか1項に記載のイオン源。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項記載のイオン源と、
前記イオン源から引き出されたイオンビームから所定のイオン種を含むイオンビームを分析する質量分析電磁石とを備えたイオン注入装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ハロゲン含有ガスを取り扱うイオン源とイオン注入装置に関する。
【背景技術】
【0002】
原料ガスとしてBFやPF等のフッ素系のガスに代表されるハロゲン含有ガスを用いて、ハロゲンイオンを含むイオンビームをイオン源から引き出して、基板にハロゲンイオンを照射することで基板処理を行う技術が知られている。
【0003】
この技術で使用されるイオン源では、プラズマ生成の過程でハロゲン成分のラジカル(例えば、フッ素ラジカルに代表されるハロゲンラジカル)により、プラズマ生成容器内壁が浸食されることが問題視されており、プラズマ生成容器内壁の浸食により発生したガス(内壁を構成する成分とハロゲンラジカルとの反応ガス)が、イオン源より引き出されるハロゲンイオンを含むイオンビームの安定性やイオンビームの電流量(ビーム量)に大きな影響を与えている。
【0004】
この対策として、特許文献1に開示されるイオン源でも採用されているように、プラズマ生成容器内壁をカーボン製のライナーで保護し、プラズマ生成容器内壁の浸食を抑制することが行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001-167707
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
カーボン製のライナーはタングステンやタンタル、モリブデン製のライナーに比べるとハロゲンラジカルによる浸食度合いは低いとされているが、ライナーの温度が上昇すると、ハロゲンラジカルによるプラズマ生成容器内壁の浸食が促進されてしまう。
【0007】
カーボン製のライナーの温度上昇により、プラズマ生成容器内壁の浸食に寄与するハロゲンラジカル成分が多くなると、イオン源から引き出されるハロゲンイオンが減少する。ハロゲンイオンの減少(ハロゲンイオンのビーム量の低減)は、カーボン製のライナーの温度上昇が飽和するまで継続する。
【0008】
そこで、ハロゲン含有ガスを取り扱うイオン源の性能改善を所期の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
イオン源は、
原料ガスとしてハロゲン含有ガスを取り扱うイオン源で、
前記原料ガスを基にして内部にプラズマが生成されるプラズマ生成容器と、
前記プラズマに曝される露出部材とを有し、
前記露出部材の少なくとも一部がカーボン部材であり、
前記カーボン部材を冷却する冷却機構を備えている。
【0010】
プラズマに曝される露出部材の少なくとも一部にカーボン部材を使用しているので、ハロゲン含有ガスがプラズマ化された際に生じるハロゲンラジカルによる浸食は低減される。そのうえ、当該カーボン部材を冷却しているため、カーボン部材の温度上昇に伴う浸食の促進を防止することができる。
【0011】
より望ましくは、前記冷却機構は、前記カーボン部材の温度を実質的に一定温度に保つことが望ましい。
【0012】
カーボン部材を実質的に一定温度に保つことで、イオン源から引き出されるビーム量の変動が低減できる。
【0013】
より具体的には、
前記カーボン部材は、前記プラズマ生成容器の内壁を保護するライナーであり、
前記ライナーの温度を測定する温度測定器を備え、
前記温度測定器での測定結果に応じて、前記冷却機構で前記ライナーの温度を実質的に一定に保つ。
【0014】
前記原料ガスのハロゲン含有の有無で、前記冷却機構の運転を切り替えることが望ましい。
【0015】
例えば、ハロゲン含有ガス未使用時には、ハロゲンラジカルによる浸食は発生しないため、冷却機構の運転を停止しておけば、冷却機構の稼働に伴う電力消費を抑えることができる。
【0016】
冷却機構の具体的な構成としては、
前記冷却機構は、冷却水を導入する配管を備え、
前記配管は、前記プラズマ生成容器の外壁面に外付けされた冷却ブロックまたは前記プラズマ生成容器の壁面に設けられている。
【0017】
イオン注入装置の構成としては、
上述したイオン源と、
前記イオン源から引き出されたイオンビームから所定のイオン種を含むイオンビームを分析する質量分析電磁石とを備えている。
【発明の効果】
【0018】
プラズマに曝される部材にカーボン部材を使用しているので、ハロゲン含有ガスがプラズマ化された際に生じるハロゲンラジカルによる浸食は低減される。そのうえ、当該カーボン部材を冷却しているため、カーボン部材の温度上昇に伴う浸食の促進を防止することができる。これより、カーボン部材の寿命が向上し、イオン源の性能が改善できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】イオン源の斜視図
図2図1のイオン源をZX平面で切断したときの断面図
図3図1のイオン源をXY平面で切断したときの断面図
図4】冷却有無のマススペクトルを比較したグラフ
図5】冷却機構の変形例に係るZX平面でのイオン源の断面図
図6】冷却機構の他の変形例に係るZX平面でのイオン源の断面図
図7】温度測定器を備えた変形例に係るZX平面でのイオン源の断面図
図8】原料ガスの種類に応じた冷却機構の運転切り替えについてのフローチャート
図9図8のフローチャートにカーボン部材の温度に応じた冷却調整機能を加えたフローチャート
図10図8のフローチャートにプラズマ密度に応じた冷却調整機能を加えたフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1は、イオン源ISの外観を示す斜視図である。イオン源ISは、主に、Z方向側の側面が開放されたY方向に長い直方体形状のプラズマ生成容器1とプラズマ生成容器1の開放端面を塞ぎ、イオン引出し口3が形成された蓋体電極2で構成されている。蓋体電極2は、不図示のコイルバネによりプラズマ生成容器1側に付勢されている。
【0021】
図1に示すイオン源ISでは、プラズマ生成容器1の周囲に配置された部材の図示を省略しているが、従来のイオン源と同様に、陰極や磁場生成用の電磁石等を備えている。
これらの部材について簡単に紹介する。Y方向と直交するプラズマ生成容器1の上面または下面、あるいはその両方の面に、容器内に熱電子を放出するための陰極(不図示)が取り付けられている。Z方向と直交するプラズマ生成容器1の一面には、プラズマPのもとになる原料ガス(例えば、BFやPF、PH等のガス)の導入口4が形成されている。
【0022】
陰極とプラズマ生成容器1の壁面との間には不図示の電源により所定の電位差が設定されている。プラズマ生成容器1に導入された原料ガスは、陰極から放出された熱電子により電離されて、アーク放電により、プラズマ生成容器1内にプラズマPが生成される。
【0023】
プラズマPを容器内部の所定領域に閉じ込めることや陰極から放出された熱電子を補足することを目的にして、プラズマ生成容器1の周囲には容器内部に磁場を生成する電磁石や永久磁石が設けられている。
蓋体電極2のZ方向側には、イオン引出し口3を通して、プラズマPからハロゲンイオン(例えば、フッ素やフッ化ボロンイオン)やハロゲンイオンを主とするイオンビームを引き出すための複数枚の電極が配置されている。
【0024】
図2は、図1のイオン源ISをZX平面で切断したときの断面図である。プラズマ生成容器1の内部には、プラズマPに曝されるプラズマ生成容器1の内壁を保護するべく、カーボン製のサイドライナーL1、バックライナーL2が配置されている。
【0025】
本発明では、カーボン製の部材(カーボン部材)を冷却するための冷却機構Cが設けられている。プラズマ生成容器1のX方向に垂直な壁には、冷却水を流すための配管5が埋設されている。この配管5に冷却水を流すことで、間接的にカーボン製の各ライナーL1、L2を冷却し、ライナーの温度上昇を抑制するようにしている。これにより、カーボン部材の温度上昇に伴う浸食の促進を防止することができ、イオン源の性能が改善できる。
また、ハロゲンイオンを主とするイオンビームの引き出しにあたり、そのビーム量の低減が改善することもできる。
【0026】
図3は、図1のイオン源ISをXY平面で切断したときの断面図である。Y方向でプラズマ生成容器1の内壁はカーボン製の上下ライナーL3で保護されている。配管5は、図示されているようにサイドライナーL1、上下ライナーL3を囲むように環状に形成されている。
なお、本発明において配管5の本数や配置についての制限はなく、図2図3の構成に限定されるものではない。例えば、配管5はY方向またはX方向のいずれか一方と平行な方向にのみ設けられていてもよい。また、これとは異なり、Z方向に平行な方向に配管5を設けておいてもよい。
【0027】
図4は、図1乃至図3で説明したイオン源ISで、カーボン部材の冷却有無のマススペクトルを比較したグラフである。グラフの横軸は質量数であり、グラフの縦軸はビーム電流の大きさを表している。図示されるマススペクトルは、主要イオン種についてのものである。破線で描かれるマススペクトルはカーボン部材を冷却したときのマススペクトルであり、実線で描かれるマススペクトルはカーボン部材を冷却していないときのマススペクトルである。
【0028】
グラフ中に記載の矢印は、カーボン部材を冷却していないときを基準にしてカーボン部材を冷却するとビーム量がどのように変化したのかを示している。上向きの矢印はビーム電流量の増加を表し、下向きの矢印はビーム電流量の減少を表している。
カーボン部材の冷却有無で、イオン源ISから引き出されるイオンビーム全体のビーム電流量は同一にしている。また、使用している原料ガスはBFである。
【0029】
図4では、カーボン部材の冷却により、F、BF のビーム電流が大幅に増加し、CとCFのビーム量が減少していることから、総合的にみてハロゲンイオンのビーム量低減が改善されていることがわかる。
【0030】
原料ガスとしてBFを使用する場合、F(フッ素)を主とするイオンビームによる基板処理以外に、B(ボロン)を主とするイオンビームによる基板処理が行われることがある。
図4では、Bのビーム量はカーボン部材の冷却有無でほとんど変化していないことから、カーボン部材の冷却がハロゲンイオン以外のイオン(B)を用いた基板処理に悪影響を与えないことが理解される。
【0031】
例えば、本発明のイオン源ISを用いたイオン注入装置の構成としては、イオン源ISでカーボン部材を冷却しつつ、イオン源IS下流に質量分析電磁石を設け、当該磁石の磁場を調整して、フッ素(ハロゲン)を主体にしたイオンビームによる基板処理とボロンを主体にしたイオンビームによる基板処理を使い分ける構成とすることもできる。また、この場合、カーボン部材を常に冷却しているので、ハロゲンラジカルによるカーボン部材の浸食を抑え、カーボン部材の長寿命化を図ることも可能となる。
【0032】
図1乃至図3の構成では、プラズマPに曝される部材としてライナーL1~L3を設け、これらをカーボン製にすることを提案していたが、プラズマ生成容器1内に配置した全てのライナーをカーボン製にする必要はない。つまり、一部のライナーのみをカーボン製にしてもよい。
【0033】
また、蓋体電極2のプラズマ生成容器側の面はプラズマPに曝されることから、蓋体電極2をカーボン製にしてもよい。この蓋体電極2もプラズマ生成容器1に取り付けられていることから、プラズマ生成容器1を通じて間接的に冷却することが可能となる。つまり、プラズマPに曝される部材(露出部材と呼ぶ)の一部をカーボン部材とし、これを冷却する構成であれば、本発明の効果を得ることができる。
【0034】
カーボン部材の冷却方法は、ここで紹介した水冷に限定されるものではない。例えば、冷却方法は空冷であってもよく、ペルチェ素子のような電気的な冷却方法を採用してもよい。また、カーボン部材を間接的に冷却する構成に代えて、カーボン部材自体に配管5を埋設したり、取り付けたりするなどして、カーボン部材を直接冷却する構成を採用してもよい。
【0035】
図5は、冷却機構Cの変形例に係るZX平面でのイオン源ISの断面図である。図1乃至図3のイオン源ISでは、プラズマ生成容器1の壁に冷却水を流す配管5を埋設して、カーボン製のライナーL1~L3の冷却を行っていた。図5の構成例では、プラズマ生成容器1の外壁に冷却ブロック6を取り付け、冷却ブロック6に配管5を設けてカーボン製のライナーL1~L3の冷却を行っている。
図5に示す構成であっても、カーボン部材を間接的に冷却することができるため、上述した本発明の効果を得ることができる。
【0036】
また、カーボン製のライナーL1~L3を設けず、プラズマ生成容器1そのものをカーボン製にしてもよい。図6は、冷却機構Cの変形例に係るZX平面でのイオン源ISの断面図である。同図のイオン源ISでは、プラズマ生成容器1をカーボン製にしている。
なお、プラズマ生成容器1の全体をカーボン製にすることに代えて、プラズマ生成容器1の内壁がカーボン材となるような表面改質を行ってもよい。
【0037】
イオン源ISから引き出されるハロゲンイオンのビーム量の変動を低減するためには、ハロゲン含有ガス由来のラジカルと反応するカーボン部材の温度を実質的に一定に保つように冷却機構Cでカーボン部材を冷却することが望ましい。
【0038】
具体的には、図7に示す温度測定器7(例えば、熱電対)でサイドライナーL1の温度を測定して、測定された温度が実質的に一定になるように冷却機構Cから供給される冷却水の流量や温度を調整してカーボン部材の冷却を行っている。
温度測定器7は、サイドライナーL1に当接させた状態で、プラズマ生成容器1の内壁に形成された窪みHに配置されている。
【0039】
図7では、温度測定対象がサイドライナーL1であったが、バックライナーL2や上下ライナーL3の温度を測定する構成を採用してもよい。また、蓋体電極2をカーボン製にする場合、蓋体電極2の温度測定を行うようにしてもよい。
また、温度測定対象は1つではなく、複数部材の温度を同時に測定してもよい。この場合、例えば、測定温度を平均した温度が実質的に一定になるように、冷却機構Cによる冷却調整を行うことが考えられる。
なお、ここでいう実質的に一定とは、ある特定の値に対して所定範囲を有するものであり、ある特定の値そのものを指すものではない。対象の温度が特定の温度から±数℃の範囲に入るように冷却機構Cによるカーボン部材の冷却を実施する。温度範囲については、イオン源ISから引き出されるビーム量の変動量との関係で決定される。
【0040】
基板処理の種類によっては、原料ガスとしてハロゲン含有ガス以外のガスが使用される場合もある。この場合、イオン源ISには各ガス(例えば、ハロゲン含有ガスであるBFとそれ以外のガスであるPH)を供給するボンベが接続されていて、基板処理の内容に応じてハロゲン含有ガスとハロゲン含有ガス以外のガスとの切り替えが行われる。
【0041】
ハロゲン含有ガス未使用時には、ハロゲンラジカルによる浸食は発生しないため、冷却機構Cでのカーボン部材の冷却は不要となる。このことから、使用される原料ガスの種類に応じて、冷却機構Cの運転を切り替えるようにしてもよい。具体的には、冷却水の流量をゼロとする運転モード(冷却機能をオフにする)と所定流量を流す運転モード(冷却機能をオンにする)とを用意しておき、原料ガスの種類に応じて運転モードを切り替え、冷却機構Cの運転を入り切りできるようにしておく。そのようにすれば、冷却機構Cの稼働に伴う電力消費を抑えることができる。
【0042】
冷却機構Cの運転切り替えについては、配管5に流す冷却水の流量を3段階以上に切り替えるようにしてもよい。また、流量に代えて、配管5に供給される冷媒の温度を調整することで、冷却機構Cの運転切り替えを実施してもよい。さらに、冷媒の流量と温度の両方を調整するようにしてもよい。
【0043】
図8は、冷却機構Cの運転切り替えについてのフローチャートである。
ここでは、冷却機構Cが冷却機能をオン・オフする運転モードを備えた構成を例に説明する。
【0044】
まず、注入処理を開始するための信号を受信する(S1)。次に、基板処理に使用する原料ガスがハロゲン含有ガスか、それ以外のガスかを判別する(S2)。ここでハロゲン含有ガスが使用されるのであれば、冷却機構Cの冷却機能をオンにする(S3)。その後、注入処理を開始する(S4)。一方、ハロゲン含有ガスが使用されないのであれば、冷却機構Cの冷却機能をオフにしたまま、注入処理を開始する(S4)。
【0045】
図9は、図8のフローチャートにカーボン部材の温度に応じた冷却調整機能を加えたフローチャートである。
図示されるS1乃至S4の処理は、図8で説明した処理と同一であるため、それらの詳細な説明は省略する。
【0046】
処理S3で、冷却機構Cによる冷却が行われる際、測定対象であるカーボン部材の温度が許容範囲内であるかどうかの判定が行われる(S5)。ここで許容範囲内にあると判定された場合には注入処理を開始する(S4)。反対に、許容範囲内ではないと判定された場合には冷却能力(冷媒流量や冷媒温度)を変化させる(S6)。その後、再び、カーボン部材の温度が許容範囲内にあるかどうかの判定が行われる(S5)。この操作は、カーボン部材の温度が許容範囲になるまで行われる。
【0047】
一旦、測定温度が許容範囲内にあると判定されたとしても、イオン源ISの稼働が安定するまでの間は、部材温度が上昇することも考えられる。このことから、処理S5で最終判定を行うまでの時間を予め設定しておき、この時間が経過したかどうかも判定した上で、処理S5から処理S4へ進むようにしてもよい。
【0048】
図9のフローチャートでは、カーボン部材の温度を測定していたが、プラズマ密度を測定してもよい。密度の高いプラズマが生成されていれば、このプラズマに曝されるカーボン部材の温度も上昇する。プラズマ密度とカーボン部材との間にはある程度の相関性を有していることから、プラズマ密度を測定することで間接的にカーボン部材の温度を知ることができる。
【0049】
例えば、プラズマ密度は、プラズマ生成容器1の壁面を流れる電流量やプラズマ生成容器1のプラズマPから引き出されたイオンやイオンビームが下流側の電極に衝突したときに、電極に流れる電流量から類推することができる。こうした類推により求めたプラズマ密度をもとにして、冷却機構Cでの冷却調整を行うようにしてもよい。一方で、測定された電極に流れる電流量の値そのものを用いて冷却機構Cでの冷却調整を行うようにしてもよい。
また、プラズマ密度の測定については、プラズマ生成容器内にラングミュシュアプローブを設けておき、プラズマ密度を直接測定するようにしてもよい。
【0050】
図10のフローチャートは、図9で説明した処理S5を、プラズマ密度についての判定処理に置き換えている。
処理S1乃至S4は図8図9のフローチャートと同一であるため、ここではその詳細な説明は省略する。
処理S3で、冷却機構Cによる冷却が行われる際、プラズマ密度やプラズマ密度に関わるパラメータ(例えば、電極に流れる電流量)が許容範囲内であるかどうかの判定が行われる(S7)。ここで許容範囲内にあると判定された場合には注入処理を開始する(S4)。反対に、許容範囲内にないと判定された場合には冷却能力(冷媒流量や冷媒温度、あるいはその両方)を変化させる(S6)。その後、再び、プラズマ密度に関わるパラメータが許容範囲内にあるかどうかを判定する(S7)。この操作は、プラズマ密度に関わるパラメータが許容範囲になるまで行われる。
【0051】
上述したように、プラズマ密度やプラズマ密度に関わるパラメータを判定基準にして、間接的にカーボン部材の温度が実質的に一定となるように調整してもよい。本発明のカーボン部材の温度を実質的に一定に保つ手法には、ここに示すプラズマ密度等を用いた間接的な調整方法も包含される。
【0052】
図8乃至図10のフローチャートで説明した各処理については、制御装置を用いて自動的に行われることが想定されている。
【0053】
上述した実施形態では、イオン源ISとして、イオンビームを引き出す装置が想定されているが、プラズマドーピングのように基板を支持するプラテンに電圧を印加し、プラズマからイオンを基板側に引き出す構成の装置であってもよい。
また、1又は複数個のイオン引出し孔が形成された平板電極を用いてプラズマから低エネルギーのイオンの引出しを行うイオンミリングで使用されるイオン源であってもよい。
さらに、図4の実施形態では、同じハロゲン含有ガスから引き出されたイオンビームを質量分析して、異なるイオン種を主とするイオンビームを用いて基板処理を実施するイオン注入装置について言及したが、このようなイオン注入装置の構成を他の実施形態においても採用してもよい。つまり、本発明のイオン源を備えるイオン注入装置の構成としては、質量分析電磁石を備えた構成を採用する。
【0054】
上記実施形態では、ハロゲン含有ガスの例としてBFやPF等のハロゲン以外の成分も含むガスを例にあげて説明したが、本発明のハロゲン含有ガスはハロゲン成分を含んでいるガスであればどのようなガスであってもよく、例えば、Fのようにハロゲンガスそのものであってもよい。
【0055】
その他、本発明は前記実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0056】
1 プラズマ生成容器
2 蓋体電極
5 配管
6 冷却ブロック
7 熱電対(温度測定器)
IS イオン源
L1~L3 ライナー
P プラズマ
C 冷却機構
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10