(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023004291
(43)【公開日】2023-01-17
(54)【発明の名称】リン酸除去方法
(51)【国際特許分類】
C02F 1/58 20230101AFI20230110BHJP
C02F 1/28 20230101ALI20230110BHJP
【FI】
C02F1/58 S
C02F1/28 B
C02F1/28 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021105889
(22)【出願日】2021-06-25
(71)【出願人】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】藤井 雄太
(72)【発明者】
【氏名】大島 義徳
【テーマコード(参考)】
4D038
4D624
【Fターム(参考)】
4D038AA02
4D038AB46
4D038AB50
4D038BB06
4D038BB08
4D624AA05
4D624AB12
4D624AB17
4D624BA02
4D624BA03
4D624BA06
4D624BA07
4D624BA14
4D624BA17
4D624BA18
4D624BB01
4D624BC02
4D624CA01
4D624DA02
(57)【要約】
【課題】水の着色及び濁りを防止できるリン酸除去方法の提供。
【解決手段】リン酸を含有する水を、水溶性鉄化合物、及び鉄イオン除去材の順に通すリン酸除去方法であって、水溶性鉄化合物が、硫酸鉄であることが好ましく、鉄イオン除去材が、赤玉土であることがより好ましく、鉄イオン除去材と水溶性鉄化合物との質量比(鉄イオン除去材:水溶性鉄化合物)が、39:1~19:1であることが特に好ましい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸を含有する水を、水溶性鉄化合物、及び鉄イオン除去材の順に通すことを特徴とするリン酸除去方法。
【請求項2】
前記水溶性鉄化合物が、硫酸鉄である請求項1に記載のリン酸除去方法。
【請求項3】
前記鉄イオン除去材が、赤玉土である請求項1又は2に記載のリン酸除去方法。
【請求項4】
前記鉄イオン除去材と前記水溶性鉄化合物との質量比(鉄イオン除去材:水溶性鉄化合物)が、39:1~19:1である請求項1から3のいずれかに記載のリン酸除去方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リン酸除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、海、湖沼、及び河川などに、リンを多く含有する生活工業廃水、農業の肥料などが流入し、生態系が変化する富栄養化が起こることがある。富栄養化は、赤潮又は青潮などの原因となることが知られており、環境問題として広く認識されている。
【0003】
富栄養化を防止するための方法の一つとして、水中のリン酸濃度を低減させることが行われてきた。例えば、リン酸を吸着する化合物を水中に入れて、リン酸を除去することが行われてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007-014923号公報
【特許文献2】特開2007-268338号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
リン酸を吸着する吸着材として、例えば、特許文献1に記載された粘土の一種であるアロフェン、特許文献2に記載された硫酸鉄などが挙げられる。
しかしながら、特許文献1に記載されたアロフェンは、硫酸鉄などに比べて、リン酸除去能力が低いため、大量に使用する必要があった。リン酸を吸着する吸着材を大量に使用すると、リン酸を吸着した後の吸着材(使用済み資材)の発生量が多くなってしまうため、リン酸を吸着した後の吸着材を処理するコストが増大するという問題点があった。
また、特許文献2に記載されたような硫酸鉄は、リン酸除去能力が高いため、使用量が少なく済む一方、硫酸鉄が水に溶解してしまうため、鉄の流亡、水の着色、濁りが起こるという新たな問題点があった。
【0006】
本発明は、水の着色及び濁りを防止できるリン酸除去方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するため、本発明は、
リン酸を含有する水を、水溶性鉄化合物、及び鉄イオン除去材の順に通すことを特徴とする。
【0008】
また、本発明のリン酸除去方法は、水溶性鉄化合物が、硫酸鉄であることが好ましい。
また、本発明のリン酸除去方法は、鉄イオン除去材が、赤玉土であることが好ましい。
また、本発明のリン酸除去方法は、鉄イオン除去材と水溶性鉄化合物との質量比(鉄イオン除去材:水溶性鉄化合物)が、39:1~19:1であることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、水の着色及び濁りを防止できるリン酸除去方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本発明の一例を示した概略模式図である。
【
図2】
図2は、実施例1~2、比較例1~2、及び参考例の簡易カラムを用いた実験の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(リン酸除去方法)
本発明のリン酸除去方法は、リン酸を含有する水を、水溶性鉄化合物、及び鉄イオン除去材の順に通し、更に必要に応じてその他の成分に通す。
リン酸を含有する水は、リン酸イオン(PO4
3-)を含有する水である。
本発明において、リン酸を除去するとは、リン酸イオンの濃度を低下させることを言う。
【0012】
<水溶性鉄化合物>
水溶性鉄化合物は、水に溶けて鉄イオンを形成する化合物のことであり、鉄塩とも称される。形成する鉄イオンの価数は、2価であっても3価であってもよい。
水溶性鉄化合物は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択でき、例えば、硫酸鉄(II)(硫酸第一鉄とも称される)、硫酸鉄(III)、塩化鉄(II)、塩化鉄(III)、硝酸鉄(II)、硝酸鉄(III)などが挙げられる。これらは、1種単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、リン酸イオンの吸着能が高いこと、及びリン酸を含有する水のpHを下げて、鉄イオン除去材の吸着能を向上させることができる点から、硫酸鉄(II)、及び硫酸鉄(III)が好ましく、硫酸鉄(II)がより好ましい。
水溶性鉄化合物の大きさ、形状は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できる。
【0013】
<鉄イオン除去材>
鉄イオン除去材は、鉄イオンを吸着する物質であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択でき、例えば、赤玉土、ゼオライト、鹿沼土、木炭、竹炭、活性炭、陽イオン交換樹脂、キレート樹脂などが挙げられる。これらは、1種単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、鉄イオン、及びリン酸吸着能が高い点から、赤玉土が好ましい。また、鉄イオン除去材として用いた後の赤玉土、即ち、鉄イオンが付着した赤玉土は、使用後に農業用の土としてそのまま用いることが可能であるため、赤玉土が好ましい。
鉄イオン除去材の大きさ、形状は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できる。
【0014】
<その他の成分>
その他の成分としては、本発明の効果を阻害しなければ、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できる。その他の成分としては、例えば、水溶性鉄化合物、及び鉄イオン除去材以外のリン酸吸着材などが挙げられる。
【0015】
-質量比(鉄イオン除去材:水溶性鉄化合物)-
鉄イオン除去材と水溶性鉄化合物との質量比(鉄イオン除去材:水溶性鉄化合物)は、39:1~19:1が好ましい。質量比が、この範囲に入らない場合、pHが下がりすぎてしまい、リン酸除去効果が落ちること、また、鉄イオン除去材の層厚が薄くなり、濁り除去効果が落ちることがある。
【0016】
<リン酸除去方法の適用>
ここで、図面を用いて本発明のリン酸除去方法を説明する。
図1は、本発明のリン酸除去方法の概略図である。
湖沼100は、リン酸を含有する水が貯水されている。バイパス10は、湖沼100からの水を引き込み、後述のエリア1、エリア2を通過させた水を湖沼100に戻すための経路である(
図1の右方向矢印は、水の流れを示す)。バイパス10の途中には、水が流れる上流側から順に、水溶性鉄化合物が充填されているエリア1、鉄イオン除去材が充填されているエリア2が設けられている。
バイパス10に引き込まれたリン酸を含有する水は、エリア1を通ることにより水溶性鉄化合物にリン酸が吸着して、リン酸を含有する水のリン酸が除去される。また、水がエリア1を通ることにより、水溶性鉄化合物が溶け、鉄イオンが水に混ざる。鉄イオンが水に混ざることで、水の着色及び濁りがより強くなる。次に、リン酸が除去され、かつ鉄イオンが溶けている水がエリア2を通ることにより、鉄イオン除去材に鉄イオンが吸着され、水の着色及び濁りが除去される。なお、エリア1の通過時に吸着されなかったリン酸は、エリア2を通ることによっても吸着除去される。
したがって、リン酸を含有する水が、エリア1、エリア2の順に通過することで、リン酸、着色、及び濁りが除去され、最終的には湖沼100に戻る。
なお、水溶性鉄化合物、及び鉄イオン除去材は、バイパス10に直接入れてもよいし、それぞれ土嚢袋など水を通す程度の穴があいた化合物(物質)により、包まれたものであってもよい。
【実施例0017】
以下、開示の技術の実施例を説明するが、開示の技術は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0018】
(実施例1~2、比較例1~2、参考例)
図2に示すように、10mL容のシリンジに、表1に示す水溶性鉄化合物としての硫酸鉄系資材(フェロサンド(登録商標))1、及び鉄イオン除去材としての赤玉土2を、表2に示す量を詰め、簡易カラムを作製した。
得られた簡易カラムの上部から、リン酸態リン(PO
4
-P)濃度が0.3mg/Lとなるように調製したリン酸二水素ナトリウム水溶液10mLを、カラム上部からピペットを用いて滴下した。
その後、シリンジの下部から出てきた、カラム通過後の水である処理水を採取した。
【0019】
得られた処理水について、それぞれリン酸態リン濃度、鉄濃度、色度、及び濁度を測定した。測定結果を表3に示した。リン酸態リン濃度、鉄濃度、及び色度は、デジタルパックテスト・マルチ(株式会社共立理化学研究所製)を用いて測定した。また、濁度は、紫外可視分光光度計(UV-1800、株式会社島津製作所製)を用いて測定した。
【0020】
【0021】
【0022】
比較例1、2のリン濃度は、それぞれ0.066mg/L、0.103mg/Lと高い値を示したのに対し、実施例1、2は、定量下限値(0.03mg/L)未満であった。これらの結果から、水溶性鉄化合物と濁り吸着材とを組み合わせることにより、リンが除去できたことが明らかになった。
比較例1、2のリン濃度が高い理由は、カラム内における水溶性鉄化合物層の厚みが極端に薄く、リンを含有する水溶液と水溶性鉄化合物との接触時間が非常に短かったためと考えられる。
なお、バッチ試験においては、硫酸鉄系資材と赤玉土との混合物のリン酸除去能力は、赤玉土のみのリン酸除去能力と比較して、1.5倍~2倍あることが確認されている。
【0023】
比較例1の鉄濃度は、2.5g/Lであったのに対し、比較例1と同量の水溶性鉄化合物を用いた実施例1の鉄濃度は、1.3g/Lであった。また、比較例2の鉄濃度は、4.8g/Lであったの対し、比較例2と同量の水溶性鉄化合物を用いた実施例2の鉄濃度は、3.4g/Lだった。これらの結果から、水溶性鉄化合物と、鉄イオン除去材とを組み合わせることで、鉄イオンの溶出量を29%~48%低減させることが明らかになった。
【0024】
比較例1の色度は、524度であったのに対し、比較例1と同量の水溶性鉄化合物を用いた実施例1の色度は、117度だった。また、比較例2の色度は、767度であったの対し、比較例2と同量の水溶性鉄化合物を用いた実施例2の色度は、135度だった。これらの結果から、水溶性鉄化合物と、鉄イオン除去材とを組み合わせることで、色度を約80%低減させることが明らかになった。
【0025】
比較例1の濁度は、188度であったのに対し、比較例1と同量の水溶性鉄化合物を用いた実施例1の濁度は、14度だった。また、比較例2の濁度は、278度であったの対し、比較例2と同量の水溶性鉄化合物を用いた実施例2の濁度は、43度だった。これらの結果から、水溶性鉄化合物と、鉄イオン除去材とを組み合わせることで、濁度を85%~92%低減させることが明らかになった。
【0026】
以上の結果より、鉄イオン除去材、及び水溶性鉄化合物を用いることで、以下の効果が得られることが明らかになった。
・リン酸除去能力が向上するので、鉄イオン除去材、及び水溶性鉄化合物を使用する量を削減することができる。
・水溶性鉄化合物が溶出することによる鉄イオンの濃度、処理水の色度、及び濁度を低下させることができる。
すなわち、リン酸除去能力を向上させつつ、水溶性鉄化合物による水の濁り及び着色を抑制できることが明らかになった。これは、リン酸を吸着能が高い鉄イオンがリン酸をすばやく吸着し、その後、鉄イオン除去材がリン酸及び鉄イオンを吸着することで得られたものと考えられる。