IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ シスメックス株式会社の特許一覧

特開2023-42974抗サイトカイン抗体の抗原に対する親和性を向上させる方法、抗サイトカイン抗体の製造方法及び抗サイトカイン抗体
<>
  • 特開-抗サイトカイン抗体の抗原に対する親和性を向上させる方法、抗サイトカイン抗体の製造方法及び抗サイトカイン抗体 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023042974
(43)【公開日】2023-03-28
(54)【発明の名称】抗サイトカイン抗体の抗原に対する親和性を向上させる方法、抗サイトカイン抗体の製造方法及び抗サイトカイン抗体
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/12 20060101AFI20230320BHJP
   C12N 15/10 20060101ALI20230320BHJP
   C07K 16/24 20060101ALI20230320BHJP
   C12P 21/08 20060101ALN20230320BHJP
【FI】
C12N15/12 ZNA
C12N15/10 200Z
C07K16/24
C12P21/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021150418
(22)【出願日】2021-09-15
(71)【出願人】
【識別番号】390014960
【氏名又は名称】シスメックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100065248
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100159385
【弁理士】
【氏名又は名称】甲斐 伸二
(74)【代理人】
【識別番号】100163407
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 裕輔
(74)【代理人】
【識別番号】100166936
【弁理士】
【氏名又は名称】稲本 潔
(72)【発明者】
【氏名】江頭 由里子
(72)【発明者】
【氏名】ディクシット シヴァニ
(72)【発明者】
【氏名】田中 華月
(72)【発明者】
【氏名】前田 真吾
【テーマコード(参考)】
4B064
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG27
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA01
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA22
4H045FA74
(57)【要約】
【課題】フレームワーク領域(FR)のアミノ酸残基を改変することで抗サイトカイン抗体の抗原に対する親和性を向上させる新規の方法、抗原に対する親和性が向上した新規の抗サイトカイン抗体及びその製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】相補性決定領域(CDR)の電気的特性が負電荷である抗サイトカイン抗体の軽鎖FR3のアミノ酸配列において、Chothia法で定義される軽鎖の63位、65位、67位、70位及び72位のアミノ酸残基から選択される少なくとも3カ所の残基を含む少なくとも3つのアミノ酸残基をアルギニン残基又はリジン残基とすることにより、上記の課題を解決する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
相補性決定領域(CDR)の電気的特性が負電荷である抗サイトカイン抗体において、軽鎖フレームワーク領域3の少なくとも3つのアミノ酸残基をアルギニン残基又はリジン残基とすることにより、抗原に対する親和性を、前記少なくとも3つのアミノ酸残基をアルギニン残基又はリジン残基とする前の抗体と比べて向上させることを含み、
前記CDRの電気的特性が、以下の式:
X=[1つの抗原結合部位に含まれるCDRのアミノ酸配列中の塩基性アミノ酸残基の数]-[1つの抗原結合部位に含まれるCDRのアミノ酸配列中の酸性アミノ酸残基の数]
(式中、Xが-2以下であるとき、CDRの電気的特性は負電荷であり、
Xが-1、0又は1であるとき、CDRの電気的特性は中性であり、
Xが2以上であるとき、CDRの電気的特性は正電荷である)
により決定され、
前記少なくとも3つのアミノ酸残基が、Chothia法で定義される軽鎖の63位、65位、67位、70位及び72位からなる群より選択される少なくとも3カ所の残基を含む、
抗サイトカイン抗体の抗原に対する親和性を向上させる方法。
【請求項2】
相補性決定領域(CDR)の電気的特性が負電荷である抗サイトカイン抗体において、軽鎖フレームワーク領域3の少なくとも3つのアミノ酸残基をアルギニン残基又はリジン残基とした抗体を生成する工程と、
前記工程で生成した抗体を回収する工程と
を含み、
回収した抗体の抗原に対する親和性が、前記少なくとも3つのアミノ酸残基をアルギニン残基又はリジン残基とする前の抗体と比べて向上しており、
前記CDRの電気的特性が、以下の式:
X=[1つの抗原結合部位に含まれるCDRのアミノ酸配列中の塩基性アミノ酸残基の数]-[1つの抗原結合部位に含まれるCDRのアミノ酸配列中の酸性アミノ酸残基の数]
(式中、Xが-2以下であるとき、CDRの電気的特性は負電荷であり、
Xが-1、0又は1であるとき、CDRの電気的特性は中性であり、
Xが2以上であるとき、CDRの電気的特性は正電荷である)
により決定され、
前記少なくとも3つのアミノ酸残基が、Chothia法で定義される軽鎖の63位、65位、67位、70位及び72位からなる群より選択される少なくとも3カ所の残基を含む、
抗原に対する親和性が向上した抗サイトカイン抗体の製造方法。
【請求項3】
前記サイトカイン抗体が、抗インターロイキン抗体である請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記抗インターロイキン抗体が、抗IL-6抗体、抗IL-8抗体、抗IL-12抗体又は抗IL-4抗体である請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記少なくとも3つのアミノ酸残基が、軽鎖の63位、65位及び67位を含む請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記少なくとも3つのアミノ酸残基が、軽鎖の63位、65位、67位及び70位を含む請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記少なくとも3つのアミノ酸残基が、軽鎖の63位、65位、67位、70位及び72位を含む請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
軽鎖フレームワーク領域3の少なくとも3つのアミノ酸残基がアルギニン残基又はリジン残基とされた抗サイトカイン抗体であって、前記抗サイトカイン抗体が、相補性決定領域(CDR)の電気的特性が負電荷である抗体であり、前記CDRの電気的特性が、以下の式:
X=[1つの抗原結合部位に含まれるCDRのアミノ酸配列中の塩基性アミノ酸残基の数]-[1つの抗原結合部位に含まれるCDRのアミノ酸配列中の酸性アミノ酸残基の数]
(式中、Xが-2以下であるとき、CDRの電気的特性は負電荷であり、
Xが-1、0又は1であるとき、CDRの電気的特性は中性であり、
Xが2以上であるとき、CDRの電気的特性は正電荷である)
により決定され、前記少なくとも3つのアミノ酸残基が、Chothia法で定義される軽鎖の63位、65位、67位、70位及び72位からなる群より選択される少なくとも3カ所の残基を含み、抗原に対する親和性が、前記少なくとも3つのアミノ酸残基がアルギニン残基又はリジン残基とされる前の抗体よりも高い、前記抗サイトカイン抗体。
【請求項9】
前記サイトカイン抗体が、抗インターロイキン抗体である請求項8に記載の抗体。
【請求項10】
前記抗インターロイキン抗体が、抗IL-6抗体、抗IL-8抗体、抗IL-12抗体又は抗IL-4抗である請求項9に記載の抗体。
【請求項11】
前記少なくとも3つのアミノ酸残基が、軽鎖の63位、65位及び67位を含む請求項8~10のいずれか1項に記載の抗体。
【請求項12】
前記少なくとも3つのアミノ酸残基が、軽鎖の63位、65位、67位及び70位を含む請求項8~10のいずれか1項に記載の抗体。
【請求項13】
前記少なくとも3つのアミノ酸残基が、軽鎖の63位、65位、67位、70位及び72位を含む請求項8~10のいずれか1項に記載の抗体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗サイトカイン抗体の抗原に対する親和性を向上させる方法に関する。本発明は、抗サイトカイン抗体の製造方法に関する。本発明は、抗サイトカイン抗体に関する。
【背景技術】
【0002】
抗体の相補性決定領域(CDR)のアミノ酸配列を維持したまま、フレームワーク領域(FR)のアミノ酸配列を改変することにより、該抗体の抗原に対する親和性を制御する技術が知られている。FRとは、抗体の軽鎖及び重鎖のそれぞれの可変領域に存在する、CDR以外の領域である。FRは、3つのCDRを連結する足場の役割を果たし、CDRの構造安定性に寄与する。そのため、FRのアミノ酸配列は、同じ種(species)の抗体間で高度に保存されている。重鎖及び軽鎖のそれぞれの可変領域に、CDR1、CDR2及びCDR3の3つのCDRと、FR1、FR2、FR3及びFR4の4つのFRとがある。これらは、可変領域のN末端側からFR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3及びFR4の順に並んでいる。特許文献1には、軽鎖FR3の少なくとも3つのアミノ酸残基を荷電アミノ酸残基にすることにより、抗体の抗原に対する親和性を制御することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許出願公開第2018/0179298号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、軽鎖FRのアミノ酸残基を改変することにより抗サイトカイン抗体の抗原に対する親和性を向上させる新規の方法、抗原に対する親和性が向上した新規の抗サイトカイン抗体及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、CDRの電気的特性が負電荷である抗サイトカイン抗体において、軽鎖FR3の少なくとも3つのアミノ酸残基をアルギニン残基又はリジン残基とすることにより、抗原に対する親和性を、少なくとも3つのアミノ酸残基をアルギニン残基又はリジン残基とする前の抗体と比べて向上させることを含み、CDRの電気的特性が、下記の式により決定され、少なくとも3つのアミノ酸残基が、Chothia法で定義される軽鎖の63位、65位、67位、70位及び72位からなる群より選択される少なくとも3カ所の残基を含む、抗サイトカイン抗体の抗原に対する親和性を向上させる方法を提供する。
X=[1つの抗原結合部位に含まれるCDRのアミノ酸配列中の塩基性アミノ酸残基の数]-[1つの抗原結合部位に含まれるCDRのアミノ酸配列中の酸性アミノ酸残基の数]
(式中、Xが-2以下であるとき、CDRの電気的特性は負電荷であり、
Xが-1、0又は1であるとき、CDRの電気的特性は中性であり、
Xが2以上であるとき、CDRの電気的特性は正電荷である)
【0006】
本発明は、CDRの電気的特性が負電荷である抗サイトカイン抗体において、軽鎖FR3の少なくとも3つのアミノ酸残基をアルギニン残基又はリジン残基とした抗体を生成する工程と、この工程で生成した抗体を回収する工程とを含み、回収した抗体の抗原に対する親和性が、少なくとも3つのアミノ酸残基をアルギニン残基又はリジン残基とする前の抗体と比べて向上しており、CDRの電気的特性が、上記の式により決定され、少なくとも3つのアミノ酸残基が、Chothia法で定義される軽鎖の63位、65位、67位、70位及び72位からなる群より選択される少なくとも3カ所の残基を含む、抗原に対する親和性が向上した抗サイトカイン抗体の製造方法を提供する。
【0007】
本発明は、軽鎖FR3の少なくとも3つのアミノ酸残基がアルギニン残基又はリジン残基とされた抗サイトカイン抗体であって、この抗サイトカイン抗体は、CDRの電気的特性が負電荷である抗体であり、CDRの電気的特性は、上記の式により決定され、少なくとも3つのアミノ酸残基が、Chothia法で定義される軽鎖の63位、65位、67位、70位及び72位からなる群より選択される少なくとも3カ所の残基を含み、この抗サイトカイン抗体の抗原に対する親和性が、少なくとも3つのアミノ酸残基がアルギニン残基又はリジン残基とされる前の抗体よりも高い、抗サイトカイン抗体を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、抗原に対する親和性が向上した抗サイトカイン抗体が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】抗インターロイキン(IL)-4抗体及びその変異体の抗原(組換え型ヒトIL-4)に対する親和性をELISA法で測定した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本実施形態の抗サイトカイン抗体の抗原に対する親和性を向上させる方法(以下、単に「方法」ともいう)では、CDRの電気的特性が負電荷である抗サイトカイン抗体の軽鎖FR3において、Chothia法で定義される軽鎖の63位、65位、67位、70位及び72位からなる群より選択される少なくとも3カ所の残基を含む少なくとも3つのアミノ酸残基(以下、「所定のアミノ酸残基」とも呼ぶ)を、アルギニン残基又はリジン残基とする。これにより、抗原に対する親和性が、所定のアミノ酸残基をアルギニン残基又はリジン残基とする前の抗体と比べて向上する。
【0011】
本明細書において「抗体」は、抗体断片を含む概念である。本実施形態では、抗体断片は、軽鎖の可変領域を含むことが好ましい。そのような抗体断片としては、例えばFab、Fab'、F(ab')2、Fd、Fd'、Fv、scFv、ドメイン抗体(dAb)、還元型IgG(rIgG)、ダイアボディ、トリアボディなどが挙げられる。
【0012】
「1つの抗原結合部位」とは、1つの重鎖可変領域と、1つの軽鎖可変領域とから構成される部位であって、抗体において抗原と結合する部位である。抗体が有する抗原結合部位の数は、抗体のクラスや形態によって異なる。例えば、抗体がIgG又はF(ab')2であるとき、当該抗体は、抗原結合部位を2つ有する。抗体がFabであるとき、当該抗体は、抗原結合部位を1つ有する。「1つの抗原結合部位に含まれるCDR」とは、当該1つの抗原結合部位を構成する1つの重鎖可変領域及び1つの軽鎖可変領域に存在する全てのCDRである。すなわち、1つの抗原結合部位に含まれるCDRは、1つの重鎖可変領域にあるCDR1、CDR2及びCDR3と、1つの軽鎖可変領域にあるCDR1、CDR2及びCDR3との計6つのCDRである。
【0013】
本実施形態の方法が適用される抗体は、CDRの電気的特性が負電荷である抗サイトカイン抗体である。本明細書において「CDRの電気的特性」は、以下の式により決定される:
X=[1つの抗原結合部位に含まれるCDRのアミノ酸配列中の塩基性アミノ酸残基の数]-[1つの抗原結合部位に含まれるCDRのアミノ酸配列中の酸性アミノ酸残基の数]
(式中、Xが-2以下であるとき、CDRの電気的特性は負電荷であり、
Xが-1、0又は1であるとき、CDRの電気的特性は中性であり、
Xが2以上であるとき、CDRの電気的特性は正電荷である)
【0014】
上記の式から分かるように、CDRの電気的特性は、1つの抗原結合部位に含まれるCDRのアミノ酸配列における、酸性アミノ酸残基及び塩基性アミノ酸残基の数に基づいて決定される。上記の式で算出されるXが-2以下であるとき、すなわち、1つの抗原結合部位に含まれるCDRのアミノ酸配列において、酸性アミノ酸残基の数が塩基性アミノ酸残基の数よりも2以上多いとき、CDRの電気的特性は負電荷と決定される。言い換えると、軽鎖CDR1、軽鎖CDR2、軽鎖CDR3、重鎖CDR1、重鎖CDR2及び重鎖CDR3の6カ所のCDRに含まれる酸性アミノ酸残基の総数が、塩基性アミノ酸残基の総数よりも2以上多いとき、CDRの電気的特性は負電荷と定義される。ここで、酸性アミノ酸残基とは、アスパラギン酸残基及びグルタミン酸残基であり、塩基性アミノ酸残基とは、アルギニン残基及びリジン残基である。本明細書においては、ヒスチジン残基は、塩基性アミノ酸残基に含まれない。例えば、後述の実施例1の抗IL-6抗体(クローン58-1)では、1つの抗原結合部位に含まれるCDRのアミノ酸配列中の酸性アミノ酸残基の数は6であり、塩基性アミノ酸残基の数は2である(表1参照)。よって、当該抗IL-6抗体は、CDRの電気的特性が負電荷である抗サイトカイン抗体である。
【0015】
当該技術分野では、CDRの境界及び長さを定義するための、CDRのアミノ酸残基に番号付けをする方法(以下、「ナンバリング法」ともいう)が知られている。ナンバリング法によりCDRのアミノ酸残基に番号が付されると、FRのアミノ酸残基にも番号が付されることとなる。ナンバリング法によりアミノ酸残基に付された番号は、軽鎖又は重鎖のアミノ酸配列における当該アミノ酸残基の位置を示す。本明細書では、CDR及びFR3の境界及び長さは、公知のナンバリング法の一つであるChothia法(Chothia C.及びLesk AM., Canonical Structures for the Hypervariable Regions of Immunoglobulins., J Mol Biol., vol.196, pp.901-917, 1987参照)により定義される。Chothia法では、軽鎖FR3は、軽鎖の57~88位のアミノ酸残基からなる領域として定義される。以下、抗体の軽鎖におけるアミノ酸残基の位置を記載した場合、特に断らない限り、当該アミノ酸残基の位置は、Chothia法で定義された位置を意味する。
【0016】
「軽鎖FR3」との用語は、全長の軽鎖におけるFR3だけでなく、軽鎖の一部分(例えば軽鎖可変領域)におけるFR3も意味する。例えば、全長の軽鎖を含まず且つ軽鎖可変領域を含む抗体断片(例えば、Fab)の場合、「軽鎖FR3」は当該抗体断片における軽鎖可変領域中のFR3を指す。
【0017】
軽鎖FR3において、所定のアミノ酸残基がアルギニン残基又はリジン残基とされる前の抗サイトカイン抗体を、以下では「元の抗体」とも呼ぶ。本明細書において、「元の抗体」は、本実施形態の方法を適用する前のアミノ酸配列を有する抗サイトカイン抗体を意味する。元の抗体の軽鎖FR3において、所定のアミノ酸残基をアルギニン残基又はリジン残基とすることを、以下では「改変する」又は「改変」ともいう。元の抗体に本実施形態の方法を適用した後のアミノ酸配列を有する抗サイトカイン抗体を、以下では「改変抗体」又は「変異体」とも呼ぶ。
【0018】
元の抗体は、抗原としてのサイトカインに特異的に結合し、且つCDRの電気的特性が負電荷の抗体である。本発明の改変はCDRの改変ではないため、改変抗体は元の抗体と同様、サイトカインに特異的に結合し、且つCDRの電気的特性は負電荷である。サイトカインは特に限定されず、例えばインターロイキン、インターフェロン、ケモカイン、腫瘍壊死因子、細胞増殖因子などが挙げられる。好ましい実施形態では、元の抗体は、抗インターロイキン抗体である。抗インターロイキン抗体は、公知のインターロイキンに特異的に結合する抗体から適宜選択できる。例えば抗IL-6抗体、抗IL-8抗体、抗IL-12抗体、抗IL-4抗体などが挙げられる。
【0019】
元の抗体のCDRの電気的特性が負電荷であるか否かは、1つの抗原結合部位に含まれるCDRのアミノ酸配列によって決定されるので、元の抗体は、軽鎖及び重鎖の可変領域をコードする遺伝子の塩基配列が公知であるか又は該塩基配列を確認可能な抗サイトカイン抗体が好ましい。あるいは、元の抗体は、軽鎖及び重鎖の可変領域のアミノ酸配列が公知である抗サイトカイン抗体であってもよい。そのような抗体としては、例えば、公知のデータベースに抗体遺伝子の塩基配列又は可変領域のアミノ酸配列が開示されている抗体、抗体産生ハイブリドーマが入手可能な抗体などが挙げられる。公知のデータベースとしては、例えばPDB、GeneBank、abYsis、IMGTなどが挙げられる。
【0020】
元の抗体には、天然のアミノ酸配列を有する抗体だけでなく、本実施形態の方法以外の手段によりアミノ酸配列が人為的に変更された抗体も含まれる。アミノ酸配列が人為的に変更された抗体としては、例えば、CDRのアミノ酸配列を変更した抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、二重特異性抗体、多重特異性抗体、キメラ抗原受容体中の一本鎖抗体(scFv)などが挙げられる。これらの他にも抗体の性質を人為的に操作するため、アミノ酸配列を人為的に変更する技術が知られている。これらのような人工的に設計された抗体も、本発明における「元の抗体」となり得る。
【0021】
元の抗体が二重特異性抗体又は多重特異性抗体である場合、当該元の抗体は、下記のa)及びb)の条件を満たす抗原結合部位を少なくとも1つ有することが好ましい。本実施形態の方法は、二重特異性抗体及び多重特異性抗体の抗原結合部位のうち、当該条件を満たす抗原結合部位の軽鎖FR3に適用できる。本発明の改変はCDRの改変ではないため、二重特異性抗体又は多重特異性抗体に対して改変を行った場合、改変抗体は元の抗体と同様の二重特異性又は多重特異性を有する。
【0022】
a) 当該抗原結合部位が、サイトカインと特異的に結合する;
b) 当該抗原結合部位を構成する1つの重鎖可変領域及び1つの軽鎖可変領域に含まれるCDRのアミノ酸配列において、酸性アミノ酸残基の数が塩基性アミノ酸残基の数よりも2以上多い。
【0023】
元の抗体は、いずれの動物に由来する抗体であってもよく、例えばヒト、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、ヤギ、ウマ、ニワトリなどに由来する抗体が挙げられる。元の抗体のクラスは、IgG、IgA、IgM、IgD及びIgEのいずれであってもよいが、好ましくはIgGである。元の抗体は、軽鎖の可変領域を含むかぎり、抗体断片であってもよい。
【0024】
元の抗体の軽鎖FR3において改変されるアミノ酸残基の数の上限は、例えば14、13、12、11、10、9、8、7、6又は5である。一実施形態では、元の抗体の軽鎖FR3において改変されるアミノ酸残基の数は、3以上5以下である。
【0025】
元の抗体の軽鎖FR3においてアルギニン残基又はリジン残基とされる所定のアミノ酸残基は、軽鎖の63位、65位、67位、70位及び72位からなる群より選択される3つ又は4つのアミノ酸残基であってもよい。あるいは、元の抗体の軽鎖FR3においてアルギニン残基又はリジン残基とされる所定のアミノ酸残基は、軽鎖の63位、65位、67位、70位及び72位のアミノ酸残基であってもよい。
【0026】
好ましくは、元の抗体の軽鎖FR3においてアルギニン残基又はリジン残基とされる所定のアミノ酸残基は、以下の1)~3)のいずれかである。
1) Chothia法で定義される軽鎖の63位、65位及び67位のアミノ酸残基;
2) Chothia法で定義される軽鎖の63位、65位、67位及び70位のアミノ酸残基;及び
3) Chothia法で定義される軽鎖の63位、65位、67位、70位及び72位のアミノ酸残基。
【0027】
元の抗体の軽鎖FR3において、軽鎖の63位、65位、67位、70位及び72位以外のアミノ酸残基を改変する場合、軽鎖FR3のアミノ酸配列からバーニアゾーン残基及び非露出残基を除いたアミノ酸残基を改変することが好ましい。「バーニアゾーン残基」とは、FRのアミノ酸配列中、CDRの構造安定性に寄与するアミノ酸残基である。「非露出残基」とは、分子内部に折りたたまれて表面に露出しないアミノ酸残基である。非露出残基を改変しても、改変の効果が小さいか又は無いことが予想される。軽鎖FR3のアミノ酸配列からバーニアゾーン残基及び非露出残基を除いたアミノ酸残基とは、具体的には、軽鎖の57位~63位、65位、67位、70位72位、74位、76位、77位及び79位~81位のアミノ酸残基である。したがって、軽鎖の63位、65位、67位、70位及び72位以外のアミノ酸残基を改変する場合は、軽鎖の57位~62位、74位、76位、77位及び79位~81位のアミノ酸残基から選択されるアミノ酸残基を、アルギニン残基又はリジン残基にすることが好ましい。
【0028】
元の抗体の軽鎖FR3における改変される前のアミノ酸残基は、中性アミノ酸残基、酸性アミノ酸残基又はヒスチジン残基である。好ましくは、元の抗体の軽鎖FR3における改変される前のアミノ酸残基は、中性アミノ酸残基又は酸性アミノ酸残基である。中性アミノ酸残基とは、アラニン残基、アスパラギン残基、イソロイシン残基、グリシン残基、グルタミン残基、システイン残基、スレオニン残基、セリン残基、チロシン残基、フェニルアラニン残基、プロリン残基、バリン残基、メチオニン残基、ロイシン残基及びトリプトファン残基である。
【0029】
改変抗体において、元の抗体のアミノ酸残基から改変された後のアミノ酸残基は、全てアルギニン残基であってもよいし、又は全てリジン残基であってもよい。あるいは、元の抗体のアミノ酸残基から改変された後のアミノ酸残基は、その一部がアルギニン残基であり、残りがリジン残基であってもよい。
【0030】
元の抗体の軽鎖の63位、65位、67位、70位及び72位のアミノ酸残基のうち、1つ又は2つの残基がアルギニン残基又はリジン残基である場合、当該アミノ酸残基はそのままにしてよい。この場合、軽鎖の63位、65位、67位、70位及び72位のアミノ酸残基のうち、アルギニン残基及びリジン残基ではない残りのアミノ酸残基の少なくとも3つを改変してもよい。
【0031】
CDRは抗体の特異性に関与するので、本実施形態の方法では、CDRのアミノ酸配列を変更しないことが好ましい。すなわち、改変抗体のCDRのアミノ酸配列は、元の抗体のCDRのアミノ酸配列と同じであることが好ましい。改変抗体のCDRのアミノ酸配列と、元の抗体のCDRのアミノ酸配列とが同じである場合、当然ながら、これらの抗体のCDRの電気的特性も同じである。
【0032】
アミノ酸残基を改変する手段としては、アミノ酸残基の置換、挿入などが挙げられる。例えば、アミノ酸残基の置換により、元の抗体の軽鎖の63位、65位、67位、70位及び72位から選択される少なくとも3つのアミノ酸残基を改変する場合、選択したアミノ酸残基をアルギニン残基又はリジン残基に置換する。これにより、上記の少なくとも3つのアミノ酸残基はアルギニン残基又はリジン残基となる。アミノ酸残基の挿入による改変では、例えば、元の抗体の軽鎖の63位、65位、67位、70位及び72位から選択される少なくとも3つの位置にアルギニン残基又はリジン残基が位置するように、元の抗体の軽鎖のアミノ酸配列において、アルギニン残基又はリジン残基を少なくとも3つ挿入する。一例として、元の抗体の軽鎖の63位、65位及び67位をアルギニン残基にする場合、62位のアミノ酸残基と63位のアミノ酸残基との間、63位のアミノ酸残基と64位のアミノ酸残基との間、及び64位のアミノ酸残基と65位のアミノ酸残基との間のそれぞれにアルギニン残基を挿入する。これにより、挿入された3つのアルギニン残基はそれぞれ、改変抗体の軽鎖の63位、65位及び67位の残基となる。
【0033】
元の抗体の改変は、公知のDNA組み換え技術及びその他の分子生物学的技術などにより行うことができる。具体的には、まず、元の抗体のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドを取得し、このポリヌクレオチドから、改変抗体のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドを作製する。そして、作製したポリヌクレオチドを用いて、タンパク質発現系により改変抗体を生成する。タンパク質発現系は、宿主細胞を用いる発現系であってもよいし、無細胞タンパク質合成系であってもよい。宿主細胞としては、例えば哺乳動物細胞、昆虫細胞、大腸菌、酵母などが挙げられる。無細胞タンパク質合成系としては、例えばコムギ胚芽由来合成系、大腸菌由来合成系、再構成型無細胞タンパク質合成系などが挙げられる。
【0034】
例えば、元の抗体を産生するハイブリドーマがある場合は、次のようにして改変抗体を得ることができる。まず、該ハイブリドーマから抽出したRNAを用いて、逆転写反応及びRACE(Rapid Amplification of cDNA ends)法により、元の抗体の軽鎖をコードするポリヌクレオチド及び重鎖をコードするポリヌクレオチドを合成する。次に、軽鎖をコードするポリヌクレオチドを鋳型として、軽鎖FR3の少なくとも3つのアミノ酸残基を改変するためのプライマーを用いてPCR法により増幅することで、FR3が改変された軽鎖をコードするポリヌクレオチドを取得する。得られたポリヌクレオチドと、元の抗体の重鎖をコードするポリヌクレオチドとを、公知の発現用ベクターに組み込んで、改変抗体をコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクターを取得する。得られた発現ベクターを適当な宿主細胞に形質転換又はトランスフェクションすることにより、親和性が向上した抗体が生成される。生成した抗体を宿主細胞から回収することで、改変抗体を得ることができる。
【0035】
本実施形態では、FR3を改変した軽鎖をコードするポリヌクレオチドと、重鎖をコードするポリヌクレオチドとは、1つの発現ベクターに組み込まれてもよいし、2つの発現ベクターに別個に組み込まれてもよい。発現ベクターの種類は特に限定されず、宿主細胞に応じて決定できる。例えば、哺乳動物細胞用発現ベクター、昆虫細胞用発現用ベクター、大腸菌用発現ベクター、酵母用発現ベクターなどが挙げられる。
【0036】
無細胞タンパク質合成系により改変抗体を得る場合は、FR3が改変された軽鎖をコードするポリヌクレオチドと、元の抗体の重鎖をコードするポリヌクレオチドとを、無細胞タンパク質合成系に添加して、適切な条件下でインキュベートすることで、改変抗体を得ることができる。
【0037】
一本鎖抗体(scFv)である改変抗体を得る場合は、例えばWO2013/084371に示されるように、元の抗体を産生するハイブリドーマから抽出したRNA用いて、逆転写反応及びPCR法により軽鎖可変領域をコードするポリヌクレオチド及び重鎖可変領域をコードするポリヌクレオチドを合成すればよい。これらのポリヌクレオチドをオーバーラップエクステンションPCR法などによって連結して、scFvである元の抗体をコードするポリヌクレオチドを取得する。得られたポリヌクレオチドを、軽鎖FR3の少なくとも3つのアミノ酸残基を改変するためのプライマーを用いてPCR法により増幅することで、軽鎖FR3が改変されたscFvをコードするポリヌクレオチドを取得する。得られたポリヌクレオチドを公知の発現ベクターに組み込んで、scFvである改変抗体をコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクターを取得する。得られた発現ベクターを適当な宿主細胞に形質転換又はトランスフェクションすることにより、scFvである改変抗体を得ることができる。
【0038】
元の抗体を産生するハイブリドーマがない場合、例えばKohler及びMilstein, Nature, vol.256, pp.495-497, 1975に記載される方法などの公知の方法により、抗体産生ハイブリドーマを作製すればよい。あるいは、抗原としてサイトカインペプチドで免疫したマウスなどの動物の脾臓から取得したRNAを用いてもよい。脾臓から取得したRNAを用いる場合は、例えばFukunaga A.及びTsumoto K., Protein Eng. Des. Sel. 2013, vol.26, pp.773-780に示されるように、得られたscFvをコードするポリヌクレオチドの中から、ファージディスプレイ法などにより、元の抗体として所望の親和性を有するscFvをコードするポリヌクレオチドを選択してもよい。あるいは、公知のデータベースから所望の抗サイトカイン抗体のアミノ酸配列又は抗体遺伝子の塩基配列を取得し、それらの配列に基づいて遺伝子合成をして、抗体遺伝子を取得してもよい。
【0039】
改変抗体の抗原に対する親和性は、抗原抗体反応における動力学的パラメータにより評価してもよいし、ELISA法などの免疫学的測定法により評価してもよい。動力学的パラメータとしては、例えば解離定数(KD)、結合速度定数(kon)及び解離速度定数(koff)が挙げられる。それらの中でもKDが好ましい。免疫学的測定による親和性の指標としては、例えば50%効果濃度(EC50)が挙げられる。抗原抗体反応における動力学的パラメータは、表面プラズモン共鳴(SPR)技術などにより取得できる。KD又はEC50の値に基づいて、改変抗体の抗原に対する親和性と、元の抗体の抗原に対する親和性とを比較してもよい。改変抗体の抗原抗体反応におけるKDの値は、元の抗体と比較して、例えば、約1/2、約1/3、約1/4、約1/5、約1/6、約1/7、約1/8、約1/9、約1/10、約1/20、約1/30、約1/40、約1/50、約1/100又は約1/1000である。
【0040】
改変抗体は、例えば種々の試験及び研究、又は診断薬や治療薬の有効成分として利用され得る。改変抗体は、蛍光色素、酵素、放射性同位体、ビオチン、抗がん剤などの公知の物質で修飾して用いてもよい。
【0041】
本発明は、改変された抗サイトカイン抗体を製造する方法も提供する。本実施形態の抗原に対する親和性が向上した抗サイトカイン抗体の製造方法(以下、「製造方法」ともいう)では、まず、CDRの電気的特性が負電荷である抗サイトカイン抗体において、軽鎖FR3の少なくとも3つのアミノ酸残基をアルギニン残基又はリジン残基とした抗体を生成する。具体的には、本実施形態の方法と同様に、元の抗体において、Chothia法で定義される軽鎖の63位、65位、67位、70位及び72位からなる群より選択される少なくとも3カ所の残基を含む少なくとも3つのアミノ酸残基を、アルギニン残基又はリジン残基とする。
【0042】
本実施形態の製造方法では、上記の少なくとも3つのアミノ酸残基の改変により生成された抗体は、抗原に対する親和性が、元の抗体と比べて向上している。元の抗体及びアミノ酸残基の改変の詳細は、本実施形態の方法について述べたことと同様である。一実施形態では、元の抗体の軽鎖FR3においてアルギニン残基又はリジン残基とされる少なくとも3つのアミノ酸残基は、例えば、上記の1)~3)のいずれかであってもよい。
【0043】
本実施形態の製造方法において、改変抗体の生成は、公知のDNA組み換え技術及びその他の分子生物学的技術などにより行うことができる。例えば、まず、元の抗体のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドから、改変抗体のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドを作製する。そして、作製したポリヌクレオチドを用いて、タンパク質発現系により改変抗体を生成する。改変抗体のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドの作製及びタンパク質発現系による改変抗体の生成の詳細は、本実施形態の方法について述べたことと同じである。
【0044】
次いで、本実施形態の製造方法では、生成した抗体を回収することにより、改変抗体を得ることができる。タンパク質発現系から抗体を回収する方法自体は公知である。例えば、改変抗体が宿主細胞内に生成されている場合は、当該宿主細胞を、適当な可溶化剤を含む溶液で溶解して、該溶液中に改変抗体を遊離させてもよい。宿主細胞が、生成した改変抗体を細胞内から培地中に分泌する場合は、培養上清を回収すればよい。無細胞タンパク質合成系では、合成された改変抗体は反応液中に含まれる。液体中に遊離した改変抗体は、アフィニティクロマトグラフィなどの公知の方法により回収できる。例えば、生成した改変抗体がIgGである場合、プロテインA又はGを用いるアフィニティクロマトグラフィにより回収できる。必要に応じて、回収した改変抗体を、ゲルろ過などの公知の方法により精製してもよい。
【0045】
本実施形態の製造方法により得られた抗体の抗原に対する親和性は、抗原抗体反応における動力学的パラメータにより評価してもよいし、ELISA法などの免疫学的測定法により評価してもよい。抗体の抗原に対する親和性の指標として、例えばKD及びEC50を用いてもよい。また、KD又はEC50の値に基づいて、本実施形態の製造方法により得られた抗体の抗原に対する親和性と、元の抗体の抗原に対する親和性とを比較してもよい。
【0046】
本発明は、改変された抗サイトカイン抗体も提供する。本実施形態の抗サイトカイン抗体は、軽鎖FR3の少なくとも3つのアミノ酸残基がアルギニン残基又はリジン残基とされた抗サイトカイン抗体である。具体的には、Chothia法で定義される軽鎖の63位、65位、67位、70位及び72位からなる群より選択される少なくとも3カ所の残基を含む少なくとも3つのアミノ酸残基がアルギニン残基又はリジン残基とされた抗サイトカイン抗体である。本実施形態の抗体は、本実施形態の製造方法により得ることができる。
【0047】
本実施形態の抗体は、抗原に対する親和性が、所定のアミノ酸残基がアルギニン残基又はリジン残基とされる前の抗体よりも高いことを特徴とする。この親和性の比較の対象となる抗体は、上記の「元の抗体」と同じである。本実施形態の抗体の抗原に対する親和性は、抗原抗体反応における動力学的パラメータにより評価してもよいし、ELISA法などの免疫学的測定法により評価してもよい。抗体の抗原に対する親和性の指標として、例えばKD及びEC50を用いてもよい。また、KD又はEC50の値に基づいて、本実施形態の抗体の抗原に対する親和性と、元の抗体の抗原に対する親和性とを比較してもよい。本実施形態の抗体の抗原抗体反応におけるKDの値は、元の抗体と比較して、例えば、約1/2、約1/3、約1/4、約1/5、約1/6、約1/7、約1/8、約1/9、約1/10、約1/20、約1/30、約1/40、約1/50、約1/100又は約1/1000である。
【0048】
本実施形態の抗体は、CDRの電気的特性が負電荷であるという特徴を有する。すなわち、本実施形態の抗体は、1つの抗原結合部位に含まれるCDRのアミノ酸配列において、酸性アミノ酸残基の数が塩基性アミノ酸残基の数よりも2以上多い抗体である。1つの抗原結合部位に含まれるCDR及びCDRの電気的特性の詳細は、本実施形態の方法について述べたことと同じである。
【0049】
本実施形態の抗体は、抗原としてのサイトカインに特異的に結合する。サイトカインは特に限定されず、例えばインターロイキン、インターフェロン、ケモカイン、腫瘍壊死因子、細胞増殖因子などが挙げられる。好ましくは、本実施形態の抗体は抗インターロイキン抗体である。インターロイキンの種類は特に限定されない。本実施形態の抗体は、例えば抗IL-6抗体、抗IL-8抗体、抗IL-12抗体、抗IL-4抗体などであり得る。
【0050】
本実施形態の抗体は、いずれの動物に由来する抗体であってもよく、例えばヒト、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、ヤギ、ウマ、ニワトリなどに由来する抗体が挙げられる。本実施形態の抗体のクラスは、IgG、IgA、IgM、IgD及びIgEのいずれであってもよいが、好ましくはIgGである。本実施形態の抗体は、軽鎖の可変領域を含むかぎり、抗体断片であってもよい。そのような抗体断片としては、例えばFab、Fab'、F(ab')2、Fd、Fd'、Fv、scFv、dAb、rIgG、ダイアボディ、トリアボディなどが挙げられる。
【0051】
本実施形態の抗体は、サイトカインと特異的に結合する抗原結合部位を有する二重特異性抗体又は多重特異性抗体であってもよい。この場合、本実施形態の抗体における、サイトカインと特異的に結合する抗原結合部位は、下記の(a)及び(b)の条件を満たすことが好ましい。
【0052】
(a) 当該抗原結合部位において、Chothia法で定義される軽鎖の63位、65位、67位、70位及び72位からなる群より選択される少なくとも3カ所の残基を含む少なくとも3つのアミノ酸残基が、アルギニン残基又はリジン残基である;
(b) 当該抗原結合部位を構成する1つの重鎖可変領域及び1つの軽鎖可変領域に含まれるCDRのアミノ酸配列において、酸性アミノ酸残基の数が塩基性アミノ酸残基の数よりも2以上多い。
【0053】
本実施形態の抗体においては、軽鎖の63位、65位、67位、70位及び72位からなる群より選択される3つ又は4つのアミノ酸残基が、アルギニン残基又はリジン残基であってもよい。あるいは、本実施形態の抗体においては、軽鎖の63位、65位、67位、70位及び72位のアミノ酸残基が、アルギニン残基又はリジン残基であってもよい。
【0054】
本実施形態の抗体の軽鎖FR3において、アルギニン残基又はリジン残基である位置は、以下の(1)~(3)のいずれかである。
(1) Chothia法で定義される軽鎖の63位、65位及び67位;
(2) Chothia法で定義される軽鎖の63位、65位、67位及び70位;及び
(3) Chothia法で定義される軽鎖の63位、65位、67位、70位及び72位。
【0055】
本実施形態の抗体においては、軽鎖の63位、65位、67位、70位及び72位以外のアミノ酸残基、例えば、軽鎖の57位~62位、74位、76位、77位及び79位~81位から選択されるアミノ酸残基が、アルギニン残基又はリジン残基であってもよい。上述のとおり、軽鎖の57位~62位、74位、76位、77位及び79位~81位は、軽鎖FR3のアミノ酸配列からバーニアゾーン残基及び非露出残基を除いたアミノ酸残基の位置である。
【0056】
以下に、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例0057】
実施例1: 軽鎖FR3のアミノ酸残基を改変した抗サイトカイン抗体の作製
元の抗体として抗IL-6抗体、抗IL-8抗体、抗IL-12抗体及び抗IL-4抗体のそれぞれの抗体遺伝子を取得し、各抗体の変異体を作製した。そして、元の抗体及び各変異体の抗原に対する親和性を測定した。
【0058】
(1) 抗サイトカイン抗体の遺伝子の取得
(1.1) 抗IL-6抗体、抗IL-8抗体及び抗IL-12抗体の遺伝子の取得
マウス抗ヒトIL-6抗体を産生する2種のハイブリドーマ(クローン58-1及び44-15)、マウス抗ヒトIL-8抗体を産生する2種のハイブリドーマ(クローン166-1及び146-1)、及びマウス抗ヒトIL-12抗体を産生するハイブリドーマ(クローン22-4)の各培養物から細胞を回収した。細胞のペレット(約1x107 cells)を1 mLのISOGEN(株式会社ニッポンジーン)で溶解し、使用説明書に従ってトータルRNAを抽出した。得られたトータルRNAと、アンチセンスオリゴDNA(GTAAGCTCCCTAATGTGCTG:配列番号1)とを混合し、72℃で10分間加熱した後、氷冷してアニーリングを行った。得られた混合物にRNaseH(NEB社)を添加し、RNaseH処理を37℃で90分間行ってκ鎖偽遺伝子を消化した。RNaseH処理後の混合物を、RNeasy MinElute Cleanupキット(QIAGEN社)を用いて精製した。
【0059】
精製したRNAサンプルとSMARTer(登録商標)RACE 5'/3'キット(Clontech社)とを用いて、当該キットの添付文書に従ってcDNA合成を行った。また、得られたcDNAを鋳型として用いて、5'RACE反応を行った。得られた5'RACE産物を1%アガロースゲル電気泳動し、QIAquick Gel Extractionキット(QIAGEN社)を用いて精製した。得られた5’RACE産物、TaKaRa Ex Taq(登録商標)(タカラバイオ株式会社)、10x Ex Taq(登録商標)バッファー及び2.5 mM dATPを混合し、72℃で60分間反応させて、5’RACE産物の3’末端にデオキシリボアデノシン(dA)を付加した。得られたdA付加産物、QIAquick PCR Purificationキット(QIAGEN社)を用いて精製した。
【0060】
精製したdA付加産物をpMD20ベクター(タカラバイオ株式会社)にクローニングした。得られたプラスミドDNAでコンピテントセルDH5α株を常法により形質転換して、カルベニシリン含有LB寒天培地に塗布した。該寒天培地を37℃で16時間インキュベートした後、寒天培地上のシングルコロニーを常法のコロニーPCRで選抜した。選抜されたコロニーの大腸菌をカルベニシリン含有LB液体培地(2 mL)中で、37℃で16時間振とう培養した。回収した大腸菌からQIAprep Spin Miniprepキット(QIAGEN社)を用いてプラスミドDNAを抽出した。具体的な操作は、当該キットの添付文書に従って行った。得られたプラスミドDNAについて、M13 forプライマー及びM13 revプライマーを用いてシーケンス解析を行った。これらのプライマーの塩基配列は下記のとおりであった。得られたプラスミドDNAから所定の制限酵素により抗体遺伝子を切り出し、pcDNA3.4に挿入して、哺乳動物細胞発現用プラスミドDNAを得た。
【0061】
M13 for:GGTTTTCCCAGTCACGA (配列番号2)
M13 rev:AGGAAACAGCTATGACCATG (配列番号3)
【0062】
(1.2) 抗IL-4抗体の遺伝子取得
PDBに公開されているヒト抗IL-4抗体のアミノ酸配列の情報(PDB:5FHX)に基づいて、抗IL-4抗体の遺伝子を合成して、pcDNA3.4に挿入した。得られたプラスミドDNAについてシーケンス解析を行って、抗IL-4抗体(IgG)の遺伝子を含む哺乳動物細胞発現用プラスミドDNAを取得した。
【0063】
(1.3) 抗サイトカイン抗体の各遺伝子のアミノ酸配列
上記のハイブリドーマから取得した抗IL-6抗体、抗IL-8抗体及び抗IL-12抗体の各遺伝子の塩基配列に基づいて、各抗体(Fab)の重鎖及び軽鎖のアミノ酸配列を決定した。また、公知の抗IL-4抗体のアミノ酸配列を取得した。これらのアミノ酸配列は下記のとおりであった。各抗体の軽鎖のアミノ酸配列において、下線を引いた残基は、Chothia法で定義される軽鎖の63位、65位、67位、70位及び72位のアミノ酸残基である。また、各抗体のChothia法で定義されるCDRのアミノ酸配列を、表1~表6に示した。表1~表6から分かるように、いずれの抗体も、1つの抗原結合部位に含まれるCDRのアミノ酸配列において、酸性アミノ酸残基の数は、塩基性アミノ酸残基の数よりも2以上多かった。よって、いずれの抗体も、CDRの電気的特性が負電荷である抗サイトカイン抗体であった。
【0064】
・抗IL-6抗体(クローン58-1)の重鎖のアミノ酸配列
EVQLQQSGPELVKPGASVKMSCKASGYTFTSYVMHWVKQKPGQGLEWIGYINPYNDGTKYNEKFKGKATLTSDKSSSTAYMELSSLTSEDSAVYYCAREGYGNLERDCWGQGTSVTVSSASTKGPSVFPLAPSSKSTSGGTAALGCLVKDYFPEPVTVSWNSGALTSGVHTFPAVLQSSGLYSLSSVVTVPSSSLGTQTYICNVNHKPSNTKVDKKVEPKSCDKT (配列番号4)
【0065】
・抗IL-6抗体(クローン58-1)の軽鎖のアミノ酸配列
DIVLTQSPASLAVSLGQRATISCRASESVDGFGISFMNWFQQKPGQPPKLLIYVASNQGSGVPARFSGSGSGTDFSLNIHPMEEDDSAMYFCQQSKEVPWTFGGGTKLEIKR (配列番号5)
【0066】
【表1】
【0067】
・抗IL-6抗体(クローン44-15)の重鎖のアミノ酸配列
DVQLQESGPGLVKPSQTVSLTCTVTGISITTGNYRWSWIRQFPGNKLEWIGYIYYSGAITYNPSLTSRTTITRDTSMNQFFLEMISLTAEDTATYYCARDRYDYAVDFWGQGTSVTVSSASTKGPSVFPLAPSSKSTSGGTAALGCLVKDYFPEPVTVSWNSGALTSGVHTFPAVLQSSGLYSLSSVVTVPSSSLGTQTYICNVNHKPSNTKVDKKVEPKSCDKT (配列番号11)
【0068】
・抗IL-6抗体(クローン44-15)の軽鎖のアミノ酸配列
DIQMTQSPASLSASVGETVTITCRSSENIYSFLTWFQQRQGKSPHLLVYYANTLAEGVPSRFSGSGSGTQFSLQINSLQPEDFGTYYCQHHYGTPWTFGGGTRLEIKR (配列番号12)
【0069】
【表2】
【0070】
・抗IL-8抗体(クローン166-1)の重鎖のアミノ酸配列
EVKLVESGGGLVKPGGSLKLSCAASGFTFNNYAMSWVRQTPEKRLEWVASISSGGNTYYPDSVKGRFTLSRDNARNILYLQMSRLRSEDTAMYYCARDKLRLPNWYFDVWGAGTTVTVSSASTKGPSVFPLAPSSKSTSGGTAALGCLVKDYFPEPVTVSWNSGALTSGVHTFPAVLQSSGLYSLSSVVTVPSSSLGTQTYICNVNHKPSNTKVDKKVEPKSCDKT (配列番号17)
【0071】
・抗IL-8抗体(クローン166-1)の軽鎖のアミノ酸配列
DIVLTQSPPSLAVSLGQRATISCKASQSVDYDGDSYMNWYQQKPGQPPKVLIYGASNLESGIPARFSGSGSGTDFTLNIYPVEEEDAATYYCQQSNEDPPTFGGGTKLEIKR (配列番号18)
【0072】
【表3】
【0073】
・抗IL-8抗体(クローン146-1)の重鎖のアミノ酸配列
EVQLVESGGGLVKPGGSLKLSCAASGFTFSSYAMSWVRQTPEKRLEWVATISNGGSYTYYPDSLKGRFTISRDNAKNTLYLQMSSLRSEDTAIYYCARGITGGVYFDYWGQGTTLTVSSASTKGPSVFPLAPSSKSTSGGTAALGCLVKDYFPEPVTVSWNSGALTSGVHTFPAVLQSSGLYSLSSVVTVPSSSLGTQTYICNVNHKPSNTKVDKKVEPKSCDKT (配列番号23)
【0074】
・抗IL-8抗体(クローン146-1)の軽鎖のアミノ酸配列
DIQMTQSPASLSASVGETVTITCRASENIYSYLAWYQQKQGKSPHLLVYDAETLAEGVPSRFSGSGSGTQFSLKINSLQPEDFGSYYCQHHYGTPWTFGGGTKLEIKR (配列番号24)
【0075】
【表4】
【0076】
・抗IL-12抗体(クローン22-4)の重鎖のアミノ酸配列
EVQLQESGPSLVKPSQTLSLTCSVTGDSITSGYWNWIRKFPGNKLEYMGYISYSGSTYYNPSLKSRISITRDTSKNQNYLQLNSVTTEDTATYYCARRDTTVVVPYYFDYWGQGTTLTVSSASTKGPSVFPLAPSSKSTSGGTAALGCLVKDYFPEPVTVSWNSGALTSGVHTFPAVLQSSGLYSLSSVVTVPSSSLGTQTYICNVNHKPSNTKVDKKVEPKSCDKT (配列番号30)
【0077】
・抗IL-12抗体(クローン22-4)の軽鎖のアミノ酸配列
DIVMTQSHKFMSTSVGDRVSITCKASQDVGTAVAWYQQKPGQSPKLLIYWASTRHTGVPGRFTGSGSGTDFTLTINNVQSEDLADYFCQQYSSYPLTFGAGTKLELKR (配列番号31)
【0078】
【表5】
【0079】
・抗IL-4抗体の重鎖のアミノ酸配列
AVQLQQSGPELVKPGASVKISCKASGYSFTSYWIHWIKQRPGQGLEWIGMIDPSDGETRLNQRFQGRATLTVDESTSTAYMQLRSPTSEDSAVYYCTRLKEYGNYDSFYFDVWGAGTLVTVSSASTKGPSVFPLAPSSKSTSGGTAALGCLVKDYFPEPVTVSWNSGALTSGVHTFPAVLQSSGLYSLSSVVTVPSSSLGTQTYICNVNHKPSNTKVDKKVEPKSCDKTHTCPPCPAPELLGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSHEDPEVKFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQYNSTYRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKALPAPIEKTISKAKGQPREPQVYTLPPSRDELTKNQVSLTCLVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPPVLDSDGSFFLYSKLTVDKSRWQQGNVFSCSVMHEALHNHYTQKSLSLSPGK (配列番号36)
【0080】
・抗IL-4抗体の軽鎖のアミノ酸配列
DIQMTQSPASLSVSVGDTITLTCHASQNIDVWLSWFQQKPGNIPKLLIYKASNLHTGVPSRFSGSGSGTGFTLTISSLQPEDIATYYCQQAHSYPFTFGGGTKLEIKRTVAAPSVFIFPPSDEQLKSGTASVVCLLNNFYPREAKVQWKVDNALQSGNSQESVTEQDSKDSTYSLSSTLTLSKADYEKHKVYACEVTHQGLSSPVTMSFNRGEC (配列番号37)
【0081】
【表6】
【0082】
(2) 抗サイトカイン抗体の変異体の遺伝子の取得
[試薬]
QIAprep Spin Miniprepキット(QIAGEN社)
PrimeSTAR(登録商標) Max DNA Polymerase (タカラバイオ株式会社)
Ligation high ver.2 (東洋紡株式会社)
T4 Polynucleotide Kinase (東洋紡株式会社)
Dpn I (東洋紡株式会社)
Competent high DH5α(東洋紡株式会社)
【0083】
(2.1) プライマーの設計及びPCR
取得した各プラスミドDNA中の野生型抗サイトカイン抗体遺伝子の塩基配列に基づいて、重鎖をコードするポリヌクレオチドを得るためのプライマーセット、及び、FR3における下記の3つ、4つ又は5つのアミノ酸残基をアルギニン残基に置換した軽鎖をコードするポリヌクレオチドを得るためのプライマーセットを設計した。
【0084】
- Chothia法で定義される軽鎖の63位、65位及び67位のアミノ酸残基;
- Chothia法で定義される軽鎖の63位、65位、67位及び70位のアミノ酸残基;及び
- Chothia法で定義される軽鎖の63位、65位、67位、70位及び72位のアミノ酸残基。
【0085】
以下、各抗体の変異体について、Chothia法で定義される軽鎖の63位、65位及び67位のアミノ酸残基をアルギニン残基にした変異体を「R3変異体」と呼び、Chothia法で定義される軽鎖の63位、65位、67位及び70位のアミノ酸残基をアルギニン残基にした変異体を「R4変異体」と呼び、Chothia法で定義される軽鎖の63位、65位、67位、70位及び72位のアミノ酸残基をアルギニン残基にした変異体を「R5変異体」と呼ぶ。なお、抗IL-12抗体及び抗IL-4抗体については、R5変異体を作製しなかった。
【0086】
取得した各プラスミドDNAを鋳型として用いて、以下の組成のPCR反応液を調製した。
[PCR反応液]
PrimeSTAR(登録商標) Max DNA Polymerase 12.5μL
フォワードプライマー(10μM) 0.5μL
リバースプライマー(10μM) 0.5μL
鋳型プラスミド(1 ng/μL) 1μL
精製水 10.5μL
合計 25μL
【0087】
調製したPCR反応液を下記の反応条件でPCR反応に付した。
[反応条件]
98℃で10秒、
98℃で10秒、55℃で5秒、及び72℃で40秒を25サイクル、及び
72℃で3分。
【0088】
得られたPCR産物(25μL)に1μLのDpnI(10 U/μL)を添加して、PCR産物を断片化した。DpnI処理済みPCR産物を用いて、以下の組成のライゲーション反応液を調製した。該反応液を16℃にて1時間インキュベートして、ライゲーション反応を行った。
【0089】
[ライゲーション反応液]
DpnI処理済みPCR産物 2μL
Ligation high ver.2 5μL
T4ポリヌクレオチドキナーゼ 1μL
精製水 7μL
合計 15μL
【0090】
(2.2) トランスフォーメーション、プラスミド抽出及びシーケンスの確認
ライゲーション反応後の溶液(3μL)をDH5α(30μL)に添加して、氷上で30分静置した後、混合物を42℃にて45秒間加熱してヒートショックを行った。再度、氷上で2分静置した後、全量をアンピシリン含有LB寒天培地に塗布した。該寒天培地を37℃で16時間インキュベートすることで、大腸菌の形質転換体を得た。寒天培地上のシングルコロニーをアンピシリン含有LB液体培地(2 mL)中に取り、37℃で16時間振とう培養した。得られた大腸菌からQIAprep Spin Miniprepキットを用いてプラスミドDNAを抽出した。得られた各プラスミドDNAのシーケンシングによる確認を、ユーロフィンジェノミクス社に委託した。。
【0091】
(2.4) 変異体のアミノ酸配列
抗IL-6抗体、抗IL-8抗体及び抗IL-12抗体の変異体の遺伝子の塩基配列に基づいて、各変異体(Fab)の重鎖及び軽鎖のアミノ酸配列を決定した。また、抗IL-4抗体の変異体の遺伝子の塩基配列に基づいて、各変異体(IgG)の重鎖及び軽鎖のアミノ酸配列を決定した。各変異体の軽鎖のアミノ酸配列を以下に示す。下線部は、元の抗体のアミノ酸配列から変更されたアミノ酸残基を示す。
【0092】
・抗IL-6抗体(クローン58-1)のR3変異体の軽鎖のアミノ酸配列
DIVLTQSPASLAVSLGQRATISCRASESVDGFGISFMNWFQQKPGQPPKLLIYVASNQGSGVPARFRGRGRGTDFSLNIHPMEEDDSAMYFCQQSKEVPWTFGGGTKLEIKR (配列番号43)
【0093】
・抗IL-6抗体(クローン58-1)のR4変異体の軽鎖のアミノ酸配列
DIVLTQSPASLAVSLGQRATISCRASESVDGFGISFMNWFQQKPGQPPKLLIYVASNQGSGVPARFRGRGRGTRFSLNIHPMEEDDSAMYFCQQSKEVPWTFGGGTKLEIKR (配列番号44)
【0094】
・抗IL-6抗体(クローン58-1)のR5変異体の軽鎖のアミノ酸配列
DIVLTQSPASLAVSLGQRATISCRASESVDGFGISFMNWFQQKPGQPPKLLIYVASNQGSGVPARFRGRGRGTRFRLNIHPMEEDDSAMYFCQQSKEVPWTFGGGTKLEIKR (配列番号45)
【0095】
・抗IL-6抗体(クローン44-15)のR3変異体の軽鎖のアミノ酸配列
DIQMTQSPASLSASVGETVTITCRSSENIYSFLTWFQQRQGKSPHLLVYYANTLAEGVPSRFRGRGRGTQFSLQINSLQPEDFGTYYCQHHYGTPWTFGGGTRLEIKR (配列番号46)
【0096】
・抗IL-6抗体(クローン44-15)のR4変異体の軽鎖のアミノ酸配列
DIQMTQSPASLSASVGETVTITCRSSENIYSFLTWFQQRQGKSPHLLVYYANTLAEGVPSRFRGRGRGTRFSLQINSLQPEDFGTYYCQHHYGTPWTFGGGTRLEIKR (配列番号47)
【0097】
・抗IL-6抗体(クローン44-15)のR5変異体の軽鎖のアミノ酸配列
DIQMTQSPASLSASVGETVTITCRSSENIYSFLTWFQQRQGKSPHLLVYYANTLAEGVPSRFRGRGRGTRFRLQINSLQPEDFGTYYCQHHYGTPWTFGGGTRLEIKR (配列番号48)
【0098】
・抗IL-8抗体(クローン166-1)のR3変異体の軽鎖のアミノ酸配列
DIVLTQSPPSLAVSLGQRATISCKASQSVDYDGDSYMNWYQQKPGQPPKVLIYGASNLESGIPARFRGRGRGTDFTLNIYPVEEEDAATYYCQQSNEDPPTFGGGTKLEIKR (配列番号49)
【0099】
・抗IL-8抗体(クローン166-1)のR4変異体の軽鎖のアミノ酸配列
DIVLTQSPPSLAVSLGQRATISCKASQSVDYDGDSYMNWYQQKPGQPPKVLIYGASNLESGIPARFRGRGRGTRFTLNIYPVEEEDAATYYCQQSNEDPPTFGGGTKLEIKR (配列番号50)
【0100】
・抗IL-8抗体(クローン166-1)のR5変異体の軽鎖のアミノ酸配列
DIVLTQSPPSLAVSLGQRATISCKASQSVDYDGDSYMNWYQQKPGQPPKVLIYGASNLESGIPARFRGRGRGTRFRLNIYPVEEEDAATYYCQQSNEDPPTFGGGTKLEIKR (配列番号51)
【0101】
・抗IL-8抗体(クローン146-1)のR3変異体の軽鎖のアミノ酸配列
DIQMTQSPASLSASVGETVTITCRASENIYSYLAWYQQKQGKSPHLLVYDAETLAEGVPSRFRGRGRGTQFSLKINSLQPEDFGSYYCQHHYGTPWTFGGGTKLEIKR (配列番号52)
【0102】
・抗IL-8抗体(クローン146-1)のR4変異体の軽鎖のアミノ酸配列
DIQMTQSPASLSASVGETVTITCRASENIYSYLAWYQQKQGKSPHLLVYDAETLAEGVPSRFRGRGRGTRFSLKINSLQPEDFGSYYCQHHYGTPWTFGGGTKLEIKR (配列番号53)
【0103】
・抗IL-8抗体(クローン146-1)のR5変異体の軽鎖のアミノ酸配列
DIQMTQSPASLSASVGETVTITCRASENIYSYLAWYQQKQGKSPHLLVYDAETLAEGVPSRFRGRGRGTRFRLKINSLQPEDFGSYYCQHHYGTPWTFGGGTKLEIKR (配列番号54)
【0104】
・抗IL-12抗体(クローン22-4)のR3変異体の軽鎖のアミノ酸配列
DIVMTQSHKFMSTSVGDRVSITCKASQDVGTAVAWYQQKPGQSPKLLIYWASTRHTGVPGRFRGRGRGTDFTLTINNVQSEDLADYFCQQYSSYPLTFGAGTKLELKR (配列番号55)
【0105】
・抗IL-12抗体(クローン22-4)のR4変異体の軽鎖のアミノ酸配列
DIVMTQSHKFMSTSVGDRVSITCKASQDVGTAVAWYQQKPGQSPKLLIYWASTRHTGVPGRFRGRGRGTRFTLTINNVQSEDLADYFCQQYSSYPLTFGAGTKLELKR (配列番号56)
【0106】
・抗IL-12抗体(クローン22-4)のR5変異体の軽鎖のアミノ酸配列
DIVMTQSHKFMSTSVGDRVSITCKASQDVGTAVAWYQQKPGQSPKLLIYWASTRHTGVPGRFRGRGRGTRFRLTINNVQSEDLADYFCQQYSSYPLTFGAGTKLELKR (配列番号57)
【0107】
・抗IL-4抗体のR3変異体の軽鎖のアミノ酸配列
DIQMTQSPASLSVSVGDTITLTCHASQNIDVWLSWFQQKPGNIPKLLIYKASNLHTGVPSRFRGRGRGTGFTLTISSLQPEDIATYYCQQAHSYPFTFGGGTKLEIKRTVAAPSVFIFPPSDEQLKSGTASVVCLLNNFYPREAKVQWKVDNALQSGNSQESVTEQDSKDSTYSLSSTLTLSKADYEKHKVYACEVTHQGLSSPVTMSFNRGEC (配列番号58)
【0108】
・抗IL-4抗体のR4変異体の軽鎖のアミノ酸配列
DIQMTQSPASLSVSVGDTITLTCHASQNIDVWLSWFQQKPGNIPKLLIYKASNLHTGVPSRFRGRGRGTRFTLTISSLQPEDIATYYCQQAHSYPFTFGGGTKLEIKRTVAAPSVFIFPPSDEQLKSGTASVVCLLNNFYPREAKVQWKVDNALQSGNSQESVTEQDSKDSTYSLSSTLTLSKADYEKHKVYACEVTHQGLSSPVTMSFNRGEC (配列番号59)
【0109】
(3) 野生型抗体及び変異体の哺乳動物細胞での発現
以下、調製されたプラスミドDNAを、哺乳動物細胞発現用プラスミドDNAとして用いた。
【0110】
[試薬]
Expi293(商標)細胞(Invitrogen社)
Expi293(商標) Expression培地(Invitrogen社)
ExpiFectamine(商標)293トランスフェクションキット(Invitrogen社)
【0111】
(3.1) トランスフェクション
Expi293細胞は、5%CO2雰囲気下、37℃にて振とう培養(125rpm)して増殖させた。サンプル数に応じた数の30 mLの細胞培養物(3x106 cells/mL)を準備した。野生型の各抗体及びそれらの変異体の重鎖及び軽鎖をコードするプラスミドDNAを用いて、以下の組成のDNA溶液を調製し、5分間静置した。
【0112】
[DNA溶液]
軽鎖プラスミド溶液 15μgに相当する量(μL)
重鎖プラスミド溶液 15μgに相当する量(μL)
Opti-MEM(商標) 適量(mL)
合計 1.5 mL
【0113】
以下の組成のトランスフェクション試薬を調製し、5分間静置した。
ExpiFectamine試薬 80μL
Opti-MEM(商標) 1420μL
合計 1.5 mL
【0114】
調製したDNA溶液及びトランスフェクション試薬を混合して、20分間静置した。得られた混合液(3 mL)を細胞培養物(30 mL)に添加して、5%CO2雰囲気下、37℃にて20時間振とう培養(125 rpm)した。20時間後、各培養物に、ExpiFectamine(商標)トランスフェクションエンハンサー1及び2をそれぞれ150μL及び1.5 mLを添加して、5%CO2雰囲気下、37℃にて4日間振とう培養(125 rpm)した。
【0115】
(3.2) 抗体の回収及び精製
各細胞培養物を3,000 rpmで15分間遠心処理して、培養上清を回収した。培養上清には、トランスフェクションされたExpi293(商標)細胞から分泌された各抗体が含まれる。得られた培養上清を再度、10,000×Gで10分間遠心処理して、上清を回収した。得られた上清(30 mL)に対して300μLの抗体精製用担体HisPur Ni-NTA Superflow(Thermo Fisher Scientific社)を添加して、4℃にて16時間反応させた。担体を回収して上清を除去し、TBS(1 mL)を添加して担体を洗浄した。担体に300 mM イミダゾールを含むTBSを1000μL添加して、担体に捕捉された抗体を溶出した。この溶出操作を合計3回行い、抗体溶液を取得した。
【0116】
(4) 抗原に対する親和性の測定
(4.1) 抗IL-6抗体、抗IL-8抗体及び抗IL-12抗体について
元の抗体及び各変異体の親和性を、Biacore(登録商標) 8K(Cytiva社)を用いて測定した。抗原として、ヒトIL6タンパク質, His及びGSTタグ(アクティブ)(GTX00094-pro:GeneTex社)、インターロイキン8(CXCL8)(100-175:Shenandoah Biotechnology社)及びヒトIL12タンパク質(組換え型His, C末端)(aa23-328)(LS-G134297-50:LSBio社)を用いた。Biacore(登録商標)用センサーチップSeries S Sensor Chip CM4(GEヘルスケア社)に抗原を固定化した。上記(3.2)で取得した各抗体溶液を希釈して、測定用抗体溶液を調製した。測定用抗体溶液における各抗体の濃度は、次のとおりであった。抗IL-6抗体(58-1)及びそのR3、R4及びR5変異体の溶液では、100 nM、50 nM、25 nM、12.5nM及び6.25 nMであった。抗IL-6抗体(44-15)の溶液では、100 nM、50 nM、25 nM、12.5 nM及び6.25 nMであり、そのR3、R4及びR5変異体の溶液では、50 nM、25 nM、12.5 nM、6.25 nM及び3.13 nMであった。抗IL-8抗体(166-1)及びそのR3、R4及びR5変異体の溶液では、100 nM、50 nM、25 nM、12.5 nM及び6.25 nMであった。抗IL-8抗体(146-1)の溶液では、100 nM、50 nM、25 nM、12.5 nM及び6.25 nMであり、そのR3変異体の溶液では、50 nM、25 nM、12.5 nM、6.25 nM及び3.13 nMであり、そのR4及びR5変異体の溶液では、25 nM、12.5 nM、6.25 nM、3.13 nM及び1.56 nMであった。抗IL-12抗体の溶液では、50 nM、25 nM、12.5 nM、6.25 nM及び3.13 nMであり、そのR3変異体の溶液では、25 nM、12.5 nM、6.25 nM、3.13 nM及び1.56 nMであり、そのR4変異体の溶液では、12.5 nM、6.25 nM、3.13 nM、1.56 nM及び0.78 nMであった。
【0117】
各濃度の測定用抗体溶液をBiacore(登録商標) 8K(Cytiva社社)に送液した(association time 120秒及びdissociation time 1200秒)。測定データをBiacore(登録商標) Evaluationソフトウェアを用いて解析し、各抗体の抗原に対する親和性のデータを取得した。
【0118】
(4.2) 抗IL-4抗体について
元の抗IL-4抗体及び各変異体の親和性をELISA法で測定した。抗原として、アニマルフリー組換え型ヒトIL-4(AF-200-04:Peprotech社)を用いた。このIL-4を1%BSA/TBSで希釈して、抗原溶液(5 μg/mL)を調製した。元の抗IL-4抗体、R3変異体及びR4変異体のそれぞれを1%BSA/TBSで希釈して、抗体溶液(1000 ng/mL、250 ng/mL、62.5 ng/mL、15.63 ng/mL、3.91 ng/mL、0.98 ng/mL及び0.244 ng/mL)を調製した。検出抗体として、HRP標識抗ヒトIgG抗体(Bethyl Laboratories社)を用いた。この検出抗体を1%BSA/TBSで希釈して、検出抗体溶液(100ng/mL)を調製した。
【0119】
ELISA用96ウェルプレート(Thermo Fisher Scientific社)に抗原溶液を1ウェル当たり50μLで分注し、プレートを4℃で一晩インキュベートした。プレートを、1ウェル当たり200μLの洗浄液(0.05%Tween20含有TBS)で3回洗浄した。ブロッキング溶液(1%BSA含有TBS)を1ウェルあたり250μLで分注し、プレートを4℃で一晩インキュベートした。ブロッキング溶液を除去し、プレートに抗体溶液を1ウェル当たり50μLで分注し、プレートを室温で15分間インキュベートした。プレートを洗浄液で3回洗浄した後、検出抗体溶液を1ウェルあたり50μLで分注し、プレートを室温で1時間インキュベートした。プレートを洗浄液で3回洗浄した後、プレートに基質溶液(Seracare社)を1ウェル当たり100μLで分注し、プレートリーダーSpectraMax 190 Microplate Reader (Molecular Devices社)により450 nmの吸光度を測定した。
【0120】
(5) 結果
元の抗IL-6抗体、抗IL-8抗体及び抗IL-12抗体(未改変)及びそれらの各変異体のKD値を、表7~表11に示した。また、KD値に基づいて、元の抗体の親和性を1.0としたときの各変異体の親和性の比(KD ratio)も示した。元の抗IL-4抗体(未改変)及び各変異体のELISA法の測定結果を図1に示した。元の抗IL-4抗体(未改変)及び各変異体のEC50の値を、表12に示した。また、EC50の値に基づいて、元の抗IL-4抗体の親和性を1.0としたときの各変異体の親和性の比(EC50 ratio)も示した。
【0121】
【表7】
【0122】
【表8】
【0123】
【表9】
【0124】
【表10】
【0125】
【表11】
【0126】
【表12】
【0127】
表7~表11に示されるように、抗IL-6抗体、抗IL-8抗体及び抗IL-12抗体のいずれの変異体のKD値も、元の抗体のKD値より低くなっていた。また、表12及び図1に示されるように、抗IL-4抗体の変異体のEC50の値は、元の抗体のEC50の値より低くなっていた。このように、抗IL-6抗体、抗IL-8抗体、抗IL-12抗体及び抗IL-4抗体の変異体は、それぞれの元の抗体に比べて、抗原に対する親和性が向上した。
図1
【配列表】
2023042974000001.app