(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023043035
(43)【公開日】2023-03-28
(54)【発明の名称】クリンカ抑制剤
(51)【国際特許分類】
F23J 3/00 20060101AFI20230320BHJP
F23J 7/00 20060101ALI20230320BHJP
【FI】
F23J3/00 Z
F23J7/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021150510
(22)【出願日】2021-09-15
(71)【出願人】
【識別番号】000108546
【氏名又は名称】株式会社イチネンケミカルズ
(74)【代理人】
【識別番号】100102141
【弁理士】
【氏名又は名称】的場 基憲
(74)【代理人】
【識別番号】100137316
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 宏
(72)【発明者】
【氏名】石渡 岳大
【テーマコード(参考)】
3K261
【Fターム(参考)】
3K261GA09
3K261GA17
(57)【要約】
【課題】低融点成分が多いバイオマス燃料であってもクリンカの付着を抑制できるクリンカ抑制剤を提供する。
【解決手段】本発明のクリンカ抑制剤は、燃焼灰中の酸化カリウム(K2O)と酸化ナトリウム(Na2O)との合計含有量が10質量%以上である燃料を用いる燃焼設備用のクリンカ抑制剤である。
そして、酸化アルミニウム(Al2O3)源と酸化マグネシウム(MgO)源とを含有することとしたため、バイオマス燃料由来のクリンカの付着を抑制できる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼灰中の酸化カリウム(K2O)と酸化ナトリウム(Na2O)との合計含有量が10質量%以上である燃料を用いる燃焼設備用のクリンカ抑制剤であって、
酸化アルミニウム(Al2O3)源と酸化マグネシウム(MgO)源とを含有することを特徴とするクリンカ抑制剤。
【請求項2】
上記燃料の燃焼灰中の酸化カリウム含有量が15質量%以上であることを特徴とする請求項1に記載のクリンカ抑制剤。
【請求項3】
上記酸化アルミニウム源が、カオリンであることを特徴とする請求項1又は2に記載のクリンカ抑制剤。
【請求項4】
上記燃焼設備の燃焼温度が600℃以上1200℃以下であることを特徴とする請求項3に記載のクリンカ抑制剤。
【請求項5】
酸化アルミニウム源と酸化マグネシウム源との質量比(Al2O3/MgO)が、3/7~5/5であることを特徴とする請求項1~4のいずれか1つの項に記載のクリンカ抑制剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クリンカ抑制剤に係り、更に詳細には、バイオマス燃料を用いる燃焼設備用のクリンカ抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化防止や循環型社会形成等の観点から、カーボンニュートラルなバイオマス燃料の利活用が推進されている。
【0003】
バイオマス燃料は、石油や石炭などの化石燃料に比して燃焼灰中に含まれる低融点成分が多く、この低融点成分は、高温に晒されて溶融し、熱交換器や排気経路などにクリンカとして付着する。
【0004】
そして、熱交換器や排気経路などにクリンカが付着すると、熱回収効率の低下や排気経路の閉塞等の問題を生じるので、燃焼炉等の運転を停止して清掃作業を行い、熱交換器や排気経路などに付着したクリンカを除去する必要が生じる。
【0005】
特許文献1には、所望の金属化合物粒子を含有するクリンカ防止剤を燃料に添加することで、クリンカの付着を抑制し得る旨が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載のクリンカ防止剤は、酸化マグネシウムや酸化鉄など、金属成分が単一成分である金属化合物を用いるものであり、クリンカの付着抑制効果が未だ十分ではない。
【0008】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、低融点成分が多いバイオマス燃料であってもクリンカの付着を抑制できる新規のクリンカ抑制剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、金属酸化物となる金属成分を単独で用いるのではなく、金属酸化物となる金属成分を2種以上合わせて用いることでバイオマス燃料由来のクリンカの発生を従来以上に抑制できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、上記課題は、下記第(1)項~第(5)項のいずれか1つの項に記載の本発明によって解決される。
(1)燃焼灰中の酸化カリウム(K2O)と酸化ナトリウム(Na2O)との合計含有量が10質量%以上である燃料を用いる燃焼設備用のクリンカ抑制剤であって、
酸化アルミニウム(Al2O3)源と酸化マグネシウム(MgO)源とを含有することを特徴とするクリンカ抑制剤。
(2)上記燃料の燃焼灰中の酸化カリウム含有量が15質量%以上であることを特徴とする上記第(1)項に記載のクリンカ抑制剤。
(3)上記酸化アルミニウム源が、カオリンであることを特徴とする上記第(1)項又は第(2)項に記載のクリンカ抑制剤。
(4)上記燃焼設備の燃焼温度が600℃以上1200℃以下であることを特徴とする上記第(3)項に記載のクリンカ抑制剤。
(5)酸化アルミニウム源と酸化マグネシウム源との質量比(Al2O3/MgO)が、3/7~5/5であることを特徴とする上記第(1)項~上記第(4)項のいずれか1つの項に記載のクリンカ抑制剤。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、酸化アルミニウム(Al2O3)源と酸化マグネシウム(MgO)源とを含有することとしたため、バイオマス燃料由来のクリンカ付着を抑制できるクリンカ抑制剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】バイオマス灰の融液量と温度との関係を示すグラフである。
【
図2】石炭灰の融液量と温度との関係を示すグラフである。
【
図3】クリンカ抑制剤による融液量が10%になる温度の上昇量を示すグラフである。
【
図4】MgO源とAl
2O
3源との混合比を変えたときの融液量と温度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のクリンカ抑制剤は、バイオマス燃料を燃焼させることで生じるクリンカの付着を抑制するものであり、酸化アルミニウム(Al2O3)源と酸化マグネシウム(MgO)源とを含有する。
【0014】
上記酸化アルミニウム源としては、燃焼により酸化アルミニウムを生じるものを使用でき、例えば、水酸化アルミニウム、炭酸アルミニウム、酸化アルミニウムなどのアルミニウム化合物の他、カオリンや長石など酸化アルミニウムを含む鉱石を使用できる。
【0015】
また、酸化マグネシウム源としては、燃焼により酸化マグネシウムを生じるものを使用でき、例えば、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、酢酸マグネシウム、硝酸マグネシウムなどのマグネシウム化合物を使用できる。
【0016】
バイオマス燃料の燃焼灰は、石炭の燃焼灰に比し、酸化カリウム(K2O)や酸化ナトリウム(Na2O)といった低融点成分の含有量が多く、溶融点が燃焼室の温度よりも低いため、溶融した融液が生じて燃焼灰がベタつき、熱交換器や排気経路などに付着するという石炭灰とは異なる問題を有する。
【0017】
表1に、代表的なバイオマス燃料と石炭の燃焼灰に含まれる酸化カリウムと酸化ナトリウムの量を示す。バイオマス燃料の燃焼灰は、酸化カリウムと酸化ナトリウムとの合計含有量が10質量%以上であり、特に、酸化カリウムの含有量が多い。この酸化カリウムは燃焼時に燃料中の他成分と共晶物を形成することで溶融し、熱交換機や排気経路などクリンカとして付着する。
【0018】
【0019】
また、
図1に草木ペレットの燃焼灰を、熱機械分析装置(TMA)で測定した融液量と温度との関係を、熱交換器から除去したクリンカを加熱したときの融液量と温度との関係とあわせて示す。また、
図2に、石炭の燃焼灰の融液量と温度との関係を示す。
【0020】
草木ペレットの燃焼灰は、800℃で融液量が20%を超えており、燃焼灰がベタついて熱交換器や排気経路などに付着し易い。一方、石炭灰は、その融液量が20%を超えるのは1200℃以上であり、800℃では融液がほとんど生じていない。
【0021】
本発明者は、このような低融点成分を生じるバイオマス燃料を燃焼させたとしても、クリンカの付着を抑制できる成分を探索した。
【0022】
草木ペレットの燃焼灰に10質量%のクリンカ抑制成分を添加し、燃焼灰の融液量が10%になるときの温度を測定した。
クリンカ抑制成分を添加しない草木ペレット単独の燃焼灰は、融液量が10%になる温度が764.9℃であった。この温度に対するクリンカ抑制成分を添加したときの温度上昇量を
図3に示す。
【0023】
Ca(OH)2は融液量が10%になるときの温度が低下し、SiO2はクリンカ抑制効果が確認されなかった。Fe2O3とポリ硫酸第二鉄は、上記温度が上昇したが、上昇量はわずかであった。
【0024】
Al2O3と、MgO及びMg(OH)2は、上記温度の上昇が大きく、クリンカ抑制効果が確認された。特に、2SiO2Al2O3・2H2Oを主成分(80質量%以上)とするカオリンは、その構成成分であるAl2O3単独又はSiO2単独に比してクリンカ抑制効果が大きく、金属酸化物を構成する金属成分を2種以上混合することでクリンカ抑制効果が向上する可能性があることが確認された。
【0025】
そこで、燃焼灰の融液量が10%になる温度の上昇が大きいMg(OH)2とAl2O3との1:1混合物、及びMg(OH)2とカオリンとの1:1混合物を添加したところ、それぞれ単独で添加したときよりもクリンカ抑制効果が大きかった。
【0026】
次に、MgO源とAl
2O
3源との混合比を変えて融液量と温度との関係を調べた。
測定結果を
図4に示す。
【0027】
クリンカの付着を効果的に抑制できる融液量が10%未満の範囲では、Mg(OH)2とカオリンとが1:1の混合物が、Mg(OH)2とAl2O3とが1:1の混合物よりも融液量が少なかった。
【0028】
Mg(OH)2とカオリンとの混合比を変えて添加したところ、すべての混合比においてクリンカ抑制効果を奏したが、Mg(OH)2とカオリンとが1:1の混合物が最もクリンカ抑制効果が高く、高温での燃焼が可能であった。
【0029】
また、クリンカの圧潰強度、すなわち、付着したクリンカの除去し易さについて調べた。測定結果を
図5に示す。
【0030】
圧潰強度は、直径10mm、高さ8mmの円筒形の型に燃焼灰を詰め、200Kg、3分の条件で荷重をかけて燃焼灰タブレットとし、これを800℃、2時間焼成してクリンカを作製し、オートグラフを用いて円筒形クリンカの横向きの圧潰強度を測定した。
【0031】
Mg(OH)2とカオリンとの混合物は、その構成成分が、Mg(OH)2、SiO2、及びAl2O3をそれぞれ混合した混合物と同じ構成成分であるにもかかわらず、圧潰強度が低下した。
【0032】
この理由は明らかにされているわけではないが、カオリンのモース硬度は1~2であり、SiO2の8.5~9、Al2O3の9よりもはるかに小さいのに加えて、カオリンは劈開性を有するので、カオリンの融点以下の温度域、例えば、バイオマス燃料を用いる燃焼設備の燃焼温度域である600℃~1200℃の範囲では、カオリンの性状が維持されるためではないかと推察される。
【0033】
図5からカオリンとMg(OH)
2との質量比(カオリン/Mg(OH)
2)が、3/7~5/5の範囲でクリンカの圧潰強度が低下し、付着したクリンカを除去し易くなることが分かる。
【0034】
本発明のクリンカ抑制剤は、粉体又はスラリー状とし、バイオマス燃料と共に、又は燃焼設備の燃焼炉の他、クリンカが付着し易い熱交換器や排気経路に添加することでクリンカの付着を抑制できる。特に、燃焼灰の酸化カリウムが15質量%以上であるバイオマス燃料に有用である。