IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ NOK株式会社の特許一覧

<図1>
  • 特開-トーショナルダンパー 図1
  • 特開-トーショナルダンパー 図2
  • 特開-トーショナルダンパー 図3
  • 特開-トーショナルダンパー 図4
  • 特開-トーショナルダンパー 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023043048
(43)【公開日】2023-03-28
(54)【発明の名称】トーショナルダンパー
(51)【国際特許分類】
   F16F 15/126 20060101AFI20230320BHJP
   F16F 15/12 20060101ALI20230320BHJP
   F16H 55/36 20060101ALI20230320BHJP
【FI】
F16F15/126 B
F16F15/12 S
F16H55/36 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021150533
(22)【出願日】2021-09-15
(71)【出願人】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003177
【氏名又は名称】弁理士法人旺知国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】成田 信彦
【テーマコード(参考)】
3J031
【Fターム(参考)】
3J031AA04
3J031BA10
3J031CA03
(57)【要約】
【課題】ハブ20の内部の空間Aにおける負圧を解消する。
【解決手段】トーショナルダンパー10は、シャフト2に取り付けられるハブ20と、ハブの外周に装着されるリング状の弾性体30と、リング状の弾性体の外周に設けられるリング状のダンパーマス40と、シャフトの軸線方向Xにおいてハブに対してシャフトとは反対側に配置される円盤状の防音板50と、を備える。シャフトの軸線方向において、シャフトを保持する機器のハウジング5のとダンパーマスの外壁に近い方の端面40cとの間には隙間Gが形成されている。防音板には、防音板の板厚方向に貫通する空気流入口70が形成されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シャフトに取り付けられるハブと、
前記ハブの外周に装着されるリング状の弾性体と、
前記リング状の弾性体の外周に設けられるリング状のダンパーマスと、
前記シャフトの軸線方向において前記ハブに対して前記シャフトとは反対側に配置される円盤状の防音板と、を備え、
前記シャフトの軸線方向において、前記シャフトを保持する機器のハウジングの外壁と前記ダンパーマスの前記外壁に近い方の端面との間には隙間が形成され、
前記防音板には、前記防音板の板厚方向に貫通する空気流入口が形成されている、トーショナルダンパー。
【請求項2】
前記空気流入口は、前記防音板の径方向における中央部に位置し、
前記空気流入口の中心は、前記シャフトの軸線と同軸に位置する、請求項1に記載のトーショナルダンパー。
【請求項3】
前記空気流入口の面積は、前記ダンパーマスの前記外壁に近い方の端面の外周の長さと、前記シャフトの軸線方向に沿う前記隙間の幅の40%以上60%以下の長さとの積である面積に等しい、請求項1又は2に記載のトーショナルダンパー。
【請求項4】
前記空気流入口の面積は、前記ダンパーマスの周方向における前記隙間の長さと、前記シャフトの軸線方向に沿う前記隙間の幅の50%の長さとの積である面積に等しい、請求項1~3の何れか一項に記載のトーショナルダンパー。
【請求項5】
前記ハブは、
前記シャフトに取り付けられるボスと、
前記ボスから前記シャフトの径方向に延びる連結部と、
前記ハブの外周を成し前記連結部を介して前記ボスに連結されるリムと、を有し、
前記連結部には、前記軸線方向に貫通する複数の開口が形成されている、請求項1~4の何れか一項に記載のトーショナルダンパー。
【請求項6】
前記シャフトと同軸に配置され、前記シャフトの軸線方向において前記ハブを前記シャフトに押し当てて、前記ハブを前記シャフトに固定するセンターボルトを備え、
前記空気流入口の内径は、前記センターボルトのヘッドの前記防音板に近い方の端部の外径よりも大きい、請求項1~5の何れか一項に記載のトーショナルダンパー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、トーショナルダンパーに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載のトーショナルダンパーは、例えば、シャフトに取り付けられるハブと、ハブに対してゴム状の弾性体を介して連結される振動リングと、振動リングに装着される円盤状の防音カバーとを備える。シャフトの軸線方向において、シャフトを保持する機器のハウジングの外壁と、トーショナルダンパーとの間には隙間が形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009-8237号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、トーショナルダンパーが高速で回転すると、シャフトを保持する機器のハウジングの外壁と、トーショナルダンパーとの間の隙間から空気が流れ出る。粘性流体である空気は、トーショナルダンパーの高速回転に伴って、トーショナルダンパーの内部から外周側に流れ出る。そのため、トーショナルダンパーの内部が負圧になり、防音カバーはハウジングの外壁に近づく方へ引き寄せられる。この場合、防音カバーが、シャフトの軸線方向に移動して、ハブ又はハブをシャフトに固定するためのセンターボルト等に接触するおそれがある。防音カバーがハブ又はセンターボルトに当たることにより、シャフトのその軸線方向の振動が、ハブ又はセンターボルトを介して防音カバーに伝達され、防音カバーが振動することになる。防音カバーが大きく振動すると、防音カバーから音が放射され、想定した防音効果が得られないおそれがある。本開示は、防音板の振動の発生を抑制して、防音効果を奏することが可能なトーショナルダンパーを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示のトーショナルダンパーは、シャフトに取り付けられるハブと、ハブの外周に装着されるリング状の弾性体と、リング状の弾性体の外周に設けられるリング状のダンパーマスと、シャフトの軸線方向においてハブに対してシャフトとは反対側に配置される円盤状の防音板と、を備える。シャフトの軸線方向において、シャフトを保持する機器のハウジングのとダンパーマスの外壁に近い方の端面との間には隙間が形成されている。防音板には、防音板の板厚方向に貫通する空気流入口が形成されている。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】実施形態に係るトーショナルダンパーを示す断面図である。
図2】トーショナルダンパーの正面図である。
図3】トーショナルダンパーの背面図である。
図4】ダンパーマスの端面とエンジンフロントカバーとの間の隙間を示す断面図である。
図5】ダンパーマスの端面とエンジンフロントカバーとの間の隙間を示す展開図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本開示の実施形態について図面を参照して説明する。なお、図面において各部の寸法及び縮尺は実際のものと適宜に異なる。また、以下に記載する実施形態は、本開示の好適な具体例である。このため、本実施形態には、技術的に好ましい種々の限定が付されている。しかし、本開示の範囲は、以下の説明において特に本開示を限定する旨の記載がない限り、これらの形態に限られるものではない。
【0008】
図1は、実施形態に係るトーショナルダンパー10を示す断面図である。図2は、トーショナルダンパー10の正面図である。図3は、トーショナルダンパー10の背面図である。図1に示されるように、トーショナルダンパー10は、シャフト2の端部2aに取り付けられて使用される。シャフト2は、例えば自動車用のエンジンのクランクシャフトである。トーショナルダンパー10は、シャフト2のねじり振動を抑制する。なお、トーショナルダンパー10の用途は限定されない。トーショナルダンパー10は、エンジンのクランクシャフトに取り付けられるものに限定されず、その他の回転軸に取り付けられてもよい。シャフト2の端部2aは、例えばエンジンフロントカバー5から外部に突出している。エンジンフロントカバー5は、シャフト2を保持する機器のハウジングの一例である。
【0009】
トーショナルダンパー10は、中心軸Oを中心として回転可能なシャフト2に取り付けられるハブ20と、ハブ20の外周に装着されるゴムリング30と、ゴムリング30の外周に設けられるリング状のダンパーマス40と、ゴムリング30に保持された円盤状の防音板50と、を備える。
【0010】
なお、図1では、シャフト2の中心軸Oが1点鎖線で図示されている。また、各図において、適宜、軸線方向X、径方向R、周方向Sが矢印で図示されている。軸線方向Xは、シャフト2の中心軸Oが延在する方向である。径方向Rは、中心軸Oと直交する方向である。周方向Sはシャフト2が回転する方向に沿う。ハブ20、ゴムリング30、ダンパーマス40、及び防音板50は、中心軸Oと同軸に配置され、シャフト2の回転に伴って中心軸Oを中心として回転する。
【0011】
ハブ20は、シャフト2に取り付けられるボス21と、ボス21からシャフトの径方向Rに延びる連結部22と、連結部22を介してボス21に連結されハブ20の外周を成すリム23と、を有する。ハブ20は、例えば、鋳鉄等の金属材料から形成される。ハブ20の材料としては、例えば片状黒鉛鋳鉄、球状黒鉛鋳鉄、自動車構造用熱間圧延鋼板等が挙げられる。
【0012】
ボス21は筒状を成し、シャフト2の端部2aに嵌められる。シャフト2は、本体2bと、本体2bよりも小さな外径を有する端部2aとを有する。端部2aには、センターボルト60が取り付けられるセンター穴2dが形成されている。端部2aは、本体2bと同じ外径でもよい。
【0013】
端部2acは、軸線方向Xにおいてエンジンフロントカバー5よりも外部に位置する。エンジンフロントカバー5には、端部2aが挿通される開口部が形成され、この開口部には、シール6が設けられている。シール6は、ボス21とエンジンフロントカバー5との間の隙間を封止する。
【0014】
ボス21は、シャフト2の端部2aに装着される。シャフト2の端部2aは、ボス21の開口内に挿入される。軸線方向Xにおいて、ボス21の一方の端部21cは、エンジンフロントカバー5の開口部を通過し、エンジン内に位置する。ボス21の他方の端部21dは、軸線方向Xにおいて防音板50に近い方に位置する。
【0015】
センターボルト60は、シャフト2と同軸に配置され、シャフト2のセンター穴2dに挿通されて、シャフト2に固定される。軸線方向Xにおいて、ボス21とシャフト2の本体2bとの間には、スリーブ7が配置されている。スリーブ7は、シャフト2の端部2aに装着されている。センターボルト60をねじ込むことにより、ボス21及びスリーブ7が軸線方向Xに移動し、本体2bに押し当てられる。これにより、ボス21はシャフト2の端部2aに固定される。
【0016】
ボス21の内周面21aには、図3に示されるように例えばキー溝21bが形成されている。連結部22は、径方向Rに延びボス21とリム23とを連結する。連結部22は例えば板状を成し、連結部22の板厚方向は、軸線方向Xに沿う。連結部22は、径方向Rに延びる複数のアーム22aを有する。
【0017】
連結部22には、軸線方向Xに貫通する開口22b,22cが形成されている。開口22bは、周方向Sにおいて、複数のアーム22a間に位置する。開口22cは、アーム22aを貫通するように形成されている。トーショナルダンパー10では、開口22b,22cが形成されているので、開口22b,22cを通り空気が流れる。
【0018】
リム23は筒状を成す。リム23は、軸線方向Xにおいて所定の幅を有する。リム23は、軸線方向Xにおいて、ボス21よりもシャフト2とは反対側に張り出している。シャフト2とは反対側とは、軸線方向Xにおいてボス21に対して防音板50に近い方である。図1に示されるように、リム23の外周面23aには、凹凸面が形成されている。また、リム23には、防音板50を保持する保持部25が設けられている。
【0019】
ゴムリング30は、径方向Rにおいて、リム23の外周面23aとダンパーマス40の内周面40aとの間に位置する。ゴムリング30は、リム23の全周にわたって形成されている。ゴムリング30は、リム23の外周面23aと、ダンパーマス40の内周面40aとの間の隙間に圧入されている。ゴムリング30は、軸線方向Xにおいて、リム23の幅と同じ程度の幅を有する。ゴムリング30は、径方向Rにおいて所定の厚さを有し、径方向Rに伸縮できる。ゴムリング30は、弾性体の一例である。ゴムリング30は、例えば、EPDM(エチレンプロピレンジエンゴム)を主成分とする。ゴムリング30は、例えば、カーボンブラックやプロセスオイルを含むゴム組成物を含んでもよい。ゴム組成物を円筒形等に加硫成形することで、ゴムリング30が製造される。ゴムリング30の材質は、EPDMに限定されず、その他のゴムでもよい。
【0020】
ダンパーマス40は筒状を成す。ダンパーマス40は、例えば鋳鉄等の金属材料から形成される。ダンパーマス40の材料としては、例えば片状黒鉛鋳鉄等が挙げられる。ダンパーマス40は、軸線方向Xにおいて、所定の長さを有する。ダンパーマス40は、径方向Rにおいて、ゴムリング30の外側に位置する。
【0021】
ダンパーマス40の外周面には、ベルト3が係合されるベルト溝43が形成されている。図1においてベルト3は、2点鎖線で示されている。ベルト3を介して、例えば自動車の補機類に動力が伝達される。補機類としては、オルタネーター、エアコン、ウォーターポンプ等が挙げられる。
【0022】
リム23に設けられた保持部25は、径方向Rにおいて、防音板50の外周面50aに対向する内周面25aを有する。保持部25の内周面25aには、防音板50の係合突起54を受ける係合溝26が形成されている。
【0023】
防音板50は円盤状を成す。防音板50は例えばゴム製である。防音板50に適用される材料としては、例えばシリコンゴム、FKM(フッ素ゴム)、EPDM(エチレンプロピレンジエンゴム)、NBR(ニトリルゴム)等が例示される。なお、防音板50の材料は、これらに限定されず、その他の材料から防音板50を成形することができる。
【0024】
防音板50は、円盤状を成す本体51と、本体51の外周面50aから突出する係合突起54と、を有する。本体51の板厚方向は、軸線方向Xに沿う。本体51は、軸線方向Xに離間する正面51a及び背面51bを有する。正面51aは、軸線方向Xにおいてシャフトとは反対側の面であり、背面51bは、シャフト2に近い方の面である。本体51の外径は、リム23の外径よりも小さい。本体51の外径は、係合突起54を含まない。
【0025】
本体51は、第1部分51d、第2部分51e、及びリム51fを含む。第1部分51dは、軸線方向Xから見て円形を成し、径方向Rにおいて中央に位置する。第1部分51dには、空気流入口70が形成されている。空気流入口70については後述する。本体51の第1部分51dの背面51bとセンターボルト60のヘッドの端面60aとは、軸線方向Xにおいて離間する。センターボルト60のヘッドの端面60aは、軸線方向Xにおいて、シャフト2とは反対側の端面である。本体51の背面51bは、軸線方向Xにおいて、センターボルト60の端面60aよりもシャフト2とは反対側に位置する。
【0026】
第2部分51eは、径方向Rにおいて第1部分51dの外側に位置し、第1部分51dを包囲する。第2部分51eは、リング状を成し、径方向Rにおいて、第1部分51dとリム51fとの間に位置する。第1部分51dの板厚は、第2部分51eの板厚よりも厚い。
【0027】
リム51fの軸線方向Xに沿う長さは、第1部分51d及び第2部分51eの板厚よりも大きい。リム51fは、第2部分51eから軸線方向Xに張り出している。リム51fは、第1部分51d及び第2部分51eよりもシャフト2に近い方に張り出している。
【0028】
リム51fの外周面は、防音板50の外周面50aを成す。係合突起54は、外周面50aから径方向Rに突出する。係合突起54は、周方向Sに全周にわたって連続する。係合突起54は、周方向Sにおいて部分的に形成されていてもよい。防音板50は、ハブ20の保持部25に保持される。係合突起54は、保持部25の係合溝26に嵌る。
【0029】
次に、防音板50に設けられた空気流入口70について説明する。空気流入口70は、防音板50の板厚方向に貫通する。防音板50の板厚方向は、軸線方向Xに沿う。空気流入口70は、軸線方向Xから見て例えば円形を成す。空気流入口70は、防音板50の第1部分54dに形成されている。空気流入口70の中心の位置は、防音板50の中心と同じである。空気流入口70の直径D2は、センターボルト60の端面60aの外径D4よりも大きい。なお、空気流入口70の直径D2の詳細については、後述する。
【0030】
次に、図1及び図4を参照して、トーショナルダンパー10とエンジンフロントカバー5との間の隙間Gについて説明する。図4は、ダンパーマス40の端面40cとエンジンフロントカバー5との間の隙間Gを示す断面図である。シャフト2の軸線方向Xにおいて、トーショナルダンパー10とエンジンフロントカバー5との間には隙間Gが形成されている。隙間Gは、具体的には、ダンパーマス40の端面40cとのエンジンフロントカバー5の外壁5aとの間の隙間である。
【0031】
端面40cは、軸線方向Xに交差し、径方向Rに沿う面である。端面40cは、エンジンフロントカバー5に近い方の面である。端面40cは軸線方向Xにおいて、ゴムリング30及びハブ20のリム23よりもエンジンフロントカバー5に近い位置に配置されている。図3に示されるように、端面40cは、周方向Sに連続するリング状を成す。端面40cは、例えば全周に形成されている。
【0032】
エンジンフロントカバー5の外壁5aは、軸線方向Xと交差する面を成す。ダンパーマス40の端面40cは、エンジンフロントカバー5の外壁5aに対して、軸線方向Xに離間する。
【0033】
次に、隙間Gからの空気の流出について説明する。トーショナルダンパー10は、シャフト2の回転に伴って中心軸Oを中心として回転する。ハブ20、ゴムリング30、ダンパーマス40、及び防音板50は、一体として回転する。空気は粘性流体であり、ダンパーマス40の端面40cの回転移動によって、端面40cの周辺の空気を連れ回る現象が生じる。空気には質量が存在するので、連れ回された空気は遠心力によって径方向R外側に飛散して隙間Gから外部に流出する。
【0034】
隙間Gから空気が流出することにより、リム24の径方向Rの内側の空間Aに存在する空気は、連結部22の開口22b,22cを通り、軸線方向Xに背面側の空間Bに移動する。ハブ20の背面側の空気は、隙間Gを通り、外部に流出する。
【0035】
従来技術に係るトーショナルダンパーでは、防音板に空気流入口70が形成されていないので、隙間Gから空気が流出すると、リム24の内側の空間Aが負圧になる。リム24の内側の空間Aが負圧になると、防音板が背面側に引き寄せられる。防音板が背面側に引き寄せられると、例えばセンターボルト60のヘッドの端面60aに当たるおそれがある。従来技術では、防音板がセンターボルト60に当たると、シャフト2の軸線方向Xの振動が防音板に伝達され、防音板から音が放出されるという問題が生じるおそれがある。
【0036】
本実施形態のトーショナルダンパー10では、防音板50に空気流入口70が設けられているので、防音板50の外部の空気が空気流入口70を通り、リム24の内側の空間Aに流入できる。これにより、空間Aが負圧になることが防止されるので、防音板50が背面側に引き寄せられない。そのため、防音板50がセンターボルト60に当たることが防止される。その結果、防音板50による音の放出が抑制される。
【0037】
次に、図4を参照して、隙間Gにおける空気の速度勾配について説明する。隙間Gにおける空気の流出速度Vは、軸線方向Xの位置に応じて異なる。流出速度Vは、端面40cに近いほど高い。回転移動するダンパーマス40の端面40cに近い位置における流出速度Vが最も高い。流出速度Vは、エンジンフロントカバー5の外壁5aに近いほど低い。静止状態のエンジンフロントカバー5の外壁5aに近い位置における流出速度Vは最も低く、ゼロである。このように、空気の流出速度Vには、速度勾配が生じている。
【0038】
次に、図4及び図5を参照して、隙間Gから空気を流出する排出口Cの面積S1について説明する。図5は、ダンパーマス40の端面40cとエンジンフロントカバー5との間の隙間Gを示す展開図である。図5では、径方向Rの外側から隙間Gを見た図であり、周方向Sに沿った1周分の隙間Gを示す。排出口Cは、隙間Gに連通する開口のうち、排出口として機能する部分をいう。例えば、軸線方向Xにおいて、隙間Gの幅W1の半分の幅を排出口Cの幅W2とする。なお、排出口Cに含まれない部分から空気が流出しているが、排出口Cから流出する空気の流量に比べて少ない。排出口Cの幅W2は、次式(1)で示される。
【数1】
【0039】
排出口Cの面積S1は、ダンパーマス40の外周40dの長さL1と、排出口Cの幅W2との積である。外周40dは、図4に示されるように、端面40cの外周である。外周40dの長さL1は、次式(2)で示される。式(2)中のD1は、端面20cの外径D1である。外径D1は、図2及び図3に図示されている。
【数2】
【0040】
図5に示される排出口Cの面積S1は、次式(3)で示される。
【数3】
【0041】
例えば、外径D1が140mmであり、隙間Gの幅W1が2mmの場合の排出口Cの面積S1は、上記式(1)~(3)を用いて算出できる。この場合の排出口Cの面積S1は、440mmとなる。
【0042】
次に、図2を参照して、空気流入口70の直径D2について説明する。例えば、空気流入口70の面積S2が排出口Cの面積S1と等しい場合について説明する。空気流入口70の半径r2は、次式(4)で示される。式(4)中の半径r2は、空気流入口70の半径r2である。空気流入口70の直径D2は、半径r2の2倍である。
【数4】
【0043】
例えば、空気流入口70の面積S2が、440mmの場合の空気流入口70の半径r2は、12mmであり、直径D2は、24mmである。
【0044】
次に、直径D2の空気流入口70を透過する音の周波数f1について説明する。音の波長w1は、空気中の音速c1及び周波数f1を用いて、次式(5)で示される。
【数5】
【0045】
音の周波数f1は、次式(6)で示される。
【数6】
【0046】
空気流入口70の直径D2を0.024m(24mm)とし、音速c1を340m/sとした場合、式(6)を用いて周波数f1を算出すると、周波数f1は、14.2kHzとなる。周波数f1以上の音が空気流入口70を通過して伝達される。
【0047】
次に、比較例1に係るトーショナルダンパーから放出される音について検討する。比較例1のトーショナルダンパーが、本実施形態に係るトーショナルダンパー10と違う点は、防音板50を備えていない点である。例えば、比較例1のトーショナルダンパーの放射音透過領域の外径D3を100mmと仮定する。外径D3は、ハブ20のリム23の内径である。比較例1のトーショナルダンパーにおいて、音が透過される領域の面積S3は、リム23による開口面積である。この面積S3は、次式(7)で示される。
【数7】
【0048】
外径D3が100mmである場合、比較例1の放射音透過領域の面積S3は、7854mmとなる。空気流入口70の面積S2は、上述したように、440mmである。放射音透過領域の面積S3に対する空気流入口70の面積S2の比率E1は、次式(8)で示される。
【数8】
【0049】
面積S3が7854mmであり、面積S2が440mmの場合の比率E1は、0.056となる。防音板50を備えるトーショナルダンパー10では、防音板50を備えていない比較例1のトーショナルダンパーに対して、0.056の比率E1で音を低減する。
【0050】
トーショナルダンパー10では、空気流入口70の直径D2以上の波長となる低周波音は、空気流入口70が形成された防音板50によって、遮音される。トーショナルダンパー10では、直径D2以上の波長となる低周波音に関して、空気流入口70が形成されていない防音板50と同等の遮音効果を得ることができる。
【0051】
トーショナルダンパー10では、空気流入口70の中心がシャフト2の中心軸Oと同軸に配置され、空気流入口70の直径D2がセンターボルト60のヘッドの端面60aの直径D4よりも大きいので、センターボルト60の端面60aが防音板50に当たることが防止される。
【0052】
また、トーショナルダンパー10では、空気流入口70が形成されているので、防音板50が装着されている状態であっても、トーショナルダンパー10の内部を視認できる。また、空気流入口70にドライバー等の工具を差し込み、この工具を空気流入口70の周縁部に引っ掛けて、防音板50を容易に取り外すことができる。
【0053】
なお、前述した実施形態は、本発明の代表的な形態を示したに過ぎず、本開示は、前述した実施形態に限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲において、種々の変更、付加が可能である。
【0054】
上記の実施形態では、防音板50の中央部に空気流入口70が形成されている場合について例示しているが、空気流入口70は、例えば、防音板50の第2部分51eに形成されていてもよい。空気流入口70の数量は、1つに限定されない。防音板50に複数の空気流入口70が形成されていてもよい。複数の空気流入口70は例えば周方向Sに等間隔で配置されていてもよい。
【0055】
上記の実施形態では、空気流入口70の面積S2が、隙間Gの幅W1の50%の幅W2の排出口Cの面積S1と等しい場合について説明しているが、空気流入口70の面積S2はこれに限定されない。空気流入口70の面積S2は、排出口Cの面積S1よりも大きくてもよく、小さくてもよい。例えば、空気流入口70の面積S2は、排出口Cの面積S1の40%以上60%以下の大きさでもよい。排出口Cの幅W2は、隙間Gの幅W1の50%に限定されず、隙間Gの幅W1の40%以上60%以下の長さでもよい。
【0056】
上記の実施形態では、空気流入口70の直径D2が、センターボルト60の端面60aの外径D4よりも大きい場合について説明しているが、空気流入口70の直径D2は、センターボルト60の端面60aの外径D4よりも小さくてもよい。
【0057】
上記の実施形態では、空気流入口70の形状が円形である点について例示しているが、空気流入口70の形状は、円形に限定されない。空気流入口70の形状は、任意の形状でもよい。
【0058】
上記の実施形態では、防音板50の外周面に係合突起54が設けられ、ハブ20の保持部25に、係合突起54を受ける係合溝26が形成されているが、防音板50を保持する構造はこれに限定されない。例えば、保持部25の内周面に、係合突起が形成され、防音板50の外周面に係合突起を受ける係合溝が形成されている構造でもよい。
【0059】
上記の実施形態では、防音板50がハブ20のリム23に対して保持される場合について例示しているが、防音板50は、ダンパーマス40に保持されるものでもよい。
【0060】
上記の実施形態では、防音板50が第1部分51d、第2部分51e、及びリム51fを含み、異なる板厚を有する防音板50について例示しているが、防音板50はこれに限定されない。例えば防音板50は、同一の板厚を有するものでもよい。
【0061】
上記の実施形態では、センターボルト60を用いて、ハブ20をシャフト2に固定する場合について例示しているが、ハブ20を固定する構造は、これに限定されない。例えば、シャフト2の端部2aがボス21よりも外側に突出し、この突出する部分にねじ部が形成され、ねじ部に取り付けられたナットを締め付けることで、ハブ20をシャフト2に固定する構造でもよい。
【0062】
上記の実施形態では、トーショナルダンパー10が適用されるシャフト2として、自動車用のエンジンのクランクシャフトを例示しているが、シャフト2はこれに限定されない。トーショナルダンパー10は、例えば、農業機械、工業機械、小型船舶などのエンジンのシャフトに適用できる。トーショナルダンパー10は、その他の回転機械のシャフトに適用してもよい。
【符号の説明】
【0063】
2…シャフト
5…エンジンフロントカバー(シャフトを保持する機器のハウジング)
5a…外壁(ハウジングの外壁)
10…トーショナルダンパー
20…ハブ
21…ボス
22…連結部
22b…連結部の開口
22c…連結部の開口
23…リム
30…ゴムリング(リング状の弾性体)
40…ダンパーマス
40c…端面(ダンパーマスの外壁に近い方の端面)
40d…外周(端面の外周)
50…防音板
60…センターボルト
60a…センターボルトの端面
70…空気流入口
G…隙間
L1…外周の長さ
W1…隙間の幅
X…シャフトの軸線方向
図1
図2
図3
図4
図5