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特開2023-43056アルミニウム合金合わせ材及び熱交換器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023043056
(43)【公開日】2023-03-28
(54)【発明の名称】アルミニウム合金合わせ材及び熱交換器
(51)【国際特許分類】
   C22C 21/00 20060101AFI20230320BHJP
   B23K 35/22 20060101ALI20230320BHJP
   B23K 35/28 20060101ALI20230320BHJP
   C22F 1/04 20060101ALN20230320BHJP
   C22F 1/043 20060101ALN20230320BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20230320BHJP
【FI】
C22C21/00 E
C22C21/00 D
B23K35/22 310E
B23K35/28 310B
C22F1/04 B
C22F1/043
C22F1/00 627
C22F1/00 623
C22F1/00 630K
C22F1/00 630M
C22F1/00 640A
C22F1/00 641A
C22F1/00 651A
C22F1/00 682
C22F1/00 683
C22F1/00 685Z
C22F1/00 686A
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 694A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021150549
(22)【出願日】2021-09-15
(71)【出願人】
【識別番号】000107538
【氏名又は名称】株式会社UACJ
(74)【代理人】
【識別番号】110002538
【氏名又は名称】弁理士法人あしたば国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】戸谷 友貴
(72)【発明者】
【氏名】土公 武宜
(57)【要約】
【解決課題】成形性、ろう付け性及び耐食性を並立することができるろう付用のアルミニウム合金材を提供すること。
【解決手段】心材と、該心材の一方の面又は両面にクラッドされている皮材と、を有し、該心材は、0.30~0.70質量%のFeと、0.03~0.20質量%のCuと、1.00~1.50質量%のMnと、を含有し、残部アルミニウム及び不可避不純物からなるアルミニウム合金からなり、該皮材は、2.00~3.00質量%のSiと、0.10~0.40質量%のFeと、0.80~5.00質量%のZnと、を含有し、Cuが0.20質量%以下に規制されており、残部アルミニウム及び不可避不純物からなるアルミニウム合金からなり、該心材の平均結晶粒径が25~125μmであり、加熱試験において、皮材厚残存率((加熱試験後の皮材の厚み/加熱試験前の皮材の厚み)×100)が90.0%以上であり、調質がO材であること、を特徴とするアルミニウム合金合わせ材。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
心材と、該心材の一方の面又は両面にクラッドされている皮材と、を有し、
該心材は、0.30~0.70質量%のFeと、0.03~0.20質量%のCuと、1.00~1.50質量%のMnと、を含有し、残部アルミニウム及び不可避不純物からなるアルミニウム合金からなり、
該皮材は、2.00~3.00質量%のSiと、0.10~0.40質量%のFeと、0.80~5.00質量%のZnと、を含有し、Cuが0.20質量%以下に規制されており、残部アルミニウム及び不可避不純物からなるアルミニウム合金からなり、
該心材の平均結晶粒径が25~125μmであり、
300℃から400℃までを平均昇温速度80℃/分以下で昇温し、600±3℃で5±3分間保持する加熱試験において、皮材厚残存率((加熱試験後の皮材の厚み/加熱試験前の皮材の厚み)×100)が90.0%以上であり、
調質がO材であること、
を特徴とするアルミニウム合金合わせ材。
【請求項2】
前記心材と、前記心材の一方の面にクラッドされている前記皮材と、からなる2層材であることを特徴とする請求項1記載のアルミニウム合金合わせ材。
【請求項3】
前記心材と、前記心材の両面にクラッドされている前記皮材と、からなる3層材であることを特徴とする請求項1記載のアルミニウム合金合わせ材。
【請求項4】
前記心材と、前記心材の一方の面にクラッドされている前記皮材と、前記心材の他方の面にクラッドされているろう材と、からなる3層材であり、
該ろう材が、6.00~13.00質量%のSiを含有し、Fe含有量が0.80質量%以下であり、Cuが0.25質量%以下に規制されており、残部アルミニウム及び不可避不純物からなるアルミニウム合金からなること、
を特徴とする請求項1記載のアルミニウム合金合わせ材。
【請求項5】
前記ろう材が、更に、4.00質量%以下のZnを含有し、Mnが0.30質量%以下に規制されていることを特徴とする請求項4記載のアルミニウム合金合わせ材。
【請求項6】
前記皮材が、更に、1.50質量%以下のMn、0.20質量%以下のTi、0.20質量%以下のZr、0.20質量%以下のCr、0.20質量%以下のV、及び0.10質量%以下のBiのうちのいずれか1種又は2種以上を含有することを特徴とする請求項1~5いずれか1項記載のアルミニウム合金合わせ材。
【請求項7】
前記心材が、更に、0.20質量%以下のSi、0.30質量%以下のMg、0.30質量%以下のZn、0.30質量%以下のTi、0.30質量%以下のZr、及び0.30質量%以下のCrのうちのいずれか1種又は2種以上を含有することを特徴とする請求項1~6いずれか1項記載のアルミニウム合金合わせ材。
【請求項8】
請求項1~7いずれか1項記載のアルミニウム合金合わせ材の成形体を、2以上組み合わせ、ろう付加熱することにより得られた熱交換器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形性、耐食性及びろう付け性に優れたアルミニウム合金合わせ材であり、自動車用のアルミニウム製熱交換器等のろう付工法で製造される熱交換器に使用されるアルミニウム合金合わせ材に関する。
さらに詳しくは、単層で加熱接合機能を有するアルミニウム合金材を皮材に用いた、成形性、ろう付け性及び耐食性に優れたアルミニウム合金合わせ材を提供するものである関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用等のアルミニウム合金製熱交換器の製造には、アルミニウム合金ブレージングシート等を用い、ブレージングシートを所定の部品形状に成形し、各部品を組みあわせ熱交換器コアに組み付けた後、ろう付工程により一体化する工法が通常用いられている。
【0003】
ブレージングシートから部品形状への加工度が大きい場合、成形性を確保するために、O材調質のブレージングシートが用いられるが、O材調質のブレージングシートでは、成形性、ろう付け性及び耐食性の並立が難しかった。
【0004】
ろう付け性及び耐食性を両立させるアルミニウム合金ブレージングシートとして、例えば、特許文献1には、アルミニウム合金の心材と、当該心材の一方の面にクラッドされた第1ろう材と、他方の面にクラッドされた第2ろう材とを備えるアルミニウム合金ブレージングシートにおいて、前記心材が、Fe:0.05~1.50mass%、Mn:0.30~2.00mass%を含有し、残部Al及び不可避不純物からなるアルミニウム合金からなり、前記第1ろう材が、Si:1.50~4.00mass%、Fe:0.05~1.50mass%、Zn:1.00~6.00mass%を含有し、残部Al及び不可避不純物からなる犠牲陽極作用とろう付機能を有するアルミニウム合金からなり、前記第2ろう材が、Si:4.00~13.00mass%、Fe:0.03~1.00mass%を含有し、残部Al及び不可避不純物からなる犠牲陽極作用とろう付機能を有するアルミニウム合金からなり、前記第2ろう材中において、0.5~80.0μmの円相当径を有するAl-Si-Fe系金属間化合物が2000個/mm以下存在することを特徴とするアルミニウム合金ブレージングシートが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017-145463号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
熱交換器コアに組み付けたブレージングシートの成形体を一体構造とするために、心材の片面又は両面に4343合金や4045合金等のアルミニウム合金ろう材を使用したブレージングシートの場合、成形加工時に導入された加工ひずみが、ろう付加熱途中にろう材が溶融するまでに再結晶することで消失すればよいが、加工ひずみがろうが溶融するまで残存していると、溶融したろう材が心材の加工ひずみを経路として拡散しやすいため、エロージョン現象が発生しやすくなり、ろう付け性が低くなるとともに耐食性も低くなってしまうという問題があった。
【0007】
特に、近年熱交換器の軽量化が求められており、熱交換器を軽量化するために部材を薄肉化した場合、部材の強度を高める必要があり、そのため、心材用アルミニウム合金にCuを含有させることや、Mn含有量を多くすることなどが提案されている。しかしながら、Cuを含有させる場合、Cuの含有量が多過ぎると心材の融点が低下するために、ろう付時に心材が溶融され易くなるという問題がある。また、Mnを含有させる場合、心材中に微細な析出物を生じさせるため、心材が再結晶し難くなり、ろう付時に成形加工部に蓄積したひずみがろう付時に残存し易くなってしまい、エロージョン現象が発生し易くなるという問題がある。
【0008】
特許文献1に開示されているアルミニウム合金ブレージングシートは、ろう付け性及び耐食性に優れているものの、成形性、ろう付け性及び耐食性を並立するとの要求に対し、更なる改良が求められている。
【0009】
従って、本発明の目的は、成形性、ろう付け性及び耐食性を並立することができるろう付用のアルミニウム合金材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、成形性、ろう付け性及び耐食性のいずれもを向上させるために、合金組成を厳密に制御し、且つ、冷間圧延及び焼鈍処理の条件等の製造条件を厳密に制御することにより、皮材を単層で加熱接合可能でろう付接合による板厚減少を抑制可能なものとし、且つ、心材中の金属間化合物を微細にし、その分布状態を適切にし、結晶粒組織を調節することで、成形性、ろう付け性及び耐食性に優れたアルミニウム合金材となることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち、本発明(1)は、心材と、該心材の一方の面又は両面にクラッドされている皮材と、を有し、
該心材は、0.30~0.70質量%のFeと、0.03~0.20質量%のCuと、1.00~1.50質量%のMnと、を含有し、残部アルミニウム及び不可避不純物からなるアルミニウム合金からなり、
該皮材は、2.00~3.00質量%のSiと、0.10~0.40質量%のFeと、0.80~5.00質量%のZnと、を含有し、Cuが0.20質量%以下に規制されており、残部アルミニウム及び不可避不純物からなるアルミニウム合金からなり、
該心材の平均結晶粒径が25~125μmであり、
300℃から400℃までを平均昇温速度80℃/分以下で昇温し、600±3℃で5±3分間保持する加熱試験において、皮材厚残存率((加熱試験後の皮材の厚み/加熱試験前の皮材の厚み)×100)が90.0%以上であり、
調質がO材であること、
を特徴とするアルミニウム合金合わせ材を提供するものである。
【0012】
また、本発明(2)は、前記心材と、前記心材の一方の面にクラッドされている前記皮材と、からなる2層材であることを特徴とする(1)のアルミニウム合金合わせ材を提供するものである。
【0013】
また、本発明(3)は、前記心材と、前記心材の両面にクラッドされている前記皮材と、からなる3層材であることを特徴とする(1)のアルミニウム合金合わせ材を提供するものである。
【0014】
また、本発明(4)は、前記心材と、前記心材の一方の面にクラッドされている前記皮材と、前記心材の他方の面にクラッドされているろう材と、からなる3層材であり、
該ろう材が、6.00~13.00質量%のSiを含有し、Fe含有量が0.80質量%以下であり、Cuが0.25質量%以下に規制されており、残部アルミニウム及び不可避不純物からなるアルミニウム合金からなること、
を特徴とする(1)のアルミニウム合金合わせ材を提供するものである。
【0015】
また、本発明(5)は、前記ろう材が、更に、4.00質量%以下のZnを含有し、Mnが0.30質量%以下に規制されていることを特徴とする(4)のアルミニウム合金合わせ材を提供するものである。
【0016】
また、本発明(6)は、前記皮材が、更に、1.50質量%以下のMn、0.20質量%以下のTi、0.20質量%以下のZr、0.20質量%以下のCr、0.20質量%以下のV、及び0.10質量%以下のBiのうちのいずれか1種又は2種以上を含有することを特徴とする(1)~(5)いずれかのアルミニウム合金合わせ材を提供するものである。
【0017】
また、本発明(7)は、前記心材が、更に、0.20質量%以下のSi、0.30質量%以下のMg、0.30質量%以下のZn、0.30質量%以下のTi、0.30質量%以下のZr、及び0.30質量%以下のCrのうちのいずれか1種又は2種以上を含有することを特徴とする(1)~(6)いずれかのアルミニウム合金合わせ材を提供するものである。
【0018】
また、本発明(8)は、(1)~(7)いずれかのアルミニウム合金合わせ材の成形体を、2以上組み合わせ、ろう付加熱することにより得られた熱交換器を提供するものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、成形性、ろう付け性及び耐食性を並立することができるろう付用のアルミニウム合金合わせ材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明のアルミニウム合金合わせ材の形態例の成形体を組み合わせた様子を示す模式的な断面図である。
図2】本発明のアルミニウム合金合わせ材の他の形態例の成形体を組み合わせた様子を示す模式的な断面図である。
図3】実施例(0.5mm材)の心材の断面のミクロ組織写真である。
図4】実施例(1.0mm材)の心材の断面のミクロ組織写真である。
図5】ドロップ試験を示す模式図である。
図6】実施例(0.5mm材)及び実施例(1.0mm材)の逆T字試験後の接合部断面組織観察写真である。
図7】実施例(0.5mm材)のアルミニウム合金合わせ材の断面のミクロ組織写真である。
図8】実施例(1.0mm材)のアルミニウム合金合わせ材の断面のミクロ組織写真である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明のアルミニウム合金合わせ材について、図1及び図2を用いて説明する。図1は、本発明のアルミニウム合金合わせ材の形態例を、各部品の形状に成形し、次いで、それら成形体を組み合わせて、組み合わせ体を作製した様子を示す模式的な断面図である。また、図2は、本発明のアルミニウム合金合わせ材の他の形態例を、各部品の形状に成形し、次いで、それら成形体を組み合わせて、組み合わせ体を作製した様子を示す模式的な断面図である。図1中、組み合わせ体1は、心材2aと心材2aの一方の面にクラッドされている皮材3aとからなる2層材のアルミニウム合金合わせ材4a、及び心材2bと心材2bの一方の面にクラッドされている皮材3bとからなる2層材のアルミニウム合金合わせ材4bを、流路を形成するそれぞれの部品形状に成形して、成形体6a及び成形体6bを作製し、次いで、成形体6aの皮材3aと成形体6bの皮材3bとを対向させて、組み合わせたものである。この組み合わせ体1をろう付加熱すると、ろう付加熱工程で、皮材3a及び皮材3b中に液相が発生し、固相から液相に変わる際に体積膨張が生じるので、皮材中で発生した液相が皮材表面に浸み出してくる。そして、皮材3a及び皮材3bの表面に浸み出してきた液相により、アルミニウム合金合わせ材4aとアルミニウム合金合わせ材4bが接合される。このとき、皮材3a及び皮材3bは、Si含有量が少ないので溶融しないため、ろう付加熱後も、母相が残存し元の形状が保たれ、Znを含有する皮材が残存するので、ろう付加熱後に、皮材3a及び皮材3bは、犠牲防食材として機能する。
【0022】
図2中、組み合わせ体11は、心材12aと心材12aの一方の面にクラッドされている皮材13aと心材12aの他方の面にクラッドされている皮材15aとからなる3層材のアルミニウム合金合わせ材14a、及び心材12bと心材12bの一方の面にクラッドされている皮材13bと心材12bの他方の面にクラッドされている皮材15bとからなる3層材のアルミニウム合金合わせ材14bを、流路を形成するそれぞれの部品形状に成形し、成形体16a及び成形体16bを作製し、次いで、成形体16aの皮材13aと成形体16bの皮材13bとを、また、成形体16aの皮材15aと成形体16bの皮材15bとを、それぞれ対向させて、組み合わせたものである。この組み合わせ体11をろう付加熱すると、ろう付加熱工程で、皮材13a、皮材13b、皮材15a及び皮材15b中に液相が発生し、固相から液相に変わる際に体積膨張が生じるので、皮材中で発生した液相が皮材表面に浸み出してくる。そして、皮材13a、皮材13b、皮材15a及び皮材15bの表面に浸み出してきた液相により、アルミニウム合金合わせ材14aとアルミニウム合金合わせ材14bが接合される。このとき、皮材13a、皮材13b、皮材15a及び皮材15bは、Si含有量が少ないので溶融しないため、ろう付加熱後も、母相が残存し元の形状が保たれ、Znを含有する皮材が残存するので、皮材13a、皮材13b、皮材15a及び皮材15bは、ろう付加熱後に、犠牲防食材として機能する。
【0023】
図2中、組み合わせ体21は、心材22aと心材22aの一方の面にクラッドされている皮材23aと心材22aの他方の面にクラッドされているろう材25aとからなる3層材のアルミニウム合金合わせ材24a、及び心材22bと心材22bの一方の面にクラッドされている皮材23bと心材22bの他方の面にクラッドされているろう材25bとからなる3層材のアルミニウム合金合わせ材24bを、流路を形成するそれぞれの部品形状に成形し、成形体26a及び成形体26bを作製し、次いで、成形体26aの皮材23aと成形体26bの皮材23bとを、成形体26aのろう材25aと成形体26bのろう材25bとを、それぞれ対向させて、組み合わせたものである。この組み合わせ体21をろう付加熱すると、ろう付加熱工程で、皮材23a及び皮材23b中に液相が発生し、固相から液相に変わる際に体積膨張が生じるので、皮材中で発生した液相が皮材表面に浸み出してくる。そして、皮材23a及び皮材23bの表面に浸み出してきた液相により、アルミニウム合金合わせ材24aの皮材23a側とアルミニウム合金合わせ材24bの皮材23b側が接合される。また、ろう付加熱工程で、ろう材25a及びろう材25bが溶融し液相ろうが生じ、生じた液相ろうにより、アルミニウム合金合わせ材24aのろう材25a側とアルミニウム合金合わせ材24bのろう材25b側が接合される。このとき、皮材23a及び皮材23bは、Si含有量が少ないので溶融しないため、ろう付加熱後も、母相が残存し元の形状が保たれ、Znを含有する皮材が残存するので、皮材23a及び皮材23bは、ろう付加熱後に、犠牲防食材として機能する。
【0024】
本発明のアルミニウム合金合わせ材は、心材と、該心材の一方の面又は両面にクラッドされている皮材と、を有し、
該心材は、0.30~0.70質量%のFeと、0.03~0.20質量%のCuと、1.00~1.50質量%のMnと、を含有し、残部アルミニウム及び不可避不純物からなるアルミニウム合金からなり、
該皮材は、2.00~3.00質量%のSiと、0.10~0.40質量%のFeと、0.80~5.00質量%のZnと、を含有し、Cuが0.20質量%以下に規制されており、残部アルミニウム及び不可避不純物からなるアルミニウム合金からなり、
300℃から400℃までを平均昇温速度80℃/分以下で昇温し、600±3℃で5±3分間保持する加熱試験において、皮材厚残存率((加熱試験後の皮材の厚み/加熱試験前の皮材の厚み)×100)が90.0%以上であり、
該心材の平均結晶粒径が25~125μmであり、
調質がO材であること、
を特徴とするアルミニウム合金合わせ材である。
【0025】
本発明のアルミニウム合金合わせ材は、心材と、心材の一方の面又は両面にクラッドされている皮材と、を有する。つまり、本発明のアルミニウム合金合わせ材は、本発明のアルミニウム合金合わせ材に係る心材の少なくとも一方の面に、本発明のアルミニウム合金合わせ材に係る皮材がクラッドされており、且つ、該心材の他方の面には、何もクラッドされていなくてもよく、あるいは、本発明のアルミニウム合金合わせ材に係る皮材又は本発明のアルミニウム合金合わせ材に係るろう材がクラッドされていてもよい。本発明のアルミニウム合金合わせ材の形態としては、(1)心材と、心材の一方の面にクラッドされている皮材と、からなる2層材であるアルミニウム合金合わせ材、(2)心材と、心材の両面にクラッドされている皮材と、からなる3層材であるアルミニウム合金合わせ材、(3)心材と、心材の一方の面にクラッドされている皮材と、心材の他方の面にクラッドされているろう材と、からなる3層材のアルミニウム合金合わせ材が挙げられる。なお、本発明のアルミニウム合金合わせ材が、心材の両面に皮材を有する場合、2つの皮材は、本発明のアルミニウム合金合わせ材に係る皮材の規定範囲であれば、組成が同一であっても、組成が異なってもよい。
【0026】
本発明のアルミニウム合金合わせ材に係る心材は、0.30~0.70質量%のFeと、0.03~0.20質量%のCuと、1.00~1.50質量%のMnと、を含有し、残部アルミニウム及び不可避不純物からなるアルミニウム合金からなる。
【0027】
心材中のFeは、アルミニウム合金中に金属間化合物を生成させ、再結晶粒を微細化する効果を有し、本発明では、心材の再結晶粒を微細化して、成形性を向上させる。心材中のFe含有量は、0.30~0.70質量%、好ましくは0.45~0.70質量%である。心材中のFe含有量が上記範囲にあることにより、アルミニウム合金合わせ材の成形性が高くなる。一方、心材中のFe含有量が、上記範囲未満だと、O材処理時に生成する結晶粒が粗大化し、結晶粒の大きさが本発明に規定の範囲に入らない。また、心材中のFe含有量が、上記範囲を超えると、粗大な金属間化合物を生じ、そこを起点に成形時の割れが発生し易くなる。
【0028】
心材中のCuは、アルミニウム合金の強度を向上させ、また、合金の電位を貴にして、電位が卑な合金の犠牲防食効果により守られ、材料の耐食性を向上させために添加される元素である。心材中のCu含有量は、0.03~0.20質量%、好ましくは0.05~0.18質量%である。心材中のCu含有量が上記範囲にあることにより、アルミニウム合金合わせ材の耐食性が高くなる。一方、心材中のCu含有量が、上記範囲未満だと、上記Cuの添加効果が十分ではなく、また、上記範囲を超えると、焼鈍処理やろう付加熱中に心材合金に添加されたCuが皮材に拡散し、皮材のCu量が増加して電位が貴になるため、皮材による犠牲防食作用が働かなくなる。
【0029】
心材中のMnは、アルミニウム合金の強度を向上するために添加される元素である。心材中のMn含有量は、1.00~1.50質量%、好ましくは1.00~1.40質量%である。心材中のMn含有量が上記範囲にあることにより、アルミニウム合金合わせ材の強度が高くなる。一方、心材中のMn含有量が、上記範囲未満だと、強度向上効果が十分でなく、また、上記範囲を超えると、アルミニウム合金中に微細な析出物を形成し、再結晶粒を粗大化させるため、結晶粒の大きさが本発明に規定の範囲に入らない。
【0030】
心材は、0.20質量%以下のSi、0.30質量%以下のMg、0.30質量%以下のZn、0.30質量%以下のTi、0.30質量%以下のZr及び0.30質量%以下のCrのうちいずれか1種又は2種以上含有してもよい。これらの元素は、強度を向上させる働き等を有する。
【0031】
Siはアルミニウム合金中に不可避的に含有される元素である。心材が0.20質量%以下のSiを含有することにより、強度が高くなる。Siは、Mnと共に微細な析出物を形成するが、Siの含有量が0.20質量%を越えると、析出物の量が増え過ぎて、焼鈍時に析出物のピン止め効果により、再結晶粒が粗大化し易くなり、結晶粒の大きさが本発明に規定の範囲に入らない。
【0032】
心材が0.30質量%以下のMgを含有することにより、Mg-Siの析出により強度が向上する。Mgはろう付加熱時にフラックスと反応し、ろう付け性を阻害するため、Mgの含有量の上限は0.30質量%である。
【0033】
心材が0.30質量%以下のZnを含有することにより、Znを含有するスクラップ材を利用することができるようになる。Znは合金の電位を卑にするため、心材中のZn含有量が多過ぎると、心材が犠牲防食により守られ難くなるため、Znの含有量の上限は0.30質量%である。
【0034】
心材が、0.30質量%以下のTi、0.30質量%以下のZr、及び0.30質量%以下のCrのうちのいずれか1種又は2種以上を含有することにより、固溶強化により強度が向上する。Ti、Zr、Crは強度向上と結晶粒径制御のために添加させる元素であるが、含有量が多いと、いずれも粗大な金属間化合物を鋳造時に発生し、アルミニウム合金合わせ材の成形性が低くなる。そのため、Ti含有量は0.30質量%以下であり、Zr含有量は0.30質量%以下であり、Cr含有量は0.30質量%以下である。
【0035】
心材中に上記元素の他に含有される不可避的不純物元素は、個々の元素の含有量が0.05質量%以下、それらの合計が0.15質量%以下である。
【0036】
本発明のアルミニウム合金合わせ材に係る皮材は、2.00~3.00質量%のSiと、0.10~0.40質量%のFeと、0.80~5.00質量%のZnと、を含有し、Cuが0.20質量%以下に規制されており、残部アルミニウム及び不可避不純物からなるアルミニウム合金からなる。本発明のアルミニウム合金合わせ材に係る皮材同士が対向するように、2以上の本発明のアルミニウム合金合わせ材を組み合わせて、組み合わせ体をろう付け加熱するろう付加熱工程で、皮材中に液相が発生し、固相から液相に変わる際に体積膨張が生じるので、皮材中で発生した液相が皮材表面に浸み出してくる。そして、皮材の表面に浸み出してきた液相により、本発明のアルミニウム合金合わせ材同士が接合される。このとき、皮材は、Si含有量が少ないので溶融しないため、ろう付加熱後も、母相が残存し元の形状が保たれ、Znを含有する皮材が残存するので、皮材は、ろう付加熱後に、犠牲防食材として機能する。つまり、本発明のアルミニウム合金合わせ材において、皮材は、ろう付けのときに、ろうを供給すると共に、ろう付け後は、犠牲防食材として機能する。つまり、本発明のアルミニウム合金合わせ材に係る皮材は、犠牲防食機能を有し且つ単層での加熱接合が可能なクラッド層である。
【0037】
皮材中のSi含有量は、2.00~3.00質量%、好ましくは2.10~2.80質量%である。皮材中のSi含有量が上記範囲にあることにより、ろう付け性及び防食性を両立することができる。一方、皮材中のSi含有量が、上記範囲未満だと、ろう付時に発生する溶融ろうが十分でなく、ろう付け性が悪くなり、また、上記範囲を超えると、皮材自体が減少し、皮材が持つ犠牲防食層としての機能が低下して、アルミニウム合金合わせ材の耐食性が低下する。
【0038】
皮材中のFe含有量は、0.10~0.40質量%、好ましくは0.10~0.30質量%である。皮材中のFe含有量が上記範囲にあることにより、ろう付け性が良好となる。一方、皮材中のFe含有量が、上記範囲未満だと、アルミ地金コストが高くなり過ぎ、また、上記範囲を超えると、ろう付加熱中にAl-Fe-Si系の金属間化合物を形成する量が多くなり過ぎるので、ろうを形成するためのSiを消耗し、ろう付け性を阻害する。
【0039】
皮材中のZn含有量は、0.80~5.00質量%、好ましくは2.50~4.00質量%である。皮材中のZn含有量が上記範囲にあることにより、皮材が犠牲防食機能を発揮し、アルミニウム合金合わせ材の犠牲防食効果が高くなる。一方、心材中のZn含有量が、上記範囲未満だと、犠牲防食効果が不十分となり、また、上記範囲を超えると、皮材から発生するろう量が増え、皮材の犠牲防食機能が低くなる。
【0040】
本発明のアルミニウム合金合わせ材では、皮材中のFe含有量が、0.10~0.40質量%、好ましくは0.10~0.30質量%であり、且つ、Zn含有量は、0.80~5.00質量%、好ましくは2.50~4.00質量%であることにより、皮材による安定した犠牲防食作用が得られる。上記範囲で含有されるFeにより金属間化合物が生成し、ろう付加熱に伴う再結晶の際に結晶粒サイズが安定する。そして、皮材から生じた液相は粒界に沿って材料表面に現れるため、結晶粒サイズが安定することで液相が材料全体から均一に生じる。Znは液相に拡散するため、液相を均一に表出させることでZnが均一に存在し、局部腐食が抑制される。
【0041】
皮材中のCu含有量は、0.20質量%以下に規制されている。Cuは皮材において、浸み出すろうを形成する働きがSiとほぼ同じである。そのため、皮材中のCuの含有量が多過ぎると、皮材自体が減少するので、皮材中のCu含有量は、0.20質量%以下に規制される。なお、皮材中のCu含有量の下限は、特に制限されず、0.00質量%であってもよい。また、皮材中のCu含有量が0.20質量%を超えると、皮材の犠牲防食効果が低くなってしまう。
【0042】
皮材は、1.50質量%以下のMn、0.20質量%以下のTi、0.20質量%以下のZr、0.20質量%以下のCr、0.20質量%以下のV、及び0.10質量%以下のBiのうちのいずれか1種又は2種以上を含有してもよい。これらの元素は、皮材の強度を高めることで、アルミニウム合金合わせ材全体の強度を高める効果や結晶粒を制御する目的で添加される。
【0043】
皮材中に上記元素の他に含有される不可避的不純物元素は、個々の元素の含有量が0.05質量%以下、それらの合計が0.15質量%以下である。
【0044】
本発明のアルミニウム合金合わせ材が、片側の面にろう材を有する形態において、片側の面にろう材を配する理由は、ろうの供給量がある程度以上必要な熱交換器を製造する場合に、ろうの供給量を確保するためである。例えば、ろう材側にベアのコルゲートフィンが接合される場合や、押出多穴管が接合される場合等に、本発明のアルミニウム合金合わせ材のうち、片側の面にろう材を有する形態が用いられる。
【0045】
本発明のアルミニウム合金合わせ材が、ろう材を有する場合、本発明のアルミニウム合金合わせ材に係るろう材は、6.00~13.00質量%のSiを含有し、Fe含有量が0.80質量%以下であり、Cuが0.25質量%以下に規制されており、残部アルミニウム及び不可避不純物からなるアルミニウム合金からなる。
【0046】
ろう材中のSi含有量は、6.00~13.00質量%である。ろう材中のSi含有量が上記範囲にあることにより、ろう材の融点が低くなり液相を生じさせ、これによってろう付を可能にする。ろう材中のFe含有量は、0.80質量%以下である。ろう材中のFe含有量が上記範囲にあることにより、ろう付け性が良好となる。なお、ろう材中のSi及びFe含有量は、上記範囲で適宜選択される。
【0047】
本発明のアルミニウム合金板では、心材とろう材との電位差により、心材が優先腐食しないように、ろう材中のCu含有量は、0.25質量%以下に規制される。ろう材中のCu含有量が0.25質量%を超えると、心材とろう材との電位差により、心材が優先腐食する。
【0048】
ろう材は、4.00質量%以下のZnを含有してもよい。ろう材が4.00質量%以下のZnを含有することにより、ろう付中にろう材中のZnが心材に拡散することで心材表面から内部に向けての電位勾配を構成し、心材の耐食性を向上させる。一方、ろう材中のZn含有量が4.00質量%を超えると、ろう付け接合部のろうが優先腐食し、熱交換器全体としての耐食性が低下する。
【0049】
ろう材は、0.30質量%以下のMnを含有してもよい。ろう材を心材の片面に配置するのは、ろうの供給によるろう付が目的であるが、ろう材中のMn含有量が0.30質量%を超えると、ろうの流動性が低下し、ろう付け性が低下する。そのため、ろう材中のMn含有量は、0.30質量%以下とする。
【0050】
ろう材中に上記元素の他に含有される不可避的不純物元素は、個々の元素の含有量が0.05質量%以下、それらの合計が0.15質量%以下である。
【0051】
本発明のアルミニウム合金合わせ材は、300℃から400℃までを平均昇温速度80℃/分以下で昇温し、600±3℃で5±3分間保持する加熱試験において、皮材厚残存率((加熱試験後の皮材の厚み(mm)/加熱試験前の皮材の厚み(mm))×100)が90.0%以上である。皮材は、ろう付け後は、犠牲防食材として機能するが、上記加熱試験における皮材残存率が上記範囲未満だと、皮材の犠牲防食性が不十分となり、アルミニウム合金合わせ材の耐食性が低くなる。
【0052】
なお、本発明において、皮材の厚みは、板の断面を光学顕微鏡で観察することにより測定される。このとき、必要に応じて、エッチングを行ってもよい。また、300℃から400℃までを平均昇温速度80℃/分以下で昇温し、600±3℃で5±3分間保持する加熱試験であるが、先ず、試験試料である本発明のアルミニウム合金合わせ材を、不活性ガス雰囲気中で加熱して昇温し、600±3℃の保持温度まで加熱し、次いで、600±3℃で5±3分間保持し、次いで、室温まで冷却する加熱試験を行い、次いで、加熱試験前後の試験試料について、板厚方向切った断面(圧延面に垂直な面)における皮材の厚みを測定する。なお、加熱試験の昇温条件は、300℃から400℃までを平均昇温速度80℃/分以下で昇温し、次いで、600℃まで昇温する条件、好ましくは300℃から400℃までを平均昇温速度75℃/分以下、好ましくは70℃/分以下で昇温し、400℃から580℃までを8±3分で昇温し、580℃から保持温度までを10分以内で昇温する条件である。また、300℃から400℃までを平均昇温速度は40℃/分以上が好ましい。
【0053】
本発明のアルミニウム合金合わせ材において、上記加熱試験における皮材厚残存率は、皮材の組成を本発明に規定の範囲とし、且つ、本発明のアルミニウム合金合わせ材を製造するときに、皮材のSi含有量を2.00~3.00質量%とすることにより、90%以上に調節される。
【0054】
本発明のアルミニウム合金合わせ材の調質はO材である。アルミニウム合金合わせ材の調質がO材であることにより、アルミニウム合金合わせ材の成形性が良好となる。
【0055】
本発明のアルミニウム合金合わせ材おいて、心材の平均結晶粒径は、25~125μm、好ましくは40~120μmである。通常、O材調質のアルミニウム合金合わせ材では、結晶粒径が小さいほど成形性が向上する。しかし、結晶粒径が小さ過ぎると、発生した液相が結晶粒界に沿って心材に拡散するため、ろう付け性(ろう付時の耐変形性)が低くなる。そこで、本発明のアルミニウム合金合わせ材では、心材の平均結晶粒径が上記範囲に調節されていることにより、成形性及びろう付け性が良好となる。一方、心材の平均結晶粒径が、上記範囲未満だと、ろう付け性が悪くなり、また、上記範囲を超えると、成形後に心材の結晶粒組織模様が微細な凹凸となって、板表面に浮き出てくる、いわゆる肌荒れ現象が大きくなり、そのために、皮材で発生した少ない液相がうまく接合部に回らずにろう付け性が低くなる。
【0056】
なお、本発明において、心材の平均結晶粒径は、心材の板厚方向の中心部まで試験材料を研磨した後、陽極酸化法にてエッチングし、光学顕微鏡によって偏光像を観察し、得られた結晶粒組織観察像ミクロ組織からASTMの結晶粒図より求められる。
【0057】
本発明のアルミニウム合金合わせ材において、心材の平均結晶粒径は、心材の組成を本発明に規定の範囲とし、且つ、本発明のアルミニウム合金合わせ材を製造するときに、心材を570℃以上620℃以下で均質化処理し、板厚6mm以下までの熱間クラッド圧延工程と、熱間クラッド圧延したクラッド材を冷間圧延する冷間圧延工程と、冷間圧延工程の途中及び冷間圧延工程の後の一方又は両方においてクラッド材を焼鈍する1回以上の焼鈍工程と、を行い、最終焼鈍温度を330~420℃とすることでO材調質にすることにより、25~125μm、好ましくは40~120μmに調節される。
【0058】
本発明のアルミニウム合金合わせ材の板厚は、特に制限されないが、通常、0.3~3.0mmで用いられる。アルミニウム合金合わせ材の板厚が、0.3mm未満の場合、皮材から供給される液相ろうが少なくなり、未接合部を生じることがあり、また、3.0mmを超えると、O材処理前の最終冷間圧延率が十分に確保できずに、所定の結晶粒径が得難くなることがある。本発明のアルミニウム合金合わせ材の板厚は、好ましくは0.4~2.0mmである。
【0059】
本発明のアルミニウム合金合わせ材の皮材のクラッド率は、特に制限されないが、好ましくは5~25%である。皮材のクラッド率が、5%未満の場合、皮材から供給される液相ろうが少なくなり、未接合部を生じることがあり、また、25%を超えると、皮材が板材に占める割合が大きくなり、強度が低くなることがある。また、本発明のアルミニウム合金合わせ材の皮材のクラッド厚さは、50~300μmの範囲で、板厚と熱交換器の種類に合わせ適宜選択される。
【0060】
本発明のアルミニウム合金合わせ材を製造する方法としては、以下の製造方法が挙げられる。先ず、本発明のアルミニウム合金合わせ材に係る心材の組成のアルミニウム合金鋳塊を作製し、心材用のアルミニウム合金鋳塊を所定の厚さにする。また、本発明のアルミニウム合金合わせ材に係る皮材の組成を有するアルミニウム合金鋳塊を、必要に応じて本発明のアルミニウム合金合わせ材に係るろう材の組成を有するアルミニウム合金鋳塊を作製し、熱間圧延等により所定の厚さにする。
【0061】
心材用のアルミニウム合金鋳塊は、0.30~0.70質量%、好ましくは0.45~0.70質量%のFeと、0.03~0.20質量%、好ましくは0.05~0.18質量%のCuと、1.00~1.50質量%、好ましくは1.00~1.40質量%のMnと、任意に、0.20質量%以下のSi、0.30質量%以下のMg、0.30質量%以下のZn、0.30質量%以下のTi、0.30質量%以下のZr及び0.30質量%以下のCrのうちいずれか1種又は2種以上と、を含有し、残部アルミニウム及び不可避不純物からなるアルミニウム合金からなる。このとき、心材用のアルミニウム合金鋳塊を、570~620℃で均質化処理することが好ましい。この温度域での均質化により心材の結晶粒径を均一化することで、得られる製品板の特性ばらつきを抑制することができる。570~620℃で均質化処理することで、Mnを含有する析出物を粗大化し、最終焼鈍時に生じる析出物による再結晶のピン止め効果を減じ、心材の平均結晶粒径を本発明に規定の範囲に調節することができる。均質化処理温度が570℃未満の場合には、Mnを含有する析出物が過度となり固溶Mn量を減じ、最終焼鈍時に析出物によるピン止め効果が起こらず、平均結晶粒径が過度に微細となる。均質化処理温度620℃以上の場合には、心材が溶融する場合がある。また、均質化処理後に鋳塊を面削し、所定の厚さとする。面削後の厚さは皮材、ろう材のクラッド率で決定される。
【0062】
皮材用のアルミニウム合金鋳塊は、2.00~3.00質量%、好ましくは2.10~2.80質量%のSiと、0.10~0.40質量%、好ましくは0.10~0.30質量%のFeと、0.80~5.00質量%、好ましくは2.50~4.00質量%のZnと、任意に、1.50質量%以下のMn、0.20質量%以下のTi、0.20質量%以下のZr、0.20質量%以下のCr、0.20質量%以下のV、及び0.10質量%以下のBiのうちのいずれか1種又は2種以上と、を含有し、Cuが0.20質量%以下に規制されており、残部アルミニウム及び不可避不純物からなるアルミニウム合金からなる。皮材用のアルミニウム合金鋳塊の熱間圧延前の加熱温度は、400~520℃、好ましくは420~500℃である。この加熱温度が400℃未満では、塑性加工性が乏しいため圧延時に割れを生じる場合がある。一方、この加熱温度が500℃を超える場合には、加熱にかかるエネルギーが大きく、コストがかかる。また、熱間圧延前の加熱時間は0.5~30時間、好ましくは1~29時間である。この加熱時間が0.5時間未満では、材料温度が不均一になり、割れの原因となる。一方、この加熱時間が30時間を超えると生産性が著しく低下する。
【0063】
ろう材用のアルミニウム合金鋳塊は、6.00~13.00質量%のSiと、任意に、4.00質量%以下のZnと、を含有し、Fe含有量が0.80質量%以下であり、Cuが0.25質量%以下に規制されており、Mnが0.30質量%以下に規制されており、残部アルミニウム及び不可避不純物からなるアルミニウム合金からなる。ろう材用のアルミニウム合金鋳塊の熱間圧延前の加熱温度は、400~520℃、好ましくは420~500℃である。この加熱温度が400℃未満では、塑性加工性が乏しいため圧延時に割れを生じる場合がある。一方、この加熱温度が500℃を超える場合には、加熱にかかるエネルギーが大きく、コストがかかる。また、熱間圧延前の加熱時間は0.5~30時間、好ましくは1~29時間とする。この加熱時間が0.5時間未満では、材料温度が不均一になり、割れの原因となる。一方、この加熱時間が30時間を超えると生産性が著しく低下する。
【0064】
次いで、心材用のアルミニウム合金鋳塊に、皮材用のアルミニウム合金熱間圧延板を、必要に応じて更にろう材用のアルミニウム合金熱間圧延板を組み合わせ、熱間圧延にて合わせ材とする。合わせ材の熱間圧延前の加熱温度は、400~520℃、好ましくは420~500℃である。この加熱温度が400℃未満では、塑性加工性が乏しいため圧延時に割れを生じる場合があり、また、合わせ材が十分に接合されずに皮材またはろう材が剥がれてしまい、クラッド材が得られないことも発生しやすくなる。一方、この加熱温度が500℃を超える場合には、加熱にかかるエネルギーが大きく、コストがかかる。また、熱間圧延前の加熱時間は0.5~30時間、好ましくは1~29時間である。この加熱時間が0.5時間未満では、材料温度が不均一になり、割れの原因となる。一方、この加熱時間が30時間を超えると生産性が著しく低下する。合わせ材の熱間圧延終了時の板厚は、6mm以下、好ましくは5mm以下である。板厚が6mmを超えると、冷間圧延のパス数が多くなり、製造性が悪化する。板厚の下限は特に定めるものではないが、最終の板厚に対して2倍以上が好ましい。最終板厚に対して2倍以下の場合、冷間圧延での歪み量が小さく、最終焼鈍処理で再結晶させるために必要な温度が高くなり、製造性が悪化する。
【0065】
次いで、得られた熱間圧延合わせ材に、1回又は2回以上の冷間圧延と、少なくとも焼鈍処理として、最終の冷間圧延後に最終焼鈍処理と、を行い、本発明のアルミニウム合金板を得る。
【0066】
心材用のアルミニウム合金鋳塊は、Mnを含有しているため、高温で均質化処理を行うことでMnを含有する析出物を粗大化し、最終焼鈍時に生じる析出粒子による再結晶のピン止め効果を減じ、心材の平均結晶粒径を、本発明に規定の範囲に調節することができる。
【0067】
また、熱間圧延後から最終焼鈍処理までの間に中間焼鈍処理を行っても構わない。中間焼鈍処理は、熱間圧延前に生じた微細な析出物を粗大化させ、また、固溶しているMn等の元素を析出させて、最終焼鈍処理時の再結晶粒を微細にするために行われる。
【0068】
最終焼鈍処理前の冷間圧延の圧延率を50%以上とすることにより、冷間圧延によるひずみの蓄積量が大きくなり結晶粒が微細化し易くなる。一方、冷間圧延によるひずみの蓄積量が小さいと結晶粒が微細化し難くなる。また、最終焼鈍処理の加熱温度を330~420℃とすることにより、再結晶組織を得ることで、ろう付加熱過程での再結晶粒の過度な微細化を防ぎ、ろう浸透を抑制する。そして、所定の組成を有する心材用のアルミニウム合金鋳塊及び皮材用のアルミニウム合金鋳塊を用い、必要に応じて更にろう材用のアルミニウム合金鋳塊を用い、且つ、アルミニウム合金合わせ材を製造する製造工程において、上記冷間圧延及び最終焼鈍処理の条件を採用することにより、成形性、ろう付け性及び耐食性を並立することができる本発明のアルミニウム合金合わせ材を得ることができる。
【0069】
本発明のアルミニウム合金合わせ材では、皮材を接合層として用いることで、心材へのろうの拡散を防止している。これは本発明の最も重要なポイントである。
【0070】
通常、ろう材として用いられるAl-Si合金は、ろう付加熱中に、アルミニウム合金のマトリクス中に分散する主添加元素成分であるSiの晶析出物粒子や金属間化合物の界面が、球状に溶融して液相となる。通常のろう材は、Si含有量が5~13質量%と多いため、Siの晶析出物粒子や金属間化合物の量が多く、ろう付加熱の工程で、これらのSiの晶析出物粒子や金属間化合物の界面から液相が生じ、その液相が接合部に流動して接合フィレットを形成する。そのため、ろう材は元の形状を保たなくなる。
【0071】
それに対して、本発明のアルミニウム合金合わせ材では、皮材中のSi含有量が少ないため、発生する液相の総量が少なくなるので、母相が残存し元の形状が保たれる。発生した液相は母相中の拡散や粒界に沿って拡散するが、固相から液相に変わる際に体積膨張が生じ、周囲が拘束されていない材料表面に浸み出してくるため、Si含有量が少なくても接合が可能となる。そして、このような皮材では、ろう付加熱時に形成される液相の量が少ないため、心材の結晶粒径が微細であっても、ろう材が心材の結晶粒界に拡散する量がわずかとなる。そのため、従来のブレージングシートでは困難であった微細な心材の結晶粒径でもろう付けを可能とした。
【0072】
本発明の熱交換器は、2以上の本発明のアルミニウム合金合わせ材を、各部品の形状に成形し、それらを組み合わせ、組み合わせ体をろう付加熱することにより得られた熱交換器である。ろう付加熱の際の加熱温度は、好ましくは580~620℃、特に好ましくは590~610℃である。ろう付加熱の際の加熱保持時間は、好ましくは0~10分間である。ろう付加熱の際の雰囲気は、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気である。
【0073】
以下に、実施例を示して、本発明を具体的に説明するが、本発明は、以下に示す実施例に限定されるものではない。
【実施例0074】
表1に示す板厚0.5mm及び表2に示す板厚1.0mmの3層構造のろう付用アルミニウム合金合わせ材を製造した。表中の皮材が心材の一方の面にクラッドされており、心材の他方の面には、ろう材がクラッドされている。
これらの合わせ材を、以下の工程で製造した。皮材及びろう材用の鋳塊を、DC鋳造後面削を行い、皮材用鋳塊及びろう材用鋳塊を作製した。また、心材用鋳塊を、DC鋳造工程で製造した後、600℃にて10時間の均質化処理を実施し、その後面削を行い、心材用鋳塊を作製した。
次いで、熱間圧延工程により、目標のクラッド率が得られる板厚の皮材用圧延板及びろう材用圧延板とし、心材鋳塊と組み合わせ、厚さ505mmの合わせ前の状態とし、熱間圧延工程でクラッド圧延した。熱間圧延の終了板厚は3.5mmであった。
得られた熱間圧延材を、それぞれ板厚0.5mm及び板厚1.0mmまで冷間圧延を行い、365℃にて2時間の最終焼鈍処理を行い、O材とした。
得られたアルミニウム合金合わせ材の機械的特性及び心材の結晶粒径を表3に示す。引張試験にはJIS-13B相当の引張試験片を用いた。
また、心材の結晶粒径の測定を行った。図3(板厚0.5mm材)及び図4(板厚1.0mm材)に、得られたミクロ組織写真を示す。結晶粒径については、心材の板厚方向の中心部まで材料を研磨後、エッチングを施し、得られたミクロ組織からASTMの結晶粒図より求めた。
その結果、板厚0.5mm及び板厚1.0mm材の伸びは30%を超えており、優れた成形性を示している。また、引張強度は、いずれも110MPaを超えており、十分な強度を有している。
【0075】
次いで、板厚0.5mm及び板厚1.0mm材のそれぞれについて、不活性ガス雰囲気中で、300℃から400℃までを62℃/分の昇温速度で、400℃から580℃までを9.3分で昇温し、580℃から600℃までが1.6分となるように昇温し、600±3℃の保持温度まで加熱し、次いで、600±3℃で3.6分間保持し、次いで、室温まで冷却するろう付相当加熱を行い、図5に示す逆T字試験による接合性、及び自然電位測定による耐食性評価を行った。なお、該ろう付相当加熱は、皮材厚残存率を測定するための加熱試験の加熱条件と同じである。
逆T字試験による3003材との継ぎ手接合部断面組織観察結果を図6に示す。板厚0.5mm材、板厚1.0mm材ともに、3003材との接合部において均一なフィレットが形成されており、十分なろう付接合性を有している。
自然電位測定結果を表4に、ろう付前後での断面組織観察結果を図7(板厚0.5mm材)及び図8(板厚1.0mm材)に示す。図7(板厚0.5mm材)及び図8(板厚1.0mm材)の各上段がろう付加熱前、下段がろう付加熱後である。また、それぞれの写真の下側が皮材であり、上側がろう材合金である。また、ろう付相当加熱による皮材厚残存率を表4に示す。
ろう付相当加熱後の皮材においては、心材より十分に電位が卑であり、また合金層が確保されており、優れた犠牲防食効果を有することが分かる。また、皮材残存率は、いずれも90%以上であり、犠牲防食材として機能する皮材が十分残存していることが分かる。
【0076】
【表1】
【0077】
【表2】
【0078】
【表3】
【0079】
【表4】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8