(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023043100
(43)【公開日】2023-03-28
(54)【発明の名称】組合せ最適化計算方法、及び、組合せ最適化計算システム
(51)【国際特許分類】
G06N 10/00 20220101AFI20230320BHJP
G06N 99/00 20190101ALI20230320BHJP
【FI】
G06N10/00
G06N99/00 180
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021150621
(22)【出願日】2021-09-15
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.BLUETOOTH
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】山口 晃一郎
(72)【発明者】
【氏名】大山 貴博
(72)【発明者】
【氏名】阿部 英宗
(57)【要約】
【課題】FALQONでは実行可能解が得られない問題に対しても、実行可能解が得られるようにする。
【解決手段】位相回転量を表すパラメータを持つ量子回路により量子計算を行う量子コンピュータと、前記量子コンピュータの出力を基にフィードバック量を計算し、計算した前記フィードバック量を前記パラメータとした前記量子回路を新たに前記量子コンピュータに追加する古典コンピュータと、を用いて組合せ最適化を計算する方法であって、古典コンピュータにおいて、フィードバック量に対して、量子回路の追加とともに大きさがゼロに近付くような正の値を持つ利得を乗算することを特徴とする。
【選択図】
図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
位相回転量を表すパラメータを持つ量子回路により量子計算を行う量子コンピュータと、
前記量子コンピュータの出力を基にフィードバック量を計算し、計算した前記フィードバック量を前記パラメータとした前記量子回路を新たに前記量子コンピュータに追加する古典コンピュータと、を用いて組合せ最適化を計算する方法であって、
前記古典コンピュータにおいて、前記フィードバック量に対して、前記量子回路の追加とともに大きさがゼロに近付くような正の値を持つ利得を乗算することを特徴とする、
組合せ最適化計算方法。
【請求項2】
前記フィードバック量は、FALQON(Feedback-based ALgorithm for Quantum OptimizatioN)アルゴリズムにおけるフィードバック量である、
請求項1に記載の組合せ最適化計算方法。
【請求項3】
前記利得を計算するための利得関数として、量子アニーリングにおける量子ゆらぎ項の重みに対する収束条件を用いる、
請求項1又は2に記載の組合せ最適化計算方法。
【請求項4】
前記利得関数は、
【数1】
であり、tは時間変数、Nは量子ビット数、aとcは定数、δはδ<<1を満たす微少量である、
請求項3に記載の組合せ最適化計算方法。
【請求項5】
位相回転量を表すパラメータを持つ量子回路により量子計算を行う量子コンピュータと、
前記量子コンピュータの出力を基にフィードバック量を計算し、計算した前記フィードバック量をパラメータとした前記量子回路を新たに前記量子コンピュータに追加する古典コンピュータと、を備える組合せ最適化計算システムであって、
前記古典コンピュータは、前記フィードバック量に対して、前記量子回路の追加とともに大きさがゼロに近付くような正の値を持つ利得を乗算することを特徴とする、
組合せ最適化計算システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、組合せ最適化計算方法、及び、組合せ最適化計算システムに関する。
【背景技術】
【0002】
量子ゲート方式による量子コンピュータを用いて組合せ最適化問題を解くアルゴリズムとしてQAOA(Quantum Approximate Optimization Algorithm)が知られている(例えば、非特許文献1を参照)。QAOAは、量子回路の最適なパラメータを古典コンピュータを用いて探索することにより、コスト関数のエネルギーが最小となる状態を近似的に計算する。
【0003】
QAOAにおいて古典コンピュータによるパラメータ探索処理がボトルネックとなるが、この処理を不要とするアルゴリズムとしてFALQON(Feedback-based ALgorithm for Quantum OptimizatioN)が知られている(例えば、非特許文献2を参照)。
【0004】
FALQONは、古典制御技術におけるリアプノフ安定性に従い、量子回路のパラメータを逐次決定する。より具体的には、多段に接続された量子回路に対し、前段の量子回路の出力結果をフィードバックし、これを基に次段の量子回路におけるパラメータを順次決定していく。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Farhi, Edward, Jeffrey Goldstone, and Sam Gutmann. "A quantum approximate optimization algorithm." arXiv preprint arXiv:1411.4028 (2014).
【非特許文献2】Magann, Alicia B., et al. "Feedback-based quantum optimization." arXiv preprint arXiv:2103.08619 (2021).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
FALQONを用いて組合せ最適化問題を解く場合において、量子回路のパラメータを決定するためのフィードバック量が収束せず、実行可能解が得られない場合がある。
【0007】
本開示は、FALQONでは実行可能解が得られない問題に対しても、実行可能解が得られるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示は、位相回転量を表すパラメータを持つ量子回路により量子計算を行う量子コンピュータと、前記量子コンピュータの出力を基にフィードバック量を計算し、計算した前記フィードバック量を前記パラメータとした前記量子回路を新たに前記量子コンピュータに追加する古典コンピュータと、を用いて組合せ最適化を計算する方法であって、前記古典コンピュータにおいて、前記フィードバック量に対して、前記量子回路の追加とともに大きさがゼロに近付くような正の値を持つ利得を乗算することを特徴とする、組合せ最適化計算方法を提供する。
【0009】
本開示は、位相回転量を表すパラメータを持つ量子回路により量子計算を行う量子コンピュータと、前記量子コンピュータの出力を基にフィードバック量を計算し、計算した前記フィードバック量をパラメータとした前記量子回路を新たに前記量子コンピュータに追加する古典コンピュータと、を備える組合せ最適化計算システムであって、前記古典コンピュータは、前記フィードバック量に対して、前記量子回路の追加とともに大きさがゼロに近付くような正の値を持つ利得を乗算することを特徴とする、組合せ最適化計算システムを提供する。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、FALQONでは実行可能解が得られない問題に対しても、実行可能解が得られるようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図2】FALQONアルゴリズムによって量子回路のパラメータを制御する組合せ最適化計算システムの構成例を示すブロック図
【
図3】FALQONアルゴリズムによって量子回路のパラメータを制御する組合せ最適化計算システムの動作例を示すフローチャート
【
図4】巡回セールスマン問題の評価を行った際のシミュレーション条件
【
図5】4都市の巡回セールスマン問題を解いた際の量子回路の各段におけるエネルギー期待値の結果を示すグラフ
【
図6】4都市の巡回セールスマン問題を解いた際の量子回路の各段におけるフィードバック量βの結果を示すグラフ
【
図7】4都市の巡回セールスマン問題の実行可能解を示す図
【
図8】本実施の形態に係る量子ゆらぎ項の重みの一例を示すグラフ
【
図9】本実施の形態に係る量子ゆらぎ重みを用いて4都市の巡回セールスマン問題を解いた際の量子回路の各段におけるエネルギー期待値の結果を示すグラフ
【
図10】本実施の形態に係る量子ゆらぎ重みを用いて4都市の巡回セールスマン問題を解いた際の量子回路の各段におけるフィードバック量の結果を示すグラフ
【
図11】フィードバック利得制御方法を適用した本実施の形態に係る組合せ最適化計算システムの構成例を示すブロック図
【
図12】本実施の形態に係る古典コンピュータによって量子回路のパラメータを制御する組合せ最適化計算システムの動作例を示すフローチャート
【
図13】本開示に係る古典コンピュータのハードウェア構成例を示すブロック図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を適宜参照して、本開示の実施の形態について、詳細に説明する。ただし、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、すでによく知られた事項の詳細説明及び実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。これは、以下の説明が不必要に冗長になるのを避け、当業者の理解を容易にするためである。なお、添付図面及び以下の説明は、当業者が本開示を十分に理解するために提供されるのであって、これらにより特許請求の記載の主題を限定することは意図されていない。
【0013】
(本実施の形態)
<FALQONの概要>
FALQONは、古典制御理論で用いられるリアプノフ関数に基づいてフィードバック量を求め、エネルギーが最小となる量子回路のパラメータを逐次決定するアルゴリズムである。そのため、QAOAにおける古典コンピュータによる量子回路のパラメータの探索処理が不要となる。
【0014】
以下、FALQONの理論的な背景について説明する。FALQONの時間発展は次の(式1)で表される。
【0015】
【0016】
ここで、HPはターゲットハミルトニアン、すなわち解きたい問題のエネルギー関数を示す。Hdは量子ゆらぎ項である。β(t)はフィードバック量を表す。FALQONにおけるリアプノフ関数は次の(式2)となる。
【0017】
【0018】
ここで、ψ(t)は時刻tでの量子状態である。古典制御のリアプノフ安定定理によれば、V(t)の時間微分が次の(式3)を満たす場合に、t→∞で量子状態ψ(t)が収束する。
【0019】
【0020】
上記を満たすフィードバック量β(t)は、次の(式4)、(式5)で与えられる。
【0021】
【0022】
【0023】
図1は、FALQONの回路ブロック図を示す。初期の量子状態を|ψ
0〉とすると、次の(式6)、(式7)に示す時間ステップΔtの時間発展ゲートを用いて、初段(以下、段をレイヤと記す場合もある)の量子回路から出力される量子状態は、次の(式8)のようになる。
【0024】
【0025】
【0026】
【0027】
この状態での(式4)の測定値をA1とすると、次段のフィードバック量β2はβ2=-A1と求められる。FALQONアルゴリズムは、この過程を量子回路の段数であるk回分くり返して、ターゲットハミルトニアンの基底状態を与えるβ1,β2,…,βkを順次決定していく。なお、kはレイヤインデックスを示す。
【0028】
図2は、上述したFALQONアルゴリズムによって量子回路のパラメータを制御する組合せ最適化計算システム10の構成例を示すブロック図である。
【0029】
組合せ最適化計算システム10は、量子ゲート方式の量子コンピュータ20と、古典コンピュータとを備える。量子コンピュータ20と古典コンピュータとは、例えば、所定の通信ネットワークを通じて、情報を送受信することができる。通信ネットワークの例として、インターネット、セルラ網、LAN(Local Area Network)、専用線等が挙げられる。
【0030】
量子コンピュータ20は、位相回転量を表すパラメータを持つ量子回路により量子計算を行うものであり、量子回路装置21と測定装置22とを備える。
【0031】
量子回路装置21は、
図1に例示するように、少なくとも1つの量子回路を含む。
【0032】
測定装置22は、量子回路装置21からの出力(つまり量子状態)を測定(観測)する。
【0033】
古典コンピュータ30は、フィードバック量計算処理部31の機能を実現する。古典コンピュータ30は、
図13に示すように、少なくともプロセッサ1001及びメモリ1002を備え、プロセッサ1001がメモリ1002に格納されたコンピュータプログラムを読み出して実行することにより、この機能を実現してよい。
【0034】
フィードバック量計算処理部31は、測定装置22によって測定された量子状態に基づいて、フィードバック量βを計算する。そして、フィードバック量計算処理部31は、その計算したフィードバック量βを、上記の位相回転量を表すパラメータとした量子回路を、新たに量子回路装置21に追加する。これにより、
図1における量子回路の段数が1つ増える。
【0035】
図3は、上述したFALQONアルゴリズムによって量子回路のパラメータを制御する組合せ最適化計算システム10の動作例を示すフローチャートである。
【0036】
フィードバック量計算処理部31は、レイヤkを1とする(S101)。kはレイヤインデックスを示す。ここで、k=t/Δtである。別言すると、t=kΔtである。レイヤkは、
図1におけるk段目の量子回路に対応する。
【0037】
フィードバック量計算処理部31は、レイヤ1の量子回路のフィードバック量β1を0に設定する(S102)。
【0038】
フィードバック量計算処理部31は、レイヤkが所定の最大レイヤより大きいか否かを判定する(S103)。
【0039】
フィードバック量計算処理部31は、レイヤkが最大レイヤ以下の場合(S103:NO)、処理をS104に進める。
【0040】
測定装置22は、量子回路装置21からの出力状態を測定する(S104)。
【0041】
フィードバック量計算処理部31は、ステップS104の測定結果に基づいて、フィードバック量βを計算する(S105)。
【0042】
フィードバック量計算処理部31は、ステップS105で計算したフィードバック量βを設定した量子回路(つまり(k+1)段目の量子回路)を、量子回路装置21に追加する(S106)。
【0043】
フィードバック量計算処理部31は、レイヤkに1を加算し(S107)、処理をステップS103に戻す。
【0044】
ステップS103の判定において、レイヤkが所定の最大レイヤより大きい場合(S103:YES)、測定装置22は、量子回路装置21からの出力状態を測定し、測定結果を出力する(S108)。古典コンピュータ30は、その出力された測定結果をグラフ等にして表示してもよい。そして、本処理は終了する。
【0045】
以上の処理により、量子コンピュータ20の量子回路装置21に、
図1に示すように、フィードバック量β
1~β
kがそれぞれ設定されたレイヤ1~kの量子回路が構成される。そして、測定装置22は、そのように構成された量子回路装置21からの出力状態を測定できる。
【0046】
<FALQONの課題>
出願人は、FALQONを実際の問題に適用した場合にどのような課題があるのかを検証するため、問題の種類や規模を変えた場合の評価を実施した。
【0047】
まず、グラフの頂点を2つのグループに分ける際にグループ間の辺の本数が最大となるような分割方法を求めるMaxCut問題に関しては、期待する解が得られた。
【0048】
次に、一人のセールスマンが複数の都市を訪問する際の最短ルートを探索する巡回セールスマン問題について評価を行った。
【0049】
図4は、巡回セールスマン問題の評価を行った際のシミュレーション条件を示す。
【0050】
巡回セールスマン問題の場合、3都市の問題規模に関しては最適解が得られたが、問題規模を4都市に増やすと実行可能解が得にくくなってしまった。
【0051】
図5は、4都市の巡回セールスマン問題を解いた際の量子回路の各段におけるエネルギー期待値の結果を示すグラフである。
図6は、4都市の巡回セールスマン問題を解いた際の量子回路の各段におけるフィードバック量βの結果を示すグラフである。
図7は、4都市の巡回セールスマン問題の実行可能解を示す図である。
【0052】
図5及び
図6において、実線は10回の評価の平均値を示し、点線に挟まれる範囲はデータの標準偏差を示している。この結果から、エネルギー期待値とフィードバック量の両方が収束出来ていないことが分かる。また、観測頻度が最大の解が
図7に示すような実行可能解となる確率は約7%であり、残りの93%では、どの都市にも訪問しない結果を含む実行不可能解が最大頻度で観測された。
【0053】
以上の事から、出願人は、求解対象とする問題の種類や規模によっては、FALQONが期待通りに動作できないことを確認した。すなわち、量子ゲート方式の量子コンピュータで組合せ最適化問題を解くアルゴリズムであるFALQONに対し、求解対象とする問題の種類や規模によっては期待通りの動作ができない場合がある。
【0054】
<FALQONの課題を解決する手法>
上記(式1)で示したFALQONの時間発展は、量子アニーリング方式と同様である。そのため、量子アニーリング方式における量子ゆらぎ項の重みに対する収束条件をFALQONに適用することで、FALQONの結果もターゲットハミルトニアンの基底状態に収束することが期待できる。
【0055】
量子アニーリング方式において時間変化する状態がターゲットハミルトニアンの基底状態に収束する十分条件は、ある正数t0が存在し、t>t0において量子ゆらぎ項の重みΓ(t)が次の(式9)で与えられることである。なお、量子ゆらぎ項の重みΓは、利得関数Γと読み替えられてもよい。
【0056】
【0057】
ここで、Nは量子ビット数、aとcは定数、δはδ<<1を満たす微少量である。
【0058】
図8は、本実施の形態に係る量子ゆらぎ項の重みΓ(t)の一例を示すグラフである。
図8において、下段のグラフは、上段のグラフの点線枠の部分を拡大したものである。
図8に示す通り、量子ゆらぎ項の重みΓ(t)は、量子回路の追加、すなわち、レイヤの増加とともに大きさがゼロに近付くような正の値を持つ。
【0059】
FALQONにおけるフィードバック量β(t)が(式9)のように時間変化すればよいので、β(t)の包絡線が(式9)に比例するように、β(t)の利得を制御することを考える。より具体的には、(式5)で計算していたフィードバック量β(t)を次の(式10)に置き換える。
【0060】
【0061】
(式10)を用いてβ(t)の計算を行った場合において、4都市の巡回セールスマン問題を解いた際のエネルギー期待値およびフィードバック量の結果を
図9と
図10に示す。
【0062】
図9は、本実施の形態に係る量子ゆらぎ項の重みを用いて4都市の巡回セールスマン問題を解いた際の量子回路の各段におけるエネルギー期待値の結果を示すグラフである。
図10は、本実施の形態に係る量子ゆらぎ項の重みを用いて4都市の巡回セールスマン問題を解いた際の量子回路の各段におけるフィードバック量βの結果を示すグラフである。
図9及び
図10において、
図5及び
図6と同様、実線は10回の評価の平均値を示し、点線に挟まれる範囲はデータの標準偏差を示している。
【0063】
図9及び
図10に示す結果を見ると、量子ゆらぎ項の重みの制御を追加したことにより、いずれも収束している様子が確認できる。また、エネルギー期待値の平均が単調減少していることと、量子回路の段数を増やすことでエネルギーの標準偏差の幅が縮まっていることから、観測される状態が徐々に単一の低いエネルギーの状態に近づいていることになる。したがって、コスト関数を最小化する、エネルギーの低い状態の観測頻度が高くなる。実際、観測頻度が最大となる解が実行可能解となる確率は、フィードバック量に量子ゆらぎ項の重みの制御を追加したことで7%から100%に改善した。
【0064】
以上、量子アニーリング方式における量子ゆらぎ項の重みに対する収束条件をFALQONに適用したフィードバック利得制御方法を開示した。そして、出願人は、シミュレーションによりその有効性を確認した。
【0065】
なお、量子ゆらぎ項の重み(利得関数)Γの算出方法は、上述した(式9)に限られない。量子ゆらぎ項の重み(利得関数)Γとして、量子回路の追加とともに大きさがゼロに近付くような正の値を持つ他の関数を用いてもよい。例えば、量子ゆらぎ項の重み(利得関数)Γは、次の(式11)によって算出されてもよい。なお、(式11)において、Lは全レイヤ数を示す。
【0066】
【0067】
図11は、上記のフィードバック利得制御方法を適用した本実施の形態に係る組合せ最適化計算システム10の構成例を示すブロック図である。
【0068】
本実施の形態に係る組合せ最適化計算システム10は、
図2に示した組合せ最適化計算システム10と同様、量子ゲート方式の量子コンピュータ20と、古典コンピュータ30とを備える。
【0069】
量子コンピュータ20の構成は、
図2に示したものと同様であるので、ここでは説明を省略する。
【0070】
古典コンピュータ30は、フィードバック量計算処理部31と、利得制御部32と、合成部33との機能を実現する。古典コンピュータ30は、
図13に示すように、少なくともプロセッサ1001及びメモリ1002を備え、プロセッサ1001がメモリ1002に格納されたコンピュータプログラムを読み出して実行することにより、これらの機能を実現してよい。
【0071】
フィードバック量計算処理部31は、
図2と同様、測定装置22によって測定(観測)された量子状態に基づいて、フィードバック量を計算する。すなわち、フィードバック量計算処理部31は、上記(式10)における「-A(t)」を計算する。
【0072】
利得制御部32は、上記(式9)及び(式10)における量子ゆらぎ項の重みΓ(t)を計算する。
【0073】
合成部33は、(式10)に示すように、フィードバック量計算処理部31から出力される「-A(t)」に、利得制御部32から出力されるΓ(t)を乗算し、フィードバック量β(t)を得る。合成部33は、
図2と同様、フィードバック量β(t)を用いて、量子回路装置21に量子回路を追加する。
【0074】
図12は、本実施の形態に係る古典コンピュータ30によって量子回路のパラメータを制御する組合せ最適化計算システム10の動作例を示すフローチャートである。
【0075】
フィードバック量計算処理部31は、レイヤkを1とする(S201)。kはレイヤインデックスを示す。ここで、k=t/Δtである。別言すると、t=kΔtである。レイヤkは、
図1におけるk段目の量子回路に対応する。
【0076】
合成部33は、レイヤ1の量子回路のフィードバック量β1を初期値Γ(0)に設定する(S202)。つまり、フィードバック量計算処理部31は1を出力し、利得制御部32はΓ(0)を出力し、合成部33はβ(0)=Γ(0)を1段目の量子回路に設定する。
【0077】
フィードバック量計算処理部31は、レイヤkが所定の最大レイヤより大きいか否かを判定する(S203)。
【0078】
フィードバック量計算処理部31は、レイヤkが最大レイヤ以下の場合(S203:NO)、処理をS204に進める。
【0079】
測定装置22は、量子回路装置21からの出力状態を測定する(S204)。
【0080】
フィードバック量計算処理部31は、ステップS204の測定結果に基づいて、「-A(t)」を計算する(S205)。
【0081】
利得制御部32は、Γ(t)を計算する(S206)。
【0082】
合成部33は、ステップS205にてフィードバック量計算処理部31が計算した「-A(t)」に、ステップS206にて利得処理部が計算したΓ(t)を乗算し、フィードバック量β(t)=-A(t)Γ(t)を計算する(S207)。
【0083】
合成部33は、ステップ207で計算したフィードバック量β(t)を設定した量子回路(つまりレイヤ(k+1)の量子回路)を、量子回路装置21に追加する(S208)。
【0084】
フィードバック量計算処理部31は、レイヤkに1を加算し(S209)、処理をS203に戻す。
【0085】
ステップS203の判定において、レイヤkが所定の最大レイヤより大きい場合(S203:YES)、測定装置22は、量子回路装置21からの出力状態を測定し、測定結果を出力する(S210)。古典コンピュータ30は、その出力された測定結果をグラフ等にして、出力装置1005(
図13参照)に表示してもよい。そして、本処理は終了する。
【0086】
以上の処理により、量子コンピュータ20の量子回路装置21に、
図1に示すように、量子ゆらぎ項の重みΓ(t)を用いて計算されたフィードバック量β
1~β
kがそれぞれ設定されたレイヤ1~kの量子回路が構成される。そして、測定装置22は、そのように構成された量子回路装置21からの出力状態を測定できる。その測定結果は、従来のFALQONでは収束しなかった
図5及び
図6と比較して、例えば
図9及び
図10に示すように収束し得る。よって、
図11及び
図12に示す本実施の形態に係る組合せ最適化計算システム10によれば、FALQONでは実行可能解を得られなかった問題についても、実行可能解を得ることができる場合がある。
【0087】
なお、上述では、組合せ最適化問題の一例として巡回セールスマン問題を採り上げて説明したが、本実施の形態の適用対象は、巡回セールスマン問題に限られない。例えば、本実施の形態は、荷物配送計画の最適化、要員シフト計画の最適化、工場内のAGV移動経路の最適化といった様々な組合せ最適化問題に適用可能である。
【0088】
<古典コンピュータの構成>
図13は、本開示に係る古典コンピュータ30のハードウェア構成例を示すブロック図である。
【0089】
古典コンピュータ30は、プロセッサ1001、メモリ1002、ストレージ1003、入力装置1004、出力装置1005、通信装置1006、GPU(Graphics Processing Unit)1007、読取装置1008、及び、バス1009を備える。
各装置1001~1008は、バス1009に接続され、バス1009を介して双方向にデータを送受信できる。
【0090】
プロセッサ1001は、メモリ1002に記憶されたコンピュータプログラムを実行し、上述した機能を実現する装置である。プロセッサ1001の例として、CPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro Processing Unit)、コントローラ、LSI(Large Scale Integration)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、PLD(Programmable Logic Device)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)が挙げられる。
【0091】
メモリ1002は、古典コンピュータ30が取り扱うコンピュータプログラム及びデータを記憶する装置である。メモリ1002は、ROM(Read-Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)を含んでよい。ROMの例として、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read-Only Memory)、フラッシュメモリが挙げられる。RAMの例として、DRAM(Dynamic Random Access Memory)、フラッシュメモリが挙げられる。
【0092】
ストレージ1003は、不揮発性記憶媒体で構成され、コンピュータ1000が取り扱うコンピュータプログラム及びデータを記憶する装置である。ストレージ1003の例として、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、フラッシュメモリが挙げられる。
【0093】
入力装置1004は、プロセッサ1001に入力するデータを受け付ける装置である。入力装置1004の例として、キーボード、マウス、タッチパッド、マイクが挙げられる。
【0094】
出力装置1005は、プロセッサ1001が生成したデータを出力する装置である。出力装置1005の例として、ディスプレイ、スピーカーが挙げられる。
【0095】
通信装置1006は、量子コンピュータ20と、通信ネットワークを介して、データを送受信する装置である。通信装置1006は、データを送信する送信部とデータを受信する受信部を含んでよい。通信装置1006は、有線通信及び無線通信の何れに対応してもよい。有線通信の例として、Ethernet(登録商標)が挙げられる。無線通信の例として、Wi-Fi(登録商標)、Bluetooth、LTE(Long Term Evolution)、4G、5Gが挙げられる。
【0096】
GPU1007は、画像描写を高速に処理する装置である。なお、GPU1007は、AI(artificial intelligence)の処理(例えばディープラーニング)に利用されてもよい。
【0097】
読取装置1008は、DVD-ROM(Digital Versatile Disk Read Only Memory)又はUSB(Universal Serial Bus)メモリといった記録媒体からデータを読み取る装置である。
【0098】
なお、古典コンピュータ30の機能は、集積回路であるLSIとして実現されてもよい。これらの機能は、個別に1チップ化されてもよいし、一部又は全てを含むように1チップ化されてもよい。ここでは、LSIとしたが、集積度の違いにより、IC、システムLSI、スーパーLSI、ウルトラLSIと呼称されることもある。さらには、半導体技術の進歩又は派生する別技術によりLSIに置き換わる集積回路化の技術が登場すれば、当然、その技術を用いて機能の集積化を行ってもよい。
【0099】
(本開示のまとめ)
本開示の内容は以下のように表現することができる。
【0100】
<表現1>
位相回転量を表すパラメータを持つ量子回路により量子計算を行う量子コンピュータ20と、量子コンピュータ20の出力を基にフィードバック量βを計算し、計算したフィードバック量βをパラメータとした量子回路を新たに量子コンピュータ20に追加する古典コンピュータ30と、を用いて組合せ最適化を計算する組合せ最適化計算方法において、古典コンピュータ30において、フィードバック量βに対して、量子回路の追加とともに大きさがゼロに近付くような正の値を持つ利得Γを乗算することを特徴とする。
【0101】
<表現2>
表現1に記載の組合せ最適化計算方法において、フィードバック量βは、FALQON(Feedback-based ALgorithm for Quantum OptimizatioN)アルゴリズムにおけるフィードバック量であってよい。
【0102】
<表現3>
表現1又は2に記載の組合せ最適化計算方法において、利得を計算するための利得関数Γとして、量子アニーリングにおける量子ゆらぎ項の重みに対する収束条件を用いてよい。
【0103】
<表現4>
表現3に記載の組合せ最適化計算方法において、利得関数Γは、
【0104】
【0105】
であり、tは時間変数、Nは量子ビット数、aとcは定数、δはδ<<1を満たす微少量であってよい。
【0106】
上述した方法によれば、FALQONでは実行可能解が得られない問題に対しても、実行可能解が得られる場合がある。
【0107】
<表現5>
位相回転量を表すパラメータを持つ量子回路により量子計算を行う量子コンピュータ20と、量子コンピュータ20の出力を基にフィードバック量を計算し、計算したフィードバック量をパラメータとした量子回路を新たに量子コンピュータに追加する古典コンピュータと、を備える組合せ最適化計算システム10において、古典コンピュータ30は、フィードバック量に対して、量子回路の追加とともに大きさがゼロに近付くような正の値を持つ利得を乗算することを特徴とする。
【0108】
上述した構成によれば、FALQONでは実行可能解が得られない問題に対しても、実行可能解が得られる場合がある。
【0109】
以上、添付図面を参照しながら実施の形態について説明したが、本開示はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例、修正例、置換例、付加例、削除例、均等例に想到し得ることは明らかであり、それらについても本開示の技術的範囲に属すると了解される。また、発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上述した実施の形態における各構成要素を任意に組み合わせてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0110】
本開示の技術は、量子力学を応用して組合せ最適化問題を解く方法、装置、又は、システムに有用である。
【符号の説明】
【0111】
10 組合せ最適化計算システム
20 量子コンピュータ
21 量子回路装置
22 測定装置
30 古典コンピュータ
31 フィードバック量計算処理部
32 利得制御部
33 合成部