(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023043115
(43)【公開日】2023-03-28
(54)【発明の名称】ウインドシールド
(51)【国際特許分類】
B60J 1/00 20060101AFI20230320BHJP
C03C 27/12 20060101ALI20230320BHJP
【FI】
B60J1/00 H
C03C27/12 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021150664
(22)【出願日】2021-09-15
(71)【出願人】
【識別番号】000004008
【氏名又は名称】日本板硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124039
【弁理士】
【氏名又は名称】立花 顕治
(72)【発明者】
【氏名】千葉 和喜
(72)【発明者】
【氏名】朝岡 尚志
【テーマコード(参考)】
4G061
【Fターム(参考)】
4G061AA23
4G061BA02
4G061CB03
4G061CB19
4G061CD03
4G061CD18
(57)【要約】
【課題】情報取得装置による情報の取得を正確に行うことができるような発熱が可能な、ウインドシールドを提供する。
【解決手段】本発明は、光の照射及び/又は受光を行うことで車外からの情報を取得する情報取得装置が配置可能な自動車のウインドシールドであって、外側ガラス板と、前記外側ガラス板と対向配置される、内側ガラス板と、前記外側ガラス板と内側ガラス板との間に配置される中間膜と、を備え、前記中間膜は、前記情報取得装置と対向し前記光が通過する情報取得領域と対応する位置に配置された発熱層と、前記発熱層に給電するように構成された一対のバスバーと、を備え、前記発熱層は、第1方向、及び前記第1方向と直交する第2方向に延びるように形成され、前記発熱層の前記第1方向の長さは、前記第2方向の長さよりも短く形成されており、前記一対のバスバーは、前記発熱層における前記第1方向の両端部にそれぞれ配置されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光の照射及び/又は受光を行うことで車外からの情報を取得する情報取得装置が配置可能な自動車のウインドシールドであって、
外側ガラス板と、
前記外側ガラス板と対向配置される、内側ガラス板と、
前記外側ガラス板と内側ガラス板との間に配置される中間膜と、
を備え、
前記中間膜は、
前記情報取得装置と対向し前記光が通過する情報取得領域と対応する位置に配置された発熱層と、
前記発熱層に給電するように構成された一対のバスバーと、
を備え、
前記発熱層は、第1方向、及び前記第1方向と直交する第2方向に延びるように形成され、
前記発熱層の前記第1方向の長さは、前記第2方向の長さよりも短く形成されており、
前記一対のバスバーは、前記発熱層における前記第1方向の両端部にそれぞれ配置されている、ウインドシールド。
【請求項2】
前記外側ガラス板及び前記内側ガラス板の少なくとも一方に積層され、前記情報取得領域と対応する位置に開口が形成された遮蔽層をさらに備え、
前記一対のバスバーは、前記開口の外側において前記遮蔽層に覆われるように配置されている、請求項1に記載のウインドシールド。
【請求項3】
前記第1方向において、前記開口の縁部と前記バスバーとの間の距離が8mm以上である、請求項2に記載のウインドシールド。
【請求項4】
前記各バスバーの厚み及び幅をそれぞれ、t(mm),W(mm)としたとき、t/Wが0.01以下である、請求項1から3のいずれかに記載のウインドシールド。
【請求項5】
前記発熱層の厚みは、310μm以下である、請求項1から4のいずれかに記載のウインドシールド。
【請求項6】
前記発熱層は、JIS R3212で定める試験領域Aの外側に配置されている、請求項1から5のいずれかに記載のウインドシールド。
【請求項7】
前記中間膜は、前記発熱層を囲む機能性フィルムをさらに備えている、請求項1から6のいずれかに記載のウインドシールド。
【請求項8】
前記機能性フィルムと前記発熱層の厚みの差が、310μm以下である、請求項7に記載のウインドシールド。
【請求項9】
前記機能性フィルムは、光学フィルムである、請求項7または8に記載のウインドシールド。
【請求項10】
前記発熱層は、透明導電膜により形成されている、請求項1から9のいずれかに記載のウインドシールド。
【請求項11】
前記発熱層は、基材シートと、前記両バスバーを繋ぐ複数の加熱線と、を備えている、請求項1から9のいずれかに記載のウインドシールド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウインドシールドに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の安全性能は飛躍的に向上しつつあり、その1つとして前方車両との衝突を回避するため、前方車両との距離及び前方車両の速度を感知し、異常接近時には、自動的にブレーキが作動する安全システムが提案されている。このようなシステムは、前方車両との距離などをレーザーレーダーやカメラを用いて計測している。レーザーレーダーやカメラは、一般的に、ウインドシールドの内側に配置され、赤外線等の光を前方に向けて照射することで、計測を行う(例えば、特許文献1)。
【0003】
上記のように、レーザーレーダーやカメラなどの測定装置は、ウインドシールドを構成するガラス板の内面側に配置され、ガラス板を介して光の照射や受光を行っている。ところが、気温の低い日や寒冷地では、ガラス板が曇ったり、凍結することがある。しかしながら、ガラス板が曇ると、測定装置から正確に光を照射できなかったり、あるいは受光できないおそれがある。これにより、車間距離などが正確に算出されない可能性もある。
【0004】
このような問題は、車間距離の測定装置に限られず、例えば、レインセンサー、ライトセンサー、光ビーコンなどの光の受光によって車外からの情報を取得する情報取得装置全般に生じうる問題である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記問題を解決するため、光が通過する領域に、加熱線を配置することが提案されている。しかしながら、この領域では、情報取得装置による正確な情報の取得のため、十分な発熱が要求されるが、単に加熱線を配置するだけでは、要求される発熱を得ることはできない。本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、情報取得装置による情報の取得を正確に行うことができるような発熱が可能な、ウインドシールドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
項1.光の照射及び/又は受光を行うことで車外からの情報を取得する情報取得装置が配置可能な自動車のウインドシールドであって、
外側ガラス板と、
前記外側ガラス板と対向配置される、内側ガラス板と、
前記外側ガラス板と内側ガラス板との間に配置される中間膜と、
を備え、
前記中間膜は、
前記情報取得装置と対向し前記光が通過する情報取得領域と対応する位置に配置された発熱層と、
前記発熱層に給電するように構成された一対のバスバーと、
を備え、
前記発熱層は、第1方向、及び前記第1方向と直交する第2方向に延びるように形成され、
前記発熱層の前記第1方向の長さは、前記第2方向の長さよりも短く形成されており、
前記一対のバスバーは、前記発熱層における前記第1方向の両端部にそれぞれ配置されている、ウインドシールド。
【0008】
項2.前記外側ガラス板及び前記内側ガラス板の少なくとも一方に積層され、前記情報取得領域と対応する位置に開口が形成された遮蔽層をさらに備え、
前記一対のバスバーは、前記開口の外側において前記遮蔽層に覆われるように配置されている、項1に記載のウインドシールド。
【0009】
項3.前記第1方向において、前記開口の縁部と前記バスバーとの間の距離が8mm以上である、項2に記載のウインドシールド。
【0010】
項4.前記各バスバーの厚み及び幅をそれぞれ、t(mm),W(mm)としたとき、t/Wが0.01以下である、項1から3のいずれかに記載のウインドシールド。
【0011】
項5.前記発熱層の厚みは、310μm以下である、項1から4のいずれかに記載のウインドシールド。
【0012】
項6.前記発熱層は、JIS R3212で定める試験領域Aの外側に配置されている、項1から5のいずれかに記載のウインドシールド。
【0013】
項7.前記中間膜は、前記発熱層を囲む機能性フィルムをさらに備えている、項1から6のいずれかに記載のウインドシールド。
【0014】
項8.前記機能性フィルムと前記発熱層の厚みの差が、310μm以下である、項7に記載のウインドシールド。
【0015】
項9.前記機能性フィルムは、光学フィルムである、項7または8に記載のウインドシールド。
【0016】
項10.前記発熱層は、透明導電膜により形成されている、項1から9のいずれかに記載のウインドシールド。
【0017】
項11.前記発熱層は、基材シートと、前記両バスバーを繋ぐ複数の加熱線と、を備えている、項1から9のいずれかに記載のウインドシールド。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係るウインドシールドによれば、情報取得装置による情報の取得を正確に行うことができるような発熱が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明に係るウインドシールドの一実施形態を示す平面図である。
【
図2】
図1のウインドシールドが車両に取付けられた状態を示す断面図である。
【
図3】
図1のウインドシールドの撮影窓付近の拡大平面図である。
【
図6】バスバーの間隔が広いときのガラス板の変形を示す図である。
【
図7】バスバーの間隔が狭いときのガラス板の変形を示す図である。
【
図8】
図1のウインドシールドの撮影窓付近の他の例を示す拡大平面図である。
【
図9】本発明に係るウインドシールドの他の例を示す平面図である。
【
図10】
図9のウインドシールドの撮影窓付近の断面図である。
【
図11】バスバー及び配線の他の例を示す平面図である。
【
図12】バスバー及び配線の他の例を示す平面図である。
【
図15】実施例1及び比較例1のガラス板の変形を示す図である。
【
図16】実施例1及び実施例2のガラス板の変形を示す図である。
【
図19】発熱層の厚みと透視歪みとの関係を示すグラフである。
【
図20】実施例3,4における発熱層の厚みと透視歪みとの関係を示すグラフである。
【
図21】実施例3,4における400mdptの透視歪みが生じるときの撮影窓とバスバーとの距離を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係るウインドシールドの一実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
図1はウインドシールドの平面図、
図2は
図1のウインドシールドが車両に取付けられた状態を示す断面図である。なお、説明の便宜のため、
図1の上下方向を「上下」、「垂直」、「縦」と、
図1の左右方向を「左右」と称することとする。
図1は、車内側から見たウインドシールドを例示している。すなわち、
図1の紙面奥側が車外側であり、
図1の紙面手前側が車内側である。
【0021】
図1及び
図2に示すように、このウインドシールド1は、略矩形状の合わせガラス10を備えており、傾斜状態で車体に設置されている。また、このウインドシールド1は、外側ガラス板11、内側ガラス板12、及びこれらガラス板11,12の間に配置される中間膜13を備えている。また、外側ガラス板11及び内側ガラス板12の車内側の面には、それぞれマスク層110が積層されている。このマスク層110には、車外の状況を撮影するためのカメラが内蔵された撮影装置2がブラケット(図示省略)を介して取り付けられている。マスク層110には撮影装置2と対応する位置に撮影窓113が設けられ、この撮影窓113を介して、撮影装置2は、車外の状況を撮影可能となっている。
【0022】
撮影装置2には画像処理装置3が接続しており、撮影装置2により取得された撮影画像はこの画像処理装置3で処理される。撮影装置2及び画像処理装置3は車載システム5を構成しており(
図5参照)、この車載システム5は、画像処理装置3の処理に応じて様々な情報を乗車者に提供することができる。
【0023】
<1.ウインドシールドの概要>
<1-1.ガラス板>
外側ガラス板11及び内側ガラス板12は、公知のガラス板を用いることができ、熱線吸収ガラス、一般的なクリアガラスやグリーンガラス、またはUVグリーンガラスで形成することもできる。但し、これらのガラス板11、12は、自動車が使用される国の安全規格に沿った可視光線透過率を実現する必要がある。例えば、外側ガラス板11により必要な日射吸収率を確保し、内側ガラス板12により可視光線透過率が安全規格を満たすように調整することができる。以下に、クリアガラス、熱線吸収ガラス、及びソーダ石灰系ガラスの一例を示す。
【0024】
(クリアガラス)
SiO2:70~73質量%
Al2O3:0.6~2.4質量%
CaO:7~12質量%
MgO:1.0~4.5質量%
R2O:13~15質量%(Rはアルカリ金属)
Fe2O3に換算した全酸化鉄(T-Fe2O3):0.08~0.14質量%
【0025】
(熱線吸収ガラス)
熱線吸収ガラスの組成は、例えば、クリアガラスの組成を基準として、Fe2O3に換算した全酸化鉄(T-Fe2O3)の比率を0.4~1.3質量%とし、CeO2の比率を0~2質量%とし、TiO2の比率を0~0.5質量%とし、ガラスの骨格成分(主に、SiO2やAl2O3)をT-Fe2O3、CeO2およびTiO2の増加分だけ減じた組成とすることができる。
【0026】
(ソーダ石灰系ガラス)
SiO2:65~80質量%
Al2O3:0~5質量%
CaO:5~15質量%
MgO:2質量%以上
NaO:10~18質量%
K2O:0~5質量%
MgO+CaO:5~15質量%
Na2O+K2O:10~20質量%
SO3:0.05~0.3質量%
B2O3:0~5質量%
Fe2O3に換算した全酸化鉄(T-Fe2O3):0.02~0.03質量%
【0027】
本実施形態に係る合わせガラス10の厚みは特には限定されないが、軽量化の観点からは、外側ガラス板11と内側ガラス板12の厚みの合計を、2.4~5.0mmとすることが好ましく、2.6~3.4mmとすることがさらに好ましく、2.7~3.2mmとすることが特に好ましい。このように、軽量化のためには、外側ガラス板11と内側ガラス板12との合計の厚みを小さくすることが必要であるので、各ガラス板11,12のそれぞれの厚みは、特には限定されないが、例えば、以下のように、外側ガラス板11と内側ガラス板12の厚みを決定することができる。
【0028】
外側ガラス板11は、主として、外部からの障害に対する耐久性、耐衝撃性が必要であり、例えば、この合わせガラス10を自動車のウインドシールドとして用いる場合には、小石などの飛来物に対する耐衝撃性能が必要である。他方、厚みが大きいほど重量が増し好ましくない。この観点から、外側ガラス板11の厚みは1.0~3.0mmとすることが好ましく、1.6~2.3mmとすることがさらに好ましい。何れの厚みを採用するかは、ガラスの用途に応じて決定することができる。
【0029】
内側ガラス板12の厚みは、外側ガラス板11と同等にすることができるが、例えば、合わせガラス10の軽量化のため、外側ガラス板11よりも厚みを小さくすることができる。具体的には、ガラスの強度を考慮すると、0.6~2.0mmであることが好ましく、0.8~1.8mmであることがさらに好ましく、0.8~1.6mmであることが特に好ましい。更には、0.8~1.3mmであることが好ましい。内側ガラス板12についても、何れの厚みを採用するかは、ガラスの用途に応じて決定することができる。
【0030】
また、本実施形態に係る外側ガラス板11及び内側ガラス板12の形状は、湾曲形状であってもよい。但し、各ガラス板11、12が湾曲形状である場合には、ダブリ量が大きくなると遮音性能が低下するとされている。ダブリ量とは、ガラス板の曲げを示す量であり、ガラス板の上辺の中央と下辺の中央とを結ぶ直線Lを設定したとき、この直線Lとガラス板との距離のうち最も大きいものをダブリ量Dと定義する。
【0031】
また、湾曲形状のガラス板は、ダブリ量Dが30~38mmの範囲では、音響透過損失(STL:Sound Transmission Loss)に大きな差はないが、平面形状のガラス板と比べると、4000Hz以下の周波数帯域で音響透過損失が低下していることが分かる。したがって、湾曲形状のガラス板を作製する場合、ダブリ量Dは小さい方が好ましい。具体的には、ダブリ量Dを30mm未満とすることが好ましく、25mm未満とすることがさらに好ましく、20mm未満とすることが特に好ましい。
【0032】
ここで、ガラス板が湾曲している場合の厚みの測定方法の一例について説明する。まず、測定位置については、ガラス板の左右方向の中央を上下方向に延びる中央線上の上下2箇所である。測定機器は、特には限定されないが、例えば、株式会社テクロック製のSM-112のようなシックネスゲージを用いることができる。測定時には、平らな面にガラス板の湾曲面が載るように配置し、上記シックネスゲージでガラス板の端部を挟持して測定する。
【0033】
<1-2.マスク層>
図1及び
図2に示すように、このウインドシールド1の周縁には、黒などの濃色のセラミックにより形成されたマスク層110が積層されている。このマスク層110は、車内また車外からの視野を遮蔽するものであり、ウインドシールド1の外縁に沿って積層される周縁部111と、この周縁部111のうち、ウインドシールド1の上辺と対応する部分の中央付近から下方に延びる突出部112と、を有している。そして、この突出部112には、矩形状の撮影窓113が形成されている。撮影窓113は、マスク層110が形成されていない部分であり、ウインドシールド1の内外を透過する部分である。そして、上述した撮影装置2は、車内側に配置され、この撮影窓113を介して車外からの情報を取得するようになっている。マスク層110は、セラミック、種々の材料で形成することができるが、例えば、以下の組成とすることができる。
【表1】
*1,主成分:酸化銅、酸化クロム、酸化鉄及び酸化マンガン
*2,主成分:ホウケイ酸ビスマス、ホウケイ酸亜鉛
【0034】
セラミックは、スクリーン印刷法により形成することができるが、これ以外に、焼成用転写フィルムをガラス板に転写し焼成することにより作製することも可能である。スクリーン印刷を採用する場合、例えば、ポリエステルスクリーン:355メッシュ,コート厚み:20μm,テンション:20Nm,スキージ硬度:80度,取り付け角度:75°,印刷速度:300mm/sとすることができ、乾燥炉にて150℃、10分の乾燥により、セラミックを形成することができる。
【0035】
また、マスク層110は、セラミックを積層するほか、濃色の樹脂製の遮蔽フィルムを貼り付けることで形成することもできる。
【0036】
<1-3.中間膜>
次に、中間膜について、
図3及び
図4を参照しつつ説明する。
図3は、
図1のウインドシールドにおける撮影窓付近の拡大平面図、
図4は
図3のA-A線断面図である。
図3及び
図4に示すように、中間膜13は、外側ガラス板11に接着される透明の第1接着層131と、内側ガラス板12に接着される透明の第2接着層132と、これら両接着層131,132の間に配置される発熱層133と、を備えている。
【0037】
第1接着層131及び第2接着層132は、融着により各ガラス板11,12に接着されるものであれば、特には限定されないが、例えば、ポリビニルブチラール樹脂(PVB)、エチレンビニルアセテート樹脂(EVA)などによって形成することができる。一般に、ポリビニルアセタール樹脂の硬度は、(a)出発物質であるポリビニルアルコールの重合度、(b)アセタール化度、(c)可塑剤の種類、(d)可塑剤の添加割合などにより制御することができる。
【0038】
第1接着層131及び第2接着層132の厚みは、特には限定されないが、例えば、0.05~2.0mmであることが好ましく、0.1~1.0mmであることがさらに好ましい。但し、両接着層131,132の厚みは同じであっても、相違していてもよい。
【0039】
また、両接着層131,132の厚みの合計は、0.6mm以上であることが好ましい。これは、ウインドシールドにおいて、例えば、JIS R3211,R3212で規定するような耐貫通性能等を確保するためである。
【0040】
なお、第1接着層131及び第2接着層132は、後述するオートクレーブにより溶融して一体化するため、完成したウインドシールド1には、両接着層131,132の境界は視認できない。但し、説明の便宜のため、
図4に示す中間膜には、両接着層131,132の境界を記載している。
【0041】
発熱層133は、撮影窓113と対応する位置に配置された透明導電膜により形成されている。より詳細には、発熱層133は、撮影窓113よりもやや大きく形成され、撮影窓113を覆うように配置されている。発熱層133は、左右方向の長さが、上下方向よりも短い矩形状に形成されており、その左右の両端に、バスバー134が、半田などの接着材により、それぞれ積層されている。各バスバー134は、発熱層133に給電するためのものであり、それぞれ、発熱層133の両側で上方に延びている。また、各バスバー134の上端には、配線139が接続されており、各配線139の上端は、ガラス板11,12の上辺から突出している。そして、各配線139には、電源(図示省略)の正極及び負極がそれぞれ接続されている。また、各バスバー134は、発熱層133の左右の両端に積層されているため、マスク層110によって隠れ、撮影窓113からは見えないようになっている。
【0042】
発熱層133を構成する透明導電膜は、両バスバー134によって電圧が印加されたときに発熱するように構成されている。このような透明導電膜は、例えば、ITO、Sb及びFがドープされたSnO2、Al及びGaがドープされた酸化亜鉛、NbがドープされたTiO2、酸化タングステン等のTCO(Transparent Conductive Oxide)などや金属膜を、基材フィルム上に積層したものである。なお、TCOの抵抗は、例えば、3~160Ω/□とすることができる。160Ω/□を超えると発熱不足になり、防曇または解氷性能が不足するからである。一方、3Ω/□より低いと、異常発熱になるおそれや電力を過剰に消費するおそれがあり、ガラス板が割れたり、センサー等の機器に悪影響を及ぼすからである。基材フィルムは、透明の樹脂フィルムで形成され、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリカーボネートや、アクリル系樹脂で形成することができる。
【0043】
発熱層133の厚みは、例えば、38~310μmとすることが好ましく、50~125μmであることがさらに好ましい。発熱層133の厚みが小さすぎると取り扱いが難しくなる一方、発熱層133の厚みが大きすぎると、透視歪みが大きくなるからである。また、発熱層133の厚みが大きいと段差が生じ、ガラス板11,12の変形が生じやすくなることもある。
【0044】
バスバー134は導電性の材料であれば、特には限定されないが、銅、銀、金、白金等を挙げることができる。バスバー134の幅及び厚みは特には限定されないが、例えば、バスバー134の幅は、3~12mmが好ましく、バスバーの厚みは、10~100μmが好ましい。また、バスバー134の幅及び厚みをそれぞれ、W(mm),t(mm)としたとき、t/Wが0.01以下であることが好ましい。さらに、バスバー134と撮影窓113との距離s(
図4参照)は、8mm以上離れていることが好ましく、15mm以上離れていることがさらに好ましい。これは、バスバー134による段差でガラス板11,12の変形が生じやすくなるため、バスバー134と撮影窓113とはできるだけ離れていることが好ましいからである。
【0045】
<2.車載システム>
次に、
図5を参照しつつ、撮影装置2及び画像処理装置3を備える車載システム5について説明する。
図5は、車載システム5の構成を例示する。
図5に示すように、本実施形態に係る車載システム5は、上記撮影装置2と、当該撮影装置2に接続される画像処理装置3と、を備えている。
【0046】
画像処理装置3は、撮影装置2により取得された撮影画像を処理する装置である。この画像処理装置3は、例えば、ハードウェア構成として、バスで接続される、記憶部31、制御部32、入出力部33等の一般的なハードウェアを有している。ただし、画像処理装置3のハードウェア構成はこのような例に限定されなくてよく、画像処理装置3の具体的なハードウェア構成に関して、実施の形態に応じて、適宜、構成要素の追加、省略及び追加が可能である。
【0047】
記憶部31は、制御部32で実行される処理で利用される各種データ及びプログラムを記憶する(不図示)。記憶部31は、例えば、ハードディスクによって実現されてもよいし、USBメモリ等の記録媒体により実現されてもよい。また、記憶部31が格納する当該各種データ及びプログラムは、CD(Compact Disc)又はDVD(Digital Versatile Disc)等の記録媒体から取得されてもよい。更に、記憶部31は、補助記憶装置と呼ばれてもよい。
【0048】
上記のとおり、合わせガラス10は、垂直方向に対して傾斜姿勢で配置され、かつ、湾曲している。そして、撮影装置2は、そのような合わせガラス10を介して車外の状況を撮影する。そのため、撮影装置2により取得される撮影画像は、合わせガラス10の姿勢、形状、屈折率、光学的欠陥等に応じて、変形している。また、撮影装置2のカメラレンズに固有の収差も加わる。そこで、記憶部31には、このような合わせガラス10およびカメラレンズの収差によって変形した画像を補正するための補正データが記憶されていてもよい。
【0049】
制御部32は、マイクロプロセッサ又はCPU(Central Processing Unit)等の1又は複数のプロセッサと、このプロセッサの処理に利用される周辺回路(ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、インタフェース回路等)と、を有する。ROM、RAM等は、制御部32内のプロセッサが取り扱うアドレス空間に配置されているという意味で主記憶装置と呼ばれてもよい。制御部32は、記憶部31に格納されている各種データ及びプログラムを実行することにより、画像処理部321として機能する。
【0050】
画像処理部321は、撮影装置2により取得される撮影画像を処理する。撮影画像の処理は、実施の形態に応じて適宜選択可能である。例えば、画像処理部321は、パターンマッチング等によって当該撮影画像を解析することで、撮影画像に写る被写体の認識を行ってもよい。本実施形態では、撮影装置2は車両前方の状況を撮影するため、画像処理部321は、更に、当該被写体認識に基づいて、車両前方に人間等の生物が写っていないかどうかを判定してもよい。そして、車両前方に人物が写っている場合には、画像処理部321は、所定の方法で警告メッセージを出力してもよい。また、例えば、画像処理部321は、所定の加工処理を撮影画像に施してもよい。そして、画像処理部321は、画像処理装置3に接続されるディスプレイ等の表示装置(不図示)に当該加工した撮影画像を出力してもよい。
【0051】
入出力部33は、画像処理装置3の外部に存在する装置とデータの送受信を行うための1又は複数のインタフェースである。入出力部33は、例えば、ユーザインタフェースと接続するためのインタフェース、又はUSB(Universal Serial Bus)等のインタフェースである。なお、本実施形態では、画像処理装置3は、当該入出力部33を介して、撮影装置2と接続し、当該撮影装置2により撮影された撮影画像を取得する。
【0052】
このような画像処理装置3は、提供されるサービス専用に設計された装置の他、PC(Personal Computer)、タブレット端末等の汎用の装置が用いられてもよい。
【0053】
また、上記撮影装置2は、図示を省略するブラケットに取り付けられ、このブラケットが、マスク層110に取り付けられる。したがって、この状態で、撮影装置2のカメラの光軸が撮影窓113を通過するように、撮影装置2のブラケットへの取付、及びブラケットのマスク層への取付を調整する。また、ブラケットには撮影装置2を覆うように、図示を省略するカバーが取り付けられる。したがって、撮影装置2は、合わせガラス10、ブラケット、及びカバーで囲まれた空間内に配置され、車内側から見えないようなるとともに、車外側からも撮影窓113を通して撮影装置2の一部しか見えないようになっている。そして、撮影装置2と上述した入出力部33とは、図示を省略するケーブルで接続され、このケーブルはカバーから引き出され、車内の所定の位置に配置された画像処理装置3に接続されている。
【0054】
<3.ウインドシールドの製造方法>
次に、上記のように構成されたウインドシールドの製造方法の一例について説明する。まず、合わせガラス10の製造方法について説明する。
【0055】
まず、平板状の外側ガラス板11及び内側ガラス板12の少なくとも一方、上述したマスク層110を積層する。次に、これらのガラス板11,12が湾曲するように成形する。成形の方法は、特には限定されず、公知の方法を採用することができる。例えば、平板状のガラス板が加熱炉を通過した後、上型と下型によってプレスすることで、湾曲した形状に成形することができる。あるいは、平板状の外側ガラス板と内側ガラス板とを重ね、枠型の成形型上に配置し、加熱炉を通過させる。これにより、両ガラス板が軟化し、自重によって湾曲した形状に成形される。
【0056】
こうして、外側ガラス板11及び内側ガラス板12が湾曲状に成形されると、これに続いて、上述した中間膜13を外側ガラス板11及び内側ガラス板12の間に挟み、これをゴムバッグに入れ、減圧吸引しながら約70~110℃で予備接着する。なお、中間膜13は、上述した接着層131,132の間に発熱層133、バスバー134及び配線139を挟んだものである。予備接着の方法は、これ以外でも可能である。例えば、中間膜13を外側ガラス板11及び内側ガラス板12の間に挟み、オーブンにより45~65℃で加熱する。続いて、この合わせガラスを0.45~0.55MPaでロールにより押圧する。次に、この合わせガラスを、再度オーブンにより80~105℃で加熱した後、0.45~0.55MPaでロールにより再度押圧する。こうして、予備接着が完了する。
【0057】
次に、本接着を行う。予備接着がなされた合わせガラスを、オートクレーブにより、例えば、8~15気圧で、100~150℃によって、本接着を行う。具体的には、例えば、14気圧で145℃の条件で本接着を行うことができる。こうして、本実施形態に係る合わせガラス10が製造される。
【0058】
<4.特徴>
(1)バスバー134の給電により発熱層133が発熱するため、両ガラス板11,12において、撮影窓113と対応する部分を加熱することができる。そのため、両ガラス板11,12が曇るのを防止することができ、撮影装置2によって車外を適切に撮影することができる。
【0059】
(2)本実施形態においては、発熱層133は、左右方向(第1方向)の長さが、上下方向(第2方向)よりも短い矩形状に形成されているため、例えば、両バスバー134を発熱層133の上下の端部に配置したときよりも、両バスバー134間の距離が短くなっている。そのため、次の効果を得ることができる。
【0060】
図6に示すように、バスバー134間の距離が大きいと、オートクレーブにより、両ガラス板11,12が押圧されると、例えば、ガラス板の剛性が一定である場合、バスバー134が支点になることで、外側ガラス板11において、両バスバー134の間の部分が発熱層側への撓み量が大きくなる。これによって、両バスバー134の間に配置される撮影窓113を通過する光によって形成される画像の透視歪が大きくなり、上述した画像処理によって適切な画像が生成できないおそれがある。一方、
図7に示すように、バスバー134間の距離が小さいと、外側ガラス板11において、両バスバー134の間の部分が発熱層133側への撓み量を小さくすることができる。その結果、上述した画像処理によって適切な画像を生成することができる。そこで、本実施形態では、左右方向の長さが、上下方向よりも短い発熱層133を用い、発熱層133の左右方向の両端にバスバー134を配置しているため、外側ガラス板11に撓みを小さくすることができる。なお、内側ガラス板12も、外側ガラス板11と同様に変形するが、ここでは説明を省略する。
【0061】
<5.変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて、種々の変更が可能である。なお、以下の変形例は適宜組み合わせることができる。
【0062】
<5-1>
上記実施形態では、発熱層133を透明導電膜で形成しているが、発熱層の構成はこれに限定されない。例えば、
図8に示すように、上述した発熱層133と同形状の基材シート135の両端に、一対のバスバー134をそれぞれ配置する。そして、基材シート135上で、両バスバー134を連結するように、複数の加熱線136を平行に配置する。こうすることで、加熱線136によって両ガラス板11,12を加熱することができ、曇りを防止することができる。なお、基材シート135は、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリカーボネートや、アクリル系樹脂で形成することができる。加熱線136の外径は、バスバー134の厚みよりも小さく、例えば、5~30μmであることが好ましい。
【0063】
<5-2>
図9及び
図10に示すように、中間膜13の内部に、発熱層133の周囲を囲むように機能性フィルム137を配置することもできる。このような機能性フィルム137を配置することで、中間膜13の内部で、発熱層133の周囲に生じる段差を緩和することができる。これにより、ガラス板11,12の変形を抑制することができ、透視歪みが生じるのを抑制することができる。機能性フィルムは、特に限定されていないが、例えば、ヘッドアップディスプレイ用の反射フィルム、熱反射フィルム等の光学フィルムを用いることができる。このような機能性フィルム137の厚みは、発熱層133と同じ厚みにすることが好ましいが、例えば、発熱層133と機能性フィルム137の厚みの差を310μm以下にすることが好ましい。また、機能性フィルム137と発熱層133との間には隙間を設けてもよいし、あるいは、両者137,133の少なくとも一部が接するようにしてもよい。
【0064】
<5-3>
マスク層110は、上記実施形態のほか、例えば、外側ガラス板11の内面のみ、内側ガラス板12の内面のみなど種々の態様が可能である。また、マスク層110の形状は、一例であり、構成は特には限定されず、設けられる機器などによって適宜形状を変更することができる。外側ガラス板11と内側ガラス板12の両方にマスク層110を設ける場合、両マスク層110の形状は同じにしてもよいし、異なるようにしてもよい。例えば、一方のガラス板11,12に積層されるマスク層110を突出部112だけで構成することもできる。
【0065】
また、マスク層110における撮影窓113の位置は特には限定されず、適宜、変更することができる。但し、撮影窓113を設ける位置は、JIS R 3212(1998年、「自動車用安全ガラス試験方法」)で規定された試験領域Aの外側とすることが好ましい。
【0066】
<5-4>
上記実施形態では、水平方向の長さが上下方向の長さよりも小さい発熱層133を用いているが、例えば、
図11及び
図12に示すように、上下方向の長さが水平方向の長さよりも小さい発熱層133を用いることもできる。この場合、バスバー134は、発熱層133の上下の端部にそれぞれ配置される。また、
図11に示すように、一方の配線139を、一方(上側)のバスバー134の左端部からガラス板11,12の上辺に延びるよう形成し、他方の配線139を、他方(下側)のバスバー134の右端部からガラス板11,12の上辺に延びるよう形成することができる。あるいは、
図12に示すように、両配線139を、各バスバー134の同じ側(右端部)からガラス板11,12の上辺に延びるよう形成することもできる。また、バスバー134は、発熱層133に積層させるほか、発熱層133に隣接させてもよい。
【0067】
<5-6>
上記実施形態では、バスバー134に配線139を接続しているが、これらを一体化し、バスバー134兼配線139をガラス板11,12の端部まで延長することや配線を端部の途中まで延長し、配線同志を接続させガラス端部まで引き出すこともできる。
【0068】
<5-7>
上記実施形態では、発熱層133を長方形状に形成しているが、これに限定されず、直交する2つの方向において、いずれか一方の最大長さが、他方の最大長さよりも短いような形状であればよい。したがって、発熱層133は、例えば、台形状であってもよい。そのため、両バスバー134は、必ずしも平行に配置されていなくてもよく、発熱層133の形状に応じて、斜めに配置されることもある。
【0069】
<5-8>
上記実施形態では、発熱層133上に一対のバスバー134を配置しているが、これ以外に、発熱層の代わりに情報取得領域の光学特性を変化させるための光学層などを配置することができる。この場合、バスバーの代わりに段差形成部材を光学層の両端に配置することで、情報崇徳領域内の透視歪を抑制することができる。
【0070】
<5-9>
上記実施形態では、本発明の情報取得装置として撮影装置を例に挙げたが、情報取得装置はこれに限られず、例えば、レインセンサー、ライトセンサー、光ビーコンなどの光の受光によって車外からの情報を取得する装置であってもよい。
【実施例0071】
以下、本発明の実施例について説明する。但し、本発明は以下の実施形態に限定されない。
【0072】
<1.ガラス板の変形の検討>
以下の実施例1,2及び比較例1を作製した。ここでは、簡略化のため、ウインドシールドの撮影窓付近を模したガラス板モジュールを実施例1,2及び比較例1,2として作製した。実施例1,2及び比較例1は、以下の材料により構成されている。
【0073】
・外側ガラス板、内側ガラス板:フロートガラス、300mm×300mm、厚み2mm
・中間膜の第1及び第2接着層:PVB,厚み0.38mm
・発熱層:PETの基材フィルム上にITOをコーティングした透明導電膜、160mm(横)×90mm(縦)、厚み125μm(実施例1,比較例1)、厚み50μm(実施例2)
・バスバー:銅リボン(低融点半田により発熱層に固定)、幅10mm、厚み50μm、
【0074】
図13は実施例1,2を示しており、バスバーは発熱層の上下の端部にそれぞれ配置されている。
図14は比較例1を示しており、バスバーは発熱層の左右の端部にそれぞれ配置されている。なお、実施例1,2及び比較例1の断面は、
図4と同様に構成されている。
【0075】
以上のように作製された実施例1,2,比較例1について、ガラス板の厚みを測定した。ここでは、発熱層の左右方向の中央を上下に延びる線上において、ガラス板の厚みを上側の端部から所定間隔おきに測定し、最も小さい厚みとの差をプロットし、
図15及び
図16のグラフを作成した。
図15のグラフは、実施例1と比較例1とを示している。このグラフによると、バスバーの間隔が広い比較例1では、バスバーの間隔が狭い実施例1よりも、発熱層の中央付近の撓み量が大きくなっている。したがって、バスバーの間隔が広いと、その間でガラス板が撓みやすく、このことが透視歪みに影響を及ぼすと考えられる。
【0076】
また、
図16のグラフは、実施例1と実施例2とを示している。このグラフによると、発熱層の厚みが小さいほど、ガラス板の撓み量が小さくなっている。これは、発熱層はガラス板の一部には位置されており、且つ接着層と比べ、発熱層は変形があまり生じないため、発熱層の厚みが大きいほど、発熱層が配置されている箇所においてガラス板の撓みが大きくなるからと考えられる。
【0077】
<2.透視歪みの検討>
以下の実施例3,4及び比較例2,3を作製した。実施例3,4及び比較例2,3は、それぞれ、
図13及び
図14と概ね同様の構成である。また、これらの断面は、
図4と同様に構成されている。実施例3,4及び比較例2,3は、以下の材料により構成されている。
【0078】
・外側ガラス板、内側ガラス板:フロートガラス、300mm(縦)×500mm(横)、厚み2mm
・中間膜の第1及び第2接着層:PVB,厚み0.38mm
・発熱層:PETの基材フィルム上にITOをコーティングした透明導電膜、290mm(横)×150mm(縦)、厚み125μm(実施例3,比較例2)、厚み50μm(実施例4,比較例3)
・バスバー:銅リボン(低融点半田により発熱層に固定)、幅10mm、厚み50μm、
【0079】
上記のように作製された実施例3,4及び比較例2,3について、透視歪み(オプティカルパワー)を測定した。
図17に示すように、カメラとターゲットとの間に実施例または比較例に係るガラス板モジュールを水平から25度傾けて配置した。ターゲットには、
図18に示すような格子模様が形成されており、このターゲットを実施例又は比較例を介してカメラによって撮影し、透視歪みを測定した。透視歪みは、ターゲットの格子模様からのズレ量から焦点距離を算出し、1/(焦点距離)を透視歪み(mdpt)とした。
【0080】
図19は、実施例3,4及び比較例2,3の透視歪みの絶対値を示すグラフである。同図によれば、発熱層の厚みが同じであれば、バスバーの間隔が狭い実施例3,4の方が、比較例2,3よりも透視歪みが小さくなっている。また、発熱層の厚みが大きくなるほど、透視歪みが大きくなることが分かった。このように、発熱層の厚みが大きいと、透視歪みは大きくなるが、発熱層は厚みが小さいと変形しやすく、取り扱いが難しいという問題がある。したがって、用途によっては発熱層の厚みを大きくせざるを得ない場合もあり、その場合に、バスバーの間隔を小さくすることで、透視歪みの増大を抑制することができる。
【0081】
ところで、透視歪みの絶対値は、400mdptを超えると画像処理に支障を来す可能性があると考えられている。この点、
図20に示すように、実施例3,4の近似直線を描くと、透視歪みが400mdptとなる発熱層の厚みは310μmと考えられる。このことから発熱層の厚みは310μm以下が好ましい。
【0082】
次に、透視歪みが400mdptになるときの発熱層の厚みと、バスバーと撮影窓との距離(
図4の距離s)を測定した。結果は、
図21に示すとおりである。実施例3では13mm,実施例4では8mmとなった。したがって、問題となるような透視歪みが生じないようにするためには、バスバーと撮影窓との距離は8mm以下とすることが好ましいことが分かった。