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特開2023-43163貝殻粉末を磁器素地に混合して製造した磁器及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023043163
(43)【公開日】2023-03-28
(54)【発明の名称】貝殻粉末を磁器素地に混合して製造した磁器及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 33/24 20060101AFI20230320BHJP
【FI】
C04B33/24 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022142654
(22)【出願日】2022-09-08
(31)【優先権主張番号】P 2021149928
(32)【優先日】2021-09-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000166959
【氏名又は名称】御木本製薬株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000244305
【氏名又は名称】鳴海製陶株式会社
(72)【発明者】
【氏名】中村 裕
(72)【発明者】
【氏名】畔見 幸行
(72)【発明者】
【氏名】難波 耕市
(57)【要約】
【課題】
本発明の目的は、養殖される貝類の貝殻の有効利用のため、特にアコヤガイ貝殻を用い、その粉末を磁器素地に混合した磁器を得ることにある。この磁器は貝殻粉末を混合しないものと比較し特有の審美性を持ち、かさ密度が小さく、吸水率も低い特徴がある。また、この磁器の製造方法についても提供する。
【解決手段】
素地に貝殻粉末を混合したことを特徴とする磁器。
また、素地に貝殻粉末を混合し、酸化炎で1200~1300℃の雰囲気にて焼成する工程を含むことを特徴とする磁器の製造方法が、課題を解決することがわかった。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
素地に貝殻粉末を混合したことを特徴とする磁器。
【請求項2】
磁器素地固形分:貝殻粉末の混合比が重量比で50:50~99.9:0.1であることを特徴とする請求項1記載の磁器。
【請求項3】
前記磁器の白色度(ハンター白色度W)が85~95であることを特徴とする請求項2記載の磁器。
【請求項4】
前記磁器のLab値のb値が3.4~7.2であることを特徴とする請求項3記載の磁器。
【請求項5】
前記磁器のかさ密度が2.590g/cm以下、及び/又は吸水率が0.06%以下であることを特徴とする請求項4記載の磁器。
【請求項6】
前記貝殻粉末がアコヤガイの貝殻粉末であることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の磁器。
【請求項7】
素地に貝殻粉末を混合し、酸化炎で1200~1300℃の雰囲気にて焼成する工程を含むことを特徴とする磁器の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貝殻の粉末を含有する磁器及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
牡蠣、ホタテ、アコヤガイ等、貝を養殖して食品や真珠を得ることは盛んに行われている。貝の養殖の際に発生する貝殻は種々利用されており、例えば螺鈿や貝ボタンのような装飾品に、牡蛎、石决明のような薬用に、貝殻を強熱して微粉砕したものが食品添加物に、等々示すことができる。さらには、道路の舗装剤、水質改善のための濾材等にも利用拡大されつつある(特許文献1、2)。しかしながら、養殖等で発生する貝殻の一部しか利用できておらず、その利用の程度も低い。
【0003】
磁器には、硬質磁器と軟質磁器とがある。中でも、軟質磁器であるボーンチャイナは、優れた白色を有すること、及び透光性、審美性、強度等の点で優れているため、食器、装飾用磁器として汎用されている。
近年、ボーンチャイナの優れた審美性を生かして高級感を向上させるため、自動車の内装品やエンブレム等の外装品にもボーンチャイナ製品を用いることが検討されており、ボーンチャイナ製品の用途はますます広がっている。
【0004】
ところで、ボーンチャイナ等の磁器製品には、顔料を用いて着色を行うことにより、その審美性を向上させることが行われている。着色に用いる釉薬に貝殻粉末や真珠粉を混合するなどは行われている(特許文献3、4)が、貝殻粉末をその素地に混合し、審美性を向上させることは行われていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014-084630号公報
【特許文献2】特開2002-224678号公報
【特許文献3】特開平07-149537号公報
【特許文献4】特開平01-201042号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、貝殻の粉末を磁器の素地に混合し、養殖される貝類の貝殻の有効利用をすることである。また、貝殻粉末を素地に混合することにより、磁器の審美性を向上したり、強度を維持しながらかさ密度を低くしたりなど、付加価値をつけることを目的としている。加えて、前記磁器の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らが鋭意検討した結果、次のような磁器が本発明の課題を解決することがわかった。
素地に貝殻粉末を混合したことを特徴とする磁器。
【0008】
磁器素地固形分:貝殻粉末の混合比が重量比で50:50~99.9:0.1であることを特徴とする前記記載の磁器。
【0009】
磁器の白色度(ハンター白色度W)が85~95であることを特徴とする前記記載の磁器。
【0010】
磁器のLab値のb値が3.4~7.2であることを特徴とする前記記載の磁器。
【0011】
磁器のかさ密度が2.590g/cm以下、及び/又は吸水率が0.06%以下であることを特徴とする前記記載の磁器。
【0012】
前記貝殻粉末がアコヤガイの貝殻粉末であることを特徴とする前記記載の磁器。
【0013】
また、次の製造方法によって、本発明の課題を解決することがわかった。
素地に貝殻粉末を混合し、酸化炎で1200~1300℃の雰囲気にて焼成する工程を含むことを特徴とする磁器の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明の磁器は、貝殻粉末をその素地に混合することで、釉薬に関わらず素地自体の審美性を向上し、貝殻粉末を混合しない従来の磁器と比較し、かさ密度が小さく、吸水率も低い特徴を持つ。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明について詳細に説明する。なお、本明細書において、「~」はその前後の数値を含む範囲を意味するものとする。また「磁器」は「硬質磁器」及び「軟質磁器」を含むものとする。
【0016】
本発明で使用できる貝殻としては特に限定はなく、牡蠣、ホタテガイ(Mizuhopecten yessoensis)、アコヤガイ(Pictada fucata)、イガイ(Mytilus coruscum)、イケチョウガイ(Hyriopsis schlegelii)、カラスガイ(Cristaria plicata)等の貝類が例示される。特に好適なものは、真珠養殖などで多量に得られるアコヤガイ(真珠貝)である。
【0017】
アコヤガイの貝殻は、内側より真珠層、稜柱層、殻皮層があり、さらに外側には触手動物であるコケムシ類、軟体動物である二枚貝類、節足動物であるフジツボ類、環形動物である多毛類、脊索動物であるホヤ類、海藻類等々多種多様の生物が付着している。これらのうち、真珠層、稜柱層以外の部分をできるだけ除去する。
その方法として、高圧水やブラシ等で擦り落とす方法、研磨石と撹拌する方法、或いはこれらを組み合わせて実施する方法などがある。
【0018】
処理した貝殻を十分に乾燥し、粉砕機等を用い、粉砕する。この粉砕は、一度に行う方法もあるが、まず粗粉砕を行い、次いで微粉砕を行うなど、複数工程にて粉砕を行う方法もある。なお、次工程の篩掛け及び品質保持のため、粉砕物を乾燥させておくことが好ましい。乾燥温度は200℃以下が好ましく、150℃以下がさらに好ましい。
【0019】
この貝殻粉砕物を目開き25~150μmの篩(目安として100~500メッシュ)、好ましくは目開き25~75μmの篩(目安として200~500メッシュ)、より好ましくは目開き25~53μmの篩(目安として280~500メッシュ)で分別し、通過する部分を利用する。また、篩を通過せず残ったものは再度粉砕し、篩掛けすることもできる。これにより、貝殻粉末を得る。
【0020】
本発明の貝殻粉末を使用した磁器の製造方法について説明する。
本発明の貝殻粉末と、陶石、長石、珪石、骨灰等の従来の磁器素地を適宜粉砕・混合し、従来の磁器製法と同じく、成形、素焼、施釉、本焼成する。また、釉薬の調合も、従来の磁器製法の場合と同じ調合法である。
【0021】
従来の磁器素地と、本発明の貝殻粉末との混合割合は、固形分の重量比で50:50~99.9:0.1が好ましく、70:30~99.5:0.5がより好ましく、90:10~99:1がさらに好ましく、90:10~95:5であってもよい。混合された素地として、リン酸三カルシウム、灰長石およびガラス質を含むことが好ましく、かつリン酸三カルシウムの含有率が30重量%以上であることがさらに好ましい。
【0022】
焼成雰囲気は、締焼(1回目の焼成)の温度は1200~1300℃が好ましく、1225~1275℃がさらに好ましい。釉焼(2回目の焼成。釉焼き)では1050~1200℃が好ましく、1100~1150℃がさらに好ましい。
また、酸化炎・還元炎の別では、酸化炎を用いることが好ましい。
【0023】
釉薬については、従来の磁器と同様に調合し、施釉し、釉焼することができる。貝殻粉末を素地に混合することによる審美性の向上と同時に、釉薬による審美性の向上も併せて行うことができる。
【0024】
得られた磁器の評価は、例えばJIS R 1634等を参考に試験することができる。
【0025】
磁器の白色度(ハンター白色度W)及びLab値は、市販の測色色差計を用い表面反射を測定することでその値を得ることができる。
【0026】
磁器のかさ密度(g/cm)は、試料の乾燥質量(g)÷(試料の飽水質量(g)-試料の水中質量(g))×水の密度(g/cm) によりその値を得ることができる。
【0027】
磁器の吸水率(%)は、(試料の飽水質量(g)-試料の乾燥質量(g))を試料の乾燥質量(g)で除し、その百分率を求めることにより得ることができる。
【0028】
本発明の磁器は十分な強度を備えており、着色のある審美性を持つ。また、貝殻粉末を混合しない従来の磁器と比較し、かさ密度が小さく、吸水率も低い特徴を持ち、この軽く吸湿しにくい磁器は、例えば化粧品容器などに適しており、その他、食器や装飾用磁器、自動車の内装品やエンブレム等の外装品、かっさ(マッサージに用いるプレート)としても好適である。
【実施例0029】
以下、具体的な実験例をあげて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の態様にのみ限定されない。
【0030】
実施例1
真珠養殖にて浜揚げしたアコヤガイ貝殻約50kgをバレル研磨機に入れ、6時間研磨した。この貝殻を洗浄し、乾燥した。これを粗粉砕し、120℃に設定した乾燥機で十分乾燥させたものを微粉砕した。これを目開き45μmの篩にて篩掛けし、通過物を貝殻粉末とした。
【0031】
磁器の製法は、実施例1の貝殻粉末と磁器素地をそれぞれ表1に記載の割合に混合し、酸化炎を用いた常法により製造した。配合割合は重量部を示す。
なお、混合された素地はいずれもリン酸三カルシウムの含有率が30重量%以上であり、ボーンチャイナ規格を満たした。
【0032】
【表1】
【0033】
比較例と実施例2~4について、以下の項目について評価を行った。なお、評価は施釉前の状態で試験を行った。表2に見掛密度、吸水率、見掛気孔率及びかさ密度の評価結果を記載した。表3に破壊荷重と曲げ強さの評価結果を記載した。表4に白色度試験の評価結果を記載した。
【0034】
(1)見掛密度
<評価方法>
試料を20mm×20mm×5mm程度に、表面に凹凸が発生しないように切り出し、試料表面の汚れを超音波洗浄で取り除いた。
試料を500mlビーカーの中に置いて水を満たし、15分間真空脱気を行った。脱気後、水を満たした容器の中に、気泡が発生しないようにすばやく試料を移した。
1時間静置した。
水中質量を測定するために設計された電子天秤を使って、試料の水中質量を測定した。
水道水で濡らした後に絞ったペーパータオルで、水中質量測定後の試料表面を拭き取った。試料を時計皿に置き、電子天秤で質量を測定した。このときの値を飽水質量とした。
試料を110℃に加熱した乾燥機の中に移し、2時間乾燥した。乾燥後デシケーターに移し、試料が室温になるまで静置し、時計皿に乗せて電子天秤で乾燥質量を測定した。以下の式にて見掛密度を求めた。
見掛密度(g/cm)=乾燥質量(g)÷(乾燥質量(g)-水中質量(g))×水の密度(g/cm
【0035】
(2)吸水率
<評価方法>
見掛密度の評価方法で測定した飽水質量および乾燥質量を用い、以下の式にて吸水率を求めた。
吸水率(%)=(飽水質量(g)-乾燥質量(g))÷乾燥質量(g)×100
【0036】
(3)見掛気孔率
<評価方法>
見掛密度の評価方法で測定した水中質量、飽水質量および乾燥質量を用い、以下の式にて見掛気孔率を求めた。
見掛気孔率(%)=(飽水質量(g)-乾燥質量(g))÷(飽水質量(g)-水中質量(g))×100
【0037】
(4)かさ密度
<評価方法>
見掛密度の評価方法で測定した水中質量、飽水質量および乾燥質量を用い、以下の式にてかさ密度を求めた。
かさ密度(g/cm)=乾燥質量(g)÷(飽水質量(g)-水中質量(g))×水の密度(g/cm
【0038】
(5)破壊荷重
<評価方法>
直径6.5mm長さ80mm程度の円柱状の試料を作製した。
アムスラー試験機に、支点間距離50mmの2点支持台を下側に、1点支持の荷重治具を上側にセットし、その間に試料を置いてアムスラー試験機を作動させ、3点曲げ試験を行った。試料が折れた瞬間の記録針の荷重値(破壊荷重)を読み取った。
【0039】
(6)曲げ強さ
<評価方法>
曲げ強さは、
曲げ応力σ=M÷Z M:曲げモーメント Z:断面係数
また、
M=F×L÷4 F:荷重 L:支点間距離
Z=(π×d^3)÷32 (丸棒のときの断面係数) d:直径
より、
Fにアムスラー試験機で測定した破壊荷重、Lに50mm、dに6.5mmを代入し、曲げ応力σを算出し、曲げ強さとした。
【0040】
(7)白色度試験
<評価方法>
70mm×50mm×5mm程度で測定面の表面に凹凸のない試料を作製し、色差計ZE6000(日本電色工業株式会社)を使用して、試料表面の色を測定した。測定結果はL、a、b、Wの各値を出力した。
【0041】
【表2】
【0042】
【表3】
【0043】
【表4】
【0044】
実施例2~4はいずれもアコヤガイ貝殻粉末を素地に混合して製造された磁器であり、養殖される貝類の貝殻の有効利用ができ、特有のアイボリー系の審美性を持ち、ボーンチャイナ規格を満たすものであった。また、その強度も貝殻粉末を混合しない比較例と同等であり、貝殻粉末を混合したことによる大きな影響は見られなかった。
貝殻粉末を混合しない従来の磁器と比較し、かさ密度が小さく、吸水率も低い特徴が見られた。また、その磁器の製造方法を提供できた。