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特開2023-4317ハイドロタルサイト及びそれを含む硫化水素吸収剤、硫化物型全固体電池外装材、硫化物型全固体電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023004317
(43)【公開日】2023-01-17
(54)【発明の名称】ハイドロタルサイト及びそれを含む硫化水素吸収剤、硫化物型全固体電池外装材、硫化物型全固体電池
(51)【国際特許分類】
   C01G 9/00 20060101AFI20230110BHJP
   B01J 20/28 20060101ALI20230110BHJP
   B01J 20/06 20060101ALI20230110BHJP
   H01M 50/117 20210101ALI20230110BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20230110BHJP
【FI】
C01G9/00 B
B01J20/28 Z
B01J20/06 C
H01M50/117
H01M10/0562
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021105926
(22)【出願日】2021-06-25
(71)【出願人】
【識別番号】000174541
【氏名又は名称】堺化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】森本 直樹
(72)【発明者】
【氏名】矢野 誠一
【テーマコード(参考)】
4G047
4G066
5H011
5H029
【Fターム(参考)】
4G047AA05
4G047AB04
4G047AC03
4G047AD03
4G066AA16B
4G066AA18B
4G066AA20B
4G066BA31
4G066BA36
4G066BA38
4G066FA37
5H011AA13
5H011CC05
5H011CC14
5H011KK00
5H011KK02
5H011KK04
5H029AJ12
5H029AM11
5H029DJ02
5H029EJ05
5H029HJ00
5H029HJ01
5H029HJ13
5H029HJ14
(57)【要約】
【課題】硫化水素の吸着能と吸湿能の両方に優れた材料を提供する。
【解決手段】亜鉛元素とマグネシウム元素とを含むハイドロタルサイトであって、該ハイドロタルサイトは、亜鉛元素とマグネシウム元素とのモル比(Zn/Mg)が0.1以上、1.0以下であり、かつ、XRD測定における2Θ=11.6±0.1°範囲における最も大きいピークのピーク強度Iと、2Θ=13.0±0.1°範囲における最も大きいピークのピーク強度Iとの比(I/I)が2未満であることを特徴とするハイドロタルサイト。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜鉛元素とマグネシウム元素とを含むハイドロタルサイトであって、
該ハイドロタルサイトは、亜鉛元素とマグネシウム元素とのモル比(Zn/Mg)が0.1以上、1.0以下であり、かつ、
XRD測定における2Θ=11.6±0.1°範囲における最も大きいピークのピーク強度Iと、2Θ=13.0±0.1°範囲における最も大きいピークのピーク強度Iとの比(I/I)が2未満であることを特徴とするハイドロタルサイト。
【請求項2】
前記ハイドロタルサイトは、TG-DTA測定での140℃~250℃における重量減少率をb%、250℃~350℃における重量減少率をc%とし、
40℃、相対湿度70%の雰囲気下に12時間放置した後の、放置前の重量に対する重量増加分で表される吸湿率をY%としたときに、
Y≧-7.9(b/c)+10.0
を満たすことを特徴とする請求項1に記載のハイドロタルサイト。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のハイドロタルサイトを含むことを特徴とする硫化水素吸収剤。
【請求項4】
請求項3に記載の硫化水素吸収剤を含むことを特徴とする硫化物型全固体電池外装材。
【請求項5】
請求項3に記載の硫化水素吸収剤又は請求項4に記載の硫化物型全固体電池外装材を含むことを特徴とする硫化物型全固体電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイドロタルサイト及びそれを含む硫化水素吸収剤、硫化物型全固体電池外装材、硫化物型全固体電池に関する。
【背景技術】
【0002】
全固体電池は、電解液の代わりに固体の電解質を正極と負極との間に配置した電池であり、可燃性の液体を使用しないことによる安全性の向上の他、容量、出力等の電池性能の向上も期待されている。
全固体電池に用いられる電解質は、Li10GeP12等の硫化物系材料と、LiLaZr12等の酸化物系材料とがある。このうち硫化物系固体電解質は水と反応して有害な硫化水素が発生することが課題となっており、硫化物系固体電解質を用いる場合は電池への水分接触を防止するために電池がラミネートで封止される。また、万一破損等により水分と接触してしまった場合に、水分および硫化水素を吸着するための吸収層を備えることが提案されており、ゼオライト等の吸湿剤と特定の金属含有成分である硫化水素吸着剤を含む吸収層とバリア層を有する硫化物系全固体電池用ラミネートシートが提案されている(特許文献1参照)。また、硫化水素吸着材としてアルミナ、シリカアルミナ、シリカゲル等を用いたシートをパッケージに内包することが提案されている(特許文献2参照)。
また、硫化水素の吸着能や吸湿能を有する材料としてハイドロタルサイトが知られており、ハイドロタルサイトを含む硫化水素の吸着剤や吸湿剤が提案されている(特許文献3~6参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-187855号公報
【特許文献2】特開2015-179618号公報
【特許文献3】特開2017-171547号公報
【特許文献4】特開2015-193000号公報
【特許文献5】特開2011-105573号公報
【特許文献6】特開2008-235256号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のとおり、硫化水素の吸着成分、又は更に吸湿成分を含むシートが提案されているが、従来提案されているものはいずれも硫化水素の吸着と吸湿の両方を1つの物質で行うものではない。また特許文献2では硫化水素吸着材としてアルミナ等の金属酸化物を用いることが提案されているが、金属酸化物で硫化水素を吸収する場合、金属硫化物とともに水が副生し、副生した水により再度硫化水素が発生する。このため硫化水素吸着材として金属酸化物を使用する場合には同時に副生する水を吸収する吸湿剤を用いることが必要となる。
硫化水素の吸着剤や吸湿剤としてハイドロタルサイトを用いることが提案されているが、硫化水素の吸着と吸湿の両方を行う材料として十分な性能を有するものではない。
【0005】
本発明は、上記現状に鑑み、硫化水素の吸着能と吸湿能の両方に優れた材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、硫化水素の吸着能と吸湿能の両方に優れた材料について検討し、亜鉛元素とマグネシウム元素とを含むハイドロタルサイトであって、亜鉛元素とマグネシウム元素とのモル比(Zn/Mg)が所定の範囲であり、かつ、XRD測定における所定の2つのピークの強度比が所定の条件を満たすハイドロタルサイトが、硫化水素の吸着能と吸湿能の両方に優れることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち本発明は、亜鉛元素とマグネシウム元素とを含むハイドロタルサイトであって、該ハイドロタルサイトは、亜鉛元素とマグネシウム元素とのモル比(Zn/Mg)が0.1以上、1.0以下であり、かつ、
XRD測定における2Θ=11.6±0.1°範囲における最も大きいピークのピーク強度Iと、2Θ=13.0±0.1°範囲における最も大きいピークのピーク強度Iとの比(I/I)が2未満であることを特徴とするハイドロタルサイトである。
【0008】
上記ハイドロタルサイトは、TG-DTA測定での140℃~250℃における重量減少率をb%、250℃~350℃における重量減少率をc%とし、40℃、相対湿度70%の雰囲気下に12時間放置した後の、放置前の重量に対する重量増加分で表される吸湿率をY%としたときに、
Y≧-7.9(b/c)+10.0
を満たすことが好ましい。
【0009】
本発明はまた、本発明のハイドロタルサイトを含むことを特徴とする硫化水素吸収剤でもある。
【0010】
本発明はまた、本発明の硫化水素吸収剤を含むことを特徴とする硫化物型全固体電池外装材でもある。
【0011】
本発明はまた、本発明の硫化水素吸収剤又は硫化物型全固体電池外装材を含むことを特徴とする硫化物型全固体電池でもある。
【発明の効果】
【0012】
本発明のハイドロタルサイトは、硫化水素の吸着能と吸湿能の両方に優れることから、硫化物系固体電解質を用いた全固体電池の硫化水素吸収剤として好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例1、2及び比較例1、5のハイドロタルサイトのXRD測定結果を示した図である。
図2】実施例1で得られたハイドロタルサイトのTG-DTA測定結果を示した図である。
図3】比較例1で得られたハイドロタルサイトのTG-DTA測定結果を示した図である。
図4】実施例1~10、比較例1~4、6及び7のハイドロタルサイトのTG-DTA測定での140℃~250℃における重量減少率をb%、250℃~350℃における重量減少率をc%とし、各ハイドロタルサイトを40℃、相対湿度70%の雰囲気下に12時間放置した後の、放置前の重量に対する重量増加分で表される吸湿率Y%をY軸に、(b/c)をX軸にとってプロットした図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好ましい形態について具体的に説明するが、本発明は以下の記載のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において適宜変更して適用することができる。
【0015】
1.ハイドロタルサイト
本発明のハイドロタルサイトは、亜鉛元素とマグネシウム元素とを含むハイドロタルサイトであって、該ハイドロタルサイトは、亜鉛元素とマグネシウム元素とのモル比(Zn/Mg)が0.1以上、1.0以下である。このようなモル比のハイドロタルサイトは硫化水素の吸着能に優れる。またこのようなモル比であることは吸湿能に優れたハイドロタルサイトとなるために必要な要件でもある。亜鉛元素とマグネシウム元素とのモル比(Zn/Mg)は、0.1以上、1.0以下であればよいが、0.1以上、0.50以下であることが好ましい。このような範囲であることで、ハイドロタルサイトがより硫化水素の吸着能に優れたものとなる。また、Zn成分がZnOとして分離し難くなる点から、モル比(Zn/Mg)は0.1以上、0.45以下であることがより好ましい。亜鉛元素とマグネシウム元素とのモル比は、更に好ましくは、0.12以上、0.40以下であり、特に好ましくは、0.14以上、0.35以下である。
ハイドロタルサイトの亜鉛元素とマグネシウム元素とのモル比は、ICP発光分光法による元素分析により実施例に記載の方法で得ることができる。
【0016】
本発明のハイドロタルサイトはまた、XRD測定における2Θ=11.6±0.1°範囲における最も大きいピークのピーク強度Iと、2Θ=13.0±0.1°範囲における最も大きいピークのピーク強度Iとの比(I/I)が2未満である。
亜鉛元素とマグネシウム元素とを含むハイドロタルサイトは、XRD測定において2Θ=11.6±0.1°範囲にピークを有し、ハイドロタルサイトを乾燥して得られる乾燥ハイドロタルサイトは2Θ=11.6±0.1°範囲にピークを有さず、2Θ=13.0±0.1°範囲にピークを有する。これらの範囲における最も大きいピークのピーク強度IとIとの比(I/I)が2未満であるハイドロタルサイトは吸湿能に優れる。
ピーク強度IとIとの比(I/I)は2未満であればよいが、1.5未満であることが好ましい。より好ましくは、1.0未満であり、更に好ましくは、0.5未満である。
【0017】
本発明のハイドロタルサイトは、ZnOの含有率がハイドロタルサイト全体に対して5質量%以下であることが好ましい。後述するように本発明のハイドロタルサイトは、Zn/Mgが0.1以上、1.0以下である原料ハイドロタルサイトを焼成して得ることができるが、焼成する際の温度によっては結晶水が脱離してハイドロタルサイトの構造を維持できず、一部がZnOとなる場合がある。Zn成分がZnOとしてハイドロタルサイトに混在している場合、吸湿性に乏しいものとなる。このため、ZnOの含有率がハイドロタルサイト全体に対して5質量%以下であることが好ましい。
ZnOの含有率が5質量%より多い場合、XRD測定でZnOの存在を確認することができる。ZnOに帰属されるピークは、2Θ=31.78°、34.27°、36.22°、47.43°、56.61°、62.64°、66.39°、67.87°、69.08°、72.21°、76.89°の位置に現れるピークである。
【0018】
本発明のハイドロタルサイトは、TG-DTA測定での140℃~250℃における重量減少率をb%、250℃~350℃における重量減少率をc%とし、40℃、相対湿度70%の雰囲気下に12時間放置した後の、放置前の重量に対する重量増加分で表される吸湿率をY%としたときに、
Y≧-7.9(b/c)+10.0
を満たすことが好ましい。
ハイドロタルサイトを加熱して昇温してゆくとハイドロタルサイトに含まれる水分等が脱離して重量が減少してゆく。温度域によって脱離する成分が異なり、50℃~140℃では表面吸着水の脱離が、140℃~250℃では層間水の脱離が起こる。250℃~350℃ではハイドロタルサイトの分解に起因する炭酸根の脱離が起こり、350℃以上の温度では結晶水の脱離が起こる。
本発明者はこの重量減少のうち、140℃~250℃の層間水の脱離による重量減少率b%と250℃~350℃の炭酸根の脱離による重量減少率c%に着目し、多数のサンプルを用いて検討したところ、ハイドロタルサイトのb/c比と、そのハイドロタルサイトを40℃、相対湿度70%の雰囲気下に12時間放置した後の、放置前の重量に対する重量増加分で表される吸湿率Y%との間に、Y=-7.9(b/c)+13.0の相関関係があること、及び、全てのサンプルにおいて、吸湿率Yが-7.9(b/c)+10.0より大きくなることを見出した。
本発明のハイドロタルサイトにおいても、このような関係を満たすことが好ましい。
また、亜鉛元素とマグネシウム元素とのモル比が0.1以上、1.0以下であって硫化水素の吸着能に優れ、かつ、-7.9(b/c)+10.0が8.0以上であるハイドロタルサイトは硫化水素の吸着能と吸湿性の両方に優れたハイドロタルサイトであるといえる。このようなハイドロタルサイト、すなわち、
亜鉛元素とマグネシウム元素とを含むハイドロタルサイトであって、該ハイドロタルサイトは、亜鉛元素とマグネシウム元素とのモル比(Zn/Mg)が0.1以上、1.0以下であって、かつ、
TG-DTA測定での140℃~250℃における重量減少率をb%、250℃~350℃における重量減少率をc%としたときに、-7.9(b/c)+10.0が8.0以上であるハイドロタルサイトもまた、本発明の1つである。
なお、本発明において、ハイドロタルサイトのTG-DTA測定における各温度域での重量減少率は、全て測定前のハイドロタルサイトの重量に対する各温度域での重量減少の割合を意味する。
【0019】
したがって、本発明のハイドロタルサイトには、
(1)亜鉛元素とマグネシウム元素とを含むハイドロタルサイトであって、該ハイドロタルサイトは、亜鉛元素とマグネシウム元素とのモル比(Zn/Mg)が0.1以上、1.0以下であり、かつ、XRD測定における2Θ=11.6±0.1°範囲における最も大きいピークのピーク強度Iと、2Θ=13.0±0.1°範囲における最も大きいピークのピーク強度Iとの比(I/I)が2未満であるハイドロタルサイトと、
(2)亜鉛元素とマグネシウム元素とを含むハイドロタルサイトであって、該ハイドロタルサイトは、亜鉛元素とマグネシウム元素とのモル比(Zn/Mg)が0.1以上、1.0以下であって、かつ、TG-DTA測定での140℃~250℃における重量減少率をb%、250℃~350℃における重量減少率をc%としたときに、-7.9(b/c)+10.0が8.0以上であるハイドロタルサイト
の2つが含まれる。前者を第一の本発明のハイドロタルサイト、後者を第二の本発明のハイドロタルサイトともいう。
以下において、「本発明のハイドロタルサイト」は、第一、第二の両方の本発明のハイドロタルサイトを含む。
【0020】
本発明のハイドロタルサイトは、下記式(1)で表されるものであることが好ましい。
(M1)1-x(M2)(OH)(CO 2-x/2・mHO (1)
(式中、M1は、MgおよびZnを表し、Zn/Mgのモル比が0.1以上、1.0以下である。更にMgの一部がMg以外のアルカリ土類金属元素に置換されていてもよい。M2は、Alを表し、Alの一部がFeに置換されていても良い。xは0.2≦x≦0.4の条件を満たす数である。mは、0以上の数である。)
【0021】
上記式(1)におけるM1中のMgの一部はMg以外のアルカリ土類金属元素に置換されていてもよいが、置換されているMgの割合は5mol%以下であることが好ましい。より好ましくは、1mol%以下である。
アルカリ土類金属元素としては、Ca、Sr、Ba等が挙げられる。
【0022】
上記式(1)におけるM2は、Alの一部がFeに置換されていても良いが、置換されているAlの割合は5mol%以下であることが好ましい。より好ましくは、1mol%以下である。
【0023】
上記式(1)においてxは、0.2≦x≦0.4の条件を満たす数であればよいが、0.25≦x≦0.35の条件を満たす数であることが好ましい。
【0024】
2.ハイドロタルサイトの製造方法
本発明のハイドロタルサイトは、亜鉛元素とマグネシウム元素とのモル比(Zn/Mg)が0.1以上、1.0以下であるハイドロタルサイトの一部又は全部を焼成する工程と、焼成したハイドロタルサイトを冷却する工程とを含む製造方法で得ることができる。
【0025】
上記焼成する工程における焼成温度は、200~350℃であることが好ましい。このような温度で行うことで、結晶水の脱離を防いでハイドロタルサイトの構造を維持しつつ、十分に乾燥させ、良好な吸湿性を有するハイドロタルサイトとすることができる。より好ましくは、200~300℃であり、更に好ましくは、250~300℃である。
また焼成時間は、2~24時間であることが好ましい。より好ましくは、2~15時間であり、更に好ましくは、4~8時間である。
焼成工程は、大気下で行うことができる。
【0026】
上記焼成したハイドロタルサイトを冷却する工程においては、大気中の水分を再度吸着させないよう、層間水の脱離温度である250℃以下の温度域においては、水分を含まない雰囲気下で行うことが好ましい。
【0027】
上記焼成したハイドロタルサイトを冷却する工程は、大気下、不活性ガス雰囲気下のいずれで行ってもよく、また加圧、常圧、減圧のいずれの圧力条件下で行ってもよいが、不活性ガス雰囲気下で行うか、大気下の場合は減圧下で行うことが好ましい。これらの雰囲気下で行うことで得られるハイドロタルサイトを吸湿能に優れたものとすることができる。
不活性ガスとしては、乾燥空気、窒素、アルゴン、ヘリウム等が挙げられる。
減圧下で行う場合、100Pa以下であることが好ましく、より好ましくは、10Pa以下であり、更に好ましくは、1Pa以下である。
【0028】
上記製造方法は、上記焼成工程と冷却工程をハイドロタルサイトの全部又は一部に対して行う製造方法である。すなわち、上記製造方法で得られるハイドロタルサイトは、その全部が上記焼成工程と冷却工程を行ったものであってもよく、上記焼成工程と冷却工程を行った一部のハイドロタルサイトと行っていないその他のハイドロタルサイトとを混合したものであってもよい。
また上記製造方法は、上記焼成工程と冷却工程とを含む限り、その他の工程を含んでいてもよい。
【0029】
上記焼成工程に供する亜鉛元素とマグネシウム元素とのモル比(Zn/Mg)が0.1以上、1.0以下であるハイドロタルサイトの製造方法は、そのようなハイドロタルサイトが得られる限り特に制限されないが、例えば、亜鉛塩の水溶液とマグネシウム塩の水溶液とその他のハイドロタルサイトが含む金属元素の塩の水溶液とを、亜鉛元素とマグネシウム元素とのモル比が0.1以上、1.0以下となる割合で混合する工程と、得られた混合水溶液にアルカリ溶液を加えて共沈させることでハイドロタルサイトを得る工程とを含む方法を用いることができる。
また亜鉛元素とマグネシウム元素とのモル比(Zn/Mg)が0.1以上、1.0以下であるハイドロタルサイトは、市販品を用いてもよい。
【0030】
上記亜鉛、マグネシウム、及び、その他のハイドロタルサイトが含む金属元素の塩としては、硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩、炭酸塩等が挙げられる。これらの中でも、硫酸塩が好ましい。
【0031】
上記アルカリ溶液としては、炭酸塩水溶液が好適であり、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸アンモニウム等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0032】
3.硫化水素吸収剤、硫化物型全固体電池
本発明のハイドロタルサイトは、硫化水素の吸着能に優れることから、硫化水素吸収剤として好適に用いることができる。このような本発明のハイドロタルサイトを含む硫化水素吸収剤もまた、本発明の1つである。
更に本発明のハイドロタルサイトは、硫化水素の吸着能に加え、吸湿性にも優れるため、水分を原因として硫化水素が発生する硫化物系固体電解質を用いた全固体電池の外装材に用いると、硫化水素とともに硫化水素発生の原因となる水分も吸収することができ、安全性が高まるため好適である。このような、本発明の硫化水素吸収剤を含む硫化物型全固体電池外装材、及び、本発明の硫化水素吸収剤や硫化物型全固体電池外装材を含む硫化物型全固体電池もまた、本発明の1つである。
【実施例0033】
本発明を詳細に説明するために以下に具体例を挙げるが、本発明はこれらの例のみに限定されるものではない。特に断りのない限り、「%」及び「wt%」とは「重量%(質量%)」を意味する。なお、各物性の測定方法は以下の通りである。
【0034】
実施例1
原料ハイドロタルサイトとしてMg3.5Zn0.5Al(OH)12(CO)・3HO(堺化学工業社製、STABIACE HT-7)を用い、これを250℃で2時間大気下で焼成し、焼成後、200℃まで大気中で冷却した後、気圧1Paの減圧雰囲気下で室温まで冷却し、ハイドロタルサイト1を得た。
【0035】
原料ハイドロタルサイト、焼成工程の温度、時間、冷却工程の雰囲気を表1のように変更した以外は実施例1と同様にして実施例2~10、比較例1~7のハイドロタルサイトを得た。
なお、表1中の原料ハイドロタルサイトは以下のとおりである。
P-93:ハイドロタルサイト(Mg:Zn:Alのモル比=3:1:2、協和化学社製)
HT-P:ハイドロタルサイト(Mg:Zn:Alのモル比=4.5:0:2、堺化学工業社製)
011261:ハイドロタルサイト(Mg:Zn:Alのモル比=2:4:2)であり、以下の方法で合成した
<011261の合成>
-工程(I)-
硫酸亜鉛7水和物64.39gと、硫酸マグネシウム7水和物27.60gと354g/Lの硫酸アルミニウム水溶液54.2mL(Al(SO として19.2g)を混合し、全量が350mLとなるようにイオン交換水を加えた金属塩混合水溶液を得た。別途、720g/Lの水酸化ナトリウム水溶液46.7mLと、炭酸ナトリウム26.7gとを混合し、全量が350mLとなるようにイオン交換水を加えたアルカリ混合水溶液を得た。1Lの丸底フラスコにイオン交換水50mLを入れ、撹拌下において、これら水溶液を加えた。このときのスラリーのpHは9であった。その後、50℃で15分間撹拌することにより、スラリーを得た。
-工程(II)-
上記工程(I)により得られたスラリーをろ過し、洗液の電気伝導度が100μS/cm以下になるまで水洗した。得られたケーキに水を加え撹拌して、乾燥粉として110g/Lのスラリーとした後、噴霧乾燥装置(アトマイザー方式、大川原化工機社製、BDP-22型)にて、ディスク回転数16000rpm、出口乾燥温度105℃の条件で乾燥することにより、ハイドロタルサイト前駆体の粉末を得た。
- 工程(III)-
上記工程(II)により得られた粉末のうち1gを、口内径27mm、高さ15mmのガラスシャーレに入れて、恒温恒湿器(エスペック社製、LH-113)に入れ、室温から85℃ 、相対湿度85%RHまで15分間かけて調整し、85℃、相対湿度85%RHにて22時間保持し、その後ヒーターへの通電を中止し室温まで冷却した。なお、この工程は大気中で行った。このようにしてハイドロタルサイト型粒子を含む粉末( 011261 ) を得た。
得られたハイドロタルサイト型粒子を含む粉末の組成(亜鉛、マグネシウム、アルミニウムの各元素のモル比)及び亜鉛元素とマグネシウム元素とのモル比は以下のようにしてICP発光分光法による元素分析で確認した。
<ICP発光分光法による元素分析>
分光器(SII社製、ICP SPS3100)を使用し、スカンジウム(Sc)を内標準元素とする内標準法(検量線法)により測定した。測定波長は279.55nm(Mg)、213.86nm(Zn)、396.15nm(Al)、361.49nm(Sc)を用いた。
Mg、Zn、Alの含有量(重量%)は、それぞれ検量線法により算出した。
Mg、Znの含有量を用い、下記計算式によりモル比(Zn/Mg)を算出した。
(Zn/Mg)=(Zn含有量/65.38)/(Mg含有量/24.305)
【0036】
実施例1~10、比較例1~7で得られたハイドロタルサイトについて、以下の方法によりXRD測定、及び、吸湿率の測定を行い、I/Iと吸湿率との関係を確認した。結果を表1に示す。表1には各ハイドロタルサイトのアルミニウム元素の質量割合と亜鉛元素とマグネシウム元素とのモル比(Zn/Mg)も示した。また実施例1、2及び比較例1、5のハイドロタルサイトのXRD測定結果を図1に示す。比較例5ではZnOの異相が確認された。
<XRD測定>
XRDの測定はRINT-TTRIII(リガク社製)を用い、X線源はCuKα、平行ビーム法にて行った。X線出力は50kV、300mAとし,測定は10°から80°の2Θ範囲について、スキャンステップが0.02°、係数時間が0.4秒の条件で実施した。
得られたXRDパターンについてBG処理後、以下を読み取り、I/Iを算出した。
:2Θ=11.6°(±0.1)の最強線の強度
:2Θ=13.0°(±0.1)の最強線の強度
<吸湿率測定>
サンプルをビーカーに加え、40℃、Rh70%に設定した恒温恒湿装置(エスペック製 LH-113)内に12時間放置した。
吸湿試験後の重量から、初期重量に対する重量増加率(%)を算出し、これを吸湿率(%)とした。
【0037】
【表1】
【0038】
表1の結果から、I/Iとハイドロタルサイトの吸湿性との間に相関関係があること、及び、Zn/Mgが0.1以上、1.0以下、かつ、I/Iが2未満のハイドロタルサイトは吸湿能に優れることが確認された。
【0039】
実施例2、6、比較例1、4、5で得られたハイドロタルサイトについて、以下の方法で硫化水素の吸着率を測定した。結果を表2に示す。表2には、各ハイドロタルサイトの原料、マグネシウム元素、亜鉛元素、アルミニウム元素の質量割合と亜鉛元素とマグネシウム元素とのモル比(Zn/Mg)、吸湿率も示した。
<硫化水素吸着率>
試料試験として、5Lサンプリングバッグ(ジーエルサイエンス株式会社、スマートバッグPA AA-5、以下、バッグと称す)の一隅をカットし、試料1gを入れたプラスチックシャーレ(直径5cm)を挿入後、カット部分を塞いだ。バッグ内を真空ポンプで脱気したのち、積算流量計(コフロック株式会社、ACM-1)を通じ、バッグ内に空気3Lを注入した。また、ブランク試験として、空のバッグ内に空気3Lを注入した。所定の初発濃度(硫化水素;4.0ppm)になるように、バッグ内にシリンジで臭気物質ガスを注入後、密閉した。2時間後のバッグ内の臭気物質のガス濃度を、ガス検知管(株式会社ガステック、硫化水素検知管No.4LT(0.1ppm~4.0ppm))を用い、測定した。なお、試験はすべて20℃の実験室内にて行った。
試験は2回行い、各試験で得られた臭気物質のガス濃度および減少率の平均値をとった。
減少率は以下のように計算した。
減少率(%)=(ブランク試験のガス濃度-試料試験のガス濃度)/ブランク試験のガス濃度×100
【0040】
【表2】
【0041】
表1、2の結果から、Zn/Mgが0.1以上、1.0以下、かつ、I/Iが2未満の要件を満たすハイドロタルサイトは、硫化水素の吸着能及び吸湿能の両方に優れることが確認された。
【0042】
実施例1~10、比較例1~7で得られたハイドロタルサイトについて、以下の方法によりTG-DTA測定を行い、層間水の脱離による重量減少率b(%)と炭酸根の脱離による重量減少率c(%)を測定した。得られたb、cの値を表3に、実施例1、比較例1で得られたハイドロタルサイトのTG-DTA測定結果の図を図2、3に示す。また、これらのハイドロタルサイトの吸湿率をY軸、b/cをX軸にとってプロットした図を図4に示す。なお、図4ではZnOの異相が確認され、ハイドロタルサイトのみではない比較例5は除いてプロットした。
<TG-DTA測定>
TG-DTAの測定は、STA7300(日立ハイテク社製)を用いた。測定は窒素雰囲気下(流量200mL/min)、10℃/minの昇温速度で行った。実施例1で原料ハイドロタルサイトとして用いたHT-7のDTA挙動から、以下のように定義し、b、c領域における測定前のハイドロタルサイトの重量に対する重量減少率(%)を評価した。
a:(50℃-140℃):表面吸着水の脱離
b:(140℃-250℃):層間水の脱離
c:(250℃-350℃):CO根の脱離
d:(350℃-):結晶水の脱離
【0043】
【表3】
【0044】
図4のプロットから、ハイドロタルサイトの吸湿率Y%とb/cとの間にY=-7.9(b/c)+13.0の相関関係があること、及び、プロットした全てのハイドロタルサイトで、吸湿率Y%が-7.9(b/c)+10.0よりも大きい値となることが確認された。
このことから、ハイドロタルサイトについてTG-DTA測定によりb/cを求めることで、そのハイドロタルサイトが最低どれだけの吸湿能を有するかを見積もることができることが確認された。吸湿率が8%以上であれば良好な吸湿能を有するといえるため、-7.9(b/c)+10.0の値が8以上であれば、良好な吸湿能を有するハイドロタルサイトであるといえる。
図1
図2
図3
図4