(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023043185
(43)【公開日】2023-03-28
(54)【発明の名称】植物蛋白質含有食品の食感、肉風味または水分含量を向上する組成物ならびに植物蛋白質含有食品の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 29/00 20160101AFI20230320BHJP
A23J 3/14 20060101ALI20230320BHJP
A23J 3/16 20060101ALI20230320BHJP
A23J 3/00 20060101ALI20230320BHJP
A23L 13/00 20160101ALI20230320BHJP
A23L 13/40 20230101ALI20230320BHJP
【FI】
A23L29/00
A23J3/14
A23J3/16
A23J3/00 502
A23L13/00 Z
A23L13/40
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022145972
(22)【出願日】2022-09-14
(31)【優先権主張番号】P 2021150622
(32)【優先日】2021-09-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000226415
【氏名又は名称】物産フードサイエンス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110766
【弁理士】
【氏名又は名称】佐川 慎悟
(74)【代理人】
【識別番号】100165515
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 清子
(74)【代理人】
【識別番号】100169340
【弁理士】
【氏名又は名称】川野 陽輔
(74)【代理人】
【識別番号】100195682
【弁理士】
【氏名又は名称】江部 陽子
(74)【代理人】
【識別番号】100206623
【弁理士】
【氏名又は名称】大窪 智行
(72)【発明者】
【氏名】三宅 加七子
(72)【発明者】
【氏名】柏倉 雄一
【テーマコード(参考)】
4B035
4B042
【Fターム(参考)】
4B035LC01
4B035LC03
4B035LC16
4B035LG15
4B035LG19
4B035LG33
4B035LP01
4B035LP21
4B042AC01
4B042AC03
4B042AC05
4B042AD20
4B042AD21
4B042AD36
4B042AG02
4B042AG03
4B042AH01
4B042AK01
4B042AK08
4B042AK10
4B042AK11
4B042AK13
4B042AK14
4B042AP10
4B042AP14
4B042AP18
(57)【要約】
【課題】 植物蛋白質含有食品の食感や風味を向上する技術を提供する。
【解決手段】 下記(ア)~(エ)から選択されるいずれか1以上の還元水飴を有効成分とする、植物蛋白質含有食品の食感向上用組成物;(ア)糖組成が、単糖が30質量%未満かつ五糖以上が50質量%未満の還元水飴、(イ)糖組成が、五糖以上が50質量%以上の還元水飴、(ウ)デキストロース当量が35超55以下の水飴を還元してなる、還元水飴、(エ)デキストロース当量が10以上35以下の水飴を還元してなる、還元水飴。本発明によれば、植物蛋白質含有食品の美味しさを構成する要素として重要な食感(例えば、柔らかさ、しっとり感など)を向上することができる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(ア)~(エ)から選択されるいずれか1以上の還元水飴を有効成分とする、植物蛋白質含有食品の食感向上用組成物;
(ア)糖組成が、単糖が30質量%未満かつ五糖以上が50質量%未満の還元水飴、
(イ)糖組成が、五糖以上が50質量%以上の還元水飴、
(ウ)デキストロース当量が35超55以下の水飴を還元してなる、還元水飴、
(エ)デキストロース当量が10以上35以下の水飴を還元してなる、還元水飴。
【請求項2】
下記(ア)~(エ)から選択されるいずれか1以上の還元水飴を有効成分とする、植物蛋白質を含有する肉代替食品の肉風味の向上用組成物;
(ア)糖組成が、単糖が30質量%未満かつ五糖以上が50質量%未満の還元水飴、
(イ)糖組成が、五糖以上が50質量%以上の還元水飴、
(ウ)デキストロース当量が35超55以下の水飴を還元してなる、還元水飴、
(エ)デキストロース当量が10以上35以下の水飴を還元してなる、還元水飴。
【請求項3】
下記(ア)~(エ)から選択されるいずれか1以上の還元水飴を有効成分とする、植物蛋白質含有食品の水分含量向上用組成物;
(ア)糖組成が、単糖が30質量%未満かつ五糖以上が50質量%未満の還元水飴、
(イ)糖組成が、五糖以上が50質量%以上の還元水飴、
(ウ)デキストロース当量が35超55以下の水飴を還元してなる、還元水飴、
(エ)デキストロース当量が10以上35以下の水飴を還元してなる、還元水飴。
【請求項4】
前記植物蛋白質含有食品の柔らかさおよび/またはしっとり感を向上するために用いられる、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
有効成分が前記(イ)および/または(エ)の還元水飴である、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記植物蛋白質含有食品の弾力を向上するために用いられる、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
前記植物蛋白質含有食品が肉代替食品であり、粒感を向上するために用いられる、請求項5に記載の組成物。
【請求項8】
植物蛋白質を含む食品材料に、請求項1~7のいずれかに記載の組成物を添加する工程を有する、植物蛋白質含有食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中糖化還元水飴および/または低糖化還元水飴を有効成分とする、植物蛋白質含有食品の食感、肉風味または水分含量を向上する組成物ならびにこれを用いる植物蛋白質含有食品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
大豆や小麦などの植物原料から蛋白質を濃縮、分離ないし抽出した植物蛋白質は、食品素材として、従来より、食肉加工製品、水産練り製品、冷凍食品、チルド惣菜、健康食品、菓子、パン、飲料など幅広い加工食品に利用されている。例えば、粉末状の分離大豆たんぱくは、ゲル化作用を有するためハムやソーセージ、揚げ蒲鉾等に利用され、粒状、繊維状大豆たんぱくは、ハンバーグやギョウザ、シュウマイなどの惣菜、冷凍食品等に利用されている。さらに近年では、その健康作用が注目され、食肉に似た食感をもつ粒状、繊維状大豆たんぱくは、代替肉としてミートボールなどの肉製品に用いられている。
【0003】
しかしながら、植物蛋白質を比較的多く含有する食品では、食感がべたっと、あるいはくちゃっとして、弾力やジューシー感、粒感に欠けることや、植物原料由来の臭みが残ることなど、食感や風味が課題になっている。そこで、係る植物蛋白質含有食品の食感や風味を改善する技術が研究開発されており、例えば、特許文献1には、植物蛋白質を含有する食品原料にトランスグルタミナーゼ、グルコースオキシダーゼ、及びホスホリパーゼを添加することにより、食感に優れ、風味・呈味も良好な植物蛋白質含有食品を製造する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の技術は、3種類の酵素を所定量、添加する必要があり、簡便性に欠ける。また、粒感、つなぎ硬さ(保形性の強さ)、大豆臭、肉様の香りや味、油様の味やべたつきを向上できることは示されているものの、柔らかさやしっとり感、弾力といった食感を向上できるか否かは不明である。本発明は、係る課題を解決するためになされたものであって、植物蛋白質含有食品の食感や風味を向上する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意研究の結果、中糖化還元水飴(下記の(ア)、(ウ))または低糖化還元水飴(下記の(イ)、(エ))を植物蛋白質を含む食品材料に配合するという簡便な操作により、植物蛋白質含有食品の水分含量を向上させ、柔らかさやしっとり感といった食感を向上できること、肉の風味を向上するとともに植物原料由来の臭みを低減できることを見出した。そこで、これらの知見に基づいて下記の各発明を完成した。
【0007】
(1)本発明に係る植物蛋白質含有食品の食感向上用組成物は、下記(ア)~(エ)から選択されるいずれか1以上の還元水飴を有効成分とする;
(ア)糖組成が、単糖が30質量%未満かつ五糖以上が50質量%未満の還元水飴、
(イ)糖組成が、五糖以上が50質量%以上の還元水飴、
(ウ)デキストロース当量が35超55以下の水飴を還元してなる、還元水飴、
(エ)デキストロース当量が10以上35以下の水飴を還元してなる、還元水飴。
【0008】
(2)本発明に係る植物蛋白質を含有する肉代替食品の肉風味の向上用組成物は、下記(ア)~(エ)から選択されるいずれか1以上の還元水飴を有効成分とする;
(ア)糖組成が、単糖が30質量%未満かつ五糖以上が50質量%未満の還元水飴、
(イ)糖組成が、五糖以上が50質量%以上の還元水飴、
(ウ)デキストロース当量が35超55以下の水飴を還元してなる、還元水飴、
(エ)デキストロース当量が10以上35以下の水飴を還元してなる、還元水飴。
【0009】
(3)本発明に係る植物蛋白質含有食品の水分含量向上用組成物は、下記(ア)~(エ)から選択されるいずれか1以上の還元水飴を有効成分とする;
(ア)糖組成が、単糖が30質量%未満かつ五糖以上が50質量%未満の還元水飴、
(イ)糖組成が、五糖以上が50質量%以上の還元水飴、
(ウ)デキストロース当量が35超55以下の水飴を還元してなる、還元水飴、
(エ)デキストロース当量が10以上35以下の水飴を還元してなる、還元水飴。
【0010】
本発明においては、(1)の食感向上用組成物、(2)の肉風味の向上用組成物および(3)の水分含量向上用組成物をまとめて、またはこれらのうちのいずれかを指して「本発明に係る組成物」あるいは「本組成物」という場合がある。
【0011】
(4)本組成物は、植物蛋白質含有食品の柔らかさおよび/またはしっとり感を向上するために用いられるもの(柔らかさおよび/またはしっとり感の向上用組成物)であってもよい。
【0012】
(5)本組成物の有効成分は、低糖化還元水飴(前記(イ)および/または(エ))であってもよい。
【0013】
(6)本組成物は、植物蛋白質含有食品の弾力を向上するために用いられるもの(弾力向上用組成物)であってもよい。
【0014】
(7)植物蛋白質含有食品は肉代替食品であってもよく、本組成物は当該肉代替食品の粒感を向上するために用いられるもの(粒感向上用組成物)であってもよい。
【0015】
(8)本発明に係る植物蛋白質含有食品の製造方法は、植物蛋白質を含む食品原料に、本組成物を添加する工程を有する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、植物蛋白質含有食品の美味しさを構成する要素として重要な食感(例えば、柔らかさ、しっとり感など)を向上することができる。また、植物原料由来の臭みを低減することができる。
【0017】
本発明において植物蛋白質含有食品が肉代替食品である場合は、肉の風味を向上することができる。
【0018】
本発明によれば、植物蛋白質含有食品の水分含有量を向上することができる。よって、当該食品のしっとりしたジューシーな食感を向上することができる。
【0019】
本発明において有効成分が低糖化還元水飴である場合は、植物蛋白質含有食品の美味しさを構成する要素として重要な食感(例えば、弾力、粒感など)を向上することができる。
【0020】
本発明によれば、中糖化還元水飴や低糖化還元水飴を原材料に配合するという簡便な操作により、植物蛋白質含有食品の水分含量を向上し、あるいは食感や風味を向上することができる。よって、製造コストを顕著に増大させずに、食感や風味が向上した美味しい植物蛋白質含有食品を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】各種の還元水飴または砂糖を配合した模擬肉団子(試料1~3)の水分含量を示す棒グラフである。
【
図2】各種の還元水飴または砂糖を配合した模擬肉団子(試料1~3)の最大荷重を示す棒グラフである。
【
図3】(I)は、各種の糖アルコールを配合したハンバーグ(試料1~5)について、「しっとり感」を評価した官能試験の各パネルの採点値および評価点を示す表である。(II)は、当該評価点を棒グラフに表したものである。
【
図4】(I)は、各種の糖アルコールを配合したハンバーグ(試料1~5)について、「内面の柔らかさ」を評価した官能試験の各パネルの採点値および評価点を示す表である。(II)は、当該評価点を棒グラフに表したものである。
【
図5】(I)は、各種の糖アルコールを配合したハンバーグ(試料1~7)について、「大豆臭」を評価した官能試験の各パネルの採点値および評価点を示す表である。(II)は、当該評価点を棒グラフに表したものである。
【
図6】(I)は、各種の糖アルコールを配合したハンバーグ(試料1~7)について、「粒感」を評価した官能試験の各パネルの採点値および評価点を示す表である。(II)は、当該評価点を棒グラフに表したものである。
【
図7】(I)は、各種の糖アルコールを配合したハンバーグ(試料1~7)について、「肉の風味」を評価した官能試験の各パネルの採点値および評価点を示す表である。(II)は、当該評価点を棒グラフに表したものである。
【
図8】(I)は、各種の糖アルコールを配合したハンバーグ(試料1~7)について、「肉に近い食感」を評価した官能試験の各パネルの採点値および評価点を示す表である。(II)は、当該評価点を棒グラフに表したものである。
【
図9】各種の糖アルコールを配合したハンバーグ(試料1~7)の破断歪み率を示す棒グラフである。
【
図10】各種の糖アルコールを配合したハンバーグ(試料1~7)の断面を示す写真である。
【
図11】エンドウ豆タンパクを高含有するハンバーグに低糖化還元水飴を配合し、「エンドウ豆臭」、「しっとり感」、「柔らかさ」、「粒感」、「弾力」、「肉の風味」および「肉に近い食感」を評価した官能試験の各パネルの採点値を示す表である。
【
図12】(I)は、配合量を変化させて低糖化還元水飴を配合したハンバーグ(試料1~6)について、「しっとり感」を評価した官能試験の各パネルの採点値および評価点を示す表である。(II)は、当該評価点を棒グラフに表したものである。
【
図13】(I)は、配合量を変化させて低糖化還元水飴を配合したハンバーグ(試料1~6)について、「内面の柔らかさ」を評価した官能試験の各パネルの採点値および評価点を示す表である。(II)は、当該評価点を棒グラフに表したものである。
【
図14】(I)は、配合量を変化させて低糖化還元水飴を配合したハンバーグ(試料1~6)について、「大豆臭」を評価した官能試験の各パネルの採点値および評価点を示す表である。(II)は、当該評価点を棒グラフに表したものである。
【
図15】(I)は、配合量を変化させて低糖化還元水飴を配合したハンバーグ(試料1~6)について、「粒感」を評価した官能試験の各パネルの採点値および評価点を示す表である。(II)は、当該評価点を棒グラフに表したものである。
【
図16】(I)は、配合量を変化させて低糖化還元水飴を配合したハンバーグ(試料1~6)について、「肉の風味」を評価した官能試験の各パネルの採点値および評価点を示す表である。(II)は、当該評価点を棒グラフに表したものである。
【
図17】(I)は、配合量を変化させて低糖化還元水飴を配合したハンバーグ(試料1~6)について、「肉に近い食感」を評価した官能試験の各パネルの採点値および評価点を示す表である。(II)は、当該評価点を棒グラフに表したものである。
【
図18】(I)は、配合量を変化させて低糖化還元水飴を配合したハンバーグ(試料1~6)の最大荷重を示す棒グラフである。(II)は、同試料1~6の破断歪み率を示す棒グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0023】
本発明において、植物蛋白質とは、植物由来の蛋白質またはそれを含む組成物であり、植物に加工処理を施して蛋白質含有量を高めたものが含まれる。植物蛋白質における蛋白質含有量としては、例えば、製品重量当たり30%(w/w)以上、35%(w/w)以上、40%(w/w)以上、45%(w/w)以上、50%(w/w)以上または製品の乾燥重量当たり30%(w/w)以上、35%(w/w)以上、40%(w/w)以上、45%(w/w)以上、50%(w/w)以上、55%(w/w)以上、60%(w/w)以上を例示することができる。蛋白質含量は、紫外吸光光度法、Lowry法、BCA法などの常法により測定することができる。
【0024】
組織状植物蛋白は、植物由来の蛋白粉末をエクストルーダーで加圧加熱しながら押し出すことで作製したものであり、膨化した粒状蛋白や、冷却ダイを用いることで膨化を抑えながら繊維の方向性をもたせた繊維状蛋白が例示される。本発明においては、これを植物蛋白質として用いることができる。
【0025】
植物蛋白質の原料には、大豆が比較的蛋白質含有量が多いため汎用されており、粉末状、粒状または繊維状の大豆加工品が、大豆由来の植物蛋白質(「大豆たんぱく」とも呼ばれる)として市販されている。その他、小麦やエンドウ豆、レンズ豆、ソラ豆、ヒヨコ豆などの雑豆に由来するたんぱく濃縮品やたんぱく単離品が、植物蛋白質として市販されている。大豆たんぱくは、その加工処理方法の違いにより、全脂大豆粉、脱脂大豆粉、粒状大豆たんぱく、繊維状大豆たんぱく、粉末大豆たんぱく、濃縮大豆たんぱく、分離大豆たんぱく、組織化大豆たんぱく(大豆ミート)などがあるが、本発明においては、これらのいずれも用いることができる。
【0026】
大豆たんぱくの市販品としては、例えば、ニューソイミー(登録商標)のシリーズ(F 2010、S10、S11、S20F、S21F、S22F、S31B、S50)(日清オイリオグループ社)、ニューコミテックスのシリーズ(A-301、A-302、A-318、A-320)(日清オイリオグループ社)、ニューフジニックのシリーズ(58、59、AR、61N、BSN)(不二製油社)、アペックス(登録商標)650(不二製油社)レスポンス4400(デュポン社)、earth meat(登録商標)(原田産業社)などを例示することができる。エンドウ豆タンパク質の市販品としては、例えば、PP-CS(オルガノフードテック社:タンパク質含量 77質量%)、PisaneC9(Cosucra社:タンパク質含量84~88質量%)、HARVESTPRO PEA PROTEIN 85 x(グランビアジャパン社:タンパク質含量84~88質量%)、Nutralys S85F(ロケットジャパン社:タンパク質含量85質量%)などを例示することができる。
【0027】
本発明において、植物蛋白質含有食品とは、植物蛋白質を含む食品原料から製造される食品をいう。植物蛋白質を含む食品原料は、植物蛋白質そのものであってもよく、それ以外の食材、例えば肉や卵、小麦粉、パン粉、野菜類、調味料、水等を含んでいてもよい。植物蛋白質含有食品における植物蛋白質の含有割合は特に限定されないが、例えば、当該食品の加熱前において、3質量%以上、6質量%以上、10質量%以上、15質量%以上、20質量%以上、25質量%以上、30質量%以上、35質量%以上、40質量%以上あるいは45質量%以上を例示することができる。
【0028】
植物蛋白質含有食品は 肉代替食品であってもよい。本発明において「肉代替食品」とは、通常は原料の少なくとも一部に肉を含む食品において、肉の代わりに植物蛋白質を用いたものをいう。肉代替食品としては、ミートボール様食品(模擬肉団子)、ハンバーグ様食品、ソーセージ様食品、餃子や焼売、中華まん、春巻き等の包餡麺帯食品、ミートソース様食品、ナゲット、唐揚げ、トンカツ様食品、そぼろ、メンチカツ等が挙げられ、肉代替素材(代用肉、肉様食品)自体も含まれる。肉代替食品において、植物蛋白質で置き換える肉は、全部であってもよく、一部であってもよい。すなわち、これらの食品は、例えば、肉と植物蛋白質の両方を含んでいてもよい。
【0029】
本発明において「食品の食感を向上する」とは、本組成物を用いない場合と比較して、当該食品の食感を良くすることをいう。ここで、食感としては、例えば、植物蛋白質含有食品の美味しさを構成するものとして重要な(a)柔らかさ、(b)しっとり感、(c)弾力、(d)粒感を例示することができる。なお、「粒感」は口中で感じられる肉の粒を想起させる感覚をいう。
【0030】
すなわち、本発明において、植物蛋白質含有食品の食感が向上したか否かは、本組成物を用いた食品Xと、本組成物を用いていない食品Yとについて、上記(a)~(d)の程度を比較することにより確認できる。それにより、食品Xの方が食品Yよりも、(a)柔らかい、(b)しっとりしている(しっとり感が大きい、強い)、(c)弾力がある(大きい、強い)あるいは(d)粒感がある(大きい、強い)、という比較結果が得られれば、本組成物により、植物蛋白質含有食品の食感が向上したと判断することができる。
【0031】
このことから、本組成物は、植物蛋白質含有食品の(a)柔らかさを向上する用途(柔らかさ向上用組成物)、(b)しっとり感を向上する用途(しっとり感向上用組成物)、(c)弾力を向上する用途(弾力向上用組成物)、(d)粒感を向上する用途(粒感向上用組成物)として用いることもできる。
【0032】
本発明において「食品の風味を向上する」とは、本組成物を用いない場合と比較して、当該食品の風味を良くすることをいう。ここで、風味としては、例えば、植物蛋白質含有食品の美味しさを構成するものとして重要な(e)植物原料由来の臭みや(f)肉風味(肉代替食品である場合)を例示することができる。なお、「肉風味」は口中で感じられる肉を想起させる味や香りをいう。
【0033】
すなわち、本発明において、植物蛋白質含有食品の風味が向上したか否かは、本組成物を用いた食品Xと、本組成物を用いていない食品Yとについて、上記(e)や(f)の程度を比較することにより確認できる。それにより、食品Xの方が食品Yよりも、(e)植物原料由来の臭みが少ない(無い、弱い)あるいは(f)肉風味がある(大きい、強い)、という比較結果が得られれば、本組成物により、植物蛋白質含有食品の風味が向上したと判断することができる。
【0034】
このことから、本組成物は、植物蛋白質含有食品の(e)植物原料由来の臭みを低減する用途(植物原料由来の臭み低減用組成物)、あるいは植物蛋白質を含有する肉代替食品の(f)肉風味を向上する用途(肉風味向上用組成物)として用いることもできる。
【0035】
本発明において「食品の水分含量を向上する」とは、本組成物を用いない場合と比較して、食品に含まれる水分の量を多くすることをいう。「食品の水分含量が向上したか否か」は、本組成物を配合した食品Aと、本組成物を配合していない食品Bとについて、水分含量を比較することにより確認できる。水分含量は、食品の水分量測定に一般に用いられる手法、例えば(i)加熱乾燥法、(ii)カールフィッシャー法、(iii)蒸留法、(iv)電気水分計法、(v)近赤外分光分析法、(vi)ガスクロマトグラフ法、(vii)核磁気共鳴吸収法などにより測定することができる。このうち、例えば、(i)加熱乾燥法であれば、食品試料を常圧または減圧下で水の沸点以上に加熱し、水分を除去した後、加熱前後の重量差から水分を求める。これにより、食品Aの方が食品Bよりも、水分含量(乾燥減量)が大きいという比較結果が得られれば、本組成物により、食品の水分含量が向上したと判断することができる。
【0036】
還元水飴は、水飴を還元して得られる糖アルコールである。ここで、水飴は、デンプンを酸や酵素などで糖化して得られる物質であり、単糖(ブドウ糖)および多糖(オリゴ糖やデキストリンなど)の混合物である。よって、還元水飴もまた、単糖の糖アルコールおよび多糖(二糖、三糖、四糖または五糖以上)の糖アルコールのうち、2種以上の糖アルコールを含む混合物である。還元水飴は、糖化の程度により高糖化還元水飴、中糖化還元水飴および低糖化還元水飴に分けられる場合がある。これらのうち、本組成物は、中糖化還元水飴および/または低糖化還元水飴を有効成分とする。
【0037】
中糖化還元水飴の糖組成として、具体的には、(ア)単糖を30質量%未満および五糖以上を50質量%未満含有する糖組成、あるいは、(オ)単糖を2~10質量%、二糖を15~55質量%、三糖を15~65質量%、四糖を1~15質量%および五糖以上を1~38質量%含有する糖組成を例示することができる。
【0038】
低糖化還元水飴の糖組成として、具体的には、(イ)五糖以上を50質量%以上含有する糖組成、あるいは、(カ)単糖を1~10質量%、二糖を6~21質量%、三糖を7~23質量%、四糖を5~13質量%および五糖以上を50~82質量%含有する糖組成を例示することができる。
【0039】
なお、本発明において、糖組成とは、糖の総質量に占める各糖の質量割合を百分率で示すものをいう。すなわち、糖の総質量を100とした場合の、各糖の質量百分率である。
【0040】
糖組成は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて確認することができる。すなわち、還元水飴を試料としてHPLCに供してクロマトグラムを得る。当該クロマトグラムにおいて、全ピークの面積の総和が「糖の総質量」に、各ピークの面積が「各糖の質量」に相当する。よって、試料における各糖の質量百分率は、検出された全ピークの面積の総和に対する各ピークの面積の割合として算出することができる。HPLCの条件は、定法に従って適宜設定することができるが、下記条件を例示することができる。
《HPLCの条件》
カラム;MCI GEL CK04S(10mm ID x 200mm)
溶離液;高純水
流速;0.4mL/分
注入量;20μL
カラム温度;65℃
検出;示差屈折率検出器RI-10A(島津製作所)
【0041】
還元水飴は、水飴を還元して製造することから、還元水飴の糖化の程度は、水飴の糖化の程度に準じる。すなわち、原料水飴の糖化の程度が高いほど還元水飴の糖化の程度が高く、原料水飴の糖化の程度が低いほど還元水飴の糖化の程度は低い。水飴の糖化の程度の指標は、一般に、デキストロース当量(Dextrose Equivalent値;DE)が用いられる。DEは、試料中の還元糖をブドウ糖として測定したときの、当該還元糖の全固形分に対する割合(百分率)である。DEの最大値は100で、固形分の全てがブドウ糖であることを意味し、DEが小さくなるほど少糖類や多糖類が多いことを意味する。
【0042】
すなわち、中糖化還元水飴の原料水飴のDEとしては、(ウ)35超、37以上、48以下、50以下、55以下を例示することができる。
【0043】
また、低糖化還元水飴の原料水飴のDEとしては、(エ)10以上、12以上、14以上、30以下、32以下、35以下を例示することができる。
【0044】
なお、水飴のDEは、下記の方法により測定することができる。
《DEの測定方法》
試料2.5gを正確に量り、水で溶かして200mLとする。この液10mLを量り、1/25mol/L ヨウ素溶液(注1)10mLと1/25mol/L 水酸化ナトリウム溶液(注2)15mLを加えて20分間暗所に放置する。次に、2mol/L塩酸(注3)を5mL加えて混和した後、1/25mol/L チオ硫酸ナトリウム溶液(注4)で滴定する。滴定の終点近くで液が微黄色になったら、デンプン指示薬(注5)2滴を加えて滴定を継続し、液の色が消失した時点を滴定の終点とする。水を用いてブランク値を求め、次式1によりDEを求める。
(注1)1/25mol/L ヨウ素溶液:ヨウ化カリウム20.4gとヨウ素10.2gを2Lのメスフラスコに入れ、少量の水で溶解後、標線まで水を加える。
(注2)1/25mol/L 水酸化ナトリウム溶液:水酸化ナトリウム3.2gを2Lのメスフラスコに入れ、少量の水で溶解後、標線まで水を加える。
(注3)2mol/L 塩酸:水750mLに塩酸150mLをかき混ぜながら徐々に加える。
(注4)1/25mol/L チオ硫酸ナトリウム溶液:チオ硫酸ナトリウム20gを2Lのメスフラスコに入れ、少量の水で溶解後、標線まで水を加える。
(注5)デンプン指示薬:可溶性デンプン5gを水500mLに溶解し、これに塩化ナトリウム100gを溶解する。
【0045】
本発明において、還元水飴は、市販されているものをそのまま用いてもよく、当業者に公知の方法に従って製造して用いてもよい。市販の中糖化還元水飴としては、例えば、「スイートOL」、「スイートG3」、「エスイー57」および「エスイー58」(以上、物産フードサイエンス)などを、市販の低糖化還元水飴としては、例えば、「スイートNT」、「エスイーP」、「エスイー30」および「エスイー100」(以上、物産フードサイエンス)などを例示することができる。
【0046】
還元水飴の公知の製造方法としては、水飴(原料糖)に水素を添加する還元反応を挙げることができる。水素添加による還元反応は、例えば、40~75質量%の原料糖水溶液を、還元触媒と併せて高圧反応器中に仕込み、反応器中の水素圧を4.9~19.6MPa、反応液温を70~180℃として、混合攪拌しながら、水素の吸収が認められなくなるまで反応を行なえばよい。その後、還元触媒を分離し、イオン交換樹脂処理、必要であれば活性炭処理等で脱色脱塩した後、所定の濃度まで濃縮すれば、高濃度の還元水飴を作ることができる。
【0047】
還元水飴は、植物蛋白質含有食品の製造過程において、砂糖や塩などの調味料と同様に、一材料として配合して用いることができる。例えば、植物蛋白質を含む食品原料に還元水飴を添加し、これを用いて通常どおり食品を製造すればよい。すなわち、本発明は、本組成物を植物蛋白質を含む食品原料に添加する工程を有する、植物蛋白質含有食品の製造方法も提供する。植物蛋白質含有食品は、本組成物を食品原料に添加するほかは、公知である常法により製造することができる。
【0048】
なお、還元水飴は、植物蛋白質の加工工程で配合することにより用いてもよい。例えば、植物由来の蛋白粉末から組織状植物蛋白(粒状植物蛋白や繊維状植物蛋白など)に加工する工程で還元水飴を配合してもよい。すなわち、大豆たんぱくであれば、脱脂大豆から脱脂大豆粉、粒状大豆たんぱく、繊維状大豆たんぱく、濃縮大豆たんぱく、分離大豆たんぱくなどに加工する工程で還元水飴を配合してもよい。
【0049】
また、乾燥しているか、あるいは水分が少ない状態で冷凍されているような植物蛋白質の場合は、食品製造に用いるにあたり、一度水や熱湯で吸水させて復水(水戻し)してから使用することが通常である。還元水飴は、この水戻し工程に添加して用いてもよい。
【0050】
還元水飴の配合量は、その糖組成、植物蛋白質含有食品の種類や所望の食感、味、その他の材料の有無・種類・量などに応じて適宜設定することができる。例えば、還元水飴の配合量としては、加熱前における、還元水飴以外の材料の合計100重量部に対して0.1重量部以上、0.3重量部以上、0.5重量部以上、0.7重量部以上、0.9重量部以上、1.2重量部以上、1.4重量部以上、1.6重量部以上、1.8重量部以上、2.0重量部以上、2.2重量部以上、2.4重量部以上、2.6重量部以上、2.8重量部以上、3重量部以上、20重量部以下、19重量部以下、18重量部以下、17重量部以下、16重量部15重量部以下、14重量部以下、13重量部以下、12重量部以下、11重量部以下、10重量部以下、9重量部以下、8重量部以下あるいは7重量部以下を例示することができる。
【0051】
本発明に係る植物蛋白質含有食品の製造方法は、本発明の特徴を損なわない限り他の工程を含むものであってもよい。係る工程としては、例えば、食材のカッティング工程、食材の破砕工程、食材の混合工程、調味工程、冷却工程、冷凍工程、殺菌工程、包装工程などを例示することができる。
【0052】
以下、本発明について、各実施例に基づいて説明する。なお、本発明の技術的範囲は、これらの実施例によって示される特徴に限定されない。
【実施例0053】
<試験方法>
(1)植物蛋白質
植物蛋白質として、下記A~Cの市販品を用いた。Aは粉末状の分離大豆たんぱく、Bは粒状大豆たんぱく、Cはエンドウ豆に由来する粒状蛋白である。
A.たん白粉末,大豆由来(粉末または微粒、乾燥減量(105℃)10.0%以下、全窒素(N)(乾燥後)9~11%)(富士フイルム和光純薬)
B.粒状大豆たんぱく ニューソイミーS-21MKJ(日清オイリオ)
C.エンドウ豆粒状ミート 大 (CBC社)
【0054】
(2)糖アルコール
糖アルコールは、表1に示す市販品を用いた。
【表1】
【0055】
<実施例1>糖アルコールの種類の検討:水分含量および柔らかさの向上効果
(1)模擬肉団子の作製
植物蛋白質Aを用いて、試料1~3の模擬肉団子を作製した。その配合を表2に示す。試料1には砂糖を配合し、試料2および試料3には、砂糖に代えて中糖化還元水飴および低糖化還元水飴(エスイー100)を配合した。オレイン酸は一般に畜肉に多く含まれるため、模擬肉団子にも配合した。試料1~3の模擬肉団子は、加熱前の配合において、砂糖または還元水飴を固形分濃度で15%(w/w)含む。作製手順は、まず、表2に示す全ての材料をハンドミキサーを用いて混合した。続いて、型(直径50mm、高さ35mm)に約30gずつ充填し、オーブンに入れて150℃で10分焼成した。
【表2】
【0056】
(2)水分含量の向上効果
試料1~3の模擬肉団子の重量を測定し、乾燥前重量とした。続いて、これらを真空乾燥機(EYELA)に入れ、減圧下(0.1MPa)、90℃で20時間加熱乾燥した後、重量を測定し、乾燥後重量とした。重量の測定結果にもとづき、式2により、水分含量を算出した。その結果を
図1に示す。
式2:水分含量(%(w/w))=(乾燥前重量―乾燥後重量)/乾燥前重量×100
【0057】
図1に示すように、試料2(中糖化還元水飴)および試料3(低糖化還元水飴(エスイー100))の水分含量は、試料1(砂糖)よりも大きかった。特に、試料3(低糖化還元水飴(エスイー100))の水分含量が顕著に大きかった。すなわち、中糖化還元水飴または低糖化還元水飴を配合した模擬肉団子は、砂糖を配合したものよりも水分を多く含んでいた。この結果から、植物蛋白質含有食品に中糖化還元水飴または低糖化還元水飴を配合することにより、水分含量を向上できることが明らかになった。
【0058】
(3)柔らかさの向上効果
試料1~3の模擬肉団子を、クリープメーターRE2-33005B(山電)の直径16mm、高さ25mmの円柱形のプランジャーを用いて、圧縮速度1mm/秒で70体積%圧縮変形するまで圧縮し、荷重(N)を測定した(ロードセル 20N)。各試料につき3検体を行い、最大荷重について平均値を算出した。その結果を
図2に示す。
【0059】
図2に示すように、試料2(中糖化還元水飴)および試料3(低糖化還元水飴(エスイー100))の最大荷重は試料1(砂糖)よりも小さかった。特に、試料3(低糖化還元水飴(エスイー100))の最大荷重が顕著に小さかった。すなわち、中糖化還元水飴または低糖化還元水飴を配合した模擬肉団子は、砂糖を配合したものよりも柔らかかった。この結果から、植物蛋白質含有食品に中糖化還元水飴または低糖化還元水飴を配合することにより、柔らかさを向上できることが明らかになった。
【0060】
<実施例2>糖アルコールの種類の検討:しっとり感および柔らかさの向上効果
(1)ハンバーグ様食品の作製
植物蛋白質Bを2倍量(重量比)の水に浸漬し、2時間常温(25℃程度)にて静置することにより水戻しを行い(以下、これを「水戻し原料B」という)、これを用いて試料1~5のハンバーグ様食品を作製した。水戻し原料Bのみだとハンバーグ様食品の成形が困難であるため、つなぎとして、および畜肉の風味を付与するために、水戻し原料B:畜肉=7:3の重量比となるよう合挽肉を配合した。ハンバーグ様食品の配合を表3に示す。
【表3】
【0061】
ハンバーグ様食品の作製手順は、まず、水戻し原料Bと合挽肉とを合わせ、食塩を加えてハンドミキサーを用いて低速で1分30秒混合した。続いて、残りの材料を加えて低速で1分30秒混合した。混合中は30秒ごとに容器壁面に付着した食材を拭って容器中央に投入することを繰り返した。続いて、30gずつ、直径6cmのセルクル型に充填して円形に成形した。これをオーブンに入れて200℃で12分焼成した後、20分間室温に置いて放冷した。その後、-40℃に50分置くことにより急速凍結させた後、-20℃で冷凍保管した。
【0062】
(2)官能試験
凍結状態の試料を電子レンジで誘電加熱(600Wで1分30秒/1個当り)し、15分放冷した後、4または5名の分析型パネル(甲~戊)により喫食して官能評価を行った。評価項目は「しっとり感」および「内面の柔らかさ」とした。糖アルコールを配合しない試料を5点として、1~10点の10段階で各パネルが採点した。採点結果は、試料ごとに全パネルによる評点の平均値を求め、小数点第3位を四捨五入して評価点とした。下記の採点基準に示すように、いずれの項目も評価点の点数が高いほど好ましいといえる。その結果を
図3および
図4に示す。
≪採点基準≫
「しっとり感」1点:パサつく⇔しっとり:10点(点数が大きいほどしっとりしている。点数が小さいほどパサついている。)
「内面の柔らかさ」1点:硬い⇔柔らかい:10点(点数が大きいほどハンバーグ様食品の中が柔らかい。点数が小さいほどハンバーグ様食品の中が硬い。)
【0063】
図3に示すように、しっとり感は、試料1(糖アルコール無し)よりも、試料2(中糖化還元水飴)、試料3(低糖化還元水飴:エスイー30)、試料4(低糖化還元水飴:エスイーP)および試料5(低糖化還元水飴:エスイー100)の方が評価点が大きかった。すなわち、中糖化還元水飴または低糖化還元水飴を添加したハンバーグ様食品は、糖アルコールを添加しなかったものと比較して、しっとりしていた。この結果は、水分含量の評価結果(実施例1の
図1)と整合するものであり、植物蛋白質含有食品に中糖化還元水飴または低糖化還元水飴を配合することにより、当該食品のしっとり感を向上できることが明らかになった。
【0064】
次に、
図4に示すように、内面の柔らかさは、試料1(糖アルコール無し)よりも、試料2(中糖化還元水飴)、試料3(低糖化還元水飴:エスイー30)、試料4(低糖化還元水飴:エスイーP)および試料5(低糖化還元水飴:エスイー100)の方が評価点が大きかった。すなわち、中糖化還元水飴または低糖化還元水飴を添加したハンバーグ様食品は、糖アルコールを添加しなかったものと比較して、当該食品の中が柔らかかった。この結果は、最大荷重の測定結果(実施例1の
図2)と整合するものであり、植物蛋白質含有食品に中糖化還元水飴または低糖化還元水飴を配合することにより、当該食品の柔らかさを向上できることが明らかになった。
【0065】
<実施例3>糖アルコールの種類の検討:食感・風味の向上効果
(1)ハンバーグ様食品の作製
実施例2(1)に記載の方法により、試料1~7のハンバーグ様食品を作製した。試料1には糖アルコールを配合せず、試料2~5および7にはソルビトール、高糖化還元水飴、中糖化還元水飴および低糖化還元水飴(エスイー30、エスイー100)(固形分濃度70質量%の液体製品)を配合し、試料6には低糖化還元水飴(エスイーP)(固形分濃度100%の粉末製品)を配合した。
【0066】
(2)官能試験
実施例2(2)に記載の方法により、試料1、2の官能試験を行った。ただし、評価項目は「大豆臭」、「粒感」、「肉の風味」および「肉に近い食感(粒感や弾力などを総合して、肉だと感じる食感)」の4項目とし、その採点基準は以下のとおりとした。その結果を
図5~8に示す。
≪採点基準≫
「大豆臭」1点:強い⇔弱い:10点(点数が大きいほど食べた時の大豆の臭いが強い。点数が小さいほど食べた時の大豆の臭いが弱い。)
「粒感」1点:弱い⇔強い:10点(点数が大きいほど粒感(肉の粒を思わせる感じ)が感じられる。点数が小さいほど粒感が感じられない。)
「肉の風味」1点:弱い⇔強い:10点(点数が大きいほど肉の風味が感じられる。点数が小さいほど肉の風味が感じられない。)
「肉に近い食感」1点:弱い⇔強い:10点(点数が大きいほど肉に近い食感が感じられる。点数が小さいほど肉に近い食感が感じられない。)
【0067】
図5に示すように、大豆臭は、試料1(糖アルコール無し)よりも、試料4(中糖化還元水飴)、試料5(低糖化還元水飴:エスイー30)、試料6(低糖化還元水飴:エスイーP)および試料7(低糖化還元水飴:エスイー100)の方が評価点が大きかった。すなわち、中糖化還元水飴または低糖化還元水飴を添加したハンバーグ様食品は、糖アルコールを添加しなかったものと比較して、食べた時の大豆の臭いが弱かった。この結果から、植物蛋白質含有食品に中糖化還元水飴または低糖化還元水飴を配合することにより、当該食品の原料由来の臭みを低減できることが明らかになった。
【0068】
次に、
図6に示すように、粒感は、試料1(糖アルコール無し)よりも、試料5(低糖化還元水飴:エスイー30)、試料6(低糖化還元水飴:エスイーP)および試料7(低糖化還元水飴:エスイー100)の方が評価点が大きかった。すなわち、低糖化還元水飴を添加したハンバーグ様食品は、糖アルコールを添加しなかったものと比較して、肉の粒を思わせる粒感が強く感じられた。この結果から、植物蛋白質含有食品に低糖化還元水飴を配合することにより、当該食品の粒感を向上できることが明らかになった。
【0069】
次に、
図7に示すように、肉の風味は、試料1(糖アルコール無し)よりも、試料4(中糖化還元水飴)、試料5(低糖化還元水飴:エスイー30)、試料6(低糖化還元水飴:エスイーP)および試料7(低糖化還元水飴:エスイー100)の方が評価点が大きく、特に試料5、試料6および試料7の評価点が大きかった。すなわち、中糖化還元水飴または低糖化還元水飴を添加したハンバーグ様食品は、糖アルコールを添加しなかったものと比較して、肉の風味が強く感じられた。この結果から、植物蛋白質を含有する肉代替食品に中糖化還元水飴または低糖化還元水飴を配合することにより、当該食品の肉の風味を向上できることが明らかになった。
【0070】
最後に、
図8に示すように、肉に近い食感は、試料1(糖アルコール無し)よりも、試料5(低糖化還元水飴:エスイー30)、試料6(低糖化還元水飴:エスイーP)および試料7(低糖化還元水飴:エスイー100)の方が評価点が大きかった。すなわち、低糖化還元水飴を添加したハンバーグ様食品は、糖アルコールを添加しなかったものと比較して、肉に近い食感が強く感じられた。この結果から、植物蛋白質を含有する肉代替食品に低糖化還元水飴を配合することにより、当該食品の肉に近い食感を向上できることが明らかになった。
【0071】
<実施例4>糖アルコールの種類の検討:弾力の向上効果
(1)ハンバーグ様食品の作製
実施例3(1)に記載の方法により、試料1~7のハンバーグ様食品を作製した。
【0072】
(2)応力測定試験
凍結状態の試料を電子レンジで誘電加熱(600Wで1分30秒/1個当り)し、15分放冷した。これらの試料のハンバーグ様食品を、クリープメーターRE2-33005B(山電)のくさび形のプランジャーを用いて、圧縮速度1mm/秒で破断するまで圧縮し、破断点での変形量を測定して、破断歪み率(試料のもとの厚さ(mm)に対する破断点での変形量(mm)の百分率)を求めた。破断歪み率は弾力性に相当し、値が大きいほど試料の弾力が大きく、値が小さいほど試料の弾力が小さいことを示す。また、同時に荷重を測定して最大荷重(N)を特定した。その結果を
図9に示す。
【0073】
図9に示すように、破断歪み率は、試料1(糖アルコール無し)よりも、試料5(低糖化還元水飴:エスイー30)、試料6(低糖化還元水飴:エスイーP)および試料7(低糖化還元水飴:エスイー100)の方が顕著に大きかった。すなわち、低糖化還元水飴を添加したハンバーグ様食品は、糖アルコールを添加しなかったものと比較して、弾力が大きかった。一方で、最大荷重は、試料1が65.70Nだったのに対して、試料5は48.07N、試料6は50.20N、試料7は50.90Nであり、試料5~7の方が顕著に小さかった。すなわち、低糖化還元水飴を添加したハンバーグ様食品は、糖アルコールを添加しなかったものと比較して、柔らかかった。
【0074】
これらの結果から、植物蛋白質含有食品に低糖化還元水飴を配合することにより、当該食品を、柔らかいが弾力に富んだ食感にできることが明らかになった。
【0075】
<実施例5>糖アルコールの種類の検討:粒感の向上効果
実施例3(1)に記載の方法により、試料1~7のハンバーグ様食品を作製した。凍結状態の試料を電子レンジで誘電加熱(600Wで1分30秒/1個当り)し、15分放冷した。その後、試料を包丁で半分に切断し、断面を目視で観察した。その結果を
図10に示す。
【0076】
図10に示すように、ハンバーグ様食品断面における粒状物と粒状物との間の隙間に注目すると、試料5(低糖化還元水飴:エスイー30)、試料6(低糖化還元水飴:エスイーP)および試料7(低糖化還元水飴:エスイー100)では、試料1(糖アルコール無し)よりも、当該隙間の数が多く、個々の隙間のサイズも大きくて、個々の粒状物の輪郭が明確に視認された。すなわち、低糖化還元水飴を添加したハンバーグ様食品は、ハンバーグ様食品の中において、個々の粒状物が強く凝縮している様子が観察された。この結果は、官能試験による粒感の評価結果(実施例3の
図6)と整合するものであり、植物蛋白質含有食品に低糖化還元水飴を配合することにより、当該食品の粒感を向上できることが明らかになった。
【0077】
<実施例6>植物蛋白質の種類の検討
(1)ハンバーグ様食品の作製
植物蛋白質Cを2倍量(重量比)の水に浸漬し、2時間常温(25℃程度)にて静置することにより水戻しを行った(以下、これを「水戻し原料C」という)。水戻し原料Bに代えて水戻し原料Cを用い、糖アルコールとして低糖化還元水飴(エスイーP)を用いて、実施例2(1)に記載の方法により、試料1および試料2のハンバーグ様食品を作製した。ただし、試料1~2の配合は表4に示すとおりとした。
【表4】
【0078】
(2)官能試験
実施例2(2)および実施例3(2)に記載の方法により、試料1、2の官能試験を行った。ただし、評価項目は「内面の柔らかさ」に代えて「(全体的な)柔らかさ」とし、「大豆臭」に代えて「エンドウ豆臭」とした。また、「弾力」も評価した。「柔らかさ」、「エンドウ豆臭」および「弾力」の採点基準は以下のとおりとした。各パネルの採点結果を
図11に、評価点を表5に、それぞれ示す。
≪採点基準≫
「エンドウ豆臭」1点:強い⇔弱い:10点(点数が大きいほど食べた時のエンドウ豆のにおいが強い。点数が小さいほど食べた時のエンドウ豆のにおいが弱い。)
「柔らかさ」1点:硬い⇔柔らかい:10点(点数が大きいほど柔らかい。点数が小さいほど硬い。)
「弾力」1点:弱い⇔強い:10点(点数が大きいほど弾力が強い(大きい)。点数が小さいほど弾力が弱い(小さい)。)
【表5】
【0079】
図11および表5に示すように、「エンドウ豆臭」「しっとり感」、「柔らかさ」、「粒感」、「弾力」、「肉の風味」および「肉に近い食感」のいずれも、試料2の方が試料1よりも評価点が大きかった。すなわち、エンドウ豆由来の植物蛋白質を含有するハンバーグ様食品においても、低糖化還元水飴を添加したものの方が、糖アルコールを添加しなかったものよりも(i)食べた時のエンドウ豆の臭いが弱く、(ii)しっとりしていて、(iii)柔らかく、(iv)粒感が強く、(v)弾力が強く、(vi)肉の風味が強く、(vii)肉に近い食感が強く感じられた。これらの結果から、中糖化還元水飴および低糖化還元水飴は、植物蛋白質の原料植物種を問わず、これを含有する食品の食感や風味を向上できることが明らかになった。
【0080】
<実施例7>糖アルコールの配合量:食感・風味の向上効果
(1)ハンバーグ様食品の作製
表6に示す配合で、実施例2(1)に記載の方法により試料1~6のハンバーグ様食品を作製した。試料1~6は、加熱前における糖アルコール以外の材料の合計100重量部に対して、低糖化還元水飴(エスイーP)(固形分100%(w/w)粉末)を0~10重量部配合したハンバーグ様食品である。
【表6】
【0081】
(2)食感・風味の向上効果
実施例2(2)および実施例3(2)に記載の方法により、試料1~6のハンバーグ様食品の官能試験を行った。ただしパネルは3~5名とした。その結果を
図12~17に示す。
【0082】
図12~17に示すように、試料2~試料7は、「しっとり感」、「内面の柔らかさ」、「大豆臭」、「粒感」、「肉の風味」および「肉に近い食感」の全項目で、試料1(0重量部)よりも評価点が大きかった。すなわち、加熱前の他の材料の合計100重量部に対して低糖化還元水飴を固形分で1~10重量部添加したハンバーグ様食品はいずれも、糖アルコールを添加しなかったものと比較して、「しっとり感」、「内面の柔らかさ」、「大豆臭」、「粒感」、「肉の風味」および「肉に近い食感」が優れていた。この結果から、植物蛋白質含有食品において、中糖化還元水飴および低糖化還元水飴はその配合量にかかわらず、食感や風味を向上できることが明らかになった。
【0083】
(3)弾力の向上効果
実施例4(2)に記載の方法により、試料1~6のハンバーグ様食品について応力測定試験を行い、最大荷重および破断歪み率を測定した。その結果を
図18に示す。
【0084】
図18に示すように、試料2~試料7はいずれも、試料1よりも最大荷重が小さく、かつ、破断歪み率が大きかった。すなわち、加熱前の他の材料の合計100重量部に対して低糖化還元水飴を固形分で1~10重量部添加したハンバーグ様食品はいずれも、糖アルコールを添加しなかったものと比較して、柔らかく、かつ弾力が大きかった。この結果から、植物蛋白質含有食品において、中糖化還元水飴および低糖化還元水飴はその配合量にかかわらず、柔らかく、かつ弾力に富んだ食感を向上できることが明らかになった。