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特開2023-43254バルブメンテナンス支援装置および方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023043254
(43)【公開日】2023-03-29
(54)【発明の名称】バルブメンテナンス支援装置および方法
(51)【国際特許分類】
   G05B 23/02 20060101AFI20230322BHJP
【FI】
G05B23/02 301X
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021150765
(22)【出願日】2021-09-16
(71)【出願人】
【識別番号】000006666
【氏名又は名称】アズビル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 史明
(72)【発明者】
【氏名】田中 雅人
【テーマコード(参考)】
3C223
【Fターム(参考)】
3C223AA05
3C223BA01
3C223CC01
3C223EA06
3C223EB01
3C223FF13
3C223FF15
3C223FF17
3C223FF23
3C223FF52
3C223FF53
3C223GG03
3C223HH02
(57)【要約】
【課題】内弁損傷の可能性があるか否かをプラントの運転中にリアルタイムに近い状態で判断する。
【解決手段】バルブメンテナンス支援装置は、バルブの開度指令値と実開度値のデータに基づいて、バルブが予め規定された基準開度で整定しているか否かを判定する整定判定部7と、基準開度で整定状態と判定されたバルブの整定時の圧力計測値と予め規定された基準圧力値とに閾値以上の差異がある場合に、当該バルブの内弁の損傷が有り得ると判定する損傷判定部9と、内弁の損傷が有り得ると判定されたバルブのIDを提示する判定結果提示部10とを備えている。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バルブに与えられた開度指令値のデータとデータの送信元のバルブのIDとを対応付けて記憶するように構成された第1の記憶部と、
バルブの実開度値のデータとデータの送信元のバルブのIDとを対応付けて記憶するように構成された第2の記憶部と、
バルブのポジショナから操作器に供給される操作器空気の圧力計測値のデータとデータの送信元のバルブのIDとを対応付けて記憶するように構成された第3の記憶部と、
前記開度指令値と前記実開度値のデータに基づいて、バルブが予め規定された基準開度で整定しているか否かを判定するように構成された整定判定部と、
前記基準開度で整定状態と判定されたバルブの整定時の前記圧力計測値と予め規定された基準圧力値とに閾値以上の差異がある場合に、当該バルブの内弁の損傷が有り得ると判定するように構成された損傷判定部と、
内弁の損傷が有り得ると判定されたバルブのIDを提示するように構成された判定結果提示部とを備えることを特徴とするバルブメンテナンス支援装置。
【請求項2】
請求項1記載のバルブメンテナンス支援装置において、
前記基準開度で整定状態と判定されたバルブについて、前記基準開度における前記基準圧力値が登録されていない場合に、当該バルブの整定時の前記圧力計測値を前記基準圧力値として登録するように構成された基準圧力登録部をさらに備えることを特徴とするバルブメンテナンス支援装置。
【請求項3】
請求項2記載のバルブメンテナンス支援装置において、
前記基準圧力登録部は、バルブの累積作動時間が所定時間以下の時期に前記基準圧力値の登録を行うことを特徴とするバルブメンテナンス支援装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載のバルブメンテナンス支援装置において、
内弁損傷の診断時にバルブが前記基準開度で整定状態となるように、前記基準開度の値を前記開度指令値として対象のバルブに与えるように構成された開度指令部をさらに備えることを特徴とするバルブメンテナンス支援装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載のバルブメンテナンス支援装置において、
前記損傷判定部は、正常時よりも流体反力を大きめに受ける状況での操作器空気圧力の変化が生じる傾向の場合に、内弁の損傷が発生している確率が高いと判定することを特徴とするバルブメンテナンス支援装置。
【請求項6】
バルブに与えられた開度指令値のデータとデータの送信元のバルブのIDとを対応付けて記憶する第1のステップと、
バルブの実開度値のデータとデータの送信元のバルブのIDとを対応付けて記憶する第2のステップと、
バルブのポジショナから操作器に供給される操作器空気の圧力計測値のデータとデータの送信元のバルブのIDとを対応付けて記憶する第3のステップと、
前記開度指令値と前記実開度値のデータに基づいて、バルブが予め規定された基準開度で整定しているか否かを判定する第4のステップと、
前記基準開度で整定状態と判定したバルブの整定時の前記圧力計測値と予め規定された基準圧力値とに閾値以上の差異がある場合に、当該バルブの内弁の損傷が有り得ると判定する第5のステップと、
内弁の損傷が有り得ると判定したバルブのIDを提示する第6のステップとを含むことを特徴とするバルブメンテナンス支援方法。
【請求項7】
請求項6記載のバルブメンテナンス支援方法において、
前記基準開度で整定状態と判定したバルブについて、前記基準開度における前記基準圧力値が登録されていない場合に、当該バルブの整定時の前記圧力計測値を前記基準圧力値として登録する第7のステップをさらに含むことを特徴とするバルブメンテナンス支援方法。
【請求項8】
請求項7記載のバルブメンテナンス支援方法において、
前記第7のステップは、バルブの累積作動時間が所定時間以下の時期に前記基準圧力値の登録を行うことを特徴とするバルブメンテナンス支援方法。
【請求項9】
請求項6乃至8のいずれか1項に記載のバルブメンテナンス支援方法において、
内弁損傷の診断時にバルブが前記基準開度で整定状態となるように、前記基準開度の値を前記開度指令値として対象のバルブに与える第8のステップをさらに含むことを特徴とするバルブメンテナンス支援方法。
【請求項10】
請求項6乃至9のいずれか1項に記載のバルブメンテナンス支援方法において、
前記第5のステップは、正常時よりも流体反力を大きめに受ける状況での操作器空気圧力の変化が生じる傾向の場合に、内弁の損傷が発生している確率が高いと判定するステップを含むことを特徴とするバルブメンテナンス支援方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メンテナンス作業を支援する技術に係り、特に流体と接触するバルブの内弁の状態維持が重要になる場合についてメンテナンス作業を支援するバルブメンテナンス支援装置および方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、石油化学プラントなどで使用されるバルブ(例えば図10のコントロールバルブ)は、特に安全性に留意する必要があり、ゆえに定期的なメンテナンスが行われる。図10に示すバルブ100は、バルブ本体101と、ポジショナ102と、操作器103とを備えている。操作器103は、ポジショナ102から供給される空気出力圧Poに応じて弁軸(ステム)104を上下動させて、バルブの開度(弁体とシートリングとの間の隙間)を調節する。すなわち、流体の流れを調節する。
【0003】
図10に示したようなバルブが設置されているプラントにおいてバルブのメンテナンス作業効率を改善する技術が提案されている(特許文献1参照)。バルブが高温の流体の流量制御を扱う場合、バルブが全閉になると特にバルブの出口側で高温流体の熱影響が低下することによる温度下降が発生する。高温と低温の状態が頻繁に発生するほど、ヒートサイクルによるバルブの部品の劣化(例えばシートリングの緩み)が進行し易くなる。特許文献1に開示された技術は、バルブのヒートサイクルに関する情報を診断指標としてオペレータに提示することで、ヒートサイクルによる部品の劣化を推定できるようにしたものである。
【0004】
一方、ヒートサイクルによる劣化とは別のバルブの損傷の例として、エロージョン(磨耗)やコロージョン(腐食)による内弁の損傷がある。図11は、バルブの内弁部分の構造を示す図である。図10に示すように、ステム104を摺動可能に保持するグランド部108には、弁箱110内の流体が弁箱110の上部に設けられたボンネット111とステム104との隙間から漏れることを防止するため、ボンネット111の内壁とステム104との隙間にグランドパッキン109が設けられている。
【0005】
ステム104の先端部には弁体(プラグ)105が設けられている。弁箱110の流入口112および流出口113との間に位置する隔壁114には、シートリング106が設けられている。プラグ105がシートリング106のシート面に着座するとバルブが全閉状態となり、離間するとプラグ105とシートリング106との隙間を通って流体が流出口113側へ流れ込むようになっている。上記の内弁とは、プラグ105とシートリング106のことである。内弁の損傷を検知するためには、弁閉時に漏洩検査やステム角度検査を実施する必要があるが、運転中に全閉にならない場合は検査を実施することができない。
【0006】
石油化学プラントなどでは多数のバルブが使用される。例えば図12の例では、バルブ100-A,100-Mが流路114-1に配設され、バルブ100-Cが流路114-3に配設されている。115-A,115-C,115-Mは流量計測器、116はタンク、117は圧力発信器である。このように、多数のバルブが使用されているプラントなどでは、安全性、作業効率の更なる向上が求められている。特に安全管理は迅速性が重要であり、よりリアルタイムに近いバルブの不具合検知へとニーズも変化しており、改善が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2019-046029号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、バルブの内弁損傷の可能性があるか否かをプラントの運転中にリアルタイムに近い状態で判断して、バルブのメンテナンスの作業効率を向上させることができるバルブメンテナンス支援装置および方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のバルブメンテナンス支援装置は、バルブに与えられた開度指令値のデータとデータの送信元のバルブのIDとを対応付けて記憶するように構成された第1の記憶部と、バルブの実開度値のデータとデータの送信元のバルブのIDとを対応付けて記憶するように構成された第2の記憶部と、バルブのポジショナから操作器に供給される操作器空気の圧力計測値のデータとデータの送信元のバルブのIDとを対応付けて記憶するように構成された第3の記憶部と、前記開度指令値と前記実開度値のデータに基づいて、バルブが予め規定された基準開度で整定しているか否かを判定するように構成された整定判定部と、前記基準開度で整定状態と判定されたバルブの整定時の前記圧力計測値と予め規定された基準圧力値とに閾値以上の差異がある場合に、当該バルブの内弁の損傷が有り得ると判定するように構成された損傷判定部と、内弁の損傷が有り得ると判定されたバルブのIDを提示するように構成された判定結果提示部とを備えることを特徴とするものである。
【0010】
また、本発明のバルブメンテナンス支援装置の1構成例は、前記基準開度で整定状態と判定されたバルブについて、前記基準開度における前記基準圧力値が登録されていない場合に、当該バルブの整定時の前記圧力計測値を前記基準圧力値として登録するように構成された基準圧力登録部をさらに備えることを特徴とするものである。
また、本発明のバルブメンテナンス支援装置の1構成例において、前記基準圧力登録部は、バルブの累積作動時間が所定時間以下の時期に前記基準圧力値の登録を行うことを特徴とするものである。
また、本発明のバルブメンテナンス支援装置の1構成例は、内弁損傷の診断時にバルブが前記基準開度で整定状態となるように、前記基準開度の値を前記開度指令値として対象のバルブに与えるように構成された開度指令部をさらに備えることを特徴とするものである。
また、本発明のバルブメンテナンス支援装置の1構成例において、前記損傷判定部は、正常時よりも流体反力を大きめに受ける状況での操作器空気圧力の変化が生じる傾向の場合に、内弁の損傷が発生している確率が高いと判定することを特徴とするものである。
【0011】
また、本発明のバルブメンテナンス支援方法は、バルブに与えられた開度指令値のデータとデータの送信元のバルブのIDとを対応付けて記憶する第1のステップと、バルブの実開度値のデータとデータの送信元のバルブのIDとを対応付けて記憶する第2のステップと、バルブのポジショナから操作器に供給される操作器空気の圧力計測値のデータとデータの送信元のバルブのIDとを対応付けて記憶する第3のステップと、前記開度指令値と前記実開度値のデータに基づいて、バルブが予め規定された基準開度で整定しているか否かを判定する第4のステップと、前記基準開度で整定状態と判定したバルブの整定時の前記圧力計測値と予め規定された基準圧力値とに閾値以上の差異がある場合に、当該バルブの内弁の損傷が有り得ると判定する第5のステップと、内弁の損傷が有り得ると判定したバルブのIDを提示する第6のステップとを含むことを特徴とするものである。
【0012】
また、本発明のバルブメンテナンス支援方法の1構成例は、前記基準開度で整定状態と判定したバルブについて、前記基準開度における前記基準圧力値が登録されていない場合に、当該バルブの整定時の前記圧力計測値を前記基準圧力値として登録する第7のステップをさらに含むことを特徴とするものである。
また、本発明のバルブメンテナンス支援方法の1構成例において、前記第7のステップは、バルブの累積作動時間が所定時間以下の時期に前記基準圧力値の登録を行うことを特徴とするものである。
また、本発明のバルブメンテナンス支援方法の1構成例は、内弁損傷の診断時にバルブが前記基準開度で整定状態となるように、前記基準開度の値を前記開度指令値として対象のバルブに与える第8のステップをさらに含むことを特徴とするものである。
また、本発明のバルブメンテナンス支援方法の1構成例において、前記第5のステップは、正常時よりも流体反力を大きめに受ける状況での操作器空気圧力の変化が生じる傾向の場合に、内弁の損傷が発生している確率が高いと判定することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、第1の記憶部と第2の記憶部と第3の記憶部と整定判定部と損傷判定部と判定結果提示部とを設けることにより、プラントの運転中にバルブの内弁の損傷が有り得るかどうかを判定することができるので、よりリアルタイムに近いバルブの不具合検知を実現することができ、作業担当者がメンテナンス候補のバルブを選定する作業を支援することができる。その結果、本発明では、バルブのメンテナンスの作業効率を向上させることができる。
【0014】
また、本発明では、基準圧力登録部を設けることにより、基準圧力値を自動的に登録することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、本発明の第1の実施例に係るバルブメンテナンス支援装置の構成を示すブロック図である。
図2図2は、本発明の第1の実施例に係るバルブメンテナンス支援装置の動作を説明するフローチャートである。
図3図3は、本発明の第1の実施例に係るバルブメンテナンス支援装置の動作を説明するフローチャートである。
図4図4は、運転開始初期時の正常なバルブの動作のシミュレーション結果を示す図である。
図5図5は、稼動中に内弁損傷が発生したバルブの動作のシミュレーション結果を示す図である。
図6図6は、本発明の第2の実施例に係るバルブメンテナンス支援装置の構成を示すブロック図である。
図7図7は、本発明の第2の実施例に係る開度指令部の動作を説明するフローチャートである。
図8図8は、本発明の第3の実施例に係るプラントとその機器管理システムの構成を示す図である。
図9図9は、本発明の第1~第3の実施例に係るバルブメンテナンス支援装置を実現するコンピュータの構成例を示すブロック図である。
図10図10は、バルブの1例を示す図である。
図11図11は、バルブの内弁部分の構造を示す図である。
図12図12は、プラントのタンクに使用される複数のバルブの例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[発明の原理]
発明者は、内弁の損傷が流体制御の状態に影響を及ぼす現象であることに着眼した。そして、操作器空気圧力を利用することで、運転中における内弁損傷の有無を判断することができることを突き止めた。
【0017】
制御中の内弁には、一次圧力が開度ごとに加わっている。設定開度を保つために、バルブのポジショナは操作器の空気圧力をコントロールしている。内弁の損傷が起きると、内弁一次側に加わる圧力にも変化が及び、同じ開度においても、操作器空気圧力の変化が生じる。そこで、特定の開度での操作器空気圧力の再現性を内弁損傷の診断指標とすることに想到した。これにより、バルブメンテナンスの作業効率を改善できる。
なお、本発明は、シートリングに対してプラグが直角に上下動する直動弁に特に有効である。
【0018】
[第1の実施例]
以下、本発明の実施例について図面を参照して説明する。図1は本発明の第1の実施例に係るバルブメンテナンス支援装置の構成を示すブロック図である。以下の実施例では、説明を簡潔にするため、バルブのID(識別情報)の事例などは、実際のプラントで利用されるものよりも単純なものとする。
【0019】
バルブメンテナンス支援装置は、メンテナンスの候補となり得る複数のバルブのIDを予め記憶するバルブID記憶部1と、バルブに与えられた開度指令値とバルブの実開度値とを取得する開度取得部2と、開度指令値のデータとデータの送信元のバルブのIDとを対応付けて記憶する開度指令値記憶部3(第1の記憶部)と、実開度値のデータとデータの送信元のバルブのIDとを対応付けて記憶する開度計測値記憶部4(第2の記憶部)と、バルブの操作器に供給される操作器空気の圧力計測値を取得する圧力取得部5と、圧力計測値のデータとデータの送信元のバルブのIDとを対応付けて記憶する圧力計測値記憶部6(第3の記憶部)とを備えている。
【0020】
さらに、本実施例のバルブメンテナンス支援装置は、開度指令値と実開度値のデータに基づいて、バルブが予め規定された基準開度で略整定しているか否かを判定する整定判定部7と、基準開度で略整定状態と判定されたバルブについて、基準開度における基準圧力値が登録されていない場合に、当該バルブの整定時の圧力計測値を基準圧力値として登録する基準圧力登録部8と、基準開度で略整定状態と判定されたバルブの整定時の圧力計測値と予め規定された基準圧力値とに閾値以上の差異がある場合に、当該バルブの内弁の損傷が有り得ると判定する損傷判定部9と、内弁の損傷が有り得ると判定されたバルブのIDを提示する判定結果提示部10とを備えている。
【0021】
図2図3は本実施例のバルブメンテナンス支援装置の動作を説明するフローチャートである。本実施例では、例えばプラント内にバルブが26個あるとして、これら26個のバルブにそれぞれ“A”,“B”,“C”,・・・,“M”,・・・,“X”,“Y”,“Z”という固有のIDが予め割り当てられているものとする。本実施例では、特にバルブID“A”,“C”,“M”のバルブが特定の定期プラントメンテナンスにおいて最優先のメンテナンス対象として選定されているバルブで、このID“A”,“C”,“M”がバルブID記憶部1に予め記憶されているものとする。
【0022】
各バルブに使用されているポジショナ(図10の102)は、上位装置から与えられる開度指令値SP(ステム位置指令値)とバルブの実開度値PV(ステム位置計測値)との差に応じた空気圧を操作器(図10の103)へ供給する。
【0023】
開度取得部2は、バルブID記憶部1にバルブIDが登録されているバルブについて、各バルブのポジショナから開度指令値SPと実開度値PVのデータを取得する(図2ステップS100)。
【0024】
開度取得部2は、開度指令値SPのデータとデータの送信元のバルブのIDとデータの受信時刻の情報とを対応付けて開度指令値記憶部3に格納する(図2ステップS101)。また、開度取得部2は、実開度値PVのデータとデータの送信元のバルブのIDとデータの受信時刻の情報とを対応付けて開度計測値記憶部4に格納する(図2ステップS102)。
【0025】
一方、圧力取得部5は、バルブID記憶部1にバルブIDが登録されているバルブについて、各バルブのポジショナから操作器に供給される操作器空気の圧力計測値MVを取得する(図2ステップS103)。操作器空気の圧力は、ポジショナに内蔵された圧力センサによって計測される。
圧力取得部5は、圧力計測値MVのデータとデータの送信元のバルブのIDとデータの受信時刻の情報とを対応付けて圧力計測値記憶部6に格納する(図2ステップS104)。
【0026】
バルブのIDは、バルブのポジショナが開度指令値SPと実開度値PVと圧力計測値MVのデータに付加して送信したバルブIDを開度取得部2と圧力取得部5で取得すればよい。時刻の情報は、バルブのポジショナ側で付加してもよいし、開度取得部2と圧力取得部5が付加してもよい。
【0027】
こうして、ステップS100~S104の処理を繰り返すことにより、開度指令値SPと実開度値PV、圧力計測値MVのそれぞれの時系列データが開度指令値記憶部3、開度計測値記憶部4、圧力計測値記憶部6に蓄積される。
【0028】
次に、整定判定部7は、バルブID記憶部1にバルブIDが登録されているバルブが、予め規定された基準開度Orefで略整定しているか否かを判定する(図3ステップS105)。具体的には、整定判定部7は、予め規定された基準開度Orefに対して開度指令値SPと実開度値PVの両方がOref±TH(THは閾値)の範囲内に規定時間以上継続して留まっている場合に、略整定状態と判定すればよい。
【0029】
上記のとおり、開度指令値SPと実開度値PVにはそれぞれバルブIDと時刻の情報とが付加されているので、バルブID記憶部1にバルブIDが登録されているバルブについて、同一時刻の開度指令値SPと実開度値PVを開度指令値記憶部3と開度計測値記憶部4から取得することが可能である。
【0030】
基準開度Orefについては、作業担当者(オペレータ)が出現頻度の高い開度を選定して基準開度Orefとして予め設定しておけばよい。また、整定判定部7は、例えば出現頻度が予め規定された出現頻度閾値以上である開度指令値SPを基準開度Orefとして自動的に選定してもよい。基準開度Orefは、各バルブに共通の値でもよいし、各バルブ毎に設定される値でもよい。
【0031】
基準圧力登録部8は、基準開度Orefで略整定状態と判定されたバルブについて、基準開度Orefにおける基準圧力値Prefが登録されていない初期状態の場合(図3ステップS106においてYES)、略整定時の圧力計測値MVを当該バルブの基準圧力値Prefとして登録する(図3ステップS107)。
【0032】
上記のとおり、開度指令値SPと実開度値PVと圧力計測値MVにはそれぞれバルブIDと時刻の情報とが付加されているので、基準開度Orefで略整定状態と判定されたバルブの略整定時の圧力計測値MVを圧力計測値記憶部6から取得することが可能である。
【0033】
基準圧力値Prefは、バルブ毎に登録が必要となる。また、基準圧力値Prefの登録は、バルブが正常なときに行うことが好ましいため、バルブの累積作動時間が少ない運転開始初期時、例えば累積作動時間が所定時間以下の時期に行うことが好ましい。バルブの累積作動時間の情報は、ポジショナから取得することができる。
こうして、バルブの運転開始初期時に基準圧力値Prefが基準圧力登録部8に自動的に記憶される。
【0034】
損傷判定部9は、基準開度Orefで略整定状態と判定されたバルブについて、基準開度Orefにおける基準圧力値Prefが登録済みの稼働状態の場合(ステップS106においてNO)、当該バルブの略整定時の圧力計測値MVと当該バルブの基準開度Orefに対応する基準圧力値Prefとを比較して、予め規定された圧力閾値PTH以上の差異がある場合に(図3ステップS108においてYES)、当該バルブの内弁の損傷が有り得ると判定する(図3ステップS109)。
【0035】
具体的には、損傷判定部9は、略整定時の圧力計測値MVと基準圧力値Prefとの差の絶対値|MV-Pref|が圧力閾値PTH以上の場合に、バルブの内弁の損傷が有り得ると判定する。本実施例では、正常時(略整定時の圧力計測値MVが基準圧力値Prefになる状況)よりも流体反力を大きめに受ける状況での操作器空気の圧力の変化が生じる傾向の場合に、特に内弁の損傷が発生している確率が高いものとして処理する。
【0036】
判定結果提示部10は、バルブID記憶部1にバルブIDが登録されているバルブのうち、内弁の損傷が有り得ると判定されたバルブのバルブIDを作業担当者に対して提示する(図3ステップS110)。この提示される情報が、実質的に診断指標として活用されることになる。
【0037】
ただし、判定結果提示部10は、バルブID記憶部1にバルブIDが登録されている全てのバルブについて、「損傷が有り得る」、「損傷の可能性が低い」のいずれかの情報を提示(表示)するようにしてもよい。この場合、作業担当者(オペレータ)は、内弁損傷の判定を行った結果として損傷の可能性が低いと判定されたバルブについても、バルブIDを確認できる。
【0038】
こうして、図3のステップS105~S110の処理が定期的に行われる。次に、ステップS108で説明した処理によって内弁損傷の可能性有りと判定できる理由について説明する。
【0039】
バルブのプラグにエロージョンが発生すると、接液面積が広がるので、特定の開度において正常時よりも流体反力(バルブを開く方向に作用する力)を大きめに受け易くなる。したがって、バルブを閉じるために操作器空気圧力を利用するタイプのバルブであれば、バルブを閉じるために必要な操作器空気圧力が増加するし、バルブを開くために操作器空気圧力を利用するタイプのバルブであれば、バルブを開くために必要な操作器空気圧力が減少する。
【0040】
また、バルブのシートリングのエロージョンが発生すると、ポート径が広がるので、やはり特定の開度において正常時よりも流体反力(バルブを開く方向に作用する力)を大きめに受け易くなる。したがって、バルブを閉じるために操作器空気圧力を利用するタイプのバルブであれば、バルブを閉じるために必要な操作器空気圧力が増加するし、バルブを開くために操作器空気圧力を利用するタイプのバルブであれば、バルブを開くために必要な操作器空気圧力が減少する。
【0041】
このように、内弁の損傷であるプラグあるいはシートリングのエロージョンについては、正常時(略整定時の圧力計測値MVが基準圧力値Prefになる状況)よりも流体反力を大きめに受ける状況での操作器空気圧力の変化が生じる傾向の場合に、内弁損傷が発生している確率が高いものと判定するのが好ましいことになる。
【0042】
なお、上記の説明では、基準開度Orefが1つの例で説明しているが、複数の基準開度Orefを設定してもよい。この場合には、基準開度Oref毎およびバルブ毎に基準圧力値Prefを登録することになる。また、基準開度Oref毎に圧力閾値PTHを設定してもよい。
【0043】
略整定時の圧力計測値MVと基準圧力値Prefとの比較を複数の基準開度Orefについて行った結果として、|MV-Pref|≧PTHの結果が1回でも発生すれば、内弁の損傷が有り得ると判定すればよい。この場合には、安全性を重視して判定結果を出力することになる。また、複数の基準開度Orefを設定する別の例として、より複雑な判定アルゴリズムを適宜採用してもよい。
【0044】
図4は累積作動時間が少ない運転開始初期時の正常なバルブの動作のシミュレーション結果を示す図、図5は基準圧力値Pref登録後の稼動中に内弁損傷が発生したバルブの動作のシミュレーション結果を示す図である。
【0045】
ここでは、バルブを閉じるために操作器空気圧力を利用するタイプのバルブであると仮定する。図4図5の例では、圧力値を正規化して単位を%としている。また、図4図5の例では、基準開度Orefとして、40%、50%、60%の3つの値が予め規定されているものとする。
【0046】
図4の例では、時刻100sec.付近において基準開度Oref=50%で略整定状態となったときの圧力計測値MVが16.0%、時刻400sec.付近において基準開度Oref=60%で略整定状態となったときの圧力計測値MVが21.0%、時刻700sec.付近において基準開度Oref=40%で略整定状態となったときの圧力計測値MVが11.0%である。
【0047】
したがって、基準圧力登録部8は、基準開度Oref=50%に対応する基準圧力値Prefを16.0%と登録し、基準開度Oref=60%に対応する基準圧力値Prefを21.0%と登録し、基準開度Oref=40%に対応する基準圧力値Prefを11.0%と登録する。
【0048】
図5の例では、時刻100sec.付近において基準開度Oref=50%で略整定状態となったときの圧力計測値MVが17.5%、時刻400sec.付近において基準開度Oref=60%で略整定状態となったときの圧力計測値MVが22.5%、時刻700sec.付近において基準開度Oref=40%で略整定状態となったときの圧力計測値MVが12.5%である。
【0049】
基準開度Oref=50%,60%,40%のいずれの略整定状態でも、基準圧力値Pref=16.0%,21.0%,11.0%に対して圧力計測値MVが増加している。圧力閾値PTHを1.0%とすると、基準開度Oref=50%,60%,40%のいずれの略整定状態でも、|MV-Pref|≧PTHが成立するため、損傷判定部9は、内弁の損傷が有り得ると判定する。
【0050】
以上のように、本実施例では、プラントの運転中にバルブの内弁の損傷が有り得るかどうかを判定するので、よりリアルタイムに近いバルブの不具合検知を実現することができ、作業担当者がメンテナンス候補のバルブを選定する作業を支援することができる。本実施例の技術では、一義的に内弁損傷と断定することができないため、他の診断技術との組み合わせでメンテナンス候補のバルブを選定することが好ましい。
【0051】
[第2の実施例]
次に、本発明の第2の実施例について説明する。第1の実施例では、バルブID記憶部1にバルブIDが登録されているバルブが、プラントの運転中に基準開度Orefで略整定状態となったときに内弁損傷の診断を行うが、対象のバルブが基準開度Orefで略整定状態となるように、基準開度Orefの値を開度指令値として対象のバルブに与えるようにしてもよい。
【0052】
図6は本発明の第2の実施例に係るバルブメンテナンス支援装置の構成を示すブロック図である。本実施例のバルブメンテナンス支援装置は、第1の実施例の構成に開度指令部11を追加したものである。
【0053】
図7は開度指令部11を動作を説明するフローチャートである。作業担当者は、プラントの運転中に特定のバルブを基準開度Orefに設定しても問題ないと判断できる状況においてバルブメンテナンス支援装置に対して内弁損傷の診断を指示する。
【0054】
バルブメンテナンス支援装置の開度指令部11は、作業担当者から内弁損傷の診断の指示があったときに(図7ステップS200においてYES)、作業担当者から指定されたバルブについて整定判定部7に設定されている基準開度Orefのうち作業担当者から指定された値を、開度指令値SPとして当該バルブのポジショナに与える(図7ステップS201)。こうして、診断対象のバルブを基準開度Orefで整定させることが可能になる。
【0055】
作業担当者は判定結果提示部10によって判定結果が提示された後に、バルブメンテナンス支援装置に対して診断終了を指示する。
開度指令部11は、診断終了の指示があったときに(図7ステップS202においてYES)、診断開始直前に診断対象のバルブに与えられていた元の開度指令値SPに戻すように、当該バルブのポジショナに指示を与える(図7ステップS203)。診断開始直前に診断対象のバルブに与えられていた開度指令値SPは、開度指令値記憶部3から取得可能である。
【0056】
こうして、本実施例では、基準開度Orefに設定しても問題ない時期という制約はあるものの、その制約を満たす任意の時期に内弁損傷の診断を実施することができる。
【0057】
[第3の実施例]
次に、本発明の第3の実施例について説明する。本実施例は、第1、第2の実施例の実装例を説明するものである。図8はプラントとその機器管理システムの構成を示す図であり、図12と同一の構成には同一の符号を付してある。
【0058】
石油、化学系のプラントの機器管理システムには、プラントの各機器を制御・管理する管理装置12が設けられている。第1の実施例で説明したバルブID記憶部1と開度取得部2と開度指令値記憶部3と開度計測値記憶部4と圧力取得部5と圧力計測値記憶部6については、プラント固有の膨大な情報を扱うので、管理装置12に実装されることが好ましい。
【0059】
一方、整定判定部7と基準圧力登録部8と損傷判定部9と判定結果提示部10と開度指令部11とは、原則的にバルブのメンテナンス要否判断時のみ必要な処理を提供するものである。また、メンテナンス実施者(メンテナンス受託企業の作業担当者)は、プラントオーナ企業から委託されてプラントのメンテナンスを実施するのが一般的である。したがって、不特定多数のプラントを対象にすることを想定して、メンテナンス受託企業の作業担当者(オペレータ)が持ち歩く携帯型のコンピュータ13に、整定判定部7と基準圧力登録部8と損傷判定部9と判定結果提示部10と開度指令部11とを実装することが好ましい。
【0060】
プラントの管理装置12とコンピュータ13とは、メンテナンス作業実施時にイーサネット(登録商標)などの通信機能を利用して一時的に接続される。
オペレータがコンピュータ13上のアプリケーションソフトウエアを起動すると、コンピュータ13のCPU(Central Processing Unit)は、メモリに格納されたプログラムに従って処理を実行し、整定判定部7と基準圧力登録部8と損傷判定部9と判定結果提示部10と開度指令部11としての機能を実現する。
【0061】
判定結果提示部10は、管理装置12上のバルブID記憶部1からバルブIDを読み込むと共に、損傷判定部9の判定結果を読み込み、内弁の損傷が有り得ると判定されたバルブのIDをコンピュータ13のディスプレイに表示する(図3ステップS110)。
【0062】
オペレータは、表示されたバルブIDに基づき、特に内弁の状態維持の点検に留意すべきバルブを確認する。オペレータは、表示された事項を確認した後で、コンピュータ13と管理装置12との接続を解除する。
こうして、第1、第2の実施例で説明したバルブメンテナンス支援装置を実際のプラントに適用することができる。
【0063】
第1~第3の実施例で説明したバルブメンテナンス支援装置は、CPU、記憶装置及びインタフェースを備えたコンピュータと、これらのハードウェア資源を制御するプログラムによって実現することができる。このコンピュータの構成例を図9に示す。コンピュータは、CPU300と、記憶装置301と、インタフェース装置(I/F)302とを備えている。I/F302には、例えばバルブ、管理装置、ディスプレイ等が接続される。このようなコンピュータにおいて、本発明のバルブメンテナンス支援方法を実現させるためのプログラムは記憶装置301に格納される。CPU300は、記憶装置301に格納されたプログラムに従って第1~第3の実施例で説明した処理を実行する。
【0064】
なお、第3の実施例に示したようにバルブメンテナンス支援装置を管理装置12とコンピュータ13に分けて実装する場合には、これらの各々を図9のような構成で実現すればよい。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明は、バルブメンテナンス作業を支援する技術に適用することができる。
【符号の説明】
【0066】
1…バルブID記憶部、2…開度取得部、3…開度指令値記憶部、4…開度計測値記憶部、5…圧力取得部、6…圧力計測値記憶部、7…整定判定部、8…基準圧力登録部、9…損傷判定部、10…判定結果提示部、11…開度指令部、12…管理装置、13…コンピュータ。
図1
図2
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