(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023043326
(43)【公開日】2023-03-29
(54)【発明の名称】姿勢矯正具及びその装着方法
(51)【国際特許分類】
A61F 5/01 20060101AFI20230322BHJP
【FI】
A61F5/01 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021150870
(22)【出願日】2021-09-16
(71)【出願人】
【識別番号】501061319
【氏名又は名称】学校法人 東洋大学
(74)【代理人】
【識別番号】100091904
【弁理士】
【氏名又は名称】成瀬 重雄
(72)【発明者】
【氏名】勝平 純司
【テーマコード(参考)】
4C098
【Fターム(参考)】
4C098AA02
4C098BB04
4C098BB05
4C098BC03
4C098BC11
4C098BC17
(57)【要約】
【課題】使用者の身体への負荷が少なく、しかも有効な姿勢矯正を行うことができる技術を提供する
【解決手段】固定部3は、上体用ウエア部1の胸部と、両腋の下部分と、パンツ部2の背面部とにそれぞれ配置されている。これによって、これらの部分を通過するように弾性部材を装着して、緊張状態で保持することができるようになっている。この姿勢矯正具100は、腋下部と仙骨部を結ぶ広背筋の走行に沿って弾性部材200を配置することで、その筋の機能を補助する。また、仙骨部と大腿骨背面部とを結ぶ大殿筋の走行に沿って弾性部材200を配置することでその筋の機能を補助しつつ、骨盤前傾を促す。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
姿勢矯正具であって、腋下部と仙骨部を結ぶ広背筋の走行に沿って弾性部材を配置することで、その筋の機能を補助し、
且つ
前記仙骨部と大腿骨背面部とを結ぶ大殿筋の走行に沿って弾性部材を配置することでその筋の機能を補助しつつ、骨盤前傾を促すことを特徴とする姿勢矯正具。
【請求項2】
前記弾性部材が胸骨部前面を通り、胸郭に直接回転力を与えて体幹伸展を促すことを特徴とする、請求項1に記載の姿勢矯正具。
【請求項3】
使用者の上体に着用される上体用ウエア部と、前記使用者の下肢に着用されるパンツ部と、長尺の弾性部材を保持してその位置決めを行う固定部とを備えており、
前記固定部は、前記上体用ウエア部の胸部と、両腋の下部分と、前記パンツ部の背面部とにそれぞれ配置されており、これによって、これらの部分を通過するように前記弾性部材を装着して、緊張状態で保持することができるようになっている
姿勢矯正具。
【請求項4】
前記胸部における前記固定部は、前記上体用ウエア部の着用状態において、前記使用者の第10胸椎となる位置またはそれより高い位置に配置されている
請求項3に記載の姿勢矯正具。
【請求項5】
前記背面部における前記固定部は、前記パンツ部の着用状態において、前記使用者の第1又は第2仙骨の付近となる位置に配置されている
請求項3又は4に記載の姿勢矯正具。
【請求項6】
前記固定部は、センサ部を備えており、
前記センサ部は、前記弾性部材からの押圧力又は前記固定部自体の傾斜を検出する構成となっている
請求項3~5のいずれか1項に記載の姿勢矯正具。
【請求項7】
前記上体用ウエア部と前記パンツ部とは連結されている
請求項3~6のいずれか1項に記載の姿勢矯正具。
【請求項8】
前記パンツ部の固定部に前記弾性部材の中間部分が取り付けられており、かつ、前記弾性部材の自由端は移動可能となっており、
前記自由端を保持して、前記両腋の下及び前記胸部を通過させることにより、前記弾性部材を前記前記両腋の下及び前記胸部における前記固定部に装着できるようになっている
請求項3~7のいずれか1項に記載の姿勢矯正具。
【請求項9】
前記固定部は、さらに、前記パンツ部の両側部であって、前記パンツ部の着用時に前記使用者の大転子の付近となる位置に配置されており、これによって、前記両側部を通過するように前記弾性部材を装着して、緊張状態で保持することができるようになっている
請求項3~8のいずれか1項に記載の姿勢矯正具。
【請求項10】
請求項3~8のいずれか1項に記載の姿勢矯正具の装着方法であって、
前記上体用ウエア部を前記使用者の上体に着用する工程と、
前記パンツ部を前記使用者の下肢に着用する工程と、
前記上体用ウエア部の胸部と、前記両腋の下部分と、前記パンツ部の背面部とにそれぞれ配置された前記固定部を通過するように、前記長尺の弾性部材を装着して、緊張状態で保持する工程と
を備える装着方法。
【請求項11】
使用者の上体に着用される上体用ウエア部と、前記使用者の下肢に着用されるパンツ部と、弾性部とを備えており、
前記上体用ウエア部と前記パンツ部とは連結されており、
前記弾性部は、前記上体用ウエア部の両腋の下部分から、前記パンツ部の背面部を通過するように配置されている
姿勢矯正具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、姿勢矯正具及びその装着方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、姿勢矯正の一手法として、アームホールを有するベスト型の姿勢矯正具が知られている(下記特許文献1~4参照)。これによれば、使用者がアームホールに両腕を通すことで背部に弾性帯を配置することができ、これによって、肩甲骨の位置を修正して姿勢を矯正できる。
【0003】
しかしながら、このような技術の場合、アームホールによって使用者の上腕の付け根が常に圧迫されることになり、腕の痛みを生じることがある。あるいは、リンパ液の滞留によって腕がむくむことがあった。
【0004】
また、下記特許文献5には、胸部に抗力を与えることで上半身重心に生じる力の方向を変化させて、腹部深部筋の活動を促しつつ脊柱起立筋の活動を軽減する技術が記載されている。
【0005】
しかしながらこの技術では、体幹の伸展に寄与する脊柱起立筋群の補助を行うことはできるが、体幹と骨盤の回旋が伴うような動作では十分な補助力を発揮することができない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2021-083864号公報
【特許文献2】実登3231097号公報
【特許文献3】特開2021-029747号公報
【特許文献4】実登3229268号公報
【特許文献5】国際公開2014-054097号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者の知見によれば、体幹の後面に位置する広背筋は、胸腰筋膜を介して骨盤にも作用する。広背筋の役割は歩行時にスムーズな体幹の回旋を行うことや,体幹の伸展にも寄与しており、その機能の改善は腰痛の軽減にもつながる。また、筋の走行を考えると、対側の大殿筋と連動してはたらくと考えられ、広背筋の機能の促通は下肢にも良い影響をもたらす。したがって、広背筋と大殿筋が対角線上で連動してはたらくという作用を補助することにより、使用者の姿勢矯正を有効に行うことができる。これに対して、従来の姿勢矯正具では、広背筋や大殿筋の補助として有効な機能を発揮できていない。
【0008】
本発明は、このような知見に基づいてなされたものである。本発明の主な目的は、使用者の身体への負荷が少なく、しかも有効な姿勢矯正を行うことができる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記した課題を解決する手段は、以下の項目のように記載できる。
【0010】
(項目1)
姿勢矯正具であって、腋下部と仙骨部を結ぶ広背筋の走行に沿って弾性部材を配置することで、その筋の機能を補助し、且つ、前記仙骨部と大腿骨背面部とを結ぶ大殿筋の走行に沿って弾性部材を配置することでその筋の機能を補助しつつ、骨盤前傾を促すことを特徴とする姿勢矯正具。
【0011】
(項目2)
前記弾性部材が胸骨部前面を通り、胸郭に直接回転力を与えて体幹伸展を促すことを特徴とする、項目1に記載の姿勢矯正具。
【0012】
(項目3)
使用者の上体に着用される上体用ウエア部と、前記使用者の下肢に着用されるパンツ部と、長尺の弾性部材を保持してその位置決めを行う固定部とを備えており、前記固定部は、前記上体用ウエア部の胸部と、両腋の下部分と、前記パンツ部の背面部とにそれぞれ配置されており、これによって、これらの部分を通過するように前記弾性部材を装着して、緊張状態で保持することができるようになっている姿勢矯正具。
【0013】
姿勢矯正具を着用後、固定部を利用して弾性部材を姿勢矯正具に取り付けることにより、項目1に記載した弾性部材の配置を簡便に実現することができる。
【0014】
(項目4)
前記胸部における前記固定部は、前記上体用ウエア部の着用状態において、前記使用者の第10胸椎となる位置またはそれより高い位置に配置されている、項目3に記載の姿勢矯正具。
【0015】
胸部における固定部の位置を使用者の第10胸椎となる位置またはそれより高い位置とすることにより、胸部における弾性部材の位置を、使用者の上半身における重心の位置よりも上とすることができる。これにより、体幹伸展トルクを効果的に使用者の身体に作用させることができる。
【0016】
(項目5)
前記背面部における前記固定部は、前記パンツ部の着用状態において、前記使用者の第1又は第2仙骨の付近となる位置に配置されている、項目3又は4に記載の姿勢矯正具。
【0017】
背面部における固定部の位置を、使用者の第1又は第2仙骨の付近となる位置とすることにより、背面部における弾性部材の位置を、使用者の腰部の関節中心より下とすることができる。これにより、骨盤前傾トルクを効果的に使用者の身体に作用させることができる。
【0018】
(項目6)
前記固定部は、センサ部を備えており、前記センサ部は、前記弾性部材からの押圧力又は前記固定部自体の傾斜を検出する構成となっている、項目3~5のいずれか1項に記載の姿勢矯正具。
【0019】
センサ部を用いることにより、使用者に作用する弾性部材の引っ張り力、あるいは用いる弾性部材の硬さなどを調整することができる。
【0020】
(項目7)
前記上体用ウエア部と前記パンツ部とは連結されている、項目3~6のいずれか1項に記載の姿勢矯正具。
【0021】
(項目8)
前記パンツ部の固定部に前記弾性部材の中間部分が取り付けられており、かつ、前記弾性部材の自由端は移動可能となっており、前記自由端を保持して、前記両腋の下及び前記胸部を通過させることにより、前記弾性部材を前記前記両腋の下及び前記胸部における前記固定部に装着できるようになっている、項目3~7のいずれか1項に記載の姿勢矯正具。
【0022】
弾性部材をあらかじめ姿勢矯正具に取り付けておくことにより、使用者における装着の手間の軽減を図ることができる。
【0023】
(項目9)
前記固定部は、さらに、前記パンツ部の両側部であって、前記パンツ部の着用時に前記使用者の大転子の付近となる位置に配置されており、これによって、前記両側部を通過するように前記弾性部材を装着して、緊張状態で保持することができるようになっている、項目3~8のいずれか1項に記載の姿勢矯正具。
【0024】
使用者の大転子となる位置にも固定部を配置することにより、弾性部材のずれ上がりを抑制して、大殿筋への補強効果を高めることができる。
【0025】
(項目10)
項目3~8のいずれか1項に記載の姿勢矯正具の装着方法であって、前記上体用ウエア部を前記使用者の上体に着用する工程と、前記パンツ部を前記使用者の下肢に着用する工程と、前記上体用ウエア部の胸部と、前記両腋の下部分と、前記パンツ部の背面部とにそれぞれ配置された前記固定部を通過するように、前記長尺の弾性部材を装着して、緊張状態で保持する工程とを備える装着方法。
【0026】
(項目11)
使用者の上体に着用される上体用ウエア部と、前記使用者の下肢に着用されるパンツ部と、弾性部とを備えており、前記上体用ウエア部と前記パンツ部とは連結されており、前記弾性部は、前記上体用ウエア部の両腋の下部分から、前記パンツ部の背面部を通過するように配置されている姿勢矯正具。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、アームホールを用いずに広背筋の機能を補助して、姿勢矯正を行うことができるので、使用者の身体への負荷が少ない。また、広背筋と、その対側の位置にある大殿筋とを、弾性部材からの引っ張り力により補助することによって、骨盤前傾を促すことができ、これによって、効果的な姿勢矯正を行うことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本発明の第1実施形態における姿勢矯正具に弾性部材を取り付けた状態を示す概略的な説明図であって、使用者に姿勢矯正具を装着した状態での正面図である。
【
図4】使用者の背面における主要な筋肉の配置状態を説明するための概略的な説明図である。
【
図5】使用者の背面側に作用する力を説明するための概略的な説明図である。
【
図6】使用者の身体に作用するトルクを説明するための概略的な説明図である。
【
図7】本発明の第2実施形態における姿勢矯正具の使用方法を説明するための、使用者の正面図である。
【
図9】本発明の第2実施形態における姿勢矯正具の使用方法を説明するための、使用者の正面図である。
【
図11】本発明の第3実施形態における姿勢矯正具を説明するための、使用者の背面図である。
【
図12】本発明の第4実施形態における姿勢矯正具を説明するための、使用者の一部を省略した側面図である。
【
図13】
図12の姿勢矯正具に用いられるセンサを説明するための説明図である。
【
図14】本発明の第5実施形態における姿勢矯正具を説明するための、使用者の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の第1実施形態に係る姿勢矯正具を、
図1~
図6を参照しながら説明する。
【0030】
(第1実施形態の構成)
本実施形態の姿勢矯正具100は、使用者の上体に着用される上体用ウエア部1と、使用者の下肢に着用されるパンツ部2と、固定部3とから構成されている(
図1参照)。
【0031】
(上体用ウエア部)
上体用ウエア部1は、本実施形態では、半そでのTシャツ状となっているが、これに限らず、長袖であってもよく、また、開襟タイプのシャツであってもよい。上体用ウエア部1としては、比較的に体に密着するタイプのシャツ(いわゆるコンプレッションタイプのシャツ)であると、身体と固定部3との位置関係を正確に設定できるので好ましい。
【0032】
(パンツ部)
パンツ部2は、本実施形態では、ひざ上のショートパンツタイプとなっているが、これに限らず、ひざ下あるいは足首までの長さであってもよい。パンツ部2の股ぐり部には、弾性部材200からの引っ張り力が作用するため、その部分の弾性が低くて丈夫なものが好ましい。
【0033】
(固定部)
固定部3は、長尺の弾性部材200を保持してその位置決めを行うものである。本実施形態の固定部3は、上体用ウエア部1の胸部に配置された固定部3aと、両腋の下部分に配置された固定部3bと、パンツ部2の背面部に配置された固定部3c(
図2参照)とから構成されている。本実施形態では、これらの固定部3によって、使用者の胸部、両腋の下、及び背面部を通過するように弾性部材200を装着して、緊張状態で保持することができるようになっている。固定部3は、フック状となっていて、簡単に弾性部材200を装着できるとともに、装着状態では容易に離脱しないように弾性部材200を保持できるものである。胸部の固定部3aと、両腋下部分の固定部3bは、上側が開口され、背面部の固定部3cは下側が開口するようになっている(後述の
図6参照)。固定部3をカラビナのようなリング状の係止具で構成することもできる。弾性部材200の具体的な装着方法については後述する。
【0034】
使用者の胸部における固定部3aは、上体用ウエア部1の着用状態において、使用者の第10胸椎となる位置またはそれより高い位置に配置されることが好ましい。そのようにすると、使用者の身体に体幹伸展トルク(後述)を付与しやすくなる。
【0035】
使用者の背面部における固定部3bは、パンツ部2の着用状態において、使用者の第1又は第2仙骨の付近となる位置に配置されることが好ましい。そのようにすると、使用者の身体に、骨盤前傾トルク(後述)を付与しやすくなる。
【0036】
(弾性部材)
弾性部材200は、弾力性及び柔軟性を持つ長尺形状とされて、姿勢矯正具1に取り付けられるものである。具体的には、本実施形態の弾性部材としては、弾性力のあるゴム製の帯が用いられている。例えば、本実施形態においては、セラバンド(商品名)を用いることができる。弾性部材の具体的な硬さ(抵抗力又は強度)は、使用者の筋力や体格に応じて適宜に選択することができる。
【0037】
(姿勢矯正具の使用方法)
つぎに、前記した本実施形態の姿勢矯正具100の使用方法について説明する。前提として、初期状態では、弾性部材200は、上体用ウエア部1及びパンツ部2から取り外されているものとする。
【0038】
まず、上体用ウエア部1及びパンツ部2を、
図1に示すように着用する。上体用ウエア部1及びパンツ部2の所定個所には、固定部3が取り付けられているので、この着用によって、固定部3のそれぞれを使用者の身体における所定個所に配置することができる。
【0039】
ついで、使用者は、弾性部材200のほぼ中央部分を、胸部分の固定部3aに取り付け、続いて、弾性部材200を、両腋下部分の固定部3bに取り付ける(
図1参照)。続いて、弾性部材200を、背面部の固定部3cに、弾性部材200が交差するように通し(
図2参照)、その後、弾性部材200の自由端を腰の前方に回す。ついで、弾性部材200の緊張状態を保ったまま、弾性部材200の自由端を結ぶ。結び方としては、緩めやすいような方法(例えば蝶結び)が好ましいが、特に限定されない。また、弾性部材200を各固定部3a~3cに取り付ける手順についても前記に限定されない。要するに、
図1~
図3に示すような状態に弾性部材200を配置できれば良い。
【0040】
(弾性部材の配置)
前記のように弾性部材200を装着することにより、本実施形態の姿勢矯正具100によれば、使用者の腋下部と仙骨部を結ぶ広背筋(
図4参照)の走行に沿って弾性部材を配置することができるので、当該広背筋の機能を補助することができる。また、仙骨部と大腿骨背面部とを結ぶ大殿筋(
図4参照)の走行に沿って弾性部材を配置することができるので、当該大殿筋の機能を補助しつつ、骨盤前傾を促すことができる。
【0041】
また、本実施形態の姿勢矯正具100では、弾性部材200が、使用者の胸骨部前面を通るので、使用者の胸郭に直接回転力を与えて体幹伸展を促すことができる。
【0042】
ここで、本実施形態では、弾性部材200を固定部3により保持しているので、使用者の身体に対する弾性部材200の位置ずれを抑制することができる。
【0043】
(弾性部材の作用)
以下、弾性部材200を姿勢矯正具100に装着した状態における弾性部材200の作用を、
図5をさらに参照しながら説明する。この
図5に示されるように、使用者の腋下部と仙骨部を結ぶ左右の広背筋(
図4参照)の走行に沿って弾性部材を配置すると、左右の広背筋に、体幹左旋回の補助力と、体幹右旋回の補助力とをそれぞれ加えることができ、これによって、当該広背筋の機能を補助することができる。
【0044】
また、仙骨部と大腿骨背面部とを結ぶ左右の大殿筋(
図4参照)の走行に沿って弾性部材200を配置すると、骨盤左旋回の補助力と、骨盤右旋回の補助力とを加えることができ、これによって、当該大殿筋の機能を補助することができる。
【0045】
さらに、仙骨部と大腿骨背面部とを結ぶ左右の大殿筋の走行に沿って弾性部材200を配置することにより、骨盤前傾補助力を加えることができ、骨盤前傾を促すことができる。
【0046】
また、本実施形態の姿勢矯正具100では、弾性部材200が、使用者の胸骨部前面を通るので、使用者の胸郭に直接回転力を与えることができ、
図5に示すように体幹伸展補助力を与えて体幹伸展を促すことができる。
【0047】
骨盤の前傾と体幹の伸展に寄与するトルクについて、
図6をさらに参照しながら説明する。
【0048】
本実施形態の姿勢矯正具100では、張力T1を有する弾性部材200が、使用者の胸骨部前面を通るので、使用者の腰部の関節中心を中心として、体幹伸展トルク(すなわち体幹伸展補助力)を使用者に与えることができる。
【0049】
また、左右の大殿筋の走行に沿って、張力T2を有する弾性部材200を配置することにより、使用者の腰部の関節中心を中心として、骨盤前傾トルク(すなわち骨盤前傾補助力)を使用者に与えることができる。
【0050】
これらの体幹伸展トルク及び骨盤前傾トルクにより、使用者の姿勢を効果的に矯正することができる。
【0051】
ここで、従来の姿勢矯正具では、アームホールにより腕の付け根が圧迫されるので使用感が悪いという問題があった。これに対して、本実施形態の姿勢矯正具においては、前記のように弾性部材200を配置したので、弾性部材200により腕の付け根が圧迫されることはなく、使用感を向上させることができるという利点もある。
【0052】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態に係る姿勢矯正具を、
図7~10を参照しながら説明する。この第2実施形態の説明においては、前記した第1実施形態の姿勢矯正具と基本的に共通する要素については、同一符号を用いることにより、説明を簡潔にする。
【0053】
この第2実施形態では、
図7に示す弾性部材300を追加的に用いる。弾性部材300は、第1実施形態の弾性部材200と同様に、例えばゴム製の弾性帯によって構成されている。
【0054】
第2実施形態においては、弾性部材300のほぼ中間位置を首の後ろ近傍に当て、この状態でその自由端側を、両肩の付け根近傍を通ってパンツ部2の背面部側に位置するように配置し、背面側の固定部3cに取り付ける(
図8参照)。ただし、取付順序はこれに限らず、要するに、
図7及び
図8に示すような取付状態になればよい。なお、
図7及び
図8においては固定部3a及び3bの図示を省略している。
【0055】
ついで、弾性部材200を、第1実施形態で説明したように使用者に取り付ける(
図9及び
図10参照)。このようにすると、使用者の肩の付け根には負荷がかかるものの、使用者への体幹伸展トルクを強め、より高い姿勢矯正効果を得ることができる。
【0056】
第2実施形態の姿勢矯正具における他の構成及び利点は、前記の第1実施形態と基本的に同様なので、これ以上詳しい説明は省略する。
【0057】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態に係る姿勢矯正具を、
図11を参照しながら説明する。この第3実施形態の説明においては、前記した第1実施形態の姿勢矯正具と基本的に共通する要素については、同一符号を用いることにより、説明を簡潔にする。
【0058】
この第3実施形態では、第1実施形態の弾性部材200に代えて、2本の弾性部材400・500が用いられている。これらの弾性部材400・500の材質としては、前記した第1実施形態と同様のものを用いることができる。
【0059】
この第3実施形態においては、まず、弾性部材400・500の中間部分を、パンツ部2の背面側の固定部3cに取り付ける(
図11参照)。ついで、弾性部材400の自由端を前方に回し、
図1に示すように、両腋下の固定部3b及び胸部の固定部3aに順次取り付けて、自由端どうしを結ぶ。さらに、弾性部材500の自由端を、腰の左右部分を通って前方に回し、腰の前方で結ぶ。
【0060】
これにより、第1実施形態と同様に弾性部材400を、使用者の腋下部と仙骨部を結ぶ広背筋の走行に沿って配置して、その筋の機能を補助できる。また、使用者の仙骨部と大腿骨背面部とを結ぶ大殿筋の走行に沿って弾性部材500を配置することでその筋の機能を補助しつつ、骨盤前傾を促すこともできる。
【0061】
第3実施形態の姿勢矯正具においては、例えばパンツ部2にあらかじめ弾性部材400・500を装着した状態で使用者に提供することができる。すると、使用者における弾性部材の取り付け作業を簡易化することが可能になる。
【0062】
第3実施形態における弾性部材400と500の取付順序は前記と異なっていてもよい。要するに、
図1と同様の配置状態となればよい。
【0063】
第3実施形態の姿勢矯正具における他の構成及び利点は、前記の第1実施形態と基本的に同様なので、これ以上詳しい説明は省略する。
【0064】
(第4実施形態)
次に、本発明の第4実施形態に係る姿勢矯正具を、
図12~
図13を参照しながら説明する。この第4実施形態の説明においては、前記した第1実施形態の姿勢矯正具と基本的に共通する要素については、同一符号を用いることにより、説明を簡潔にする。
【0065】
この第4実施形態では、各固定部3がセンサ部4を有している。センサ部4は、弾性部材200からの押圧力、及び、固定部3自体の傾斜を検出するようになっている。具体的には、センサ部4は、
図13に示すジャイロセンサと、圧力センサ(図示せず)とを有している。ジャイロセンサは、角速度(又は角加速度)を検出して、傾斜を測定できるものである。また、圧力センサは、ロードセルや圧電素子などの適宜の検出素子を用いて圧力を検出できるものである。各センサ部4からの信号は、無線通信などの任意の手段により、図示しないコンピュータに入力される。あるいは、所定のアプリを導入したスマートフォンにセンサからの信号を送り、当該アプリにより、作業者に、作業内容などの情報を提示することも可能である。
【0066】
第4実施形態の姿勢矯正具によれば、各センサ部4からの信号に基づいて、弾性部材200の締め付け強度を変化させたり、あるいは、硬さの異なる弾性部材200を選択するなどの調整を行い、より効果的な姿勢矯正を行うことが可能になる。例えば、固定部間で異なる硬さの弾性部材200を用いる、あるいは、長さ方向での位置によって硬さの異なる弾性部材200を用いるなどの手段も可能である。
【0067】
第4実施形態の姿勢矯正具における他の構成及び利点は、前記の第1実施形態と基本的に同様なので、これ以上詳しい説明は省略する。
【0068】
(第5実施形態)
次に、本発明の第5実施形態に係る姿勢矯正具を、
図14~
図16を参照しながら説明する。この第5実施形態の説明においては、前記した第1実施形態の姿勢矯正具と基本的に共通する要素については、同一符号を用いることにより、説明を簡潔にする。
【0069】
この第5実施形態では、パンツ部2の両側部であって、パンツ部2の着用時に使用者の大転子の付近となる位置に、固定部3dがさらに配置されている。この第5実施形態では、固定部3dを用いて、パンツ部2の両側部を通過するように弾性部材200を装着して、この弾性部材200を緊張状態で保持することができるようになっている。固定部3dは、背面側の固定部3cと同様に、下側に開口したフック状となっている。
【0070】
腰部に配置した弾性部材200は、弾性部材200の引っ張り力により上向きの力が生じて、腹部方向にずれ上がる可能性がある。第5実施形態の姿勢矯正具によれば、固定部3dにより、このようなずれ上がりを抑制して、弾性部材200を適正位置に保持することができるという利点がある。
【0071】
第5実施形態の姿勢矯正具における他の構成及び利点は、前記の第1実施形態と基本的に同様なので、これ以上詳しい説明は省略する。
【0072】
なお、本発明の内容は、前記各実施形態に限定されるものではない。本発明は、特許請求の範囲に記載された範囲内において、具体的な構成に対して種々の変更を加えうるものである。
【0073】
例えば、前記した各実施形態では、上体用ウエア部1とパンツ部2とを別体とし、それぞれ着用するものとしているが、上体用ウエア部1とパンツ部2が連結された、いわゆるつなぎ構造あるいはボディスーツ構造であってもよい。
【0074】
また、前記した各実施形態では、姿勢矯正具100と弾性部材とが別体となっており、固定部3を介して弾性部材を姿勢矯正具100に取り付ける構成とした。しかしながら、弾性部材(弾性部)があらかじめ上体用ウエア部1やパンツ部2と一体になっていてもよい。例えば、ゴム製の弾性帯を上体用ウエア部1及びパンツ部2に接着剤等で固定しておく方法、あるいは、上体用ウエア部1及びパンツ部2の伸縮性を部分的に強化することで、同様の機能を発揮させる方法も可能である。これにより、弾性部材(弾性部)が、上体用ウエア部1の両腋の下部分から、パンツ部2の背面部を通過するように配置されている姿勢矯正具とすることができる。
【0075】
さらに、前記した各実施形態では、弾性部材が使用者の胸骨の前面を通るように配置した。しかしながら、例えば、上体用ウエア部1の胸部を、変形しにくい(つまり硬い)生地で構成し、その硬い生地を弾性部材で背面側に引っ張るように構成することで、前記と同様の作用を発揮することも可能である。このように、弾性部材は、必要な機能を発揮できる限り、必ずしも連続的に配置されている必要はない。
【0076】
ただし、体幹伸展トルクを発生させるためには、少なくとも背面側における弾性部材が実質的に連続していることが好ましい。すると、弾性部材(弾性部)を上体用ウエア部1やパンツ部2と一体の構成とする場合は、上体用ウエア部1とパンツ部2とが連結されて一体であることが好ましいと考えられる。この場合、一体とされた上体用ウエア部1及びパンツ部2の前面側又は背面側に、ウエットスーツのような、身長方向に延長された開口部(図示せず)を設け、この開口部を利用して姿勢矯正具の着脱を行うこともできる。この場合、開口部をファスナーで開閉できるようにすることが好ましい。
【0077】
また、使用時において固定部3を使用者が上体用ウエア部1やパンツ部2の所定個所に取り付けることも可能である。この場合は、固定部3の取り付け個所を上体用ウエア部1やパンツ部2に表示しておくことが好ましい。
【符号の説明】
【0078】
1 上体用ウエア部
2 パンツ部
3・3a~3d 固定部
4 センサ部
100 姿勢矯正具
200・300・400・500 弾性部材