(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023004336
(43)【公開日】2023-01-17
(54)【発明の名称】グルコシノレート含有植物粉末、及びグルコシノレート含有植物粉末の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23B 7/02 20060101AFI20230110BHJP
A23L 33/10 20160101ALN20230110BHJP
【FI】
A23B7/02
A23L33/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021105951
(22)【出願日】2021-06-25
(71)【出願人】
【識別番号】000104113
【氏名又は名称】カゴメ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】彈塚 康平
(72)【発明者】
【氏名】円子 美紗
【テーマコード(参考)】
4B018
4B169
【Fターム(参考)】
4B018MD07
4B018MD48
4B018MD90
4B018ME02
4B018ME13
4B018MF06
4B169AA01
4B169AA04
4B169BA01
4B169BA08
4B169HA09
(57)【要約】
【課題】本発明における課題は、グルコシノレート含有量の高いグルコシノレート含有植
物粉末を提供することである。
【解決手段】当該課題の解決手段は、グルコシノレート含有植物粉末の製造方法であって
、それを構成するのは、少なくとも、加熱、並びに乾燥及び粉砕である。加熱工程で加熱
されるのは、グルコシノレート含有植物であり、当該加熱は、水蒸気又は過熱水蒸気によ
り行われる。当該グルコシノレート含有植物は、アブラナ科野菜であることが好ましい。
前記グルコシノレート含有植物のグルコラファニン含有量は、当該グルコシノレート含有
植物1gあたり、1.0mg以上であることが好ましい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
グルコシノレート含有植物粉末の製造方法であって、それを構成するのは、少なくとも
、以下の工程である。:
加熱:ここで加熱されるのは、グルコシノレート含有植物であり、当該加熱は、水蒸気
又は過熱水蒸気により行われ、
乾燥粉砕:ここで乾燥され、かつ、粉砕されるのは、前記加熱されたグルコシノレート
含有植物である。
【請求項2】
請求項1の製造方法であって、それをさらに構成するのは、以下の工程である。:
造粒:ここで造粒されるのは、前記乾燥粉砕されたグルコシノレート含有植物物であり
、当該造粒において用いられるバインダーは、水、又はグルコシノレート含有液体組成物
である。
【請求項3】
請求項1又は2の製造方法であって、前記グルコシノレート含有植物は、
アブラナ科野菜である。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れかの製造方法であって、
前記乾燥の方法は、少なくとも、熱乾燥である。
【請求項5】
請求項2乃至4の何れかの製造方法であって、前記造粒の方法は、流動層造粒である。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れかの製造方法であって、前記粉砕後のグルコシノレート含有植物
粉末の粒子径は、
d10が25μm以下であり、
d50が50μm以下であり、かつ、
d90が130μm以下である。
【請求項7】
請求項2乃至6の何れかの製造方法であって、前記造粒後のグルコシノレート含有植物
粉末の粒子径は、
d10が30μm以上であり、
d50が60μm以上であり、かつ、
d90が100μm以上である。
【請求項8】
グルコシノレート含有植物粉末であって、当該グルコシノレート含有植物粉末が含有す
るのは、少なくとも、グルコラファニンであり、
当該緑色植物グルコシノレート含有植物粉末のグルコラファニン含有量は、当該グルコ
シノレート含有植物粉末1gあたり、5mg以上である。
【請求項9】
請求項8のグルコシノレート含有植物粉末であって、当該グルコシノレート含有植物粉
末におけるミロシナーゼ活性は、1unit/g未満である。
【請求項10】
請求項8又は9のグルコシノレート含有植物粉末であって、当該グルコシノレート含
有植物粉末は、実質的にスルフォラファンを含有しない。
【請求項11】
請求項8乃至10の何れかのグルコシノレート含有植物粉末であって、
当該グルコシノレート含有植物粉末の粒子径は、
d10が30μm以上であり、
d50が60μm以上であり、
d90が100μm以上であり、かつ、
当該グルコシノレート含有植物粉末を水へ分散させたときの粒子径は、
d10が25μm以下であり、
d50が50μm以下であり、かつ、
d90が130μm以下である。
【請求項12】
請求項8乃至11の何れかのグルコシノレート含有植物粉末であって、当該グルコシノ
レート含有植物粉末の色調は、
L値が15以上、かつ25以下であり、
a値が-5.5以上かつ、-3以下であり、
b値が9以上、かつ12以下である。
【請求項13】
請求項8乃至12の何れかのグルコシノレート含有植物粉末であって、当該グルコシノレート含有
植物粉末は、
賦形剤を含有しない。
【請求項14】
請求項8乃至13の何れかのグルコシノレート含有植物粉末であって、前記グルコシノ
レート含有植物は、
アブラナ科野菜である。
【請求項15】
請求項8乃至14の何れかのグルコシノレート含有植物粉末であって、当該グルコシノ
レート含有植物粉末の嵩密度は、
0.3以上である。
【請求項16】
請求項8、並びに10乃至15の何れかのグルコシノレート含有植物粉末であって、当該グルコシノ
レート含有植物粉末が含有するのは、さらに、ミロシナーゼ含有組成物である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明が関係するのは、グルコシノレート含有植物粉末、およびその製造方法である。
【背景技術】
【0002】
近年、健康志向の高まりの下、人々が注目するのは、飲食品の栄養成分、及び機能性成
分である。様々な飲食品がある中で、青汁飲料は手軽に野菜の栄養成分を摂取できるもの
として、広く認知されている。一般に青汁は、大麦若葉やケール等、緑色植物を原料とし
て用いることによりつくられている。これらの原料を飲食に適した形態に加工するため、
これまで種々の検討がなされてきた。
【0003】
一方で、注目されている食品由来の機能性成分の一つは、グルコシノレート(以下、「
GSL」ともいう。)である。GSLを含有するのは、植物であり、例えば、ブロッコリ
ー、キャベツ、ダイコン等のアブラナ科野菜である。GSLの摂取は、がんや肝障害など
の様々な疾病を予防、改善することが知られている。摂取したGSLは、イソチオシアネ
ート(以下、「ITC」ともいう。)に変換され、ITCが活性本体として前述の予防、
改善効果を示す。このグルコシノレートについても、これまで素材化のための種々の検討
がなされてきた。
【0004】
特許文献1に記載されているのは、十字花科植物を含む食品、及び抽出物であり、十字
花科植物の種子を発芽させ一定期間栽培して得た新芽を含む食品が得られている。
【0005】
また、特許文献2に記載されているのは、植物粉末であり、一定の温度、時間により乾
燥し、粉砕することにより、天然の植物素材が得られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表第2000-502245号公報
【特許文献2】特表第2013-544092号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明における課題は、グルコシノレート含有量の高い、グルコシノレート含有植物粉
末を提供することである。従来の青汁等の緑色植物粉末に内在するのは、グルコシノレー
ト含量の低さである。グルコシノレートは、加工工程によって減衰する。さらには、粉末
形態において、分散性を高めるために賦形剤を用いることで、その単位当たりの含有量は
低下する。飲食用として、グルコシノレート含有植物粉末に求められるのは、グルコシノ
レート含量を増加させることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
当該課題を解決するために、本発明者らが鋭意検討し発見したのは、グルコシノレート
含有植物粉末におけるグルコシノレート含有量と、加工工程との関係である。グルコシノ
レート含有植物に含有されるグルコシノレートは、一般に、植物に内在するミロシナーゼ
の影響を受け、加工により減衰する。また、ミロシナーゼを失活するために、加熱等を行
う手段も取りうるが、その失活方法やタイミングによっても、最終製品におけるグルコシ
ノレート含有量が変化する。さらには、グルコシノレート含有植物粉末の分散性を高める
ために一般的な賦形剤を用いると、分散性は高まるが、グルコシノレート含有植物粉末中
のグルコシノレート含有量は低下する。そのような観点から本発明を定義すると、次のと
おりである。
【0009】
グルコシノレート含有植物粉末の製造方法を構成するのは、少なくとも、加熱、並びに
乾燥及び粉砕である。加熱工程で装置によって加熱されるのは、グルコシノレート含有植
物である。当該加熱は、水蒸気又は過熱水蒸気により行われる。当該グルコシノレート含
有植物は、アブラナ科野菜であることが好ましい。前記グルコシノレート含有植物のグル
コラファニン含有量は、当該グルコシノレート含有植物1gあたり、1.0mg以上であ
ることが好ましい。
【0010】
乾燥及び粉砕工程で人又は装置によって乾燥及び粉砕が行われるのは、前記加熱された
グルコシノレート含有植物である。当該乾燥は、当該粉砕と同時、又は当該粉砕の前に行
われる。当該乾燥の方法は、少なくとも、熱乾燥を行うことが好ましい。
前記粉砕後のグルコシノレート含有植物乾燥物の粒子径は、d10が25μm以下であ
り、d50が50μm以下であり、かつ、d90が130μm以下であることが好ましい
。さらには、前記造粒後のグルコシノレート含有植物粉末の粒子径は、d10が30μm
以上であり、d50が60μm以上であり、かつ、d90が100μm以上であることが
好ましい。
【0011】
当該製造方法をさらに構成するのは、造粒である造粒工程で人又は装置によって造粒さ
れるのは、前記乾燥及び粉砕されたグルコシノレート含有植物乾燥物である。当該造粒に
おいて用いられるバインダーは、水、又はグルコシノレート含有液体組成物である。当該
造粒の方法は、流動層造粒であることが好ましい。
【0012】
本願発明の一態様は、グルコシノレート含有植物粉末であって、当該グルコシノレート
含有植物粉末が含有するのは、少なくとも、グルコラファニンである。当該緑色植物グル
コシノレート含有植物粉末のグルコラファニン含有量は、当該グルコシノレート含有植物
粉末1gあたり、5mg以上であることが好ましい。また、当該グルコシノレート含有植
物粉末におけるミロシナーゼ活性は、1unit/g未満であることが好ましい。さらに
は、当該グルコシノレート含有植物粉末は、実質的にスルフォラファンを含有しない。
【0013】
前記グルコシノレート含有植物粉末の粒子径は、d10が30μm以上であり、d50
が60μm以上であり、かつd90が100μm以上であることが好ましい。また、当該
グルコシノレート含有植物粉末を水へ分散させたときの粒子径は、d10が25μm以下
であり、d50が50μm以下であり、かつ、d90が130μm以下であることが好ま
しい。
【0014】
前記グルコシノレート含有植物粉末の色調は、L値が15以上、かつ25以下であり、
a値が-5.5以上かつ、-3以下であり、b値が9以上、かつ12以下であることが好
ましい。
【0015】
前記グルコシノレート含有植物粉末は、賦形剤を含有しないことが好ましい。また、前
記グルコシノレート含有植物粉末の嵩密度は、0.3以上であることが好ましい。
【0016】
また、本発明の一態様は、グルコシノレート含有植物粉末組成物であって、当該組成物
が含有するのは、少なくとも、前記グルコシノレート含有植物粉末、及びミロシナーゼ含
有組成物である。
【発明の効果】
【0017】
本発明が可能にするのは、グルコシノレート含有量の高い、グルコシノレート含有植物
粉末の提供である。さらには、水への分散性を高め、飲食に適した形態とすることも可能
となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】グルコシノレート含有植物粉末の製造方法の流れ図
【発明を実施するための形態】
【0019】
<グルコシノレート含有植物粉末>
本発明の実施の形態に係るグルコシノレート含有植物粉末とは、少なくとも、グルコシ
ノレート含有植物を原料として含有する粉末である。より具体的な形態は、後述する。
【0020】
本発明に係るグルコシノレート含有植物とは、植物であって、グルコシノレートを含有
するものであればよい。特に、グルコシノレートを多く含有する観点から、本発明に係る
グルコシノレート含有植物は、アブラナ科に属する野菜であることが好ましい。より好ま
しくは、本発明に係るグルコシノレート含有植物における、グルコシノレート含有量は、
当該グルコシノレート含有植物1gあたり、1.0mg以上である。また、本発明に係る
グルコシノレート含有植物は、緑色植物であることが好ましい。緑色植物は、その色彩が
、緑色であるものであればよい。植物の緑色を構成するものは、一般的にクロロフィルで
ある。本発明に係るグルコシノレート含有植物粉末は、その色彩の観点から、クロロフィ
ルを含有することが好ましい。
【0021】
また、本発明の実施の形態に係るグルコシノレート含有植物乾燥粉砕物とは、グルコシ
ノレート含有植物を原料として、乾燥及び粉砕工程を経て得られるものである。具体的に
は、グルコシノレート含有植物を乾燥状態にした後粉砕したもの、グルコシノレート含有
植物を切断して乾燥状態にした後粉砕したもの、グルコシノレート含有植物を乾燥と同時
に粉砕したもの、グルコシノレート含有植物を粉砕した後乾燥したもの、等、グルコシノ
レート含有植物が乾燥された粉末状態になったものである。
【0022】
あわせて、本発明の実施の形態に係るグルコシノレート含有植物粉末とは、具体的には
、前記グルコシノレート含有乾燥粉砕物、及び前記グルコシノレート含有乾燥粉砕物を造
粒したもの、並びにこれらの処理を行ったものとその他の粉体組成物を混合したもの、等
、少なくとも、グルコシノレート含有植物が粉末状態になったものを含有するものである
。
【0023】
本発明に係るグルコシノレート含有植物粉末は、グルコシノレート含有植物を原料とし
て、グルコシノレートを溶媒により抽出したもののみにより構成されるものではない。グ
ルコシノレート含有植物中の成分を分画せずに用いることで、グルコシノレート含有植物
中のグルコシノレートの利用効率を高めることができると同時に、溶媒には不溶の食物繊
維等、種々の栄養素を、飲食時に同時に摂取することができる。
【0024】
<グルコシノレート含有植物粉末の製造方法の概念的構成>
本グルコシノレート含有植物粉末の製造方法(以下、「本製法」ということもある。)
を概念的に構成するのは、少なくとも、加熱、乾燥及び粉砕、並びに造粒である。
図1が示すのは、本製法の流れである。この製法を構成するのは、洗浄(S10)、
加熱(S20)、切断(S30)、乾燥(S40)、粉砕(S50)造粒(S60)、並
びに殺菌及び充填(S70)である。ただし、前記工程、及び工程順序に限定されるもの
ではなく、適宜工程の追加、及び工程順序の変更を行うことができる。
【0025】
<洗浄(S10)>
グルコシノレート含有植物を洗浄する目的は、異物の除去又は菌数の低減である。異物
を例示すると、グルコシノレート含有植物に付着する泥、土、砂等である。グルコシノレ
ート含有植物を洗浄する手段は、特に限定されないが、好ましくは、水、又は殺菌水への
接液である。接液する方法は、特に限定されないが、例示すると、浸漬、噴霧等である。
グルコシノレート含有植物の洗浄を行う回数は、1回又は2回以上である。洗浄に使用さ
れる洗浄液は、特に限定されないが、例示すると、水、次亜塩素酸、次亜塩素酸塩、亜塩
素酸塩、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、焼成カルシウム、塩酸、酢酸、過酢酸、ク
エン酸、フマル酸、オゾンなどである。最終製品への残存による香味への影響を考慮して
、洗浄液は、水で行うことが好ましい。洗浄液の温度は、25℃以下であることが好まし
い。
【0026】
<加熱(S20)>
グルコシノレート含有植物を加熱する目的は、殺菌、及び植物体に内在する酵素、特に
ミロシナーゼを不活性化することである。植物体に内在するミロシナーゼは、切断や破砕
等、植物細胞が破壊されることによって流出、及び活性化し、グルコシノレートを分解す
る。分解されたグルコシノレートは、イソチオシアネートと配糖体になる。イソチオシア
ネートは、後述するとおり種々の機能性を有するが、揮発性が高いため、安定性が低い。
そのため、飲食品においては、安定性の高いグルコシノレートの状態で保持することが好
ましい。
【0027】
加熱の方法は、乾熱、水蒸気による蒸煮、及び過熱水蒸気による蒸煮のうち、何れか1
つ以上であることが好ましい。特に、水蒸気による蒸煮、及び過熱水蒸気による蒸煮であ
ることが好ましい。グルコシノレート含有植物の加熱の方法として、一般に熱水浸漬によ
るブランチがあるが、この方法の場合、グルコシノレート含有植物中のグルコシノレート
が熱水中に溶け出すため、好ましくない。また、水蒸気又は過熱水蒸気による蒸煮を行う
ことで、熱効率がよく、グルコシノレート含有植物の加熱を短時間とすることができ、植
物中の成分の酸化や酵素反応抑えることができる。これにより、最終製品の香味や色調を
好ましいものとすることができる。
【0028】
加熱の目標は、グルコシノレート含有植物中のミロシナーゼを不活性化できる程度であ
れば、特に限定されない。例示すると、ミロシナーゼの酵素失活温度が70~80℃程度
であることを考慮し、グルコシノレート含有植物の中心温度において、90℃達温などで
ある。当該ミロシナーゼは、50℃~70℃程度において活性が高まるため、加熱時に、
いかに、植物体が当該温度帯を早く通過し、ミロシナーゼを失活させる温度に達するかが
重要である。その観点からも、水蒸気による蒸煮、又は過熱水蒸気による蒸煮を行うこと
が好ましい。加熱に用いられる装置は、公知の装置であれば、特に限定されない。
【0029】
<切断(S30)>
グルコシノレート含有植物を切断する目的は、容積の減少、及び乾燥効率の向上である
。当該切断の時期は、特に限定されないが、切断によるミロシナーゼの活性化を避けるた
め、加熱の後であることが好ましい。当該切断を乾燥の前に行う場合、グルコシノレート
含有植物の比表面積が増加し、乾燥効率が向上する。また、切断によるグルコシノレート
の流出を避ける点からは、乾燥の後であることが好ましい。切断の方法は、特に限定され
ない。例示すると、スライサー、ミクログレーダー、ダイスカッター、コミトロール、フ
ードプロセッサー等である。切断後のグルコシノレート含有植物の大きさは、特に限定さ
れないが、0.5mm~5cmである。好ましくは、0.5mm~10mm、より好まし
くは、0.5~5mmであることが好ましい。
【0030】
<乾燥粉砕>
本発明の実施の態様における乾燥粉砕とは、対象物を乾燥し、かつ粉砕することである
。当該乾燥の時期は、当該粉砕と同時、当該粉砕の前、又は当該粉砕の後の何れかである
。
【0031】
<乾燥(S40)>
グルコシノレート含有植物を乾燥する目的は、容積及び重量の低下、並びに保存安定性
の向上等である。乾燥により水分が除去されることで、容積及び重量が低下し、ハンドリ
ングが向上する。また、水分が除去されることで水分活性が低下し、菌の増殖が抑えられ
るため、保存性が高まる。同時に、グルコシノレートを含む、グルコシノレート含有植物
中の成分変化が抑制され、栄養成分等の安定性が高まる。
【0032】
当該目的の観点から、乾燥の時期は、加熱の後であることが好ましい。また、粉砕の前
であることが好ましい。加熱の前に乾燥を行うと、乾燥中にグルコシノレート含有植物中
の細胞が破壊された際、ミロシナーゼが活性化することが起こりうる。
【0033】
乾燥の方法は、特に限定されない。例示すると、熱風乾燥、冷風乾燥、凍結乾燥、及び
減圧乾燥等のうち、1つ、または2つ以上を組み合わせた方法により行うことができる。
グルコシノレート含有植物粉末の嵩密度を高める観点から、少なくとも、熱風乾燥を行う
ことが好ましい。グルコシノレート含有植物粉末の嵩密度を高めることにより、水と混合
した際に、水への沈降が容易となり、分散性が高まる。グルコシノレート含有植物の色調
、及び風味を高める観点からは、凍結乾燥を行うことが好ましい。
【0034】
乾燥の程度は、特に限定されないが、前記目的の観点から、水分含量が、8.0重量%
以下程度であることが好ましい。より好ましくは、水分含量が、5.0重量%以下である
。
【0035】
<粉砕(S50)>
グルコシノレート含有植物を粉砕する目的は、容積の低下、及び水中での分散性を向上
させることである。当該目的の観点から、粉砕の時期は、加熱の後であることが好ましく
、さらには乾燥の後、又は乾燥と同時であることが好ましい。加熱の前に粉砕を行うと、
グルコシノレート含有植物中のミロシナーゼが活性化し、グルコシノレートが分解される
。また、乾燥の前に粉砕を行うと、液体状、又はピューレ状になるが、これを乾燥するこ
とによって、固形の塊となり、その後にまた粉砕を行う必要が生じる。
【0036】
粉砕の方法は、特に限定されないが、ピンミル、カッターミル、ジェットミル、オリエ
ントミル、ボールミル等のうち、1つ、または2つ以上を組み合わせた方法により行うこ
とができる。当該粉砕は、1段階で行っても良いし、2段階以上で行っても良い。
【0037】
粉砕の程度は、特に限定されないが、前記目的の観点から、粒子径でd10が25μm
以下、d50が50μm以下、d90が130μm以下であることが好ましい。また、体
積平均径(MV)が60μm以下程度であることが好ましい。より好ましくは、粒子径で
d10が5μm以上20μm未満、d50が20μm以上50μm未満、d90が50μ
m以上100μm以下である。また、体積平均径(MV)が20μm以上50μm以下程
度であることがより好ましい。粉砕後の粒子径が大きいと、グルコシノレート含有植物の
固形分が水へ分散せず、水面上へ浮かぶ、又は水中で沈降する。
【0038】
<造粒(S60)>
グルコシノレート含有植物粉末を造粒する目的は、粉末の流動性の向上、及び水への分
散性の向上である。当該目的の観点から、造粒の時期は、粉砕の後である。グルコシノレ
ート含有植物粉末の粒子径が小さくなる程、粉末の流動性は低下する。それにより、ハン
ドリングが悪くなる。また、グルコシノレート含有植物粉末の粒子径が小さくなると、水
と混合した際にダマになりやすく、分散しにくくなる。そのため、デキストリン等の賦形
剤と共に造粒することにより、分散性が高まる。また、グルコシノレート含有植物の乾燥
物を粉砕することにより粒子径を低下させた後、造粒を行うことによって、水との混合時
にダマになりにくく、かつ、水中では造粒された塊がほぐれて粒子径が低下し、水中での
分散性も高まり沈降しにくくなる。
【0039】
造粒の方法は、特に限定されず、撹拌造粒、乾式造粒、押出造粒、流動層造粒等が挙げ
られる。水への分散性(水への混合時の粒子の崩壊性)向上の観点から、造粒の方法は、
流動層造粒法であることが好ましい。流動層造粒法を行うことにより、微粉末同士の結着
が比較的弱くなり、粉末の崩壊性が高まり、水への分散性が高まる。造粒を行う装置は、
公知のものを採用できる。造粒条件は、目的の粒子径や水分含量となるように造粒が行わ
れれば特に限定されない。
【0040】
造粒時に用いるバインダーは、特に限定されず、既知の賦形剤、水、植物の搾汁液や抽
出物、等が挙げられる。造粒後のグルコシノレート含有植物粉末のグルコシノレート含有
量を高める観点から、バインダーは、水、又はグルコシノレート含有液であることが好ま
しい。
【0041】
<殺菌、及び充填(S70)>
以上に加えて、本製法が適宜採用するのは、殺菌、及び充填である。殺菌方法は、公知
の方法で良く、例えば、過熱水蒸気による殺菌等がある。殺菌方法は、連続式、バッチ式
等が採用できる。殺菌条件が従うのは、各種規格(社内規格や業界規格等)である。充填
方法は、公知の方法でよい。ここで、容器は、密封される。グルコシノレート含有植物粉
末が充填される(詰められる)容器は、公知の物で良く、例示すると、アルミ包装袋等で
ある。
【0042】
<アブラナ科野菜>
アブラナ科野菜とは、野菜であって、その学術上の分類がアブラナ科であるものをいう
。アブラナ科野菜を例示すると、キャベツ、ブロッコリー、ケール、プチヴェール、ラフ
ァノブラシカ、クレソン、コマツナ、チンゲンサイ、カイワレダイコン、カリフラワー、
ハクサイ、ナバナ、タカナ、コールラビ等である。本グルコシノレート含有植物粉末で採
用するのは、アブラナ科野菜の部位(花、葉や茎など)の全部又は一部を用いても良く、
スプラウトやシードを用いても良い。本グルコシノレート含有植物粉末で採用するのは、
これらのアブラナ科野菜のうち一又は複数であるが、グルコシノレート高含有の観点から
、好ましくは、ケール、又はラファノブラシカである。
【0043】
<グルコシノレート>
グルコシノレート類とは、化1の構造式で示される、グルコースおよびアミノ酸の誘導
体であり、硫黄と窒素を含む有機化合物の一群である。本発明におけるグルコシノレート
は、特に限定されないが、例示すると、グルコラファニン(スルフォラファングルコシノ
レートとも呼ばれる)、シニグリン、グルコエルシン、グルコブラシシン、グルコラフェ
ニン、グルコラファサティン、フェネチルグルコシノレート等であり、本発明においては
、特にグルコラファニンであることが好ましい。これらのグルコシノレートのうち1種、
又は複数種用いてもよい。
【0044】
【0045】
本発明に係るグルコシノレート含有植物粉末において、グルコシノレートの含量は、好
ましくは、グルコシノレート含有植物粉末1gあたり、5mg以上であり、より好ましく
は、グルコシノレート含有植物粉末1gあたり、7mg以上である。また、本発明に係る
グルコシノレート含有植物粉末において、グルコラファニン(以下、「GR」ともいう。
)の含量は、好ましくは、グルコシノレート含有植物粉末1gあたり、5mg以上であり
、より好ましくは、グルコシノレート含有植物粉末1gあたり、7mg以上である。グル
コシノレート含有植物粉末におけるグルコシノレート含量の上限は、特に限定されないが
、好ましくは、グルコシノレート含有植物粉末1gあたり、30mgである。
【0046】
<ミロシナーゼ>
ミロシナーゼとは、酵素であって、イソチオシアネートの配糖体(シニグリンなど)の
グリコシド結合を加水分解し、硫酸基を離脱させることで、グルコシノレートからイソチ
オシアネートを生成する。本発明に係るグルコシノレート含有植物粉末において、ミロシ
ナーゼ活性は、1unit/g未満であることが好ましく、さらには、ミロシナーゼ活性
がないことがより好ましい。ミロシナーゼの活性がないとは、後述するミロシナーゼ活性
の測定において、ミロシナーゼ活性が0unit/gであることをいう。
【0047】
<ミロシナーゼ活性>
ミロシナーゼ活性とは、グルコシノレートをイソチオシアネートへ変換する酵素活性(
力価)をいう。ミロシナーゼ活性(unit/g)は、ミロシナーゼと基質であるグルコ
シノレートを反応させ、一定時間ごとにグルコシノレート含量又はイソチオシアネート含
量を測定し、その変化を基に算出される。
【0048】
グルコシノレート含量及びイソチオシアネート含量の測定は、当業者周知の方法により
行うことができる。例えば、HPLC(高速液体クロマトグラフィー)法を用いることが
でき、具体的なグルコシノレートの測定方法としては、Fayheyらの方法(Fahey et
al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 94, 10367-10372, 1997)等に従って行うことがで
き、ITCの測定方法としては、Hanらの方法(Han et al., Int. J. Mol. Sci., 12,
1854-1861, 2011)等に従って行うことができる活性(unit/g)は、ミロシナーゼ
と基質であるGSLを反応させ、一定時間ごとにGSL含量又はITC含量を測定し、そ
の変化を基に算出される。
【0049】
GSL含量及びITC含量の測定は、当業者周知の方法により行うことができる。例え
ば、HPLC(高速液体クロマトグラフィー)法を用いることができ、具体的なGSLの
測定方法としては、Fayheyらの方法(Fahey et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA
, 94, 10367-10372, 1997)等に従って行うことができ、ITCの測定方法としては、H
anらの方法(Han et al., Int. J. Mol. Sci., 12, 1854-1861, 2011)等に従って行う
ことができる ミロシナーゼ活性とは、GSLをITCへ変換する酵素活性(力価)をい
う。ミロシナーゼ活性(unit/g)は、ミロシナーゼと基質であるGSLを反応させ
、一定時間ごとにGSL含量又はITC含量を測定し、その変化を基に算出される。
【0050】
GSL含量及びITC含量の測定は、当業者周知の方法により行うことができる。例え
ば、HPLC(高速液体クロマトグラフィー)法を用いることができ、具体的なGSLの
測定方法としては、Fayheyらの方法(Fahey et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA
, 94, 10367-10372, 1997)等に従って行うことができ、ITCの測定方法としては、H
anらの方法(Han et al., Int. J. Mol. Sci., 12, 1854-1861, 2011)等に従って行う
ことができる
【0051】
ミロシナーゼ活性(unit/g)は、ミロシナーゼの反応によってグルコシノレート
から変換されたイソチオシアネート含量を測定することで評価できる。具体的には、下記
式により算出できる。
【0052】
【0053】
<イソチオシアネート>
イソチオシアネートとは、化2で示される構造を持つ物質の総称であり、アブラナ科植
物に多く含まれる。イソチオシアネートは、機能性の面から有用な成分である反面、揮発
性のため不安定であり、経時的に消失し得る。そのため、摂取する場合は、摂取する直前
、又は体内においてイソチオシアネートに変換されることが好ましい。そのため、飲食品
中では安定性の高いグルコシノレートの状態であることが好ましいと考えられる。
【0054】
ここで、スルフォラファンは、イソチオシアネートの一種であり、グルコラファニンが
ミロシナーゼにより加水分解された際に生成する物質である。本発明に係るグルコシノレ
ート含有植物粉末において、スルフォラファンは、実質的に含有しないことが好ましい。
スルフォラファンを実質的に含有しない、とは、本発明に係るグルコシノレート含有植物
粉末において、スルフォラファン含有量が、0.1mg/100g未満であることをいう
。本発明に係るグルコシノレート含有植物粉末において、スルフォラファン含有量が少な
いということは、グルコシノレート含有植物の加工工程においてミロシナーゼによる反応
が少ないことを示す、一つの結果であることが理解できる。
【0055】
【0056】
<その他の原材料>
本発明に係るグルコシノレート含有植物粉末は、グルコシノレート含有植物粉末に加え
て、その他の原材料を含有していても良い。具体的には、アブラナ科野菜以外の野菜粉末
、食品添加物等である。好ましくは、ミロシナーゼ含有組成物である。
【0057】
ミロシナーゼ含有組成物とは、組成物であって、少なくともミロシナーゼを含有するも
のである。ミロシナーゼ含有組成物を含有することによって、飲食時にミロシナーゼがグ
ルコシノレートを加水分解することで、イソチオシアネートが生成し、生体内でのイソチ
オシアネートの活用効率が向上する。ミロシナーゼ含有組成物の形態は、乾燥された状態
、例えば粉末状であることが好ましい。その理由は、グルコシノレート含有植物粉末の保
存時に、当該ミロシナーゼとグルコシノレート含有植物粉末中のグルコシノレートが反応
を起こさないようにするためである。ミロシナーゼ含有組成物としては、例えば、カラシ
菜の種子を乾燥、及び粉砕したもの等が挙げられる。
【0058】
食品添加物を例示すると、甘味料、酸味料、核酸類、香辛料抽出物、着色料、pH調整剤
、酸化防止剤、保存料、乳化剤、栄養強化剤、増粘剤、賦形剤等である。本発明の具現化
にあたり、本発明に係る緑色粉末、及びグルコシノレート含有植物粉末組成物の風味や、
グルコシノレート含量の観点から、食品添加物の使用は極力控えるのが好ましい。
【0059】
<粒子径>
粒子径とは、粒子の長径を測定した値である。ここで「累積a%粒子径」とは、測定で
得られた粒度分布において、粒子集団の全体積を100%として累積頻度を求めたとき、
累積頻度がa%に達する粒子径をいう。すなわち、累積10%粒子径(d10)とは、累
積頻度が10%となる点の粒子径をいう。累積50%粒子径(d50)とは、累積頻度が
50%となる点の粒子径をいう。また、累積90%径(d90)とは、累積頻度が90%
となる点の粒子径をいう。「体積平均径(Mean Volume Diameter:
以下、「MV」ともいう。)」とは、粒子集団の粒子径を体積で重みづけされた平均径の
ことをいう。粒子径を測定する手段は、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置である
。
【0060】
本発明におけるグルコシノレート含有植物粉末の粒子径は、特に限定されないが、好ま
しくは、グルコシノレート含有植物の粉砕後の粒子径が、d10が25μm以下、d50
が50μm以下、d90が130μm以下である。また、体積平均径(MV)が60μm
以下程度であることが好ましい。より好ましくは、粒子径でd10が5μm以上20μm
未満、d50が20μm以上50μm未満、d90が50μm以上100μm以下である
。また、体積平均径(MV)が20μm以上50μm以下程度であることがより好ましい
。また、グルコシノレート含有植物粉末造粒後の粒子径は、好ましくは、d10が30μ
m以上であり、d50が60μm以上であり、かつd90が100μm以上である。また
、体積平均径(MV)が、60μm以上であることが好ましい。より好ましくは、d10
が60μm未満であり、d50が100μm未満であり、かつd90が200μm以上で
ある。また、体積平均径(MV)が、70μm以上100μm以下であることがより好ま
しい。粒子径を小さくすることで、性状が滑らかなものとなり、種々の商品に適用しやす
くなる。粒子径を小さくする方法は、公知の方法で良いが、具体的には、粉砕処理機、及
び微細処理機による粉砕化、及び微細化、ふるいによる分画等が挙げられる。
【0061】
<色調>
本発明の実施の形態に係る、色調とは、色の特徴を表すものであって、明度、色相、及
び彩度を含めたものである。本発明の実施の形態において、色調を一般的に表すのは、L
*a*b*(エルスター、エースター、ビースター)表色系である。L*a*b*表色系の指標
は、明度(L値)、色度(色相及び彩度)(a値、b値)である。色調の測定方法は、公
知の方法で良い。測定する機器は、市販されている。測定手段を例示すると、色差計SP
ECTROPHOTOMETER CM-5(コニカミノルタ社製)である。
【0062】
緑の色度を示すのは、a値であり、この値が低い程、緑色に近づく。また、グルコシノ
レート含有植物中には酵素が含まれているが、これを加熱により失活せずに破砕、搾汁等
を行う、或いは、過分に熱を加えることで酸化が促進すると、褐色状の色調となり、明度
(L値)が低下し、或いは、緑の色度が低下(つまり、a値が上昇)する。
【0063】
本発明におけるグルコシノレート含有植物粉末の色調は、特に限定されないが、前記観
点から、好ましくは、L値が15以上、かつ25以下、a値が-5.5以上、かつ-3以
下、b値が9以上、かつ12以下、a/b値が-0.7以上、かつ-0.3以下である。
【0064】
<嵩密度>
嵩密度とは、粉体を一定容積の容器に一定の方法で充填し、粒子間の空隙も含めた体積
で、粉体の重量を除した値のことであり、単位は、g/mlで表される。本発明の実施の
形態に係る嵩密度は、ゆるみ嵩密度である。その測定器具としては、公知の嵩密度測定器
を用いることができる。
【0065】
本発明に係る、造粒後のグルコシノレート含有植物粉末の嵩密度は、特に限定されない
が、0.3以上、かつ1.0以下であることが好ましい。嵩密度が低いと、水と混合した
際に、水面中に粉末が浮遊することで水中に沈みにくくなり、水への分散性が低くなる。
造粒や、乾燥時に少なくとも熱乾燥を行うことにより、嵩密度を高めることができる。ま
た、嵩密度が前記の範囲程度であることによって、容器への充填性が高まる。
【0066】
<分散性>
本発明の実施の形態に係る分散性とは、本発明に係るグルコシノレート含有植物粉末の
、水への分散性のことを示す。分散とは、分散相が、分散媒に浮遊している状態のことで
ある。分散性が高いとは、分散相が沈降しづらく、分散媒に浮遊している状態の安定性が
高いことを示す。分散性が低いとは、分散相が分散媒中で拡散しづらく、またそのために
沈降しやすく、分散媒体に浮遊している状態の安定性が低いことを示す。本発明において
、分散における分散相は、固体であり、分散媒は液体である。具体的には、本発明におけ
る分散相は、グルコシノレート含有植物粉末であり、分散媒は水溶性物質、特に水である
。上記観点から、分散性を高めるためには、分散相の粒子径を低めることが有効である。
しかし、本発明に係るグルコシノレート含有植物粉末の粒子径を低くする程、水と混合し
た際にダマになりやすく、逆に分散性が低くなるということがわかった。そのため、グル
コシノレート含有植物粉末を造粒することによって、水への混合前においては粒子径が高
まることでグルコシノレート含有植物粉末の嵩密度を高めてダマになりにくい状態にし、
水と混合した際には造粒された粉末が崩壊することで、水中ではグルコシノレート含有植
物粉末の粒子径が低くなり、分散性が高まるものとした。
【0067】
当該観点から、造粒後のグルコシノレート含有植物粉末の粒子径は、前述したものであ
ることが好ましい。また、水との混合後の粒子径は、d10が25μm以下、d50が5
0μm以下、d90が130μm以下、体積平均径(MV)が60μm以下程度であるこ
とが好ましい。より好ましくは、粒子径でd10が5μm以上20μm未満、d50が2
0μm以上50μm未満、d90が50μm以上100μm以下である。また、体積平均
径(MV)が20μm以上50μm以下程度であることがより好ましい。また、造粒後の
グルコシノレート含有植物粉末の崩壊性を高めるために、造粒に用いられる造粒法は、流
動層造粒が好ましく、バインダーは水、又はグルコシノレート含有液体組成物であること
が好ましい。
【実施例0068】
[加熱方法の違いによる酵素活性温度帯通過時間の確認試験]
<比較例1>
ラファノブラシカの茎(ケーリッシュ)をΦ10mm×20mmに切断し、中心部に温
度計を設置した。このラファノブラシカの茎を、乾熱処理装置(スチームコンベクション
、fujimak社製)を用いて150℃の条件にて加熱処理し、中心部の温度において50℃
~70℃の温度帯を通過する時間を測定した。測定は3回実施し、3回の数値の平均値を
算出した。
【0069】
<実施例1>
ラファノブラシカの茎(ケーリッシュ)をΦ10mm×20mmに切断し、中心部に温
度計を設置した。このラファノブラシカの茎を、水蒸気加熱処理装置(スチームコンベク
ション、fujimak社製)を用いて100℃の条件にて加熱処理し、中心部の温度において
50℃~70℃の温度帯を通過する時間を測定した。測定は3回実施し、3回の数値の平
均値を算出した。
【0070】
<実施例2>
ラファノブラシカの茎(ケーリッシュ)をΦ10mm×20mmに切断し、中心部に温
度計を設置した。このラファノブラシカの茎を、過熱水蒸気加熱処理装置(スチームコン
ベクション、fujimak社製)を用いて150℃の条件にて加熱処理し、中心部の温度にお
いて50℃~70℃の温度帯を通過する時間を測定した。測定は3回実施し、3回の数値
の平均値を算出した。
【0071】
<結果、考察>
ラファノブラシカの茎を各加熱方法で加熱した結果、50℃~70℃の温度帯を通過す
る時間が最も短かったのは、過熱水蒸気により加熱したものであり、次に水蒸気加熱処理
を行ったものであった。50℃~70℃の温度帯を通過する時間が最も長かったのは、乾
熱処理を行ったものであった(表1)。
【0072】
以上の結果より、加熱処理方法として加熱効率が良いのは、過熱水蒸気による加熱、及
び水蒸気による加熱であることがわかった。これらの加熱方法を用いる事により、加熱時
においてアブラナ科野菜中のミロシナーゼの活性が短時間に抑制され、グルコシノレート
の分解を抑制することができると考えられる。
【0073】
【0074】
[水バインダー造粒による試験]
<比較例2>
ラファノブラシカをスチームコンベクション(fujimak社製)により、70℃、180
分の条件で乾燥処理後、ピンミル(奈良機械製作所製)を用いて一次粉砕したものを比較
例2とした。
【0075】
<比較例3>
ラファノブラシカをスチームコンベクション(fujimak社製)により、70℃、180
分の条件で乾燥処理後、ピンミル(奈良機械製作所製)を用いて一次粉砕し、ジェットミ
ル(株式会社セイシン企業社)を用いて二次粉砕したものを比較例3とした。
【0076】
<実施例3>
ラファノブラシカをスチームコンベクション(fujimak社製)により、70℃、180
分の条件で乾燥処理後、ピンミルを用いて一次粉砕し、ジェットミルを用いて二次粉砕し
たものを、難消化性デキストリンであるファイバーソル2(松谷化学社製)を賦形剤とし
て5重量%、水を2重量%添加し、ミキサーを用いて1分間、撹拌造粒を行った。その後
、目開き500μmの篩を通過させ、50℃で1時間乾燥させたものを実施例3とした。
【0077】
<実施例4>
ラファノブラシカをスチームコンベクションにより、70℃、180分の条件で乾燥処
理後、カッターミルを用いて一次粉砕し、ジェットミルを用いて二次粉砕したものを、水
をバインダーとして流動層造粒機にて、表2に記載の粒度となるように造粒を行ったもの
を実施例4とした。
【0078】
<粒子径測定>
粒子径の測定は、マイクロトラックMT3300EX(マイクロトラック・ベル株式会
社製)を用いて行った。測定時の溶媒は、水への分散前の粉末状の粒子径の測定にはエタ
ノールを用い、水への分散後の粒子径の測定には、水を用いた。
【0079】
<分散性評価>
各粉末試料について、水への分散性を評価した。3.0gの粉末試料を100mlの水
に混合し、分散の程度を確認した。分散性の評価は、以下のとおりとした。
A:容易に分散し、水中でも沈殿を生じにくい
B:容易に分散するが、水中で沈殿を生じやすい
C:よくかき混ぜると分散する
D:ダマになりやすく、分散しにくい
E:よくかき混ぜても分散しない
AからEの順に、分散性の程度を評価し、Aが最も分散性が高く、Eが最も分散性が低い
ことを表す。
【0080】
<結果>
結果を表2に示した。造粒を行った粉末(実施例3)は、造粒前の粉末(比較例3)に
比べて分散性が向上することが確認された。一方で、実施例3の試料を蒸留水中と混合し
ただけでは、粒子径が水中で十分に小さくなっていないことが分かった。そのため、数分
間放置しただけで水と固形部が分離し、不均一な状態となった。その後超音波の物理的刺
激を加えることによって、これら粒子が分離され粉末は元の粒子径に戻ることが確認され
た。このことより、実施例3の試料は、水と混合しただけでは粉末と賦形剤が外れないこ
とが判明した。造粒方法を流動層造粒法により行い、バインダーとして水を用いることに
より、造粒前は粒子径が大きいが、水と混合することで水中で粒子径が小さくなる、分散
性の高い緑色粉末を作製することができた(実施例4)。以上より、緑色粉末の分散性向
上のためには粒子の微粉砕化と造粒処理を施すことが重要であることがわかった。特に、
造粒方法を流動層造粒方法により行うことが有効であり、バインダーとして水を用いるこ
とにより、グルコシノレート含有量が高い、グルコシノレート含有植物粉末を作製できる
ことが分かった。
【0081】
【0082】
[グルコシノレート残存率、ミロシナーゼ活性、及びスルフォラファン量の確認]
<実施例5>
ラファノブラシカ100kgを水で洗浄した後、100℃で5分(品温90℃達温)の
条件で蒸気加熱処理により加熱を行い、冷風をあてることによって70℃以下に冷却した
。その後、スライサーによって2.0cm×1.5cm程度の大きさに切断した。これを
熱風乾燥により65℃、40分の条件で半乾燥させたのち、凍結乾燥により60℃~70
℃で24時間乾燥させ、ラファノブラシカ乾燥物を得た。
【0083】
<グルコラファニン含量の測定>
グルコラファニン含量の測定は、以下の条件でHPLC法にて行った。
装置:ACQUITY UPLC H-Classシステム(Waters社製)
カラム:ACQUITYCSH C18(Φ2.1×100mm, 1.7μm)(Wa
ters社製)
カラム温度:30℃
サンプル注入量:10μL
移動相A:超純水:トリフルオロ酢酸=99.95:0.05 (v:v)
移動相B:メタノール:トリフルオロ酢酸=99.95:0.05 (v:v)
グラジエント:5分間 移動相B割合0%を維持
10分間で移動相B割合0→10%のリニアグラジエント
5分間で移動相B割合10→100%のリニアグラジエント
5分間 移動相B割合100%を維持
2分間で移動相B割合100→0%のリニアグラジエント
5分間 移動相B割合0%を維持
流速:0.1mL/min
検出波長:235nm
グルコラファニン含量は、HPLC分析によって得られたサンプル中のグルコラファニ
ン濃度と抽出に供したサンプル量から算出した。装置:ACQUITYUPLC H-
Classシステム(Waters社製)
カラム:ACQUITYCSH C18(Φ2.1×100mm, 1.7μm)(Wa
ters社製)
カラム温度:30℃
サンプル注入量:10μL
移動相A:超純水:トリフルオロ酢酸=99.95:0.05 (v:v)
移動相B:メタノール:トリフルオロ酢酸=99.95:0.05 (v:v)
グラジエント:5分間 移動相B割合0%を維持
10分間で移動相B割合0→10%のリニアグラジエント
5分間で移動相B割合10→100%のリニアグラジエント
5分間 移動相B割合100%を維持
2分間で移動相B割合100→0%のリニアグラジエント
5分間 移動相B割合0%を維持
流速:0.1mL/min
検出波長:235nm
GR含量は、HPLC分析によって得られたサンプル中のGR濃度と抽出に供したサン
プル量から算出した。
【0084】
<水分含量、及び固形量の測定>
水分含量、及び固形量は、常圧加熱乾燥法により行った。具体的には、対象試料を10
5℃、4時間の条件で加熱処理を行い、加熱前後における減少重量に対する、加熱前の対
象試料重量の比率から、水分含量を算出した。また、加熱後における対象試料重量に対す
る、加熱前の対象試料重量の比率から、固形量を測定した。
【0085】
<グルコラファニン(GR)量の歩留まり>
グルコラファニン量の歩留まりの算出は、以下の計算式の方法により行った。
GR歩留まり(%)=100×(生鮮野菜の固形量)×(乾燥野菜中のGR濃度)/(
乾燥野菜の固形量)×(生鮮野菜中のGR濃度)
【0086】
<スルフォラファン(以下、「SFN」ともいう。)含量の測定>
SFN含量の測定は、以下の条件でHPLC法にて行った。
装置:ACQUITY UPLC H-Classシステム(Waters社製)
カラム:ACQUITYBEH C18(Φ2.1×50mm、1.7μm)(Wat
ers社製)
カラム温度:35℃
サンプル注入量:10μL
移動相:超純水:アセトニトリル=80:20 (v:v)
流速:0.2mL/min
検出波長:202nm
スルフォラファン含量は、HPLC分析によって得られたサンプル中のSFN濃度と抽
出に供したサンプル量から算出した。SFN含量の測定は、以下の条件でHPLC法にて
行った。
装置:ACQUITYUPLC H-Classシステム(Waters社製)
カラム:ACQUITYBEH C18(Φ2.1×50mm、 1.7μm)(Wa
ters社製)
カラム温度:35℃
サンプル注入量:10μL
移動相:超純水:アセトニトリル=80:20 (v:v)
流速:0.2mL/min
検出波長:202nm
SFN含量は、HPLC分析によって得られたサンプル中のSFN濃度と抽出に供した
サンプル量から算出した。
【0087】
<ミロシナーゼ活性の測定>
ミロシナーゼ活性(unit/g)は、ミロシナーゼの反応によってGRから変換され
たSFN含量を測定することで評価した。具体的には、前記[数1]で示した式により算
出した。
【0088】
ラファノブラシカ乾燥物のミロシナーゼの反応は、次のとおり行った。GR含量2.0
mg/mlとなるように調整した33mMリン酸緩衝液(pH7.0)100mlを共栓付三
角フラスコに入れ、ウォーターバスにて37℃で保温した。ラファノブラシカ乾燥物を先
に調整したGR溶液に添加し、よく混合し、ウォーターバスにて37℃でミロシナーゼの反
応を開始させた。反応開始から10分後、20分後、30分後に反応液から100μLず
つ回収し、20μLの20%トリフルオロ酢酸溶液と混合し、氷上で保管した。全ての反
応液の回収が完了した後、酢酸エチル0.4mLを添加し、よく混合した。得られた液を
遠心分離(1000×g、4℃、5分)し、回収した上清200μLを遠心濃縮器(40
℃、20分)で乾固させた。250μLの超純水を添加し、超音波処理によって乾固物を
再溶解させた。遠心分離し、回収した上清をSFN含量の測定のためのHPLCサンプル
とした。
【0089】
<色調の測定>
色調を測定した分析機器、及び測定条件次のとおりである。各試料は30mmの専用
シャーレに入れ、測定を実施した。
(分析機器) 分光測色計 CM-5型(コニカミノルタ製)
(測定条件) 正反射処理:SCE
測定方法:反射率測定
測定径:30mm
光源:D65
視野:10°
表色系:L*a*b*
【0090】
<結果>
ラファノブラシカを水蒸気加熱により処理する製造方法を用いることにより、加工によ
るグルコラファニンの歩留まりを、約9割とすることができた(表3)。また、ラファノ
ブラシカ乾燥物の色調を表4に示した。あわせて、ミロシナーゼ活性もなく、スルフォラ
ファンの含有も確認することができなかった。そして、グルコラファニン濃度が1.01
mg/gの生鮮ラファノブラシカから、グルコラファニン濃度7mg/g以上のラファノ
ブラシカ乾燥物を得ることができた。
【0091】
【0092】