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特開2023-43424氷スラリー製造装置及び氷スラリー製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023043424
(43)【公開日】2023-03-29
(54)【発明の名称】氷スラリー製造装置及び氷スラリー製造方法
(51)【国際特許分類】
   F25C 1/00 20060101AFI20230322BHJP
【FI】
F25C1/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021151065
(22)【出願日】2021-09-16
(71)【出願人】
【識別番号】504229284
【氏名又は名称】国立大学法人弘前大学
(71)【出願人】
【識別番号】512292522
【氏名又は名称】カミテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108372
【弁理士】
【氏名又は名称】谷田 拓男
(72)【発明者】
【氏名】岡部 孝裕
(72)【発明者】
【氏名】上手 康弘
(57)【要約】      (修正有)
【課題】生理食塩水を用いて圧力と温度制御のみにより氷スラリーを生成する氷スラリー製造装置等において、作動流体への圧力をより高圧にでき、生成される氷スラリーのIPFをより高くし、冷却性能を大幅に向上できる氷スラリー製造装置等を提供する。
【解決手段】固定部40を外した状態で、シャットオフ弁50を閉とした後、耐圧冷凍用容器20内へ加圧棒30を挿入し、外部から圧力Pを印加して、不凍液AFを介して生理食塩水用容器10内を所定の加圧状態とする。固定部40により加圧棒30の反発を固定した後、氷スラリー製造装置全体100が外部の冷凍機構内に設置されることにより、不凍液AFを介して生理食塩水用容器10内を所定の温度まで冷却する。外部の冷凍機構から取り出された氷スラリー製造装置100のシャットオフ弁50を開として、不凍液AFを介して生理食塩水用容器10内を常圧へ減圧することにより、氷スラリーISを生成する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
氷スラリー原液で満たされた原液容器と、該原液容器を内部の不凍液中に保持した外側容器と、該外側容器の一端側から水密性を保持しつつ該外側容器の内部へ挿入可能な加圧部と、該加圧部を前記外側容器側に固定可能な固定部と、該外側容器の他の一端側に設けられたバルブとを備えた氷スラリー製造装置であって、
前記バルブを閉とした後、前記外側容器内へ挿入された前記加圧部に外部から圧力を印加することにより、前記不凍液を介して前記原液容器内を所定の加圧状態とし、
前記固定部により前記加圧部の前記外側容器の外部への反発を固定した後、前記氷スラリー製造装置全体が外部の冷凍機構内に設置されることにより、前記不凍液を介して前記原液容器内を所定の温度まで冷却し、
外部の冷凍機構から取り出された前記氷スラリー製造装置のバルブを開として、前記不凍液を介して前記原液容器内を常圧へ減圧することにより、氷スラリーを生成することを特徴とする氷スラリー製造装置。
【請求項2】
請求項1記載の氷スラリー製造装置において、生成された氷スラリーを前記原液容器内から押出す所定の押出し具をさらに備え、
氷スラリーが生成された後に、前記固定部が前記外側容器側から取り外され、前記原液容器が前記外側容器内から取出され、前記所定の押出し具により、生成された氷スラリーを前記原液容器内から押出すことを特徴とする氷スラリー製造装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載の氷スラリー製造装置において、前記原液容器及び前記外側容器は管状の形状を有し、該外側容器は該原液容器を不凍液を介して内部に収容可能な内径及び管長を有すると共に、前記加圧工程における所定の圧力に耐え得る耐圧性を有することを特徴とする氷スラリー製造装置。
【請求項4】
請求項3記載の氷スラリー製造装置において、前記加圧部は前記外側容器の内径より小さく且つ前記原液容器の外径と略同等の径を有する棒状の形状であり、該棒の表面に該外側容器の内径と略同等の径を有するOリングが嵌め込まれたことを特徴とする氷スラリー製造装置。
【請求項5】
請求項4記載の氷スラリー製造装置において、前記外側容器の前記一端側に設けられた第一圧力受具と、第一圧力受具と対向させる第二圧力受具とを有する圧力受部をさらに備え、
前記原液容器内の加圧は、前記バルブを閉とした後、前記第一圧力受具を通して前記加圧部の一端側が前記外側容器内へ挿入され該加圧部の他端側に第二圧力受具が嵌め込まれた状態で、該第二圧力受具に外部から圧力を印加することにより、前記不凍液を介して前記原液容器内を所定の加圧状態とするものであり、
前記固定部は、前記圧力受部を固定する第一及び第二圧力固定具を有し、
前記固定部による固定は、第一圧力受具及び第二圧力受具の二側面側に第一圧力固定具及び第二圧力固定具が各々嵌め込まれることにより、前記加圧部の前記外側容器の外部への反発を固定するものであることを特徴とする氷スラリー製造装置。
【請求項6】
請求項5記載の氷スラリー製造装置において、第一圧力固定具と第二圧力固定具との間に差し込み可能な第三圧力固定具をさらに備え、
前記固定部よる固定後に、第二圧力受具に外部から印加された再圧力による第二圧力受具の前記外側容器側への移動によって生じた、第一圧力固定具と第二圧力固定具との間の空隙に第三圧力固定具を差し込むことにより、前記加圧部の前記外側容器の外部への反発を再固定することを特徴とする氷スラリー製造装置。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかに記載の氷スラリー製造装置において、前記所定の圧力は少なくとも100MPaであることを特徴とする氷スラリー製造装置。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれかに記載の氷スラリー製造装置において、前記氷スラリー原液は低濃度の塩化ナトリウム水溶液であることを特徴とする氷スラリー製造装置。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれかに記載の氷スラリー製造装置において、前記不凍液は塩化ナトリウムの飽和水溶液であることを特徴とする氷スラリー製造装置。
【請求項10】
氷スラリー原液で満たされた原液容器と、該原液容器を内部の不凍液中に保持した外側容器と、該外側容器の一端側から水密性を保持しつつ該外側容器の内部へ挿入可能な加圧部と、該加圧部を前記外側容器側に固定可能な固定部と、該外側容器の他の一端側に設けられたバルブとを具備した氷スラリー製造装置を用いた氷スラリー製造方法であって、
前記バルブを閉とした後、前記加圧部を前記外側容器内へ挿入し、該加圧部に外部から圧力を印加することにより、前記不凍液を介して前記原液容器内を所定の加圧状態とする加圧工程と、
前記固定部により前記加圧部の前記外側容器の外部への反発を固定する固定工程と、
前記氷スラリー製造装置全体を外部の冷凍機構内に設置し、前記不凍液を介して前記原液容器内を所定の温度まで冷却する冷却工程と、
外部の冷凍機構から取り出された前記氷スラリー製造装置のバルブを開として、前記原液容器内を常圧へ減圧することにより、に氷スラリーを生成する氷スラリー生成工程とを備えたことを特徴とする氷スラリー製造方法。
【請求項11】
請求項10記載の氷スラリー製造方法において、前記氷スラリー生成工程の後に、
前記固定部を取り外し、前記原液容器を前記外側容器内から取出す原液容器取り出し工程と、
前記原液容器取り出し工程で取り出された前記原液容器から、前記氷スラリー生成工程で生成された氷スラリーを所定の押出し具により押出す氷スラリー押出し工程とをさらに備えたことを特徴とする氷スラリー製造方法。
【請求項12】
請求項10又は11記載の氷スラリー製造方法において、前記原液容器及び前記外側容器は管状の形状を有し、該外側容器は該原液容器を不凍液を介して内部に収容可能な内径及び管長を有すると共に、前記加圧工程における所定の圧力に耐え得る耐圧性を有することを特徴とする氷スラリー製造方法。
【請求項13】
請求項12記載の氷スラリー製造方法において、前記加圧部は前記外側容器の内径より小さく且つ前記原液容器の外径と略同等の径を有する棒状の形状であり、該棒の表面に該外側容器の内径と略同等の径を有するOリングが嵌め込まれたことを特徴とする氷スラリー製造方法。
【請求項14】
請求項13記載の氷スラリー製造方法において、
前記加圧部が挿入される前記外側容器の一端側に設けられた第一圧力受具と、第一圧力受具と対向させる第二圧力受具とを有する圧力受部をさらに備え、
前記加圧工程は、前記バルブを閉とした後、前記第一圧力受具を通して前記加圧部の一端側を前記外側容器内へ挿入し、該加圧部の他端側に嵌め込まれた第二圧力受部に外部から圧力を印加することにより、前記不凍液を介して前記原液容器内を所定の加圧状態とするものであり、
前記固定部は、前記圧力受部を固定する第一及び第二圧力固定具を有し、
前記固定工程は、第一圧力受具及び第二圧力受具の二側面側に第一圧力固定具及び第二圧力固定具を各々嵌め込むことにより、前記加圧部の前記外側容器の外部への反発を固定するものであることを特徴とする氷スラリー製造方法。
【請求項15】
請求項14記載の氷スラリー製造方法において、前記固定工程後に、
第二圧力受具に外部から再圧力を印加する再印加工程と、
前記再印加工程による第二圧力受具の前記外側容器側への移動により生じた第一圧力固定具と第二圧力固定具との間の空隙に第三圧力固定具を差し込むことにより、前記加圧部の前記外側容器の外部への反発を再固定する再固定工程とをさらに備えたことを特徴とする氷スラリー製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は 氷スラリーを製造する氷スラリー製造装置及び氷スラリー製造方法に関し、特に低濃度の塩水ナトリウムから氷スラリーを製造することが可能な氷スラリー製造装置及び氷スラリー製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、水あるいは水溶液中に微細な氷を混濁したシャーベット状の氷、いわゆる氷スラリー(この他、アイススラリー、スラリーアイス、スラッシュアイス、リキッドアイスとも呼ばれる。)は、様々な分野において利用されている。例えば、氷スラリーは、冷熱密度が高く且つ高い流動性を有するのが特徴であるため、空調用冷熱源として利用されている。さらに氷スラリーは医療分野においても直接接触型の保冷剤として期待されている。特に腹腔内の冷却低温療法では、手術中の臓器の生体反応を抑制する目的から砕氷した氷片を利用している(非特許文献1参照)。これを氷片よりも高蓄熱、高流動性、高密着性である氷スラリーに代替することにより、高い冷却効果を期待することができる。
【0003】
従来、氷スラリーの生成方法に関しては、(1)冷却円筒内表面に薄い氷層を形成し、それらを掻き取る掻き取り方法(特許文献1参照)、(2)精密な温度制御の下、過冷却水を用いて生成する過冷却方法(特許文献2参照)、(3)生成した微細氷片の浮力を利用して連続的に生成する方法(非特許文献2参照)、(4)試験溶液を減圧し、蒸発潜熱を利用して氷スラリーを生成する方法(非特許文献3、4参照)、及び(5)水・油を混合したエマルション状態の機能性流体を攪拌・冷却することで生成する方法(非特許文献5参照)等、様々な生成方法及び装置が提案されている。
【0004】
上述した(1)の掻き取り方法には、氷片の掻き取りに要する大きな動力と掻き取り刃の摩耗による定期的なメンテナンスとが必要であるという問題があり、加えて小型化が困難であるという問題があった。上述した(2)の過冷却方法は比較的大きなプラントにおいて実用化されているが、過冷却状態を維持するため高精度の温度制御技術が必要である上、過冷却解除の制御が困難であるという問題があった。上述した(3)乃至(5)の従来方法によって生成される氷スラリーの多くは、グリコール系の不凍液(ブライン)、あるいは海水濃度程度の塩化ナトリウム水溶液を用いている。このため、これらの溶液で生成した氷スラリーを生体組織に直接接触するような医療用冷却剤として利用することはできないという問題があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、医療分野への応用を考慮し圧力と温度制御のみによって氷スラリーを生成する技術が提案されている(特許文献3)。特許文献3では、低濃度塩化ナトリウム水溶液、いわゆる生理食塩水を用いることが可能な氷スラリー生成方法及び装置の開発を目的としている。但し、その装置の特性上、作動流体の圧力を25MPa程度までしか上げることができないという問題があった。
【0006】
非特許文献6の図3では、水及び塩化ナトリウム水溶液(0.9wt%、3.0%)に対する付加圧力と凝固点降下との関係が示されている。当該図3より、特許文献3のように作動(対象)流体の圧力を25MPa程度までしか昇圧ができない場合、生理食塩水(0.9wt%)を用いると、過冷却度は最大で2.5℃程度である。非特許文献6の図8では、塩化ナトリウム水溶液(0.9wt%、3.0%)に対する過冷却度と生成される氷スラリーのIPF(Ice-packing factor:氷充填率)との関係が示されている。当該図8で、「Eq.(3)」は同文献中の式3(定圧比熱、融解潜熱、過冷却度からIPFを求めるための式)を示す。実験値の妥当性を示すために当該図8のグラフ中に書かれているということである。当該図8に示されるように、過冷却度とIPFとは比例関係にある。当該図8より、特許文献3のように過冷却度が最大で2.5℃程度の場合、生成される氷スラリーのIPFは最大で3wt%程度と低い。そのため、使用用途によっては冷却性能が不十分であるという問題があった。例えば、医療分野における腹腔鏡手術において氷スラリーで臓器を冷やす場合、臓器に氷スラリーを供給できる量が限られているため、特許文献3のように生成される氷スラリーのIPFが低いと臓器への冷却性能が不十分であるという問題があった。
【0007】
そこで、本発明の目的は上記問題を解決するためになされたものであり、医療分野への応用を考慮し、作動(対象)流体として人体に無害な低濃度塩化ナトリウム水溶液、いわゆる生理食塩水を用いて圧力と温度制御のみにより氷スラリーを生成する氷スラリー製造装置及び製造方法において、当該作動(対象)流体への圧力をより高圧にしても保持することができ、従って生成される氷スラリーのIPFをより高くすることができ、冷却性能を大幅に向上させることができる氷スラリー製造装置及び製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明の氷スラリー製造装置は、氷スラリー原液で満たされた原液容器と、該原液容器を内部の不凍液中に保持した外側容器と、該外側容器の一端側から水密性を保持しつつ該外側容器の内部へ挿入可能な加圧部と、該加圧部を前記外側容器側に固定可能な固定部と、該外側容器の他の一端側に設けられたバルブとを備えた氷スラリー製造装置であって、前記バルブを閉とした後、前記外側容器内へ挿入された前記加圧部に外部から圧力を印加することにより、前記不凍液を介して前記原液容器内を所定の加圧状態とし、前記固定部により前記加圧部の前記外側容器の外部への反発を固定した後、前記氷スラリー製造装置全体が外部の冷凍機構内に設置されることにより、前記不凍液を介して前記原液容器内を所定の温度まで冷却し、外部の冷凍機構から取り出された前記氷スラリー製造装置のバルブを開として、前記不凍液を介して前記原液容器内を常圧へ減圧することにより、氷スラリーを生成することを特徴とする。
【0009】
ここで、この発明の氷スラリー製造装置において、生成された氷スラリーを前記原液容器内から押出す所定の押出し具をさらに備え、氷スラリーが生成された後に、前記固定部が前記外側容器側から取り外され、前記原液容器が前記外側容器内から取出され、前記所定の押出し具により、生成された氷スラリーを前記原液容器内から押出すことができる。
【0010】
ここで、この発明の氷スラリー製造装置において、前記原液容器及び前記外側容器は管状の形状を有し、該外側容器は該原液容器を不凍液を介して内部に収容可能な内径及び管長を有すると共に、前記加圧工程における所定の圧力に耐え得る耐圧性を有することができる。
【0011】
ここで、この発明の氷スラリー製造装置において、前記加圧部は前記外側容器の内径より小さく且つ前記原液容器の外径と略同等の径を有する棒状の形状であり、該棒の表面に該外側容器の内径と略同等の径を有するOリングが嵌め込まれたものとすることができる。
【0012】
ここで、この発明の氷スラリー製造装置において、前記外側容器の前記一端側に設けられた第一圧力受具と、第一圧力受具と対向させる第二圧力受具とを有する圧力受部をさらに備え、前記原液容器内の加圧は、前記バルブを閉とした後、前記第一圧力受具を通して前記加圧部の一端側が前記外側容器内へ挿入され該加圧部の他端側に第二圧力受具が嵌め込まれた状態で、該第二圧力受具に外部から圧力を印加することにより、前記不凍液を介して前記原液容器内を所定の加圧状態とするものであり、前記固定部は、前記圧力受部を固定する第一及び第二圧力固定具を有し、前記固定部による固定は、第一圧力受具及び第二圧力受具の二側面側に第一圧力固定具及び第二圧力固定具が各々嵌め込まれることにより、前記加圧部の前記外側容器の外部への反発を固定することができる。
【0013】
ここで、この発明の氷スラリー製造装置において、第一圧力固定具と第二圧力固定具との間に差し込み可能な第三圧力固定具をさらに備え、前記固定部よる固定後に、第二圧力受具に外部から印加された再圧力による第二圧力受具の前記外側容器側への移動によって生じた、第一圧力固定具と第二圧力固定具との間の空隙に第三圧力固定具を差し込むことにより、前記加圧部の前記外側容器の外部への反発を再固定することができる。
【0014】
ここで、この発明の氷スラリー製造装置において、前記所定の圧力は少なくとも100MPaとすることができる。
【0015】
ここで、この発明の氷スラリー製造装置において、前記氷スラリー原液は低濃度の塩化ナトリウム水溶液とすることができる。
【0016】
ここで、この発明の氷スラリー製造装置において、前記不凍液は塩化ナトリウムの飽和水溶液とすることができる。
【0017】
この発明の氷スラリー製造方法は、氷スラリー原液で満たされた原液容器と、該原液容器を内部の不凍液中に保持した外側容器と、該外側容器の一端側から水密性を保持しつつ該外側容器の内部へ挿入可能な加圧部と、該加圧部を前記外側容器側に固定可能な固定部と、該外側容器の他の一端側に設けられたバルブとを具備した氷スラリー製造装置を用いた氷スラリー製造方法であって、前記バルブを閉とした後、前記加圧部を前記外側容器内へ挿入し、該加圧部に外部から圧力を印加することにより、前記不凍液を介して前記原液容器内を所定の加圧状態とする加圧工程と、前記固定部により前記加圧部の前記外側容器の外部への反発を固定する固定工程と、前記氷スラリー製造装置全体を外部の冷凍機構内に設置し、前記不凍液を介して前記原液容器内を所定の温度まで冷却する冷却工程と、外部の冷凍機構から取り出された前記氷スラリー製造装置のバルブを開として、前記原液容器内を常圧へ減圧することにより、に氷スラリーを生成する氷スラリー生成工程とを備えたことを特徴とする。
【0018】
ここで、この発明の氷スラリー製造方法において、前記氷スラリー生成工程の後に、前記固定部を取り外し、前記原液容器を前記外側容器内から取出す原液容器取り出し工程と、前記原液容器取り出し工程で取り出された前記原液容器から、前記氷スラリー生成工程で生成された氷スラリーを所定の押出し具により押出す氷スラリー押出し工程とをさらに備えることができる。
【0019】
ここで、この発明の氷スラリー製造方法において、前記原液容器及び前記外側容器は管状の形状を有し、該外側容器は該原液容器を不凍液を介して内部に収容可能な内径及び管長を有すると共に、前記加圧工程における所定の圧力に耐え得る耐圧性を有することができる。
【0020】
ここで、この発明の氷スラリー製造方法において、前記加圧部は前記外側容器の内径より小さく且つ前記原液容器の外径と略同等の径を有する棒状の形状であり、該棒の表面に該外側容器の内径と略同等の径を有するOリングが嵌め込まれたものとすることができる。
【0021】
ここで、この発明の氷スラリー製造方法において、前記加圧部が挿入される前記外側容器の一端側に設けられた第一圧力受具と、第一圧力受具と対向させる第二圧力受具とを有する圧力受部をさらに備え、前記加圧工程は、前記バルブを閉とした後、前記第一圧力受具を通して前記加圧部の一端側を前記外側容器内へ挿入し、該加圧部の他端側に嵌め込まれた第二圧力受部に外部から圧力を印加することにより、前記不凍液を介して前記原液容器内を所定の加圧状態とするものであり、前記固定部は、前記圧力受部を固定する第一及び第二圧力固定具を有し、前記固定工程は、第一圧力受具及び第二圧力受具の二側面側に第一圧力固定具及び第二圧力固定具を各々嵌め込むことにより、前記加圧部の前記外側容器の外部への反発を固定することができる。
【0022】
ここで、この発明の氷スラリー製造方法において、前記固定工程後に、第二圧力受具に外部から再圧力を印加する再印加工程と、前記再印加工程による第二圧力受具の前記外側容器側への移動により生じた第一圧力固定具と第二圧力固定具との間の空隙に第三圧力固定具を差し込むことにより、前記加圧部の前記外側容器の外部への反発を再固定する再固定工程とをさらに備えることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明の氷スラリー製造装置及び製造方法によれば、固定部を外した状態で、シャットオフ弁を閉とした後、耐圧冷凍用容器内へ加圧棒を挿入し、挿入された加圧棒に外部から圧力を印加する。この圧力の印加により、不凍液を介して生理食塩水用容器内を所定の加圧状態とする。続いて、固定部により加圧棒の耐圧冷凍用容器の外部への反発を固定する。この後、氷スラリー製造装置全体が外部の冷凍機構内に設置されることにより、不凍液を介して生理食塩水用容器内を所定の温度まで冷却する。外部の冷凍機構から取り出された氷スラリー製造装置のシャットオフ弁を開として、不凍液を介して生理食塩水用容器内を常圧(大気圧)へ減圧することにより、氷スラリー原液から氷スラリーを生成することができる。即ち、本発明の氷スラリー製造装置及び製造方法は氷スラリー原液の周りを不凍液で覆い、この不凍液を加圧冷却し減圧することにより、即ち圧力と温度制御のみにより、氷スラリーを製造する点に特徴がある。耐圧冷凍用容器は耐圧性を高めたステンレス製ノズルにより作製したものであり、少なくとも100Mpa程度の圧力に耐え得る耐圧性を有している。このため、耐圧冷凍用容器内を加圧した場合、少なくとも100Mpa程度まで昇圧・保持が可能である。以上の結果、医療分野への応用を考慮し、作動(対象)流体として人体に無害な低濃度塩化ナトリウム水溶液、いわゆる生理食塩水を用いて圧力と温度制御のみにより氷スラリーを生成する氷スラリー製造装置及び製造方法において、当該作動(対象)流体への圧力をより高圧にしても保持することができ、従って生成される氷スラリーのIPFをより高くすることができ、冷却性能を大幅に向上させることができる氷スラリー製造装置及び製造方法を提供することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の氷スラリー製造装置100の概念図である。
図2】本発明の氷スラリー製造装置100の具体例を示す図である。
図3】氷スラリー製造装置100を示す写真である。
図4】氷スラリー製造方法の工程1(組立工程1)を示す図である。
図5】氷スラリー製造方法の工程2(組立工程2)を示す図である。
図6】氷スラリー製造方法の工程3(組立工程3)を示す図である。
図7】氷スラリー製造方法の工程4(加圧工程)を示す図である。
図8】実験に用いたプレス機械Pa(150tプレス機)を示す写真である。
図9】プレス機械Paに図7に示される氷スラリー製造装置100をセットした状態を示す写真である。
図10】氷スラリー製造方法の工程5(固定工程)を示す図である。
図11図10に示された氷スラリー製造装置100を写真で示す図である。
図12図10に示された氷スラリー製造装置100をプレス機械Paにセットした状態で、第一圧力固定具44a及び第二圧力固定具44b部分を拡大した写真である。
図13図12に示された状態を左側面側から撮影した写真である。
図14】氷スラリー製造方法の工程6(冷却工程)を示す図である。
図15】氷スラリー製造方法の工程7(減圧、氷スラリー生成工程)及び工程8の1を示す図である。
図16】氷スラリー製造方法の工程8の2を示す図である。
図17】氷スラリー製造方法の工程9(氷スラリー押出し工程)を示す図である。
図18】実施例2における圧力の再印加工程等を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、まず、本発明の氷スラリー製造装置及び製造方法の概念について説明し、次に各実施例について図面を参照して詳細に説明する。
【0026】
本発明の氷スラリー製造装置の概念.
図1は、本発明の氷スラリー製造装置100の概念図を示す。図1で符号10は氷スラリー原液ISudで満たされた原液容器、20は原液容器10を内部の不凍液AF中に保持した外側容器、、30は外側容器20の一端側(図1では上部側)から水密性を保持しつつ外側容器20の内部(図1では下方側)へ挿入可能な加圧部、40は加圧部30を外側容器20側に固定可能な固定部、50は外側容器20の他の一端側(図1では下部側)に設けられたバルブである。
【0027】
本発明の氷スラリー製造方法の概念.
次に、図1を用いて本発明の氷スラリー製造方法の概念について説明する。まず、図1に示される固定部40を外した状態で、バルブ50を閉とした後、外側容器20内へ加圧部30を挿入し、挿入された加圧部30に外部から圧力Pを印加する。圧力Pは図1に示される矢印のように加圧部30の上方から印加する。この圧力Pの印加により、不凍液AFを介して原液容器10内を所定の加圧状態とする。続いて、固定部40により加圧部30の外側容器20の外部(図1では上方)への反発を固定する。この後、氷スラリー製造装置100全体が外部の冷凍機構(不図示)内に設置されることにより、不凍液AFを介して原液容器10内を所定の温度まで冷却する。外部の冷凍機構から取り出された氷スラリー製造装置100のバルブ50を開として、不凍液AFを介して原液容器10内を常圧(大気圧)へ減圧することにより、氷スラリー原液ISudから氷スラリーIS(不図示)を生成する。以上のように、本発明の氷スラリー製造方法は氷スラリー原液ISudの周りに不凍液AFを満たし、この不凍液AFを加圧冷却し減圧することにより、即ち圧力と温度制御のみにより、氷スラリーISを製造する点に特徴がある。以下、各実施例について図面を参照して詳細に説明する。
【実施例0028】
図2は、本発明の氷スラリー製造装置100の具体例を示す。図2図1と同じ符号を付した箇所は同じ要素を示すため、説明は省略する。図2で矢印で範囲を示した数値は各部のサイズ(mm)を示す。しかし、当該サイズはあくまでも一例であって、本発明の氷スラリー製造装置100を限定するものではない。図2に示されるように、生理食塩水用容器10(原液容器10の具体例)は管状の形状であり、左右端に着脱可能な蓋12a、12bを備えている。生理食塩水用容器10の管長は202mm、管径は内径が6mmで外径が8mmであり、内部に示された鎖線は空洞になっていることを示す。後述するように、生理食塩水用容器10内には生理食塩水ISud(氷スラリー原液ISudの具体例)が満たされる。
【0029】
図2に示されるように、耐圧冷凍用容器20(外側容器20の具体例)は管状の形状であり、管長は250mm、管径は内径が10mmで外径が20mmであり、内部に示された鎖線は空洞になっていることを示す。つまり、耐圧冷凍用容器20は生理食塩水用容器10を内部に収容可能な内径及び管長を有している。耐圧冷凍用容器20は耐圧性を高めたステンレス製ノズルにより作製したものであり、少なくとも100Mpa(所定の圧力)程度の圧力に耐え得る耐圧性を有している。このため、耐圧冷凍用容器20内を加圧した場合、少なくとも100Mpa程度まで昇圧・保持が可能である。後述するように、耐圧冷凍用容器20内には生理食塩水用容器10が収容され、両者の間には不凍液AFが満たされる。
【0030】
図2に示されるように、加圧棒30(加圧部30の具体例)は耐圧冷凍用容器20の内径(10mm)より小さく且つ生理食塩水用容器10の外径(8mm)と略同等の径を有する棒状の形状であり、棒の長さは55mmである。
【0031】
図2で、符号32aは耐圧冷凍用容器20の一端T1側(加圧棒30が挿入される側)に設けられた第一圧力受具であり、32bは第一圧力受具32aと対向させる第二圧力受具である。各々、横幅は10mmで縦幅は45mmであり、第一圧力受具32aと第二圧力受具32bとにより圧力受部32を構成する。図2に示されるように、第一圧力受具32aを通して加圧棒30の一端側(図2では左端側)が耐圧冷凍用容器20内へ挿入され、加圧棒30部の他端側(図2では右端側)に第二圧力受具32bが嵌め込まれる。
【0032】
図2で、符号44a、44bは圧力受部32を固定する第一固定具及び第二固定具(固定部40の具体例)である。図面の都合上、第二固定具44bは不図示となっており、符号44a(44b)と表示してある。第一固定具44a(及び第二固定具44b)は角型鋼管等を所望の厚さに切断した形状であり、外側の横幅が68.5mmで縦幅67mmであり、内側の横幅が48.5mmで縦幅46.7mmである。第一固定具44a及び第二固定具44bによる固定は、第一圧力受具32a及び第二圧力受具32bの二側面側に(図2では紙面表側及び裏側に)第一圧力固定具44a及び第二圧力固定具44bが各々嵌め込まれることにより行われる。
【0033】
図2で、符号50は耐圧冷凍用容器20の他の一端T2側に設けられたシャットオフ弁(バルブ50の具体例)であり、52はシャットオフ弁50のハンドルである。シャットオフ弁50は圧力の流れの開閉に用いられる2方弁であり、1つの弁54a(点線円で示す。)は耐圧冷凍用容器20側にあり、他の1つの弁54b(点線円で示す。)は反対側にある。点線円内の斜線は外部の器具と接続する際に用いられるネジの形状を示す。シャットオフ弁50の横幅は68mmで縦幅は35mmである。符号56はシャットオフ弁50と耐圧冷凍用容器20とを繋ぐ高圧ニップルであり、横幅は10mmである。
【0034】
生理食塩水用容器10内の加圧は以下のように行われる。まず、生理食塩水ISudが満たされた生理食塩水用容器10を、耐圧冷凍用容器20内に不凍液AFを介して保持する。ハンドル52を回してシャットオフ弁50を閉とした後、第一圧力受具32aを通して加圧棒30の一端側が耐圧冷凍用容器20内へ挿入され、加圧棒30の他端側に第二圧力受具32bが嵌め込まれる。この状態で、第二圧力受具32bに(従って加圧棒30に)外部から圧力を印加することにより、耐圧冷凍用容器20内を(従って不凍液AFを介して生理食塩水用容器10内を)所定の加圧状態とすることができる。このように加圧された場合、第一固定具44a及び第二固定具44bによる上述した固定により、加圧棒30が耐圧冷凍用容器20の内部から外部へ(図2では右方向へ)反発することを固定することができる。
【0035】
図3は、上述した氷スラリー製造装置100を写真で示す。図3図2と同じ符号を付した個所は同じ要素を示すため、説明は省略する。図3では、第一固定具44aと第二固定具44bとが分けて示されている。図3に示されるように、加圧棒30の棒表面には耐圧冷凍用容器20の内径と略同等の径を有するOリング34が嵌め込まれている。このOリング34により、耐圧冷凍用容器20の一端T1側から水密性を保持しつつ耐圧冷凍用容器20の内部へ加圧棒30を挿入することができる。即ち、加圧棒30を加圧した際、加圧棒30を耐圧冷凍用容器20内へ押し込むと同時に、耐圧冷凍用容器20内から不凍液AFが漏れ出ないようにする(水密性を保つ)ことができる。図3ではOリング34は2か所に設けられているが、2か所に限定されるものではない。図3で、符号70は生成された氷スラリーを生理食塩水用容器10内から押出す氷スラリー押出し具(所定の押出し具)である。詳しくは後述する。
【0036】
次に、氷スラリー製造装置100を用いた本発明の氷スラリー製造方法について説明する。当該製造方法には氷スラリー製造装置100の組立工程も含まれる。図4は、氷スラリー製造方法の工程1(組立工程1)を示す。図4図2と同じ符号を付した個所は同じ要素を示すため、説明は省略する。図4に示されるように、生理食塩水用容器10の内部に示された鎖線は内部が空洞になっていることを示す(以下同様であるため、生理食塩水用容器10内の鎖線についての説明は省略する。)。図4で、符号Csは氷スラリー原液ISudを入れたスポイト等の容器である。氷スラリー原液ISudの具体例としては低濃度の塩化ナトリウム水溶液が好適である。より具体的には、塩化ナトリウムを0.9wt%含有する水溶液、つまり生理食塩水が好適である。これは、生体組織に直接接触するような医療用冷却剤として用いることができる氷スラリーを製造するという本発明の目的に合致するためである。但し、低濃度の程度は0.9wt%に限定されるものではなく、0.3wt%~3.0wt%程度であってもよい。図4に示されるように、蓋12aを外し、生理食塩水用容器10内へ容器Csから生理食塩水ISudを入れて、生理食塩水用容器10内を生理食塩水ISudで満たし、蓋12aで蓋をする。
【0037】
図5は、氷スラリー製造方法の工程2(組立工程2)を示す。図5図2と同じ符号を付した個所は同じ要素を示すため、説明は省略する。図5に示されるように、耐圧冷凍用容器20の内部に示された鎖線は内部が空洞になっていることを示す(以下同様であるため、耐圧冷凍用容器20内の鎖線についての説明は省略する。)。図5で、符号Cpは不凍液AFを入れたボトル等の容器である。不凍液AFの具体例としては塩化ナトリウムの飽和水溶液が好適である。図5に示されるように、ハンドル52を回してシャットオフ弁50を閉とする。耐圧冷凍用容器20の一端T1側から、容器Cp内の不凍液AFを耐圧冷凍用容器20内に水位が約70%程度になるまで注入する。但し、70%というのは目安であってこの割合に限定されるものではない。
【0038】
図6は、氷スラリー製造方法の工程3(組立工程3)を示す。図6図2及び図5と同じ符号を付した個所は同じ要素を示すため、説明は省略する。図6に示されるように、工程2で不凍液AFを70%程度満たした耐圧冷凍用容器20内に、工程1で生理食塩水を満たした生理食塩水用容器10を自重を利用して入れる。その後、耐圧冷凍用容器20内を不凍液AFで100%になるまで満たす。
【0039】
図7は、氷スラリー製造方法の工程4(加圧工程)を示す。図7図2と同じ符号を付した個所は同じ要素を示すため、説明は省略する。図7に示されるように、シャットオフ弁50の弁54b側に圧力計60を接続する。耐圧冷凍用容器20の一端T1側から加圧棒30を挿入し、第二圧力受具32bを加圧棒30の一端側(耐圧冷凍用容器20への挿入側と反対側)に装着する。この後、外部の加圧機構(プレス機械等)Paを用いて任意の圧力Pを第二圧力受具32bにかける。プレス機械Paは実際は図7に示されたサイズより大きいが、図面の都合上、概念的な加圧機構Paとして示す。加圧された圧力Pは圧力計60に表示される。以上により、圧力Pは第二圧力受具32b及び加圧棒30を介して冷凍用容器20内の不凍液AFに印加され、生理食塩水用容器10内の生理食塩水ISudに印加され、生理食塩水用容器10内を所定の加圧状態とすることができる。即ち、シャットオフ弁50を閉とした後、加圧棒30の一端側を第一圧力受具32aを通して耐圧冷凍用容器20内へ挿入し、加圧棒30の他端側に嵌め込まれた第二圧力受具32bに外部(加圧機構Pa)から圧力Pを印加することにより、不凍液AFを介して生理食塩水用容器10内を所定の加圧状態とする(加圧工程)。上述したように、加圧棒30の棒表面には耐圧冷凍用容器20の内径と略同等の径を有するOリング34が嵌め込まれている。このOリング34により、耐圧冷凍用容器20の一端T1側から水密性を保持しつつ耐圧冷凍用容器20の内部へ加圧棒30を挿入することができる。任意の圧力Pとしては100MPa(所定の圧力)とした。但し、これはプレス機械Paの性能上の数値であり、耐圧冷凍用容器20にはより高圧をかけることも可能である。このため、任意の圧力Pとしては少なくとも100MPaとなる。なお、図7では、第一圧力固定具44a及び44bは、図3に示されるような平面的な状態から90度回転させて(矢印方向で示す。)、第一圧力受具32a及び第二圧力受具32bへ嵌め込まれる直前の状態を示している。
【0040】
図8は、実験に用いたプレス機械Pa(150tプレス機)を示す写真である。図9は、プレス機械Paに図7に示される氷スラリー製造装置100をセットした状態を示す写真である。図9図7と同じ符号を付した個所は同じ要素を示すため、説明は省略する。
【0041】
図10は、氷スラリー製造方法の工程5(固定工程)を示す。より具体的には、図10図7に示された氷スラリー製造装置100において、第一圧力受具32a及び第二圧力受具32bが固定された状態を示す。図10では図面の都合上、圧力計60は省略してある。図10に示されるように、第一圧力受具32a及び第二圧力受具32bの二側面側に(図10では左右側面側に)第一圧力固定具44a及び第二圧力固定具44bが各々嵌め込まれ、第一圧力受具32a及び第二圧力受具32bが固定される。この固定により、加圧棒30が耐圧冷凍用容器20の内部から外部へ(図10では上方向へ)反発することを固定することができる。即ち、固定部40により加圧棒30の耐圧冷凍用容器20の外部への反発を固定する(固定工程)。
【0042】
図11は、図10に示された氷スラリー製造装置100を写真で示す。図11図10と同じ符号を付した個所は同じ要素を示すため、説明は省略する。図11では図面の都合上、プレス機械Paは省略している。図12は、図10に示された氷スラリー製造装置100をプレス機械Paにセットした状態で、第一圧力固定具44a及び第二圧力固定具44b部分を拡大した写真を示す。図12図10と同じ符号を付した個所は同じ要素を示すため、説明は省略する。図13は、図12に示された状態を左側面側から撮影した写真である。図13図12と同じ符号を付した個所は同じ要素を示すため、説明は省略する。
【0043】
図14は、氷スラリー製造方法の工程6(冷却工程)を示す。図14図10と同じ符号を付した個所は同じ要素を示すため、説明は省略する。図14に示されるように、図10に示された氷スラリー製造装置100全体を外部の冷凍機構Rf内に設置し、不凍液AFを介して生理食塩水用容器10内を所定の温度まで冷却する(冷却工程)。冷凍機構Rfとしては適宜冷凍庫を用いればよい。所定の温度としては-10℃が好適である。上述した非特許文献6の図3から推測すると、3.0wt%の場合、圧力100MPaで凝固点が約-8℃~-10℃となる。生理食塩水(0.9wt%)の場合では圧力100MPaで凝固点が約-8℃程度と、ほぼ同程度の温度となる。このため、生理食塩水ISudに対する所定の温度(冷却温度)として-10℃と設定した。
【0044】
図15は、氷スラリー製造方法の工程7(減圧、氷スラリー生成工程)及び工程8の1を示す。図15図14と同じ符号を付した個所は同じ要素を示すため、説明は省略する。図15に示されるように、外部の冷凍機構Rfから取り出された氷スラリー製造装置100のシャットオフ弁50を開として、耐圧冷凍用容器20内を、従って生理食塩水用容器10内を常圧(大気圧)へ減圧する(減圧工程)。この時、生理食塩水用容器10内の生理食塩水ISudから氷スラリーISが生成される(氷スラリー生成工程)。なお、上記固定工程(図10)後は、第一固定具44a及び第二固定具44bは外れない状態となっている。しかし、シャットオフ弁50を開とした後は第一固定具44a及び第二固定具44bが容易に取り外せる状態となっているため、減圧されたことを確認できる。
【0045】
図15の一部(右下図)は、氷スラリー製造方法の工程8の1を示す。図15に示されるように、減圧後であるため第一固定具44a及び第二固定具44b(固定部40)を取り外す。図16は、氷スラリー製造方法の工程8の2を示す。図16図15と同じ符号を付した個所は同じ要素を示すため、説明は省略する。図16に示されるように、工程8-1で第一固定具44a及び第二固定具44bが取り外された耐圧冷凍用容器20内から、生理食塩水用容器10を取出す(原液容器取り出し工程)。
【0046】
図17は、氷スラリー製造方法の工程9(氷スラリー押出し工程)を示す。図17に示されるように、工程8の2で取出された生理食塩水用容器10の蓋12aを開け、生理食塩水用容器10内から工程7(氷スラリー生成工程)で生成された氷スラリーISを氷スラリー押出し具70(図3参照)により、容器Ccへ押出す(氷スラリー押出し工程)。
【0047】
上述したように、生理食塩水の場合、圧力100MPaにおける凝固点は約-10℃である。上述した非特許文献6の図3から推測すると、過冷却度は約8℃となる。従って非特許文献6の図8から推測すると、生成された氷スラリーISのIPFは約10wt%になると考えられる。特許文献3のように過冷却度が最大で2.5℃程度の場合、生成される氷スラリーのIPFは最大で3wt%程度と低い。そのため、使用用途によっては冷却性能が不十分であるという問題があった。一方、本発明の氷スラリー製造方法によれば、生成される氷スラリーのIPFをより高く約10wt%とすることができた。この結果、例えば医療分野における腹腔鏡手術において、冷却性能を大幅に向上させた氷スラリーISで臓器を冷やすことが可能となる。なお、本明細書では氷スラリー原液ISudとして生理食塩水を用いたが、非特許文献6に記載されているような低濃度ではない塩化ナトリウム水溶液、エタノール水溶液又は真水を用いても同様に、IPFの高い氷スラリーを生成することは可能である。なお、真水を用いた氷スラリーは半導体の冷却等に対しても適用可能である。
【0048】
以上より、本発明の実施例1によれば、図1等に示される固定部40を外した状態で、シャットオフ弁(バルブ)50を閉とした後、耐圧冷凍用容器(外側容器)20内へ加圧棒(加圧部)30を挿入し、挿入された加圧棒30に外部から圧力Pを印加する。この圧力Pの印加により、不凍液AFを介して生理食塩水用容器(原液容器)10内を所定の加圧状態とする。続いて、固定部40により加圧棒30の耐圧冷凍用容器20の外部への反発を固定する。この後、氷スラリー製造装置全体100が外部の冷凍機構Rf内に設置されることにより、不凍液AFを介して生理食塩水用容器10内を所定の温度まで冷却する。外部の冷凍機構Rfから取り出された氷スラリー製造装置100のシャットオフ弁50を開として、不凍液AFを介して生理食塩水用容器10内を常圧(大気圧)へ減圧することにより、氷スラリー原液ISudから氷スラリーISを生成する。以上のように、本発明の氷スラリー製造方法は氷スラリー原液ISudの周りに不凍液AFを満たし、この不凍液AFを加圧冷却し減圧することにより、即ち圧力と温度制御のみにより、氷スラリーISを製造する点に特徴がある。耐圧冷凍用容器20は耐圧性を高めたステンレス製ノズルにより作製したものであり、少なくとも100Mpa(所定の圧力)程度の圧力に耐え得る耐圧性を有している。このため、耐圧冷凍用容器20内を加圧した場合、少なくとも100Mpa程度まで昇圧・保持が可能である。以上の結果、医療分野への応用を考慮し、作動(対象)流体として人体に無害な低濃度塩化ナトリウム水溶液、いわゆる生理食塩水を用いて圧力と温度制御のみにより氷スラリーを生成する氷スラリー製造装置及び製造方法において、当該作動(対象)流体への圧力をより高圧にしても保持することができ、従って生成される氷スラリーのIPFをより高くすることができ、冷却性能を大幅に向上させることができる氷スラリー製造装置及び製造方法を提供することができる。
【実施例0049】
実施例2では、実施例1の図10で示される工程5(固定工程)の後に、第二圧力受具32bに外部から再圧力P’を印加する場合について説明する。図18は、実施例2における圧力の再印加工程等を示す。図18図10と同じ符号を付した個所は同じ要素を示すため、説明は省略する。図18に示されるように、実施例1の図10で示される工程5(固定工程)の後に、第二圧力受具32bに外部から再圧力P’を印加する(再印加工程)。この再印加工程により、第二圧力受具32bは耐圧冷凍用容器20側へ移動する(図18では第二圧力受具32bから32b’への矢印で示す。)。この移動の結果、第一固定具44aと第二固定具44bとの間に空隙Sが生じることになる。当該空隙Sに差し込み可能な第三固定具(第三圧力固定具)46を差し込むことにより、加圧棒32の耐圧冷凍用容器20の外部への反発を再固定する(再固定工程)。なお、図18では図面の都合上、空隙Sと第三固定具46とを重ねて示した。
【0050】
以上より、本発明の実施例2によれば、実施例1の固定工程の後に、第二圧力受具32bに外部から再圧力P’を印加することも可能である。この結果生じた第一固定具44aと第二固定具44bとの間の空隙Sに第三固定具46を差し込むことにより、加圧棒32の耐圧冷凍用容器20の外部への反発を再固定することができる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の活用例として、空調用冷熱源又は半導体の冷却等のみならず、医療分野における外科手術、好適には腹腔鏡手術において臓器を冷やす氷スラリーとして用いることができる。
【符号の説明】
【0052】
10 生理食塩水用容器(原液容器)、 12a、12b 蓋、 20 耐圧冷凍用容器(外側容器)、 30 加圧棒(加圧部)、 32 圧力受部、 32a 第一圧力受具、 32b 第二圧力受具、 34 Oリング、 40 固定部、 44a 第一固定具、 44b 第二固定具、 46 第三固定具、 50 シャットオフ弁(バルブ)、 52 ハンドル、 54a、54b 弁、 56 高圧ニップル、 60 圧力計、 70 氷スラリー押出し具、 100 氷スラリー製造装置。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0053】
【特許文献1】特開平6-117740
【特許文献2】特開平5-172444
【特許文献3】特許第6168644号
【非特許文献】
【0054】
【非特許文献1】平明、 田中紘輝、 上村亮三、 熊谷輝雄: 日消外会誌、21巻(4) 、1199(1988)。
【非特許文献2】T. Hirata, T. Nishi and M. Ishikawa: Int. J. Refrig.,vol.26, 189(2003).
【非特許文献3】浅岡龍徳、 齋藤彬夫、 大河誠司、 熊野寛之、 宝積勉、 松永辰三、 一岡順: 冷空論、23巻(2)、165(2006)。
【非特許文献4】鈴木洋、 岡田和人、 藤澤亮、 菰田悦之、 薄井洋基: 冷空論、 23巻(2)、177(2008)。
【非特許文献5】姜採東、 岡田昌志、 織田信輔、 松本浩二、 川越哲男: 冷空論、 18巻(1)、51(2001)。
【非特許文献6】K. Fumoto, T. Sato, T. Kawanami and T. Inamura; "Ice Slurry Generation for Direct Contact Cooling", J. of Thermal Science and Engineering Applications, vol.8, JUNE 2016.
図1
図2
図3
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図5
図6
図7
図8
図9
図10
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