(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023043426
(43)【公開日】2023-03-29
(54)【発明の名称】統合報告書の評価方法、評価プログラムおよび評価装置
(51)【国際特許分類】
G06F 40/253 20200101AFI20230322BHJP
G06F 40/30 20200101ALI20230322BHJP
【FI】
G06F40/253
G06F40/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021151069
(22)【出願日】2021-09-16
(71)【出願人】
【識別番号】521410005
【氏名又は名称】りそなアセットマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100152205
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 昌司
(72)【発明者】
【氏名】南 聖治
(72)【発明者】
【氏名】若月 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】河合 祐二朗
(72)【発明者】
【氏名】松原 稔
(72)【発明者】
【氏名】花城 輝樹
【テーマコード(参考)】
5B091
【Fターム(参考)】
5B091AA15
5B091CA12
5B091CC04
5B091CD11
5B091EA01
(57)【要約】
【課題】統合報告書を迅速かつ客観的に評価できるとともに、評価の根拠が理解し易い、統合報告書の評価方法、評価プログラムおよび評価装置を提供する。
【解決手段】統合報告書評価装置1は、評価項目に対して設定された複数の概念語の各々の単語ベクトルの平均値を計算して、概念ベクトルを取得する概念ベクトル取得部12と、統合報告書の文ごとに、当該文に含まれる複数の単語の各々の単語ベクトルの平均値を計算して、文ベクトルを取得する文ベクトル取得部13と、統合報告書の文ごとに、概念ベクトルと文ベクトルとの類似度を示す特徴量を計算する特徴量計算部14と、統合報告書の文ごとに計算された特徴量に基づいて、評価項目に対するスコアを計算するスコア計算部15と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
統合報告書を評価するための方法であって、
評価項目に対して設定された複数の概念語の各々の単語ベクトルの平均値を計算して、概念ベクトルを取得するステップと、
統合報告書の文ごとに、当該文に含まれる複数の単語の各々の単語ベクトルの平均値を計算して、文ベクトルを取得するステップと、
前記統合報告書の文ごとに、前記概念ベクトルと前記文ベクトルとの類似度を示す特徴量を計算するステップと、
前記統合報告書の文ごとに計算された前記特徴量に基づいて、前記評価項目に対するスコアを計算するステップと、
を備えることを特徴とする統合報告書の評価方法。
【請求項2】
前記概念ベクトルと前記文ベクトルとのコサイン類似度を計算することにより、前記特徴量を計算することを特徴とする請求項1に記載の統合報告書の評価方法。
【請求項3】
前記統合報告書の文ごとに計算された前記特徴量のうち、前記特徴量の上位から所定数の文の特徴量に基づいて、前記スコアを計算することを特徴とする請求項1または2に記載の統合報告書の評価方法。
【請求項4】
前記スコアを偏差値および/または多段階評価値に変換することを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の統合報告書の評価方法。
【請求項5】
複数の評価項目に対する複数の前記スコアに基づいて、前記統合報告書に対する総合スコアを計算するステップをさらに備えることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の統合報告書の評価方法。
【請求項6】
前記総合スコアを偏差値および/または多段階評価値に変換することを特徴とする請求項5に記載の統合報告書の評価方法。
【請求項7】
前記概念語の単語ベクトル、および前記統合報告書の文に含まれる単語の単語ベクトルは、統合報告書を学習データとして機械学習により作成された分散表現辞書を参照して取得されることを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載の統合報告書の評価方法。
【請求項8】
統合報告書を評価するためのプログラムであって、
コンピュータに、請求項1~7のいずれかに記載の評価方法を実行させるためのプログラム。
【請求項9】
統合報告書を評価するための装置であって、
評価項目に対して設定された複数の概念語の各々の単語ベクトルの平均値を計算して、概念ベクトルを取得する概念ベクトル取得部と、
統合報告書の文ごとに、当該文に含まれる複数の単語の各々の単語ベクトルの平均値を計算して、文ベクトルを取得する文ベクトル取得部と、
前記統合報告書の文ごとに、前記概念ベクトルと前記文ベクトルとの類似度を示す特徴量を計算する特徴量計算部と、
前記統合報告書の文ごとに計算された前記特徴量に基づいて、前記評価項目に対するスコアを計算するスコア計算部と、
を備えることを特徴とする統合報告書評価装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、統合報告書の評価方法、評価プログラムおよび評価装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、企業の直面する課題から優先課題を特定して経営戦略ないし事業計画を立案することが企業価値を向上させる上で最重要であると考えられている。そのような経営戦略・事業計画を策定する過程を開示するための書類として統合報告書がある。統合報告書には、企業の売上や資産などの財務情報だけでなく、企業統治、社会的責任(CSR)、知的財産などの非財務情報が記載される。
【0003】
資本市場にとって、統合報告書の発行が推進され、その内容が改善されることは極めて重要である。しかし、統合報告書は有価証券報告書のような法定帳簿ではなく任意提出書類であるため、統合報告書の発行はまだ一部の企業に留まっている。また、その記載内容も十分でない企業が多い。
【0004】
なお、従来、企業のESG評価を行うために、コンピュータ計算等による定量的手法を用いて客観的にESGスコアを算出することは知られているが(非特許文献1)、統合報告書を評価するための定量スコアリングモデルはまだ提案されていないのが現状である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】「アラベスク・アセット・マネジメントの企業サステナビリティ分析ツール」,[online],2017年9月19日,[検索日2021年9月3日],インターネット<URL:https://sustainablejapan.jp/2017/09/19/arabesque-s-ray/28148>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記状況の中、統合報告書の発行推進・内容改善のために、統合報告書を迅速かつ適切に評価することが求められている。しかし、統合報告書には、パーパス(存在意義)、マテリアリティ(優先課題)といった特有の意味を有する専門用語が含まれており、統合報告書を評価できる人材は限られている。また、数多くの統合報告書を評価する必要があるところ、評価者が増えるにつれて評価基準のばらつきが大きくなり、客観性を担保することが困難になる。
【0007】
さらに、統合報告書が、機関投資家等が投資先企業や投資を検討している企業に対して行う、建設的な目的をもった対話(エンゲージメント)において用いられる点を考慮すると、統合報告書を単に評価すればよいというわけではなく、評価の根拠(なぜ評価が高いのか/低いのか、どの点が良いのか/悪いのか等)を理解できることが重要である。したがって、従来の一般的な文書分類の手法により、統合報告書を評価することは適切でない。すなわち、評価の高い(統合開示度の優れた)統合報告書群を教師データとして、評価対象の統合報告書が教師データの統合報告書群にどれだけ類似しているかを判定する手法を採った場合、評価の根拠を理解することが困難であり、企業との対話の場面でコミュニケーションをとりにくいという課題がある。
【0008】
本発明は、上記の認識に基づいてなされたものであり、統合報告書を迅速かつ客観的に評価できるとともに、評価の根拠が理解し易い、統合報告書の評価方法、評価プログラムおよび評価装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る統合報告書の評価方法は
評価項目に対して設定された複数の概念語の各々の単語ベクトルの平均値を計算して、概念ベクトルを取得するステップと、
統合報告書の文ごとに、当該文に含まれる複数の単語の各々の単語ベクトルの平均値を計算して、文ベクトルを取得するステップと、
前記統合報告書の文ごとに、前記概念ベクトルと前記文ベクトルとの類似度を示す特徴量を計算するステップと、
前記統合報告書の文ごとに計算された前記特徴量に基づいて、前記評価項目に対するスコアを計算するステップと、
を備えることを特徴とする。
【0010】
また、前記統合報告書の評価方法において、
前記概念ベクトルと前記文ベクトルとのコサイン類似度を計算することにより、前記特徴量を計算してもよい。
【0011】
また、前記統合報告書の評価方法において、
前記統合報告書の文ごとに計算された前記特徴量のうち、前記特徴量の上位から所定数の文の特徴量に基づいて、前記スコアを計算してもよい。
【0012】
また、前記統合報告書の評価方法において、
前記スコアを偏差値および/または多段階評価値に変換してもよい。
【0013】
また、前記統合報告書の評価方法において、
複数の評価項目に対する複数の前記スコアに基づいて、前記統合報告書に対する総合スコアを計算するステップをさらに備えてもよい。
【0014】
また、前記統合報告書の評価方法において、
前記概念語の単語ベクトル、および前記統合報告書の文に含まれる単語の単語ベクトルは、統合報告書を学習データとして機械学習により作成された分散表現辞書を参照して取得されてもよい。
【0015】
本発明に係る統合報告書を評価するためのプログラムは、
コンピュータに、前記統合報告書の評価方法を実行させることを特徴とする。
【0016】
本発明に係る統合報告書を評価するための装置は、
評価項目に対して設定された複数の概念語の各々の単語ベクトルの平均値を計算して、概念ベクトルを取得する概念ベクトル取得部と、
統合報告書の文ごとに、当該文に含まれる複数の単語の各々の単語ベクトルの平均値を計算して、文ベクトルを取得する文ベクトル取得部と、
前記統合報告書の文ごとに、前記概念ベクトルと前記文ベクトルとの類似度を示す特徴量を計算する特徴量計算部と、
前記統合報告書の文ごとに計算された前記特徴量に基づいて、前記評価項目に対するスコアを計算するスコア計算部と、
を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、統合報告書を迅速かつ客観的に評価できるとともに、評価の根拠が理解し易い、統合報告書の評価方法、評価プログラムおよび評価装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】実施形態に係る統合報告書評価装置の概略的構成を示すブロック図である。
【
図2】実施形態に係る概念語データベースの一例を示す図である。
【
図3】統合報告書の評価結果の一例を示す図である。
【
図4】実施形態に係る統合報告書の評価方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0020】
<統合報告書評価装置>
図1を参照して、本実施形態に係る統合報告書評価装置1(以下、単に「評価装置1」ともいう。)について説明する。統合報告書評価装置1は、統合報告書を評価するための情報処理装置である。
【0021】
統合報告書評価装置1は、
図1に示すように、制御部10と、通信部20と、操作入力部30と、表示部40と、記憶部50とを有する。
【0022】
制御部10は、情報入力部11と、概念ベクトル取得部12と、文ベクトル取得部13と、特徴量計算部14と、スコア計算部15とを有する。各部については後ほど詳しく説明する。本実施形態では、制御部10の各部は、評価装置1のプロセッサが所定のプログラムを実行することにより実現される。
【0023】
なお、制御部10の各部のうち少なくとも一つがハードウェアにより構成されてもよい。また、制御部10の機能は、互いに通信可能な複数の情報処理装置が協働することで実現されてもよい。
【0024】
通信部20は、無線通信もしくは有線通信により、他の情報処理装置(企業のWebサーバ等)との間で情報を送受信するためのインターフェースである。通信部20による通信の方式・規格は特に限定されない。
【0025】
操作入力部30は、評価装置1のユーザが各種情報を入力するためのインターフェースであり、キーボード、マウス、タッチパネルなどの情報入力手段により構成される。ユーザは、操作入力部30により、たとえば、評価対象の統合報告書のファイルを選択したり、選択されたファイルの評価開始を指示する。
【0026】
表示部40は、液晶ディスプレイまたは有機ELディスプレイ等の映像表示手段を有し、後述の概念語を設定するための画面や、統合報告書の評価結果(
図3参照)などを表示する。
【0027】
記憶部50は、半導体メモリおよび/またはハードディスクドライブ等から構成される。この記憶部50には、概念語データベース51および分散表現辞書データベース52が記憶されている。
【0028】
概念語データベース51は、統合報告書の評価項目ごとに設定された複数の概念語を有するデータベースである。
図2は、概念語データベース51の一例を示している。たとえば、「価値観」というカテゴリの「Purpose」という評価項目には、「企業」、「パーパス」、「目的」、「理念」という4つの概念語が設定されている。一つの評価項目あたり、たとえば3語~15語程度の概念語が設定される。
【0029】
分散表現辞書データベース52には、機械学習により得られた、単語ごとの単語ベクトルが格納されている。本実施形態では、分散表現辞書データベース52は、複数の統合報告書を学習データとして機械学習により作成された分散表現辞書である。この分散表現辞書は、たとえば、Word2Vec等を用いて作成される。
【0030】
なお、概念語データベース51および分散表現辞書データベース52は、統合報告書評価装置1と通信可能に接続された別の情報処理装置(サーバ等)に設けられてもよい。また、概念語データベース51と分散表現辞書データベース52は、異なる情報処理装置に設けられてもよい。
【0031】
記憶部50には、制御部10で実行されるプログラム、当該プログラムが使用するデータなどが記憶されていてもよい。
【0032】
次に、制御部10の各部の詳細について説明する。
【0033】
情報入力部11は、評価対象の統合報告書を入力する。たとえば、情報入力部11は、企業のホームページなどに掲載されている統合報告書のファイル(PDF等)を取得し、当該ファイルからテキストデータを抽出する。
【0034】
また、情報入力部11は、統合報告書の評価の前に概念語データベース51を作成するために、評価項目ごとに複数の概念語を受け付ける。たとえば、情報入力部11は、ユーザが
図2の画面から入力した概念語を受け付ける。
【0035】
概念ベクトル取得部12は、予め設定された複数の概念語の単語ベクトルから概念ベクトルを取得する。詳しくは、概念ベクトル取得部12は、統合報告書の評価項目に対して設定された複数の概念語の各々の単語ベクトルの平均値を計算して、概念ベクトルを取得する。たとえば、ある評価項目に対して概念語CWaと概念語CWbの2語が設定されている場合、概念語CWaの単語ベクトルVaと、概念語CWbの単語ベクトルVbの平均値を計算することにより当該評価項目の概念ベクトルを取得する。なお、各概念語の単語ベクトルは、分散表現辞書データベース52を参照して取得される。
【0036】
文ベクトル取得部13は、統合報告書の各文について文ベクトルを取得する。詳しくは、文ベクトル取得部13は、統合報告書の文ごとに、当該文に含まれる複数の単語の各々の単語ベクトルの平均値を計算して、文ベクトルを取得する。たとえば、統合報告書のある文に単語Wa、単語Wbおよび単語Wcの3語が含まれる場合、単語Waの単語ベクトルVa1と、単語Wbの単語ベクトルVb1と、単語Wcの単語ベクトルVc1の平均値を計算することにより、当該文の文ベクトルを取得する。なお、各単語の単語ベクトルは、分散表現辞書データベース52を参照して取得される。
【0037】
特徴量計算部14は、統合報告書の文ごとに、概念ベクトル取得部12により取得された概念ベクトルと、文ベクトル取得部13により取得された文ベクトルとの類似度を示す特徴量を計算する。本実施形態では、統合報告書の各文について、概念ベクトルと文ベクトルのコサイン類似度が特徴量として計算される。
【0038】
スコア計算部15は、統合報告書の文ごとに計算された特徴量に基づいて、評価項目に対するスコア(項目スコア)を計算する。本実施形態では、スコア計算部15は、統合報告書の文ごとに計算された特徴量のうち、特徴量の上位から所定数の文の特徴量に基づいてスコアを計算する。詳しくは、特徴量が最も高い文から所定数の文について、それら所定数の文の特徴量の平均値を計算し、当該平均値をスコアとする。たとえば、所定数が20の場合、特徴量が最も高いものから順に20文を抽出し、抽出した20文についての20個の特徴量の平均値を計算し、項目スコアとする。
【0039】
なお、スコア計算部15は、上記のようにして算出したスコアを偏差値および/または多段階評価値(5段階評価など)に変換してもよい。
【0040】
また、スコア計算部15は、複数の評価項目に対して計算された複数のスコアに基づいて、統合報告書に対するスコア(総合スコア)を計算してもよい。この場合、スコア計算部15は、計算された総合スコアを偏差値および/または多段階評価値(5段階評価など)に変換してもよい。
【0041】
図3は、統合報告書の評価結果の一例を示している。この例では、評価項目ごとに偏差値および5段階評価が示されている。統合報告書の総合スコアに基づく偏差値および5段階評価も示されている。
【0042】
また、
図3の例では、カテゴリ(中間項目。ここでは、「価値観」、「ビジネスモデル_戦略性」、「ガバナンス」および「KPI」の4項目)についての評価結果が示されている。「価値観」の偏差値および5段階評価は、Purpose、Vision、MissionおよびValueの各スコアの平均値を変換することで求められる。
【0043】
<統合報告書の評価方法>
次に、
図4のフローチャートを参照しつつ、本実施形態に係る統合報告書の評価方法の一例について説明する。
【0044】
まず、ステップS1において、統合報告書評価装置1のユーザは、評価項目ごとに複数の概念語を設定する。詳しくは、ユーザは評価装置1の操作入力部30を介して複数の概念語(たとえば1つの評価項目あたり、4~15語の概念語)を設定する。なお、すでに概念語データベース51が作成されている場合でも、本ステップにおいて概念語の追加、変更、削除を行ってよい。
【0045】
ステップS2において、制御部10の情報入力部11は、統合報告書のテキストデータを入力する。詳しくは、情報入力部11は、ユーザが指定した評価対象の統合報告書のテキストデータを入力する。
【0046】
ステップS3において、制御部10は、未評価の評価項目があるか否かを判定する。未評価の項目がある場合(S3:Yes)、ステップS4に進む。未評価の項目がない場合(S3:No)、ステップS8に進む。
【0047】
ステップS4において、制御部10の概念ベクトル取得部12は、評価項目に対して設定された複数の概念語の各々の単語ベクトルの平均値を計算して、概念ベクトルを取得する。概念語の単語ベクトルは分散表現辞書データベース52を参照して取得する。
【0048】
ステップS5において、制御部10の文ベクトル取得部13は、統合報告書の文ごとに、当該文に含まれる複数の単語の各々の単語ベクトルの平均値を計算して、文ベクトルを取得する。本ステップは、ステップS2で入力したテキストデータを用いて行われる。各文の単語の単語ベクトルは、分散表現辞書データベース52を参照して取得する。
【0049】
ステップS6において、制御部10の特徴量計算部14は、統合報告書の文ごとに、ステップS4で取得した概念ベクトルと、ステップS5で取得した文ベクトルとの類似度を示す特徴量を計算する。具体的には、特徴量として、概念ベクトルと文ベクトルとのコサイン類似度を計算する。
【0050】
ステップS7において、制御部10のスコア計算部15は、統合報告書の文ごとに計算された特徴量に基づいて、評価項目に対するスコアを計算する。具体的には、ステップS6で計算された複数の特徴量のうち、特徴量の上位から所定数の文の特徴量に基づいてスコアを計算する。たとえば、所定数の文の特徴量の平均値を評価項目のスコアとする。なお、本ステップにおいて、計算された項目スコアを偏差値および/または多段階評価値に変換してもよい。
【0051】
上記のようにして、すべての評価項目に対するスコアが計算された場合(すなわち、S3:Noの場合)、ステップS8に進み、計算された複数のスコアに基づいて、統合報告書に対する総合スコアを計算する。なお、本ステップにおいて、計算された総合スコアを偏差値および/または多段階評価値に変換してもよい。このようにして計算されたスコア、偏差値、多段階評価値といった指標は、たとえば
図3で示す表形式で出力される。
【0052】
<作用効果>
上記のように、本実施形態によれば、評価項目に対して設定された複数の概念語の各々の単語ベクトルの平均値を計算して概念ベクトルを取得し、統合報告書の文ごとに、当該文に含まれる複数の単語の各々の単語ベクトルの平均値を計算して文ベクトルを取得し、統合報告書の文ごとに、概念ベクトルと文ベクトルとの類似度を示す特徴量を計算し、統合報告書の文ごとに計算された特徴量に基づいて評価項目に対するスコアを計算する。これにより、統合報告書を迅速かつ客観的に評価することができる。統合報告書の統合開示レベルを客観的に評価することができる。また、評価項目に対するスコアが得られるため、評価の根拠を理解し易く、どの項目を改善すればよいかどうかを容易に把握することができる。
【0053】
その効果、統合報告書の発行推進や内容改善に向けた取り組みを促進することができる。たとえば、統合報告書を作成している企業に対しては、機関投資家等が評価結果(各評価項目のスコア)を当該企業に提示することで、統合報告書の改善点について議論を深めることができる。他方、まだ統合報告書を作成したことのない企業に対しては、統合報告書の作成手法や作成メリットを伝える重要な材料として当該企業との対話に用いることができる。
【0054】
このように、企業との対話の場面において本実施形態による統合報告書の評価結果(スコア等)を提示することで、当該企業が自身の統合報告書の統合開示度や改善点を知ることができる。その結果、当該企業は、どのように統合報告書の内容を改善すれば、良好な企業情報の開示につながるかを的確に把握することができ、統合報告書の記載内容を改善するインセンティブを増大させることができる。
【0055】
本実施形態により得られる、さらなる効果として、以下が挙げられる。
【0056】
本実施形態によれば、統合報告書の文ごとに計算された特徴量のうち、特徴量の上位から所定数の文の特徴量に基づいてスコアを計算する。このように特徴量の大きい所定数の文の特徴量からスコアを算出するようにしたことで、統合報告書の全文の特徴量からスコアを算出する場合に比べて、統合報告書間の特徴量の差が大きくなるため、統合報告書を精度良く評価することができる。
【0057】
また、本実施形態によれば、スコアを偏差値および/または多段階評価値に変換することで、統合報告書の評価結果を把握し易くすることができる。
【0058】
また、複数の評価項目に対する複数のスコアに基づいて統合報告書に対する総合スコアを計算することで、統合報告書全体の評価を一目で把握することができる。
【0059】
さらに、本実施形態によれば、統合報告書を学習データとして作成された分散表現辞書データベースを参照して概念語の単語ベクトルを取得し、取得した単語ベクトルに基づいて計算された概念ベクトルを用いて統合報告書の評価を行うため、専門用語(パーパス、マテリアリティ等)を含む統合報告書を適切に評価することができる。すなわち、統合報告書では専門用語による特異な表現が多いため、専門用語に特化した辞書を利用することが好ましいところ、本実施形態では、統合報告書そのものを学習データとして作成された分散表現辞書を用いて概念ベクトルを作成することにより、専門用語を含む統合報告書の適切な評価を実現することができる。
【0060】
以上、本発明の実施形態について説明した。上記の記載に基づいて、当業者であれば、本発明の追加の効果や種々の変形を想到できるかもしれないが、本発明の態様は、上述した実施形態に限定されるものではない。特許請求の範囲に規定された内容およびその均等物から導き出される本発明の概念的な思想と趣旨を逸脱しない範囲で種々の追加、変更および部分的削除が可能である。
【0061】
たとえば、制御部10の各部は統合報告書評価装置1内のプロセッサが所定のプログラムを実行してソフトウェアによる処理がハードウェア資源を用いて具体的に実現されるものであってもよいし、実装されているハードウェア自身により実現されるものであってもよい。ソフトウェアで構成する場合には、制御部10の少なくとも一部の機能を実現するプログラムをフレキシブルディスクやCD-ROM等の記録媒体に収納し、コンピュータに読み込ませて実行させてもよい。記録媒体は、磁気ディスクや光ディスク等の着脱可能なものに限定されず、ハードディスク装置やメモリなどの固定型の記録媒体でもよい。
【0062】
また、制御部10の少なくとも一部の機能を実現するプログラムを、インターネット等の通信回線(無線通信も含む)を介して頒布してもよい。さらに、同プログラムを暗号化したり、変調をかけたり、圧縮した状態で、インターネット等の有線回線や無線回線を介して、あるいは記録媒体に収納して頒布してもよい。
【符号の説明】
【0063】
1 統合報告書評価装置
10 制御部
11 情報入力部
12 概念ベクトル取得部
13 文ベクトル取得部
14 特徴量計算部
15 スコア計算部
16 総合スコア計算部
20 通信部
30 操作入力部
40 表示部
50 記憶部
51 概念語データベース
52 分散表現辞書データベース