(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023043473
(43)【公開日】2023-03-29
(54)【発明の名称】水素供給システム及び水素供給システムを備える水素消費プラント並びに水素消費装置に水素を供給する方法
(51)【国際特許分類】
C01B 3/38 20060101AFI20230322BHJP
C01B 3/00 20060101ALI20230322BHJP
F02M 21/02 20060101ALI20230322BHJP
【FI】
C01B3/38
C01B3/00 Z
F02M21/02 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021151135
(22)【出願日】2021-09-16
(71)【出願人】
【識別番号】518018986
【氏名又は名称】三菱重工エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】古市 裕之
(72)【発明者】
【氏名】山本 智史
(72)【発明者】
【氏名】駒田 創
(72)【発明者】
【氏名】勝目 正
(72)【発明者】
【氏名】吉田 香織
【テーマコード(参考)】
4G140
【Fターム(参考)】
4G140AB01
4G140EA03
4G140EB31
4G140EB41
(57)【要約】
【課題】水素の需要の変動に対する追従性を向上させた水素供給システム及び水素供給システムを備える水素消費プラント並びに水素消費装置に水素を供給する方法を提供する。
【解決手段】水素供給システムは、水素製造装置と、水素製造装置で製造された水素が流通する水素流通ラインと、水素製造装置よりも下流側で水素流通ラインに設けられるバッファータンクと、水素流通ラインの一部をバイパスするバイパスラインであって、バイパスラインの下流側の端部がバッファータンクよりも下流側において前記水素流通ラインに連通するバイパスラインと、バイパスラインに設けられ、水素を貯蔵可能な貯蔵タンクとを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素製造装置と、
前記水素製造装置で製造された水素が流通する水素流通ラインと、
前記水素製造装置よりも下流側で前記水素流通ラインに設けられるバッファータンクと、
前記水素流通ラインの一部をバイパスするバイパスラインであって、該バイパスラインの下流側の端部が前記バッファータンクよりも下流側において前記水素流通ラインに連通するバイパスラインと、
前記バイパスラインに設けられ、水素を貯蔵可能な貯蔵タンクと
を備える水素供給システム。
【請求項2】
前記貯蔵タンク内の圧力は前記バッファータンク内の圧力よりも高い、請求項1に記載の水素供給システム。
【請求項3】
前記貯蔵タンク内の圧力は前記バッファータンク内の圧力よりも低い、請求項1に記載の水素供給システム。
【請求項4】
前記水素製造装置において、水素は原料物質の化学反応によって製造される、請求項1~3のいずれか一項に記載の水素供給システム。
【請求項5】
前記原料物質は天然ガス又は炭化水素である、請求項4に記載の水素供給システム。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の水素供給システムと、
前記水素流通ラインを介して前記水素供給システムから供給された水素を消費する水素消費装置と
を備える水素消費プラント。
【請求項7】
前記水素消費装置はガスタービンである、請求項6に記載の水素消費プラント。
【請求項8】
水素消費装置に水素を供給する方法であって、
水素を製造する水素製造ステップと、
前記水素製造ステップで製造された水素を前記水素消費装置へ向かって流通させる流通ステップと、
前記水素消費装置へ向かって流通する水素を滞留させる滞留ステップと、
前記滞留ステップと共に又は前記滞留ステップの後に、前記水素消費装置へ向かって流通する水素の一部を貯蔵する貯蔵ステップと
を含む、水素消費装置に水素を供給する方法。
【請求項9】
前記滞留ステップで滞留する水素の圧力を検出し、その検出値に基づいて、前記貯蔵ステップが行われる、請求項8に記載の水素消費装置に水素を供給するステップ。
【請求項10】
前記水素消費装置へ向かって流通する水素の一部は、圧縮された状態で貯蔵される、請求項8または9に記載の水素消費装置に水素を供給する方法。
【請求項11】
前記滞留ステップ及び前記貯蔵ステップを実施する間に前記水素消費装置の水素の需要量が増加した場合、前記貯蔵ステップを停止し、前記貯蔵ステップで貯蔵した水素を前記水素消費装置へ供給する、請求項8~10いずれか一項に記載の水素消費装置に水素を供給する方法。
【請求項12】
前記貯蔵ステップで貯蔵した水素を前記水素消費装置へ供給する場合、前記貯蔵ステップで貯蔵した水素が前記水素消費装置へ向かって流通する際の流量は、滞留する水素の圧力を検出し、その検出値に基づいて制御される、請求項11に記載の水素消費装置に水素を供給する方法。
【請求項13】
前記滞留ステップで滞留する水素の圧力の検出値が低下する場合、前記貯蔵ステップで貯蔵した水素の前記水素消費装置への供給量を増加する、請求項11または12に記載の水素消費装置に水素を供給する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、水素供給システム及び水素供給システムを備える水素消費プラント並びに水素消費装置に水素を供給する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、天然ガスの他に、天然ガスを改質することにより得られた水素を燃料として燃焼器に供給可能なガスタービンが記載されている。このガスタービンの通常運転時には、天然ガスと水素とオフガスとを燃料として燃焼器に供給する他、電力需要低下時のようにガスタービンの低負荷運転時には、水素を燃焼器に供給せずに貯蔵する。
【0003】
一般的に、ガスタービン等による発電設備は、時々刻々と変動する電力需要に応じてフレキシブルに運転負荷を追従させることが求められる。従って、ガスタービンへの燃料供給設備についても同様に、ガスタービンの負荷変動に速やかに追従して燃料を供給することが求められる。しかしながら、ガスタービンの燃料として改質反応のような化学プロセスによって製造される水素を活用する場合、一般的に化学プロセスは反応・分離・熱回収等が有機的に組み合わされた複雑な工程を有しているため、水素製造装置の運転条件を急激に変動させるとシステム全体のバランスが崩れてしまい、安定した運転継続ができない。従って、ガスタービンの負荷変動に対して水素供給量をレスポンス良く追従させることは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1には、ガスタービンの低負荷運転時には水素を貯蔵するとの記載はあるものの、水素の貯蔵設備の具体的な構成は記載されていない。また、特許文献1には、貯蔵された水素は産業用の水素製品として別用途に使用することや、ガスタービンとは別に設けられた燃料電池の燃料の一部として使用することが記載されており、ガスタービンでの再使用は想定されていない。仮に、貯蔵した水素をガスタービンで再使用するとしても、水素を貯蔵するタンクを単に設けるだけでは、ガスタービンの負荷変動時に燃料供給量の変動に水素の供給量を追従させることは難しい。
【0006】
上述の事情に鑑みて、本開示の少なくとも1つの実施形態は、水素の需要の変動に対する追従性を向上させた水素供給システム及び水素供給システムを備える水素消費プラント並びに水素消費装置に水素を供給する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本開示に係る水素供給システムは、水素製造装置と、前記水素製造装置で製造された水素が流通する水素流通ラインと、前記水素製造装置よりも下流側で前記水素流通ラインに設けられるバッファータンクと、前記水素流通ラインの一部をバイパスするバイパスラインであって、該バイパスラインの下流側の端部が前記バッファータンクよりも下流側において前記水素流通ラインに連通するバイパスラインと、前記バイパスラインに設けられ、水素を貯蔵可能な貯蔵タンクとを備える。
【0008】
上記目的を達成するため、本開示に係る水素消費装置に水素を供給する方法は、水素を製造する水素製造ステップと、前記水素製造ステップで製造された水素を前記水素消費装置へ向かって流通させる流通ステップと、前記水素消費装置へ向かって流通する水素を滞留させる滞留ステップと、前記滞留ステップと共に又は前記滞留ステップの後に、前記水素消費装置へ向かって流通する水素の一部を貯蔵する貯蔵ステップとを含む。
【発明の効果】
【0009】
本開示の水素供給システムによれば、水素の需要の変動が小さいときはバッファータンク内の水素量の変動により、需要量の変動を吸収させることができ、水素の需要の変動が大きくなったときは、貯蔵タンク内の水素の貯蔵量を変動させること、又は、貯蔵タンクからの水素の供給を行うことにより、水素の需要の変動に対する追従性を向上させることができる。また、本開示の水素消費装置に水素を供給する方法によれば、水素消費装置へ向かって流通する水素を滞留させる滞留ステップと、滞留ステップと共に又は滞留ステップの後に、水素消費装置へ向かって流通する水素の一部を貯蔵する貯蔵ステップとにより、水素消費装置の水素の需要量の変動を吸収させることができるので、水素の需要の変動に対する追従性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本開示の実施形態1に係る水素供給システム及び水素消費プラントの構成模式図である。
【
図2】本開示の実施形態2に係る水素供給システム及び水素消費プラントの構成模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の実施形態による水素供給システム及び水素消費プラント並びに水素消費装置に水素を供給する方法について、図面に基づいて説明する。以下で説明する実施形態は、本開示の一態様を示すものであり、この開示を限定するものではなく、本開示の技術的思想の範囲内で任意に変更可能である。
【0012】
(実施形態1)
<水素供給システム及び水素消費プラントの構成>
図1に示されるように、本開示の実施形態1に係る水素消費プラント1は、水素を任意の目的で消費する水素消費装置2と、水素消費装置2に水素を供給する水素供給システム10とを備えている。水素消費装置2については特に限定はしないが、例えば、水素のみを燃料とする、又は、他の燃料に対して水素を混入した燃料を使用するガスタービン3とすることができ、実施形態1では、水素消費装置2を、他の燃料に対して水素を混入した燃料を使用するガスタービン3として説明する。水素消費装置2がガスタービン3の場合、ガスタービン3の燃焼器3aには、燃料(例えば天然ガス)と、水素供給システム10からの水素とが供給されるようになっている。
図1には、燃料と水素とが別々に燃焼器3aに供給されるように描かれているが、燃料と水素とが混合された後に燃焼器3aに供給されるようにしてもよい。
【0013】
水素供給システム10は、水素が製造される水素製造装置11と、水素製造装置11とガスタービン3の燃焼器3aとを連通する水素流通ライン12と、水素製造装置11よりも下流側で水素流通ライン12に設けられるバッファータンク13と、バッファータンク13とバッファータンク13よりも下流側における水素流通ライン12とを連通させるバイパスライン14と、バイパスライン14に設けられる貯蔵タンク15とを備えている。
【0014】
水素流通ライン12には、バッファータンク13とバイパスライン14が水素流通ライン12に接続される部分との間に圧縮機16が設けられている。また、水素流通ライン12には、水素製造装置11とバッファータンク13との間に圧力制御弁18が設けられ、バッファータンク13と圧縮機16との間、及び、圧縮機16の下流側のそれぞれに、圧力計19及び20が設けられている。バイパスライン14には、バッファータンク13と貯蔵タンク15との間に圧縮機17が設けられている。また、バイパスライン14には、貯蔵タンク15の下流側に流量制御弁21が設けられている。
【0015】
尚、バイパスライン14の上流側の端部はバッファータンク13に連通する形態に限定するものではなく、バイパスライン14の上流側の端部はバッファータンク13よりも上流側又は下流側で水素流通ライン12と連通するようにしてもよい。いずれの場合も、バイパスライン14の下流側の端部はバッファータンク13よりも下流側で水素流通ライン12と連通することになる。尚、バッファータンク13よりも下流側に圧縮機16が設けられる場合は、バイパスライン14の下流側の端部は圧縮機16よりも下流側で水素流通ライン12と連通することになる。
【0016】
水素供給システム10は、水素製造装置11の負荷や反応温度等を制御するための制御装置22が設けられ、圧力計19は制御装置22に電気的に接続されている。また、流量制御弁21は圧力計19と電気的に接続されている。制御装置22は、いずれも図示しないが、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、外部記憶媒体(HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)等)、I/F(InterFace)、制御回路等を備え、ROMに格納されている所定の制御プログラムがCPUによって実行されることにより具現化される。圧力計19は圧縮機17及び流量制御弁21のそれぞれに電気的に接続されている。圧力計20は圧縮機16に電気的に接続されている。
【0017】
水素製造装置11の構成は特に限定するものではなく、任意の原理で水素が製造される装置を使用することができる。例えば、水素製造装置11は、原料物質の化学反応によって水素が製造される装置であってもよい。化学反応の具体的な例として、天然ガスやその他の炭化水素の改質反応、部分酸化法、石炭のガス化反応、アンモニア分解反応等が挙げられる。実施形態1では、水素製造装置11は、原料物質としての天然ガスの改質反応によって水素を製造する装置として説明する。
【0018】
実施形態1では、バッファータンク13に比べて高い設計圧力を有する貯蔵タンク15を設けており、貯蔵タンク15には水素を高圧に圧縮して貯蔵することが可能である。これにより、バッファータンク13に比べると小さい容積で大容量の水素を貯蔵することができるため、タンク1基当たりの大きさ及び設備の設置面積を小さくできる。これにより、貯蔵のために必要な設備費を総合的に低く抑えることができる。
【0019】
<水素供給システム及び水素消費プラントの動作>
次に、本開示の実施形態1に係る水素供給システム10及び水素消費プラント1の動作について説明する。水素消費プラント1では、水素供給システム10から水素が水素流通ライン12を介してガスタービン3の燃焼器3aに供給される。燃焼器3aに供給された水素は、燃焼器3aに供給された燃料と共に、圧縮機3bから供給された圧縮空気によって燃焼される。すなわち、水素がガスタービン3の燃焼器3aで消費される。燃焼器3aにおける燃焼により生じた排ガスでタービン3cを駆動することによって、ガスタービン3が駆動する。
【0020】
次に、水素供給システム10の動作(水素消費装置に水素を供給する方法)について説明する。水素製造装置11において、天然ガスの改質反応により水素が製造される(水素製造ステップ)。制御装置22は、後述する動作によって、水素製造装置11の負荷(水素の製造量)や反応温度等を制御する。圧縮機16が駆動することによって水素製造装置11から流出した水素は水素流通ライン12を流通する(流通ステップ)。このとき、圧縮機16は、圧縮機16の下流側が予め決められた範囲の圧力になる吐出量となるように容量制御が行われる。また、水素製造装置11の出口が予め決められた範囲の圧力になるように圧力制御弁18の開度が制御されることで、水素流通ライン12を流通する水素の流量が制御される。
【0021】
水素流通ライン12を流通する水素はバッファータンク13に流入する。バッファータンク13は、その体積及び圧力に応じた量の水素を滞留させることができる(滞留ステップ)。このため、水素流通ライン12を流通する水素の流量に変動が生じた場合、ある程度の変動幅である限りは、バッファータンク13の緩衝機能によってその変動を吸収することにより、システム全体として水素の需要量の変動に追従した運転が可能となる。
【0022】
水素供給システム10が稼働する間、圧力計19による検出値(バッファータンク13内の圧力と同一視可能)が制御装置22に伝送される。水素製造装置11において製造される水素の量がガスタービン3における水素の需要量に対して過剰になると、バッファータンク13に貯留される水素の量が増加することで圧力計19による検出値が上昇する。これとは逆に、水素製造装置11において製造される水素の量がガスタービン3の水素の需要量に対して少なくなると、バッファータンク13に貯留される水素の量が減少することで圧力計19による検出値が低下する。制御装置22は、圧力計19による検出値が予め決められた範囲の圧力になるように、水素製造装置11の運転条件を制御することで、水素の製造量の制御を行う。
【0023】
上述したように、ガスタービン3では、燃料及び水素の混合ガスを燃焼させて生成した排ガスによって駆動されるが、ガスタービン3の安定運転のためには、燃料と水素との混焼比率が大きく変動しないような制御が必要となる。このため、ガスタービン3の負荷変動のために燃料の供給量が変動する場合には、燃料の供給量の変動に水素の供給量を追従させる必要がある。燃料の供給量の変動幅が比較的小さく、その変動に追従させる水素の供給量の変動も比較的小さい場合には、上述したバッファータンク13の緩衝機能によってその変動を吸収することにより、システム全体として水素の需要量の変動に追従した運転が可能となる。
【0024】
しかしながら、例えば、夜間におけるガスタービン3の大幅な負荷低下(完全停止も含む)の場合、通常運転時に比べて水素需要量も大きく低下するが、水素製造装置11が水素を化学プロセスによって製造する構成であると、その工程の複雑さから、水素製造装置11の運転を一時的に停止することは困難である。このため、水素の需要量と供給量との間には大きなアンバランス(供給過剰)が生じ、バッファータンク13の緩衝機能のみでは、このアンバランスを吸収することができなくなる可能性がある。このような場合、実施形態1では、次に説明する動作によって、このアンバランスを吸収させることが可能となる。
【0025】
ガスタービン3における水素の需要量が大きく低下した場合、前述の通り制御装置22は水素製造装置11における水素製造量を減少させるべく制御を行う。しかしながら、水素製造装置11には設備的に可能な最低運転負荷が存在し、これより低い負荷で設備を運転することはできない。従って、水素の需要量が水素製造装置11の最低運転負荷以下に低下した場合、水素製造装置11を最低負荷で運転したとしても水素供給量が需要量に対して過剰になり、圧力計19の検出値は継続的に上昇してしまう可能性がある。
【0026】
水素製造装置11を最低負荷の運転条件で制御しても、圧力計19による検出値がさらに継続して上昇してしまい、予め設定された圧力に達した場合は、圧縮機17を起動し、水素が水素流通ライン12だけでなくバイパスライン14にも流通するようにする。需要量に対して過剰に製造された水素を圧縮機17が圧縮することにより、貯蔵タンク15内に水素が貯蔵される(貯蔵ステップ)。すなわち、ガスタービン3へ向かって流通する水素の一部が貯蔵タンク15内に貯蔵される。これにより、ガスタービン3の水素需要量に対する水素製造装置11からの水素製造量のアンバランス(過剰分)を吸収して、システム全体として水素の需要量の変動に追従した運転が可能となる。圧縮機17は、貯蔵タンク15の圧力が予め設定された最高圧力まで達した場合、又は、それ以下の圧力であっても運転員の任意判断により停止される。尚、実施形態1におけるバイパスライン14の構成では、貯蔵ステップは滞留ステップと共に(若しくは並列な構成で)又は滞留ステップの後に(若しくは直列な構成で)行われる。バイパスライン14の上流側の端部がバッファータンク13よりも下流側で水素流通ライン12と連通する構成では、滞留ステップの後に(又は直列な構成で)貯蔵ステップが行われることになる。
【0027】
その後、再びガスタービン3の負荷が上昇する際には、圧縮機17を停止すると共に、流量制御弁21の開度調整により貯蔵タンク15に貯蔵された水素を徐々に流出させて貯蔵タンク15の圧力を貯蔵前の初期圧力まで低下させてゆく。この時、貯蔵タンク15から流出する水素と水素製造装置11により製造される水素の混合比率は、水素製造装置11が最低負荷運転とならない範囲で、水素需要量に応じて予め設定された制御プログラム又は運転員の操作によって流量制御弁21の開度を設定し、貯蔵タンク15から流出される水素量を調整することにより可能である。
【0028】
ガスタービン3の水素の需要量が増大した場合、圧縮機16については、圧力計20の検出値を規定範囲に維持すべく吐出量の制御が行われる。吐出量が増大すると圧力計19の検出値が低下することにより、水素製造装置11には負荷上昇指令が出されるが、水素需要量の増大が急激な場合は、水素製造装置11の負荷上昇が過渡的に追いつかない可能性がある。この場合には、圧力計19の検出値は継続して低下してしまい、圧縮機16の運転が継続できなくなる可能性がある。これに対しては、圧力計19の検出値が予め設定された圧力に達した時点で流量制御弁21に対して流量指令を出すことにより、貯蔵タンク15より水素をガスタービン3へバックアップ供給することができる。すなわち、圧力計19の検出値に基づいて、貯蔵タンク15から水素製造装置11へ向かって流通する際の流量が制御される。水素がバックアップ供給されると、圧縮機16の吐出量が低下することにより、圧力計19の検出値のさらなる低下は防止され、やがて水素製造装置11の負荷上昇が追い付くことにより、圧力計19の検出値は上昇する。圧力が回復した時点で流量制御弁21に対する流量指令は停止される。
【0029】
尚、このような動作は、夜間におけるガスタービン3の大幅な負荷低下時のみに行われるものではなく、ガスタービン3について軽度のメンテナンスを行う為の短時間の運転停止等に対しても適用することができる。
【0030】
このように、水素の需要の変動が小さいときはバッファータンク13の緩衝機能によってその変動を吸収させ、水素の需要量の変動が大きくなったときは、貯蔵タンク15に過剰分の水素を圧縮貯蔵すること、又は、貯蔵タンク15から不足分の水素の供給を行うことにより、システム全体としての水素の需要量の変動に対する追従性を向上させることができる。
【0031】
<水素供給システムの変形例>
図1には、1つの貯蔵タンク15が設けられているように描かれているが、2つ以上の貯蔵タンク15が設けられていてもよい。この場合、複数の貯蔵タンク15をバイパスライン14に並列に設けて、それぞれの貯蔵タンク15に同時に水素を貯蔵させてもよい。貯蔵タンク15から水素を供給する場合には、それぞれの貯蔵タンク15から同時に水素を供給してもよいし、1つの貯蔵タンク15から水素を供給し、その貯蔵タンク15が空になったら別の貯蔵タンク15から水素を供給するようにしてもよい。また、複数の貯蔵タンクのそれぞれにバイパスラインを連通させる切替装置を設けて、それぞれの貯蔵タンク15に別々に水素を貯蔵させてもよい。
【0032】
(実施形態2)
次に、実施形態2に係る水素供給システム及び水素消費プラントについて説明する。実施形態2に係る水素供給システム及び水素消費プラントは、実施形態1に対して、貯蔵タンク15の構成を変更したものである。尚、実施形態2において、実施形態1の構成要件と同じものは同じ参照符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0033】
<水素供給システム及び水素消費プラントの構成>
図2に示されるように、本開示の実施形態2に係る水素供給システム10において、バイパスライン14には、貯蔵タンク15と、貯蔵タンク15の下流側に位置する圧縮機17と、貯蔵タンク15の上流側に位置する流量制御弁21とが設けられている。実施形態2における貯蔵タンク15は、バッファータンク13よりも低圧の条件下において水素を貯蔵するものである。低圧条件下でガスを貯蔵することから、タンク1基当たりの大型化及び設置基数の低減が可能であり、又、タンク本体を安価な構造とすることが出来る。これにより、貯蔵のために必要な設備費を総合的に低く抑えることができる。
【0034】
貯蔵圧力がバッファータンク13よりも低い貯蔵タンク15の構成は特に限定するものではなく、任意のタンクを使用することができる。このような貯蔵タンク15の一例として、タンク外殻の中に設けられた可動式屋根15aをガスの流出入に応じて上下動させ、ほぼ大気圧の状態で水素を貯蔵する構成のタンクを使用することができる。その他の構成は実施形態1と同じである。
【0035】
<水素供給システム及び水素消費プラントの動作>
本開示の実施形態2に係る水素供給システム10において、水素の需要量の変動が小さい場合にバッファータンク13の緩衝機能によってその変動を吸収させつつ負荷追従させる動作については、実施形態1と同じである。水素の需要量の変動が大きい場合に水素の供給量を燃料の供給量の変動に追従させる実施形態2の動作が実施形態1とは異なるので、以下ではこの動作についてのみ説明する。
【0036】
実施形態1と同様に、ガスタービン3の水素の需要量が大きく低下した場合、水素製造装置11については水素製造量を減少させるべく制御が行われるが、水素の需要量が水素製造装置11の最低運転負荷以下に低下した場合は、水素供給量が需要量に対して過剰になり、圧力計19の検出値が継続的に上昇してしまう可能性がある。この場合、圧力計19の検出値が予め設定された圧力に達したら、流量制御弁21に対して開指令を出すことにより、水素が水素流通ライン12だけでなくバイパスライン14にも流通するようにする。バイパスライン14を流通する水素は、流量制御弁21によりほぼ大気圧に減圧されて貯蔵タンク15に流入し、貯蔵タンク15内に貯蔵される。すなわち、ガスタービン3へ向かって流通する水素の一部が貯蔵タンク15内に貯蔵される。これにより、ガスタービン3の水素の需要量に対する水素製造装置11からの水素製造量のアンバランス(過剰分)を吸収して、システム全体として水素需要量変動に追従した運転が可能となる。
【0037】
その後、再びガスタービン3における水素の需要量が増大した際には、流量制御弁21を閉止すると共に、圧縮機17を起動することにより貯蔵タンク15に貯蔵された水素を徐々に流出させて、貯蔵タンク15の貯蔵量を貯蔵開始前の初期量まで低下させてゆく。この時、貯蔵タンク15から流出する水素と水素製造装置11により製造される水素の混合比率は、水素製造装置11が最低負荷運転とならない範囲で、水素需要量に応じて予め設定された制御プログラム又は運転員の操作により圧縮機17の運転負荷を設定し、貯蔵タンク15から流出される水素量を調整することにより可能である。
【0038】
実施形態2では、圧縮機17の起動回路は圧力計19と電気的に接続されている。ガスタービン3の水素の需要量が増大した場合、圧縮機16については、圧力計20の検出値を規定範囲に維持すべく吐出量の制御が行われる。吐出量が増大すると圧力計19の検出値が低下することにより水素製造装置11には負荷上昇指令が出されるが、水素の需要量の増大が急激な場合は水素製造装置11の負荷上昇が過渡的に追いつかない可能性がある。この場合には、圧力計19の検出値が継続的に低下してしまい、圧縮機16の運転が継続できなくなる可能性がある。これに対しては、圧力計19の検出値が予め設定された圧力に達した時点で圧縮機17に対して運転指令を出すことにより、貯蔵タンク15より水素をガスタービン3へバックアップ供給することができる。水素がバックアップ供給されると、圧縮機16の吐出量が低下することにより、圧力計19の検出値のさらなる低下は防止され、やがて水素製造装置11の負荷上昇が追い付くことにより、圧力計19の検出値は上昇する。圧力が回復した時点で圧縮機16に対する運転指令は停止される。
【0039】
このように、実施形態2においても、水素の需要の変動が小さいときはバッファータンク13の緩衝機能によってその変動を吸収させ、水素需要量の変動が大きくなったときは、貯蔵タンク15に過剰分の水素を貯蔵すること、又は、貯蔵タンク15から不足分の水素の供給を行うことにより、システム全体としての水素需要量変動に対する追従性を向上させることができる。
【0040】
<水素供給システムの変形例>
実施形態2においても、
図2には、1つの貯蔵タンク15が設けられているように描かれているが、実施形態1の変形例と同様に、2つ以上の貯蔵タンク15が設けられていてもよい。実施形態2において複数の貯蔵タンク15が設けられている場合の各貯蔵タンク15への水素の貯蔵及び各貯蔵タンク15からの水素の供給の運用方法については、実施形態1の変形例と同じである。
【0041】
(その他の変形例)
実施形態1及び2では、バッファータンク13の設計圧力と貯蔵タンク15の設計圧力とは異なっていたが、バッファータンク13と貯蔵タンク15とを同じ設計圧力にしてもよい。この形態でも、水素の需要の変動が小さいときはバッファータンク13の緩衝機能によってその変動を吸収させ、水素の需要量の変動が大きくなったときは、貯蔵タンク15に過剰分の水素を圧縮貯蔵すること、又は、貯蔵タンク15から不足分の水素の供給を行うことにより、実施形態1及び2と同様の作用効果を得ることができる。
【0042】
上記各実施形態に記載の内容は、例えば以下のように把握される。
【0043】
[1]一の態様に係る水素供給システムは、
水素製造装置(11)と、
前記水素製造装置(11)で製造された水素が流通する水素流通ライン(12)と、
前記水素製造装置(11)よりも下流側で前記水素流通ライン(12)に設けられるバッファータンク(13)と、
前記水素流通ライン(12)の一部をバイパスするバイパスライン(14)であって、該バイパスライン(14)の下流側の端部が前記バッファータンク(13)よりも下流側において前記水素流通ライン(12)に連通するバイパスライン(14)と、
前記バイパスライン(14)に設けられ、水素を貯蔵可能な貯蔵タンク(15)と
を備える。
【0044】
本開示の水素供給システムによれば、水素の需要の変動が小さいときはバッファータンク内の水素量の変動により、需要量の変動を吸収させることができ、水素の需要の変動が大きくなったときは、貯蔵タンク内の水素の貯蔵量を変動させること、又は、貯蔵タンクからの水素の供給を行うことにより、水素の需要の変動に対する追従性を向上させることができる。
【0045】
[2]別の態様に係る水素供給システムは、[1]の水素供給システムであって、
前記貯蔵タンク(15)内の圧力は前記バッファータンク(13)内の圧力よりも高い。
【0046】
このような構成によれば、小さい容積で大容量の水素を貯蔵することができるため、タンク1基当たりの大きさ及び設備の設置面積を小さくできる。これにより、貯蔵のために必要な設備費を総合的に低く抑えることができる。
【0047】
[3]さらに別の態様に係る水素供給システムは、[1]の水素供給システムであって、
前記貯蔵タンク(15)内の圧力は前記バッファータンク(13)内の圧力よりも低い。
【0048】
このような構成によれば、低圧条件下でガスを貯蔵することからタンク1基当たりの大型化及び設置基数の低減が可能であり、また、タンク本体を安価な構造とすることができる。これにより、貯蔵のために必要な設備費を総合的に低く抑えることができる。
【0049】
[4]さらに別の態様に係る水素供給システムは、[1]~[3]のいずれかの水素供給システムであって、
前記水素製造装置(11)において、水素は原料物質の化学反応によって製造される。
【0050】
水素を化学反応によって製造する場合、水素製造装置における水素の製造量を水素の需要の大きな変動に追従させることは難しいが、このような構成によれば、水素供給システムからの水素の供給量を、水素の需要の変動に良好に追従させることができる。
【0051】
[5]さらに別の態様に係る水素供給システムは、[4]のいずれかの水素供給システムであって、
前記原料物質は天然ガス又は炭化水素である。
【0052】
水素を天然ガス又は炭化水素の改質反応によって製造する場合、水素の製造量を水素の需要の大きな変動に追従させることは難しいが、このような構成によれば、水素供給システムからの水素の供給量を、水素の需要の変動に良好に追従させることができる。
【0053】
[6]一の態様に係る水素消費プラントは、
[1]~[5]のいずれかの水素供給システム(10)と、
前記水素流通ライン(12)を介して前記水素供給システム(10)から供給された水素を消費する水素消費装置(2)と
を備える。
【0054】
本開示の水素消費プラントによれば、水素消費装置の負荷変動に応じた水素の供給量の追従性を向上させることができる。
【0055】
[7]別の態様に係る水素消費プラントは、[6]の水素消費プラントであって、
前記水素消費装置(2)はガスタービン(3)である。
【0056】
このような構成によれば、ガスタービンの負荷変動に応じた水素の供給量の追従性を向上させることができる。
【0057】
[8]一の態様に係る水素消費装置に水素を供給する方法は、
水素を製造する水素製造ステップと、
前記水素製造ステップで製造された水素を前記水素消費装置(2)へ向かって流通させる流通ステップと、
前記水素消費装置(2)へ向かって流通する水素を滞留させる滞留ステップと、
前記滞留ステップと共に又は前記滞留ステップの後に、前記水素消費装置(2)へ向かって流通する水素の一部を貯蔵する貯蔵ステップと
を含む。
【0058】
本開示の水素消費装置に水素を供給する方法によれば、水素消費装置へ向かって流通する水素を滞留させる滞留ステップと、滞留ステップと共に又は滞留ステップの後に、水素消費装置へ向かって流通する水素の一部を貯蔵する貯蔵ステップとにより、水素消費装置の水素の需要量の変動を吸収させることができるので、水素の需要の変動に対する追従性を向上させることができる。
【0059】
[9]別の態様に係る方法は、[8]の方法であって、
前記滞留ステップで滞留する水素の圧力を検出し、その検出値に基づいて、前記貯蔵ステップが行われる。
【0060】
このような方法によれば、水素消費装置の水素の需要量の低下に対する追従性を向上させることができる。
【0061】
[10]さらに別の態様に係る方法は、[8]または[9]の方法であって、
前記水素消費装置(2)へ向かって流通する水素の一部は、圧縮された状態で貯蔵される。
【0062】
このような方法によれば、小さい容積で大容量の水素を貯蔵することができるため、タンク1基当たりの大きさ及び設備の設置面積を小さくできる。
【0063】
[11]さらに別の態様に係る方法は、[8]~[10]のいずれかの方法であって、
前記滞留ステップ及び前記貯蔵ステップを実施する間に前記水素消費装置(2)の水素の需要量が増加した場合、前記貯蔵ステップを停止し、前記貯蔵ステップで貯蔵した水素を前記水素消費装置(2)へ供給する。
【0064】
このような方法によれば、水素消費装置の水素の需要量の低下に対する対処後に水素の需要量が増加した場合、水素の需要量の増加に対する追従性を向上させることができる。
【0065】
[12]さらに別の態様に係る方法は、[11]の方法であって、
前記貯蔵ステップで貯蔵した水素を前記水素消費装置(2)へ供給する場合、前記貯蔵ステップで貯蔵した水素が前記水素消費装置(2)へ向かって流通する際の流量は、滞留する水素の圧力を検出し、その検出値に基づいて制御される。
【0066】
このような方法によれば、水素消費装置の水素の需要量の低下に対する対処後に水素の需要量が増加した場合、水素の需要量の増加に対する追従性を向上させることができる。
【0067】
[13]さらに別の態様に係る方法は、[11]または[12]の方法であって、
前記滞留ステップで滞留する水素の圧力の検出値が低下する場合、前記貯蔵ステップで貯蔵した水素の前記水素消費装置(2)への供給量を増加する。
【0068】
水素の需要量の増大が急激で、水素製造ステップにおける水素の製造量の上昇が過渡的に追いつかない場合、滞留ステップで滞留する水素の圧力の検出値が低下する。これに対し、このような方法によれば、貯蔵ステップで貯蔵した水素を水素消費装置へバックアップ供給することで、滞留ステップで滞留する水素の水素消費装置への供給量を低下することにより、水素製造ステップにおける水素の製造量の上昇が追い付くようになる。
【符号の説明】
【0069】
1 水素消費プラント
2 水素消費装置
3 ガスタービン
10 水素供給システム
11 水素製造装置
12 水素流通ライン
13 バッファータンク
14 バイパスライン
15 貯蔵タンク