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  • 特開-平版印刷版用湿し水濃縮組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023043677
(43)【公開日】2023-03-29
(54)【発明の名称】平版印刷版用湿し水濃縮組成物
(51)【国際特許分類】
   B41N 3/08 20060101AFI20230322BHJP
【FI】
B41N3/08 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021151427
(22)【出願日】2021-09-16
(71)【出願人】
【識別番号】000152446
【氏名又は名称】株式会社日研化学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100076473
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188765
【弁理士】
【氏名又は名称】赤座 泰輔
(74)【代理人】
【識別番号】100112900
【弁理士】
【氏名又は名称】江間 路子
(74)【代理人】
【識別番号】100136995
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 千織
(74)【代理人】
【識別番号】100163164
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 敏之
(72)【発明者】
【氏名】柴山 行倫
(72)【発明者】
【氏名】新谷 近夫
(72)【発明者】
【氏名】牛田 寛治
【テーマコード(参考)】
2H114
【Fターム(参考)】
2H114AA04
2H114DA25
2H114DA78
2H114EA04
2H114GA23
(57)【要約】
【課題】無処理CTP版10を用いた平版印刷において、印刷中に印刷物の非画像部12に汚れが発生することを抑制することができる平版印刷版用湿し水濃縮組成物を提供すること。
【解決手段】平版印刷版用湿し水濃縮組成物は、必須成分として、ポリオキシエチレンポリオキシブチレンブロックポリマー、ポリオキシエチレンソルビタンモノ脂肪酸エステル、ジアルキルスルホ琥珀酸塩、アルキレングリコールモノアルキルエーテル、を含有する。平版印刷版用湿し水濃縮組成物は、上水で希釈され、湿し水1として使用される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
オフセット印刷における平版印刷版用湿し水に使用する平版印刷版用湿し水濃縮組成物であって、必須成分として、
1)下記一般式(I)で示されるポリオキシエチレンポリオキシブチレンブロックポリマー(以下「POE/POB」と略す。)、
【化1】
(但し、a、b、c:2≦a+c≦200、10≦b≦50の要件を満たす整数)
2)下記一般式(II)で示されるポリオキシエチレンソルビタンモノ脂肪酸エステル、
【化2】
(但し、R1:炭素数8~18のアルキル基、R2、R3、R4:オキシエチレン基)
3)下記一般式(III)で示されるジアルキルスルホ琥珀酸塩、
【化3】
(但し、R5、R6:炭素数6~12の直鎖又は分岐のアルキル基、M:H、Na、K、Li、NH4、アルキルアミン類、アルキルジアミン類、アルキルトリアミン類、アルキルテトラアミン類又はアミノアルコール類)、
4)下記一般式(IV)で示されるアルキレングリコールモノアルキルエーテル、
【化4】
(但し、R7:炭素数1~4の直鎖又は分岐のアルキル基、R8:水素原子、メチル基又はエチル基)、
を含有する、ことを特徴とする平版印刷版用湿し水濃縮組成物。
【請求項2】
5)下記一般式(V)で示されるトリオール、
【化5】
(但し、h:1≦h≦10の要件を満たす整数)
を含有することを特徴とする請求項1に記載の平版印刷版用湿し水濃縮組成物。
【請求項3】
6)下記一般式(VI)で示されるジオール、
【化6】
(但し、i:1≦i≦20の要件を満たす整数)
を含有することを特徴とする請求項1に記載の平版印刷版用湿し水濃縮組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オフセット印刷における平版印刷版用湿し水に用いる平版印刷版用湿し水濃縮組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、オフセット印刷における平版印刷版用湿し水に用いる平版印刷版用湿し水濃縮組成物が知られている(たとえば、特許文献1及び2)。これらは、本願の出願人による特許出願である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008-126573号公報
【特許文献2】特開2008-126575号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、アルカリ現像液処理と不感脂化処理液を必要としない無処理CTP版(CTP:コンピュータで製作されたデータをプレートセッタに通し、直接刷版として出力するシステム(Computer to plate))が普及してきている。無処理CTP版は、レーザ光で画像を形成した版を印刷機にセットし、湿し水で非画像部の樹脂を柔らかくしてインキの粘性で樹脂を除去し、画像部と非画像部とを形成している。しかし、無処理CTP版を用いた平版印刷では、従来の湿し水を用いた場合、印刷中に印刷物の非画像部に汚れが発生するおそれがあるという課題があった。
【0005】
本明細書の技術が解決しようとする課題は、上述の点に鑑みてなされたものであり、無処理CTP版を用いた平版印刷において、印刷中に印刷物の非画像部に汚れが発生することを抑制することができる平版印刷版用湿し水濃縮組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書の実施形態に係る平版印刷版用湿し水濃縮組成物は、オフセット印刷における平版印刷版用湿し水に使用する平版印刷版用湿し水濃縮組成物であって、必須成分として、
1)下記一般式(I)で示されるポリオキシエチレンポリオキシブチレンブロックポリマー(以下「POE/POB」と略す。)、
【0007】
【化1】
【0008】
(但し、a、b、c:2≦a+c≦200、10≦b≦50の要件を満たす整数)
2)下記一般式(II)で示されるポリオキシエチレンソルビタンモノ脂肪酸エステル、
【0009】
【化2】
【0010】
(但し、R1:炭素数8~18のアルキル基、R2、R3、R4:オキシエチレン基)
3)下記一般式(III)で示されるジアルキルスルホ琥珀酸塩、
【0011】
【化3】
【0012】
(但し、R5、R6:炭素数6~12の直鎖又は分岐のアルキル基、M:H、Na、K、Li、NH4、アルキルアミン類、アルキルジアミン類、アルキルトリアミン類、アルキルテトラアミン類又はアミノアルコール類)、
4)下記一般式(IV)で示されるアルキレングリコールモノアルキルエーテル、
【0013】
【化4】
【0014】
(但し、R7:炭素数1~4の直鎖又は分岐のアルキル基、R8:水素原子、メチル基又はエチル基)、
を含有する、ことを特徴とする。
【0015】
本明細書の実施形態に係る平版印刷版用湿し水濃縮組成物によれば、印刷中に印刷物の非画像部に汚れが発生することを抑制することができる。
【0016】
ここで、平版印刷版用湿し水濃縮組成物において、
5)下記一般式(V)で示されるトリオール、
【0017】
【化5】
【0018】
(但し、h:1≦h≦10の要件を満たす整数)
を含有するものとすることができる。
【0019】
これによれば、刷版非画像部を好適に保湿又は保水することができる。
【0020】
また、上記平版印刷版用湿し水濃縮組成物において、
6)下記一般式(VI)で示されるジオール、
【0021】
【化6】
【0022】
(但し、i:1≦i≦20の要件を満たす整数)
を含有するものとすることができる。
【0023】
これによれば、刷版非画像部を好適に保湿又は保水することができる。
【発明の効果】
【0024】
実施形態の平版印刷版用湿し水濃縮組成物によれば、印刷中に印刷物の非画像部に汚れが発生することを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】実施形態の平版印刷版用湿し水濃縮組成物が使用される刷版のイメージ断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本明細書の実施形態に係る平版印刷版用湿し水濃縮組成物について説明する。なお、実施形態において、含有量を示す「%」は、特に断らない限り、「質量%」を意味するものとする。また、本発明の範囲は、実施形態で開示される範囲に限定されるものではない。実施形態に係る平版印刷版用湿し水濃縮組成物は、1)POE/POBと、2)ポリオキシエチレンソルビタンモノ脂肪酸エステルと、3)ジアルキルスルホ琥珀酸塩と、4)アルキレングリコールモノアルキルエーテルを含有する。別の実施形態として、平版印刷版用湿し水濃縮組成物は、5)トリオールを含有することができる。さらに別の実施形態として、6)ジオールを含有することができる。これら1)~6)の各成分は、汎用のものであり、市販品を使用することができる。
【0027】
1)POE/POBは、下記一般式(I)で示されるものである。
【0028】
【化1】
【0029】
上記一般式(I)において、a、b、cは、2≦a+c≦200、10≦b≦50の要件を満たす整数である。別の実施形態として、a、b、cは、5≦a+c≦40、20≦b≦40の要件を満たす整数とすることができる。
【0030】
POE/POBは、平均分子量(重量平均分子量、以下同じ)で1000~5000のものを使用する。別の実施形態として、POE/POBの平均分子量は、1500~4000、さらに別の実施形態として、2000~4000とすることができる。
【0031】
POE/POBは、図1に示すように、平版印刷版用湿し水濃縮組成物から形成される平版印刷版用湿し水1を刷版非画像部12に付着させ、刷版非画像部12を保湿又は保水させるものである。
【0032】
2)ポリオキシエチレンソルビタンモノ脂肪酸エステルは、下記一般式(II)で示されるものである。
【0033】
【化2】
【0034】
上記一般式(II)において、R1は、炭素数8~18のアルキル基である。別の実施形態として、R1は、炭素数10~14のアルキル基とすることができる。R2、R3、R4は、オキシエチレン基である。また、上記一般式(II)において、d、e、fは、1≦d+e+f≦6の要件を満たす整数である。別の実施形態として、d、e、fは、1≦d+e+f≦4の要件を満たす整数とすることができる。
【0035】
ポリオキシエチレンソルビタンモノ脂肪酸エステルは、平版印刷版用湿し水1の表面張力を下げ、インキ13の平版印刷版用湿し水1へのブリード(滲み)を抑制するものである。
【0036】
3)ジアルキルスルホ琥珀酸塩は、下記一般式(III)で示されるものである。
【0037】
【化3】
【0038】
上記一般式(III)において、R5、R6は、炭素数6~12の直鎖又は分岐のアルキル基である。別の実施形態として、R5、R6は、炭素数6~10の直鎖又は分岐のアルキル基とすることができる。Mは、H、Na、K、Li、NH4、アルキルアミン類、アルキルジアミン類、アルキルトリアミン類、アルキルテトラアミン類又はアミノアルコール類である。別の実施形態として、Mは、Na、K、アミノアルコール類とすることができる。
【0039】
ジアルキルスルホ琥珀酸塩は、刷版非画像部12に付着し、刷版非画像部12を親水化させるものである。
【0040】
4)アルキレングリコールモノアルキルエーテルは、下記一般式(IV)で示されるものである。
【0041】
【化4】
【0042】
上記一般式(IV)において、R7は、炭素数1~4の直鎖又は分岐のアルキル基である。別の実施形態として、R7は、炭素数3~4の直鎖又は分岐のアルキル基とすることができる。R8は、水素原子、メチル基又はエチル基である。別の実施形態として、R8は、水素原子又はメチル基とすることができる。また、上記一般式(IV)において、gは、1~2である。
【0043】
アルキレングリコールモノアルキルエーテルは、刷版への給水の効率を優れるものとすることができる。
【0044】
5)トリオールは、下記一般式(V)で示されるものである。
【0045】
【化5】
【0046】
上記一般式(V)において、hは、1≦h≦10の要件を満たす整数である。別の実施形態として、hは、1≦h≦8の要件を満たす整数とすることができる。
【0047】
トリオールは、刷版非画像部12を保湿又は保水させるものである。
【0048】
6)ジオールは、下記一般式(VI)で示されるものである。
【0049】
【化6】
【0050】
上記一般式(VI)において、iは、1≦i≦20の要件を満たす整数である。別の実施形態として、iは、1≦i≦15の要件を満たす整数とすることができる。
【0051】
ジオールは、刷版非画像部12を保湿又は保水させるものである。
【0052】
実施形態の平版印刷版用湿し水濃縮組成物は、上記の1)~4)を必須成分とすることにより、水で希釈して湿し水1として無処理CTP版10に用いた場合、印刷機上での無処理CTP版10の非画像部12の樹脂の除去を容易にして、形成された非画像部12の表面を湿し水1で保水、保湿することで汚れの発生を抑制することができる。また、印刷機の一旦停止後の刷り出し時(印刷再スタート時)に発生する刷り出し汚れの発生を抑制することができる。また、湿し水1は、非画像部12に保水皮膜(不感脂化皮膜)を形成して非画像部12の親水性を増大させ、画像部11の親油性とはっきり区別させることで画像部11のインキ13の乗り性を良くすることができる。
【0053】
すなわち、実施形態の平版印刷版用湿し水濃縮組成物を希釈した湿し水1は、濡れ性と浸透性に優れるため、連続給水方式の湿し水供給装置の印刷機で無処理CTP版10を使用して印刷すると、湿し水1の作用で非画像部12の樹脂が柔らかくなり、インキ13の粘性で樹脂が除去しやすくなるため、刷り出し時の汚れの発生を抑制することができる。そして、湿し水1は、版面の非画像部12に安定した保水膜形成作用を行い、湿し水1の均一な水膜を維持することができる。この作用により、印刷時の汚れや網点のインキ13の絡みの発生を防止することができるため、品質の良い印刷物を得ることができる。また、印刷機停止時には版面の非画像部12に形成された保水膜が版面の乾燥を抑制するため、印刷機の一旦停止後の刷り出し時での汚れの解消(印刷再スタート時の立上がり性)が早く損紙を少なくできる。また、無処理CTP版10の画像部11に影響を与えないため、版とび(版取れ)を抑制することができる。
【0054】
実施形態における各成分の平版印刷版用湿し水濃縮組成物における濃度は、
1)POE/POB・・・0.1~10%、別の実施形態として、0.2~8%、さらに別の実施形態として、1~4%
2)ポリオキシエチレンソルビタンモノ脂肪酸エステル・・・0.1~5%、別の実施形態として、0.2~3%、さらに別の実施形態として、0.2~2%
3)ジアルキルスルホ琥珀酸塩・・・0.1~5%、別の実施形態として、0.2~3%、さらに別の実施形態として、0.2~2%
4)アルキレングリコールモノアルキルエーテル・・・5~70%、別の実施形態として、5~60%、さらに別の実施形態として、10~50%
5)トリオール・・・0~15%、別の実施形態として、2~15%、さらに別の実施形態として、5~12%
6)ジオール・・・0~20%、別の実施形態として、5~15%、さらに別の実施形態として、8~15%
とすることができる。
【0055】
実施形態の平版印刷版用湿し水濃縮組成物におけるにおける各成分のバランスは、アルキレングリコールモノアルキルエーテル100質量部に対して、POE/POBが1~20質量部(別の実施形態として1~10質量部)、ポリオキシエチレンソルビタンモノ脂肪酸エステルが0.05~10質量部(別の実施形態として0.05~5質量部)、ジアルキルスルホ琥珀酸塩が0.05~10質量部(別の実施形態として0.05~5質量部)、トリオールが0~50質量部(別の実施形態として10~40質量部)、ジオールが0~50質量部(別の実施形態として10~50質量部)、とすることができる。
【0056】
実施形態の平版印刷版用湿し水濃縮組成物には、非画像部12の親水性を増大させる機能薬剤の他に、湿し水1の版面上における液膜特性を最適化する見地から、界面活性剤及び界面活性を有する溶剤、水溶性高分子化合物、pH調整剤、湿潤剤、防腐剤、消泡剤などを、適宜添加することができる。
【0057】
界面活性剤及び界面活性を有する溶剤は、濡れ性向上の助剤として使用することができる。界面活性剤として、アニオン型界面活性剤、ノニオン型界面活性剤を使用することができる。
【0058】
アニオン型界面活性剤として、脂肪酸塩類、アビエチン酸塩類、ヒドロキシアルカンスルホン酸塩類、アルカンスルホン酸塩類、アルキルナフタレンスルホン酸塩類、アルキルフェノキシポリオキシエチレンプロピルスルホン酸塩類、ポリオキシエチレンアルキルスルフェニルエーテル塩類、N-メチル-N-オレイルタウリンナトリウム塩類、N-アルキルスルホ琥珀酸モノアミド二ナトリウム塩類、石油スルホン酸塩類、硫酸化ひまし油、 硫酸化牛脂油、脂肪酸アルキルエステルの硫酸エステル塩類、アルキル硫酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩類、脂肪酸モノグリセリド硫酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩類、ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテル硫酸エステル塩類、アルキル燐酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルエーテル燐酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル燐酸エステル塩類、スチレン-無水マレイン酸共重合物の部分けん化物類、ナフタレンスルホン酸塩ホルマリン縮合物類などを使用することができる。
【0059】
ノニオン型界面活性剤として、アセチレンジオールジポリオキシエチレンエーテル類、ポリオキシエチレンポリスチリルフェニルエーテル類、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル類、グリセリン脂肪酸部分エステル類、ソルビタン脂肪酸部分エステル類、ペンタエリスリトール脂肪酸部分エステル類、プロピレングリコールモノ脂肪酸エステル類、蔗糖脂肪酸部分エステル類、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸部分エステル類、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル類、ポリグリセリン脂肪酸部分エステル類、ポリオキシエチレン硬化ひまし油類、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸部分エステル類、脂肪酸ジエタノールアミド類、N,N-ビス-2-ヒドロキシアルキルアミン類、ポリオキシエチレンアルキルアミン類、トリエタノールアミン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマー類、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンランダムポリマー類、トリアルキルアミンオキシド類、フッ素系界面活性剤類、シリコーン系界面活性剤類などを使用することができる。別の実施形態として、アセチレンジオールジポリオキシエチレンエーテル類、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマー類を使用することができる。
【0060】
界面活性を有する溶剤としては、アルキルピロリドン類、アセチレンジオール類などを使用することができる。
【0061】
実施形態では、これら界面活性剤や界面活性を有する溶剤の添加量は、0~5%とすることができる。別の実施形態として、0.1~3%とすることができる。
【0062】
水溶性高分子化合物は、平版印刷版用湿し水濃縮組成物に粘性を付与する助剤として使用することができる。
【0063】
水溶性高分子化合物として、アラビアガム、澱粉誘導体(デキストリン、酵素分解デキストリン、カルボキシメチル化澱粉、リン酸澱粉、オクテニルコハク化澱粉等)、アルギン酸塩、繊維素誘導体(ヒドロキシプロピル・メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等及びその誘導体等)、ポリアクリル酸及びその共重合体、アルキレン/無水マレイン酸共重合体、ポリビニルピロリドン等を使用することができる。
【0064】
実施形態では、水溶性高分子化合物の添加量は、0~5%とすることができる。別の実施形態として、0.01~3%とすることができる。
【0065】
pH調整剤は、平版印刷版用湿し水濃縮組成物のpH調整やpH緩衝作用を有し、非画像部12の不感脂化や適度なエッチング又は防腐食に効果がある。pH調整剤は、水溶性の有機酸又は無機酸又はそれらの塩を使用することができ、有機酸としては、クエン酸、アスコルビン酸、dl-リンゴ酸、dl-酒石酸、dl-乳酸、酢酸、グリコール酸、グルコン酸、マロン酸、アジピン酸、コハク酸、レブリン酸、スルファニル酸、フィチン酸、有機ホスホン酸 、ポリカルボン酸等を使用することができる。無機酸としては、リン酸、メタリン酸、ピロリン酸、ヘキサメタリン酸、ポリリン酸、ホウ酸、硝酸、硫酸等を使用することができる。更にこれら有機酸又は無機酸のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩あるいはアンモニウム塩、有機アミン塩も適時使用することができ、これらの有機酸、無機酸又はこれらの塩は、単一での使用、或いは2種以上を併用して使用することもできる。
【0066】
pH調整剤は、平版印刷版用湿し水濃縮組成物が希釈された湿し水1のpHが3~6の範囲の酸性領域となるように使用することができる。実施形態では、pH調整剤の添加量は、平版印刷版用湿し水濃縮組成物に対して、0~10%、別の実施形態として、0.1~5%とすることができる。
【0067】
湿潤剤は、平版印刷版用湿し水濃縮組成物に保湿性又は保水性を付与する助剤として使用することができる。湿潤剤の中には、前述したジオールやトリオールと重複するものがあるが、その場合は、前述したジオールやトリオールを増量するなどして兼用することができる。
【0068】
湿潤剤として、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキシレングリコール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、トリメチロールプロパン、グリセリン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール及びグリセリン、ポリグリセリン、ペンタエリスリトールなどを使用することができる。
【0069】
実施形態では、湿潤剤の添加量は、平版印刷版用湿し水濃縮組成物に対して、0~10%、別の実施形態として、0.5~5%とすることができる。
【0070】
防腐剤は、ブロモニトロアルコール系の2-ブロモ-2-ニトロプロパン-1,3-ジオール、1,1-ジブロモ-1-ニトロ-2-エタノール、3-ブロモ-3-ニトロペンタン-2,4-ジオール、並びに、イミダゾール誘導体、デヒドロ酢酸ナトリウム、サリチル酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、4-イソチアゾリン-3-オン誘導体、ベンズトリアゾール誘導体、アミジン又はグアニジンの誘導体、ピリジン、キノリン又はグアニジンの誘導体、ダイアジン又はトリアゾールの誘導体、及びオキサゾール又はオキサジンの誘導体などを使用することができる。
【0071】
実施形態では、防腐剤の添加量は、希釈使用時の湿し水1の細菌、カビ、酵母等に対して安定に効力を発揮する量で、細菌、カビ、酵母の種類によっても異なるが、0~5.0%の範囲とすることができる。別の実施形態として、0.05~3.0%とすることができる。また、種々のカビ、細菌、酵母に対して効力のあるような2種以上の防腐剤を併用することもできる。
【0072】
消泡剤は、シリコーン系消泡剤が適しており、その中で自己乳化型、乳化分散型及び可溶化型等を好適に使用することができる。実施形態では、その添加量は、0~0.2%とすることができる。別の実施形態として、0.01~0.1%とすることができる。
【0073】
実施形態の平版印刷版用湿し水濃縮組成物の成分として、残余は水である。従って、使用する水は、脱塩水又はイオン交換水を使用することが理想であるが、一般的に軟水(硬度:60mg/L未満)であれば使用に差し支えはない。上記の各種成分を溶解した水溶液として平版印刷版用湿し水濃縮組成物を得ることができる。
【0074】
実施形態の平版印刷版用湿し水濃縮組成物を使用する場合、通常使用時に水道水、井戸水等で10~100倍程度に希釈し、使用時の湿し水1(組成物)とする。
【実施例0075】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。実施例の平版印刷版用湿し水濃縮組成物の処方を表1に記載する。単位はグラム表示であり、実施例の平版印刷版用湿し水濃縮組成物は、水を加えて最終的に1000mLとした。平版印刷版用湿し水濃縮組成物は、いずれも使用時に希釈して湿し水1とした。
【0076】
【表1】
【0077】
平版印刷版用湿し水濃縮組成物の性能評価は、平版印刷を行なうことによって評価した。平版印刷は、平版印刷用湿し水濃縮組成物を、上水で50倍に希釈して、実際に使用する湿し水1として印刷テストに供した。印刷機は三菱重工業(株)製の名称「DAIYA 1F-4」を使用して、油性インキ13は東洋インキ株式会社製の名称「TK NEX NV」を、高感度UVインキ13は東洋インキ株式会社製の名称「FD LPC EX」を使用して、無処理CTP版10はコダック合同会社製の名称「SONORA CX」を標準条件で製版したものを使用した。又、湿し水1の設定温度は10℃とした。印刷速度10000枚/時で10000枚の印刷を行い、印刷開始の立上がり性(汚れ回復性)、網点画像部11のインキ13の絡み、非画像部12の汚れ、水元ローラーへのインキ13の絡み、印刷再スタート時の立上がり性(汚れ回復性)、インキ13の過剰乳化の有無を確認して評価を行った。以下に、評価方法を記載する。
【0078】
印刷開始の立上がり性(汚れ回復性)
印刷開始の立上がり性は、印刷開始時の刷り上った印刷物を確認して、汚れの解消を評価した。そして、印刷開始10枚以内に汚れが解消したものを○、印刷開始50枚以内に汚れが解消したものを△、印刷開始50枚を超えても汚れが解消しなかったものを×、として評価した。
【0079】
網点画像部11のインキ13の絡み
網点画像部11のインキ13の絡みは、刷り上った印刷物を確認して、網点画像部11のインキ13の絡みの発生状況を評価した。そして、印刷物の網点画像部11に、インキ13の絡みが認められなかったものを○、軽度なインキ13の絡みが認められたものを△、過度のインキ13の絡みが認められたものを×、として評価した。
【0080】
非画像部12の汚れ
非画像部12の汚れは、刷り上った印刷物を確認して、非画像部12の汚れの発生状況を評価した。そして、印刷物の非画像部12に、汚れが認められなかったものを○、軽度な汚れが認められたものを△、過度な汚れが認められたものを×、として評価した。
【0081】
水元ローラーへのインキ13の絡み
水元ローラーへのインキ13の絡みは、10000枚印刷終了後の水元ローラーの状態を観察し、水元ローラーへのインキ13の絡みを評価した。そして、水元ローラーに、インキ13の絡みが認められなかったものを○、軽度のインキ13の絡みが認められたものを△、過度のインキ13の絡みが認められたものを×、として評価した。
【0082】
印刷再スタート時の立上がり性(汚れ回復性)
印刷再スタート時の立上がり性は、10000枚印刷終了後、印刷機を30分停止させた後、印刷の再スタートでの汚れを刷り上った印刷物を確認して、汚れの解消を評価した。そして、印刷の再スタート後10枚以内に汚れが解消したものを○、印刷の再スタート後50枚以内に汚れが解消したものを△、印刷の再スタート後50枚を超えても汚れが解消しなかったものを×、として評価した。
【0083】
インキ13の過剰乳化の有無
インキ13の過剰乳化の有無は、10000枚印刷終了後、印刷機のインキローラー上のインキ13の状態を観察し、湿し水1の影響によるインキ13の乳化状態を評価した。そして、インキ13が、適正な状態であったものを○、軽度の乳化が認められたものを△、過度の乳化が認められたものを×、として評価した。
【0084】
実施例の平版印刷版用湿し水濃縮組成物について、油性インキ13での評価結果を表2に、高感度UVインキ13での評価結果を表3に記載する。
【0085】
【表2】
【0086】
【表3】
【0087】
また、実施形態の平版印刷版用湿し水濃縮組成物について、無処理CTP版10に対する版取れ(画像部11が取れてしまうこと)の評価も行った。版取れ評価は、上水で25倍と50倍に希釈した湿し水1(40℃に調整)に、「SONORA CX」を標準条件で製版したものを4時間浸漬させ、その状態を評価した。そして、画像部11への影響がなかったものを○、僅かであるが画像部11の版取れが確認できたものを△、画像部11の版取れが確認できたものを×、として評価した。評価結果を表4に記載する。
【0088】
【表4】
【0089】
実施形態の平版印刷用湿し水濃縮組成物は、いずれのテスト項目についても優れており、良好な印刷物が得られ、版取れを起こさず、湿し水1としての適正に優れていることが認められた。
【符号の説明】
【0090】
1…湿し水、10…CTP版、11…画像部、12…非画像部、13…インキ。
図1