(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023043784
(43)【公開日】2023-03-29
(54)【発明の名称】フランアクリル酸エステル重合体及びその製造方法、並びに該重合体の製造に用いる重合性モノマー及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08F 20/02 20060101AFI20230322BHJP
C08F 20/68 20060101ALI20230322BHJP
C08F 4/58 20060101ALI20230322BHJP
C07D 307/54 20060101ALI20230322BHJP
【FI】
C08F20/02
C08F20/68
C08F4/58
C07D307/54
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021151584
(22)【出願日】2021-09-16
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(71)【出願人】
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100199691
【弁理士】
【氏名又は名称】吉水 純子
(74)【代理人】
【識別番号】100140198
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 保子
(74)【代理人】
【識別番号】100127513
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100158665
【弁理士】
【氏名又は名称】奥井 正樹
(74)【代理人】
【識別番号】100206829
【弁理士】
【氏名又は名称】相田 悟
(72)【発明者】
【氏名】川波 肇
(72)【発明者】
【氏名】竹中 康将
【テーマコード(参考)】
4C037
4J015
4J100
【Fターム(参考)】
4C037HA29
4J015DA24
4J100AL19P
4J100BC53P
4J100CA01
4J100DA01
4J100DA04
4J100FA03
4J100FA19
4J100GA06
(57)【要約】
【課題】石油化学由来の原料から得られる既存のアクリル樹脂に代替可能な透明性を有し、かつ高ガスバリア性を有する重合体を、バイオマス由来の原料を用いて提供する。
【解決手段】バイオマス由来の原料から合成されたフラン環を有するアクリル酸エステルモノマーを、グループトランスファー重合法により重合する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の一般式(I)で表される重合体。
【化1】
(式中、R
1は、置換基を有していてもよいメチル基、エチル基、分岐していてもよいプロピル基、分岐していてもよいブチル基、分岐していてもよいペンチル基、シクロペンチル基、分岐していてもよいヘキシル基、シクロヘキシル基、フェニル基のいずれかを表わし、R
2は、水素又は置換基を有していてもよいメチル基、エチル基、分岐していてもよいプロピル基、分岐していてもよいブチル基、分岐していてもよいペンチル基、シクロペンチル基、分岐していてもよいヘキシル基、シクロヘキシル基、フェニル基のいずれかを表わす。)
【請求項2】
前記一般式(I)で表される重合体の製造方法であって、
以下の一般式(II)で表されるモノマーを重合させる重合体の製造方法。
【化2】
(式中、R
1、R
2は、前記のR
1、R
2と同じものを表す。)
【請求項3】
前記モノマーを、グループトランスファー重合法により重合させる、請求項2に記載の重合体の製造方法。
【請求項4】
前記モノマーを、バイオマス由来の原料から合成する請求項2又3に記載の重合体の製造方法。
【請求項5】
前記一般式(I)で表される重合体の製造用モノマーであって、前記一般式(II)で表される重合性モノマー。
【請求項6】
バイオマス由来の原料から合成する、前記一般式(II)で表される重合性モノマーの製造方法。
【請求項7】
前記バイオマス由来の原料として、以下の一般式(III)で表される化合物と、マロン酸又は酢酸とを用いる請求項6に記載の重合性モノマーの製造方法。
【化3】
(式中、R
2は、前記のR
2と同じものを表す。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フランアクリル酸エステル重合体及びその製造方法、並びに、該重合体の製造に用いる重合性モノマー及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、二酸化炭素排出削減に貢献すべく、脱石油原料からの各種化学品製造に向けた取り組みが盛んである。脱石油原料に向けた取り組みの一つに、石化原料からバイオマス原料への転換がある。ただし、バイオマス原料から得られる化学品は、石化原料から得られる化学品と大きく異なる。従って、従来の石化由来原料からの各種化学品プロセスをそのままバイオマス原料で代替することはできず、結局エネルギーやコストをかけて石化原料と同等の化成品を製造するため、なかなかバイオマス原料由来化学品が、石化原料由来化学品に置き換わることは難しい。
【0003】
バイオマス原料由来化学品の基幹物質として、2004年に米国DOEが各プラットフォームに分類している(非特許文献1)。その中に、炭素数が5のフルフラールと炭素数が6の5-ヒドロキシメチル-2-フルフラールがある。フルフラールは安定な液体として容易に得られることから、古くは溶剤や燃料に用いられ、その他では潤滑油や脱色剤の精製などに使用される。更に除草剤や殺虫剤など、その他ではコハク酸や1,4-ブタンジオールなどへ変換されてプラスチックの原料などにも利用される。5-ヒドロキシメチル-2-フルフラールは、水酸基とアルデヒド基を有し、酸化によってフランジカルボン酸を経てフラン環を有するポリエチレンフラネート(PEF)として、ポリエチレンテレフタレート(PET)代替材料としても注目されている。
PEFは、(PET)と比較してガス透過率が小さいことが知られている(非特許文献2、非特許文献3、第7~11頁)。またガスバリア性を上げるため、PEFをブレンドするだけで、大幅な酸素透過率が減少することが知られている(特許文献1)。
【0004】
一方、メタクリル酸メチルを重合して製造されるポリメタクリル酸メチル(PMMA)が代表的である透明性の高いアクリル樹脂は、その透明性から自動車レンズやコンタクトレンズなどの材料で使われるが、近年、食卓容器、照明版、水槽プレートなどにも多く利用されてきている。メタクリル酸メチルは、例えばイソブテンの酸化によって得られるメタクリル酸をエステル化することで得られる(酸化法)。イソブテンは、汎用的に石油精製時に得られている。
【0005】
他方で、バイオマスから製造されるβ位に置換基を有する不飽和カルボン酸エステルの重合方法として、近年、カルボニル基をシリル化して不飽和結合の重合反応性を高めたグループトランスファー重合法によって、バイオマス由来のクロトン酸エステルや、ケイ皮酸エステルの重合が可能となった(特許文献2、非特許文献4~6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2015-514151号号公報
【特許文献2】特開2021-70787号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Top Value Added Chemicals fromBiomass, DOE NREL, 2004年 8月
【非特許文献2】北海道大学 プレスリリース 「バイオプラスチック原料を大量合成する技術を開発」2019/4/11
【非特許文献3】林 千里 2019年度 博士学位論文「ビフリル骨格含有バイオベース材料の開発」群馬大学大学院理工学府 理工学専攻 物質・生命理工学領域 環境調和型材料科学研究室
【非特許文献4】Macromolecules 2019,52,4052-4058
【非特許文献5】Macromolecules 2020,53,7759-7766
【非特許文献6】COMMUNICATIONS CHEMISTRY,(2019) 2:109, https://doi.org/10.1038/s42004-019-0215-3
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年、突発的に発生したウィルスのまん延防止のため、人と人の間を隔離するために、透明性を有するポリメタクリル酸メチル(PMMA)等のアクリル樹脂が多く使われ、急激に需要が増えている。前述のとおり、メタクリル酸メチルから製造されるPMMAは、石油精製時に得られるイソブタンを原料とするから、脱石油化が困難である。
また、隔離を目的とするためには、ガスバリア性が求められるが、PMMAのガス透過性は中程度のもので、ポリアミドのような高いガスバリア性は無い。
【0009】
そこで、フラン環を有するポリマーはガスバリア性を有することが知られていることから(前記非特許文献2,3)、PMMAのガスバリア性を上げるために、PMMAにガスバリア性の高いフラン環を有する別のポリマーをブレンドすることが考えられる。しかし、ブレンドポリマーではPMMAの透明性が損なわれてしまう。
【0010】
また、フラン環を有するアクリル酸エステルモノマーを合成し、これを重合させれば、透明性とガスバリア性を有する新しいアクリル樹脂として重合体を作製できる可能性があるが、アクリレート部位とフラン環との共役効果とフラン環の反応性の高さから、通常のラジカル重合では、アクリレート部位でのみの反応で重合体を作製することはできなかった。
【0011】
本発明は、こうした現状を鑑みてなされたものであって、石油化学由来の原料から得られる既存のアクリル樹脂に代替可能な透明性を有し、かつガスバリア性が高い樹脂を、バイオマス由来の原料を用いて提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題について検討した結果、バイオマス由来の原料からフラン環をβ位に導入したアクリル酸エステル構造を有するモノマーを合成し、これを用いて重合を行うことで、石油化学由来の原料から得られるアクリル樹脂に代替可能で、透明、かつ高ガスバリア性を有する重合体を提供できることを知見し、以下の発明を完成させた。
[1]以下の一般式(I)で表される重合体。
【0013】
【0014】
(式中、R1は、置換基を有していてもよいメチル基、エチル基、分岐していてもよいプロピル基、分岐していてもよいブチル基、分岐していてもよいペンチル基、シクロペンチル基、分岐していてもよいヘキシル基、シクロヘキシル基、フェニル基のいずれかを表わし、R2は、水素又は置換基を有していてもよいメチル基、エチル基、分岐していてもよいプロピル基、分岐していてもよいブチル基、分岐していてもよいペンチル基、シクロペンチル基、分岐していてもよいヘキシル基、シクロヘキシル基、フェニル基のいずれかを表わす。)
[2]前記一般式(I)で表される重合体の製造方法であって、
以下の一般式(II)で表されるモノマーを重合させる重合体の製造方法。
【0015】
【0016】
(式中、R1、R2は、前記のR1、R2と同じものを表す。)
[3]前記モノマーを、グループトランスファー重合法により重合させる、前記[2]の重合体の製造方法。
[4]前記モノマーを、バイオマス由来の原料から合成する前記[2]又は[3]の重合体の製造方法。
[5]前記一般式(I)で表される重合体の製造用モノマーであって、前記一般式(II)で表される重合性モノマー。
[6]バイオマス由来の原料から合成する、前記一般式(II)で表される重合性モノマーの製造方法。
[7]前記バイオマス由来の原料として、以下の一般式(III)で表される化合物と、マロン酸又は酢酸とを用いる[6]に記載の重合性モノマーの製造方法。
【0017】
【0018】
(式中、R2は、前記のR2と同じものを表す。)
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、既存のアクリル樹脂に代替可能な、透明度が高く、高ガスバリア性の重合体を、100%バイオマス由来の原料を用いて製造することが可能であり、かつ、オレフィン部分の重合度によって、各種物性の調整可能性を広げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の比較例1に係るモノマーのIR測定図
【
図2】本発明の比較例2に係るモノマーのIR測定図
【
図3】本発明の実施例1に係るモノマーのIR測定図
【
図4】本発明の実施例2に係るモノマーのIR測定図
【
図5】本発明の実施例3に係るモノマーのIR測定図
【
図6】本発明の実施例4に係るモノマーのIR測定図
【
図7】本発明の実施例5に係るモノマーのIR測定図
【
図8】本発明の実施例6に係るモノマーのIR測定図
【
図9】本発明の実施例7に係るポリマーのIR測定図
【
図10】本発明の実施例8に係るポリマーのIR測定図
【
図11】本発明の実施例9に係るポリマーのIR測定図
【
図12】本発明の実施例10に係るポリマーのIR測定図
【
図13】本発明の実施例12に係るポリマーのIR測定図
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という。)を詳細に説明する。
【0022】
[重合性モノマー]
本実施形態に係る重合体(ポリマー)を合成するための重合性モノマーとしては、下記一般式(II)で表されるフラン環を有するアクリル酸エステルを用いることができる。
【0023】
【0024】
(式中、R1は、置換基を有していてもよいメチル基、エチル基、分岐していてもよいプロピル基、分岐していてもよいブチル基、分岐していてもよいペンチル基、シクロペンチル基、分岐していてもよいヘキシル基、シクロヘキシル基、フェニル基のいずれかを表わし、R2は、水素又は置換基を有していてもよいメチル基、エチル基、分岐していてもよいプロピル基、分岐していてもよいブチル基、分岐していてもよいペンチル基、シクロペンチル基、分岐していてもよいヘキシル基、シクロヘキシル基、フェニル基のいずれかを表わす。)
【0025】
前記アクリル酸エステルは、以下の一般式(III)で表される化合物と、マロン酸や酢酸などのカルボン酸との反応により合成することができる。
【0026】
【0027】
(R2は、一般式(I)と同じものを表す。)
一般式(III)で表される化合物としては、フルフラール又は5-ヒドロキシメチル-2-フルフラール等が挙げられる。これらは、グルコース、フルクトースなどの炭素数6の糖類やキシロース、アラビノースなどの炭素数5の糖類を骨格にもつ各種バイオマス原料、例えば、パルプ、セルロース、でんぷん、果糖、ショ糖などの糖類、更に製糖時に得られる廃糖液、また製品としての糖液などから得られるバイオマス由来の基幹材料である。また、マロン酸や酢酸も、果実などから得られるので、本実施形態に係る重合体を製造するためのモノマーである前記アクリル酸エステルは、100%バイオマス由来の原料を用いて合成することができる。
【0028】
[重合体] 前記アクリル酸エステルを一般的な重合法であるラジカル重合で重合しようとすると、カルボン酸と不飽和結合との共役に加え、さらに反応性の高いフラン環を有することにより不飽和結合の共役が広がる。したがって、アクリル樹脂の特徴であるオレフィンのC-C二重結合部位での単独重合が困難であった。
そこで、本実施形態においては、クロトン酸エステルやケイ皮酸エステルの重合法として開発されたグループトランスファー重合法(前述の特許文献2、非特許文献4~6参照)を採用し、オレフィンのC-C二重結合部位で単独重合した重合体を製造した。
【0029】
[グループトランスファー重合法(以下「GTP」という。)]
GTPは、アクリル酸エステル系単量体のカルボニル基をシリル化する開始剤、及び有機酸触媒を用いて、不飽和結合の重合反応性を高めることを特徴とする重合法である。
【0030】
本実施形態におけるGTPにおいては、反応性の面から、以下の一般式(IV)で表される重合開始剤を用いることが好ましい。
【0031】
【0032】
(式(IV)中、R3、R4、R5、R6、R7、及びR8は、同一又は異なって、水素原子、又は、酸素原子を1若しくは2個含んでもよい、炭素数1~20の脂肪族、脂環族若しくは芳香族の有機基を表す。
【0033】
上記一般式(IV)で表される重合開始剤の具体例としては、例えば、1-メトキシ-1-(トリエチルシロキシ)1-プロペン、1-メトキシ-1-(トリエチルシロキシ)-2
-メチル-1-プロペン、1-メトキシ-1-(トリアリルシロキシ)-2-メチル-1-プロペン、1-メトキシ-1-(トリシクロヘキシルメチルシロキシ)-2-メチル-1-プロぺン、1-メトキシ-1-(トリフェニルシロキシ)-2-メチル-1-プロぺン、1-ブトキシ-1-(トリベンジルシロキシ)-2-メチル-1-プロペン、1-メトキシ-1-(フェニルジメチルシロキシ)-2-メチル-1-プロペン、1-メトキシ-1-(t-ブチルジメチルシロキシ)-2-メチル-1-プロペン、1-ベンジルオキシ-1-(トリブチルシロキシ)-2-エチル-1-プロペン、1-メトキシ-1-(トリイソプロピルシロキシ)-2-メチル-1-プロペン等が挙げられる。
【0034】
また、本実施形態のGTPにおいて用いる前記有機酸触媒は、有機系の酸触媒であれば、特に限定されず、例えば、ルイス酸触媒、ブレンステッド酸触媒、有機分子触媒の酸触媒が挙げられる。なかでも、下記一般式(V)又は(VI)で表される化合物が好ましい。
【0035】
【0036】
(式(V)中、R9は、置換又は非置換のアリール基を表す。Rf1及びRf2は、同一又は異なってよいパーフルオロアルキル基を表す。)
【0037】
【0038】
(式(VI)中、R10は、水素原子、-OR9、炭素数1~12の直鎖若しくは分岐アルキル基、シクロアルキル基、又は、シリル基を表す。R10は、水素原子、炭素数1~12の直鎖若しくは分岐アルキル基、シクロアルキル基を表す。Rf3及びRf4は、同一の又は異なるパーフルオロアルキル基を表す。)
【0039】
上記一般式(V)で表される化合物としては、例えば、フェニルビス(トリフリル)メタン、2-ナフチルビス(トリフリル)メタン、1-ナフチルビス(トリフリル)メタン、2,4,6-トリメチルフェニルビス(トリフリル)メタン、4-(トリフルオロメチル)フェニルビス(トリフリル)メタン、3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニルビス(トリフリル)メタン、ペンタフルオロフェニルビス(トリフリル)メタン、{4-(ペンタフルオロフェニル)-2,3,5,6-テトラフルオロフェニル}ビス(トリフリル)メタン等が挙げられ、なかでも、原料入手性が良いという観点からは、ペンタフルオロフェニルビス(トリフリル)メタンが好ましい。
【0040】
上記一般式(VI)で表される化合物としては、例えば、ビス(トリフルオロメタン)スルホニルイミド、トリメチルシリルビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、ト
リエチルシリルビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、トリイソプロピルシリ ルビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、tert-ブチルジメチルシリルビ
ス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、フェニルジメチルシリルビス(トリフル オロメタンスルホニル)イミド、N-(トリフルオロメタンスルホニル)ノナフルオ ロブタンスルホニルイミド、N-トリメチルシリル-N-(トリフルオロメタンスルホニル)ノナフルオロブタンスルホニルイミド、トリメチルシリルビス(ノナフルオロ
ブタンスルホニル)イミド等が挙げられる。
【0041】
また、上記グループトランスファー重合において、重合工程後、反応系内に水、アルコール、又は、酸を添加して、重合反応を停止する工程を有することが好ましい。グループトランスファー重合では、重合中、重合体の主鎖末端では重合開始剤のシリル基を含むケテンシリルアセタール構造又はエノレートアニオン構造となっており、反応系内に水、アルコール、又は、酸を添加して、重合体の片末端のケテンシリルアセタール又エノレートアニオンをカルボン酸又はエステルに変換させることにより、重合反応を停止させることができる。
【0042】
上記アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール等が挙げられる。
上記酸としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸等の無機酸や、酢酸、安息香酸等の有機酸が挙げられる。
【実施例0043】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
以下の実施例及び比較例において、各種物性等は以下のようにして測定した。
【0044】
<収率>
得られた重合性モノマー及び重合体の収率は、それぞれ、下記の式を用いて算出した。
重合性モノマーの収率(%)=[得られた化合物のモル数/原料化合物(複数の場合は
少ない方)のモル数]×100
重合体の収率(%)=[得られた重合体の質量/原料重合性モノマーの質量]×100
【0045】
<1H-NMR、13C-NMR、及びIRの測定>
得られた重合性モノマーは、1H-NMR、13C-NMR、及びIRの測定により同定した。
得られた重合体は、いずれも、現状ではメタノール、エタノール、ジクロロメタン、クロロホルム、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、トルエン、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ヘキサフルオロイソプロパノール、メチルイソブチルケトンなどの汎用的な溶媒への溶解度が低いことから、1H-NMR測定、13C-NMR測定では明確なスペクトルが得られなかったので、IRの測定により同定した。
【0046】
(1H-NMR測定条件)
装置:日本電子社製ECX-400
測定溶媒:重クロロホルム、重ジメチルスルホキシドまたは重テトラヒドロフラン
【0047】
(13C-NMR測定条件)
装置:日本電子社製ECX-400
測定溶媒:重クロロホルム、重ジメチルスルホキシドまたは重テトラヒドロフラン
【0048】
(IRの測定条件)
装置: 島津製作所製SPirit
【0049】
<数平均分子量、重量平均分子量、分散度>
得られた重合体の数平均分子量と重量平均分子量は、下記の測定条件下で、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)測定により求めた。分散度(Mw/Mn)は、重量平均分子量(Mw)を数平均分子量(Mn)で除することにより求めた。
(GPCの測定条件)
装置:日本分光社製クロマトグラフシステム(DG-2080, PU-2085,
AS-2055 Plus, CO-2065 Plus, RI-2031 Plus)
溶出溶媒:テトラヒドロフラン
標準物質:昭和電工社製標準ポリスチレン(SM-105)
分離カラム:東ソー社製カラムTSKgel SuperHZM-M
【0050】
<TG-DTA(熱重量・示差熱同時測定)>
得られた重合体のガラス転位点、融点、熱分解温度を、TG-DTA(熱重量・示差熱同時測定)(装置名:島津製作所社製DTG-60)により測定した。
【0051】
[モノマーの合成]
(比較例1) E-3-(2-フラニル)アクリル酸(2-フランアクリル酸)の合成
【0052】
【0053】
100mlナスフラスコにフルフラール(9.0mL、109.2mmol)、マロン酸(10.6g、102.0mmol)、ピペリジン2mL、ピリジン(Py.)30mL、ジメチルホルムアミド(DMF)20mLを加えて50℃で16時間攪拌した。その後、100℃でさらに5時間攪拌した。反応時間終了後、常温に戻して溶媒をエバポレーターで除去し水20mL、硫酸を10mL加えて、60℃で16時間攪拌した。その後さらに、80℃で1時間攪拌した。常温に戻し、桐山ろ過で沈殿している固体を集め、水で3回程度洗浄した。回収した薄茶色の粉末状固体を60℃、2時間減圧下で乾燥させて、比較例1に係る化合物1である2-フランアクリル酸を収率83%(11.75g、85.0mmol)で得た。
【0054】
なお、この粉末状固体が上記の式の1で表される2-フランアクリル酸であることは、以下の
1H-NMR測定結果、
13C-NMR測定結果、及び
図1に示すIR測定結果により確認した。
1H-NMR測定結果
1H NMR (400 MHz, CD
3OD)
δ 7.61 (d, J = 1.8 Hz, 1H), 7.42 (d, J = 15.6 Hz, 1H), 6.73 (d, J = 3.7 Hz,
1H), 6.53 (q, J = 1.8 Hz, 1H), 6.23 (d, J = 15.6 Hz, 1H)
13C-NMR測定結果
13C NMR
(101 MHz, CD
3OD) δ 170.3, 152.2, 146.4, 132.7, 116.6, 116.2, 113.4
【0055】
(比較例2) E-3-(5-メチル-2-フラニル)アクリル酸(5-メチル-2-フランアクリル酸)の合成
【0056】
【0057】
50mL試験管に5-メチル-2-フルフラール(11.61g,105.4mmol)、マロン酸(9.58g,92.0mmol)、ピペリジン2mL、ピリジン20mL、DMF20mLを加えて50℃で16時間攪拌した。その後、100℃でさらに5時間攪拌した。反応時間終了後、反応溶液を常温に戻して200mLナスフラスコに移し、溶媒をエバポレーターで除去した。水を20mL加え、硫酸を10mL加えて、60℃で16時間攪拌した。その後さらに、80℃で1時間攪拌した。反応溶液を室温に戻し、桐山ろ過で沈殿している固体を集め、水で3回程度洗浄した。回収した茶色の粉末状固体を60℃、3時間減圧下で乾燥させて、比較例2に係る化合物2である5-メチル-2-フランアクリル酸を、収率94%(13.16g,86.5mmol)で得た。
【0058】
この粉末状固体が上記の式の2で表される5-メチル-2-フランアクリル酸であることは、以下の
1H-NMR測定結果、
13C-NMR測定結果、及び
図2に示すIR測定結果により確認した。
1H-NMR測定結果
1H NMR
(400 MHz, CD
3OD) δ 7.34 (d, J = 15.6 Hz, 1H), 6.61 (d, J = 3.2 Hz,
1H), 6.15-6.10 (m, 2H), 2.33 (s, 3H)
13C-NMR測定結果
13C NMR
(101 MHz, CD
3OD) δ 170.7, 157.1, 150.8, 132.8, 118.0, 114.7, 109.9,
13.6
【0059】
(実施例1)メチル-E-3-(2-フラニル)アクリレート(2-フランアクリル酸メチル)の合成
【0060】
【0061】
200mLナスフラスコに、比較例1で得られた化合物1(4.14g,30mmol)、及びメタノール60mLを加え、60℃で攪拌した。そこへ硫酸0.5mLを加え、80℃で16時間加熱還流を行った。反応溶液を室温に戻し、エバポレーターでメタノールを除去し、飽和NaHCO
3水溶液を加え、クロロホルムで抽出を行った。有機層を水、brine(高濃度塩化ナトリウム水溶液)で洗浄し、Na
2SO
4を加え、脱水した。エバポレーターでクロロホルムを除去すると、茶色の液体が得られた。1時間、-4℃の冷凍保存後、茶色の固体として実施例1に係る化合物3aである2-フランアクリル酸メチルを収率70%(3.19g,21mmol)で得た。
この固体が上記の式の3aで表される化合物であることは、以下の
1H-NMR測定結果、
13C-NMR測定結果、及び
図3に示すIR測定結果により確認した。
1H-NMR測定結果
1H NMR
(400 MHz, CDCl
3) δ 7.46-7.40 (m, 2H), 6.59 (d, J = 3.2 Hz, 1H), 6.45
(q, J = 1.8 Hz, 1H), 6.30 (d, J = 16.0 Hz, 1H), 3.76 (s, 3H)
13C-NMR測定結果
13C NMR
(101 MHz, CDCl
3) δ 167.4, 150.8, 144.7, 131.2, 115.4, 114.8, 112.2,
51.6
【0062】
(実施例2) エチル-E-3-(2-フラニル)アクリレート(2-フランアクリル酸エチル)の合成
【0063】
【0064】
300mLナスフラスコに、比較例1で得られた化合物1(7.50g,54mmol)、及びエタノール120mLを加え、60℃で攪拌した。そこへ硫酸1.0mLを加え、95℃で15時間加熱還流を行った。反応溶液を室温に戻し、エバポレーターでエタノールを除去し、飽和NaHCO3水溶液を加え、クロロホルムで抽出を行った。有機層を水、brineで洗浄し、Na2SO4を加え、脱水した。エバポレーターでクロロホルムを除去すると、茶色の液体が得られた。生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製することで黄色の液体として実施例2に係る化合物3bである2-フランアクリル酸エチルを収率58%(5.17g,37.4mmol)で得た。
【0065】
この液体が上記の式の3bで表される化合物であることは、以下の
1H-NMR測定結果、
13C-NMR測定結果、及び
図4に示すIR測定結果により確認した。
1H-NMR測定結果
1H NMR
(400MHz, CDCl
3) δ 7.48-7.41 (m, 2H), 6.60 (d, J = 3.4 Hz, 1H), 6.46
(q, J = 1.6 Hz, 1H), 6.31 (d, J = 15.4 Hz, 1H), 4.24 (q, J = 7.2 Hz, 2H), 1.32
(t, J = 7.1 Hz, 3H)
13C-NMR測定結果
13C NMR
(101MHz, CDCl
3) δ 167.0, 150.9, 144.6, 130.9, 115.9, 114.6, 112.2,
60.4, 14.3
【0066】
(実施例3) イソプロピル-E-3-(2-フラニル)アクリレート(2-フランアクリル酸イソプロピル)の合成
【0067】
【0068】
200mLナスフラスコに、比較例1で得られた化合物1(4.14g,30mmol)、及びイソプロパノール60mLを加え、60℃で攪拌した。そこへ硫酸0.5mLを加え、100℃で17時間加熱還流を行った。反応溶液を室温に戻し、エバポレーターでイソプロパノールを除去し、飽和NaHCO3水溶液を加え、クロロホルムで抽出を行った。有機層を水、brineで洗浄し、Na2SO4を加え、脱水した。エバポレーターでクロロホルムを除去すると、茶色の液体として実施例3に係る化合物3cである2-フランアクリル酸イソプロピルを収率46%(2.50g,13.8mmol)で得た。
【0069】
この液体が上記の式の3cで表される化合物であることは、以下の
1H-NMR測定結果、
13C-NMR測定結果、及び
図5に示すIR測定結果により確認した。
1H-NMR測定結果
1H NMR
(400 MHz, CDCl
3) δ 7.45-7.37 (m, 2H), 6.58 (d, J = 3.2 Hz, 1H), 6.44
(q, J = 1.7 Hz, 1H), 6.28 (d, J = 16.0 Hz, 1H), 5.10 (t, J = 6.2 Hz, 1H), 1.28
(d, J = 6.4 Hz, 6H)
13C-NMR測定結果
13C NMR
(101 MHz, CDCl
3) δ 166.5, 151.0, 144.6, 130.7, 116.5, 114.4, 112.2,
67.7, 21.9
【0070】
(実施例4) メチル-E-3-(5-メチル-2-フラニル)アクリレート(5-メチル-2-フランアクリル酸メチル)の合成
【0071】
【0072】
200mLナスフラスコに、比較例2で得られた化合物2(5-メチル-2-フランアクリル酸)(4.56g,30mmol)、及びメタノール60mLを加え、60℃で攪拌した。そこへ硫酸0.5mLを加え、80℃で16時間加熱還流を行った。反応溶液を室温に戻し、エバポレーターでメタノールを除去し、飽和NaHCO3水溶液を加え、クロロホルムで抽出を行った。有機層を水、brineで洗浄し、Na2SO4で脱水した。エバポレーターでクロロホルムを除去すると、オレンジ色の液体の粗生成物が得られた。粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィーで精製すると黄色の固体となった。結果的に黄色の粉末状固体として実施例4に係る化合物4aである5-メチル-2-フランアクリル酸メチルを収率86%(4.26g,25.7mmol)で得た。
【0073】
この固体が上記の式の4aで表される化合物であることは、以下の
1H-NMR測定結果、
13C-NMR測定結果、及び
図6に示すIR測定結果により確認した。
1H-NMR測定結果
1H NMR
(400 MHz, CDCl
3) δ 7.26 (d, J = 15.6 Hz, 1H), 6.40 (d, J = 3.2 Hz,
1H), 6.12 (d, J = 15.6 Hz, 1H), 5.97-5.96 (m, 1H), 3.67 (s, 3H), 2.24 (s, 3H)
13C-NMR測定結果
13C NMR
(101 MHz, CDCl
3) δ 167.8, 155.5, 149.4, 131.3, 116.5, 113.5, 108.8,
51.5, 13.8
【0074】
(実施例5) エチル-E-3-(5-メチル-2-フラニル)アクリレート(5-メチル-2-フランアクリル酸エチル)の合成
【0075】
【0076】
200mLナスフラスコに、比較例2で得られた化合物2である5-メチル-2-フランアクリル酸(4.57g,30mmol)、及びエタノール60mLを加え、60℃で攪拌した。そこへ硫酸0.5mLを加え、95℃で15時間加熱還流を行った。反応溶液を室温に戻し、エバポレーターでエタノールを除去し、飽和NaHCO3水溶液を加え、クロロホルムで抽出を行った。有機層を水、brineで洗浄し、Na2SO4で脱水した。エバポレーターでクロロホルムを除去すると、オレンジ色の液体の粗生成物が得られた。粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィーで精製すると黄色の液体で生成物が得られた。冷凍庫(-4℃)で保管していると固体となり、その後、室温でしばらく放置すると液体に戻った。結果的に黄色の液体として実施例5に係る化合物4bである5-メチル-2-フランアクリル酸エチルを収率74%(4.00g,22.2mmol)で得た。
【0077】
この液体が上記の式の4bで表される化合物であることは、以下の
1H-NMR測定結果、
13C-NMR測定結果、及び
図7に示すIR測定結果により確認した。
1H-NMR測定結果
1H NMR
(400 MHz, CDCl
3) δ 7.35 (d, J = 15.6 Hz, 1H), 6.50 (d, J = 3.2 Hz,
1H), 6.23 (d, J = 15.6 Hz, 1H), 6.07-6.06 (m, 1H), 4.23 (q, J = 7.0 Hz, 2H),
2.34 (s, 3H), 1.31 (t, J = 7.1 Hz, 3H)
13C-NMR測定結果
13C NMR
(101 MHz, CDCl
3) δ 167.3, 155.3, 149.5, 131.0, 116.3, 114.0, 108.7,
60.2, 14.3, 13.8
【0078】
(実施例6) イソプロピル-E-3-(5-メチル-2-フラニル)アクリレート(5-メチル-2-フランアクリル酸イソプロピル)の合成
【0079】
【0080】
200mLナスフラスコに、比較例2で得られた化合物2である5-メチル-2-フランアクリル酸(4.56g,30mmol)、及びイソプロパノール60mLを加え、60℃で攪拌した。そこへ硫酸0.5mLを加え、100℃で16時間加熱還流を行った。反応溶液を室温に戻し、エバポレーターでイソプロパノールを除去し、飽和NaHCO3水溶液を加え、クロロホルムで抽出を行った。有機層を水、brineで洗浄し、Na2SO4で脱水した。エバポレーターでクロロホルムを除去すると、オレンジ色の液体の粗生成物が得られた。粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィーで精製すると黄色の液体で生成物が得られた。冷凍庫(-4℃)で保管しても固体にはならなかった。結果的に黄色の液体として実施例6に係る化合物4cである5-メチル-2-フランアクリル酸イソプロピルを収率64%(3.70g,19.1mmol)で得た。
【0081】
この液体が上記の式の4cで表される化合物であることは、以下の
1H-NMR測定結果、
13C-NMR測定結果、及び
図8に示すIR測定結果により確認した。
1H-NMR測定結果
1H-NMR (400 MHz, CDCl
3) δ 7.26
(d, J = 15.6 Hz, 1H), 6.41 (d, J = 3.2 Hz, 1H), 6.14 (d, J = 15.6 Hz, 1H), 5.99
(q, J = 1.4 Hz, 1H), 5.03 (h, J = 6.2 Hz, 1H), 2.26 (s, 3H), 1.21 (d, J = 6.4
Hz, 6H)
13C-NMR測定結果
13C NMR
(101 MHz, CDCl
3) δ 166.8, 155.2, 149.6, 130.8, 116.1, 114.6, 108.7,
67.4, 21.9, 13.8
【0082】
[ポリマーの合成]
(比較例3) 2-フランアクリル酸のGTP (グループトランスファー重合)
【0083】
【0084】
グローブボックス内で30mLシュレンク管に、比較例1で得られた化合物1である2-フランアクリル酸(0.25g、1.81mmol)、開始剤としてのジメチルケテンメチルトリメチルシリルアセタール(MTS)(5.2mg,0.03mmol)、及びジクロロメタン5.5mLを加えた。そこへ、有機酸触媒として、N-(トリメチルシリル)ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(Tf2NTMS)(10.6mg,0.03mmol)をジクロロメタン0.5mLに溶かした溶液を加え、-35℃で6日間撹拌した後、メタノールを10mL加えた。エバポレーターにより溶媒を除去すると、黄色の液体が得られ、出発物1が回収された。したがって、上記のポリマー4が形成される重合反応は進行していなかった。
【0085】
(実施例7) 2-フランアクリル酸メチルのGTP)
【0086】
【0087】
グローブボックス内で30mLシュレンク管に、実施例1で得られた化合物3aである2-フランアクリル酸メチル(0.99g,6.5mmol)、MTS(22.7mg,0.13mmol)、及びジクロロメタン3mLを加えた。そこへTf2NTMS(46.0mg,0.13mmol)をジクロロメタン1mLに溶かした溶液を加えた。反応溶液を-40℃で7日間撹拌し、メタノールを5mL加えて反応を停止させた。エバポレーターで溶媒を除去することで茶色い液体である粗生成物を得た。CH2Cl2に溶かすと白濁し、メタノールを加えることで析出してくる白~薄茶色の固体を桐山ろ過で集めた。集めた固体を乾燥させ、薄茶色の粉末状固体73.9mgを回収した。
【0088】
図9に示すIRの測定結果から、得られた粉末状固体が、上記の式の5aで表される化合物であることを確認した。
【0089】
また、TG-DTAの結果、明確なモノマーに由来する融点は観測されずモノマーを含まないポリマーであることが分かり、更にガラス転位点、融点は検出できず、熱分解温度が338℃であるポリマーであることが分かった。
(実施例8) 2-フランアクリル酸エチルのGTP
【0090】
【0091】
グローブボックス内で30mLシュレンク管に、実施例2で得られた化合物3bである2-フランアクリル酸エチル(1.08g,6.5mmol)、MTS(22.7mg,0.13mmol)、及びジクロロメタン3mLを加えた。そこへTf2NTMS(46.0mg,0.13mmol)をジクロロメタン1mLに溶かした溶液を加えた。反応溶液を-40℃で7日間撹拌し、メタノールを加えて反応を停止させた。析出してきた粉末状の固体を桐山ろ過で回収し、メタノールで数回洗浄した。その後、よく乾燥させることで目的のポリマー5bを収率34%(0.37g)で得た。
【0092】
1H-NMR測定、
13C-NMR測定結果からは、明確なスペクトルが得られなかったので、ポリマーの同定はIR測定により行い、
図10に示すIR測定結果から、上記の式の5bで表される化合物であることを確認した。
【0093】
また、反応途中の1日経過、5日経過、6日経過時にサンプリングし、GPCにより、数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、及び分散度(Mw/Mn)を測定した。得られたそれぞれの結果を表1に示す。これにより、本実施例ポリマーには、反応時間5日以降は、分子量の劇的な増加は見られなかったが、分子量分布が若干改善されることが判明した。
【0094】
【0095】
さらに、TG-DTAの結果、明確なモノマーに由来する融点は特に観測されず、モノマーを含まないポリマーであることが確認され、更にガラス転位温度、融点は観測されず、345℃に熱分解温度が観測された。
【0096】
(実施例9) 2-フランアクリル酸イソプロピルのGTP
【0097】
【0098】
グローブボックス内で30mLシュレンク管に、実施例3で得られた化合物3cである2-フランアクリル酸イソプロピル(1.10g,6.1mmol)、MTS(20.9mg,0.12mmol)、及びジクロロメタン3mLを加えた。そこへTf2NTMS(42.4mg,0.12mmol)をジクロロメタン1mLに溶かした溶液を加えた。反応溶液を-40℃で7日間撹拌し、メタノールを加えて反応を停止させた。エバポレーターで溶媒を除去することで粘着性のある白い液体の粗生成物を得た。できるだけ少量のCH2Cl2に溶かし、徐々にメタノールを加えることで析出してくる白い粉末状の細かい固体を桐山ろ過で回収した。その後、よく乾燥させることで目的のポリマー5cを収率9%(0.10g)で得た。
【0099】
1H-NMR測定結果はシャープなスペクトルは得られなかったが、モノマーを含んでいないポリマーのスペクトルを示していた。そこで、ポリマーの同定はIR測定により行い、
図11に示すIR測定結果から、上記の式の5cで表される化合物であることを確認した。
【0100】
また、TG-DTAの結果、明確なガラス転位点、融点は観測されず、341℃に熱分解温度が観測された。
以上の結果から、重合が進行して目的のポリマーが得られたと推察される。
【0101】
(実施例10) 5-メチル-2-フランアクリル酸メチルのGTP
【0102】
【0103】
グローブボックス内で30mLシュレンク管に、実施例4で得られた化合物4aである5-メチル-2-フランアクリル酸メチル(1.0802g,6.5mmol)、MTS(22.7mg,0.13mmol)、及びジクロロメタン3mLを加えた。そこへTf2NTMS(46.0mg,0.13mmol)をジクロロメタン1mLに溶かした溶液を加えた。反応溶液を-40℃で7日間撹拌し、メタノールを加えて反応を停止させた。エバポレーターで溶媒を除去すると、黄~茶色のパリパリした固体の粗生成物を得た。少量のジクロロメタンに溶かし、メタノール:水混合溶液を加え、茶色の粘着性液体を沈殿させた。上清を取り除き、沈殿のみを回収した。回収した沈殿を乾燥させると、茶色のパリパリした固体の目的のポリマー6aを0.79g(収率72%)得た。
【0104】
1H-NMR測定、
13C-NMR測定では、溶媒への溶解度が低いため、明確なシグナルを得ることができなかったので、ポリマーの同定は、IR測定で行い、
図12に示すIR測定結果から、上記の式の6aで表される化合物であることを確認した。
【0105】
また、反応時間4日、5日、6日、7日終了時にそれぞれサンプリングして、GPCにより、数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、及び分散度(Mw/Mn)を測定した。得られたそれぞれの結果を表2に示す。これより、日数に応じて分子量が徐々に上がっていくことが分かった。
【0106】
【0107】
また、TG-DTAの結果、モノマーの融点に相当するシグナルが見られなかったので、モノマーを含まないポリマーであることが分かり、さらに明確なガラス転位点、融点が見られず、354度に熱分解温度が観測された。
【0108】
(実施例11) 5-メチル-2-フランアクリル酸エチルのGTP
【0109】
【0110】
グローブボックス内で30mLシュレンク管に、実施例5で得られた化合物4bである5-メチル-2-フランアクリル酸エチル(1.17g,6.5mmol)、MTS(22.7mg,0.13mmol)、及びジクロロメタン3mLを加えた。そこへTf2NTMS(46.0mg,0.13mmol)をジクロロメタン1mLに溶かした溶液を加えた。反応溶液を-40℃で7日間撹拌し、メタノールを加えて反応を停止させた。エバポレーターで溶媒を除去すると、茶~オレンジ色の粘着性固体(粗生成物:1.12g)を得た。
【0111】
粗生成物をCH2Cl2と水/メタノール混合溶液から精製したもの、及びMeOHで洗浄したものの1H-NMR測定をしたところ、明確なピークは得られなかったが、モノマーとポリマーの混合物を示すスペクトルが得られた。
【0112】
また、反応時間4日、5日、6日、7日終了時にそれぞれサンプリングして、GPCにより、数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、及び分散度(Mw/Mn)を測定した。得られたそれぞれの結果を表3に示す。これによって、反応日数を伸ばすことで、分子量が1万近く増大することが分かった。
【0113】
【0114】
(実施例12) 5-メチル-2-フランアクリル酸イソプロピルのGTP
【0115】
【0116】
グローブボックス内で30mLシュレンク管に、実施例6で得られた化合物4cである5-メチル-2-フランアクリル酸イソプロピル(1.26g,6.5mmol)、MTS(22.7mg,0.13mmol)、及びジクロロメタン3mLを加えた。そこへTf2NTMS(46.0mg,0.13mmol)をジクロロメタン1mLに溶かした溶液を加えた。反応溶液を-40℃で7日間撹拌し、メタノールを加えて反応を停止させた。白濁とともに薄い黄色の粉末状固体が析出してきたので桐山ろ過で固体を集めた。その後、固体をよく乾燥させると目的のポリマー6cが収率48%(0.61g)で得られた。
【0117】
1H-NMR測定、
13C-NMR測定では、明確なピークが観察されなかったので、ポリマーの同定をIRの測定で行ったところ、ポリマーのスペクトルが確認され、
図13に示すIR測定結果から、上記の式の6cで表される化合物であることを確認した。
【0118】
また、反応時間3日、4日、7日終了時にそれぞれサンプリングして、GPCにより、数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、及び分散度(Mw/Mn)を測定した。得られたそれぞれの結果を表4及び
図22に示す。反応日数を延長することで分子量が伸びることが期待されたが、平均分子量は逆に減少してしまった。
【0119】
【0120】
さらに、TG-DTAの結果、明確なモノマーに由来する融点は観測されずモノマーを含まないポリマーであることが分かり、更にガラス転位点、融点は検出出来ず、熱分解温度が344℃であるポリマーであることが分かった。