(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023043804
(43)【公開日】2023-03-29
(54)【発明の名称】練習用手首関節固定具
(51)【国際特許分類】
A63B 69/00 20060101AFI20230322BHJP
【FI】
A63B69/00 504B
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021151610
(22)【出願日】2021-09-16
(71)【出願人】
【識別番号】721007401
【氏名又は名称】川北 敏也
(72)【発明者】
【氏名】川北 敏也
(57)【要約】 (修正有)
【課題】スポーツにおいて、手首関節の運動の習得速度にユーザー差が生じ、限られた指導時間で統一的な指導成果を達成することが困難になっている。手首関節の特定方向の運動を選択的に強化及び習得する練習用手首関節固定具を提供すること。
【解決手段】本発明に係る練習用手首関節固定具1を利き手に装着すると、甲側被覆部2と掌側被覆部5に、該所望の背屈角度に固定する剛性材を内包し、手首が尺屈側へ動きすぎないように制限する適宜の剛性材が甲側被覆部2の尺骨側に内包され、によって手首関節の動きが制限されることから、着用者に該特定方向の動作を選択的に練習させ習得を施す。例えば、バドミントンの習得困難な高難度ストロークの一つであるハイバックストロークの習得に必要とされる手首関節の背掌屈方向の角度を一定に保ち、撓屈方向の動作を集中的に強化および習慣づけることにより適切なストロークフォームの習得を効率的に可能とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
手の甲側の手首関節部分から中手骨部分を覆うように装着される手首関節固定具において、甲側被覆部と少なくとも掌側の手首関節部分を覆うように被着される掌側被覆部とを備え、上記甲側被覆部と掌側被覆部は手首を所望の背屈角度に固定するに十分な硬さを有し、甲側被覆部の尺骨側は、手首の撓屈から尺屈への動きを制限するに十分な硬さを有することを特徴とする練習用手首関節固定具。
【請求項2】
請求項1に記載の手首関節固定具であって、前記甲側被覆部には、手首を所望の背屈角度に固定する形状に成形された板状の剛性材からなるプレートが、前期甲側被覆部の尺骨側には、手首の撓屈から尺屈への動きを制限する形状に成形された板状の剛性材からなるプレートが、それぞれ配置されていることを特徴とする練習用手首関節固定具。
【請求項3】
手の甲側の手首関節部分から中手骨部分を覆うように装着される手首関節固定具において、甲側被覆部と少なくとも掌側の手首関節部分を覆うように被着される掌側被覆部とを備え、上記甲側被覆部と掌側被覆部は手首を所望の背屈角度に固定するに十分な硬さを有し、甲側被覆部の撓骨側は、手首の尺屈から撓屈への動きを制限するに十分な硬さを有することを特徴とする練習用手首関節固定具。
【請求項4】
請求項3に記載の手首関節固定具であって、前記甲側被覆部には、手首を所望の背屈角度に固定する形状に成形された板状の剛性材からなるプレートが、前期甲側被覆部の撓骨側には、手首の尺屈から撓屈への動きを制限する形状に成形された板状の剛性材からなるプレートが、それぞれ配置されていることを特徴とする練習用手首関節固定具。
【請求項5】
請求項2又は4に記載の手首関節固定具であって、前記掌側被覆部には、手首を所望の背屈角度に補助的に固定する形状に成形された板状の剛性材からなるプレートが配置されていることを特徴とする練習用手首関節固定具。
【請求項6】
請求項1~5に記載の手首関節固定具において、該手首の背屈角度が、5度から90度に固定されることを特徴とする練習用手首関節固定具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スポーツなどの関節運動にかかわる特定動作習得練習において使用され、特に、手首関節の可動方向を特定の方向に固定して、着用者に該特定方向の動作を選択的に練習させ習得を促す、練習用手首関節固定具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、手首に打撲、捻挫、腱鞘炎を発症した場合の保存療法として、或いは、卓球、テニス等のスポーツをする際に手首を痛めないようにその予防として、手首をサポーターで保護するのが一般的であり、種々のサポーターが提案されている。
【0003】
例えば、特開2013-22344号公報にあるように、手関節、特にTFCC(三角繊維軟骨複合体)損傷の痛みの軽減や治療のために用いられ、手関節部位からずれることなく長期間にわたって安定的に固定し、手関節の動きを十分に抑制することを目的とした手関節固定具があるが、本発明の練習用手首関節固定具のように手首関節を特定の方向に固定して特定方向の運動を補助するものではない。
【0004】
また、特開2005-549号公報にある手首拘束用サポーターは、手首に打撲、捻挫、腱鞘炎を発症した場合の保存療法として、手首の動きを拘束するためのサポーターであり、第1指、手の甲及び掌側に支持体を備えない。
【0005】
さらに、特開2010-131066号公報にある肘用サポーターは、肘関節近傍を適切に保護及び固定できる肘用サポーターであるが、手首関節を支持するものではない。
【0006】
さらにまた、特開2004-105544のゴルフ練習用手袋や特開2001-321479のゴルフ練習用矯正具等があるが、それらはゴルフのスイング矯正として、手首の動きを拘束するためのものであり、手の掌側に支持体を備えない。
【0007】
さらに、実用新案登録番号第3028520号公報にある、ゴルフ用手首固定装具は、ゴルフクラブをスイングする際に、手首がブレてクラブヘッドが揺れることが無いようにするための手首固定装具に関するものであり、手首関節の特定方向への運動を促すものではない。
【0008】
すなわち、現行の固定具は、ユーザーの手首関節の特定方向の運動を選択的に強化する目的のものではない。
【0009】
特定の手首関節の動作が要求される運動を習得しようとする競技者にとって、個人差により特定方向の動きの習得が、困難であったり、時間を要したりする。これは潜在的な能力を有する競技者の競技継続のモチベーションを阻害することがある。また、この動作を競技者に習得させる指導者にとっても、限られた時間内で一定レベルの指導を計画する際の障害となっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2013-22344号公報
【特許文献2】特開2005-549号公報
【特許文献3】特開2010-131066号公報
【特許文献4】特開2004-105544号公報
【特許文献5】特開2001-321479号公報
【特許文献6】実用新案登録番号第3028520号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
スポーツにおいて、手首関節の特定方向への運動の強化が要求される。しかしながら、手首関節の可動は「撓屈・尺屈・背屈・掌屈」の4方向と、肘関節の動きと連動し、様々な方向へ可動なため、ユーザーはどの関節を使って動かしているのか意識していないことが多い。
【0012】
また、ユーザーによってその方向の得意不得意が発生し、特定方向への運動の強化を図ることが容易ではない。これでは、学校体育や部活動、スポーツ教室などの指導現場においても同様の問題が生じる。
【0013】
つまり特定方向の手首関節の運動の習得速度においてユーザー差が生じ、特に習得難易度の高い運動については、限られた指導時間の間に統一的な指導成果を達成することが困難になっていると考えられる。
【0014】
そこで、本発明は、手首関節の特定方向の動きを選択的に強化することができる手首関節固定具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
例えば、バドミントンストロークにおける代表的な技術としては、肘関節の動きの一つである回内及び回外を使って行う。多種あるストローク動作の内、フォアハンドストロークの場合、一度回外の動きでテークバックし、その反動を使って一気に回内を使ってインパクト、フォロースルーに至る動作を行う。バックハンドストロークの場合は、その逆となり、一度回内の動きでテークバックし、その反動を使って一気に回外を使ってインパクト、フォロースルーに至る動作となる。
【0016】
このようなストローク動作をスムーズ行うには、安定的なグリップの持ち方や、ユーザーの正確な動作、ラケットとの間で相対的な動きが噛み合う必要がある。例えば、ラリーのスピードが速くなればなるほど、ストローク動作を高速に行う必要があるが、テークバックが間に合わず、返球が難しくなる。
【0017】
また、高難度ストローク技術の一つである、ハイバックストロークではユーザーはコート後方へ追い込まれた状況な為に、十分なテークバックをとる時間がなく、より習得を難しくしている。
【0018】
ハイバックストロークやバックハンドストロークの習得は、習得する方法及びその対応について、指導者の創意工夫とユーザーの努力によって習得できる状況で、いわゆる技能として習得する状況となっていて、すべてのユーザーにそのような環境を望むことはできない。
【0019】
そのような環境下において、不必要なテークバックを使わないストローク技術とその習得方法(Kawakita Method)が開発されている。
【0020】
手首関節は、4方向への動き「撓屈・尺屈・背屈・屈曲」があり、手首関節の不要な動きを制限したストローク技術とその習得方法(Kawakita Method)において、横方向の動きである、撓屈状態から尺屈側へ手首を動かすことにより、バックハンドドライブ動作となる。
【0021】
また、高難度ストローク技術の一つであるハイバックストロークは、手首関節を背屈に保ちながら撓屈状態から尺屈側へ手首を動かし、続いて肘関節で回外動作によって実現している。
【0022】
しかしながら、このストローク技術を習得するためには、不必要なテークバックを使わないストローク技術とその習得方法(Kawakita Method)を学ぶ必要があり、従来の指導と同様ユーザーの環境により習得が難しい。
【0023】
上記問題を解決するために、本発明の練習用手首関節固定具を提供することで、手首関節の不要な動きを制限したストローク技術とその習得方法(Kawakita Method)を学んだのと同じ効果が期待でき、特定方向の動きを選択的に強化することが可能となり、ユーザーへ特定の手首関節の運動を強化し、効率的な運動習得を促すものである。
【発明の効果】
【0024】
本発明の練習用手首関節固定具を使用することで、短期間で効率的に習得すること、また、習得させることが可能になるため、競技者のモチベーションを高めることができ、また、より高いレベルの競技指導を計画しやすくなる。
【0025】
ここでの競技において要求される手首関節の特定の動作とは、これまで上級競技者のみにしか指導できなかったハイレベルと考えられていた動作を対象としており、この動作をストローク練習の初期から開始し、習得させることで、より上級レベル競技者への早期育成が可能になる。
【0026】
また、上級競技者においても、本発明の練習用手首関節固定具を装着してストローク練習を行うことにより、より精度の高いストローク習得が可能になる。
【0027】
本発明に係る練習用手首関節固定具をバドミントンのストローク習得練習時に利き手に装着すると、利き手の甲側被覆部に内包された、少なくとも70度から最大90度の背屈に固定できる剛性材と、掌側被覆部に内包された、少なくとも70度から最大90度の背屈に固定できる剛性材と、甲側被覆部の尺骨側に内包された、手首が尺屈側へ動きすぎないように制限する適宜の剛性材によって手首関節の動きを制限されることから、手首を撓屈状態から尺屈側へ動かすことにより、バドミントンのハイバックストロークに必要な関節の運動をユーザーに集中的に強化および習慣づけ、適切なストロークフォームの習得を効率的に可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本発明の実施例に係る練習用手首関節固定具1の表面図。
【
図2】実施例に係る練習用手首関節固定具1の裏面図。
【
図3】実施例に係る練習用手首関節固定具1及び20の適宜の剛性材の断面図。
【
図4a】実施例に係る練習用手首関節固定具1の装着方法を示す裏面図。
【
図4b】実施例に係る練習用手首関節固定具1の装着方法を示す裏面図。
【
図5】実施例に係る練習用手首関節固定具1の装着状態を示す表面図。
【
図6】実施例に係る練習用手首関節固定具1の装着状態を示す裏面図。
【
図7a】実施例に係る練習用手首関節固定具1の試用状態を示す側面図。
【
図7b】実施例に係る練習用手首関節固定具1の試用状態を示す側面図。
【
図7c】実施例に係る練習用手首関節固定具1の試用状態を示す側面図。
【
図9】実施例に係るに練習用手首関節固定具20の裏面図。
【
図10a】実施例に係る練習用手首関節固定具20の装着方法を示す裏面図。
【
図10b】実施例に係る練習用手首関節固定具20の装着方法を示す裏面図。
【
図11】実施例に係る練習用手首関節固定具20の装着状態を示す表面図。
【
図12】実施例に係る練習用手首関節固定具20の装着状態を示す裏面図。
【
図13】実施例に係る練習用手首関節固定具20の装着状態を示す側面図。
【
図14a】実施例に係る練習用手首関節固定具20の試用状態を示す側面図。
【
図14b】実施例に係る練習用手首関節固定具20の試用状態を示す側面図。
【
図14c】実施例に係る練習用手首関節固定具20の試用状態を示す側面図。
【
図16】実施例に係る練習用手首関節固定具1及び20の掌背屈の適宜の剛性材の配置図。
【
図17】実施例に係る練習用手首関節固定具1の撓尺屈の適宜の剛性材の配置図。
【
図18】実施例に係る練習用手首関節固定具20の撓尺屈の適宜の剛性材の配置図。
【発明を実施するための形態】
【実施例0029】
図1から
図7に示す実施例1の練習用手首関節固定具1は、バドミントンのストローク技術、特に習得が困難とされる高難度ストローク技術であるハイバックストローク技術習得に使用するもので、利き手の甲側の手関節部分から中手骨部分を覆うように装着される甲側被覆部2と少なくとも掌側の手首関節部分を覆うように被着される掌側被覆部5とを備え、甲側被覆部の下端突出部4に、手首に巻きつけるベルト部3からなり、上記甲側被覆部2と掌側被覆部5に手首の背屈の角度を固定するため適宜の剛性材13と剛性材11を内包し、上記甲側被覆部2の尺骨側に、手首の撓屈から尺屈への動きを制限する適宜の剛性材12が内包されている。
【0030】
剛性材11及び13は、厚さ2mmのアクリル製プレート又は塩化ビニル製プレート等の硬質プラスチック製プレートで、手首の背屈を少なくとも70度から最大90度に固定できるよう形成及び配置されている。
【0031】
剛性材12は、厚さ2mmのアクリル製プレート又は塩化ビニル製プレート等の硬質プラスチック製プレートで、手首の尺屈を制限するため少なくとも、手首の豆状骨を亘って掌の第5指側の側部に延在し得るよう形成及び配置されている。
【0032】
甲側被覆部2の下部突出部4の裏面と掌側被覆部5表面に互いに係止しうる係止手段9及び10が設けられている。
【0033】
手首に巻きつけるベルト部3は、手首に巻きつけたときに重なり合う表面側3aと裏面側2bに面ファスナーの雌面と雄面が配されたナイロン繊維製の非伸縮性ベルトで形成されており、その片端部が甲側被覆部2の下部突出部4の表面に取り付けられたプラスチック製の角形リングからなるベルト引締め用バックル14に固定され、自由端となる他端側を手首の先端部に巻き付けてからバックル14に差し通して折り返し、その折り返した他端側を引っ張って巻締めた状態として表面側3aと裏面側3bを面ファスナーで接着することにより、甲側被覆部2を手首に締め止めるようになっている。
【0034】
甲側被覆部2は、ネオプレンゴムなどの衝撃吸収材料からなり、表面及び裏面の生地はナイロン製からなる。
【0035】
以上のように構成された練習用手首固定装具1を利き手に装着すると、剛性材11及び13を内包した、甲側被覆部2と掌側被覆部5によって、手首の背屈が少なくとも70度から最大90度に制限され、
図7(a)から(c)のような手首の動作となり、高難易度なストローク技術である、ハイバックストローク動作の練習を効率よく選択的強化が図れる。
【0036】
また、本発明の練習用手首固定装具1を装着したストローク練習では、手首が固定されているので、シャトルのインパクトポイントが一定となることから、適切なミートポイントを習得することも可能となる。
本発明の練習用手首固定装具1を装着したストローク練習と手首関節の不要な動きを制限したストローク技術とその習得方法(Kawakita Method)による、高難度技術であるハイバックハンドストローク習得状況について実施実証した。
次に、上記表1の被験者、初級、中級、上級、それぞれ同時に練習用手首関節固定具1を非装着の場合と装着した場合の、ハイバックストローク技術習得時の習得差について比較した。
まず、それぞれの被験者へ手首関節の不要な動きを制限したストローク技術とその習得方法(Kawakita Method)によるハイバックストローク技術習得方法についての説明を行った。
被験者は、本発明の練習用手首関節固定具1を利き手に装着すると、被験者の手首の背屈角度が少なくとも70度から最大90度に固定され、撓屈方向と尺屈方向へ手首の動きが制限されることを確認した。
検証実験に際して、被験者は、練習用手首関節固定具1を非装着の場合でも、手首関節の不要な動きを制限したストローク技術とその習得方法(Kawakita Method)によるハイバックストローク動作を行うものとした。
上記表2は、手首関節の不要な動きを制限したストローク技術とその習得方法(Kawakita Method)に基づき、非装着・装着それぞれにおいて、ハイバックストローク習得の達成度を率で示したもの。
上記表2によると、本発明の手首関節固定具1を利き手に装着時、特に初級レベルにおいての習得率の上昇は著しく、中級レベルであっても80%が習得出来ていることがわかる。なお、非装着の場合でもそれぞれの技術レベルで10%の習得率向上が見られた。
上記表1と上記表2から、手首関節の不要な動きを制限したストローク技術とその習得方法(Kawakita Method)説明し、その後本発明の練習用手首関節装具1を装着したストローク練習を行った場合、従来上級レベルになってからしか習得できないとされていた、高難度ストローク技術の一つであるハイバックストロークを早期に習得可能になったといえる。