(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023004384
(43)【公開日】2023-01-17
(54)【発明の名称】情報処理方法、分解軽質油得量算出装置、分解軽質油得量算出プログラム、及びコンピュータの非一時的可読記録媒体
(51)【国際特許分類】
C10G 45/02 20060101AFI20230110BHJP
【FI】
C10G45/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021106012
(22)【出願日】2021-06-25
(71)【出願人】
【識別番号】000105567
【氏名又は名称】コスモ石油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100126882
【弁理士】
【氏名又は名称】五十嵐 光永
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(74)【代理人】
【識別番号】100209347
【弁理士】
【氏名又は名称】内田 洋平
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 駿佑
(72)【発明者】
【氏名】出井 一夫
【テーマコード(参考)】
4H129
【Fターム(参考)】
4H129AA02
4H129CA08
4H129DA15
4H129DA16
4H129DA18
4H129KA06
4H129KA07
4H129KA09
4H129KB03
4H129LA14
4H129NA02
4H129NA37
4H129NA45
(57)【要約】
【課題】常圧蒸留残渣油を含む原料油の水素化処理反応に関して、所定の反応条件における分解軽質油得量を推定することができる情報処理方法、及び前記分解軽質油得量を推定することができる分解軽質油得量算出装置、分解軽質油得量算出プログラム、及びコンピュータの非一時的可読記録媒体の提供。
【解決手段】反応を開始してから所定時間経過した際の常圧蒸留残渣油を含む原料油に関する情報、生成油に関する情報、及び運転条件に関する情報を取得する情報取得ステップと、取得した前記情報に基づき、劣化関数により、触媒の劣化度を算出する劣化度算出ステップと、前記触媒の劣化度に基づき、前記原料油に関する情報、前記生成油に関する情報、及び前記運転条件を満たすために必要な反応温度を算出する反応温度算出ステップと、前記反応温度及び前記触媒の劣化度に基づき、分解軽質油得量を算出する分解軽質油得量算出ステップと、を含む、情報処理方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
常圧蒸留残渣油を含む原料油の水素化処理反応に関して、反応を開始してから所定時間経過した際の原料油に関する情報、生成油に関する情報、及び運転条件に関する情報を取得する情報取得ステップと、
取得した前記原料油に関する情報、前記生成油に関する情報、及び前記運転条件に関する情報に基づき、劣化関数により、触媒の脱硫反応の劣化度及び分解反応の劣化度を算出する劣化度算出ステップと、
前記触媒の脱硫反応の劣化度に基づき、前記原料油に関する情報、前記生成油に関する情報、及び前記運転条件を満たすために必要な反応温度を算出する反応温度算出ステップと、
前記反応温度及び前記触媒の分解反応の劣化度に基づき、分解軽質油得量を算出する分解軽質油得量算出ステップと、を含む、情報処理方法。
【請求項2】
前記劣化関数は、コークの堆積による触媒の劣化に関するコーク劣化関数と、金属の堆積による触媒の劣化に関する金属劣化関数から構成される、請求項1に記載の情報処理方法。
【請求項3】
前記原料油に関する情報は、原料油中の硫黄濃度に関する情報を含み、前記生成油に関する情報は、生成油中の硫黄濃度に関する情報を含む、請求項1又は2に記載の情報処理方法。
【請求項4】
前記運転条件に関する情報は、水素分圧に関する情報、触媒充填量に関する情報、及び原料油の供給量に関する情報を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の情報処理方法。
【請求項5】
常圧蒸留残渣油を含む原料油の水素化処理反応に関して、反応を開始してから所定時間経過した際の原料油に関する情報、生成油に関する情報、及び運転条件に関する情報を取得する取得部と、前記取得部で取得した前記原料油に関する情報、前記生成油に関する情報、及び前記運転条件に関する情報に基づき、劣化関数により、触媒の脱硫反応の劣化度及び分解反応の劣化度を算出し、算出した前記触媒の脱硫反応の劣化度に基づき、前記原料油に関する情報、前記生成油に関する情報、及び前記運転条件を満たすために必要な反応温度を算出し、算出した前記反応温度及び前記触媒の分解反応の劣化度に基づき分解軽質油得量を算出する演算部と、を含む、分解軽質油得量算出装置。
【請求項6】
前記劣化関数は、コークの堆積による触媒の劣化に関するコーク劣化関数と、金属の堆積による触媒の劣化に関する金属劣化関数から構成される、請求項5に記載の分解軽質油得量算出装置。
【請求項7】
前記原料油に関する情報は、原料油中の硫黄濃度に関する情報を含み、前記生成油に関する情報は、生成油中の硫黄濃度に関する情報を含む、請求項5又は6に記載の分解軽質油得量算出装置。
【請求項8】
前記運転条件に関する情報は、水素分圧に関する情報、触媒充填量に関する情報、及び原料油の供給量に関する情報を含む、請求項5~7のいずれか一項に記載の分解軽質油得量算出装置。
【請求項9】
コンピュータを、請求項5~8のいずれか一項に記載の分解軽質油得量算出装置として機能させるための分解軽質油得量算出プログラム。
【請求項10】
請求項9に記載のプログラムを記憶したコンピュータの非一時的可読記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報処理方法、分解軽質油得量算出装置、分解軽質油得量算出プログラム、及びコンピュータの非一時的可読記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
原油を常圧蒸留して得られる常圧蒸留残渣油には、高濃度の硫黄が含有している。常圧蒸留残渣油を水素化処理することにより硫黄含有量を下げる方式は、直接脱硫として知られている。
【0003】
常圧蒸留残渣油の水素化処理においては、副生成物としてコークが生成し、コークが水素化処理触媒に堆積することにより、水素化処理触媒の活性は経時的に低下する。また、常圧蒸留残渣油にはニッケル化合物、バナジウム化合物等の金属化合物が含まれており、これらの化合物が金属として水素化処理触媒に堆積することによっても、水素化処理触媒の活性は経時的に低下する。したがって、生成油中の硫黄含有量を一定レベル以下に保つため、水素化処理触媒の活性低下に対して、反応温度を上げて運転を行わなければならない。
【0004】
一方、常圧蒸留残渣油の水素化処理においては、副生成物としてナフサ、灯油、軽油を含む軽質留分(以下、「分解軽質油」と略記する。)が生成するため、この分解軽質油と残油である重油のバランスを図り生産管理を行う必要がある。分解軽質油の得量は、水素化処理触媒の分解活性や、反応温度等の変化によって経時的に変動する。
【0005】
製品の需要と供給の環境の変化によって分解軽質油の供給量を増加させる場合がある。これに伴い、常圧蒸留残渣油の水素化処理装置においては、上述の分解軽質油の得量をその需給状況に応じて大きく変える必要が生じる。したがって、分解軽質油の得量を精度よく推定するための方法が望まれている。
【0006】
原油精製分野において、各種条件を精度よく推定するための方法については種々の検討が行われている。例えば、特許文献1には、常圧蒸留軽油を含む原料油の水素化処理において、原料油として、性状の異なる常圧蒸留軽油を含む原料油に切り替える場合に、切り替え前の常圧蒸留軽油の性状に関する情報及び運転条件と、切り替え後の常圧蒸留軽油の性状に関する情報及び反応温度以外の運転条件から、切り替え後に必要となる反応温度を推定する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
一方で、分解軽質油の得量を推定するための方法は、現状、存在せず、過去の運転における実績データを使用するというのが現状である。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、常圧蒸留残渣油を含む原料油の水素化処理反応に関して、所定の反応条件における分解軽質油得量を推定することができる情報処理方法、及び前記分解軽質油得量を推定することができる分解軽質油得量算出装置、コンピュータを、前記分解軽質油得量算出装置として機能させるための分解軽質油得量算出プログラム、及び前記プログラムを記憶したコンピュータの非一時的可読記録媒体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明は、以下の態様を有する。
[1] 常圧蒸留残渣油を含む原料油の水素化処理反応に関して、反応を開始してから所定時間経過した際の原料油に関する情報、生成油に関する情報、及び運転条件に関する情報を取得する情報取得ステップと、取得した前記原料油に関する情報、前記生成油に関する情報、及び前記運転条件に関する情報に基づき、劣化関数により、触媒の脱硫反応の劣化度及び分解反応の劣化度を算出する劣化度算出ステップと、前記触媒の脱硫反応の劣化度に基づき、前記原料油に関する情報、前記生成油に関する情報、及び前記運転条件を満たすために必要な反応温度を算出する反応温度算出ステップと、前記反応温度及び前記触媒の分解反応の劣化度に基づき、分解軽質油得量を算出する分解軽質油得量算出ステップと、を含む、情報処理方法。
[2] 前記劣化関数は、コークの堆積による触媒の劣化に関するコーク劣化関数と、金属の堆積による触媒の劣化に関する金属劣化関数から構成される、[1]に記載の情報処理方法。
[3] 前記原料油に関する情報は、原料油中の硫黄濃度に関する情報を含み、前記生成油に関する情報は、生成油中の硫黄濃度に関する情報を含む、[1]又は[2]に記載の情報処理方法。
[4] 前記運転条件に関する情報は、水素分圧に関する情報、触媒充填量に関する情報、及び原料油の供給量に関する情報を含む、[1]~[3]のいずれか一項に記載の情報処理方法。
[5] 常圧蒸留残渣油を含む原料油の水素化処理反応に関して、反応を開始してから所定時間経過した際の原料油に関する情報、生成油に関する情報、及び運転条件に関する情報を取得する取得部と、前記取得部で取得した前記原料油に関する情報、前記生成油に関する情報、及び前記運転条件に関する情報に基づき、劣化関数により、触媒の脱硫反応の劣化度及び分解反応の劣化度を算出し、算出した前記触媒の脱硫反応の劣化度に基づき、前記原料油に関する情報、前記生成油に関する情報、及び前記運転条件を満たすために必要な反応温度を算出し、算出した前記反応温度及び前記触媒の分解反応の劣化度に基づき分解軽質油得量を算出する演算部と、を含む、分解軽質油得量算出装置。
[6] 前記劣化関数は、コークの堆積による触媒の劣化に関するコーク劣化関数と、金属の堆積による触媒の劣化に関する金属劣化関数から構成される、[5]に記載の分解軽質油得量算出装置。
[7] 前記原料油に関する情報は、原料油中の硫黄濃度に関する情報を含み、前記生成油に関する情報は、生成油中の硫黄濃度に関する情報を含む、[5]又は[6]に記載の分解軽質油得量算出装置。
[8] 前記運転条件に関する情報は、水素分圧に関する情報、触媒充填量に関する情報、及び原料油の供給量に関する情報を含む、[5]~[7]のいずれか一項に記載の分解軽質油得量算出装置。
[9] コンピュータを、[5]~[8]のいずれか一項に記載の分解軽質油得量算出装置として機能させるための分解軽質油得量算出プログラム。
[10] [9]に記載のプログラムを記憶したコンピュータの非一時的可読記録媒体。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、常圧蒸留残渣油を含む原料油の水素化処理反応に関して、所定の反応条件における分解軽質油得量を算出することができる情報処理方法、及び前記分解軽質油得量を算出することができる分解軽質油得量算出装置、コンピュータを、前記分解軽質油得量算出装置として機能させるための分解軽質油得量算出プログラム、及び前記プログラムを記憶したコンピュータの非一時的可読記録媒体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】一実施形態に係る情報処理方法のフローチャートである。
【
図2】一実施形態に係る分解軽質油得量算出装置の構成ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明するが、以下の記載は本発明の実施態様の一例であり、本発明はこれらの内容に限定されず、その要旨の範囲内で変形して実施することができる。
【0014】
≪情報処理方法≫
本実施形態の情報処理方法は、常圧蒸留残渣油を含む原料油の水素化処理反応に関して、反応を開始してから所定時間経過した際の原料油に関する情報、生成油に関する情報、及び運転条件に関する情報を取得する情報取得ステップ(
図1のS1)と、取得した前記原料油に関する情報、前記生成油に関する情報、及び前記運転条件に関する情報に基づき、劣化関数により、触媒の脱硫反応の劣化度及び分解反応の劣化度を算出する劣化度算出ステップ(
図1のS2)と、前記触媒の脱硫反応の劣化度に基づき、前記原料油に関する情報、前記生成油に関する情報、及び前記運転条件を満たすために必要な反応温度を算出する反応温度算出ステップ(
図1のS3)と、前記反応温度及び前記触媒の分解反応の劣化度に基づき、分解軽質油得量を算出する分解軽質油得量算出ステップ(
図1のS4)と、を含む。以下、各ステップについて説明を行う。なお、以下に示す各ステップは、例えば、本実施形態の分解軽質油得量算出装置1によって実行される。例えば、S1は取得部11によって実行され、S2、S3、S4は計算機本体12における演算部13によって実行される。
【0015】
≪情報取得ステップ≫
本実施形態の情報取得ステップは、反応を開始してから所定時間経過した際の原料油に関する情報、生成油に関する情報、及び運転条件に関する情報を取得するステップである。反応を開始してから所定時間経過した際とは、例えば反応を開始してから任意のt日経過時である。tは整数でも小数でもよく、例えばtが0.5の場合、反応を開始してから12時間経過時を意味する。また、t日経過時は、本実施形態の情報処理方法を実施する時からみて過去でも、現在でも、未来でもよい。例えば、本実施形態の情報処理方法を実施する時が、反応を開始してから2日経過時であり、tが4の場合、2日後(未来)における反応温度を推定することとなる。
【0016】
(原料油に関する情報)
原料油に関する情報としては、原料油の組成に関する情報が例として挙げられる。原料油の組成に関する情報としては、原料油中の硫黄濃度及び金属濃度に関する情報が例として挙げられる。
【0017】
原料油中の硫黄濃度に関する情報は、本分野で公知の硫黄濃度の測定方法により得ることができ、例えば、紫外蛍光法、波長分散蛍光X線法等により求めることができる。また、原料油中の硫黄濃度は、原料油を変更することにより制御することができる。原料油中の硫黄濃度に関する情報は設定値であることが好ましい。すなわち、使用を予定している原料油の硫黄濃度を使用することができる。
【0018】
原料油中の金属濃度に関する情報は、本分野で公知の金属濃度の測定方法により得ることができ、例えば、ICP-MS法、蛍光X線分析法等により求めることができる。また、原料油中の金属濃度は、原料油を変更することにより制御することができる。原料油中の金属濃度に関する情報は設定値であることが好ましい。すなわち、使用を予定している原料油の金属濃度を使用することができる。
【0019】
(生成油に関する情報)
生成油に関する情報としては、生成油の組成に関する情報が例として挙げられる。生成油の組成に関する情報としては、生成油中の硫黄濃度及び金属濃度に関する情報が例として挙げられる。
【0020】
生成油中の硫黄濃度に関する情報は、上述の原料油の場合と同様に求めることができる。本実施形態においては、生成油中の硫黄濃度に関する情報は、設定値であることが好ましい。すなわち、目的とする生成油の硫黄濃度を使用することができる。
【0021】
生成油中の金属濃度に関する情報は、上述の原料油の場合と同様に求めることができる。本実施形態においては、生成油中の金属濃度に関する情報は、設定値であることが好ましい。すなわち、目的とする生成油の金属濃度を使用することができる。なお、上述の生成油中の硫黄濃度を一定とした場合、生成油中の金属濃度も一定となる。
【0022】
(運転条件に関する情報)
運転条件に関する情報としては、水素分圧に関する情報、触媒充填量に関する情報、原料油の供給量、及び水素の供給量に関する情報が例として挙げられる。例えば、運転条件に関する情報は、水素分圧に関する情報、触媒充填量に関する情報、原料油の供給量に関する情報、及び水素の供給量に関する情報の少なくとも何れかである。なかでも、運転条件に関する情報は、水素分圧に関する情報、触媒充填量に関する情報、及び原料油の供給量に関する情報を含むことが好ましく、水素分圧に関する情報、触媒充填量に関する情報、原料油の供給量に関する情報、及び水素の供給量に関する情報の全てを含むことがより好ましい。また、運転条件には、反応を開始してから任意のt日経過時等の時間の情報も含まれる。また、運転条件には、反応温度の実測値に関する情報が含まれる。さらに、運転条件には、実測の分解軽質油得量の情報も含まれていてもよい。
【0023】
水素分圧に関する情報、触媒充填量に関する情報、原料油の供給量に関する情報、及び水素の供給量に関する情報は、本分野において公知の方法により求めることができる。水素分圧に関する情報、触媒充填量に関する情報、原料油の供給量に関する情報、及び水素の供給量に関する情報は、常圧蒸留残渣油を含む原料油の水素化処理反応において制御することが可能である。運転条件に関する情報は設定値であることが好ましい。すなわち、予定の運転条件を使用する。
【0024】
≪劣化度算出ステップ≫
本実施形態の劣化度算出ステップは、取得した前記原料油に関する情報、前記生成油に関する情報、及び前記運転条件に関する情報に基づき、劣化関数により、触媒の脱硫反応の劣化度及び分解反応の劣化度を算出するステップである。
以下に、脱硫反応の劣化度を算出するステップについて説明する。なお、分解反応の劣化度を算出するステップは後述する。
【0025】
<脱硫反応の劣化度>
脱硫反応の劣化度は下式1で表される。
Φ=kt/k0 式1
前記式1中、k0は反応0日経過時(すなわち、反応開始時)の触媒の脱硫反応の反応速度定数であり、ktは任意の反応t日経過時の触媒の脱硫反応の反応速度定数である。なお、k0、ktは後述の温度TSORにおける脱硫反応の反応速度定数である。
【0026】
本実施形態においては、取得した前記原料油に関する情報、前記生成油に関する情報、及び前記運転条件に関する情報に基づき、脱硫反応の劣化関数により、触媒の脱硫反応の劣化度を算出することができる。
【0027】
<脱硫反応の劣化関数>
脱硫反応の劣化関数は、触媒の脱硫反応の劣化度を算出する関数である。本実施形態においては、脱硫反応の劣化関数は、コークの堆積による触媒の脱硫反応の劣化に関するコーク劣化関数と、金属の堆積による触媒の脱硫反応の劣化に関する金属劣化関数から構成されることが好ましい。このような脱硫反応の劣化関数としては、特に限定されないが、例えば下式2で表される脱硫反応の劣化関数が例として挙げられる。
【0028】
Φ=ΦCΦM 式2
前記式2中、ΦCはコーク劣化関数であり、ΦMは金属劣化関数である。
【0029】
以下、コーク劣化関数と、金属劣化関数について説明を行う。
【0030】
<コーク劣化関数1>
コーク劣化関数としては、触媒のコーク劣化に関する脱硫反応の劣化度合いを算出可能な関数であれば、特に限定されないが、例えば下式3で表されるコーク劣化関数1が例として挙げられる。
【0031】
ΦC=exp(-Dt) 式3
前記式3中、Dは触媒の脱硫反応の活性種のコークによる劣化係数であり、tは反応経過日数(日)である。
【0032】
Dは下式4により、求めることができる。下式4は、特定のパラメータにより触媒の脱硫反応の活性種のコークによる劣化係数を算出可能な式であり、本願の発明者らが、実機の運転結果等を基に初めて見出した式である。
【0033】
【数1】
前記式4中、αは脱硫反応の触媒定数(触媒のコークによる脱硫反応の劣化速度を表す定数)であり、S
Fは任意の反応t日経過時の原料油中の硫黄濃度(質量%)であり、S
Pは任意の反応t日経過時の生成油中の硫黄濃度(質量%)であり、nは、常圧蒸留残渣油を含む原料油の水素化処理反応の反応次数であり、LHSVは任意の反応t日経過時の液空間速度(h
-1)であり、P
Bは基準水素分圧(MPa)であり、Pは任意の反応t日経過時の水素分圧(MPa)であり、aは水素分圧係数であり、Ecはコーク劣化の活性化エネルギー(kJ/mol)であり、Rは気体定数:0.00831(kJ/(mol・K))であり、T
Bは基準反応温度(K)であり、T
SORは0日目の要求温度(K)である。
【0034】
本明細書において、「要求温度」とは、所定の反応条件を達成するために必要な反応温度を意味する。すなわち、0日目の要求温度とは、反応開始時において、上記SF、SP、LHSV、及びPの反応条件を達成するために必要な反応温度を意味する。
【0035】
本明細書において、「基準水素分圧」とは、実際の反応条件の標準的な圧力を意味する。後述する水素分圧係数aを決定する際に用いる反応圧力の平均値として求められる。
【0036】
本明細書において、「基準反応温度」とは、実際に運転される可能性のある標準的な運転条件の振れ幅で得られるTSORの平均値を意味する。
【0037】
前記式4において、TSORは触媒の脱硫反応の初期活性を表し、αは触媒の脱硫反応の劣化速度を表す。すなわち、TSORとαの数値が大きいほど、触媒の脱硫反応の劣化が大きいことを意味し、この劣化挙動はDの値に反映されることになる。
【0038】
前記式4において、(1/SP
n-1-1/SF
n-1)LHSVで表される項は、脱硫反応速度定数であり、上述した通り、SP、SF、LHSVを設定値とし、一定の条件で運転する場合、定数となる。前記式4において、(PB/P)aで表される項は、水素分圧依存性を示す項であり、上述した通り、Pを設定値とし、一定の条件で運転する場合、定数となる。前記式4においてexp[Ec/R(1/TB-1/TSOR)]で表される項は、温度依存性を示す項であり、定数となる。
【0039】
前記式4中、SF、SP、LHSV、Pは、上述した情報取得ステップで取得した原料油に関する情報、生成油に関する情報、及び運転条件に関する情報に基づき代入される値である。なお、LHSVは、原料油の供給量(体積/h)を触媒充填量(体積)で除すことにより求めることができる。
【0040】
上述した通り、SF、LHSV、Pは制御することが可能なパラメータである。また、SPは目的とする生成油の硫黄濃度である。すなわち、前記式4により、上記SF、SP、LHSV、及びPの反応条件における、触媒の脱硫反応の活性種のコークによる劣化係数を算出することができる。常圧蒸留残渣油を含む原料油の水素化処理反応の反応次数であるnの求め方は後述する。
【0041】
(コークの基本劣化パラメータの求め方)
前記式4中、α、PB、a、Ec、TB、TSORは定数である。以下、これらのパラメータを総称して「コークの基本劣化パラメータ1」という。コークの基本劣化パラメータ1は使用する触媒に応じて定められるパラメータであり、実機で反応を行いながら求めてもよいし、実機運転条件に基づいてベンチスケールにおいて事前に求めてもよい。本実施形態においては、実機運転条件に基づいてベンチスケールにおいて事前に求めることが好ましい。
以下、コークの基本劣化パラメータPB、a、Ec、TBの求め方について例を示す。上述の実機での反応、又は実機運転条件に基づいてベンチスケールでの反応で得られたデータから解析される触媒の脱硫反応の劣化挙動(脱硫反応の反応速度定数の変化)から求める方法(PB、a、Ec、TBの求め方)である。また、α、TSORの求め方については2例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。1例目は、上述の実機での反応、又は実機運転条件に基づいてベンチスケールでの反応で得られたデータから解析される触媒の脱硫反応の劣化挙動(脱硫反応の反応速度定数の変化)から求める方法(α及びTSORの求め方1)であり、2例目は、上述の実機での反応、又は実機運転条件に基づいてベンチスケールでの反応で得られたデータから解析される反応温度プロファイルから求める方法(α及びTSORの求め方2)である。
【0042】
(PB、a、Ec、TBの求め方)
本実施形態のコークの基本劣化パラメータの求め方は、上述の実機での反応、又は実機運転条件に基づいてベンチスケールでの反応で得られたデータから解析される触媒の脱硫反応の劣化挙動に基づく。この触媒の脱硫反応の劣化挙動(劣化度)は、前記式1と同じ考え方となり、下式5で表すことができる。
Φ’=kt’/k0’ 式5
前記式5中、k0’は反応0日経過時(すなわち、反応開始時)の触媒の脱硫反応の反応速度定数であり、kt’は任意の反応t日経過時の触媒の脱硫反応の反応速度定数である。なお、k0’、kt’は後述の温度TSOR’における脱硫反応の反応速度定数である。
【0043】
前記式5は、前記式1と同様、脱硫反応の反応速度定数に基づいた劣化関数である。反応速度定数は下式6のアレニウスの式で表される。
【0044】
【数2】
前記式6中、kは反応速度定数であり、Aは頻度因子であり、Eは活性化エネルギー(kJ/mol)であり、Rは気体定数:0.00831(kJ/(mol・K))であり、Tは反応温度(K)である。
【0045】
反応開始時温度TSOR’における脱硫反応の反応速度定数k0’は、反応t日経過時にはkt’に低下する。反応t日経過時に脱硫反応の反応速度定数k0’に相当する活性を得るためには、反応温度をTt’としなければならないものとすると、前記式5及び前記式6より、下式7が導かれる。なお、本実施形態の反応は、常圧蒸留残渣油を含む原料油の水素化処理反応のため、活性化エネルギーEを脱硫の活性化エネルギーEa(kJ/mol)としている。
【0046】
【数3】
本実施形態においては前記式7を基に、P
B、a、Ec、T
Bを求める。
【0047】
(Ec及びTBの求め方)
LHSV、水素分圧、水素/原料油比、原料油中の硫黄濃度、金属濃度を一定の条件とし、生成油中の硫黄濃度を一定の値SPnになるように、一定期間反応を行う。触媒は反応により劣化するため、生成油中の硫黄濃度をSPnとするために、反応温度を上げながら運転を行う。なお、この場合、生成油中の金属濃度も一定となる。反応時間を横軸に、実測の反応温度を縦軸にプロットし、回帰直線を引くと、y=anx+bn(0<anである。)で表される直線が得られる。an及びbnは触媒の劣化挙動を反映した値である。この直線におけるbnが前記式7におけるTSOR’となる。前記式7において、TSOR’にbnを代入し、Tt’に実測の反応温度を代入すると、任意の反応t日経過時における脱硫反応の劣化度Φ’が得られる。なお、脱硫の活性化エネルギーEaは、後述の方法により求められた値を使用することができる。反応時間を横軸に、Φ’の対数を縦軸にプロットし、回帰直線を引くと、y=-an’x(|-an’|=an’である。)で表される直線が得られる。an’は、触媒の脱硫反応の劣化速度を表している。
【0048】
n種類の硫黄濃度SPnについて同様の反応を行い、同様にして、n個のan、bnを求め、上記と同様の方法により、n個のan’を得る。nは3以上の整数である。nの数が多い方が、より精度の高いEcを得ることができる。一方、nの数が多すぎると、Ecを得るために時間が掛かり効率的ではない。本実施形態においては、nは3~20であることが好ましく、3~10であることがより好ましい。
このようにして得られたn個のan’及びbnを下式8にそれぞれ代入する。下式8は、コークの活性化エネルギー、及び基準反応温度を算出可能な式であり、本願の発明者らが、実機の運転結果等を基に初めて見出した式である。
【0049】
ln(an’)=ln(A)-(Ec/Rbn) 式8
前記式8中、Aは頻度因子であり、Ecはコーク劣化の活性化エネルギー(kJ/mol)であり、Rは気体定数:0.00831(kJ/(mol・K))である。
【0050】
n個のan’及びbnの組み合わせに関し、ln(an’)を縦軸に、1/bnを横軸にプロットし、回帰直線を引き、その傾きを求める。この傾きはEc/Rであるため、傾きからRを除すことによりコーク劣化の活性化エネルギーEcを求めることができる。
【0051】
また、n個のbnを平均することによりTBを求めることができる。
【0052】
Ec及びTBを求める上でのLHSV、水素分圧、水素/原料油比、原料油中の硫黄濃度、原料油中の金属濃度は、実機運転条件に即した条件とすることが好ましい。
そのようなLHSVとしては、例えば0.1~1.0h-1であり、水素分圧としては、例えば5~18MPaであり、水素/原料油比としては、例えば170~1400[Nm3/kL]であり、原料油中の硫黄濃度としては、例えば1~5質量%であり、原料油中の金属濃度としては、例えば10~200質量ppmである。
n種類の硫黄濃度SPnも同様に実機運転条件に即した条件とすることが好ましい。このようなSPnとしては、例えば0.5質量%以下である。
反応期間としては、例えば100~500日である。
【0053】
(PB及びaの求め方)
LHSV、水素/原料油比、原料油中の硫黄濃度、金属濃度、生成油中の硫黄濃度を一定の条件とし、水素分圧Pmの条件で、一定期間反応を行う。触媒は反応により劣化するため、生成油中の硫黄濃度を一定の値とするために、反応温度を上げながら運転を行う。反応時間を横軸に、実測の反応温度を縦軸にプロットし、回帰直線を引くと、y=amx+bm(0<amである。)で表される直線が得られる。この直線におけるbmが前記式7におけるTSOR’となる。前記式7において、TSOR’にbmを代入し、Tt’に実測の反応温度を代入すると、任意の反応t日経過時における脱硫反応の劣化度Φ’が得られる。反応時間を横軸に、Φ’の対数を縦軸にプロットし、回帰直線を引くと、y=-am’x(|―am’|=am’である。)で表される直線が得られる。am’は、触媒の脱硫反応の劣化速度を表している。
【0054】
m種類の水素分圧Pmについて同様の反応を行い、同様にして、m個のam、bmを求め、上記と同様の方法により、m個のam’を得る。mは3以上の整数である。mの数が多い方が、より精度の高いaを得ることができる。一方、mの数が多すぎると、aを得るために時間が掛かり効率的ではない。本実施形態においては、mは3~20であることが好ましく、3~10であることがより好ましい。
このようにして得られたm個のam’及びPmを下式9にそれぞれ代入する。下式9は、水素分圧係数、及び基準水素分圧を算出可能な式であり、本願の発明者らが、実機の運転結果等を基に初めて見出した式である。
【0055】
ln(am’)=-aln(Pm)+B1 式9
前記式9中、B1は0とすることができる。
【0056】
m個のam’及びPmの組み合わせに関し、ln(am’)を縦軸に、ln(Pm)を横軸にプロットし、回帰直線を引き、その傾きを求める。この傾きが水素分圧係数aである。
【0057】
また、上記m個の水素分圧Pmを平均することによりPBを求めることができる。
【0058】
a及びPBを求める上でのLHSV、水素/原料油比、原料油中の硫黄濃度、原料油中の金属濃度、生成油中の硫黄濃度は、実機運転条件に即した条件とすることが好ましい。
そのようなLHSVとしては、例えば0.1~1.0h-1であり、水素/原料油比としては、例えば170~1400[Nm3/kL]であり、原料油中の硫黄濃度としては、例えば1~5質量%であり、原料油中の金属濃度としては、例えば10~200質量ppmであり、生成油中の硫黄濃度としては、例えば0.5質量%以下である。
m種類の水素分圧Pmも同様に実機運転条件に即した条件とすることが好ましい。このようなPmとしては、例えば5~18MPaである。反応期間としては、例えば100~500日である。
【0059】
(α及びTSORの求め方1)
実機又はベンチスケールにおいて、想定する実機運転条件のLHSV、水素分圧、水素/原料油比、原料油中の硫黄濃度、原料油中の金属濃度、生成油中の硫黄濃度となるように、一定期間反応を行う。触媒は反応により劣化するため、反応温度を上げながら運転を行う。想定する実機運転条件とは、(Ec及びTBの求め方)、(PB及びaの求め方)で説明した運転条件が例として挙げられる。反応時間を横軸に、実測の反応温度を縦軸にプロットし、回帰直線を引くと、y=aαx+bαで表される直線が得られる。この直線におけるaαが前記式4におけるαに相関した値であり、bαが前記式4におけるTSORとなる。前記式7において、TSOR’にbαを代入し、Tt’に実測の反応温度を代入すると、任意の反応t日経過時における脱硫反応の劣化度Φ’が得られる。反応時間を横軸に、Φ’の対数を縦軸にプロットし、回帰直線を引くと、y=-aα’x(|-aα’|=aα’とする。)で表される直線が得られる。aα’は、触媒の脱硫反応の劣化速度を表している。
【0060】
運転条件であるSP、SF、LHSV、P、及び前記の方法で求めたPB、a、Ec、TB、TSOR(すなわち、bα)を前記式4に代入してDを求める。求められたDを前記式3に代入するとΦCが得られる。この場合、ΦCはαの関数となる。前記式2において、ΦM=1とすると、Φ=ΦCとなり、Φはαの関数となる。反応時間を横軸に、Φの対数を縦軸にプロットし、αを0<αとなるように変えて回帰直線を引くと、y=-aα”x(|-aα”|=aα”である。)で表される複数の直線がαの値ごとに得られる。各直線におけるaα”と、上述のaα’が等しい値となるときのαを前記式4におけるαとすることができる。
【0061】
(α及びTSORの求め方2)
(α及びTSORの求め方1)と同様の反応を行い、y=aαx+bαで表される直線を得、bαを前記式4におけるTSORとする。運転条件であるSP、SF、LHSV、P、及び前記の方法で求めたPB、a、Ec、TB、TSOR(すなわち、bα)を前記式4に代入してDを求める。求められたDを前記式3に代入するとΦCが得られる。この場合、ΦCはαの関数となる。前記式2において、ΦM=1とすると、Φ=ΦCとなり、Φはαの関数となる。得られたΦを前記式7のΦ’に、TSOR(すなわち、bα)を前記式7のTSOR
’に代入して、Tt’について整理すると、Tt’はαの関数となる。実測の反応温度Tobsに対するTt’の比(Tt’/Tobs)が1となるときのαを前記式4におけるαとすることができる。同様にN個の反応温度Tobsに対するTt’の比(Tt’/Tobs)を計算し、これらの平均が最も1に近づくときのαを前記式4におけるαとすることが好ましい。Nは10以上の整数であり、10~500であることが好ましく、50~200であることがより好ましい。
【0062】
(コーク劣化関数1の変形例)
コーク劣化関数1の変形例を以下に説明する。コーク劣化関数1としては下式10で表されるコーク劣化関数1-1を使用してもよい。
【0063】
ΦC=exp(-D’t) 式10
前記式10中、D’は触媒の脱硫反応の活性種のコークの劣化係数であり、tは反応経過日数(日)である。
【0064】
D’は下式11により、求めることができる。
【0065】
【数4】
前記式11中、α’は脱硫反応の触媒定数(触媒のコークの脱硫反応の劣化速度を表す定数)であり、S
Fは任意の反応t日経過時の原料油中の硫黄濃度(質量%)であり、S
Pは任意の反応t日経過時の生成油中の硫黄濃度(質量%)であり、nは、常圧蒸留残渣油を含む原料油の水素化処理反応の反応次数であり、LHSVは任意の反応t日経過時の液空間速度(h
-1)であり、P
Bは基準水素分圧(MPa)であり、Pは任意の反応t日経過時の水素分圧(MPa)であり、aは水素分圧係数であり、G
Bは基準水素/原料油比(Nm
3/kL)であり、Gは任意の反応t日経過時の水素/原料油比(Nm
3/kL)であり、bは水素/原料油比係数であり、Ecはコーク劣化の活性化エネルギー(kJ/mol)であり、Rは気体定数:0.00831(kJ/(mol・K))であり、T
Bは基準反応温度(K)であり、T
SORは0日目の要求温度(K)である。
【0066】
前記式11中のSF、SP、LHSV、Pは、前記式4の説明と同様である。前記式11中、Gは、上述した情報取得ステップで取得した原料油に関する情報及び運転条件に関する情報に基づき代入される値である。具体的には、Gは、水素の供給量(Nm3/時間)を原料油の供給量(kL/時間)で除すことにより求めることができる。
【0067】
本明細書において、「基準水素/原料油比」とは、実際の反応条件の標準的な水素/原料油比を意味する。後述する水素/原料油比係数bを決定する際に用いる水素/原料油比の平均値として求められる。
【0068】
前記式11において、(GB/G)bで表される項は、水素/原料油比依存性を示す項であり、上述した通り、Gを設定値とし、一定の条件で運転する場合、定数となる。
【0069】
PB、a、Ec、TB、TSORは前記式4で説明した方法と同じ方法で求めることができる。以下、GB、b、α’の求め方を説明する。
【0070】
GB、bはPB、a、Ec、TB、TSORと同様に、使用する触媒に応じて定められるパラメータであり、実機で反応を行いながら求めてもよいし、実機運転条件に基づいてベンチスケールにおいて事前に求めてもよい。本実施形態においては、実機運転条件に基づいてベンチスケールにおいて事前に求めることが好ましい。以下、GB、bの求め方について説明する。
【0071】
(GB、bの求め方)
本実施形態の基本劣化パラメータの求め方は、上述の実機での反応、又は実機運転条件に基づいてベンチスケールでの反応で得られたデータから解析される触媒の脱硫反応の劣化挙動に基づく。
【0072】
LHSV、水素分圧、原料油中の硫黄濃度、原料油中の金属濃度、生成油中の硫黄濃度を一定の条件とし、水素/原料油比Ghの条件で、一定期間反応を行う。触媒は反応により劣化するため、生成油中の硫黄濃度を一定の値とするために、反応温度を上げながら運転を行う。反応時間を横軸に、実測の反応温度を縦軸にプロットし、回帰直線を引くと、y=ahx+bh(0<ahである。)で表される直線が得られる。この直線におけるbhが前記式7におけるTSOR’となる。前記式7において、TSOR’にbhを代入し、Tt’に実測の反応温度を代入すると、任意の反応t日経過時における脱硫反応の劣化度Φ’が得られる。反応時間を横軸に、Φ’の対数を縦軸にプロットし、回帰直線を引くと、y=-ah’x(|―ah’|=ah’である。)で表される直線が得られる。ah’は、触媒の脱硫反応の劣化速度を表している。
【0073】
h種類の水素/原料油比Ghについて同様の反応を行い、同様にして、h個のah、bhを求め、上記と同様の方法により、h個のah’を得る。hは3以上の整数である。hの数が多い方が、より精度の高いbを得ることができる。一方、hの数が多すぎると、bを得るために時間が掛かり効率的ではない。本実施形態においては、hは3~20であることが好ましく、3~10であることがより好ましい。
このようにして得られたh個のah’及びGhを下式12にそれぞれ代入する。下式12は、水素/原料油比係数、及び基準水素/原料油比を算出可能な式であり、本願の発明者らが、実機の運転結果等を基に初めて見出した式である。
【0074】
ln(ah’)=-bln(Gh)+B3 式12
前記式12中、B3は0とすることができる。
【0075】
h個のah’及びGhの組み合わせに関し、ln(ah’)を縦軸に、ln(Gh)を横軸にプロットし、回帰直線を引き、その傾きを求める。この傾きが水素/原料油比係数bである。
【0076】
また、上記h種類の水素/原料油比Ghを平均することにより、GBを求めることができる。
【0077】
b及びGBを求める上でのLHSV、水素分圧、原料油中の硫黄濃度、原料油中の金属濃度、生成油中の硫黄濃度は、実機運転条件に即した条件とすることが好ましい。
そのようなLHSVとしては、例えば0.1~1.0h-1であり、水素分圧としては、例えば5~18MPaであり、原料油中の硫黄濃度としては、例えば1~5質量%であり、原料油中の金属濃度としては、例えば10~200質量ppmであり、生成油中の硫黄濃度としては、例えば0.5質量%以下である。
h種類の水素/原料油比Ghも同様に実機運転条件に即した条件とすることが好ましい。このようなGhとしては、例えば170~1400[Nm3/kL]である。反応期間としては、例えば100~500日である。
【0078】
また、α’は、前記式4の代わりに前記式11を使用する以外は、コーク劣化関数1において説明したαの求め方((α及びTSORの求め方1)及び(α及びTSORの求め方2))と同じ方法により求めることができる。
【0079】
<コーク劣化関数2>
本実施形態においては、コークの堆積による触媒の脱硫反応の劣化に関するコーク劣化関数は、触媒の脱硫反応の易失活活性種の劣化に関する易失活活性種劣化関数と、触媒の脱硫反応の難失活活性種の劣化に関する難失活活性種劣化関数から構成される下式13で表されるコーク劣化関数2が好ましい。
【0080】
ΦC=k1×exp(-D1t)+k2×exp(-D2t) 式13
前記式13中、k1は触媒の脱硫反応の易失活活性種の活性点係数であり、k2は触媒の脱硫反応の難失活活性種の活性点係数であり、活性点係数は両活性種の脱硫反応の相対反応速度定数を表している。D1は触媒の脱硫反応の易失活活性種のコークによる劣化係数であり、D2は触媒の脱硫反応の難失活活性種のコークによる劣化係数であり、tは反応経過日数(日)であり、k1+k2=1である。
【0081】
常圧蒸留残渣油の水素化処理反応においては、上述した通り、コークの堆積により触媒が劣化するため、生成油中の硫黄含有量を一定レベル以下に保つため、反応温度を上げて運転を行う必要がある。常圧蒸留残渣油の水素化処理反応において、反応開始初期には、反応温度が急激に上昇する。この反応温度の急激な上昇は、反応開始初期の触媒の急激な劣化を意味する。一方、反応中期以降においては、反応温度は緩やかに上昇する。この反応温度の緩やかな上昇は、反応中期以降の触媒の緩やかな劣化を意味する。
【0082】
すなわち、常圧蒸留残渣油の水素化処理反応においては、反応開始初期の触媒の急激な劣化と、反応中期以降の触媒のゆるやかな劣化が起こっていることが、反応時間に対する反応温度のプロファイルから示唆される。
【0083】
本願の発明者らは、上記反応時間に対する反応温度のプロファイルに基づき、触媒には、反応開始初期にコークにより失活する脱硫反応の易失活活性種と、反応中期以降にコークにより失活する脱硫反応の難失活活性種が存在するとの仮定に基づき、コーク劣化関数1をさらに改良し、コーク劣化関数2を見出した。その結果、コーク劣化関数2によれば、コーク劣化関数1よりも、より精度よく触媒のコークによる脱硫反応の劣化度を算出可能となることを見出した。脱硫反応の易失活活性種とは、主に反応初期に活性が失われる活性種であり、脱硫反応の難失活活性種とは、反応中期以降に活性が失われる活性種を意味する。
【0084】
前記式13において、k1は、触媒の脱硫反応の易失活活性種の活性点係数を示し、k2は、触媒の脱硫反応の難失活活性種の活性点係数を示す。k1及びk2は触媒固有の定数であり、その求め方は後述する。
【0085】
D1は下式14により、D2は下式15により求めることができる。
【0086】
【0087】
【0088】
前記式14及び前記式15中、SFは任意の反応t日経過時の原料油中の硫黄濃度(質量%)であり、SPは任意の反応t日経過時の生成油中の硫黄濃度(質量%)であり、nは、常圧蒸留残渣油を含む原料油の水素化処理反応の反応次数であり、LHSVは任意の反応t日経過時の液空間速度(h-1)であり、PBは基準水素分圧(MPa)であり、Pは任意の反応t日経過時の水素分圧(MPa)であり、aは水素分圧係数であり、Ecはコーク劣化の活性化エネルギー(kJ/mol)であり、Rは気体定数:0.00831(kJ/(mol・K))であり、TBは基準反応温度(K)であり、TSORは0日目の要求温度(K)である。
前記式14中、α1は脱硫反応の易失活活性点の触媒定数(触媒のコークによる脱硫反応の劣化速度を表す定数)であり、前記式15中、α2は脱硫反応の難失活活性点の触媒定数(触媒のコークによる脱硫反応の劣化速度を表す定数)である。
【0089】
前記式14及び前記式15中、SF、SP、LHSV、Pは、前記式4の説明と同様に、上述した情報取得ステップで取得した原料油に関する情報、生成油に関する情報、及び運転条件に関する情報に基づき代入される値である。なお、LHSVは原料油の供給量(体積/h)を触媒充填量(体積)で除すことにより求めることができる。
【0090】
上述した通り、SF、LHSV、Pは制御することが可能なパラメータである。また、SPは目的とする生成油の硫黄濃度である。すなわち、前記式14及び前記式15により、上記SF、SP、LHSV、及びPの反応条件における、触媒の脱硫反応の易失活活性種のコークによる劣化係数、及び触媒の脱硫反応の難失活活性種のコークによる劣化係数をそれぞれ算出することができる。常圧蒸留残渣油を含む原料油の水素化処理反応の反応次数であるnの求め方は後述する。
【0091】
(コークの基本劣化パラメータの求め方)
前記式14及び前記式15中、α1、α2、PB、a、Ec、TB、TSORは前記式4と同様、定数であり、これらのパラメータを総称して「コークの基本劣化パラメータ2」という。コークの基本劣化パラメータ2は使用する触媒に応じて定められるパラメータであり、実機で反応を行いながら求めてもよいし、実機運転条件に基づいてベンチスケールにおいて事前に求めてもよい。本実施形態においては、実機運転条件に基づいてベンチスケールにおいて事前に求めることが好ましい。前記式14及び前記式15中、PB、a、Ec、TBは前記式4と同じ方法により求めることができる。
一方、α1、α2、TSORは例えば以下の2種類の方法により求めることができる。また、前記式13における触媒の脱硫反応の易失活活性種の活性点数係数k1、触媒の脱硫反応の難失活活性種の活性点数係数k2も同時に以下のように求めることができる。
【0092】
(α1、α2、TSOR、k1、及びk2の求め方1)
実機又はベンチスケールにおいて、想定する実機運転条件のLHSV、水素分圧、水素/原料油比、原料油中の硫黄濃度、原料油中の金属濃度、生成油中の硫黄濃度となるように、一定期間反応を行う。触媒は反応により劣化するため、反応温度を上げながら運転を行う。反応時間を横軸に、反応温度を縦軸にプロットする。これらのプロットの回帰直線を引く場合、上述した通り、反応開始初期(x1~xn)の、急激な反応温度の上昇に相関するy=a1x+b1で表される直線と、反応中期以降(xn+1~xm)の、緩やかな反応温度の上昇に相関するy=a2x+b2で表される2本の直線が得られる。前記式において、a1>a2>0であり、b1<b2であり、x1<xn<xn+1<xmである。xn、xmは反応開始からのn(m)番目のプロットに相関した反応時間を意味する。
【0093】
上述のa1がα1に相関する値であり、b1がk1+k2に相関する値であり、TSORである。また、a2がα2に相関する値であり、b2がk2に相関する値である。次に、y=a1x+b1とy=a2x+b2での交点(xip、yip)を計算する。この交点はy=a1x+b1とy=a2x+b2の変曲点を意味する。すなわち、(xip、yip)までは、触媒の脱硫反応の易失活活性種のみが存在するとみなし、(xip、yip)からは触媒の脱硫反応の易失活活性種及び触媒の脱硫反応の難失活活性種の2つの活性種が存在するとみなす。
【0094】
前記式7において、TSOR’にb1を代入し、Tt’に反応温度を代入すると、任意の反応t日経過時における脱硫反応の劣化度Φ’が得られる。反応時間を横軸に、Φ’の対数を縦軸にプロットし、x1~xipまでの回帰直線を引くと、y=-a1’x(|-a1’|=a1’である。)で表される直線が得られる。また、xip~xmまでの回帰直線を引くと、y=-a2’x-b2’(|-a2’|=a2’であり、|-b2’|=b2’である。)で表される直線が得られる。a1’はα1に相関した値であり、a2’はα2に相関した値であり、b2’はk2に相関した値である。
【0095】
k2は、上述の回帰直線で得られたb2’を下式16に代入して求めることができる。k1はk1+k2=1であるから、k1=1-k2より求めることができる。
k2=exp(-b2’) 式16
【0096】
運転条件であるSP、SF、LHSV、P、及び前記の方法で求めたPB、a、Ec、TB、TSOR(b1)を前記式14及び前記式15に代入してD1及びD2を得る。求められたD1、D2、k1、k2を前記式13に代入するとΦCが得られる。この場合、ΦCはα1とα2の関数となる。前記式2において、ΦM=1とすると、Φ=ΦCとなり、Φはα1とα2の関数となる。反応時間を横軸に、Φの対数を縦軸にプロットし、α2=0としてα1を0<α1になるように変えてx1~xipまでの回帰直線を引くと、y=-aα1”x(|-aα1”|=aα1”である。)で表される複数の直線がα1の値ごとに得られる。各直線におけるaα1”と、上述のa1’が等しい値となるときのα1を前記式14におけるα1とすることができる。
次に、上述の方法で得られたα1とα2の関数であるΦC(Φ)に、得られたα1を代入し、α2を0<α2になるように変えてxip~xmまでの回帰直線を引くと、y=-aα2”x-bα2”(|-aα2”|=aα2”である。)で表される複数の直線がα2の値ごとに得られる。各直線におけるaα2”と、上述のa2’が等しい値となるときのα2を前記式15におけるα2とすることができる。
【0097】
(α1、(α2)、TSOR、k1、及びk2の求め方2)
本実施形態では、α2は、後述の金属劣化関数における金属の基本劣化パラメータと同時に求めるため、α1、TSOR、k1、及びk2を求める。本実施形態のα2の求め方は後述する。TSOR、k1、及びk2は、(α1、α2、TSOR、k1、及びk2の求め方1)と全く同じ方法で求める。(α1、α2、TSOR、k1、及びk2の求め方1)において、得られたα1とα2の関数であるΦCにおいて、反応時間を横軸に、ΦCの対数を縦軸にプロットし、α2=0としてα1を0<α1になるように変えてx1~xipまでの回帰直線を引くと、y=-aα1-1”x(|-aα1-1”|=aα1-1”である。)で表される複数の直線がα1の値ごとに得られる。各直線におけるaα1-1”と、上述のa1’が等しい値となるときのα1を前記式14におけるα1とすることができる。
【0098】
(α1、α2、TSOR、k1、及びk2の求め方3)
(α1、α2、TSOR、k1、及びk2の求め方1)と同様の反応を行い、TSOR(b1)を得る。運転条件であるSP、SF、LHSV、P、及び前記の方法で求めたPB、a、Ec、TB、TSOR(b1)を前記式14及び前記式15に代入してD1及びD2を得る。求められたD1、D2を前記式13に代入するとΦCが得られる。この場合、ΦCはα1、α2、k1、k2の関数となる。前記式2において、ΦM=1とすると、Φ=ΦCとなり、Φはα1、α2、k1、k2の関数となる。得られたΦを前記式7のΦ’に、TSOR(すなわち、b1)を前記式7のTSOR’に代入して、Tt’について整理すると、Tt’はα1、α2、k1、k2の関数となる。α2を0とし、k2=1-k1とするとTt’はα1、k1の関数となる。x1~xipにおける実測の反応温度Tobsに対するTt’の比(Tt’/Tobs)が1となるときのα1、k1の組み合わせを求め、このα1を前記式14におけるα1とすることができる。なお、この時のk1は仮値である。同様にM個の反応温度Tobsに対するTt’の比(Tt’/Tobs)を計算し、これらの平均が最も1に近づくときのα1を前記式14におけるα1とすることが好ましい。Mは10以上の整数であり、10~500であることが好ましく、50~200であることがより好ましい。
得られたα1を使用し、k1=1-k2とするとTt’はα2、k2の関数となる。xip~xmにおける実測の反応温度Tobsに対するTt’の比(Tt’/Tobs)が1となるときのα2、k2の組み合わせを求め、このα2、k2を前記式15におけるα2、k2とすることができる。得られたk2をk1=1-k2に代入することによりk1を求め、このk1を前記式14におけるk1とすることができる。同様にL個の反応温度Tobsに対するTt’の比(Tt’/Tobs)を計算し、これらの平均が最も1に近づくときのα2、k2を前記式15におけるα2、k2とすることが好ましい。また、得られたk2から求められたk1を前記式14におけるk1とすることが好ましい。Lは10以上の整数であり、10~500であることが好ましく、50~200であることがより好ましい。
【0099】
このように、α1、α2、TSOR、k1、及びk2を求めるためには、y=a1x+b1、y=a2x+b2を得る必要がある。y=a1x+b1、y=a2x+b2は例えば、以下のように求めることができる。
【0100】
上述の方法で、反応時間を横軸に、反応温度を縦軸にプロットする。反応開始から反応終了までの回帰直線を引くと、y=a’x+b’で表される直線が得られる。この直線は、変曲点を考慮していない直線である。反応終了からプロットを順に削除し、相関係数が1に近づくように前記y=a’x+b’を調整し、y=a1’x+b1’を得る。同様に、反応開始からプロットを順に削除し、相関係数が1に近づくように前記y=a’x+b’を調整し、y=a2’x+b2’を得る。y=a1’x+b1’とy=a2’x+b2’の相関係数の平均が最も1に近づく場合の各直線がy=a1x+b1、y=a2x+b2となる。なお、全プロットは、y=a1x+b1、y=a2x+b2のどちらか一方に属するようにする。
【0101】
y=a1x+b1、y=a2x+b2を得るために必要な反応時間は通常100日以上である。また、一般に、上記、y=a’x+b’の相関係数が0.5以上となるまで反応を行えば充分である。
【0102】
(コーク劣化関数2の変形例)
コーク劣化関数2の変形例を以下に説明する。コーク劣化関数2としては下式17で表されるコーク劣化関数2-1を使用してもよい。
【0103】
ΦC=k1×exp(-D1’t)+k2×exp(-D2’t) 式17
前記式17中、k1、k2、tは前記式13と同じであり、D1’は触媒の脱硫反応の易失活活性種のコークの劣化係数であり、D2’は触媒の脱硫反応の難失活活性種のコークの劣化係数である。
【0104】
D1’は下式18により、D2’は下式19により求めることができる。
【0105】
【0106】
【0107】
前記式18及び前記式19中、SF、SP、n、LHSV、PB、P、a、Ec、R、TB、TSORは前記式14及び前記式15と同じであり、GB、G、bは前記式11と同じであり、前記式18中、α1’は脱硫反応の易失活活性点の触媒定数(触媒のコークによる脱硫反応の劣化速度を表す定数)であり、前記式19中、α2’は脱硫反応の難失活活性点の触媒定数(触媒のコークによる脱硫反応の劣化速度を表す定数)である。
【0108】
PB、a、Ec、TB、TSORは前記式14及び前記式15で説明した方法と同じ方法で求めることができ、GB、bは、前記式11で説明した方法と同じ方法で求めることができる。
【0109】
また、α1’、α2’は、前記式13の代わりに前記式17を、前記式14の代わりに前記式18を、前記式15の代わりに前記式19を使用する以外は、脱硫反応のコーク劣化関数2において説明したα1、α2の求め方と同じ方法により求めることができる。
【0110】
<金属劣化関数>
金属劣化関数としては、触媒の金属劣化に関する脱硫反応の劣化度合いを算出可能な関数であれば、特に限定されないが、例えば下式20で表される金属劣化関数1が例として挙げられる。式20で表される金属劣化関数1は、非特許文献(化学工学論文集、第24巻、第4号(1998)、p656)に記載されている金属劣化関数である。
【0111】
【数9】
前記式20は、触媒細孔内拡散速度の低下に起因する脱硫反応の劣化度を触媒有効係数の減少割合で表す劣化関数である。Φ
Mは劣化度であり、ηは触媒有効係数であり、t
endは触媒細孔が閉塞するまでの反応経過日数(日)である。ηは0超1以下であり、η=1の時はΦ
M=1となる。ηは1、0超1未満の定数の2通りの値をとる。反応初期は1であり、反応中期以降は0超1未満の定数となる。
【0112】
常圧蒸留残渣油を含む原料油の水素化処理反応においては、上述した通り、金属の堆積により触媒が劣化するため、生成油中の硫黄含有量を一定レベル以下に保つため、反応温度を上げて運転を行う必要がある。この金属の堆積による触媒の脱硫反応の劣化の現象は、原料油の触媒細孔への拡散速度の減少により説明することができる。すなわち、常圧蒸留残渣油の水素化処理反応においては、原料油が触媒細孔内に拡散し、活性点にアクセスする必要がある。このとき、反応速度より拡散速度が充分に大きい場合には、原料油は全ての活性点にアクセスできるが、反応速度に対して拡散速度が小さい場合は、原料油は全ての活性点にアクセスできず、全ての活性点が有効に機能しない。拡散速度は、金属の堆積により触媒の細孔が閉塞することにより経時的に減少する。
【0113】
触媒細孔内の活性点がどの程度有効に使用されるかは、反応速度と拡散速度との関係により定まることになる。この関係は、触媒有効係数ηで理論的に表すことができる。拡散阻害の影響がなく、触媒細孔内の活性点が実質的に全て使用されている場合、ηは1となる。一方、触媒細孔内の活性点が実質的に全て使用されない場合、ηは1よりも小さくなる。そして、触媒の外表面近傍の活性点のみが使用されている場合は、ηは0に近づく。
【0114】
上述した通り、常圧蒸留残渣油の水素化処理反応においては、反応開始初期の触媒の急激な劣化と、反応中期以降の触媒のゆるやかな劣化が起こっていることが、反応時間に対する反応温度のプロファイルから示唆されている。
【0115】
上述した通り、本願の発明者らは、反応開始初期にコークにより失活する脱硫反応の易失活活性種と、反応中期以降にコークにより失活する脱硫反応の難失活活性種が存在するとの仮定に基づき、コーク劣化関数を見出した。ここで、反応中期以降には金属堆積による活性低下も起こっていると考えられ、反応中期以降の触媒のゆるやかな劣化はコークにより失活する脱硫反応の難失活活性種の失活と、金属の堆積によるものと考えられる。本願の発明者らは、上記反応時間に対する反応温度のプロファイルに基づき、反応中期以降の触媒のゆるやかな劣化はコークにより失活する脱硫反応の難失活活性種の失活と、金属の堆積によるとの仮定に基づき、金属劣化関数を見出した。その結果、コーク劣化関数と金属劣化関数を組み合わせることにより、より精度よく触媒の脱硫反応の劣化度を算出可能となることを見出した。
【0116】
前記式20中、η、tendは、定数である(但し、ηは反応経過時によって2種類の定数となる)。以下、これらのパラメータを総称して「金属の基本劣化パラメータ」という。金属の基本劣化パラメータは、使用する触媒に応じて定められるパラメータであり、実機で反応を行いながら求めてもよいし、実機運転条件に基づいてベンチスケールにおいて事前に求めてもよい。本実施形態においては、実機運転条件に基づいてベンチスケールにおいて事前に求めることが好ましい。
以下、基本劣化パラメータη、tendの求め方について例を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0117】
(η、tend、α2の求め方1)
本実施形態は、(α1、(α2)、TSOR、k1、及びk2の求め方2)との組み合わせによりη、tend、α2を求める。上述の(α1、(α2)、TSOR、k1、及びk2の求め方2)で説明した方法と同様の方法により、反応開始初期(x1~xn)の、急激な反応温度の上昇に対応するy=a1x+b1で表される直線と、反応中期以降(xn+1~xm)の、緩やかな反応温度の上昇に対応するy=a2x+b2で表される2本の直線、及び変曲点(xip、yip)を得る。(xip、yip)からは脱硫反応の易失活活性種及び脱硫反応の難失活活性種の2つのコークの失活活性種が存在し、金属劣化が起こっているとみなす。すなわち、変曲点(xip、yip)まではηは1であり前記式20よりΦMは1となる。したがって、変曲点(xip、yip)までは前記式2はΦ=ΦCで表される。一方、変曲点(xip、yip)以後は、ηは1よりも小さい定数となる。
【0118】
上述の(α1、(α2)、TSOR、k1、及びk2の求め方2)で説明した方法と同様の方法により、xip~xmまでの回帰直線を引き、y=-a2’x-b2’(|-a2’|=a2’であり、|-b2’|=b2’である。)で表される直線をまず得る。
【0119】
運転条件であるSP、SF、LHSV、P、及び前記の方法で求めたPB、a、Ec、TB、TSOR(b1)、α1を前記式14及び前記式15に代入してD1及びD2を得る。求められたD1、D2、及び前記の方法で求めたk1、k2を前記式13に代入するとΦCが得られる。この場合、ΦCはα2の関数となる。このΦCと前記式20のΦMを前記式2に代入すると、Φが得られる。この場合、Φはα2、η、tendの関数となる。反応時間を横軸に、Φの対数を縦軸にプロットし、α2を0<α2、ηを0<η<1、xip<tendの範囲で、(α2、η、tend)の組み合わせを変えて、xip~xmまでの回帰直線を引くと、y=-aα3”x-bα3”(|-aα3”|=aα3”である。)で表される複数の直線が(α2、η、tend)の組み合わせごとに得られる。各直線におけるaα3”と、上述のa2’が等しい値となるときのα2を前記式15におけるα2とすることができる。また、各直線におけるbα3”と、上述のb2’が等しい値となるときの(η、tend)の組み合わせを前記式20におけるη、tendとすることができる。
【0120】
(η、tendの求め方2)
本実施形態は、上述の方法でΦM=1として、α2を事前に求めている場合に適用することができる。上述の(α1、α2、TSOR、k1、及びk2の求め方1)で説明した方法と同様の方法により、反応開始初期(x1~xn)の、急激な反応温度の上昇に対応するy=a1x+b1で表される直線と、反応中期以降(xn+1~xm)の、緩やかな反応温度の上昇に対応するy=a2x+b2で表される2本の直線、及び変曲点(xip、yip)を得る。(xip、yip)からは脱硫反応の易失活活性種及び脱硫反応の難失活活性種の2つのコークの失活活性種が存在し、金属劣化が起こっているとみなす。すなわち、変曲点(xip、yip)まではηは1であり前記式20よりΦMは1となる。したがって、変曲点(xip、yip)までは前記式2はΦ=ΦCで表される。一方、変曲点(xip、yip)以後は、ηは1よりも小さい定数となる。
【0121】
上述の(α1、α2、TSOR、k1、及びk2の求め方1)で説明した方法と同様の方法により、xip~xmまでの回帰直線を引き、y=-a2’x-b2’(|-a2’|=a2’であり、|-b2’|=b2’である。)で表される直線をまず得る。
【0122】
運転条件であるSP、SF、LHSV、P、及び前記の方法で求めたPB、a、Ec、TB、TSOR(b1)、α1、α2を前記式14及び前記式15に代入してD1及びD2を得る。求められたD1、D2、及び前記の方法で求めたk1、k2を前記式13に代入するとΦCが得られる。このΦCと前記式20のΦMを前記式2に代入すると、Φが得られる。この場合、Φはη、tendの関数となる。反応時間を横軸に、Φの対数を縦軸にプロットし、ηを0<η<1、xip<tendの範囲で、(η、tend)の組み合わせを変えて、xip~xmまでの回帰直線を引くと、y=-aα3-1”x-bα3-1”(|-aα3-1”|=aα3-1”である。)で表される複数の直線が(η、tend)の組み合わせごとに得られる。各直線におけるbα3-1”と、上述のb2’が等しい値となるときの(η、tend)の組み合わせを前記式20におけるη、tendとすることができる。なお、上記では、コーク劣化関数2を使用して説明したが、コーク劣化関数1、コーク劣化関数1-1、コーク劣化関数2-1の場合も同様にしてη及びtendを求めることができる。この場合、コーク劣化関数1、コーク劣化関数1-1、コーク劣化関数2-1により得られたΦCを使用すればよい。
【0123】
また、金属劣化関数としては、例えば下式21で表される金属劣化関数2も例として挙げられる。
【0124】
【数10】
前記式21中、ηは触媒有効係数であり、MOCは任意の反応t日経過時の金属堆積量(単位:重量%)であり、M
Cは触媒の最大金属堆積量(単位:重量%)である。すなわち、M
Cは、前記式20のt
endにおける触媒の金属堆積量を示す。
【0125】
金属劣化関数2は金属劣化関数1に基づいて導出される式である。以下、金属劣化関数2の導出について、説明する。
【0126】
前記式21におけるMOCは下式22で表される。
【0127】
【数11】
前記式22中、WHSVは反応開始時から任意の反応t日経過時までの平均の重量空間速度(h
-1)であり、M
Fは反応開始時から任意の反応t日経過時までの原料油中の平均金属濃度(重量ppm)であり、M
Pは反応開始時から任意の反応t日経過時までの生成油中の平均金属濃度(重量ppm)であり、tは反応経過日数である。すなわち、[0.0024×WHSV×(M
F-M
p)]は、反応開始時から任意の反応t日経過時までの1日あたりの平均金属堆積量(単位)を表す。
【0128】
前記式22より、前記式21におけるMCは下式23で表される。
【0129】
【数12】
前記式中、WHSV、M
F、M
Pは前記式22と同じであり、t
endは触媒細孔が閉塞するまでの反応経過日数(日)である。
【0130】
前記式22及び前記式23よりtendは下式24で表される。
tend=Mc/(MOC/t) 式24
【0131】
前記式24を前記式20に代入すると前記式21を導出することができる。
金属劣化関数2によると、tendを、MOC及び、MCにより求めることが可能となる。
【0132】
(MOCの求め方)
MOCは、前記式22により求めることができる。前記式中、WHSV、MF、MPは、上述した情報取得ステップで取得した原料油に関する情報、生成油に関する情報、及び運転条件に関する情報に基づき代入される値である。なお、WHSVは、原料油の供給量(重量/h)を触媒充填量(重量)で除すことにより求めることができる。
【0133】
上述した通り、WHSV、MFは制御することが可能なパラメータである。また、MPは目的とする生成油の金属濃度である。すなわち、前記式21により、上記WHSV、MF、MPの反応条件における、金族劣化関数を算出することができる。
【0134】
(MCの求め方)
MCは触媒固有の値であり、本分野で公知の方法に求めることができる。MCの求め方の例としては、例えば、実機又はベンチスケールにおいて、想定する実機運転条件のLHSV、水素分圧、水素/原料油比、原料油中の硫黄濃度、原料油中の金属濃度、生成油中の硫黄濃度となるように、一定期間反応を行う。触媒は反応により劣化するため、反応温度を上げながら運転を行う。実機運転条件としては、(Ec及びTBの求め方)、(PB及びaの求め方)で説明した運転条件が例として挙げられる。長時間反応を継続すると、反応温度を機器使用最高温度としても(例えば410℃)、生成油中の硫黄濃度が所定の値とならなくなる。このまま反応を継続し、最終的に、原料油中の硫黄濃度=生成油中の硫黄濃度となったときに反応を停止し、触媒を抜出す。抜き出した触媒の金属濃度を測定し、得られた値をMCとすることができる。MCを短期間で求める観点からは、金属濃度が極めて高い原料油を使用し、実機運転条件よりも高いLHSVで運転を行ってもよい。
【0135】
金属劣化関数2においては、tendを、MOC及び、MCにより求めることが可能となる。したがって、上述の(η、tend、α2の求め方)におけるフィッティングがより容易になる。具体的には、上述の(η、tend、α2の求め方)においては、bα3”と、b2’が等しい値となるときの(η、tend)の組み合わせを定める必要があったが、金属劣化関数2においては、tendはMOC及び、MCにより事前に求められているため、bα3”と、b2’が等しい値となるときのηのみを定めればよく、より簡便に、かつ高精度にηを求めることが可能となる。
【0136】
(ηの切り替えタイミング)
上述した通り、ηは1、上述の方法で求めた0超1未満の定数の2通りの値をとる。反応初期は1であり、反応中期以降は0超1未満の定数とする。ηを1から前記0超1未満の定数へ切り替えるタイミングについて以下2例を説明するが、本発明は以下の2例に限定されるものではない。本実施形態の情報処理方法は、ηを切り替えるタイミングを判断するステップを有することが好ましい。この場合、上述の情報取得ステップで取得する運転条件に関する情報として、反応温度の実測値に関する情報が含まれていることが好ましい。ηを切り替えるタイミングを判断するステップは、例えば、本実施形態の分解軽質油得量算出装置1によって実行される。例えば、計算機本体12における演算部13によって実行される。
【0137】
(ηの切り替えタイミング1)
ΦM=1として反応を開始する。この場合Φ=ΦCとなる。このΦを用いて、後述の反応温度算出ステップにより、所定の条件を満たすために必要な反応温度Ttを算出し、この反応温度Ttで反応を継続する。反応中期以降においては、反応温度をTtとしても所定の条件(所定の生成油中の硫黄濃度)を満たさなくなる。この場合、反応温度を上げ、所定の条件(所定の生成油中の硫黄濃度)を満たす反応温度を探索する。この時の反応温度がTt+Z(℃)であるとする。Zが2(℃)以上になったときにηを1から前記0超1未満の定数へ切り替えることが好ましい。
【0138】
(ηの切り替えタイミング2)
ΦM=1として反応を開始する。この場合Φ=ΦCとなる。このΦを用いて、後述の反応温度算出ステップにより、所定の条件を満たすために必要な反応温度Ttを算出し、この反応温度Ttで反応を継続する。上述した通り、反応中期以降においては、反応温度をTtとしても所定の条件(所定の生成油中の硫黄濃度)を満たさなくなる。この場合、反応温度を上げ、所定の条件(所定の生成油中の硫黄濃度)を満たす反応温度を探索する。後述の式25のTSORに上述の方法で求めたTSORを、Ttに反応温度算出ステップにより求められたTtを代入しΦ(Φt)を求める。また、後述の式25のTSORに上述の方法で求めたTSORを、Ttに上述の所定の条件(所定の生成油中の硫黄濃度)を満たす反応温度(実測値)を代入しΦ(Φobs)を求める。Φobs/Φtを経時的に観察し、Φobs/Φtが0.9以下になったときにηを1から前記0超1未満の定数へ切り替えることが好ましい。
【0139】
≪反応温度算出ステップ≫
本実施形態の反応温度算出ステップは、前記触媒の脱硫反応の劣化度に基づき、前記原料油に関する情報、前記生成油に関する情報、及び前記運転条件を満たすために必要な反応温度を算出するステップである。反応温度は、アレニウスの式に基づいた脱硫反応の劣化速度式により算出することが好ましい。
【0140】
<脱硫反応の劣化速度式>
脱硫反応の劣化速度式は前記式6で表されるアレニウスの式に基づいた式である。前記式7の算出方法と同様に、前記式1及び前記式6より下式25が、導かれる。
【0141】
【数13】
前記式25中、Φは脱硫反応の劣化度であり、Eaは脱硫の活性化エネルギー(kJ/mol)であり、Rは気体定数:0.00831(kJ/(mol・K))であり、T
tは反応t日経過時の要求温度(K)であり、T
SORは0日目の要求温度(K)である。
前記式25を整理すると下式26が得られる。
【0142】
【0143】
前記式26に、上述の方法で得られたTSOR、Φを代入することにより、任意の反応t日経過時におけるTt(K)を得ることができる。なお、前記式26における脱硫反応の活性化エネルギーは以下のように求めることができる。
【0144】
(脱硫反応の活性化エネルギーの求め方)
脱硫反応の活性化エネルギーは、前記式6で表されるアレニウスの式に基づいて、本分野で公知の方法により求めることができる。以下、一例を説明する。
【0145】
はじめに、常圧蒸留残渣油を含む原料油の脱硫反応の反応次数を求める。反応温度、水素分圧、水素/原料油比、原料油中の硫黄濃度は一定の条件とし、LHSV(x)の条件で、反応を行い、生成油中の硫黄濃度を測定する。下式27で表される脱硫反応速度式のSFに原料油中の硫黄濃度を、SPに得られた生成油中の硫黄濃度を、LHSVにLHSV(x)を代入する。得られた左辺の結果を縦軸に、1/LHSVを横軸にプロットする。なお、この場合、縦軸はnの関数となる。
【0146】
【0147】
x種類のLHSV(x)について同様の反応を行い、x個の上記プロットを得る。得られたプロットを基に原点を通るように回帰直線を引き、y=cxで表される直線を得る。yは((1/(n-1))((1/SP
n-1)-(1/SF
n-1)))であり、xは1/LHSVであり、cはkとなる。excel等で相関関数を求め、相関係数が最も1に近づくnを求める。得られたnが反応次数となる。なお、nは小数点第1位のオーダーで求めればよい。
【0148】
上記xは3以上の整数である。xの数が多い方が、より精度の高いnを得ることができる。一方、xの数が多すぎると、nを得るために時間が掛かり効率的ではない。本実施形態においては、xは3~20であることが好ましく、3~10であることがより好ましい。
【0149】
nを求める上での反応温度、水素分圧、水素/原料油比、原料油中の硫黄濃度は、実機運転条件に即した条件とすることが好ましい。
そのような反応温度としては、例えば330~410℃であり、水素分圧は5~15MPaであり、水素/原料油比は170~1400[Nm3/kL]であり、原料油中の硫黄濃度は1~5質量%である。
x種類のLHSV(x)も同様に実機運転条件に即した条件とすることが好ましい。このようなLHSV(x)としては、0.1~1.0h-1である。
【0150】
前記式6で表されるアレニウスの式中の活性化エネルギーEを脱硫の活性化エネルギーEaとし、両辺の自然対数を取ると、下式28で表される式となる。
【0151】
【0152】
水素分圧、水素/原料油比、LHSV、原料油中の硫黄濃度は一定の条件とし、反応温度T(y)の条件で反応を行い、生成油中の硫黄濃度を測定する。前記式27で表される脱硫反応速度式のSFに原料油中の硫黄濃度を、SPに得られた生成油中の硫黄濃度を、LHSVにLHSVを、上記得られたnを代入して反応速度定数kを求める。得られた反応速度定数を前記式28に代入し、得られた左辺の結果(lnk)を縦軸に、1/T(1/T(y))を横軸にプロットする。
【0153】
y種類の反応温度T(y)について同様の反応を行い、y個の上記プロットを得る。得られたプロットより、回帰直線を引き、その傾きを求める。この傾きはEa/Rであるため、傾きからRを除すことにより脱硫の活性化エネルギーEaを求めることができる。
【0154】
上記yは3以上の整数である。yの数が多い方が、より精度の高いEaを得ることができる。一方、yの数が多すぎると、Eaを得るために時間が掛かり効率的ではない。本実施形態においては、yは3~20であることが好ましく、3~10であることがより好ましい。
【0155】
Eaを求める上での水素分圧、水素/原料油比、LHSV、原料油中の硫黄濃度は、実機運転条件に即した条件とすることが好ましい。
そのような水素分圧としては、例えば5~18MPaであり、水素/原料油比は170~1400[Nm3/kL]であり、LHSVは0.1~1.0h-1であり、原料油中の硫黄濃度は1~4質量%である。
y種類の反応温度T(y)も同様に実機運転条件に即した条件とすることが好ましい。このようなT(y)としては、330~410℃である。
【0156】
このように得られた各パラメータを前記式26に代入することにより、所定の反応条件を達成するために必要な反応温度Ttを求めることができる。
【0157】
実測の反応温度Tobsに対する、本実施形態の情報処理方法により求められる反応温度Ttの割合であるTt/Tobsは、℃換算で、0.97~1.03であることが好ましく、0.985~1.015であることがより好ましい。Tt/Tobsが前記範囲内である場合、精度よく反応温度を推定できていると判断することができる。
【0158】
≪分解軽質油得量算出ステップ≫
本実施形態の分解軽質油得量算出ステップは、前記反応温度Tt及び触媒の分解反応の劣化度に基づき、分解軽質油得量を算出する。分解軽質油得量は、一次の分解反応速度式に基づいた分解軽質油得量算出関数により算出することが好ましい。
【0159】
<分解軽質油得量算出関数>
分解軽質油得量算出関数は、下式29で表される。
【0160】
【数17】
前記式29中、C
tは任意の反応t日経過時の分解軽質油得量(質量%)であり、k
C0(Tt)は、反応0日経過時(すなわち、反応開始時)の触媒(フレッシュ触媒)の上述の反応温度算出ステップで算出した反応温度T
tにおける分解反応の反応速度定数(h
-1)であり、Φ
Dは分解反応の劣化度であり、LHSVは任意の反応t日経過時の液空間速度(h
-1)である。
【0161】
前記式29においてLHSVは、上述した情報取得ステップで取得した運転条件に関する情報に基づき代入される値である。なお、LHSVは、原料油の供給量(体積/h)を触媒充填量(体積)で除すことにより求めることができる。ΦDとkC0(Tt)の求め方は後述する。
【0162】
前記式29における、分解反応の劣化度は下式30で表される。
ΦD=kCt(T0)/kC0(T0) 式30
前記式30中、kC0(T0)は反応0日経過時(すなわち、反応開始時)の触媒(フレッシュ触媒)の分解反応の反応速度定数であり、kCt(T0)は任意の反応t日経過時の触媒の分解反応の反応速度定数である。なお、kCt(T0)、kC0(T0)は上述の温度TSORにおける分解反応の反応速度定数である。
【0163】
前記式29は、常圧蒸留残渣油の分解反応が1次反応であり、かつ分解反応により生成するのが分解軽質油のみであるとの前提に基づいて導出される式である。以下、前記式29の導出方法を説明する。
【0164】
分解反応速度式は下式31で表される。
kCt(Tt)=ln(CF/CP)×LHSV 式31
前記式31中、kCt(Tt)は任意の反応t日経過時の上述の反応温度算出ステップで算出した反応温度Ttにおける触媒の分解反応の反応速度定数(h-1)であり、CFは任意の反応t日経過時の原料油中の常圧蒸留残渣油濃度(質量%)であり、CPは任意の反応t日経過時の生成油中の常圧蒸留残渣油濃度(質量%)であり、LHSVは任意の反応t日経過時の液空間速度(h-1)である。
【0165】
CF/CPは無次元であるため、CFを1とすると、任意の反応t日経過時の分解反応の転化率Ct(%)は、Ct=(1-CP)×100となる。したがって、CPは、CP=1-Ct/100で表すことができる。なお、上述した通り、分解反応により生成するのが分解軽質油のみとの前提から、転化率Ct(%)は同時に分解軽質油の得量(質量%)となる。前記式31にこれらを代入すると、下式32が得られる。
【0166】
【数18】
前記式32をC
tについてまとめると、下式33が得られる。
【0167】
【数19】
前記式30より、分解反応の劣化度は下式34でも表すことができる。
【0168】
ΦD=kCt(Tt)/kC0(Tt) 式34
前記式34中、kC0(Tt)は反応0日経過時(すなわち、反応開始時)の触媒(フレッシュ触媒)の分解反応の反応速度定数であり、kCt(Tt)は任意の反応t日経過時の触媒の分解反応の反応速度定数である。なお、kCt(Tt)、kC0(Tt)は上述の反応温度算出ステップで算出した任意の反応t日経過時の反応温度Ttにおける分解反応の反応速度定数である。
【0169】
前記式34よりkCt(Tt)=ΦC×kC0(Tt)となり、この値を前記式33に代入することにより、前記式29が導出される。
【0170】
次に、ΦD、kC0(Tt)の求め方を説明する。
【0171】
(kC0(Tt)の求め方)
kC0(Tt)は使用する触媒に応じて定められるパラメータ(定数)であり、実機で反応を行いながら求めてもよいし、実機運転条件に基づいてベンチスケールにおいて事前に求めてもよい。本実施形態においては、実機運転条件に基づいてベンチスケールにおいて事前に求めることが好ましい。
kC0(Tt)は下式35により求めることができる。下式35は、前記式6で表されるアレニウスの式に基づいた式である。
【0172】
【数20】
前記式35中、k
C0(T0)は、反応0日経過時(すなわち、反応開始時)の触媒(フレッシュ触媒)の前記反応温度T
SORにおける分解反応の反応速度定数(h
-1)であり、k
C0(Tt)は、上述の反応温度算出ステップで算出した任意の反応t日経過時の反応温度T
tにおける分解反応の反応速度定数(h
-1)であり、E
Dは分解の活性化エネルギー(kJ/mol)であり、Rは気体定数:0.00831(kJ/(mol・K))である。
【0173】
kC0(T0)は、フレッシュ触媒の前記反応温度TSORにおける分解反応の反応速度定数であるため、前記式32に基づくと、下式36により求めることができる。
【0174】
【数21】
前記式36中、C
t0はフレッシュ触媒を用いて、反応温度T
SORで常圧蒸留残渣油の脱硫反応を行ったときの分解軽質油得量(質量%)であり、LHSVは液空間速度(h
-1)である。
【0175】
すなわち、kC0(T0)はベンチスケールで、フレッシュ触媒を用いて、反応温度を上述のTSORとし、実機運転条件のLSHVで水素化処理反応を行い、その時の分解軽質油得量を測定することにより前記式36から求めることができる。
【0176】
上記ベンチスケールでkC0(T0)を求める際には、水素分圧、水素/原料油比、LHSV、原料油中の硫黄濃度、原料油中の金属濃度は、実機運転条件に即した条件とすることが好ましい。
そのような水素分圧としては、例えば5~18MPaであり、水素/原料油比は170~1400[Nm3/kL]であり、LHSVは0.1~1.0h-1であり、原料油中の硫黄濃度は1~5質量%であり、原料油中の金属濃度は10~200質量ppmである。
【0177】
kC0(T0)は以下のように実機で反応を行いながら求めてもよい。実機の反応開始直後(反応tint日経過時)の反応温度Tintにおける、分解軽質油の得量及びLHSVを前記式36に代入することにより求めることができる。tintとしては20日以下が好ましく、10日以下がより好ましい。tintが前記上限値以下であると、フレッシュ触媒の分解の反応速度定数と極めて近い値を得ることができる。なおTintは脱硫反応の劣化度から、上述の反応温度算出ステップにより求められる値である。
【0178】
分解の活性化エネルギーEDは以下のように求めることができる。
【0179】
前記式6で表されるアレニウスの式中の活性化エネルギーEを分解の活性化エネルギーEDとし、両辺の自然対数を取ると、下式37で表される式となる。
【0180】
【0181】
分解の活性化エネルギーは実機で反応を行いながら求めてもよいし、実機運転条件に基
づいてベンチスケールにおいて事前に求めてもよい。水素分圧、水素/原料油比、LHSV、原料油中の硫黄濃度は一定の条件とし、反応温度T(y’)の条件で反応を行い、生成油中の分解軽質油得量を測定する。前記式32に得られた分解軽質油得量及びLHSVを代入して反応速度定数kを求める。得られた反応速度定数を前記式37に代入し、得られた左辺の結果(lnk)を縦軸に、1/T(1/T(y’))を横軸にプロットする。
【0182】
y’種類の反応温度T(y’)について同様の反応を行い、y’個の上記プロットを得る。得られたプロットより、回帰直線を引き、その傾きを求める。この傾きはED/Rであるため、傾きからRを除すことにより分解の活性化エネルギーEDを求めることができる。
【0183】
上記y’は3以上の整数である。y’の数が多い方が、より精度の高いEDを得ることができる。一方y’の数が多すぎると、EDを得るために時間が掛かり効率的ではない。本実施形態においては、y’は3~20であることが好ましく、3~10であることがより好ましい。
【0184】
EDを求める上での水素分圧、水素/原料油比、LHSV、原料油中の硫黄濃度、原料油中の金属濃度は、実機運転条件に即した条件とすることが好ましい。
そのような水素分圧としては、例えば5~18MPaであり、水素/原料油比は170~1400[Nm3/kL]であり、LHSVは0.1~1.0h-1であり、原料油中の硫黄濃度は1~5質量%であり、原料油中の金属濃度は10~200質量ppmである。
y’種類の反応温度T(y’)も同様に実機運転条件に即した条件とすることが好ましい。このようなT(y’)としては、330~410℃である。
【0185】
このように得られたkC0(T0)、分解の活性化エネルギーED、TSOR、上述の反応温度算出ステップで算出した反応温度Ttを前記式35に代入することによりkC0(Tt)を求める。
【0186】
<分解反応の劣化度の求め方>
触媒の脱硫反応の活性が低下すると、分解反応活性も低下する。したがって、脱硫反応の劣化度と分解反応の劣化度には相関があると考えられる。本願の発明者らは、この相関に着目し、分解反応の劣化度ΦDを、上述の脱硫反応の劣化度Φに基づいて、求めることができることを初めて見出した。以下、脱硫反応の劣化関数において、コーク劣化関数1(又は1-1)を使用した場合と、コーク劣化関数2(又は2-1)を使用した場合の、分解反応の劣化度ΦDの求め方をそれぞれ説明する。
【0187】
(分解反応の劣化度の求め方1)
ΦDの求め方1は、脱硫反応の劣化関数において、コーク劣化関数1(又は1-1)を使用して、ΦDを求める方法である。ΦDは下式38により求めることができる。
【0188】
ΦD=βΦCΦM 式38
前記式38中、ΦDは分解反応の劣化度であり、ΦCはコーク劣化関数1(又は1-1)であり、ΦMは金属劣化関数であり、βは分解劣化係数(定数)である。
【0189】
ΦC及びΦMは上述の方法により求めることができるため、βが定まれば、ΦC及びΦMからΦDを求めることができる。なお、前記式38において、反応経過0日時のΦDはβΦC=1である(反応経過0日時のため、ΦM=1である)。
【0190】
実機又はベンチスケールにおいて、想定する実機運転条件のLHSV、水素分圧、水素/原料油比、原料油中の硫黄濃度、原料油中の金属濃度、生成油中の硫黄濃度となるように、一定期間反応を行う。触媒は反応により劣化するため、反応温度を上げながら運転を行う。この際の反応温度は、上述の反応温度算出ステップで算出した反応温度Ttとすればよい。想定する実機運転条件としては、上述の分解の活性化エネルギーを求める際の条件が例として挙げられる。任意の反応t’日経過時における分解軽質油の得量Ct’を測定し、得られたCt’、上述の方法で求めたkC0(Tt)(kC0(Tt’))、及びLHSVを前記式29に代入することにより、ΦDを求める。また、上述の方法により任意の反応t’日経過時におけるΦC及びΦMを求める。複数の反応t’経過時において同様にΦDと、ΦC及びΦMを求める。得られた同一の反応経過時における、ΦDとΦCΦMの組み合わせについて、ΦCΦMをx軸に、ΦDをy軸としてプロットを行う。これらのプロットの回帰直線を引く(但しx=0、y=0を通る)。この直線の傾きがβとなる。βを求める上での、プロットの数としては、10~100個が好ましく、10~50個がさらに好ましい。またβを求める上での前記t’としては反応3日経過時以降が好ましい。
【0191】
(分解反応の劣化度の求め方2)
ΦDの求め方2は、脱硫反応の劣化関数において、コーク劣化関数2(又は2-1)を使用して、ΦDを求める方法である。ΦDは下式39により求めることができる。
【0192】
ΦD=β1ΦMΦ1+β2ΦMΦ2 式39
前記式39中、ΦDは分解反応の劣化度であり、ΦMは金属劣化関数であり、Φ1は前記式13におけるk1×exp(-D1t)であり、Φ2は前記式13におけるk2×exp(-D2t)であり、β1は触媒の易失活活性種の分解劣化係数(定数)であり、β2は触媒の難失活活性種の分解劣化係数(定数)である。なお、コーク劣化関数2-1を使用する場合は、Φ1として前記式17におけるk1×exp(-D1’t)を、Φ2として前記式17におけるk2×exp(-D2’t)を使用すればよい。
【0193】
ΦM、Φ1及びΦ2は上述の方法により求めることができるため、β1及びβ2が定まれば、ΦM、Φ1及びΦ2からΦDを求めることができる。なお、前記式39において、反応経過0日時のΦCはβ1Φ1+β2Φ2=1である(反応経過0日時のため、ΦM=1である)。
【0194】
実機又はベンチスケールにおいて、想定する実機運転条件のLHSV、水素分圧、水素/原料油比、原料油中の硫黄濃度、原料油中の金属濃度、生成油中の硫黄濃度となるように、一定期間反応を行う。触媒は反応により劣化するため、反応温度を上げながら運転を行う。この際の反応温度は、上述の反応温度算出ステップで算出した反応温度Ttとすればよい。任意の反応t’日経過時における分解軽質油の得量Ct’を測定し、得られたCt’、上述の方法で求めたkC0(Tt)(kC0(Tt’))、及びLHSVを前記式29に代入することにより、ΦDを求める。また、上述の方法により任意の反応t’日経過時におけるΦM、Φ1、Φ2を求める。得られたΦD、ΦM、Φ1、Φ2を前記式39に代入する。同様にn数の反応t’日経過時におけるΦDn、ΦMn、Φ1n、Φ2nを得る。それぞれの組み合わせに式39が成り立つとすると、ΦCn=β1’ΦMnΦ1n+β2’ΦMnΦ2nの連立二元一次方程式が得られる。この方程式においては、ΦCnを従属変数、ΦMnΦ1n、及びΦMnΦ2nを独立変数とする二元一次回帰により誤差が最小であるβ1’、β2’を求めることができる。得られたβ1’を、前記式39におけるβ1、得られたβ2’を前記式39におけるβ2とすることができる。β1及びβ2を求める上での、ΦC、ΦM、Φ1、Φ2の組み合わせの数としては、10~100個が好ましく、10~50個がさらに好ましい。またβ1及びβ2を求める上での前記t’としては反応3日経過時以降が好ましい。
【0195】
以上の方法により得られたβ又はβ1及びβ2を用いて前記式38又は前記式39よりΦDを求めることができる。
【0196】
上述の方法で得られたkC0(Tt)、前記式38又は前記式39で求められたΦD、及びLHSVを前記式29に代入することにより、任意の反応t日経過時の分解軽質油得量を求めることができる。
【0197】
実測の分解軽質油得量Cobsに対する、本実施形態の情報処理方法により求められる分解軽質油得量Ctの割合であるCt/Cobsは質量%換算で、0.80~1.20であることが好ましく、0.85~1.15であることがより好ましい。Ct/Cobsが前記範囲内である場合、精度よく分解軽質油得量を推定できていると判断することができる。
【0198】
≪情報出力ステップ≫
このようにして得られた前記分解軽質油得量を示す情報を出力する情報出力ステップ(
図1のS5)をさらに有してもよい。例えば、S5は出力部14によって実行される。
【0199】
≪常圧蒸留残渣油を含む原料油の水素化処理反応≫
常圧蒸留残渣油を含む原料油の水素化処理反応について概要を説明する。
常圧蒸留残渣油は、原油を常圧蒸留して得られる、沸点範囲が370℃以上の留分である。常圧蒸留残渣油の密度は0.92~1.00g/mLである。原料油中の常圧蒸留残渣油の含有量としては、例えば50体積%以上であってもよく、70体積%以上であってもよい。
なお、原料油に含まれる常圧蒸留残渣油以外の油種としては、常圧蒸留残渣油を減圧蒸留して得られる減圧蒸留残渣油が例として挙げられる。原料油が減圧蒸留残渣油を含む場合、原料油中の減圧蒸留残渣油の含有量としては、例えば0~50体積%が例示される。
【0200】
常圧蒸留残渣油を含む原料油の水素化処理反応は、水素存在下、常圧蒸留残渣油を含む原料油と水素化処理触媒とを接触処理することにより行うことができる。
水素化処理触媒は、特に限定されるものではなく、本分野において公知の水素化処理触媒を使用することができる。触媒の担体として、種々のものが使用でき、例えばシリカ、アルミナ、ボリア、マグネシア、チタニア、シリカ-アルミナ、シリカ-マグネシア、シリカ-ジルコニア、シリカ-トリア、シリカ-ベリリア、シリカ-チタニア、シリカ-ボリア、アルミナ-ジルコニア、アルミナ-チタニア、アルミナ-ボリア、アルミナ-クロミア、チタニア-ジルコニア、シリカ-アルミナ-トリア、シリカ-アルミナ-ジルコニア、シリカ-アルミナ-マグネシア、シリカ-マグネシア-ジルコニアなど、又はこれらの2種以上の混合物が挙げられる。これらの無機酸化物のうち、好ましいものとしては、アルミナ、シリカ-アルミナ、アルミナ-チタニア、アルミナ-ボリア、アルミナ-ジルコニアが挙げられ、特に好ましくは、アルミナが挙げられ、アルミナの中でもγアルミナが特に好ましい。これらの無機酸化物は、1種単体で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0201】
前記担体に活性成分として含有させる金属は、周期表第6族金属及び第8~10族金属の中から選ばれる少なくとも1種類以上の金属であり、好ましくはモリブデン、タングステン、コバルト及びニッケルの金属である。これらの金属は、金属状態又は金属酸化物、金属硫化物の何れの形態でも有効であり、また、イオン交換などにより金属が触媒担体と結合した形態で存在してもよい。この金属成分の含有量は、通常、触媒基準かつ酸化物換算で、約1~25質量%の範囲内である。金属含有量が1質量%より少ないと、活性点として働く金属の絶対量が少ないために、脱硫活性を始めとする水素化処理活性(以下、簡単に水素化処理活性と言う)が発現せず、逆に担持される金属の含有量が25質量%より多すぎると、金属の凝集が起こり活性点の数が減少し、その結果、水素化処理活性が却って低下するからである。更に、必要に応じて、元素周期律表第6族金属及び第8族金属からなる活性金属に加えて、リン、ホウ素、亜鉛、ジルコニア等を含ませることができる。本発明方法を適用するに当たり、触媒層の形態には制約はなく、例えば固定床、移動床、流動床等の触媒層の反応器に適用できる。
【0202】
常圧蒸留残渣油を含む原料油の水素化処理反応における条件としては、一般に反応温度が330~410℃、好ましくは360~400℃であり、水素分圧が5~15MPa、好ましくは10~18MPaであり、LHSVが0.1~1.0h-1、好ましくは0.1~0.35h-1であり、水素/原料油比が170~1400[Nm3/kL]、好ましくは670~1200[Nm3/kL]である。
【0203】
常圧蒸留残渣油を含む原料油中の硫黄濃度は、通常1~5質量%である。また、生成油中の硫黄濃度は、通常0.1~0.5質量%である。常圧蒸留残渣油を含む原料油中の金属濃度は、通常30~300重量ppmである。また、生成油中の金属濃度は、通常5~30重量ppmである。
【0204】
本明細書において、「分解軽質油」とは、原料油や装置などによって異なり一概に定められないが、例えば沸点が343℃以下で炭素数が5以上の留分などが挙げられる。なお、沸点が343℃以下で炭素数が5未満の成分はガス分であるため、本明細書における「分解軽質油」は、例えば沸点が343℃以下の留分である。
分解軽質油の得量は、本分野で公知の分解軽質油の得量の測定方法により得ることができ、例えば、ASTM D-6352のような蒸留試験により沸点が343℃以下の留分の割合から算出する等が例として挙げられる。
【0205】
≪分解軽質油得量算出装置≫
本実施形態の分解軽質油得量算出装置は、常圧蒸留残渣油を含む原料油の水素化処理反応に関して、反応を開始してから所定時間経過した際の原料油に関する情報、生成油に関する情報、及び運転条件に関する情報を取得する取得部と、前記取得部で取得した前記原料油に関する情報、前記生成油に関する情報、及び前記運転条件に関する情報に基づき、劣化関数により、触媒の脱硫反応の劣化度及び分解反応の劣化度を算出し、算出した前記触媒の脱硫反応の劣化度に基づき、前記原料油に関する情報、前記生成油に関する情報、及び前記運転条件を満たすために必要な反応温度を算出し、算出した前記反応温度及び前記触媒の分解反応の劣化度に基づき分解軽質油得量を算出する演算部と、を含む。
【0206】
本実施形態の分解軽質油得量算出装置1は、パーソナルコンピューターやサーバー装置や専用装置等の情報処理装置を用いて構成される。分解軽質油得量算出装置1は、1台又は複数台の情報処理装置を用いて構成されてもよい。例えば、分解軽質油得量算出装置1は、クラスタマシンとして構築されてもよいし、クラウドとして構築されてもよいし、どのような態様で構築されてもよい。分解軽質油得量算出装置1は、具体的には
図2に示されるように取得部11と、取得部からの情報を処理する計算機本体12とを有する。分解軽質油得量算出装置1は、計算機本体12において処理された情報を外部に出力する出力部14を有していてもよい。これらの構成要素は、例えば、CPU(Central Processing Unit)等のハードウェアプロセッサがプログラム(ソフトウェア)を実行することにより実現される。また、これらの構成要素のうち一部または全部は、LSI(Large Scale Integrated circuit)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、GPU(Graphics Processing Unit)等のハードウェア(回路部;circuitryを含む)によって実現されてもよいし、ソフトウェアとハードウェアの協働によって実現されてもよい。プログラムは、予めHDD(Hard Disk Drive)やフラッシュメモリ等の記憶装置(非一過性の記憶媒体を備える記憶装置)に格納されていてもよいし、DVDやCD-ROM等の着脱可能な記憶媒体(非一過性の記憶媒体)に格納されており、記憶媒体がドライブ装置に装着されることで記憶装置にインストールされてもよい。記憶装置は、例えば、HDD、フラッシュメモリ、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)、ROM(Read Only Memory)、またはRAM(Random Access Memory)等により構成される。
【0207】
取得部11は、反応のオペレーターによって所定の情報が入力され、この入力により取得した情報を計算機本体12に送信するものである。本実施形態の取得部11が取得する情報は、常圧蒸留残渣油を含む原料油の水素化処理反応に関して、反応を開始してから所定時間経過した際の原料油に関する情報、生成油に関する情報、及び運転条件に関する情報である。反応を開始してから所定時間経過した際の原料油に関する情報、生成油に関する情報、及び運転条件に関する情報としては上述した通りである。例えば、取得部11は、上述した情報取得ステップを実行する。取得部11は、反応を開始してから所定時間経過した際の原料油に関する情報、生成油に関する情報、及び運転条件に関する情報を取得すればよく、その取得方法には特に限定されない。
【0208】
本実施形態では、取得部11は単一のキーボードによって構成されている。取得部11の具体的構成は、限定されず、本実施形態ではキーボードであるが、タッチパネル等であってもよい。なお、各種情報を取得する取得部が別々に構成され、それぞれが独立して計算機本体12に接続されてもよい。また、取得部11は、反応器の制御等に用いられる計算機等から有線又は無線により前記の各情報を直接取得するように構成されてもよい。
【0209】
計算機本体12は、例えば、種々の情報を処理可能な、いわゆるコンピュータである。計算機本体12は、演算部13を備える。例えば、この計算機本体12には、所定のプログラムが組み込まれ、このプログラムの実行によって機能的に演算部13が構成される。具体的には、この演算部13において、前記取得部11で取得した反応を開始してから所定時間経過した際の原料油に関する情報、生成油に関する情報、及び運転条件に関する情報に基づき、劣化関数により、触媒の脱硫反応の劣化度及び分解反応の劣化度を算出し、算出した前記触媒の脱硫反応の劣化度に基づき、前記原料油に関する情報、前記生成油に関する情報、及び前記運転条件を満たすために必要な反応温度を算出し、算出した前記反応温度及び前記触媒の分解反応の劣化度に基づき分解軽質油得量を算出する。劣化関数としては上述した通りである。上述したように反応温度は、例えば劣化速度式から求めることができる。また、分解軽質油得量は、例えば分解軽質油得量関数から求めることができる。例えば、演算部13は、上述した劣化度算出ステップ、反応温度算出ステップ、及び分解軽質油得量算出ステップを実行する。また、演算部13においては、上述のηを切り替えるタイミングを判断するステップを実行することが好ましい。演算部13は、例えば、CPU(Central Processing Unit)又はMPU(Micro Processing Unit)などのプロセッサ及び不揮発性又は揮発性の半導体メモリ(例えば、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ、EPROM(Erasable Programmable Read Only Memory)、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory))を備えてもよい。例えば、演算部13は、MCUなどのマイクロコントローラであってもよい。
【0210】
演算部13は、上記のように求めた前記原料油に関する情報、前記生成油に関する情報、及び前記運転条件を満たすために必要な反応温度における分解軽質油得量を示す情報を出力部14に出力してもよい。
【0211】
出力部14は、計算機本体12(詳しくは、演算部13)が出力した計算結果(反応温度)を受信し、受信した計算結果を外部に出力するものである。本実施形態の出力部14は、CRTディスプレイや液晶ディスプレイ、PDP等の表示部によって構成されているが、これに限定されず、プリンタ等の印刷部や、他の装置(例えば、常圧蒸留残渣油を含む原料油の水素化処理反応の制御等に用いられる計算機等)等へ出力するように構成されてもよい。また、出力部14は、これらを組み合わせたものでもよい。例えば、出力部14は、上述した情報出力ステップを実行する。
【0212】
また、本実施形態においては、コンピュータを分解軽質油得量算出装置として機能させるための分解軽質油得量算出プログラム及び当該プログラムを記憶したコンピュータの非一時的可読記録媒体が提供される。コンピュータの非一時的可読記録媒体としては、例えば、磁気テープ(デジタルデータストレージ(DSS)など)、磁気ディスク(ハードディスクドライブ(HDD)、フレキシブルディスク(FD)など)、光ディスク(コンパクトディスク(CD)、デジタルバーサタイルディスク(DVD)、ブルーレイディスク(BD)など)、光磁気ディスク(MO)、フラッシュメモリ(SSD(Solid State Drive)、メモリーカード、USBメモリなど)が挙げられる。
【0213】
<情報処理方法及び分解軽質油得量算出装置の活用方法>
本実施形態の情報処理方法及び分解軽質油得量算出装置によると、常圧蒸留残渣油を含む原料油の水素化処理反応に関して、所定の反応条件を達成するために必要な反応温度における分解軽質油得量を推定することができる。本実施形態の情報処理方法及び分解軽質油得量算出装置によると、分解軽質油得量の推定値の経時的なプロットを得ることができる。前記プロットと、常圧蒸留残渣油の水素化処理装置の分解軽質油と残油である重油の需給バランス等の関係から、以下のような活用法が考えられる。
【0214】
活用方法としては、所定の分解軽質油得量を得るための反応条件(反応温度、処理量(LHSV))を推定すること、所定の反応条件(反応温度、処理量(LHSV))における分解軽質油得量を推定すること、将来の分解軽質油得量を事前に推定して知ることで分解軽質油と重油の生産計画を立案出来ること等がある。すなわち、所定の運転時間において、所定の分解軽質油得量を設定すると、前記式29は、kC0(Tt)、ΦD、LHSVの関数となる。前記式29の等式が成り立つような、kC0(Tt)、ΦD、LHSVの組み合わせを求める。この組み合わせにおける反応条件より、需給バランスに対応した最適な分解軽質油得量と重油得量を得ることが可能となる。前記式29の等式が成り立つような、kC0(Tt)、ΦD、LHSVの組み合わせを求める上で、変更可能な反応条件としては、例えば、P、LHSV、SF、SPである。このような活用方法においては、分解軽質油得量算出装置1の取得部11が所定の分解軽質油得量を取得し、計算機本体12における演算部13が分解軽質油得量算出関数、脱硫反応の劣化速度式、劣化関数等に基づき、前記所定の分解軽質油得量を達成するためのP、LHSV、SF、SPの組み合わせを算出する。
【実施例0215】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0216】
[実施例1]
ベンチスケールで、常圧蒸留残渣油を85体積%と減圧蒸留残渣油を15体積%含む原料油を水素化処理触媒に接触処理させることにより水素化処理反応を行った。得られた結果を基に、脱硫反応の劣化関数を算出した。なお、本実施例では、前記式13で表されるコーク劣化関数2及び前記式20で表される金属劣化関数1を使用した。前記式13~15、20におけるパラメータを上述の方法により求めた所、k1=0.5、k2=0.5、α1=0.05、α2=0.0052、PB=13(MPa)、a=2.6、Ec=182(kJ/mol)、TB=643(K)、TSOR=633(K)、n=2、η=0.91、tend=411日であった。
【0217】
ベンチスケールで行った水素化処理反応と同じ原料油、水素化処理触媒を用いて、実機で反応を行った。前記式13~15における運転条件として、SF=3.27(質量%)、MF=41(重量ppm)、P=10.3(MPa)、LHSV=0.2(h-1)、SP=0.25(質量%)、MP=11(重量ppm)とした。
また、事前に上述の方法で、脱硫の活性化エネルギー、分解の活性化エネルギーを求めた所、Ea=147(kJ/mol)、ED=180(kJ/mol)であった。
【0218】
反応経過1日時における分解軽質油得量の実測値から前記式36より、kC0(T0)を求めた所、0.027(h-1)であった。また、この際の反応温度の実測値T0は633(K)であった。その後の反応開始初期において、前記式13、20から求められたΦMΦ1(Φ1=k1×exp(-D1t))、及びΦMΦ2(Φ2=k2×exp(-D2t))と、分解軽質油得量の実測値、前記kC0(T0)、及びLHSVにより前記式29から求められたΦDから、前記式39によりβ1、β2を求めた所、β1=1.1、β2=0.8であった。
【0219】
上述のパラメータにより得られたΦCとΦMを前記式2に代入し、Φを求めた。なお、反応初期においてはη=1とし、ΦM=1とした。上述の(ηの切り替えタイミング1)におけるZが2℃以上となった時(反応243日経過時)からΦMを前記式20から求めたΦMとして反応を継続した。このようにして得られたΦ、Ea、TSORを前記式26に代入して、任意の反応t日経過時の要求温度Ttを求めた。また、得られた要求温度Tt及びkC0(T0)からkC0(Tt)を求め、kC0(Tt)、ΦD、LHSVを前記式29に代入して、任意の反応t日経過時の分解軽質油得量Ctを求めた。結果を表1に示す。
【0220】
なお、表1中の分解軽質油得量の実測値は以下のように分析した。生成油を蒸留し、沸点343℃以下の留分と、沸点343℃超の留分に分離した。そして、沸点343℃以下の留分を蒸留前の生成油の量(質量)で除して、100を乗じることにより算出した。
【0221】
【0222】
表1に示された通り、本発明によって求められた分解軽質油得量Ctは、分解軽質油得量の実測値とほぼ同等となることがわかった。