(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023043883
(43)【公開日】2023-03-29
(54)【発明の名称】油脂用濾材、及び濾過方法
(51)【国際特許分類】
B01D 39/14 20060101AFI20230322BHJP
B01D 39/16 20060101ALI20230322BHJP
D04H 1/4309 20120101ALI20230322BHJP
D04H 1/728 20120101ALI20230322BHJP
【FI】
B01D39/14 C
B01D39/16 A
D04H1/4309
D04H1/728
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022147479
(22)【出願日】2022-09-15
(31)【優先権主張番号】P 2021151411
(32)【優先日】2021-09-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】521409836
【氏名又は名称】直原 耕一郎
(72)【発明者】
【氏名】直原 耕一郎
【テーマコード(参考)】
4D019
4L047
【Fターム(参考)】
4D019AA03
4D019BA12
4D019BA13
4D019BB03
4D019BB10
4D019BC09
4D019BC13
4D019DA03
4L047AA16
4L047AB02
4L047AB08
4L047CA01
4L047CA05
4L047CC12
(57)【要約】
【課題】廃食用油等の油脂に含まれる微小な懸濁状物や臭い物質を除去するに適した油脂用濾材を提供する。さらには、廃食用油等の油脂の濾過方法を提供する。
【解決手段】
本発明の油脂用濾材は、親水性樹脂を含むナノファイバー層と基材との積層体を含むことを特徴とするものである。本発明の油脂の濾過方法は、微小な懸濁状物や具材由来の臭い物質を高い効率で除去することができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
親水性樹脂を含むナノファイバー層と基材との積層体を含む油脂用濾材。
【請求項2】
前記親水性樹脂が、ポリビニルアルコール、エチレン-ビニルアルコール共重合体、及びポリビニルブチラールからなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1に記載の油脂用濾材。
【請求項3】
前記ナノファイバー層が静電紡糸法により形成された繊維を集積したものである、請求項1又は2のいずれかに記載の油脂用濾材。
【請求項4】
前記ナノファイバー層が、以下の(1)~(2)の条件を全て満足する、請求項1~3のいずれか1項に記載の油脂用濾材。
( 1 )ナノファイバー層の樹脂付着量が、0.1~10g/m2であること。
( 2 )ナノファイバー層の平均繊維径が10~1000nmであること。
【請求項5】
前記基材が、平均繊維径が3μm以上の繊維から構成される不織布である、請求項1~4のいずれか1項に記載の油脂用濾材。
【請求項6】
前記親水性樹脂が、架橋構造を有するポリビニルアルコールである、請求項1~5のいずれか1項に記載の油脂用濾材。
【請求項7】
前記不織布が、濾紙であることを特徴とする、請求項5記載の油脂用濾材。
【請求項8】
親水性樹脂を含むナノファイバー層と基材との積層体を含む油脂用濾材を用いて油脂を濾過する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、親水性樹脂を含むナノファイバー層と基材との積層体を含む油脂用濾材、及び濾過方法に関する。さらに詳しくは、親水性樹脂を含む成分繊維から形成されるナノファイバー層と不織布基材との積層体を含む油脂用濾材に関する。
【背景技術】
【0002】
油脂とは脂肪酸とグリセリンのエステル化合物であり、食用油や再生航空燃料(SAF: Sustainable aviation fuel)の原料に使われている。SFAとは油脂等のバイオ由来の原料を用いた炭化水素燃料である。SFAの製造には、原料に廃食用油や微細藻類が生成する油脂を用いて、1)メチルエステル化によりバイオディーゼル燃料とし、次いで水素化処理を行う方法、2)直接水素化処理を行う方法の2種類で製造される。いずれの場合にも原料の油脂に化学反応をする前工程では、紙や布によるろ過や遠心分離により異物除去を行っている。
【0003】
外食産業、食品業者や家庭で発生する廃食用油は、植物油脂が多い。使用後の食用油中には、調理中の加熱による焦げや食材からの抽出物により異物が混入している。そこで、使用後の食用油を再利用する場合は、濾紙を用いた濾過等により異物を除去して使用するのが一般的である。しかし、濾紙で濾過することで天ぷら油に浮遊している大きなカスは取れるが、微小な懸濁状物はろ紙を通過して濾液に混ざってしまう。さらには、天ぷら具材由来の臭いは除去しにくい問題がある。その為、一般家庭では濾紙を用いた濾過による再使用を数回繰り返した後、廃棄する場合が多い。この廃食用油は、日本国内で家庭用と事業用とを合わせて年間約17万tも廃棄処分されており(H24全国油脂事業協同組合連合会調べ)、環境への負荷が問題となっている。その為、天ぷら油を使用した後の濾過液の清浄性を高めることで、廃食用油の廃棄量の削減につながる油脂用濾材の開発が望まれている。また、使用後の食用油をSFAの原料に回収した使用する場合にも、高い濾過効率で微細な異物が除去できる油脂用濾材の開発が望まれている。
【0004】
特許文献1には、流体を濾過するための濾過材であって、濾過材が、微細フィルター基材が積層された前置フィルター基材で少なくとも形成され、前置フィルター基材が合成繊維及び第1のバインダーを含み、前置フィルター基材が組み合わされた表面及び深層フィルター基材として働き、及び微細フィルター基材が第2のバインダー並びに合成繊維及び無機繊維の少なくとも1つを含み、前置フィルター基材の平均流量細孔径が8~10マイクロメートル、微細フィルター基材の平均流量細孔径が3~10マイクロメートル、及び積層された濾過材の平均流量細孔径が1.5~6マイクロメートルであることを特徴とする、濾過材が開示されている。当該濾過材は、表面及び深層濾過の両方を利用して気体から固体粒子を除去するのに効率的であり、パルス洗浄が可能な濾過材に関するものである。しかしながら、特許文献1の濾過材は、平均流量細孔径が大きい為、廃食用油中の微小な懸濁状物や具材由来の臭い物質を除去できるものではない。
【0005】
特許文献2には、主面を有する多層複合化濾材であって、第一平均細孔径を有する紙製の基材と、前記基材の上面に形成されたナノファイバーを含むナノコート層と、前記ナノコート層を形成した前記基材の上面側に配置された、前記第一平均細孔径よりも大きい第二平均細孔径を有する不織布からなる不織布層と、を備え、前記ナノコート層を形成するナノファイバーの平均繊維径が、前記基材及び前記不織布層を形成する繊維の平均繊維径よりも小さく、前記不織布層と前記ナノコート層との間に空隙を形成するように、離間して設けられた複数の固定領域を介して前記不織布層が前記基材に固定されてなる多層複合化濾材が開示されている。当該濾過材は、平均細孔径の異なる多層構造とすることで、エンジンのエアーやオイル、燃料中のダストを効率よく捕捉して濾過効率を向上できると共に、濾過寿命を長くできるものである。しかしながら、特許文献2の濾過材は、ナノコート層に疎水性樹脂を用いているため、食用油の濡れ性が悪く、濾過効率が悪い問題がある。
【0006】
特許文献3には、単繊維の平均繊維径が10~1000nmの範囲にある繊維から形成された、特定の条件を全て満足するナノファイバー層と、単繊維の平均繊維径が1μm以上の親水性繊維を含む不織布または織布からなる基材と、が積層されたシートで構成されることを特徴とする水フィルター用濾材が開示されている。当該濾過材は、初期圧力損失の少ないフィルターを与えることができる。しかしながら、特許文献3の濾過材は、水処理用のフィルターであり廃食用油中の微小な懸濁状物や具材由来の臭い物質を除去できるものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2020-516446号公報
【特許文献2】特開2021-7929号公報
【特許文献3】WO2012/133631号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、廃食用油等の油脂に含まれる微小な懸濁状物や、具材由来の臭い物質を高い濾過効率で除去できる油脂用濾材を提供することである。さらには、その濾過方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の本発明の課題は、親水性樹脂を含むナノファイバー層と基材との積層体を含む油脂用濾材、及び濾過方法により解決される。さらに詳しくは、前記親水性樹脂にポリビニルアルコール、エチレン-ビニルアルコール共重合体、及びポリビニルブチラールからなる群から選択される少なくとも1種を含む、油脂用濾材により解決される。
【0010】
本発明の油脂用濾材は、親水性樹脂を含むナノファイバー層と基材との積層体を含むことを特徴とする。本発明において油脂用濾材とは、油脂をろ過することにより当該油中に含有される微小な浮遊物や臭い成分を捕集し除去する部材をいう。
【0011】
前記親水性樹脂は、ポリビニルアルコール、エチレン-ビニルアルコール共重合体、及びポリビニルブチラールからなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0012】
前記ナノファイバー層が静電紡糸法により形成された繊維を集積したものであることが好ましい。
【0013】
前記ナノファイバー層が、以下の(1)~(2)の条件を全て満足することが好ましい。
(1)ナノファイバー層の樹脂付着量が、0.1~10g/m2であること。
(2)ナノファイバー層の平均繊維径が10~1000nmであること。
【0014】
前記基材が、平均繊維径が3μm以上の繊維から構成される不織布であることが好ましい。
【0015】
前記親水性樹脂は、架橋構造を有するポリビニルアルコールであることが好ましい。
【0016】
前記不織布が、濾紙であることが好ましい。
【0017】
本発明は、親水性樹脂を含むナノファイバー層と基材との積層体を含む油脂用濾材を用いる油脂の濾過方法である。
【発明の効果】
【0018】
本発明の油脂用濾材、及び濾過方法は、食用油中等の油脂中の微小な懸濁状物や具材由来の臭い物質を効率よく除去できる。その為、使用後の天ぷら油を濾過した時の濾液の清浄性が高まり、天ぷら油の繰り返し使用回数が高まる。その結果、廃食用油の廃棄量の削減を可能にする。さらには、微細藻類が生成する油脂中の微細な異物を効率よく除去できる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(油脂用濾材の基本構成)
本発明の油脂用濾材の基本構成は、親水性樹脂を含むナノファイバー層と基材との積層体を含むものである。さらには、前記親水性樹脂が、ポリビニルアルコール、エチレン-ビニルアルコール共重合体、及びポリビニルブチラールからなる群から選択される少なくとも1種を含む、ことがより好ましい形態である。親水性樹脂を含む成分繊維から形成されるナノファイバー層の存在により、濾過時の油脂の濡れ性が良好となり、かつ油脂中の微小な懸濁状物を非常に高い濾過精度で除去することができる。しかし、これ単独では機械的性質が不十分であるので、不織布等の基材との積層によりナノファイバー層が保持されている。
【0020】
(ナノファイバー層)
本発明の油脂用濾材のナノファイバー層は、平均繊維径が10~1000nmの範囲にある繊維から構成されている。平均繊維径が10nmよりも小さくなると繊維の生産性が低下し、安定した生産が困難となる。一方、平均繊維径が1000nmよりも大きくなると除去すべき微小な懸濁状物の捕集効率が低下し、濾過精度が悪くなる。その為、繊維生産性と濾過精度の両面から、本発明におけるナノファイバー層を構成する平均繊維径は、10~1000nmの範囲にあることが必要であり、50~600nm の範囲にあることがより好ましく、80~300nm の範囲にあることがさらに好ましい。平均繊維径が上記の範囲にある繊維の製造方法は、特に限定されないが、後述する公知の静電紡糸法により形成することが可能であり、静電紡糸された繊維を層状に集積することによりナノファイバー層を得ることができる。
【0021】
本発明のナノファイバー層の樹脂付着量(目付と表現する場合がある)は、0.1~10g/m2の範囲にあることが必要であり、0.3~8g/m2であることがより好ましく、0.5~6g/m2の範囲にあることがさらに好ましい。ナノファイバー層の樹脂付着量が、0.1g/m2未満では除去すべき微小な懸濁状物の捕集が不十分となり、また、10g/m2を超えて付着量が大きすぎると圧力損失が大きくなり、濾過に長時間が必要となる。
【0022】
本発明のナノファイバーに含まれる親水性樹脂は、ポリビニルアルコール、エチレン-ビニルアルコール共重合体、及びポリビニルブチラールからなる群から選択される少なくとも1種を含むことがより好ましく、ポリビニルアルコールであることがさらに好ましい。ポリビニルアルコールを含むナノファイバー層は、親水性が高い為、疎水性の油脂を濾過する時のフィルターへの濡れ性が良好である。その為、濾過精度が高い一方、初期圧力損失が小さい状態で高効率な濾過を行うことが出来る。
【0023】
(ポリビニルアルコール)
ポリビニルアルコールは、ビニルアルコール単位を主成分とするポリマーであり、通常、酢酸ビニルを重合して得られるポリ酢酸ビニルをけん化して製造される。ポリビニルアルコールのけん化度は、疎水性の油脂を濾過する時のフィルターへの濡れ性と良好な濾過精度とを付与することができる限り、特に限定されるものではないが、けん化度としては50.0~99.9モル%であることが好ましい。けん化度が低すぎる場合、疎水性の油脂の濡れ性が低下する恐れがあり、けん化度が高すぎる場合、ナノファイバー作製時の安定性が低下する恐れがある。けん化度は、70.0~99.5モル%がより好ましい。
【0024】
ポリビニルアルコールの粘度平均重合度(以下、重合度と略記することがある)は200~5000が好ましく、300~4000がより好ましい。重合度(P)はJIS-K6726に準じて測定される。重合度が小さすぎる場合には、ナノファイバーの強度が不足するおそれがある。重合度が大きすぎる場合には、ナノファイバーを作製する際の溶液の粘度が高くなりすぎ、作業性が低下するおそれがある。
【0025】
ポリビニルアルコールは、本発明の効果を損なわない範囲であれば、上記のビニルアルコール単位、ビニルエステル単位以外の単量体単位を含有していても良い。このような単量体単位となる単量体としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸i-プロピル等のアクリル酸エステル;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-プロピル、メタクリル酸i-プロピル等のメタクリル酸エステル;アクリルアミド;N-エチルアクリルアミド等のアクリルアミド誘導体;メタクリルアミド;N-メチルメタクリルアミド、N-エチルメタクリルアミド等のメタクリルアミド誘導体;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n-プロピルビニルエーテル、i-プロピルビニルエーテル等のビニルエーテル;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン等のハロゲン化ビニル;酢酸アリル、塩化アリル等のアリル化合物;ビニルトリメトキシシラン等のビニルシリル化合物;酢酸イソプロペニル等の単量体由来の単位が挙げられる。当該ポリビニルアルコールにおける全構造単位中の上記他の構造単位の割合は、20モル%以下が好ましいことがあり、10モル%以下がより好ましいことがあり、5モル%又は1モル%がさらに好ましい場合がある。一方、上記他の構造単位の割合は、例えば0.1モル%以上であってよく、1モル%以上であってもよい。
【0026】
ポリビニルアルコールは、架橋構造を有するポリビニルアルコールである事が好ましい。ポリビニルアルコールの架橋の方法に特に制限は無く、α―ヒドロキシ酸との熱処理による架橋、アルデヒド化合物とのホールマール化による架橋等の一般的に知られている方法が利用できる。中でもα―ヒドロキシ酸との熱処理による架橋が好ましい。α-ヒドロキシ酸は水酸基とカルボキシル基とが同じ炭素原子に結合した有機化合物であり、食品添加物や化粧品原料としても用いられており、安全性が高く、環境上の問題性も低い。このα-ヒドロキシ酸(より具体的にはα-ヒドロキシカルボン酸)として、例えば、グリコール酸、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、酒石酸などを挙げることができる。α-ヒドロキシ酸の中でも、常温常圧下で固体であるものは、紡糸性に優れ、しかも紡糸し乾燥させた後でも繊維がべとついたりせず、取り扱い性に優れているため、好適に使用できる。これらα-ヒドロキシ酸の中でも、一分子中に2個以上のカルボキシル基を有するため架橋しやすく、しかも常温常圧下で固体であるリンゴ酸、酒石酸、クエン酸を好適に使用できる。なお、α-ヒドロキシ酸は1種類、又は2種類以上を併用して架橋することができ、特にリンゴ酸、酒石酸、クエン酸を1種類、又は2種類以上を併用して架橋するのが好ましい。
【0027】
α-ヒドロキシ酸のポリビニルアルコールに対する添加量は、ポリビニルアルコール100部に対して、α-ヒドロキシ酸が0.05~15部であるのが好ましく、0.1~10部であるのがより好ましく、0.5~8部であるのがさらに好ましい。α-ヒドロキシ酸の添加量が0.1部未満の場合は架橋が不十分となり、水への不溶化が不足する。一方、α-ヒドロキシ酸の添加量が10部超の場合は、静電紡糸法により安定したナノファイバー繊維化が困難になる。
【0028】
このα-ヒドロキシ酸による架橋構造の詳細については明らかではないが、ポリビニルアルコールの水酸基とα-ヒドロキシ酸のカルボキシル基との間で化学反応(エステル化)が起こると推測している。また、カルボキシル基を2つ以上持つα-ヒドロキシ酸では、この反応は分子内だけではなく分子間でも起こり、分子間架橋も起こっているのではないかと推測している。α-ヒドロキシ酸によって架橋されたポリビニルアルコールは、アルデヒド類を用いたアセタール化( 又はホルマール化)とは異なり、毒性や発ガン性の心配のない、安全性の高いものである。
【0029】
(エチレン-ビニルアルコール共重合体)
エチレン-ビニルアルコール共重合体は、水中における形態安定性と親水性とのバランスから、エチレン含有量が3~70モル%の範囲にあることが好ましく、さらに好ましくは、20~55モル%である。また、ケン化度は80モル%以上であることが好ましく、さらに好ましくは98モル% 以上である。ケン化度が80モル% 未満では、エチレン- ビニルアルコール共重合体の結晶化度が低下してナノファイバーの強度的性質にとって好ましくない。また、エチレン-ビニルアルコール共重合体として、エチレン含有量が20~55モル%の共重合体とエチレン含有量が3~20モル%の共重合体との組合せのような、エチレン含有量の異なる共重合体を混合したものを用いてもよい。エチレン-ビニルアルコール共重合体は、エチレン-酢酸ビニル共重合体をケン化することにより得られるが、エチレン-酢酸ビニル共重合体として、エチレンと酢酸ビニルを共重合する際に、その他の脂肪酸ビニルエステル(プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニルなど)を少量(酢酸ビニルに対して20モル% 以下)併用したものも含まれる。エチレン-ビニルアルコール共重合体としては、通常、数平均分子量約8000~20000のものを使用するのがよい。また、ナノファイバー形成後に、必要に応じてアルデヒド、ジアルデヒドなどによりアセタール化、架橋処理を行ったものでもよい。
【0030】
(ポリビニルブチラール)
ポリビニルブチラールは、以下の化学式( I ) で表されるものである。
【0031】
【化1】
ポリビニルブチラールのブチラール化度は、上記化学式(I)で表されるポリマー組成中における繰返し単位Xの含有比率で示される。本発明において具体的にはブチラール化度が好適には50~90質量%のものが、より好適には55~85質量%のものが使用できる。ブチラール化度が50質量% 未満の場合、ガラス転移温度が高くなり、樹脂の流動性も低下するので、ナノファイバーの加工性が悪化する。一方、ブチラール化度が90質量%を超える場合、ナノファイバーの強度が低下する場合がある。
【0032】
本発明で用いられるポリビニルブチラールの製造方法は特に限定されず、公知の方法を採用できる。例えば、酢酸ビニル単量体を重合して得たポリ酢酸ビニルをけん化することによりポリビニルアルコールを得て、これをブチラール化することによってポリビニルブチラールを得ることができる。
【0033】
(ナノファイバーの製造)
親水性樹脂を溶媒に溶解するか、または溶融して紡糸原液を調製し、この紡糸原液からナノファイバーを製造することができる。ポリビニルアルコールを溶媒に溶解する場合には、水を溶媒として水溶液を作製し、これを紡糸原液として用いることができる。エチレン-ビニルアルコール共重合体を溶媒に溶解する場合には、ジメチルスルホキシドや、メチルアルコールやエチルアルコール、1-プロパノールといった低級アルコールと水との混合物を溶媒として、エチレン-ビニルアルコール共重合体溶液を作製し、これを紡糸原液として用いることができる。ポリビニルブチラールを溶媒に溶解する場合には、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミドなどを溶媒として、ポリビニルブチラール溶液を作製し、これを紡糸原液として用いることができる。さらに、親水性樹脂を溶融する場合には、親水性樹脂を押出機や加熱媒体で加熱溶融させることにより紡糸原液を調製できる。
【0034】
上記紡糸原液をノズルから吐出し、静電紡糸法により繊維を形成することによりナノファイバーを得ることができる。紡糸原液を供給する導電性部材に高電圧を印加することで、ノズルから吐出された紡糸原液が帯電分裂され、ついで電場により液滴の一点からファイバーが連続的に引き出され、分割されたナノファイバーが連続した状態で多数拡散し、接地した対極側に堆積して、シート状のナノファイバー層を集積することができる。これにより、溶液中におけるポリマーの濃度が10%以下であっても、溶媒は繊維形成と細化の段階で蒸発しやすく、ノズルより数cm~数十cm 離れて設置された捕集ベルトあるいはシート上に堆積する。堆積しながら、溶媒を含む、または溶融状態から完全に固化していないナノファイバーは相互に微膠着し、繊維間の移動を防止し、新たな微細繊維が逐次堆積し、緻密なシートを得ることができる。集積面上に基材である不織布または織布を置いて、この上にナノファイバーを堆積し、積層体とすることもできる。ナノファイバー単繊維の平均繊維径はポリマーの原液濃度、ノズルとシート集積面との間の距離(極間距離)、ノズルに印加される電圧等の条件により所定の平均繊維径に制御することができる。
【0035】
(基材)
前記のナノファイバー層とともに、本発明の濾材を構成する基材として、平均繊維径が3μm以上の繊維から構成される不織布が用いられる。平均繊維径が3μmよりも小さいと、シートの引張強力が低くなり、フィルターに加工する際の加工性が悪くなるばかりか、フィルターとしての耐久性も悪くなる。油脂用濾材としての除去すべき微小な懸濁状物や具材由来の臭い物質の捕集性はナノファイバー層が機能し、フィルターの加工性および耐久性は基材が機能するのが好ましい。基材を構成する繊維の平均繊維径は、上記のように3μm以上が好ましく、5μm以上がより好ましく、7μm 以上がさらに好ましい。上限としては、200μm以下が好ましく、100μm以下がさらに好ましい。
【0036】
基材を構成する不織布としては、スパンボンド法、メルトブローン法、スパンレース法、サーマルボンド法、ケミカルボンド法、エアレイド法、ニードルパンチ法などの乾式不織布や湿式不織布のいずれの不織布も用いることができる。なかでも、湿式不織布が、強度、緻密性、均一性の点から優れているので、とくに、本発明におけるナノファイバー層を支持する基材としては、湿式不織布が好ましく用いられる。
【0037】
湿式法による不織布は油脂の濡れ性と強度の観点から濾紙であることが好ましい。濾紙は、パルプ等の繊維を水中に分散させ、緩やかな撹拌下で、均一なスラリーとし、このスラリーを丸網、長網、傾斜式などのワイヤーのうち少なくとも1つを有する抄紙用の装置を用いてシート形成する方法により得られる。さらに、濾紙作製の際には、パルプ等の繊維は、ビーター又はリファイナーなどで叩解処理を施した後にスラリーとしてもよく、シート形成の際に粘剤や分散剤などを添加してもよい。
【0038】
上記の不織布の坪量は、ナノファイバー層を支持する機能があり、所望の強度を有することと、コンパクト化を充足することとのバランスから適宜選択される。好ましくは、20~500g/m2の範囲、さらに好ましくは、40~300g/m2の範囲で選択されるのがよい。
【0039】
( ナノファイバー層と基材との積層)
ナノファイバー層と基材との積層は、予め別々に形成したナノファイバー層と基材とを積層してもよく、また、予め形成した基材層上にナノファイバー層を集積してもよく、基材層としての不織布をスパンボンド法、メルトブロー法で形成し、集積した不織布を、巻き取ることなく、不織布製造工程と連続して、静電紡糸法でナノファイバーを形成しながら、該不織布上に集積・積層してもよい。また、ナノファイバー層と基材層はそれぞれ1層でなくてもよく、繊維径などが異なる複数の層から形成されていてもよい。また、積層体の厚みは、必要に応じて熱プレスまたは冷間プレスによって目的とする厚さに調整することも可能である。
【0040】
(油脂)
本発明において油脂は、脂質の一種で、天然由来の脂肪酸とグリセリンとのエステル化合物である動植物油脂を指す。動植物油脂とは、動物油および/ または植物油に由来する油脂であり、動物油としては、牛脂、牛乳脂質(バター) 、豚脂、羊脂、鯨油、魚油、肝油等が挙げられ、植物油としては、ココヤシ、パームヤシ、オリーブ、べにばな、菜種( 菜の花) 、米ぬか、ひまわり、綿実、とうもろこし、大豆、ヤトロファ、ごま、アマニ、藻類等の種子部及びその他の部分、特定の微細藻類が生産する油脂類または炭化水素等が挙げられる。特定の微細藻類とは、体内の栄養分の一部を炭化水素または油脂の形に変換する性質を有する藻類を意味し、例えば、クロレラ、イカダモ、スピルリナ、ユーグレナ、ボツリオコッカスブラウニー、シュードコリシスチスエリプソイディアを挙げることが出来る。クロレラ、イカダモ、スピルリナ、ユーグレナは油脂類を、ボツリオコッカスブラウニー、シュードコリシスチスエリプソイディアは炭化水素を生産することが知られている。
【0041】
これらの動植物油脂は、主に脂肪酸トリグリセリドであり、これらの脂肪酸トリグリセリドを構成する脂肪酸の代表的例としては、飽和脂肪酸と称する分子構造中に不飽和結合を有しない脂肪酸である酪酸、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、及び不飽和結合を1つもしくは複数有する不飽和脂肪酸であるオレイン酸、リノール酸、リノレン酸、リシノレン酸等が挙げられる。
【0042】
(各種添加剤)
本発明の目的や効果を損なわない範囲で、必要に応じて、可塑剤、酸化防止剤、滑剤、紫外線吸収剤、光安定剤、帯電防止剤、難燃剤、潤滑剤、結晶化速度遅延剤、着色剤等を、ナノファイバー原料の親水性樹脂や基材原料に加えてもよく、また上記の添加剤液で、ナノファイバー表面または基材表面を処理してもよい。
【0043】
(ろ過方法)
本発明の油脂の濾過方法は、親水性樹脂を含むナノファイバー層と基材との積層体を含む油脂用濾材を用いて油脂を濾過する方法である。濾過時の油脂温度には特に制約は無いが、50~300℃が好ましく、60~250℃がより好ましく、80~200℃がさらに好ましい。ろ過時の油脂温度が50℃未満の場合は、油脂の粘度が高くなり、ろ過効率が悪くなる、一方、油脂の温度が300℃超の場合は、油脂の酸化が生じやすい。
【0044】
本発明の油脂用濾材、及び濾過方法は、廃食用油のろ過、微細藻類が生成する油脂等の濾過に有用である。
【実施例0045】
以下、実施例を用いて本発明を詳細に説明する。尚、以下の実施例および比較例中、特に断りのない限り「%」および「部」は質量基準である。実施例および比較例における分析および評価は下記の方法に従って行った。
【0046】
(樹脂付着量の測定/目付の測定)
JIS-L1906「一般長繊維不織布試験方法」に準拠して測定した。
【0047】
(平均繊維径の測定)
イオンスパッター装置日立製作所社製(「E-1045」)にて白金蒸着処理を行った。次いで、走査型電子顕微鏡(日立製作所社製「SU8220」)により撮影した不織布構成繊維の断面の拡大写真から、無作為に20本の繊維を選び、それらの繊維径を測定し、その平均値を平均繊維径とした。
【0048】
(紫外可視吸光光度計による測定)
濾過後の濾液を紫外可視吸光光度計(島津製作所製「UV-3600」)にて測定した。この際、リファレンスには未使用の食用なたね油を用いた。
【0049】
(濾過液の濁り具合の判定)
濾過後の濾液の外観を目視観察し、下述の判定基準で点数付けをした。
5:濁りが無く透明であった
3:やや濁りがあった
1:濁りが激しかった
【0050】
(濾過液の着色具合の判定)
濾過後の濾液の外観を目視観察し、下述の判定基準で点数付けをした。
5:薄い茶色であった
3:やや濃い茶色であった
1:濃い茶色であった
【0051】
(濾過液の臭い判定)
濾過後の濾液の臭いを鼻でかぎ、下述の判定基準で点数付けをした。
5:臭いが全くしなかった。
3:やや臭いがした。
1:臭いが激しかった。
【0052】
(濾過効率の判定)
濾過試験において濾液量が50mlに達するまでの時間を測定し、下述の判定基準で点数付けをした。
5:60秒未満であった。
3:60秒以上、180秒以内であった。
1:180秒超であった。
【0053】
<実施例1>
(積層シート1の作製)
ポリビニルアルコール22-88((株)クラレ製、重合度:1750, けん化度:88mol%)の濃度10%水溶液の紡糸液を調整した。得られた紡糸原液を用いて静電紡糸を行った。口金として内径が0.9mmのニードルを使用し、口金と形成シート引取り装置との間の距離は12cmとした。また、形成シート引取り装置に基材の濾紙(平均繊維径:20μm)を巻き付けて、この基材上に、集積コンベアの速度0.1m/分、紡糸原液を所定の供給量で口金から押し出し、口金に15kV印加電圧を与えて、平均繊維径150nm、付着量1.2g/m2のナノファイバー層を積層させた。
【0054】
(積層シート1の食用油の濾過試験)
食用なたね油(J-オイルミルズ製)を用いて、ゴーヤ天ぷら:1本、かぼちゃ天ぷら:1/4個、イカ天ぷら:250g、エビ天ぷら:200g、鶏肉の下味無し唐揚げ;400g、鶏肉の下味有り唐揚げ;400gからなるメニューを三回調理した後の食用油を廃食用油とした。この料理の間、天ぷらかすは、網目サイズ約2mmの漉し網で随時除去した。積層シート1を天ぷら油クリーナーレッツフライTK80(Panasonic製)のフィルター固定金具にセットした。次いで、前記の廃食用油200mlを温度170℃に加熱して積層シート1にて濾過した。この時、濾過を開始してから、濾液が50mlに達するまでの時間を測定した。15秒であった。さらに、得られた濾液の物性を評価した。結果を表2に示す。
【0055】
<実施例2~7、比較例1~4>
ナノファイバー加工の溶液組成を表1に示す内容に変更した以外は実施例1と同様に行った。得られた。積層シートの評価を表2に示す。
【0056】
表2に示すように、親水性樹脂を含む成分繊維から形成され、かつ樹脂付着量(目付)が、0.1~5g/m2であり、さらに平均繊維径が10~1000nmであるナノファイバー層と、平均繊維径が3μm以上の繊維から構成される不織布とが積層された濾材は、濾過後食用油の定性評価が優れていた(実施例1~8)。特に、ナノファイバー層の樹脂付着量が、0.5~5g/m2であり、さらに平均繊維径が80~300nmであるナノファイバー層と不織布とが積層された濾材は、濁り具合と着色に優れていた(実施例1~5)。そのうち、親水性樹脂に架橋構造を有するポリビニルアルコール、エチレン- ビニルアルコール共重合体、及びポリビニルブチラールを用いた場合は、さらに臭いが少ない濾液が得られた(実施例2、4、5)。さらに、親水性樹脂に架橋構造を有するポリビニルアルコールを用いた場合は、濾過効率に優れていた(実施例2)。一方、市販の濾紙を用いた場合には、濾過後食用油の定性評価に劣っていた(比較例1)。また、樹脂にポリ乳酸を用いたナノファイバー層を設けた場合は、170℃の食用油に濾過途中で溶融した(比較例2)。さらに、ナノファイバーの平均繊維径が1000nmを超える場合(比較例3)とナノファイバー層の付着量が0.5g/m2未満の場合(比較例4)は、濾過後食用油の定性評価に劣っていた。
【0057】
【0058】
本発明の油脂用濾材は、廃食用油に含まれる微小な懸濁状物や具材由来の臭い物質を除去するに適した部材として好適に使用される。本発明の油脂の濾過方法は、微小な懸濁状物や具材由来の臭い物質を高い効率で除去することができる。