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特開2023-43906エンジンのモデルパラメータ同定方法、モデルパラメータ同定プログラム、及びエンジンのデジタルツイン管理システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023043906
(43)【公開日】2023-03-30
(54)【発明の名称】エンジンのモデルパラメータ同定方法、モデルパラメータ同定プログラム、及びエンジンのデジタルツイン管理システム
(51)【国際特許分類】
   G01M 15/02 20060101AFI20230323BHJP
   G05B 23/02 20060101ALI20230323BHJP
【FI】
G01M15/02
G05B23/02 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021151638
(22)【出願日】2021-09-17
(71)【出願人】
【識別番号】501204525
【氏名又は名称】国立研究開発法人 海上・港湾・航空技術研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000205535
【氏名又は名称】株式会社 商船三井
(74)【代理人】
【識別番号】100098545
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100189717
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 貴章
(72)【発明者】
【氏名】ボンダレンコ オレクシー
(72)【発明者】
【氏名】福田 哲吾
(72)【発明者】
【氏名】北川 泰士
(72)【発明者】
【氏名】大宮 知起
【テーマコード(参考)】
2G087
3C223
【Fターム(参考)】
2G087AA15
2G087BB26
2G087BB28
2G087BB40
2G087CC40
2G087EE22
2G087EE23
3C223AA18
3C223BA03
3C223CC02
3C223DD03
3C223EB01
3C223FF04
3C223FF22
3C223GG01
3C223HH02
(57)【要約】
【課題】エンジンモデルのモデルパラメータをより高精度に把握できるエンジンのモデルパラメータ同定方法、モデルパラメータ同定プログラム、及びエンジンのデジタルツイン管理システムを提供すること。
【解決手段】対象とするエンジン10を特定するエンジン特定ステップS1と、エンジン10を複数の機能要素に分解する機能要素分解ステップS2と、複数の機能要素のそれぞれを数学モデルで表現する数学モデル化ステップS3と、数学モデルで必要なモデルパラメータを選出するパラメータ選出ステップS4と、エンジン10を用いて計測したモデルパラメータに関連するデータを群として取得しクラスタリングを含む処理をするデータ群取得処理ステップS5と、クラスタリングしたデータから均等にサンプルデータを抽出するサンプルデータ抽出ステップS6と、抽出したサンプルデータを数学モデルに適用しモデルパラメータを同定するモデルパラメータ同定ステップS7とを有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンのモデルパラメータを同定する方法であって、
対象とする前記エンジンを特定するエンジン特定ステップと、
前記エンジンを複数の機能要素に分解する機能要素分解ステップと、
複数の前記機能要素のそれぞれを数学モデルで表現する数学モデル化ステップと、
前記数学モデルで必要な前記モデルパラメータを選出するパラメータ選出ステップと、
前記エンジンを用いて計測した前記モデルパラメータに関連するデータを群として取得しクラスタリングを含む処理をするデータ群取得処理ステップと、
クラスタリングした前記データから均等にサンプルデータを抽出するサンプルデータ抽出ステップと、
抽出した前記サンプルデータを前記数学モデルに適用し前記モデルパラメータを同定するモデルパラメータ同定ステップとを有することを特徴とするエンジンのモデルパラメータ同定方法。
【請求項2】
前記データ群取得処理ステップにおいて、取得した群としての前記データをプレ処理し、好ましい前記データのみを抽出するデータプレ処理ステップを有することを特徴とする請求項1に記載のエンジンのモデルパラメータ同定方法。
【請求項3】
前記データ群取得処理ステップにおいて、取得した群としての前記データをクラスタリングするクラスタリングステップを有し、クラスタリングするに当たりファジィ・シー・ミーンズ(FuzzyC-means)を用いることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のエンジンのモデルパラメータ同定方法。
【請求項4】
前記モデルパラメータ同定ステップにおける前記モデルパラメータの同定に当たり、前記サンプルデータをパラメータ同定アルゴリズムに適用するアルゴリズム適用ステップと、前記サンプルデータ抽出ステップと前記アルゴリズム適用ステップを繰り返す繰返ステップを有することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のエンジンのモデルパラメータ同定方法。
【請求項5】
前記繰返ステップは、前記モデルパラメータが所定の範囲に収束するまで、前記サンプルデータ抽出ステップと前記アルゴリズム適用ステップを繰り返すことを特徴とする請求項4に記載のエンジンのモデルパラメータ同定方法。
【請求項6】
前記エンジンが過給機を備える場合に、前記数学モデルはそれぞれ複数のユニットモデルから成る給排気系の排気ガスループモデルとエンジン動力ユニットモデルであることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のエンジンのモデルパラメータ同定方法。
【請求項7】
前記排気ガスループモデルにおける前記ユニットモデルは、前記過給機のタービン/コンプレッサトルクモデル、排気ガス質量流量モデル、排気ガスエネルギー流モデル、及び前記過給機のタービン出口温度モデルを含むことを特徴とする請求項6に記載のエンジンのモデルパラメータ同定方法。
【請求項8】
前記排気ガスループモデルで前記モデルパラメータを同定するために使用する群として取得する前記データは、排気ガスレシーバ内圧力(P)、排気ガスレシーバ内温度(T) 、過給機回転数(ntc)、掃気温度(T)、掃気圧力(P)、エンジン空気流量(G)、及び燃料流量(G)を含むことを特徴とする請求項6又は請求項7に記載のエンジンのモデルパラメータ同定方法。
【請求項9】
前記エンジン動力ユニットモデルにおける前記ユニットモデルは、機関出力(Engine power)、正味平均有効圧(Brake mean effective pressure)、図示平均有効圧(Indicate mean effective pressure)、及び摩擦平均有効圧(Friction mean effective pressure)を含むことを特徴とする請求項6から請求項8のいずれか1項に記載のエンジンのモデルパラメータ同定方法。
【請求項10】
前記エンジン動力ユニットモデルで前記モデルパラメータを同定するために使用する群として取得する前記データは、エンジン回転数(n)、燃料ポンプラック(F)、及び機関出力(P)であることを特徴とする請求項6から請求項9のうちの1項に記載のエンジンのモデルパラメータ同定方法。
【請求項11】
前記モデルパラメータ同定ステップで同定された前記モデルパラメータを複数の前記数学モデルに適用し、同定された前記モデルパラメータを有した複数の前記数学モデルを統合して前記エンジンのエンジンモデルを構築するエンジンモデル構築ステップをさらに有することを特徴とする請求項1から請求項10のうちの1項に記載のエンジンのモデルパラメータ同定方法。
【請求項12】
エンジンのモデルパラメータを同定するプログラムであって、
コンピュータに、
請求項1に記載のエンジンのモデルパラメータ同定方法における前記データ群取得処理ステップ、前記サンプルデータ抽出ステップ、及び前記モデルパラメータ同定ステップを実行させることを特徴とするエンジンのモデルパラメータ同定プログラム。
【請求項13】
前記コンピュータに、
請求項2に記載の前記データプレ処理ステップをさらに実行させることを特徴とする請求項12に記載のエンジンのモデルパラメータ同定プログラム。
【請求項14】
前記コンピュータに、
請求項4に記載の前記アルゴリズム適用ステップと、前記繰返ステップをさらに実行させることを特徴とする請求項12又は請求項13に記載のエンジンのモデルパラメータ同定プログラム。
【請求項15】
前記コンピュータに、
請求項11に記載の前記エンジンモデル構築ステップをさらに実行させて、前記エンジンモデルを構築することを特徴とする請求項12から請求項14のいずれか1項に記載のエンジンのモデルパラメータ同定プログラム。
【請求項16】
エンジンをエンジンモデルを用いてデジタルツインとして管理するシステムであって、前記エンジンと、前記エンジンのデータを取得する計測データ取得手段と、請求項11に記載のエンジンのモデルパラメータ同定方法で構築した前記エンジンモデル、又は請求項15に記載のエンジンのモデルパラメータ同定プログラムで構築した前記エンジンモデルを用いたエンジン状態観測器とを備え、前記エンジンを前記エンジン状態観測器を用いたデジタル空間を利用して管理することを特徴とするエンジンのデジタルツイン管理システム。
【請求項17】
前記エンジンモデルの構築の際に前記計測データ取得手段で得られる群としての前記データを利用することを特徴とする請求項16に記載のエンジンのデジタルツイン管理システム。
【請求項18】
前記エンジン状態観測器で観測した観測パラメータの推定結果が所定の範囲を超えた場合に、前記エンジンモデルを構成する前記数学モデルの同定された前記モデルパラメータを更新することを特徴とする請求項16又は請求項17に記載のエンジンのデジタルツイン管理システム。
【請求項19】
前記エンジンと前記計測データ取得手段を用いて、任意の期間を空けて前記エンジンモデルを再構築することを特徴とする請求項16から請求項18のいずれか1項に記載のエンジンのデジタルツイン管理システム。
【請求項20】
前記エンジンは船舶に用いられるエンジンであり、前記エンジン状態観測器による観測結果は、前記船舶のブリッジを含む前記船舶を管理する管理部門に提供されることを特徴とする請求項16から請求項19のいずれか1項に記載のエンジンのデジタルツイン管理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンのモデルパラメータを同定するモデルパラメータ同定方法、モデルパラメータ同定プログラム、及びエンジンをエンジンモデルを用いてデジタルツインとして管理するデジタルツイン管理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
運航中の船舶においては、主機の稼働状況をモニタリングして保守等が行われている。
例えば特許文献1には、船舶の主機の構成要素ごとの応答を表す物理モデルの組み合わせによる主機バーチャルモデルに、モデル内変数としての主機状態パラメータである主機の運転に関わる設定値と主要な計測値を適用し、主機バーチャルモデルで計算を行って主機の主機状態をモニタリングするとともに、主機状態パラメータ及び計算結果としての主機状態の少なくとも1つを用いてモデル内変数としてのモデルパラメータを変更して主機バーチャルモデルを更新することで、実計測機器をさほど必要とすることなく実計測と遜色ない精度で主機状態をモニタリングできる船舶の主機モニタリング方法が開示されている。
【0003】
また、計測により取得したデータをクラスタリングする装置や、パラメータを同定してロボットへの動的制御を行う装置等が提案されている。
例えば特許文献2には、入力画像に類似する参照画像を記録部から検索し、類似する参照画像に対応付けて記録されている参照パラメータを取得する類似画像検索部と、参照パラメータを合成してモデルパラメータの初期値を決定する初期パラメータ決定部と、モデルパラメータの初期値を、入力画像の特徴空間における確率密度分布に合わせて更新するパラメータ更新部と、得られたモデルパラメータに基づいて、入力画像の特徴空間における確率密度分布をクラスタリングするクラスタリング部と、その結果を出力する結果出力部を備える情報処理装置が開示されている。
また特許文献3には、クラスが付与された複数のデータからなる第1のデータセット、および、クラスが付与されていない複数のデータからなる第2のデータセットを用いて、機械学習により推定モデルを生成する学習部と、推定部とを含み、推定モデルは、入力されたデータから特徴量を算出するエンコーダと、入力されたデータが第1のクラスである第1の確率を出力する第1の識別器と、入力されたデータが第2のクラスである第2の確率を出力する第2の識別器とを含み、学習部は、第1のデータセットおよび第2のデータセットのいずれかに含まれるデータを推定モデルに入力したときに出力される第1の確率および第2の確率に基づいて、識別の不一致を算出する算出手段と、算出された識別の不一致の大きさに応じて、当該入力されたデータについての学習の優先度を決定する決定手段とを含む推定システムが開示されている。
また特許文献4には、マニピュレータの簡単な機構情報に基づき、マニピュレータ駆動トルクへの寄与度に応じて動力学モデルパラメータをクラス分類するパラメータ分類部と、分類されたパラメータに基づいて各パラメータが寄与するトルク成分を適切に起動するマニピュレータ動作を計画する同定動作計画部と、この計画動作に基づいてマニピュレータを駆動し、その運動データを計測する駆動計測部と、計測された運動データに基づいて動力学モデルパラメータ値を高精度に推定するパラメータ推定部を備える動力学モデルパラメータ同定装置が開示されている。
また特許文献5には、 室外機、室内機、室外機、室内機、冷凍機及び冷凍機などを収容する施設の熱収支モデルの構築に必要なパラメータを同定するために計測された計測データを、パラメータに影響を与える条件である分類条件毎に分類する分類部と、分類条件毎に分類された計測データに基づいて、パラメータを分類条件毎に同定する同定部とを備えるモデル化装置が開示されている。
また特許文献6には、学習段階において複数のセンサーで得られた時系列の学習データからスパース構造モデルを生成し、運用段階において複数のセンサーで得られる時系列の対象データとスパース構造モデルとに基づいて対象データの状態を判定する判定装置であって、まず、学習段階で学習データを複数の正常モードに相当する複数の集合にクラスタリングし、次に、複数の集合のそれぞれに含まれる学習データにおけるパラメータ間の関係をマルコフ確率場で表したスパース構造モデルを集合毎に作成し、また、運用段階で複数の集合のうち対象データの比較対象となる対象集合を推定し、そして、対象集合についてのスパース構造モデルに対する対象データの構造変化量に基づき対象データの状態を判定することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2020/235688号
【特許文献2】特開2014-1233411号公報
【特許文献3】特開2021-081795号公報
【特許文献4】特開平05-277976号公報
【特許文献5】特開2008-090828号公報
【特許文献6】特開2019-096014号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1は、主機バーチャルモデルで計算を行って主機の主機状態をモニタリングし、また主機バーチャルモデルを更新することにより、高精度に主機のモニタリングを可能とするものであるが、エンジンモデルのモデルパラメータをより高精度に把握できれば安全性の更なる向上等に繋がる。
また、特許文献2~6は、船舶主機等のエンジンの運転状態を、エンジンモデルを用いて精度よく推定しようとするものではない。
そこで本発明は、エンジンモデルのモデルパラメータをより高精度に把握できるエンジンのモデルパラメータ同定方法、モデルパラメータ同定プログラム、及びエンジンのデジタルツイン管理システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載に対応したエンジンのモデルパラメータ同定方法においては、エンジンのモデルパラメータを同定する方法であって、対象とするエンジンを特定するエンジン特定ステップと、エンジンを複数の機能要素に分解する機能要素分解ステップと、複数の機能要素のそれぞれを数学モデルで表現する数学モデル化ステップと、数学モデルで必要なモデルパラメータを選出するパラメータ選出ステップと、エンジンを用いて計測したモデルパラメータに関連するデータを群として取得しクラスタリングを含む処理をするデータ群取得処理ステップと、クラスタリングしたデータから均等にサンプルデータを抽出するサンプルデータ抽出ステップと、抽出したサンプルデータを数学モデルに適用しモデルパラメータを同定するモデルパラメータ同定ステップとを有することを特徴とする。
請求項1に記載の本発明によれば、複雑で非定常な特性を示すエンジンのモデルパラメータを容易に同定でき、エンジンのモデルパラメータをより高精度に把握することができる。
【0007】
請求項2記載の本発明は、データ群取得処理ステップにおいて、取得した群としてのデータをプレ処理し、好ましいデータのみを抽出するデータプレ処理ステップを有することを特徴とする。
請求項2に記載の本発明によれば、好ましいデータに基づいてエンジンのモデルパラメータの推定を容易にすることができる。
【0008】
請求項3記載の本発明は、データ群取得処理ステップにおいて、取得した群としてのデータをクラスタリングするクラスタリングステップを有し、クラスタリングするに当たりファジィ・シー・ミーンズ(FuzzyC-means)を用いることを特徴とする。
請求項3に記載の本発明によれば、群としてのデータのクラスタリングの精度を向上させることができる。
【0009】
請求項4記載の本発明は、モデルパラメータ同定ステップにおけるモデルパラメータの同定に当たり、サンプルデータをパラメータ同定アルゴリズムに適用するアルゴリズム適用ステップと、サンプルデータ抽出ステップとアルゴリズム適用ステップを繰り返す繰返ステップを有することを特徴とする。
請求項4に記載の本発明によれば、モデルパラメータの同定を精度よく行うことができる。
【0010】
請求項5記載の本発明は、繰返ステップは、モデルパラメータが所定の範囲に収束するまで、サンプルデータ抽出ステップとアルゴリズム適用ステップを繰り返すことを特徴とする。
請求項5に記載の本発明によれば、モデルパラメータの同定を的確に行うことができる。
【0011】
請求項6記載の本発明は、エンジンが過給機を備える場合に、数学モデルはそれぞれ複数のユニットモデルから成る給排気系の排気ガスループモデルとエンジン動力ユニットモデルであることを特徴とする。
請求項6に記載の本発明によれば、過給機を備えるエンジンのモデルパラメータを精度よく同定することができる。
【0012】
請求項7記載の本発明は、排気ガスループモデルにおけるユニットモデルは、過給機のタービン/コンプレッサトルクモデル、排気ガス質量流量モデル、排気ガスエネルギー流モデル、及び過給機のタービン出口温度モデルを含むことを特徴とする。
請求項7に記載の本発明によれば、過給機を備えるエンジンのモデルパラメータを更に精度よく同定することができる。
【0013】
請求項8記載の本発明は、排気ガスループモデルでモデルパラメータを同定するために使用する群として取得するデータは、排気ガスレシーバ内圧力(P)、排気ガスレシーバ内温度(T) 、過給機回転数(ntc)、掃気温度(T)、掃気圧力(P)、エンジン空気流量(G)、及び燃料流量(G)を含むことを特徴とする。
請求項8に記載の本発明によれば、過給機を備えるエンジンのモデルパラメータの同定を精度よく行うことができる。
【0014】
請求項9記載の本発明は、エンジン動力ユニットモデルにおけるユニットモデルは、機関出力(Engine power)、正味平均有効圧(Brake mean effective pressure)、図示平均有効圧(Indicate mean effective pressure)、及び摩擦平均有効圧(Friction mean effective pressure)を含むことを特徴とする。
請求項9に記載の本発明によれば、過給機を備えるエンジンの動力系のモデルパラメータを精度よく同定することができる。
【0015】
請求項10記載の本発明は、エンジン動力ユニットモデルでモデルパラメータを同定するために使用する群として取得するデータは、エンジン回転数(n)、燃料ポンプラック(F)、及び機関出力(P)であることを特徴とする。
請求項10に記載の本発明によれば、過給機を備えるエンジンのモデルパラメータの同定を精度よく行うことができる。
【0016】
請求項11記載の本発明は、モデルパラメータ同定ステップで同定されたモデルパラメータを複数の数学モデルに適用し、同定されたモデルパラメータを有した複数の数学モデルを統合してエンジンのエンジンモデルを構築するエンジンモデル構築ステップをさらに有することを特徴とする。
請求項11に記載の本発明によれば、エンジンのデジタルツインを構築することで、エンジンの状態監視や異常診断、制御等をより適切に行うことが可能となる。
【0017】
請求項12記載に対応したエンジンのモデルパラメータ同定プログラムにおいては、エンジンのモデルパラメータを同定するプログラムであって、コンピュータに、エンジンのモデルパラメータ同定方法におけるデータ群取得処理ステップ、サンプルデータ抽出ステップ、及びモデルパラメータ同定ステップを実行させることを特徴とする。
請求項12に記載の本発明によれば、エンジンのモデルパラメータ同定方法を、より正確かつ迅速に実行することができる。
【0018】
請求項13記載の本発明は、コンピュータに、データプレ処理ステップをさらに実行させることを特徴とする。
請求項13に記載の本発明によれば、エンジンのモデルパラメータの推定を容易にすることができる。
【0019】
請求項14記載の本発明は、コンピュータに、アルゴリズム適用ステップと、繰返ステップをさらに実行させることを特徴とする。
請求項14に記載の本発明によれば、モデルパラメータの同定を精度よく行うことができる。
【0020】
請求項15記載の本発明は、コンピュータに、エンジンモデル構築ステップをさらに実行させて、エンジンモデルを構築することを特徴とする。
請求項15に記載の本発明によれば、コンピュータによりエンジンモデルを構築することで、エンジンの状態監視や異常診断、制御等をより迅速かつ適切に行うことが可能となる。
【0021】
請求項16記載に対応したエンジンのデジタルツイン管理システムにおいては、エンジンをエンジンモデルを用いてデジタルツインとして管理するシステムであって、エンジンと、エンジンのデータを取得する計測データ取得手段と、エンジンのモデルパラメータ同定方法で構築したエンジンモデル、又はエンジンのモデルパラメータ同定プログラムで構築したエンジンモデルを用いたエンジン状態観測器とを備え、エンジンをエンジン状態観測器を用いたデジタル空間を利用して管理することを特徴とする。
請求項16に記載の本発明によれば、モデルパラメータを同定したエンジン状態観測器を用いてエンジンをデジタル空間を利用して管理することで、エンジンの異常や故障等を防止して安全性を高めたり、より適切な制御を行ったりすること等ができる。
【0022】
請求項17記載の本発明は、エンジンモデルの構築の際に計測データ取得手段で得られる群としてのデータを利用することを特徴とする。
請求項17に記載の本発明によれば、計測データ取得手段により取得するデータを、エンジンの状態観測とエンジンモデルの同定の両方に利用することで、システムの構成を簡素化することができる。
【0023】
請求項18記載の本発明は、エンジン状態観測器で観測した観測パラメータの推定結果が所定の範囲を超えた場合に、エンジンモデルを構成する数学モデルの同定されたモデルパラメータを更新することを特徴とする。
請求項18に記載の本発明によれば、デジタルツインの適合性を長期にわたって維持することができる。
【0024】
請求項19記載の本発明は、エンジンと計測データ取得手段を用いて、任意の期間を空けてエンジンモデルを再構築することを特徴とする。
請求項19に記載の本発明によれば、経時的なエンジンの劣化や変化に応じてエンジンモデルを再構築するため、エンジン状態観測器によるモニタリング精度を維持することができる。
【0025】
請求項20記載の本発明は、エンジンは船舶に用いられるエンジンであり、エンジン状態観測器による観測結果は、船舶のブリッジを含む船舶を管理する管理部門に提供されることを特徴とする。
請求項20に記載の本発明によれば、デジタル空間を利用してエンジンが的確に管理でき、就航船の運航の安全性や効率を高めることができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明のエンジンのモデルパラメータ同定方法によれば、複雑で非定常な特性を示すエンジンのモデルパラメータを容易に同定でき、エンジンのモデルパラメータをより高精度に把握することができる。
【0027】
また、データ群取得処理ステップにおいて、取得した群としてのデータをプレ処理し、好ましいデータのみを抽出するデータプレ処理ステップを有する場合には、好ましいデータに基づいてエンジンのモデルパラメータの推定を容易にすることができる。
【0028】
また、データ群取得処理ステップにおいて、取得した群としてのデータをクラスタリングするクラスタリングステップを有し、クラスタリングするに当たりファジィ・シー・ミーンズ(FuzzyC-means)を用いる場合には、群としてのデータのクラスタリングの精度を向上させることができる。
【0029】
また、モデルパラメータ同定ステップにおけるモデルパラメータの同定に当たり、サンプルデータをパラメータ同定アルゴリズムに適用するアルゴリズム適用ステップと、サンプルデータ抽出ステップとアルゴリズム適用ステップを繰り返す繰返ステップを有する場合には、モデルパラメータの同定を精度よく行うことができる。
【0030】
また、繰返ステップは、モデルパラメータが所定の範囲に収束するまで、サンプルデータ抽出ステップとアルゴリズム適用ステップを繰り返す場合には、モデルパラメータの同定を的確に行うことができる。
【0031】
また、エンジンが過給機を備える場合に、数学モデルはそれぞれ複数のユニットモデルから成る給排気系の排気ガスループモデルとエンジン動力ユニットモデルである場合には、過給機を備えるエンジンのモデルパラメータを精度よく同定することができる。
【0032】
また、排気ガスループモデルにおけるユニットモデルは、過給機のタービン/コンプレッサトルクモデル、排気ガス質量流量モデル、排気ガスエネルギー流モデル、及び過給機のタービン出口温度モデルを含む場合には、過給機を備えるエンジンのモデルパラメータを更に精度よく同定することができる。
【0033】
また、排気ガスループモデルでモデルパラメータを同定するために使用する群として取得するデータは、排気ガスレシーバ内圧力(Pe)、排気ガスレシーバ内温度(T) 、過給機回転数(ntc)、掃気温度(T)、掃気圧力(P)、エンジン空気流量(G)、及び燃料流量(G)を含む場合には、過給機を備えるエンジンのモデルパラメータの同定を精度よく行うことができる。
【0034】
また、エンジン動力ユニットモデルにおけるユニットモデルは、機関出力(Engine power)、正味平均有効圧(Brake mean effective pressure)、図示平均有効圧(Indicate mean effective pressure)、及び摩擦平均有効圧(Friction mean effective pressure)を含む場合には、過給機を備えるエンジンの動力系のモデルパラメータを精度よく同定することができる。
【0035】
また、エンジン動力ユニットモデルでモデルパラメータを同定するために使用する群として取得するデータは、エンジン回転数(n)、燃料ポンプラック(F)、及び機関出力(P)である場合には、過給機を備えるエンジンのモデルパラメータの同定を精度よく行うことができる。
【0036】
また、モデルパラメータ同定ステップで同定されたモデルパラメータを複数の数学モデルに適用し、同定されたモデルパラメータを有した複数の数学モデルを統合してエンジンのエンジンモデルを構築するエンジンモデル構築ステップをさらに有する場合には、エンジンのデジタルツインを構築することで、エンジンの状態監視や異常診断、制御等をより適切に行うことが可能となる。
【0037】
また、本発明のエンジンのモデルパラメータ同定プログラムによれば、エンジンのモデルパラメータ同定方法を、より正確かつ迅速に実行することができる。
【0038】
また、コンピュータに、データプレ処理ステップをさらに実行させる場合には、エンジンのモデルパラメータの推定を容易にすることができる。
【0039】
また、コンピュータに、アルゴリズム適用ステップと、繰返ステップをさらに実行させる場合には、モデルパラメータの同定を精度よく行うことができる。
【0040】
また、コンピュータに、エンジンモデル構築ステップをさらに実行させて、エンジンモデルを構築する場合には、コンピュータによりエンジンモデルを構築することで、エンジンの状態監視や異常診断、制御等をより迅速かつ適切に行うことが可能となる。
【0041】
また、本発明のエンジンのデジタルツイン管理システムによれば、モデルパラメータを同定したエンジン状態観測器を用いてエンジンをデジタル空間を利用して管理することで、エンジンの異常や故障等を防止して安全性を高めたり、より適切な制御を行ったりすること等ができる。
【0042】
また、エンジンモデルの構築の際に計測データ取得手段で得られる群としてのデータを利用する場合には、計測データ取得手段により取得するデータを、エンジンの状態観測とエンジンモデルの同定の両方に利用することで、システムの構成を簡素化することができる。
【0043】
また、エンジン状態観測器で観測した観測パラメータの推定結果が所定の範囲を超えた場合に、エンジンモデルを構成する数学モデルの同定されたモデルパラメータを更新する場合には、デジタルツインの適合性を長期にわたって維持することができる。
【0044】
また、エンジンと計測データ取得手段を用いて、任意の期間を空けてエンジンモデルを再構築する場合には、経時的なエンジンの劣化や変化に応じてエンジンモデルを再構築するため、エンジン状態観測器によるモニタリング精度を維持することができる。
【0045】
また、エンジンは船舶に用いられるエンジンであり、エンジン状態観測器による観測結果は、船舶のブリッジを含む船舶を管理する管理部門に提供される場合には、デジタル空間を利用してエンジンが的確に管理でき、就航船の運航の安全性や効率を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
図1】本発明の実施形態によるエンジンのモデルパラメータ同定方法のフロー図
図2】同エンジンのデジタルツイン管理システムを機能実現手段で表した機能ブロック図
図3】同モデルパラメータ同定の概要図
図4】同デジタルツインモデルを示す図
図5】同モデルパラメータ同定アルゴリズムのアーキテクチャーを示す図
図6】同クラスタリング以降のモデルパラメータ同定アルゴリズムを示す図
図7】同クラスタリングとサンプリングの例を示す図
図8】同クラスタリングの有無によるサンプリングの比較を示す図
図9】同パラメータ同定手順の概要図
図10】同パラメータ同定アルゴリズムの概要図
【発明を実施するための形態】
【0047】
本発明の実施形態によるエンジンのモデルパラメータ同定方法、モデルパラメータ同定プログラム、及びエンジンのデジタルツイン管理システムについて説明する。
図1はエンジンのモデルパラメータ同定方法のフロー図、図2はエンジンのデジタルツイン管理システムを機能実現手段で表した機能ブロック図、図3はモデルパラメータ同定の概要図、図4はデジタルツインモデルを示す図である。
図2に示すエンジンのデジタルツイン管理システムは、エンジン10をエンジンモデル31を用いてデジタルツインとして管理するシステムであって、エンジン10と、エンジン10のデータを取得する計測データ取得手段20と、エンジンモデル31を用いたエンジン状態観測器30と、エンジン状態観測器30で観測した観測パラメータの推定結果が所定の範囲を超えた場合に、エンジンモデル31を構成する数学モデルの同定されたモデルパラメータを更新する判別手段40を備え、エンジン状態観測器30を用いたデジタル空間を利用して、エンジン10に対する監視や制御等といった管理を行う。
デジタルツインは、エンジン10のリアルタイムシミュレーションをすると共に、エンジン10の状態監視、異常診断、及び制御などのタスクのデータの分析及び生成に利用する。なお、高度なAIや機械学習を組み合わせることも可能である。モデルパラメータを同定したエンジン状態観測器30を用いてエンジン10をデジタル空間を利用して管理することで、エンジン10の異常や故障等を防止して安全性を高めたり、より適切な制御を行ったりすること等ができる。
デジタルツインは、エンジン10と一緒にその特性を維持及び更新することにより、長期にわたってその適合性を維持する必要がある。そのため、ノイズが多く散在するエンジン10のビッグデータを用いて、エンジン10のデジタルツインを構築するモデルのパラメータを如何に同定し、特性を維持更新するかが重要となる。
【0048】
エンジンのデジタルツイン管理システムに用いるエンジンのモデルパラメータ同定方法は、図1に示すように、まず、状態の監視、異常の診断、及び制御等の対象とするエンジン10を特定する(S1:エンジン特定ステップ)。本実施形態においては、対象のエンジン10を、船舶に用いられる過給機付きエンジン(主機)とする。
次に、特定したエンジン10を、複数の機能要素に分解する(S2:機能要素分解ステップ)。エンジン10は複雑で非定常な特性を示すため、モデルはそのままでは複雑となりパラメータの同定が困難となる。そこで、パラメータの同定を容易にするために、エンジン10を管理可能な部分、すなわち機能要素に分解(分割)する。
過給機を備えたエンジン10の機能要素は、例えば、タービン、コンプレッサー、エアクーラ、排気ガスレシーバ、掃気レシーバ、シリンダ、プロペラシャフト、燃料ポンプ等である。
【0049】
次に、複数の機能要素のそれぞれを、数学モデルで表現する(S3:数学モデル化ステップ)。数学モデル化ステップS3においては、機能要素分解ステップS2で分解されたすべての機能要素を、関連するデータを用いて数学モデルによって記述する。これにより、図3に示すように、ユニットモデル1、ユニットモデル2、・・ユニットモデルnという複数のユニットモデルが作成される。
エンジン10が過給機を備える場合、数学モデルは、それぞれ複数のユニットモデルから成る給排気系の排気ガスループモデルと、エンジン動力ユニットモデルとする。これにより、過給機を備えるエンジン10のモデルパラメータを精度よく同定することができる。
【0050】
数学モデルによって記述した排気ガスループモデルの例を下式(1)~(10)に示す。式(1)はタービントルクQ[Nm]、式(2)はコンプレッサートルクQ[Nm]、式(3)は排気ガス質量流量G[kg/s]、式(4)はシリンダから排出されるエネルギー量H[W]、式(5)はタービンに流入するエネルギー量H[W]、式(6)はタービン出口温度Teout[K]、式(7)は特性式、式(8)は入力式、式(9)はそれぞれの推定誤差を表す式、式(10)はパラメータセットを表す式である。
また、Cpeは排気ガスの定圧比熱[J/(kg K)]、Tは排気ガス温度[K]、ntcは過給機回転数[rps]、Pは大気圧[Pa]、Pは排気ガス圧力[Pa]、Cpaは大気の定圧比熱[J/(kg K)]、Tは大気温度[K]、Gは空気流量[kg/s]、ηitはタービン効率、ηicはコンプレッサー効率、Pは掃気圧力[Pa]、Rはガス定数[J/(kg K)]、Gは燃料流量[kg/s]、Hは燃料のエネルギー量[W]、Tは掃気温度[K]である。
排気ガスループモデルにおけるユニットモデルは、過給機のタービン/コンプレッサトルクモデル、排気ガス質量流量モデル、排気ガスエネルギー流モデル、及び過給機のタービン出口温度モデルを含むことで、過給機を備えるエンジン10のモデルパラメータを更に精度よく同定することができる。
【数1】
【数2】
【数3】
【数4】
【数5】
【数6】
【数7】
【数8】
【数9】
【数10】
【0051】
また、数学モデルによって記述したエンジン動力ユニットモデルの例を下式(11)~(17)に示す。式(11)は機関出力P(Engine Power)、式(12)は正味平均有効圧(bmep:Brake mean effective pressure) Pbmep、式(13)は図示平均有効圧(imep:Indicate mean effective pressure)imep、式(14)は摩擦平均有効圧(fmep:Friction mean effective pressure) Pfmep又は特性式、式(15)は入力式、式(16)は推定誤差を表す式、式(17)はパラメータセットを表す式である。
また、Zはシリンダ数、Fは燃料ポンプラックの指示値、Vはシリンダ体積、~mcrは最大出力で正規化する意味である。
エンジン動力ユニットモデルにおけるユニットモデルは、機関出力、正味平均有効圧、図示平均有効圧、及び摩擦平均有効圧を含むことで、過給機を備えるエンジン10の動力系のモデルパラメータを精度よく同定することができる。
【数11】
【数12】
【数13】
【数14】
【数15】
【数16】
【数17】
【0052】
次に、数学モデルで必要なモデルパラメータを選出する(S4:パラメータ選出ステップ)。
選出するモデルパラメータは、排気ガスループモデルの場合は式(10)のパラメータセットであり、動力ユニットモデルの場合は式(17)のパラメータセットである。
【0053】
次に、エンジン10を用いて計測取得したモデルパラメータに関連するデータを群(データセット)として取得し、クラスタリングを含む処理をする(S5:データ群取得処理ステップ)。
データ群取得処理ステップS5における、エンジン10からのデータの取得には、計測データ取得手段20を用いる。計測データ取得手段20は、各モデルで必要な入力データを取得するものである。
排気ガスループモデルでモデルパラメータを同定するために入力として使用するデータは式(8)のデータで排気ガスレシーバ内圧力P、排気ガスレシーバ内温度T 、過給機回転数ntc、掃気温度T、掃気圧力P、エンジン空気流量G、及び燃料流量Gを含む。これにより、過給機を備えるエンジン10のモデルパラメータの同定を精度よく行うことができる。
また、エンジン動力ユニットモデルでモデルパラメータを同定するために入力として使用するデータは式(15)のデータでエンジン回転数n、燃料ポンプラックF、及び機関出力Pである。これにより、過給機を備えるエンジン10のモデルパラメータの同定を精度よく行うことができる。
【0054】
ここで図5はモデルパラメータ同定アルゴリズムのアーキテクチャーを示す図、図6はクラスタリング以降のモデルパラメータ同定アルゴリズムを示す図、図7はクラスタリングとサンプリングの例を示す図、図8はクラスタリングの有無によるサンプリングの比較を示す図である。
データ群取得処理ステップS5においては、取得した群としてのデータをプレ処理し、好ましいデータのみを抽出する(S5-1:データプレ処理ステップ)。データ群取得処理ステップS5におけるデータプレ処理ステップS5-1は、図5に示すように、群としてのデータセットのデータをプレ処理するもので、外れ値判定で外れたデータを除外する外れ値61や番号のないデータを除外する無番号データ62を経由して有効なデータのみを標準状態へデータを変換する標準状態へデータを変換する(S5-2:データ変換ステップ)。標準状態とはISOコンディションである。外れ値判定には図5では回転数がマイナス(逆回転)のもの、出力が最大出力の30%以下のもの、修正Zスコアのように平均値から大きく外れたものを外れ値61としている。データをISO標準状態に変換するためには、大気圧Pと大気温度Tが必要で、燃料流量Gを計算するために燃料密度が、燃料エネルギーを計算するために燃料の低位発熱量が必要である。また空気流量Gを計算するためにエンジン仕様と過給機コンプレッサーマップがあれば空気流量Gを正確に推定でき好都合である。このように、データプレ処理ステップS5-1を備えることで、好ましいデータに基づいてエンジン10のモデルパラメータの推定を容易にすることができる。
【0055】
データプレ処理ステップS5-1の後、取得した群としてのデータをクラスタリングする(S5-3:クラスタリングステップ)。
図7(a)及び図8(a)には、縦軸をエンジン出力(M/E SHAFT HORSE POWER, r.u 相対値で最大値を100としている。)、横軸をエンジン回転数(Engine speed, r.u)として、約100000個のすべてのデータをポイントで表したプレ処理されたデータ群を示している。
クラスタリングにおいては、船舶における代表的な運転モードを決定し、取得した広範なデータを代表的な運転モードのいずれかのクラスター(集団)に分類する。図7(b)及び図8(c)には、縦軸をエンジン出力(Engine Power, r.u.)、横軸をエンジン回転数(Engine Speed, r.u.)として、三つのクラスターにクラスタリングした状態を示している。クラスタリングは、重要なデータポイントのみを強調表示するためにも使用される。
【0056】
取得した群としてのデータをクラスタリングするに当たっては、ファジィ・シー・ミーンズ(FuzzyC-means)を用いることが好ましい。
ファジィクラスタリングの手法であるファジィ・シー・ミーンズ法を用いることで、群としてのデータのクラスタリングの精度を向上させることができる。
【0057】
クラスタリングの後、分類した各クラスターからデータを均一(均等)にサンプリングする(S6:サンプルデータ抽出ステップ)。サンプリングにおいては、すべてのクラスターからランダムに同数のポイントが選択される。図7(c)には、縦軸を出力(Power, [r.u])、横軸をエンジン回転数(Engine Speed, [r.u])として、各クラスターからサンプリングした状態を示している。すべての動作範囲をカバーしながら削減されたデータセット(サンプルデータ)は、パラメータ同定アルゴリズムの1回の反復に使用される。サンプルポイントの数は元のデータポイントの1%くらいに削減されるが、パラメータ同定に必要な入力値Uと出力値Yが得られる。
図8(b)には、クラスタリングしていない生データからサンプリングした状態を示している。縦軸は密度(Relative Density)、横軸はエンジン回転数(Engine Speed, %)である。生データではデータが不均一に分布しており、このような不均一な分布は最小二乗法などのパラメータ同定アルゴリズムの適用を制限する。
一方、図8(d)には、データをクラスタリングし、各クラスターからサンプリングした状態を示している。縦軸は密度(Relative Density)、横軸はエンジン回転数(Engine Speed, %)である。クラスタリングとサンプリングによって、パラメータの同定に不可欠なデータが均一化されていること分かる。
デジタルツインパラメータの同定においては、必要なデータの可用性とその品質の維持が重要となる。このため、船舶の主機から収集された広範囲のデータを代表的な運転モードのクラスターに分類し、各クラスターからデータを均一にサンプリングすることで、最小二乗法等を用いた同定が可能となる。
【0058】
次に、抽出したサンプルデータを数学モデルに適用しモデルパラメータを同定する(S7:モデルパラメータ同定ステップ)。
ここで、図9はパラメータ同定手順の概要図、図10はパラメータ同定アルゴリズムの概要図である。
モデルパラメータ同定ステップS7においては、カルマンフィルター理論に基づく確率的再帰最小二乗法を使用して、モデルパラメータを同定すると共に、パラメータのバッチ再帰更新により、一連の分散データをベースにモデルパラメータを忠実に同定する。
モデルパラメータ同定ステップS7においては、サンプルデータをパラメータ同定アルゴリズムに適用するアルゴリズム適用ステップS7-1と、サンプルデータ抽出ステップS6とアルゴリズム適用ステップS7-1を繰り返す繰返ステップS7-3を有する。これにより、モデルパラメータの同定を精度よく行うことができる。
図10において、H(Un,θn)はユニットモデルの数学的表現である。図10中の丸数字1ではパラメータセットの更新を行い、丸数字2ではパラメータ分散の更新を行い、丸数字3ではΣポイントへの変換を行い、丸数字4では分散の荷重係数を適用し、丸数字5ではユニットモデルの出力の平均、分散、誤差を求め、丸数字6では出力とパラメータの共分散を求める。
【0059】
モデルパラメータを同定する際には、収束条件閾値を設定し、収束判定ステップS7-2において、誤差が収束条件閾値を下回るか、パラメータの更新が収束条件閾値を下回った場合は、収束した(YES)と判断して計算をストップする。一方、収束判定ステップS7-2において収束していない(NO)と判断した場合は、繰返ステップS7-3となる。
このように、モデルパラメータ同定ステップS7におけるモデルパラメータの同定に当たり、繰返ステップS7-3を設け、モデルパラメータが所定の範囲に収束するまで、サンプルデータ抽出ステップS6とアルゴリズム適用ステップS7-1を繰り返すことで、モデルパラメータの同定を的確に行うことができる。
【0060】
次に、モデルパラメータ同定ステップS7で同定されたモデルパラメータを複数の数学モデルに適用し、同定されたモデルパラメータを有した複数の数学モデルを統合してエンジン10のエンジンモデル31を構築する(S8:エンジンモデル構築ステップ)。
エンジン10のエンジンモデル31を構築すること、すなわちエンジン10のデジタルツインを構築することで、エンジン10の状態監視や異常診断、制御等をより適切に行うことが可能となる。
【0061】
エンジン状態観測器30は、エンジンモデル構築ステップS8で構築したエンジンモデル31を用いてエンジン10を観測する。
図2に示すように、エンジン状態観測器30の観測結果は、船舶を管理する管理部門に提供される。管理部門は、船舶のブリッジ51、機関室52や、陸上に所在する本社53等である。管理部門に観測結果を提供することで、デジタル空間を利用してエンジン10が的確に管理でき、就航船の運航の安全性や効率を高めることができる。
また、エンジン状態観測器30を用いたデジタル空間を利用してエンジン10を管理するにあたっては、エンジンモデル31の構築の際に計測データ取得手段20で得られる群としてのデータを利用することが好ましい。計測データ取得手段20により取得するデータを、エンジン10の状態観測とエンジンモデル31の同定の両方に利用することで、システムの構成を簡素化することができる。
また、エンジン状態観測器30で観測した観測パラメータの推定結果が所定の範囲を超えた場合に、判別手段40が、エンジンモデル31を構成する数学モデルの同定されたモデルパラメータを更新することで、デジタルツインの適合性を長期にわたって維持することができる。
また、エンジン10と計測データ取得手段20を用いて、任意の期間を空けてエンジンモデル31を再構築することが好ましい。これにより経時的なエンジン10の劣化や変化に応じてエンジンモデル31を再構築するため、エンジン状態観測器30によるモニタリング精度を維持することができる。
【0062】
このように、本発明のエンジンのモデルパラメータ同定方法によれば、複雑で非定常な特性を示すエンジン10のモデルパラメータを容易に同定でき、エンジン10のモデルパラメータをより高精度に把握することができる。
なお、エンジン10のモデルパラメータ同定方法は、その一部をエンジンのモデルパラメータ同定プログラムとしても実行可能である。コンピュータに、データ群取得処理ステップS5、サンプルデータ抽出ステップS6、及びモデルパラメータ同定ステップS7を実行させることで、エンジンのモデルパラメータ同定方法を、より正確かつ迅速に実行することができる。
また、コンピュータに、データプレ処理ステップS5-1をさらに実行させることで、エンジン10のモデルパラメータの推定を容易にすることができる。
また、アルゴリズム適用ステップS7-1と、繰返ステップS7-3をさらに実行させることで、モデルパラメータの同定を精度よく行うことができる。
また、コンピュータに、エンジンモデル構築ステップS8をさらに実行させて、エンジンモデル31を構築することで、エンジン10の状態監視や異常診断、制御等をより迅速かつ適切に行うことが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明は、船舶の主機の他、発電プラントにおけるエンジンなどに適用することができる。
【符号の説明】
【0064】
10 エンジン
20 計測データ取得手段
30 エンジン状態観測器
31 エンジンモデル
51 ブリッジ
S1 エンジン特定ステップ
S2 機能要素分解ステップ
S3 数学モデル化ステップ
S4 パラメータ選出ステップ
S5 データ群取得処理ステップ
S5-1 データプレ処理ステップ
S5-3 クラスタリングステップ
S6 サンプルデータ抽出ステップ
S7 モデルパラメータ同定ステップ
S7-1 アルゴリズム適用ステップ
S7-3 繰返ステップ
S8 エンジンモデル構築ステップ
図1
図2
図3
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図5
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