(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023043941
(43)【公開日】2023-03-30
(54)【発明の名称】ウイルスの飛散防止に優れたマスク
(51)【国際特許分類】
A41D 13/11 20060101AFI20230323BHJP
B01D 39/16 20060101ALI20230323BHJP
A62B 18/02 20060101ALI20230323BHJP
B32B 5/26 20060101ALI20230323BHJP
【FI】
A41D13/11 Z
B01D39/16 A
B01D39/16 E
A62B18/02 C
B32B5/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021151697
(22)【出願日】2021-09-17
(71)【出願人】
【識別番号】521410810
【氏名又は名称】何乃繊維株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085257
【弁理士】
【氏名又は名称】小山 有
(72)【発明者】
【氏名】高橋光弘
(72)【発明者】
【氏名】谷岡明彦
(72)【発明者】
【氏名】花田恒雄
【テーマコード(参考)】
2E185
4D019
4F100
【Fターム(参考)】
2E185AA07
2E185BA18
2E185CC32
4D019AA01
4D019BA13
4D019BB03
4D019BC20
4D019CB06
4D019DA02
4D019DA03
4F100BA03
4F100BA06
4F100BA10A
4F100BA10C
4F100DG06B
4F100DG11A
4F100DG11C
4F100GB66
4F100JC00
(57)【要約】
【課題】 ウイルスの飛散防止に効果的で多数回洗濯できる耐久性に優れたマスクを提供する。
【解決手段】
マスクは直径400nm以下の繊維を基材に吹き付けたシートを裁断して得られ、マスクの厚みは0.5~5mm、厚み方向の繊維専有面積割合が高くすることで圧力損失が非常に高く、面方向の繊維専有面積割合を低くすることで圧力損失が低い息がしやすいマスクとなる。このような繊維専有面積割合とすることで、面方向にスリップフロー効果が発揮されることで粒子と繊維との接触機会が増大し、粒子の捕集効果が高く息がしやすくなる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有害物質を含まない溶融ポリマーを延伸して繊維径が400nm以下の繊維とし、これを基材シートに吹き付け、基材シート間にナノファイバー層を挟んだ積層シートを裁断して得られるマスクであって、このマスクは面方向の繊維専有面積を厚み方向の繊維専有面積よりも小さくすることで、呼気は裏面側基材シートの中央部から基材シート間のナノファイバー層を挟んだ空間に入り、空間内を面方向に沿って流れて表面側基材シートの全面から排出される構造としたことを特徴とするマスク。
【請求項2】
請求項1に記載のマスクにおいて、前記厚み方向の繊維専有面積割合を高くすることで圧力損失を非常に高くしエアーが流れ難くして、面方向の繊維専有面積を下げることでナノファイバー特有のスリップフリー現象を利用することでエアーを面方向に流れやすくすることで捕集効率が高く、圧力損失(息)が楽なことを特徴とするマスク。
【請求項3】
請求項1に記載のマスクにおいて、洗濯用洗剤を使用した100回洗濯後の50nm粒子の捕集効率が99%以上であることを特徴とするマスク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ファンデルワールス力を活用し、ウイルスの捕集固着機能を有することでウイルスの飛散防止に優れたマスクに関する。
【背景技術】
【0002】
感染症の細菌やウイルスの蔓延を防止・軽減するため、マスクの着用が半ば義務付けられている。
ところが、市販されているマスクは一部が布マスクやウレタンマスクであるが、静電気をかけることができずに捕集効率が15%以下であり、ウイルスを除去できない。また、不織布マスクは静電気をかけて捕集効率を高めているが、数時間の使用や洗濯をすることで静電気が放電することで捕集効率が低下してしまい使い捨てである。そのため、現在世界中で廃棄されるマスクは毎月1290億枚と言われ、環境破壊が心配される。
【0003】
特許文献1には、ポリプロピレンなどの溶融ポリマーを吐出する噴出ノズルと、高速高温エアーを吹き出すエアーノズルとからなり、エアーノズルから吹き出した高速高温エアーで吐出した溶融ポリマーを延伸し、繊維径をナノファイバー化するナノファイバー発生手段が開示されている。
このナノファイバーをシートに吹き付けたナノファーバーシートの用途としてナノマスクが挙げられている。
【0004】
特許文献2には、抗菌機能や抗ウイルス効果を備えたナノファイバーを用いたマスクについて記載されている。具体的には繊維径が400nm以下になると分子間力(ファンデルワールス力)が強くなり、これによって菌やウイルスが繊維に固着されることが開示されている。
【0005】
特許文献3及び特許文献4には、100nm~1μmの極細のセルロースナノファイバーを用いることで、エアフィルタ用濾材中の単位体積あたりの繊維の本数が著しく増加し、気体中の粒子を捕捉しやすくなり、高い捕集性能を得ることが可能となる。また、スリップフロー効果によって、単繊維の通気抵抗が極めて低くなることが開示されている。
【0006】
特許文献3及び特許文献4に開示されたエアフィルタ用濾材の製造方法は、セルロースナノファイバーを水と有機溶媒からなる分散媒に混合し、この混合液を通気性を有する支持体に付着させ、次いで凍結乾燥させるというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2016-156114号公報
【特許文献2】WO2015/145880
【特許文献3】特開2017-177091号公報
【特許文献4】WO2017/022052
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1、2には、ナノファイバーをシートに吹き付けたナノファーバーシートの用途としてマスクが挙げられているが、マスクの材料としてナノファーバーを用いただけでは息苦しくなり使用しづらいことを示している。
【0009】
特許文献3、4に開示される方法で作成されたエアフィルタ用濾材は、製造過程においてセルロースナノファイバーを有機溶媒を含む分散媒に混合している。このため、マスクに使用した場合には健康を害するおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解消するため、本発明に係るマスクは、有害物質を含まない溶融ポリマーを延伸して繊維径が400nm以下の繊維とし、これを基材に吹き付けることで成形したシートを材料としたマスクである。
【0011】
このマスクの特徴は、厚み方向の繊維専有面積割合が大きく面方向の繊維専有面積割合が小さく、面方向に沿って空気が流れる構造とした。
これによって、厚み方向の繊維専有面積割合が高いことで圧力損失が高く、面方向の繊維専有面積が低いことで圧力損失が非常に低くなる。また、面方向に沿って空気が流れることで繊維との衝突確率が上がることで、これまでのマスクとは違って捕集効率が高く圧力損失が低い高性能マスクとなる。
【発明の効果】
【0012】
従来の市販のマスクは厚みが0.1mm程度と薄く、空気(息)がマスクの厚み方向しか通らないのに対し、本発明に係るマスクは、N95マスクに比べ460倍の繊維量でありながら、ナノファイバーの特徴であるスリップフロー現象により空気(息)がマスクの面方向(水平方向)に沿って流れるため息苦しさがない。
【0013】
空気(息)の流れがマスクの面方向になるため、菌やウイルスなどの微細粒子と繊維との接触機会が増大し、捕集効果が高くなる。
【0014】
また、本発明に係るマスクは、粒子を静電力で吸着するのではなく分子間力(ファンデルワールス力)によって固着するのが主となるため、洗濯によって機能が低下することがなく、100回以上の洗濯に耐えることができる。このため、無駄な資源の廃棄及び環境破壊を抑制することができる。
【0015】
有害な有機溶媒を用いて紡糸していないため、製品としてのマスクに有機溶媒が残ることがない。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図3】(a)は本発明に係るマスクのSEM写真(1000倍)、(b)は従来のN95マスクのSEM写真(1000倍)
【
図4】マスクの洗濯後の粒子除去率の実験結果を示すグラフ
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に本発明の実施例を説明する。
図1及び
図2に示すように、本発明に係るマスクはノズルから噴出した溶融ポリマーをエアーノズルからの高温高速エアーによって延伸して直径400nm以下のナノファイバーとし、このナノファイバーを基材シートに吹き付けて積層し、この上に別の基材シートを重ね、これを裁断することで得られる。
【0018】
具体的には、表側基材シート1と裏側基材シート2と、これら表側基材シート1と裏側基材シート2との間に保持されるナノファイバー層3から構成され、厚みが0.5mm~5mmのマスクである。
【0019】
本発明に係るマスクは従来のマスクに比較して厚みが大きく、表側基材シート1と裏側基材シート2との間のナノファイバー層3が挟まれる空間をマスクの面方向に沿った空気の流通空間としている。
【0020】
前記ナノファイバー層3の厚み方向から見た繊維専有面積割合は非常に高いことで圧力損失が高く、面方向から見た繊維専有面積割合は低いことで圧力損失が低いものになっている。
【0021】
ここで、厚み方向から見た繊維専有面積割合は、厚み方向と直交する面でナノファイバー層3を切断した場合の当該面を厚み方向から見た状態での繊維専有面積割合を指し、面方向から見た繊維専有面積割合は、厚み方向と平行な面でナノファイバー層3を切断した場合の当該面を厚み方向と直交する方向から見た状態での繊維専有面積割合を指す。
【0022】
ナノファイバー層3は、厚み方向から見た繊維専有面積の方が面方向から見た繊維専有面積より大きくなっているため、呼気の際にはマスクの裏面中央部分に吐き出された空気は、裏側基材シート2の中央部分からナノファイバー層3が挟まれる空間に入り、スリップフロー効果によってマスクの面方向に沿って流れ、表側基材シート1の全面から外部に排出される。このため圧力損失が小さくなり呼吸が楽になる。
【0023】
ナノファイバーを使用することで、スリップフロー効果によって面方向の圧力損失を下げることで楽な呼吸を確保することを可能としている。
【0024】
このように、呼気はナノファイバーと接触する機会が多く、またナノファイバーは400nmと細いため、ファンデルワールス力(分子間力)によって呼気中に含まれるウイルスなどの微細粒子はファンデルワールス力でナノファイバー表面に捕捉される。給気吸気の場合も同様に空気が流れ、空気中のPM2.5などの微粒子はナノファイバー表面に捕捉される。
【0025】
図3(a)はは本発明に係るマスクのナノファイバー層3のSEM写真(1000倍)、(b)は従来の市販マスクのSEM写真(1000倍)であり、このSEM写真から本発明に係るマスクはナノファイバーが密に積層しており、空気がマスクと直交する方向(厚み方向)には通過しにくいことが分かる。
【0026】
図4は本発明に係るマスクの洗濯後の粒子除去率の実験結果を示すグラフである。図中(1)は5回洗濯を行った後の粒子除去率、(2)は無処理の粒子除去率を示す。
【0027】
図4から本発明に係るマスクは無処理の場合でも、0.3~0.5μmの粒子の除去率が94%であり、洗濯処理した場合には、更に除去率が大きくなることが分かる。
【0028】
図5は本発明に係るマスクを洗濯した場合の試験結果を示す表であり、検査粒子は50nmとした。因みにウイルスの大きさは25nm~100nmである。
この表から分かるように、本発明に係るマスクは100回洗濯しても、粒子捕集率の変化は殆どなく、最低でも99.0%の捕集効果を維持した。
【符号の説明】
【0029】
1…表側基材シート、2…裏側基材シート、3…ナノファイバー層。