(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023043944
(43)【公開日】2023-03-30
(54)【発明の名称】腫瘍治療用医薬組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 45/06 20060101AFI20230323BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230323BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230323BHJP
A61K 31/445 20060101ALI20230323BHJP
A61K 31/4706 20060101ALI20230323BHJP
A61K 31/365 20060101ALI20230323BHJP
A61K 31/7048 20060101ALI20230323BHJP
A61K 31/506 20060101ALI20230323BHJP
A61K 31/4709 20060101ALI20230323BHJP
A61K 31/198 20060101ALI20230323BHJP
【FI】
A61K45/06
A61P35/00
A61P43/00 111
A61P43/00 121
A61K31/445
A61K31/4706
A61K31/365
A61K31/7048
A61K31/506
A61K31/4709
A61K31/198
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021151703
(22)【出願日】2021-09-17
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.プルロニック
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、「次世代がん医療創生研究事業」「代謝シグナルによる未分化性制御機構を標的とした新規がん治療法の開発」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平尾 敦
(72)【発明者】
【氏名】ジン ヨンウェイ
(72)【発明者】
【氏名】小林 昌彦
(72)【発明者】
【氏名】中田 光俊
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4C084AA18
4C084AA21
4C084MA02
4C084NA05
4C084NA13
4C084ZB261
4C084ZB262
4C084ZC412
4C084ZC75
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA17
4C086BC21
4C086BC28
4C086BC42
4C086EA15
4C086GA07
4C086MA02
4C086MA03
4C086MA04
4C086NA05
4C086NA13
4C086ZB26
4C086ZC41
4C086ZC75
4C206AA01
4C206AA02
4C206FA53
4C206MA02
4C206MA03
4C206MA04
4C206NA05
4C206NA13
4C206ZB26
4C206ZC41
4C206ZC75
(57)【要約】
【課題】腫瘍を治療するための新規の医薬組成物を提供する。
【解決手段】対象の腫瘍を治療及び/又は予防するために、リソソーム膜透過性亢進剤を、下記a)及び/又はb)と組み合わせて使用する。a)オートファジー阻害剤の投与;b)リジンの摂取制限若しくはリジン拮抗剤の投与。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リソソーム膜透過性亢進剤を含み、下記a)及び/又はb)と組み合わせて対象の腫瘍を治療及び/又は予防するために使用される、医薬組成物:
a)オートファジー阻害剤の投与;
b)リジンの摂取制限若しくはリジン拮抗剤の投与。
【請求項2】
前記リソソーム膜透過性亢進剤が、イフェンプロジル又はその塩若しくは誘導体である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記腫瘍が脳腫瘍である、請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記オートファジー阻害剤が、クロロキン、ヒドロキシクロロキン、バフィロマイシンA1、コンカナマイシンA、サリシリハラミド、MRT68921、Lys05からなる群より選択される少なくとも1つの薬剤である、請求項1~3のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記リジン拮抗剤が、ホモアルギニン又はその塩若しくは誘導体である、請求項1~4のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
オートファジー阻害剤及びリジン拮抗剤からなる群から選択される少なくとも1つの薬剤を含み、リソソーム膜透過性亢進剤の投与と組み合わせて対象の腫瘍を治療及び/又は予防するために使用される、医薬組成物。
【請求項7】
リソソーム膜透過性亢進剤と、
オートファジー阻害剤及びリジン拮抗剤からなる群から選択される少なくとも1つの薬剤と、を含む医薬組成物。
【請求項8】
対象の腫瘍を治療及び/又は予防するために使用される、請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項9】
イフェンプロジルを含む、対象の腫瘍を治療及び/又は予防するために使用される、医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腫瘍を治療及び/又は予防するために使用される医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
悪性腫瘍の化学療法に使用する薬剤として、抗腫瘍薬が多数開発されてきた。抗腫瘍薬は、その作用機序によって、DNA合成阻害薬、DNA複製阻害薬、微小管阻害薬、ホルモン類似薬、生物製剤(サイトカイン)、分子標的薬等に分類され、使用する薬剤及びその投与手法は、腫瘍の発生部位、性質、標的とする分子等、多数の要因を考慮して選択される。腫瘍の発生部位によっては、全身投与では、重大な副作用を生じることなく、治療に有効な濃度の薬剤を腫瘍に到達させることが困難な場合がある。特に脳腫瘍等の中枢神経系の腫瘍については、血液脳関門(Blood Brain Barrier)の影響で、全身投与した薬剤を確実に腫瘍に到達させることが困難となりやすい。血液脳関門の影響を回避するために、多様なドラッグデリバリーシステムが開発されてきた(例えば、非特許文献1)。
【0003】
オートファジーは、すべての真核生物に備わっている細胞内の浄化、再利用システムであり、栄養が枯渇した状態では過剰なタンパク質を分解して、生存に必要なタンパク質を生成する。一方、細胞内の変性タンパク質、不要な細胞小器官等を分解し、疾患を予防する。非特許文献2には、オートファジー阻害薬が、抗腫瘍薬への感受性を高めたことが報告されている。
【0004】
腫瘍治療の標的として、リソソーム膜が注目されている。抗腫瘍剤の多くは、腫瘍細胞のアポトーシスを誘導する機序を有するが、一部の腫瘍細胞はアポトーシス抵抗性を有することが知られる。腫瘍細胞では、通常の細胞よりもリソソームの機能が高く、リソソーム膜の透過性亢進によりリソソーム性細胞死が生じやすい、という特徴を有する。非特許文献3~6では、リソソーム膜の透過性を亢進する薬剤で抗腫瘍効果が確認されたことが報告されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】亀井敬泰、武田真莉子、Drug Delivery System, 28-4, pp. 287-299 (2013)
【非特許文献2】J. M. Mulcahy Levy, et al., Nat. Rev. Cancer, 17(9), pp. 528-542 (2017)
【非特許文献3】R. F. Dielschneider, et al., Oxid. Med. Cell. Longev,. Vol. 2017, Article ID 3749157 (2017)
【非特許文献4】M. Hu, et al., Frontiers in Oncology, Vol. 10, Article 605361 (2020)
【非特許文献5】K. Min and T. Kwon, Cancers, 12, 3388 (2020)
【非特許文献6】P. Boya and G. Kroemer, Oncogene, Vol. 27, pp. 6434-6451 (2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、腫瘍を治療するための新規の医薬組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は以下を提供するものである。
(1)リソソーム膜透過性亢進剤を含み、下記a)及び/又はb)と組み合わせて対象の腫瘍を治療及び/又は予防するために使用される、医薬組成物:
a)オートファジー阻害剤の投与;
b)リジンの摂取制限若しくはリジン拮抗剤の投与。
(2)前記リソソーム膜透過性亢進剤が、イフェンプロジル又はその塩若しくは誘導体である、(1)に記載の医薬組成物。
(3)前記腫瘍が脳腫瘍である、(1)又は(2)に記載の医薬組成物。
(4)前記オートファジー阻害剤が、クロロキン、ヒドロキシクロロキン、バフィロマイシンA1、コンカナマイシンA、サリシリハラミド、MRT68921、Lys05からなる群より選択される少なくとも1つの薬剤である、(1)~(3)のいずれかに記載の医薬組成物。
(5)前記リジン拮抗剤が、ホモアルギニン又はその塩若しくは誘導体である、(1)~(4)のいずれかに記載の医薬組成物。
(6)オートファジー阻害剤及びリジン拮抗剤からなる群から選択される少なくとも1つの薬剤を含み、リソソーム膜透過性亢進剤の投与と組み合わせて対象の腫瘍を治療及び/又は予防するために使用される、医薬組成物。
(7)リソソーム膜透過性亢進剤と、オートファジー阻害剤及びリジン拮抗剤からなる群から選択される少なくとも1つの薬剤と、を含む医薬組成物。
(8)対象の腫瘍を治療及び/又は予防するために使用される、(7)に記載の医薬組成物。
(9)イフェンプロジルを含む、対象の腫瘍を治療及び/又は予防するために使用される、医薬組成物。
(10)リソソーム膜透過性亢進剤を投与する工程と、下記のa)及び/又はb)の工程とを組み合わせて、対象の腫瘍を治療及び/又は予防する方法;
a)オートファジー阻害剤を投与する工程;
b)リジンの摂取を制限する工程若しくはリジン拮抗剤を投与する工程。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、腫瘍を治療するための新規の医薬組成物を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】クロロキンの存在、不存在下でL-ロイシル-L-ロイシンメチルエステル(LLoMe)濃度が膠芽腫細胞のスフィア形成に与える影響を示すグラフである。スフィア形成数は、同条件のLLoMe非添加時のスフィア形成数を1.0とする相対値として算出した。試験はn=3で実施した。図中「**」及び「***」は、それぞれtwo-way ANOVA検定でp<0.0021及びp<0.0002であったことを示す。
【
図2】イフェンプロジル濃度と膠芽腫細胞のリソソーム膜破壊との関係を示すグラフである。ガレクチン3パンクタは、細胞内小器官の膜構造の破壊度合いを示す指標である。
【
図3】膠芽腫細胞をDMSO、LLoMeで前処理した後、LLoMe及びイフェンプロジルで処理した際の、カルシウムリリースの経時変化を示すグラフである。Fluo4は、カルシウム指示薬である。縦軸は、処理開始時の蛍光強度をF
0として、変化値ΔFをF
0で除した値ΔF/F
0を示す。
【
図4】イフェンプロジル濃度と膠芽腫細胞のスフィア形成との関係を示す棒グラフである。
【
図5】DMSO、5μMイフェンプロジル入り培地にて6時間培養した後、ミトコンドリア活性酸素を蛍光染色した膠芽腫細胞のフローサイトメトリーのチャートを示す。
【
図6】DMSO、5μMイフェンプロジル入り培地にて6時間培養した後、蛍光標識したアネキシンVを細胞表面に反応させた膠芽腫細胞のフローサイトメトリーのチャートを示す。
【
図7】膠芽腫細胞のイフェンプロジル存在下でのスフィア形成に、カルシウムキレート剤(BAPTA-AM)又は抗酸化剤(N-アセチルシステイン(NAC))が与える影響を示すグラフである。
図7Aは、イフェンプロジルとBAPTA-AMを添加したスフィア形成アッセイの結果示す。
図7Bは、イフェンプロジルとNACを添加したスフィア形成アッセイの結果を示す。
【
図8】膠芽腫細胞のイフェンプロジル存在下でのスフィア形成に、オートファジー阻害剤が与える影響を示すグラフである。
図8Aは、イフェンプロジルとバフィロマイシンを添加した膠芽腫細胞のスフィア形成アッセイの結果を示す。
図8Bは、イフェンプロジルとクロロキンを添加した膠芽腫細胞のスフィア形成アッセイの結果を示す。
図8Cは、イフェンプロジルとMRT68921を添加した膠芽腫細胞のスフィア形成アッセイの結果を示す。
図8Dは、イフェンプロジルとクロロキンを添加した正常細胞のスフィア形成アッセイの結果を示す。
図8A、Bは500細胞あたりのスフィア形成数を、
図8Cは、同条件のイフェンプロジル非添加時のスフィア形成数を1.0とした相対スフィア数を、
図8Dは、1000細胞あたりのスフィア形成数を示す。
【
図9】バフィロマイシン添加培地及び各1アミノ酸除去培地で培養した膠芽腫細胞のリソソーム活性を比較する棒グラフである。リソソーム活性は、各種条件で培養した膠芽腫細胞をさらにDQ-BSA添加培地中で培養して細胞中に取り込ませ、フローサイトメトリーで細胞に取り込まれたDQ-BSAの平均蛍光強度を測定することで決定した。縦軸は、蛍光強度を示す。試験はn=3で実施した。図中「**」及び「***」は、それぞれtwo-way ANOVA検定でp<0.0021及びp<0.0002であったことを示す。
【
図10】リジン除去培地で培養した場合の、イフェンプロジル濃度と膠芽腫細胞のリソソーム膜破壊との関係を示すグラフである。
【
図11】リジン除去培地及びNSPC培地で培養した膠芽腫細胞をイフェンプロジルで処理した際の、カルシウムリリースの経時変化を示すグラフである。Fluo4は、カルシウム指示薬である。縦軸は、処理開始時の蛍光強度をF
0として、変化値ΔFをF
0で除した値ΔF/F
0を示す。
【
図12】各濃度のイフェンプロジルを含むリジン含有率100%、20%、10%の培地で培養した膠芽腫細胞のスフィア形成アッセイの結果を示すグラフである。試験はn=3で実施した。図中「**」及び「****」は、それぞれtwo-way ANOVA検定でp<0.0021及びp<0.0002であったことを示す。
【
図13】コントロール(DMSO)を腹腔注射したマウス、イフェンプロジルを腹腔注射したマウス、リジン除去食を与えたマウス及びイフェンプロジルを腹腔注射してリジン除去食を与えたマウスの生存曲線である。各群のマウスの数をそれぞれn=5として、その後の生存率を調べた。
【
図14】ATG5のノックアウト(KO)細胞と野生型(WT)細胞とを、それぞれ各濃度のイフェンプロジル存在下で培養した、スフィア形成アッセイの結果を示すグラフである。図中「****」は、two-way ANOVA検定でp<0.0002であったことを示す。
【
図15】ホモアルギニン添加培地及びコントロール培地で培養した膠芽腫細胞のリソソーム活性を比較する散布図である。リソソーム活性は、各種条件で培養した膠芽腫細胞をさらにDQ-BSA添加培地中で培養して細胞中に取り込ませ、フローサイトメトリーで細胞に取り込まれたDQ-BSAの平均蛍光強度を測定することで決定した。縦軸は、蛍光強度を示す。測定した細胞数は、それぞれn=30であった。図中「****」は、対応のないt検定でp<0.0001であったことを示す。
【
図16】ホモアルギニン添加培地で培養した場合の、イフェンプロジル濃度と膠芽腫細胞のリソソーム膜破壊との関係を示すグラフである。
【
図17】各濃度のイフェンプロジルを含むホモアルギニン含有/非含有培地で培養した膠芽腫細胞のスフィア形成アッセイの結果を示すグラフである。縦軸は、同条件のイフェンプロジル非添加時のスフィア形成数を1.0とした相対スフィア数を示す。試験はn=3で実施した。図中「**」は、two-way ANOVA検定でp<0.0021であったことを示す。
【
図18】コントロール(DMSO)、イフェンプロジル、ホモアルギニン、イフェンプロジルとホモアルギニンをそれぞれ腹腔注射したマウスの生存曲線である。各群のマウスの数をそれぞれn=5として、その後の生存率を調べた。
【発明を実施するための形態】
【0010】
1.医薬組成物
1-1 リソソーム透過性亢進剤を含む医薬組成物(第1の実施形態)
本発明の医薬組成物の第1の実施形態は、リソソーム膜透過性亢進剤を含み、下記a)及び/又はb)と組み合わせて対象の腫瘍を治療及び/又は予防するために使用される、医薬組成物である。
a)オートファジー阻害剤の投与;
b)リジンの摂取制限若しくはリジン拮抗剤の投与。
【0011】
本明細書において「誘導体」とは、ある化合物の所望の活性をより高くするため、副作用(例えば、細胞毒性等)を低減するため、水溶性を高めるため、あるいは安定性を高めるために、その所望の活性が失われない程度に当該化合物の構造に修飾を加えたものをいう。適用可能な修飾は、特に限定されないが、例えば、PEG修飾、アミノ酸修飾、ペプチド修飾、ビオチン修飾、メチル化等が挙げられる。
【0012】
本明細書において「塩」とは、例えば、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩等の無機塩基との塩、有機塩基との塩等の塩基性塩があり、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、アンモニウム、又はジエタノールアミン、エチレンジアミン等との塩が挙げられる。あるいは、本明細書において「塩」とは、酸性塩等があり、例えば、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸等の鉱酸の塩のような無機酸との塩;メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、酢酸、プロピオン酸、酒石酸、フマル酸、マレイン酸、リンゴ酸、シュウ酸、コハク酸、クエン酸、安息香酸、マンデル酸、ケイ皮酸、乳酸、グリコール酸、グルクロン酸、アスコルビン酸、ニコチン酸、サリチル酸、グルコン酸、パルミチン酸等の有機酸との塩;又はアスパラギン酸、グルタミン酸などの酸性アミノ酸との塩なども挙げられる。
【0013】
本明細書において、「対象」とは、腫瘍の治療及び/予防を行うための個体であり、具体的にはヒト又は動物(例えば、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、サル、フェレット等の哺乳動物、ニワトリ等の鳥類)であり、好ましくはヒトである。
【0014】
本明細書において、「腫瘍」とは、細胞が生体の制御に関わらず、過剰に増殖する病変をいずれも包含するが、特に悪性腫瘍を指すものとする。癌、悪性新生物と称される病変もこれに包含されるものとする。本明細書において、治療及び/又は予防の対象たる腫瘍は、その発生部位及び性質は特に限定されず、急性骨髄性白血病(AML)、慢性骨髄性白血病(CML)、急性リンパ芽球性白血病(ALL)および慢性リンパ球性白血病(CLL)などの白血病、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫および多発性骨髄腫などのリンパ腫、ならびに、肉腫、皮膚がん、黒色腫、膀胱癌、脳癌、乳癌、子宮体癌、卵巣癌、前立腺癌、肺癌、結腸直腸癌、子宮頸癌、肝臓癌、頭頸部癌、食道癌、膵臓癌、腎癌、副腎癌、胃癌、精巣癌、胆嚢癌および胆道癌、甲状腺癌、胸腺癌、骨腫瘍および脳腫瘍(神経膠腫、星状細胞腫、神経膠芽腫)等をいずれも包含する。前記腫瘍は、好ましくは脳腫瘍であり、より好ましくは神経膠芽腫である。
【0015】
本明細書において、「リソソーム膜透過性亢進剤」とは、腫瘍細胞等の異常細胞において細胞内小器官であるリソソームの膜の透過性を亢進させる、又は膜を破壊する機能を有する薬剤を指す。細胞内でリソソーム膜の透過性が亢進されると、リソソーム膜内から内容物が放出され、細胞内カルシウム濃度が増加する。これによりミトコンドリア活性酸素(ROS)が亢進し、細胞傷害及び細胞死を生じさせる。腫瘍細胞等の異常細胞においては、通常の細胞よりもストレス条件に晒されるため、リソソーム機能が亢進しており、またその機能への依存性が高い。そのため、リソソーム膜の透過性を亢進することにより、通常の細胞よりも細胞死を生じやすい、という特徴を有する。すなわち、リソソーム膜透過性亢進剤は、異常細胞において特異的にリソソーム膜を破壊することで、異常細胞の細胞死を生じさせる薬剤である。
【0016】
リソソーム膜透過性亢進剤としては、例えば、疎水性又はカチオン性の弱塩基性両親媒性薬剤が挙げられる。これらの薬剤は、リソソーム膜通過時にプロトン化されてリソソーム内に取り込まれ、リソソーム膜を傷害する、という特徴を有する。リソソーム膜透過性亢進剤としては、特に限定されないが、例えば、L-ロイシル-L-ロイシンメチルエステル(LLoMe)、Ifenprodil(イフェンプロジル)、Promethazine(プロメタジン)、Azathioprine(アザチオプリン)、Famotidine(ファモチジン)、Idarubicine(イダルビシン)、Nystatin(ナイスタチン)、Mestranol(メストラノール)、Rifabutin(リファブチン)、Terconazole(テルコナゾール)、Mitoxantrone(ミトキサントロン)、Oxiconazole(オキシコナゼオール)、Naftifine(ナフチフィン)並びにこれらの塩及び誘導体等が挙げられる。本発明のリソソーム膜透過性亢進剤は、血液脳関門を通過可能な薬剤であることが好ましい。特にイフェンプロジル又はその塩若しくは誘導体(以下、単に「イフェンプロジル」とも称する)とすることが好ましい。
【0017】
イフェンプロジルは、下記(I)式で表される化合物であるが、通常は、下記(II)式で表される酒石酸塩の形態で、脳梗塞後遺症、脳出血後遺症に伴うめまいを改善するための経口医薬品に含まれて流通している。イフェンプロジルは、その薬効としては、脳血管拡張作用、脳血流増加作用、グルコース脳内取り込み促進、乳酸生成の抑制、血小板凝集抑制作用、赤血球変形能の改善作用等が知られる。
【化1】
【化2】
【0018】
イフェンプロジルは、経口投与することで脳内において薬効を奏することが報告される薬剤であり、すなわち、血液脳関門を通過可能であることが明らかである。一方、イフェンプロジルがリソソーム膜の透過性を亢進させる作用を有することは、これまで報告されていない。また、抗腫瘍薬として使用可能な薬剤として知られる薬剤でもない。本発明者らは、イフェンプロジルが、腫瘍細胞においてリソソーム膜透過性亢進剤としての作用を有することを見出し、これにより、抗腫瘍効果を有することを見出した。
【0019】
後述の実施例において詳細に説明するが、イフェンプロジル存在下で腫瘍細胞を培養することにより、イフェンプロジルが腫瘍細胞のスフィア形成を減少させることが確認されたが(
図4)、スフィア形成の減少が、カルシウムキレート剤、抗酸化剤の存在下で抑制されることが確認された(
図7)。すなわち、イフェンプロジルの効果が、カルシウムイオン並びに活性酸素に依存することが確認された。また、イフェンプロジル存在下で腫瘍細胞を培養することで、細胞内小器官膜傷害の指標であるガレクチン3が陽性の細胞、ミトコンドリアROSが陽性の細胞、及び細胞死の指標であるアネキシンVに反応する細胞が増加することが確認された(
図5及び6)。
【0020】
さらに、LLoMeでの処理を行った腫瘍細胞及び未処理の腫瘍細胞について、イフェンプロジルを添加することで、前者ではカルシウムリリースがほとんど見られなかったのに対して、後者でLLoMeと同等のカルシウムリリースが見られることが確認された(
図3)。すなわち、リソソーム膜の透過性を亢進する効果において、イフェンプロジルはLLoMeを代替し得ることが示された。したがって、本明細書において、イフェンプロジルは、リソソーム膜透過性亢進剤の1つとする。
【0021】
本実施形態の医薬組成物は、リソソーム膜透過性亢進剤を含有する。本実施形態の医薬組成物は、リソソーム膜透過性亢進剤を1種類のみ含んでいてもよく、また、複数種類含んでいてもよい。
【0022】
本実施形態の医薬組成物の投与経路は、特に限定されず、経口、経鼻、舌下、血管内、皮下、筋肉内等の公知のいずれの投与経路としてもよい。
【0023】
本実施形態の医薬組成物は、リソソーム膜透過性亢進剤に加えて、必要に応じて製薬上許容される担体を含有してもよい。ここでいう「製薬上許容可能な担体」とは、製剤技術分野において通常使用する添加剤をいう。例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、充填剤、乳化剤、流動添加調節剤、滑沢剤等が挙げられる。
【0024】
賦形剤としては、単糖、二糖類、シクロデキストリン及び多糖類のような糖(より具体的には、限定はしないが、グルコース、スクロース、ラクトース、ラフィノース、マンニトール、ソルビトール、イノシトール、デキストリン、マルトデキストリン、デンプン及びセルロースを含む)、金属塩(例えば、塩化ナトリウム、リン酸ナトリウム若しくはリン酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、炭酸カルシウム)、クエン酸、酒石酸、グリシン、低、中、高分子量のポリエチレングリコール(PEG)、プルロニック、カオリン、ケイ酸、あるいはそれらの組み合わせが例として挙げられる。
【0025】
結合剤としては、トウモロコシ、コムギ、コメ、若しくはジャガイモのデンプンを用いたデンプン糊、単シロップ、グルコース液、ゼラチン、トラガカント、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、セラック及び/又はポリビニルピロリドン等が例として挙げられる。
【0026】
崩壊剤としては、前記デンプンや、乳糖、カルボキシメチルデンプン、架橋ポリビニルピロリドン、アガー、ラミナラン末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、アルギン酸若しくはアルギン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド又はそれらの塩が例として挙げられる。
【0027】
充填剤としては、前記糖及び/又はリン酸カルシウム(例えば、リン酸三カルシウム、若しくはリン酸水素カルシウム)が例として挙げられる。
【0028】
乳化剤としては、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステルが例として挙げられる。
【0029】
流動添加調節剤及び滑沢剤としては、ケイ酸塩、タルク、ステアリン酸塩又はポリエチレングリコールが例として挙げられる。
【0030】
このような担体は、主として前記剤形形成を容易にし、また剤形及び薬理効果を維持するために用いられるものであり、必要に応じて適宜使用すればよい。上記の添加剤の他、必要であれば矯味矯臭剤、可溶化剤、懸濁剤、希釈剤、界面活性剤、安定剤、吸収促進剤、増量剤、付湿剤、保湿剤、吸着剤、崩壊抑制剤、コーティング剤、着色剤、保存剤、抗酸化剤、香料、風味剤、甘味剤、緩衝剤等を含むこともできる。
【0031】
本実施形態の医薬組成物は、リソソーム膜透過性亢進剤の効果を失わない範囲において、他の薬剤を含有することもできる。例えば、注射剤の場合であれば、他の抗生物質を所定量含有していても良い。
【0032】
本実施形態の医薬組成物の剤形は、有効成分であるリソソーム膜透過性亢進剤、及び他の付加的な有効成分を不活化させない形態であれば特に限定しない。例えば、液体、固体又は半固体のいずれであってもよい。具体的な剤形としては、例えば、液剤、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、舌下剤、トローチ剤等の経口剤形、又は、注射剤、懸濁剤、乳剤、点眼剤、点鼻剤、クリーム剤、軟膏剤、硬膏剤、シップ剤及び座剤等の非経口剤形が挙げられる。
【0033】
本実施形態の医薬組成物は、含有される有効成分が失活しない、あらゆる適当な方法で投与することができる。例えば、経口又は非経口(例えば、注射、エアロゾル、塗布、点眼、点鼻)のいずれであってもよい。特に、経口投与とすることが好ましい。
【0034】
本実施形態の医薬組成物は、リソソーム膜透過性亢進剤を、腫瘍の治療又は予防に効果的で、かつ、重篤な副作用が発生する可能性が極めて低い量で含むことが好ましい。リソソーム膜透過性亢進剤の投与量は、腫瘍の治療又は予防に効果的で、かつ、重篤な副作用が発生する可能性が極めて低い量であれば特に限定されないが、例えば、イフェンプロジルの場合、0.01~10mg/kg体重/日、特に0.02~5mg/kg体重/日となるように調整することができる。
【0035】
本実施形態の医薬組成物の投与回数は、腫瘍の治療又は予防の効果が十分に得られ、かつ重篤な副作用が生じない限り、特に限定しないが、例えば、3日に1回~1日5回、特に1日1回~1日3回とすることが好ましい。本実施形態の医薬組成物の投与期間は、特に限定されず、臨床効果及び副作用の程度を考慮しながら慎重に決定される。
【0036】
本実施形態の医薬組成物は、オートファジー阻害剤の投与と組合せて使用してもよい。本明細書において「オートファジー阻害剤」とは、リソソーム膜透過性亢進以外の機序でオートファジーを阻害する薬剤を指す。リソソーム膜透過性亢進剤以外でオートファジーを阻害する薬剤であれば特に限定されないが、例えば、クロロキン、ヒドロキシクロロキン、バフィロマイシンA1、コンカナマイシンA、サリシリハラミド、MRT68921、Lys05をいずれも使用することができる。
【0037】
腫瘍細胞のスフィア形成アッセイにおいて、オートファジー阻害剤を単独で添加しても、スフィア形成にはほとんど影響が見られなかった。すなわち、オートファジー阻害剤自体には、抗腫瘍効果はほとんど見られない。一方で、本発明者らは、スフィア形成アッセイにおいて、リソソーム膜透過性亢進剤による抗腫瘍効果が、オートファジー阻害剤を併用することで顕著に亢進されることを見出した。
【0038】
オートファジー阻害剤の投与量は、その種類や投与手法によって異なるが、例えば、ヒドロキシクロロキンの場合、0.1~20mg/kg体重/日、特に0.5~15mg/kg体重/日とすることができる。
【0039】
本実施形態の医薬組成物は、リジンの摂取制限と組合せて使用されてもよい。又は、本実施形態の医薬組成物は、リジン拮抗剤の投与と組み合わされて使用されてもよい。
【0040】
本明細書において「リジンの摂取制限」とは、通常の平均的な食事にふくまれるリジンの量を10%以上、20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上又は100%減少させた食事を摂取することをいう。リジンは必須アミノ酸であり、食餌から完全に除去してしまうと、短期間に効果が得られるものの、長期間の治療には使用できないことから、リジンの量の制限は、30~90%、特に50~80%程度とすることが好ましい。
【0041】
リジン摂取制限は、小児のピリドキシン依存性てんかんの治療に有用であることが報告されている(M. P. Kava et al., JIMD Reports, Vol. 54, pp. 9-15 (2020))。すなわち、血液脳関門の影響を受けずに脳疾患の治療が可能な治療方法である。
【0042】
本発明者らは、リソソーム膜透過性亢進剤を添加した腫瘍細胞において、培地に含まれるリジン量を制限することで、オートファジー阻害剤を添加した場合と同様の抗腫瘍効果が得られることを見出した。また、脳腫瘍モデルマウスにおいて、リソソーム膜透過性亢進剤の投与とリジン摂取制限を組合せることで、その生存期間を顕著に延長できることを確認した。
【0043】
本明細書において「リジン拮抗剤」とは、リジンと競合して細胞内へのリジンの取り込みを抑制する作用を有する薬剤をいう。リジンと競合する薬剤であれば限定されないが、特にホモアルギニン又はその塩若しくは誘導体(以下、単に「ホモアルギニン」とも称する)を好適に使用できる。
【0044】
リジン(より詳細にはL-リジン)は、下記式(III)で示す構造を有する。
【化3】
【0045】
一方で、ホモアルギニン(より詳細にはL-ホモアルギニン)は下記式(IV)で示す構造を有する。
【化4】
【0046】
ホモアルギニンは、リジンと類似した構造及び性質を有することから、細胞への取り込みにおいてリジンと競合し、結果としてリジンの取り込みを抑制する効果を示す。本発明者らは、リソソーム膜透過性亢進剤を添加した腫瘍細胞において、ホモアルギニンを添加することでリジン量制限条件下と同様の抗腫瘍効果が得られることを見出した。また、脳腫瘍モデルマウスにおいて、リソソーム膜透過性亢進剤とホモアルギニンを併用することで、その生存期間を顕著に延長できることを確認した。
【0047】
ホモアルギニンの投与量は、その剤形、投与手法により異なるが、例えば、1~50mg/kg体重/日、特に5~20mg/kg体重/日とすることができる。
【0048】
本実施形態の医薬組成物は、リジン摂取制限、リジン拮抗剤の投与及びオートファジー阻害剤の投与からなる群から選択される少なくとも1つと組合せて、腫瘍の治療及び/又は予防のために使用される。ここで、リジン摂取制限、リジン拮抗剤の投与及びオートファジー阻害剤の投与は、リソソーム膜透過性亢進剤の作用を顕著に阻害することなく、また、重篤な副作用を生じる可能性が極めて低い条件において、2つ以上又は3つを組み合わせて実施してもよい。
【0049】
1-2 オートファジー阻害剤及び/又はリジン拮抗剤を含む医薬組成物(第2の実施形態)
本発明の医薬組成物の第2の実施形態は、オートファジー阻害剤及びリジン拮抗剤からなる群から選択される少なくとも1つの薬剤を含み、リソソーム膜透過性亢進剤の投与と組み合わせて対象の腫瘍を治療及び/又は予防するために使用される、医薬組成物である。
【0050】
本実施形態の医薬組成物に含まれる、オートファジー阻害剤及び/又はリジン拮抗剤は、それ自体には、顕著な抗腫瘍効果は見られないが、リソソーム膜透過性亢進剤の投与と組み合わせて使用することにより、リソソーム膜透過性亢進剤の抗腫瘍効果を顕著に向上させることが可能である。すなわち、本実施形態の医薬組成物は、リソソーム膜透過性亢進剤を補助するために使用される医薬組成物である。
【0051】
本実施形態の医薬組成物に含まれるオートファジー阻害剤としては、リソソーム膜透過性亢進剤以外でオートファジーを阻害する薬剤であれば特に限定されないが、例えば、クロロキン、ヒドロキシクロロキン、バフィロマイシンA1、コンカナマイシンA、サリシリハラミド、MRT68921、Lys05をいずれも使用することができる。
【0052】
本実施形態の医薬組成物に含まれるリジン拮抗剤としては、リジンと競合して細胞内へのリジンの取り込みを抑制する作用を有する薬剤であれば限定されないが、特にホモアルギニンを好適に使用できる。
【0053】
本実施形態の医薬組成物は、リソソーム膜透過性亢進剤と組合せて使用される。リソソーム膜透過性亢進剤としては、特に限定されないが、例えば、LLoMe、イフェンプロジル、プロメタジン、アザチオプリン、ファモチジン、イダルビシン、ナイスタチン、メストラノール、リファブチン、テルコナゾール、ミトキサントロン、オキシジナゾール、ナフチフィン、並びにこれらの塩及び誘導体等が挙げられる。リソソーム膜透過性亢進剤は、血液脳関門を通過可能な薬剤であることが好ましい。特にイフェンプロジルとすることが好ましい。
【0054】
本実施形態の医薬組成物は、必要に応じてさらに製薬上許容可能な担体を含むことができる。担体の詳細については、特に矛盾のない限り、第1の実施形態の項の記載と同様である。また、剤型及び投与手法についても、特に矛盾のない限り、第1の実施形態の項の記載と同様である。
【0055】
本実施形態の医薬組成物がオートファジー阻害剤を含む場合、オートファジー阻害剤の含有量は、その種類や投与手法によって異なるが、例えば、ヒドロキシクロロキンの場合、投与量が0.1~20mg/kg体重/日、特に0.5~15mg/kg体重/日となるように調整することができる。この場合、投与期間は、特に限定されず、臨床効果及び副作用の程度を考慮しながら慎重に決定される。
【0056】
本実施形態の医薬組成物がホモアルギニンを含む場合、ホモアルギニンの含有量は、その剤形、投与手法により異なるが、例えば、投与量が1~50mg/kg体重/日、特に5~20mg/kg体重/日となるように調整することができる。この場合、投与期間は、特に限定されず、臨床効果及び副作用の程度を考慮しながら慎重に決定される。
【0057】
本実施形態の医薬組成物は、オートファジー阻害剤とリジン拮抗剤とを両方含有してもよい。この場合、それぞれの含有量は、上記の含有量に準ずるが、リソソーム膜透過性亢進剤の作用を顕著に阻害することなく、また、重篤な副作用を生じる可能性が極めて低い条件となるよう調整することが好ましい。
【0058】
1-3 リソソーム膜透過性亢進剤と、オートファジー阻害剤及び/又はリジン拮抗剤を含む医薬組成物(第3の実施形態)
本発明の医薬組成物の第3の実施形態は、リソソーム膜透過性亢進剤と、オートファジー阻害剤及びリジン拮抗剤からなる群から選択される少なくとも1つの薬剤と、を含む医薬組成物である。本実施形態の医薬組成物は、対象の腫瘍を治療及び/又は予防するために使用することができる。
【0059】
本実施形態の医薬組成物は、抗腫瘍効果を有するリソソーム膜透過性亢進剤と、その効果を向上させるオートファジー阻害剤及び/又はリジン拮抗剤を含むことで、顕著に高い抗腫瘍効果を有する医薬組成物である。
【0060】
本実施形態の医薬組成物は、リソソーム膜透過性亢進剤を含む。リソソーム膜透過性亢進剤としては、特に限定されないが、例えば、LLoMe、イフェンプロジル、プロメタジン、アザチオプリン、ファモチジン、イダルビシン、ナイスタチン、メストラノール、リファブチン、テルコナゾール、ミトキサントロン、オキシジナゾール、ナフチフィン、並びにこれらの塩及び誘導体等が挙げられる。リソソーム膜透過性亢進剤は、血液脳関門を通過可能な薬剤であることが好ましい。特にイフェンプロジルとすることが好ましい。
【0061】
本実施形態の医薬組成物に含まれるオートファジー阻害剤としては、リソソーム膜透過性亢進剤以外でオートファジーを阻害する薬剤であれば特に限定されないが、例えば、クロロキン、ヒドロキシクロロキン、バフィロマイシンA1、コンカナマイシンA、サリシリハラミド、MRT68921、Lys05をいずれも使用することができる。
【0062】
本実施形態の医薬組成物に含まれるリジン拮抗剤としては、リジンと競合して細胞内へのリジンの取り込みを抑制する作用を有する薬剤であれば限定されないが、特にホモアルギニンを好適に使用できる。
【0063】
本実施形態の医薬組成物は、必要に応じてさらに製薬上許容可能な担体を含むことができる。担体の詳細については、特に矛盾のない限り、第1の実施形態の項の記載と同様である。また、剤型及び投与手法についても、特に矛盾のない限り、第1の実施形態の項の記載と同様である。
【0064】
本実施形態の医薬組成物は、リソソーム膜透過性亢進剤を、腫瘍の治療又は予防に効果的で、かつ、重篤な副作用が発生する可能性が極めて低い量で含むことが好ましい。リソソーム膜透過性亢進剤の投与量は、腫瘍の治療又は予防に効果的で、かつ、重篤な副作用が発生する可能性が極めて低い量であれば特に限定されないが、例えば、イフェンプロジルの場合、0.01~10mg/kg体重/日、特に0.02~5mg/kg体重/日となるように調整することができる。
【0065】
本実施形態の医薬組成物の投与回数は、腫瘍の治療又は予防の効果が十分に得られ、かつ重篤な副作用が生じない限り、特に限定しないが、例えば、3日に1回~1日5回、特に1日1回~1日3回とすることが好ましい。本実施形態の医薬組成物の投与期間は、特に限定されず、臨床効果及び副作用の程度を考慮しながら慎重に決定される。
【0066】
本実施形態の医薬組成物がオートファジー阻害剤を含む場合、オートファジー阻害剤の含有量は、その種類や投与手法によって異なるが、例えば、ヒドロキシクロロキンの場合、投与量が0.1~20mg/kg体重/日、特に0.5~15mg/kg体重/日となるように調整することができる。
【0067】
本実施形態の医薬組成物がホモアルギニンを含む場合、ホモアルギニンの含有量は、その剤形、投与手法により異なるが、例えば、投与量が1~50mg/kg体重/日、特に5~20mg/kg体重/日となるように調整することができる。
【0068】
本実施形態の医薬組成物は、オートファジー阻害剤とリジン拮抗剤とを両方含有してもよい。この場合、それぞれの含有量は、上記の含有量に準ずるが、リソソーム膜透過性亢進剤の作用を顕著に阻害することなく、また、重篤な副作用を生じる可能性が極めて低い条件となるよう調整することが好ましい。
【0069】
1-4 イフェンプロジルを含む医薬組成物(第4の実施形態)
本発明の医薬組成物の第4の実施形態は、イフェンプロジルを含む、対象の腫瘍を治療及び/又は予防するために使用される、医薬組成物である。
【0070】
前述の通り、イフェンプロジルは、酒石酸塩の形態で市販の医薬品に含まれる薬剤であるが、通常、細胞死を誘発するためのリソソーム膜透過性亢進剤及び抗腫瘍剤として使用される薬剤ではない。本発明者らは、イフェンプロジルが、腫瘍細胞のリソソーム膜の透過性を亢進することで、細胞死を誘発することを見出した。さらに、脳腫瘍モデルマウスにおいて、イフェンプロジルの投与により、生存期間が延長されることを確認した(
図13及び18)。
【0071】
本実施形態の医薬組成物は、必要に応じてさらに製薬上許容可能な担体を含むことができる。担体の詳細については、特に矛盾のない限り、第1の実施形態の項の記載と同様である。また、剤型及び投与手法についても、特に矛盾のない限り、第1の実施形態の項の記載と同様である。
【0072】
本実施形態の医薬組成物は、イフェンプロジルを、腫瘍の治療又は予防に効果的で、かつ、重篤な副作用が発生する可能性が極めて低い量で含むことが好ましい。イフェンプロジルの投与量は、腫瘍の治療又は予防に効果的で、かつ、重篤な副作用が発生する可能性が極めて低い量であれば特に限定されないが、0.01~10mg/kg体重/日、特に0.02~5mg/kg体重/日となるように調整することができる。
【0073】
本実施形態の医薬組成物の投与回数は、腫瘍の治療又は予防の効果が十分に得られ、かつ重篤な副作用が生じない限り、特に限定しないが、例えば、3日に1回~1日5回、特に1日1回~1日3回とすることが好ましい。本実施形態の医薬組成物の投与期間は特に限定されず、臨床効果及び副作用の程度を考慮しながら慎重に決定される。
【0074】
2.腫瘍を治療及び/又は予防する方法
本発明の方法は、リソソーム膜透過性亢進剤を投与する工程と、下記のa)及び/又はb)の工程とを組み合わせて、対象の腫瘍を治療及び/又は予防する方法である。
a)オートファジー阻害剤の投与;
b)リジンの摂取制限若しくはリジン拮抗剤の投与。
【0075】
本発明の方法は、リソソーム膜透過性亢進剤を対象に投与する工程を含む。リソソーム膜透過性亢進剤としては、特に制限されないが、例えば、LLoMe、イフェンプロジル、プロメタジン、アザチオプリン、ファモチジン、イダルビシン、ナイスタチン、メストラノール、リファブチン、テルコナゾール、ミトキサントロン、オキシジナゾール、ナフチフィン、並びにこれらの塩及び誘導体等が挙げられる。リソソーム膜透過性亢進剤は、血液脳関門を通過可能な薬剤であることが好ましい。特にイフェンプロジルとすることが好ましい。
【0076】
本発明の方法は、リソソーム膜透過性亢進剤を、腫瘍の治療又は予防に効果的で、かつ、重篤な副作用が発生する可能性が極めて低い量で対象に投与することが好ましい。リソソーム膜透過性亢進剤の投与量は、腫瘍の治療又は予防に効果的で、かつ、重篤な副作用が発生する可能性が極めて低い量であれば特に限定されないが、例えば、イフェンプロジルの場合、0.01~10mg/kg体重/日、特に0.02~5mg/kg体重/日となるように調整することができる。
【0077】
本発明の方法において、リソソーム膜透過性亢進剤の投与回数は、腫瘍の治療又は予防の効果が十分に得られ、かつ重篤な副作用が生じない限り、特に限定しないが、例えば、3日に1回~1日5回、特に1日1回~1日3回とすることが好ましい。投与期間は特に限定されず、臨床効果及び副作用の程度を考慮しながら慎重に決定される。
【0078】
本発明の方法において、リソソーム膜透過性亢進剤は、含有される有効成分が失活しない、あらゆる適当な方法で投与することができる。例えば、経口又は非経口(例えば、注射、エアロゾル、塗布、点眼、点鼻)のいずれであってもよい。特に、経口投与とすることが好ましい。
【0079】
本発明の方法は、オートファジー阻害剤を投与する工程を含むことができる。オートファジー阻害剤としては、リソソーム膜透過性亢進剤以外でオートファジーを阻害する薬剤であれば特に限定されないが、例えば、クロロキン、ヒドロキシクロロキン、バフィロマイシンA1、コンカナマイシンA、サリシリハラミド、MRT68921、Lys05をいずれも使用することができる。
【0080】
本発明の方法がオートファジー阻害剤を投与する工程を含む場合、オートファジー阻害剤の投与量は、その種類や投与手法によって異なるが、例えば、ヒドロキシクロロキンの場合、0.1~20mg/kg体重/日、特に0.5~15mg/kg体重/日となるように調整することができる。
【0081】
本発明の方法は、オートファジー阻害剤の投与に代えて、又はこれに加えて、リジンの摂取を制限する工程及び/又はリジン拮抗剤を投与する工程を含むことができる。リジン摂取の制限を80%以上などの条件で行う場合、必須アミノ酸が欠乏するリスクがあることから、治療期間は、対象の栄養状態、例えば骨格筋の状態等を確認しながら慎重に設定することを要する。しかし、オートファジー阻害剤の投与と期間を分けて交互に実施することで、全体の治療期間を長くすることができる。あるいは、オートファジー阻害剤と同時に投与することで、リジン摂取の制限を、例えば50%以下の比較的緩い条件として、さらに長期間の治療期間とすることができる。
【0082】
本発明の方法がリジン拮抗剤を投与する工程を含む場合、リジン拮抗剤としては、リジンと競合して細胞内へのリジンの取り込みを抑制する作用を有する薬剤であれば限定されないが、特にホモアルギニンを好適に使用できる。
【0083】
リジン拮抗剤としてホモアルギニンを使用する場合、ホモアルギニンの投与量は、その剤形、投与手法により異なるが、例えば、0.1~5mg/kg体重/日、特に0.5~2.0mg/kg体重/日となるように調整することができる。
【実施例0084】
[実施例1] イフェンプロジルによる膠芽腫細胞のリソソーム破壊
(1-1)細胞培養
患者由来膠芽腫細胞(TGS04)を、NSPC培地(DMEM/F12、1×B27、20ng/mL hEGF、20ng/mL hbFGF、1×GlutaMax(商標)、ペニシリン/ストレプトマイシン)を用い、37度、5%CO2、5%O2条件でスフェロイド培養した。
【0085】
(1-2)スフィア形成アッセイ
イフェンプロジル0、0.5、1.0、2.0μMをそれぞれ含む1%メチルセルロース入りのNSPC培地に分散させた細胞を加え、ローテーションにより混和した後、96ウェルプレートに移し10日程度培養した。形成されたスフィアはKeyence BZ-9000蛍光顕微鏡を用いて測定した。BAPTA-AM、NAC処理を行う場合は、BAPTA-AM、または、NACを含む1%メチルセルロース入りのNSPC培地に分散させた細胞を加え、30分間ローテーションにより混和した後、処理薬剤を加え、再度ローテーションにより混和した後、96ウェルプレートに移し10日程度培養した。形成されたスフィアはKeyence BZ-9000蛍光顕微鏡を用いて測定した。各濃度のイフェンプロジル存在下の500細胞あたりのスフィア形成数を
図4に示す。イフェンプロジル濃度の増加に応じてスフィア形成率が下がることが確認された。
【0086】
(1-3)ガレクチン3-GFP パンクタアッセイ
EGFP-ガレクチン(pEGFP-hGal3(addgene#73080))をレンチウイルスを用いて導入したTGS04細胞を、ラミニンコートした96ウェルガラス底プレートにて、NSPC培地を用いて培養した。0、0.5、1.0、2.0μMのイフェンプロジルを加えて15分間処理し、核染色(Hoechst33342)を行った後、ガレクチン3のパンクタを共焦点蛍光顕微鏡にて観察した。画像よりガレクチン3パンクタ含む細胞の割合を計算した。各濃度のイフェンプロジル存在下のガレクチン3パンクタの割合を
図2に示す。イフェンプロジル濃度の増加に応じてガレクチン3パンクタの割合、すなわち、リソソーム膜損傷を有する細胞の割合が高くなることが確認された。
【0087】
(1-4)カルシウムリリースの測定
ラミニンコートプレートを用い、細胞をNSPC培地にて一晩培養し、細胞をカルシウム指示薬Fluo-4(Thermo Fisher Scientific)にて1時間処理後、同培地にて洗浄した。KRBカルシウム不含培地を加え、DMSO又はL-ロイシル-L-ロイシンメチルエステル(LLoME)で前処理を行った。前処理の3時間後にLLoME、イフェンプロジルを添加して(本処理)、蛍光強度変化をKeyence BZ-9000蛍光顕微鏡を用いて測定した。
図3に、本処理開始時の蛍光強度を1として、処理時間に応じた蛍光強度の変化を示す。コントロールであるDMSOで処理した後にイフェンプロジルを添加すると、カルシウムリリースが顕著に見られるのに対して、リソソーム膜透過性亢進剤であるLLoMEで処理した後ではイフェンプロジルの添加によるカルシウムリリースの増加がみられなかった。カルシウムリリースに関して、イフェンプロジルがLLoMEと同様の挙動を示すことが確認された。
【0088】
(1-5)ミトコンドリアの活性酸素測定
細胞を、コントロール(DMSO)、5μMイフェンプロジル入り培地にて6時間培養した後、細胞を分散させてPBSで洗浄した。2.5μM MitoSox-red(Thermo Fisher Scientific)にて15分間37度処理を行い、3%FBS/PBSで洗浄した後、フローサイトメトリーを用いて蛍光強度を測定した。
図5にフローサイトメトリーの結果を示す。イフェンプロジルの存在下で、細胞におけるミトコンドリア活性酸素が増加することが確認された。
【0089】
(1-6)アポトーシスアッセイ
細胞を、コントロール(DMSO)、5μMイフェンプロジル入り培地にて6時間培養した後、細胞を分散、3%FBS/PBS(-)洗浄し、5μM FITC-AnnexinV(アポトーシス指示薬、BD Biosciences、)、2マイクロM 7AAD(50μg/mL BioLegend)、100μL 1×AnnexinV Binding Buffer(BD Biosciences)にて15分間、室温処理を行い、1×AnnexinV Binding Bufferにて洗浄後、フローサイトメトリーを用いて蛍光強度を測定した。
図6にフローサイトメトリーの結果を示す。イフェンプロジルの存在下で、細胞のアポトーシスが亢進されることが確認された。
【0090】
(1-7)イフェンプロジルによるスフィア形成抑制に対する細胞内カルシウム、活性酸素の影響
各濃度のイフェンプロジル及びカルシウムキレート剤(BAPTA-AM)又は抗酸化剤(N-アセチルシステイン(NAC))を含む1%メチルセルロース入りのNSPC培地に分散させた細胞を加え、ローテーションにより混和した後、96ウェルプレートに移し10日程度培養した。形成されたスフィアはKeyence BZ-9000蛍光顕微鏡を用いて測定した。スフィア形成アッセイの結果を
図7に示す。
図7Aは、BAPTA-AMを添加したスフィア形成アッセイの結果を、
図7Bは、NACを添加したスフィア形成アッセイの結果を示す。カルシウムキレート剤及び抗酸化剤でいずれも、イフェンプロジルによるスフィア形成の減少が抑えられることが確認された。これにより、イフェンプロジルは、膠芽腫細胞のアポトーシスに関与することが示された。
【0091】
以上の試験より、イフェンプロジルが、LLoMEと同様に、腫瘍細胞のリソソーム膜破壊に関与し、抗腫瘍効果を有することが明らかとなった。
【0092】
[実施例2]リソソーム膜透過性亢進剤とオートファジー阻害剤の併用
(2-1)LLoMe存在下のスフィア形成アッセイ
実施例1(1-1)と同様の条件にて細胞を培養した。LLoMeを0、200、500又は1000μmol/L及びクロロキンを0、5μmol/L添加した以外は、実施例1(1-2)と同様の条件にてスフィア形成アッセイを行った。結果を
図1に示す。添加するLLoMe濃度に応じてスフィア形成率が下がることが示された。また、LLoMeとともにクロロキンを存在させることでスフィア形成率がさらに顕著に下がることが確認された。
【0093】
(2-2)イフェンプロジル存在下のスフィア形成アッセイ
各濃度のイフェンプロジルと、バフィロマイシン、クロロキン又はMRT6892を添加した以外は、実施例1(1-2)と同様の条件にてスフィア形成アッセイを行った。併せて、ヒト正常細胞(lonzaジャパンより入手)について、イフェンプロジルとクロロキンを添加した条件でスフィア形成アッセイを行った。結果を
図8A~Dに示す。
図8A~Cは、膠芽腫細胞のスフィア形成アッセイの結果を示す。
図8Aは、バフィロマイシン、
図8Bはクロロキン、
図8CはMRT68921を添加した結果を示す。
図8Dは、クロロキンを添加した正常細胞のスフィア形成アッセイの結果を示す。
図8A、Bは500細胞あたりのスフィア形成数を、
図8Cは同条件のイフェンプロジル非添加時のスフィア形成数を1.0とした相対スフィア数を、
図8Dは1000細胞あたりのスフィア形成数を示す。各種オートファジー阻害剤を添加することで、イフェンプロジルによるスフィア形成減少効果がさらに高まることが確認された。一方で、正常細胞においては、クロロキンの添加の有無にかかわらず、イフェンプロジルによるスフィア形成数の大きな変化は見られなかった。
【0094】
(2-3)オートファジーノックアウト細胞のイフェンプロジル存在下のスフィア形成アッセイ
以下のゲノム編集技術の手法でオートファジー機能をノックアウトしたTGSO4 ATG5-ノックアウト(KO)細胞(Ha et. al., Cancer Sci. 2018 Aug;109(8):2497-2508.)を調製した。sgATG5(GGCCATCAATCGGAAACTCA)オリゴDNAをベクターpX330-U6-Chimeric_BB-CBh-hSpCas9(addgene#42230)に組み込み、TGS04細胞に導入した。その後、細胞をシングルクローン化し、ATG5ノックアウトをウエスタンブロッティング法にて確認し、ATG5ノックアウト(KO)細胞を樹立した。TGSO4 ATG5-KO細胞を、実施例1(1-1)と同様の条件で培養した。
【0095】
ATG5のKO細胞と野生型(WT)細胞とを、それぞれイフェンプロジル存在下で、実施例1(1-2)と同様の条件にてスフィア形成アッセイを行った。結果を
図14に示す。WT細胞においてはスフィア形成にイフェンプロジルの影響はほとんど見られなかったのに対し、KO細胞ではイフェンプロジル濃度に応じてスフィア形成率が顕著に低下した。
【0096】
以上の結果より、リソソーム膜透過性亢進剤及びイフェンプロジルのリソソーム破壊効果が、オートファジーの阻害により亢進されることが示された。
【0097】
[実施例3]1アミノ酸除去培地で培養した膠芽腫細胞のリソソーム活性測定
アミノ酸除去培地は、アミノ酸不含NSPC培地(DMEM/F12(アミノ酸不含)(フナコシ)、1×B27、20ng/mL hEGF、20ng/mL hbFGF、ペニシリン/ストレプトマイシン)に、除去する1アミノ酸以外のアミノ酸を加えて作製した。膠芽腫細胞をアミノ酸不含培地にて洗浄した後、コントロール培地(完全培地)、1アミノ酸除去培地、バフィロマイシン添加培地で一晩培養した。細胞を分散し、10μg/mL DQ-BSA(Thermo Fisher Scientific)入りの同培地にて6時間追加培養した。細胞を分散し、3%FBS/PBSで洗浄した後、フローサイトメトリーを用いて蛍光強度を測定した。試験はn=3で実施した。
【0098】
各条件における平均蛍光強度を
図9に示す。平均蛍光強度は、リソソームによるDQ-BSAの取り込み分解能、すなわち、リソソームの活性を示す。バフィロマイシンを添加した条件下で、リソソーム活性の顕著な減少が見られた。また、リジンを除去した培地で、バフィロマイシン添加時と同様にリソソーム活性の顕著な減少が見られた。
【0099】
[実施例4]リソソーム阻害剤とリジン制限による抗腫瘍効果測定
(4-1)スフィア形成アッセイ
培地をリジン含有率100%、20%、10%の培地に変更した以外は、実施例1(1-2)と同様の条件でアッセイを行った。スフィア形成アッセイの結果を
図12に示す。リジン含有率が下がるほど、イフェンプロジルによるスフィア形成の減少率が高くなることが確認された。
【0100】
(4-2)ガレクチン3-GFP パンクタアッセイ
培地をリジン含有率0%の培地に変更した以外は、実施例1(1-3)と同様の条件でガレクチン3-GFP パンクタアッセイを行った。コントロールとしてNSPC培地で同様の試験を行った。結果を
図10に示す。培地のリジン含有量を制限することで、イフェンプロジルによるリソソーム膜損傷が亢進されることが確認された。
【0101】
(4-3)カルシウムリリースの測定
ラミニンコートプレートを用い、細胞を、NSPC培地及びリジン含有率0%の培地にてそれぞれ一晩培養し、細胞をFluo-4にて1時間処理後、同培地にて洗浄、KRBカルシウム不含培地を加え、イフェンプロジル0.5μMを添加して、蛍光強度変化をKeyence BZ-9000蛍光顕微鏡を用いて蛍光強度を測定した。
図11に、処理開始時の蛍光強度を1として、処理時間に応じた蛍光強度の変化を示す。リジンを制限した細胞において、イフェンプロジルの添加によるカルシウムリリースの増加が顕著に亢進されることが確認された。
【0102】
(4-4)膠芽腫モデルマウスの生存曲線比較
TGS04細胞を4週齢のヌードマウス(マウス種BALBc-nu/nu)の頭部に同所移植(1×10
5細胞/マウス)し、コントロール食とリジン除去食のグループに分け、それぞれのグループにおいて、コントロール(DMSO)、イフェンプロジル(Selleck)(5mg/kg体重)を腹腔注射にて投与した。リジン除去食は移植の2日前から行い。その後、リジン除去食グループは、5日リジン除去食2日コントロール食を1サイクルとし、イフェンプロジルは、5日投与2日休薬を1サイクルとして4サイクルの処理を行った。各群のマウスの数をそれぞれn=5として、その後の生存率を調べた。
図13に、各条件におけるマウスの生存曲線を示す。イフェンプロジルとリジン制限食を組み合わせることで、マウスの生存率が顕著に上がることが確認された。
【0103】
[実施例5]リソソーム阻害剤とリジン拮抗剤による抗腫瘍効果測定
(5-1)リソソーム活性測定
膠芽腫細胞をホモアルギニン30mMを含むNSPC培地で一晩培養した。コントロールとして、NSPC培地で同様の培養を行った。細胞を分散し、10μg/mL DQ-BSA(Thermo Fisher Scientific)入りのNSPC培地にて6時間追加培養した。細胞を分散し、3%FBS/PBSで洗浄した後、フローサイトメトリーを用いて蛍光強度を測定した。それぞれ、n=30の細胞について測定を行った。結果を
図15に示す。ホモアルギニンを含む培地で培養した細胞で、リソソーム活性の顕著な低下が確認された。
【0104】
(5-2)スフィア形成アッセイ
培地にホモアルギニン25mMを添加した以外は、実施例1(1-2)と同様の条件でアッセイを行った。スフィア形成アッセイの結果を
図17に示す。ホモアルギニンを添加することで、イフェンプロジルによるスフィア形成の減少率が高くなることが確認された。
【0105】
(5-3)ガレクチン3-GFP パンクタアッセイ
培地にホモアルギニン30mMを添加した以外は、実施例1(1-3)と同様の条件でガレクチン3-GFP パンクタアッセイを行った。結果を
図16に示す。ホモアルギニンを添加することで、イフェンプロジルによるリソソーム膜損傷が亢進されることが確認された。
【0106】
(5-4)膠芽腫モデルマウスの生存曲線比較
TGS04細胞を4週齢のヌードマウス(マウス種BALBc-nu/nu)の頭部に同所移植(1×10
5細胞/マウス)し、コントロール(DMSO)、イフェンプロジル(Selleck)(5mg/kg体重)、ホモアルギニン(Wako)(50mg/kg体重)、イフェンプロジルとホモアルギニンを腹腔注射にて投与した。投与は、5日投与2日休薬を1サイクルとし、4サイクルを行った。各群のマウスの数をそれぞれn=5として、その後の生存率を調べた。
図18に、各条件におけるマウスの生存曲線を示す。イフェンプロジルとリジン制限食を組み合わせることで、マウスの生存率が顕著に上がることが確認された。