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特開2023-43950養殖魚の活動検知装置および活動検知方法並びに給餌制御装置
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  • 特開-養殖魚の活動検知装置および活動検知方法並びに給餌制御装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023043950
(43)【公開日】2023-03-30
(54)【発明の名称】養殖魚の活動検知装置および活動検知方法並びに給餌制御装置
(51)【国際特許分類】
   A01K 61/80 20170101AFI20230323BHJP
   A01K 29/00 20060101ALI20230323BHJP
【FI】
A01K61/80
A01K29/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021151714
(22)【出願日】2021-09-17
(71)【出願人】
【識別番号】504174135
【氏名又は名称】国立大学法人九州工業大学
(71)【出願人】
【識別番号】598154109
【氏名又は名称】ベルテクネ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100197642
【弁理士】
【氏名又は名称】南瀬 透
(74)【代理人】
【識別番号】100099508
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 久
(74)【代理人】
【識別番号】100182567
【弁理士】
【氏名又は名称】遠坂 啓太
(74)【代理人】
【識別番号】100219483
【弁理士】
【氏名又は名称】宇野 智也
(72)【発明者】
【氏名】西田 祐也
(72)【発明者】
【氏名】石井 和男
(72)【発明者】
【氏名】ソルピコ ドミニク バウティスタ
(72)【発明者】
【氏名】末次 徳雄
(72)【発明者】
【氏名】八並 慶憲
【テーマコード(参考)】
2B104
【Fターム(参考)】
2B104CC02
2B104CF28
2B104GA01
(57)【要約】
【課題】養殖魚の各層の活動状況を正確に把握することにより、生簀の大きさ、深さ、形状、養殖魚の種類等、様々な条件が異なる生簀であっても、個々の生簀に対して、養殖魚の摂餌への活動状況に応じて、給餌量を適正に調節することができる養殖魚の活動検知装置および活動検知方法並びに給餌制御装置を提供する。
【解決手段】養殖魚の活動検知装置を含む給餌制御装置10は、養殖魚が養殖される生簀Cの表層L1に設置されると共に、表層L1より深い深層L2~L4の深さ方向に沿って4基が設置された、養殖魚の活動を検知する活動検知センサ20と、各層に設置された活動検知センサ20からの活動信号に基づいて算出された養殖魚の活動状態を示す情報を提供する制御部30とを備えている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
養殖魚が養殖される生簀の表層に設置されると共に、表層より深い深層の深さ方向に沿って1基以上が設置された、養殖魚の活動を検知する活動検知センサと、各層に設置された前記活動検知センサからの活動信号に基づいて算出された養殖魚の活動状態を示す情報を提供する制御部とを備えた養殖魚の活動検知装置。
【請求項2】
請求項1記載の養殖魚の活動検知装置における前記活動検知センサは、流速を測定する流速センサにより形成された養殖魚の活動検知装置。
【請求項3】
養殖魚が養殖される生簀に設置された、養殖魚の活動を検知する活動検知センサと、前記活動検知センサからの活動信号に基づいて算出された養殖魚の活動状態を示す情報を提供する制御部とを備え、
前記活動検知センサは生簀の流速を測定する流速センサにより形成された養殖魚の活動検知装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかの項に記載の養殖魚の活動検知装置における前記活動検知センサは、生簀の周囲に沿って所定間隔ごとに設置された養殖魚の活動検知装置。
【請求項5】
養殖魚が養殖される生簀の表層に設置されると共に、表層より深い深層の深さ方向に沿って1基以上が設置された活動検知センサからの養殖魚の活動を示す活動信号に基づいて、制御部が算出した養殖魚の活動状態を示す情報を提供する養殖魚の活動検知方法。
【請求項6】
養殖魚が養殖される生簀に設置され、養殖魚の活動を検知する、生簀の流速を測定する流速センサにより形成された活動検知センサからの活動信号に基づいて、制御部が算出した養殖魚の活動状態を示す情報を提供する養殖魚の活動検知方法。
【請求項7】
請求項1から4のいずれかの項に記載の養殖魚の活動検知装置における前記制御部は、給餌を自動的に行う給餌装置に給餌の制御を指示する機能を有し、
前記制御部は、給餌時の養殖魚の活動状態を示す情報が、表層から深層へ所定量の養殖魚が移動したことを示した場合に、前記給餌装置に給餌の停止を指示する給餌制御装置。
【請求項8】
請求項1から4のいずれかの項に記載の養殖魚の活動検知装置における前記制御部は、
給餌開始からの養殖魚の活動状態を示す情報が、深層に所定量の養殖魚が留まっていることを示している間は給餌の量を抑えることを指示し、
前記養殖魚の活動状態を示す情報が、養殖魚が表層に所定量移動したことを示した場合に、給餌装置に給餌の量を所定量に増加させる本格給餌開始を指示する給餌制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、養殖魚の給餌を適正に行うための養殖魚の活動検知装置および活動検知方法並びに給餌制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
養殖魚における給餌は、省力化や生育の効率化、コストの抑制の面から、適切に行われることが重要である。給餌し過ぎは、飼料の無駄であり、海の水質汚染にも繋がる。そこで、給餌に関する技術として、例えば、特許文献1から5により知られている。
【0003】
特許文献1に記載の養殖魚の給餌方法および給餌システムは、養殖魚が擬餌を引っ張ると接触スイッチが起動して、接触スイッチからの信号が制御装置に対して出力されることで、制御装置にて判断され、自動給餌機からの給餌に反映される、というものである。
【0004】
特許文献2に記載の養殖用飼料投餌方法および装置は、少量の飼料を試験的に予備投餌し、少量の飼料に対する魚類の摂餌行動を超音波により検知したときにのみ養魚に必要な量の飼料を投餌する、というものである。
【0005】
特許文献3に記載の生簀用自動給餌機は、予め設定されたタイミングで短時間の間給餌動作を行う給餌手段と、水面に浮かぶように設置され、水面の動揺回数、揺動周期を検出する第1センサおよび第2センサであり、生簀内の給餌位置に設置された第1センサと、魚がいない位置に設置された第2センサと、給餌動作中における第1センサの検出結果と第2センサの検出結果とを比較して、両検出結果が予め設定された範囲内において一致しないと、給餌手段に対して給餌継続信号を送出する制御部とを備えている、というものである。
【0006】
特許文献4に記載の自動給餌装置は、予め設定された給餌時間になると、給餌機を起動して5分間、無条件で餌を生簀に放出させ、5分経過すると、魚群センサに対して超音波の送受信を指示し、そして、深い帯域の養殖魚からの反射波を5分単位でカウントし、そのカウント値が所定数以上であれば、満腹した養殖魚が多いものとして、給餌機による給餌動作を一旦停止し、カウント値が所定数未満であれば、まだ、摂餌中の養殖魚が多数いるものとして給餌機による給餌動作を継続させる、というものである。
【0007】
特許文献5に記載の給餌システムおよび給餌方法は、生簀内の養殖魚への給餌を行う給餌装置の給餌中に、カメラで取得した画像データが示す画像の動きが、所定量以下になったとき、給餌装置による給餌を停止させる、というものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2010/117001号
【特許文献2】特開昭60-66927号公報
【特許文献3】特開平4-126028号公報
【特許文献4】特開平4-304830号公報
【特許文献5】国際公開第2018/042651号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、特許文献1に記載の養殖魚の給餌方法および給餌システムでは、疑餌を用いて養殖魚の摂餌要求を検知しているため、マグロのように常に高速で遊泳する養殖魚では、疑餌を食するとは限らないため適さない。
【0010】
特許文献2に記載の養殖用飼料投餌方法および装置は、超音波を水面に向かって照射して魚類の摂取行動を検知しているため、海が荒れると精度が悪くなる。また、飼料の着水と養殖魚の摂餌行動との区別が困難である。そのため、広い生簀に適用するのは困難である。
【0011】
特許文献3に記載の生簀用自動給餌機は、第1センサおよび第2センサにより水面の動揺回数、動揺周期を検出しているため、海が荒れると精度が悪化する。
【0012】
特許文献4に記載の自動給餌装置は、魚群センサからの超音波により養殖魚からの反射波をカウントして、カウント値により養殖魚の摂餌行動を検知しているが、離合集散を繰り返す養殖魚では、時々刻々とカウント値が変化するため精度が悪い。また、生簀の表層にいる養殖魚に超音波が当たると、そこに音波の影ができ、深い帯域の状況が分からなくなる。
【0013】
特許文献5に記載の給餌システムおよび給餌方法は、カメラで取得した画像データにより、養殖魚の状態を判別しているため、水質が濁っていると精度が悪い。また、画像データでは計測範囲が狭いため,給餌している場所の周辺しか判別することができない。
【0014】
例えば、海洋に設置される生簀は、広さや深さ、収容尾数も様々である。また、海洋は潮の水質や流速も様々である。また、給餌者も、適正な量を適正なタイミングで給餌するベテランから、経験が浅く不慣れな者もおり、様々である。
従って、様々な種類の生簀であっても、給餌者が不慣れであっても、正確に養殖魚の摂餌活動状況が把握できれば、最適な給餌が可能である。
【0015】
そこで本発明は、養殖魚の各層の活動状況を正確に把握することにより、生簀の大きさ、深さ、形状、養殖魚の種類等、様々な条件が異なる生簀であっても、個々の生簀に対して、養殖魚の摂餌への活動状況に応じて、給餌量を適正に調節することができる養殖魚の活動検知装置および活動検知方法並びに給餌制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の養殖魚の活動検知装置は、養殖魚が養殖される生簀の表層に設置されると共に、表層より深い深層の深さ方向に沿って1基以上が設置された、養殖魚の活動を検知する活動検知センサと、各層に設置された前記活動検知センサからの活動信号に基づいて算出された養殖魚の活動状態を示す情報を提供する制御部とを備えたことを特徴としたものである。
【0017】
また、本発明の養殖魚の活動検知方法は、養殖魚が養殖される生簀の表層に設置されると共に、表層より深い深層の深さ方向に沿って1基以上が設置された活動検知センサからの養殖魚の活動を示す活動信号に基づいて、制御部が算出した養殖魚の活動状態を示す情報を提供することを特徴としたものである。
【0018】
本発明の活動検知装置および活動検知方法によれば、活動検知センサが表層に設置されると共に、表層より深い深層の深さ方向に沿って1基以上が設置されているため、深度帯ごとの養殖魚の活動状況を把握することができる。
【0019】
前記活動検知センサは、流速を測定する流速センサにより形成されたものとすることができる。
【0020】
本発明の養殖魚の活動検知装置は、養殖魚が養殖される生簀に設置された、養殖魚の活動を検知する活動検知センサと、前記活動検知センサからの活動信号に基づいて算出された養殖魚の活動状態を示す情報を提供する制御部とを備え、前記活動検知センサは生簀の流速を測定する流速センサにより形成されたことを特徴とするものである。
【0021】
また、本発明の養殖魚の活動検知方法は、養殖魚が養殖される生簀に設置され、養殖魚の活動を検知する、生簀の流速を測定する流速センサにより形成された活動検知センサからの活動信号に基づいて、制御部が算出した養殖魚の活動状態を示す情報を提供することを特徴としたものである。
【0022】
活動検知センサが流速センサにより形成されているため、養殖魚の遊泳速度に応じた水流を検知することができる。潮流による水流があっても、養殖魚の遊泳による流速は相対的な増減により判別することが可能であり、また、水質が濁っていても無関係に測定することができ、カメラのように画角の制約も無い。
【0023】
前記活動検知センサは、生簀の周囲に沿って所定間隔ごとに設置されたものとすることができる。活動検知センサが、生簀の周囲に沿って所定間隔ごとに設置されているため、流速の中心位置と放射線状流速が算出できる。
【0024】
本発明の給餌制御装置においては、前記本発明の養殖魚の活動検知装置における前記制御部は、給餌を自動的に行う給餌装置に給餌の制御を指示する機能を有し、前記制御部は、給餌時の養殖魚の活動状態を示す情報が、表層から深層へ所定量の養殖魚が移動したことを示した場合に、前記給餌装置に給餌の停止を指示することを特徴としたものである。
【0025】
本発明の給餌制御装置によれば、表層から深層へ所定量の養殖魚が移動したことを契機に、給餌装置に給餌の停止を指示するため、無駄となる可能性がある飼料を抑制することができる。
【0026】
また、本発明の給餌制御装置においては、前記本発明の養殖魚の活動検知装置における前記制御部は、給餌開始からの養殖魚の活動状態を示す情報が、深層に所定量の養殖魚が留まっていることを示している間は給餌の量を抑えることを指示し、前記養殖魚の活動状態を示す情報が、養殖魚が表層に所定量移動したことを示した場合に、給餌装置に、給餌の量を所定量に増加させる本格給餌開始を指示することを特徴としたものである。
【0027】
そうすることで、給餌開始時に大量に飼料を投与して無駄にしてしまうことを抑制することができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明は、高速で遊泳する養殖魚であっても、また、海が荒れていても、更に、水質が濁っていても、活動検知センサにより、養殖魚の活動状況を正確に把握することができるので、生簀の大きさ、深さ、形状、養殖魚の種類等、様々な条件が異なる生簀であっても、個々の生簀に対して、養殖魚の摂餌への活動状況に応じて、給餌量を適正に調節することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本発明の実施の形態に係る活動検知装置を用いた給餌制御装置を示す図である。
図2図1に示す給餌制御装置のセンサ装置および装置本体を説明するための図である。
図3図2に示す制御部の構成を説明するための図である。
図4】ヒラマサの給餌を示す流速のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明の実施の形態に係る養殖魚の活動検知装置を用いた給餌制御装置を図面に基づいて説明する。
図1に示す給餌制御装置10は、効率がよく、無駄が少ない給餌を行えるようにするものである。本実施の形態では、給餌制御装置10は、給餌装置Fが自動給餌装置であれば、自動で給餌することができ、給餌装置Fが給餌者の手動により給餌するものであれば、給餌者に給餌についての指示をしたり、養殖魚の活動状況に関する情報を提供したりすることができる。なお、図1に示す給餌制御装置10は、詳細には後述する制御部と給餌装置F、および制御部と流速センサが有線通信にて接続された場合を示している。
【0031】
給餌制御装置10は、養殖魚が養殖される生簀Cの表層L1に設置されると共に、表層L1より深い深層L2~L4の深さ方向に沿って1基以上が設置された、養殖魚の活動を検知する活動検知センサ20と、各層(表層L1,深層L2~L4)に設置された活動検知センサ20からの活動信号に基づいて算出することにより養殖魚の活動を示す情報を提示したり、給餌装置Fを制御したりする制御部30とを備えている。
【0032】
活動検知センサ20は、流速センサにより形成されている。活動検知センサ20は、表層L1に配置された表層用センサ21と、深層L2~L4に設置された深層用第1センサ22~深層用第3センサ24とを備えている。
本実施の形態では、活動検知センサ20は、図2(A)に示すセンサ装置40に格納されている。なお、図2(B)においては、制御部と給餌装置、および制御部と流速センサ(センサ装置40)が無線通信にて接続された場合を示している。
【0033】
センサ装置40は、生簀の外側周囲の4箇所に設置されている。センサ装置40の下端には、錘41が設けられている。
センサ装置40は、ケース42に4台の流速センサが、表層用センサ21および深層用第1センサ22~深層用第3センサ24として格納されている。なお、本実施の形態では、流速センサが4台であるが、検知対象となる層に所在する養殖魚を検知するだけであれば1台でもよく、また、生簀の深さに応じて2台または3台としたり、5台以上としたりすることができる。
センサ装置40を複数基とする場合には、生簀周囲に等間隔に配置するのが、測定結果の偏りを抑えることができるので望ましい。
【0034】
表層用センサ21と深層用第1センサ22~深層用第3センサ24とは、任意の深さに設置することが可能であるが、例えば、表層用センサ21は、水深0.4mに位置するように設置されている。また、深層用第1センサ22~深層用第3センサ24も任意の深さに設置することが可能である。深層用第1センサ22~深層用第3センサ24は、例えば、検知対象とする各層の深度を、表層用センサ21からの相対的な深度により決定することができる。そうすることで、生簀の深さや魚種により設定された観察対象としての各層の深さに応じて、各センサ(表層用センサ21,深層用第1センサ22~深層用第3センサ24)を設置することができる。例えば、各センサを等間隔に設置したり、間隔を徐々に深くしたり、浅くしたりすることができる。
本実施の形態では、深層用第1センサ22~深層用第3センサ24を、例えば、表層用センサ21から3mごとに設置することができる。深層用第1センサ22~深層用第3センサ24を、表層用センサ21から等間隔に設置することで、各層の深度を均等に設定することができ、各層に位置する養殖魚を検知することができる。
【0035】
図2(B)に示すように、活動検知センサ20(表層用センサ21および深層用第1センサ22~深層用第3センサ24)は、プロペラ部20aと、回転検出器20bと、通信モジュール20cとを備えている。プロペラ部20aは回転軸の先端に取り付けられ、水流によって回転する。回転検出器20bは、回転軸の回転を検出して流速を示す信号(活動信号)を出力する。回転検出器20bは、例えば、回転軸の回転により発光部から受光部への光を遮断するフォトインタラプタとすることができる。従って、回転検出器20bによる活動信号は、回転軸の回転を示す回転情報である。通信モジュール20cは、回転検出器20bからの活動信号を、通信可能な通信信号に変換して通信線に送信する。通信モジュール20cは、例えば、100Base-Tまたは1000Base-TのLAN通信可能なデバイスとすることができる。
【0036】
また、センサ装置40は、それぞれの通信モジュール20cと通信して情報を集約する通信部43を備えている。通信部43は、通信モジュール20cからの通信線を集約する集線装置43aと、集線装置43aからの信号を制御部30に向けて無線通信する近距離通信子機43bとを備えている。
集線装置43aは、例えば、LANハブとすることができる。また、近距離通信子機43bは、WiFi(登録商標)により通信する通信子機とすることができる。
【0037】
このセンサ装置40は、装置本体50と通信する。
装置本体50は、それぞれのセンサ装置40と通信して制御部30へ出力する近距離通信親機51と、制御部30と、制御部30からの情報を通知するための遠距離通信機52とを備えている。
近距離通信親機51は、それぞれの近距離通信子機43bと通信する通信親機である。遠距離通信機52は、制御部30が提供する情報を給餌者に伝えるための通信機である。遠距離通信機52は、例えば、携帯電話にて使用される3G,4G,5G等の無線通信とすることができる。
【0038】
次に、制御部30について、図3に基づいて説明する。
図3に示すように、制御部30は、第1通信部31aと、第2通信部31bと、流速演算部32と、活動情報演算部33と、活動情報提供部34と、自動給餌制御部35と、記憶部36とを備えている。
【0039】
第1通信部31aは、近距離通信親機51(図2(B)参照)からの活動信号(回転情報)を受信して流速演算部32へ出力する。第2通信部31bは、給餌者が携行する携帯端末装置T(図1参照)と通信する。本実施の形態では、第2通信部31bは、活動情報提供部34からの養殖魚の活動を示す情報(活動情報)を給餌者の携帯電話(スマートフォン)に遠距離通信機52を介して送信している。
【0040】
流速演算部32は、センサ装置40(活動検知センサ20)からの回転情報に基づいて単位時間あたりの周波数を演算して流速(流速情報)を算出する。
活動情報演算部33は、流速演算部32により算出された、養殖魚の活動を示す流速情報に基づいて、養殖魚の活動状態を示す情報(活動状態情報)を算出する。
活動情報提供部34は、活動情報演算部33により算出された情報を、第2通信部31bを介して遠距離通信機52から給餌者の携帯電話に提供する。
自動給餌制御部35は、養殖魚の活動を示す情報に基づいて給餌装置Fを制御するための指示を出力する。
本実施の形態では、自動給餌制御部35を除く、流速演算部32と活動情報演算部33と活動情報提供部34とにより、養殖魚の活動状況を提供する活動検知装置の制御部が構成される。
記憶部36は、各種データを格納して保存するもので、ハードディスクとしたり、フラッシュメモリとしたりすることができる。
【0041】
以上のように構成された本発明の実施の形態に係る給餌制御装置10の動作および使用状態を図面に基づいて説明する。
図1に示す生簀Cに設置されたセンサ装置40の活動検知センサ20に、潮流または養殖魚の遊泳により発生した水流が当たると、図2(B)に示す活動検知センサ20のプロペラ部20aが回転する。プロペラ部20aが回転すると、回転検出器20bが回転を検知し、回転速度に応じた信号を活動信号として通信モジュール20cへ出力する。
【0042】
通信モジュール20cでは、活動信号を通信信号へ変換して、センサ装置40を識別する情報(識別情報)と、深度を識別する情報と共に通信部43へ送信する。センサ装置40を識別する情報は、4基のセンサ装置40に割り当てられた番号としたり、4基のセンサ装置40の円周方向の位置としたりすることができる。また、センサ装置40を識別する情報は、各センサ装置40に内蔵させること以外に、方位センサやGPS(Global Positioning System)などの測位装置などをセンサ装置40に設ければ、測定情報を識別情報とすることができる。
本実施の形態では、通信モジュール20cは、回転検出器20bからの活動信号を通信信号へ変換して出力している。
【0043】
それぞれのセンサ装置40からの通信信号が通信部43の集線装置43aへ入力されると、近距離通信子機43bにより装置本体50へ送信される。
装置本体50では、センサ装置40からの通信信号を近距離通信親機51が受信すると、近距離通信親機51から制御部30へ出力される。
【0044】
図3に示す制御部30では、第1通信部31aが通信信号を受信する。流速演算部32は、第1通信部31aからの通信信号が示す回転情報に基づいて単位時間あたりの周波数を演算することで、流速(流速情報)を算出する。
そして、活動情報演算部33は、流速演算部32により算出された、養殖魚の活動を示す流速情報に基づいて、養殖魚の活動の状態を示す活動状態情報を深度帯ごとに算出する。
【0045】
活動情報演算部33は、回転情報から算出した流速情報をそのまま活動状態情報として扱え、また、活動状態情報を指数とすることができる。例えば、養殖魚が満腹のときに測定された流速情報を基準に、空腹時や摂餌時の流速情報を百分率で表すことができる。
【0046】
このとき、活動情報演算部33は、潮流による流速をキャンセルすることができる。例えば、まず、活動検知センサ20により給餌前の安定した環境で流速を計測し,その時の流速および方向を潮流による流速情報として記憶部36に格納する。そして、測定時に測定された養殖魚による流速情報から潮流による流速情報を減算する。そうすることで、潮流による測定への影響を排除することができる。
【0047】
養殖魚群が遊泳すると、養殖魚群の位置を中心として、水平方向(同深度帯)に放射状に拡がる流速が発生する。本実施の形態では、生簀Cの周囲に沿って、4基のセンサ装置40が所定間隔、例えば、等間隔に並べられ、活動検知センサ20が生簀Cの中心を向いて配置されている。
そのため、活動情報演算部33は、同深度の4基の活動検知センサ20からの流速情報と、活動検知センサ20の位置情報とから、深度帯ごとの流速の中心位置と放射線状流速を算出できる。流速の中心位置と放射線状流速とを算出することで、養殖魚の遊泳位置が変化しても問題なく養殖魚の活動情報を算出できる。
【0048】
このようにして、給餌者が給餌できる海況(台風など以外)であれば、深度帯ごとの流速の中心位置と放射状流速により、いつでも安定して養殖魚の活動状態から空腹状態を推定できる。従って、深度帯ごとの流速分布から養殖魚の空腹状態を定量的に表すことができるため、給餌者は給餌量の調整、給餌速度を調整しやすくすることができる。
【0049】
活動情報提供部34は、活動情報演算部33により算出された深度帯ごとの活動状態情報を、第2通信部31bへ出力する。そして、第2通信部31bへ出力された活動状態情報は、遠距離通信機52から給餌者の携帯電話に提供される。
【0050】
給餌者は、携帯電話に表示された深度帯ごとの活動状態情報から、養殖魚の位置や、養殖魚の集団度合いが把握でき、深度帯ごとの養殖魚の分布や動作が把握できるため、空腹状態や満腹状態を認知することができる。
【0051】
従って、養殖魚が飼料を摂餌するために表層に移動することで、表層用センサ21により検知された流速に基づく活動状態情報から、給餌者は、表層に養殖魚が分布していることを認識することができる。
次に、表層用センサ21により検知される流速が小さくなったことと、深層用第1センサ22~深層用第3センサ24にて養殖魚が検知されるようになることとを、活動状態情報から認識することで、給餌者は、満腹になった養殖魚が深さ方向に分散し始めたことを認識することができる。
【0052】
更に、表層用センサ21により検知される流速が小さくなり、深層用第1センサ22~深層用第3センサ24により検知される流速が大きくなることで、給餌者は、表層から満腹になった養殖魚が生簀の中層や底層に移動したことを認識することができる。
従って、給餌者は、携帯電話に表示される活動状態情報から、養殖魚の活動を正確に把握することができる。
【0053】
自動給餌制御部35は、養殖魚の活動を示す活動状態情報に基づいて給餌装置Fを制御するための指示を出力することができる。
例えば、時間により給餌を開始した給餌装置Fにより散布された飼料を摂餌して満腹になったことを、表層用センサ21により検知される流速が小さくなり、深層用第1センサ22~深層用第3センサ24により検知される流速が大きくなることにより認識できる。従って、自動給餌制御部35は、給餌装置Fへの自動給餌の停止を指示することができる。また、給餌装置Fが手動給餌するものであれば、自動給餌制御部35は、給餌者に活動状態情報を提供するのではなく、給餌の停止を直接指示することができる。
【0054】
このように本発明の実施の形態に係る給餌制御装置10は、活動検知センサ20が表層に設置されると共に、表層より深い深層の深さ方向に沿って1基以上が設置されている。そのため、給餌制御装置10は、深度帯ごとの養殖魚の活動状況を取得することができる。
従って、高速で遊泳する養殖魚であっても、また、海が荒れていても、更に、生簀の広さや深さに関わらず、給餌制御装置10は、養殖魚の活動状況を正確に把握することができる。よって、生簀の大きさ(広さ)、深さ、形状(丸形、正方形、長方形など)、養殖魚の種類等、様々な条件が異なる生簀であっても、個々の生簀に対して、養殖魚の摂餌への活動状況に応じて、給餌量を適正に調節することができる。
【0055】
また、給餌制御装置10は、活動検知センサ20が流速センサにより形成されている。そのため、養殖魚の遊泳速度に応じた水流を検知することができる。潮流による水流があっても、養殖魚の遊泳による流速は相対的な増減により判別することが可能である。また、水質が濁っていても無関係に測定することができ、カメラのように画角の制約も無い。
このように、流速センサによる水流により養殖魚の活動状況を取得する給餌制御装置10は、養殖魚の活動状況を正確に把握することができるので、生簀の大きさ(広さ)、深さ、形状(丸形、正方形、長方形など)、養殖魚の種類等、様々な条件が異なる生簀であっても、個々の生簀に対して、養殖魚の摂餌への活動状況に応じて、給餌量を適正に調節することができる。
【0056】
(実施例)
図1に示す給餌制御装置10を用いて養殖魚の活動状況を測定した。
本実施例では、センサ装置40が1基であり、活動検知センサ20は、表層用センサ21の深度が0.4m、深層用第1センサ22の深度が3.4mに位置しており、深層用第2センサ23および深層用第3センサ24は備えていない。生簀は金属網で製作され、縦10m、横10mの矩形状で、深さが7mである。養殖魚はヒラマサである。
測定結果を図4のグラフに示す。図4に示すグラフは、横軸が時刻、縦軸が流速である。
【0057】
グラフからも判るように、測定開始の13時4分0秒からの当初は、表層用センサ21および深層用第1センサ22の両方で、大きな違いが無い。これは、深層用第1センサ22により測定できる範囲より更に深い深度に養殖魚が遊泳していたためである。
次に、給餌を開始するが、水流は、期間t1で、表層用センサ21と深層用第1センサ22とで、大きな差は無い。これは、養殖魚が深層に留まり、表層に浮上していないからである。
次に、飼料が少しずつ散布されていることに気が付いた養殖魚は、徐々に表層に浮上する。そのため期間t1後から徐々に表層用センサ21により検出された水流が増加し始める。
【0058】
従って、給餌者は、給餌開始時に、水流が増加するまで、活動状態情報を監視して、投与される飼料の量を給餌開始時の量に抑えれば、給餌したが食されずに生簀底部に沈降してしまう飼料の量を抑えることができる。
また、自動給餌制御部35は、活動状態情報と閾値などとの比較により、深層に所定量の養殖魚が留まっていることを示した場合に、図1の給餌装置Fに対して、自動給餌制御部35が給餌開始時の給餌量を抑えながら給餌を指示することができる。
【0059】
なお、表層用センサ21と深層用第1センサ22とにより検出される水流の差の大きい、または小さいは、差を所定の閾値と比較することで決定することができる。
【0060】
表層用センサ21により検知された水流が、深層用第1センサ22により検知された水流より増加することを受けて、13時18分24秒に本格的な給餌を開始する。このことは、養殖魚が表層に所定量移動したことを示している。
【0061】
このとき、自動給餌制御部35は、活動状態情報と閾値などとの比較により、養殖魚が表層に所定量移動したことを示した場合に、図1の給餌装置Fに対して、自動給餌制御部35が給餌の量を所定量に増加させる本格給餌開始を指示することができる。
【0062】
そうすることで、養殖魚は、飼料を食するために、深層用第1センサ22にて検出可能な深度より深い深層から表層に浮上する。そのため、深層用第1センサ22により検出された水流に大きな変化は無いが、表層用センサ21により検出された水流は大きく増減しながらも増加する。この大きな増減は、期間t2の間続く。
【0063】
そして、14時10分くらいに、満腹になった養殖魚が表層から深層用第1センサ22にて検出可能な深度を通過して、更に深い深層に移動したため、深層用第1センサ22により検出された水流は大きな変化は無いが、表層用センサ21により検出された水流は徐々に減少する。
【0064】
従って、給餌者は、表層用センサ21により検出された水流に基づいた活動状態情報を監視すれば、給餌時に表層に位置した養殖魚が深層に移動したことを把握することができるので、適確なタイミングで給餌を停止することができる。
また、自動給餌制御部35は、活動状態情報と閾値などとの比較により、表層から深層へ所定量の養殖魚が移動したことを示した場合に、給餌装置F(図1参照)に対して、自動給餌制御部35が給餌停止を指示することができる。
【0065】
本実施の形態において、表層用センサ21および深層用第1センサ22~深層用第3センサ24は流速センサにより形成されているが、生簀の表層に設置されると共に、表層より深い深層の深さ方向に沿って1基以上が設置されていることで、深度帯ごとの養殖魚の分布が検出できれば、他のセンサを採用してもよい。
【0066】
センサ装置40は、生簀Cの外側周囲に沿って設置されているが、生簀Cの周壁の内側に沿って設置するようにしてもよい。しかし、生簀Cの周壁の内側に沿ってセンサ装置40が設置されると、センサ装置40が周壁から内側に向かって出っ張ってしまう。そうなると、高速で回遊する、例えば、マグロが遊泳するときに衝突するおそれがある。従って、マグロのような養殖魚である場合には、センサ装置40は、生簀Cの外側周囲に沿って設置されるのが望ましい。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明は、養殖魚を生簀で給餌により生育する養殖業に好適である。
【符号の説明】
【0068】
10 給餌制御装置
20 活動検知センサ
20a プロペラ部
20b 回転検出器
20c 通信モジュール
21 表層用センサ
22 深層用第1センサ
23 深層用第2センサ
24 深層用第3センサ
30 制御部
31a 第1通信部
31b 第2通信部
32 流速演算部
33 活動情報演算部
34 活動情報提供部
35 自動給餌制御部
36 記憶部
40 センサ装置
41 錘
42 ケース
43 通信部
43a 集線装置
43b 近距離通信子機
50 装置本体
51 近距離通信親機
52 遠距離通信機
C 生簀
T 携帯端末装置
L1 表層
L2~L4 深層
F 給餌装置
図1
図2
図3
図4