(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023043952
(43)【公開日】2023-03-30
(54)【発明の名称】アミド化合物、前記アミド化合物を含む増粘剤
(51)【国際特許分類】
C07C 233/36 20060101AFI20230323BHJP
C09K 3/00 20060101ALI20230323BHJP
【FI】
C07C233/36 CSP
C09K3/00 103H
C09K3/00 103G
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021151721
(22)【出願日】2021-09-17
(71)【出願人】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(71)【出願人】
【識別番号】517132810
【氏名又は名称】地方独立行政法人大阪産業技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110002239
【氏名又は名称】弁理士法人G-chemical
(72)【発明者】
【氏名】中村 亮太
(72)【発明者】
【氏名】北村 浩稔
(72)【発明者】
【氏名】江上 信
(72)【発明者】
【氏名】東海 直治
(72)【発明者】
【氏名】懸橋 理枝
【テーマコード(参考)】
4H006
【Fターム(参考)】
4H006AA01
4H006AB90
(57)【要約】 (修正有)
【課題】流動性物質に復元性を有するとろみを付与することができる新規の化合物を提供する。
【解決手段】下記式(1)で表される化合物。式(1)中、R
1は炭素数1~22の1価脂肪族炭化水素基を示す。R
2、R
4は、同一又は異なって、水素原子又は炭素数1~3の1価脂肪族炭化水素基を示す。R
3は炭素数2~8の2価炭化水素基を示す。R
5は、(R
12)(R
13)NC(=O)R
11-・・式(r5-1)で表される基等を示す。[式(r5-1)中、R
11及びR
13は、脂肪族炭化水素基、R
12は、水素原子または脂肪族炭化水素基を示す。]
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される化合物。
【化1】
[式(1)中、R
1は炭素数1~22の1価脂肪族炭化水素基を示す。R
2、R
4は、同一又は異なって、水素原子又は炭素数1~3の1価脂肪族炭化水素基を示す。R
3は炭素数2~8の2価炭化水素基を示す。R
5は下記式(r5-1)又は(r5-2)で表される基を示す]
【化2】
(式(r5-1)中、R
11は炭素数2~6の2価脂肪族炭化水素基を示す。R
12は水素原子又は炭素数1~3の1価脂肪族炭化水素基を示す。R
13は炭素数1~22の1価脂肪族炭化水素基を示す)
(式(r5-2)中、R
14は炭素数1~22の2価脂肪族炭化水素基を示し、R
15は水素原子又は炭素数1~22の1価脂肪族炭化水素基を示す。nは1以上の整数を示す)
【請求項2】
請求項1に記載の化合物を含む増粘剤。
【請求項3】
請求項1に記載の化合物と流動性物質を含む組成物。
【請求項4】
請求項1に記載の化合物の合計含有量が、前記流動性物質100重量部に対して0.1~10重量部である、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
25℃において、せん断速度を0.1(1/s)から100(1/s)まで上昇させた場合のせん断速度1.1(1/s)における粘度(1)が0.1Pa・s超である、請求項3又は4に記載の組成物。
【請求項6】
25℃において、せん断速度を0.1(1/s)から100(1/s)まで上昇させた場合のせん断速度1.1(1/s)における粘度(1)と、せん断速度を100(1/s)から0.1(1/s)まで下降させた場合のせん断速度1.1(1/s)における粘度(2)の比(前者/後者)が15以下である、請求項3~5の何れか1項に記載の組成物。
【請求項7】
ヘーズ値が80%以下である、請求項3~6の何れか1項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、新規なアミド化合物、及び前記アミド化合物を含む増粘剤、並びに前記アミド化合物と流動性物質を含む組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
流動性物質を物理的にゲル化する低分子化合物が知られている。このような低分子化合物は増粘剤と呼ばれている。前記増粘剤は、自己組織化により物理的に架橋構造を形成してゲル化を引き起こす。増粘剤によるゲル化は、化粧品、医薬品、農薬、食品、接着剤、塗料等の分野において、流動性の調整のために用いられている。
【0003】
前記増粘剤としては、例えば、12-ヒドロキシステアリン酸が知られている(特許文献1)。12-ヒドロキシステアリン酸は、主に、食用油の廃棄処理にそのゲル化作用が利用されている。しかし、12-ヒドロキシステアリン酸はゲル化の程度を調整することができず、完全に固化するか、液体のままかの何れかの状態にしか誘導することができなかった。そして、一旦固化すると、その後はせん断力を付与しても流動性を取り戻すことが困難であった。そのため、復元性を有するとろみを付与することができる増粘剤が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本開示の目的は、流動性物質に復元性を有するとろみを付与することができる新規の化合物を提供することにある。
本開示の他の目的は、流動性物質に復元性を有するとろみを付与することができる増粘剤を提供することにある。
本開示の他の目的は、復元性を有するとろみが付与された流動性物質を含む組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は上記課題を解決するため鋭意検討した結果、下記式(1)で表される化合物は流動性物質に対する溶解性と自己組織化力をバランス良く有するため、前記化合物を使用すれば、流動性物質に復元性を有するとろみを付与することができることを見いだした。本開示はこれらの知見に基づいて完成させたものである。
【0007】
すなわち、本開示は、下記式(1)で表される化合物を提供する。
【化1】
[式(1)中、R
1は炭素数1~22の1価脂肪族炭化水素基を示す。R
2、R
4は、同一又は異なって、水素原子又は炭素数1~3の1価脂肪族炭化水素基を示す。R
3は炭素数2~8の2価炭化水素基を示す。R
5は下記式(r5-1)又は(r5-2)で表される基を示す]
【化2】
(式(r5-1)中、R
11は炭素数2~6の2価脂肪族炭化水素基を示す。R
12は水素原子又は炭素数1~3の1価脂肪族炭化水素基を示す。R
13は炭素数1~22の1価脂肪族炭化水素基を示す)
(式(r5-2)中、R
14は炭素数1~22の2価脂肪族炭化水素基を示し、R
15は水素原子又は炭素数1~22の1価脂肪族炭化水素基を示す。nは1以上の整数を示す)
【0008】
本開示は、また、前記化合物を含む増粘剤を提供する。
【0009】
本開示は、また、前記化合物と流動性物質を含む組成物を提供する。
【0010】
本開示は、また、前記化合物の合計含有量が、前記流動性物質100重量部に対して0.1~10重量部である、前記組成物を提供する。
【0011】
本開示は、また、25℃において、せん断速度を0.1(1/s)から100(1/s)まで上昇させた場合のせん断速度1.1(1/s)における粘度(1)が0.1Pa・s超である前記組成物を提供する。
【0012】
本開示は、また、25℃において、せん断速度を0.1(1/s)から100(1/s)まで上昇させた場合のせん断速度1.1(1/s)における粘度(1)と、せん断速度を100(1/s)から0.1(1/s)まで下降させた場合のせん断速度1.1(1/s)における粘度(2)の比(前者/後者)が15以下である前記組成物を提供する。
【0013】
本開示は、また、ヘーズ値が80%以下である前記組成物を提供する。
【発明の効果】
【0014】
下記式(1)で表される化合物は流動性物質(特に、中極性の油剤)に対する溶解性に優れ、且つ高い自己組織化力を有する。そのため、下記式(1)で表される化合物を増粘剤として使用すれば、前記流動性物質に、復元性を有するとろみを付与することができる。このようにして復元性を有するとろみが付与された流動性物質は、例えば、化粧品、医薬品、農薬、食品、接着剤、塗料等の分野において基剤等として好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施例で得られた化合物(1-1c)の
1H-NMRデータである。
【
図2】実施例で得られた化合物(1-2a)の
1H-NMRデータである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[化合物(1)]
本開示の化合物(1)は、下記式(1)で表される化合物である。
【化3】
[式(1)中、R
1は炭素数1~22の1価脂肪族炭化水素基を示す。R
2、R
4は、同一又は異なって、水素原子又は炭素数1~3の1価脂肪族炭化水素基を示す。R
3は炭素数2~8の2価炭化水素基を示す。R
5は下記式(r5-1)又は(r5-2)で表される基を示す]
【化4】
(式(r5-1)中、R
11は炭素数2~6の2価脂肪族炭化水素基を示す。R
12は水素原子又は炭素数1~3の1価脂肪族炭化水素基を示す。R
13は炭素数1~22の1価脂肪族炭化水素基を示す)
(式(r5-2)中、R
14は炭素数1~22の2価脂肪族炭化水素基を示し、R
15は水素原子又は炭素数1~22の1価脂肪族炭化水素基を示す。nは1以上の整数を示す)
【0017】
従って、本開示の化合物(1)には、下記式(1-1)で表される化合物(以後、「化合物(1-1)」と称する場合がある)と下記式(1-2)で表される化合物(以後、「化合物(1-2)」と称する場合がある)が含まれる。下記式中のR
1~R
4,R
11~R
15,nは前記に同じ。
【化5】
【0018】
前記炭素数1~22の1価脂肪族炭化水素基には、飽和脂肪族炭化水素基及び不飽和脂肪族炭化水素基が含まれる。前記飽和脂肪族炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、デシル基、ドデシル基等の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基が挙げられる。前記不飽和脂肪族炭化水素基としては、例えば、ビニル基、アリル基、1-ブテニル基等の直鎖状又は分岐鎖状アルケニル基;エチニル基、プロピニル基等の直鎖状又は分岐鎖状アルキニル基が挙げられる。
【0019】
炭素数1~22の2価脂肪族炭化水素基は、直鎖状又は分岐鎖状アルキレン基、直鎖状又は分岐鎖状アルケニレン基、及び直鎖状又は分岐鎖状アルキニレン基が挙げられる。具体的には、前記1価脂肪族炭化水素基の構造式から1個の水素原子を除いた基が挙げられる。
【0020】
前記炭素数1~3の1価脂肪族炭化水素基としては、例えば、直鎖状又は分岐鎖状アルキル基が挙げられる。
【0021】
前記炭素数2~8の2価脂肪族炭化水素基には、2価脂肪族炭化水素基、2価脂環式炭化水素基、2価芳香族炭化水素基、及びこれらから選択される2個以上が単結合を介して結合した2価の基が含まれる。前記2価脂肪族炭化水素基としては、例えば、メチレン基、メチルメチレン基、ジメチルメチレン基、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ヘキサメチレン基等の炭素数2~8のアルキレン基が挙げられる。前記2価脂環式炭化水素基としては、例えば、1,2-シクロヘキシレン基、1,3-シクロヘキシレン基、1,4-シクロヘキシレン基等の炭素数3~8のシクロアルキレン基が挙げられる。前記2価芳香族炭化水素基としては、例えば、例えば、o-フェニレン、m-フェニレン、p-フェニレン等のアリーレン基が挙げられる。
【0022】
R1としては、なかでも流動性物質への溶解性に優れる点で分岐鎖状脂肪族炭化水素基が好ましく、特に分岐鎖状アルキル基が好ましい。前記分岐鎖状脂肪族炭化水素基(特に、分岐鎖状アルキル基)は、分岐点を少なくとも1つ有する基である。前記分岐点の数は、例えば1~4個であり、なかでも流動性物質への溶解性に優れる点で、2~4個が好ましく、3~4個が特に好ましい。
【0023】
また、前記分岐鎖状脂肪族炭化水素基(特に、分岐鎖状アルキル基)は、流動性物質への溶解性に優れる点で、α位(より詳細には、隣接するカルボニル基のα位)に分岐点を有する基が好ましい。言い換えると、前記分岐鎖状脂肪族炭化水素基(特に、分岐鎖状アルキル基)としては、α位の炭素が第3級炭素である基が好ましい。
【0024】
R1の炭素数は1~22であり、炭素数の下限値は、流動性物質への溶解性に優れる点で、好ましくは5、特に好ましくは9、最も好ましくは12、とりわけ好ましくは15である。炭素数の上限値は、好ましくは20、特に好ましくは19、最も好ましくは18である。
【0025】
R2、R4、R12としては、高い自己組織化力を有する点において、なかでも水素原子が好ましい。
【0026】
R3としては、高い自己組織化力を有する点において、2価脂肪族炭化水素基、又は脂肪族炭化水素基と芳香族炭化水素基が単結合を介して結合した2価の基が好ましい。また、前記2価脂肪族炭化水素基としては、特にアルキレン基が好ましく、とりわけ直鎖状アルキレン基が好ましい。
【0027】
R3の炭素数は2~8であり、なかでも高い自己組織化力を有する点において、偶数(2,4,6,又は8)が好ましく、特に4が好ましい。また、R3の炭素数が奇数(例えば、3)である場合は、高い自己組織化力を有する点において、R5は式(r5-1)で表される基を示し、且つ前記式中のR13が炭素数16~24の直鎖状飽和脂肪族炭化水素基を示すことが好ましい。
【0028】
化合物(1)は、R3の炭素数が偶数であると、アミド基の方向が揃うため、化合物(1)同士が水素結合を密に形成することができるようになり、高い自己組織化力を発揮することができる。
【0029】
R11としては、炭素数2~6のアルキレン基が好ましく、特に炭素数2~4のアルキレン基が好ましく、とりわけ炭素数2~3のアルキレン基が好ましい。
【0030】
R13としては、なかでも流動性物質への溶解性に優れる点で、直鎖状脂肪族炭化水素基が好ましく、特に直鎖状不飽和脂肪族炭化水素基が好ましく、とりわけ直鎖状アルケニル基が好ましい。
【0031】
R13における1価脂肪族炭化水素基の炭素数は1~22であり、炭素数の下限値は、流動性物質への溶解性に優れる点で、好ましくは5、特に好ましくは9、最も好ましくは12、とりわけ好ましくは15である。炭素数の上限値は、好ましくは20、特に好ましくは19、最も好ましくは18である。
【0032】
R
13としては、特に流動性物質への溶解性に優れる点で、下記式(r13-1)で表される基が好ましい。
【化6】
(式中、s、tは同一又は異なって、5~10の整数を示す)
【0033】
R14としては、好ましくは2価飽和脂肪族炭化水素基、特に好ましくは直鎖状アルキレン基である。
【0034】
R14の炭素数は1~22であり、炭素数の下限値は、流動性物質への溶解性に優れる点で、好ましくは4、より好ましくは6、特に好ましくは8である。炭素数の上限値は、好ましくは20、より好ましくは18、特に好ましくは16、最も好ましくは14、とりわけ好ましくは12である。
【0035】
R15は、好ましくは1価飽和脂肪族炭化水素基、特に好ましくは直鎖状アルキル基である。
【0036】
R15の炭素数は、例えば1~22である。前記炭素数の下限値は、流動性物質への溶解性に優れる点で、好ましくは2、より好ましくは4である。炭素数の上限値は、好ましくは16、より好ましくは14、特に好ましくは12、最も好ましくは10、とりわけ好ましくは8である。
【0037】
nは括弧で示される構成単位の繰り返しの数であり、好ましくは1~3の整数、特に好ましくは1又は2、最も好ましくは1である。
【0038】
化合物(1-1)において、流動性物質への溶解性に優れる点で、R1とR13の炭素数の合計は16以上が好ましく、より好ましくは20以上、特に好ましくは27以上、最も好ましくは30以上である。
【0039】
化合物(1-2)において、流動性物質への溶解性に優れる点で、R14とR15の炭素数の合計は10以上が好ましく、より好ましくは12以上、特に好ましくは14以上である。R14とR15の炭素数の和の上限値は、例えば26、好ましくは22、特に好ましくは18である。
【0040】
本開示の化合物(1)は上記構成を有するため、流動性物質に対する溶解性に優れ、且つ、優れた自己組織化力を有する。そのため、前記化合物(1)を加熱した流動性物質に溶解し、冷却すれば、前記流動性物質に、復元性を有するとろみを付与することができる。そのため、前記化合物(1)は、増粘剤或いはとろみ付与剤として好適に使用することができる。
【0041】
前記化合物(1-1)であって、式中のR
12が水素原子である化合物は、例えば、下記工程[1]~[3]を経て製造することができる。下記式中のR
1~R
4,R
11,R
13は前記に同じ。Xはハロゲン原子を示す。
【化7】
【0042】
前記工程[1]は上記式(2)で表される化合物と上記式(3)で表される化合物を反応させて、上記式(4)で表される化合物を製造する工程である。
【0043】
前記反応は、塩基の存在下で反応させることが好ましい。前記塩基としては、例えば、トリエチルアミン、ピリジン、4-ジメチルアミノピリジン等の有機塩基等を挙げることができる。塩基の使用量としては、上記式(2)で表される化合物と上記式(3)で表される化合物の合計1モルに対して、0.5~2.0モル程度である。
【0044】
前記反応が進行すると水が生成する。そのため、脱水剤(例えば、無水酢酸)を使用して水を除去しつつ反応を行うことが、反応の進行を促進する上で好ましい。
【0045】
前記反応は、溶媒の存在下で反応を行うことが好ましい。溶媒としては、例えば、ペンタフルオロフェノール、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、o-ジクロロベンゼン等が挙げられる。これらは、1種を単独で使用することもできるし、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0046】
前記工程[2]は上記式(4)で表される化合物と上記式(5)で表される化合物を反応させて、上記式(6)で表される化合物を製造する工程である。
【0047】
前記反応は、溶媒の存在下で反応を行うことが好ましい。溶媒としては、例えば、アセトニトリル、プロピオニトリルなどのニトリル系溶媒が挙げられる。これらは、1種を単独で使用することもできるし、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0048】
前記工程[3]は上記式(6)で表される化合物と上記式(7)で表される化合物を反応させて化合物(1-1)を製造する工程である。
【0049】
前記反応は、塩基の存在下で反応させることが好ましい。前記塩基としては、工程[1]において使用する塩基と同様の例が挙げられる。塩基の使用量としては、上記式(6)で表される化合物と上記式(7)で表される化合物の合計1モルに対して、0.5~2.0モル程度である。
【0050】
前記反応は、溶媒の存在下で反応を行うことが好ましい。溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール系溶媒が挙げられる。これらは、1種を単独で使用することもできるし、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0051】
前記化合物(1-2)は、例えば、下記工程[1’]、[2’]、[3’]を経て製造することができる。下記式中のR
1~R
4,R
14,R
15,nは前記に同じ。Xはハロゲン原子を示す。下記式中、R’は炭素数1~5のアルキル基を示す。
【化8】
【0052】
前記工程[1’]は上記式(8)で表される化合物とアルコール(R’OH;例えばメタノール)を反応させて、上記式(9)で表される化合物を製造する工程である。
【0053】
前記反応が進行すると水が生成する。そのため、脱水剤(例えば、硫酸)を使用して水を除去しつつ反応を行うことが、反応の進行を促進する上で好ましい。
【0054】
前記工程[2’]は上記式(9)で表される化合物と上記式(5)で表される化合物を反応させて、上記式(10)で表される化合物を製造する工程である。
【0055】
前記工程[3’]は上記式(10)で表される化合物と上記式(7)で表される化合物を反応させて化合物(1-2)を製造する工程である。
【0056】
前記反応は、塩基の存在下で反応させることが好ましい。前記塩基としては、例えば、トリエチルアミン、ピリジン、4-ジメチルアミノピリジン等の有機塩基等を挙げることができる。塩基の使用量としては、上記式(10)で表される化合物と上記式(7)で表される化合物の合計1モルに対して、0.5~2.0モル程度である。
【0057】
各工程の反応終了後、得られた反応生成物は、一般的な、沈殿・洗浄・濾過により分離精製できる。
【0058】
[増粘剤]
本開示の増粘剤は、上記化合物(1)を含む。上記化合物(1)は1種を単独で含んでいても良いし、2種以上を組み合わせて含んでいても良い。
【0059】
前記増粘剤とは、流動性物質を増粘し、とろみを付与する作用を有する化合物である。前記増粘剤はとろみ付与剤であってもよい。
【0060】
前記増粘剤は上記化合物(1)以外にも他の成分を含有していても良いが、増粘剤全量における化合物(1)の占める割合は、例えば60重量%以上、好ましくは70重量%以上、特に好ましくは80重量%以上、最も好ましくは90重量%以上、とりわけ好ましくは99重量%以上である。
【0061】
[組成物]
本開示の組成物は上記化合物(1)と流動性物質を含む組成物であり、好ましくは、上記化合物(1)により流動性物質にとろみが付与された、とろみ状組成物である。
【0062】
前記流動性物質は特に制限がないが、例えばレオメーターによる粘度[25℃、せん断速度10(1/s)における粘度(η)]が0.1Pa・s以下の有機物質である。
【0063】
前記流動性物質としては、例えば、アルコール(メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等の1価アルコール;エチレングリコールなどの2価アルコール;グリセリン等の多価アルコール)、炭化水素油(ヘキサン、シクロヘキサン、イソドデカン、ベンゼン、トルエン、ポリαオレフィン、流動パラフィン等)、エーテル類(テトラヒドロフラン等)、ハロゲン化炭化水素(四塩化炭素、クロロベンゼン等)、石油成分(ケロシン、ガソリン、軽油、重油等)、動植物油(ヒマワリ油、オリーブ油、大豆油、コーン油、ヒマシ油、牛脂、ホホバ油、ゴマ油、スクワラン等)、シリコーン油(ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン等)、エステル類(オレイン酸オクチルドデシル、オクタン酸セチル、エチルヘキサン酸セチル、グリセリルトリイソオクタネート、ネオペンチルグリコールジイソオクタネート等)、芳香族カルボン酸、ピリジン等が挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0064】
前記流動性物質としては、なかでも上記化合物(1)の溶解性に優れる点で、中極性又は高極性の流動性有機物質が好ましく、例えばIOB(Inorganic/Organic Balance)が0.05以上(IOBの上限値は、例えば1.0)の流動性有機物質が好ましい。
【0065】
前記流動性物質としては、なかでも、動植物油及び/又はアルコールを少なくとも含有することが好ましく、特に動植物油及びアルコールを流動性物質全量の50重量%を超えて(好ましくは60重量%以上、特に好ましくは70重量%以上、最も好ましくは80重量%以上、とりわけ好ましくは90重量%以上)含有することが好ましい。
【0066】
上記化合物(1)は、1種を単独で含んでいてもよいし、2種以上を組み合わせて含んでいてもよい。上記化合物(1)が2種の化合物を含む場合の好ましい組み合わせとしては、例えば以下の組み合わせが挙げられる。
1.化合物(1-1)であって、式中のR3の炭素数が偶数(例えば、2)であり、R1の炭素数が1~12である化合物と、化合物(1-1)であって、式中のR3の炭素数が偶数(例えば、2)であり、R1の炭素数が13~22である化合物の組み合わせ
2.化合物(1-1)であって、式中のR3の炭素数が奇数(例えば、3)であり、R1の炭素数が1~12であり、R13が炭素数1~17(好ましくは7~17)の脂肪族炭化水素基である化合物と、化合物(1-1)であって、式中のR3の炭素数が奇数(例えば、3)であり、R1の炭素数が1~12であり、R13が炭素数18~22の脂肪族炭化水素基である化合物の組み合わせ
【0067】
上記化合物(1)が2種の化合物を含む場合、2種の化合物の配合割合(重量比)は、例えば90/10~10/90であり、好ましくは80/20~20/80、特に好ましくは70/30~30/70、最も好ましくは60/40~40/60である。
【0068】
上記化合物(1)の配合量(2種以上含有する場合はその総量)は、流動性物質の種類にもよるが、流動性物質100重量部に対して、例えば0.1~10重量部、好ましくは0.5~5重量部である。
【0069】
前記組成物は、上記化合物(1)と流動性物質以外にも本開示の効果を損なわない範囲内で他の成分を1種又は2種以上含有していてもよい。他の成分としては、例えば、化粧品、医薬品、農薬、食品、接着剤、塗料等のとろみの付与を所望する組成物に含有される一般的な化合物(例えば、薬効成分、顔料、香料等)が挙げられる。
【0070】
上記化合物(1)と流動性物質を混合し、例えば60~100℃で加熱しつつ撹拌することで、流動性物質に上記化合物(1)を溶解させることができる。上記化合物(1)が流動性物質に溶解した後は、冷却することでとろみを発現させることができ、本開示のとろみ状組成物が得られる。冷却は、25℃以下にまで冷却することができればよく、室温で徐々に冷却してもよいし、氷冷等により急速に冷却してもよい。
【0071】
前記流動性物質として、化合物(1)の溶解性に優れた流動性物質を選択して使用すれば、透明性に優れた(ヘーズ値は、例えば80%以下、好ましくは40%以下、特に好ましくは20%以下)とろみ状組成物を製造することができる。
【0072】
前記組成物を、25℃において、せん断速度を0.1(1/s)から100(1/s)まで上昇させた場合の、せん断速度1.1(1/s)における粘度(1)は、例えば0.1Pa・s超であり、好ましくは1.0Pa・s以上、特に好ましくは5.0Pa・s以上、最も好ましくは10.0Pa・s以上である。粘度(1)の上限値は、例えば100Pa・s、好ましくは80Pa・s、特に好ましくは70Pa・sである。
【0073】
前記組成物を、25℃において、せん断速度を100(1/s)から0.1(1/s)まで下降させた場合のせん断速度1.1(1/s)における粘度(2)は、例えば0.08Pa・s以上、好ましくは0.1Pa・s以上、特に好ましくは1.0Pa・s以上、最も好ましくは2.0Pa・s以上である。粘度(2)の上限値は、例えば50Pa・s、好ましくは40Pa・s、特に好ましくは30Pa・sである。
【0074】
前記粘度(1)と粘度(2)の比[粘度(1)/粘度(2);変化率]は、低いことが復元性に優れる点で好ましく、例えば15以下、好ましくは12以下、更に好ましくは10以下、特に好ましくは7以下、最も好ましくは5以下である。
【0075】
前記粘度は、レオメーターを使用して測定することができる。
【0076】
前記組成物は、流動性物質が化合物(1)によりとろみが付与された構成を有する。前記とろみは復元性を有し、せん断力を付与することで流動性が増してとろみが低下し、付与されるせん断力の低下或いは消失により、流動性が低下してとろみが復活する。
【0077】
前記組成物は、上記特性を有するため、化粧品、医薬品、農薬、食品、接着剤、塗料に好適に使用することができる。
【0078】
以上、本開示の各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であって、本開示の主旨から逸脱しない範囲において、適宜、構成の付加、省略、置換、及び変更が可能である。
【実施例0079】
以下、実施例により本開示をより具体的に説明するが、本開示は、これらの実施例によって限定されることはなく、特許請求の範囲の記載によってのみ限定される。
【0080】
実施例1
オレイルアミン(下記式(2a)で表される化合物、47.0g、175mmol)とトリエチルアミン(26.7g、363mmol)をDMF(50mL)に溶解した。この溶液に無水コハク酸(下記式(3a)で表される化合物、19.3g、199mmol)のDMF(100mL)溶液を50℃で10分間かけて滴下した。10分間攪拌した後、無水酢酸(23.3g、228mmol)を加え50℃で20分間攪拌した。溶解反応混合物を2N HCl 300mLに注ぎ、酢酸エチル(150mL×3)で抽出し、抽出液を濃縮し、減圧乾燥した。これにより、化合物(4a)(下記式(4a)で表される化合物、53.5g、153mmol)を収率87%で得た。
【0081】
【0082】
化合物(4a)(下記式(4a)で表される化合物、50.0g、143mmol)とエチレンジアミン(下記式(5a)で表される化合物、34.4g、572mmol)をアセトニトリル30mLに溶解し、18時間還流した。反応液をアセトニトリル300mLに注ぎ、0℃に冷却し、生成した固体を濾取した。得られた固体を80℃の2-プロパノールに溶解し、濾過した。2-プロパノールを減圧で除去し、アセトニトリルで再結晶により精製した。これにより、化合物(6a)(下記式(6a)で表される化合物、42.2g、103mmol)を白色結晶性粉末として収率72%で得た。
【0083】
【0084】
化合物(6a)(下記式(6a)で表される化合物、8.7g、21.2mmol)とトリエチルアミン(3.44g、34.0mmol)を2-プロパノール50mLに溶解した。この溶液に、イソステアロイルクロリド(下記式(7a)で表される化合物、8.36g、21.2mmol)を室温で15分かけて滴下した。反応溶液を50℃で1N HCl 500mLに注ぎ攪拌した。混合溶液を0℃に冷却し、得られた固体を蒸留水で洗浄した。固体を酢酸エチルで再結晶により精製して、化合物(1-1a)(下記式(1-1a)で表される化合物、12.4g、18.3mmol)を白色結晶性粉末として収率86%で得た。得られた化合物(1-1a)の
1H-NMR(400MHz,CDCl
3)測定結果を
図1に示す。
【0085】
【0086】
実施例2
実施例1と同様の方法で、化合物(6a)を得た。
【0087】
得られた化合物(6a)(10.8g、26.4mmol)とトリエチルアミン(4.26g、42.2mmol)を2-プロパノール50mLに溶解した。この溶液に、2-エチルヘキサノイルクロリド(下記式(7b)で表される化合物、5.57g、34.3mmol)を室温で15分かけて滴下した。反応溶液を50℃で、1N HCl 500mLに注ぎ攪拌した。混合溶液を0℃に冷却し、得られた固体を蒸留水で洗浄した。固体を酢酸エチルで再結晶により精製し、化合物(1-1b)(下記式(1-1b)で表される化合物、12.7g、23.7mmol)を白色結晶性粉末として収率90%で得た。
【0088】
【0089】
実施例3~10
実施例1,2と同様の方法で、下記化合物(1-1c)~(1-1j)を得た。下記化合物(1-1c)の
1H-NMR(400MHz,CDCl
3)測定結果を
図1に示す。
【0090】
【0091】
【0092】
実施例11
12-ヒドロキシステアリン酸(40.0g、166mmol)を、メタノール(150mL)に加熱溶解した。この溶液に硫酸(10.0g、102mmol)のメタノール(100mL)溶液を滴下して、24時間還流した。この反応液を0℃に冷却した水1Lに攪拌しながら注ぎ、生成した固体を濾取した。得られた固体を乾燥後、n-ヘキサンで再結晶により精製した。これにより、メチルエステル体の白色結晶性粉末を収率85%(44.4g、141mmol)で得た。
【0093】
【0094】
12-ヒドロキシステアリン酸メチルエステル(20.0g、63.6mmol)をエチレンジアミン(38.2g、636mmol)に溶解し、30時間還流した。反応液を2-プロパノール(100mL)に溶解後、不溶物を濾過した。エバポレーターを用いて、濾液から未反応のエチレンジアミンおよび2-プロパノールを除去し、アセトニトリルで再結晶により精製した。アミン体を白色結晶性粉末として収率90%(19.6g、57.2mmol)で得た。
【0095】
【0096】
アミン体(5.00g、14.6mmol)、トリエチルアミン(2.95g、29.2mmol)を2-プロパノール:水(5:1)50mLに溶解した。この溶液に、イソステアロイルクロリド(8.36g、21.2mmol)を室温で15分かけて滴下した。反応溶液に水100mLに注ぎ攪拌した。混合溶液を0℃に冷却し、得られた固体を濾過した。固体をアセトンでの再結晶により精製し、化合物(1-2a)(下記式(1-2a)で表される化合物)を白色結晶性粉末として収率79%(7.02g、11.5mmol)で得た。得られた化合物(1-2a)の
1H-NMR(400MHz,CDCl
3)測定結果を
図2に示す。
【0097】
【0098】
実施例12~17
実施例11と同様の方法で、下記化合物(1-2b)~(1-2g)を得た。
【0099】
【0100】
比較例1,2
実施例11と同様の方法で、下記化合物(x1)(x2)を得た。
【0101】
【0102】
実施例18
増粘剤としての、実施例1で得られた化合物(1-1a)0.2gをオリーブ油(IOB=0.16)20gに80℃で溶解し、室温に冷却して組成物を得た。
【0103】
実施例19~34、比較例3,4,5
増粘剤として、化合物(1-1a)に代えて下記表1に記載の化合物を使用した以外は実施例18と同様にして組成物を得た。尚、比較例5では増粘剤を使用しなかった以外は実施例18と同様にして組成物を得た。
【0104】
実施例35,36
増粘剤として、下記表1に記載の化合物2種を使用した。これら2種の化合物について、それぞれの化合物0.2gをオリーブ油(IOB=0.16)20gに80℃で溶解して溶解物を得、得られた溶解物を1:1で混ぜ合わせ、その後、室温に冷却して組成物を得た。
【0105】
得られた組成物の透明性、せん断粘度、復元性を評価した。結果を下記表にまとめて示す。
【0106】
透明性の評価は、下記基準で評価した。尚、ヘーズ値はヘーズメーター(商品名「NDH4000」、日本電色工業(株)製)を使用し、組成物を石英セルに入れて測定した。
<評価基準>
◎:ヘーズ値が20%未満
○:ヘーズ値が20%以上、40%未満
△:ヘーズ値が40%以上、80%未満
×:ヘーズ値が80%以上
【0107】
せん断粘度は、レオメーターを使用して、25℃において、せん断速度を0.1(1/s)から100(1/s)まで上昇させた場合のせん断速度1.1(1/s)における粘度(1)と、せん断速度を100(1/s)から0.1(1/s)まで下降させた場合のせん断速度1.1(1/s)における粘度(2)を測定した。
【0108】
レオメーターを使用して求めた粘度(1)、(2)を用いて、下記式から変化率を算出して復元性を評価した。尚、変化率の値が低い方が復元性に優れる。
変化率=せん断粘度(1)/せん断粘度(2)
【0109】