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特開2023-4399固体酸化物形電気化学セル及びその利用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023004399
(43)【公開日】2023-01-17
(54)【発明の名称】固体酸化物形電気化学セル及びその利用
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/1213 20160101AFI20230110BHJP
   H01M 4/86 20060101ALI20230110BHJP
   H01M 8/1253 20160101ALI20230110BHJP
   H01M 8/12 20160101ALI20230110BHJP
   C01G 51/00 20060101ALI20230110BHJP
   C01G 53/00 20060101ALI20230110BHJP
【FI】
H01M8/1213
H01M4/86 T
H01M8/1253
H01M8/12 101
H01M4/86 U
H01M8/12 102A
C01G51/00 A
C01G53/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021106029
(22)【出願日】2021-06-25
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)(出願人による申告)2018年度、独立行政法人エネルギー・産業技術開発機構「水素利用等先導研究開発事業/水電解水素製造技術高度化のための基盤技術研究開発/高温水蒸気電解技術の研究開発」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000173522
【氏名又は名称】一般財団法人ファインセラミックスセンター
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川原 浩一
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 雅也
(72)【発明者】
【氏名】長田 憲和
(72)【発明者】
【氏名】犬塚 理子
(72)【発明者】
【氏名】亀田 常治
【テーマコード(参考)】
4G048
5H018
5H126
【Fターム(参考)】
4G048AA03
4G048AA05
4G048AB02
4G048AC06
4G048AD03
4G048AE07
5H018AA06
5H018AS03
5H018EE13
5H018HH05
5H126AA02
5H126BB06
5H126JJ05
(57)【要約】      (修正有)
【課題】電解質膜と酸素極の界面に高抵抗層の形成が無い固体酸化物形電気化学セルを提供する。
【解決手段】酸化チタンとストロンチウム含有複合酸化物とを含む酸素極と、ジルコニウム酸化物を含む固体電解質と、水素極と、前記固体電解質と前記酸素極との間には希土類添加酸化セリウムを含む中間層とを備え、前記酸素極の前記ストロンチウム含有複合酸化物は、La1-xSrxCoyFe1-y3-σ(0<x<1、0<y≦1であり、σは、電荷中性条件を満たすように定まる値である。)である固体酸化物形電気化学セルとする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体酸化物形電気化学セルであって、
酸化チタンとストロンチウム含有複合酸化物とを含む酸素極と、
ジルコニウム酸化物を含む固体電解質と、
水素極と、
前記固体電解質と前記酸素極との間には、希土類添加酸化セリウムを含む中間層と、
を備える、セル。
【請求項2】
前記酸素極の前記ストロンチウム含有複合酸化物は、La1-xSrxCoyFe1-y3-σ(0<x<1、0<y≦1であり、σは、電荷中性条件を満たすように定まる値である。)である、請求項1に記載のセル。
【請求項3】
前記固体電解質の前記ジルコニウム酸化物は、希土類添加酸化ジルコニウムである、請求項1又は2に記載のセル。
【請求項4】
前記中間層の希土類添加酸化セリウムは、ガドリニウム添加酸化セリウム、ランタン添加酸化セリウム、サマリウム添加酸化セリウム及びイットリウム添加酸化セリウムからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1~3のいずれかに記載のセル。
【請求項5】
前記固体電解質の前記酸化ジルコニウムは、希土類添加酸化ジルコニウムであり、前記中間層の希土類添加セリウム酸化物は、ガドリニウム添加酸化セリウムである、請求項2に記載のセル。
【請求項6】
前記酸素極は、前記ストロンチウム含有複合酸化物に対して前記チタン酸化物を前記ストロンチウム含有複合酸化物中のストロンチウムの熱拡散を抑制できる有効量含む、請求項1~5のいずれかに記載のセル。
【請求項7】
前記酸素極の前記ストロンチウム含有複合酸化物は、La1-xSrxCoyFe1-y3-σ(0<x<1、0<y≦1であり、σは、電荷中性条件を満たすように定まる値である。)であり、前記酸素極は、前記ストロンチウム含有複合酸化物に対して前記酸化チタンを8質量%以下含有する、請求項1~6のいずれかに記載のセル。
【請求項8】
請求項1~7のいずれかに記載のセルを備える、固体酸化物形電気化学デバイス。
【請求項9】
固体酸化物形燃料電池及び/又は固体酸化物形電解セルである、請求項8に記載の固体酸化物形電気化学デバイス。
【請求項10】
固体酸化物形電気化学セルの酸素極材料であって、
La1-xSrxCoyFe1-y3-σ(0<x<1、0<y≦1であり、σは、電荷中性条件を満たすように定まる値である。)と、La1-xSrxCoyFe1-y3-σに対して1質量%以上7質量%以下の酸化チタンと、を含有する、材料。
【請求項11】
多孔質焼結体である、請求項10に記載の酸素極材料。
【請求項12】
固体酸化物形電気化学セルの製造方法であって、
酸化チタンとストロンチウム含有複合酸化物とを含む酸素極層、希土類添加酸化セリウムを含む中間層、ジルコニウム酸化物を含む固体電解質層及び水素極層を、この順序で備えるセルを取得する工程を備える、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、固体酸化物形電気化学セル及びその利用等に関する。
【背景技術】
【0002】
固体酸化物形電気化学セルとしては、固体酸化物形電解セル(SOEC)及び固体酸化物形燃料電池(SOFC)がある。これらの電気化学セルの性能は、電極材料や電解質材料の特性だけでなく、電極と電解質との界面で形成されることがある抵抗層の影響を大きく受けることが知られている。多用されているYSZ電解質とLSCF((LaSr)(CoFe)O3-s)酸素極を用いたセルでは、電解質と酸素極との界面に高抵抗なSrZrO3が形成されることが指摘されている。このため、反応防止の目的で酸素極と電解質の界面にセリア系の中間層が導入されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-69214号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、中間層を導入しても、中間層と電解質との界面にも、高抵抗なSrZrO3が形成されてしまっていた。したがって、電気化学セルにおいては依然として高抵抗層形成抑制が要請されている。
【0005】
本明細書は、酸素極と電解質との界面での高抵抗相の生成をさらに抑制できる技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、セリア系中間相を配しても、依然としてSrZrO3が形成される原因について検討した。その結果、セル焼成などの加熱時に、酸素極からSrが中間相を拡散し、固体電解質であるYSZとの界面に到達し、Srが自身と反応性の高いZrと反応してSrZrO3を形成することを突き止めた。そこで、本発明者らは、Srに対する反応性がZrよりも高いTiに着目した。そして、予めTi基化合物を酸素極に存在させることにより、加熱時等にTiがSrをゲッタリングしてSrTiO3を形成できること、及び、これにより、YSZ界面でのSrZrO3の形成を抑制できるという知見を得た。本明細書は、これらの知見に基づき以下の手段を提供する。
【0007】
[1]固体酸化物形電気化学セルであって、
酸化チタンとストロンチウム含有複合酸化物とを含む酸素極と、
ジルコニウム酸化物を含む固体電解質と、
水素極と、
前記固体電解質と前記酸素極との間には、希土類添加酸化セリウムを含む中間層と、
を備える、セル。
[2]前記酸素極の前記ストロンチウム含有複合酸化物は、La1-xSrxCoyFe1-y3-σ(0<x<1、0<y≦1であり、σは、電荷中性条件を満たすように定まる値である。)である、[1]に記載のセル。
[3]前記固体電解質の前記ジルコニウム酸化物は、希土類添加酸化ジルコニウムである、[1]又は[2]に記載のセル。
[4]前記中間層の希土類添加酸化セリウムは、ガドリニウム添加酸化セリウム、ランタン添加酸化セリウム、サマリウム添加酸化セリウム及びイットリウム添加酸化セリウムからなる群から選択される少なくとも1種である、[1]~[3]のいずれかに記載のセル。
[5]前記固体電解質の前記酸化ジルコニウムは、希土類添加酸化ジルコニウムであり、前記中間層の希土類添加セリウム酸化物は、ガドリニウム添加酸化セリウムである、[2]に記載のセル。
[6]前記酸素極は、前記ストロンチウム含有複合酸化物に対して前記チタン酸化物を前記ストロンチウム含有複合酸化物中のストロンチウムの熱拡散を抑制できる有効量含む、[1]~[5]のいずれかに記載のセル。
[7]前記酸素極の前記ストロンチウム含有複合酸化物は、La1-xSrxCoyFe1-y3-σ(0<x<1、0<y≦1であり、σは、電荷中性条件を満たすように定まる値である。)であり、前記酸素極は、前記ストロンチウム含有複合酸化物に対して前記酸化チタンを8質量%以下含有する、[1]~[6]のいずれかに記載のセル。
[8][1]~[7]のいずれかに記載のセルを備える、固体酸化物形電気化学デバイス。
[9]固体酸化物形燃料電池及び/又は固体酸化物形電解セルである、[8]に記載の固体酸化物形電気化学デバイス。
[10]固体酸化物形電気化学セルの酸素極材料であって、
La1-xSrxCoyFe1-y3-σ(0<x<1、0<y≦1であり、σは、電荷中性条件を満たすように定まる値である。)と、La1-xSrxCoyFe1-y3-σに対して1質量%以上7質量%以下の酸化チタンと、を含有する、材料。
[11]多孔質焼結体である、[10]に記載の酸素極材料。
[12]固体酸化物形電気化学セルの製造方法であって、
酸化チタンとストロンチウム含有複合酸化物とを含む酸素極層、希土類添加酸化セリウムを含む中間層、ジルコニウム酸化物を含む固体電解質層及び水素極層を、この順序で備えるセルを取得する工程を備える、方法。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施例2で作製したSOFC用の積層体の概要を示す図である。
図2】各種濃度でTiO2を添加したLSCFを酸素極とするSOFC用積層体のSEM/EDX(Sr、Co、Zr、Ti)の分析結果を示す図である。
図3】各種濃度でTiO2を添加したLSCFを酸素極とするSOFCの700℃での最大出力密度を示す図である。(A)は、中間層(GDC)を備える製造例1~5及び比較製造例1についての結果であり、(B)は、中間層(GDC)を備えない比較製造例2~6についての結果である。
図4】各種濃度でTiO2を添加したLSCFを酸素極とするSOFCの800℃での最大出力密度を示す図である。(A)は、中間層(GDC)を備える製造例1~5及び比較製造例1についての結果であり、(B)は、中間層(GDC)を備えない比較製造例2~6についての結果である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書の開示は、固体酸化物形電気化学セル及びその利用等に関する。
【0010】
本明細書に開示される固体酸化物形電気化学セルは(以下、単にセルともいう。)は、酸素極と固体電解質との間にセリア系中間層を備えるとともに、酸素極は、酸化チタンと少なくともストロンチウムを含む複合酸化物とを含んでいる。このため、酸素極の焼成や、酸素極と中間層と固体電解質との一体焼成などの加熱時に、酸素極のストロンチウムは、酸化チタン由来のチタンにゲッタリングされて、SrTiO3などの酸化物を形成し、ストロンチウムとしての熱拡散が抑制される。この結果、酸素極から中間層を通過して固体電解質にまで熱拡散するストロンチウムも減少し、固体電解質と中間層との界面に高抵抗なSrZrO3の生成が抑制される。
【0011】
高抵抗相の形成が抑制されることで、固体酸化物形電解セルとしても、固体酸化物形燃料電池セルとしても、効率的な電気化学反応が実現される。
【0012】
また、本明細書に開示される固体酸化物形電気化学セルの酸素極材料によれば、中間層を備えていてもなお高抵抗相の形成の原因となるストロンチウムの熱拡散を抑制できる。このため、中間層と固体電解質との界面における高抵抗相の生成を抑制することができる。
【0013】
また、本明細書に開示される固体酸化物形電気化学セルの製造方法によれば、酸化チタンとストロンチウム含有複合酸化物とを含む酸素極材料層を加熱する工程を含むため、当該加熱工程において、ストロンチウムは、チタンと反応してSrTiO3を生成する。このため、当該加熱工程において、また、その他の加熱時においても、ストロンチウムが熱拡散により中間層及び固体電解質側に移動することが抑制される。これにより、中間層と固体電解質層との界面における高抵抗相の形成を抑制できる。
【0014】
本明細書において固体酸化物形電気化学セルは、固体酸化物形電解セル(SOEC)及び固体酸化物形燃料電池(SOFC)を含んでいる。固体酸化物形電気化学セルは、SOECとSOFCとのリバーシブルであってもよい。本明細書において、酸素極とは、SOECにおいては、酸素が生成する電極を意味し、SOFCにおいては、酸素(空気)が供給される電極(空気極)を意味している。また、本明細書において、水素極とは、SOECにおいては、水(水蒸気)が供給されて水素が生成する電極であり、SOFCにおいては、水素が供給される電極(燃料極)を意味している。
【0015】
以下、本明細書において開示する固体酸化物形電気化学セル、固体酸化物形電気化学デバイス、固体酸化物形電気化学セルの酸素極材料、固体酸化物形電気化学セルの製造方法の実施形態について詳細に説明する。
【0016】
(固体酸化物形電気化学セル)
固体酸化物形電気化学セルは、酸素極と、固体電解質と、水素極と、固体電解質と酸素極との間に配置される中間層と、を備えることができる。
【0017】
(酸素極)
セルにおける酸素極は、酸化チタンとストロンチウム含有複合酸化物とを含んでいる。ストロンチウム含有複合酸化物としては、ストロンチウムを含有する複合酸化物であって、SOECやSOFCに用いられる公知の複合酸化物であればよい。かかる複合酸化物としては、例えば、一般式ABOで示されるペロブスカイト型構造を有する化合物が挙げられる。なお、Aは、少なくともSrを含み、La,Caから選択される一種以上の元素であり、BはMn,Co,Fe,Niから選択される一種以上の元素である。より具体的には、La(ランタン)・Sr(ストロンチウム)・Co(コバルト)・Fe(鉄)を含む(La,Sr)(Co,Fe)O系複合酸化物(以下、「LSCF」と記すことがある。)、La・Sr・Ca・Mnを含む(La,Sr,Ca)MnO系複合酸化物(以下、「LSCM」と記すことがある。)、La・Sr・Coを含む(La,Sr)CoO系複合酸化物(以下、「LSC」と記すことがある。)、La・Sr・Mnを含む(La,Sr)MnO系複合酸化物(以下、「LSM」と記すことがある。)、Sr・Sm・Coを含む(Sr,Sm)CoO系複合酸化物(以下、「SSC」と記すことがある。)を挙げることができる。これらは、一種又は二種以上を混合して用いることができる。
【0018】
これらのなかでも、例えば、(La,Sr)(Co,Fe)O系複合酸化物であり、より具体的には、La1-xSrxCoyFe1-y3-σ(0<x<1、0<y≦1であり、σは、電荷中性条件を満たすように定まる値である。)を用いることができる。x及びyの値は、特に限定するものではないが、xは、例えば、0.2~0.8であり、また例えば、0.3~0.7であり、また例えば、0.4である。yは、例えば、0.05~0.65であり、また例えば、0.1~0.6であり、また例えば、0.2である。なお、σは、ペロブスカイト型構造の一部を置換する原子の種類等によって変動するが、展開的には、0≦σ<1である。
【0019】
酸素極は、酸化チタン(TiO2)を含んでいる。酸化チタンの含有量は特に限定するものではなく、用いるSr含有複合酸化物を固体酸化物形電気化学セルの作製時の焼成工程などの加熱時において、その熱拡散を抑制する範囲、すなわち、熱拡散を抑制するのに有効量含んでいれば足りる。酸化チタンの有効量は、Sr含有複合酸化物に酸化チタンを添加して、セリア系中間層を酸素極と固体電解質との間に備えたSOECやSOFCセルやその前駆体である積層体を作製して、Srの熱拡散を評価するか、SOECやSOFCの性能を評価することにより容易に決定することができる。
【0020】
酸化チタンの含有量の上限は、例えば、Sr含有複合酸化物の全量に対して15質量%であり、また例えば、10質量%であり、また例えば、9質量%であり、また例えば、8質量%であり、また例えば、7質量%であり、また例えば、6質量%であり、また例えば、5質量%であり、また例えば、4質量%である。酸化チタンの含有量の下限は、例えば、前記全量に対して、0.1質量%であり、また例えば、0.2質量%であり、また例えば、0.4質量%であり、また例えば、0.5質量%であり、また例えば、0.6質量%であり、また例えば、0.7質量%であり、また例えば、0.8質量%であり、また例えば、1質量%であり、また例えば、1.2質量%であり、また例えば、1.4質量%であり、また例えば、1.6質量%であり、また例えば、1.8質量%であり、また例えば、2質量%である。酸化チタンの含有量の範囲は、上記した上限及び下限から任意の数値を選択して組み合わせて、用いるセル要素において好適な範囲を設定することができる。例えば、当該範囲は、0.5質量%以上8質量%以下であり、また例えば、1質量%以上7質量%以下であり、また例えば、2質量%以上6質量%以下などとすることができる。
【0021】
こうした酸素極材料は、公知の種々の方法で合成することができる。特に限定するものではないが、例えば、噴霧熱分解法で合成することもできる。噴霧熱分解法によれば、形状や粒径などの制御が可能であり、多孔質焼結体を形成するのに好適な粉体を得ることができる。特に限定するものではないが、酸素極材料の粉末の平均粒子径は、例えば、20μm以下であり、また例えば、0.01μm以上10μm以下であり、また例えば、0.05μm以上10μm以下であり、また例えば、0.1μm以上5μm以下である。なお、平均粒子径は、レーザ散乱・回折法に基づく粒度分布測定装置により測定された粒子径であって体積基準の粒度分布における積算値50%での粒径を意味している。
【0022】
酸素極は、こうした酸素極材料を混合し、必要に応じて、後述する固体電解質材料を含んでおり、さらに、焼結助剤や造孔材等を用いて成形、製膜又は積層し、その後焼成することで、独立して又はセルの一部として得ることができる。酸素極の厚みはセルの構造等に応じて適宜決定すればよく特に限定されないが、電解質支持型セル又は水素極支持型セルのとき、例えば、5μm以上200μm以下であり、また例えば20μm以上50μm以下である。また、酸素極支持型セルのとき、例えば、0.5mm以上2mm以下である。めた、メタルサポート型のとき、例えば、5μm以上200μm以下である。なお、酸素極の焼結のための焼成工程における加熱温度は、例えば、650℃以上1350℃以下であり、また例えば1000℃以上1250℃以下である。また、熱処理時間は、例えば、0.5時間以上24時間以下であり、また例えば1時間以上5時間以下である。その他、固体酸化物形電気化学セル用の積層体の製造方法は当業者に周知であるので説明を省略する。
【0023】
(固体電解質)
固体電解質は、ジルコニウム酸化物を含有している。ジルコニウム酸化物は、特に限定するものではないが、安定化又は部分安定化酸化ジルコニウムが挙げられる。酸化ジルコニウムの安定化のためにドープされる金属は、特に限定しないが、カルシウム(酸化カルシウム)、マグネシウム(酸化マグネシウム)のほか、希土類であるイットリウム(酸化イットリウム)、スカンジウム(酸化スカンジウム)などが挙げられる。ドープ量は特に限定するものではいが、ジルコニアに対して、金属酸化物として6モル%以上10モル%以下などとすることができる。
【0024】
固体電解質は、緻密質焼結体として提供される。ジルコニウム酸化物を成形、製膜、積層し、焼成して焼結させることにより得ることができる。固体電解質の厚みは、セルの構造等に応じて適宜決定すればよく特に限定されないが、固体電解質支持型セルのとき、例えば、0.1mm以上1mm以下である。また、酸素極支持型セル又は水素極支持型セルのとき、例えば、0.5μm以上100μm以下である。なお、固体電解質の焼結のための焼成工程における加熱温度及び時間は、例えば、700℃以上1500℃以下であり、また例えば1200℃以上1450℃以下である。また、熱処理時間は、例えば、0.5時間以上24時間以下であり、また例えば1時間以上6時間以下である。その他、固体酸化物形電気化学セル用の積層体の製造方法は当業者に周知であるので説明を省略する。
【0025】
(水素極)
水素極は、固体酸化物形電気化学セルの水素極材料として従来公知の材料を含んでいる。例えば、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、金(Au)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ルテニウム(Ru)その他の白金族元素、コバルト(Co)、ランタン(La)、ストロンチウム(Sr)、チタン(Ti)等からなる金属および/または金属元素のうちの1種類以上から構成される金属酸化物が挙げられる。これらは、一種又は二種以上を用いることもできる。なお、これらの触媒となる金属酸化物に加えて、固体電解質材料である、安定化又は部分安定化ジルコニア若しくは希土類添加セリアを混合して用いることができる。特に限定するものではないが、金属酸化物/固体電解質の質量比は、例えば、5/5~8/2などとすることができる。なお、金属酸化物は、SOEC及びSOFCとして運転時において、水素極において還元されて金属となる。
【0026】
水素極は、多孔質焼結体として提供される。水素極は、こうした水素極材料を混合し、必要に応じて、焼結助剤や造孔材等を用いて成形、製膜又は積層し、その後焼成することで得ることができる。水素極の厚みはセルの構造等に応じて適宜決定すればよく特に限定されないが、耐久性、熱膨張率等から、固体電解質支持型セル又は酸素極支持型セルのとき、例えば、5μm以上200μm以下であり、また例えば、20μm以上50μm以下である。また、水素極支持型セルのとき、例えば、0.5mm以上2mm以下である。なお、水素極の焼結のための焼成工程における加熱温度及び時間は、固体電解質と同様であり、その他、固体酸化物形電気化学セル用の積層体の製造方法は当業者に周知であるので説明を省略する。
【0027】
セルは、中間層を、固体電解質と酸素極との間に備えることができる。固体電解質は、例えば、希土類添加酸化セリウムを含むことができる。希土類酸化セリウムとしては、特に限定するものではないが、ガドリニウム添加酸化セリウム(GDC)、ランタン添加酸化セリウム(LDC)、サマリウム添加酸化セリウム(SDC)及びイットリウム添加酸化セリウム(YDC)等が挙げられる。これらの酸化セリウムを1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0028】
中間層は、緻密質焼結体、若しくは多孔質の焼結体として提供される。中間層は、希土類酸化セリウムに、必要に応じて、焼結助剤を用いて成形し、あるいは、固体電解質に対して製膜又は積層し、その後焼成することで得ることができる。中間層の厚みはセルの構造等に応じて適宜決定すればよく特に限定されないが、耐久性、熱膨張率等から、例えば、100μm以下であり、また例えば、1μm以上50μm以下であり、また例えば、1μm以上30μm以下であり、また例えば1μm以上20μm以下である。なお、中間層の焼結のための焼成工程における加熱温度及び時間は、水素極等と同様であり、その他、固体酸化物形電気化学セル用の積層体の製造方法は当業者に周知であるので説明を省略する。
【0029】
セルの典型的な態様は、例えば、酸素極がLSCF、LSCM、LSC、LSM、SSCなどであり、固体電解質がYSZなどの希土類添加酸化ジルコニウムであり、中間層がGDCである。
【0030】
こうしたセルは、円筒型や平板型など意図するSOECやSOFCの形態に応じて種々の形態を採ることができる。通常、セルは、公知のセパレータを介して複数層積層された上で、さらに、各種ガス流路、集電体、冷却装置などが備えられて備えられてSOECやSOFCが構成される。
【0031】
(固体酸化物形電気化学セルの酸素極材料)
本明細書によれば、固体酸化物形電気化学セルの酸素極材料として、酸化チタンとストロンチウム含有複合酸化物とを含んでいる材料が提供される。この酸素極材料は、より具体的には、La1-xSrxCoyFe1-y3-σ(0<x<1、0<y≦1であり、σは、電荷中性条件を満たすように定まる値である。)などのペロブスカイト型Sr含有複合酸化物と酸化チタンとを含んでいる。さらに、この材料においては、例えば、LSCFなどのペロブスカイト型Sr含有複合酸化物に対して1質量%以上7質量%以下の酸化チタンを含有することができる。
【0032】
酸素極材料は、酸化チタンとストロンチウム含有複合酸化物とを含む組成物であり、形態としては、これらの混合粉末の形態を採ることができる。また、酸素極材料は、こうした混合粉末を、固体電解質等にスクリーン印刷するためのスラリーの形態を採ることができる。スラリーは、適当な溶媒、焼結助剤、造孔材を含むことができる。さらに、酸素極材料は、薄膜や未焼結成形体の形態を採ることもできる。さらにまた、酸素極材料は、それ自体が、多孔質焼結体である形態を採ることもできる。
【0033】
(固体酸化物形電気化学セルの製造方法)
本明細書によれば、酸化チタンとストロンチウム含有複合酸化物とを含む酸素極、希土類添加酸化セリウムを含む中間層、ジルコニウム酸化物を含む固体電解質及び水素極を、備えるセルを取得する工程を備える、方法が提供される。この方法においては、所定の組成を有する酸素極と、中間層と、を備えるセルを取得することで、この取得工程における1回又は2回以上の焼結等のための焼成工程において、Srの熱拡散による、固体電解質と中間層との間に高抵抗相の生成を抑制することができる。
【0034】
酸素極、中間層、固体電解質及び水素極の積層する順序やそれぞれの層の準備については特に限定するものではなく、公知の固体電解質電気化学セルの製造方法に準じることでセルを取得することができる。
【0035】
なお、本明細書によれば、かかる1又は2以上のセルに対してセパレータを適用し、さらに、水素、酸素又は水蒸気のガス流路、電極や集電体を適用して、SOEC及びSOFC並びにこれらを含むシステムを製造する方法も提供される。なお、単体セルに対して、こうした要素を付与してSOECやSOFCとし、さらに、システムを構築することは、当業者であれば、適宜実施することができる。
【0036】
(固体酸化物形電気化学デバイス)
本明細書によれば、本明細書に開示される固体酸化物形電気化学セルを備える電気化学デバイスが提供される。セルは、少なくともセル作製時ないしはスタック作製時における加熱によるSrの熱拡散が抑制されて固体電解質と中間層との間の高抵抗相の生成が抑制されている。このため、デバイスは、電気化学デバイスとして効率的な作動が可能となっている。デバイスは、通常、2以上のセルを、セパレータを介して積層されたスタックを備えている。かかるデバイスとしては、SOECやSOFCが挙げられる。
【実施例0037】
以下、本明細書の開示をより具体的に説明するために具体例としての実施例を記載する。以下の実施例は、本明細書の開示を説明するためのものであって、その範囲を限定するものではない。
【実施例0038】
(セル要素の原料粉末の準備)
酸素極及び水素極の原料粉末は以下の方法で合成した。中間層の原料粉末はGDC(Ce0.8Gd0.2)O2-x、(信越化学工業)、酸素極の他の原料粉末であるTiO2(和光純薬株式会社製)をそれぞれ準備した。
【0039】
(酸素極及び水素極の原料粉末の合成)
酸素極及び水素極の原料粉末を噴霧熱分解法にて作製した。
【0040】
(酸素極原料粉末)
酸素極原料粉末として、(La0.6Sr0.4)(Co0.2Fe0.8)O3-xを噴霧熱分解法で合成した。硝酸ランタン六水和物、硝酸ストロンチウム、硝酸コバルト六水和物及び硝酸鉄九水和物を、ランタン、ストロンチウム、コバルト及び鉄が上記組成になるように、イオン交換水で用いて原料溶液を調製した。この原料溶液においては、全カチオンのモル数で0.4mol/lとした。この原料溶液を、以下の条件で噴霧熱分解法に供して、目的の原料粉末を得た。
【0041】
<噴霧熱分解条件>
噴霧熱分解は、噴霧熱分解装置(オーエヌ総合電機株式会社製)を用いた。本装置は、塩化ビニル樹脂製の霧化器、アルミナ製の反応管(内径20mmφ、外径25mmφ、長さ1500mm)およびガラス製の捕集器から構成されている。また、反応管部分には4つの独立した加熱炉(カンタルヒーター)が具備されている。捕集器内にはメンブレンフィルター(142mmφ、孔径:0.45μm、オムニポアJHWP14225)をセットすることで合成した粒子を捕集するように構成されている。
【0042】
噴霧熱分解合成条件は、反応管の温度は霧化器に近い側から200℃、400℃、800℃、1000℃とし、結露防止の目的で捕集器はマントルヒーターを用いて100℃に保温した。超音波霧化器水浴温度は30℃とし、溶液容器温度は27℃とした。合成中のキャリアガス流量は3.0L/minとした。なお、キャリアガスにはAirを用いた。
【0043】
(水素極原料粉末)
水素極原料粉末として、NiO-YSZ(ZrO2-8mol%Y23)(NiO:YSZ=6:4(質量比))を噴霧熱分解法で合成した。酢酸ニッケル四水和物、硝酸イットリウムn水和物、硝酸ジルコニウム二水和物を、ニッケル、イットリウム、ジルコニウムが上記組成になるように、イオン交換水で用いて原料溶液を調製した。この原料溶液においては、全カチオンのモル数で0.45mol/lとした。この原料溶液を、上記と同様の条件で噴霧熱分解法に供して、目的の原料粉末を得た。
【実施例0044】
(固体酸化物形燃料電池の単セル用積層体の作製)
実施例1で準備した酸素極以外の原料粉末とポリエチレングリコール(重合度400)とを3:1の質量比で混合して、それぞれ水素極用スラリー及び中間層用スラリーとした。また、酸素極用スラリーは、(La0.6Sr0.4)(Co0.2Fe0.8)O3-xに対して、TiO2を0質量%、0.5質量%、1質量%、2質量%、5質量%及び10質量%となるように混合して、上記と同様にしてTiO2含有量の異なる複数のスラリーを調製した。
【0045】
本実施例で作製した単セル用積層体の概略を図1に示す。単セルは、固体電解質のディスク(8YSZ(ZrO2-8mol%Y23)、直径14mm、厚み200μm、東ソー株式会社製)の一方の面に対して、中間層用のGDCスラリーを、焼成後に直径9mm、厚み5μmとなるようにスクリーン印刷し、他方の面に対して、水素極用スラリーを、焼成後に直径6mm、厚み20μmとなるようにスクリーン印刷した後、大気中1400℃で2時間焼成した。さらに、焼成後の中間層に対してさらに、酸素極用スラリーを、焼成後に直径6mm、厚み20μmとなるようにスクリーン印刷し、大気中、1150℃で2時間焼成した。こうして、酸素極用スラリーとしてTiO2の配合量(0.5質量%、1質量%、2質量%、5質量%及び10質量%と)が異なる5種のスラリーに由来する酸素極を備える6種の製造例1~5の積層体と、TiO2を含まない(0質量%)スラリーに由来する酸素極を備える比較製造例1の積層体と、を作製した。
【実施例0046】
(単セル断面の走査型電子顕微鏡(SEM)/エネルギー分散型蛍光X線分析装置(EDX)による分析)
実施例2で作製した各種積層体について、SEM(HITACHI SU8000)を用いて、加速電圧15kV及び観察倍率5,000倍~10,000倍にて積層方向における断面を観察するとともに、EDX(HORIBA X-max80)を用いて前記断面における元素(Sr、Co、Zr、Ti)の分布を分析した。結果を図2に示す。
【0047】
図2には、上段から比較製造例1、製造例3~5の順でSEM画像及びEDX像を示す。図2に示すように、TiO2の含有量が増大するにつれて、中間層(GDC)と固体電解質(YSZ)との界面におけるSr量が減少した。また、これに対して、Co及びZrは、TiO2の含有量に関わらず、本来属する層にそれぞれ保持されていた。また、Tiについては、TiO2の含有量の増大に伴って、酸素極(LCSF)に存在した。
【0048】
以上のことから、酸素極(LSCF)においてTiO2を添加することにより、明らかに、固体電解質(YSZ)と中間層との間に存在するSrが減少すること、すなわち、SrZrO3が減少することがわかった。また、同一箇所からSr、Ti及びOが検出されていることから、酸素極(LSCF)においてSrとTiとが反応してSrTiO3が形成されていることが強く示唆された。
【実施例0049】
(積層体のSOFCモードでの発電特性の評価)
実施例2で作製した積層体を、SOFCの単セルとして用いて、作動温度700℃及び800℃で、酸素極側に空気を50 cm3/min、水素極側にH2-3%H2Oを50 cm3/min の条件で、ガスを供給して、最大出力密度を測定した。なお、本実施例においては、中間層を形成しないこと及び酸素極においてTiOを、0質量%、0.1質量%、0.25質量%、0.5質量%及び1.0質量%の各濃度で含有すること以外は製造例と同様にして作製した比較製造例2~6についても、同様に最大出力密度を測定した。結果を図3図4に示す。
【0050】
図3には、作動温度700℃での結果を示す。図3(A)には、すべての製造例及び比較製造例を同じスケールで示し、図3(B)には、比較製造例2~6のみを拡大したスケールで示した。図3に示すように、TiO2を添加した製造例1~5のうち、製造例1~4では、TiO2を添加しない比較製造例1よりも最大出力密度が増大することがわかった。また、中間層を備えていないSOFCである比較製造例2~6では、最大出力密度が著しく低く、酸素極(LSCF)にTiO2を加えてもほとんど効果が得られないことがわかった。
【0051】
図4には、作動温度800℃での結果を示す。図4(A)には、すべての製造例及び比較製造例を同じスケールで示し、図4(B)には、比較製造例2~6のみを拡大したスケールで示した。図4に示すように、作動温度700℃の場合と同様、TiO2を添加した製造例1~5のうち、製造例1~4では、TiO2を添加しない比較製造例1よりも最大出力密度が増大することがわかった。また、中間層を備えていないSOFCである比較製造例2~6では、最大出力密度が著しく低く、酸素極(LSCF)にTiO2を加えてもほとんど効果が得られないことがわかった。
【0052】
以上のことから、熱拡散するSrを含む複合酸化物からなる酸素極にTiO2を添加することで、固体電解質(YSZ)と中間層との間にSrZrO3の形成を抑制できること、及びそれによりSOFCモードにおける発電特性を向上させうることがわかった。
【0053】
また、このことから、このセルを、SOECとして用いた場合においても、高抵抗相の形成を抑制して電解効率を向上させうることができることがわかった。
図1
図2
図3
図4